迷走 安倍政権 緊急事態宣言2週間

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて、安倍首相が東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を行って、21日で2週間になる。これまでの安倍政権の対応をどのように見るか。

安倍首相は、感染対策については「当面2週間、様子を見る」考えを示していたが、それを待たずに対象地域を全国に拡大した。

一方、緊急経済対策の目玉政策である「1世帯30万円の現金給付」を取り下げ、「1人10万円一律給付」に転換、異例の補正予算案の組み替えに踏み切った。既に方針や政策の変更が相次いでいるが、今回の対応も異例で、”政権のダッチロール”、迷走状態に陥りつつあるようにも見える。

緊急事態宣言の期限は5月6日。残り2週間、何を最重点に取り組むべきか。そのためにも、この間の安倍政権の対応、危機管理を点検しておきたい。

 指導者と危機管理の要件

具体論に入る前に、今回のような社会全体に大きな影響を及ぼす事態・問題が起きた時に政権はどのように対応すべきか。歴代政権の中でも5年の長期政権となった中曽根政権の対応や考え方が参考になるので、見ておきたい。中曽根元総理の著書(「大地有情」)から一部を紹介する。

「指導者の要件というのは三つあるんですよ。(中略)1つは目測力、もう一つは結合力、そしてもう一つは説得力を持っていないとダメなんですね。目測力というのは、この問題はどういうふうに展開して行き着くところはどこなのか、それをしっかり把握できる能力ですね。結合力というのは、良い政策と情報と、良い人材と、良い資金を結合させる力です。説得力というのは、内外に対するコミュニケーションの力。この三つが現代の日本のリーダーに求められる要件なんです。そして、とりもなおさず、総理大臣自身がそういう力を持つことが危機管理なんですよ」

中曽根政権では、1983年ソ連の戦闘機が引き起こした大韓航空機撃墜事件への対応が大きな問題になった。危機管理では何が重要かが理解できる。また、私たちが政権の対応を評価する際の基準にもなる、含蓄のある言葉だ。後ほど再度、触れたい。

 最大の問題、医療危機への対応

さて、本論に入って「緊急事態宣言の効果」をどう見るか。宣言の対象地域が全国に拡大された後、休日の都市部では、感染拡大前に比べて8割以上減少した地域があった一方で、5割程度に止まる地域もあり、地域差がある。感染者数は、東京などでは横ばい状態だが、減少に転じるまでの効果は出ていない。こうした点の見方は、専門家の分析を待ちたい。

次に宣言後の一番の問題は何か「医療の提供体制が危機的な状況」にあることが浮き彫りになった点だと思う。

医療関係者によると◇東京都や大阪府などでは、入院患者の数が、準備している病床数の8割を超え、ひっ迫した状況にある。◇新型コロナウイルスの感染を確認するPCR検査がなかなか受けられない。実際に検査を受けるまで時間がかかる。◇医療現場では、医療用マスク、防護服、人工呼吸器など医療資材の不足が一段と深刻さを増しつつある。

 問われる政権の危機管理能力

こうした問題、いずれも「政府の基本方針」の中で、医療提供体制の整備として打ち出されていた内容だ。この基本方針が決まったのは、2月25日。2か月近く前に打ち出されながら、未だに実現されていないことに驚かされる。

前例のない感染症対策で、政府の対応に難しさがあるだろう。しかし、医療崩壊を防ぐことは、コロナ危機を乗り切るための政権の最優先課題だ。そのためには、政権の危機管理。具体的には、総理官邸が司令塔となり、厚生労働省をはじめとする中央省庁を動かし、医師会や地方自治体、さらには、地域の大学や病院、保健所などの医療機関と連携・調整、機能させていく取り組みが重要だ。医療現場の事態が深刻化していることは、政権の危機管理が後手に回り、機能していないのではないかと考えざるをえない。(参照ブログ:2月21日「新型肺炎 問われる政権の危機管理」、2月28日「全国臨時休校と危機管理の本質」)

安倍首相をはじめ政府は、外出の自粛などを盛んに要請するが、政権の責務、医療提供体制が機能していることが大前提だ。緊急事態宣言の後半では、医療体制の維持・整備を政権の最優先課題として取り組むことを強く注文しておきたい。

 10万円一律給付転換の見方

政府の緊急経済対策として当初、打ち出された「1世帯30万円現金給付」から、「1人10万円一律給付」への転換をどう見るか。

前号のブログで取り上げたように当初案に対する世論の批判は極めて強かった。また、連立を組む公明党や、自民党内の不満もこれまでにないほど強く、安倍首相が軌道修正を図ったものと見ている。

国民生活の面から見ると、当初案のままでは、世論や野党の反対も根強く、思うような効果を上げられず混乱を生む可能性も大きかったのではないか。このため、当面の国民生活を安定させる上で「10万円一律給付」の方が、”よりましな政策”と言えるかもしれない。巨額な赤字国債を発行することになるのをはじめ、追加の経済対策との関係・整合性などの面で問題を抱えているのも事実だ。

さらに政治的には、安倍政権の今後の政権運営、与党の自民、公明両党との関係、さらには追加の対策を巡る与野党の攻防などの面でさまざまな影響が出てくることも予想される。

 問われる安倍政権「結合力」

これまで見てきたように今回の感染危機は、国民生活や日本社会、政治、経済など大きな影響を及ぼすのは間違いない。その際、最大の問題は、感染拡大を抑制できるか、そのための危機管理が機能するかにかかっている。

冒頭、中曽根元総理の危機管理の要諦に触れたが、今回の事態では、特に2つ目の「結合力」、安倍首相が政権の足元を固めた上で、政策と情報、人材と予算を結合させて、危機を乗り切ることができるかどうか。緊急宣言の期限となる来月6日に向けて、政権が何を最重点に取り組むか、正念場が続くことになる。

10万円一律給付へ転換「世論の不評に危機感」 

安倍首相は、コロナウイルス対策として打ち出してきた「1世帯30万円の現金給付」の方針を転換し、「1人10万円を所得制限なしで一律給付する考え」を与党・公明党の山口代表に伝えた。

政権与党の公明党からの強い要請と、自民党内の要望を受けて実現へ踏み切ったものだが、既に閣議決定していた緊急経済対策を変更し、補正予算案を組み替えて国会に提出するのは、極めて異例だ。

こうした背景には、政権が目玉政策として打ち出した世帯向け現金給付に対して「世論の評価が極めて厳しいこと」に加えて、「安倍内閣の支持率低下への危機感」が働いているものと見ている。

そこで、今回の安倍政権のコロナ対応と世論の評価を詳しく分析してみたい。

 内閣支持率 軒並み低下

まず、「安倍内閣の支持率」から見ていく。コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が7日、東京や大阪など7都府県を対象に緊急事態宣言を行った後、報道各社の世論調査が10日から12日にかけて実施された。

◆NHKの調査では、支持率は前回より4ポイン減の39%、不支持も3ポイント減の38%で拮抗。支持率が30%台に割り込んだのは、2018年6月以来のことだ。
◆読売新聞の調査では、支持が6ポイント減の42%、不支持が7ポイント増の47%。◆産経新聞は、支持が2.3ポイント減の39.0%、不支持が3.2ポイント増の44.3%。◆共同通信は、支持が5.1ポイント減の40.4%、不支持が4.2ポイント増の43.0%。3社の調査では、いずれも不支持が支持を上回る「逆転状態」へ悪化した。(NHKはニュースWEB、新聞・通信社は各社紙面のデータを使用)

こうした支持率低下の大きな要因と見られるのが、「緊急事態宣言を出したタイミング」の問題だ。「遅すぎた」との評価がNHK調査で75%。共同、読売、産経の調査でも80%~83%に達している。

 世帯30万円給付「不評」目立つ

次に政府が、緊急経済対策の目玉政策として打ち出した「1世帯あたり30万円の現金給付」。世帯主の月収が一定の水準まで落ち込んだ世帯に限って、現金を給付する制度。「非課税や収入半減などの給付条件がわかりにくい」「対象世帯が限られるのではないか」などの不満が聞かれた。

◆NHK「評価する」43%<「評価しない」50%。
◆読売「適切だ」26%<「不十分だ」58%。
◆産経「大幅に減った世帯に給付」39%<「すべての国民に給付」51%。
◆共同「妥当だ」20%<「一律給付」61%。

調査の設問や回答が異なるが、政府案を「評価しない」との意見が多数。国民に一律給付を求める意見が多い。公明党は元々、「1人10万円一律給付」を求めていた。自民党の若手議員からも同様の意見が出されていた。

NHK調査データで、政府案に対する世論の反応を分析すると◇「評価しない」が多いのは40代、50代の働き盛りの世代で、6割を上回る。◇支持層別で「評価しない」は、野党支持層で6割、無党派層でも6割近く、与党支持層でも4割を占めた。◇職業別で「評価しない」は自営業、サラリーマンともに6割程度にのぼった。端的に言えば、全体として「不評」。

 自粛に伴う損失 国が補償が多数

また、感染防止のためにイベントや活動を自粛した事業者の損失に対して、国が補償するかどうかの賛否。NHK調査では「賛成」76%、「反対」11%。政府は補償できないとの立ち場だが、世論は補償を求める意見が多い。

 マスク配付「評価しない」7割

さらに、政府が全ての世帯に布製マスクを2枚配付することについては「評価する」23%、「評価しない」71%。466億円の予算が必要で、”愚策”との厳しい声も聞かれた。

 政府対応、世論とのズレ浮き彫り

コロナ感染防止への対応をめぐっては、「政府対応と世論のズレ」の大きさが浮き彫りになっている。

「現金給付」の仕組みが変わることになるが、必要とする人たちへの支援は十分か。現金が届く時期は、早くなるのかどうかなどの制度設計が問題になる。
また、安倍政権の相次ぐ方針・政策変更と、政権運営のあり方。
さらには、財源確保のための赤字国債発行と借金の返済、財政規律など議論すべき論点・課題は多い。

 コロナ危機、政治の構造にも影響

最後にやや専門的になるが、今回のコロナ危機は、内閣支持率や政党支持率など「政治の構造」にも影響を及ぼしつつあるので、触れておきたい。

◆内閣支持率。与党支持層で安倍内閣の支持割合は73%で大きな変化はない。
◇無党派層では、安倍内閣の支持が減少(3月24%→4月19%)。◇年代別では、これまで高かった「18歳以上20代・30代の若者」の支持が減少(3月48%→4月40%)。◇地域では、緊急宣言の「7都府県」(大都市部)で支持が減少(3月45%→4月37%)などの変化が見られる。◇男女では「女性」は変わらず、元々、低い(4月女性35%<男性43%)。

◆内閣支持率のトレンド。◇去年夏の参院選後8月、内閣支持率は49%でピーク。それ以降、ほぼ一貫して低下。4月は39%、4割を割り込んだ。◇不支持は、去年8月が31%、増え続け40%前後まで増加。◇コロナ対策が大きな成果を上げないと、5月以降、支持・不支持が逆転の可能性がある。

◆政党支持率。◇自民党は低下(3月36.5%→4月33.3%)。特に「18歳以上・20代・30代の若者」の自民支持が急減(3月37%→4月25%)。◇野党第1党の立憲民主党も低下(3月6.3%→4月4.0%)。男女、40代、70歳以上で減少顕著。
◇無党派層は増加が目立つ(3月41.5%→4月45.3%)。70歳以上でも増加。

コロナ危機は、安倍長期政権、自民・立憲の政党支持率にも影響、変化を及ぼしつつある。当面、安倍政権が感染拡大を押さえ込めるか。国民生活、経済対策で一定の成果を上げることができるかが最大のポイント。年後半に衆院選挙を行えるような状況は、今の時点では想定しにくい。(了)

 

政権の調整力低下を懸念、緊急宣言1週間

新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、安倍首相が東京都など7都府県を対象に5月6日まで、「緊急事態宣言」を行ってから14日で1週間が経過した。

緊急事態宣言の効果はあるのだろうか。国と地方の関係、特に安倍政権の危機管理能力をどのように見たらいいのか考えてみたい。

最初に結論を明らかにしておいた方が、わかりやすい。緊急事態宣言をめぐる安倍政権の対応で最も気になるのは、「政権の制度設計能力、調整能力が低下」しているのではないかという点だ。

なぜ、こうした見方をするのか。そして、今後どのような対応が求められているのか考えてみたい。

 緊急事態宣言 ”中間評価”

今回の緊急事態宣言の評価は、最終的には、感染拡大を押さえ込めるかどうかにかかっている。14日朝の時点で、1日あたりの新たな感染者数は東京で91人、全国で294人と引き続き高い水準が続いている。全国の感染者数の累計では、3月1日が256人だったのが、4月1日は2497人、4月13日で7691人へ急増している。

専門家によると、今の感染者数は潜伏期間と検査に時間がかかるため、2週間ほど前の状況で、今回の緊急宣言の効果が評価できるのは「今月20日前後」になるとの見方を示している。

このため、安倍政権の対応、危機管理などの評価も最終的には、感染者の状況を見極める必要がある。また、今回の宣言は5月6日が期限になっており、その時点の状況も判断する必要がある。

このため、今の時点は、これまでの政権の対応の分析に基づく「中間的な評価」であることを最初にお断りしておきたい。

 遅れた 緊急事態宣言

まず、今回の緊急宣言が出されたタイミングについては、「遅すぎる」という受け止め方が圧倒的に多い。報道機関の世論調査でも8割程度に達している。

確かにタイミングとしては遅い。特別措置法が成立したのが3月13日。4月に入って都市部を中心に感染者が急増、小池東京都知事、吉村大阪府知事などの声に押されて宣言に踏み切った形になった。

安倍首相としては、夏の東京オリンピック・パラリンピックをどうするか。コロナ感染が世界規模で拡大すると最悪の場合は、中止に追い込まれる。その前に五輪の延期・開催に道筋をつけておきたい。また、経済面への影響も考慮しながら、発令のタイミングを探っていたものと見られる。

 宣言後の対応に問題、遅れと乱れ

私個人は一番の問題は、宣言が遅いという点よりも、宣言が出された後、国と都府県側との調整ができず、実施体制が遅れた点に問題の本質があると思う。

東京都の場合は、7日の安倍首相の宣言後、休業要請の対象施設の範囲などをめぐって意見が対立し、10日夜に西村担当大臣と小池知事が会談、ようやく翌11日の実施にこぎつけた。

その他の府県の実施日を見ても、神奈川県は東京都と同じ11日だが、千葉県、埼玉県は13日、大阪府は14日、兵庫県は15日とバラバラだ。宣言から1週間経って、ようやく休業要請などを行える実施体制が整ったことになる。これでは、とても、緊急事態、危機への対応とは言えないのではないか。

 政権の制度設計、調整能力低下

国と地方自治体との間では、知事の事業者への休業要請が行えるようになっても、休業の補償とその財源をどうするかという問題が残っている。財源の余裕がある東京都は独自に協力金を支払うことにしているが、残りの府県は財源確保の見通しがついていない。

ある県の関係者は「国が新たに設ける『地方創生臨時交付金』を使えるようにしてもらいたいが、国が応じるのかどうか、政権幹部に聞いてもはっきりしない」と戸惑っていた。

つまり、従来の総理官邸、霞が関の対応から推測すると、首相が宣言を出すまでに、財源などの制度設計、地方自治体などに対する根回し、段取りなど全て終えているはずなのに、今回の場合、調整がついていなかった。

同じような問題は、「緊急経済対策」でも見られる。例えば、収入が大幅に減少した世帯向けの現金30万円給付制度。支給対象や基準が分からないとの批判が強く出され、結局、総務省が全国統一の新たな目安を打ち出す事態になった。

このほか、政府が感染防止の基本方針を打ち出した直後に、安倍首相が方針に盛り込まれていない大規模イベントの自粛要請や、学校の全国一斉臨時休校を打ち出すなどの混乱が見られた。

さらには、今回の感染拡大について、専門家は早い段階から、感染拡大期の医療崩壊を防止するために、検査体制の拡充と重症者の入院・治療体制の整備を強調してきた。ところが、両方とも対策が思うように進んでいなかったことが最近の動きの中で明らかになりつつあるのではないか。

以上のように、これまでの安倍政権の危機管理の対応を点検してみると「政権内の制度設計能力、調整能力の低下」が浮き彫りになってくる。

今回のコロナ危機は、日本にとって事実上、初の大規模感染症で難しさはある。しかし、政権が抱えている問題点を認識し、改善していかないと、迷走が続き、これから待ち受けるハードルは越えられないのではないかと懸念する。

 危機の宰相の行動は?

最後に今月に入っての出来事についても、一言、触れておきたい。
安倍首相が表明した全世帯へのマスク2枚配付、466億円の費用がかかる。

また、安倍首相が作曲家の星野源さんの楽曲とともに自宅で過ごす様子を撮影したコラボ動画の投稿。賛否両論あるだろうが、危機の宰相としてやるべき行動だろうか、個人的には疑問に思う。

国民の多くは、コロナ危機の出口はどうなるのか大きな不安を感じている。危機のリーダーは、どっしり構えて、現状を正確に把握。その上で、どんな方針・対策で難問を乗り切っていくのか、明確な指針を打ち出して、国民に説明、説得することだと思う。憲政史上最長の政権であれば、こうしたリーダーの姿を、是非、見せていただきたい。

現金給付30万円、仕組みの見直しを!

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が緊急経済対策の目玉として打ち出した「1世帯30万円の現金給付制度」については、条件が厳しすぎるといった指摘や批判が相次いでいる。この制度、どう見たらいいのか考えてみたい。

結論を先に言えば、この制度の仕組みや条件については大幅に見直し、改善すべき点は、大胆に改善する必要があるのではないか。

その際、別の選択肢や方法があるかどうかが問題になる。個人的には「マイナンバーを活用した大規模な融資・給付制度」に変えてはどうかと考える。この案は、経済の専門家が提言している考え方で、今後、国会審議の場などでも検討してもらいたい。以下、現金給付制度や問題点、改善方法などを見ていきたい。

 複雑な現金給付制度

政府は7日の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、事業規模の総額で108兆円、リーマンショック時を上回る、過去最大規模の緊急経済対策を決定した。

この中では、収入が大幅に減少している世帯や中小企業などに対して、新たな現金給付制度を打ち出したのが、大きな特徴だ。感染拡大で収入が減り、生活が困難な世帯に対して、1世帯あたり30万円の現金を給付する。一方、中小企業や小規模事業者に対して最大200万円、フリーランスを含む個人事業主には最大100万円を給付する。

このうち、特に世帯に対する給付金については、対象者や支給条件が複雑でわかりにくいなどの批判が相次いでいる。この制度を中心に見ていきたい。

まず、現金給付の対象から見ていくと、今年2月から6月の間のいずれかの月で、世帯主の収入が、感染が発生する前に比べて減少している世帯が対象になる。
条件としては、①住民税が非課税となる水準になるまで落ち込んだ世帯。
②月収が半分以上減少し、住民税が非課税となる水準の2倍を下回る世帯。

この条件を読んで、自分が対象になるか判断できる人は、極めて少ないだろう。住民税の非課税額は自治体によって違う。細かい説明になって恐縮だが、お付き合い願いたい。東京23区では、次のようになっている。

◇単身世帯は、年収100万円で、月収に換算すると8万3000円、◇夫婦と子どもの4人世帯では、年収255万円で、月収換算で21万円になる。

例えば、4人世帯で年収900万円のサラリーマンが、600万円の水準まで減収になった場合は、どうか。収入が半減ではないので、対象にならない。450万円の水準まで減収になった場合は、非課税額2倍の510万円以下という条件も満たし、給付を受けられる。つまり、収入の減少幅の違いで、受け取れる世帯とそうでない世帯に分かれ、不公平感が残ることが予想される。

一方、世帯主の収入が基準になるので、例えば、夫婦共働き世帯で、片方が解雇されても世帯主でなければ対象外になる。
(※総務省は、現金給付の基準がわかりにくいとの指摘を受けて、10日全国一律の基準を公表しました。ご参考までに文末に内容を書いておきます。この場合でも月収半減などの基準、世帯主か否かなどの問題点は変わらないと考えます)

 野党は批判、与党内に不満も

この制度について、野党側は、国民1人1人の生活保障のため、世帯単位でなく、「1人10万円を一律で給付すべきだ」と主張し、政府案は「条件が厳しすぎ、対象者も限られる」と批判している。

与党の自民、公明両党は既に政府案を了承しているが、党内では「給付の条件がわかりにくい」、「もらえる人と、そうでない人に分かれて不公平」といった不満もくすぶっている。

これに対して、安倍首相は「世帯の現金給付に加えて、児童手当を1人1万円上乗せしている」と強調。支給の仕方も、リーマンショックの時は、1人1万2000円の定額給付にしたが、配るまで3か月もかかった。今回は対象者を絞り、早く給付することが大事だと訴えている。

 マイナンバー活用の大規模な融資制度

それでは、政府案とは別に、どのような仕組み、方法が考えられるだろうか。

私は経済の専門家ではないが、これまでの取材で最も納得した案は、小林慶一郎さん(東京財団研究主幹・慶応大学客員教授)と佐藤主光さん(一橋大学教授)の共同提言だ。私の理解の範囲で、ご紹介したい(参照:3月25日、日本記者クラブの研究会で行われた小林教授の会見、HPから動画の視聴が可能)。

提言では◇今回は、急激な所得の減少であり、迅速に生活資金を届ける必要がある。1回だけの資金提供では不十分で、一定期間、提供する必要。◇個人向け緊急融資制度で、自己申告、無差別、無条件、大規模に生活資金を融資する制度が必要だ。資金の貸付は、マイナンバーの確認だけで可能にする。
◇基本は、月15万円✕12か月✕1000万人(対象者)=18兆円を想定。
◇融資のため、3年後から返済が基本だが、収入が増えず、返済が難しい場合は、返済なし・実質給付もありうる。

つまり、毎月15万円程度の生活資金を12か月、計180万円の融資が可能とする。事業の立て直しができた場合は、その後の納税に合わせて返済する。マイナンバーによる管理とする。事後の所得の多寡に合わせて、返済の減免もある。事実上、給付となることもあり得る。

以上が、小林先生の提言。その上で、私の個人的な考えだが、融資ではなく、最初から、給付制度とすることも考えられる。その際、財源の関係で、月15万円を減額、期間の縮小もありうる。端的に言えば「マイナンバー活用の新たな生活資金制度」として、規模の大きな資金提供を考えてはどうか。

 危機に見合った生活保障政策を!

政府の個人向け現金給付に必要な予算は4兆円余り、事業者向け給付は2兆7000億円余り、合計で6兆7000億円余りだ。この総額をどのように見るか。

安倍首相は「甚大なマグニチュードに見合う必要かつ十分な経済対策を実施していく」と繰り返し強調。事業規模108兆円、財政支出で39兆5000億円の大規模な経済対策を打ち出した。

しかし、現金給付の総額は7兆円、必ずしもマグニチュードに見合う規模とは言えないのではないか。

参考までに◇イギリスは生活必需品を販売する店以外は全て閉店とする措置が取られているが、政府が雇用を維持するため、働く人の賃金の80%を肩代わりする。フリーランスを含め自営業の人に対しても、平均所得の80%を支払う。いずれも上限は、月2500ポンド(約34万円)で、少なくとも3か月は続けるという。

◇フランスでは、営業停止で仕事がなくなったレストランやカフェ、商店などの従業員に対し、政府が原則として賃金の70%までを補償するという。
このように欧米の主な国では、感染防止策とともに、働く人の休業補償に手厚い措置を打ち出している。

日本の場合は、現金給付を急がなければならないが、今後、追加の現金給付の事態も予想される。
また、半年から1年程度の長期戦も視野に入れた生活保障を考えていく必要がある。

さらに、将来の人口急減時代の社会保障として、個人に対する現金給付の仕組みが必要になるのではないか。そのためにもマイナンバーを活用した給付制度を検討しておく意味があるのではないか。

景気の回復だけでなく、将来社会の設計にも役立つような予算の使い方を検討していく必要があると考える。

※1世帯30万円の現金給付について総務省が示した給付条件。世帯主と扶養家族を合わせた人数。
◆単身世帯=◇月収が10万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
20万円以下となった場合
◆2人世帯=◇月収が15万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
30万円以下となった場合
◆3人世帯=◇月収が20万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
40万円以下となった場合
◆4人世帯=◇月収が25万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
50万円以下となった場合

 

緊急事態宣言の見方・読み方は?

新型コロナウイルスの感染が急速に拡大している事態を受けて、安倍首相は7日夕方、政府の対策本部で、東京など7都府県を対象に、法律に基づく「緊急事態宣言」を行った。宣言の効力は5月6日までで、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象になる。

そこで、この「緊急事態宣言」の見方・読み方。私たち国民はどのように受け止め、評価、対応していけばいいのか考えてみたい。

結論を先に言えば、「過剰な警戒は不要、過大な期待も禁物」、冷静に新型感染症を抑制していく。「目標の設定」を明確にして、国民の合意を広げながら取り組みを進めていくことが大事だ。

具体的には、◇不要な外出の自粛徹底で「新たな感染者を減らすこと」。
◇「医療崩壊を防ぐこと」。そのために「検査体制の拡充」と「重症者の入院・診療体制の整備」。
◇それに「社会活動・経済活動の継続と、自由な議論ができる日本方式」。

この3つの目標を国民が共有しながら、危機を克服していきたいと考える。

過剰な警戒は不要、過大な期待も禁物

今回の「緊急事態宣言」は、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて出される。物々しい印象を受けるが、日本の場合は欧米諸国などに見られるような外出禁止、多額な罰金、ロックダウン・都市封鎖といった強い権限を与える法律ではない。国民の心理面に影響を及ぼす効果は予想されるが、強制力は弱い。

このため、端的に言えば「過剰な警戒は不要、他方、過大な期待も禁物」という見方をしている。独断専行に陥る仕組みにはなっていない。他方、一刀両断、一挙に問題解決といった期待もできない。

これまで首相や知事が要請したことと似たような内容も多くなる見通しだ。「要請、お願い」レベルから、「法律に基づく要請、指示、公表」に一歩踏み込んだ措置といったところではないかと見ている。

 目標の設定と国民の協力

さて、緊急事態宣言は、総理大臣が期間や地域を指定して宣言を出し、これを受けて、各知事がそれぞれの都民・県民に対して、感染防止に必要な「緊急事態措置」を決定、要請する仕組みになっている。

そこで、重要なことは、この緊急事態宣言・措置で具体的に何をめざすのか。何を最重点に取り組むのか、「目標の設定」を明確にして、国民に説明、協力を得ながら実行していけるかがカギになる。

 外出自粛の一層の徹底

今回は新型ウイルスとの戦いでは、”集団感染”を防ぎ、”感染爆発”につながらないようにすることが重要だ。効果があるのは、まずは「不要不急の外出の自粛を一層徹底すること」。これによって「新たな感染者数を減らすこと」。地味な取り組みだが、最も効果的であり、第1の目標だ。

 医療崩壊を防ぐこと

第2は、「医療崩壊を防ぐこと」。そのためには、これまで何度も強調してきたように「PCR検査の拡充」。検査能力は高まったが、実際の検査件数が増えない。感染の疑いがある人が増えてくると、検査件数を増やして感染者を早期に発見、対応していかないと感染拡大を押さえ込むのは難しくなる。

もう1つが、重症者を早期に発見、隔離・入院させていく「重症者の診療体制の整備」。専門家が、感染拡大に備えて、受け入れ病床の確保を繰り返し強調してきたが、病床の不足が指摘されている。

このため、軽症者などは借り上げの宿舎・ホテルなどに移ってもらい、重症者の病床確保が必要になるが、こうした対応の遅れが懸念されている。今回、緊急事態宣言に踏み切ることになった背景にも、こうした診療体制の整備の遅れと医療崩壊を避けたいねらいがあるとみられる。

政府は、こうした検査体制の拡充と、重症者の診療体制の整備について、緊急経済対策の中で、医療機材の整備、人材の手当などに思い切った予算の投入をできるかが問われている。

 社会、経済、自由な議論の日本方式

第3は、緊急経済対策が出された後も、社会活動や経済活動への影響を最小限に止めるともに、自由な議論、国民の権利の尊重といった日本型の危機管理方式で乗り切っていきたい。

今回の特措法の一部には、医療施設を開設するため、所有者の同意がなくても土地などを使用できる強い権限の規定もある。あるいは、緊急事態宣言をきっかけに基本的人権などが侵害されるおそれがあると警戒する意見があるのも事実だ。

この特措法には、基本的人権の尊重の規定も盛り込まれている。感染症の危機乗り切りに徹していくことを確認し、新たな取り組みをスタートさせていきたい。

日本で感染者が初めて確認されたのが1月16日。政府の対策本部が設置されたのが1月30日。2か月余り経って、今回の緊急事態宣言の発令となる。この間、安倍政権の対応・危機管理はどうだったのか、今後、しっかり検証していく必要がある。(なお、4月7日17時30分から開かれた政府の対策本部で、安倍首相は緊急事態宣言を行いましたので、冒頭部分の表現を一部、修正しました)

コロナ危機 新局面、医療崩壊を防げるか

新型コロナウイルスの急増に歯止めがかからない。東京や大阪などの都市部では、感染ルートが分からない人が増えている。また、新学期も高校、小中学校で休校が続く地域も出ている。

一方、政府の専門家会議は、集団感染への対応で「医療崩壊」が起こりうると懸念を表明するなど、新型コロナ危機は新たな局面を迎えつつある。

政府は来週、これまでに例を見ない大型の緊急経済対策を打ち出す方針だが、根源の感染拡大を押さえ込み、国民の不安感を払拭できないと景気対策も思ったほどの効果を発揮できないこともありうる。

政界では、大規模な経済対策や緊急事態宣言に関心が集まっているが、今、最優先で取り組まないといけないのは、感染拡大の抑制だ。具体的には「検査や治療などの医療体制の整備に予算と人材を大胆に集中投入」することだ。

コロナ危機が新局面を迎えている中で、医療崩壊を防ぐためにどんな取り組みが求められているのか考えてみたい。

 ”医療崩壊” に強い危機感

新しい年度がスタートした4月1日、政府の新型コロナウイルス対策を検討する専門家会議は、海外のような感染拡大の爆発的な急増は見られないものの、現状を考えると、今後、医療現場が機能不全に陥ることが予想されるとして、「医療崩壊を防ぐための対策」を早急に求める提言を発表した。

提言の中では、東京と大阪は感染者数の増加状況などから、最も厳しい対策が必要となる「感染拡大警戒地域」にあたるという認識が示された。専門家会議の強い危機感が読み取れる。

 乏しい政治の側の危機感

こうした専門家会議の強い危機感に対して、政治の側の受け止め方はどうか。
政府は、緊急の経済対策を取りまとめることにしており、与党の自民党や公明党はそれぞれ独自の提言や対策をとりまとめ、政府に申し入れを行った。

自民、公明の与党の提言を読むと、「リーマンショック時を上回る財政措置20兆円、事業規模60兆円規模の対策」、「1人あたり10万円の給付」などの大盤振る舞いを求める政策が並んでいる。

一方、感染症を抑制するため、治療薬やワクチンの開発、PCR検査体制の確保、感染者を隔離する施設の確保などの対策も掲げてはいるが、他の経済対策のような具体的な予算規模には言及していない。景気優先で、医療現場は持ちこたえられるのかといった危機感は伝わってこない。

 医療崩壊防止へ予算・人材集中投入

それでは、政府が問われている点は何か。端的に言えば、感染拡大を抑制することであり、そのために医療分野に予算・人材を集中的に投入することだ。

具体的には、PCR検査の拡充。重症者を隔離・入院させ、死亡者を可能な限り減らす治療体制を早急に整備すること。

コロナウイルスに対する検査能力は、1日あたり7500件と当初の2倍以上に増えたが、実際に行われた検査件数は2000件にも満たず、思ったほど増えていない。今後、感染者がさらに増えることを想定すると検査件数の拡充は欠かせない。

一方、感染抑制には重症者を早期に発見、入院・治療、死亡者を最小限に止める重要性が指摘してされてきた。ところが、入院ベッドをどのように整備していくのか、政府や自治体側から、整備の進み具合や予算投入額などの説明は極めて少なかったのが実状だ。

東京都の場合、700床を確保したとされるが、入院患者が増え既にひっ迫していると言われる。最終的には4,000床を確保する目標にしているが、患者が急増した場合、対応できるのか難しいとの見方は根強い。

このため、重症者と軽症者の振り分け、軽症者は自宅療養だけでなく、ホテルや旅館を借りあげ入ってもらうことなどが検討されているが、実現までこぎつけられるかどうか。

また、国民個人や企業などが、国や自治体の外出自粛などの要請を受け入れ、協力するとともに、企業や社会活動も続けていきながら集団感染を抑えていく日本方式が通用するかも大きなカギを握っている。

 感染抑制、政治の最優先課題!

政府は、来週、緊急の経済対策を取りまとめることにしている。国民に安心感を与えるために大きな予算規模。収入の大幅な減少に見舞われた個人や中小事業者に対する生活保障措置は、必要だ。

同時に必要不可欠なのは、感染拡大の抑制を政治の最優先課題に位置づけること。具体的には、医療提供体制の整備と予算がどこまで盛り込まれているか、政府の緊急対策を評価する上での大きなポイントになる。

また、日本は、1970年代以降、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなど地球規模の感染症の当事者にならなかったこともあって、ウイルスとの戦いに無防備状態だった。それだけに感染症にどのように備えるのか。総理官邸内部の体制、各省庁や、地方自治体、感染症や衛生研究所などとの連携、危機管理の体制づくりも大きな課題として残されている。