高市政権は今年2月の衆院選挙で圧勝し、長丁場の特別国会を終えたが、報道各社の世論調査によると7月半ばに内閣支持率が急落した。8月に入っても横ばいか、低下が続いており、支持率の下落傾向に歯止めがかかっていない。
高市政権は去年秋の発足から間もなく1年を迎えることから、高市首相は9月中旬以降にも初めての内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。秋の政治はどこかポイントになり、どのような展開になるのか、探ってみたい。
秋の日程、臨時国会と外交防衛2本柱
まず、秋の政治日程から見ていきたい。2つ大きな柱があり、1つは臨時国会の召集だ。その臨時国会への対応と来年秋の自民党総裁選挙をにらんで、高市首相は9月に内閣改造・自民党役員人事に踏み切る見通しだ。また、衆院選挙の公約に掲げた食料品の消費減税の関連法案を国会に提出し、成立をめざす方針だ。
2つ目は外交で、9月22日から秋の国連総会がニューヨークで開幕し、各国首脳の演説が行われる。11月にはAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が中国の深圳で、12月にはG20サミットがアメリカのマイアミでそれぞれ開かれる。
11月3日はアメリカの中間選挙の投開票日で、結果はトランプ政権の命運を左右するだけでなく、日本を含む世界の経済・外交関係に大きな影響を及ぼす。一連の外交日程の中で米中首脳会談が行われるほか、高市首相にとっても緊張関係が続く中国の習近平主席との首脳会談が行われるかどうかなど注目点は多い。
臨時国会の具体的な召集日などは調整中だが、高市首相は9月22日開会の国連総会に出席するとみられることから、内閣改造などの人事は出発前の9月中旬以降、臨時国会は帰国後の9月下旬以降に召集する方向で検討しているものとみられる。
内閣改造・党役員、幹事長人事が焦点
さて、高市首相は内閣改造と自民党役員人事について、具体的な人事構想を周辺にも明らかにしていないが、与党の関係者は「自民党の党運営の要である鈴木幹事長を続投させるのかどうかが最大の焦点」との見方をしている。
また、内閣改造では閣外協力の日本維新の会から閣僚を起用するほか、去年の自民党総裁選を争った小泉、林、小林、茂木の各氏を引き続き閣内や党役員として処遇するのか否かも焦点だ。
このうち、自民党役員人事をめぐって高市首相は、麻生副総裁の義理の弟である鈴木幹事長を交代させ、旧安倍派の萩生田幹事長代行を据えたいとの見方が取り沙汰されている。
これに対して麻生副総裁は、鈴木幹事長の続投を強く求めているとされる。政府や自民党関係者の間では「幹事長を交代させた場合、高市・麻生関係に亀裂が入り、政権運営にも支障が出てくる」として鈴木氏続投の見方が強い一方、「高市首相は自らの考えを貫くのではないか」との見方もある。
自民党長老は「今の党内をみていると肝心なことは高市総理・総裁が独りで決めており、周囲があれこれ言っても意味がない」と語る。高市首相は25日、麻生副総裁と首相官邸で昼食をともにしたが、こうした会談以外の人事情報は、ほとんどが憶測の域を出ないとみてよさそうだ。
消費減税法案がカギ、財源含め論戦へ
それでは、秋以降の政治に大きな影響を及ぼすのは何かと言えば、食料品の消費減税法案の扱いだろう。
政府や8月5日の臨時閣議で、来年4月から2年間、税率を1%に引き下げるなどした基本方針を決定した。これに合わせて、中低所得層に1%相当分を給付することで、実質ゼロを実現するとしている。
政府は、与党で食料品の消費減税を盛り込んだ税制改正大綱をまとめるのを受けて、必要な法案を秋の臨時国会に提出し、早期の成立をめざす方針だ。
この消費減税法案に対して野党側は「食料品に限定した減税の効果には疑問があるほか、農家や外食産業に多大な負担が生じる」として反対する姿勢を変えていない。自民党内にも「財源のめどがついていない」として慎重論も依然として残っている。
このため、秋の臨時国会では消費減税法案をめぐって与野党の意見が真っ向から対立する見通しだ。特に与党が過半数割れしている参議院では、法案が成立するのかどうか見通しは立っていない。仮に参議院で法案が否決されたりした場合、衆議院に回付して3分の2以上の賛成多数で再可決することもありうるとの見方もある。
政府が、社会保障の財源となっている消費税率を引き下げるのは今回が初めてで、5兆円程度の財源をどのように確保するのかはっきりしない。新年度予算の財源としては、高市首相が重視する危機管理投資や成長戦略投資、さらには防衛力強化のための財源と合わせて、どのように確保するかは難題だ。
一方、秋に向けて石油由来の化学製品の値上げや、円安に伴う輸入物価の値上がりにどのような対策をとるのか、高市政権の経済・財政運営の在り方を含めて激しい論戦が交わされる見通しだ。国会審議を通じて、政府が説得力のある説明をできるかどうか、法案の成否を左右することになりそうだ。
税は鬼門、試される首相の政権運営能力
2月の衆院選挙で自民党は戦後最も多い316議席を獲得し、歴史的圧勝を収めたが、税制は政権にとって鬼門だ。これまでも衆院選挙で圧勝したケースとして、中曽根、小泉、鳩山、第2次安倍の各政権と高市政権がある。
圧勝した政権は、選挙後の政権運営も順調に運んだケースもあるが、失敗に終わったケースもある。高市政権のケースを考える際、参考になるのは中曽根政権のケースだ。
中曽根政権は昭和61年、衆参ダブル選挙で300議席を獲得し、その功績で自民党の総裁任期が1年延長となり、絶頂期を迎えた。政権後半の政治目標に売上税導入を打ち出し、法案を閣議決定、国会提出へと突き進んだ。
ところが、野党の反対に加えて、足元の自民党内、小売店などの関係団体にも反対が広がり、内閣支持率は急落、統一地方選にも敗北、ついに法案は廃案に追い込まれ失敗した。
高市政権とは法案の内容も異なるし、中曽根政権は増税に対し、高市政権は減税という違いもある。だが、税制は影響を受ける様々な業界・団体の利害調整、自らの党内はもちろん、野党への働きかけ、国民への説明や説得など地道な努力を幅広く展開する必要がある。政権全体の総合的な調整力や実行力が必要だ。
中曽根首相は元々、派手な雄弁で鳴らし、サミットなどの国際舞台で存在感をアピールするタイプの政治家だ。税制など地味な仕事は不得手だったことも影響したのではないか。
さて、高市首相はどのように対応するだろうか。これまでの活動をみると選挙の街頭演説などは得意のようだが、国会での質疑や国民に向けた記者会見などは好きではないように見える。
また、税制や財政も得意分野とは言えないようだ。首相はすべての分野に精通している必要はない。政権の最高責任者として、それぞれの分野に優秀な人材を配置し、指揮・調整していけばよい。それだけに9月に行われる内閣改造・自民党役員人事はどのような布陣になるか大きなポイントだ。
内閣と与党の人事から、臨時国会へと首相の政権運営能力が試されることになる。具体的には、首相官邸と自民・維新の与党側との調整、参院自民党や霞ヶ関の官僚と連携しながら法案や政策の実行力が問われる。
先の特別国会での高市首相の言動を見る限り、高市首相が自ら調整力を発揮するのは相当、困難とみているが、政治家は大変身することもある。秋の臨時国会での首相の答弁内容や対応を注視したい。(了)
