コロナ政局と政権の危機対応

今年も残りわずかとなったので、2021年の政治をどうみるか、締めくくりとして取り上げたい。

今年元旦の当ブログのタイトルは「”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測」だった。「コロナ大激変時代、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆院議員の任期切れが重なる」として、上記のような予測をした。

菅政権が倒れ、岸田政権へ交代、衆院解散・総選挙で敗北した野党第1党の枝野代表も辞任したので、予測としてはなんとかクリアできたのではないかと総括している。

問題は日本政治が最も問われていた点、「政権の危機対応」は岸田政権に代わっても未だに手が付けられず、先送りされているのではないか。重い宿題を背負ったまま、新たな変異ウイルス「オミクロン株」に立ち向かおうとしているようにみえる。

 2代連続退陣、核心は政権の危機管理

2020年1月に新型コロナウイルスの感染が日本国内で確認されて以降、安倍晋三元首相が体調悪化を理由に退陣したのに続いて、菅義偉前首相も今年9月に退陣を表明、日本の首相は2代続けて退陣に追い込まれた。

菅政権では、年明けの第3波から緊急事態宣言が発せられ、夏場の第5波では、自宅待機を余儀なくされる人たちが多数に上り、治療を受けられずに亡くなる人も出るなど深刻な事態に陥った。

また、国民に対する説明も不十分で、内閣支持率も急落して支持を失った。問題の核心はどこにあったかといえば、新型コロナ感染症という新たなリスクに対して、政権の司令塔である首相官邸の危機管理が機能不全状態に陥り、失敗したということになる。

 初動は順調、危機管理は先送り

菅政権に代わって登場した岸田政権は、衆院解散・総選挙を何とか勝ち抜いた後、11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのをはじめ、新たな変異株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの措置を次々と打ち出した。

菅政権がワクチン接種を猛スピードで進め、感染者数が激減する効果が現われたこともあって、岸田政権の初動の対応は順調で、世論の評価も高い。

但し、岸田政権のコロナ対応をみると危機管理体制の見直しは先送りされている。岸田首相は12月の所信表明の中で「これまでのコロナ対応を徹底的に検証します。そのうえで、来年6月までに感染症危機に迅速・的確に対応するため、司令塔機能の強化を含めた、抜本的な体制強化策をとりまとめます」とのべた。

つまり、様々な対策を打ち出す一方で、肝心の危機管理体制の見直しは6月に先送りしているわけだ。野党がこの点を、なぜ追及しないか理解できない。そこで、この疑問を政権幹部に直接ぶつけたところ、次のような返事が返ってきた。

「岸田政権の対策の柱は、ワクチンの2回目接種の完了と治療薬の実用化、それに3回目のワクチン接種を行うこと。加えて、経済を動かしていくことが基本戦略だ。途中で体制を変えること、司令塔を変えるのは難しい。一連の対策が終わり、感染対策が落ち着いたところで、体制を決めたい」という考えだ。

実務的で現実的な考え方とも言えるが、危機管理は、平時に考え準備を完了させておくことが重要だ。日本の政治家の悪いところは、急場をしのぐと問題点の洗い出しや検証を行わず、先送りにすること。前任者の責任に触れるのを避けたいためかは知らないが、とにかく同じ間違いを繰り返す。

驚くほど急減していた感染も、新たな変異株・オミクロン株が国内でも広がり始めた。岸田政権の感染対策は「都道府県知事が感染状況を判断し、国と連携しながら対策を進めていく」新たな仕組みに変えたのが特徴だ。

国と都道府県知事、市区町村との連絡・調整をはじめ、医療機関や保健所、大学などとの連携・調整が本当に機能するのかどうか、首相官邸の司令塔機能が再び問われることになりそうだ。

 コロナ危機とリーダーの指導力

コロナ危機で改めて浮き彫りになったのが、政治のトップリーダーの判断力や決断力だ。また、リーダーが決断するためには、決断を支える体制が重要だ。

今回の新型コロナは百年に一度の危機といわれる。百年前というのは第1次大戦の時期で、スペイン風邪が大流行、日本でも39万人もの犠牲者が出た。

その時期の政治リーダーは、著名な原敬首相だ。第1次大戦が終了する1か月ほど前に就任した。平民宰相と呼ばれ、内外の難問に取り組んだが、3年後に暗殺された。

当時、日本は第1次大戦に参戦、戦勝国になったが、戦後には熾烈な列強間の経済戦争が予想され、将来への不安感も広がり、ちょうど今の日本に似た状況にあったとされる。(伊藤之雄京都大学名誉教授「真実の原敬」講談社現代新書)

原首相は、アメリカ中心の世界秩序をいち早く予測して、外交関係を再編するとともに、国内では交通網の整備、産業振興の列島改革を実行した。今風に言えば、コロナ後もにらんだ米中覇権争いと、国内の経済・社会の立て直しの構想と具体策を打ち出し、実行に乗り出そうとしたというところだろう。

さて、話を現代に戻す。年が明けるとコロナ・パンデミックは、3年目に入る。スペイン風邪も3年で収束した。政治がやるべきことは多い。まずは、海外で感染が急拡大しているオミクロン株のコントロールを成功させること。

そのうえで、新型感染症時代に対応できる危機管理体制を早急に整えること。先人にならって外交・安全保障の基本方針や、国内の経済・社会の立て直しの構想や具体策を打ち出すことだ。

そのためには、国会で与野党が真正面から議論し、競い合う政治が今一度、求められているのではないか。(了)

”期待外れの臨時国会” 懸案は越年へ

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台になった臨時国会は、35兆円を上回る過去最大規模の補正予算を成立させ、21日閉会した。

国会閉会を受けて、岸田首相は21日夜記者会見し、年内に10万円の現金給付を容認する方針を打ち出したことについて「国民の思いを受け止め、思い切ってかじを切った」と方針転換の判断を説明した。

そのうえで、岸田首相は「大型経済対策を年内に国民に届けるとともに、変異株対策も先手、先手を打つ」とのべ、オミクロン株対策を強化する考えを表明した。

さて、こうした岸田政権の対応や今度の臨時国会をどのようにみたらいいのか。大型の補正予算は暮らしや経済の立て直しにどの程度、効果があるのか、掘り下げた議論は乏しかったのではないか。

国土交通省の基幹データの書き換えなど新たな問題も明らかになったが、経緯や原因はわからないまま、通常国会に先送りになった。

衆院選挙を踏まえて向こう4年間の外交・安全保障のかじ取りをどうするのかといった議論もほとんど聞かれず、残念ながら”期待外れの臨時国会”といわざるをえない。

なぜ、こうした結論になるのか、年明けの通常国会の論戦を充実させるためにも、今度の臨時国会の問題点をしっかり点検しておきたい。

 現金給付方針転換 制度設計に甘さ

まず、今度の国会で与野党の最も大きな焦点になったのは、18歳以下の子どもを対象に10万円相当を給付する問題だった。政府案では、年内に5万円を現金で支給し、残り5万円は来年春にクーポンで支給する方針だった。

ところが、政府案では、クーポンの発行に1000億円近い事務費がかかることに加えて、コロナワクチン接種などで多忙を極める自治体からは、さらに労務の負担が増すと強い反発を受けた。

これを受けて、岸田首相は予算審議の中で「自治体の判断で、年内に現金10万円を一括給付することも容認する方針」に転換する考えを表明した。

具体的には、現金5万円とクーポン5万円の併用と、現金5万円を年内と来年の2回に分けて支給、さらに全額現金で一括支給の3案から選択する仕組みに変えた。

この方針転換をどうみるか。首都圏の市や区の大半は17日現在で、年内全額現金一括給付を予定しており、クーポンを採用するところはないという。岸田首相が土壇場で方針転換したこと自体は、歓迎されるという皮肉な結果になっている。

但し、こうした現金給付をめぐる混乱は一昨年、安倍政権当時に続いて2回目だ。再度の現金給付は必至とみられていたが、備えは進んでいなかった。

今回の原案は、11月上旬に自民、公明両党の幹事長が急ピッチでまとめ上げた案がベースになっているが、スピードを重視した結果、制度の問題点や詰めの甘さが露呈した。

また、この問題に補正予算審議の多くの時間が費やされたため、予算案に盛り込まれていた、コロナ対策や経済対策の中身の審議は十分できなかった。

さらに、35兆円もの巨額予算は、経済の立て直しにどの程度役に立つのかといった経済効果の議論も深まらなかった。方針転換は、貴重な審議時間を奪い、国会のチェック機能を弱めた点で政権与党の責任は大きい。

 統計データ書き換え 失う信頼性

国土交通省が、建設業の受注実態を表す基幹統計データを書き換え、二重に計上するなど不適切な取扱いを続けていたことが明らかにされた。朝日新聞のスクープだった。

データの二重計上は2013年4月に始まったとみられている。GDP=国内総生産を推計する際の要素になるとも言われ、統計の信頼性を失う行為だ。

3年前、厚生労働省が所管する「毎月勤労統計」をめぐる問題で不適切な扱いが明らかになり、予算審議が紛糾したことも思い出す。同じような不祥事が繰り返される。

岸田首相は「経緯や原因を究明するため、検事経験者などによる第三者委員会を設置し、1か月以内に報告する」考えを表明した。この問題も年明けの通常国会に持ち越されることになった。

 文書改ざん 問われる裁判終結の判断

森友学園をめぐる問題で、財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した赤木俊夫さんの妻が訴えていた裁判は15日、国側がこれまでの主張を一転し、全面的に受け入れる手続きを取り、裁判を終わらせた。

裁判を通じて「夫の死の真実を知りたい」と訴えてきた妻の雅子さんは「不意打ちで卑怯だ」と批判している。

国の対応は、改ざんの具体的な経緯を明らかにしないまま、賠償責任を認めて幕引きを図ろうとするようにみえる。国民の多くの納得も得られないのではないか。

鈴木財務相や岸田首相はどのような判断で、裁判を終わらせることにしたのか、雅子さんの訴えに真摯に向き合い、事実関係を明らかにする責任があるのではないか。この問題も年明けの通常国会で改めて問われることになる見通しだ。

このほか、国会議員に毎月100万円が支払われる「文書通信交通滞在費」についても初当選した議員がわずか1日で全額受け取るのはおかしいと問題提起し、国民の関心を集めた。

与野党とも日割りに変えることでは一致したが、野党側が未使用分の返納と使いみちの公開を求めたのに対し、与党側が難色を示して合意ができなかった。使途の公開など是非は明らかだと思われるので、次の通常国会では早期に是正を図るべきではないか。

  問われるコロナ、立て直し構想

ここまでみてきたように今度の臨時国会は、過去最大の補正予算を成立させたが、肝心の中身を評価・点検する議論は乏しかった。また、先送りされた懸案・課題も多く、課題解決という面でも”期待外れの国会”に終わったというのが正直な印象だ。

それだけに年明けに召集される通常国会の役割と責任は大きい。夏には参議院選挙が行われるので、通常国会の会期延長は難しい。先送りになった懸案については、早急に是正を図ることを強く求めておきたい。

また、新しい年は、取り組むべき課題が多い。コロナ感染は3年目に入り、特に感染力の強いオミクロン株を抑え込めるのか当面、最大の問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、オミクロン株対策として濃厚接触者は、自宅待機ではなく、宿泊施設で待機を要請する方針や、いわゆるアベノマスクを廃棄するなどさまざまな方針やアイデアを明らかにした。

せっかくの方針であり、国会論戦の中で明らかにすれば論戦は盛り上がるし、国民の理解も進むと思うのだが、独り舞台でのアピールは残念だ。

いずれにしても感染をコントロールしながら、暮らしと経済の立て直しに向けた構想と道筋をどのように描くのか。与野党双方とも年明けの国会で、それぞれ建設的な提案を行い、提案の中身を競い合う緊張感のある政治を見せてもらいたい。(了)

 

“つまずき”目立つ岸田政権  

政権発足から2か月半が経過した岸田政権は、コロナ感染対策の全体像を打ち出したり、過去最大規模の補正予算を編成したり順調な運営を続けてきたが、ここにきて、人事の混乱や主要政策の方針変換といった”つまずき”が目立ち始めた。

旧友の石原伸晃元自民党幹事長を内閣官房参与に起用したが、雇用調整助成金を受給していた問題が明らかになり、わずか1週間で辞任に追い込まれた。

また、政権の目玉政策である18歳以下に10万円相当の給付についても自治体側の強い反発を受け、全額現金一括給付の容認へ方針転換することになった。

与党内には、今の短期の国会は何とか乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会の運営を危ぶむ声も聞かれる。岸田首相の政権運営、どこに問題があるのか探ってみたい。

 ”旧友優遇”と首相の任命責任

岸田首相が就任して以降、初めて開かれた13日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、内閣官房参与に起用したばかりの石原伸晃元幹事長が辞職した問題を追及され、「混乱は否めなく、申し訳ない」と陳謝に追い込まれた。

岸田首相と石原元幹事長は20年余の盟友関係にあることは政界では有名で、岸田首相は今月3日、先の衆院選挙で落選した石原元幹事長を内閣官房参与に起用したが、さっそく「旧友優遇、救済人事」といった批判が聞かれた。

その石原元幹事長は、自らが代表を務める党支部が60万円余りの雇用調整助成金を受け取っていたことが批判を浴び、就任後わずか1週間で辞職に追い込まれた。

また、大岡敏孝環境副大臣も雇用調整助成金30万円を受け取っていたことが明らかになったが、岸田首相は、進退は本人の判断に委ねる考えを示した。

雇用調整助成金は、コロナ感染で売り上げが大幅に落ちた民間事業者などを守るのが本来の目的だ。政党の支部は、企業献金や政党助成金を主な収入源にしており、政党支部が助成金を受領するのは違法ではないとされるが、国民の理解を得られるとは思えない。

また、任命権者としての首相の対応をみると元幹事長は辞職に対して、現職の副大臣はそのまま続投と処置は異なる。現職の副大臣であれば、事実関係の説明を徹底させるとか、政治的道義的な責任をとらせるべきではないかと個人的には考える。

一方、旧友の石原元幹事長の人事をめぐっては、岸田元首相も”安倍元首相や菅元首相のお友達人事、身内優遇”と変わらないではないかといった世論の側の受け止め方もあったのではないか。今後、内閣支持率などに影響があるのかどうか、注意してみていきたい。

 スピード決着、制度設計に甘さ

次に18歳以下の子どもを対象に1人10万円相当を給付する政策については、大きな動きがみられた。

政府は、これまで10万円相当のうち、年内に現金5万円を支給、残り5万円相当はクーポンで支給することを原則にしてきた。

ところが、クーポンの発行には1000億円近い事務経費がかかることに加え、地方自治体からは、ワクチン接種などで多忙な時期にさらに労力などの負担がかかると強い反発を招いた。

こうした自治体や野党の批判を受けて、岸田首相は13日、年内に全額現金で一括給付することも容認する考えを明らかにした。2回に分けて現金を給付する場合も含め、自治体に条件も設けないとしており、これまでの方針変換に踏み切った。

今回の方針転換をどうみるか。11月上旬に自民、公明両党の幹事長が3日間の協議で大枠が決着、10日には岸田首相と山口代表のトップ会談で、最終合意が図られた。こうしたスピード決着の結果、クーポン支給などの制度設計の詰めが甘かったのではないか。

また、自治体や国民の要望・ニーズを把握しないまま、政府が政治決着した仕組みを押し通したことも影響したのではないか。

自治体や野党の中には、岸田首相の決断で、年内の現金全額給付が可能になったことを評価する意見が出ている。

一方、土壇場になって、ようやく方針転換が図られるのは、政権の意思決定が遅すぎるし、制度設計能力の改善も進んでいないと見ることもできる。

岸田首相は「聞く力」と「スピード」を重視しているが、「迅速な決断力」と「実行力」も問われていると言えそうだ。

 内閣支持率低下、通常国会に不安

このほか、岸田政権としても判断が問われるのは、毎月100万円が支給される「文書交通滞在費」の問題がある。10月末に初当選した議員がわずか1日で、1か月分の100万円の手当を受け、見直しを提起している問題だ。

野党第1党の立憲民主党は、日割り計算に改めることと、返金できる仕組み、それに使いみちの公開の3点セットの改善を提案している。

自民党は、日割り変更には応じるものの、使いみちの公開には難色を示しており、今国会での合意・実現のメドはついていない。

岸田政権は内閣官房参与人事や、10万円相当の給付に代表されるように、このところ政権運営のブレやつまずきが目立ち始めている。

NHKが今月10日から12日にかけて行った世論調査では、岸田内閣の支持率は50%で、前の月から3ポイント減少した。一方、不支持は27%で、1ポイント増えている。

「オミクロン株」の水際対策として、政府が外国人の新規の入国を原則停止とした対応を「評価する」との意見が81%と高かった。これに対し、目玉政策の10万円給付は「評価する」が33%に対し、「評価しない」が64%と多い。

つまり、内閣支持率は50%と高い水準を維持しているが、先月から低下傾向が表れている点を注意しておく必要がある。

岸田政権にとって最初の予算員会の審議をみていると、コロナ対策の山際経済再生担当相と、後藤厚労相、堀内ワクチン担当相の答弁や連携は、前政権に比べて不慣れな面が目につく。

自民党関係者に聞くと「今の臨時国会は短期間なので、乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会は大丈夫か不安だ」と漏らす。岸田政権の”つまずき”が収まっていくのか、不安定の始まりになるのか、今の臨時国会が試金石になる。

 

師走国会の焦点 党首対決の論戦   

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が6日召集され、岸田首相が衆参両院の本会議で所信表明演説を行い、論戦の幕が開いた。

コロナ対策などで過去最大35兆9800億円余りの補正予算案も6日、国会に提出された。

師走に入っての臨時国会だが、ここまで振り返ってみると夏のコロナ感染第5波と医療危機などで菅政権が倒れ、岸田政権が発足。衆院解散・総選挙が行われ、与野党執行部の顔ぶれも大幅に入れ替わった。

野党第1党・立憲民主党は、若手の泉健太代表が就任した。岸田首相も10月に就任以降、2か月余りになるが、予算員会での本格的な論戦は今回が初めてになる。

「聞く力」を掲げる岸田首相と「批判ばかりからの脱却」をめざす泉代表との初めての論戦対決はどうなるか、師走国会の焦点を探ってみた。

 岸田首相 問われる「実行力」

まず、この国会論戦のベースになる、岸田首相の所信表明演説の内容から見ておきたい。

岸田首相は、新たな変異ウイルス「オミクロン株」の感染拡大に備え、細心かつ慎重に対応する考えを強調し、3回目のワクチン接種については「8か月から、できるかぎり前倒しする」考えを表明した。

外交・安全保障では、いわゆる「敵基地攻撃能力」も含め、現実的に検討する考えを示すとともに、新たな国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を1年かけて策定する方針を明確にした。

一方、政権の看板政策である「新しい資本主義」の主役は地方だと強調したうえで、デジタルの力を活用することで、地方活性化を進め、地方から全体へボトムアップの成長を実現する考えを強調した。

この新しい資本主義については、具体的な政策をはじめ、いつまでに実現するのかが、わかりにくい。国会の論戦を通じて、構想をさらに具体化したり、肉付けしたりして、岸田カラーを鮮明に打ち出せるかが課題だ。

一方、メディアの世論調査で、岸田政権の支持率は高い水準を維持している。これは感染状況が落ち着いていることと、オミクロン株対応で水際対策を早めに打ち出したことが評価されているものとみられる。

但し、この高い支持率も岸田政権の具体的な実績が評価されたわけではない。オミクロン株対策も含めた感染第6波の抑え込みと、経済の立て直しを軌道に乗せることができるかどうか、これからの「実行力」にかかっているのではないか。

 野党 入国規制や10万円給付方法

野党側は、オミクロン株の水際対策の具体的な進め方や、国土交通省が国際線の予約を全面的に停止するよう要請した後、撤回した経緯などについて、岸田政権の対応を質す方針だ。

一方、生活支援の眼玉政策である18歳以下への10万円相当の給付については、現金とクーポンに分けることで事務的経費が900億円増える問題を追及する構えだ。

また、初当選した議員の提起で議論を呼んでいる、国会議員に毎月100万円支払われる「文書通信交通費」についても国民の理解は得られないとして、日割りでの支給に改めることに加え、使いみちの公開の義務付けを求めることにしている。

さらに、今回の補正予算案の規模は過去最大だが、生活に困っている人たちに給付金が届いているか、事業者への支援も事業の継続に役立つ制度設計にはなっていないのではないかとして、追及する方針だ。

このほか、今回の経済対策の効果について、政府は、今年度と来年度を中心にGDP=国民総生産を実質で5.6%程度押し上げる効果があると試算している。

これに対し、民間のエコノミストの間では、押し上げの効果は、来年度に限れば1%から2%程度という見方が示されており、こうした経済効果についても詰めた議論を要望しておきたい。

 党首対決の論戦 新たな議論の姿を

さて、国会の論戦は、岸田首相の所信表明演説を受けて、8日から3日間各党の代表質問に続いて、13日からは衆参の予算委員会に舞台を移して、1問1答形式の詰めた議論が戦わされる見通しだ。

一連の論戦では、野党第1党の立憲民主党は、泉代表や西村智奈美幹事長らの幹部をはじめ、第3極として躍進した日本維新の会も馬場共同代表らの新執行部、さらに各党幹部も岸田首相と論戦を挑むことにしている。

このうち、岸田首相と、立憲民主党の泉代表論戦は、初めての党首対決になる。岸田首相は「自らの特技は、人の話をよくきくことだ」と「聞く力」をアピールしてきた。対する泉代表は「批判ばかりからの脱却」を訴え、政策立案型の政党をめざしている。

岸田首相の演説を聞いた泉代表は記者団に「論戦しがいのある演説だったと思う」と感想をのべている。果たしてどんな論戦になるのか、個人的に大きな関心を持っている。

今年を締めくくる師走国会、会期は16日間と短いが、半年ぶりの本格的な論戦の舞台になる。コロナ感染第6波の備えをどうするか、コロナ後の経済・社会の構想と道筋をどのように描くか、国民が納得のいく新たな論戦の姿を、是非見せてもらいたい。                         (了)

 

 

 

”泉 立憲民主党”が問われる点

野党第1党・立憲民主党の「新しい顔」に泉健太氏が選ばれた。立憲民主党の代表選挙は30日投開票が行われ、1回目の投票で4人の候補者がいずれも過半数を獲得できず、上位2人による決選投票の結果、泉健太政務調査会長が、逢坂元首相補佐官を抑えて新しい代表に選出された。

泉代表は就任後、最初の記者会見で「根本は、国民に何を届けるかが大事で、国民への発信を強めていきたい」とのべ、自民党と対抗するだけでなく、政策立案型の新たな党運営をめざす考えを表明した。

泉氏の知名度は高いとは言えないが、衆院京都3区選出の当選8回で、47歳。2001年の衆院選挙で、当時の民主党から立候補して29歳で初当選した。その後、国民民主党の国会対策委員長などを歴任、去年9月に立憲民主党との合流に参加し、代表選挙にも立候補した経験もある。

泉氏が選出された背景としては、4人の候補者の中では40代で最も若いことに加えて、政治的には中道に位置することから、来年夏の参院選を控えて、党のイメージの刷新と新たな支持層を拡大して欲しいという党内の期待を集めたことが挙げられる。

こうした一方で、泉代表の前途には、多くの難問が待ち受けている。岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ大型補正予算案を編成し、早期成立をめざしている。泉代表は、こうした巨大与党にどのように対峙していくのか、野党第1党の立て直しに何が問われているのか探ってみたい。

 国会論戦で存在感、支持率回復は

泉新代表は、さっそく幹事長をはじめとする党役員人事に着手することになるが、代表選に立候補した逢坂、小川、西村の3氏を主要ポストに起用するとともに党役員の半数に女性を充てたい考えだ。その新体制が発足早々、直面するのが4日に召集される臨時国会への対応だ。

岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ35兆円という過去最大の補正予算案を提出し、岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問が行われた後、衆参両院で予算委員会が開かれる。

岸田政権が10月4日に発足して2か月になるが、衆院解散・総選挙が行われたこともあって、衆参両院の予算委員会で本格的な論戦が行われるのは、今回が初めてだ。岸田首相と、泉新代表との直接対決の論戦も交わされる見通しだ。

立憲民主党は2017年の衆院選挙の直前に、当時の新党・希望の党から排除された枝野氏が中心になって結党され、選挙で躍進。その後、去年9月には国民民主党などと合流、ようやく衆院で100人を上回る野党第1党にまで党勢を拡大した。

しかし、この間、政党支持率が10%に乗ったのは数えるほどで、ほとんどが8%から6%の1ケタ台で、30%台の自民党に大差をつけられてきた。

国会の論戦や新代表の発信力などを通じて、政党支持率をかつての野党第1党並みの2ケタ台まで回復し、存在感を発揮できるかどうか、泉新代表が最初に問われる点だ。

 重点政策、コロナ収束後の構想提示を

新代表が問われる2つ目としては、党の重点政策をはっきりさせるとともに、何をめざす政党かの旗印を明確に打ち出すことが不可欠だ。

今回の代表選挙で4人の候補者ともに「どのような社会を目指すのか」、「コロナ対策や、経済の立て直し策」、「共産党などとの野党共闘」のあり方など幅広い課題について議論を交わした。

但し、多くの国民にとって、興味を持つような議論にはならなかったのではないか。立憲民主党が衆院選の期間中に配布していた「政策パンフレット」と同じレベルに止まっているという印象を受けた。

国民は「コロナ収束後にどのような社会をめざしているのか」大きなビジョン、構想を明らかにして欲しいと感じている。また、感染の抑え込みを始め、生活困窮者や打撃を受けている事業者の立て直し策として何をやるのか、知りたい点だ。

ところが、自民、公明両党の政権とはここが違うという具体的な政策や、わかりやすい説明ができていなかった。このため、政権の受け皿としても認められていなかった点に根本的な問題があったのではないか。

また、共産党と閣外協力で合意した問題についても比例代表選挙への影響はあったと思うが、根本の問題は、それ以前の問題、政権交代を目指すための客観的な条件が整っていなかったとみる。

具体的に言えば、国民の多くは政権交代を望んでいなかった点を読み間違っていたのではないか。野党共闘の問題は、政治状況や政権交代の道筋まで踏み込んで議論しないと、問題の核心に迫ることはできないと考える。

 参院選へ野党結集の構想と道筋を

3つ目に問われている点は、来年夏の参院選挙への対応だ。岸田政権は、衆院選に続いて、参院選でも勝利すれば長期政権も視野に入る。これに対し、野党側は、自公政権を過半数割れに追い込む構えで、来年の最大の政治決戦になる。

参院選の焦点は、当選者1人を選ぶ1人区の攻防で、全国で32選挙区にのぼる。野党側がバラバラに候補者を擁立すれば、自民党の1人勝ち、いわゆる消化試合になってしまうので、これまでも候補者調整が行われてきた。

この1人区の戦い方がどうなるか。今回の代表選でも候補者4人とも「1対1の構図は維持したい」とする一方、共産党との閣外からの協力といった合意については、見直す考えを示していた。

今回の衆院選挙で枝野前代表らの対応を見ていると「共産党とは連立を組みたくないが、票は欲しい」というのが本音ではなかったか。このため、政権構想として位置付けているのか、選挙戦術の延長なのか、敢えて曖昧にしていた点に大きな問題があったとみる。

国民の側からみていると、参院選に向けて野党結集の構想と道筋を明らかにすることが野党第1党の役割だ。そして、野党各党や各種団体、国民に説明して、理解を求めるのが本来のあり方ではないか。共産党と連合の間で、右往左往、ヤジロベエのように揺れ動く対応は止めた方がいいと考える。

先の衆院選挙を経て、政界の構図は、自民・公明の政権与党と、野党第1党の立憲民主党や共産党、社民党、れいわ新選組などの勢力、それに日本維新の会が第3極をめざして国民民主党と連携を深めようとしているようにみえる。

こうした構図の中で、野党第1党はどのような役割を果たすのか、参院選にむけて、野党各党の構想、野党結集の枠組みや道筋はどうなるのか。野党第1党の新代表は、早急に基本的な考え方を明らかにすることが必要ではないか。

新たな変異株「オミクロン株」の感染が世界各国へ広がり始めた。日本としては、第6波への備えや、経済・暮らしの立て直しも早急に進める必要がある。そのためにも国会を早期に開いて、政権与党と野党側が新体制できちんとした論戦を行い、緊張感のある政治を取り戻すことが急務だ。       (了)

※参考情報(追記:12月1日21時半)泉代表は、立憲民主党の役員人事について、代表選挙で争った◇西村智奈美氏を幹事長に、◇逢坂氏を代表代行に、◇小川氏を政務調査会長に、それぞれ起用する意向を明らかにした。

また、◇国会対策委員長には馬淵澄夫氏、◇選挙対策委員長に大西健介氏を起用する方針。

この人事案は、2日の両院議員総会に示され、了承される見通し。

※立憲民主党は2日、両院議員総会を開き、泉代表が示した人事案を了承し、新たな執行部が発足した。泉代表は記者会見で「国民のために働く政策立案型」を執行部のカラーとして打ち出したい」とのべた。(追記:12月4日午前11時55分)