菅政権発足後最初の国政選挙となった衆参3つの選挙は、いずれも野党候補が勝利し、自民党は候補者擁立を見送った選挙を含めて、全敗した。
この選挙結果は菅政権の政権運営を直撃し、自民党内の一部から出ていた早期解散論は遠のき、秋の解散・総選挙の可能性がさらに高まったとみている。
今回の選挙結果をどのようにみるか、菅政権や政局に及ぼす影響などを分析してみたい。
金権政治批判、怒り噴出、広島選挙
今回の3つの選挙、早い段階から「自民党が1勝できるか、3戦全敗になるか」が大きな関心事項だった。衆院北海道2区は、吉川元農相の収賄事件に伴う補欠選挙で、自民党は候補者擁立を見送り、不戦敗。参院長野選挙区は、羽田元総理の厚い選挙地盤に加えて「弔い選挙」、野党が強いとみられていた。
残るは参院広島選挙区がどうなるか。河井克行元法相夫妻の前代未聞の大規模買収事件に伴う再選挙で、「政治とカネ」の問題が最大の争点になった。
広島は「保守王国」といわれ、一昨年参院選挙の政党を選ぶ比例代表選挙では、自民党は41万票、立憲民主党15万票の3倍近い得票をしていた。選挙前には「ギリギリで自民が勝つか」との見方も強かった。
フタを開けてみると野党候補の宮口治子氏が37万票860票、自民党候補の西田英範氏が33万6924票、3万票余りの差をつけて宮口氏が初めての当選を果たした。広島の知人に聞いてみると「政治とカネ、金権政治に対する有権者の怒りが底流にあったのではないか」と語る。
NHKの出口調査では、宮口氏に投票した人が最も重視したのは「政治とカネをめぐる問題」が35%で最も多く、次いで「コロナ対応」19%、「経済・雇用政策」13%などとなっていた。
投票率は33.61%で、一昨年の参院選挙に比べて11ポイントも下がり、過去2番目に低かった。自民党の支持層では、2割以上が野党の宮口氏に投票したほか、「政治とカネ」の問題に嫌気がさして、棄権した人も多かったのではないか。
今回の3つの選挙、自民党の敗因としては、コロナ感染拡大に歯止めをかけられない政権に対する不満が共通しているほか、選挙区によって「政治とカネ」の問題が重なったことが挙げられる。
菅政権を直撃 反転攻勢吹き飛ぶ
今回の選挙結果は、菅政権を直撃する形になっている。支持率が急落した菅首相は4月は反転攻勢と位置づけ、12日にワクチンの高齢者優先接種を開始したのをはじめ、世界の指導者に先駆けて訪米、16日にはバイデン大統領と日米首脳会談を実現し、対中けん制の共同声明を打ち出した。
ところが、コロナ感染の急拡大が収まらず、23日には東京、大阪など4都府県に3度目の緊急事態宣言発出に追い込まれた。これに衆参3つの選挙全敗が、追い打ちをかけた。反転攻勢が吹き飛ぶ形になっているのが実状だ。
今回の選挙は菅政権が去年9月に発足後、最初の国政選挙だ。政権発足当初は”たたき上げ首相”が好感され、高い内閣支持率を記録した。ところが、コロナ対応が後手に回り、放送関連会社に勤める長男が総務官僚に多額の接待を繰り返していたことも明らかになるなど政権や与党の不祥事が相次いでいる。
今回の選挙について、自民党内には「補欠選挙や再選挙であり、政権運営には影響しない」との受け止めもあるようだが、額面どおり受け取る人は永田町では少ない。政治とカネ、国民への説明が乏しい政治の現状。3つの選挙区の有権者だけでなく、国民の多くが菅政権に対して厳しい見方や不信感を抱いていることを真正面から受け止める必要がある。
”五輪前解散”遠のく 都議選注視
今後の政局への影響は、どうだろうか。衆議院議員の任期満了まで半年を切った。最大の焦点は、次の衆議院解散総選挙がいつ断行されるのかだ。
自民党内の一部からは、春の解散・5月下旬投票説のほか、東京五輪前、7月の東京都議選とのダブル選挙説などが流されてきた。
今回の選挙結果で、政治とカネをめぐる自民党の体質や政治姿勢、コロナ感染を抑え込めない政権に対する有権者の厳しい評価を考えると、東京五輪前の解散・総選挙は遠のいたのではないか。
菅首相は26日記者団の質問に対して「コロナ対策を最優先に考えている」と早期解散に慎重な姿勢を重ねて示した。ワクチン接種を軌道に乗せることも考えると、秋の解散・総選挙の可能性がさらに強まっていると個人的にはみている。
今後の政治の動きをみていくうえで、ポイントは3つある。1つは、来月11日に期限を迎える緊急事態宣言の効果がどのようになるか。また、医療従事者と高齢者のワクチン接種が順調に進むのかどうか。
2つ目は、東京五輪・パラリンピック開催問題。菅首相は、開催を前提に感染対策を進める方針だ。一方で、コロナの感染状況が、世界や日本国内でどのようになるのか、決断の時期が近づいている。
3つ目は、7月の東京都議選の結果だ。都議選は、国政選挙の先行指標になってきた。自民党は前回は歴史的な大敗を喫したが、今回は公明党との選挙協力が復活するので、議席を回復するとみられているがどうなるか。
こうした3つのポイントを経ながら、政権与党内で菅首相続投を求める声が強まるのか。それとも交代を求める動きが出てくるのか、菅政権は秋に向けて、綱渡りの政権運営が続くことになりそうだ。