菅首相”二正面作戦”の賭け

東京、大阪など9つの都道府県に出されている緊急事態宣言は、5月31日の期限が6月20日まで延長されることになった。

菅首相は、この延長期間で「感染防止とワクチン接種とという『二正面作戦』の成果を出す」と決意を示すが、東京五輪を控え、期限内に感染を抑え込み、宣言を解除できるのか大きな賭けとみることもできる。菅政権の対応を点検する。

 ”宣言などなし”わずか21日間

緊急事態宣言を振り返ると、東京などに2度目の宣言が出されたのは、年明けの1月8日。以来、宣言の延長、再延長、緊急事態に準じる「まん延防止等重点措置」も出され、”宣言などが解除され何もなかった日”は調べてみると、わずか21日間だ。

今回、6月20日まで延長が続くと、東京はざっと半年間で”宣言などなし”は、3週間という短さだ。これでは、政府や自治体の対応は、失敗、失政と言わざるをえない。

 二正面作戦 実態はワクチン頼み

さて、菅首相は宣言延長を決めた28日夜の記者会見で、今回の宣言延長ついて「感染抑止とワクチン接種という『二正面作戦』の成果を出すための、極めて大事な期間と考えている。内閣の総力を挙げて取り組んでいく。私自身その先頭に立ってやり遂げていく」と決意を表明した。

問題は、二正面作戦の中身だ。感染防止の中身は、飲食店の時間短縮や酒提供の停止が中心で、これまでとほとんど変わっていない。成果が上がるか疑問が残る。

もう1つのワクチン接種は、新たな挑戦という位置づけだ。ワクチンという新たな武器をようやく手にできたので、これを最大限活用して、何としても感染を抑え込みたいというのが本音のようだ。

ということは、二正面作戦と言っても、柱はワクチン接種、ワクチン頼みというのが実態だ。

その二正面作戦の柱であるワクチン接種は、接種率が5割を超えると感染者数が大幅に減少するといわれるが、いつ5割達成を目指すのか”戦略目標”は、はっきりしない。

また、ワクチン効果が出るまでには時間がかかる。その間、変異株にどう対処するのか。感染防止の新たな具体策、ワクチン接種の進み具合などとを組み合わせた”工程表”も示されていない。

 ワクチン接種の加速 調整機能に弱点

ワクチン接種について、もう少し詳しく見ておきたい。菅首相は「できることは全てやる。1日100万回を目指し、高齢者接種は7月末まで完了させる」と号令をかけている。

また、高齢者接種の見通しがついた市区町村から、次の基礎疾患がある人たちを含め、一般の人たちの接種を6月中から開始するとワクチン接種をさらに加速させる指示を出している。

接種の現状は、高齢者3600万人のうち5月27日現在で、1回目の接種が終わった人が10.4%、2回目が終わった人は0.7%に止まる。目標は、まだまだ遠い。

気になるのは、高齢者接種の市区町村が主体とされてきた。ところが、ここにきて国・自衛隊が乗り出し、東京と大阪で大規模接種会場を設営した。続いて、都道府県も独自の大規模接種を始める見通しだ。国、都道府県、市区町村の連携などは大丈夫か。

一方、市区町村の現場の悩みは、ワクチン接種の打ち手が足りないことだ。歯科医にも参加してもらうことになったが、さらに医療の検査関係者にまで広げられないか調整が続いている。

こうした対応を見るとついつい、海外と比較してしまう。専門家によるとイギリスでは、大規模接種を進める公的な組織があり、接種会場も病院、診療所だけでなく、教会や競馬場などにも設営するなど早くから準備を進めてきた。

また、接種要員が不足することが予想されたため、去年の夏には、医学生や理学療法士なども接種を行えるよう検討を始め、10月には法律改正も済ませたという。先を読み、用意周到だ。

これに対し、日本は、夏に五輪・パラリンピックが決まっていながら、対応は遅く”場当たり的対応”が目立つ。先の大戦の「失敗の本質」は今も変わっていないのではないかと感じてしまう。

高齢者に続いて、今後は一般の人たちへと対象者がさらに広がる。ワクチン接種についても司令塔、全体を統括・調整する機能が弱い。計画的に準備を進め、混乱が生じないよう強く注文しておきたい。

 五輪開催に突き進む 難題は山積

東京オリンピック・パラリンピックについて、菅首相は開催へと突き進む方針だ。「安全、安心な大会に向けて取り組みを進める」と繰り返す。

これに対して、世論の受け止め方は報道各社の世論調査で、中止を求める割合が4割から6割で多数を占める。開催する場合も、観客を入れない無観客を求める意見が最も多い。

世論の側は、世界の感染状況が深刻な中で、開催が妥当なのか。日本国内の医療に及ぼす影響などを深刻に受け止めている。

こうした点について、菅首相は、来日する大会関係者を当初の18万人から半分以下の7万8千人に減らすほか、選手や関係者には徹底した検査とワクチン接種、宿泊先の制限などで、一般国民と交わることがないよう徹底した行動管理を行うと強調する。

健康管理にあたる医師や看護師など医療関係者の確保、それに感染者が出た場合の指定病院など体制整備について、首相の記者会見では触れなかった。

さらに、国内の観客の扱いについても未だ決まっておらず、大会開催への課題は山積している。

安全、安心な大会は可能なのか、科学的なデータとともに感染対策の全体像を早急に明らかにする必要がある。開催の賛否が鋭く対立する中では、データに基づいて科学的に判断、決定するのが基本だ。

また、開催に踏み切る場合には、万一、感染急拡大など事態悪化の場合、自ら政治責任を取る考えを明らかにしないと国民の納得は得られないのではないか。

東京や大阪では、新規感染者数は減少してきているが、高止まり状態が続き、予断を許さない状況だ。宣言の期限である6月20日までに「二正面作戦の成果」が現れ、緊急事態宣言が解除されるのかどうか、菅首相にとって正念場を迎えている。

 

 

菅政権 相次ぐ難題 カギは東京都議選  

新型コロナ対策の緊急事態宣言は23日から沖縄が追加され、10都道府県に拡大した。このうち、沖縄を除く地域では今月31日が期限になっている。延長されるのか、解除はあるのか。

一方、東京オリンピック・パラリンピックは開幕まで2か月を切ったが、中止はあるのか。高齢者向けのワクチン接種は7月に完了するのか。さらに菅政権はどうなるのかといった質問を多く受ける。

そこで、こうした相次ぐ難問に対して、菅政権はどのように対応しようとしているのか、探ってみたい。

結論を先に言えば、個別の問題は激しい動きがあるが、政治のゆくえに大きな影響を及ぼすのは、来月25日に告示される東京都議会議員選挙。この結果が、秋の政局を大きく左右するとみる。

以下、その理由を解説したい。

 緊急事態宣言 延長の公算大

まず、先月25日に東京、大阪などに出された緊急事態宣言の扱いだが、大型連休明けに宣言延長を決めた際に、政府関係者の間ではオリンピックも近づいており、期限の31日までには余裕をもって解除できるのではないかとの見方をする人が多かった。

ところが、その後は完全に逆の展開で、感染は地方に拡大。愛知、福岡に続いて、北海道、岡山、広島、さらには沖縄まで3週連続で追加され、10都道府県に拡大した。「まん延防止等重点措置」も8県になった。

政府の専門家の間では「大阪、東京は新規感染者の減少傾向がみられるが、なお見極める必要がある。北海道や沖縄、福岡などでは感染急拡大が続いており、変異株の急激な置き換わりも考慮に入れると、解除できる状況にはない」と緊急宣言の延長論が大勢だ。

これに対して、菅首相は「今月末に判断する」と態度を明らかにしていないが、専門家の意見を最終的には受け入れるのではないかとみる。というのは菅内閣の支持率は政権発足以来最低で、専門家の意見を覆すだけの力はない。

また、菅首相自身も今、最も力を入れているのは、ワクチン接種と、東京五輪・パラリンピック開催の2つだ。五輪開催のためには、大会直前の感染拡大を抑え込む必要があり、宣言延長を容認する可能性が強いとみる。

 菅首相 五輪中止の選択はあるか

次に東京オリンピック・パラリンピックの開催中止はあるか。この問題は、国内だけでなく、海外の感染状況など多くの変動要因があり、断定的に言えるだけの判断材料や能力はない。

但し、国内政治を取材している立場からすると、菅首相が自ら中止の選択をする確率は極めて低いとみる。

その理由は、東京五輪・パラリンピックの招致に大きな力を発揮したのは安倍前首相だった。同じように、東京オリパラの開催問題で、影響力を持っているのは時の政権、菅首相だ。

その菅首相の政権運営、特に解散・総選挙戦略に、東京オリパラ開催は事実上、組み込まれている。夏に大会を開催し、その成果を秋の解散・総選挙につなげていく戦略なので、中止の公算は極めて乏しいとみる。

政界の一部などには、小池都知事や菅首相が土壇場で大会中止を打ち出し、政局をリードするのではないかといった見方もある。しかし、首相が大会中止を打ち出せば、その政治責任を問われ、退陣表明に追い込まれる公算の方が大きいのではないか。

一方、大会開催に踏み切った場合、世論の側は、コロナ禍での大会は中止すべきとの意見も強いので、政権に対する批判が強まる可能性も大きい。

結局、未だに具体的な説明がない、大会の国内観客数や感染対策、国内の医療提供体制への影響、さらにはコロナ禍で五輪を開催する意義などを国民に訴え、理解を得られるのかどうかが問われることになるのではないか。

 ワクチン接種 7月完了は可能か

菅首相は先月下旬、高齢者のワクチン接種について「1日100万回、7月末完了」を打ち上げた後、自衛隊による大規模接種が決まった。また、総務省と厚生労働省がタッグを組んで、接種に当たる地方自治体に接種を急ぐよう猛烈な働きかけを続けている。

両省が全国1741市区町村を対象に聞き取り調査を行った結果、21日時点で「7月末完了」の見通しを伝えたのは、1616市区町村、93%に達している。

但し、この回答の中には、医療従事者の確保ができた場合という留保条件をつけている自治体もある。自治体側は、打ち手の医師や看護師の確保に四苦八苦しているところが多い。7月完了は流動的な要素が残っていると見た方がよさそうだ。

ワクチン開発や海外での獲得競争の話は横に置くとして、日本のワクチン接種の対応はどうか。イギリスでは、去年夏の時点で、いち早く打ち手の要員について、医師だけでなく医学生、理学療法士など資格を持たない人にも広げる検討を始め、法改正を実現するなど準備を着実に進めてきたという。

これに対して、日本の取り組みは、高齢者接種は事実上、地方に丸投げ。突如、自衛隊による大規模接種構想が浮上したりと”場当たり、突貫工事”の連続だ。高齢者に続いて、一般国民の接種まで順調に進むのかどうか不確定要素は多い。

 菅政権と政局 都議選がカギ

それでは、菅政権はどうなるのか。これまで見てきた緊急事態宣言の扱いを含めた感染の抑え込み、東京オリパラ開催問題、ワクチン接種の問題を乗り切ることができるかどうか。

但し、こうした難題への対応について、与党内から強い批判や責任追及が直ちに出てくる可能性は小さい。菅政権の評価や批判などが出てくる可能性があるのは、東京都議会議員選挙ではないか。

都議選は来月25日告示、7月4日の日程で行われる。各党とも国政選挙並みに力を入れる。国政のテーマが選挙の争点になるケースが多い。次の国政選挙、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。

この都議選で、政権与党である自民党の議席がどうなるか。その結果によって、菅政権や秋の政局に影響が出てくる。自民党は前回の都議選では、歴史的大敗を喫したが、今度の選挙では公明党との選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれる。

一方、このところ報道各社の世論調査では、菅内閣の支持率だけでなく、自民党の支持率の低下傾向が現れ始めた。政府のコロナ対応に対する有権者の批判が、自民党の支持率にも影響が出始めたのではないか。このため、自民党は議席は回復するが、その程度、勝ち方が焦点の1つになる。

以上、見てきたように菅政権にとっては、まずは相次ぐ難題を乗り切れるかどうか。その対応を有権者がどのように評価しているかが、都議選に現れる。

その都議選の結果は、菅政権の今後と秋の政局の行方を左右する。”政局の本番は、都議選から始まる”ということになるのではないか。

“緊急宣言”延長 内閣支持率 急落の背景

東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長、愛知県、福岡県が追加されたが、感染急拡大に歯止めがかからない。

感染拡大は地方でも広がっており、政府は14日、北海道、岡山、広島の3道県を対象に緊急事態宣言を発出する方針を決めた。また、「まん延防止等重点措置」について、群馬、石川、熊本の3県を追加することになった。(この部分は、政府の方針が変更されたため、14日正午に内容の表現を修正した)

こうした中で、菅内閣の支持率が報道各社の世論調査で急落している。支持率急落の理由・背景、菅政権や政局への影響を分析、展望してみたい。

 菅内閣支持率 発足以来最低水準

さっそく報道各社の世論調査からみていきたい。菅内閣の支持率は、読売新聞の調査では、支持が43%で前回から4ポイント低下、不支持が46%で6ポイント増加し、2月以来3か月ぶりに不支持が支持を上回った。

NHKの調査では、支持が先月より9ポイント下がって35%、不支持が5ポイント増えて43%、こちらも3か月ぶりに不支持が支持を上回った。今月の支持率35%は、菅内閣が去年9月に発足して以来最低の水準だ。

両社の調査とも調査日時は7日から3日間。7日は政府が緊急事態宣言の延長・追加の方針を決めた日で、それ以降の調査になる。支持、不支持の数値は異なるが、支持率が急落、支持と不支持が逆転した点は共通している。(データは読売新聞10日朝刊、NHK WEB NEWSから)

 コロナ「政府対応の評価」に比例

そこで、内閣支持率下落の理由だが、結論を先に言えば、コロナ感染に対する「政府対応の評価」に連動している。これまでも何回か取り上げたようにコロナ感染が問題になった安倍政権当時から、感染が拡大し政府対応の評価が下がると内閣支持率も下がる。感染が改善されると支持率も回復するといったように両者は連動、比例するのが特徴だ。以下、データはNHK調査でみていく。

その政府対応の評価については「評価する」が33%で、先月より11ポイント減った。逆に「評価しない」は63%、10ポイントも増えた。「評価する」33%は、菅内閣発足以来の最低の水準だ。

この結果、菅内閣の支持率は低下した。支持しない人たちに理由を1つに絞って挙げてもらうと「政策に期待が持てない」が40%、「実行力がない」が39%を占めた。

こうした背景を考えてみると、菅政権は先月25日、3度目の緊急事態宣言に踏み切り、短期集中の対策として「人流の減少」を打ち上げたが、新規感染者の抑え込み効果が現われていない。

また、菅政権では対策の検証、総括がなされず、十分な説明がない。今回の宣言延長・追加では、再び「飲食重点」の対策に戻るといった「対症療法」「場当たり対応」が目立ち、これに対する世論の不満や批判が読み取れる。

 女性、中年、無党派 ”支持離れ”

それでは、菅政権への影響はどうだろうか。内閣支持率の中身を分析してみると足元の「自民支持層の支持」が6割台前半まで落ち込んでいる。安倍政権では、7割後半から8割程度を維持していたのに比べると基盤が安定していない。

次いで、「女性の支持」が3割程度にまで急落している。コロナ感染拡大で、女性が多く従事しているパートや非正規労働の仕事が失われている影響だろうか。

年代別では、18歳以上20代と30代は、支持が上回るか、横ばい。40代・50代・60代の「働き盛りの中年層」では、いずれも不支持が増えて、支持を上回っている。最も多い「無党派層」では支持が2割を割り込み、不支持が過半数を占める。

このように「女性」「中年」「無党派層」の支持離れが目立つ。仮に今、衆院選となれば、かなりの打撃を受けるだろう。

もう1つの注目点は、自民党の政党支持率が下がっている点だ。自民党33.7%、先月より3.7ポイントも低下。菅政権下で最も低い水準だ。野党第1党の立憲民主党の支持率は5.8%で、0.5ポイントの低下。つまり、自民党の下がった分は、野党に回らず、無党派層43.8%に上積みされている形だ。

菅内閣の支持率が低下しても、自民党支持率は40%から30%台後半を維持してきた。今回のような大幅な下落はこれまでにないだけに、内閣支持率の低下が自民党の支持率低下に影響し始めたのかどうか、注視している。

 ワクチン接種 進み具合の評価

さて、コロナ感染の抑え込みに向けて、菅首相が切り札と位置付けているのが、ワクチン接種だ。菅首相は、7月末までに高齢者へのワクチン接種を完了できるように取り組む考えを打ち出した。

世論調査では、そのワクチン接種の進み具合の評価を聞いている。「順調だ」はわずか9%、「遅い」が82%と圧倒的だ。

ワクチン接種状況は5月11日時点で、先行接種の医療従事者で、1回目のワクチンを打った人が319万人で66%。2回目を完了した人が129万人で27%に止まる。65歳以上の高齢者接種になると1回目は48万人、1.3%。2回目を完了した人はわずか2万4千人余り、0.06%にすぎない。

菅首相は12日「全国の85%を占める1490の市区町村で、7月末までに接種を終えるという報告を受けた」と自信を示す。ところが、市区町村では、高齢者の電話予約が殺到して通じなくなったり、予約システムが障害で中断したりとトラブルが相次いでいる。

東京五輪・パラリンピックの開催日程がわかっているのに、日本のワクチン接種率は先進国で最下位、世界でも下位に位置する。政府のワクチン競争への遅れ、戦略、危機管理能力の乏しさが改めて浮き彫りになっている。

政府は5月下旬以降、ワクチンの供給量は大幅に増えると強調するが、市区町村の接種で、医師や看護師の確保が順調に進むか不安は残る。

さらに、全国各地で変異株が急拡大しているが、ワクチン接種を終えるまでに抑え込めるのか緊急の課題だ。免疫学の専門家に聞くと「ワクチン接種効果が出てくるのは、早くて今年後半。五輪・パラリンピックには間に合わない」と語る。感染抑え込みに総力を挙げる必要がある。

 政治の焦点 五輪 東京都議選

最後にこれからの政治・行政の動きをみておきたい。まず、厚生労働省は今月20日にアメリカ製薬大手のモデルナとイギリスのアストロゼネカの2つのワクチンを承認する見通しだ。承認されれば、アメリカのファイザーと合わせてワクチンは3種類に増え、供給量の増加が加速される。

一方、来月初めまでには、東京五輪・パラリンピック大会の観客数の上限などが決まる運びだ。菅首相は予定通り開催する方針だが、世論調査では「中止する」が49%で最も多い。次いで「無観客で行う」が23%、「観客数を制限して行う」が19%、「これまでと同様に行う」は2%となっている。

「中止」以外の合計、つまり「何らかの形で行う」は合計44%に達する。どう考えるか、「科学的データ」に基づいて判断するのが基本だ。開催しても安全と主張するのであれば、無観客でも大会参加者は何人になるのか。9万人説、6万人説などが取りざたされているが、明確にしないと判断のしようがない。

また、国内外の感染状況、医療提供体制はどうするのか。政府、東京都、組織委員会は、安心安全な大会を唱えるだけでなく、具体的なデータと条件を早急に示すべきだ。そのうえで、開催、中止、延期のどれを選択するのか、議論を徹底して合意形成を図る必要がある。

さらに通常国会は、来月16日に会期末を迎える。25日には東京都議会議員選挙が告示され、7月4日に投票が行われる。各党とも国選選挙並みの体制で臨む見通しだ。国政のテーマが選挙の争点になることが多く、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。

菅政権のコロナ対応の評価も大きな争点になる見通しだ。感染抑止対策や、ワクチン接種の進み具合、五輪開催問題などの動きに有権者がどんな判断を示すことになるのか。都議選の結果は、菅政権や政局のゆくえを大きく左右するとみて注視している。

 

”綱渡りのコロナ対策” 菅政権 宣言延長

新型コロナウイルス対策として7日、東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長されることが決まった。また、愛知県と福岡県を対象地域に加えることになった。

一方、首都圏3県などに適用されている「まん延防止等重点措置」についても期限を今月31日まで延長するとともに、北海道、岐阜県、三重県を追加し、宮城県は対象から外すことになった。

今回の方針で、宣言の対象は東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県に拡大する。重点措置の適用は、北海道、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、愛媛、沖縄の8道県に広がる。

今回の緊急事態宣言、菅首相は「人流減少の目的は達成できた」と成果を強調するが、宣言延長が決まった7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、死者は145人で過去最多を記録、感染状況は急速に悪化している。

これに対して、菅政権は”ワクチン接種頼み”が実状で、接種完了までに変異株の猛威を抑え込めるか、”綱渡りのコロナ対策”が続くことになる。菅政権のコロナ対応を探ってみる。

  3度目宣言 “大きな効果見えず”

今回の緊急事態宣言の効果について、菅首相は7日夜の記者会見で「ゴールデンウイークに合わせ、人流を抑える措置が必要と考え、幅広い要請を行った。東京や大阪の人流は4月はじめと比較して、夜間は6割から7割、昼間は5割程度、減少している。人流の減少という初期の目的は達成できた」と宣言効果を強調した。

ところが、大阪、東京などの感染は収まらず、宣言の延長・追加を決めた7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、1月16日以来の高い水準になった。重症者数は1131人で過去最多、死者も145人と過去最多、事態は急速に悪化している。

専門家は、宣言の効果は来週にならないとわからないとしながらも、変異株の急拡大に警戒を強めている。新規感染者、重症者、死者はいずれも極めて高い水準で、3度目の緊急事態宣言の対策はこれまでのところ、大きな効果は見えない。

 具体策なく、ワクチン接種頼み

それでは、菅政権は緊急事態宣言を延長・追加して、どんな対策を打ち出そうとしているのか。

7日夜記者会見した菅首相は「大型連休という大きな山を越えた今後は、通常の時期に合わせた高い効果の見込まれる措置を徹底して対策を講じていく」とのべた。但し、「高い効果の見込まれる対策」としては、飲食店における酒の提供や持ち込みを制限する程度で、新たな具体策を打ち出すことはできていない。

菅首相が強い意欲を示しているのが、高齢者のワクチン接種だ。「来週から、全国の自治体でワクチン接種が始まる。今月24日からは、東京、大阪の大規模接種センターでも始まる。1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に、希望する高齢者に2回の接種を終わらせるよう、政府としてあらゆる手段を尽くして自治体をサポートしていく」と力を込めた。

このワクチン接種、先行接種の医療従事者の接種は、2回接種が終わった人は2割程度で進んでいない。一方、全国の1700余りの市町村では、高齢者向けのワクチン配分量がわからないのと、接種に当たる医師や看護婦の確保に四苦八苦しており、8月以降までかかる自治体もあるとみられている。また、1日に100万回もの接種体制が可能なのかどうか、詰めが必要だ。

さらに高齢者に続いて、一般国民の接種はどうなるか。菅首相は「来月をめどに高齢者接種の見通しがついた市町村から、基礎疾患がある方々を含めて、広く一般の方々にも接種を開始したい」と意欲を示した。但し、一般国民への接種を終える時期の目標については、具体的に言及することは避けた。

このように菅首相のコロナ対応は、ワクチン接種を感染抑制の戦略に位置付けている。一方で、それ以外の対策、例えば変異株対策をはじめ、新規感染者の抑え込み、PCR検査の拡充、入院できない感染者の宿泊・治療提供体制などはどうするのか。

また、休業や時間短縮などの事業者、生活支援をどうするのかも具体策は示されていない。ワクチン頼みで、それ以外の感染抑制対策、医療提供体制改善の内容も乏しく、危うさを感じる。

 東京五輪・パラ開催方針は変えず

コロナ感染拡大との関係で注目されている東京オリンピック・パラリンピックの開催について、菅首相は「心配の声が上がっていることは承知している。選手や大会関係者の感染対策をしっかり行い、国民の命と健康を守っていくことが大事だ」とのべた。

そのうえで、「IOCと協議の結果、各国選手へのワクチン供与が実現することになった。日本の選手についても世界の選手の中の一部として接種をしたい。さらに選手や大会関係者と一般国民が交わらないように滞在先や移動手段を限定したい。選手は毎日検査を行うなど厳格な感染対策を検討している」とのべた。

菅首相は、各国選手のワクチン接種や大会関係者の滞在先の対策を徹底して、開催する方針は変える考えはないようだ。

一方で、海外の感染状況をはじめ、数万人ともいわれる大会関係者を国民と接触できないような管理が疑問だとして、開催の中止や延期を求める意見も内外に根強い。この点についても今後どのような展開になるのか、不確定要素を抱えている。

 衆院選とも関係 コロナ対策論争を

最後に政治との関係を見ておきたい。菅首相は7日、月刊誌のインタビューに答えて注目すべき発言をしている。衆議院の解散・総選挙の時期について、自民党総裁としての任期が満了となる9月末までの間で検討していることを明らかにした。

菅首相のワクチン接種や東京五輪の考え方も、このインタビューと重ね合わせると、わかりやすい。端的に言えば、菅首相の政権戦略・選挙戦略は、感染拡大はワクチン接種で抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックは何としても開催して成功させ、秋の解散・総選挙で勝利したい腹づもりとみられる。

このため、ワクチン接種、東京五輪・パラリンピックは政権の総力をあげ強力に進めるとみられる。一方、私たち国民の側からみると、ワクチン接種が完了するまでにはかなりの時間がかかる。接種完了までにどんな感染対策を進めるのか、変異株対策を含め具体的な対応策を示してもらいたい。

ワクチン接種についても、肝心のワクチン確保量や地方自治体への配分情報は、余りにも少ないし遅い。ワクチン接種計画の詳細版を早急に出すべきである。

そのうえで、感染抑止の総合対策やワクチン接種、経済・社会立て直しをどうするのか。国会で政権与党と野党の双方が真正面から議論して、国民に判断材料を示してもらいたい。

菅首相 ”3つの難問・難関”  

新型コロナ対策として、3度目の緊急事態宣言が、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に出されてから2日で1週間が経ったが、新規感染者の増加に歯止めがかからない。

菅首相にとって、大型連休明けから数か月の間に”3つの難問・難関”が待ち受けている。1つは、連休明けまでに感染拡大に歯止めをかけ、緊急事態宣言を解除できるかどうか。2つ目は、東京オリンピック・パラリンピック開催問題。3つ目が、高齢者向けのワクチン接種。菅首相がめざす7月末までに終えることができるかどうかだ。

こうした3つの難問は、私たちの暮らしや社会、政治の行方に大きな影響を及ぼす。難問・難関を乗り越えられるかどうか、以下、点検してみる。

 緊急事態宣言 解除は困難か

まず、新型コロナウイルスの感染状況からみていきたい。3度目の緊急事態宣言が4都府県に出されたのが4月25日、今月2日で1週間が経過したが、新規感染者は増加傾向が続いている。

深刻さを増しているのが大阪で、2日の新規感染者数は1057人で、6日連続で1000人を超えた。医療は危機的状況に陥っている。東京の新規感染者数は879人で、日曜日に800人を上回るのは3か月ぶりの高い水準だ。このほか、北海道は過去最多、福岡県でも過去2番目の多さになっている。

一方、重症者数は2日、1050人に達し過去最多となった。専門家は「変異ウイルスが広がっていることが一番の原因ではないか」「新たなフェーズに入ったと受け止めるべきだ」と危機感を強めている。

緊急事態宣言の期限は11日までだが、解除できるかどうか。今の時点で判断するのは難しいが、専門家の見方や重症者数の多さなどを考えると、宣言解除は悲観的にならざるをえない。特に大阪などの関西圏の解除は難しいのではないか。

緊急事態宣言の扱いに関連して、政府のコロナ対応については、これまでも繰り返し指摘していることだが、節目節目に「対策の検証・総括」を明らかにすべきだ。どこに問題があり、今後どう改善するのか説明がない。

このため、変異株を含めた検査の拡充をはじめ、隔離・入院、病床の確保調整、休業補償の在り方など同じ問題について、1年以上も堂々巡りの議論が続いている。何とかならないのか。

今回は、酒類提供の飲食店や大型商業施設の休業が打ち出されたが、人の移動・人流の減少の目標はどこまで達成されたのか。菅首相や閣僚の対応は、ワクチン接種には熱心だが、感染の抑え込みの呼びかけなどは型通りで、国民に懸命に繰り返し説明・説得する熱意が感じられない。

これでは、人流抑制効果を期待する方が無理ではないか。11日の期限の節目では、今度こそ、きちんとした説明を行ってもらいたい。

 五輪・パラ 感染対策 徹底議論を

2つ目の難問は、東京五輪・パラリンピックの開催問題だ。先月28日に行われた大会組織委員会やIOC国際オリンピック委員会のバッハ会長など5者によるオンライン会議で、観客数の上限については、6月に判断することで合意した。

政府・自民党関係者に聞くと「菅首相の考えは、大会開催は前提で、安全・安心な大会にするため、感染防止対策をどうするかを考えている」と説明する。

これに対して、報道各社の世論調査では、国内外の感染状況や変異株の広がりを考えると「大会の中止や延期すべき」と考える人が7割を占めている。首相と世論の見方・考え方に大きな開きがある。

大会開催の是非は、アスリートの夢や努力をはじめ、スポーツ関係者の尽力、1兆6000億円にものぼる大会費用の投入など様々な要素を考慮に入れて判断する必要がある。

一方、国内、世界のコロナ感染は深刻な状態にあり、大会を開催できる状況にあるのかどうか。開く場合は、感染防止対策はどのようになっているのか。政府、東京都、組織委員会が、それぞれの考え方を科学的なデータも含めて明らかにして、議論を徹底的に行う必要がある。大会開催予定まで3か月を切っている。

五輪を巡っては、菅首相と小池都知事との確執や思惑などが取りざたされている。国民にとっては直接関係ないことであり、国家的行事について、それぞれの立場で明確な考え方を明らかにしてもらいたい。

私たち国民の側も開催、中止のいずれの結論になっても”五輪の政治的利用や、思惑に加担しない賢明な判断・対応”が必要ではないかと考える。

 ワクチン高齢者7月末完了は可能か

3つ目の難問は、高齢者のワクチン接種の問題だ。菅首相は先月23日、緊急事態宣言の方針を決定した際の記者会見で「希望する高齢者に7月末を念頭に2回の接種を終えることができるように取り組んでいく」と高齢者接種の7月末完了の考えを打ち上げた。

現状はどうか、まずは高齢者より前に行う医療従事者の先行接種。4月29日の時点で、対象となる480万人のうち、2回の接種を完了した人は21%に止まる。1回目の接種も49%だった。

医療従事者への接種が進まない背景としては、ワクチンの供給が遅いことがある。2月17日から医療従事者の接種が始まったが、すべての対象者に2回分が供給されるのは5月中旬になる見通しだ。

高齢者の優先接種は4月12日から始まったが、最初の供給量は1%にも満たなかった。高齢者の接種が全国で本格化するのは5月に入ってからだとみられるが、その前に、高齢者にワクチンを打つ医療従事者の接種を優先する必要がある。

全国の自治体関係者が、3600万人の高齢者を対象にした接種で頭を痛めているのは、ワクチン供給の情報が極めて乏しいことだ。「いつ、どれくらいの量が届くのかがわからないので、準備のしようがない」などの声を聞く。

政府は先月30日にようやく、5月下旬から6月末までの全市区町村への配分量を各都道府県に通知した。6月末までに高齢者全員が1人2回接種できる分を配り終える計画だ。

自治体側はこれから打ち手の医師、看護師の確保などに当たらなければならない。自治体の中には、7月末まではとても無理で、接種が終わるのは8月以降を想定しているところもあるという。

専門家によると、7月末までにワクチン接種を終えるには、1日に80万回の接種が必要だ。そのためには、ワクチンの打ち手を歯科医師や、薬剤師などにも広げる必要がある。さらにクリニックや、企業での接種も含め、多様な形で取り組まないと困難だという。

政府のこれまでの対応、司令塔機能の弱さをみると、高齢者接種は難問中の難問と言えるのではないか。どんな設計図を描いているのか、地方自治体へのバックアップ体制や、指導力・実行力を注視していきたい。

 都議選、菅政権の行方を左右

以上、見てきた3つの難問は、大型連休明けから直ちに動きが始まる。7月末にかけて、政治の面では様々な動きやハレーションが起きることも予想される。

菅首相が政権の最優先課題としてワクチン接種を挙げ、高齢者接種を7月末までに完了させることを表明したことは、東京五輪前の早期解散は選択しないとみていいのではないか。このことは、前号のブログでも取り上げたように秋の衆院選挙の公算が一段と明確になったとみることができる。

これからの政治の焦点は、秋の衆議院解散・総選挙は誰の手で断行することになるのかに移りつつある。具体的には、菅首相か、それともその前に自民党総裁選を行い別のリーダーを選ぶのか。

一方、3つの難問は、今年夏の大型選挙である7月4日投票の東京都議会議員選挙にも大きな影響を及ぼす。都議選は、直前の国政レベルの主要テーマが争点になるからだ。このため、国政選挙の先行指標ともいわれる。

3つの難問は、私たちの暮らしに影響を与えるのをはじめ、夏の都議選、秋の衆院解散・総選挙など政治の先行きも大きく左右することになる。