疑惑・不祥事 首相の政治姿勢は?

国会は、安倍首相の施政方針演説に対する各党の代表質問に続いて、27日からは衆議院予算委員会に舞台を移して、補正予算案の審議が始まった。予算委員会の質疑は1問1答方式で、安倍首相と各党との論戦が本格的にスタートした。予算委委員会の論戦、国民の側から見ると、どこを見ておくとわかりやすいのか探って見たい。

本論に入る前、中国で猛威をふるっている新型のコロナウイルスによる肺炎。中国在住の日本人の帰国問題をはじめ、訪日する中国人などの水際対策、国内病院での検査・診療体制などの危機管理に、政府は全力で取り組むことを要望しておきたい。

 問われる首相の政治姿勢

さて、予算委員会での論戦の注目点の第1は、政権に関連した疑惑・不祥事について、安倍首相がどのように受け止め、対応しようとしているのか、政治姿勢の問題だ。

安倍政権を巡っては、去年10月下旬の閣僚2人の連続辞任をはじめ、首相主催の「桜を見る会」の私物化、公私混同ではないかとの疑惑・問題、かんぽ生命をめぐる総務省事務次官の更迭、さらには、カジノを含むIR汚職事件で元IR担当の内閣府副大臣が逮捕されるなどの不祥事が、相次いでいる。

安倍首相の施政方針演説では、こうした不祥事については全く言及しなかった。各党の代表質問に対する答弁でも「桜を見る会」の問題については、従来の答弁を繰り返し、野党側が要求している招待者名簿の記録の調査や、都内のホテルで開かれた前夜祭の費用の明細書などの提示にも応じない考えだ。

報道各社の世論調査では、「桜を見る会」問題の安倍首相の説明は、「納得できない」と受け止め方が7割にのぼっている。また、不祥事については、長期政権による緩みやおごりの現れではないかとの受け止め方も示されている。

それだけに安倍首相が、こうした政権に対する不信感や、首相の説明責任を求める世論の声に対して、どのような認識を示すのか。また、信頼回復へどんな対応を打ち出していくのか、答弁を注目して見ていきたい

 驚きの1億5000万円資金問題

政治とカネの問題では、河井前法相と妻の案里参議院議員をめぐって、去年夏の参議院選挙で、自民党本部が1億5000万円の資金を政党支部に提供していたとされる問題・疑惑が新たに浮上している。

自民党関係者を取材すると「選挙支援の資金としては、1人当たり1500万円程度が一般的だ。これだけ巨額な資金提供は、信じられず驚いている。安倍総裁や二階幹事長といった了解がなければ、提供できないのではないか」と語っている。

去年夏の参議院広島選挙区で、自民党は現職議員に加えて、異例の2人目の候補者として案里氏を擁立し、現職が落選、案里氏が当選する結果になった。この案里氏が当選できたのは、安倍首相や菅官房長官が強烈に支援した影響が大きいと選挙関係者の間では見られてきた。

河井前法相と案里参議院議員の当事者の説明と同時に、安倍首相が総裁としての事実関係の説明と、この問題のケジメをどのようにつけるのかが問われている。

 政権運営、制度の改善も

こうした一連の不祥事については、政権批判だけに終わるのではなく、問題の背景を踏まえて、政権運営や制度の改善などにもつなげてもらいたい。

具体的には「桜を見る会」については、招待者の範囲や予算の使われ方などの事実関係の問題だけでなく、公文書管理の問題がある。官僚が招待者名簿を廃棄したり、文書を加工したりと、これまでさんざん問題になってきた公文書の不適切な取り扱いが今も続いていることが浮き彫りになった。

また、公文書の問題で処分されるのは、いつも官僚だけ。閣僚など政務三役、政治家の責任はどうするのか明確にすべきだと考える。

また、総理官邸は、公文書の改ざん、廃棄などをなくすよう各省庁に強く指示するとともに、公文書は電子化して全て保存するのを原則にするなど抜本的な改革を実行すべきだと考える。

 聞きたい政治課題も山積み

ここまで不祥事の問題を見てきたが、政治の信頼に関わる根本問題なので、予算委員会で一定の時間をかけて、質疑を交わすのは必要だ。

その上で、国民が知りたい政治課題が数多くあることを忘れないでもらいたい。
まず、暮らしに関わる経済。消費増税後の日本経済、低調な個人消費の要因をどのように見ているのか。東京オリンピック・パラリンピック後の経済運営をどうするのか。

また、全世代型社会保障制度改革。政府は、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などを今の国会に提出することにしている。一方、急速に進む少子高齢化に対して、こうした法案の対応で十分なのか。社会保障制度改革の内容と道筋について、各党が具体案を示して議論を深めてもらいたい。

さらに外交・安全保障については、中東への自衛隊の派遣の是非。今回の派遣の目的、法的根拠、自衛隊の安全確保は大丈夫なのか掘り下げた議論を聞きたい。
外交問題では、米中の覇権争いが長期化する中で、日本がめざす外交・安全保障政策についても議論を深めるべきだ。
このほか、憲法改正問題や国民投票法案の取り扱いも残されており、国民が知りたい政治課題は山積み状態にあることを忘れないでもらいたい。

したがって、この国会、まずは不祥事にケジメをつけ、政治の信頼回復を図ること。続いて、政策論争でも政府、与野党が大いに意見を戦わせ、「国民が知りたい点に応える国会論戦」を是非、見せてもらいたい。

 

”不祥事山積 国会” 開幕 政局を左右! 

通常国会が1月20日に幕を開け、本格的な論戦が始まる。

今年は、半世紀ぶりに再び開かれる 東京オリンピック  パラリンピック・イヤー。本来は、日本の将来社会をどのように築いていくのか、国会での建設的な議論が期待されていた。

ところが、昨年秋以降、政治とカネをめぐる不祥事や疑惑が相次ぎ、止まるところを知らない。通常国会を前に不祥事がこれだけ続くのは、極めて異例、異常な事態だ。端的に言えば、”不祥事山積 国会”と言わざるを得ない。

このため、一連の不祥事・疑惑をできるだけ早く総ざらいし、激動する内外情勢に対応できるよう政策論議を深めていく必要がある。

この”不祥事山積国会”、安倍政権、与野党双方がどのように対応していくのか、2020年の政局のゆくえを左右する大きな意味を持っている。

 今国会の特徴と与野党の戦略

最初に今年の通常国会の特徴から見ておきたい。
召集日が1月20日で、会期は150日間、6月17日が会期末となる。首都東京の知事選挙の告示が翌18日で選挙戦がスタート、投票日が7月5日。続いて、7月24日から、いよいよ東京オリンピック開会へと重要日程が立て込んでいる。

このため、国会の会期延長は難しい。政府・与党は、事業規模26兆円の大型補正予算案を早期に成立させるとともに、過去最大規模の新年度予算案を年度内に成立させることを一番の目標にしている。

これに対して、野党側は、去年秋の臨時国会で取り上げた「桜を見る会」問題を引き続き追及するのをはじめ、カジノを含むIR汚職事件で、元内閣府の副大臣を務めた現職国会議員が逮捕された問題、さらには自衛隊を中東に派遣する問題を3点セットにして、徹底追及する構えだ。

 予算案と 不祥事をめぐる攻防

そこで、私たち国民の側は、この国会、どこを見ていくとわかりやすいのか。
まず、補正予算案は台風19号や大雨被害の復旧対策が盛り込まれており、野党側も強く反対しづらい。
新年度予算案も与党が圧倒的多数を占めていることを考えると、年度内の成立がずれ込む事態は想定しにくい。年度内成立は、予定通りと見てよさそうだ。

そうすると次の焦点は、一連の不祥事にどうケジメをつけるかが問題になる。このところ、安倍政権をめぐる不祥事の多さには、驚かされる。
発端になった去年10月、新閣僚2人の連続辞任以降を整理してみると次のようになる。

 不祥事 短期間に多発、説明なし

◇去年10月下旬 初入閣の菅原前経産相と河井前法相が連続辞任
◇10月 萩生田文科相「身の丈発言」大学共通テスト制度改革見送り
◇11月「桜を見る会」疑惑、国会で問題、公的行事を私物化批判など
◇12月 かんぽ生命問題、現職の総務省事務次官が情報漏らし更迭
◇12月 IR汚職事件、元内閣府副大臣の秋葉司衆院議員逮捕
◇今年1月 河井案里参院議員と夫の河井前法相の事務所 捜索

安倍政権では、これまでも森友問題と財務省の決裁文書の改ざん、自衛隊の日報問題、加計問題などが表面化したが、それぞれ個別、単発型だったと言える。
ところが、今回は去年10月下旬から2か月余りの短期間に、現職閣僚、首相、官僚トップ、元副大臣など政権関係者が関わる問題が、噴き出す形で起きている。

また、政権の看板政策のIR事業をめぐる汚職事件、大学入試制度改革の柱が先送りされるといった政策面にも影響が及んでいる。

さらに不祥事に対する説明が十分なされていない。例えば、発端の2閣僚の辞任でも当事者が姿を消したままで、説明責任を果たしていないと与党内からも批判が出ている。そして、ケジメがつかないうちに別の新たな問題が起きるといった悪循環が続いている。

 不祥事の総ざらい、本質論も

国会論戦では、当面、こうした不祥事に対する安倍政権の対応が、焦点になる。但し、一部からは例えば「桜を見る会」について、“予算額”は1億円にも達していない。たかが桜の問題。国会は大きな問題を議論をすべきだ”といった政権擁護論も聞かれる。今後も同じような意見が出されることが予想される。

しかし、仮に小さな問題としても、放置していれば大きな問題に発展する恐れがある。特にこれからは社会保障制度改革で、国民に負担増・痛みを求める時代を迎える。スキャンダルには厳しいケジメ、公正な行政が必要不可欠だ。

まずは、安倍首相が相次ぐ不祥事に真正面から向きあい、事実関係をきちんと説明し、今後の対応策を打ち出すなど不祥事の総ざらいと信頼回復が急務だ。
施政方針演説などの国会冒頭から、率直に自らの考えを表明した方がいい。

一方、与野党双方とも不祥事の本質に踏み込んだ議論を行ってもらいたい。
例えば「桜を見る会」で、あきれるのは、なぜ、いつまでも公文書の廃棄が続くのか。森友問題で改善のガイドラインを打ち出したのに効果が全くない。官僚にどのように文書を残させるのかを具体的に示す必要がある。

「カジノを含むIR汚職事件」では、カジノ・IRは観光先進国にふさわしいのか。地域振興・地方創生に役立つのか国民の疑問に答える議論を注文しておきたい。

 将来社会の姿、徹底論争を

通常国会の論戦では、当面、不祥事の問題に議論が集中するのはわかるが、それだけに終始しては困る。国民としても他に聞きたい課題、問題が多いからだ。幾つか、具体的な課題を挙げておきたい。

まず、自衛隊の中東派遣問題。わが国の原油輸入の重要な海域であることは理解するが、今回の派遣目的、法的な根拠、自衛隊員の安全確保は大丈夫なのか。
アメリカのトランプ政権の外交や北朝鮮の非核化問題も抱えており、国会で安全保障論争をもっと活発に行う必要がある。

次に、大学入学の共通テストのあり方。今回、民間英語試験や、数学と国語に記述式問題の導入が見送りになったが、なぜ、直前まで見直しができなかったのか。検証結果と今後の入学試験制度改革について、受験生や関係者の納得が得られる取り組みを強く求めておきたい。

さらに、この通常国会には、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などが提出される。国民の側には、将来の社会保障制度は維持できるのか、将来不安は根強い。安倍政権が掲げる全世代型の社会保障制度改革の是非を含めて、議論を深めてもらいたい。

 オリパラ後の政局を左右

ここまで通常国会が抱える課題を見てきたが、焦点は、安倍政権が「不祥事山積 国会」を乗り切ることができるかどうかだ。安倍政権の求心力・政権の体力、あるいは、東京オリパラ後の政局のゆくえを左右することになる。

具体的には、安倍政権が不祥事山積国会を乗り切り、求心力を高めることができれば、今年、衆議院解散・総選挙へ打って出る道が開けることになる。

逆に、求心力が低下してくると、いわゆる”オリンピック花道論”のような早期退陣論、そこまでいかなくても”政権末期のレーム・ダック”=死に体状態へつながっていく可能性が出てくることになる。

通常国会の与野党の論戦は、次の衆議院解散・総選挙をにらんだ攻防という意味合いを持っており、激しい駆け引きが展開される見通しだ。

また、通常国会が終わる頃、安倍内閣の支持率がどんな状態になっているのか。現状は、下降局面が続いており、今後、どんな推移をたどるのか。

まずは、”不祥事山積国会”、安倍政権の対応、それに与野党の攻防が、どのような展開になっていくのか、じっくり見ていきたい。

 

 

 

 

 

”最長政権に陰り” 支持率低下 進行中

新しい年・2020年が明けて2週間余り、1月20日からは長丁場の通常国会が、いよいよ始まる。安倍政権は自民党総裁の残り任期が2年を切り、今年、衆議院の解散・総選挙に打って出るのかどうかが、大きな焦点になっている。

そこで、新年、世論の風向きはどうなっているのか。NHKの1月世論調査の結果が公表されたので、そのデータを基に分析してみる。

結論から先に言えば、安倍内閣の支持率は、昨年夏以降、ジリジリと下がり続けており、”最長政権に陰り”が読み取れる。

支持率は政権担当8年目に入っても40%台半ばを維持しているが、中身を詳しく分析してみると”政権に勢い”が見られない。

このため、今年前半の解散・総選挙の確率は低いのではないかとうのが、私・個人の見方だ。以下、その理由、見通しなどを見ていきたい。

 安倍内閣支持率  5か月連続低下

NHKの世論調査は、1月11日から13日までの3日間行われ、14日にまとまった。「NHK NEWS WEB」に掲載されているので、そのデータを基に見ていく。

安倍内閣の支持率は「支持する」が44%で前月より1ポイント減、「支持しない」が38%で1ポイント増、ほぼ横ばいで変化がないように見える。
但し、内閣支持率は数字そのものも重要だが、「トレンド=傾向」をどう読み取るかが大きな意味を持つ。

そのトレンド、去年夏の参議院選挙が終わった翌月・2019年8月、安倍内閣の支持率は49%、5割近くにも達した。しかし、その後、ジリジリと下がり続けており、新年1月まで5か月連続、減少中というのが大きな特徴だ。(去年10月は台風19号の影響で調査自体が中止になっている)

 不祥事直撃、外交努力も吹き飛ぶ

支持率低下は、相次ぐ不祥事が大きな原因だ。9月11日に内閣改造を行ったところまでは比較的順調だったが、10月下旬に菅原経産相、河井法相の連続辞任に始まって、萩生田文科相の「身の丈発言」と大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期など看板政策の取り止めにも追い込まれた。

さらに首相主催の「桜を見る会」についても、安倍首相の地元支持者を招くなど公私混同が明るみになり、防戦に追われた。こうしたことが影響していると見られる。

11月には、安倍首相の通算在任期間が戦前・戦後を通じて憲政史上最長を記録。年末には日米韓の首脳会談など得意の外交も展開したが、相次ぐ不祥事で、外交努力も吹き飛ぶ形になっている。

 ”最長政権に陰り”

そこで、安倍内閣の支持率の中身を分析するとどうなるか。
▲◇去年8月が支持49%、不支持31%。◇今年1月は支持44%、不支持38%。この5か月で、支持が5ポイント下がり、不支持が7ポイント増えたことになる。

政権発足から8年目で支持率40%台半ばを維持しているのは、異例、驚異的だ。
但し、支持と不支持の差は6ポイントまで縮まり、4ポイント変動すると不支持が支持と逆転する可能性もある。”最長政権に陰り”が生じ、”黄色信号”が点滅し始めたと見ている。

 首相不信、浮き彫りに

▲支持する理由としては、「他の内閣より良さそうだから」が51%、次いで「実行力がある」が19%、消極的な支持が多数を占めているのが実態だ。

一方、不支持の理由としては、「首相の人柄が信頼できない」が46%、「政策に期待が持てない」28%などと続く。このうち、「首相の人柄が信頼できない」は8月段階では35%だったので、11ポイントも急増したことになる。

「桜を見る会」の安倍首相の説明に対して、「納得できない」との受け止め方が実に7割に達しており(12月調査)、首相に対する不信感が強いことが浮き彫りになっている。

無党派層 不支持が過半数

▲支持する政党がない、無党派層は全体の4割近くを占める大きな集団だ。この無党派層を見てみると、内閣の支持は21%に止まり、不支持が53%と過半数に達しているのも大きな特徴だ。選挙の際には、大きな不安材料になっている。

以上見てきたように、安倍政権に対する有権者の視線は、厳しさを増していることが読み取れる。

野党も低迷続く

こうした一方で、安倍政権と対峙する野党はどうか。
1月の政党支持率は、野党第1党の立憲民主党の支持率は5.4%。国民民主党は0.9%と低迷状態が続いている。

自民党の支持率は40.0%なので、大差をつけられている。
また、立憲民主党と国民民主党の連携・合流に向けた話し合いも行われているが、有権者の期待感は高まっているとは言えない。

こうした野党の存在感の乏しさ、安倍政権に代わる別の選択肢がないことが、最近の政治に緊張感や魅力を感じられない要因になっている。

衆院解散への影響は?

最後に今後の見通しだが、安倍政権にとっては、年末には、カジノを含むIR汚職事件で、現職の衆議院議員が逮捕された。

今週は、自民党の河井案里参議院議員の陣営が、去年夏の参議院選挙での公職選挙法違反の疑いで事務所の捜索を受けた。昨年秋以来、これほど不祥事、問題が相次ぐのは、これまでにない異常事態だ。

通常国会が始まると野党側は、桜を見る会問題をはじめ、IR汚職事件、総務省の事務次官の更迭問題などを巡って、集中砲火を浴びせる構えを取りつつある。

一方、内閣支持率の低下や、無党派層の支持離れに見られるように、政権に対する世論の風向きは厳しさを増しつつある。

このため、衆議院の解散時期については、今年前半、東京オリンピック・パラリンピックが終わるまでは、可能性は低いと言っていのではないか。これが現時点での個人的な見通しだ。

但し、政治は”生き物”、”小休止なし”、どのような展開をたどるのか?
まずは、今月20日、幕を開ける通常国会の与野党の論戦、攻防をじっくり見ていく必要がある。随時、リポートとして取り上げていきたい。

IR汚職事件、疑惑の徹底解明を!

カジノを含むIR・統合型リゾート施設の事業をめぐって、元内閣府副大臣で自民党に所属していた秋元司衆議院議員が逮捕された事件に関連して、今度は日本維新の会に所属していた下地幹郎衆議院議員が、贈賄側の中国企業の元顧問から現金100万円を受け取っていたことが明らかになった。

贈賄の中国企業側は、秋元議員とは別に「5人の衆議院議員に100万円ずつ資金提供した」などと供述しているとされ、東京地検特捜部が捜査を続けている。

こうした汚職事件の捜査が進む中で、政府はIRの整備を予定通り進める方針で、7日に、事業者の審査にあたる「カジノ管理委員会」を設置した。

これに対して、野党側はIR整備法の廃止法案を通常国会に提出する方針で、今月召集される通常国会では、IRの整備の是非をめぐって、激しい論戦が交わされる見通しだ。

今回の汚職事件の背景や、IR法成立までの問題点などを考えてみる。

IR推進法、整備法とは

最初に基本的なことだが、カジノを含むIR法とは何か手短に整理しておきたい。
IR推進法は、カジノを中心にホテルなどの宿泊施設、テーマパーク、国際会議場、商業施設などを一体的に整備する統合型リゾート(IR=Integrated Resort)の設立を推進する基本法だ。

カジノは本来、刑法の賭博罪にあたり禁止されているが、政府は観光や地域経済の振興につながる公益性があるなどとして、例外的に合法化するものだ。このため、「カジノ解禁法」、「カジノ推進法」とも呼ばれる。2016年に議員立法として成立した。

この法律を受けて、IRの整備・運営の基本ルールを定めたものがIR整備法。全国に最大3か所設置することなどが定められている。IR整備法は、ギャンブル依存症対策基本法とともに2018年7月の国会で成立した。

 秋元議員、IRと深いつながり

今回の事件で逮捕された秋元議員は、内閣府のIR担当副大臣を務めていた2017年9月、衆議院が解散された際に中国企業の顧問から「選挙の陣中見舞い」として、現金300万円を受け取ったのが直接の容疑だ。

秋元議員とIRとの関わりは深い。2016年12月、カジノ解禁を含むIR推進法案を審議した際の衆議院内閣委員長が秋元氏だった。審議はわずか2日間のおよそ6時間で打ち切られ、委員長職権で採決に踏み切った。

その半年後の2017年8月に秋元議員は、内閣府と国土交通省のIR担当の副大臣に就任。その年の12月に自民党の衆議院議員らを誘って、中国の深圳にある中国企業本社を訪問するなど関係を深めていった。

 下地氏認め、自民4人は否定

中国企業の顧問は、秋元議員とは別に「衆議院議員5人に100万ずつ資金を提供した」と供述しているとされる。このうち、日本維新の会の下地幹郎衆議院議員が6日に記者会見し、3年前の衆議院選挙の期間中、事務所の職員が、現金100万円を受け取っていたことを認めた。
一方、残る4人の自民党衆議院議員は、いずれも受け取りを否定している。

下地議員が現金の受領を認めたことについて、日本維新の会の松井代表は「政治資金規正法違反にあたり、議員辞職すべきだ」との考えを示した。

こうした中で、下地議員は7日夜、離党届けを提出したことを明らかにした。議員辞職については、通常国会が召集される20日までに後援会のメンバーの意見を聞いた上で、判断する考えを示した。

これに対して、日本維新の会は8日、離党届けは受理せず最も重い除名処分とする方針を決めた。また、この問題は重大だとして、党として議員辞職の勧告を行うことも決めた。

今回の汚職事件、東京地検特捜部が捜査を続けているが、疑惑の解明を徹底して進めてもらいたい。また、国会も自浄能力が厳しく問われることになる。

 政府 IR整備進める方針

このように汚職事件の捜査が進められているが、政府はIRの整備を予定通り進める方針だ。7日付けで施設を運営する事業者の審査などにあたる「カジノ管理委員会」を設置した。カジノ委員会は、カジノの運営を申請した事業者を審査して免許を交付するとともに、事業運営の監視などにあたることになっている。

政府は、今月中にも整備区域の選定に向けた基本方針を決定する。これを受けて誘致を希望する自治体は、事業者とともに具体的な整備計画を作ることになっている。自治体から整備計画の申請を受け付ける期間は、来年・2021年1月4日から7月30日となる見通しだ。

政府は自治体から出された計画について、来年夏以降、有識者委員会を開くなどして審査し、場所を決定する。施設の建設に数年程度かかるため、政府は2020年代半ばの開業を見込んでいる。場所は最大3か所となっている。

 野党 廃止法案で対決姿勢

これに対して、野党側は、秋元議員が法律の成立にどのように関わったかなど実態の解明を進めるとともに、IR法は「バクチを解禁し、民間企業にやらせること自体に大きな問題がある」として政府の対応を厳しく追及する方針だ。

そして、立憲民主党などの野党4党は、今月召集される通常国会にIR整備法の廃止法案を共同で提出して政府と対決していく方針で、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

 重要法案多く、審議十分といえず

次に、IR整備法が整備されるまでの経緯と問題点について、触れておきたい。
IR整備法が与野党の争点になったのは、2018年の通常国会。森友問題で、財務省の決裁文書が改ざんされていたことが明るみになり、大きく揺れた時の国会だ。この時は、最終盤で、働き方改革法案、参議院の議員定数を6増やす法案、それにカジノを含むIR法案が、与党の圧倒的多数の力で相次いで成立した。

IR法案の審議では、カジノを合法化する要件をはじめ、入場回数の制限の根拠、ギャンブル依存症対策の実効性などについて、疑問点が浮上した。
また、条文が251条に及ぶ大型の新規立法だったが、衆参両院の審議時間は20時間前後で、十分な審議が尽くされたとは言えない状況だった。

 汚職事件で住民視線に厳しさも

一方、今回の汚職事件で、地域住民がカジノを軸とするIRに厳しい見方を強めることも予想される。ギャンブル依存症が増加するのではないかという懸念をはじめ、外国人の増加と治安の悪化、マネーロンダリング=不正なオカネを処理する温床になるのではないかいった問題に対する懸念が強まることも予想される。

政府は、IRを成長戦略として位置づけ、「観光先進国」の中核として巨額な投資をはじめ、雇用の拡大、観光客の増加といった経済効果をアピールしている。

これに対し、住民側からは、地域に根付いた伝統文化や、地域の自然、暮らしの体験などに軸足を置いた観光事業を求める意見が強まることも予想される。

通常国会では、こうしたIR事業そのものの評価をはじめ、成長戦略、地域社会の再生のあり方なども含めて議論を深めてもらいたい。

 

 

 

衆院解散はいつか? 秋以降の公算

新年・2020年の政治の焦点は、衆議院の解散・総選挙がいつ、行われるかだ。
政界の情報を総合して判断すると東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後、「2020年秋以降」の公算が大きいと見ている。

その理由は、端的に言えば、次のようになる。
まず、「年明け解散」があるかどうかがポイントになっていたが、台風などの災害復旧に加えて、「桜を見る会」問題など一連の不祥事で、安倍内閣の支持率が大幅に低下、解散に打って出る状況にはなくなっている。

その後は東京オリンピック・パラリンピックという大きな行事があるため、結局、オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後「秋以降の公算」が大きい。

但し、オリンピック後の経済情勢が悪化したり、安倍政権の体力が低下したりした場合は、翌年へ持ち越される可能性もある。

さらに、安倍首相の総裁4選論や後継選びの調整が難航したりした場合は、ズルズルとずれ込み、来年秋の「追い込まれ解散」に近いケースもありうる。

このため、解散時期は「秋有力」とまでは限定できず、「秋以降の公算」という見方をしている。
それでは、こうした衆院解散・総選挙の見方・読み方を詳しく見ていきたい。

 新年の政治日程

最初に新年・2020年の主な政治日程について、確認しておきたい。
◆2020年
◇1月20日  通常国会召集
◇4月19日  立皇嗣の礼
◇4月26日     統一補欠選挙(衆院静岡4)
◇春    習近平国家主席が国賓として来日(調整中)
◇6月17日  通常国会会期末
◇7月  5日  東京都知事選挙(6月18日告示)
◇7月 24日 東京オリンピック開会式(~8月9日)
◇8月 24日 安倍首相 連続在職日数歴代1位へ
◇8月 25日 東京パラリンピック開幕(~9月6日)
◇12月     新年度予算編成

◆2021年
◇ 1月       通常国会召集
◇ 7月22日  東京都議会議員 任期満了
◇ 9月30日  安倍首相 自民党総裁任期満了
◇ 10月21日   衆議院議員 任期満了

駆け足で見ていくと次のようになる。
◇新年の1月20日に通常国会が召集され、安倍首相の施政方針などが行われる。その後、補正予算案や新年度予算案の審議が続き、国会会期は6月17日まで。

◇4月19日には、秋篠宮さまが皇位継承順位1位を意味する「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」。

◇半世紀ぶりの開催となる東京オリンピックは7月24日に開会式、パラリンピックは8月25日開幕、9月6日に幕を閉じる。

 衆院 解散の時期

予想される衆議院の解散・総選挙の時期としては、
(1)今年1月、通常国会冒頭。
(2)新年度予算案など成立後、7月東京都知事選とのダブル選挙。
(3)東京五輪・パラリンピック閉幕後、秋の臨時国会での解散。
(4)来年2021年1月 通常国会冒頭。
(5)来年秋の任期満了に近い秋の解散になる。

 ”年明け解散” 遠のく

以上5つのケースのうち、今年1月の通常国会冒頭解散。野党第1党の枝野代表など野党関係者や自民党の一部にある見方。安倍首相に近い自民党幹部は「台風19号や大雨の被害が大きく、とても年明けの選挙はできない」と否定的だ。

また、首相主催の「桜を見る会」の公私混同批判をはじめ、大学共通テストの記述式問題の導入取り消し、総務省の現職事務次官の更迭など相次ぐ不祥事、看板政策の取り止めなどで、内閣支持率大幅に低下している。

さらに年末、カジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕され、年明け解散は遠のいたとの見方が強い。

このほか、新年度予算案が成立した後も考えられるが、4月は秋篠宮様の立皇嗣の礼、中国の習近平国家主席の国賓としての来日が調整中で、難しい。
さらに7月5日の東京都知事選とのダブル選も想定されるが、オリンピック直前で実現可能性は低いとみられる。

 ”五輪・パラ後”の秋以降

結局、東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じる9月6日以降、秋の臨時国会が召集され、衆院解散の可能性が大きい。与党の主要幹部もこの見方が強い。

また、来年に持ち越した場合、来年夏は与党・公明党が重視する東京都議会議員選挙が控えている。この時期を避けると今度は、衆議院議員の任期満了に近づき「追い込まれ解散」の恐れが出てくる。このため、年内に総選挙を実施すべきだという圧力が増すのではないか。

 解散から解散 平均3年

ところで、衆議院の解散から、次の解散までの期間はどの程度か?
今の衆議院の選挙制度に変わった1996年の橋本政権以降から、2017年安倍政権の解散までの期間を計算すると「平均3年」だ。
安倍政権に限ってみると、政界の常識より早めに解散に打って出るケースが多く「2年5か月」とさらに短くなる。

平均3年とすると、今年10月、東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した後にあたる。今年秋の解散は、過去のケースから見ても確率的に高いということが言える。

 誰の手で解散?五輪花道論も

ところが、今回の解散には、「難問」が残されている。何かと言えば、衆院の解散・総選挙、誰の手で解散するのか。安倍首相か、それともポスト安倍の新しいリーダーかという問題だ。この点は意外に難しい。

安倍首相の自民党総裁としての任期は、来年9月30日まで、2年を切っている。自民党内には党則を再び変えて、安倍首相の4選を求める意見がある。
これに対して、安倍首相は「その考えはない」と完全に否定しており、調整が残されている。

次に衆議院議員の任期は来年10月21日、自民党の総裁任期とほぼ同じ時期に任期が切れる。追い込まれ解散を避けようとすると、任期満了1年前くらいには解散時期の腹を固めておく必要がある。

このため、安倍首相は東京オリンピック・パラリンピック閉幕頃には、総裁4選論と、次の解散・総選挙は自ら断行するのか、それとも次のリーダーに委ねるのか、この「2つの根本問題」に結論を打す必要がある。

4選の考えがない場合、次の総理・総理が追い込まれ解散を避けるためにオリンピック終了を花道に退陣し、後継総裁選びを早めるのではないかとの見方もある。この「オリンピック花道論」も含めて、秋は政局の大きな山場になる。

 解散のタイミングずれ込みも

今年秋の政治の焦点になると見られる2つの問題、総裁4選論を含めた自民党の総裁選び、衆院解散・総選挙の時期の問題について、調整や決断が遅れる場合、あるいはオリンピック閉幕以降、経済情勢や海外情勢が大きく変動したりする場合、解散・総選挙が先送りになるケースも予想される。

来年に持ち越された場合、既に見たように公明党が重視する都議選がある。その時期を避けると解散時期がさらにずれ込むことになり、解散のタイミングは中々、難しい。

以上、見てきたように衆院解散の時期は、今年秋の可能性が大きいが、不確定要素が多く、したがって、有力とまでは言い切れない。ズルズルと調整、決断がすれ込み、来年秋の任期満了に近い時期の解散・総選挙もありうるのではないか。
そこで、今の段階では、「秋以降の公算」というやや幅の広い見方をしている。

 選挙で政治の歯車を回す

最後に次の衆院選挙は、いずれにしても2年以内には、確実に行われる。私たち国民の側にとって、政治に対する見方や心構えを整理しておくことが大事だ。

私たちが知りたいのは、端的に言えば次のような点ではないか。人口急減時代に入り、政治の側は、日本社会の将来設計をどのように考えているのか。そのために独自の重点政策は用意しているのか。国際社会との関係では、米中の覇権争いが激化している中で、日本の外交・安全保障をどう考えるのか。

要は、政権与党、野党側の双方が、日本の将来像の構想を打ち出し「競い合いの政治」を見せてもらいたい。国民の側は、こうした希望、注文を主張し続けると同時に、選挙の際に投票の基準にすることが大事ではないか。

また、技術革新が超スピードで進む時代、国民の側も、個人の力だけでは限界があり、協力・共生の社会を整える必要がある。特に子育て、教育、雇用、親の介護などの社会保障は、社会全体での取り組みが不可欠だ。そのためには、選挙を中心にした政治参加。選挙で政策を最終決定し、整備していく「政治の歯車を回すこと」が問われているのではないかと考える。

 

2020政局 ”激動型” 衆院解散、総裁選び

新しい年、令和2年・2020年が幕を開けた。東京オリンピック・パラリンピックが半世紀ぶりに開催されるが、政治はどのように動いていくのか探ってみたい。

結論を先に言えば、2020年は「激動型の政局の年」になるのではないか。
秋以降、衆議院の解散・総選挙と、ポスト安倍の自民党総裁選びに向けて、激しい動きが展開する年になると見ている。

なぜ、こうした見方をするのか、その理由、背景を以下、明らかにしたい。
併せて2020年の日本政治は、何が問われているのか考えてみたい。

 ” 年明け解散なし”の見通し

野党側や自民党の一部には、年が明けて通常国会冒頭、大型の補正予算案を成立させた後、安倍首相は衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかという観測もあるが、年明けの解散はなしと見ている。

年明け解散説は「桜を見る会」問題で窮地に追い込まれている安倍首相が、局面打開に解散を決断するのではないかという見方だ。

これに対して、自民党幹部は台風19号などの被害が大きく、選挙を行えるような状況ではないとの判断だ。
また、去年秋の閣僚2人の辞任以降、首相主催の「桜を見る会」の規模や予算が増え続けている問題。大学入学共通テストの柱である記述式問題が取り消しになるなどの不祥事が相次いでおり、解散・総選挙どころではないというのが本音だ。

 ”五輪終わると政治の季節”

それでは、どのような展開になるのか。1月20日召集の通常国会で、与党側は、補正予算案と新年度予算案の早期成立をめざす方針だ。

これに対し、野党側は去年の臨時国会に続いて「桜を見る会」の問題を追及する方針だ。
また、年末にはかんぽ生命問題で、総務省の現職事務次官が情報漏洩で更迭されるといった前代未聞の事件も明るみになった。

さらに、安倍政権が成長戦略の柱と位置づけているカジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件などを取り上げる方針で、与野党の激しい攻防が繰り広げられる見通しだ。

その通常国会の会期末は6月16日。翌17日は東京都知事選挙が告示され、7月4日に投票が行われるため、国会の会期延長は難しい見通しだ。候補者の顔ぶれは決まっていないが、与野党双方とも、首都決戦に場所を移し激しく争う見通しだ。

この後、7月24日に東京オリンピックが開幕、8月25日からはパラリンピックも始まり、9月6日閉幕する運びだ。このオリンピック、パラリンピックが閉幕すると、秋以降は再び政治の季節を迎え、激しい動きが予想される。

 政局激動型、2つの根本問題

秋到来とともに政治は、次第に張り詰めた空気に包まれていくのではないか。

1つは9月30日、安倍首相の自民党総裁任期が任期満了となる1年前。もう1つは3週間後の10月21日、今の衆議院議員の任期満了となる1年前だ。自民党総裁と衆院議員の任期切れが、いずれも1年後に迫り、待ったなしの状況になる。

政権与党は任期満了選挙を嫌がる。期限の設定で、追い込まれ解散の恐れがあるためだ。それを避けるために普通は1年ほど前には解散時期などの腹を固める。

自民党の総裁任期については、ポスト安倍の有力候補が不在との見方から安倍首相の総裁4選論もある。これに対して、安倍首相は今の党則で認められているのは3選までであり、「4選は考えていない」と全否定している。安倍首相の側近を取材しても首相の意思は固いという。

安倍首相は、衆院解散・総選挙と、総裁4選論の”2つの根本問題””に結論を出す必要がある。その時期は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピック終了頃に当たる。「新年の政局は激動型」と見る根拠は、この2つの問題に結論を出す時期にちょうど当たるからだ。

  激動政局 4つのケース

それでは新年の政治は、具体的にどんな展開になるだろうか。現実に起きる可能性が高いケースを考えると、次の4つのケースが想定される。

▲第1は、東京オリンピック・パラリンピックの閉幕を受けて、安倍首相が新たな時代へスタートを切る時だとして、年内に「衆院解散・総選挙」に打って出るケース。
総裁4選については、事実上4選を前提とするケースや、選挙結果によるとして直接言及しないケース、さらには選挙後、後任に道を譲るケースがありうる。

▲第2は、後継総裁の調整が難航したり、野党の激しい攻勢などで、衆院解散のタイミングを見いだせずに「解散・総裁4選のいずれも先送り」するケース。

▲第3は、安倍首相が東京オリンピック・パラリンピック閉幕を受けて、後進に道を譲りたいとして退陣を表明、いわゆる「オリンピック花道論」。そして直ちに「後継の総裁選び」が行われるケース。

▲第4は、新総裁を選んだ後、その新総裁が衆院の解散・総選挙に打って出るケース。「首相退陣から、総裁選び、衆院解散・総選挙」へと大激動型の政局展開ケースになる。

 ”オリンピック花道論”の意味

皆さんの中には”安倍1強と言われる時代、途中退陣はありえない”との見方をされる方もいると思う。これに対して、実は”政界のプロ”と目される人たちの中には”オリンピック花道論”は十分ありうるとの見方があるのも事実だ。

半世紀余り前、昭和39年・1964年10月の東京オリンピックの際、当時の池田勇人首相は大会閉幕の翌日に退陣表明、後任に佐藤栄作氏が選ばれた。池田首相の病気が理由で極めて無念だったと思われるが、今回は、安倍首相が自身の影響力を残すことをねらいにしている。

どういうことか。安倍首相としては早期の退陣表明で、総裁選で意中の後継者が優勢な流れを作った上で、衆院解散・総選挙の時期についても、選択肢を広げることができる。さらに退陣後も自身の影響力を残せると見られるからだ。

但し、このねらい通り運ぶかどうか。安倍首相の求心力が維持しているのが前提で、シナリオ通りの展開になるかどうか不確定な要素も多い。

この他、野党が新党を結成し、次の衆院選で政権交代というケースもあり得る。但し、当面、次の衆院選までは自民・公明政権が継続する可能性が高いと見ているので、今回は想定から外している。

 花道論と4選論の確率は?

さて、皆さんから予想される次の質問は、オリンピック花道論や安倍首相の総裁4選論の可能性はどの程度あるのかという点だ。

まず、オリンピック花道論は、総裁選の有力候補者の顔ぶれや構図、それに選挙情勢などと関係してくるので、今の段階で実現可能性に言及できる状況にはない。但し、次の衆院選と、総裁選びとの間を空ける大きな意味を持っている。

一方、安倍首相の総裁4選論については、首相の側近を取材すると「総理は考えていない」と否定的な見方を示す。総理・総裁は、大きな重圧を抱えながら孤独な決断を迫られるポストだ。7年余りも続けていることを考えると、4選は考えないというのは本音ではないかと個人的には見ている。

但し、アメリカ大統領選で安倍首相と相性がいいトランプ氏が再選になった場合、あるいは、後継総裁選びが思うような展開にならなかった場合は、4選論が急浮上するのではないかとの見通しもあり、流動的と言えそうだ。

 衆院解散の確率は?

衆院解散・総選挙の方は、どうだろうか。安倍首相の側近の幹部に聞いてみると「次の衆院選を誰の手で断行するか、安倍首相と次の新しいリーダーの2つのケースが考えられるし、いずれもありうる。新年にならないとわからない」との見方だ。要は、来年前半の国内情勢や海外情勢を見極める必要があるということだと思う。

衆院解散・総選挙については、今の選挙制度になった1996年橋本政権以降、解散から解散までの期間を計算すると「3年」だ。この期間を当てはめると今年10月で、丸3年になる。安倍政権下の解散の期間は、2年5か月とさらに短くなる。

もう1つ、頭に置く必要があるのは、来年7月、与党の一翼を担う公明党が重視する東京都議選が行われることだ。この都議選と、その年の秋の任期満了を外すとなると来年ではなく「今年秋以降」、今年秋か年明けの確率が高くなると見る。
この解散・総選挙については、さまざまな要素が絡むので、次回のブログで取り上げたい。

 新年 日本政治が問われる点

以上、見てきたように新年・2020年の政治は、自民党総裁選びと衆院解散・総選挙が同時並行で進む形になり、激動型の政局の年になる可能性が高い。しかも、史上最長政権、あるいはその後継政権はどんな展開になるのか未知の領域だ。

そこで、私たち国民の側から見て、今の日本政治は何が問われているのか。
▲1つは、向こう2年以内には確実に衆院選挙が行われる。国民が投票所に足を運びたくなるような「国民を引きつける政治」を見せてもらいたい。

安倍首相は国政選挙6連勝中だが、選挙の勝敗は別にして、投票率がいずれも低く「選挙離れ社会が進行中」という深刻な問題を抱えている。

政権与党、特に自民党はポスト安倍の総裁選びで、各候補は「どんな社会をめざすのか」目標・構想を掲げ党内論争を活発に展開すべきだ。最近の党内は、”黙して語らず”、党内論争がなさ過ぎる。

▲2つ目は、野党への注文。野党の合流・新党結成の動きが続いているが、野党各党は「何をめざす政党か、旗印」を明確に打ち出してもらいたい。

また、国民が不満に感じるのは、衆院選挙の小選挙区の場合、選挙の前に勝敗の予想がつく選挙区が多いことだ。これでは投票率は上がらない。候補者の擁立、調整、態勢づくりが必要だ。

▲3つ目は、日本の政治は、人口急減社会への対応という難問に直面しながら、「将来社会をどのように設計するのか」、いまだに答えを出し得ていない。

また、米中の覇権争いが長期化する中で、日本の外交・安全保障のあり方を真正面から検討・再構築していく時期を迎えている。

端的に言えば、「日本社会の将来像と外交・安全保障の構想」の競い合い、選挙で決定する取り組み方が、最も問われていると考える。

政局が激動する年になるのであれば、私たち国民の側は「日本が抱える課題・難問の前進につながるような政治の動きに対する見方や、評価、選挙での投票」を考える必要があるのではないかと思う。