簗農相辞任”問われる首相の任命責任”

道路建設に関する発言などで批判が相次いだ簗農相は14日夜、首相官邸で高市首相と面会して辞表を提出した。事実上の更迭とみられる。

簗農相は衆院選挙で自身を支持しなかった首長の自治体の「道路予算を大幅にカットした」と発言し、批判が相次いだ。また、2024年と今年の衆院選挙では支持者を借り上げたバスで無料送迎した問題も明らかになった。

高市首相はこれまで簗農相を続投させる考えを示してきたが、新たにバスの無料送迎問題で公職選挙法違反の可能性も浮上したことから、続投は困難と判断し更迭に踏み切ったものとみられる。

高市政権が去年10月に発足して以降、閣僚が不祥事で辞任に追い込まれるのは初めてだ。また、先の内閣改造から1か月も立たない中での更迭となった。

簗農相の道路建設に関する発言は地域住民を事実上、恫喝する内容で国会議員として考えられない暴言だ。簗農相は問い合わせをしただけで、予算の削減は要請していないと釈明したが、その場合は虚偽の発言をしたことになる。いずれにしても農相としての適性を著しく欠く行為だ。

簗農相の辞任は自らの極めて不適切な発言が原因だが、単なる政治家個人の不祥事として片付ける問題ではない。なぜ、簗氏が農相に起用されたのか、人事のあり方や政権運営との関係などにも踏み込んで問題点を考えることが必要だ。

問われる首相の任命責任と信頼回復

今回のような閣僚の問題発言やスキャンダルなどが明らかになると歴代自民党政権はその日のうちか、数日中には閣僚を辞任させ、事態の収拾を図る事が多かった。最近では安倍政権当時、菅官房長官が水面下で”危機管理”に当たったことが知られている。

今回の高市政権の場合、簗農相の道路予算カット発言を最初に取り上げたのは先月30日、週刊新潮と文春のオンラインでの報道だった。ということは、農相辞任まで2週間もかかったことになる。なぜ、これほど時間がかかったのか。

この理由・背景としては、高市首相が先月17日に行った内閣改造が影響しているのではないか。高市首相は初の内閣改造を行うのにあたって、自民党の衆議院議員全員に異例の「希望役職アンケート」を行い、その提出文書を首相が独りで読み込み閣僚などの人事を決定した。

簗農相が発言を撤回して陳謝した際も、高市首相は「とにかく働いて仕事で返せと話した」と続投させる意向を明らかにした。つまり、内閣改造に対する高市首相の強い思い入れが、進退判断の遅れにつながったのではないか。

高市首相の人事の進め方について当時、自民党関係者は「閣僚や副大臣などの人事をさまざまな生の情報がないまま、”政治家の自己申告書”を基に決めてうまくいくはずがない。必ずどこかで失敗する」と懸念を示していた。

「安倍政権の時のように強力に首相を補佐する体制がないまま人事を行っているのではないか」との指摘と思われるが、そうした懸念が現実になったとも言える。

改造内閣では簗農相以外にも関文科相は、政治資金集めのパーテイーの開催が禁止されている衆議院議員会館内で、2020年と24年にパーテイーを開いていたことが明るみになった。

日本維新の会から入閣した中司行革担当相は、2007年大阪府の枚方市長時代、談合容疑で逮捕・起訴され、その後最高裁で有罪判決が確定した。野党側は、こうした閣僚の問題も順次取り上げる方針だ。

高市首相は、こうした一連の問題も含めて政治・行政に対する国民の不信感にどのように向き合い、信頼の回復を実現するのか。また、政権の体制をどのように整えて、政策課題を実行していくのか問われている。

世論の風向き 支持率50%ラインを注視

これからの政治の動きをみておくと高市首相は、後任の農相については15日に決めたいとの考えを示した。新農相は、農林水産政策と3兆円の予算管理を担当するほか、食料品の消費税減税の実施にあたっては、小規模農家を支援する制度設計にもあたる。有能で信頼感のある新農相を選べるかどうかが試される。

衆議院に続いて、参議院の予算委員会は16日と19日に高市首相をはじめ全ての閣僚が出席して基本的質疑が予定されている。食料品の消費税減税関連法案の審議入りがいつから始まるか調整が続く。

さらに、今回の農相辞任が政権にどのような影響を及ぼすだろうか。NHKの10月世論調査(10月10日から13日実施)によると、高市内閣の支持率は9月調査から2ポイント下がって51%で、政権発足以来、最も低くなった。不支持率は1ポイント上がって32%だった。

内閣支持率が先月から2ポイント下落したと言うことは、先月の内閣改造・自民党役員人事は、支持率の面では効果はなかったということになる。これに加えて、今回の農相の辞任に追い込まれたので、政権への影響は避けられないとみた方が自然だ。一定のマイナス効果が想定される。

高市内閣は発足時の支持率は66%に上っていたが、その後は下落傾向が続いており、今月調査で51%まで下がったことになる。今後どのようになるかは、農相辞任後の態勢の立て直しと、消費税減税法案の評価が影響するものとみられる。

世論の風向きはこれからどのように変化するのか。具体的な目安としては、高市内閣の支持率が50%ラインを維持していくのか、下回るのかがポイントになり、高市政権と今後の政治を左右することになるだろう。(了)

★追記(15日午前10時半)高市首相は、辞任した簗農相の後任に自民党の武部新氏を起用する方針を固めた。武部氏は衆院当選6回で初入閣。農林水産副大臣や党の農林部会長などを歴任。父親は、幹事長や農相を務めた武部勤氏。

★追記(15日午後10時)武部新氏は午後6時頃、皇居での認証式を経て農林水産大臣に就任した。

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”消費減税国会”開会へ 首相に鬼門 ”参院・市場・世論”

臨時国会が10月5日に召集され、当日衆参両院の本会議で高市首相が所信表明演説を行って開会した。これに対する各党の代表質問が7日から3日間の日程で行われ、与野党の論戦が本格化する。

今度の臨時国会は先の内閣改造後、初めての論戦の舞台になる。政府・与党は食料品の消費税減税の関連法案を最優先課題と位置づけ、臨時国会で早期成立を図りたい考えだ。

これに対して、野党側は「2年間限定の減税では、期待するような物価の値下げは無理だ」などとして、全ての野党が反対姿勢を示している。特に与党が過半数割れしている参議院では、法案審議は難航が予想される。

一方、経済市場は、高市政権が消費税減税の財源を確保できるのかどうか、また財政の拡張政策にも疑念を抱いている。さらに国民は、減税を歓迎する声がある一方、日本経済や社会保障政策は大丈夫なのか懸念の声も聞かれる。

秋の臨時国会はどのような展開になるのか、どのような点がポイントになるのか探ってみた。

消費税減税、財源を明示できるか

臨時国会の会期は12月12日までの96日間で、政府・与党は消費税減税の関連法案や、イラン情勢悪化を受けて原油などの調達先を多角化するための法案など21本の提出を予定している。また、議員立法で継続審議になっている衆議院議員の定数削減法案の成立をめざしている。

このうち、最大の焦点は消費税減税の関連法案だ。食料品の消費税率を来年4月から2年間に限って8%から1%に引き下げ、1%相当分の給付を行うことで「実質ゼロ」を実現する。2029年度には新たな給付制度となる「就業者負担軽減支援金」を本格導入するというのが主な内容だ。

このうち、消費税減税と1%分(年6000億円程度)の給付には、年間5兆円程度が必要となる。この減税と給付をめぐっては多くの問題点を抱えているが、中でも財源をどのように確保するかが最大の論点になる見通しだ。

政府の税制大綱では「特例公債(赤字国債)に頼らない」としているが、具体案は示されていない。政府・与党は年末の予算編成過程で「結論」を得たいとしているが、野党側は財源の内容を明らかにするよう強く求める方針だ。

衆議院では与党が圧倒的多数を占めているため、法案審議を乗り切ることができるにしても、参議院は与党が過半数割れしているため、法案審議は難航することが必至の情勢だ。

このため、政府・与党としては財源について、どこまで具体的で説得力のある説明ができるかどうかが最大の焦点になる。

参院審議と市場・世論の反応がカギ

この財源問題については、経済市場も厳しい視線を向けている。また、市場は高市政権の「責任ある積極財政」についても財政の拡張政策ではないかとして厳しい見方をしている。

このため、政府は年内に財源の具体的な内容を示すことができるのかどうか問われる。また、高市首相肝いりの戦略分野への投資や防衛財源の確保も必要になる。仮に財政規律に不安があると見なされると円安・株安・債券安の「トリプル安」に見舞われるリスクも懸念される。

一方、国民の受け止め方はどうか。NHKの9月世論調査によると△消費減税については「賛成」が48%で、「反対」の37%を上回った。ただ、この減税がもたらす財政への影響については「懸念している」が57%に上った。△新たな給付制度は「賛成」が36%に対し、「反対」が47%で上回った。世論は減税に賛成ばかりではなく、慎重な見方や懸念を抱いている人が多いことが読み取れる。

このように食料品の消費税減税をめぐっては、特に参議院での与野党の法案審議に加えて、経済市場、それに世論の反応が影響する。こうした要素は相互に影響し合い、場合によっては連鎖反応を引き起こし、大きな動きになることもありうるので、注意してみていく必要がある。

政治とカネ、米中間選挙の影響も

衆議院議員の定数削減法案の扱いも与野党攻防の焦点になりそうだ。定数削減法案は、連立を組む日本維新の会が成立を強く求めてきたが、これまで2回の国会で先送りされてきた。

高市首相は維新の立場に理解を示しているが、自民党内には慎重論も根強くある。定数削減法案の成立を急ぐと、野党側が反発して消費減税法案の審議を遅らせることが予想され、この法案の扱いも難航する見通しだ。

また、臨時国会に先立って行われた内閣改造では、自民党の裏金問題に関連して政治資金収支報告書の不記載議員2人が初めて閣僚に起用された。簗農水相と関文科相で、両氏は党から役職停止や戒告の処分を受けていた。

日本維新の会から入閣した中司行革担当相は、2007年大阪府の枚方市長時代、清掃工場建設工事をめぐって大手ゼネコンが落札できるよう調整を図ったとして大阪地検側部に談合容疑で逮捕・起訴され、13年に最高裁で有罪判決が確定した。

野党側はこうした問題も取り上げて追及する構えで、「政治とカネの問題」も議論される見通しだ。

このほか、外交面では11月3日、アメリカの中間選挙の投開票日を迎える。現地の報道によるとトランプ政権を支える共和党は厳しい情勢が伝えられており、選挙結果によっては、世界経済に大きな影響を及ぼすことが予想される。

また、11月18日からAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が中国の深圳で開かれる。高市首相の台湾有事発言を契機に日中関係は悪化の状態が続いている。こうした外交や国際経済の問題が国会論戦に浮上する可能性もある。

このように秋の臨時国会は、消費税減税の関連法案を軸に与野党の論戦と攻防が激化する見通しだ。消費税は、歴代政権にとって鬼門だった。消費税の導入や税率の引き上げに当たって、政権が倒れたり選挙で大敗したりするケースが相次いだ。

今回、高市政権は初めて消費税率を引き下げる法案を提出するが、この国会で法案を成立させることができるのかどうか。国会での与野党の攻防だけでなく、市場や国民を納得させることができるかが、大きなカギを握っているようにみえる。(了)

★追記(5日23時:高市首相は5日、衆参両院の本会議で所信表明演説を行った。この中で、焦点の食料品の消費減税については「食料品の税負担を軽くし、家計に少しでもゆとりを生み出したい」とのべ、法案の成立に理解を求めた。一方、財源については「特例公債(赤字国債)」に頼らずに確保することにしており、ご心配には及ばない」とのべたが、具体的な方策については言及しなかった。)

★追記(5日23時:高市首相の所信表明演説が終わったので、冒頭部分の文章は過去形に手直しをした。)

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高市改造内閣発足”継続重視の布陣と2つのリスク”

高市首相は政権発足から来月で1年を迎えることから、16日に自民党役員人事を行ったのに続いて、17日に内閣改造を行い、第2次高市改造内閣が発足した。

内閣改造では、内閣の要である木原官房長官をはじめ、片山さつき財務相、茂木外相や小泉防衛相らの主要閣僚がいずれも留任した。自民党役員人事でも麻生副総裁、鈴木幹事長、小林政調会長ら党役員のほとんどが留任した。

このように今回の人事では、高市政権がめざす重要政策を推進するため、主要閣僚や党役員のほとんどを留任させたのが大きな特徴だ。一方、去年総裁選を争った林総務相の再任は見送りにした。今回の内閣改造と自民党役員人事の全体をどのようにみたらいいのか探ってみたい。

主要閣僚8人が留任、林総務相は閣外へ

最初に内閣改造の主なポイントについて、整理しておきたい。第1の特徴は、冒頭で触れたように主要ポストで留任が目立ったことだ。内閣の要である木原官房長官をはじめ、財政を担当する片山さつき財務相、外交・安全保障のかじ取りにあたる茂木外相と小泉防衛相については、早い段階で留任が固まった。

また、赤沢経産相や城内・成長戦略担当相、小野田紀美・経済安全保障相、上野厚労相も留任となった。首相を除く18閣僚のうち、留任は合わせて8人だから、ざっと半数近くにのぼる。

次に連立を組む日本維新の会は政権発足時には閣僚を出さない「閣外協力」の形を取ってきたが、今回初めて閣僚を出すことになり、規制改革担当相に中司宏・前幹事長が就任した。維新から初めての入閣になった。

さらに、去年の自民党総裁選を高市首相と争った「ポスト高市」の4人の処遇も注目された。このうち小林政調会長も留任したことから、残る林総務相の処遇が焦点になっていたが、17日午後の閣僚名簿の発表で林氏の名前が読み上げられることはなかった。

林氏は旧宏池会の出身で、政治的な立ち位置が高市首相と異なることに加えて、去年の総裁選での議員票では高市首相を上回ったことから「高市首相は今回の人事で林氏を閣内に留めて封じ込める戦略だ」との見方と、逆に「林氏を起用せず、他の3人と分断を計るのではないか」との見方に分かれていた。

高市首相と林首相との間でさまざまなやり取りがあったとみられるが、結局、首相は林氏を起用しない決断をした。これに対し、林氏を支持する関係者の間では「林氏は総裁選に向けて自由に活動できる」と閣外に転じたことを歓迎する受け止め方もあり、高市首相にとって総裁再選のリスクになる可能性もある。これが1つ目のリスクだ。

このほか、今回の閣僚人事では自民党の派閥の裏金問題で、収支報告書に不記載があった議員が初めて入閣した。文部科学相に起用された関芳弘衆院議員は不記載額が836万円で、戒告処分を受けた。農水相に起用された簗和生衆院議員は不記載額が1746万円で、6か月の役職停止処分を受けた。

高市首相は記者会見で「それぞれの議員も真摯に説明を尽くし、これまで2回の選挙で審判を受けたてきた。いずれも内閣の一員として必要な能力を持つ方だ」と釈明した。

時事通信の世論調査では、裏金事件に関与した議員を閣僚や党役員に起用することについては反対が68.6%、自民支持層でも反対は53.6%に上ったことから、世論の批判が再燃することも予想される。

党役員人事、参院幹事長交代のリスクも

次に、16日に行われた自民党役員人事は、高市政権にどのような効果や影響を及ぼすだろうか。党役員人事では麻生副総裁をはじめ、鈴木幹事長、小林政調会長を留任させたほか、総務会長には梶山国対委員長を起用した。さらに萩生田幹事長代行も留任することになった。

当初、高市首相は鈴木幹事長の交代を求めるのではないかとの見方が党内にあったが、高市首相は8月下旬から麻生氏と2人だけで昼食をともにするなどその後も会談を続けた。そして早い段階で鈴木幹事長の留任が固まるなど今回は、麻生氏に配慮した人事であることがうかがえる。

自民党関係者よると高市首相は、当面の秋の臨時国会で食料品の消費税減税の関連法案の成立を図ることが政権の最優先事項であると同時に、来年秋の自民党総裁選挙もにらんで麻生氏の協力が不可欠だと判断しているとの見方をしている。

一方、党内で波紋が広がっているのが参議院自民党の石井前幹事長を交代させ、青木議運委員長を起用した人事だ。参議院自民党の人事は、党所属の参議院議員で選挙された参議院議員会長が決める規則になっており、松山参議院議員会長が決定したものだ。

だが、自民党関係者によると「高市首相と石井氏とは新年度予算案の国会対応をめぐって溝があり、首相の強い意向を松山議員会長が配慮して交代させたのが実態だ」との見方をしている。高市首相と松山議員会長はそろって否定しているが、額面通り受け止める議員は少ない。

自民党のベテランによると「石井氏は国対委員長を務め、与野党に太いパイプを持っており、彼を上回る能力を持った幹部は見あたらない」として、参議院での法案審議が行き詰まった場合、影響が出てくるとの見方をしている。端的に言えば、参院幹事長の交代は国会運営面のリスクになる公算が大きいというわけだ。

国会運営といえば、自民党の国会対策委員長に当選6回の村井英樹氏が起用された。村井氏は筆頭国対委員長などを務めてきたが、閣僚経験のない中堅を国対委員長に抜擢するのは異例で、これも高市首相の意向が働いているとされる。

衆議院は先の選挙で自民党が圧勝し、与党で4分の3の議席を占めるので、国会対策上の問題はほとんど生じないかもしれないが、参議院は与党が過半数割れして厳しい状況だけに、首相主導の国会運営を危ぶむ声は多い。これが2つ目のリスク。

国会乗り切りと柔軟な政権運営がカギ

それでは、今回の人事全体をどのようにみたらいいのか。高市政権にとって、内閣改造は初めての人事であると同時に、衆院選で圧勝した後の政権運営をどのように行うかという問題でもある。この両方を考えるうえで参考になるのが、高市首相が「政治の師」と仰ぐ安倍元首相のケースだ。

具体的には、安倍元首相が2012年12月の衆院選で圧勝して、政権復帰を果たした後、最初の内閣改造を行ったのは2014年9月だった。つまり政権発足後、最初の内閣改造に踏み切ったのは、2年近く経ってからだった。その間、実績を積むと同時に、改造の祭には、官房長官や財務、外務など主要閣僚6人を留任させた。

同時に安倍首相は、経済政策アベノミクスの具体化を進めるとともに、新たに「地方創生」などのテーマを打ち出し、その担当相に総裁選でライバル関係にあった石破氏起用した。また、幹事長にはハト派の谷垣氏(自民党総裁経験者)を説得して就任してもらうなど懐の深い布陣を敷いた。さらに女性閣僚を過去最多の5人起用するなど具体的な取り組みを展開したのが思い出される。

今回、高市首相の人事は、閣僚の留任の多さでは、安倍元首相の改造人事を上回る8人にのぼる。また、衆議院議員全員に希望ポストのアンケートを行い、それを基にに閣僚を起用したとアピールするが、安倍政権と比べると具体的な目標設定や多様な人材を配置する戦略性などが見あたらない。

高市政権は、衆院選挙の公約として打ち出した食料品の消費税減税も、税制改正大綱が決まった段階で、法案化はこれからだ。秋の臨時国会で成立しても実際に税率引き下げが実現するのは来年の4月になる。

秋の臨時国会で法案審議が順調に進むのかどうか、特に参議院の審議は難航が予想される。先の特別国会では新年度予算案の審議を圧縮したり、改正皇室典範の審議は衆参両院でわずか1日で、世論の批判を浴びた。首相主導の強引な国会運営は生産的でなく、改めた方がいい。

外交・安全保障分野でも安倍政権の発足当初は、中国との関係が悪化していたが、APECが中国で開催されるタイミングをとらえて自ら訪中し習近平国家主席と日中首脳会談を行った。そして、戦略的互恵関係を確認するなどして事態の打開を図った。

高市首相も、安倍元首相が行ったように内外情勢を冷静に分析しながら、柔軟で安定した政権運営を実現できるかどうか、今回の人事の結果がさっそく試されることになる。(了)

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高市首相”政権の骨格維持へ”内閣改造・党役員人事

高市首相は7日、首相官邸で自民党の鈴木幹事長と会談し、内閣改造と自民党役員人事について意見を交わした。その結果、自民党役員人事の後に内閣改造を行い、10月上旬にも臨時国会を召集する日程を確認した。

これを受けて高市首相は8日午前に開かれた自民党の役員会で、党役員人事について総裁である自らに一任するよう求め、役員会として一任することを決めた。

高市首相は、食料品の消費税減税を実施するための税制大綱を15日に閣議決定できれば、翌16日に自民党役員人事、17日に内閣改造を行う日程を検討している。

高市政権発足からまもなく1年を迎えるのを前に行われる内閣改造と自民党役員人事について、これまでの経緯と人事の焦点などを探ってみたい。

麻生・鈴木両氏は続投、協力関係維持へ

高市首相が初めて手がける内閣改造と自民党役員人事をめぐっては当初、鈴木幹事長の交代を望んでいるのではないかとの見方があったことから、幹事長人事が最大の焦点になるのではないかとみていた。

鈴木氏は、麻生氏の義弟で麻生派に所属していることから、鈴木幹事長の処遇は、高市首相が麻生氏との関係をどのように考えているかを占う人事として、党内外の注目を集めていた。

そして一部には、高市首相は、鈴木氏に代えて、旧安倍派の萩生田幹事長代行を起用するのではないかとの見方も出ていた。

こうした中で高市首相は先月25日、首相官邸で麻生副総裁の二人だけで昼食をともにするなど人事の調整を進めてきた。官邸や自民党関係者の情報を総合すると高市首相は、麻生氏の副総裁留任を求めるとともに鈴木幹事長の続投を認めたものとみられる。

高市首相としては、当面の最大の懸案である食料品の消費税減税を実現させることと、来年秋の自民党総裁選で自らの再選を果たすためには、唯一の派閥である麻生派を率いる麻生氏の協力が不可欠だと判断したためとみられる。

一方、党内には高市首相は、鈴木氏交代を模索したが、その後任として適任者を見いだすことができなかったため、鈴木氏交代を断念したとの見方も聞く。

小泉・茂木・小林各氏留任へ、林氏が焦点

内閣改造をめぐって高市首相は、早い段階から内閣の要である内閣官房長官には木原稔氏の留任を決めていたほか、片山財務相の留任も固めたとされる。

一方、去年の総裁選を争った小泉防衛相、林総務相、茂木外相、それに自民党の小林政調会長の処遇も焦点になっている。このうち、小泉防衛相と茂木外相については留任が固まったのに続いて、小林政調会長についても留任で調整が進められている。

一方、林総務相の処遇について、高市首相の意向は明らかになっていない。林総務相自身も「次の総裁選をにらんで内閣を離れたい意向」との見方もあり、改造人事の焦点になっている。

林氏は旧宏池会出身で穏健リベラル派で、保守色の濃い高市首相とは違いがある。内閣や党の要職に止まれば、来年の総裁選への挑戦が制約されるとの見方もあり、林総務相と高市首相がそれぞれどのように最終判断するか注目される。

維新 初入閣、参院自民党人事も注目

今回の内閣改造では、連立を組む日本維新の会が初めて閣僚を出すことになる。去年の高市政権発足にあたって維新は、高市首相から入閣を求められたが応じず、閣外協力の立場を続けてきた。

今回、初めて閣僚や副大臣などの政務三役を出す運びになっている。維新関係者によると入閣候補として馬場元代表や、藤田共同代表、中司幹事長らの名前が上がっており、最終的には馬場氏の可能性が大きいとの見方もある。

その場合、規制改革担当相のポストが取り沙汰されているが、未だ流動的だ。維新が閣内に入った場合、自民と維新の連携が強化されるのか、逆に不協和音が増すことになるのかも注目点だ。

このほか、高市首相と参議院自民党との関係、具体的には石井参院自民党幹事長が再任されるのかも関心を集めている。高市首相は先の特別国会の運営をめぐって石井幹事長との関係がギクシャクしたことから、石井氏の交代を求めているとの見方もある。

一方、参院自民党は独自性が認められており、参院自民党の議員会長が参院の人事権を持っている。つまり、総裁といえども参院の人事権を直接行使できないのがルールで、歴代総裁も尊重してきた。高市首相も総裁選への影響も考慮して、人事の介入は避けるのではないかとの見方が強いが、なお警戒する声も聞く。

消費減税実現と総裁選再選がねらいか

ここまでみてきたように自民党執行部は、麻生副総裁を筆頭に鈴木幹事長、萩生田幹事長代行、それに小林政調会長も留任する方向で最終調整が進んでいる。一方、内閣は、木原官房長官と片山財務相に続いて、茂木外相、小泉防衛相の留任が固まるなど政権の骨格は変えずに維持する見通しだ。

これは高市首相としては、衆院選の公約に掲げた食料品の消費税減税を秋の臨時国会で実現するために、政府と党で制度設計などにあたってきた当事者をそのまま充てることで、法案の成立を確実にしたいためとみられる。

また、去年の総裁選を争った小泉、小林、茂木の各氏を内閣と党に事実上、封じ込めるとともに、党内の影響力が大きい麻生副総裁の協力を得ることで政権を安定させ、来年秋の総裁選で自らの再選を図りたいとのねらいがあるものとみられる。

一方、高市政権の骨格が変わらないということは、国民からみると「変わり映えがせず、物価高対策をはじめとする国民生活の安定に向けた大胆な取り組みも期待薄」との見方が強まることも予想される。

また、先の特別国会で高市政権は強引な政権運営が批判を浴びたように政権運営の危うさを指摘する声は多い。内外に数多くの難問を抱えている中で、重要政策で成果を上げることができるのか、さらに安定した政権運営ができるのか、新たな体制の力量が秋の臨時国会でさっそく問われることになる。(了)

★追記(9月14日午前10時)高市首相は、自民党の国会対策委員長に村井英樹・元官房副長官を起用する意向を固めた。村井氏は当選6回、閣僚経験はなく、異例の抜擢となる。従来の国会運営を変えたい高市首相の強い意向が働いているものとみられる。▲連立政権を組んでいる日本維新の会からは、中塚幹事長を入閣させる方向で調整が進んでいる。▲去年の総裁選で高市首相と争った4人のうち、小泉、小林、茂木3氏は留任の方向で、残る林総務相の処遇が焦点になっている。

★追記(9月15日午後9時)高市首相は15日午前の自民党役員会で、16日に自民党役員人事、17日に内閣改造をそれぞれ行う方針を表明した。▲自民党役員人事では麻生副総裁、鈴木幹事長、小林政調会長、西村選対委員長の留任が固まった。総務会長には梶山国対委員長、国対委員長には村井元官房副長官の起用が固まった。萩生田幹事長代行も留任の見通し。▲参議院自民党人事では、石井幹事長を交代させ、後任に青木参議院議運委員長を充てる方向で調整が進められている。

★追記(9月16日午後11時)高市首相は16日、自民党役員人事を行った。このうち、参議院自民党の石井幹事長は交代し、青木参議院議運委員長が起用された。

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秋の政局 “消費減税法案がカギ 高市政権”

高市政権は今年2月の衆院選挙で圧勝し、長丁場の特別国会を終えたが、報道各社の世論調査によると7月半ばに内閣支持率が急落した。8月に入っても横ばいか、低下が続いており、支持率の下落傾向に歯止めがかかっていない。

高市政権は去年秋の発足から間もなく1年を迎えることから、高市首相は9月中旬以降にも初めての内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。秋の政治はどこかポイントになり、どのような展開になるのか、探ってみたい。

秋の日程、臨時国会と外交・安保2本柱

まず、秋の政治日程から見ていきたい。2つ大きな柱があり、1つは臨時国会の召集だ。その臨時国会への対応と来年秋の自民党総裁選挙をにらんで、高市首相は9月に内閣改造・自民党役員人事に踏み切る見通しだ。また、衆院選挙の公約に掲げた食料品の消費減税の関連法案を国会に提出し、成立をめざす方針だ。

2つ目は外交で、9月22日から秋の国連総会がニューヨークで開幕し、各国首脳の演説が行われる。11月にはAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が中国の深圳で、12月にはG20サミットがアメリカのマイアミでそれぞれ開かれる。

11月3日はアメリカの中間選挙の投開票日で、結果はトランプ政権の命運を左右するだけでなく、日本を含む世界の経済・外交関係に大きな影響を及ぼす。一連の外交日程の中で米中首脳会談が行われるほか、高市首相にとっても緊張関係が続く中国の習近平主席との首脳会談が行われるかどうかなど注目点は多い。さらに年末には日本の安全保障三文書の改定と防衛力整備の問題が控えている。

臨時国会の具体的な召集日などは調整中だが、高市首相は9月22日開会の国連総会に出席するとみられることから、内閣改造などの人事は出発前の9月中旬以降、臨時国会は帰国後の9月下旬以降に召集する方向で検討しているものとみられる。

内閣改造、自民党の幹事長人事が焦点

さて、高市首相は内閣改造と自民党役員人事について、具体的な人事構想を周辺にも明らかにしていないが、与党の関係者は「自民党の党運営の要である鈴木幹事長を続投させるのかどうかが最大の焦点」との見方をしている。

また、内閣改造では閣外協力の日本維新の会から閣僚を起用するほか、去年の自民党総裁選を争った小泉、林、小林、茂木の各氏を引き続き閣内や党役員として処遇するのか否かも焦点だ。

このうち、自民党役員人事をめぐって高市首相は、麻生副総裁の義理の弟である鈴木幹事長を交代させ、旧安倍派の萩生田幹事長代行を据えたいとの見方が取り沙汰されている。

これに対して麻生副総裁は、鈴木幹事長の続投を強く求めているとされる。政府や自民党関係者の間では「幹事長を交代させた場合、高市・麻生関係に亀裂が入り、政権運営にも支障が出てくる」として鈴木氏続投の見方が強い一方、「高市首相は自らの考えを貫くのではないか」との見方もある。

自民党長老は「今の党内をみていると肝心なことは高市総理・総裁が独りで決めており、周囲があれこれ言っても意味がない」と語る。高市首相は25日、麻生副総裁と首相官邸で昼食をともにしたが、こうした会談以外の人事情報は、ほとんどが憶測の域を出ないとみてよさそうだ。

消費減税法案がカギ、財源含め論戦へ

それでは、秋以降の政治に大きな影響を及ぼすのは何かと言えば、食料品の消費減税法案の扱いだろう。

政府や8月5日の臨時閣議で、来年4月から2年間、税率を1%に引き下げるなどした基本方針を決定した。これに合わせて、中低所得層に1%相当分を給付することで、実質ゼロを実現するとしている。

政府は、与党で食料品の消費減税を盛り込んだ税制改正大綱をまとめるのを受けて、必要な法案を秋の臨時国会に提出し、早期の成立をめざす方針だ。

この消費減税法案に対して野党側は「食料品に限定した減税の効果には疑問があるほか、農家や外食産業に多大な負担が生じる」として反対する姿勢を変えていない。自民党内にも「財源のめどがついていない」として慎重論も依然として残っている。

このため、秋の臨時国会では消費減税法案をめぐって与野党の意見が真っ向から対立する見通しだ。特に与党が過半数割れしている参議院では、法案が成立するのかどうか見通しは立っていない。仮に参議院で法案が否決されたりした場合、衆議院に回付して3分の2以上の賛成多数で再可決することもありうるとの見方もある。

政府が、社会保障の財源となっている消費税率を引き下げるのは今回が初めてで、5兆円程度の財源をどのように確保するのかはっきりしない。新年度予算の財源としては、高市首相が重視する危機管理投資や成長戦略投資、さらには防衛力強化のための財源と合わせて、どのように確保するかは難題だ。

一方、秋に向けて石油由来の化学製品の値上げや、円安に伴う輸入物価の値上がりにどのような対策をとるのか、高市政権の経済・財政運営の在り方を含めて激しい論戦が交わされる見通しだ。国会審議を通じて、政府が説得力のある説明をできるかどうか、法案の成否を左右することになりそうだ。

税は鬼門、試される首相の政権運営能力

2月の衆院選挙で自民党は戦後最も多い316議席を獲得し、歴史的圧勝を収めたが、税制は政権にとって鬼門だ。これまでも衆院選挙で圧勝したケースとして、中曽根、小泉、鳩山、第2次安倍の各政権と高市政権がある。

圧勝した政権は、選挙後の政権運営も順調に運んだケースもあるが、失敗に終わったケースもある。高市政権のケースを考える際、参考になるのは中曽根政権のケースだ。

中曽根政権は昭和61年、衆参ダブル選挙で300議席を獲得し、その功績で自民党の総裁任期が1年延長となり、絶頂期を迎えた。政権後半の政治目標に売上税導入を打ち出し、法案を閣議決定、国会提出へと突き進んだ。

ところが、野党の反対に加えて、足元の自民党内、小売店などの関係団体にも反対が広がり、内閣支持率は急落、統一地方選にも敗北、ついに法案は廃案に追い込まれ失敗した。

高市政権とは法案の内容も異なるし、中曽根政権は増税に対し、高市政権は減税という違いもある。だが、税制は影響を受ける様々な業界・団体の利害調整、自らの党内はもちろん、野党への働きかけ、国民への説明や説得など地道な努力を幅広く展開する必要がある。政権全体の総合的な調整力や実行力が必要だ。

中曽根首相は元々、派手な雄弁で鳴らし、サミットなどの国際舞台で存在感をアピールするタイプの政治家だ。税制など地味な仕事は不得手だったことも影響したのではないか。

さて、高市首相はどのように対応するだろうか。これまでの活動をみると選挙の街頭演説などは得意のようだが、国会での質疑や国民に向けた記者会見などは好きではないように見える。

また、税制や財政も得意分野とは言えないようだ。首相はすべての分野に精通している必要はない。政権の最高責任者として、それぞれの分野に優秀な人材を配置し、指揮・調整していけばよい。それだけに9月に行われる予定の内閣改造と自民党役員人事でどのような布陣にするかが大きなポイントだ。

内閣と与党の人事から、臨時国会へと首相の政権運営能力が試されることになる。具体的には、首相官邸と自民・維新の与党側との調整、次に参院自民党との連携、それに霞ヶ関の官僚とも連携を図り、法案や政策が実行できるかが問われている。

先の特別国会での高市首相の言動を見る限り、高市首相が自ら調整力を発揮するのは相当、困難とみているが、政治家は大変身することもある。秋の臨時国会での首相の答弁内容や対応を注視したい。(了)

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消費減税の基本方針 閣議決定”秋の臨時国会で徹底審議を”

消費減税をめぐって、政府は5日午後に臨時閣議を開き、来年4月から2年間に限って食料品の消費税を1%に引き下げるなどとした基本方針を正式に決定した。政府は具体的な制度設計を進め、9月に税制改正大綱を決定し、秋の臨時国会に関連法案を提出する方針だ。

閣議決定された基本方針によると食料品の消費税について、来年4月から2年間税率を1%に引き下げるとともに、中低所得の人に1%相当分を給付することで実質ゼロを実現するとしている。

財源は、市場の信認を損なうことがないよう赤字国債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直し、それに税外収入などを通じて確保するとし、来年度の予算編成プロセスで結論を得るとしている。

こうした2年間の減税を経たうえで、2029年度には「所得に連動したきめ細かな給付」を毎年度、継続的に実施する新たな制度として導入するとしている。

1989年に消費税が導入されてから37年になるが、政府が消費税率引き下げの方針を決定したのは、今回が初めてだ。政府の方針をどのようにみたらいいのか、また政治の対応として何が必要なのか考えてみたい。

多くの疑問・懸念は残されたまま

さっそく政府の基本方針の内容からみていきたい。まず、食料品に課税される消費税率が8%から1%に引き下げられるが、専門家は「国民が期待するほどの引き下げ効果はないのではないか」との見方を多く聞く。

イラン情勢悪化に伴う原材料や包装の価格上昇、それに輸送費、人件費も上がっていることから、減税分がそのまま価格に反映されるとは限らない。消費減税の効果は、思ったほどないのではないかというわけだ。

次に減税などを実施するためには1年で5兆円程度の財源を必要とするが、基本方針では財源の具体的な内訳は示されておらず、来年度予算編成の中で検討していくことになる。

税制に詳しい議員に聞くと「1年に5兆円程度は赤字国債に頼らずに何とかかき集められるが、他にも首相肝いりの危機管理投資や防衛力強化の予算にも必要だ」として、財源確保の難しさを認めている。

高市政権の下で財政拡張がさらに進むとみられると市場の信認を失い、円安・債券安が一段と進むリスクを抱えている。

さらに懸念されるのは、2年後に食料品の消費税率を元の8%に戻せるかだ。高市首相は「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻す」と力説する。

だが、どうだろうか。消費税率引き上げの時期は2029年4月。その前年・2028年夏には参議院選挙が実施される。選挙を間近に控えた政権は、選挙への影響を恐れて引き上げを先送りすることはありうるのではないか。安倍政権も2回にわたって引き上げを延期したことがある。

このほか、食料品の消費税が実質ゼロになると、利用客の減少が予想される外食産業や免税農家に対する支援策の検討もこれからだ。このように食料品の消費減税には数多くの疑問や懸念が出されたが、ほとんど手つかずで残されたままだ。

首相 ”力で押し通す政治”の危うさ

今回の消費減税にあたって危惧されるのが、高市首相が進める政治手法だ。高市首相は衆院選での自民圧勝後、超党派の「国民会議」で給付付き税額控除の検討を進めたが、食料品の消費減税については与野党の合意を取りつけることに失敗し、結局、自民党の方針をそのまま政府方針として決定した。

また、政権与党・自民党の最終的な意見集約も、首相の方針を最初に党役員に提示して賛同を得た後、党所属議員の意見を聞いて集約する手法を採った。党所属議員の意見集約もわずか2日間だった。

従来の自民党であれば、党税調の意見を踏まえて方針のとりまめに活かしたり、”平場の議論”は当事者が疲れ果てるまで続けたりしたが、今やトップダウンの上意下達、”力で押し通す政治”の党に変わったように見える。

特別国会閉会後の記者会見で高市首相は「316議席、衆院選挙で国民の皆さまから頂戴した大きな、大きな負託。その責任の重さを毎日噛みしめながら公務に向き合っています」「何かを成し遂げようとすれば大きな抵抗もあるでしょうが、『公約実現』への私の思いは決して揺らぐことはありません」と強調した。

選挙公約を何としても実現したいとの首相の思いは理解できる。他方で、政治家、特に首相は選挙後に起きた内外情勢の変化、今年で言えば米・イスラエルによるイラン攻撃などの影響なども勘案し、大局的で現実的な政権運営が必要だ。

また、”力で押し通す政治”が前面に出すぎると大きな政治目標を達成することは難しくなる。首相は政治姿勢や手法を再考することが必要ではないかと考える。

消費減税を含む基本政策 徹底論戦を

消費減税の問題は、今回の閣議決定によって政府・与党の基本方針が決まったことになる。今後は秋の臨時国会で、関連法案の審議に焦点が移る。

そこで、消費税の意義と経緯をみておくと消費税は、急速な人口減少と超高齢化社会が進行する中で、社会保障を整備する新たな税制として導入された。若い世代だけでなく、高齢者も消費を通じて税を負担して社会保障を支える税制であることから、その意義を認める国民は多いとみていいのではないか。

こうした観点に立って今回の政府の基本方針をみると2年間に限定された「つなぎ」の措置のために基幹税である消費税の税率を引き下げることには疑問を抱かざるを得ない。別に財源を求めるか、給付に切り替える方策も考えられる。

秋の臨時国会では法案の成否の駆け引きでなく、人口急減時代の税と社会保障の整備について与野党が掘り下げた議論を行ってもらいたい。

また、今の日本が直面している政治課題も待ったなしだ。物価高騰対策をはじめ、日米が28年ぶりに円買いの協調介入を行った円安への対応、さらに市場が懸念を抱いているとされる政府の財政政策など取り組むべき課題は多い。

さらに今回の消費減税に必要な5兆円の財源確保をはじめ、首相が強い意欲を示す危機管理投資と防衛力の抜本強化を図るための防衛財源について、全体像を明らかにする必要がある。

秋の臨時国会は、こうした日本が直面している金融・財政、防衛力整備と社会保障などの基本政策について、政府・与党と野党側が真正面から徹底して議論を深めることが必要だ。

一方、国会の運営面では、高市政権は衆院では圧倒的多数の勢力を確保しているが、参議院では過半数割れしている。このため、先の特別国会で明らかになったように力で押し切るような国会運営は困難だ。加えて足元の自民党内では、消費税減税には慎重・反対論が根強く、高市政権の政治基盤は万全とは言えない。

一方、野党陣営は少数政党に分かれたままで、高市政権に対して本格的な論戦も挑めない状態で、国民の失望を買っている。

こうした状況から、高市政権と与野党がやるべきことは明らかだ。消費減税を含む基本政策について真正面から議論を戦わせて、結論を出していくことだ。私たち国民も高市政権と与野党がどこまで役割を果たせるか、秋の国会をしっかり見届けていく必要がある。(了)

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終盤国会 混迷 ”早期正常化なるか、政権与党の責任大”

会期末まで3週間を切った国会は、自民党と日本維新の会の政権与党が29日の衆議院議員の定数削減法案に続いて、30日には「副首都」構想の関連法案を委員長職権でいずれも審議入りさせた。

これに対し、野党側は強引な国会運営だとして強く反発し、審議には応じられないとして与野党が全面的に対立するという異常な事態に陥っている。

こうした重要法案の扱いに加えて、高市首相陣営の中傷動画報道などをめぐる問題も絡んで、事態打開のめどはついていない。

与野党対立が続けば、防災庁設置法案や皇族数の確保に向けた皇室典範改正案などの審議への影響が予想される。終盤国会の与野党対立の構図はどのようになっているのか、事態打開には何が必要なのか探ってみたい。

法案山積も、与党の国会戦略見えず

今の国会に提出される法案については、既にこのブログで幾度か取り上げてきたので、詳細に触れるのは避けるが、多くの法案の審議がヤマ場を迎えていたり、審議入りが予定されたりしている。

具体的には、前の内閣から引き継がれた防災庁の設置法案をはじめ、個人情報保護法改正案、与党が最も重要な法案と位置づける皇族数の確保に向けた皇室典範改正案も30日に閣議決定された。

こうした中で高市首相と維新の吉村代表は先の党首会談で、自民・維新の連立政権合意に盛り込んだ衆議院議員の定数削減法案と「副首都」構想の関連法案を今の国会で成立をめざす方針を確認し、29日に法案を国会に提出した。

与党が連立政権合意に基づいて法案を提出するのは当然あり得ることだが、問題は会期末の7月17日が迫っていることだ。維新の中司幹事長は会期の延長を求めているのに対し、自民党の鈴木幹事長は、会期延長なしで今の国会を終える考えを表明している。

このように国会の会期延長をめぐっても連立与党の自民、維新、それに首相官邸の三者の間でも調整がつかないまま、個別の法案の扱いが進んでいる。

また、与党の幹部は「懸案の皇室典範改正案を成立させることが今国会の最重要案件であり、そのためには静かな環境で審議促進を図る必要がある」と強調してきた。ところが、実際には最終盤に入って与野党の対決法案を持ち出すなど政権与党の方針に一貫性がみられない。

国会運営は衆議院で多数を握る政権与党が主導権を発揮して、野党と交渉に当たるのが基本だ。しかし、今の国会で政権与党の対応をみると国会運営の戦略、基本方針が首相官邸と連立与党間で共有されておらず、終盤国会が混迷する根本原因はこの点にあるとみている。

中傷動画問題、首相・秘書の説明が必要

さて、終盤国会で与野党が対立している、もう一つの背景に首相陣営の中傷動画などをめぐる問題がある。

6月22日の衆参両院の予算委員会で野党側は「高市首相の公設秘書が自民党総裁選や衆院選での他陣営に対する中傷動画の投稿や、首相の個人名を使った暗号資産『サナエトークン』に関与したのではないか」と追及した。

これに対し、高市首相は事務所の関与を否定したうえで「秘書の陳述書を提出する。それをもって答弁に代えたい」と異例の答弁をした。野党側は答弁拒否だと反発し、首相出席の集中審議の実施と秘書の参考人招致を要求している。

この問題をどのように考えるかだが、現職の首相に関わる問題であることと、SNSと選挙のあり方が大きな問題になっていることを考えると、ここは高市首相が自ら進んで説明し、秘書も知りうる点を説明することが必要だと考える。

これまでの政権でもさまざまな疑惑が問題になったが、基本は「事実関係」を明らかにし、その事実に基づいて議論を深めることの重要性が指摘されてきた。そうした取り組みが、政権や国民にとってもプラスに働くと考える。

内外激動、国会の一刻も早い正常化を

それでは、これからの終盤国会で政権、与野党はどのように対応すべきだろうか。

政権与党の一部には、議員定数削減法案や「副首都」関連法案を成立させるため、国会の会期を大幅延長し、参議院に送られた法案が採決されなくても60日が経過すれば否決と見なして衆院に法案を戻し、3分の2以上の多数で再可決する方策を検討しているとの報道もある。

だが、これを採用すると「参院無用論」を政権与党自らが行うことになり、事実上、二院制の否定と国民の政治不信を増幅させる可能性もある。自民党幹部の一人は「こうした手法は採らない方がよい」との考えを示しているが、最終的には高市首相の判断になりそうだ。

一方、日本を取り巻く情勢をみてみると、アメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書の署名がなされたが、最終的な合意は不透明だ。署名から60日後、ホルムズ海峡の通航に管理料などが徴収されるようになると、貿易立国・日本への打撃は大きい。

パキスタンは仲介国の役割を果たしたが、本来は日本が果たす役割ではなかったか。通行料なしで、安全航行を実現することなど日本が積極的に取り組むべき課題は多い。

円相場は30日午前、1ドル=162円台をつけた。1986年12月以来、およそ39年ぶりの円安水準だ。著しい円安は輸入物価を押し上げ、私たちの暮らしに大きな打撃を与える。金融政策や財政政策のかじ取りは待ったなしの状態だ。

さらに超党派の国民会議で検討が進められてきた給付付き税額控除と、2年間限定で食料品の消費税率ゼロ政策は、野党側の反発もあり、政権がめざしていた6月中の「中間とりまとめ」を断念する事態に追い込まれている。

こうした内外の情勢を考えると国会の混迷に区切りをつけ、一刻も早い正常化を実現することが必要だ。そのために首相、衆参両院の正副議長、与野党双方とも積極的に汗をかくべきだ。

特に首相や政権与党の幹部は、野党との意見の対立を調整し、現実的な対応策を実現していくことが求められる。高市首相も与党や、過半数割れしている参院幹部との意思疎通を図り、政権を運営していくことが求められているのではないか。

一方、国民からすると幾つか注文がある。その一つが、法案の優先順位だ。例えば国旗損壊罪法案は急ぐ必要があるのかどうか、優先順位を考えてもらいたい。

もう一つは、焦点の皇室典範改正案の扱いだ。衆参の正副議長を中心にまとめられた「立法府の総意」に沿って法案化が進められたが、政府案では「旧皇族の養子の子どもが男子の場合、皇位継承資格を持つ」と規定されている。「立法府の総意」では先送りされた内容が盛り込まれており、国会での審議が必要だ。

今回の皇室典範の改正は、「皇族数の確保策」であり、「皇位継承」の課題には踏み込まないのが前提だ。国会では与野党とも慎重に審議を尽くし、国民の納得が得られた段階で、採決すべきだと考えるが、どうだろうか。

高市首相は1日から3日間の日程で、インドを訪問する。国会が最終盤の段階で、しかも週末ではなく、平日に首相が国内を留守にするのは異例の対応だ。

憲法で「内閣は、国会に連帯して責任を負う」と規定されている。特に首相が国会を留守にする場合、政府の対応が後手に回らないよう態勢を整えておくことが不可欠だ。終盤国会で、政権や与野党はどのような対応を取ったか、しっかり見届ける必要がある。(了)

★追記(7月1日23時:森衆議院議長は1日、与野党の幹事長らと会談し、与野党が協力して静謐な環境の下、皇室典範改正案を成立させることを最優先するよう要請した。また、与党に対し、予算委員会の集中審議や党首討論を開催するよう努力を求めた。中道の階幹事長は記者団に「与党がどう対応するか示す必要がある。きちんとした回答がなければ、静謐な環境は整わない」との考えを示した)。

★追記(2日22時:自民党の鈴木幹事長と衆院野党第1党の階幹事長が会談し、国会正常化に向けて意見を交わしたが、合意に至らなかった。引き続き、協議を続ける)。

★追記(7日10時:混乱が続く国会は高市首相が6日、参院予算委員会の集中審議と党首討論に応じる考えを示したことから、参院は7日から法案審議を再開することになった。一方、衆院は与野党の対立が続いており、皇室典範改正法案などの審議の見通しは立っていない)。

★追記(7日23時:高市首相と日本維新の会の吉村代表は7日、国会内で会談し、事態打開のため、衆院議員の定数削減法案について今の国会での成立を見送る方針を確認した。これを受けて、与党は8日に野党側と会談し、焦点の皇室典範改正法案の早期審議入りを働きかける方針)。

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国会残り1か月 懸案集中、高市政権の対応は?

アメリカとイランが戦闘終結に向けた覚書を19日に正式に署名する見通しになったのを受けて、各国とも原油輸送の要路であるホルムズ海峡の安全航行が実現するかどうかに強い関心を寄せている。G7サミットも15日からフランスで開かれ、中東情勢の安定に向けた取り組みを強めることを確認した。

日本国内では国会の残り会期が1か月となり、自民党と日本維新の会が連立合意文書に盛り込んだ3法案のゆくえが焦点になっている。衆院議員の定数削減、「副首都構想」、国旗損壊罪の3つの法案で、与野党の攻防が激化する見通しだ。

高市政権にとって6月は、皇族数の確保策を盛り込んだ皇室典範の改正案のとりまとめのほか、超党派でつくっている「国民会議」で食料品の消費税率ゼロと給付付き税額控除の取りまとめも控えている。

こうした内外の懸案が集中する中で、高市首相は重要案件にどのような姿勢で臨むのか、優先順位を含めた政権の対応力が試されることになる。

終盤国会、自・維連立合意3法案が焦点

今の国会では、えん罪をなくすため裁判の再審制度を見直す刑事訴訟法改正案が野党・参政党の賛成を得られることになり、改正案は16日に衆議院を通過、会期内に成立する見通しになった。この法案を含め、首相が質疑に出席する「重要法案」は4法案いずれも既に成立、もしくは成立のめどが立った。

政府・与党が次に成立をめざしているのが、高市政権が発足する際に自民・維新連立政権の合意文書に盛り込んだ3つの法案だ。具体的には、衆議院議員の定数削減法案と「副首都構想」法案、それに日本の国旗を損壊する行為を罰する法案だ。

▲このうち、国旗損壊罪法案については、自民党と国民民主党、参政党との間で修正協議がまとまったことから、16日に法案を国会に提出した。参院では与党は過半数割れしているが、国民民主党と参政党の賛成で成立する見通しだ。

▲衆議院議員の定数削減法案は、与野党の協議で選挙制度改革の結論が1年以内に出なかった場合、比例代表のみで45議席を削減するとした内容で、与党は近く法案を提出する。

ただ、野党各党は比例代表のみの削減に強く反発している。また、企業・団体献金の見直しや、SNS上の偽情報対策などの法案審議を優先させるべきだという意見もあり、成立の見通しは立っていない。

▲維新が重視している「副首都構想」法案については、自民党内で批判が相次ぎ、与党内で議論が続いている。この法案では、維新がめざしている「大阪市を廃止して複数の特別区に分割する大阪都構想」を実現する場合、是非を問う住民投票の対象を大阪市から、大阪府全体に広げることが盛り込まれていることから「住民自治の観点から問題が多い」とする反対意見が根強く出されている。

この「副首都構想」と議員定数削減法案をめぐっては高市政権の発足時に自民党内の議論がなされないまま、高市首相と維新首脳との会談で連立政権の合意文書に盛り込んだ経緯がある。このため、野党の反対だけでなく、自民党内の幅広い支持が得られるのかどうか危ぶむ声も聞かれる。

皇族数の確保、食料品消費税実質ゼロ案

安定的な皇位継承をめぐり衆参両院の正副議長が10日、各党派の代表と協議し、皇族数の確保に向けた「立法府の総意」を取りまとめた。

女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、旧皇族の男系男子を養子として迎える案を「いずれも了」とする内容で、政府は月内にも皇室典範の改正案を今国会に提出し、成立をめざす方針だ。

この「立法府の総意」を読むと女性皇族が結婚後も皇室に残ることは賛同できるが、女性皇族の夫や子どもの身分の扱いは明記されていない。また、皇室が養子を取ることに国民の理解が得られるのか疑問を感じる。

この問題をめぐって高市首相は12日、日本維新の会の藤田共同代表と官邸で会談し「自民党と維新の連立政権なので、まずは制度設計の細かいところまで両党でつめてほしい」と要請した。

これに対し、野党からは「こうしたやり方では、『立法府の総意』は無視することか」と反発や批判が相次いでいる。

この問題の背景には、高市首相など保守派の議員の間では「皇位の継承は、男系男子に限るという伝統を守るべきだ」との考えが強く、「皇族数の減少が続く中では、女系女性天皇も認めるべきだ」とする考え方との間で大きな違いがある。

「立法府の総意」はこうした違いを踏まえて取りまとめただけに、政府の改正案の取りまとめ方によっては与野党の意見の違いが表面化し、終盤国会の運営に影響する事態も予想される。

高市政権にとっては6月にはもう一つ、首相肝いりの政策について重要な判断を迫られる。超党派の「国民会議」で議論が続いている食料品の消費税率ゼロと、給付付き税額控除の取りまとめを受けて、政府としてどのような方針を打ち出すかという問題だ。

食料品の消費減税をめぐっては17日、「国民会議」の議長案が示された。それによると来年4月から税率を1%に引き下げ、給付と組み合わせることで「消費税率を実質ゼロ」にするとしている。

これに対し、野党からは「国民会議の議論は給付付き税額控除が中心で、消費税率の議論は行っていない」として強く反発している。また、消費減税で本当に価格が下がるのか、2年後に税率を元に戻せるのか、財源の確保はできるのかといった多くの問題を抱えており、国民会議のとりまとめは難航が必至の情勢だ。

中傷動画含め懸案集中、政権・与野党は

今の国会では、高市首相の陣営が自民党総裁選や衆院選で他陣営を中傷する動画を拡散したとする週刊文春の報道が取り上げられ、首相と野党側の応酬が続いている。

この問題をめぐっては共同通信も動画を作成した男性のインタビューを報道し、首相の秘書から総裁選で相談を受けたことや、衆院選では首相を含む与野党約50人の陣営から対立候補に関する動画の作成を頼まれ、うち20人に協力したと証言した。

この問題は、最高権力者である首相の信頼性に関わるとともに、SNS時代の選挙のあり方・公正さに関わる重要な問題だ。

それだけに、まずは「事実関係」を明確にすることが不可欠だ。高市首相が率先して事実関係を説明するとともに、秘書についても国会に招致するなどして事実関係を解明してもらいたい。

このほか、中東情勢はアメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書の署名式典が19日に行われ、1つの節目を迎える。日本外交は同盟国のアメリカだけでなく、友好関係にあるイランへの働きかけが十分に行えたのか、戦闘終結後のホルムズ海峡の安全航行にどのような役割を果たしていくのか掘り下げた点検が必要だ。

このように国会の残り会期は1か月となり、重要法案の扱いをはじめ、首相陣営の政治倫理、ホルムズ海峡の安全航行、物価高騰や社会保障のあり方などさまざまな懸案が集中して目白押しの状況だ。

こうした中で、気になるのは野党陣営の対応で、衆院選で大敗した影響が残っているとはいえ、政権をチェックする機能を果たせているようにはとても思えない。法案をめぐって与党に協力することはあるにしても、徹底した議論を尽くすことが必要だ。

国会の会期末に向けて私たち国民も、衆院選で歴史的圧勝を収めた与党・高市政権が内外の懸案に真正面から取り組んでいるのかどうか、特に政治課題の優先順位などの判断が適切になされているか見極めていく必要がある。(了)

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後半国会 ”イラン情勢と外交・経済対応”が焦点

大型連休が終わって国会は、衆議院を通過した国家情報局設置法案の審議が8日、参議院本会議で審議が始まった。また、裁判のやり直しの制度を見直す法案の国会提出に向けて、自民党内で条文の調整が続いているほか、衆議院では防災庁設置法案など重要法案の審議も本格化する見通しだ。

後半国会ではこうした重要法案をめぐって、与野党の審議と攻防が活発になる。一方、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃のゆくえと、原油や石油関連製品の供給不足や価格高騰がどうなるのか、各国にとって最大の関心事項だ。

原油輸入の9割を中東に依存している日本にとって、イラン情勢の緊張が長期化した場合、石油関連製品の高騰が続き、企業や産業、国民生活に大きな影響が避けられない。

このためイラン情勢によって、後半国会の展開はガラリと変わり、高市政権も新たな対応を迫られる。その後半国会で高市政権は、具体的にどのような点が問われることになるのか探ってみたい。

イラン情勢、経済・暮らしに影響広がる

さっそく、イラン情勢からみていきたい。アメリカとイランの戦闘終結に向けた協議は合意が近いとの見方が伝えられるが、ホルムズ海峡の開放やイランの核濃縮の扱いをめぐって双方の主張には隔たりがあり、先行きは不透明な状況が続いている。

日本政府は、備蓄原油の2回目の放出を5月1日に行ったほか、ホルムズ海峡以外からの原油調達を進めている。その結果、原油や、原油を精製してつくるナフサの供給は「年を越えて継続できる見込みとなった」と盛んにアピールしている。

こうした一方で、国内では原油やナフサの供給不安による影響がさまざまな分野で広がっている。ナフサはプラスチック製の資材や医療機器、食品の包装、ゴム製品など幅広い用途に使われているため、さまざまな業界で「物が手に入らない」との悲鳴が上がっている。

イラン情勢の悪化が長期化すれば、石油関連製品の品不足が深刻化するほか、夏から秋にかけて価格高騰の波が押し寄せ、国民生活がさらに圧迫される事態も予想される。

強い経済路線、高市首相 節約に消極的

こうしたイラン情勢の悪化に伴う石油関連製品の不安や価格高騰を受けて、与野党からは、原油価格高騰対策を盛り込んだ補正予算案を早期に編成すべきだという意見が相次いでいる。

これに対して高市首相は、原油は備蓄の放出と調達先の多角化で、原油とナフサ、石油関連製品についても「年を越えて供給を維持できる」と強調している。

補正予算案についても「今年度予算の予備費が活用できる」として、現時点では補正予算案の編成は必要な状況ではないとの考えを示している。

さらに与野党から「中東情勢の長期化に備えて、エネルギーの節約など需要抑制を呼びかけてはどうか」との提案が出されているが、高市首相は「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応していく」として、明確な態度表明を避けている。

高市首相は「強い経済」を掲げて高い支持率を維持してきたことから、景気に冷や水を浴びせかねない節約の要請は避けたいというのが本音だとみられる。

野党各党は連休明けに再び、原油高騰を受けた経済対策を盛り込んだ補正予算案編成の要求を強める構えだ。国民民主党は、中低所得者層を対象に5万円の給付や電気・ガス料金の負担軽減などを求めていく方針で、高市首相の対応が注目される。

6月に懸案集中、決断迫られる高市首相

それでは、これからの政治の動きはどのような展開になるだろうか。外交面では、今月14日から2日間の日程で、トランプ大統領が中国を訪問し、習近平国家主席と米中首脳会談を行う。米中の貿易・経済関係や台湾問題、それに中東情勢についても意見が交わされる見通しで、各国の外交政策に多大な影響を及ぼす。

また、6月15日から3日間の日程でG7=主要国首脳会議がフランスで開かれる。ホルムズ海峡の航行をめぐっては、アメリカと、イギリス・フランスなどのヨーロッパ諸国がそれぞれ安全航行の枠組みづくりを進めている。米欧の間で日本はどのような役割を果たすのか高市首相の外交手腕が試される。

一方、内政では6月には、政治判断を伴う重要な懸案が相次ぐ。まず、高市首相が「悲願」と位置づける「食料品の消費税率ゼロ」について、国民会議が6月に「中間とりまとめ」を行う予定だ。国民会議では有識者や与野党から、レジの改修などの実務的な問題点が数多く指摘され、消費減税には慎重論や反対論が強まっている。

高市首相は衆院選で公約した政策であることから、当初の方針通り消費税率ゼロの方針を取りまとめ、秋の臨時国会に関連法案の提出をめざす考えとみられる。こうした高市首相の方針と国民会議の議論にはズレが目立っており、調整力が問われる。

また、国民会議との関係では中低所得者層の負担軽減を図る「給付付き税額控除」の扱いも問題で、食料品の消費税率ゼロ政策と合わせてどのようなタイムスケジュールで実施していくかも焦点だ。

さらに、6月は高市内閣にとって初めての中長期の経済・財政の方針となる「骨太方針」を決定する予定だ。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権は、給付付き税額控除や防衛力の抜本強化を実現するための財源を含めて、説得力のある将来像を提示できるかが問われる。

こうした懸案に加えて、イラン情勢の緊迫化に伴う補正予算案を編成するか否かの問題を抱えている。今の国会の会期末は7月中旬であり、これから6月にかけて判断をせまられる。このように6月には、数多くの重要な政治課題が押し寄せる見通しだ。

その際、物価高騰対策の補正予算に踏み切る場合、与党内からは「食料品の消費減税は取り止めて、給付付き税額控除先行に切り替えるべきだ」といった意見も出されている。

これに対して、自民党の閣僚経験者は「高市首相は、選挙公約を取り下げるような選択はしないのではないか」との見方をしており、主要政策の調整が問題になる見通しだ。

高市政権は政権発足から半年が経過しても高い支持率を維持しているが、外交面では、日本経済にとって死活的に重要な「ホルムズ海峡の安全航行」をどのように実現していくのか、高市政権の外交力が厳しく問われることになる。

また、内政面では、イラン情勢に伴う石油関連製品の価格高騰対策など当面の対応策と、中長期の主要政策についても優先順位をつけながら決定できるのかどうか、高市政権は正念場を迎えている。(了)

★追記(5月11日21時)高市首相は11日の参院決算委員会で「日本全体として、原油も石油関連製品も必要な量は確保できている」として、現時点で国民に対し踏み込んだ節約を呼びかける段階ではないという考えを示した。また、現時点では補正予算案の編成は必要ではないという認識を示した。

★追記(5月18日21時)中東情勢を受けて、高市首相は18日に開かれた政府与党連絡会議で、今年度の補正予算案の編成を含め、検討を行うよう片山財務相に指示したことを明らかにした。また、与党に対し、今年7月から9月までの電気・ガス料金の支援策をまとめるよう要請した。

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高市内閣 発足半年 ”経済・イラン情勢対応”がカギ

高市内閣が発足してから、今月21日で半年を迎えた。内閣発足当初は衆参両院とも与党は過半数割れしていたが、2月の衆院選挙で自民党単独で3分の2を上回る316議席を獲得して圧勝を収めた。内閣支持率も発足から半年経った今も60%台と異例の高い水準を維持している。

今の国会では、新年度予算は暫定予算を経て、短期間で成立にこぎ着けた。高市首相肝いりの「国家情報会議の設置法案」などの重要法案も審議が順調に続いている。

高市政権のこれからの政権運営はどのようになるのだろうか。ポイントは、衆院選で掲げた食料品の消費税率ゼロなどの経済政策と、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃が沈静化に向かうのかどうか、先行きが読めない中での対応になる。今後の政治の展開を探ってみたい。

発足半年でも高支持率、安倍政権以来

去年10月21日に発足した高市内閣は、去年12月に補正予算を成立させたのに続いて、今月7日には新年度予算を成立させた。但し、高市首相は新年度予算案の年度内成立にこだわり、衆院では強引な審議を押し通したが、野党多数の参院では跳ね返されて年度内成立を断念し、批判をあびた。

一方、外交面では2度にわたって日米首脳会談を行い、トランプ大統領と信頼関係を強める一方、台湾有事をめぐる存立危機事態の国会答弁で、中国側の反発を招き日中関係は悪化した状態が続いている。

政権発足から半年、国民は高市政権の政権運営をどのようにみているか、NHKの4月の世論調査(10~11日実施)によると次のようになっている。

高市内閣の支持率は61%に対し、不支持率は22%だった。内閣発足時の支持率は66%で、3月に59%に下がったが、4月に再び60%台に戻した。読売新聞の調査(17~19日)では支持率は66%、朝日新聞の調査(18・19日)では支持率は64%で、いずれも高い水準を保っている。

このように内閣発足時の高い支持率を半年後も保っているのは、2012年に発足した第2次安倍内閣を除けば、それ以降で初めてのケースだ。安倍内閣の場合、発足時が64%で、半年後も62%で高い水準を維持した。

その後の歴代内閣の発足時と半年後の支持率はそれぞれ次のようなデータだ。◇菅内閣62%⇒40%、◇岸田内閣49%⇒53%、◇石破内閣44%⇒35%。

支持率が高い政権の場合、50%を割り込むのがいつになるのかを政界関係者は注目するが、安倍政権の場合は、政権発足から1年7か月後だった。

安倍、高市両政権を単純に比較できないが、高市政権の支持率が高いのは、初の女性首相という効果と期待値によるところが大きいとみられる。ただ、内閣支持率はどの政権でもいずれ下降に転じる。下降局面がいつになるのか不明だが、50%ラインを割り込むと、政治・政局が動き出す一つの目安になる。

今国会、政府提出法案の多くが成立か

さて、新年度予算が成立した後の後半国会はどのように展開するだろうか。衆議院の与野党が最も重視し、首相の出席を求めて法案の趣旨説明などを行う「重要広範議案」には、次の4つの法案が決まった。

◇政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能を強化する「国家情報会議」設置法案、◇「防災庁」の設置法案、◇市販の「OTC類似薬」で患者に追加負担を求める健康保険法改正案、◇再審制度見直しの刑事訴訟法改正案の4法案だ。

このうち再審制度見直し法案を除いて、いずれも衆院で審議が始まっており、特に高市首相が「国論を二分する政策」として重視している「国家情報会議」設置法案について、与党側は今週24日までの衆院通過をめざしている。

このほか、この国会では連立を組んでいる維新が重視している◇副首都構想法案、◇衆議院議員の定数を削減する法案、◇日本国旗の損壊罪を制定する法案の提出が予定されている。

衆院は与党が圧倒的多数の議席を確保していることから、多くの法案の審議が与党ペースで進む見通しだ。

一方、参院では野党が多数を占めていることから、与党側がどこまで丁寧に審議を働きかけ、野党の理解を得て成立にまでこぎ着けられるかが焦点になる。今国会の会期末は7月17日と時間的な余裕があるので、与野党対決法案を除いて、かなりの数の政府提出法案が成立する可能性が大きい。

夏から秋、経済・外交への対応がカギ

高市首相にとって難題は、自ら「私の悲願」と位置づける食料品の消費税率ゼロと「給付付き税額控除」の政策をどのような道筋で実現にこぎ着けられるかだ。

食料品の消費減税について、有識者と与野党で構成する「国民会議」で議論が進められている。高市首相は6月に中間報告を取りまとめ、秋の臨時国会に関連法案を提出し、2026年度中の実施に言及したこともある。

これに対し、「国民会議」の関係者や野党側から「消費税減税は、どこまで食料品の値下がりにつながるかわからない」「外食産業や農業などへの影響や問題点が多すぎる」など慎重論や反対論も相次いでいる。

自民党の幹部の一人は「高市首相は衆院選の公約として掲げたこともあり、規定方針通り突き進む可能性の方が大きいのではないか」との見方を示している。

一方、イラン情勢の悪化に伴う原油の確保について、政府は「ホルムズ海峡を通らない代替ルートで原油の調達が進み、年明けまで必要な量を確保できるメドがついた」と強調しているほか、流通の目詰まりへの対策も強化していると説明している。

問題は、石油関連製品などの価格高騰への対応だ。自民党内からは「原油の量は確保できても、原油価格の高騰や石油関連製品の値上げは確実で、中小企業や農林水産業など幅広い分野に影響が出ることが予想される」として、補正予算の編成を急ぐべきだとの意見が広がり始めた。

このようにこの夏から秋にかけては、国会終盤での重要法案をめぐる与野党の攻防と、高市首相肝いりの食料品の消費減税などの重要政策の制度設計、それにイラン情勢の影響が長期化した場合の対応が重なる事態が予想される。

その際、高市首相は内政と外交全般にわたって、どこまで指導力を発揮することができるのか。また、首相官邸と自民党との意見調整と連携がうまく機能するのかが焦点になる。その結果によっては、国民の高市政権に対する評価に変化が予想され、この二つの焦点が政治のゆくえを読むうえで大きなポイントになるとの見方をしている。(了)

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