低調な国会論戦、参院選は低投票率も

長丁場の通常国会は会期末まで2週間余り、物価高対策を盛り込んだ補正予算案が衆議院を通過し、週明け30日からは参議院に舞台を移して審議が行われる。

ここまでの論戦を聞くと国民が知りたい点に突っ込んだ議論は見られず、極めて低調だ。

一方、国会閉会後には参議院選挙が始まるが、閣僚経験者は「これほど手ごたえがない選挙は初めてだ」と早くも投票率の低下を心配している。

内外に数多くの難問を抱えている中で、国会の論戦は余りにも緊張感が乏しいのではないか。最終盤の国会の現状とあり方を考えてみたい。

 野党は迫力不足、首相は慎重答弁

国会の最終盤に設定された補正予算案の審議は、衆議院予算委員会で26,27両日行われた。審議は与党ペースで淡々と進み、補正予算案は衆院本会議で、自民、公明両党と国民民主党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。

論戦は、NHKの昼、夜のニュースをみてもウクライナ情勢や北海道知床沖で沈没した観光船の引上げなどに押されて、扱いは小さかった。論戦の中身は、メディアにとってもニュース価値が乏しかったということだろう。

アメリカのバイデン大統領の日韓両国への訪問や、日米首脳会談、クアッド=日米豪印4か国首脳会合が行われた直後の国会の論戦。本来なら、日本の外交、安全保障の今後の対応などをめぐって、与野党が丁々発止、激論を交わし、ニュースでも大きく扱われる場面ではなかったか。

ところが、論戦の中身は、外交・安全保障、石油高騰などに伴う経済政策も既に明らかにされていることの繰り返しで、極めて低調なまま終わった。

この原因は、まず、野党側の追及が迫力を欠いていたことがある。同時に岸田首相の答弁も、例えば外交安全保障面では、日米首脳の共同記者会見の繰り返しに終始、慎重、安全運転の答弁が目立った。

こうした姿勢では、活発な論戦につながらない。日米首脳会談を受けて、日本の今後の役割をどう果たしていくかといった点について、国会答弁を通じて、国民に説明、理解を求める姿勢が必要だったと考える。

 参院選はベタ凪 投票率大幅低下も

こうした国会の状況は、閉会後直ぐに公示となる夏の参院選にも影響する。全国各地を飛び回っている自民党幹部に手ごたえを聞いた。

「恐ろしいくらいのベタ凪だ。逆風は吹いていないが、追い風も吹いていない。選挙はどうなるのかという感じだ」と国民の参院選への関心の薄さを語る。

別の閣僚経験者は「これほど手ごたえがない反応・選挙は、初めてだ。野党がだらしないから、与党は負けることはないという選挙はまずい」と話す。

知り合いの選挙関係者も「今のような状態で国会が終わると、投票率はかなり下がるのではないか」と懸念を示す。

参院選挙の投票率(選挙区)の推移を確認しておくと2007年は58.64%だったが、2010年57.92%、2013年52.61%と下がり続けた。18歳投票が実施された2016年は、54.70%にやや戻したが、2019年は48.80%、50%を下回り戦後2番目に低い投票率を記録した。

戦後最も低かったのは、95年村山政権当時の44.52%。このままでは、前回の48.80%か、さらに最低水準まで落ち込むか、いずれにしても50%割れの低投票率が懸念されている。

これでは、仮に自民党が勝利したとしても、国民の多数の信認を得たとは言い難く、岸田政権が政策を強力に推し進める力を得ることも難しくなる。

 論戦の徹底、宿題処理の責任も

これからの国会日程は、30,31の両日、参議院予算委員会に舞台を移して補正予算案の審議が続く。続いて、6月1日には衆議院で、3日には参議院でそれぞれ集中審議が行われるところまで決まっている。

6月15日が会期末で、会期延長なしで閉会となるのが確実な情勢だ。これを受けて、22日に参議院選挙が公示され、7月10日投開票となる。

そこで、今の国会が問われることは、まず、内外の課題について、与野党が徹底した議論を尽くすことだ。参議院選挙が直後に控えていることを考えると、特に国民が知りたい点に応える論戦、判断材料を提供していく責任を負っている。

国民が知りたい点の第1は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本の外交、安全保障の取り組み方、特に防衛力の整備などをどのように進めるかにあるのではないか。

重点的に整備する分野や規模、そのための財源は、借金に因るのか、既存の予算縮減か、増税か、一定の方向性は明らかにするのが筋だと考える。

一方、国の安全保障は、軍事力だけでなく、根本は、日本経済を強くすることだという考え方もある。

さらに、米中の対立が強まる中で、外交のかじ取りが決定的な意味を持つという意見もあり、幅広く議論しながら、方針を決定していくことが極めて重要だ。

もう1つは、新型コロナ対策の総括と第7波への備えの問題がある。新規感染者数の減少が続いているが、新たな変異株などによる第7波の備えは不可欠だ。

さらに、やり残した課題・宿題も多い。まず、国会議員に毎月100万円を支給する「文書通信交通費」の問題がある。(正式名称は「調査研究広報滞在費」)。在職日数1日でも一律に月100万円が支給される仕組みの見直しだ。

4月の段階で、日割り計算に改めることで与野党が合意したが、使いみちの公開と、未使用分を国庫に返納する点は、先送りのままだ。税金の使いみちを公開すること、領収書が必要なことは当たり前のことで、今の国会で実現すべきだ。

また、細田衆院議長のセクハラ疑惑もある。女性記者に深夜に呼び出しの電話などをかけていたと週刊文春が報じている問題だ。細田議長をめぐっては、1票の格差是正のための10増10減論に難色を示し、3増3減の持論を展開したことも問題になった。

衆院議長をめぐる疑惑や不祥事は、この40年余り聞いたことがない。野党側が主張するように議院運営委員会の理事会などで説明して、潔白を晴らすことが国民の信頼を維持するためにも必要だと考える。

さらに内外ともに激動が続く時期であり、日本の進路をどのように制度設計していくのか、党首討論=国家基本政策委員会でも議論すべきだ。討論時間の枠を拡大するなどの工夫をして開催してはどうか。

ロシアによるウクライナ侵攻という戦後の国際秩序が揺らぐ中で、内外の課題にどう取り組むのか、最後まで議論の徹底に努力を尽くすべきだ。国会閉会まで、与野党の対応ぶりをしっかり見て投票に活かす必要がある。(了)

ウクライナ危機の教訓と”日本問題”

ロシアによるウクライナへの侵攻から、24日で3か月になる。侵攻当初は、短期間で終結かとの見方もあったが、東部戦線では一進一退の状態が続いており、攻防は長期化する見通しだ。

内外のメディアを通じて、ロシア軍の攻撃で廃墟と化した市街地の映像や、現地の人たちの悲痛な声を聞くたびに、何とか早期停戦に持ち込めないのかという思いを強くする。

同時に、現実の世界は、こうした惨状を打開できないことにいら立ちや無力感を感じることも多いが、問題点などを整理できないまま、現在に至っている。

そこで、今回はウクライナ危機から、日本としては何を教訓として学ぶのか。

また、国内では、米中対立や東アジアでは台湾問題にどう対応するかといった議論を聞くが、実は、日本の外交・安全保障の対応と方針、「日本問題」が問われているのではないかと考える。

そこで、ウクライナ危機の教訓を踏まえて、この「日本問題」を考えてみたい。

 日本から見たウクライナ危機の教訓

ロシアによるウクライナ侵攻は、旧ソ連・大国ロシアの復活をめざすというプーチン大統領の世界観に基づく独断がもたらしたものだとみているが、国連憲章違反であり、冷戦後の国際秩序も覆すもので、決して容認することはできない。

そのうえで、ウクライナ危機から、日本は教訓として何を学ぶか、私の個人的な考えを以下、のべさせてもらいたい。

1つは、ウクライナ国民の国防・防衛意識の強さを感じる。ロシアからあれほどの猛攻を受けながら、ロシアに屈せず、独立と尊厳を守り抜こうとする姿勢に心から敬意を表したい。

ロシアや旧ソ連との長年の抗争の歴史をはじめ、90年代に実施された国民投票で旧ソ連からの独立に90%以上の賛成があったこと、今後はヨーロッパ諸国との連携を選択したいという国民の強い思いが底流にあるのではないかと感じる。

2つ目は、防衛の備えだ。攻撃から地下鉄の構内に逃れて生活を続ける姿をはじめ、地下の大きなシェルターで1か月から2か月の生活をしていた親子、さらには、個人の住宅でも小さな避難部屋を作って備えていたことを知った。

こうした国家・社会、個人レベルで国民を守る備え、軍事面での近代化や継戦能力の向上に向けた取り組みに日本との違いを感じた。

3つ目は、政治リーダーの力量だ。ゼレンスキー大統領については、様々な見方があるようだが、国民を結束させ、大国ロシアに一歩も引かない戦いを継続していることは、相当な能力の持ち主だ。

また、国際社会へ支援を呼び掛けるメッセージの発信力には、卓越したものがある。リーダーを支える側近にも優れた人材を起用しているのだろう。

 日本の対応、ロシア制裁は評価

それでは、日本の対応については、どのように自己評価したらいいのか。まず、岸田政権の対応からみていくと、ロシアに対する経済制裁はG7の欧米諸国と連携して進めているのが特徴だ。

また、ウクライナからの避難民は、空路の座席を用意したりして、既に1000人が来日している。全国各地の自治体や企業、個人の協力を得ながら、受け入れと支援・交流が続いている。

日本政府の対応については、こうした自治体、企業、国民の協力を含めて、これまでの対応は、合格点をつけていいのではないか。

 防衛力の整備 ”何から手を付けるか”

問題は、これからの取り組み方だで、さまざまな提案や考え方が出されている。例えば、安倍前首相から核共有論や、防衛費の6兆円への拡大のほか、自民党からは防衛費のGDP2%への拡大や、敵基地攻撃能力の名称を「反撃能力」に変えて保有していく考え方や提言が出されている。

さて、こうした提言などを踏まえて日本の防衛力整備に「何から手を付けるか」課題が多すぎて、対応が難しい。核兵器への備えもあれば、防衛費の増額、サイバー、電磁波攻撃への対応、陸海空の装備の更新も必要になってくる。

日本の防衛費の総額は、今年度予算で約6兆3000億円。国際軍事組織の評価で規模は世界9位で、最新鋭の戦闘機なども装備している。

国の防衛は、国民の命や財産、生活を守るのが基本だ。冒頭に触れたウクライナ危機の教訓も参考に考えると「防衛の基盤」の再構築という視点が大事ではないかと考える。

具体的には、1つは、国民の防衛意識の問題がある。ウクライナに比べ、日本国民の防衛意識は高いとは言えないのではないか。世界最新鋭の武器を備えても国民の多くの支持がなければ、戦いを持続していくのは困難だ。

国民の多くから、日本の外交・防衛政策に関心を持ってもらうことが必要で、政府の説明と説得が重要だ。

2つ目は、防衛面の備え。ウクライナをはじめ海外では、国民を保護するため、有事の際のシェルターを整備している。シェルターは、単なる地下施設ではない。食料、水、トイレ、換気口、簡易ベッドなどを備える必要がある。

専門家に聞くと、フィンランドの整備率は80%以上、アメリカでも50%、ソウルでは300%、市民の3倍にも達している。日本は、ほとんど整備が進んでいない。ミサイル攻撃に備えて、国民の避難訓練も中止されたままだ。

このほか、自衛隊の制服組に聞くと有事の際には、武器、弾薬の備蓄がカギを握るが、備蓄は乏しく継戦能力は極めて脆弱だという。つまり「防衛力の基盤の整備」が十分でない。この点は、防衛相の経験者も認めている。

3つ目に、防衛予算の問題もある。岸田首相は、防衛力の抜本的強化を図る考えで、バイデン大統領との首脳会談で防衛費の増額について言及する見通しだ。

この防衛費、自民党の提言であるGDP2%を5年間で達成する場合、今の予算が5兆3000億円余りで、GDP1%に相当する。2%に増額すると約11兆円となり、これを達成するには、毎年1兆円ずつ増やさなければならない。

使い道についても陸海空3自衛隊から要望を出してもらい、ホッチキスで止めて決着とはいかない。防衛の目標を明確にして、部隊の配置、統合運用も必要で、何よりも国民の理解と支持が不可欠だ。

このように防衛力の整備といっても何を最重点に、優先順位をどうするか、財源をどのようにして確保するのか、たいへんな難問が控えている。

 外交・防衛の構想、国会で徹底論争を

アメリカのバイデン大統領が韓国に続いて、日本を訪問した。23日に日米首脳会談、24日にクアッド=日米豪印4か国首脳会合が開かれる。大きな動きなので、最後にこの点も触れておきたい。

アメリカは、ロシアのウクライナ侵攻があっても最大の競争相手は、中国という位置づけは変えていない。今回の訪問は、中国に対抗する枠組みを強化することが最も大きな狙いだとみられる。

これに対して、岸田首相も日米同盟の強化と防衛費増額の方針を伝える公算が大きい。その場合、防衛費増額の方針は、国際的な公約として受け止められる。

その結果、日本は東アジアの安定に向けてどんな役割を果たすのか。そのためには、岸田政権が、安全保障と防衛力整備の基本構想と政策の内容をきちんと示して、国民を説得できるかどうかがカギになると思う。

また、与野党とも国会で外交・安全保障論争を徹底して行う責任がある。与党の中には、夏の参議院選挙後のテーマになるとの考え方もあるが、国会に続いて、参議院選挙でも主要な論点として逃げずに議論をしてもらいたい。(了)

★参考情報:事実関係の追加(23日20時)23日の日米首脳の共同記者会見   ◆岸田首相「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費を相当増額する決意を表明し、バイデン大統領から強い支持をいただいた」と発言。  ◆バイデン大統領は記者の質問に答えて、中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合、台湾防衛のために軍事的に関与する考えを示した。アメリカの従来の曖昧戦略から踏み込んだ発言と受け止められたが、米当局は「アメリカの政策は変わっていない」との声明を出して軌道修正した。

参院選 与党優勢、波乱要因は

夏の参議院選挙は、6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われる見通しだ。あと1か月余りで選挙戦が始まるが、与野党の選挙関係者に話を聞くと事前の予測は「与党優勢」の見方が多い。

一方、与党幹部に選挙の手ごたえを尋ねると「ベタなぎ状態、逆風は吹いていないが、追い風もない」と国民の関心や反応に戸惑いもみせる。

そこで、今回は、参院選での与党優勢の情勢を変える波乱要因はあるのか、あるとすれば、どのようなリスクなのかを探ってみたい。

 与党の取り組み先行、野党共闘に乱れ

まず、今の時点の選挙情勢をどのようにみているのか、自民党の選挙関係者に聞いてみた。「自民党に追い風が吹いているわけではないが、野党側に比べると候補者の擁立などの取り組みは先行している」として、自民、公明両党で改選議席の過半数を獲得できる勢いがあるとの見方を示している。

具体的には、選挙区選挙のうち、定員が2人以上の選挙区で自民党は最低でも1議席は獲得できること。焦点の1人区についても野党の共闘体制に乱れが生じているので、自民党が過去2回に比べて議席を減らす可能性は低いとみていること。

さらに比例代表選挙で最低でも18議席は確保できると仮定すると自民党は、前回や前々回並みの55議席以上は獲得できるとの見方だ。

公明党は、選挙区と比例を合わせて10数議席の獲得は確実なので、与党で改選議席の過半数63以上は十分、達成可能だと判断している。

これに対して、野党側の取り組みは、前回のブログで取り上げたように与野党の勝敗を左右する1人区で共闘の足並みが乱れている。候補者を1本化できるのは15日現在で、32選挙区のうち11程度と少ない。

さらに、9日にまとまったNHK世論調査で、岸田内閣の支持率は55%と高い水準を維持している。政党支持率でも自民党は39.8%で、野党第1党の立憲民主党の5.0%、第2党の日本維新の会の3.5%を大幅にリードしている。

このようにみてくると参院選挙をめぐる情勢は、候補者擁立などで与党の取り組みが先行しており、与党優勢と言えそうだ。

 波乱要因、ウクライナ、コロナ対応

参議院選挙は、投票日直前の状況の変化などで、選挙結果がガラリと変わった選挙もあった。そこで、今回はどのような変動要因があるのかみていきたい。

直ぐに頭に浮かぶのは「ウクライナ情勢への対応」だ。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を始めて3か月近くなるが、戦争終結の見通しは全くついていない。

岸田政権は、ロシアに対する経済制裁については、G7=主要国と連携して対応することを基本方針にしている。自民党内には、連携ばかりで日本の外交方針がはっきりしないなどの批判も聞くが、党内の大勢にはなっていない。

また、エネルギー分野では、ロシア産の石油や天然ガスの輸入禁止の問題があるが、ヨーロッパ諸国の方が、ロシアへの依存が高いので、日本が直ちに厳しい対応を迫られる公算は小さいとみられる。

このため、政府・与党側は「ウクライナ問題は、G7との連携重視で対応していけば、短期的には大きなリスクは避けられるのではないか」との見方が多い。

2つ目の変動要因は「コロナ対応」だ。ウクライナ危機が起きる前までは、最大の変動要因との見方が強かった。

感染拡大は3月以降、新規感染者数が大幅に減少したことや、3回目のワクチン接種が進んでこともあり、このところ医療のひっ迫状況は改善されている。

帰省や行楽などで人の移動が活発になった5月の大型連休が終わり、感染の再拡大が再び起きるのかどうか、まだはっきりしない。

新規感染者が増えても重症者が少ないことと、医療提供体制が維持されているので、与党関係者は、コロナ対応は、選挙のゆくえを左右する大きな争点にはならないのではないかとの見方をしている。

但し、コロナ感染は、新たな変異株がいつ現れるかわからず、油断大敵だ。個人的には、政治・行政のコロナ感染危機対応は問題が多いとみているので、この3年の検証と評価の議論を大いに深めてもらいたいと考えている。

 物価高騰、円安、経済政策リスク

変動要因の3つ目は、「物価高騰などの経済政策リスク」だ。ウクライナ情勢による原油高で関心を集めているが、去年秋から原油高や物価高が続いている。ウクライナ情勢の影響は、これから秋にかけて大きくなる。

東京23区の4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数で去年の同じ月を1.9%上回り、上昇幅は7年ぶりの大きさになった。東京23区のデータは、全国の先行指標となっており、4月の全国指標はどこまで上昇するのか、5月20日に公表になる。

原油価格の高騰を背景に電気代、ガス代、ガソリン代が上がっているのをはじめ、各種食料品の値上がりも続いている。これに加えて、急激な円安も進んでおり、輸入物価の押し上げにつながる。

与党側にも、こうした物価高が参院選に大きな影響を及ぼすのではないかと懸念している声を聞く。この30年間、国民は大幅な物価上昇の経験をしていないためで、選挙への影響を計りかねているからだ。

政府・与党は、国費で6.2兆円に上る補正予算案を編成する方針を決めたが、物価対策としては、石油価格の高騰を抑えるための補助金の拡充や、低所得世帯の子ども1人あたり5万円の給付などに限られている。

日米の金利差の拡大で円安が急速に進んでいるが、景気が十分に回復していない中で、今の金融緩和策を転換するのは難しく、手詰まりの状態だ。

与党幹部の1人は、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体策が未だに示されていないことから、効果的な物価対策や成長戦略を打ち出せないと選挙に大きな影響が出てくるのではないかと警戒している。

 国会最終盤、予算委で骨太な論戦を

ここまで政策面の波乱要因を見てきたが、国会運営面で、もう1つの波乱要因を抱えることになった。それは、物価高対策のため、新年度の補正予算案を編成することになり、衆参両院で予算委員会が開かれることになったことだ。

政府・与党側は、国会の最終盤に予算委員会が開かれ、野党側が政府を厳しく追及する場面が続くと、直後の参院選挙に影響が出てくる恐れがあると神経をとがらせている。6月15日の会期末を控え、与野党の攻防が激しさを増しそうだ。

一方、国民の側から見ると予算委員会の開催は、本格的な論戦の舞台が設定され、活発な論戦が行われることに大きな意味がある。この国会では、論戦らしい論戦がほとんど見られなかった。

3つの変動要因は別の表現をすれば、ウクライナ危機と、コロナ感染危機、それに低迷が続く日本経済と社会をどのように立て直していくのかという問題だ。

こうした内外の懸案に対して、岸田首相をはじめ与野党の党首はどのような方針や対応策で乗り切ろうとしているのか、骨太な論戦を見せてもらいたい。国民にとって、参院選での重要な判断材料になるからだ。(了)

 

参院選”野党戦線異変あり”

夏の参議院選挙が近づいているが、国民の選挙への関心は高まっていないように見える。ロシア軍によるウクライナへの侵攻の衝撃があまりにも強く、それ以外の出来事には、なかなか関心が向きにくい事情が影響しているからだ。

その参議院選挙は6月22日公示、7月10日投開票の日程が想定されており、この日程通りに運ぶと40日余りで選挙戦が始まることになる。

この参議院選挙が終われば、全国規模の国政選挙は、衆院解散・総選挙がない限り向こう3年間は行われない。国民にとって今度の参議院選挙は、政治に意思表示できる数少ない機会になる。

このため、当ブログでも参院選挙については、さまざまな角度から取り上げたいと考えているが、今回は、野党に焦点を当てたい。

野党の戦い方をめぐっては、過去2回の選挙と大きく様変わりした事態が進行中だ。一言で言えば”野党戦線異変あり”、野党の動きを報告する。

 焦点の1人区”共闘から競争、分裂”

まず、野党の選挙への対応はどのようになっているのか。定員1人を選ぶ「1人区」が最もわかりやすいので、この1人区を中心にみていきたい。

1人区は全国に32選挙区あるが、この勝敗が与野党の勝敗を大きく左右する。地方にある選挙区で、保守地盤が厚く自民党が強い地域なので、野党側は候補者を1本化したり、選挙協力を行ったりして挑戦を続けてきた。

ところが、野党各党の候補者の擁立状況をみてみると今回は7日時点で、複数の野党がそれぞれの候補者を擁立し、競合する選挙区が目立つ。

最も競合が激しい香川選挙区では、自民党の現職に対して、野党は立憲、国民、維新、共産の各党が候補者を擁立する予定だ。

同じ旧民主党の流れをくむ立憲と国民との間では、香川だけでなく、宮崎でも候補者がぶつかる。

立憲と共産とは、栃木、群馬、富山、福井、三重、滋賀、奈良、鳥取・島根、岡山、香川、宮崎の12選挙区で競合する。(推薦の無所属候補も含む)

国民と共産とは、国民の現職がいる山形と大分を含めて9選挙区で争う見通しだ。(推薦の無所属候補も含む)

さらに今回は、維新が栃木、香川、長崎で候補者を擁立し、他の野党と競り合う見通しだ。

野党側は、第2次安倍政権当時の2013年参院選挙で惨敗したのを受けて、2016年、2019年は1人区の全ての選挙区で候補者1本化を実現してきたが、今回は一転、野党競合へ変わった。競合選挙区は、1人区の半数にのぼり、四分五裂状態に陥っているのが実状だ。

 第1党の力量低下、連合は与党接近

それでは、なぜ、野党が競合・分裂へと変わったのか。1つは、野党第1党の立憲民主党が去年の衆院選で敗北したのを受けて、共産党との共闘の見直しに踏み切ったことがある。

泉代表は、3月中旬に国民、共産、社民、れいわの各党に候補者調整を呼び掛けたが、各党をまとめていくだけの力を発揮できていない。

兄弟政党と位置づけていた国民民主党は、新年度の当初予算に異例の賛成にかじを切った。ガソリン価格抑制のトリガー条項の凍結解除に向けても与党側と政策協議を続けており、両党の距離はむしろ広がっている。

共産党は、野党共闘の継続を求める一方、参院選挙区への候補者擁立を増やし、立憲民主党の対応をけん制している。このように野党第1党の力量が低下していることに加えて、野党各党がめざす方向もバラバラ状態にある。

さらに、立憲民主党にとって誤算だったのは連合の対応だ。政権交代をめざしてきたはずの連合は、芳野友子・新会長が自民党の会合に出席したり、麻生副総裁らと会食を重ねたりするなど自民党へ異例の接近を続けている。

背景には、連合は旧総評系の官公労と旧同盟系の民間労組を統合して発足したが、結成から30年余り、産業構造の激変などを受けて民間組合の中から、自民党との政策協議などを強めるべきだとする意見が強まっていることもある。

一方、自民党は、かねてから国民民主党や民間労組と連携を強めながら、野党陣営の分断をめざしてきたが、ねらいが現実のものになりつつある。

 分断打開は困難、最後の論戦で奮起を

夏の参院選で、野党共闘は最終的にどのようになるのか。立憲民主党の関係者に聞いてみると「泉代表は最後まで調整を続ける方針だが、野党各党の方向がバラバラなので、取りまとめは無理ではないか」と厳しい見方をしている。

また、泉代表が、国民民主党の玉木代表や共産党の志位委員長らと党首会談を行い、事態の打開を図ることも考えられるが、党の関係者によるとそうした対応は検討していないという。

このため、今の事態を打開するのは困難という見方が立憲民主党内でも強まっている。そして、1人区では、野党の現職がいる選挙区などで候補者の1本化は行われるものの、野党の候補者が競合する選挙区がかなりの数に上る見通しだ。

過去の1人区の選挙で自民党は、2013年が29勝2敗、2016年は21勝11敗、2019年は22勝10敗だった。過去2回と違って1本化の選挙区が限定されるので、野党側の獲得議席は1ケタ台に落ち込むことも予想される。

参院選挙の選挙区、比例代表を合わせた参院選全体でも、堅調な取り組みを進める与党側と比べて、野党側の選挙情勢は極めて厳しい状況にある。

一方、国民の側からは「選挙結果が、投票前から予想できる消化試合のような選挙は止めてもらいたい」といった声や、「政策の対立軸、論点の設定がはっきりわかる選挙にしてもらいたい」といった意見が出されるのではないか。

それだけに野党各党とも、与党と互角に戦える選挙態勢づくりに努める責任がある。参議院選挙は首相の失言や問題発言などがきっかけになって、選挙の予測が覆るようなことも起きる。98年の橋本政権時代の参院選挙が典型的な例だ。

今回は公明党の強い働きかけで、補正予算案が編成されることになり、6月上旬には衆参両院で予算委員会が開かれ、参院選を前に最後の国会論戦が繰り広げられる。

ウクライナ情勢と物価の高騰対策などへの対応は、十分か。新型コロナ感染の再拡大にどのように備えるのか。さらには、外交・安全保障、特に日本の防衛力の整備をどう考えるのか、国民が知りたい点は多い。

岸田首相は「検討する」といった曖昧な答弁でなく、政府・与党としての基本方針を明確に示す責任を負っている。

一方、野党各党も自らの考えや対案を示しながら、岸田政権との対立軸を打ち出せるかどうか、国会最後の論戦では、野党各党の奮起を促したい。(了)

★追加データ(10日)夏の参議院選挙をめぐり、立憲民主党と共産党は9日、去年の衆院選の際に結んだ、政権交代を実現した場合の枠組み合意について、夏の参院選では棚上げすることを確認した。そのうえで、1人区での候補者1本化については、勝利の可能性が高い選挙区を優先して、限定的に行う方針で一致した。この結果、実際に候補者調整が行われるのは、ごく限られた選挙区に止まる見通しだ。

 

ウクライナ危機と日本防衛力整備の考え方

ロシア軍によるウクライナへの侵攻は、東部地域でロシア側の攻撃が激しさを増しているが、ウクライナ側の抵抗も強く一進一退の状況が続いている。

こうした中で、節目とみられる「5月9日」が近づいている。旧ソ連の対独戦勝記念日で、プーチン大統領がこれまでの侵攻をどのように評価し、どんな戦い方を打ち出してくるかが、大きな焦点だ。

これに対して、アメリカとヨーロッパ諸国は、ウクライナ側に軍事面の支援を強化しており、ウクライナでの攻防は長期化を予想する見方が強い。

ウクライナ情勢を日本から見て感じるのは、ウクライの大統領をはじめとする政治家、軍人、国民が、ロシア軍の激しい攻撃と甚大な被害を受けながらも、強い意思で自国の独立と尊厳を守り抜こうとしている姿勢だ。

そこで、ウクライナ危機からの教訓として、日本は何を学ぶべきか。外交・安全保障、特に日本の防衛力整備のあり方について、考えてみたい。

 日本外交・安全保障 幅広い考え混在

まず、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、日本の外交・安全保障のあり方について、政治家・政党はどのような考え方をしているのか整理しておきたい。

積極的な発言を続けているのは、安倍元首相だ。プーチン大統領が核使用にも言及したことを受けて、NATOのようにアメリカとの間で核の使用をめぐる「核共有」の議論を行うよう問題提起をしたほか、日本の防衛費を6兆円まで増強するよう提案している。

これに対し、岸田首相は非核三原則は堅持するとして「核共有の議論は行わない」との考えを示した。そのうえで、ロシアに対する経済制裁をG7と連携して実施するとともに「憲法、平和安全法制、専守防衛の枠内で、抜本的な防衛力を強化したい」という考えを表明している。

与党・公明党の山口代表は、専守防衛、非核三原則、国際協調の基本原則を堅持するとともに「中国なども含めたアジアの安全保障の対話ができる枠組みを設置すべきだ」と提唱する。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「日本が強い攻撃兵器を持てば、周辺国も保有し軍備拡張競争となる。防衛費は着実な積み上げで対応すべきで、抑制的な安全保障政策であるべきだ」との考えを明らかにしている。

国民民主党の玉木代表は、非核三原則のうち「持ち込ませず」については、アメリカ原潜の日本寄港なども想定して、アメリカや日本国民との議論が必要だとの立場だ。

共産党の志位委員長は「日本の強みは、軍事に頼らず平和を追求する国としての信頼力だ。憲法9条を生かした外交に知恵と力を尽くすべきだ」と強調する。

これに対し、日本維新の会の馬場共同代表は、日本独自の防衛力を整備するとともに防衛費をGDP2%まで早期に引き上げるべきだと増強路線を提唱している。

このように与野党の外交・安全保障の考え方には、相当な開きがある。自民党内でも核共有を含む軍備大幅増強路線と、堅実な防衛力整備を図るべきだとする2つの流れがある。与党の公明党は大幅な増強路線には慎重だ。

野党側は、非軍事路線から、抑制的な防衛力の整備、さらには自民党並みの防衛力増強論まで、混在状態というのが現状だ。

 国民、国力、防衛力の中身がカギ

それでは、日本の防衛力の整備のあり方や進め方をどのように考えるか。ウクライナ国民は、大勢の犠牲者を出し、猛烈な攻撃を受けながらも徹底した抗戦を続けている。度重なる侵略の歴史や、自由な社会への渇望、政治リーダーの求心力なども影響しているものと思われる。

日本の場合は、先の太平洋戦争を引き起こした責任も影響して、野党第1党の社会党は非武装中立を掲げ、軍事・防衛の各論には踏み込まない傾向があった。また、自民党の保守政権も軽武装・経済重視路線を取ったことも影響している。

一方、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射をはじめ、中国の軍事力の急拡大、それに今回のロシアの侵略などを合わせると日本の防衛力のあり方を見直す時期を迎えていると考える。

但し、短兵急に結論を出すのではなく、戦後日本の平和外交や安全保障の基本原則なども踏まえて、慎重で徹底した検討を行ってもらいたい。

具体的には、まず、国民世論の理解と支持が不可欠だ。いくら防衛費を増強し最新の防衛装備をそろえても、国民の支持がなければ何の意味もない。国のリーダーが、基本的な考え方を説明し、国民の理解と協力を得ることが大前提だ。

また、防衛力整備は5年、10年と長い期間がかかる。国力、国の経済や財政が安定していなければ、持続的に進められない。ドイツは今回、防衛費のGDP2%引き上げる方針を打ち出したが、ドイツの公的債務はGDPの70%程度に抑えてきた強みがある。

これに対し、日本のGDPは伸び悩む一方、国債残高は1000兆円を超え、政府の債務はGDPの2.5倍にも達している。防衛費をどの程度増やせるのか、国力・経済力を高める政策とセットで考える必要がある。

さらに防衛力のどの分野を重点的に整備するのか。武器などの正面装備に目が行きがちだが、日本は弾薬の備蓄など継戦能力が弱いといわれ、防衛力整備の中身が問われる。

一方、外交・安全保障をめぐっては、冒頭に見たように与野党の考え方に相当な開きがある。岸田政権は、4月末に自民党の安全保障調査会がとりまとめた提言に沿って、防衛力の整備を進める方針だとみられる。

この提言では、従来の「敵基地攻撃能力」という表現から「反撃能力」という名称に変えて、弾道ミサイル攻撃に対処するほか、NATO諸国の国防予算のGDP2%を念頭に5年以内に必要な予算水準の達成をめざす方針を求めている。

この提言を受けて、岸田政権は、年末の国家安全保障戦略の改定時期まで先送りするのではなく、外交・安全保障の基本的な考え方を明らかすべきだ。その際、日米の役割分担を踏まえて、日米同盟の強化につながる取り組みが必要だ。

5月の大型連休が明けると今の通常国会は会期末まで1か月程度しかなく、その後は直ちに参院選挙に突入する。5月下旬には、ウクライナ情勢などに伴う物価高対策の補正予算案も提出される。経済運営と防衛力整備の両面について、与野党が突っ込んだ議論を見せてもらいたい。(了)