“選ぶ側”から見た東京都議選の注目点

東京都議会議員選挙が25日告示され、7月4日の投票日に向けて9日間の選挙戦に入った。選挙権がない方も多いと思うが、この選挙は、コロナ禍、東京五輪・パラリンピック開会を控えた中で、東京の有権者がどのような判断を示すか、注目点の多い選挙になりそうだ。

そこで、候補者や政党など選ばれる側ではなく、有権者”選ぶ側”の立場から、この選挙をどうみるか、どんな対応が賢明な選択になるか、探ってみたい。

何を重視するか?少ない候補者情報

都議会議員選挙と言われても、私たち選ぶ側が困るのは、立候補者はどんな人でどのような考え方を持っているのか、候補者の情報が極めて少ないことだ。最も身近な市区町村の議員選挙や、国政レベルの選挙に比べて、この中間に位置する都道府県議会議員選挙は候補者情報が少なく、誰に投票するか困ることが多い。

さて、どうするか。私事になるが、選挙期間中に各候補者の陣営から、自宅に配られるビラを集めておくと意外に役立つ。ビラを比較すると、各候補の経歴なども含めてどんな人物か、輪郭がわかる。加えて、配布される選挙公報には、候補者の公約、政策などが記載されているので、候補者情報をかなり集めることができる。

そのうえで、何を重視して選ぶか。今回の選挙について、すぐに頭に浮かぶのは、やはり新型コロナ対策だ。感染抑止対策として何をするのか、病床など医療提供体制の整備や、ワクチン接種などではどんな取り組みを考えているのかがわかる。

また、東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非も、判断材料になる。予定通りの開催か、中止か。あるいは開催する場合でも無観客にするのか、制限付きで観客を入れるのかどうか、候補者の違いがわかるはずだ。

さらに、向こう4年間の東京都政のかじ取り役を選ぶので、中長期の課題・政策で判断したいと考える人も多いと思われる。首都直下型大地震に備えての防災対策、少子高齢化時代の社会保障の姿、子育て・教育・格差是正の取り組みなども問われることになる。

以上のような内容から、何を重視して選ぶのか。ここをはっきりさせれば、どの候補者を選択するか、対象者が絞られてくるのではないか。

 東京都政、どの政党・勢力を選ぶか

巨大都市、東京の街づくりや都民の暮らしを安定させていくためには、知事と議会が車の両輪として、それぞれの役割を果たしていくことが必須の条件だ。そのためには有能な議員を選ぶとともに、どの政党・政治勢力に中心的な役割を委ねるかがカギを握る。

今回の都議選は、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が第1党の座を維持できるか。それとも自民党が公明党との選挙協力を復活させており、公明党と合わせて過半数の議席を獲得したうえで、第1党へ返り咲くかどうかが焦点だ。

一方、共産党と立憲民主党は候補者を競合させないため、一部の選挙区で候補者のすみわけを行っており、議席の積み上げができるかどうかも注目される。

このほか、小池知事が過度の疲労による静養のため入院しており、今後、いつ公務に復帰し、選挙にどのようにかかわるのかにも関心が集まっている。

 コロナ禍 有権者の選択政党は?

今回の都議選は、緊急事態宣言は解除されたものの、コロナ感染が高止まりから、再び拡大の兆候が表れ始めた中での選挙になっている。”3蜜”を避けるため、各陣営の選挙運動も大規模な集会や街頭演説などの自粛が予想される。有権者の選挙への関心、投票率はどうなるか。

前回4年前は、小池知事が都民ファーストの会を立ち上げて”小池旋風”を巻き起こし、投票率は51%台まで上がった。その前の2013年選挙は、43%台まで落ち込んだ。今回、有権者の投票意欲は前回水準から強まるのか、あるいは下回るのかも注目点の1つだ。

また、東京都議選の結果は、次の国選選挙の先行指標になる。2009年の都議選では、当時の民主党が大勝して都議会第1党に躍進、夏の衆議院選挙で過去最多の議席を獲得して政権交代を実現した。

2013年の都議選で、自民党は候補者全員が当選して都議会第1党に返り咲き、続く参議院選挙でも過去最多の議席を獲得して圧勝した。都議選の結果は、全国の都市部の有権者の先行指標になるケースが多かった。

7月4日投開票となる東京都議選の結果は、菅政権の政権運営に大きな影響を及ぼすだけでなく、秋の衆院選挙のゆくえを占う判断材料になる。コロナ激変時代、有権者は何を重視し、どの政党・政治勢力を選択するのか目が離せない。

総選挙は秋の公算 ”コロナ波乱政局”の始まり

通常国会は、野党4党が提出した菅内閣に対する不信任決議案が、与党などの反対多数で否決され、16日に閉会した。

焦点の衆議院解散・総選挙について、菅首相は夏の東京オリンピック・パラリンピック閉会後に断行する方針を固めており、総選挙は秋に行われる公算が大きくなっている。

与野党双方とも国会閉会後、直ちに衆院選に向けた体制づくりを加速させているが、これからの政治はどんな展開になるのか。

コロナ感染を抑え込めるかどうかということだけでなく、衆院選挙の結果がどうなるかまでを展望すると”波乱要因の多い政局”になる可能性が大きい。

9月5日のパラリンピック閉会後、菅首相が早期に解散に踏み切るケースをはじめ、ワクチン効果をねらった任期満了選挙、さらには菅首相退陣のケースなども予想される。”コロナ波乱政局”のゆくえを探ってみる。

 オリパラ後の総選挙へまい進 菅首相

次の衆議院解散・総選挙はいつになるか。解散権を握る菅首相の考えがベースになる。菅首相はコロナ対策を優先し、早期の解散には慎重な姿勢を示してきた。

菅首相の考えは、ワクチン接種を加速させて感染拡大を抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックを成功させた後、秋に衆院を解散・総選挙を断行して勝利し、再選を果たすのが基本的な戦略だ。

このため、通常国会閉会後は、20日に期限を迎える東京などの緊急事態宣言を解除し、まん延防止等重点措置に切り替える方針だ。同時にワクチン接種をさらに加速させるとともに東京五輪・パラリンピックについては、感染対策を徹底して予定通り、開催する方針だ。

衆院解散・総選挙については、9月5日にパラリンピックが閉幕した後、臨時国会を召集して衆院解散に踏み切り、10月に総選挙を断行する方向で調整が進められている。投票日としては、10月3日、10日、17日を軸に検討している。これが、第1のケースだ。

自民党長老に聞くと「9月解散・10月総選挙の可能性が最も高い。今の自民党には、菅首相や二階幹事長らに対抗して、政局を変えることができる実力者はいない。これからの政局は自民党内より、コロナ感染の状況や世論の動向がカギを握っている。例えば、五輪開催後に感染爆発が起きたら、自民党は選挙でぼろ負けするだろう。油断できない」と語る。

 ワクチン効果期待 選挙後ろ倒しも

菅首相がめざす9月解散・10月総選挙は、感染が収束に向かい、ワクチン接種も順調に進み、五輪・パラリンピックも開催され盛り上がった場合が前提だ。

政府・自民党内には、こうした考え方とは別にワクチン接種効果を重視して、衆院解散を急がず、任期満了などによる選挙の後ろ倒しを選択した方がいいという考え方もある。

ワクチン接種は高齢者接種が本格化するとともに、一部の地域では一般国民の接種が始まった地域もある。10月から11月ころまでに、国民の半数以上に2回接種が完了すれば、感染の減少効果が期待できる。このため、選挙を遅らせれば、与党にとって有利に働くとの思惑がある。

具体的には、今の衆議院議員の任期は10月21日までだが、臨時国会の会期を任期満了ギリギリまで引き延ばして、大型補正予算案を成立させた後、国会を閉会すると11月14日投票が可能になる。

あるいは、任期満了ギリギリで解散すれば、11月28日投票も可能になる。任期満了に伴う選挙を後ろ倒しする案も取りざたされている。これが第2のケースだ。

 波乱要因 五輪開催と感染急拡大

以上は、いずれも感染抑制や、ワクチン接種が順調に運むことが前提だ。逆に波乱要因として、変異株の広がりなどで感染拡大が抑え込めない事態もありうる。

例えば、7月23日の五輪開会式までに感染を抑え込めないような場合。あるいは、大会期間中、さらには9月5日のパラリンピックが閉会式後に感染爆発が起きた場合どうなるか、危惧する与党関係者は少なくない。

こうした場合、菅首相の政治責任を問う声は、自民党内からも高まるだろう。衆院選挙を控え、自らの当落に直結するからだ。菅首相の退陣・総裁選立候補辞退もありうるとの見方もある。その場合、後継の新しい総裁を選んだあと、衆院解散・総選挙というケースも想定される。これが、第3のケースだ。

 衆院選の獲得議席幅 政局を左右

ここまでみてきた3つのケースは、いずれも衆院選挙にこぎつけるまでの道筋の予測だ。最大の難関は、衆院選の政治決戦で、菅政権は勝てるかどうかだ。

選挙の専門家に聞くと、国政選挙で連勝を続けた安倍政権に比べると、菅政権は議席を減らすのは避けられないとの見方が強い。一けた台の減少で済むのか、50議席程度の大幅減もあるのか、減少幅がどの程度になるかが一番のポイントだ。

減少幅によっては、菅首相の政治責任が問われ、政局のゆくえを左右することもありうる。来年夏には、参議院選挙も行われる。衆院選挙後は、コロナ激変時代の政治のリーダーのあり方なども改めて問われることになりそうだ。

以上みてきたように、コロナ禍の政治は、不確定要素が多い。変異株の広がりなど感染状況がどうなるのか、ワクチン接種の進展で感染抑え込みの効果が出てくるのか。そうした動きによって、3つの政局のどのケースに収れんしていくのか注視していく必要がある。

同時に、私たち国民の側は、これまでの政権の実績評価や、これからの社会や暮らしのあり方をどのように考えていくのか。そして、どんな政治家や、政党に政権をゆだねていくのか答えを出す時期が近づいている。

 

 

 

”議論なし開催突入の愚”東京五輪

新型コロナウイルスの感染流行が続く中で、東京オリンピック・パラリンピックを開催して大丈夫か。国民の多くが考え、判断に迷っているのではないか。本来は、政治、具体的には国民の代表で構成される国会で、政府が対応策を示し議論する大きなテーマのはずだ。

ところが、菅政権で初めて行われた9日の党首討論では、こうした国民の関心に応える議論にはならなかった。このままでは国会は16日に閉会、20日には緊急事態宣言を解除、そのまま議論が深まらないまま五輪開催へと突入する公算が大きい。

これでは、国会は熟議の場どころか浅慮、議論なしの”愚の骨頂”と言わざるをえない。東京五輪・パラリンピックの開催問題を政治の側から、考えてみたい。

 党首討論 知りたい点に答えず

9日に国会で行われた党首討論は2年ぶりの開催。菅政権になって初めてで、菅首相と野党党首が突っ込んだ議論を交わすのではないかと期待した国民も多かったのではないか。

ところが、結果は、残念ながら期待外れに終わったというのが正直な印象だ。立憲民主党の枝野代表らは「3月の緊急事態宣言の解除が早すぎたのではないか。同じ間違いを繰り返さないために厳しい基準を明確にすべきだ」などと追及した。

これに対して、菅首相は論点をそらしつつ、ワクチン接種について「希望する人すべてが、10月から11月にかけて終えられるよう取り組む考え」を表明した。

また、共産党の志位委員長が、政府分科会の尾身会長の指摘を引用しながら「感染リスクが高くなる中で、なぜ開催するのか」と質したのに対し、菅首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務だ」と答え、議論が深まらなかった。

 問題の核心 開催の条件と意義

国民が知りたいのは、世界でコロナパンデミックが続いている中で、東京五輪・パラリンピックを開いて本当に大丈夫なのか。開催する場合、日本の感染状況はどこまで収まっているのか、医療的提供体制はどこまで余裕があるのか、具体的なデータを示しながら説明をして欲しいという点だ。

また、感染危機の中で、国民の多くは大会を開く意義は何か、世界に向けて語る必要があると考えているのではないか。

こうした点について、菅首相の発言は真正面から答える内容には遠かった。前回の東京五輪の思い出を長々、話をするのではなく、日本国民や世界の人たちにどんな大会にしたいかを、自らの言葉で語りかける必要があったのではないか。

このように、今回の党首討論では、問題の核心である東京五輪・パラリンピックの開催意義や、開催のための条件をどう設定するか、依然として大きな宿題として残されたままだ。

 専門家の意見をどう扱うのか

東京五輪・パラリンピックについては、国内の観客を入れるのかどうか。また、メディアを含めた大会関係者の行動管理などの細部も不明な点が多い。

こうした中で、政府分科会の尾身会長は、開催に慎重な考えを示しているほか、開催する場合は規模を最小限にすることなどを求めている。

一方、9日に開かれた厚生労働省の専門家会合で、京都大学の西浦教授は独自に行ったシミュレーションで、7月末までに高齢者へのワクチン接種が完了したとしても、接種が進んでいない50代以下の年代を中心に感染が大きく広がり、8月中に再び重症者病床が不足するような流行になると警告している。

政府は、こうした専門家の意見をどのような形で、方針決定に反映させるかも問われる。緊急事態宣言の判断では専門家に意見を求め、五輪対策では意見を求めないといったご都合主義は止めた方がいい。五輪の開催問題も「科学」で判断すること、具体的なデータに基づいて公正に判断する姿勢で対応してもらいたい。

 政治の劣化 責任の明確化必要

それでは、今後の動きはどうなるか。菅首相は11日から13日までイギリスで開かれるG7の対面式の首脳会議に出席するが、この中で東京五輪・パラリンピック開催支持を取り付けたい考えだ。

16日は国会の会期末だが、政府・与党は会期を延長しない方針だ。これに対して、野党側は内閣不信任決議案を提出、与党側が否決して、国会は去年に続いて早々と”店じまい”となる見通しだ。20日には、東京都などに出されている緊急事態宣言が期限を迎え、この頃、組織委員会がオリ・パラの観客の扱いなどの判断を示す見通しだ。

このようにみてくると、今後、国会で五輪開催の是非などを論じる機会は極めて少ない。これでは、熟議の国会どころか浅慮、国会の議論が乏しい状態が常態化しており、政治の劣化と指摘されても反論は難しいのではないか。

仮に五輪を開催した場合、選手とは別に、通訳、警備、ボランティアなどを含めると要員は30万人規模になるといわれる。このほか、観客の扱いはまだ決まっていないが、現在のイベント規制の基準で計算すると観客数は300万人規模に達するとの見方もある。

こう見てくると仮に開催して感染拡大が起きた場合、その責任は誰が負うのか。曖昧なままにせずに、はっきりさせておく必要がある。

コロナ感染対策とオリンピック開催問題は、7月の東京都議選、10月までに行われる見通しの次の衆院選でも争点の1つになる見通しだ。選挙で判断・審判を下すことになるが、その前に国会の場で議論をしっかり行うことが、最低限必要だと考える。