予算スピード通過と野党の混迷

通常国会前半の焦点になっている新年度予算案は、22日の衆院本会議で賛成多数で可決され、参議院に送られた。この採決では、与党の自民、公明両党に加えて、野党の国民民主党が初めて賛成に回った。

新年度予算案の衆院通過の時期は、1月召集になって以降では、1999年小渕内閣当時に次いで2番目に早いケースになった。憲法の規定で、参議院に送られた後、採決されなくても30日後の3月23日に自然成立する。

今回、予算案が衆院をスピード通過した背景や、野党の国民民主党が異例の賛成に回った事情を探ってみたい。

 バラバラ野党と戦略なき第1党

さっそく、政府予算案が早期に衆院通過したのはなぜか。結論から先にいえば、野党陣営がバラバラ、政権与党ペースを突き崩せなかったということになる。

もちろん、今年は去年のように国会冒頭、補正予算案が提出されなかったため、新年度予算審議が例年より早く始まった事情がある。

また、かつてのような予算案の通過を遅らせる”日程闘争”に大きな意味はない。だから日程よりも、国民が期待していた掘り下げた質疑に至らなかった中身の方が大きな問題だったといえる。

予算審議はちょうど、オミクロン株の急拡大が続く中で進んだ。高齢者の3回目のワクチン接種の遅れ、抗原検査キットの不足など対策の目詰まりはどこに問題があるのか。

自宅療養者の健康管理、懸案だった政府と自治体などの連携・調整の問題をどのように改善して出口戦略につなげるのか。さらには、社会・経済を立て直す具体策と道筋を示して欲しいというのが、国民の多くの期待ではなかったか。

ところが、野党第1党である立憲民主党の追及は迫力を欠いた。長妻昭・元厚労相や江田憲司氏らは、岸田首相らに鋭く切り込む場面もあったが、その後に続く論客は少なく、追及は散発的に終わった。

岸田首相ら政府側の答弁は、去年11月に対策の全体像をまとめ、水際対策もいち早く断行したと同じ説明を繰り返し、反省や対策の見直しなどにも踏み込まなかったことも議論が深まらなかった要因でもある。

岸田首相は、野党の追及に柔軟な姿勢を見せながら、実質ゼロ回答、”暖簾に腕押し”答弁は、事前にある程度予想されていたはずだ。それを上回る追及、そのための戦略や戦術、論客の陣立てなどが十分でなかったところに弱点があった。

一方、野党内では、先の衆院選で躍進した日本維新の会は第3極を意識した構えで、国民民主党は独自路線。共産党は野党共闘再確認に重点を置くなどバラバラで、攻めの体制になっていなかったことも影響したと思う。

 国民民主党 ”独自性と焦り”

それでは、次に野党の国民民主党が、政府の当初予算に対して異例の賛成に回ったことをどのようにみたらいいのだろうか。

玉木代表は22日の衆院本会議で賛成討論に立ち「トリガー条項凍結解除によるガソリン価格の値下げを岸田首相が検討すると明言したからだ」とのべるとともに「従来型の古い国会対応でなく、国民生活に何が重要かを判断した」と訴えた。

これに対し、泉立憲民主党代表は「野党とは言えない選択だ。これまでの国会で主張してきたことと整合性がとれるのか」と反発した。維新の藤田幹事長も「与党入りや閣外協力であれば、根本的に違う」と突き放し、共産党の小池書記局長は「事実上の与党入り宣言だ」と批判した。

野党関係者に聞くと「国民民主党の支持率が上がらず、参院選前に独自性をアピールしようとする焦りがあるのではないか」。「党内には、与党との連携・協力を志向する動きがあり、その布石ではないか」といった見方もある。

ガソリン価格の抑制策は最終的に実現するか、まだ決まっていない。仮に実現した場合も個別課題で、野党の立ち位置を大きく変えることに支持者の理解は得られるのか。党内でも前原代表代行は、玉木代表の方針に反対意見をのべたといわれ、党の結束も見ていく必要がありそうだ。

私事で恐縮だが、昔、駆け出し記者のころ、派閥の幹部から「国会議員は、予算案が採決される衆院本会議は、何がなんでも出席しないといけない」と聞かされた。田中角栄元首相は裁判中でも本会議場に姿を現していたことを思いだす。

政権の主要政策を凝縮して編成した当初予算の賛否は、首相指名選挙などと並んで政治家個人、政党にとっても重い決断、選択だ。その選択の是非は、国民の支持と共感、信頼を得られるかによるが、慎重に判断した方がいいと個人的には考える。つまり、支持者は、野党から与党へ転じるのを期待しているかだ。

ここまで国民民主党の動きをみてきたが、野党各党にとっても夏の参院選にどのような政治姿勢、主要政策で臨むのかが問われる。また、参院1人区について、候補者調整をどのような枠組みで進めるのか、国民民主党の扱いを含めて、早急に結論を出す必要があるだろう。

 岸田首相は歓迎、公明には慎重論も

最後に岸田政権と与党の受け止め方を見ておきたい。岸田首相は、玉木代表との間で水面下で調整を進めてきたようだ。21日の党の役員会で、これまでの経過を説明したうえで「与党として歓迎したい」との考えを表明した。

一方、連立を組む公明党からは、国民民主党との間で将来的な協力関係につながるか慎重に見極める必要があるとの意見が出ているという。山口代表も記者会見で「自公の連立の枠組みには影響を与えないことを岸田首相と確認している」とのべている。

岸田首相は、今後、政策面での連携を国民民主党との間で強めていくものとみられる。

岸田政権にとって当面の焦点は、来月6日に31都道府県で期限を迎える「まん延防止等重点措置」を予定通り解除できるかどうかが大きなカギになる。また、気になるのは、2月に入って岸田内閣の支持率に陰りが出ている点だ。

2月上旬の読売新聞、中旬のNHK、下旬に近い時点で行われた朝日新聞の世論調査で、いずれも下落傾向が続いている。政府のコロナ対応について「評価しない」との受け止め方がいずれの調査でも増えている。(※文末に内閣支持率のデータ)

このため、まん延防止等重点措置の解除、第6波の感染の抑え込みが進展するのかどうか、岸田政権の支持率や政権運営に影響が出てくるので、注視していく大きなポイントだとみている。(了)

※参考:岸田内閣支持率                            ◇2月4~6日  読売調査:支持58%(-8P)-不支持28%(+6P)     ◇2月11~13日 NHK調査:支持54%(-3P)-不支持27%(+7P)    ◇2月19・20日 朝日調査:支持45%(-4P)ー不支持30%(+9P)

“繰り返される後手の対応”岸田政権

年明けとともに驚異的な拡大が続いてきたオミクロン株の感染は、今月上旬になって、ようやくピークを超えた模様だ。一方、感染による重症者は増え、高齢者を中心に亡くなる人も最多の状態が続いている。

政府は18日、「まん延防止等重点措置」について、北海道や大阪など17道府県で延長する一方、沖縄など5県は解除する方針を決めた。先に延長を決めた東京などと合わせて31の都道府県で「重点措置」が続くが、3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのかどうか。

新型コロナ対策は、未知のウイルスとの戦いで試行錯誤は当然ありうるが、岸田政権の対応を見ていると”後手の対応”を繰り返しているように見える。どこに根本の問題があるのか、どのような取り組みが問われているのか点検してみたい。

 感染ピーク越え、重症者や死者は増加

まず、最新の感染状況を確認しておくと18日、全国の新規感染者数は8万7700人余り。5日の最多10万5600人余りから減少しており、厚生労働省の専門家会合も「2月上旬にピークを超えた」との見方を明らかにしている。

但し、減少のペースは緩やかなので、高止まりの可能性がある。また、療養者や重症者、それに高齢者を中心に亡くなる人の増加が続いている。死者は18日は211人で、4日連続で200人を超える高い水準にある。

オミクロン株は「感染のスピードは速いが、重症化リスクは小さい」と言われてきたが、実際は感染者数の急増で、高齢者を中心に重症者や死者の増加傾向が続いているので、警戒が必要だ。

1月以降、自治体から死亡が報告された感染者のおよそ9割が、70歳以上だった。一方、高齢者施設でつくる団体が2月上旬に行ったアンケートでは、入所者、職員ともに3回目接種を終えていない施設が4割を超えており、高齢者施設でのワクチン接種の遅れがうかがえる。

 決め手のワクチン接種、検査も遅れ

岸田首相は17日夜、記者会見し「第6波の出口に向かって歩み始める」として、外国人の新規入国を原則停止している水際対策について、3月から段階的に緩和し、1日当たりの入国者を5000人に引き上げる方針を明らかにした。

また、3回目のワクチン接種について、2月15日以降、VRS=ワクチン接種記録システムの入力ベースで、目標の1日100万回程度までペースが上がってきたとしたうえで、安定的に100万回以上が達成できるよう全力を尽くす考えを強調した。

水際対策の緩和は、経済活動の再開をめざす経済界や与党の突き上げを受けて、踏み出すことになったものだが、国内対策は、まん延防止等重点措置の延長という従来の方針の繰り返しに止まっている。

こうした対策で3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのだろうか。岸田政権の対応についてみていると大きな問題点として、2点指摘しておきたい。1つは3回目のワクチン接種の進め方であり、2つ目が検査態勢の問題だ。

ワクチン接種については18日公表データで、3回目の接種を終えた人は1600万人、国民全体の接種率は12.6%に止まっている。欧米に比べて低い水準のままだ。

与野党の議員に聞くと、政府は年末、感染が急減した時期に接種間隔を8か月にするか、6か月か決定に手間取ったこと。また、先行接種を希望した自治体に対して、厚労省が”護送船団方式の発想”でブレーキをかけたことも失敗だったと厳しく指摘する。

2つ目の検査態勢については、特に抗原検査キットの不足を招いた責任を問う声が多い。医療のひっ迫を避けるために「自宅で自分で検査すること」を呼び掛けながら、検査キットが手に入らないことが国会の質疑で取り上げられた。

後藤厚労相は18日、「最大限の取り組みを行った結果、1日当たり100万回分以上の生産・輸入を確保できる見込みになった」と明らかにした。目標の1日80万回分を上回る努力は多とするが、あまりにも遅すぎる。

 国と地方の態勢、首相官邸の危機対応

以上のワクチン接種と検査は、いずれも感染症との戦いで、切り札となる有力な武器だが、日本は感染第1波以降、有効な対応ができなかった。

コロナ感染との戦いは、安倍、菅両政権に続いて岸田政権で3年目に入ったが、どこに根本的な問題があるのだろうか。

コロナ対策の政府対応について、私の見方は点検・検証を行い、問題点を把握したうえで、対策を打ち出すという基本ができていない点が一番の問題と考える。

岸田政権は10月に発足、11月にコロナ対策の全体像をとりまとめた。医療提供体制の強化、ワクチン接種の促進などに重点を置いた。問題は、対策の内容とともに、対策の実行態勢、準備ができていたかがカギを握っていた。

ところが、現実は高齢者の3回目のワクチン接種は遅れ、抗原検査キットも不足し、自宅療養者が自分で健康管理を行うことができない事態に陥ってしまった。実行態勢の詰めに甘さがあったとされる。

この原因だが、岸田首相は「これまでのコロナ対応を徹底的に検証する」と表明しながら「司令塔機能の強化を含めた抜本的な体制強化策は、来年の6月までに取りまとめる」と先送りにした。これが、それまでの政府対応の失敗を繰り返すことにつながったとみている。

検証をいち早く行い、地方自治体との間でワクチン供給量の確保と配分、接種時期の調整を行うことも可能だった。企業との間で検査キット供給や輸入の枠組みを検討しておけば、対応の遅れや、目詰まりを防ぐことも可能だったかもしれない。

つまり、総理官邸の危機管理、司令塔機能の強化を整備すること。具体的には、総理官邸と厚労省など各省庁との指揮命令系統の整理、厚労省と地方自治体などとの役割分担などを早い段階で着手しておくべきだったと考える。

コロナ対策の次の節目は、31都道府県の「まん延防止等重点措置」を期限の3月6日までに解除できるかどうか。感染第6波の出口に向けた道筋をつけられるかどうか、岸田政権の政権運営、夏の参院選挙にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

“先手の誤算”岸田政権コロナ対応

新型コロナ感染に歯止めがかからない中で、政府は10日、東京など13都県に出している「まん延防止等重点措置」を3月6日まで延長する方針を決めた。また、新たに高知県を対象に加え、合わせて36都道府県で重点措置が続くことになる。

岸田政権は、これまで安倍、菅両政権を反面教師に”先手、先手の対応”をアピールしてきたが、年が明けて3回目のワクチン接種の遅れや抗原検査キット不足などの”誤算”が続いている。

まん延防止等重点措置の長期化も予想される中で、岸田政権は感染危機を抑え込めるのか、オミクロン対策では具体的に何が問われているのか、岸田政権の対応を点検してみたい。

 ”後追い”目立つ コロナ対策3本柱

岸田首相は9日夜、コロナ対策で関係閣僚と協議した後、記者団に対し「これまでと異なったオミクロン株との戦いは、今、正に正念場を迎えている。私の責任で、迅速で機動的な判断と実行を進めていきたい」と決意をのべた。

そのうえで、政府の基本的対処方針に感染速度が速いオミクロン株に対応するため、臨時の医療施設の整備や、学校、保育所、高齢者施設などの感染対策を強化することなどを盛り込んだ。

こうした内容はいずれも必要な対策と思うが、問題の核心は、岸田政権が発足以降、3本柱として打ち出してきたワクチンの追加接種、検査体制の強化、それに経口治療薬の迅速な提供がどこまで実行できたかという点にある。

年明け以降の政府対応をみていると、ワクチン対策では3回目接種の間隔について、一般の人では原則8か月以上から、7か月、6か月へと短縮するなどの方針変更に追われた。

また、感染した人との濃厚接触者が、自宅や宿泊所で求められる待機期間についても当初の14日間から10日間、1月末には7日間に短縮するなど”後追いの対応”が続いている。

一方、3回目のワクチン接種を終えた人は、8日時点のデータで914万人、接種率7.2%に止まり、思うように進んでいない。

抗原検査キットについても、爆発的な感染急拡大で、自ら検査したい人たちの急増に供給が追い付かず、薬局や医療機関でも入手が困難な状況が続いている。

さらに飲める治療薬の供給量が十分ではないと国会で野党側が追及したのに対し、政府側はいつ頃、必要な人に届けられる状態になるのか見通しを示すことができなかった。

 オミクロン新対策と実行態勢の強化

それでは、岸田政権のコロナ対策では何が必要なのか。国会での論戦を基に考えるとオミクロン株の特性の分析に基づいた「新たな総合的な感染対策」を早急に打ち出す必要があるのではないか。

今回のオミクロン株は、感染力は極めて強く、今も感染者数が全国で1日9万人前後も確認される一方で、重症化率は低いなどの特性が指摘されている。

また、感染しても症状が現れない軽症者や濃厚接触者になったために仕事を休まざるを得ない人も増えている。その結果、医療機関、保育所、高齢者施設、ごみ収集などの社会機能をどのように維持していくか新たな問題も起きている。

これに対して、政府は、濃厚接触者の待機期間を短くするなど対応策を次々に出しているが、細切れでわかりにくい。そこで、検査から、陽性者などの隔離や待機、治療などの対策全体を盛り込んだ「新たな総合的な対策」が必要だと考える。

全国知事会も政府に対し、「オミクロン株の特性等を踏まえた感染対策」を早急に確立、実行するように求める提言を出している。また、政府が11月にまとめた対策の全体像を見直すことを求めており、こうした提言に賛成だ。

▲岸田政権が問われる2点目は「検査体制の拡充」だ。感染第1波の時から、専門家や、メディア、野党が繰り返し主張している論点だが、政府・厚生労働省の危機感は乏しく、対応も鈍かった。

岸田首相も11月段階で「検査も抜本的に拡充する。感染拡大時には、無症状者でも無料で検査を受けられるようにする」と強調していた。ところが、抗原検査キットは品薄、政府は「検査は自分で」と勧めながら、薬局では手に入らない。

日本はキットの多くを輸入に頼っており、政府は、国内メーカーに1日80万回分まで増産するよう要請した。但し、要請したのは1月14日という遅さだ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「経済・社会を回すためにも検査が重要だ。検査キットは数千万キットくらい保有すべきで、国が買い取りを保証、増産させるべきだ。PCR検査も38万件まで検査能力を増やしてきたが、100万件くらいまで拡大した方がいい。大胆に舵を切るべきだ」と指摘している。

▲第3は「ワクチン接種の加速」だ。3回目のワクチン接種が進んでいない現状は、先に触れた。

その背景だが、与野党の関係者とも「去年秋、感染が急減していた時の対応がなっていない。自治体の中には、年末早めの接種ができたのに、厚生労働省がすべての自治体がそろうまでブレーキをかけたことが大きい」と指摘。岸田政権の指導力を問題視する声を聞く。

岸田首相は、ワクチン接種の目標設定に消極的な姿勢を続けてきたが、7日、「1日100万回」を目標に2月後半の達成をめざす考えを明らかにした。国会で野党からの批判、報道機関の世論調査で内閣支持率に陰りが出始めたことを懸念したのかもしれない。

ワクチン接種の目標設定は遅きに失した感じもするが、切り札であるのは間違いないので、猛スピードで追加接種を進めてもらいたい。

 対策の実行力、政権の行方を左右

ここまで岸田政権の対応を見てきたが、安倍政権や菅政権のコロナ対策の失敗を教訓に対策をまとめており、方向性は間違っていないと思う。

問題は、首相官邸が中心になって、対策を実行に移していく実務能力、具体的には、厚生労働省を指示したり、全国の自治体と連携・調整を進めたりする力が弱い点ではないか。

また、岸田首相の姿勢も水際対策として、11月末に外国人の新規入国の停止を打ち出すといった時期までは意欲的な姿勢が感じられた。

ところが、年明け以降は安全運転、守りの姿勢が目立つ。まとまった記者会見は去年12月21日に行って以降、行われていない。

国会の答弁でも、オミクロン株対策をまとめて説明したりする場面もほとんど見られない。トップリーダーとして、国民に向けた対策の説明・説得、それに強い決意と攻めの姿勢は不可欠だ。発信力も不足している。

オミクロン株感染のピークは近いとの説もあるが、高止まり状態が続くとの見方も根強い。今月20日には、一度延長した沖縄など3県と、北海道や大阪府など18道府県の重点措置の期限が近い。

岸田政権がオミクロン危機の出口を見いだせるか、それとも混迷のトンネルで試行錯誤を続けることになるのか、分かれ道に差しかかりつつあるように見える。夏の参院選や岸田政権のゆくえも、オミクロン感染対策が大きく左右する図式は、変わっていない。(了)

 

“オミクロン緊急宣言”の考え方

新型コロナウイルスの感染は、感染力の強いオミクロン株によって急拡大が続いており、全国の新規感染者数は2日、9万人を超えて過去最多となった。

東京都内では新規感染者数が初めて2万人を超え、コロナ感染患者用の病床使用率は51.4%に達した。都は、緊急事態宣言の発出を要請する目安を50%に置いてきたが、その目安を上回ったことになる。

政府や東京都は、いずれも緊急事態宣言の取り扱いには慎重な姿勢を示している。この宣言の扱いをどのように考えたらいいのか。岸田政権のコロナ対策では何が問われているのか、衆院予算委員会のコロナ対策の集中審議も含めて考えてみたい。

 政府、東京都も緊急宣言に慎重姿勢

まず、オミクロン株の感染急拡大に伴う緊急事態宣言について、東京都と政府の対応から見ていきたい。

東京都の小池知事は「命と暮らしを守るという観点からも、病床の使用率の中でも重症や中等症を見ていく必要がある。専門家の声なども聞きながら考えていきたい」とのべ、症状の重い人たちの状況も見ながら慎重に判断したいとの考えを示している。

岸田首相は、2日の衆院予算委員会の集中審議で「去年8月の感染者数がピークだった時、病床も満杯だった。今の感染者数は当時の3倍と多いが、病床使用率は国の基準で37%程度に収まっている。今の時点では、緊急事態宣言を出すことは検討していない」として、慎重な姿勢を示した。

 緊急宣言、今後の方向性・選択肢は

それでは、今後、重症者数などがさらに増加した場合、緊急事態宣言の扱いをどう考えるかという点が問題になる。

この点に関連して、前のコロナ担当相で、自民党の西村康稔議員が2日の衆院予算委員会集中審議で、次のような方向性と選択肢を示しながら質問に立った。今後の対応を考えるうえで参考になるので、個人的な解釈を交えて紹介したい。

1つは「より強い強制力」を伴った感染抑制対策。日本は海外のようなロックダウンは難しいので、今の緊急事態宣言に比べて、より強い措置、例えば夜10時以降の外出制限などが考えられる。

2つ目は「緩やかな対応策」。具体的なイメージとしては、今の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置がベースとして考えられる。感染対策と経済社会活動との両立をめざしながら、穏健な対策を基本に考える。

西村氏は、国民の理解が得られるかなどを考えると1つ目は、当面は困難と判断している模様だ。2つ目が、現実的な案だが、さまざまな工夫や改善を行うことが可能だとして、次のような取り組みを挙げていた。

オミクロン株感染で重要なのは、高齢者と子ども。高齢者対策では、ワクチン接種の加速。子ども対策では、学校・教育のオンライン化。それに親たちの企業のテレワークの推進を強力に推進することを提案した。

これに対して、岸田首相は「感染防止と、社会経済活動維持のバランスの中で、今後の対策を考えたい。強制力を伴う対策に踏み出すかどうかは、6月にまとめる中長期の対策の中で考えたい」と今後の方向や対応には踏み込まなかった。

以上の質疑も踏まえて、緊急事態宣言の扱いだが、岸田首相や小池知事が今の時点で慎重に判断したいとの姿勢は妥当なように思える。

但し、問題は、特に医療に大きな影響を及ぼす重症者の状況がどうなるか。それに感染拡大の抑え込みと、社会経済活動の維持の3つの要素をどう考えるか。専門家の意見も聞くにしても最後は、政権トップが政治判断で決めることになる。

その決断に当たって、仮に緊急事態宣言を出す場合も、重要なことは従来の対策の踏襲ではなく、ワクチン接種の一層の加速や人流抑制のオンライン化促進など新たな対策を打ち出せるかだ。

また、国や自治体の権限強化といった問題も先送りせずに、今の国会で議論し、法案を提出して成立させることこそ、緊急時の国会の役割ではないか。

 日本の弱点、ワクチン、検査の強化

岸田政権の今後のコロナ対策の進め方について、民主党政権の厚労相経験者で、立憲民主党の長妻昭議員の指摘も参考になったので、紹介しておきたい。

長妻氏もコロナ感染防止と経済・社会活動の両立をめざす立場だ。そのうえで、オミクロン株対策としては、端的に言えば、ワクチン接種とPCR検査の2つの柱を強化することを提案した。

具体的には、日本の3回目のワクチン接種率は3.5%に止まり、世界の先進36か国の中でも最低の水準だ。政府の接種間隔8か月の見直しが遅れたためではないか。1日当たりの接種も直近で40万回だが、菅政権の100万回など目標を設定してはどうか。

一方、PCR検査についても日本の能力は国際的にも低い。日本のコロナ対策の弱点は、検査体制が未だに改善・強化されていないことで、岸田政権が掲げる抗原検査キット1日80万確保はいつ実現するのかと質した。

これに対して、岸田首相は「ワクチン接種の対象者は、今後、増えていくので、一律の目標は適切かどうか」と消極的な姿勢を示したほか、検査キット確保の具体的な時期に言及することは避けた。

このようにみてくると既に4回も出してきた緊急事態宣言をいつ出すか自体には、あまり大きな意味がない。緊急事態宣言を出して、どんな対策が強化されるのか、中身がより重要だ。

岸田政権は去年、水際対策をいち早く打ち出した点は評価する。ところが、年明け以降、急拡大したオミクロン株対応では、対応に遅れが目立つ。3回目のワクチン接種が目標を大幅に下回ったり、自衛隊による大規模接種も対象の人員が少しずつ増えるなど小出しの対応に見える。

オミクロン株感染は、感染状況や医療・病床のひっ迫がどうなるか。東京など13都県のまん延防止等重点措置の期限が13日に近づいている。

岸田政権は、オミクロン危機をどのように乗り切っていくのか。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言などの手続きではなく、具体的な対応策を打ち出して、強力に推進・実行できるかどうかが問われている。(了)

〇追記(2月3日20時)東京都 緊急事態宣言要請の新たな指標設定         ①重症者用の病床使用率、酸素投与が必要な人の割合             →いずれか30%~40%                          ②新規感染者数 2万4000人(7日平均)                  ※現状→①重症者用の病床使用率15.1%、酸素投与割合8%、            ②1万7058人