イラン情勢の緊張が続く中で、訪米中の高市首相とトランプ大統領との日米首脳会談が日本時間の20日未明、行われた。日本にとって最大の焦点になっていたホルムズ海峡に艦船を派遣する問題については、高市首相が「日本の法律でできることとできないことがあり、可能なことは対応する」などと説明した。
これに対しトランプ大統領から、艦船の派遣など具体的な要求を突きつけられることはなかった模様で、高市首相は難しい首脳会談を何とか乗り切ることができたようだ。
政府関係者は「会談は成功だった」と成果を強調する。だが、イラン戦争をめぐる停戦への道筋、ホルムズ海峡の安全航行、重油の確保と価格高騰の抑制などの根本問題は手つかずのままだ。今回の日米首脳会談をどのようにみたらいいのか会談内容を点検してみたい。
虎の尾を踏まず、艦船派遣は回避
高市首相とトランプ大統領との日米首脳会談は、日本時間の20日午前0時40分から1時間半にわたって行われた。
この中で、高市首相はイラン情勢について、事態を沈静化することが必要だとしたうえで、イランによる周辺国への攻撃やホルムズ海峡の実質的な封鎖を非難する日本の考えを伝えた。
また、トランプ大統領が意欲を示すホルムズ海峡への艦船の派遣について、高市首相は「日本の法律の範囲内でできることとできないことがあり、可能なことは対応する」などと説明した。
そして両首脳は、中東地域の平和と安定の実現に向けて緊密に意思疎通を続けていくことで一致した。
会談終了後、高市首相はホルムズ海峡への艦船の派遣について「機微のやり取りではあるが、ホルムズ海峡の安全確保は非常に重要だということだった。ただ、日本の法律の範囲内でできることとできないことがあるので、これについては詳細にきっちりと説明をした」とのべた。
これに対してトランプ大統領がどのような反応を示したか、高市首相は言及しなかった。一方、会談に同席した政府関係者は「一言で言うと会談は成功裏に進み、成功裏に終了した。対面では2度目の会談だが、2度目とは思えないほどの信頼の絆を感じた」とのべ、一定の理解を得られたとの認識を示した。
今回の首脳会談をめぐって日本側は、トランプ大統領からホルムズ海峡への艦船派遣や、予想のつかないような要求が飛び出すのではないかと警戒していた。加えて高市首相についてもトランプ大統領の注文を請け負ったりするのではないかと懸念する声も聞かれた。
こうした中で行われた日米首脳会談の冒頭、メデイアに公開された場面で高市首相は「私は世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだと思っており、諸外国に働きかけてしっかりと応援したい。きょうはそれを伝えに来た」とトランプ大統領を持ち上げた。
この発言をめぐっては「世界に戦争と混乱をもたらしている人物を賛美するもので、適切な評価と言えない」といった指摘や批判が相次いでいる。
一方、日本にとってホルムズ海峡への艦船派遣は、死活的に必要なエネルギーの確保と、日本の憲法や現行法制の下での安全保障行動を両立させることができるのか、難問であることも事実だ。
それだけに今回の首脳会談のタイミングで、この問題を先送りするのはやむを得ない面があると個人的に考える。別の言い方をすれば「虎の尾を踏まずにリスクを回避するのも一法」ではある。ただ、それだけに終わってしまうと今後の展望が開けないので、停戦など将来に向けた布石を打っているのかも問われるところだ。
経済分野 米国産原油 生産拡大へ協力
今回の日米首脳会談で、日本側は経済分野で新たなプロジェクトを提案し、アメリカ側と取り組みを進めることで一致した。
エネルギー関係では、アラスカ州の原油を増産して日本に輸入する方針で、供給量を増やし原油市場を落ち着かせるねらいもある。日本にとって、アラスカ州の原油は輸送にかかる日数が中東より10日ほど短く、輸送上のリスクも少ないというメリットがある。
原子力発電では「SMR」と呼ばれる次世代型の小型原子炉を建設する案件が盛り込まれたほか、天然ガスの発電施設を建設する案件も入っている。こうしたプロジェクトの総額は、最終的に最大で730億ドル・日本円で11兆円を超える見込みだ。
こうした一連のプロジェクトは、去年日米両政府がまとめたアメリカへの「80兆円規模の投資計画の第2弾」として位置づけられ、日米首脳会談にあわせて共同文書として発表された。
こうした経済分野の協力が、イラン情勢への対応でトランプ大統領が日本に対し手柔軟な姿勢をみせた要因の一つになったことも考えられる。
ただ、アラスカ原油については増産が可能な時期や量、それに生産コストの問題を抱えている。次世代型の小型原子炉も実用化までの課題が多いのも事実だ。
残る根本問題 停戦・安全航行・原油高
今回の日米首脳会談でをめぐっては「成功した」との評価を政府関係者などから聞くが、イラン情勢の根本問題は依然として残されたままだ。
アメリカとイスラエルによるイランに対する軍事攻撃はいつ収束することになるのか、見通しははっきりしない。今回の日米首脳会談でどこまで踏み込んで意見交換がなされたのかも明らかではない。
また、日本は原油輸入の9割以上を中東に依存し、そのほとんどがホルムズ海峡を通過している。ホルムズ海峡の安全航行をどのようにして実現するのか、日本にとって死活的に重要な問題だが、事実上の封鎖が続いている。
日本はイランと歴史的にも友好な関係にあるので、高市政権としては同盟国アメリカとイラン双方に早期停戦と海峡の安全航行の実現を強く働きかけることが求められている。こうした点についてもアメリカ側への説明はなされたのだろうか。
さらに日本にとって原油価格が高騰するとガソリンなど値上げのほか、石油関連製品の価格上昇にみまわれる。原油輸入の減少が長期化すると日本経済そのものが直撃され、大きな影響を受ける。
このほか、今回の日米首脳会談はトランプ大統領の訪中を前に日米双方が対中政策をすり合わせることを目的にしていたが、イラン情勢への対応に焦点が移ってしまった。対中政策について、日米両国の調整は進んだのだろうか。こうした首脳会談の中身はどうだったのか肝心な点がはっきりしない。
週明けの国会では、参院予算委員会の集中審議で日米首脳会談をめぐって議論が交わされる見通しだ。高市首相をはじめとする政府は、日米首脳会談を踏まえてイラン情勢の収束と原油輸送の安全航行、原油高騰対策にどのような方針で臨むのか、注視している。要は、日本の外交力と政権の実行力が問われているのである。(了)
