突然の辞任表明の衝撃 安倍首相

安倍首相が28日、首相を辞任する意向を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が再発し、職務の遂行に自信を持って対応できないと判断したためだ。

政界の一部には、安倍首相の連続在職期間が歴代最長になる24日以降、辞任を表明するのではないかとの見方が出されていたのも事実だ。私は、安倍首相が進退を判断するのは、もう少し先になるのではないかと見ていたので、今回の突然の辞任表明には正直、驚いた。

安倍政権は第1次と第2次合わせて8年8か月の長期政権であり、今、コロナウイルスとの戦いの真っ最中だけに、今回の突然の辞任表明の影響は極めて大きい。

一方、政治の世界はいったん動き出すと、変化のスピードは速い。後継の総理・総裁選びに早くも焦点が移っている。そこで、後継選びでは、どんな問題を抱えているのかみておきたい。

 突然の幕引きをどう評価するか

本論に入る前に、今回の安倍首相の突然の幕引きをどう見るか。1つは、第1次安倍政権に続いて、今回も持病の悪化で退陣することになり、政権投げ出しの繰り返しだと厳しい批判が出ている。

これに対して、別の見方は、第1次政権の辞任は秋の臨時国会が召集された直後、しかも首相の所信表明演説に対する代表質問当日の辞意表明だった。今回は、秋以降の政治日程が幕を開ける前の辞意表明で、第1次政権の時とは明らかに異なるとの見方もある。

安倍首相は記者会見で◇今年6月の定期検診で持病の潰瘍性大腸炎の再発の兆候が見られるとの指摘を受けた。◇先月中頃から体調に異変が生じ、今月上旬に再発が確認された。◇体力が万全でない中では、政治判断を誤る。国民の負託に、自信を持って応えられる状況でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきでないと判断したと説明した。

総理大臣として悩みに悩んだ末の判断であり、重い決断として、国民も受け入れていいのではないかと私は考える。安倍政権は、政権運営の期間では憲政史上最長を記録したが、コロナパンデミックの直撃を受け、有効な対応策を打ち出せなかったことが退陣に大きく影響したとみている。

 危機のリーダー選びの考え方

本論に入って、今回の後継の総理・総裁選びは、コロナ危機の中でのリーダー選びになる。自民党は28日の臨時役員会で、安倍首相の後任を選ぶ総裁選挙のあり方や日程について、二階幹事長に一任することを確認した。そして、来月1日に開く総務会で正式に決定する方向で調整を進めることになった。

危機の時のリーダー選びは難しい。1980年に現職の大平正芳首相が急死した時は衆参同時選挙の最中だったため、官房長官の伊東正義氏が首相臨時代理を務め乗り切った。

2000年、現職の小渕恵三首相が突然の入院後、死去した際には、自民党5役が中心になって後継選びが進められ、後継に森喜朗幹事長の流れが固まった。そして総裁選挙は実施されず、両院議員総会で自民党総裁に選出されたが、森首相は、後に密室で「5人組」に選ばれたとの批判を浴びた。

危機の際には、政治日程は確保しにくいが、党則などのルールに基づいて公正に選ばないと、後に党員や国民の不信を招き、大きな代償を支払うことになる。

 開かれた論争ができる総裁選びを

今回はどうなるか。自民党の総裁選びは「国会議員による投票」と全国の党員などによる「党員投票」の合計で選ぶのが基本だ。国会議員だけでなく、本格的な党員投票を行う仕組みだ。

もう1つが、任期途中で総理大臣が辞任するなど緊急の場合は、両院議員総会で、国会議員と、都道府県連の代表各3人ずつが投票を行って選出する方法がある。

この2つの方法をめぐっては「党員投票」が行われる場合には、ある候補が有利になるといった見方や、逆に「国会議員投票」中心の場合は、多くの派閥の支援が見込まれる別の候補が有利になるといったことが、既に取り沙汰されている。

それだけに、どちらの方式を採用するのか慎重な検討が必要だ。コロナ危機の中で短期間で終えるためには、国会議員中心の方がいいという意見が予想される。

これに対して、今回は安倍首相が後継総裁が決まるまで継続できるので、一定の選挙期間が確保できる。危機の時ほど党員の声を反映させることが重要だとして、期間を短縮するなど工夫をしながら、党員投票を行った方がいいとの意見も出されそうだ。

いずれにしても、開かれた総裁選にするためには、可能な限り党員の声を反映させること。また、各候補がどんな政策・政治をめざすのか活発な議論を行ってもらいたい。まずは、どちらの方式で総裁選びが行われるのか、大きな注目点だ。

このほか、誰が名乗りを挙げるのか。石破元幹事長や岸田政務調査会長が意欲をにじませているほか、菅官房長官を推す声もある。さらには、中堅・若手議員も立候補に意欲を持っており、総裁選びは活発になりそうだ。

今回のポスト安倍の後継総裁選びが、どこまで国民の関心や支持を集めるのか。次の衆院解散・総選挙の時期などにも大きな影響を及ぼすことになる。

最長政権と健康不安説のゆくえ

安倍首相の連続在職期間が8月24日で2799日を迎え、佐藤栄作元首相を抜いて、歴代最長を記録した。

同じ24日、安倍首相は17日に続いて、都内の慶応大学病院を訪れ、追加の健康検診を受けた。政界では、持病が悪化しているのではないかとの健康不安説が一気に広がり、一部には退陣説も取り沙汰される状況だ。

7年8か月に及ぶ長期政権と首相の健康不安説、それに難問のコロナ感染拡大という危機を抱えて、これからの政権・政治はどう動くのか。どこがポイントになるのか探ってみたい。

 “早期の劇的政変なし”の公算

安倍首相は24日午前、慶応大学病院を訪れた後、総理大臣官邸に入る前、記者団のぶら下がり取材に応じた。「きょうは先週の検査結果を詳しく伺い、追加的な検査を行った。健康管理に万全を期して、これから仕事を頑張りたい」。

検査結果の詳細は明らかにしなかったが、これによって、一部で取り沙汰されていたような早期の辞職・退陣などは全く考えていないことを表明。このため、早期の劇的な政変の可能性は低いとみられる。

 今後の政局展開、3つのケース

それでは、安倍政権のゆくえ、どんな展開になるのか。3つのケースを頭に入れておくとわかりやすい。

◆1つは、先に触れた「早期退陣」のケース。但し、この可能性は低いとみる。

◆2つ目は、「来年9月の自民党総裁任期満了まで」のケース。安倍首相はこれまで総裁任期一杯、全力投球する考えを強調してきた。

◆3つ目が、この中間で「今年秋以降、来年前半頃までの退陣」。健康問題の他、内外の政治課題の対応によっては、政権が行き詰まり途中退陣もありうる。

具体的には、◇健康問題で気力・体力が持つかどうか。あるいは◇東京五輪・パラリンピックの来年開催ができないような場合は、その政治責任を取る形で退陣もありうるとの見方も出ている。

 支持率低下 後継選び”カオス状態”

今の安倍政権を見ていると歴代最長政権だが、コロナ感染拡大の直撃を受けて、内閣支持率は34%と第2次政権発足以来、最低水準まで下落。不支持は47%で、不支持が支持を上回る「逆転状態」が4か月連続と危機的な状況に陥っている。(データはNHK世論調査)

自民党の閣僚経験者に聞くと懸念しているのは、安倍首相の自民党総裁任期と、衆議院議員の任期満了が1年余りに迫っているのに、根本問題である「ポスト安倍の後継総裁選び」や「衆院解散・総選挙の時期」が固まらないことだという。

そのポスト安倍の後継選びについては、自民党内では有力候補として、石破元幹事長、岸田政調会長に加えて、菅官房長官の名前も急浮上。さらに安倍首相の出身派閥やその他の派閥からも意欲的な候補者が取り沙汰され、カオス・混沌状態になっている。

これに加えて「安倍首相の健康問題」が重なる。以前は、政権が危機的な場合、派閥の領袖や党役員の実力者が水面下で、事態打開に動いて収拾を図る局面が見られた。今の安倍政権ではそのような調整役は見当たらないのが、逆に大きな問題点だと指摘する声も聞かれる。

 安倍首相 国民に所信表明を

さて、私たち国民はどう考えるか。国民の多くは、政権・政治に期待する最大の問題は、コロナウイルス感染拡大に歯止めをかけるとともに、年末に向けて雇用や事業倒産などへの備えを急いでもらいたいということではないか。また、アメリカ大統領選挙や米中対立の激化など外交面の課題も待ったなしだ。

そうした点を考えると、まずは、政権を担当している安倍首相が当面の諸問題について、早急に所信を表明してはどうか。国民も心配をしている健康問題をはじめ、コロナ対策、今後の政権運営などについての考えを明らかにするところから始めてもらいたいと考える。

「合流新党」をどう見るか?野党第1党の役割

国民民主党が19日、党を解党した上で立憲民主党との合流新党を結成する方針を決めた。これによって、衆参両院で150人前後の「合流新党」が来月結成される見通しだ。

新党の評価は、立ち場によって大きく異なるが、ここでは選ぶ側・有権者側からどう見たらいいのか考えてみたい。

最初に私の基本的な立ち場を説明させてもらうと政治が機能するためには、政権与党とともに「しっかりした野党」が必要だと考える。

また、特にコロナ激変時代は「政権与党と野党側との緊張感のある議論と競い合い」の中から、日本の進路を見いだしていく粘り強い作業が必要だと考える。

 合流新党の意味「100人の壁」突破

その上で、新党合流をどうみるか。新党の規模から見ておくと、国民新党からの合流組と残留組との調整が続いているため、最終的に固まっていないが、合流組が勢いがあり、多数を占める見通しだ。

また、野田元首相や岡田元副総理ら衆議院の無所属議員およそ20人も参加するので、新党の規模は無所属議員を含めて衆参両院で150人前後になると見られている。これは4年前に結成された「民進党」、民主党の流れを汲む政党の規模に匹敵する。

つまり、政権から下野した後、バラバラになった旧民主党勢力を再結集する形になる。また、政権への再挑戦という観点では、衆院選挙に向けて100人台の勢力を結集、「100人の壁」を突破するという意味を持っている。民主党が政権を獲得した2009年衆院選での公示前勢力は115議席。自民党が政権復帰を果たした2018年の勢力も118議席だった。

このため、合流新党の評価としては、巨大与党の自民・公明両党に対して、100人台の野党第1党が誕生、基盤整備にこぎつけたという意味が大きいと言える。

 国民の期待感は乏しいのでは?

一方、合流新党の課題・問題としては、有権者・選ぶ側の期待感が乏しいという点にあるのではないかと見ている。

今回の立憲民主党と国民民主党との合流は、さかのぼると去年秋の臨時国会で両党を中心にした国会内の統一会派結成から進められてきた。ところが、去年暮れ、両党代表のトップ会談を繰り返したが合意に至らず、破談。この夏、再び復縁協議に入り、ようやく分党の形にすることで、なんとか合流にこぎつけた。

国民の側からすれば、新党の理念や政策などに触れる機会はほとんどなく、端的に言えば、「政党レベルの業界内再編」と受け止められているのではないか。

4年前・2016年3月、当時の民主党と維新の党が合流して結成された「民進党」の評価が参考になる。NHK世論調査では、◆「期待する」25%、◆「期待しない」70%。保守層も含むので、高い水準は予想されないが、それでも本来は、支持を得る必要がある無党派層でも「評価しない」は72%、ほぼ同じ比率だった。今回もおそらく、同様の傾向になるのではないかと見ている。

 何を目指す政党か? 新党の旗は

さて、今回の合流新党に関連して、知人から、野党の復活は可能か。国民の支持を得られる新党の必要条件は何かといった質問を受けた。

新党と世論の関係は、古くから共通の流れがあり、最大勢力の無党派層の反応は「魅力ある新党ができれば、支持する」との答えが多い。今も無党派層が多いということは、魅力ある新党ができていないとも言える。

立憲民主党、国民民主党の政党支持率を8月の世論調査で見ると次のようになっている。◆立憲民主党4.2%。◆国民民主党0.7%。最も支持が高かった時の支持率は立憲民主党が10.2%。国民民主党が1.5%。両党とも半分以上、支持率を減らしている。また、◆自民党の35.5%、◆無党派層の43.3%に比べると大幅に低い。(データは、NHK世論調査)

両党とも結党時に比べて、明らかに魅力度は低下している。合流をめぐって、両党は角突き合わせるよりも、魅力度を高めるにはどうするかという発想が必要。また、小異にこだわらず、合意を拡大する対応ができれば道は開けたと思うが、当事者に聞くと、どうしても過去の経緯や怨念などは拭いがたいものがあるという。

結論を急げば、合流新党に必要な条件は「何をめざす新党か」、政党の旗印を打ち出すことではないか。その中には、政党の理念や、政治路線、主要政策、リーダーの魅力なども含む。ところが、今回の合流では、こうした点の議論やアピールは決定的に不足しており、今後の大きな課題・問題として残されている。

 難しい新党の評価、最後は選挙!

ここで話が少し脱線するが、新党の評価、実は「難しい」と感じることが多い。というのは、新党が結成されても長続きしないケースが多かったからだ。新党が政治の表舞台に盛んに登場するようになったのは、1993年に自民党が分裂、自民1党優位時代が崩れ、細川連立政権が誕生した頃からだ。

その後、巨大野党・新進党の結成と解党、民主党への合流から政権交代実現まで新党の結成、離合集散が相次いだ。およそ30の新党が誕生しては消滅した。現役の解説委員時代、”きょうは〇〇党、あすは△△党の解党大会。来週は新党の結成大会”といった日々が続いたことを思い出す。

さらに数年前には、結成時に人気急上昇、直後の選挙は大敗となった新党もあった。解説、講演などでも取り上げたが、振り返ってみると、的確な評価ができていなかったと反省するケースも多かった。

新党の評価は、最終的には、選挙で有権者からどのような評価を受けるか。「選挙で最終的に決まる」。逆に言えば、選挙結果が出るまで、じっくり見極める必要があるというのが結論だ。

 合流新党、選挙の備えと結集力

本論に戻って、野党第1党の合流新党は、どんな役割が問われているのか。これまで見てきたように「何をする新党かの旗印」を明確にすることがある。

それに加えて、野党第1党として「野党全体をとりまとめる力」が問われる。安倍政権は国政選挙で連戦連勝、6連勝中だ。不意打ちのような衆院解散があったのも事実だが、政治の世界、野党側に選挙準備ができていないのも問題とも言える。特に衆議院の小選挙区では、事前に選挙の勝敗予測、選挙結果が予測できるところが多く、野党の選挙準備不足、その責任は大きいと考える。

任期満了まで1年2か月に迫った次の衆議院選挙に、与野党はどのように臨むのか。巨大与党の自民、公明両党の対応は現職議員が多数を占めているので、わかりやすい。

これに対して、野党陣営は見通せないところも多い。例えば、合流新党と、玉木氏らが結成する新党との関係はどうなるのか。

両党の関係が順調なケース。逆に対立が深まり、玉木氏らの新党と維新の会の連携、あるいは、れいわ新選組と組むことも予想される。新勢力の登場で野党陣営が分裂、共倒れ。政治用語で「スポイラー・エフェクト」、いわゆる”票割れ効果”といった事態も起こりうる。

このため、野党第1党は、自らの党の勢力だけでなく、今の選挙制度の下では、野党全体の連携・結集、候補者擁立の調整を行える力があるかどうか。具体的には、立憲民主党の枝野代表の力量、柔軟性、他党を包み込む度量が問われるのではないか。合流新党と他の野党との関係を見極めていく必要がある。

次の衆議院選挙は、コロナ激変時代の最初の国政選挙になる。政権与党と野党側の双方とも、これからの国民生活のあり方や日本社会の将来目標を打ち出して、有権者が選択する選挙にしていくことができるかどうか、大きな責任を負っている。

手詰まり 安倍政権のコロナ対策

お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。

政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。

そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。

今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。

 安倍政権 実態把握に弱点

安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。

具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。

東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。

このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。

多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。

 PCR検査 目標設定し加速を

次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。

これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。

知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。

具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。

 対策の全体像と工程表、説明が必要

政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。

菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。

また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。

さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。

国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。

国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。

新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。