衆院決戦 勝敗予測のカギは? 

コロナ禍の異例の短期決戦は、どのような結果になるのか?31日に迫った衆院選挙の投票日に向けて、各党は幹部を激戦区に投入し、最後の追い込みに入った。

その衆院選挙の勝敗を予測するとどうなるのか。自民党は、単独で過半数を大きく上回るといった予測も出ているがどうか。あるいは、野党第1党の立憲民主党は、野党候補者の1本化で議席を増やせるのか、横ばいに止まるのか、さまざまな見方・読み方が出されている。

私も選挙取材を40年余り続けているが、今回ほど読みにくい選挙はない。そこで、勝敗の予測のカギは何か、選挙の背景や事情を含めて考えてみたい。

 分かれる主要メディアの勝敗予測

さっそく、衆院選挙結果の予測からみていきたい。主要メディアの分析・見方はどうなっているか。

◆朝日新聞は26日朝刊で、◇自民過半数確保の勢い、単独で過半数を大きく上回る勢い。◇立憲ほぼ横ばい。野党1本化効果限定的か。

◆産経新聞は同じ26日朝刊で、◇自民は単独過半数へ攻防、◇立憲は公示前を大きく上回り、140議席台をうかがう。

◆読売新聞はこれより先の21日朝刊で、◇自民減、単独過半数の攻防。◇立民、議席上積みなどと報じている。

各社とも全国規模の世論調査を行うとともに各支局の取材も加えて、情勢を判断している。また、世論調査は電話だけでなく、朝日新聞のように新たにインターネットを活用するところも出てきており、取材方法の違いにも注意が必要だ。

以上のように今回の選挙予測は、◇自民党が、単独で過半数を確保できるかどうか、獲得議席数の幅に違いがある。◇野党第1党の立憲民主党についても横ばいか、上積みがあるのかどうか違いがある。◇日本維新の会については、議席を3倍程度増やし躍進するとの見方で、各社共通している。

 政権・政党の弱体化、有権者は様子見

さて、このように今回の選挙の予測について、主要メディアの予測が分かれる理由、背景には何があるだろうか。

与野党の選挙関係者に聞くと「今度の選挙は、読みにくい。風が吹かない。向かい風は強くはないが、追い風もない」、「だらっととした凪状態。こんな選挙は記憶にない」といった戸惑いの声を耳にする。

理由として考えられることは何か。1つは、事実上の任期満了選挙、いわば予定された選挙だが、有権者の側は「政治の目まぐるしい動き」についていけない状態にあるのではないか。

8月下旬の岸田氏の自民総裁選への立候補表明に始まって、菅前首相の退陣表明、総裁選4人の争い。岸田新政権誕生と思ったら、国会質疑はわずか3日で終了、即選挙。ご祝儀相場ねらいの選挙と映っているのではないか。

また、岸田新政権についても「新しい資本主義、成長と分配の好循環」と掛け声は高いが、具体的に何をやるのかはっきりしない。「岸田首相の期待値」が高まらない。保守層が固まらないので、自民党支持率が徐々に低下している状態だ。

対する野党第1党・立憲民主党も、共産党や国民民主党などと候補者を1本化したが、政党支持率、投票予定政党の支持が広がらない。格差是正、「分配なくして、成長なし」を強調するが、持続可能性はあるのか。有権者の納得感を得るまでには至っていない。

岸田新政権、野党第1党の力の弱さが、選挙戦の盛り上がりに欠ける要因になっているのではないかと感じる。

一方、有権者の反応はどうか。共同通信の世論調査では、小選挙区、比例代表ともに「投票先を決めていない人」は3割にのぼる(16、17日実施)。

「必ず投票に行く」人は、NHK世論調査で「期日前投票をした」人を合わせて61%、4年前衆院選と同じ水準だ(22~24日実施)。前回、実際の投票率は53.88%、過去2番目の低さ、前々回は52.66%で過去最低。今回、有権者の投票意欲は、必ずしも強くはない。

コロナ感染者数が驚くほど急減し、危機感が薄らいだ影響もあるかもしれない。次の備えをどうするか。「コロナ疲れ」「政治へ期待感の乏しさ」とも重なり、必ずしも選挙戦とつながっていない。有権者も様子見状態に見える。

 勝敗のカギ、野党1本化効果の読み方

それでは、選挙の勝敗予測はどうなるのか、何がカギを握っているのか。私個人の見方・考え方を以下、説明していきたい。

結論を先に言えば、今回は「野党候補者1本化の効果」をどう読むかが、大きなポイントだと考える。

前回・4年前の衆院選は、安倍首相が急遽、解散に踏み切り、希望の党の立ち上げと野党第1党が分裂し、与党が圧勝した。今回は、立憲民主、共産、国民民主、社民、れいわの各党は213選挙区で候補者を1本化した。

このうち、野党第1党・立憲民主党の候補者に1本化した160の選挙区について、選挙情勢を分析すると、立憲民主党が70前後の議席を獲得する可能性がある。その結果、公示前の110議席から、小選挙区を中心に30前後、議席を増やす可能性がある。

これに対して、自民党の獲得議席をどうみるか。わかりやすくするために数式で表示すると次のようになる。◆自民獲得議席=公示前勢力276-40±20

まず、「-40」は自民党は、選挙基盤が危うい議員を中心に40議席程度減らす可能性が大きい。したがって「自民の獲得議席のベース・基準は、236議席程度」とみる。「過半数233」とほぼ同程度になる。

そのうえで、「±20」は激戦が続く選挙区があり、その議席変動幅だ。情勢が好転すれば20議席増えたり、逆に減ったりする。うまくいけば「上限」が256まで増え、逆に厳しい場合は「下限」が216、過半数を割り込むこともある。

◆わかりやすく言えば、「過半数の233を軸に上下20議席の範囲内」が獲得ラインみる。つまり、自民党は単独で過半数は維持できる可能性はあるが、激戦区の状況によっては、過半数割れの可能性もある。

この範囲内のどこで決着するか、政権交代の確率はほとんどないが、選挙後、岸田首相の求心力や政治責任に関係してくることになる。

野党側については、◆立憲民主党は公示前勢力110議席から、20前後の上積みで、130±α。◆日本維新の会は、公示前の11議席から、30議席前後まで増やす可能性がある。◆共産党は、議席をやや増やす。◆公明党、◆国民民主党は、現状維持か、やや減らす可能性があるとみる。

以上のように選挙予測は、「上限と下限、幅」で考える。”占い師”のように下一桁の数字まで当てることではない。そのうえで、そうした結果になった理由、背景を捉えることが大事だと考える。

 選挙のカギ、投票率、無党派動向

選挙予測で、最も基本的で重要なカギは、投票率だ。例えば、無党派層は政権と一定の距離を置く人たちが多いので、そうした層がどこまで投票したかということになり、選挙結果を左右する。

保守層についても政権の対応に不満があれば、投票にでかけない棄権の選択肢も出てくるので、要注意だ。

有権者の投票意欲は先にみたように「必ず行く」は61%、4年前の前回選挙時と同じ水準だ。前回の実際の投票率は53.68%、過去2番目に低い水準だった。前々回の2014年は52.66%、過去最低を記録した。有権者の投票意欲は高くはない。

選挙が盛り上がるのは、有権者が政治に「強い不満や反発」を抱えている時か、新しい政権や新党などが誕生して「期待感」を抱いた時が多い。コロナ禍で緊急事態宣言などが長期間続いた今の社会は、どうも活力が感じられず、”沈思黙考状態”に見える。

コロナ激変時代、どんな政党や候補者に政権を委ねるのか。政策の選択と同時に国会の与野党勢力のあり方も大きなポイントだ。有権者が、それぞれ重視する判断基準で、1票を投じることを望みたい。

衆院短期決戦の見方・読み方

第49回衆院選挙が19日公示され、31日の投開票日に向けて、選挙戦に入った。明治23年・1890年に第1回総選挙が行われた後、131年、49回目の選挙になる。

今回はコロナ禍、直前に菅前政権が退陣して岸田新政権に交代した。新政権発足から解散まで、解散から公示までいずれも戦後最短。衆議院議員の任期満了日を越えた選挙は今の憲法下で初めて、異例ずくめの衆院選だ。

有権者の反応はどうか。NHKの世論調査では、投票に「必ず行く」と答えた人は56%。前回4年前の衆院選時と同じ水準で、投票意欲は必ずしも高くはない。短期決戦のあわただしい選挙のせいか、それとも争点が不明なのか、有権者が投票所に足を運びたくなるような選挙にはなっていないようだ。

そこで、今回の選挙は、何が問われる選挙なのか。また、選挙の構図や情勢はどうなっているのか、有権者側の視点で考えてみたい。

 選挙の構図 与野党対決色 強まる

まず、選挙の構図と情勢からみていきたい。各党の候補者擁立状況だが、全国で289ある小選挙区についてみてみると◇自民党は277人、公明党は9人で、与党側はほとんどの選挙区に候補者を擁立している。

これに対して、◇野党第1党の立憲民主党、共産党、国民民主党などは、およそ210の選挙区で候補者を1本化しており、与野党対決の構図が鮮明になっている。

一方、こうした野党と距離を置く日本維新の会は94人を擁立し、地盤の関西だけでなく、全国的に勢力の拡大をめざしている。

過去3回の衆院選では、野党陣営の分裂や選挙対応の遅れで、与党圧勝が続いてきたが、今回は小選挙区の7割以上で、野党の候補者1本化が実現した。与野党の一騎打ちで、激戦選挙区が増えている。

それでは、比例代表176も合わせた総定数465の選挙全体の情勢は、どうなっているか。与野党関係者の見方や報道各社の世論調査を基に判断すると、次のような情勢になっている。

◆まず、自民党は議席を減らすものの、与野党の勢力が逆転するまでには至らないのではないかという見方が強い。

◆次に、自民党の勝敗ラインは、事実上、「単独で過半数の233」を維持できるかどうか。自民党の解散時の勢力は276なので、減少幅が43以内に収まるかどうかが焦点だ。減少幅が20程度か、40程度で収まるか、50以上か見方が分かれる。

◆自民党の選挙関係者によると、選挙地盤が固まっていない若手を中心に与野党が激しく競り合っている接戦区が40~50か所あり、こうした接戦区がどうなるかを見極める必要があると話している。

◆野党側については、基本的に解散時の勢力が勝敗の基準になる。例えば、野党第1党の立憲民主党は、解散時勢力110からどれだけ上積みできるか。党内には150程度が獲得できれば、今後の政権交代への足掛かりになるという見方もある。

以上、見てきたように選挙情勢については、与野党の勢力逆転の確率は低いとみている。但し、これまでのような1強状態から、与野党の勢力が接近ないし、伯仲する可能性が大きいのではないかと見ている。

 政策、説得力と具体性はあるか

次に政策面の争点について、与野党の議論はどこまで深まっているか。各党の選挙公約や各党の党首討論、公示日の各党首の第1声などを基にみておきたい。

◆第1は、コロナ対策だ。岸田首相をはじめ自民党は、3回目のワクチン接種をはじめ、経口治療薬の実用化、さらには、病床確保のため、行政がより強い権限を持てるように法改正を行うことなどを訴えている。

但し、これまでの政府対応のどこに問題があり、国と地方の連携のあり方などをどのように改善していくのかといった点について、踏み込んだ説明は聞かれない。

これに対し、立憲民主党の枝野代表など野党側の方が、水際対策をはじめ、PCR検査の拡充、患者の入院調整を地域の開業医で分担する取り組み、さらには、政権の司令塔機能の強化に向けた体制づくりなどなど内容が具体的で、説得力があると感じる。

◆第2は、格差是正のために、分配のあり方を含む経済政策だ。岸田首相は「新しい資本主義構想を掲げ、成長と分配の好循環で、国民の所得を上げる」と訴えている。但し、分配に必要な成長の果実をどう生み出すのか、好循環にどのようにつなげていくのか、納得のいくような説明はない。

野党側は「分配なくして成長なし」と分配最優先を掲げ、財源は大企業や富裕層に対する課税を強化すると強調している。但し、こうしたやり方で、持続性があるのかどうか疑問視する声も根強い。

このほか、野党によっては「改革を通じて成長につなげる」「雇用の流動化で所得を増やす」「消費税の引き下げ」など様々な提案が出されている。

有権者の側が知りたいのは、コロナ感染の再拡大を抑えながら、どのようにすれば日本経済・社会を立て直していけるのかという点だ。与野党双方とも、具体的な方法と道筋を示して議論を深めてもらいたい。

◆さらに、外交・安全保障分野では、北朝鮮のミサイル発射が繰り返されている。また、米中対立が激化するなかで、中国とどのように向き合うのか、防衛・軍事だけでなく、外交・安全保障の基本的な構想も問われている。

このほか、エネルギーや原発政策、長期政権の下でこれまで相次いだ政治とカネの問題、さらには、選択的夫婦別姓など多くの問題を抱えている。

報道各社の世論調査をみると、有権者の側は、与野党のどちらに投票するかわからないと答える人の割合が4割近くもいる。このことは、各党の政策論争などを聞いても、1票を入れようというところまで納得していない現れではないか。

今回の衆院選は異例の短期決戦だ。政党、候補者の側には、有権者が知りたい点に応える政策論争をさらに深めてもらいたい。

一方、有権者の側も、1票を投じなければ政治・行政は変わらない。衆院選の投票率は、このところ50%前半の低い投票率が続いている。コロナ禍の衆院選、より良い社会をめざして1票を投じたい。

 

 

 

 

 

 

”選ぶ側”から見た衆院短期決戦

衆議院が14日解散され、19日公示、31日投開票の日程で、総選挙が行われることになった。前回2017年から4年ぶりで、衆議院議員の任期満了(10月21日)を越えての衆院選挙は、現行憲法の下で初めてのケースになる。

岸田新政権が発足したのが4日で、10日後に解散。解散から投開票までの期間は17日間でいずれも戦後最短、あわただしい選挙になる。

岸田首相は14日夜、記者会見し、今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナ後の新しい経済社会を作り上げていく」考えを強調した。各党の党首もさっそく街頭などで演説し、支持を訴えた。

戦後最短の衆院決戦。私たち有権者はどのように受け止め、どんな基準で判断していけばいいのか、”選ぶ側の視点”で考えてみたい。

 世論最多は思案中、結果は流動的

まず、最近の政治状況を有権者はどのようにみているか。11日にまとまったNHK世論調査(10月8~10日)では、岸田内閣を支持する人は49%、支持しない人は24%だが、わからないと答えた人が27%にも上ったことが大きな特徴だ。ふだんの月の調査では20%未満なので、7ポイント以上も多い。

朝日新聞の世論調査(10月4、5日)でも支持率41%、不支持20%だが、その他・答えないが35%にも達している。

NHK調査では、今回の衆院選で与党と野党の議席がどのようになればよいと思うかも聞いている。与党の議席が増えた方がよい25%、野党の議席が増えた方がよい28%、どちらともいえないが41%となった。

4割の人たちは、どんな投票行動を取るか決めておらず、思案中というわけだ。菅前首相の突然の辞意表明から、総裁選を経て、岸田政権誕生と思ったら、国会での与野党論戦はわずか3日で打ち切り、解散時期も早めた。

選ぶ側からすると「少しは考える余裕をくれ」ということだろう。岸田内閣発足時の支持率49%は、麻生内閣並み(48%)の低空飛行だ。

一方、自民党の支持率は上昇しているので、議席はあまり減らないとの見方もあるが、思案中の人が4割もいるので、結果は流動的とみた方がよさそうだ。

 コロナ対策 反省・総括はあるか

それでは、短期決戦、何を基準に候補者や政党を選ぶか。多くの国民にとって第1は、「コロナ対策」が大きな判断基準になるだろう。

政党の側も選挙公約の第1の柱として、コロナ対策、ワクチン接種の促進や、治療薬の開発・実用化などこれからの対策の充実、強化を掲げている。

問題は1年9か月にわたって4回も緊急事態宣言を出しながら、政府はまとまった検証、総括を一度も行っていない。これまでの対策の検証、反省もないまま、これから対策を強化すると言っても説得力は乏しい。

これまでの対策の問題点や失敗の原因などを率直に語る方が、むしろ誠実な対応で信頼がおけるかもしれない。この夏、入院できずに自宅待機を余儀なくされた感染者が13万5千人に達し、自宅で亡くなられた方も多かった。

病床だけでなく、医療人材の確保、入院・転院などの仕組みを誰が、どのように改善していくのか。都道府県知事と厚生労働大臣の権限の調整、首相官邸が司令塔として機能するための体制づくりが具体的に問われている。

ロックダウン・都市封鎖ができる法整備など勇ましい案よりも、政治・行政の仕組みの具体的な改善策と、期限も明示させて実行できるようにすることの方が重要だと考える。

 生活・経済立て直しの具体案

第2の判断基準は、コロナ感染拡大で大きな影響を受けた人たちや、事業者の救済など「生活・経済の立て直し」をどのように進めるかだ。

日本経済は、コロナ前から長期にわたって停滞が続いており、かつて1位だった国際競争力ランキングは今や34位。実質賃金指数も1996年をピークに下がり続けている。日本経済をどのように立て直していくのかが問われている。

岸田首相は「新しい資本主義」で、分厚い中間層を再構築し、賃上げに積極的な企業に対する税制支援や、看護師や介護士などの所得向上のため、報酬や賃金のあり方を抜本的に見直していく考えを表明している。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の枝野代表は、格差を是正し「1億総中流社会」の復活を目指して、消費税の税率を時限的に引き下げる一方、富裕層の金融所得への課税を強化し、分配を最優先に取り組んでいく考えを示している。

いずれも格差是正に「分配」を重視しているが、自民党は企業支援を通じた「経済成長の果実」を賃金に振り向ける仕組みを考えている。これに対し、立憲民主党は「富裕層への増税」で実現するとしており、「方法論」や「成長と配分の重点の置き方」に大きな違いがある。

このほかの各党も「消費税率の引き下げ」や「規制改革」、「労働市場の流動化による賃金引上げ」などの提案を打ち出している。

どの提案が妥当と考えるか、方法論を含め実現可能性はどうか、各党の主張や論争をじっくり聞いて見極めていきたい。

 「負の遺産」の是正 公正な政治へ

第3の判断基準として、「政治・行政の信頼回復」の問題がある。岸田政権でも、業者からの金銭授受疑惑が報じられた甘利氏を幹事長に起用した人事に対して、世論の評価は厳しい。

一方、一昨年の参院選挙をめぐる買収事件で、有罪判決を受けた河井案里元参院議員側に、自民党本部が1億5千万円を提供していた問題についても、事実関係の調査や詳しい説明を尽くすべきだといった声が出されている。

前回2017年の衆院選挙以降を振り返っても安倍政権と菅政権下で、政治とカネをめぐって多くの不祥事が噴出し、国民の強い批判を浴びてきた。また、官僚の政権への忖度や委縮が進んでいるのではないかと懸念する声も強い。

したがって、こうした長期政権の「負の遺産」を是正し、公正な政治・行政をどのように取り戻していくか、今回の選挙で問われている大きな問題だ。

具体的な方法としては、政治や行政のあり方の見直し、情報公開の徹底や、内閣人事局の運用の改善などが考えられる。

一方、政治の構造を考える必要があるとの指摘もある。具体的には、特定の政党が強い1強体制では、権力の驕りや腐敗が生じるので、与野党の勢力バランスを均衡させ、政治に緊張感を持たすことが必要だという考え方だ。

コロナ禍の難問を解決するためには、国民の協力は不可欠で、そのためにも幅広い国民の声を吸収できる政治の構造や、国会の勢力バランスを考えていく必要があると思う。

以上、私なりの3つの判断基準を取り上げた。今回は、外交・安全保障の課題に触れなかったが、この課題を含め、さまざまな判断基準が考えられる。自らが重視したい判断基準・物差しを決めて、選挙で選択を考えていただきたい。

コロナ・パンデミックを何としても乗り越え、多くの国民、特に次代を担う若い人たちが、将来に希望を持てる社会をどのように築いていけるのか、今回の衆院選に多くの国民が参加して、第1歩を踏み出していくことを願っています。

 

 

“岸田政治”は見えたか?初の所信表明

国会は8日、岸田首相が就任後初めての所信表明演説を行い、「成長と分配の好循環」により「新しい資本主主義」を実現すると訴えた。

これに対して、野党側は11日からの代表質問で、岸田首相の政治姿勢や政策の内容を厳しく質すことにしている。

また、岸田首相の所信表明演説は、19日公示・31日投開票の衆院選挙に向けて、与野党の論戦のベースにもなる。

そこで、「岸田政治とは何か」が見えたのかどうか、選ぶ側の国民からみると「何が必要」と考えるのか、衆院選に向けて、所信表明演説の中身を点検しておきたい。

 中長期の構想先行 乏しい各論・社会像

歴代の首相は就任後、最初の所信表明演説で、自らの政治姿勢をはじめ、政権の目標、主要政策などについて、国民の理解を得ようと演説の中身やキャッチフレーズに工夫をこらしてきた。

安倍元首相は1回目の就任時には「美しい国、日本」「再チャレンジ可能な社会」、2度目の登場の際には「経済危機突破、3本の矢で経済再生」を掲げた。菅前首相は理念より「省庁の縦割り打破、デジタル庁創設」など個別政策に力点を置いた。

これに対して、岸田首相は30分近い演説の中で、コロナ対策に万全を期す考えを表明したうえで、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに「新しい資本主義」の実現をめざす考えを訴えた。

このうち成長戦略では、先端科学技術の研究開発に大胆に投資を行う一方、分配戦略では、賃上げを行う企業に対する税制支援を抜本的に強化するとしている。

こうした構想をどうみるか。理念や中長期的の構想としては理解できるが、政策課題の羅列が目立つ。また、各論の中身が具体的に示されていない。さらに分配と成長の好循環の結果、どんな暮らしや社会になるのか「社会像」も明らかではないので、説得力は乏しい。

さらに中長期の課題とは別に、コロナ禍で直面する経済対策をどうするのか。経済規模や、生活支援と事業者支援など「緊急対策の中身」を打ち出す必要がある。中長期と直面する経済対策のバランスも考える必要がある。

コロナ対策、政府対応の総括が不可欠

次に当面の最大の焦点である新型コロナ対策について、岸田首相は、ワクチン接種の加速化や経口治療薬の年内実用化をめざす考えを示した。

また、国民への説明を尽くす考えを示すとともに司令塔機能の強化や、人流抑制、医療資源確保のための法改正などに取り組む考えを明らかにした。

コロナ対策については、岸田首相も「これまでの対応を徹底的に分析し、何が危機管理のボトルネックだったのかを検証する」とのべたが、行政の継続性からすれば、問題点をこれから分析・検証するというのはあまりにも遅すぎる。

感染者が確認されてから、既に1年9か月。緊急事態宣言の発出と解除が繰り返され、総括をきちんと行うべきだという声が出されてきたのに、政権は一度もまとまった検証、総括を行ってきておらず、国民の1人として怒りすら覚える。

この夏は、最も多い時期には、1日当たりの新規感染者数は、全国で2万5000人を超えた。入院できずに自宅待機を強いられた感染者は、一時13万人を上回り、多くの方が治療を受けられずに亡くなった。

こうした背景については、政権の危機管理対応、具体的には、総理官邸の体制や総合調整機能が十分、働いてこなかった点に問題があるのではないか。

政府が、法改正が必要と考えるのであれば、その前にやるべきことがある。政府対応の検証と総括だ。具体的には、人流の抑制、医療提供体制、検査やワクチン接種の体制、治療薬の開発と活用、生活支援と事業者支援などについて、どこに問題があり、どのように改めるのか明確にする責任があると思う。

そのうえで、総理官邸や各省との関係、都道府県、市区町村や大学・医療機関など行政の体制について、抜本的に見直し、その実施計画を明らかにするのが、新政権の役割だ。衆院選挙が始まる前に、是非、明らかにしてもらいたい。

 外交・安全保障、構想の提示を

外交・安全保障の分野については、従来の政府方針を基本的に踏襲している。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組むとしている。その中で、海上保安能力や、ミサイル防衛能力の強化、経済安全保障など新しい時代の課題に果敢に取り組むとしている。

米中対立が激化する中で、日本は日米安保を基軸にすえたうえで、中国にどう向き合うのか。外交努力に加えて、防衛力の整備、経済安全保障の観点も踏まえて、外交・安全保障の基本的な構想を明らかにして、国民の理解と協力を求めていくことが重要だ。

 政治の信頼回復 不祥事に言及なし

政治の信頼回復も極めて重要な課題だ。岸田首相は「難しい課題に挑戦していくためには、国民の声を真摯に受け止め、かたちにする、信頼と共感を得られる政治が必要だ」と強調した。

ところが、2017年の前回の衆院選以降、安倍政権の下で、政権絡みの不祥事が相次ぎ、国民の強い政治不信を招いた。国有地の払い下げをめぐる「森友学園問題」で、財務省の公文書が改ざんされていたことを認める報告書が公表された。

菅前政権下のこの1年間でも「桜を見る会」前夜祭をめぐって安倍元首相の秘書が政治資金規正法違反で有罪判決を受けた。政治とカネをめぐる問題で、河井元首相夫妻や菅原元経産相が議員辞職に追い込まれた。総務省幹部の接待問題なども明らかになり、幹部が辞職した。

こうした「長期政権の負の遺産」をどのように改めていくか、国民は注視している。岸田首相は「信頼と共感の得られる政治」という一般論は語るが、「負の遺産」や、公正な政治・行政に向けてどのような決意で臨むのか言及しなかった。

長期政権が続いた結果、官僚の政権に対する忖度や、委縮が進んでいるのではないかとの声も聞く。官僚の政策提案能力を生かす人事制度や運用にも真剣に取り組む必要がある。

 与野党の論戦 判断材料提示を

以上みてきたようにコロナ激変時代、今の政治・行政は実に多くの課題・問題を抱えている。14日には、衆議院が解散され、19日公示、31日投開票の日程で衆議院選挙が行われる。

11日から始まる各党の代表質問は、衆院選直前の最後の国会論戦になる。与野党とも国民の判断材料となるような中身の濃い論戦を見せてもらいたい。

私たち国民の側も、政権与党に対しては「岸田政治」とその前の「安倍・菅政権の実績」をどう評価するかが基本になる。

また、野党の政権構想や主要政策にも耳を傾け、どちらが政権担当勢力としてふさわしいのか、与野党の勢力バランスはどのような形が適切か、熟慮を重ね1票を投じたい。

 

 

 

岸田新政権と10月衆院決戦

自民党の岸田文雄総裁が4日召集された臨時国会で、第100代首相の指名を受けた後、岸田内閣を発足させた。

これに先立って、岸田氏は衆議院の解散・総選挙について、会期末の14日に解散し、19日公示、31日投票で選挙を行う意向を固め、複数の与党幹部に伝えた。

衆院選挙の投票日は、11月7日か14日のいずれかとの見方が強かっただけに与野党に驚きが広がった。岸田首相は4日夜、就任後初めての記者会見で、衆院選挙を19日公示、31日投開票の日程で行う方針を正式に表明した。

大きく揺れている秋の政局、私たち有権者は、新たに発足した岸田新政権をどのようにみるか。また、衆院選では何を基準に選択することになるのか、国民の側の視点で考えてみたい。

 党人事は派閥色、閣僚人事に腐心

まず、岸田新政権の人事から見ていきたい。個別の人事については、メディアの現役記者に委ね、ここでは、人事全体の評価を見ていきたい。

自民党役員人事と閣僚人事とでは、評価がかなり異なる。党役員人事は、No2の幹事長に麻生派幹部の甘利氏、政調会長には総裁選で安倍前首相の支援を受けた高市氏、副総裁に麻生前財務相が就任するなど派閥や重鎮に配慮が際立つ人事になった。

これに対して、閣僚人事については、派閥均衡の色彩はあるものの、派閥が長年入閣できなかった議員を押し込む「滞貨一掃」人事はみられない。茂木外相、岸防衛相を再任する一方、新設の経済安全保障担当相に当選3回の小林鷹之氏を起用するなど政策能力が高いとされる若手議員や女性議員を起用しているのが、特徴だ。

但し、人事は全体としてみると派閥や重鎮の存在感が強く、岸田首相の強い指導力を印象付ける布陣にはなっていない。

 官房長官、他派閥からの起用の成否

次に、私が最も注目しているのは、内閣の要の官房長官ポストに、自らの派閥からではなく、最大派閥・細田派幹部の松野博一氏を起用した点だ。これが、党内基盤を安定させて吉と出るか。それとも首相と官房長官との一体感が乏しく凶と出るか、この成否が大きなポイントになるのではないかとみている。

こうした人事をめぐっては「安倍前首相が幹事長に高市氏、官房長官に萩生田氏を強力に押し込もうとしたのではないか」などの情報も飛び交っている。自民党関係者に聞いてみると「ガセネタの類としか思えない。宏池会に適任者がいなかったので、松野氏を選んだと聞いている」と否定する。事実関係を詰めて、政治の裏側を確認していく作業が今後も必要だ。

松野氏は、文科相経験者で細田派の事務総長。政調副会長も務め岸田氏とも近いとされる。但し、派閥の領袖出身の首相で、内閣官房長官を他の派閥から起用したケースは少ない。

最も有名なのは、中曽根元首相が政権就任にあたって、当時の最大派閥・田中派の後藤田官房長官を起用したケースだ。当時のメディアは、「田中曽根内閣」などと報じた。

第4派閥のリーダーに止まる中曽根氏は、後藤田氏をいわば人質として取り込むことによって、政権基盤を安定させる戦略が明確だった。

事前に田中角栄元首相と直談判して了解を取り付けたほか、後藤田本人とも以前から、さしの会合で意見交換し、行政改革など政権目標についても両者の考えは一致していたといわれる。

今回の岸田首相の人事も似ているようにも見えるが、当時現場で取材していた者からすると「似て非なるもの」、時の首相の覚悟と戦略が異なるように見える。

政界関係者に聞くと「官邸の仕事は、総理と官房長官の力で決まる」とされる。特に政権が苦境に立たされた時に一体的な対応ができるかどうか、岸田首相が試されることになるのではないかと考える。

 衆院選 最大の争点はコロナ対策

次の衆院選挙での最大の争点は「コロナ対策」ということになるだろう。政権の側も安倍首相に続いて、菅首相も感染急拡大と医療危機を防ぐことができず、退陣に追い込まれた。

ところが、2つの政権とも「コロナ対策の総括」を行っていない。両首相とも感染拡大が収まった後、検証を行う考えを示してきたが、検証や総括はなされないまま、首相の座を去ってしまった。

今回の自民党総裁選挙でも4人の候補者はそれぞれ独自の政策を打ち出したが、安倍政権と菅政権のコロナ対策の問題点には踏み込んでおらず、具体的な取り組み方を示すまでには至っていない。

政府・与党側は、これまでのコロナ対策の総括と今後の具体策を明らかにすることが必要だ。これに対して、野党側はどのような対案を打ち出すのか、週明けの国会の代表質問でも激しい議論が交わされることになる。

選挙戦でも感染の抑え込みや、医療提供体制の整備、さらに国民生活や事業者支援のあり方などについて、どの政党が具体的で、実効性のある対策を示しているか、しっかり見極めていきたい。

今度の衆院選挙は、任期満了を超えて4年ぶり選挙になる。それだけに、これまでの安倍・菅政権の実績評価も焦点になる。森友・加計学園の問題をはじめ、財務省の決裁文書の改ざんや、桜を見る会の経費の問題などの真相の解明の仕方や、政治・行政の信頼の回復に向けた取り組み方も問われることになる。

このほか、激化する米中関係の中で、日本の外交・安全保障をどのように進めていくかも大きな論点になる。

このように内外に数多くの課題を抱えている中で、国会の勢力分野はどのような形が望ましいと考えるか。

自民・公明両党を中心とする今の政権の継続か、与野党の政権交代か、さらには与野党の勢力均衡が好ましいと考えるのか。コロナ激変時代の政治の方向を決める重い1票を投じることになる。