衆参3選挙 自民全敗”早期解散遠のく”

菅政権発足後最初の国政選挙となった衆参3つの選挙は、いずれも野党候補が勝利し、自民党は候補者擁立を見送った選挙を含めて、全敗した。

この選挙結果は菅政権の政権運営を直撃し、自民党内の一部から出ていた早期解散論は遠のき、秋の解散・総選挙の可能性がさらに高まったとみている。

今回の選挙結果をどのようにみるか、菅政権や政局に及ぼす影響などを分析してみたい。

 金権政治批判、怒り噴出、広島選挙

今回の3つの選挙、早い段階から「自民党が1勝できるか、3戦全敗になるか」が大きな関心事項だった。衆院北海道2区は、吉川元農相の収賄事件に伴う補欠選挙で、自民党は候補者擁立を見送り、不戦敗。参院長野選挙区は、羽田元総理の厚い選挙地盤に加えて「弔い選挙」、野党が強いとみられていた。

残るは参院広島選挙区がどうなるか。河井克行元法相夫妻の前代未聞の大規模買収事件に伴う再選挙で、「政治とカネ」の問題が最大の争点になった。

広島は「保守王国」といわれ、一昨年参院選挙の政党を選ぶ比例代表選挙では、自民党は41万票、立憲民主党15万票の3倍近い得票をしていた。選挙前には「ギリギリで自民が勝つか」との見方も強かった。

フタを開けてみると野党候補の宮口治子氏が37万票860票、自民党候補の西田英範氏が33万6924票、3万票余りの差をつけて宮口氏が初めての当選を果たした。広島の知人に聞いてみると「政治とカネ、金権政治に対する有権者の怒りが底流にあったのではないか」と語る。

NHKの出口調査では、宮口氏に投票した人が最も重視したのは「政治とカネをめぐる問題」が35%で最も多く、次いで「コロナ対応」19%、「経済・雇用政策」13%などとなっていた。

投票率は33.61%で、一昨年の参院選挙に比べて11ポイントも下がり、過去2番目に低かった。自民党の支持層では、2割以上が野党の宮口氏に投票したほか、「政治とカネ」の問題に嫌気がさして、棄権した人も多かったのではないか。

今回の3つの選挙、自民党の敗因としては、コロナ感染拡大に歯止めをかけられない政権に対する不満が共通しているほか、選挙区によって「政治とカネ」の問題が重なったことが挙げられる。

 菅政権を直撃 反転攻勢吹き飛ぶ

今回の選挙結果は、菅政権を直撃する形になっている。支持率が急落した菅首相は4月は反転攻勢と位置づけ、12日にワクチンの高齢者優先接種を開始したのをはじめ、世界の指導者に先駆けて訪米、16日にはバイデン大統領と日米首脳会談を実現し、対中けん制の共同声明を打ち出した。

ところが、コロナ感染の急拡大が収まらず、23日には東京、大阪など4都府県に3度目の緊急事態宣言発出に追い込まれた。これに衆参3つの選挙全敗が、追い打ちをかけた。反転攻勢が吹き飛ぶ形になっているのが実状だ。

今回の選挙は菅政権が去年9月に発足後、最初の国政選挙だ。政権発足当初は”たたき上げ首相”が好感され、高い内閣支持率を記録した。ところが、コロナ対応が後手に回り、放送関連会社に勤める長男が総務官僚に多額の接待を繰り返していたことも明らかになるなど政権や与党の不祥事が相次いでいる。

今回の選挙について、自民党内には「補欠選挙や再選挙であり、政権運営には影響しない」との受け止めもあるようだが、額面どおり受け取る人は永田町では少ない。政治とカネ、国民への説明が乏しい政治の現状。3つの選挙区の有権者だけでなく、国民の多くが菅政権に対して厳しい見方や不信感を抱いていることを真正面から受け止める必要がある。

 ”五輪前解散”遠のく 都議選注視

今後の政局への影響は、どうだろうか。衆議院議員の任期満了まで半年を切った。最大の焦点は、次の衆議院解散総選挙がいつ断行されるのかだ。

自民党内の一部からは、春の解散・5月下旬投票説のほか、東京五輪前、7月の東京都議選とのダブル選挙説などが流されてきた。

今回の選挙結果で、政治とカネをめぐる自民党の体質や政治姿勢、コロナ感染を抑え込めない政権に対する有権者の厳しい評価を考えると、東京五輪前の解散・総選挙は遠のいたのではないか。

菅首相は26日記者団の質問に対して「コロナ対策を最優先に考えている」と早期解散に慎重な姿勢を重ねて示した。ワクチン接種を軌道に乗せることも考えると、秋の解散・総選挙の可能性がさらに強まっていると個人的にはみている。

今後の政治の動きをみていくうえで、ポイントは3つある。1つは、来月11日に期限を迎える緊急事態宣言の効果がどのようになるか。また、医療従事者と高齢者のワクチン接種が順調に進むのかどうか。

2つ目は、東京五輪・パラリンピック開催問題。菅首相は、開催を前提に感染対策を進める方針だ。一方で、コロナの感染状況が、世界や日本国内でどのようになるのか、決断の時期が近づいている。

3つ目は、7月の東京都議選の結果だ。都議選は、国政選挙の先行指標になってきた。自民党は前回は歴史的な大敗を喫したが、今回は公明党との選挙協力が復活するので、議席を回復するとみられているがどうなるか。

こうした3つのポイントを経ながら、政権与党内で菅首相続投を求める声が強まるのか。それとも交代を求める動きが出てくるのか、菅政権は秋に向けて、綱渡りの政権運営が続くことになりそうだ。

 

 

“3度目緊急事態宣言”が問われる点 

新型コロナ対策について、政府は23日、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に緊急事態宣言を出すことなどを決めた。期間は25日から5月11日までの17日間。去年4月、今年1月に続いて3度目の宣言になる。

今回の対策は、酒類を提供する飲食店や大型商業施設などに休業を要請するのをはじめ、強力な対策を短期に集中して実施し、コロナ感染を抑え込むとしているが、果たして成功するだろうか。

”3度目の緊急事態宣言”、何が問われているのか、緊急宣言決定後に行われた菅首相の記者会見を中心に探ってみたい。

 納得感と説得力乏しい記者会見

菅首相のおよそ1時間に及ぶ記者会見を聞いて、政府の今回の対策について、納得感や説得力は感じられなかった。なぜかと考えてみると、「これまでの対応の総括」がないことと、今回の対策は「どのような目的・目標」を設定して取り組もうとしているかが、はっきりしないからではないかと思う。

記者会見の中で、菅首相は「再び、多くの皆様方にご迷惑をおかけすることになる。心からお詫びを申し上げる」とのべたが、これまでの政府の取り組みのどこに問題があり、どのように改めていくかの言及はなかった。

「懸念されるのは変異株の動きで、このまま手をこまねいていれば、大都市での感染拡大が国全体に広がることが懸念される」とのべたうえで、「ゴールデンウイークという多くの人が休みに入る機会をとらえ、対策を短期間に集中して実施することで、ウイルスの勢いを抑え込む必要があると判断した」として、短期集中型の対策に理解を求めた。

振り返ってみると菅首相は1月の緊急宣言以来、飲食店の営業時間短縮に重点を置く対策を取り続けてきたが、感染を抑え込むことができず、再び宣言発出に追い込まれた。去年の第1波、第2波の感染が落ち着いた後もどこに問題があったのか、点検・総括を先送りにしてきた。

また、今年1月に緊急事態宣言を出す際、飲食店の時短に偏りすぎて対策として弱かったことが、感染を抑えられなかった要因と指摘する見方もある。

今回の対策でも菅首相は、飲食店対策と人の移動・人流を減らす対策の両方を重視する考えを示しているが、「人流抑制」に舵を切ることが重要だとする意見が政府内にある。どちらに重点を置くのか、目標、基本姿勢を明確にしないと政策の効果が上がらないのではないか。総括と目標の明確化が必要だ。

 対策の中身 変異株、感染抑制効果は

次に問われるのが、「対策の具体的な中身」だ。強い対策と強調するが、本当に効果を上げることができるか、実効性が問題になる。酒類を提供する飲食店やカラオケ店などに対する休業要請に始まって、百貨店などの大型商業施設の休業要請、さらにプロ野球やJリーグの無観客試合など幅広い対策が盛り込まれている。

確かにこうした対策が取られた場合、感染抑制につながる人出・人流の減少という点で一定の効果は期待できる。

一方、厚生労働大臣経験者に話を聞くと、変異株の急増に対応するためには、人流の抑制が必要で、そのためには大都市圏への通勤者を減らす対策を徹底して行う必要があると強調している。

去年第1波の時のようにテレワークや有給休暇の取得などで7割、8割削減を徹底して行うこと。企業、経済団体などへの働きかけも弱いと指摘する。

このほか、休業要請を行う場合は、休業に対する補償、協力金が十分かどうか。そして、本当に協力が得られるのかどうか、今回も大きな問題になっている

さらに変異株の検査・監視をはじめ、陽性者の宿泊、入院・治療体制整備はどこまで進んでいるのか。政府や自治体は、国民への自粛要請を繰り返すが、行政の側はどんな取り組みを行い、改善しているか説明は極めて乏しい。

  第4波 感染収束のシナリオが必要

国民が知りたいのは、変異株を中心とした感染拡大第4波を収束させるために、政府はどのような対策を組み合わせ、危機を脱出するのかという点だ。

最初の緊急宣言が出されてから、すでに1年以上が経過した。政府は、夏には東京五輪・パラリンピックを感染対策を徹底して行う方針だ。そうであるならば、ワクチン接種を含め、今後の感染対策をどのように実施していくのかのシナリオを示す必要がある。

この点に関連して、菅首相は記者会見で、4月から始まった高齢者の優先接種は「7月末を念頭に各自治体が2回、接種を終えることができるよう、政府を挙げて取り組んでいく」とのべ、高齢者接種のメドを明らかにした。

また、先の訪米で、ファイザー社のCEO、今年9月までにすべての対象者に確実に供給できるめどが立ったと説明している。こうした点について、本当に確約が得られているのか疑問だとする見方もあるので、根拠を具体的に明らかにしてほしい。

ワクチン接種については、地方自治体側からは「5月の連休明けのワクチンの配分量が未だにわからない状態を、何とかして欲しい」という要望が強い。ワクチン確保が確実になったというのであれば、各市町村への具体的な配分のメドを示すことを注文したい。

菅首相は記者会見で「危機乗り切りに、自治体との協力、病床の確保、ワクチン接種など内閣総理大臣として、できることはすべて全力を尽くしてやり抜く」と決意を語った。

そうであるならば、その場しのぎの対症療法に陥らないように、まずは既に打ち出している政府の総合対策の進捗状況をきちんと説明したうえで、第4波を抑え込む道筋を明らかにする必要がある。

今回の対策の期限である来月11日の節目には、菅政権のコロナ対策全体の取り組み方を明らかにすることを強く求めておきたい。

 

 

日米首脳会談と政治・外交のゆくえ

菅首相とアメリカのバイデン大統領は、16日の日米首脳会談で、日米同盟を深化させるとともに、覇権主義的な動きを強める中国に対して、共同で対抗していく姿勢を打ち出した。

これに対し、中国側は「強烈な不満と断固たる反対」を表明する談話を発表した。米中対立が激化する中で、日本は難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。

今回の日米首脳会談は、日本の政治や外交、安全保障にどのような影響を及ぼすのか探ってみたい。

 日本外交・安全保障に重い責任

今回の日米首脳会談は対中戦略が大きな焦点になり、会談を受けての共同声明は、中国を強くけん制する内容を打ち出した。その象徴が、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。

共同声明で台湾に言及したのは、日中国交正常化前の1969年の佐藤首相とニクソン大統領の会談以来52年ぶりだ。

また、菅首相は会談後の共同記者会見で、「防衛力の強化を図る決意」を表明した。尖閣諸島の防衛をはじめ、日本の防衛力の整備、台湾有事を想定したアメリカ艦船への補給など後方支援などの検討も課題になるとみられる。

これに対して、中国側は今後さまざまな形で、対日圧力をかけてくるものとみられる。米中対立の激化が予想される中で、中国とどのように向き合うか、日本は外交・安全保障などの分野で重い責任を担うことになる。

中国は、日本の最大の貿易相手国だ。経済面でどのような影響が出てくるのか、検討も迫られる。中国に対する外交、安全保障、経済、先端技術など総合的な対策・戦略が必要になる。コロナ対策では後手の批判を浴びたが、総理官邸が中心になって対中戦略づくりが進むのかどうか、菅首相の指導力が問われる。

 ”政権運営の支え役” 日米首脳会談

次に国内政治への影響はどうか。日米合意内容は重い課題だが、菅政権にとっては、短期的には”政権運営の支え役”になる。政権に対する批判を浴びても、日米合意の実現を図る責任があるとして、批判を封じることもできる。

例えば、4月下旬の衆議院北海道2区、参議院の長野、広島のトリプル選挙で、仮に与党系候補が敗れた場合。あるいは、7月の東京都議会議員選挙が不振に終わり、”菅降ろし”などの動きが出た場合、外交の責任を持ち出して批判をかわすことも可能になるとみられる。

東京五輪・パラリンピックについても首脳会談で、菅首相は開催に強い決意を表明し、バイデン大統領は支持したとされる。今後の感染状況にもよるが、菅首相は、開催を推進する方針は変えないとみられる。

菅政権の今後の政権運営は、4月下旬の気候変動サミット、6月中旬のG7サミットなどの外交案件をこなしながら、7月から9月はじめにかけての東京五輪・パラリンピックへとつなぎ、秋の政治決戦に打って出る戦略だとみられる。

 秋の解散・総選挙の公算大か

菅首相は、訪米中に同行記者団から衆院解散・総選挙について質されたのに対し、「まずは新型コロナ対策をしっかりやりたい。同時に10月に衆議院議員の任期が来るので、秋までの間で時間の制約はあるが、よく考えていきたい」とのべた。

この発言と先の政治日程とを合わせて考えると、◆7月の東京都議選に合わせた解散・総選挙の可能性は小さい。◆基本はコロナ対策を進めたうえで、秋の解散・総選挙の公算が大きい。◆その際、9月解散・総選挙を断行し、その後、自民党総裁選を行う方針を模索しているのではないかとみている。

但し、以上は菅内閣の支持率が高く、政権が求心力を保っていることが前提だ。求心力低下となれば、首相の交代論が出てくることも予想される。

 カギは、感染状況とワクチン接種

それでは、これからの政治を動かすカギは何か。結論を先に言えば、コロナ感染状況と、ワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。

ワクチン接種については、河野担当相が、訪米中の菅首相とアメリカ製薬大手ファイザー社との間で、ワクチンの追加供給を受けることで実質合意したと明らかにした。そのうえで、国内のすべての対象者に必要な数量を9月中に供給できるとの見通しを示した。

今月12日から始まった高齢者の優先接種に必要な数量は、既に6月末までに確保できるとの見通しが示されている。問題は、ワクチン接種が高齢者に続いて、基礎疾患のある人、さらに一般の人に打ち終わるまでに、感染拡大を抑えられるかどうかだ。

全国の感染状況は18日の時点で、大阪府では新規感染者が1220人で過去最多を更新。まん延防止等重点措置を適用して2週間が経つが、効果が現れていない。東京都も543人で、500人を超えるのは6日連続。全国の新規感染者数は4000人に増加。感染力の強い変異株に置き換わりつつあることも影響しているものとみられる。

菅政権の先行きは、こうしたコロナ感染を抑え込めるのか。今のような飲食店の時間短縮重点では限界があり、より強い新たな対策に踏み込む必要があるのではないか。

一方、外交面では、中国とどのように向き合うのか。外交、安全保障、経済を含めた対応策を国民に説明、理解を得ながら取り組む必要がある。内政、外交の大きなハードルを乗り越えられるのか、菅政権の実行力が問われている。

”総括も道筋もなき”コロナ対策 菅政権

新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って、東京、京都、沖縄の3都府県に12日から「まん延防止等重点措置」が適用される。大阪など既に適用されている地域と合わせると6都府県に拡大した。

注目のワクチン接種も先行している医療従事者に続いて、12日からは高齢者を対象にした優先接種が始まる。

感染再拡大とワクチン接種の同時進行という新たなフェーズに入ったが、菅政権の対応をみると、対策の総括がなされないので、効果はあまり期待できない。

また、コロナ感染危機脱出への道筋も示されていないという問題を抱えたままだ。第4波が現実味を帯びてきた中で、何が問われているのか探ってみた。

「まん延防止」で抑え込めるか?

菅政権が新たに採用したのが、コロナ対策の特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」だ。緊急事態宣言が各都道府県内全体を対象にするのに対して、「まん延防止」は、知事が地域を決めて飲食店の営業時間短縮などを要請できる。

機動的に対処できるが、感染力が強い変異ウイルスが拡大している局面で、効果が期待できるのかどうか、自民党の厚生労働経験者に聞いてみた。

「一定の効果はあると思うが、はっきり言って限界もある。政府の今の対策は、”川下”での対策だ。サラリーマンなどが勤務を終えて一杯やる居酒屋での感染拡大を防ぐ。しかし、感染の急拡大を抑え込むには、人の移動を減少させる”川上”対策、蛇口を閉める対策まで踏み込むことが必要だ」と指摘する。

具体的には、去年春の感染拡大期にとられた「テレワークの徹底」。首相をはじめ、西村経済再生相、田村厚労相などが必死で企業、経済団体などを回り、出勤者の7割、8割削減を要請することだ。中小企業については支援策も用意して、協力を要請すべきだ。

そして「2週間程度、短期集中型で感染を極めて低レベルに抑え込んだうえで、新たな対策を実行しないとリバウンドの防止は無理だろう」と指摘する。

 ”総括も道筋もなき”コロナ対策

次に、菅政権のこれまでのコロナ対策はどこに問題があるか。端的に言えば、”総括も道筋もない対策”といえるのではないか。

例えば、先に東京など3都府県に「まん延防止等重点措置」の適用を決めたが、その2週間余り前には緊急事態宣言解除に合わせて「5つの柱からなる総合対策」を打ち出した。変異ウイルス対策の強化やPCR検査の拡充、医療提供体制の強化などで、ようやく政府の対策に盛り込まれた。

ところが、今回、新たな「まん延防止措置」を打ち出すのにあたって、総合対策はどこまで進み、新たな措置とどのように関連づけて実行していくのかといった総括や説明はまったくない。その時々の対応、”対症療法”の繰り返しに終始している。

菅政権のコロナ対策は、年明けの緊急事態宣言以降、飲食店の時間短縮中心の”1本足打法”で一貫している。第1波、第2波の総括も先送りにしたままなので、いったん打ち出した対策以外は、新たな対策はなかなか採用されない。

また、決め手と位置付けるワクチン接種をどのように進めていくのか、供給量や接種スケジュールもはっきりしない。さらに、感染抑止とワクチン接種を組み合わせた実施計画や、経済・社会活動の本格化につなげる出口への道筋も未だに示されていない。

最初の緊急事態宣言発出から既に1年、菅政権発足から半年余りが経った。菅政権は暮らしと経済活動を軌道に乗せていく道筋を早急に示す時期に来ている。

  ワクチン接種と政権の実行力

感染抑制と経済活動再開への切り札になるのがワクチン接種だが、日本は先進国の中で後れをとっている。2月17日から医療従事者の先行接種始まったが、4月9日までのデータで159万回に止まる。

4月12日からは、いよいよ高齢者の優先接種が始まる。但し、ワクチン確保量が極めて少ないため、本格的な接種は5月以降になる見通しだ。

河野ワクチン担当相は、6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられるワクチンは確保できると強調する。これに対して、接種主体の自治体担当者からは「いつ、どれくらいのワクチンが届くのか具体的な情報がない」と不満は強い。

ワクチン接種の道のりは長い。高齢者の優先接種が終わった後、基礎疾患ある人・約820万人、次は高齢者施設の従事者・約200万人、さらに60歳から64歳までの高齢者・750万人と続く。その後、ようやく一般の人たちとなる。かなりの時間がかる。

それまでの間、第4波を防ぎながら、ワクチン接種を順調に進めることができるか。やるべき対策は、これまでの経験からはっきりしている。PCR検査の拡充をはじめ、変異株を把握する検査強化、病床の確保と転院調整など医療提供体制の整備だ。

菅政権の対策は飲食店の時間短縮が中心だが、これからは多様な対策を組み合わせて、感染抑制の効果を上げられるか実行力が厳しく問われる。

大阪をはじめとする関西圏では、このところ新規感染者数が過去最多となっているほか、重症病床もひっ迫している。東京も先月22日に緊急事態宣言が解除された後、感染拡大傾向が続いている。

当面、まん延防止措置の効果が現れるのか、それとも3度目の緊急事態宣言に追い込まれるのか、この2週間の感染状況をしっかり見ていく必要がある。

 

 

 

 

 

”五輪前解散 困難” コロナ感染再拡大

新型コロナ感染が急増している大阪、兵庫、宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が5日から初めて適用される。

感染は全国的に拡大傾向にあり、政府は感染拡大を抑え込めるか。仮に歯止めをかけることができず、第4波となると菅政権の先行きは一段と厳しくなる。

今回の感染再拡大の兆候は、政権や政治にどんな影響を与えることになるのか、探ってみる。

 変異ウイルス拡大 第4波も警戒

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が全面的に解除されたのが3月22日。それから2週間も経たないうちに、今度は、大阪、兵庫、宮城の3府県で感染者が急増し、政府は「まん延防止等重点措置」の初めての適用に踏み切った。

重点措置の期間は、4月5日から5月5日までの1か月。3府県の知事が、地域を決めて飲食店の営業時間の短縮要請などの措置を取ることになる。

また、大阪や兵庫など関西地域では、感染力の強い変異型のウイルスの拡大が目立つ。専門家は今後、全国的にウイルスは変異株に置き換わっていくだろうと神経をとがらせている。

さらに、東京をはじめ、山形、愛媛、沖縄など43都道府県で、新規感染者数の増加傾向が続いている。政府コロナ対策の尾身会長は「第4波に入りつつある」と感染再拡大に警戒を強めている。

 重点措置 東京など視野に追加も

こうした感染再拡大への対応について、西村担当相は4日のNHK日曜討論で、東京などの首都圏をはじめ、沖縄、山形、愛媛、奈良、京都、愛知などの都府県の名前を挙げたうえで、「まん延防止重点措置を中心に臨機応変に対応したい」とのべた。

政府は、東京などで感染の急拡大がみられる場合は、この「まん延防止等重点措置」の適用を追加して、感染拡大を抑え込む方針だ。

政府と、東京都など都府県の知事との調整がどのように進むか、今後の注目点の1つだ。

 五輪前の解散・総選挙は困難か

次に今年の政治の焦点である衆議院の解散・総選挙の時期に及ぼす影響はどうか。自民党の二階幹事長は、野党側が内閣不信任決議案を提出した場合は、衆院解散・総選挙に打って出るよう進言すると強気の姿勢を見せている。

また、自民党の一部には、東京オリンピック・パラリンピック前の解散・総選挙をめざすべきだとする見方が出されてきた。4月解散・5月23日投票説や、7月4日東京都議選とのダブル選挙説などだ。

自民党のベテランに見通しを聞くと「コロナ感染を抑え込めないと、解散・総選挙は無理だ。自民党の選挙運動は”蜜”そのもので、支持者は高齢者が多い。万一、感染者や亡くなる人が出たら、それでお仕舞いになる」。

3府県のまん延防止等重点措置の期間は5月5日までと設定されたことで、その前の解散は難しく、5月23日投票説は時間的に不可能だ。

次に7月4日都議選とのダブル選挙説は、5月、6月はワクチン接種が全国の自治体で本格化するとみられること。また、ワクチン接種会場と投票所とが重なっている地域もあることから、ワクチンと選挙の同時実施は困難だとする意見が強い。

さらに、選挙の勝敗への影響。公明党は東京都議選を国政選挙並みに重視している。都議選の時期と衆議院選挙が重なれば、公明党・創価学会票が自民党候補への上乗せ効果が下がり、接戦区で自民党が議席を減らすことになりかねない。このため、自民党はこの時期の解散は避けるとの見方が強い。

菅首相も「最優先はコロナ感染拡大を防ぐことだ」と早期解散には慎重な姿勢を変えていない。したがって「五輪前の解散・総選挙は困難」とみられる。最終的には「五輪後の秋の解散・総選挙」の可能性がさらに強まっているとみてよさそうだ。

 4月感染状況 政権・政局を左右

今後の政治の見方・読み方だが、「4月の感染状況がどうなるか」がポイントになるとみている。

4月は、12日から高齢者を対象にしたワクチンの優先接種が始まる。16日には、菅首相が訪米してバイデン大統領との日米首脳会談が行われる。世界のリーダーに先駆けての会談になるだけに、菅首相としては、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

感染状況が収まっていれば問題はないが、逆に感染再拡大になっていれば、日米首脳会談効果も帳消しになりかねない。東京オリンピック・パラリンピックの開催環境にも影響してくる。

さらに4月25日には、衆参のトリプル選挙も行われる。衆議院の北海道2区、参議院長野選挙区の補欠選挙、それに参議院広島選挙区の再選挙の3つ。元農相の収賄事件や大規模買収事件が原因の選挙などだ。政府のコロナ対応、一連の相次ぐ不祥事なども有権者の判断材料になるだろう。

コロナ感染状況とトリプル選挙の審判。政権発足後、半年余りの菅政権に対する有権者の評価が示される。政権浮揚に向かうのか、それとも政権直撃・求心力低下となるのか、分かれ道になる。

 ワクチン接種と感染抑止の実績は

最後に国民の関心が強い、ワクチン接種と感染対策について触れておきたい。

ワクチン接種は、4月12日から高齢者の優先接種が始まるが、未だに「いつ、どれだけの分量が届くのかわからない」と自治体関係者の悩みは続いている。5月以降、本格化するのではないかとみられているが、明確な見通しはついていない。

また、仮に高齢者接種が順調に進んだとしても、次は基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者のあと、ようやく一般の人たちになる。ワクチン接種の計画・見通しをできるだけ早く示す責任がある。

さらに、ワクチン効果が上がるまでにはかなりの時間がかかるので、当面の感染再拡大を抑え込めるかどうかが、大きな問題になっている。

菅政権の対応を見ていると対策は発表するが、対策がどこまで進んでいるのか説明がなされない。例えば、先月打ち出された変異ウイルス把握の検査拡充や、繁華街などでの無料大規模PCR検査などもどこまで実行できているのか、停滞しているのか、一向に明らかにされない。

今回の感染再拡大に対して、菅政権は「まん延防止重点措置」で飲食店の営業時間短縮で乗り越えようとしている。こうした対策は一定の効果はあるだろうが、限界がある場合は、より強い対策に切り替えていく柔軟性を示してもらいたい。

最初の緊急事態宣言が出されてから、今月7日で1年になる。この間、繰り返し指摘されてきたPCR検査体制の拡充をはじめ、国と自治体との病床確保の調整・整備体制づくり、さらに変異ウイルスの検査強化などの課題について、これまでの取り組みの結果・実績を明らかにすることを強く求めておきたい。