衆院選挙を受けた特別国会は、会期末まで1週間を切ったが、参議院には13本の法案が積み残されるという異例の事態で、法案の成否をめぐって与野党が大詰めの攻防を続けている。
中でも皇族数の確保に向けた皇室典範改正法案は、象徴天皇制をとるわが国にとって国の基本に関わる重要な事項だ。ところが、衆議院で10日に行われた初めての審議はわずか3時間半で、その日のうちに与野党の賛成多数で可決され、参議院に送られた。
参議院では14日から審議が始まる見通しだが、法案審議はどのように行われるべきだろうか。結論を先に言えば、皇室典範改正案は衆参両院の正副議長がとりまとめた「立法府の総意」から逸脱している内容もあり、このまま成立させると将来に禍根を残す。
このため、会期末は迫っているが、まずは「再考の府」と位置づけられる参議院で徹底した審議を尽くしてもらいたい。
そのうえで、与野党の幅広い合意に至らない場合は、法案を継続審議にして次の国会以降に持ち越すことを考えてはどうか。なぜ、こうした結論になるのか、以下できるだけ簡潔に説明したい。
養子の子どもに皇位継承資格は妥当か
さっそく、皇室典範改正案をめぐる主な論点をみておきたい。これまでの衆院の審議などで、論点は絞られている。
最も大きな論点は、皇室典範で禁じている養子について、例外として新たな章を設けて、養子を迎えることができるとしている点だ。養子となることができるのは、昭和22年に皇籍を離脱した11宮家の子孫で、年齢は15歳以上としている。
そして養子には皇位継承権はないが、養子のもとに生まれた子どもが男子の場合、皇位継承資格を持つとしている。
衆参正副議長がまとめた「立法府の総意」では皇位の継承には踏み込まず、先送りした。このため、政府案は「立法府の総意」から逸脱しているとの指摘が衆議院の審議でも出された。
この点について政府は「立法府の取りまとめに記述がないことから、現行の皇室典範に基づいて判断する。立法府の将来の検討を先取りしたり、縛ったりするものではない」と弁明する。だが、この説明は事実上、皇位の継承資格を先取りしていると言わざるを得ない。
次に、女性皇族が結婚して皇室に残る場合、その夫や子どもは一般国民のままで、女性皇族の家族には一般国民の「住民基本台帳を適用する」としている。女性皇族の家庭への配慮がなさ過ぎるとして、再検討すべきとする意見もある。
さらに、政府案のように男系男子による皇位継承を維持すべきだという考え方がある一方で、女性や女系の天皇も認める時期だとする意見も聞かれる。
「男系・男子による皇位継承」か、「女系・女性の天皇」を認めるのか、皇位の継承のあり方についても踏み込んで議論すべきだとする指摘は多い。こうした論点を整理しながら、国会での議論を深める必要がある。
静かな環境に遠く、国会の議論も不足
もう一つ法案審議の評価をめぐっては、審議のプロセス、手順・段取りも重要な要素になる。皇位継承や皇室のあり方をめぐっては、人によって歴史・伝統・価値観などに違いがあることから、「静謐な環境」の下で粘り強く議論を重ねることが大切だ。この点については、与野党の意見は一致する。
ところが、実際には、衆参両院の正副議長による意見のとりまとめは難航し、政府の法案化を経て、政府案の閣議決定は6月30日にずれ込んだ。さらに国会の空転もあって法案の審議入りは大幅に遅れ、会期末の10日前になった。
これでは「静謐な環境」で、議論を交わすにはほど遠い。皇室典範改正案は10日午前に委員会で、3時間半審議しただけで、午後の衆院本会議に緊急上程された。採決の結果、自民・維新の与党と中道・国民・参政の各党などの賛成多数で可決され、参議院に送られた。本会議の所要時間はわずか5分の慌ただしさだった。
「再考の府」参議院、修正案のゆくえは
参議院の法案審議は14日から始まる見通しで、衆議院とはちがって参議院では特別委員会を設けて審議を行う。政党や会派の数が多いため、特別委員会であれば小さな会派も議論に参加できるようにするためだ。
参議院の野党第1党の立憲民主党は「養子の子どもが男子の場合、皇位継承資格を与えるのは問題が多い」として反対する方針だ。そして、養子案を削除することなどを求める修正案を提出することにしている。
修正案が提出されることによって論点が明確になり、養子制度をめぐるさまざまな問題点や、女性皇族の配偶者と子どもの処遇、法案の見直し期間の設定のあり方などについて、曖昧な点が整理されることが期待される。また、これからの皇位継承のあり方などについて議論が深まるかどうかも注目点だ。
参議院では自民・維新の与党が過半数割れしているが、法案の採決が行われる場合、立憲民主党が反対しても、国民民主党などの他の野党が賛成すれば、賛成多数で可決・成立する公算が大きい。
一方、仮に改正案が成立しても、参院第1党の立憲民主党などが反対した場合、「立法府の総意」に基づく改正案と言えるかどうか議論になるだろう。
そこで、与野党が対立したまま歩み寄れない場合、法案を継続審議にして次の国会以降に持ち越すことも選択肢になる。それでも政府・与党は原案通り、採決に踏み切るかどうかが問題になる。
憲法では「天皇の地位は、日本国民の総意に基づく」(第1条)と規定されており、象徴天皇制は国民の幅広い理解と支持が前提になっている。このため、国会で法案の扱いに結論が出ても「国民の総意」、国民の幅広い理解と支持を得られるのかが、カギを握っている。国会の議論と法案のゆくえを注視したい。(了)
◆追記(7月13日22時)NHKの世論調査によると皇室典範の改定について、今の国会で改正すべきだと思うか尋ねたところ、「改正すべきだ」が38%に対し、「改正する必要がない」41%で上回った。「わからない・無回答」が21%だった。◇養子の子どもが男子の場合、皇位継承資格を有することについては「賛成」が43%、「反対」が34%だった。◇女性皇族が結婚後も皇室に残る場合、その配偶者と子どもを皇族とするかどうかは改正案に含まれていないが、配偶者と子どもを皇族にする考え方については「賛成」が49%、「反対」が28%だった。このように「立法府の総意」の取りまとめと、それに基づく政府の改正案は、国民の考え方と隔たりがあることが浮き彫りになった。参院での改正案の審議でも、こうした点も論点になりそうだ。
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