岸田 新総裁選出の読み方 自民総裁選

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、決選投票の結果、岸田文雄前政務調査会長が、河野太郎規制改革担当相を抑えて、新しい総裁に選ばれた。

今回の総裁選挙は、「自民党の異端児」などと言われ、国民の人気の高い河野氏が党員投票で大量得票するのではないかという見方も出されていた。

これに対して、岸田氏は「真面目で普通の人」でアピール力も弱いとされてきたが、なぜ、勝利を収めることができたのか。

岸田新総裁は、来月4日に国会の首相指名選挙を経て、第100代の首相に就任する。首相就任に向けて、何が問われているのか探ってみたい。

 ”本命岸田、対抗河野、大穴高市”

まず、今回の総裁選挙の勝敗の予測はどうだったか。投開票日の29日朝の時点で、全国紙、NHK、民放の主なメディアで、岸田氏が決選投票で勝つとの見通しを報道した社はなかったのではないか。

それだけ、読みにくい総裁選だった。派閥の対応も、総裁候補として派閥の会長を擁立した岸田派を除いて、支持を1本化することは見送り、自主投票としたからだ。

また、派閥が一定の票を動かして、特定の候補者を外すといった権謀術数、怪情報が投開票日直前まで飛び交ったことなども影響したかもしれない。

自民党総裁選挙で投票できるのは、全国の党員・党友110万人余りと衆参両院の国会議員に限られ、独自のルールで行われる。それだけに党員の投票行動の本音がわかるのは、党の関係者だ。

そこで、告示前に党の長老に勝敗見通しを聞いたところ、「わかりやすく言えば、本命・岸田、対抗・河野、大穴・高市ではないか」との見方を示していた。

個人的には、そこまで言い切れるのか半信半疑だったが、見通しが当たったので、さっそく電話で、改めて真意を聞いてみた。

「岸田勝利は、確信していた。但し、第1回投票で、わずか1票だが、岸田がトップには驚いた。おそらく、ここまで予測できた人はいなかったのではないか。議員や党員の多くが、河野に”危うさ”を感じたのに対し、岸田には、政策や人間的に”安定感”を感じたのではないか」と指摘する。

私なりに解釈すると、河野氏については発信力はあるが、ワクチン接種の地方への配分が混乱したほか、最低保証年金など政策の詰めの甘さが目立ち、リーダーとしての危うさを感じたのではないかというわけだ。

これに対し、岸田氏は4人の候補者の中で唯一の派閥の領袖であり、人との付き合いや、組織を運営する経験もある。政策面についても、コロナ感染収束後の経済政策などを仲間と練り上げてきたことがうかがえたとの見方だ。

当事者の見方として、個人的には、納得できる点も多い。

 世代交代進まず、実力者の影響力大

これに対して、別の見方もできる。国民に近い党員票に着目すると、河野氏が44%を獲得し、岸田氏の29%を大きく上回った。岸田氏は、逆に議員票で大きくリードした。

河野氏を支持した党員の側には「党の役員や閣僚に長老が長期間、居座っており、なんとか世代交代を進めてほしい」「派閥や、実力者が政権運営を支配するような体質を変えてほしい」といった期待がうかがえる。

このうち、派閥の関与については、若手議員が自主投票を強く要求したこともあり、派閥で支持を1本化しない異例の形になった。ところが、決選投票の段階になると派閥として、まとまって対応しようという動きも出てきた。

例えば、決選投票で岸田氏は議員票が100票程度増えたが、この増加分は高市氏の得票分のかなりが回ったのではないか。派閥の対応の仕方を変えるのは、中々、難しい。

党内実力者の影響もかなりみられた。具体的には、安倍前首相は、高市氏支援で若手議員などに頻繁に電話をかけ、ヒートアップしていたとの話を聞いた。高市氏票のかなりの部分は、安倍氏の働きかけによるとの見方が強い。

二階幹事長については、当初、菅首相再選支持で動き、派内の反発を招いたことなどから、影響力は低下しているのではないかといった声も聞く。

全体としてみると、自民党の派閥の存在や機能は中々、変わらない印象を受ける。安倍氏や麻生氏などの実力者の影響力も依然として強い。派閥、党内実力者影響力は依然として残り、世代交代、党風刷新への道のりは長いと言えそうだ。

 問われるコロナ対応、政権の信頼性

そこで、岸田新総裁が問われる点は何か。党員や国民の期待に応えられる政策を打ち出し、政権の体制づくりが進むかどうかだ。

まず、政権の最優先課題は、コロナ対策。コロナ対応は既に1年9か月、自民党は、安倍政権、菅政権の2代にわたって感染の抑え込みに失敗して、退陣に追い込まれた。

ワクチン接種の加速で、幸い今は、感染が大幅に減少している。政権の交代期だが、政治・行政の対応の空白にならないよう全力で取り組む責任がある。

特に肝心の医療提供体制については、総裁選の論戦でも、菅政権のどこを変えるのか、掘り下げた議論は乏しかった。コロナ対策に遅れが出れば、直ちに政権は失速するだろう。

もう1つは、政権の信頼性の問題だ。岸田氏は、総裁選の議論の中で、安倍長期政権の負の遺産とも言える、森友・加計問題や、財務省の公文書の改ざん問題などについての再調査や政治責任について、及び腰とも見える発言がみられた。

党員や国民の側は、総理・総裁は一部の実力者の存在を気にすることなく、国民のための政策を強力に進めてほしいという期待を抱いている。幸い、岸田氏は、若手中堅を大胆に起用する考えを表明しており、どこまで実行するのかを注目している人は多いと思われる。

岸田新総裁が、国民が期待できるような体制を組むことができるのか、自民党役員人事と組閣の布陣が大きなカギを握っている。

国民の多くは、自民党の総裁選挙の投票権を持っていないので、選挙の本番は、衆院選挙だ。自民党の総裁選後の政権の体制や方針、それに対する野党の政策や構想などをしっかり見比べて、熟慮の1票を投じたいと考えている。

 

 

 

“最後に笑う人は?”自民総裁選投開票へ

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、29日に投開票が迫っているが、党員票で河野規制改革担当相がトップに立っているものの、過半数を獲得することは難しく、上位2人による決選投票にもつれ込むことが確実な情勢となっている。

決選投票を制し、”最後に笑う候補者”は誰になるのか、混戦が続く総裁選のゆくえを探ってみたい。

 1回で決まらず、決選投票が確実

さっそく、総裁選の選挙情勢からみていきたい。知人からも誰が当選するかとの質問が寄せられているので、可能な限りわかりやすく現状を分析してみたい。

混戦が続く今回の総裁選の予測は難しい。総裁選は、全国の党員・党友110万人余りの得票を比例配分する「党員票」382票と、党所属国会議員の「議員票」382票の合計764票で争われる。このうち、党員票の動向は、大手メディアの調査や取材がないと正確な情勢は中々、つかめない。

その際、正確なデータとして最も参考になったのは、読売新聞と共同通信が党員・党友を対象に行った電話調査だ。報道各社も世論調査を行い、自民党支持層の支持動向を分析しているが、自民党支持層と党員の支持動向は一致するとは限らない。

その党員調査によると河野氏がトップに立ったものの、「得票の上限」は50%を超えそうにないことがはっきりした。また、河野氏は議員票で1位になる公算は小さいので、党員票と議員票の合計でも過半数に達しない。つまり、第1回投票では決まらず、決選投票が確実な情勢ということになる。

そうすると決選投票は上位2人に絞って行われるので、河野ー岸田、あるいは、河野ー高市の2つのケースが想定される。第1回投票の予測では、党員投票と議員投票ともに岸田氏が高市氏をリードしているので、決選投票は河野-岸田の両氏の公算が大きいというのが、今の情勢だ。

 決選投票 党内力学・選出過程を注視

さて、決選投票はどうなるか。国会議員票382票と、党員票は47都道府県ごとに上位の候補者に1票ずつ加算されて、合計429票で争われる。党員票の比重が小さくなり、議員票の比重が増すのが特徴だ。

党員票については、47票の多数を河野氏が獲得し、岸田氏は地元広島県や有力議員のいる県に限られる見通しだ。

一方、議員票は、第1回投票の予測では◆岸田氏が3割強で最も多く、ついで◆河野氏が2割台半ばで、◆高市氏が2割で追い、◆野田氏20票程度とみられている。決選投票では、まず、3位の高市氏に投じた票と4位野田氏の票がどう動くか。

高市票の内訳は、最大派閥の細田派や、安倍前首相の影響が大きい若手議員の支持が多いとみられる。こうした票の多くは、安倍氏の意向などから、岸田氏支持へ回るとの見方が強い。派閥間の申し合わせを行うかどうかは別にして、事実上の「2位・3位連合」だ。

また、派閥の中には、1回目は自主投票としたが、決選投票はまとまって投票しようという動きもあり、派閥の動きがどうなるか。

さらに、党内の実力者、具体的には安倍前首相、麻生副総理、二階幹事長、菅前首相などがそれぞれの派閥や議員集団にどのような働きかけをするのか。

このほか、衆参でも温度差があるといわれる。衆議院の若手議員の中には、間近に迫った衆院選を有利に戦うために「選挙の顔」となるリーダーを選ぼうとする傾向が強いとされる。

これに対して、参議院側は、来年夏の参院選を考えると年明け長丁場の通常国会を乗り切れる「安定感」のある総理・総裁を選ぼうとするのではないかといった見方も聞かれる。このようにさまざまな要素が絡み合い、投票箱を開けるまでわからないとも言える。

総裁選で投票権を持っている自民党員は、有権者全体のわずか1.1%。投票権のない国民の1人としては、国会議員が何を重視して1票を投じたのか、派閥や有力者の働きかけなど党内力学がどのように働いたのか、じっくり注視したい。

今の段階で、”決選投票で笑う人”を予測すれば、岸田氏か、河野氏のいずれかというのが、個人的な見方だ。あるいは、結果によっては、候補者の背後にいる実力者の中にも、”笑う人”が現れるかもしれない。

 新首相は前途多難 衆院選が本番

新総裁は10月4日に召集される国会で、第100代の新しい首相に選ばれる運びだが、その前途は多難だ。

まず、懸案のコロナ対策について、政権移行に伴う空白が生じないよう支障なく進めていく体制づくりが求められる。月末に緊急事態宣言が解除になる見通しで、ワクチン接種の促進や、冬場の感染再拡大に備えた医療提供体制の整備を急ぐ必要がある。

最大の課題は、10月21日に任期満了となる衆議院選挙だ。新総裁にとっては、選挙に勝てば問題はないが、議席を大幅に失うような事態になれば、政権は失速する。新総裁にとっては、自民党総裁選に続いて、衆院選挙でも勝てるかどうかが一番のカギを握っている。

したがって、”最後に笑う人”は、実は与党のリーダーか、それとも野党のリーダーになるのか、最終的には秋の政治決戦の結果次第ということになる。

私たち国民の側としては、国会で与野党が、焦点のコロナ対策や日本社会や経済の立て直し策などをめぐって、十分に議論を深め、双方の論点や選択肢をはっきりさせたうえで、選挙戦に入ってもらいたいところだ。

まずは自民党総裁選の投開票をじっくり観察し、秋の衆院選本番に向けて、心構えの準備を始めたい。

 

“国民目線乏しい論戦”自民総裁選

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、29日の投開票に向けて後半戦に入った。テレビ、新聞の政治報道は総裁選一色、特に「誰が勝つか」「1回で決まらず、決選投票で逆転か」など勝敗をめぐる予想がにぎやかだ。

国民のほとんどは投票権がないが、事実上、次の首相選びなので「何をする首相か」、特に主要政策に関心を持つ人は多いとみられる。ところが、前半戦の候補者の意見を聞く限り、主要なテーマをめぐって掘り下げた議論は乏しい。

例えば、国民の多くが高い関心を持つコロナ対策について、安倍政権、菅政権の2代にわたる失政と退陣に追い込まれた問題の核心には、どの候補者も踏み込まない。個人的には、政権の司令塔機能が果たせなかった点に大きな問題があったとみているが、4人の候補者は「欠けていたことは、丁寧な説明」などと論点をずらしているようにみえる。

「議員投票では党内実力者の支持が必要であり、政権や執行部に厳しい意見を言えるわけがない」との反論が聞こえてきそうだが、そのような腰の引けた対応では次の総理・総裁として、国民の信頼を得ることはできない。

コロナ対策は自らが就任した場合も、直ちに真剣勝負が迫られる最優先課題だ。それだけに後半戦の論戦では、各候補者は主要テーマを絞り込んで、踏み込んだ論戦を望みたい。こうした結論や注文をする理由、背景などについて、以下詳しく説明したい。

 コロナ対策、総括なき議論の限界

今回の総裁選で国民の関心が最も高いコロナ対策から、具体的にみていきたい。4人の候補者の主な主張を手短に確認しておくと次のようになる。

◆河野規制改革担当相は「ワクチン3回目接種の準備」、◆岸田前政務調査会長「健康危機管理庁の設置」、◆高市前総務相「ロックダウンの法整備検討」、◆野田幹事長代行「臨時病院の整備」など独自政策のアピールに懸命だ。

これに対し、国民の側が聞きたい点は、安倍前首相と菅首相が2代にわたってコロナ対策に失敗して退陣に追い込まれた原因は何か。自ら首相に就任した場合、その教訓を生かして、何を最重点に取り組むのかという点に尽きる。

ところが、4人の候補者とも「欠けていたのは、丁寧に説明するということ」「国民に対する丁寧な説明」など説明の仕方の問題に論点をずらしている。

振り返ってみると菅政権では、1月に2回目の緊急事態宣言を出して以降、飲食店の営業時間短縮の1本足打法を長期にわたって続けた後、5月頃からはワクチン接種最優先の1本足打法へと切り替わった。

しかし、その後も感染急拡大と医療危機は収まらず、夏場になって3本柱、感染抑制、ワクチン接種、医療提供体制整備の対策がようやく打ち出された。この間、菅政権はコロナ対応について、まとまった評価、総括をしないまま退陣を迎えようとしている。

今回の総裁選の議論では各候補者とも、安倍前政権や菅前政権の対応策についての評価には踏み込まず、ワクチン接種や新薬の開発などの個別の問題について議論を続けている。このため、国民の側からすると、4人の候補者は菅政権のどこを変え、何を最重点に取り組もうとしているのか、さっぱり伝わってこない。

また、各種の討論会やテレビ番組の議論を聞いても、司会者側から、これまでの経緯や事実に基づいた具体的な質問がほとんどなされないため、問題の核心に触れるような議論に発展せず、説得力を持たない形に終わっている。

今月末に期限を迎える緊急事態宣言は、感染の減少傾向がはっきりしてきたことから、19都道府県で全面的に解除される公算が大きい。新総裁・新首相は、就任後直ちに対応を迫られるので、これまでの政権の対応の評価や総括については、後半戦の議論の中で決着をつけておく必要がある。

 外交・安保の基本構想の明示を

次に外交・安全保障の問題がある。米中対立が続く中で、特に中国とどのように向き合うのか。そして、日本が国際社会の中で、どんな役割を果たすのか、知りたい点だ。

また、台湾海峡の安定や香港の民主主義の問題をはじめ、北朝鮮のミサイル開発、敵基地攻撃能力の保有や、サイバー攻撃への対応など個別問題も多く抱える中で、最大の貿易相手国である中国との外交をどのような考え方や原則に基づいて進めるのか。

さらに、自衛隊の整備の進め方、防衛予算の扱いも問題になる。日米同盟を基軸に日本は、アジア太平洋地域の平和と安定にどのような役割を果たすのか、軍事面だけでなく、外交力を含めて基本的な構想を明らかにする責任がある。

 政治姿勢 信頼回復への具体策は

国民の関心事項の3つめは、政治・行政の信頼回復に関わる問題だ。

安倍長期政権と後継の菅政権では、政治とカネをめぐり主要閣僚が辞任したり、衆参議員が議員辞職したりする事態が続いたほか、財務省の決裁文書の改ざんという前代未聞の不祥事などが相次いだ。

また、官僚の政権に対する忖度や委縮も目につき、「官僚のあり方」も何とかしないと、官僚の政策提案能力も失われてしまうのではないかと危惧している。

こうした長期政権の「負の遺産」にどう対処するか。4人候補者は、この点でも踏み込み不足が目立つ。議員投票で党内実力者の反発を避けたいという及び腰がうかがえる。

不祥事にケジメをつけ、政治・行政の信頼回復を取り戻すことは、コロナ対策をはじめ政治課題の実現に向けて、国民の協力を得るための前提条件でもある。

疑惑や不祥事については、国会の政治倫理審査会などで必ず説明させることや、公文書の保存と公開、政治と官僚の関係の見直しなど自らの政治姿勢を明確にすることは避けて通れないのではないか。

自民党のベテランに話を聞くと「今回の総裁選の顔ぶれをみると、正直なところ、小粒という印象は避けられない。長期政権下で人材育成を怠ったつけが、人材不足という形で現れている」と不安をもらす。

こうした不安を払拭するためにも、各候補者は主要なテーマについて、自らの考えや構想を明らかにするとともに、具体的にどんな政策に取り組むのか、鮮明に打ち出すことを求めておきたい。

そして、総裁選の後半戦では、個別の問題への対応を羅列するのではなく、党員や一般有権者が大きな関心をもっている主要なテーマに絞り込んで「何をめざすリーダーか」がわかる論戦に切り替えてもらいたい。

自民党の総裁選挙で投票できる党員は110万人、有権者全体の1.1%に過ぎない。但し、事実上の次の首相を選ぶ選挙であり、次の衆議院選挙で多くの有権者の判断材料にもなるようなリーダー選びが問われているのではないか。

なお、総裁選の選挙情勢については、前号でお伝えした内容と基本的に変わっていない。党員投票では、河野氏が大きくリードしているが、議員票と合わせて第1回の投票で、過半数を得て決まる状況にはないとみている。

決選投票に持ち込まれる公算が大きく、岸田氏、河野氏、高市氏がそれぞれ当選するケースが予想され、23日夜の時点で情勢は、なお流動的だとみている。

 

混戦の自民総裁選 勝敗の読み方 

菅首相の後継を選ぶ自民党の総裁選挙は17日告示され、届け出順に河野太郎・規制改革担当相、岸田文雄・前政務調査会長、高市早苗・前総務相、野田聖子・幹事長代行が立候補した。

これによって、総裁選挙は4人で争われる構図が最終的に決まり、29日の投開票に向けて、選挙戦が始まった。

「今回の総裁選挙は、誰が勝つのか」という質問を受けることが多いので、選挙の勝敗面について、どこが大きなポイントになるのか探ってみたい。

 勝敗予測、根拠あるデータなし

自民党の総裁選挙は、47都道府県連の党員・党友が投票する「党員票」と、党所属の衆参両院議員が投票する「議員票」の合計で決まる。第1回の投票で、過半数を得た候補者が当選となるが、過半数に達しない場合は、上位2人に絞って、決選投票が行われるのが基本的な仕組みだ。

そこで、候補者4人のうち、誰が優勢なのか。結論を先に言えば、今の時点で正確な予測をするのは困難というのが、本当のところだ。というのは、今回の総裁選は、今の段階では、党員の意向調査や派閥の票読みなど一定の根拠のあるデータがほとんどないからだ。

報道各社の世論調査では、次の新総裁に誰がふさわしいかを質問したりしているが、かつて大手全国紙が行ったような自民党員を対象にした調査ではない。

また、立候補を断念した石破元幹事長が含まれたりして、今の候補者の構図とも食い違っている。

さらに、国会議員についても、今回は岸田派を除く各派閥は、特定候補の支持を1本化せずに自主投票にしており、派閥単位で国会議員票を予測するのは難しいからだ。

 党員票は河野氏優位か、上限は?

そこで、自民党の長老に勝敗のゆくえを聞いてみた。長老曰く「注目しているのは、党員票で河野が最大どの程度、獲得できるか、上限の見極め。それによって、1回戦で河野が大量得票して決着がつくか。それとも決選投票に持ち込まれ、例えば岸田が逆転するか、2つのケースが想定される」と指摘する。

報道機関の世論調査で「次の新総裁にふさわしい候補者」は、自民支持層でも河野氏を挙げる人が最も多く、河野陣営も第1回投票で決着をつけたい考えだ。その際、河野氏がどの程度の支持を集めることができるかどうかが、ポイントになる。

かつて小泉純一郎氏が、橋本龍太郎元首相らに大差をつけて当選を決めた2001年の総裁選。都道府県連単位の党員の予備選では、小泉氏が党員票全体の87%を獲得して圧勝した。但し、この時は各都道府県でそれぞれ第1位の総どり方式で、今のドント方式とは仕組みが異なっていた。

自民党関係者に聞くと「河野氏が過半数を獲得する可能性はあるが、6割、7割も獲得するのは難しいのではないか。そのような勢いは、感じられない。野田聖子氏の立候補で、党員票はさらに分散する。河野氏は議員票の方では多くを期待できないので、1回戦での決着は難しいのではないか」との見方を示す。

なお、党員票は全国110万人余りの党員が各都道府県連単位で郵送で投票。全国集計され、国会議員票と同じ383票が各候補の得票比率に応じて、ドント式で配分される。決選投票の場合は、各都道府県の1位が1票を獲得して加算される。

 議員票 若手や衆参議員など複雑

議員票は、党所属の衆参両院議員の383票で争われる。若手議員から、派閥の締め付けを行うべきではないという意見が強まり、会長が立候補した岸田派を除く6つの派閥は、候補者を1本化せず、自主投票という異例の形になった。

派閥の存在感の低下は著しいが、自民党は派閥に代わる人事システムを未だに見いだせていない。このため、ポスト配分や選挙の応援などの際には、派閥が機能しているのも事実だ。

また、総裁選の時には、派閥の領袖を中心に結束して対応する役割を果たしてきた。ところが、今回はこの役割も果たせなくなったわけで、自民党の体質の変化が一段と進んでいるようにみえる。

さて、議員票で注目されるのは、若手議員の対応だ。衆議院の当選3回以下の議員は120人余りもいて、全体の半数近くを占める。このうち、選挙基盤の弱い議員は今回、自らの選挙を有利に運ぶため、「選挙の顔」の要素を重視して総裁を選ぶのではないかとみられる。

また、安倍前首相、麻生副総理、二階幹事長、さらには菅首相など実力者や派閥の幹部は、それぞれの影響力を残そうと行動するのではないかとみられている。立候補を断念した石破元幹事長が河野氏を支援する動きと、それに対抗する動きも影響してくるのではないかという見方もある。

さらに、衆議院議員と参議院議員との間で、温度差もみられるという。どういうことかと言えば、衆議院議員の側は、どうしても近づく衆院選挙を意識して、有権者の人気の高いリーダーを選ぼうとする。

これに対して、およそ110人いる参議院議員の半数は来年夏に、参議院選挙を迎える。来年の通常国会を乗り切るなど安定した国会運営や政権運営ができるリーダーを重視し、衆参で違いが出てくるのではないかというわけだ。

このように今は、まだ各議員がどのような投票行動を取るのか様々な要素が絡み合っている。このため、各候補の陣営がどの程度、議員票を獲得できるか票読みできる状態に至っていないように感じる。

但し、先の長老に再び見通しを聞くと「決選投票に持ち込まれた場合、国会議員票は383票、党員票の方は各都道府県1票ずつの47票に比重が低下する。このため、河野氏に対抗する陣営が足並みをそろえると、河野氏以外の候補、例えば、岸田氏が逆転したりするケースも起こりうる」と予想する。

以上を整理すると、1回戦で決着がつくのか、それとも決選投票までもつれるのか、大きな分かれ道ということになる。その際第1回投票で、比重が増した党員票を各候補がどのように分け合うかの割合が、大きなカギを握ることになる。

 総裁選の論戦、衆院選への準備も

自民党総裁選の構図は、告示前日にようやく固まった。このため、党員の多くは、これまでとはちがって、各候補がどんな政策を掲げているのか、政策論争を聞いた後で、投票をすることになるのではないか。

このため、17日に日本記者クラブで予定されている候補者同士の討論会が注目される。候補者間の論争は、党員、国会議員にも影響を及ぼすことになると思われる。

一方、私たちのような多くの有権者は、自民党員ではないので、総裁選に投票できるわけではない。まもなく実施される次の衆議院選挙が、選挙の本番ということになる。

政権与党の総裁選び、それに対する野党の反応や政策、さらには、総裁選後には新しい首相を指名するための臨時国会も10月初めには開かれるので、新首相と野党の各党首との論争も聞きたいところだ。

コロナ対策、医療体制の強化、経済・社会の立て直し、外交・安全保障など様々な問題を抱える中で、私たち有権者は何を重視して選択をするか、熟慮の1票を投じる準備を始めたい。

菅首相 退陣への身の処し方

菅首相は9日夜の記者会見で、自民党の総裁選挙に立候補せずに退任することになったことについて「12日の緊急事態宣言の解除が難しく、コロナ対策に専念すべきだと判断した」とのべるとともに「最後の日まで全身全霊を傾けて取り組んでいく」と強調した。

菅首相が実際に総理・総裁を退任するのは10月上旬の見通しで、およそ1か月先になる。コロナ危機が続く中で、事実上の退陣が決まっている首相が、政権運営を続けることは「権力の空白」を招かないのかどうか。また、「退任までに為すべきこと」は何かを考えてみたい。

 衆院選投票ずれ込み11月か

最初にこれまでの経緯と、今後の政治への影響などを整理しておきたい。

菅首相は自民党総裁選挙について、時期が来れば再選に向けて立候補する考えを繰り返して表明してきた。党役員人事の刷新や、衆院解散・総選挙の断行も検討されたというが、今月3日、一転して立候補しない考えを自民党の臨時役員会で表明し、内外に大きな衝撃を与えた。

歴代首相は退陣の意向を表明した際には、その日のうちに記者会見をして、理由や背景などを説明してきたが、菅首相は3日に記者団のぶら下がりに2分間程度応じただけで、記者会見は行わなかった。

今回、緊急事態宣言延長の方針が決まったのを受け、その説明の記者会見の中で、退任にも触れる形を取った。

菅首相は9月末の総裁任期満了まで退任しないため、実際に総理・総裁を辞めるのは、10月上旬になる見通しだ。総裁選と次の新総裁が国会で首相指名を受ける手続きが必要なためだ。およそ1か月総理・総裁を続け、今月下旬には首脳会合に出席するため訪米も検討されている。

さらに次の衆院選挙の投票日は、衆院議員の任期満了日を越えて11月上旬以降にずれ込む異例の日程になる見通しだ。

 「12日の宣言解除難しい、心に残る」

さて、菅首相は9日の記者会見で、総裁選への立候補を取りやめたことについて「12日の宣言解除が難しく、やはりコロナ対策に専念すべきだと思い、総裁選に出馬しないと判断した」と退任の理由を説明した。

また、記者団から「自民党役員人事や、衆議院解散・総選挙の戦略が行き詰ったことが影響したのか」などと質問が相次いだ。

これに対し、菅首相は「党役員人事は総裁の専権事項だ。解散時期のシミュレーションは行った。ただ、12日の宣言解除が常に頭の中にあり、心の中に残っていた」とのべ、緊急事態宣言の解除が困難になったことが、退任の決断に大きく影響したという考えを繰り返した。

 「退陣までに為すべきこと」菅首相

以上のような菅首相の対応をどうみるか。まず、国政の最高責任者が自らの進退の決断をした場合は、国民、国家に大きく影響するだけに、歴代の首相のように直ちに緊急の記者会見を行って、退任の理由を説明すべきだった。

また、次の新総裁・新首相が決まるまで、時間がかかりすぎるのではないか。自民党の総裁選挙の日程が入っており、難しいとの答えが予想されるが、身内の代表を選ぶ政党の選挙であり、選挙日程を早めたり、短縮したりすることはあり得たのではないか。

特に今回は、衆議院議員の任期満了が迫っており、国民の権利そのものを制約する。また、政権の事実上の空白期間はできるだけ短くした方がいいと考える。

次に、今の政治日程を変えないというのであれば、「退陣までに為すべきこと」を明確にして実行してもらいたい。具体的には、「コロナ対策の総括」をきちんと行ってほしい。うまくいった点や、問題点・反省点を率直に整理することは、次の政権に引き継ぐうえでも必要だ。

菅政権のコロナ対策については、当ブログで何度も「政権としての総括」をすべきだと指摘してきた。菅首相は緊急事態宣言を出したり、解除したりするたびに記者会見を行ってきたが、自らの政策をどのように評価しているのか、まとまった総括は、残念ながら一度も行ってこなかった。

去年9月16日に政権を担当して以来、1年になる。◆政権発足当初は、コロナ対策を優先事項に位置づけながら、実際には携帯料金の値下げなどの独自色にこだわった。

◆GOTOトラベルを優先、コロナ感染の抑え込みが遅れたのではないか。◆飲食店の営業時間短縮を中心にした1本足打法にこだわった。感染抑制、ワクチン接種、医療提供体制整備の3本柱対策をもっと早く取り組むべきではなかったか。

◆最近、ようやく感染者数は減少傾向が表れているが、重症者は多く、入院できない入院待機者は全国で13万人にも上っている。国と自治体は連携して臨時医療施設の増設などに取り組んでいると強調するが、医療従事者の確保を含め、どこまで対策が進んでいるのか詳しい状況の説明がない。

菅首相は、「最後の日まで職務に全力で取り組んでいく」と表明した。そうであるならば、この1年間のコロナ対策について、政治・行政の立場で総括を行い、国会に報告、与野党が論戦を交わし議論を深めるべきだ。

特に国民の関心が強い、医療提供体制の改善はどこまで進んだのか、国と地方自治体の今後の計画の見通しも明らかにして、今後に生かすべきだ。

自民党の総裁選挙が17日から始まるが、国民のほとんどは投票権を持っていない。次の衆院選挙が本番で、どんな政治家、どの政党に政権担当を委ねるかを選択することになる。

内閣は連帯して国会に責任を負うのが、憲政の本来の姿だ。党利党略でなく、菅政権の取り組みをはじめ、与野党の意見を国会で戦わせ、国民への判断材料を提供してもらいたい。菅首相の最後の大きな責任であり、「退任への身の処し方」だと考える。

菅首相退陣と政権与党の政治責任 

菅首相は3日の臨時役員会で、自民党総裁選挙に立候補しない考えを表明した。これによって、今月末に自民党総裁任期が満了するのに伴い、総理大臣を退任することになる。菅政権は1年で、幕を閉じることになった。

実は、自民党長老の1人は「総裁選挙から衆院選挙にかけて、菅首相は退陣に追い込まれることがあるのではないか」と予言していた。さっそく、今回の退陣の理由・背景について、聞いてみた。

「結論は、コロナ対策の失敗が大きい。菅首相はワクチン接種で感染を抑え込めると自信を示していたが、重症者は過去最多を更新、入院できず自宅療養者も多数に上り、事態は好転していない」。

「加えて、総裁選でも再選が難しくなった。直接的には、総裁選直前の党役員人事が難航、引き受け手もいなかった。八方ふさがり、万策尽きた」と指摘する。

以上のような点に加えて、「人心」がすっかり政権から離れてしまった。内閣支持率は30%を切って政権発足以降、最低を更新。総裁選に続いて、衆院決戦の本番を控え、大きなダメージを負ってしまった。

さらに東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、9月の早い段階で衆院選挙を断行、その後、自民党総裁選を無風で乗り切る当初のシナリオも崩れた。

そして、岸田前政調会長が立候補を表明した後、菅首相の対応は、場当たりが目立ち、迷走に次ぐ迷走。総裁選告示までには立候補見送りに追い込まれるのではないかと個人的にはみていた。

なお、冒頭に紹介した、この長老は秋の政局の見通しにつて「菅首相は、自民党総裁選と、衆院選の2回の選挙を連続して勝ち抜く必要がある。コロナ対策を抱え、政治責任と進退を問われる時期が必ず、来るだろう」と語っており、その通りの展開になった。

 総裁選仕切り直し、勝敗のカギは

さて、自民党総裁選は仕切り直しになったが、どうなるか?

既に立候補を表明しているのが、岸田派会長の岸田前政調会長と高市前総務相。3日には河野規制改革担当相、野田聖子幹事長代行が意欲を示した。石破元幹事長や下村政調会長の名前も挙がり、それぞれ立候補を検討している模様だ。

このうち、注目されるのは河野規制改革担当相で、世論調査で知名度が高い。問題は、ワクチン接種の担当閣僚だ。希望者全員のワクチン接種完了をめざしている大詰めの段階で、総裁選への立候補に支持が得られるかどうかが、カギだ。

石破元幹事長も「全く新しい展開となった。同志と相談して結論を出す」と立候補に含みを持たせている。石破氏も次の総理候補として高い人気がある。問題は、推薦人20人を集めることができるかどうかと、弱点の国会議員票に広がりが出てくるか。

候補者の顔ぶれと構図が決まった段階で、総裁選の情勢を取り上げたいが、今の時点での注目点は何か。総裁選は一般党員票と国会議員票の合計で決まる。党員の支持と同時に、議員票はやはり派閥の支持が影響する。

今の時点では、岸田、河野、石破の3氏を軸に動くとみているが、どうなるか。現職の総裁は立候補せず、新人同士の争いになる。派閥の大勢、実質的な支援がどの候補に向かうかが大きなポイントになるとみている。

 政争よりコロナ、選挙設定の責任

自民党内では総裁選で激しい選挙戦を繰り広げると、メディアを独占、党の支持率も上昇、衆院選で自らの当選に有利に働くと期待する声は多い。

ところが、今の有権者はそれほど甘くはない。コロナ感染危機が長期化する中で、政治家不信は極めて強い。総裁選の多数派工作は、私的な権力闘争とみなして厳しい評価を下すのではないかとみる。

新規感染者数は減り始めているが、新学期が始まり、子供たちへの感染が広がり始めた。50歳代以下の若い世代の感染、入院が増えている。重症者数は過去最多、病床はひっ迫し、自宅療養者は全国で13万人を超える。命の危機と隣り合わせで暮らしていることを忘れてもらっては困る。

具体的には、12日に期限を迎える緊急事態宣言はどうするのか。また、医療危機に対する具体策はどこまで進んだのか。菅首相は、自らの進退に言及する前に、コロナ対策の総括、今後の対策のメドをつけておくべきで、今回の進退は一国のリーダーとして責任ある対応とはとても思えない。

もう一つ重要な問題がある。衆議院議員の任期が10月21日に迫っているが、次の衆院選挙はいつ行うのか、国民の権利に関わる問題が放置されたままだ。

今の総裁選の日程で新総裁を選ぶと、国会での首相指名選挙などが行われ、衆院選挙は議員の任期満了日を越えて行われる公算が大きい。

また、国政選挙を控えて、国会は与野党が論戦をしっかり行い、国民が知りたいコロナ対策などを議論したうえで、審判を仰ぐのが本来の姿だ。

政権与党として、首相指名選挙や国会論戦、それに衆院選挙の期日などについて、野党側とも協議したうえで、日程案をまとめ、国民に説明する責任を負っている。こうした点について、菅首相や与党は一切、説明していない。

政権与党は、総裁選をめぐって政争に明け暮れるのではなく、国民生活や経済の安定を真剣に考えようとしているのか、感染の抑え込みに具体策を打ち出すことができるのか、国民は厳しく注視していることを忘れないでもらいたい。

 

 

 

幹事長交代の舞台裏と衆院選の時期

自民党総裁選挙をめぐる動きが、あわただしくなってきた。菅首相が再選に意欲を示しているのに対し、岸田・前政務調査会長や高市早苗・前総務相が立候補の考えを明らかにした。

こうした中で、菅首相は、二階幹事長を含む自民党役員人事を行う意向を固め、党内の根回しを始めた。総裁選直前に幹事長を交代させるのは、極めて異例だ。

総裁選をめぐる自民党内の動きや二階幹事長交代の舞台裏、さらに衆院選挙の実施時期はどうなるのか、探ってみたい。

 二階幹事長交代の舞台裏

菅首相は8月30日午後、総理官邸で二階幹事長とおよそ30分間会談した。菅首相は追加の経済対策の検討を指示する一方、幹事長交代を検討していることを伝えた。これに対し、二階幹事長は「遠慮せずに人事を行ってもらいたい」と述べ、受け入れる考えを示したという。

自民党役員の任期は党則80条で「総裁は3年とし、その他はすべて1年」と規定されているので、今回の人事も党則上は問題はない。しかし、3週間もしないうちに自民党総裁選が告示される時に「党の要」を交代させるのは異例だ。

自民党関係者に、このねらいをきくと「岸田氏が立候補の際、打ち出した党改革の『争点外し』のねらいが大きいのではないか」と指摘する。

岸田氏は総裁選立候補にあたって「党役員は任期1年連続3期までという党改革」を打ち出した。これは、具体的には安倍・菅政権下で5年以上も幹事長を続けている二階幹事長に焦点を当て、総裁選の争点にするねらいがあると受け止められていた。

このため、菅首相としては、二階氏を交代させることで、総裁選の争点から外すねらいがあるのではないかというわけだ。

また、この党関係者は「二階派の中で、二階さんに近い人の中からも『晩節を汚さない方がいい』との声が出ていた」と語り、二階派内が一枚岩ではないことを把握したうえで、菅首相が交代論を持ち出したとみる。合わせて、党刷新のイメージと自らの求心力も高めたいというねらいがあるとの見方をしている。

党役員人事は6日にも行われる見通しだが、新たな幹事長はたいへんだ。自民党総裁選は目前で、衆議院選挙も迫っている。幹事長として手腕を発揮するには、あまりにも時間が短すぎる。

本来は、通常国会が終わった後の6月頃にも人事を行い、幹事長人事をはじめとする体制を整えて衆院決戦に臨めばよかったのだが、急遽のリリーフ登板で、衆院決戦で勝利できるか、不安を抱えて選挙戦のかじ取りとなる。どこまで、政権浮揚に効果があるかも疑問だ。

 総裁選 石破氏の動向も焦点

総裁選挙への立候補者については、下村博文・政務調査会長が意欲を示していたが、党三役は立候補を自重すべきだとの猛烈な批判を浴びて断念に追い込まれた。高市早苗・前総務相も意欲を示しているが、推薦人を集めることができるかどうかはっきりしない。

一番の焦点は、石破元幹事長が立候補するかどうかだ。石破氏は自らの派閥の退会者が相次ぎ、推薦人20人の確保のメドがつかないため、立候補に慎重とみられていたが、「全くの白紙だ」とのべるなど、これまでの姿勢に変化がみられる。

政界では「地方の党員などから、久しぶりに石破待望論が出ており、最終的には立候補に踏み切るのではないか」との見方も出ている。

一方で、石破氏が立候補すれば、岸田氏との間で地方票が分散し、菅首相にとって有利に働くとの見方もあり、立候補した場合の影響などを見極めようとしているのではないかといった見方も聞かれる。

このほか、菅首相は国会議員票では優勢とみられているが、今回は二階派を含めて派閥の締め付けがきかず、若手を中心に「菅離れ」が強まり、苦戦を強いられるのではないかとの見方も聞く。

このように総裁選の情勢は流動的で、候補者の顔ぶれがはっきりしてきた段階で、改めて取り上げたい。

 衆院選の時期 10月から11月か

それでは、私たち有権者が1票を投じることができる衆院選挙はいつになるのか、できるだけわかりやすく説明したい。基本は、次のような2つの日程・考え方に整理できる。多少ややこしいが、お付き合い願いたい。

◆1つは「10月5日公示、17日投票」の日程。公職選挙法31条では、任期満了選挙は「任期満了の日から前30日以内に行う」規定されている。

任期満了日は10月21日。その前30日の期間の中で、最も遅い日曜日で、17日投票となる。衆議院の解散ではなく、任期内なので、閣議で選挙期日を決めることができる。

但し、問題はその直前に自民党総裁選があり、菅首相ではなく、別の新総裁が選ばれた場合は、国会で首相指名選挙を行う必要があり、数日かかるので、この日程では物理的に無理がある。

菅首相は自らが選出されるので問題ないとの判断かもしれないが、ほかの候補者が当選することもありうるので、問題の多い判断だと言わざるを得ない。

◆2つ目は、臨時国会を10月上旬か、それ以降に召集、任期満了をまたぐが、「10月末から、11月下旬までの間に投票を行う日程」。具体的には、投票日は最も早い場合で10月31日。最も遅い場合は11月28日。その間の日曜日も設定できる。

このケースは、衆院を解散する方法(解散日から40日以内に実施)、あるいは任期満了で、解散せずに国会閉会後、一定の期間で選挙期日が決まる方法のいずれかを選択できる。

但し、これらの日程はいずれも、10月21日の任期満了日をまたいで投票する日程になる。公職選挙法上は可能とされるが、基本から外れる特例で問題は多いとの指摘もある。

2つのケースとも問題を抱え、その原因は自民党総裁選の設定の仕方に問題があると考えるが、今の政治日程のままで進むと、衆議院選挙は「10月から11月にかけての選挙」になる公算が大きいとみている。

 コロナ対応評価 一番のカギか

最後に、次の衆院選挙で、国民は何を重視するだろうか。自民党の総裁選びの駆け引きや党内抗争は、有権者にとっては所詮、途中経過の話に過ぎない。

◆選挙で最も重視する点と言えば、第1は、コロナ感染の抑え込みと医療提供体制をどうするかということになるのではないか。

また、生活支援や事業者支援、経済活動再開への取り組みも論点になる。その際、政府のコロナ対応の評価はどうか「政権の実績評価」が判断のベースになる。

◆2つ目は、衆議院選挙は政権選択選挙だ。どんな政治家、政治集団に政権担当を委ねるのか。特に政党のリーダーの資質や能力、「党首の顔・力量」が大きな判断材料になる。

◆3つ目は、コロナ激変時代の政治のあり方をどう考えるか。国際社会との関係、外交・安全保障のあり方、人口減少社会への対応など中長期の課題を含め、自らの判断でしっかりした政治家、政治集団を選びたい。そのための判断材料を集め、何とかコロナ激変時代を乗り越えていきたいと考える。