自民総裁選 党員投票が焦点 ”コロナ対応”も影響

秋の政局の焦点になっている自民党の総裁選挙は、9月17日に告示、29日に投開票を行う日程が、正式に決まった。

一方、岸田前政務調査会長は26日午後、自民党総裁選に立候補する意向を表明し、総裁選挙は、再選をめざす菅首相を含め複数の候補者で争われることが確実になった。

これによって、秋の政治日程は、自民党総裁選が先行し、続いて衆院選挙が実施されることが固まった。一方、コロナ感染は収束のメドが立っておらず、総裁選や衆院選挙にも大きな影響を及ぼし、波乱含みの展開になりそうだ。

 自民総裁選 党員投票がカギ

さっそく、自民党総裁選挙から見ていきたい。岸田前政務調査会長は26日午後、国会内で記者会見し、「感染拡大が長期化する中で、国民の間では、自分たちの声が自民党に届いていないと感じている。自民党が国民の声を聞き、幅広い選択肢を持つ政党であることを示すため、総裁選に立候補する」とのべ、総裁選挙への立候補を正式に表明した。

そのうえで、新型コロナ対策については、人流の抑制をはじめ、重症者用の病床や医療人材の確保などに強力に取り組むとともに、感染収束後の社会経済活動のあり方を検討するため、幅広い分野の専門家で構成する新たな組織を立ち上げるなどの考えを示した。

このほか、高市早苗前総務相や、下村政務調査会長も立候補に意欲を示している。このうち、高市氏は立候補に必要な推薦人20人が集まるかどうか、下村氏に対しては党三役は立候補を自重すべきだといった声が出されている。

総裁選をめぐって、菅首相は既に「時期が来れば、出馬する考えに変わりはない」と再選をめざす考えを表明している。

岸田氏は46人の議員が所属する岸田派の会長で、去年の総裁選に続いて2回目の挑戦になる。今回の総裁選は、菅首相と岸田氏を軸にした戦いになるのではないかという見方が出ている。

菅首相が選出された去年の総裁選挙は、安倍前首相の突然の辞任表明を受けて行われたため、自民党所属の国会議員393人と47都道府県連の各代表3人(計141人)だけによる「簡易型」の方式で実施された。

今回は任期満了に伴う選挙で、全国一斉の党員・党友投票と、国会議員投票の両方を行う「完全実施型」で行われる。具体的には、国会議員の383票と、同じく383票が党員投票に配分されるため、党員票の比重が増すことになる。

立候補者の顔ぶれがまだ固まっていないことと、投票日まで4週間もあるため、選挙情勢を論評できる段階にないが、自民党関係者に聞くと次のような見方をしている。

「菅首相は、二階幹事長をはじめ、安倍前首相や麻生副総理ら幹部クラスの支持を得ているので、国会議員票では優勢ではないか。一方、党員の評価は国民世論に近いので、菅首相にはかなり厳しい判断が示され、若手議員にも影響する。いずれにしても情勢は流動的で、激しい選挙になりそうだ」と予想している。

 衆院選は10月以降の公算大

それでは、衆院解散・総選挙はどうなるだろうか。

最初に主な日程を確認しておくと、◆9月5日に東京パラリンピックが閉幕、◆12日に東京などに出されている緊急事態宣言の期限を迎える。◆17日に自民党総裁選が告示され、29日に投開票が行われる。◆10月21日が衆議院議員の任期満了日になる。

菅首相は当初、東京パラリンピック閉幕後、直ちに解散・総選挙を断行する考えだったとされるが、感染急拡大や、横浜市長選で支援候補が大敗したため、見送らざるを得ない情勢だ。

それでは、どうなるのか、自民党の長老に聞くと「菅首相は、新型コロナ対策を最優先すると繰り返している。具体的な目標として、9月末に6割近くが2回接種を終える。10月初旬にすべての対象者の8割に接種できるワクチンを配分すると約束している。そうすると9月解散は見送らざるを得ず、10月前半の解散を模索するのではないか」との見方をしている。

その場合、菅首相は総裁選挙に勝利して求心力を回復したうえで、10月前半に臨時国会を召集、衆院を解散・総選挙に臨むケースが想定される。

但し、コロナ感染拡大が収束していない場合は、解散できずに10月21日の任期満了による選挙になるケースもある。

さらに、総裁選で菅首相が敗れるケースもありうる。新しい総理・総裁が選ばれ、政治日程は大幅に変わる。臨時国会が召集され、首相指名選挙が行われ、新内閣が発足した後、各党代表質問も行われる可能性がある。

このケースでは、新内閣が解散に踏み切る場合と、10月21日の任期満了選挙になる場合とがあり、投票日は11月14日、21日、28日が想定される。

このように、総裁選の結果によって衆院選の時期は、大きく変わることになる。

 コロナ対応が選挙情勢を左右

総裁選と衆院選の選挙情勢を左右する、もう一つ大きな要素として、コロナ感染状況と政府対応の問題がある。

国民の最大の関心は、感染爆発の抑え込みと医療崩壊を防ぐことにある。このため、総裁選と衆院選の争点も、感染抑制や医療提供体制の問題になるのではないか。

具体的には「菅政権のコロナ対策の実績評価」に焦点が当たり、選挙結果に大きな影響を及ぼす。菅政権は、医療体制の構築、感染防止、ワクチン接種という3つの柱からなる対策を着実に進めると強調している。

9月12日の緊急事態宣言の期限の時点で、感染や医療体制はどうなっているか。10月から11月にかけてのワクチン接種の進捗と感染減少効果は現われているか。コロナ感染と医療体制の状況によって、秋の政局は激しく揺れ動くことになりそうだ。

 

”横浜ショック”菅政権を直撃 秋の政局激動へ  

過去最多の8人が立候補し激戦が続いてきた横浜市長選挙は22日投票が行われ、立憲民主党推薦で、元横浜市立大学教授の山中竹春氏が、初当選を果たした。

前の国家公安委員長で、菅首相が全面的に支援した小此木八郎氏は支持が広がらず、及ばなかった。横浜市長選は菅首相のおひざ元の選挙で、小此木氏は閣僚を辞任しての挑戦、しかも菅首相が全面的に支援してきただけに、敗北の衝撃は大きい。

小此木氏敗北の要因と、秋の政局に及ぼす影響を探ってみる。

 小此木氏敗北、3つの要因

横浜市長選は、元横浜市立大学教授の山中竹春氏と、前国家公安委員長の小此木八郎氏が競り合い、4期目をめざす林文子市長が追う構図になっていた。

当初は小此木氏の当選か、候補者乱立による再選挙かといった見方も出ていたが、結果は、山中氏の圧勝に終わった。

山中竹春氏が50万6392票、小此木八郎氏32万5947票、林文子氏19万6926票などで、山中氏が大差をつけて初めての当選を果たした。

父親から政治家の座を引き継ぎ、閣僚まで務めた小此木氏が敗北した要因は何か。地元関係者の話を総合すると、次のような点をあげることができる。

1つは、保守分裂の影響で、小此木氏は自民支持層を固めることができなかったことが大きい。林市長の後継選びが難航の末、小此木氏が立候補に踏み切ったが、カジノを含むIR誘致をめぐる意見の対立から、林市長も立候補して双方が激しい戦いを繰り広げた。

小此木氏を支援する菅首相の陣営も舞台裏で、政権関係者が林氏を支持する企業などの切り崩しを図ったが、思うような効果は上がらなかったとされる。

2つ目は、選挙の争点への対応の問題がある。争点となったカジノ問題について、小此木氏はカジノ誘致反対を打ち出したが、IR推進役の菅首相の支援を受けたことで、当選後に反対姿勢を覆すのではないかとの疑念が地元で広がったという。

また、もう一つの争点になったコロナ対応についても、菅首相の支援を受けたことで、菅政権のコロナ対策に対する有権者の不満や批判の逆風を、小此木氏がまともに受ける形になった。

3つ目は先ほど触れたコロナ対策とも関連するが、菅首相が地元の選挙に自ら全面的に関与することになったことで、有権者側に「菅首相にモノ申したい」という受け止め方が広がり、選挙の流れが変わってしまったという見方がある。

地元関係者に聞くと「小此木氏は当初、運動に勢いがあったが、菅首相が小此木氏と対談、全面的に支援することを明言したというタウンニュースが配られた後、急速に勢いを失っていった」と振り返る。

知名度も高い小此木氏が大差で敗れたことは、候補者個人や陣営の問題というレベルを越えて、小此木氏を支援する菅首相に対する不満や批判が影響したという見方だ。

選挙期間中も感染が拡大し、ワクチン接種の遅れなど政府のコロナ対策に対する有権者側の怒りや、批判が”小此木離れ”を引き起こしたという受け止め方が地元では聞かれた。

一方、当選を果たした元横浜市立大学教授の山中竹春氏は、立憲民主党の推薦に加えて、共産党や社民党の支援を受けたほか、報道各社の出口調査では、無党派層の支持を最も多く獲得したことが勝利に結びついたといえる。

 政権運営に打撃、秋の政局激動へ

それでは、今回の選挙結果は、菅政権や秋の政局にどのような影響を及ぼすことになるか。

まず、菅政権への打撃は極めて大きい。政治家にとって、地元の主要選挙で支援候補が敗れることは、有権者の信頼を得ていないと受け止められ、求心力を大きく低下させる。

また、菅政権にとっては、今年4月の衆参3つの選挙で不戦敗を含めて全敗したのをはじめ、地方の主な知事選挙、さらには7月の東京都議選でも過去2番目に少ない獲得議席に終わった。

このため、自民党内には衆院選挙を控えて、菅首相は「選挙の顔」としてふさわしいのかといった不安の声が広がりつつあり、選挙基盤が固まっていない若手議員などから、今後、菅首相交代論が強まることが予想される。

これに対して、安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者が最後まで菅氏続投を貫くのかどうかが焦点になる。

いずれにしても菅首相としては、続投のためには9月末に任期が切れる自民党総裁選挙と、10月21日に任期満了となる衆院選挙の2つの選挙を連続して勝ち抜かなければならない。

自民党総裁選挙は26日に総裁選管理委員会が開かれ、日程が決まる予定だ。緊急事態宣言の期限が9月12日になっていることや、感染収束のメドが立たっていないことなどから、9月中の衆院解散は難しいとみられる。

そうすると自民党総裁選が先に実施される公算が大きく、今度は、議員投票だけでなく、党員投票が実施され、選挙のゆくえを左右する。

さらに最大の難関は次の衆議院選挙で、コロナ対策を中心に「政権の実績評価」が大きな争点になる見通しだ。菅内閣の支持率は政権発足以来、最低水準が続いてており、政権浮揚につながる材料が今のところ見当たらない。

国政選挙の先行指標と言われる東京都議選に続いて、今回の横浜市長選挙は菅政権にとって、”横浜ショック”と言えるほどの厳しい選挙結果になった。これからの政治の動きは、コロナ対応の評価を中心に世論が主導する形になり、菅首相の退陣も含めて激しく変動する確率が大きいとみている。

展望なき”宣言”拡大 菅政権

新型コロナウイルスの急激な感染拡大を受けて、政府は17日、緊急事態宣言の対象地域に茨城、静岡、京都、福岡など7府県を追加する方針を決めた。

また、まん延防止等重点措置を宮城、富山、三重、香川、鹿児島など10県に新たに適用する方針だ。期間は、いずれも9月12日までになる。

これによって、緊急事態宣言は13都府県、重点措置は16道県に拡大する。但し、これによって、感染拡大に歯止めをかけることできるかどうか不明だ。

菅首相は先月末の記者会見で「緊急事態宣言が最後となる覚悟」で取り組むと表明していたが、8月末までの感染抑え込みはできず、9月にずれ込むことになる。感染危機は今後、どうなるのか、政権運営などにどんな影響が出てくるのか探ってみたい。

 8月感染危機抑え込みは失敗

まず、今回の緊急事態宣言の追加・拡大の方針をどのようにみるか。

政府は、今月2日緊急事態宣言の対象地域に埼玉、千葉、神奈川、大阪府を追加して6都府県に拡大し、8月31日までの抑え込みをめざしてきた。菅首相は先月末の記者会見で「8月末までの間、今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府を挙げて全力で対策を講じる」と決意を表明していた。

ところが、先月末以降、感染が急拡大し、今回、感染対象地域を追加するとともに、期間についても9月12日まで延長することに追い込まれた。端的に言えば、菅首相がめざした8月感染危機抑え込みに失敗したことになる。

問題は、今回の方針で、今後の感染急拡大を抑え込めるかどうかだ。政府は、今回、医療体制の構築、感染防止の徹底、ワクチン接種の3本柱で対策を進めて行くと強調している。

しかし、3本柱の中身を見ると新たな対策といえば、百貨店やショッピングモール、専門店などの大型商業施設について、入場者の整理を徹底することを盛り込んだ程度で、新味に乏しいのが実状だ。

専門家が重視した人出の抑制も、買い物の回数を半分程度にしてもらうよう呼びかけるのが中心で、効果は期待できそうにない。

専門家は「東京の感染状況は制御不能」、医療提供体制も「深刻な機能不全に陥っている」などと警告しているが、残念ながら今回の政府方針で、今の感染爆発を抑え込むのは難しいという見方が多く、展望なき感染対策が続くことになりそうだ。

 感染抑え込みに何が必要か

それでは、感染拡大の抑え込みにどんな取り組みが求められているのだろうか。結論を先に言えば、先に政府分科会の尾身会長が12日に公表した、感染抑制策の強化の提言を基に、具体的な対策を練り上げることが考えられる。

分科会の提言は、感染爆発を防ぐための大目標として、2週間という期限を区切って、人出・人流の5割減少をめざす。そのための、具体策として◇災害時並みの今の医療危機に対応するため、国が自治体と協力し、思い切った対策を取ること。◇医療関係者がいる宿泊療養施設を増設、◇PCR抗原検査の徹底などを、ワクチン接種とは別に早急に打ち出すように求めていた。

政府が今回、示した対応策は「急増している自宅療養患者と必ず連絡がとれるようにする」などの一般論ばかりで、自宅待機・療養患者をどのような仕組みで、いつまでに、どれくらいの人数の改善をめざすのかといった具体策は盛り込まれていない。これでは、感染抑え込みは難しいのではないか。

 ワクチン接種64歳以下の遅れ

政府のワクチン接種の進め方についてもみておきたい。ワクチン接種が感染抑止の切り札になることに異論はないし、接種を加速させることにも賛成だ。

菅首相は17日夜の記者会見でも「10月から11月のできるだけ早い時期に、希望するすべての方へ2回のワクチン接種の完了をめざしていく」との考えを示した。政府関係者もワクチン接種については、7月は1日150万回と目標をはるかに上回るペースで進んだと強調する。

ところが、専門家に聞くと、日本のワクチン接種は遅ればせながらも、高齢者の接種は急速に進んだが、64歳以下の人たちの遅れが、極めて大きな問題だと指摘する。

14日時点のデータをみてみると国民全体では、1回目の接種を終えた人は49%、2回目は37%となっている。このうち、高齢者は1回目が88%、2回目が84%と高い。一方、64歳以下は1回目は22%、2回目は10%に過ぎない。

これでは、感染爆発を防ぐのは難しい。また、50代以下、若い世代については、ワクチン接種の予約を申し込もうとしても、なかなか予約が取れないとの話を聞く。自治体の中にも今月下旬以降、ようやく若い世代の受付を本格化するところもある。ワクチン配分と接種の進み具合をしっかり見ていく必要がある。

 総裁選先行、衆院選の公算も

感染抑え込みが9月にずれ込んだことは、菅政権の解散・総選挙戦略にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

菅政権の当初のシナリオは、感染拡大を抑え込み、東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、その勢いに乗って、9月の早い段階で衆院解散・総選挙を断行、選挙に勝利した後、自民党総裁選を無風で乗り切る戦略だった。

ところが、緊急事態宣言が9月12日まで延長されたので、9月早期の衆院解散は難しい情勢だ。このため、自民党総裁選を先に行い、その後、衆院選挙という可能性が大きくなりつつある。菅首相としては、衆院選の前に、総裁選を勝ち抜くことが必要になる。

もう1つ、8月22日に行われる横浜市長選も絡んでくる。横浜市長選は菅首相のおひざ元の選挙で、前の国家公安委員長の小此木八郎氏が議員を辞職して立候補。現職の林文子市長も立候補して保守分裂の選挙になっている。

8人が立候補して、激戦が続いているが、地元の関係者によると立憲民主党が推薦する山中竹春候補と小此木候補が激しく争い、これを林候補が追う構図とみられている。この選挙結果によっては、首相が次の衆院選を戦う「選挙の顔」としてふさわしいかどうか問われることになるとの見方が出ている。

以上、見てきたように今回の緊急事態宣言の拡大は、来月12日の期限までに感染爆発と医療危機を抑え込むことができるのかどうか。菅首相の政治責任や秋の政局のゆくえにも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

 

菅政権 ”支持率続落の危機”

コロナ禍の東京オリンピックが8日夜、17日間の幕を閉じ、政界はお盆明けから秋の政局に向けた動きが本格的に始まる。

最大の焦点は衆院解散・総選挙がいつ、どのような形でおこなわれるかだが、ここにきて、菅内閣の支持率が急落している。報道各社の世論調査の中では、菅内閣の支持率が3割を切るところも出てきた。

また、不支持が支持を上回る”逆転状態”も4か月連続で、深刻なのは政権の浮揚材料が見当たらないことだ。

今月末には、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期限を迎える。新型コロナウイルスの新規感染者数は、全国で連日1万人を上回る状態が続いている。

感染爆発の勢いを止めることができなければ、菅政権に対する世論の風当たりは一段と激しさを増し、秋の政局にも大きな影響を及ぼすことになる。こうした菅政権の支持率続落危機の背景や政権への影響を探ってみる。

 菅内閣発足以降最低 3割の壁崩れる

さっそく、報道各社の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞が7、8の両日、読売新聞とNHKがそれぞれ7日から9日の日程で実施し、その結果がまとまった。

まず、菅内閣の支持率は、朝日が支持28%-不支持53%、読売が支持35%-不支持54%、NHKが支持29%-不支持52%となっている。

各社の数値に多少の幅はあるが、支持率はいずれも去年9月以降最低の水準を更新、不支持は5割以上という点で共通している。世論の潮流がはっきりしてきた。

中でも衝撃的なのは、朝日新聞とNHKの内閣支持率が30%を下回ったことだ。NHKの世論調査では、第2次安倍政権が発足した2012年以降、最も低かったのは、安倍前首相が退陣を表明した去年8月の34%だった。

第2次安倍政権時代は、森友学園や加計学園問題をめぐって国会が紛糾した際も支持率3割を割り込むことはなく、復元力も強かった。

これに対して、菅政権ではこの3割の壁が崩れたことになる。衆院議員の任期満了が2か月後に迫り、支持率続落に歯止めがかかるのかどうか、反転攻勢の材料は見当たらない。

 政府のコロナ対応 不信感と嫌悪感

それでは、支持率急落の原因は何か。菅内閣の支持率については、これまで何度か指摘したように「新型コロナウイルスを巡る政府の対応」と連動している。

NHKの調査では「評価する」が35%に対し、「評価しない」が51%で、依然として、国民の厳しい評価は変わっていない。

これに加えて、政府の不手際が相次いだ。飲食店の種類提供を停止させるため、酒の販売事業者や金融機関へ働きかけを要請をした後、批判を浴びて撤回に追い込まれた。

自宅療養者に対する医療提供方針をめぐっても対応が混乱した。こうした混乱について、説明もきちんとなされないので、政府の対策や対応には付き合いきれないという不信感や嫌悪感が広がっていること影響しているものとみられる。

一方、政権与党内には、五輪開催による政権浮揚効果を期待する意見があったが、この点はどうか。読売の調査でみると東京五輪が開催されてよかったと「思う」が64%に対し、「思わない」は28%だった。

菅首相が掲げた「安全安心な大会」になったかについては、「思う」は38%に対し、「思わない」が55%だった。

東京五輪について、世論の多くは、コロナ禍の試練に耐えて技や能力を磨いてきた選手の躍動に共鳴し、「開催してよかった」と感じているのだと思われる。

それに引き換え、政府や自治体トップには覚悟や国民に訴える内容も持ち合わせておらず、「五輪は五輪、政治とは別の次元」と割り切っているようにみえる。

このように五輪の評価は高いが、菅内閣の支持率には結びついておらず、政権浮揚効果は全く見られないことがはっきりした。

  政党支持率 ”自民低下現象”

今回の報道各社のデータの中で、特に注目したのは読売の調査で、政党支持率と投票予定政党に変化が現れている点だ。結論を先に言えば、内閣支持率の低下が、自民党の支持率の低下という形で現れ始めたとみられる点だ。

自民党の支持率は7月の39%から36%へ低下しているほか、無党派層の投票先でも自民党17%に対し、立憲民主党は13%で4ポイント差まで詰め寄られている。無党派層は今や自民党を抜いて”第1党”で、無党派層の獲得率が選挙結果を大きく左右する。

自民党長老に聞くと「菅首相と自民党は丁寧な政権運営を心掛けないと、国民の信頼を失い、選挙で大敗する恐れがある。コロナ対策、政治とカネ、オリンピック・パラリンピック対応、総理の説明不足などで、国民との距離がどんどん広がりつつある」と選挙への深刻な影響を懸念する。

 感染抑え込み 宣言解除できるか

さて、これから政治の展開はどうなるか。東京オリンピックに続いて、今月24日からパラリンピックが予定されており、この大会をどのような形で開催するか、組織委員会や東京都、政府などの間で調整する。今のところ、オリンピックと同様、無観客で開催するとの見方が強い。

次に最も大きな問題は、今月31日に期限を迎える緊急事態宣言と、まん延防止等重点措置の扱いだ。緊急事態宣言は東京、大阪など6都府県、重点措置は13道府県にまで拡大している。

東京に今の4度目の緊急事態宣言が出された7月12日、東京の新規感染者数は502人、全国でも1504人だった。ところが、その後急増し、今月5日東京では5000人を突破、全国では7日に1万5700人を上回った。専門家は「ピークが見えない」語るとともに重症者や、入院に伴う病床のひっ迫を警戒している。

これに対し、菅首相はワクチン接種に期待をかける。但し、2回目接種の割合は10日時点で、高齢者は81%と高いが、64歳以下はわずか8%に止まる。ワクチンの供給不足で急ブレーキがかかっていたが、ようやく段階的に再開され始めた。

変異株への置き換わりが急速に進んでおり、仮に8月末に感染収束のメドがつかなければ、菅政権の対応や政治責任を問う声が強まることが予想される。8月末までに感染抑え込みができるのか、大きな節目になる。

 問題の核心 衆院選の顔と選び方

自民党の総裁選については、今月26日に総裁選の選挙管理委員会が開かれ、日程が決まる見通しだ。党の執行部や派閥の実力者は、今のところ菅首相の下で衆院選を戦い抜く考えで、衆院選や総裁選の日程を調整する方針だ。

これに対して、中堅・若手議員を中心に「菅首相で選挙に勝てるのか」との不安感が広がりつつあり、総選挙の前に自民党総裁選を行い、国民の関心を自民党に引きつけた後、衆院選に臨むべきだとの声も聞く。

また、執行部は総裁選は、無投票で菅首相を選出したいとの考えが強いが、高市早苗・元総務相が月刊誌で立候補の考えを表明した。任期満了に伴う総裁選は、議員投票とともに党員投票を行って新総裁を選出すべきだという声も若手議員の間では強い。

今後、自民党内からさまざまな動きが出てくることが予想されるが、問題の核心は、次の衆院選の顔を誰にするのか。現職の菅首相に1本化するのか、菅首相を含め候補者が立候補して決めるのか、その方法を早く決める必要がある。

執行部が強引に政治日程を決めると、党員や有権者の反発を招き、本番の衆院選でしっぺ返しを受ける。菅政権の足元が揺らぎ始めた中で、感染抑え込みはできるのか、それに与野党、世論が絡み、変動の激しい秋になりそうだ。

 

 

“感染8月危機”と菅首相の政治責任

新型コロナウイルスの感染急拡大を受けて、政府は2日、緊急事態宣言の対象地域に首都圏の埼玉、千葉、神奈川と大阪府を追加し、6都府県に拡大した。

また、まん延防止等重点措置が北海道、石川、京都、兵庫、福岡の5道府県に適用された。期限はいずれも8月31日までとなっている。

東京オリンピック開催中の感染急拡大で、専門家は感染者数の急増だけでなく、医療のひっ迫も懸念されるとして、「この1年半で最も厳しい状況にある」と8月感染危機に警鐘を鳴らしている。

菅首相にとっても、この感染危機を抑え込めないと秋の衆院解散・総選挙を控えて自らの力量や政治責任を問われることになる。この8月感染危機を本当に抑え込むことができるのか、何が問われているのか探ってみたい。

 緊急宣言の拡大・延長の効果は

政府が緊急事態宣言の対象地域拡大の方針を決めたのは7月30日だが、この週の初めまでは宣言拡大には慎重な姿勢だった。ところが、28日に感染者数が3000人台に跳ね上がってから、慌てて舵を切ったのが実状だ。さらに翌31日は4058人と初めて4000人も突破した。

東京に4度目の緊急事態宣言が出されたのが7月12日で、この日の感染者数は502人だった。わずか3週間余りで、感染者数が急増したことになる。

政府分科会の尾身茂会長は「現状では感染を減少させる要素がほとんどない。逆に増やす要素はたくさんある。一般市民の『コロナ慣れ』、感染力が強いデルタ株、夏休みにお盆、さらにオリンピックだ」と指摘する。

そのうえで、「最大の危機は、社会で危機感が共有されていないことだ。このままでは医療のひっ迫が深刻になる」と危機感を示すとともに、政府に強いメッセージを出すように求めていた。

これに対して、菅首相は30日夜の記者会見では「今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府をあげて全力で対策を講じていく」と強調する一方、ワクチン接種の効果や画期的な治療薬の積極的活用に詳しく触れて楽観的とも受け取れる発言が目立った。

また、開催中の東京オリンピックとの関係についても「感染拡大の原因になっていない」と強調し、国民に向けた強いメッセージはなかった。尾身会長の危機感との違いが際立った。

 感染危機乗り切りへ何をすべきか

それでは、当面の感染危機を乗り切るためには、どんな取り組みが必要だろうか。菅政権が去年9月に発足して以降、政府のコロナ対策としては、一貫して飲食店の営業時間短縮や休業要請が中心で、酒類の提供停止に力を入れてきた。

飲食店対策も重要だが、与党関係者の間では「サラリーマンが多く活用する居酒屋などの飲食店対策は、いわば”川下の対策”。それよりテレワークをより徹底して通勤者を減らす”川上対策”を行うべきだ。企業や経営団体などにもっと強力に働きかける方が効果がある」といった提案を聞いた。

医療分野では、感染急拡大に伴い自宅で療養している人たちの対策が、再び大きな問題になっている。東京都の場合、7月1日時点ではおよそ1000人だったのが、日を追うごとに増え、8月1日には1万1000人にも達しているという。わずか1か月の間に11倍も増えたことになる。

こうした自宅療養者は無症状や軽症者が多いと言われ、保健所などの健康管理がうまくいかないと地域で感染を広げることになりかねない。ホテルなどでの宿泊療養体制の整備が必要ではないか。

政府関係者からは「新たな対策を打ち出したいが、もう打つ手がない」との声を聞くが、本当だろうか。例えば、変異ウイルスのデルタ株を追跡する検査は十分行われてきたのか。大量の抗原検査キットを配布するなどの対策を聞かされてきたが、最近まで行われていなかったと聞く。

政府や東京都の対応については、これからの実施計画などの説明は詳しいが、実施後の経過や、どのような成果があったのか、逆に問題が生じて目詰まりの段階にあるのか、結果の説明や政策評価は乏しい。

感染拡大は変異株が主要な要因との政府側の説明を聞くが、そうした点は既に明らかで、検査・追跡体制強化は十分だったのか。政府・自治体は、国民へ外出自粛などの要請を頻繁に行うが、自らの対策の点検結果や、問題点や反省点、今後の改善点などの説明は極めて弱い。

これでは、政治や行政側が国民との危機感の共有はできないし、国民の協力をえるのも難しい。

菅首相も毎日、記者団のぶら下がり取材に応じたりして、国民にメッセージを発信すべきだ。記者会見でも具体的な説明が少ないうえに、伝えたいメッセージも乏しいとなると、危機のリーダーとして通用するのだろうか。

このほか、もう1つの柱であるワクチン接種の問題がある。ワクチン接種のペースは先進国に比べて遅れているが、8月1日時点のデータで、高齢者については1回目の接種が86.2%、2回目接種は75.8%に達し評価できる。

但し、国民全体に占める接種比率は、1回目が39.6%、2回目が29.1%に止まる。ワクチンの供給不足が問題になっているほか、50代以下の若い世代への接種を早期に終えることができるかどうかという問題を抱えている。

 問われる首相の力量・政治責任

さて、東京オリンピックは、日本勢の活躍でメダルラッシュが続き、盛り上がりをみせている。但し、政権・与党幹部が「オリンピックが盛り上がれば、世の中の空気が変わり、政権の評価も高まるまずだ」と期待していたような気配は、今のところ感じられない。

国民の多くは、オリンピックはテレビ観戦を楽しむ一方、感染状況や政府の対策の実績を見極めようとしているように見える。国民にとっては、まずは政府と自治体が今の「第5波」が大きな波にならないように抑え込むことができるかどうかに最大の関心を持っている。

具体的には、オリンピックが無事、閉幕までこぎつけられるか。24日からのパラリンピックは観客の扱いを含めてどうするのか。

一方、政治の動きとしては、8月はじめに自民党総裁選の選挙管理委員会が設置された後、下旬には、選挙期日の扱いを決めることになる。

自民党内では、派閥の幹部を中心に菅首相の下で衆院解散・総選挙を戦い抜くべきだという意見が今のところ主流だ。一方で、中堅・若手議員の間では「選挙の顔」として菅首相の力量に不安を感じる声も聞かれる。

さらに報道各社の世論調査も実施される。世論は、菅政権のコロナ対策をどのように評価し、菅内閣の支持率はどうなるか。世論の風向きは、衆院選挙を控えた自民党の対応の仕方にも影響を及ぼす。

8月の感染危機はどのような形で収まるのか。菅政権の対応を世論はどう評価するのか、秋の政局の流れを大きく左右することになる。