菅政権と”コロナ政局”のゆくえ

菅政権が初めて編成した新年度予算が26日、参議院本会議で可決、成立した。菅首相の長男が勤める放送関連会社が、許認可権を持つ総務省幹部を接待していた不祥事が表面化し、総務官僚2人が辞職する異例の展開となったが、何とか年度内の成立にこぎつけた。

予算成立後の政治はどう動くのか。菅首相の自民党総裁任期は9月末まで、衆議院議員の任期は10月21日まで、残された任期はおよそ半年。「政権発足からまだ半年とみるか、残り任期はあと半年しかないとみるか」で、政治の光景は違って見える。コロナ感染と菅政権のゆくえを分析・展望してみたい。

反転攻勢 訪米、五輪、衆院決戦

コロナ対応をめぐって、世論や野党から厳しい批判を浴びてきた菅首相は、4月を「反転攻勢のスタート」にしたい考えだ。アメリカを訪問し、9日にバイデン大統領と会談し、世界の首脳の中で最初に会談したリーダーであることをアピール、政権運営の追い風にしたいねらいもある。

続いて4月12日からは、これまでの医療従事者の先行接種から、いよいよ高齢者を対象にした優先接種が始まる予定だ。また、菅政権の看板政策であるデジタル改革関連法案は、今国会で成立するのは確実な情勢だ。

さらに延期されてきた東京五輪・パラリンピック大会の開催、感染対策を万全にしたうえで、成功させたい考えだ。

こうした内外課題の実績を積み重ねたうえで、菅首相は9月末の自民党総裁選での再選と、衆議院の解散・総選挙をめざす戦略は変わっていないように見える。菅首相にとって、今後の政権運営のメイン・シナリオだ。

但し、このメイン・シナリオ通りに運ぶかどうか、幾つもの難関・ハードルを越えなければならない。

ハードル① 感染抑え込みできるか

第1のハードルが「新型コロナの感染拡大」を抑え込むことができるかどうかだ。首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言は、3月21日に全面的に解除されたが、感染状況は予断を許さない。

全国の新規感染者数は、27日は2073人、2日連続で2000人台。2月6日以来の高い水準だ。東京、大阪など関西2府1県の大都市圏だけでなく、宮城県、山形県、愛媛県、沖縄県などの地方でも増え始めた。

変異型ウイルスの広がりを含めて、専門家は第4波の始まりではないかと神経をとがらせている。仮に第4波となると”政府の早すぎた宣言解除”に対する世論の批判が強まり、菅内閣の支持率が再び下落することが予想される。

 ワクチン接種の成否と感染対策

こうした中で、菅首相がコロナ対策の決め手と位置づけているのが、ワクチン接種だ。2月17日に医療従事者の先行接種が始まった。

続いて、4月12日からは65歳以上の高齢者の優先接種が始まるが、ワクチン確保量が少ないため、テスト的な実施に止まる見通しだ。但し、河野担当相は「6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられる分量は確保できる」との見通しを示している。

与党関係者に聞くと「高齢者接種が本格化するのは5月以降」との見方だ。全国1700余りの市区町村単位で接種を行う大作戦だが、地方自治体関係者の間では「いつ、どれだけのワクチンが届くのか肝心の情報があまりにも少なすぎる」と批判が強い。この大作戦が順調に進むのかどうか大きなポイントだ。

政府コロナ対策の尾身茂会長は、国会での質疑で「高齢者の接種が5月か6月に本格化し、7月に終わったと仮定。さらに一般国民の接種に移るが、今年暮れの時点でゼロにはならない」とのべ、収束は来年以降に持ち越す可能性が高いという見通しを示している。

つまり、ワクチン接種へ国民の期待は大きいが、抑制効果が表れるまでには、かなりの時間がかかる。ということは、短期的には今の対策がカギを握っている。5つの柱からなる総合対策を打ち出したが、実効性に大きな疑問が持たれているのが実状だ。

 ②五輪開催 世論の支持は

第2のハードルは、東京五輪・パラリンピック大会開催で、世論の支持が広がるか否かだ。自民党幹部に聞くと「菅首相の関心は、大会を開催するか否かではなく、開催を前提にしてどのように安全・安心の大会にできるかにある」と語る。

一方、報道各社の世論調査をみると、大会を開催するよりも、再延期や中止を求める意見の方が多い。このため、世界や日本の感染状況がどうなるかということに加えて、開催する場合も大会の意味や位置づけを明確にして、国民の合意を広げられるかどうかが大きな課題と言える。

現状のままでは、大会の成功を国民の多くが喜び、政権の評判が上がり、衆院選の盛り上げにつなげたいという与党関係者の思惑通りには運ばないのではないか。

 ③総裁選、衆院選2つの選挙

第3のハードルは、”今年は選挙の年”なので、大きな選挙を勝ち抜けるかどうか。まず、4月25日投票の”トリプル選挙”と、7月4日の東京の都議会議員選挙。それに秋に任期満了となる自民党総裁選と、衆議院選挙が控えている。

”トリプル選挙”は、衆院北海道2区と参院長野選挙区の補選、それに参院広島選挙区の再選挙の3つ。吉川元農水相の収賄事件、河合案里参院議員の選挙違反事件に伴う選挙などのため、自民党にとっては厳しい選挙になる。1勝2敗説、3連敗説なども取りざたされている。

東京都議選は、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。前回は、小池百合子・知事率いる”都民ファースト旋風”で、自民党は歴史的な大敗を喫した。今回は、自民、公明の選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれるが、国政の問題が選挙の争点になる。次の「衆院選挙の先行指標」、”菅自民党”の先行きが占える。一連の不祥事などの影響がどう出るか。

菅首相にとって政権維持のためには、自民党総裁選と、衆院選の2つの大きな選挙を勝ち抜く必要がある。感染抑止やワクチン接種が順調に進むケースは、現職の総理・総裁として、優位に選挙に臨むことができる。

逆に、コロナ対策やワクチン接種が滞ると強い逆風となる。特に衆院決戦を控えているので、自民党内から「自らの当選が危うくなる」として、リーダーの交代を求める動きが出てくることが予想される。

これから半年の政局の読み方は、◆菅政権はトリプル補選などが不振に終わっても、直ちに政権が揺らぐ可能性は低い。党内では”コロナ禍の難局、火中の栗を拾う動きは出ない。9月まで菅さんにやってもらおう”との見方が根強い。

◆秋が近づいた段階でも内閣支持率が低迷する場合は、”選挙の顔”を代える動きが一気に噴き出す可能性がある。◆政局が大きく動くのは、自民党総裁選が近づいた段階ではないかというのが、今の時点の結論だ。

なお、政界の一部には、5月解散・6月選挙説、あるいは7月都議選との同時選挙説がメディアで盛んに報道されている。この五輪前の解散・総選挙説があるのかどうかを最後に見ておきたい。

 五輪前の解散・総選挙説は?

結論を先に言えば、確率としては極めて低いとみる。理由は、6月選挙、7月初め選挙となると、先に見たようにワクチンの高齢者接種が本格化している時期だ。その時期の解散・総選挙は「政権の自己都合優先」と世論の猛烈な批判を巻き起こし、政権与党惨敗の可能性もあるのではないか。

また、選挙の実務面でも全国の市区町村の負担はたいへんだ。ワクチン接種会場と投票所が重なったり、選挙管理の要員のやりくりなどに忙殺されるだろう。

さらに選挙への影響としては、与党の公明党は都議選を重視しており、選挙の時期が接近すると自民党との選挙協力がうまく機能しないことになる。接戦選挙区の自民党候補は、落選が相次ぐといった事態も予想される。

”選挙大好き人間”と言われる菅首相は、こうした事情は百も承知で、五輪前の解散・総選挙は選択しないとみる。任期満了か、それに近い時期の解散・総選挙を選択するのではないか。

以上、みてきたように、これからの政治は、ワクチン接種を含めたコロナ状況で大きく変わる。従来の伝統的な政局の見方・読み方と大きく異なる点だ。

同時に、この半年余りの間に衆院選挙が確実に行われる。「コロナ激変時代の選挙」の備えが重要だ。自らと家族の生活、将来の経済・社会づくりをどのような勢力、リーダーにゆだねるのか。今から政治の動きをじっくり注視、選挙に備えていただきたい。

”後手と迷走”脱却できるか?菅政権

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が、21日解除された。これによって、年明け1月7日に決定された緊急事態宣言は、2か月半ぶりに全面的に解除された。

政府は引き続き、国民に感染対策の徹底を求めるとともに、無症状の感染者を洗い出すため、繁華街などで無料のPCR検査を行うなどして、感染のリバウンド・再拡大防止に全力を挙げることにしている。

こうした対策で本当に感染を抑え込めるのかどうか、菅政権の対応に焦点を当てて、何が問われているのか考えてみたい。

  後手と迷走  政権のコロナ対応

去年4月に出された最初の緊急事態宣言に続いて2回目となった今回の緊急事態宣言を振り返って見ると、菅政権の対応は”後手と迷走”の連続だった。

菅首相は年末、緊急事態宣言を出す必要はないと明言していたが、年末から年始にかけて新規感染者が急増、1月7日に1都3県の宣言発出に追い込まれた。続いて、1週間後の13日に大阪、愛知など7府県に拡大、さらに2月入って1か月延長を決定。その後、大阪など6府県が解除されたが、1都3県は2週間の再延長、ようやく今回、解除となった。

この間、コロナ対策の特別措置法の改正が実現した。行政罰の導入などを盛り込んだ法改正だが、本来、去年の第1波、第2波が収まった後、直ちに改正すべきだったとの指摘は与野党双方から聞かれた。このように菅政権の対応は、後手と迷走が続いた。

 政権の司令塔機能の立て直し

菅首相は、緊急事態宣言の解除に合わせて、5つの柱からなる総合対策を打ち出した。飲食店の感染防止、変異ウイルス対策、ワクチン接種の推進、医療提供体制の充実などだ。

こうした対策はいずれも必要だが、菅政権の問題点は対策を打ち出しても、どこまで改善が進んでいるのか、停滞しているのか、実態がよくわからないことが多い。総理官邸が中心になって、対策を打ち出すだけでなく、進捗状況を点検し、目詰まりがあれば調整・是正していく「政権の司令塔機能」が弱い。

例えば、今回の対策でも打ち出された高齢者施設のPCR検査の拡充、無症状の感染者を洗い出すため繁華街などでの大規模なPCR検査、病症確保のための病院間の調整などはいずれも去年の段階から、必要性が指摘されてきた内容ばかりだ。

菅首相は官房長官時代、危機対応に手腕を発揮してきたと評価されてきたが、自らの政権では、対策の目詰まりが目立つ。各省庁を動かし、自治体や医療機関などとの連携・調整していく機能を強化、そのための政権の体制の立て直しが必要だ。

 感染収束へ道筋の提示を

今回の総合対策に関連して、もう1つの注文は、こうした対策が進んだ場合、コロナ感染の収束の見通しはどうなるのか、道筋を示してもらいたい。国民にとって、”コロナ対応生活”は既に1年2か月、これからの生活はどうなるのか。事業者にとっては、今後の事業継続のためにも判断材料が欲しい。

一方、今月25日には、東京オリンピック・パラリンピック大会の聖火リレーが始まる予定だ。政府は、コロナ感染に対する安全対策を徹底させて開催する方針だが、世論調査によると国民の間では、開催に慎重・反対論も多い。それだけに大会の意義や安全対策を議論していく上でも感染収束の見通しなどが必要だ。

コロナ感染の収束には、ワクチン接種が決め手になる。政府のコロナ対策分科会の尾身会長は、先の参議院予算委員会で、正確な見通しは誰もできないと断った上で、次のような見通しを示している。

今の医療従事者に続いて、高齢者の接種が5月以降本格化し7月に終わると仮定するとその後、一般国民の接種が進む。その結果、今年暮れまでには、今よりも感染レベルが下がることが期待される。但し、12月頃もゼロにはならないので、収束は来年以降になるという見通しを示している。

こうした専門家の見通しなどを踏まえて、政府はどのような道筋を描くのか。正確な予測は困難だが、オリパラ大会前後の感染状況はどの程度を想定して準備を進めるか。社会・経済活動再開の条件や時期をどのように設定するのかといった見通しが欲しい。

アメリカのバイデン大統領は、7月4日の独立記念日までに生活の正常化に道筋をつける考えを表明した。菅首相も政権発足から半年が過ぎた。ワクチン接種を含めて感染収束への道筋や目標を示してもらいたい。

その上で、政権与党と野党が今後の感染対策の重点をどこに置くのか。また、社会・経済の立て直しをどのように進めていくのか、突っ込んだ議論をみせてもらいたい。

 

菅首相のラストチャンス ”宣言”解除

首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言が21日に解除されることが、18日に決まった。これによって、1月8日に発出された緊急事態宣言は、およそ2か月半ぶりに全面的に解除されることになった。

しかし、国民の側には宣言解除による安堵感は少なく、これから本当に大丈夫なのか、不安感の方が強いのではないか。

一方、政権を担当する菅首相にとっても一息つくような状況にはなく、万一、感染拡大になれば政権維持は難しい。自民党総裁任期は半年後に迫っている。

それだけに今回の宣言解除は、今後の政権浮揚につなげられるかどうかの”ラストチャンス”と言えるのではないか。宣言解除の意味や政治への影響を考えてみる。

 ”1本足打法”の限界 宣言解除

今回の緊急事態宣言の解除について、菅首相は18日夜の記者会見で「1都3県の感染者数は、1月7日の4277人から、18日には725人まで8割以上減少した。飲食店の時間短縮を中心にピンポイントで行った対策は大きな成果を上げている」と胸を張った。

これに対して、医療の専門家などは「東京について、ステージ3、感染者数500人程度を目安にするのではなく、さらに減少させ100人程度をめざすべきだ」との声が強かった。東京の18日の感染者数は323人、この1週間の平均は前の週を上回る状態だ。

こうした感染者数の下げ止まりは、これまでの政府の対策、飲食店の時間短縮に絞った”1本足打法”の限界ではないか。政府関係者からも「今の対策を続けても効果は小さい」といった声も聞く。

一方、国民の側にも”自粛疲れ”、”緊急宣言疲れ”が見られる。こうした点を考えると、緊急事態宣言は多くの国民の協力で感染拡大に歯止めをかける効果を上げたのは事実だが、今の対策では限界もある。したがって、やむを得ない解除といった側面があるかもしれない。今回の評価は中々、難しい。

 総合対策、時期と責任を明確に

問題は、解除後の対策をどうするかだ。政府は、5つの柱からなる総合対策を決めた。主な柱は、飲食の感染防止、変異ウイルス対応、戦略的な検査の実施、安全・迅速なワクチン接種、それに医療提供体制の強化だ。

こうした対策は、いずれも必要な対策で、中身の評価はそれぞれの専門分野の担当者に任せたいが、個人的な受け止め方をいくつか触れておきたい。

1つは、対策の打ち出しが遅い。変異ウイルスとワクチン接種を除くと去年の第2波の後、指摘されてきた延長線上の政策だ。

第2に規模が小さい。例えば、変異ウイルス対策。陽性者の抽出、再検査する割合について、今の10%程度から40%程度に引き上げるとしているが、大幅に増やすべきではないか。専門家の中からも同様な指摘が聞かれる。

第3にカギとなる医療提供体制についても、コロナ病床、軽症者用のホテル、自宅療養などの役割分担を進めるとしているが、中々、進まない。どこに目詰まりの原因があるのか調べ、早急に手を打つ必要がある。実効体制がカギだ。

その上で、昨夜の菅首相の記者会見で気になったのは、こうした対策を実行することで、いつ頃を目標に感染の収束をめざすのか。できない場合は、どう責任を取るのか、記者団から質問が出されたのに答えなかったことだ。総合対策と銘打ちながら、時期と責任をはっきりさせないと迫力にかける。

 ワクチン成否 菅政権の命運左右

菅政権と今後の政治の動きを見ておきたい。菅首相にとっても緊急宣言解除後の総合対策が実行に移せるのかどうか正念場が続く。

仮に感染対策の効果が思うように上がらず、変異株による感染が拡大。あるいは、東京オリンピック・パラリンピックの開催ができないような事態になった場合は、首相・政権は”即アウト”となる公算が大きい。

それだけにコロナ対策、中でも決め手となるワクチン接種が、大きなカギを握っている。医療関係者への優先接種は順調に進んでおり、現在1日8万人ペースで進んでいる。来月12日からは高齢者への優先接種、そして6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しだという。

問題は、全国1700余りの市区町村での接種が順調に進むかどうか。また、国民の大半の接種を終えるまでには、かなりの時間がかかる。その間、感染拡大を抑えられるか、難しい対応が続く。

ワクチン接種がうまく行けば、菅政権の政権浮揚の大きな推進力になる。逆に接種計画に支障が出たりすれば、逆風になって跳ね返ってくる。つまり、ワクチン接種の成否は、菅政権の命運や、これからの政局を大きく左右することになる。

 菅首相続投か否か、ラストチャンス

今年の政治は、9月末が自民党総裁の任期切れ、10月21日が衆議院議員の任期満了日。政界関係者の間では、再び感染拡大となれば、菅首相の総裁再選・続投は難しくなる。ワクチン接種が順調に進んだ場合も、総裁選立候補のハードルを越える意味を持つが、勝てるかどうかはわからないという見方もささやかれている。

一方、自民党内の一部には、菅首相はワクチン接種が本格的に始まれば、7月の東京都議選に合わせて衆院解散・総選挙に打って出るのでないかとの見方もある。しかし、感染危機が収まらない中で、解散・総選挙に踏み切った場合、有権者から猛烈な反発が出てくることは、容易に想像できる。ワクチン接種が本格化し、軌道に乗るまでは、地方自治体にとって選挙どころではない。

菅首相も記者会見では「優先すべきはコロナの収束が、私の責務」と明言した。この発言は、国民の側からみると評価できる。与野党ともに衆院選は秋が基本、それまでは、コロナ対策に総力を挙げようというのが基本ではないか。

私たち国民の側もコロナ対策の取り組みを中心に、政権与党、野党側の対策・対応を見極めて、選挙で選択をする。そのための判断材料集めを始める時期ではないかと考える。

 

 

 

不祥事でも内閣支持率が上がる訳は?

東京など1都3県に出されているコロナ対策の緊急事態宣言は2週間の延長戦に入ったが、報道機関の3月の世論調査で菅内閣の支持率が上昇に転じた。

複数の知人から「コロナ対策で目立った成果がないのに、どうして内閣支持率は上がるのか」。「菅首相の長男が接待事件を起こし、役人が処分される不祥事が続いているのに内閣支持率が上がる理由は何か」。「長期政権で世の中は、倫理に不感症になってしまったのか」といった質問やご意見をいただいた。

そこで、今回は”不祥事でも内閣支持率が上がる訳はどうしてか”を取り上げる。なお、私は世論調査や統計学の専門家ではない。40年余り政治取材を続けているジャーナリストの分析・見方であることを最初にお断りしておきたい。

 ”支持が不支持を上回る” 3か月ぶり

読売新聞とNHKが8日にそれぞれ3月の世論調査結果を報道した。菅内閣の支持率は、◆読売新聞が「支持」が前月より9ポイント上昇して48%、「不支持」が2ポイント下がって42%。◆NHKは「支持」が2ポイント上がって40%、「不支持」が7ポイント下がり37%。いずれも支持が不支持を上回っており、去年12月以来3か月ぶりのことになる。

NHKの支持率は40%に対し、読売新聞の支持率は48%と高い。これは、読売新聞の調査は「重ね聞き」。つまり、支持か不支持かわかりにくい場合、重ねて聞く方式を採用しているため、支持率が高くなるとみられている。なお、データは、3月8日読売新聞朝刊、NHKNEWSWEBから引用している。

 支持率は「政府対応の評価」に比例

最初に菅内閣の支持率が上昇したのはなぜかという問題。結論を先に言えば、菅内閣の支持率は、コロナ対策の「政府対応の評価」に比例しており、この評価が改善しているからだということになる。

具体的にどういうことか。以下、NHKのデータで説明していきたい。「内閣支持率」と「政府対応の評価」は次のようになっている。

◆支持率 =9月62%→11月56%→12月42%→1月40%→2月38%→3月40%

◆対応評価=9月52%→11月60%→12月41%→1月38%→2月44%→3月48%

このように政府対応の評価が12月以降、大幅に下がると支持率も急落。2月以降、政府対応の指標が改善すると支持率も次第に上昇していることがわかる。

政府の対応策で具体的な成果が上がったというよりも、感染者数が減少し感染状況が落ち着いてきたことが、国民の安心感につながったという面が大きい。

また、ワクチンの医療従事者への先行接種が始まり、国民の間でも「接種したい」という希望者が67%へと増えていることも政府対応の評価につながったものとみられる。要は、政府対応の評価が改善してきたことが、内閣支持率の上昇につながった主要な要因とみることができる。

首相長男らの不祥事に厳しい視線

一方、菅首相の長男が勤める放送関連会社が、総務省の幹部を接待していた問題が明るみになるなど菅政権では、不祥事が相次いでいる。

このうち、総務審議官時代に1回7万円の高額接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官が辞職した問題について「菅首相の説明は十分か」を質問で取り上げている。「十分だ」という答えはわずか15%、「不十分」が65%と圧倒的多数だ。

また、総務省や農林水産省の幹部職員が接待を受けていた問題で「行政はゆがめられたと思うか」については「ゆがめられたと思う」が56%、「思わない」の24%を大幅に上回っている。

世論は、菅首相の長男らによる高額接待と官僚の倫理違反、菅首相の説明責任を厳しい視線でみていることが読み取れる。

 世論の関心事項と調査のタイミング

それでは、なぜ、不祥事が相次ぐ中で、内閣支持率が上昇するのか。この理由を説明できる決定的な判断材料があるわけではないが、幾つかの要因が考えられる。

1つは世論の関心事項だ。菅内閣発足の際に「政権に最も期待すること」については、最も多かったのがコロナ対応がだった。また、毎月の世論調査でも「感染の不安」を感じる人の割合は80%と高い水準が続いている。世論の最優先の関心事項は、不祥事よりもコロナ対応だとみられる。

次に調査のタイミングの問題がある。今回の調査を実施した3月第1週は、期限が来る1都3県の緊急事態宣言の扱いと、総務省の接待問題が同時平行的に進んでいた。

ところが、宣言解除に強い意欲を示してきた菅首相が週の半ばに、宣言延長へと方針転換を記者団に表明し、大騒ぎになった。小池都知事の機先を制するねらいもあったと思われるが、政治決断を印象づけた。

そして週末に緊急事態宣言の延長を正式決定、メデイアは大きく取り上げた。世論の多数も延長支持が多かったように思われるが、世論の関心事項と調査のタイミングが相まって支持率上昇につながったとみている。

このほかの要因、例えば、コロナ感染拡大という危機の中での国民の意識。例えば、危機を乗り切るまで、国民の側は首相の交代や政治の大きな変動は避けようとするのではないかといった見方。

あるいは、自民党内に次の有力なリーダー候補が見当たらないこと。野党の政権交代も難しく、国民にとって別の選択肢がないことが、政権の維持を助けているといったことも考えられるが、今回どこまで影響を与えたかは不明である。

要は、これまでみてきたように感染の落ち着きに伴う政府対応の評価の改善が、主な要因で、それに加えて、世論の関心と調査のタイミングが重なった結果という見方をしている。

 支持率低下も、政権先行き不透明

そこで、菅内閣の支持率は今後どうなるのかという問題が残る。NHKの調査では支持と不支持の差は、わずか3%だ。「支持と不支持が拮抗」というのが実態ではないか。

その支持の内容も「自民支持層の内閣支持の比率」は60%台半ば、前の月とほぼ同じ水準。政権発足当初は85%あったのに比べると大幅に落ち込んだままだ。

今回、改善したのは、最も多い無党派層で支持の割合が20%台から6ポイント増えたためだが、無党派層なので支持離れに転じる可能性は大きい。支持基盤は、引き続き不安定な状態にあることに変わりはない。

菅政権にとって安定した政権運営を行うためには、最大の課題であるコロナ感染を抑え込めるかどうか、そのためには、決め手となるワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。但し、高齢者の本格的な接種は当初の4月から、本格的な接種は、5月以降にずれ込む見通しだ。

一方、総務省の接待問題では、総務官僚No2の谷脇総務審議官がNTTからも高額な接待を受けていたことが確認され、更迭された。菅政権の看板政策である携帯電話料金政策などの推進役を失うことになった。

また、週刊文春が、新たに総務大臣を務めた野田聖子幹事長代行や、高市早苗元政調会長らが在任当時、NTTの社長らと会食していたなどと報じた。さらに、菅首相の長男が勤める「東北新社」が放送法の外資規制に違反していたにもかかわらず、衛星放送の事業認定が取り消されなかった問題も明らかになった。

自民党の閣僚経験者に政権への影響を聞くと「政府のコロナ対応や、不祥事に対する国民の不信感は強い。他に選択肢がないから”仕方なく支持”といった雰囲気を感じる」と警戒を強めている。

当面の政治は、2つのファクターがカギを握る。1つはワクチン接種を軸にしたコロナ対応が軌道に乗るか。もう1つが一連の不祥事乗り切りができるかどうか。菅内閣の支持率、政権のさき行きも不透明だ。

 

”土俵際の菅首相” 緊急宣言再延長

東京など1都3県に出されている緊急事態宣言について、政府は今月7日の期限を2週間延長し、今月21日までとする方針を決めた。これを受けて、菅首相が5日夜、記者会見をして、感染対策の徹底を呼びかけた。

政府は「この2週間が瀬戸際だ」と強調するが、菅首相の記者会見を聞いても、2週間に設定した理由をはじめ、達成目標、具体的な対応策もよくわからない。

一方で、目立った成果が上がらないと首相の実行力が改めて問われる。菅首相は、”土俵際”に追い詰められつつあるように見える。そこで、菅首相の記者会見の中身を点検してみたい。

 再延長の目標、具体策も見えず

菅首相の記者会見で聞きたかった点は、なぜ2週間の延長にしたのか。この期間で達成する目標と、そのためにどんな対応策を打ち出すのか。コロナ対策の今後の出口をどう考えているのかの3点だ。

まず、今回の延長について、菅首相は「1都3県については、ほとんどの指標が当初、目指していた基準を満たしているが、病床の使用率が高い地域があるなど依然、厳しさがみられる」とのべた。

その上で、「2週間は感染拡大を押さえ込むと同時に、状況をさらに慎重に見極めるために必要な期間だ。こうした点を総合的に考慮し判断した」と説明したが、2週間に設定した根拠・理由には言及しなかった。

次にこの期間で達成する目標や宣言解除については「目標としては、ステージ3の段階で、病床使用率が50%未満。病床使用率引き下げの努力をしっかりと行い、体制をつくることが、この2週間でやるべきことだ」とのべ、従来の目標を重ねて強調した。

今後の対策については、「飲食店の時間短縮、不要不急の外出の自粛やテレワークを徹底していく。さらに高齢者施設などでの感染を早期に発見するため、3万の施設で検査を行う。また、市中感染を探知するため、無症状者のモニタリング検査を行う」という考えを示した。

このように政府の対策は、高齢者施設の検査体制強化も従来の対策の延長で、新たに踏み込んだ内容は打ち出していない。専門家や自治体関係者からは「新たな対応策がないまま、病床の使用率の低下を目標に掲げ、短期間に実現できるかどうかは疑問だ」という見方も聞かれる。

 菅首相と小池知事の駆け引き

今回の宣言再延長では、菅首相と小池・東京都知事の駆け引きが大きく影響したとの見方が政界関係者の間では強い。

菅首相は、今月3日、記者団の”ぶら下がり取材”に応じ「緊急事態宣言の2週間程度の延長が必要ではないか」とぶち上げた。それまで菅首相は、7日で宣言を解除し、経済活動の再開に道筋をつけたい考えを示していた。その方針を大きく転換した。

こうした背景には、小池都知事が、千葉、神奈川、埼玉の3県知事と「再延長を政府に要請しよう」という動きが伝えられていた。政府は1月に宣言を発令する直前に、小池知事をはじめとする4県知事から発令要請を突きつけられた形になり、後手に回ったと批判を浴びた。今回は、そうした小池知事の機先を制するねらいがあったとみられている。

今回、菅首相は”小池劇場”を回避することはできたが、小池知事に振り回されている状況には変わりがないようにもみえる。感染状況や病床確保などの改善ができなかった場合、菅首相と小池知事との間で確執が再燃する可能性もある。

今回の緊急事態宣言は、年明けの1月7日に方針決定。菅首相は「1か月で必ず改善させる」と宣言。2月に1か月の延長を決定し「1か月で全ての都道府県で解除できるよう対策の徹底を図っていく」と表明。今回の再延長は、去年4月の最初の宣言以来初めてだ。次第に「土俵際」に追い詰められているように見える。

 コロナ出口戦略 不祥事対応も

菅政権にとっては、コロナ対策の出口戦略を示すことができるかどうかも大きな課題だ。今後、コロナ感染をどのように抑制し、社会・経済活動を本格的に再開していくのか。東京オリンピック・パラリンピックの開催問題も含まれる。

この出口戦略について、菅首相は5日の記者会見では踏み込んだ発言は避けた。しかし、今月25日には、東京オリ・パラの聖火リレーがスタートする予定だ。菅首相は五輪開催の方針だが、そのためには今後の感染防止対策や、ワクチン接種の進め方を含めた出口戦略を打ち出す必要がある。

一方、記者会見では、菅首相の長男が勤める放送関連会社が総務省幹部を接待していた問題や、新たに情報通信大手のNTTも総務省幹部を接待していた問題について、複数の記者から質問が出され、この問題に対する関心の強さを印象づけた。

菅首相は「接待でいろんな問題が出ているが、国家公務員に倫理法をしっかりまもってもらうことは当然だ。その中で、もう一度、私自身が、関係大臣や倫理監督官を通じて、徹底するようにしていきたい」と防戦に追われた。

コロナ対策では、国民の協力がなければ感染収束は一歩も進まない。一方で、政権の側が、中央省庁の官僚が高額な接待を受けていた問題を曖昧なままにしていれば、国民の反発を買いコロナ対策に跳ね返る。一連の不祥事に早期にケジメをつけられるか。不祥事対応の面でも、菅首相は土俵際に立たされている。

揺らぐ菅政権 “国民感覚とズレ”

新年度予算案が2日衆議院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決され参議院へ送られた。これによって、新年度予算案は年度内に成立する。

通常国会前半の焦点である本予算の成立にメドがつき、例年であれば政府・与党内に安堵感が広がるが、今の菅政権にはそうした余裕は全く感じられない。

菅首相の長男が勤める放送関連会社の接待問題などが尾を引いており、予算審議の大詰めの段階に内閣広報官が辞職するという失態も招いてしまったからだ。

菅政権は特にこの1か月、相次ぐ失言・不祥事に振り回されている。加えて、事態収拾に当たる菅首相の判断に「国民感覚とのズレ」が目立つ。

政府・与党内からも「菅政権は、フラフラの状態で揺らいでいる。果たして、コロナ危機を乗り切れるかどうか」と政権の先行きを危ぶむ声も聞かれる。予算案の衆院通過という節目に菅政権が抱える問題点を探ってみる。

 抜擢 内閣広報官 辞任の衝撃

菅政権に衝撃を与えたのが、山田真貴子・内閣広報官の辞職だ。山田氏は、菅首相の長男が勤務する放送会社「東北新社」から、総務審議官時代に1回1人7万円の接待を受けていたことが明らかになり、世論の厳しい批判を浴びた。

その山田氏は、第2次安倍政権で女性として初めての首相秘書官に起用され、退職後も去年9月菅内閣発足とともに初の女性内閣広報官に抜擢された。総務相時代から菅首相の強い後押しがあったとされる。

野党側は、山田氏を接待問題の参考人として衆院予算委員会に出席するよう求めていた。予算審議が大詰めの段階で、山田氏が辞職するといった事態は、政権幹部も想定していなかったのではないか。

菅首相は2月26日の時点でも山田氏を続投させる意向を示していたが、わずか3日で方針変更に追い込まれた。与野党からも「山田氏は早く辞めさせた方がいい」との声が出されていた。

菅政権の対応をめぐって「後手」という批判が強いが、判断の遅れというよりもむしろ「国民感覚とのズレ」と「判断の誤り」が多い。山田氏の問題についても衛星放送の許認可権を持つ総務省の総務審議官時代、利害関係者から高額な接待を受けていた以上、直ちに交代させるのが国民の普通の感覚・判断だ。

 ”不祥事・危機管理対応”に失敗

この問題は、元をたどると菅首相の長男に行き当たる。2月3日夜「文春オンライン」が緊急事態宣言が出されていた時期に総務省幹部4人を接待していたと報じた。当初、総務省幹部は、放送事業は話題にならなかったと否定していたが、音声データを突きつけられて、ようやく事実関係と相手が利害関係者にあたることを認めた。

その後、総務省の調査で、幹部13人が延べ39回にわたり接待を受けていたことが明らかになり、24日に11人が処分された。調査と処分が決まるまで3週間もかかったことになる。

一方、贈収賄事件で起訴された吉川元農相と鶏卵生産業者との会食に同席、接待を受けていた農水省の枝元事務次官ら幹部6人は、25日に処分を受けた。吉川元農相が起訴されたのは1月15日だから、こちらは1か月以上も経過している。

このように菅政権の対応をみていると事実関係の確認、処分、再発防止策などの危機管理対応に時間がかかる。これでは政治・行政への信頼回復は期待できない。危機管理対応は十分機能しておらず、失敗と言わざるえない。

 菅首相の姿勢、政権の対応は

総務省の接待問題で、菅政権の危機管理対応がなぜ、機能しないのか。1つは、菅首相の姿勢、対応の仕方に問題がある。

菅首相は「私の家族が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝するが、長男とは「別人格」だとして、自らの考え方や具体的な対応策には一切示さない。

しかし、菅首相は長男を総務大臣当時、政治任用の大臣秘書官に起用し、その後、総務省と関係の深い「東北新社」に就職している。会食に応じた官僚の中には、長男とは秘書官当時に知り合いになった幹部もいる。さらに菅首相は、官房長官時代も内閣人事局などを通じて、総務省に強い影響力を維持しているとみられている。

そうすると菅首相は、今一度、長男が関与した今回の問題をどのように考えているのか。また、公正な電波行政、電波の許認可などの進め方などについても明らかにすべきだと考える。

 首相に直言する側近、幹部の不在

もう1つの問題としては、首相に直言できる側近や、幹部がいない点がある。政界関係者の1人は「菅氏は、安倍政権では官房長官として危機管理に優れた能力を発揮した。しかし、菅政権にはそうした人材が見当たらない」と指摘する。

加藤官房長官はどうか。堅実さはあるが、政府全体を引っ張って行くタイプではない。一方、菅首相もどこまで加藤氏を信頼しているのかわからない。無派閥の首相と官房長官との関係、「政権の軸の弱さ」を指摘する声も聞く。

菅首相は、この間のさまざまな不祥事について、引き続き参議院の予算審議の中で野党側の追及を受けることになる。

一方、コロナ対策については、緊急事態宣言が続く1都3県の扱いと、大規模なワクチン接種の準備体制。さらには延期された東京五輪・パラリンピック開催問題が大きな課題として待ち受けている。

このため、今後の政治をみていく上では、当面、コロナ感染の抑制とワクチン接種の準備体制が順調に進むのかどうかが、菅政権の先行きを左右する大きなポイントになるとみている。