立民代表選 立て直しへ道筋描けるか

”野党第1党の顔”に誰が選ばれるのか。立憲民主党の代表選挙が19日告示され、4人が立候補して選挙戦が始まった。

立候補したのは、届け出順に逢坂誠二・元首相補佐官、小川淳也・国会対策副委員長、泉健太・政務調査会長、西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。届け出の後、さっそく午後から共同記者会見に臨んだ。

4氏はいずれも民主党政権時代には、閣僚や党幹部の経験がなく、知名度も高くないため、国民の関心を高めることができるかどうか、不安視する声も聞かれる。

来年夏の参議院選挙を控えて、自民・公明両党の岸田政権にどのように対峙していくのか、党の態勢立て直しへ道筋を描くことができるのかどうか、代表選の焦点を探ってみた。

 記者会見で論戦、党勢立て直し策

立憲民主党の代表選挙は19日、立候補の届け出が終わった後、4氏がそろって共同記者会見に臨み、論戦が始まった。各候補は、先の衆院選で議席を減らした党勢の立て直しについて、それぞれ次のような考え方を明らかにした。

◆逢坂氏は「単に理念や理屈、政策を述べるだけでなく、具体的な地域課題を解決し、その結果を積み上げていくことで党勢を拡大していきたい」とのべ、地域課題の取り組みを強化したいという考えを示した。

◆小川氏は「野党には2つの仕事があり、政権を厳しく批判的な立場から検証すること、政権の受け皿として国民に認知されることがあるが、後者が十分ではなかった」とのべ、党の期待感や魅力を増す必要性を強調した。

◆泉氏は「先の衆院選では、比例代表選挙での投票を呼びかける運動が欠けていた。また、消費税率の引き下げや分配政策を打ち出す時期が遅れた」として、党の政策などを早期に提示する必要があることを訴えた。

◆西村氏は「地方組織をしっかり作っていくことが課題だ。また、立憲民主党がどういう社会をめざしているのか、有権者に届いていなかったのではないか」とのべ、党がめざす社会像を明確に打ち出していくべきだという考えを強調した。

記者団からは、来年の参議院選挙に向けて、共産党などとの野党連携を維持するかどうかや、他の野党との連携の軸足の置き方について、質問が集中した。

これに対して、4氏は「先の衆院選挙では、選挙区で1対1の構図を作ることができたところは、成果があった」。

「参議院の1人区で、野党候補が数多く立候補すれば、野党が不利になるので、できるだけ1対1の構図を作りたい」などの意見が出され、参議院の1人区では野党候補の1本化をめざすべきだという考えをそろって示した。

各候補とも巨大与党に対抗するために、参議院選挙でも共産党などとの野党共闘は維持すべきだという基本的な考え方では一致していたが、具体的な連携の形や重点の置き方などについては、踏み込んだ議論までには至らなかった。

 選挙情勢は混戦、決選投票も

次に代表選挙の情勢だが、投票は党所属の衆参議員と公認候補予定者、地方自治体議員、一般党員・サポーターの得票をポイントに換算して争われる。

具体的には、衆参議員は140人で、1人2ポイント。公認候補予定者6人で、1人1ポイントで、合わせて286ポイント。

この半分の143ポイントずつが、自治体議員1270人と、およそ10万人の一般党員・サポーターに割り当てられる。得票数に応じて、各候補にポイントが配分される。

過半数に達しない場合は、上位2人の決選投票になる。今回は、候補者が4人も立候補し、抜きんでた本命がいないため、混戦は避けられず、決選投票の可能性が高いという見方が強い。

国会議員は140人のうち、既に90人が4候補の推薦人になっているため、残り50人と少ないことから、自治体議員と党員・サポーターの地方票が、選挙情勢を大きく左右することになりそうだ。

このため、各候補とも党の態勢の立て直しに向けて、どのような具体的な取り組み方や構想を打ち出していくのか、知恵を絞ることになる。

一方、野党陣営では、先の衆院選で議席を大幅に増やした日本維新の会と、同じく議席を増やした国民民主党が連携を深めようとしている。野党第1党の代表として野党全体をまとめていくだけの力量・能力があるのか、選挙戦を通じて厳しく評価されることになる。

代表選挙の今後の日程は、22日に日本記者クラブ主催の候補者討論会が開かれる。札幌、福岡、横浜で街頭演説も行われ、30日の臨時党大会で投開票が行われる。

果たして、誰が野党第1党の新しい顔になるのか。来月6日に召集される臨時国会の論戦に立つことになる。

 

立民代表選の争点、何が問われる選挙か

野党第1党・立憲民主党の代表選挙が19日告示され、30日の投開票に向けて選挙戦が始まる。

今回の代表選は、先の衆院選で議席を減らした責任をとって辞任した枝野前代表の後任を選ぶもので、国会議員だけでなく、地方議員や党員なども参加して行われる。

野党の代表選挙は、与党の総裁選と違って政権に直結しないため、国民の関心は必ずしも高くはないが、政治に緊張感をもたらすためにはどんな野党になるのか、特に第1党のあり方は、国民にとっても大きな意味を持つ。

今回の代表選は、枝野前代表が打ち出した共産党などとの共闘路線の是非が大きな焦点になるとの見方が強いが、どうだろうか。

私個人は、野党共闘の問題もあるが、それ以前に野党第1党としての役割の認識や、その役割を果たすための党の態勢の立て直し、戦略の構築こそが問われているのではないかと考える。

野党共闘の問題は、新代表の下に検討委員会を設けて結論を出す方法もあるのではないか。

来年夏には参議院選挙が行われる。どんな野党第1党をめざすのか、政権構想や重点政策を明確にしたうえで、野党共闘のあり方などを決めていくのが本筋ではないかと考える。こうした理由や背景などについて以下、説明していきたい。

 小選挙区と比例で異なる効果

まず、先の衆院選挙の結果を確認しておきたい。自民党は選挙前より議席を減らしたものの、絶対安定多数の261議席を確保、公明党の32議席と合わせて293議席を獲得したので、勝利したといえる。

一方、立憲民主党は96議席で、選挙前の110議席から14議席減らし敗北した。共産党は10議席で2議席減らした。これに対し、日本維新の会は前回より4倍近い41議席を獲得して躍進、国民民主党も3議席多い11議席を獲得した。

このうち、立憲民主党の議席の内訳だが、小選挙区では、選挙前の48議席から9議席増やして57議席を獲得したのに対し、比例代表では62議席から39議席へ23議席も減らした。

小選挙区では、1万票差以内の接戦となった選挙区がおよそ30にも上ったことを考えると善戦健闘、野党候補1本化の共闘は一定の成果を上げたとも言える。

比例代表では、立憲民主党は前回からわずかに多い1100万票に止まった。これに対し、日本維新の会は800万票で、前回より460万票余りも増やし、国民民主党も新たに260万票近い得票、「れいわ」も220万票を獲得した。

こうした票の流れは前回、野党第1党も合流して結成された旧「希望の党」が集めた960万票が立憲民主党には向かわず、維新、国民、れいわ3党に回ったとみることもできる。

このため、立憲民主党が比例代表で議席を大幅に減らしたのは、共産党との共闘路線を有権者が警戒して、立憲民主党以外の政党に投票したためではないかという見方も出されている。

このように比例代表選挙と小選挙区とで、野党共闘の効果は分かれている。

 野党のあり方、旗印や存在感に弱さ

それでは、国民は、野党第1党の立憲民主党をどのように評価しているのか、報道各社の世論調査のデータでみてみたい。

報道各社の調査で、自民党の支持率は30%台後半の水準にあるのに対して、立憲民主党の支持率は、5~6%台、1ケタの水準で共通している。

また、年代別に見ると10代から30代では、自民党が4割から30%台後半で高いのに対して、立憲民主党はその10分の1,1ケタ台と低い。働く世代40代、50代でも大きく水をあけられている。60代、70歳以上の高齢世代でようやく10%台に達するが、それでも自民党との差は大きい。

さらに比例代表選挙の投票予定先でも、自民党がおよそ30%に対して、立憲民主党は11%台と3分の1に止まっていた。望ましい選挙結果についても「与党と野党の逆転」は11%程度に対し、「与党と野党の勢力伯仲」が49%で最も多かった。(10月23,24日共同通信調査)

枝野前代表は「政権選択選挙」と位置づけ、共産党とは「閣外からの協力」に止めているとのべたが、与野党の勢力が逆転した場合、政権の枠組みなどはどうなるのか、詳しく説明する場面もなかった。

このため、有権者の側は、野党共闘や政権交代を訴えられても「現実的な選択肢」として受け止める人は少なかったのではないか。

また、「立憲民主党は何をする政党か、自民党とどこが違うのかの旗印がわからない」。「自民党政権はコロナ対策で、失敗と後手の対応が続いたが、野党の存在感も感じられない」といった声も数多く聞いた。

こうした国民の評価を基に考えると、立憲民主党が衆院選で議席を減らしたのは、野党共闘というレベルの問題ではなく、何をめざす政党か、構想や重点政策も理解されておらず、政権の受け皿として認められるまで至っていない点を認識する必要があるのではないかと考える。

 魅力ある野党、新風を巻き起こせるか

今回、自民党は絶対安定多数を維持したが、何とか接戦をしのいで議席を守り抜いた「薄氷の勝利」というのが実態だ。

一方、有権者の側は「魅力のある野党や新党ができれば、支持する」「野党第1党は、政界に新風も巻き起こし、政治に緊張感を取り戻す役割」を果たしてほしいという期待は根強いものがある。

このため、立憲民主党が求められているのは「代表の顔」を顔を変えるだけでなく、◆立憲民主党は何をする政党なのかの旗印、政権構想を明確にすること。◆コロナ激変時代に取り組む重点政策。子育て、教育、雇用、知識集約型産業といった、自民党とは異なる重点政策をはっきりさせる必要があるのではないか。

そのうえで、◆来年夏の参議院選挙を野党第1党として、野党結集を進めていく具体的な道筋を明らかにすることが重要ではないか。参院選の1人区は、野党ができるだけまとまって戦わないと、政権与党側の1人勝ちになる公算が大きい。

◆共産党など野党共闘のあり方は、新しい代表の下に政権構想委員会といった組織を設けて、検討していくことも1つの方法ではないかと考える。

代表選挙の告示が近づいているが、立候補を検討しているのは、◆泉健太・政務調査会長、◆大串博志・役員室長、◆小川淳也・国会対策副委員長、◆西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。

いずれも中堅の顔ぶれだが、単に代表の顔が若返るだけでなく、コロナ激変時代の新たな構想や重点政策、それに自民党に対抗できる、もう1つの大きな政治の軸を打ち出せるような代表選挙をみせてもらいたい。

第2次岸田政権の前途をどう読むか

先の衆院選挙を受けて、特別国会が10日召集され、首相指名選挙などを経て、第2次岸田政権が再スタートした。

岸田首相は10日夜の記者会見で「総選挙で、岸田政権に我が国のかじ取りを担うようにとの民意が示された。政治空白は一刻も許されず、最大限のスピードで政策を実行に移す」と強い意欲を示した。

岸田自民党は、苦戦が予想された衆院選の接戦をしのぎ、自民党単独で安定多数の261議席を獲得した。公明党の32議席を合わせると与党で300近い議席を確保して、再出発することになった。

岸田政権は、果たして安定した政権運営が可能なのか、それとも短命政権で終わる可能性はあるのか、そのカギは何かを探ってみたい。

 内閣支持率上昇、小渕元首相型も

まず、衆院選後、最初の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞の調査(11月6,7日)では、岸田内閣の支持率は、投票日5日前の調査に比べて、4ポイント高い45%、不支持率は1ポイント高い27%だった。

NHKの調査(11月5~7日)でも内閣支持率は、投票日前1週間前の調査に比べて、5ポイント上がって53%、不支持は2ポイント下がって25%だった。10月4日の第1次内閣発足直後49%からも、支持率は4ポイント上昇したことになる。

支持率上昇は、衆院選挙で安定多数を確保して、勝利したことの影響が大きい。自民党の歴代政権で安倍政権は、高い支持率を長期間、維持したが、それ以外の多くの政権は発足時は高いものの、下落するケースがほとんどだった。

そうした中で、90年代後半に政権を担った小渕元首相は最初は低空飛行だったが、経済対策などに地道に取り組み、次第に支持を高めていった。岸田首相もここまでの支持率をみていると、小渕元首相型の展開になる可能性もある。

但し、岸田政権の支持率上昇は、政権の実績が評価されたわけではない。衆院選挙最優先で選挙を急いだ結果、重要政策として掲げる政策のほとんどは具体化しておらず、岸田政権の真価が問われるのは、これからだ。

当面、乗り越えなければいけないハードルとして、3つ大きな課題がある。そのハードル・課題を具体的にみていきたい。

 コロナ対策、医療の備えと実行力

第1のハードルは「新型コロナ対策」を早期に実行し、成果を上げることができるかだ。この優先課題を処理できないと、菅政権と同じように出だしから国民の支持を失うことになるだろう。

岸田政権は「コロナ対策の全体像」を12日に明らかにする予定だ。その中身に触れる前に岸田政権は、政府のこれまでのコロナ対応の総括をきちんと行う必要があると考える。

安倍政権と菅政権は、コロナ対策について、まとまった検証・総括を一度も行ってこなかった。国会では、感染が落ち着いた段階で考えたいとの答弁はしたが、実行されず、同じ失敗の繰り返し、後手の対応と国民の眼には映った。

それだけに岸田政権としては、政府対応の問題点を率直に認め、そのうえで、今後の具体策を打ち出せば、政権の信頼性も高まるのではないか。

幸い、コロナ感染は潮が引くように急激に減少している。この感染が落ち着いている時期の対応が極めて重要だ。冬場に第6波の感染が到来しても対応できる医療提供体制の備えを早急に進める必要がある。

また、ワクチン接種や経口薬の実用化などを強力に推進すること。さらに、安倍政権、菅政権では、総理官邸の司令塔機能が働かなかった。この点をどのように改めていくのか。具体策を示して、早急に実行に移すスピード感も問われる。

 経済・暮らし対策 具体策は

第2のハードルは「経済・暮らし対策」で具体策を打ち出せるかどうかだ。

岸田首相は、新型コロナの影響を受けた人たちへの現金給付をはじめとする、数十兆円規模の新たな経済対策を19日に取りまとめるとともに、大型の補正予算案を今月中に編成する方針だ。

また、看板政策である「新しい資本主主義」について、有識者などで構成する実現会議の緊急提言をとりまとめ、新たな経済対策や補正予算案、さらには新年度の当初予算案に盛り込みたい考えだ。

自民党長老に岸田政権の看板政策について聞くと「国会の演説を聞いても、”お経”が長すぎて、肝心の”功徳、ご利益”が国民にわかりにくい。何をやるのかはっきりさせないと、民心は政権から離れしまう」と指摘する。

この長老の指摘するように「成長と分配の好循環」「格差是正」「給与の引き上げ」などを強調するが、どんな方法でいつまでに実現するのかはっきりしない。

また、安倍政権や菅政権の経済政策とどこが違うのか。さらに、短期間のうちに一定の成果を上げないと、国民は看板政策への関心も示さなくなる可能性もある。

このため、岸田首相が、看板政策の実現までの具体的な道筋を描き、国民を説得しながら成果を上げることができるかどうか、年末までが勝負だとみる。

 党内政局、主導権を確保できるか

3つ目は、岸田首相が政権運営で主導権を発揮できるかどうか、党内政局への対応の問題もある。

自民党内を俯瞰すると菅前首相の退陣に伴って、幹事長を続けてきた二階氏も表舞台から去り、代わって安倍前首相と麻生副総裁の存在感が増している。

このため、岸田首相としては、安倍、麻生両氏との良好な関係を維持しながら、岸田色を発揮する余地を広げることに腐心しているようにみえる。

党の要の幹事長には、安倍、麻生両氏と関係の深い甘利氏を起用したが、衆院選の小選挙区で敗北し、わずか1か月で辞任に追い込まれた。後任に茂木外相を充て、党の態勢立て直しに懸命だ。

茂木氏も安倍、麻生氏との関係は良好と言われるが、安倍氏と関係が深い細田派からではなく、竹下派から起用した。

また、茂木氏の後任の外相には、林芳正・元文科相を起用した。安倍、林の両氏は先代の時から地元・山口でライバル関係にあり、こうした一連の人事から、岸田首相と、安倍前首相の微妙な関係を指摘する声も聞く。

その最大派閥の細田派は、細田会長が衆院議長就任したことに伴い、安倍前首相が派閥に復帰して、後任の会長に就任する見通しだ。安倍氏は最大派閥のトップとして、主要な政策や政局の節目で影響力を行使しようとするのではないかとの見方も出ている。

さらに、菅前首相や二階前幹事長、それに総裁選で敗れた河野太郎氏らが、今後、岸田首相とどのように向き合うのかにも党内の関心を集めている。

このように自民党内では、派閥の勢力や有力者の力関係の変動が続いており、岸田首相が主導権を発揮できるのかどうか、これからの焦点になっている。

その岸田首相は第4派閥の領袖だが、今後の政権運営はどうなるか。総裁選や衆院選を戦い、勝利を収めたことで、当面の政権運営に当たって大きな支障はなく、来年夏の参院選挙までは比較的安定した政権運営が続く可能性が大きいとみている。

但し、岸田政権の政権運営に陰りが生じると党内からの批判や風当たりが一気に強まることも予想される。一方、野党第1党の立憲民主党の代表選の結果によって、与野党の関係も変わる可能性があり、野党の動きもみていく必要がある。

いずれにしても岸田政権にとって、来年夏の参議院選挙が最大のハードルになる。参院選に勝てば、衆院選に続いての勝利で、長期安定政権への展望が開けるが、議席を減らすと短命で幕を閉じる可能性もある。

来年夏の参院選までに「政権の実績」を上げることができるか。そのためには、特に国民の関心が高いコロナ対策や経済政策で、年末までに具体的な成果上げることができるかどうか、大きなカギを握っていると言えそうだ。

 

衆院選”自民勝利、立民敗北”の背景

コロナ禍の短期決戦となった第49回衆議院選挙は、自民党が選挙前からの議席を減らしたものの、単独過半数を大きく上回る261の絶対安定多数の議席を獲得して、事実上の”勝利”を収めた。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は、選挙前を下回る96議席にとどまり、”敗北”した。一方、日本維新の会は、選挙前の4倍近い議席を獲得し、第3党に躍進するなど国会の新しい勢力分野が確定した。

メディア各社の情勢調査や投開票当日の予測報道でも、自民党の獲得議席は単独で過半数ギリギリか、下回るのではないかとの見方が多かった。これに対し、朝日新聞は、単独で過半数を大きく上回る見通しを示し、選挙結果に最も近い予測をした。

当ブログも自民党は単独過半数をやや上回る「236議席をベースに上下20程度の幅」になるのではないかと予測した。結果は「絶対安定多数」の261議席となり、上限を上回り、予測が外れたことになる。

個別選挙区の積み上げの検証はまだ行えていないが、予測が外れた理由や背景にどういった事情があるのか、与野党の関係者の取材を基に報告しておきたい。

(メディアの予測については、前号・10月27日「衆院決戦 勝敗予測のカギは?」。関心のある方は、この号の後に掲載しています。ご覧ください)

 野党共闘 無党派層へ広がりの限界

自民党が過半数を大きく上回る議席を獲得できた理由は何か、選挙に詳しい自民党幹部に聞いてみた。

この幹部は「自民党の若手議員は危機感を強め、後援会を中心に必死で支持固めに動いたこともあるが、野党共闘が、野党候補の支持拡大につながらなかったことに助けられた側面が大きかった」と指摘する。

具体的にどういうことか。「野党共闘と言っても例えば、立憲民主党の候補者に1本化された場合、立憲民主党と共産党の支持層に限られていたのが実態だった。無党派層への支持拡大につながらなかったので、自民党候補が競り勝つ選挙区が多かった」と分析している。

立憲民主党関係者に聞いても「野党共闘は、野党陣営の分裂を防ぎ、自民党と競り合う構図にまで持ち込めた効果は大きい」と強調したうえで、「有権者の反応を見ると、共産党との共闘に抵抗感を持ち、無党派層の中から支持離れが出たことも事実だ」と認める。

読売新聞の出口調査で、比例代表の投票先のデータをみると、立民24%、自民21%、維新19%などに分かれている。前回の選挙では、立民30%、維新が9%だったという。前回と比較すると立民は最多だが支持の比率が下がり、維新は大幅に伸ばしている。

今回、立憲民主党は、共産党などの野党と213の選挙区で候補者を1本化し、激戦や接戦に持ち込んだが、勝利したのは59選挙区で、勝率は3割に達しなかった。

これに対し、与党側はおよそ65%にあたる138の選挙区で議席を獲得した。今回の野党共闘には限界がみられ、自民・公明の与党側の地力が勝ったと言えそうだ。

 コロナ感染収束 首相交代効果も

以上は、選挙の戦い方の面から分析したものだが、自民党が議席を増やした背景としては、選挙を取り巻く状況なども影響した。

1つは、「コロナ収束効果」。選挙戦が進むにつれて、新型コロナの新規感染者が急速に減少した。その結果、これまでの政府のコロナ対策の失敗よりも、これからの感染抑制や暮らし・経済の立て直しに有権者の関心が移ったことも、政権与党側に有利に働いた。

もう1つは、「首相交代、政権のイメージチェンジ効果」も大きかったのではないか。安倍・菅政権では、野党をいわば敵方に設定して対決していく手法が目立った。

これに対して、岸田首相は「聞く力」を強調し、安倍政権や菅政権とは異なる政権運営を強調し、与党内の疑似政権交代を印象付けようとするねらいがあったものとみられる。こうした政治姿勢が、一定の期待感を持たせる効果を生んでいる。

さらに、冒頭に触れた「野党共闘の限界」を加えた3つの要因が、今回の自民議席増をもたらしたとみている。メディアの側の情勢調査や世論調査、議席予測の改善点などについては、今後材料を集め、改めて報告したいと考えている。

 問われる与野党 新しい政治・国会を

今回の選挙を受けて、政界にさまざまな動きが続いている。自民党では、甘利幹事長が小選挙区で敗れた責任をとって辞任し、後任に茂木外相が就任することが1日固まった。岸田政権にとって、政権発足からわずか1か月で、党の要の交代は痛手だ。

一方、立憲民主党は、政権交代を訴えたが、結果は選挙前の109議席を下回る96議席に止まり、党内から執行部の責任を問う声が出ている。枝野代表は、2日の党役員会までには何らかの考え方を示したいとしており、党の態勢の立て直しを迫られることになりそうだ。

このほか、立憲民主党などの野党側と距離を置く日本維新の会は、選挙前議席の11から41議席を獲得し第3党へ躍進した。第3極をめざして、国会で独自色を強めていくものとみられる。

国民の側は、与野党双方に対して、コロナ対策をはじめ、暮らしと経済の立て直し、さらに外交・安全保障をどのように進めていくのか、明らかにして欲しいという期待が強い。与野党が議論を深め、新しい政治・国会論戦の姿を示すことが問われている。

来年夏には、参議院選挙が控えている。次の国政選挙にどう備えるのか、今回の衆院選挙の結果を分析して、それぞれの政策や政権構想の打ち出し方や、政党間の選挙協力のあり方などについても検討を行い、政治の信頼回復に取り組んでもらいたい。