全国臨時休校と危機管理の本質

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国すべての小中高校を、来月2日から臨時休校するよう要請するとの驚くニュースが、27日夕方飛び込んできた。

政府の対策本部で安倍首相が表明したもので、感染拡大を抑制し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小にするために必要な法案も準備するよう指示したという。

今回の臨時休校は、踏み込んだ対応策で賛否両論あると思うが、結論から先に言えばありうる措置だと考える。

問題は、政権の危機管理のあり方。何を最優先に取り組むかという問題を考える必要があるということ。
今、最優先でなすべきことは、感染源の正確な把握。そのための検査体制を早急に整えること。もう1つは、感染拡大期に備えて診察・治療体制の整備だ。

問題の本質は、学校の休校措置ではなく、感染源の検査と対策。ここを最重点に対応していくことが重要だと考える。みなさんはどのようにお考えでしょうか。

全国臨時休校、どう評価?

この臨時休校、安倍総理大臣は、北海道などで小中学校などの臨時休校の措置が取られていることに触れた上で、次のように表明した。

「ここ1,2週間が極めて重要な時期だ。何よりも、子どもたちの健康第1に考え、日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクににあらかじめ備える必要がある」とのべ、来月2日から全国全ての小学校、中学校それに高校と特別支援学校について、春休みに入るまで臨時休校するよう要請する考えを示した。

こうした対応をどう評価するか? 2009年の新型インフルエンザの際の対応が思い出される。世界的な流行になったが、日本は他の国に比べて圧倒的に死亡者数を押さえ込むことに成功した。

この時は、関西、大阪や兵庫で大流行したが、学校の臨時休校・閉鎖措置を実施したことがウイルスの駆逐に成功した要因だったという。こうした例を考えると、臨時休校の措置も1つの選択肢だと考える。

 本質は、感染源対策にあり!

そこで、問題の本質はどこにあるか?それは、コロナウイルスの感染拡大をどう防ぐか、感染源対策にある。

今回は、政府が本格的な対策を打ち出す前に、既に中国などから大勢が入国しており、水際対策だけで完全に封じ込めることはできない。このため、水際対策は続けながらも「国内対策にシフト」する必要があるというのが専門家の意見だ。

つまり、コロナウイルスの感染感染源をどう防ぐことができるかにある。そのためには、感染源の検査、検査で重症者や接触者を突き止め、死亡者などを最小限にし、最終的に感染源を押さえ込むことにある。

学校への新型ウイルスの侵入を防ぐことは大事だが、感染源は学校以外にある。その感染源を検査で突き止め、防止していくことが基本だ。

 政権の危機管理、検査と治療体制

政府のこれからの新型感染対策では、政権の危機管理能力が問われる。幅広い分野での対策を、全国規模で行う必要がある。そのためには、政府、中でも対策・実行の司令塔として「総理官邸、政権の総合的な調整力」がカギを握っている。

その危機管理では「最悪の事態」に備えるのが鉄則だ。最悪の事態への対応として、感染拡大防止に学校の臨時休校もありうる。

但し、問題の本質は、休校ではなく、感染源の抑制だ。具体的にはウイルスの検査体制をどうするのか。政府は、1日に全国で3800件まで検査能力を拡大できたと強調してきた。ところが、実際は900件に止まっているという。医師が保健所に検査を依頼しても、人手不足などを理由に断られるケースもあるという。

また、重症者を入院させ、治療を行い、死亡者を最少化することが感染症の押さえ込みにつながる。感染拡大期に全国で、入院・治療の受け入れ体制を整備することが最も問われる点だ。

安倍政権としては、こうした検査、治療体制の整備に予算、人材をどのように投入するのか、大胆で説得力のある対策を提起することが最も問われる点だと考える

 問題の本質、見極めが大事!

最後に繰り返しになるが、危機の際には、問題の本質・核心は何か。ここを立ち止まって見極めることが大事だ。

学校の全国規模の臨時休校、前例のない取り組みで、子ども達の暮らし、家庭の受け入れ体制など多くの問題を抱えており、大きな議論を巻き起こすだろう。

但し、問題は繰り返しになって恐縮だが、感染源を突き止め、抑制することだ。
そのための検査、診察・治療体制をどうするのか。そのために政権はどんな対策を考え、実行しようとしているのか。この点についての政府の方針と説明を求めていくことが最も必要なことだ。問題の解決の順番を間違えないことが肝要だと考えます。

 

新型肺炎 問われる政権の危機管理

新型コロナウイルスの感染問題は、クルーズ船の乗客で、感染が確認され医療機関に入院・治療を受けていた80代の男女2人が死亡したほか、全国各地で国内感染の拡大が続いている。

一方、中国などからの観光客が激減、自動車業界ではサプライチェーン・部品供給網の混乱など経済面への影響が深刻になっている。

さらには、大勢の人が参加するイベントや会合の中止など社会の活動面の影響も広がっている。

このように新型ウイルスの感染問題は、当面の政治の最重要課題に浮上しており、特に安倍政権の危機管理が問われている。今回の感染拡大の危機を乗り切ることができるのか、具体的にどんな対応が問われているのか探ってみる。

 新型感染症 政府が取るべき対応

今回のような新型ウイルスの感染に対して、政府・政権はどんな対応をとるべきなのか。感染症・医療の専門家は、次のような対応が重要だと指摘している。

1つは「初期の対応」、水際対策は迅速、強めに行うこと。多少の過剰な対応はやむを得ない。

2つ目は、今回のような潜伏期間が長く、軽症な例も多い疾患では、完全な封じ込めは難しく「国内の感染対策」へシフトする必要がある。

3つ目は、感染拡大の程度、つまり「発生の早期」と「拡大期」に応じて対応策を打ち出していくことの重要性を挙げている。

政府のこれまでの対応に対しては、さまざまな意見や批判が出ている。
一方、当初、新型ウイルスの感染力などはわからず、国内の感染検査も1日300件程度に止まる中で、緊急の対応を迫られたのも事実だ。

以上3点の指摘は、政府対応を評価する際の基準になる。また、一定の区切りがついた段階で、一連の対応について、検証する必要がある。

 危機管理、具体的な対応策

さて、それでは危機管理、具体的にどんな対応が必要なのか。再び、先の感染症・医療の専門家の意見を聞くと次のような対応策を提言している。

1つは、今の状況は「感染の発生早期」の段階。海外からの感染症の完全な封じ込めは難しく、既に国内で感染が進行している。感染早期の段階では、重症者を早期に発見、死亡者を最小限に止めることが重要になる。

2つ目は、次の「感染拡大期」に備えて、一般病院も診療できる体制を準備する。そして、重症者の早期発見、治療を行う。軽症者は、開業医を含めた医療機関で対応する。軽度の人は自宅待機などもありうる。

3つ目は、検査や診療などの全体の体制づくりと運用。政府が中心になって、地方自治体、大学や医療機関、企業、国民がそれぞれ総力を挙げて感染防止を徹底する取り組みができるように総合的な調整を行うこと。

また、政府が方針を決定するのにあたっては、医療関係の専門家、官僚などが技術的・専門的な議論を行い、その結果を踏まえて、政治が判断する仕組みづくりが重要だと指摘している。

こうした取り組みを進め、国内での感染を抑え、事態の収束に導くことができるかどうか。安倍政権はこれまで政治主導を標榜し、政権が看板政策を打ち上げて政策を実行してきた。今回は、医療・保健などプロの意見を聞きながら、国民の命と健康を守っていく、手探りの対応を迫られることになる。

 外交、東京オリパラ、政治日程

今回の新型ウイルス感染の問題は、4月上旬にも予定されている中国の習近平国家主席の来日が予定通り実現するのかどうか。

また、7月24日から半世紀ぶりに開催が予定されている国家的な事業、東京オリンピック・パラリンピックが予定通り実施できるのかどうかにも影響を及ぼすことになる。

さらに、今年の秋以降にも予想される衆議院の解散・総選挙、ポスト安倍の後継総裁選びなどの政治日程も左右することになる見通しだ。

政権の危機管理は、これまでも阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きた村山政権。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の激震に見舞われた民主党の菅政権の時のように、政権の求心力にも大きな影響を与えることになりそうだ。

安倍政権にとっては、最長政権の総仕上げの段階、正念場が続くことになる。

 

 

 

首相のヤジと ”危うい政治”

新型コロナウイルスの感染が新たな広がりを見せつつある中で、国会では安倍首相がヤジを飛ばした問題をめぐって、野党側が強く反発、13日午前に予定されていた衆院予算委員会が流会になった。17日に集中審議をセット、安倍首相が釈明することで審議が再開される見通しだ。

今回の問題は、安倍政権の強気の政治姿勢の現れと同時に、国会が政権をチェックできているのかどうか、”危うい政治”状況を浮き彫りにしているのではないか。

新型ウイルス危機を乗り切るためにも政権や国会のあり方を今一度、考えておく必要があるのではないか。首相のヤジが持つ意味と政治のあり方を考えてみる。

 ”意味のない質問” 首相のヤジ

首相のヤジは、12日の衆議院予算委員会の集中審議で飛び出した。手短に説明すると、立憲民主党の辻元清美議員が質問の最後に「タイは頭から腐る。社会、国、企業などの上層部が腐敗していると残りも腐っていく。頭を代えるしかない」と首相批判で質問を終えて退席しようとした際、安倍首相が「意味のない質問だ」とヤジを浴びせた。

 罵詈雑言、反論の機会なし

このヤジをどう見るか。さまざまな見方、反応が考えられる。
公平を期すために安倍首相の言い分も紹介しておくと、その後の答弁で「最後の部分は質問ではなく、罵詈雑言。私に反論する機会がない。だから、意味のない質疑だ」と反論していた。

やや専門的・技術的な話になるが、国会での質疑では持ち時間のルールがある。参議院では「片道方式、質問時間の片方」で計算する。衆議院では「往復方式、質問と答弁の両方を合わせた往復」で計算。今回は、衆議院の往復方式だ。

首相の答弁が長くなると質問時間が減っていく。また、質問時間が多少、残った場合、質問者は自らの意見をのべた上で、締めくくるのが、一般的なやり方だ。

安倍首相は、こうした点は十分、承知の上で、ヤジを飛ばしたのではないかと思われる。

辻元議員のアクの強い質問、表現はどうかという気もするが、首相が「意味のない質問だ」と切って捨てるのは論外ではないか、私の見方。

 質問者の後ろに多数の有権者

この問題を考える際の大事な点は、”首相と野党の質問者”という図式だけでなく、野党の質問者の後ろには、多数の支持する有権者が存在している点だ。

首相にとっては罵詈雑言、不快な質問であっても、有権者の中には別の意見もありうる。どちらに理があるかは、最終的には視聴する有権者の判断に委ねるのが議会制民主主義のルールだ。

このため、国会では自由で活発な議論が最大限尊重されなければならない。これまでは曲がりなりにも守られてきている。それを覆すような態度は傲慢で、許されないことは、最初にはっきりさせておきたい。

 首相の政治姿勢、”強気一辺倒”

安倍首相の閣僚席からのヤジは、今回が初めてではない。自らの答弁中に、議場からのヤジに対しては制止するよう求める一方、閣僚席からヤジを飛ばす光景はこれまで何度も目撃した。

私は40年近く政治取材を続けているが、安倍首相は歴代自民党政権の中でも珍しくヤジを飛ばす数少ない首相だ。首相経験者の何人かから「政権にとって予算は命、成立までは隠忍自重する」との趣旨の話を聞いてきたが、異なるタイプだ。

ある野党議員に聞くと「首相のヤジは、板についてきた。問題になった際の弁解ぶりも堂々としてきた」と意図的なヤジではないかとの見方をしている。

安倍首相の国会答弁は、端的言えば、”強気一辺倒。相手の野党議員に対して、弱気を見せるな。強気で行け”という路線が特徴だ。
この路線は、総理をはじめ、閣僚、一部の官僚まで浸透しており、”ONE・TEAM”とも言える徹底ぶりだ。

但し、この路線で終始すると、討論で相手を説得したり、逆に譲歩して修正案をまとめ上げたりする余地がなくなる。政権運営が順調な場合は問題は少ないが、行き詰まったりした場合、柔軟なかじ取りが難しく、”政権運営上の落とし穴、危さ”が潜んでいると言えるのではないか。

国会・与野党の政権チェック機能

今回の安倍首相のヤジは、行政権と国会との関係の観点からも問題を引き起こす。行政の最高責任者である首相が、国会議員の質問内容について、意味がないと判定しているわけだから、国会としては、野党議員だけでなく、与党議員も政権に対して、”モノ申す、苦言を呈す姿勢”が必要ではないか。

国民の側からすると「政高党低」、安倍首相に対して、党の側から意見をのべることができる議員はほとんどいなくなっているのではないかと疑念を持つ。

国会に対しても、変質・機能の低下を来しているのではないか。憲政史上、最長となった安倍政権に対して、国会はチェック機能を果たしているのかどうか、与野党のあり方を含め、今の政治に危うさを感じる点だ。

知りたい点に応える審議を

国会がやるべき点は、はっきりしている。国民が知りたい点を真正面から議論すること。新年度予算案もまもなく衆議院を通過する可能性が大きい。それまでに懸案・宿題については、議論を整理して到着点をはっきりさせて欲しい。

◇新型コロナウイルスの政府対応の評価、予算は適当か。◇桜を見る会と公文書の取り扱い、◇IR整備の是非、◇閣僚辞任、IR汚職事件、政治とカネの国会での取り組み方、◇東京高検検事長の異例の定年延長など知りたい点は多い。

いずれも点についても政府、並びに与野党の考え方の違いがわかる論戦にしてもらいたい。一連の懸案・宿題の区切りの付け方を工夫して、国民が、今後に関心と期待を持てる国会にする役割・責任が問われている。

 

 

 

 

 

過去の政府答弁と矛盾、検事長定年延長問題

東京高検検事長の異例の定年延長問題で、政府が延長の根拠にしていた国家公務員法の定年制の規定について、過去の政府答弁では「検察官に国家公務員法の定年制は適用されない」と答弁していたことが明らかになった。

これは、2月10日の衆議院予算委員会での質疑の中で取り上げられたもので、政権の対応と、過去の政府答弁との矛盾が明らかになった。新たな指摘なので、前号のブログに続いて、この問題を取り上げる。

 異例の定年延長

最初にこの問題、手短におさらいをしておくと東京高検の黒川弘務検事長は、2月に63歳の定年に達し退職するものと見られていたが、政府は直前の1月31日の閣議で、黒川検事長の勤務を半年間延長する人事を決定した。

検察官の定年は、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳と定められている。但し、検察庁法には定年延長の規定がないとして、政府は国家公務員法を適用して、今回の定年延長を決めた。

こうした政権の対応は、これまでにない異例な対応で、次の検事総長に起用するための措置ではないかとの見方も出されている。

 1981年の政府答弁と矛盾

10日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の山尾志桜里衆議院議員が、この問題を取り上げた。

山尾氏は、国家公務員法の改正案を審議した1981年4月の衆議院内閣委員会の議事録を基に、当時の政府委員で人事院幹部が「検察官に今回の国家公務員法の定年制は適用されない」と答弁したと指摘。当時も、国家公務員法で検察官の定年を延長させることは想定しておらず、「政府の今回の人事は、法的根拠がないのではないか」と追及した。

 森法相「詳細は知らず」

これに対して、森法相は「議事録の詳細は知らない」とのべた上で、「検察官も一般職の国家公務員であり、国家公務員に勤務の延長を認める制度の趣旨は検察官にも及ぶ」と従来の答弁を繰り返した。

 政権対応と政府答弁の違い

以上の質疑を聴くと、安倍政権の今回の対応・説明と、過去の政府答弁との間には違い、矛盾があると判断するのが自然だ。

もちろん、新たな解釈を打ち出すこともありうると思うが、従来の政府答弁を踏襲しているのか、それとも新たな判断に転換することにしたのか、事実関係をはっきりさせておく必要がある。

現役記者時代の委員会取材でも、政府答弁は新たな判断か否かを関係者に確認し、原稿にするかどうかの判断基準にしていたからだ。

それだけに、こうした事実関係を明確にした上で、今回の人事をどのように評価・判断するか、国会で国民にわかりやすい議論を続けてもらいたい。

検察の独立性は大丈夫か?検事長の異例人事

国会は、衆議院予算委員会で、新年度予算案の基本的質疑が2月3日から3日間にわたって行われた。新型肺炎と桜を見る会の問題が質疑の中心になったが、私個人が最も気になったのは、東京高等検察庁の検事長の定年延長問題だった。

今回の人事は極めて異例で、次の検事総長、検察トップに起用するための布石ではないかとの見方も出ている。検察の独立性は大丈夫なのか?危惧せざるを得ない。国民の1人として、この人事をしっかり記憶し、今後の検察庁と政権との関係などを注意深く見ていきたいと考えている。

東京高検検事長 異例の定年延長

検察官の定年は、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳となっている。東京高検の黒川弘務検事長は2月8日に63歳となり、定年退官するものと見られていた。ところが、政府は1月31日の閣議で、国家公務員法の規定に基づいて、黒川検事長の勤務を8月7日まで延長することを決めた。

検察という組織は政治権力からの独立が大原則で、そのために定年退官の規定が設けられており、検察官の定年延長は過去に例がないとされる。

政府は国家公務員法の規定を使って、定年延長に持ち込んだ。そして,稲田伸夫検事総長が、慣例通りおよそ2年の任期で8月に勇退すれば、黒川氏が後任の検察トップに就く可能性があると言われる。

 野党「不自然で信頼損なう人事」

この異例の人事は、3日と4日の衆院予算委員会でも取り上げられた。
野党側は「誕生日の1週間前に駆け込みで定年延長する必要性や緊急性はあるのか。官邸に意の通じた人物を検事総長にすえるための不自然で、検察の信頼性を損なう人事ではないか」などと追及した。

これに対して、森法相は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査や公判に対応するために不可欠な人材」などと意味不明な答弁。
安倍首相も「この人事は法務省の中で人事を決定し、法務大臣の考えを了とした」とのべるに止まり、納得のいく答弁は聴かれなかった。

 安倍政権の人事

ところで、安倍政権の人事を巡っては、2013年の内閣法制局長官人事が思い出される。それまでの慣例、法制局内からの内部昇格ではなく、憲法解釈の変更に積極的な姿勢を示してきた外務省幹部を起用する異例の人事に踏み切った。

抜擢された新法制局長官は、憲法9条は集団的自衛権の行使を禁止するものではないと従来の法制局見解とは異なる解釈を表明、安全保障関連法成立の流れをつくった。人事は、政策決定に重大な影響を及ぼす。

今回の黒川検事長は、法務省の官房長や事務次官を務め、捜査畑よりも法務官僚としての職務が長い。政界では、官邸に極めて近い人物との見方が強い。

 検察 ”巨悪”摘発の役割も

政治と検察との関係は、古くて新しい問題だ。私個人も、ロッキード事件で田中角栄元総理の逮捕と一審有罪判決まで、リクルート事件での有力政治家の相次ぐ失脚、金丸信副総理の事件などを政治の側から取材してきた。

その当時でも、検察に対する不満や批判はしばしば聞いたが、検察人事などに介入するような動きはなかったと記憶する。

政治と検察は、相互に独立、けん制しあう緊張関係にある。政治に不正がある場合、法と証拠に基づいて、”巨悪”を摘発することが、検察に求められる役割だ。

それだけに検察は、政治的な中立性、独立性を保っていく厳格な自己規律が求められる。同時に政治の側も、そうした検察の役割を認めて尊重してきたのが、これまでの歴代政権・保守政治の流れだ。

 検事総長人事、国民が注視を!

安倍政権は憲政史上最長の記録を更新中だ。
一方で、このところ、菅原前経産相や河井前法相が政治とカネを巡る問題で辞任に追い込まれた。カジノを含むIR汚職事件で、IR担当の副大臣が収賄で起訴されるなど不祥事が相次いでいる。これから、検察の判断が求められる他、裁判で事実関係などが争われる。

このため、政権としても、検察・司法の独立や信頼性に疑念が生じるような対応を避けるのは当然のことだ。

また、政権として人事に対する疑問や疑念に対しては、逃げずに説明することが大切だ。

その上で、次の検事総長人事を最終的にどうするのか、長期政権の評価にも直結する問題だ。国民の1人として、しっかり注視していきたい。特に直接の担当大臣である森法相の責任は極めて大きいと考える。

新型肺炎、経済、社会保障 徹底論戦を!

国会は補正予算が成立、いよいよ新年度予算案の審議が2月3日から始まる。安倍首相と各党の議員が1問1答形式で質疑を行い、国会前半の山場の審議が続くことになる。

先の補正予算の審議では、安倍首相出席の委員会審議が去年の11月8日以来ということもあって、政治とカネなど疑惑・不祥事の問題に集中したが、安倍首相と野党側の主張は平行線をたどった。

新年度予算案の審議では、予算案の中身の審議に加えて、中国・武漢から各国へ感染が拡大している新型肺炎の問題をはじめ、国民生活に直結する消費増税後の日本経済、社会保障制度、さらには外交・安全保障など多くの重要課題について徹底した論戦を繰り広げてもらいたい。
どこが論戦のポイントになるのか、どんな取り組みが必要なのか見ていきたい。

「桜」疑惑 平行線、逃げの姿勢

まず、先の補正予算の審議では、一連の不祥事の中で、首相主催の「桜を見る会」疑惑に質問が集中した。野党側は「首相の地元支持者を多数招くなど公私混同、政府行事の私物化で、公選法の疑いがある」などと追及した。

これに対して、安倍首相は「歴代内閣とも招待基準が曖昧で、招待者数や予算が増えたことは反省する」としながらも、公選法などの法令違反はないと反論、従来の答弁を繰り返した。

「桜を見る会」をめぐる安倍首相の説明については、報道各社の世論調査でも「首相の説明は納得できない」との評価が7割以上を占めている。こうした国民の側の政権不信を払拭するような答弁は見られなかった。招待者名簿の再調査などにも消極的で、”後ろ向きの姿勢”が目立った。

 新型肺炎、政府対応の評価は

さて、新年度予算案の審議では、疑惑・不祥事問題だけでなく、国民の暮らしに関わる、日本経済や社会保障など主要な政治課題についても、真正面から掘り下げた議論を徹底して行ってもらいたい。

当面、国民の最大の関心事は、中国の湖北省・武漢を中心に拡大が続いている新型のコロナウイルスによる感染への対応だ。武漢などに在住していた日本人をチャーター機で帰国させる取り組みが続いている。

政府は、水際対策の実効性を高めるため、入国申請前の14日以内に中国・湖北省に滞在歴がある外国人などの入国を拒否する異例の措置に踏み切った。
また、今回の感染症を「指定感染症」とする政令の施行を、当初の予定から2月1日に前倒しして、強制的に入院させる措置などがとれるようにした。

これに対して、野党側は、「政府の対応は後手に回っている」などと批判しており、今後の対策の進め方などを巡って議論が戦わされる見通しだ。

 国民巻き込んだ議論・対応策を

今回は、新たなウイルス感染が、中国から世界へ拡大するという未知の問題だ。人から人への感染がどの程度拡大し続けるのかどうかなどわからない点も多い。また、感染防止へのさまざまな取り組みを進めるためには、国民の理解と協力が不可欠で、国民を巻き込んだ議論と対応策づくりが重要だ。

このため、当面の緊急対策が一段落ついた後、国会では、この問題にテーマを絞っての議論、あるいは集中審議などを検討してはどうかと考える。水際対策の有効性をはじめ、ウイルスの感染力や変異の可能性、国内の医療体制などの整備の進め方、さらには、観光や経済への影響など幅広い問題が出てくる見通しだ。

国会の関係する委員会が合同で、各界の専門家や関係者を参考人として招いて意見を聞く。その上で、政府の対応策の報告を求め、各党の提案などを含めて議論し、国民に向けて発信する新たな取り組みを行ってはどうか。国民の命と暮らしに関わる問題なので、与野党の党派を超えた取り組みを求めておきたい。

今年夏に半世紀ぶりに再び開催される東京オリンピック・パラリンピックも視野に入れた対応が必要だと思う。

 消費増税後の日本経済は?

次に論戦で聞きたいのは、去年10月の「消費増税後の日本経済」をどう見るかだ。安倍首相は施政方針演説で「日本経済は、この7年間で13%成長し、新年度の税収は過去最高になった」とアベノミクスの成果を強調した。

これに対して、野党側は、この7年間の実質成長率は、OECD加盟国の平均が2%に対し、安倍政権下では1.2%、先進国の中で低い水準に止まっていると批判している。

2月17日には、消費増税を実施した去年10月から12月のGDP速報値も公表される予定だ。経済の現状をどのように認識し、具体的に、どんな政策を打ち出すべきなのか議論を注目して見ていきたい。

 社会保障の制度設計は?

さらに論戦では、最大の懸案「人口急減社会への対応策」も待ったなしだ。
政府は、この国会に中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案を提出する。
また、企業に70歳まで就業機会を確保するよう努力義務を課す「70歳定年法」も提出する予定だ。

こうした法案はいずれも大きな意味のある法案だが、政府の対応策は、果たして、急速に進む人口急減社会を乗り切るために十分なのかどうか。
75歳以上の後期高齢者の医療費の負担をどこまで求めるか。あるいは、今後、急増する1人暮らしのお年寄りのうち、低所得層の最低生活をどのように支えていくのか。

一方で、幼児教育の無償化などが始まったが、子育て世代に対する支援策の充実など大きな課題を抱えている。

 次の衆院選の判断材料に

このほか、外交面では、中東への自衛隊の派遣問題をはじめ、アメリカのトランプ政権が要求を強めている、在日米軍の駐留経費の日本側負担の問題、さらには、北朝鮮の非核化と日本の安全保障体制のあり方なども大きな課題だ。

このように内外に数多くの難問を抱えており、与野党とも難問から逃げずに真正面から議論してもらいたい。

私たち国民の側も”政治離れ、選挙離れ”をどのように克服するのか問われている。与野党の主張、論戦に耳を傾け、どの党の主張・提案が妥当なのか、判断していただきたい。そして来年10月までに確実に行われる次の衆院選に向けて、今から判断材料集めをしていただきたいと考える。