五輪さなかの感染危機 問われる菅政権

東京オリンピックが開幕し日本勢の躍進が続いているが、東京都内では28日、新型コロナウイルスの感染者が初めて3000人を超え、2日連続で過去最多を更新した。

また、首都圏の神奈川、埼玉、千葉3県でも過去最多となったのをはじめ、全国でも最多の9576人の感染が確認された。

こうしたオリンピックさなかの感染危機に対して、政府や東京都はどのように対応しようとしているのか、どんな取り組みが問われているのか考えてみたい。

 宣言効果みられず シナリオ崩れる

東京都に4度目の緊急事態宣言が出されたのが今月12日で、この日の新規感染者は502人だった。その後も感染拡大に歯止めがかからず、オリンピック開幕当日の23日には1359人人まで拡大した。

そして、オリンピックが続いている27日の2848人に続いて、28日には3177人と初めて3000人を超えて、2日連続で過去最多を更新した。

緊急事態宣言の発出で夜間の人出は減少しているのだが、減少幅が小さいことや、感染力が強いデルタ株に急速に置き換わっていることなどが影響して、緊急事態宣言の効果がみられない。

また、政府や東京都は、緊急事態宣言の発出で感染者数を大幅に減らし、東京五輪・パラリンピックを「安全安心な大会」として開催することをめざしてきた。しかし、感染者数が減少するどころか、逆に爆発的に急増しており、感染抑制シナリオの前提が崩れた。

 感染抑え込み具体策打ち出せず

それでは、こうした感染危機拡大に政府や東京都はどのように対応しようとしているのか。

小池知事は28日、「デルタ株の影響を考えると、若者や中高年の世代にワクチンを早く行き渡らせることが重要だ」と強調するとともに「ぜひ、不要不急の外出を控えてください」といつもの呼びかけを繰り返した。

一方、菅首相は27日夕方、関係閣僚と対応策を協議した後、記者団に対して「強い危機感を持って、感染防止にあたっていく」として、国民に不要不急の外出を控えるよう呼びかけた。また、東京オリンピックについては「人の流れは減っており、心配ない」として、中止の考えはないとの認識を示した。

こうした菅首相と小池知事の発言からは、過去最多の感染者数に対する危機感が伝わってこない。また、国民が最も知りたい、”急増する感染拡大に対して何をするのか”という問いに、直接答える内容になっていない。

政府のこれまでの対策をみていると、ワクチン接種以外、ほとんどが従来からの対策の繰り返しで、手詰まり状態に陥っている。今回もワクチン接種が行き届くまでの間に、具体的にどんな対策を打ち出すのか、対策の方向性も示すことができていない。

 問われる菅政権の感染危機対応

それでは、これからどんな動きになってくるか。まず、神奈川、埼玉、千葉の3県の知事は、今の「まん延防止等重点措置」から、「緊急事態宣言」を出すよう要請する方向で調整を進めている。

政府は、要請があれば速やかに検討したいとしているので、今週中には3県に緊急事態宣言適用が決まる見通しだ。問題は宣言を出す場合、具体的で実効性のある対策を打ち出せるか、政府と自治体とが連携した体制をとることができるかどうかが問われる。

一方、東京オリンピックについては、菅首相は先に触れたように大会中止は考えていないことを明らかにした。選手や大会関係者から感染者は出ているが、クラスターはこれまでのところ発生していない。

但し、来月8日のオリンピック閉会日まで感染状況がどのようになるか。さらには、来月24日から予定されているパラリンピックを開催できるか、医療提供体制の状況と合わせて、リスクの評価が焦点になる。

一方、感染対策の切り札とされるワクチン接種については27日現在、1回目の接種を終えた人が37%、2回目接種が26%まで進んでいる。海外では接種率が1回目で40%に達すると、感染者数の減少傾向が表れるとの報告もあり、日本の場合どうなるかが注目される。

ワクチン接種については、供給不足から政府は、一定の在庫があると見なした自治体に対し、配分量を削減する方針を打ち出し、自治体側が強く反発していたが、この方針を撤回するなどの混乱も続いている。

こうした中で、今回、感染急拡大の第5波を何とか抑え込めるか。東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、ワクチン接種の進捗、さらには菅首相の政権運営や政治責任にも影響を及ぼすことになる見通しだ。

 

”異例五輪開幕と第5波” 菅政権直撃  

新型コロナウイルスの感染拡大で、史上初めて大会が1年延長の末、異例の無観客で開催されることになった東京オリンピックは23日夜、開会式が行われて開幕した。

開会式をめぐっては、先に楽曲の担当者が過去のいじめ問題で辞任したのに続いて、今度は演出担当の1人が、過去にユダヤ人の大量虐殺をやゆする表現をしていたとして解任された。関係者の低い人権意識などが露呈した形で、内外から厳しい批判を浴びている。

今回の五輪開催をめぐる国民の評価・見方は、複雑だ。報道各社の世論調査をみると、開催に賛成が3割程度、反対が5割から6割程度。これに無観客開催の条件を加えて判断してもらうと、適切が4割、中止は3割程度に変わり、賛否の間で判断が揺れているように見える。

個人的には、テレビ観戦で各国選手の活躍を見たいと思うが、組織委員会や東京都、それに政府の対応をめぐっては、多くの問題を抱えていると感じる。政治取材を続けている立場から、今回の異例ずくめの大会をどのように見たらいいのか、感染急拡大の問題と合わせて、政治・行政のあり方を考えてみたい。

 五輪の意義不明 政権シナリオ誤算

まず、今回の異例の東京オリンピック・パラリンピックをどう評価するか。そのためにもこれまでの経緯を駆け足で振り返っておきたい。

招致が決まったのは、2013年9月。前年暮れに安倍前首相が政権に復帰し、長期政権の目標の1つに東京五輪・パラリンピック招致を位置付け、当時の官邸主導で誘致工作を重ね、実現にこぎつけたのが実態だ。

そして去年3月、世界的な感染拡大を受けて、大会の1年延長を決める際に安倍前首相は「完全な形での開催」を国際的に約束した。

後継の菅首相も今年1月の施政方針演説で「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と意義を強調。そのうえで「感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現する」と決意を表明した。

菅首相としては、秋の自民党総裁選で再選を果たし、次の衆院選挙を勝ち抜くためにも感染を抑え込み、大会を開催し成功させることは、政権運営に必要不可欠な条件として取り組んできた。

ところが、大会が近づいても東京の感染状況は改善せず、7月12日からは4度目の緊急事態宣言を出す事態に追い込まれた。また、観客を入れて盛り上げるはずの大会が、ほとんどの会場で観客を入れない無観客開催に決まった。

菅首相は国会答弁などで「安全安心の大会」を繰り返すだけで、「コロナ禍で五輪を開催する意義は何か」を打ち出すことができず、国民に訴えかける力強さにも欠けていた。

この点は菅首相にだけ責任があるわけではないが、五輪開催の意義については、「復興五輪」の位置づけなどを含め、多くの人が活発に意見を表明し、掘り下げた議論にできなかったことは大きな反省点だ。延期五輪が今一つ、盛り上がりに欠ける要因ではないかと考える。

一方、政治への影響はどうか。無観客の大会になったことは、菅政権にとって誤算だ。政権運営のシナリオの一部が崩れ、今後の影響は大きいとみている。

 感染拡大 第5波を抑えられるか

次に国民の多くの関心は「五輪を開催して、爆発的な感染拡大につながらないのか」という点にある。22日、東京の新規感染者数は1979人。1週間前に比べて670人も増え、2000人に迫るまで急拡大している。

東京都のモニタリング会議は21日、東京の感染状況について予測を明らかにした。それによると、この1週間の平均で新規感染者は1170人で、前の週の1.5倍となり、「今年1月の第3波を上回るペースで感染が急拡大している」と警鐘をならした。

そのうえで、今のペースが続いた場合、8月3日には2598人となり、「第3波をはるかに超える危機的な感染状況になる」と強い懸念を示している。

つまり、オリンピック期間中に、東京の新規感染者数は2600人まで急増し、第5波の感染再拡大のおそれがあると警告しているわけだ。

東京五輪に参加する海外からの選手や、大会関係者からも感染者が出ているが、選手はワクチン接種をしたり、PCR検査を頻繁に受けたりしているので、選手村などで大規模なクラスターが発生する可能性は大きくはないとみられる。

但し、海外からの大会関係者の行動管理はどこまで徹底できるかはわからない。また、大会開催に刺激されて、国内での会食や人出の増加などで、感染拡大へとつながる可能性は否定できない。

さらに変異型のウイルス、インド株の置き換わりで、感染が急拡大する可能性もあり、第5波を抑え込めるかどうか。また、来月8日までのオリンピックが無事、閉会できるか。さらに、24日からのパラリンピックが予定通り開会できるのか注視していく必要がある。

 危機対応、制度設計能力に問題

政権の対応については、これまで何度も指摘してきたが、司令塔機能に弱点があるのではないか。具体的には、PCR検査の拡充をはじめ、病床確保の調整、飲食店の休業・時間短縮要請と支援の基準づくりなどの具体的な取り組みが、迅速に進まなかった。

こうした点に加えて、制度設計にも問題がある。例えば、ワクチン接種について、菅首相が「希望する高齢者の接種を7月末に完了」、「1日100万回以上の接種」などの大号令を出すが、肝心のワクチン供給が不足して、新規の予約ができなくなるといった事態が起きている。

今回のオリ・パラ対応についても、延期された大会日程から逆算して、ワクチン接種の計画や日程を決めて、完了させるといった取り組みができなかった。

こうした制度設計については、安倍政権当時も大学共通テストに英語の民間試験を導入する方針が行き詰ったのをはじめ、コロナ対策で国民へ特別給付金を支給する問題、さらには今回、飲食店で酒類提供停止の要請への仕組みづくりでも混乱がみられた。

菅政権については、グランドデザイン=基本的な目標や計画を打ち出したうえで、個別対策の組み合わせや日程を明らかにしていく戦略的な取り組みに欠けるといった指摘が出されている。政府が自らの対策の点検、総括をきちんと行い、同じような過ちを繰り返さない取り組み方も必要だ。

 問われる五輪対応と感染抑え込み

東京五輪・パラリンピックが9月5日に幕を閉じれば、直ちに政治の季節に入る見通しだ。菅首相の自民党総裁としての任期が9月末に切れるほか、衆議院議員も10月21日が任期満了日で、衆議院選挙が行われる。

その際、政府・自民党内では「次の選挙の顔」を誰にするかが焦点になる。今の段階では、菅首相を先頭に選挙を戦うとの見方が各派閥の幹部の間では有力だが、党内では菅首相の選挙への手腕を不安視する声も聞かれる。

また、万一、東京オリ・パラ大会の期間中、選手や大会関係者の感染が拡大したり、あるいは、国内の感染状況が急速に悪化したりした場合、世論や自民党内から、菅政権の政治責任を厳しく問う声が出されるのは必至の情勢だ。

このため、菅政権としてはこの夏、まずは、東京五輪・パラリンピックを無事に閉幕までこぎつけられるかどうか。また、急拡大している感染に歯止めをかけるとともに、切り札のワクチン接種を再び軌道に乗せることができるかどうか、実行力と具体的な実績が問われることになる。

 

 

 

 

菅内閣”世論の支持離れ”鮮明に

東京都に4度目の緊急事態宣言が出され、23日に開会する東京オリンピックもほとんどの会場が、観客をいれない無観客開催となることになった。

国民はこうした事態をどのように受け止めているのか。報道機関が相次いで世論調査を行い結果を報道しているが、いずれも菅内閣の支持率が発足以降、最低を記録、不支持は最多で、”世論の菅内閣支持離れ”が一段と鮮明になっている。

こうした世論の動向の分析と、これからの政治への影響を探ってみたい。

 内閣支持率最低 読売 NHK調査

読売新聞とNHKは今月9日から11日までの3日間、それぞれ世論調査を行い、その結果を報道している。

菅内閣の支持率は、◇読売調査で支持が37%、不支持が53%。◇NHK調査では支持が33%、不支持が46%となっている。

いずれの調査とも菅内閣の支持率は、去年9月の政権発足以降、最低の水準だ。一方、不支持も発足以降、最も高くなっている点で共通している。

今回の世論調査は、政府が8日に、感染再拡大が続く東京都に4度目の緊急事態宣言を出すことを決定した直後に実施された。また、東京オリンピックについては、無観客開催とする方針が決まった直後でもある。

政府のコロナ対応については、読売の調査で◇評価するが28%に対し、◇評価しないが66%。ワクチン接種をめぐる政府の対応についても◇評価するが36%に対し、◇評価しないが59%となっている。

政府のコロナ対応に対する世論の不満、批判が支持率低下の要因になっていることがわかる。(データは、読売新聞13日朝刊、NHK WEB NEWSから)

 支持離れ 女性 無党派層など深刻

それでは、菅内閣の支持離れはどんな支持層で起きているのか、NHK世論調査でみていきたい。

◆まず、菅首相を支える自民支持層について、菅内閣を支持する人の割合は61%に止まっている。菅政権が発足した去年9月は85%だったから、下落幅は大きい。

選挙に強かった安倍政権では、自民支持層の支持割合は70%台後半から80%台前半と高かった。それに比べる菅政権の基盤は極めて脆弱であることがわかる。

◆有権者の最も大きな集団である無党派層の支持はどうか。菅内閣の支持は2割を割り込み、不支持は6割近くに達している。

◆年代別では◇20代以下の若い年代だけ、支持が不支持をわずかに上回っているが、そのほかの年代はすべて不支持が、支持を上回っている。

◆男女はいずれも不支持が、支持を上回っている。男性は支持35%、不支持49%に対し、女性は支持31%、不支持43%で、特に女性の支持は少ないのが目立つ。

このように菅政権の支持構造は、選挙の行方を左右する自民支持層と無党派層、それに女性の支持離れが顕著で、菅政権にとって深刻な事態が進行中であることが読み取れる。

 失態続き 政権浮揚見通せず

次に菅政権に反転攻勢が可能かどうかを見ていきたい。結論から先に言えば、菅政権はこのところ失態続きで、政権浮揚につながるような好材料は見当たらない。

まず、政府は先に緊急事態宣言の対象地域などで、酒の販売事業者に対して、酒の提供停止に応じない飲食店との取引を行わないよう求める方針を打ち出した。

これに対して、販売事業者から「長年の取引先で、コロナ禍で苦しんでいる飲食店をさらに追いつめることはできない」と強い反発を招いた。

また、世論の側も「行政が自ら直接向き合わず、外から強い圧力をかけるような行為は絶対に許されない」といった強い批判が出され、撤回に追い込まれた。

これより先、政府は同じように金融機関にも働きかけを要請していたが、この方針も撤回した。こうした動きを経て菅首相が14日、総理官邸で陳謝した。

一方、ワクチン接種については、これまで接種の加速が続いていたが、接種希望の需要に供給が追い付かず、職域接種の新規受付を中止する事態に追い込まれた。ワクチン確保量が縮小することを明らかにしなかったことと、接種管理システムが十分機能していない不手際が背景にある。

さらに14日には、東京の新規感染者数が1149人と急拡大した。1100人を超えるのは、第4波のピークだった5月8日以来、2か月ぶりだ。専門家が7月中旬には、東京の新規感染者数は1000人を上回る可能性があるとの予測が現実になった。

このように感染再拡大と失態続きで、政権浮揚につながる好材料が見当たらない。菅内閣の支持率は、”瞬間風速的”にはさらに低下している可能性が大きく、当面、大きな改善は見通せない。

 政局緊迫オリパラ後か ”選挙の顔”

それでは、菅政権や政局のゆくえはどうなるか。支持率は急落しているが、いわゆる”菅降ろし”、菅首相の交代を求める動きは、当面、表面化しないとみる。

というのは、今の自民党は安倍長期政権を経て、非主流の派閥集団がなく、総理・総裁や執行部の権限が一段と強くなったこと。安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者も「次の衆院選は菅首相で戦う考え」を表明していることから、首相交代を求める動きが出てくる公算は小さいからだ。

一方、菅首相の政権運営については、描いていたシナリオが大きく狂い始めたとみる。菅首相はワクチン接種を加速し、東京五輪・パラリンピックを成功させ、その盛り上がりを受けて衆院解散・総選挙に打って出て勝利するのが基本戦略だ。

ところが、感染の収束どころか緊急事態宣言を発出し、五輪も無観客となり、お祭りムードは吹き飛んでしまった。それどころか、五輪開催が感染拡大の引き金になりかねないと危惧されている。

唯一、政権が大きな期待を寄せているのがワクチン接種の加速だが、先にみたように安定的に進むかどうかはっきりしない。

このようにコロナ対応をめぐって不確定要素は多いが、秋の政局は主流派がめざしているのが、菅首相の下で衆院解散・総選挙へと突入するケース。

もう1つは、今後、菅首相は「選挙の顔」として通用するかどうかを問う動きが出てくるとの見方もある。特に中堅・若手議員は、自らの当落を左右するからだ。その場合、世論の厳しい声に押される形で、菅首相の政治責任と交代を求める動きが土壇場の段階で出てくる可能性があるとみられている。

先の都議選では、自民党は第1党に復帰したものの、2番目に少ない33議席にとどまった。投票率は過去2番目に低く、低投票率では選挙に強いはずが、伸び悩んだ。都議選は、その後の国政選挙を先取りする先行指標となることが多く、党内では、次の衆院選挙に危機感が強まっている。

菅内閣の支持率が好転しない場合でも、菅首相の方針通り衆院解散・総選挙を先に行うのか。それとも自民党総裁選を実施して党の存在感をアピールしたうえで、総選挙に臨む方針に転換するのか、政局が一気に緊迫してくることが予想される。

ワクチン接種の加速などで、コロナ感染を抑え込めるのか。菅政権に対する世論の風向きに変化があるのかどうか、この2つの変動要素が、秋の政局のカギを握っている。

 

 

”コロナ失政”東京に4度目緊急宣言

政府は、新型コロナウイルスの感染再拡大が続く東京都に、4度目の緊急事態宣言を出すことを決めた。沖縄県の緊急事態宣言も延長し、期限はいずれも8月22日まで。まん延防止等重点措置については、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を対象に同じく22日まで延長することになった。

この決定を受けて、東京オリンピックは、東京など1都3県のすべての会場で観客を入れずに開催されることになった。こうした決定をどうみたらいいのか、考えてみたい。

 コロナ対策の失敗、”失政”

今回緊急事態宣言をどうみるか、結論を先にいえば、菅政権のコロナ対策が行き詰まり、宣言発出に追い込まれたとみている。

まず、3度目の緊急事態宣言は2回にわたって延長され、6月21日に宣言を解除したばかりだったが、1か月も経たないうちに4度目の宣言に追い込まれたことになる。解除に当たっては専門家から慎重論が出されたが、政権側が押し切った。

また、今年1月18日に召集された通常国会の施政方針演説で、菅首相は「新型コロナウイルス感染症を一日も早く収束させる」と強調するとともに「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と表明していた。

さらに、昨年3月に大会延期を提案した際、当時の安倍首相は「完全な形」での開催を表明していた。後継の菅首相は、大会開催から逆算して、ワクチン接種などの対策を徹底し、感染抑え込みを実現する責任を負ってきた。結果は、感染が拡大し、無観客開催に追い込まれたので、コロナ対策は失敗、失政と言わざるを得ない。

 五輪「無観客」は世論配慮か

次に東京五輪が「無観客」開催になったことについてだが、菅政権は最終段階まで、制限付きながらも観客を入れての開催を模索していたとみられる。

最終的に「無観客」を決断したのは、世論の側が感染拡大を心配して、開催に慎重・反対論が根強く、こうした点を配慮したためではないか。先の東京都知事選で、自民党は過去2番目に少ない議席に終わり、五輪の中止や延期を主張した野党が議席を伸ばしたことも影響したものとみられる。

さらに、秋には衆議院議員の任期が満了、衆議院選挙が控えており、五輪をきっかけに感染急拡大といったリスクは避けたいという判断も働いたのではないかと、個人的にみている。

 五輪、感染抑制の総合対策が必要

東京五輪は「無観客」での開催が決まったが、問題の核心部分、つまり、「感染の再拡大で緊急事態宣言が出される中で、オリンピックを開催して大丈夫か」という問題は残されたままだ。

菅首相は8日夜の記者会見でもワクチン接種が決め手だとして、最優先で取り組む考えを強調した。ワクチン接種は重要だが、それだけで感染を抑え込めるわけではない。人流の抑制など根本的な問題を含めて、対策を練り直す必要がある。

また、繰り返される緊急事態宣言やまん延防止等重点措置と、政府・自治体の無策ぶりに国民は、うんざりしている。また、営業時間の短縮や酒類の提供停止が長期化する飲食店業界は、危機的な経営状態に追い込まれている。

コロナ対策は未知の分野で、対応が極めて難しいことは理解できる。失敗があることもやむを得ない。だからこそ、対策の点検、検証、総括が必要だが、菅政権にはそうした対応がなく、対策の見直しが進まないのが大きな問題点だ。

今、菅政権に必要なことは、東京都などの地方自治体と連携を強め、感染対策や医療体制の整備、決め手のワクチン接種をより促進させる必要がある。

また、国民生活の支援や、深刻な影響を受けている飲食店などに対する事業支援など総合的な対策を早急にまとめ、実行に移すことが問われている。

最後に、菅政権の今後の政権運営について触れておきたい。菅政権の政権運営の基本は、感染拡大を抑え込んだうえで、東京五輪・パラリンピックを成功させ、秋の衆議院解散・総選挙の勝利につなげることにあった。

ところが、今回、緊急事態宣言の発出、五輪は無観客開催に追い込まれた。政権運営の土台部分が崩れ始めた意味を持っており、菅政権は東京五輪・パラリンピック閉会後は、一段と厳しい状況に立たされる可能性が大きいとみている。

 

 

自民”敗北”の原因は?東京都議選

東京都議会議員選挙は4日、投開票が行われ、自民党は第1党の座を獲得したが、議席を大幅に伸ばすことはできなかった。全員当選を果たした公明党と合わせても過半数に達しなかった。

自民党が獲得した33議席は過去2番目に少ない議席数で、”伸び悩み”という評価もあるが、事実上の”敗北”と言える。選挙前の大幅議席増の期待感は吹き飛び、自民党内では、秋までに行われる次の衆院選挙は厳しい結果になりかねないと懸念する声も聞かれる。

一方、投票率は42.93%で、5割を割り込んだ。前回・4年前の選挙より、およそ9ポイント低く、過去2番目に低い投票率になった。

自民党は、これまで低い投票率でも厚い保守地盤を活かして強みを発揮してきた。今回はなぜ、大幅議席増につながらなかったのか。今度の選挙結果の核心であり、次の選挙にも大きく影響するので、自民敗北の理由・背景を分析してみたい。

 自民第1党議席回復もワースト2

最初に選挙結果を手短におさらいしておく。選挙前は45議席で第1党だった都民ファーストの会(以下、都民ファ)は、14議席減らして31議席に踏み止まった。選挙前25議席だった自民党は、33議席しか獲得できなかった。公明党は、23人の候補者全員が当選、1993年以降8回連続の全員当選となった。

共産党は選挙前の18議席から1つ増やして19議席。選挙前8議席だった立憲民主党は15議席に伸ばした。日本維新の会と、東京・生活者ネットワークはいずれも選挙前と同じ1議席を獲得した。

自民党の獲得議席については、自民党関係者の間でも「8議席増やしたので、敗北ではない」との声も聞くが、前回4年前の選挙は歴史的惨敗といわれた議席数で、これを基準に党勢を評価するのはどうか。

今回は過去2番目に少ない議席数で、公明党を合わせた与党過半数の低いハードルも超えられなかったので、事実上の”敗北”とみるのが適切だと考える。

 ”自民支持層の支持離れ”

それでは、自民党は、なぜ、過去2番目に少ない議席数に陥ったのか。自民党長老に聞くと「政府のコロナ対応に対する不満と批判を浴びる形になった。特に選挙直前、ワクチン接種予約に供給が追い付かず、接種予約の停止に追い込まれたことが響いた。先月下旬、選挙の流れがガラリと変わった」と振り返る。

具体的にどういうことか。有権者の投票行動はどうだったのか、メディアの出口調査で分析する。

読売新聞の出口調査では、投票した人にふだんの支持政党を聞くと最多は自民党の33%。立民11%、共産8%、都民ファ6%、公明5%、無党派層28%となっている。NHK、朝日、共同の出口調査も数値は異なるが、似た傾向を示している。

自民党の政党支持率は、前回選挙と比べても大きな変動はない。ということは、自民党の支持層の中で、これまでとは異なる投票行動の質的な変化があったと考えられる。

◆自民支持層のうち、自民候補者に投票した人は57%と少ない。都民ファに投票した人が19%、2割近くに達した。◆朝日と共同のデータでも自民候補者に投票した割合は、どちらも70%と低い水準だ。都民ファには、それぞれ12%程度流れている。

一方、◆無党派層の投票先としては、各社の調査とも都民ファに28%から25%程度と最も多く投票している。自民は10%台前半で、4年前とほぼ同じ割合だ。

以上のことから、自民敗北の要因は「自民支持層の支持離れ」が起きて、投票数が減少したことが考えられる。

自民幹部にこの見方をぶつけてみると「確かに当初、自民党に追い風も感じられ、40台半ばは獲得できるとみていた。ところが、選挙戦に入る直前の6月下旬、急ブレーキがかかったような印象を受けた。ちょうどワクチン職域接種の予約中止が決まった時期で、このことが支持離れにつながったのではないか。自民支持層の一部に意識変化を起こさせた」との見方を示す。

私も選挙取材を40年余り続けているが、自民党が選挙に負ける場合は、自民支持層が政権に不信感を抱き、支持離れを起こしていることが多い。

今の菅政権については、緊急事態宣言延長の繰り返しをはじめ、ワクチン接種計画の見通しの悪さ、さらには、中々、決まらない東京オリパラ開催問題などに対する支持者の嫌気、不満や批判が支持離れをもたらしたのではないかと同じ見方をしている。今後は、支持者への説明、説得ができるかどうかが、カギになる。

 都民、共産、立民各党の課題

一方、都民ファーストの会が今回、踏み止まったのはなぜか。既にみてきたように無党派層の支持を得たことが大きい。もちろん、誕生した4年前の選挙の時に比べると、その支持は半減状態だが、各党と比べると支持の比率は最も多い。無党派層からは、改革勢力のイメージを持たれている。

また、小池知事の都民の支持率は6割程度と高く、こうした支持層の支持を都民ファは受けている。さらに、小池知事の緊急入院と投票日前日の候補者支援のパフォーマンス効果もあったかもしれない。

小池知事は、開票翌日の5日、自民党本部に二階幹事長を訪ね会談した。政界では、小池知事は次の衆院選で国政に復帰するのではないかとの見方がくすぶる。五輪閉会後、東京都のトップが任期満了、最後まで仕事をやり遂げるのか有権者としても注視していく必要がある。

一方、共産党と立憲民主党は、1人区と2人区を中心に候補者調整を行った。両党とも議席増につながり、一定の効果は出ている。今後は、次の衆議院選挙に向けて、野党第1党が中心になって政権構想づくりや、小選挙区の候補者調整をどこまで進められるのかどうかが、ポイントになる。

菅首相「選挙の顔」と政治責任

最後に今回の都議選の結果を受けて、政権与党の動きはどうなるか。菅政権発足以降、自民党は4月に行われた衆参3つの選挙で、不戦敗を含めて全敗したのに続いて、千葉県、静岡県の知事選挙で推薦候補の敗北が続いている。

加えて、今回の都議選で大幅な議席回復ができなかったことで、今後、自民党内から、菅首相は「選挙の顔」として通用するのかという声が出てくることが予想される。

自民党長老は「自民党員や世論は、菅首相の二正面作戦が本当に効果をあげるのか、五輪は無事開催できるのか、見極めようとしている。また、特にワクチン接種の計画と見通しなどを的確に説明し、軌道に乗せないと強い反発を招き、自民党内からも菅首相は政治責任を問われる局面が出てくるのではないか」と指摘する。

東京五輪・パラリンピックが無事開催にこぎつけられるのかどうか。感染の抑え込みとワクチン接種は順調に進むのかどうか。秋に向けて、こうした問題は政治に直ちに跳ね返り、政局は一気に緊迫する状況が続くことになりそうだ。