国葬問題 ”検証と総括が必須”

安倍元首相の国葬が27日午後、東京都千代田区の日本武道館で行われた。式典には、海外からの700人を含め4100人余りが参列し、岸田首相や菅前首相らが追悼の辞をのべた。

このうち、岸田首相は「あなたは憲政史上最も長く政権にありましたが、歴史はその長さよりも、達成した事績によって記憶することでしょう」と安倍元首相の功績を称えた。

吉田茂元首相以来、55年ぶり2例目の国葬だが、国民の評価は分かれ、反対が賛成を上回る異例の事態となった。

加えて、この問題の背景には、旧統一教会と安倍元首相との関係、岸田政権の方針決定のあり方も絡んでおり、国葬と旧統一教会の問題は、”政権の喉に刺さったトゲ”のように見える。

それだけに国葬の式典は終わっても一件落着とはいきそうにない。秋の臨時国会では、岸田政権、与野党ともに「国葬問題の検証と総括」が問われる。

岸田政権は、この問題に真正面から対応しない限り、内閣支持率の回復は難しいのではないか。国葬が残した課題や政権への影響を考えてみたい。

 国葬 首相の説明・調整力に問題

さっそく、国葬が残した課題や政権への影響から、考えてみたい。まず、政府は国葬を閣議決定して実施したが、国民の評価は分かれ、報道各社の世論調査では、反対の方が多かった。

世論は、賛成が3割程度、反対が6割前後と多数を占めた。政府の説明が不十分との受け止め方が7割以上を占める点でも、各社の調査結果は共通していた。

次に岸田政権への影響では、内閣支持率が急落し、支持と不支持が逆転した。その理由は、国葬や旧統一教会の問題が影響しているものとみられる。

それでは、岸田政権の対応は、どこに問題があったのか。政界関係者の見方と世論調査のデータを総合して考えると、次のような点を指摘できる。

1つは、国葬の方針をいち早く決めた岸田首相の判断と対応だ。振り返ってみると、安倍元首相が銃弾に倒れた6日後、7月14日の記者会見で、いち早く表明した。

ところが、この方針は、政権の限られた関係者しか知らされておらず、法的な根拠をはじめ、国会の関与のあり方の検討も不十分などと批判を浴びた。

岸田首相としては、安倍元首相を強く支持した保守層を取り込みたいというねらいがあったのかもしれない。仮にそうだとしても、与野党の党首会談や国会への報告など理解を広げるための方法もあったはずで、浅慮と言わざるを得ない。

2つ目は、国葬の問題の背景には、旧統一教会と政治、特に自民党国会議員との関係がある。世論の側は、その中心に安倍元首相がいたのではないか、事実関係を知りたいという受け止め方が強かった。

これに対して、岸田首相は「本人が亡くなった今、実態を把握することには限界がある」として、調査は行わない考えを示し、世論の支持離れを招く要因になっている。

3つ目は、国葬や旧統一教会問題への対応の問題で、岸田首相は「真摯に受け止め、丁寧に説明する」との考えを繰り返した。ところが、国葬問題の国会での説明は、最初の方針表明から2か月後で、内容も従来の答弁の繰り返しに止まった。

このように岸田首相は、丁寧で低姿勢で対応するのはいいのだが、問題の核心に踏み込む説明がほとんどみられない。また、事態打開の調整や指導力がみられないことも大きな問題点として浮かび上がっているのが、今の状況だ。

 検証と総括、難題乗り切りの試金石

それでは、岸田政権のこれからの対応はどのようになるだろうか。政権の関係者は「政局より、政策だ。物価高騰、景気対策などを打ち出していく」と強調する。

これに対し、野党側は3日召集される臨時国会では、旧統一教会や国葬の問題を集中的に取り上げ、岸田政権を追及する構えだ。

世論の側は「疑惑も政策も両方をきちんとやって欲しい」との考えが多いと思われる。

このため、国葬や旧統一教会の問題について、逃げずに真正面から取り組まない限り、岸田政権が窮地を脱するのは難しい。検証と総括をやり抜くことが、カギになるとみている。

「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」。日本人は、大きな出来事などで一時的に議論が盛り上がるが、問題点などを突き詰めないまま、別の問題に関心を移して忘れてしまう習性があるといわれる。

不得手な総括などをきちんと行えるのか。政権、与野党、メデイアが共通して問われる点でもある。

一連の問題の検証と総括は、物価高騰対策や補正予算案の編成、防衛力強化と予算の扱いなどこれから待ち受けている難問を乗り切っていけるのかの試金石ともいえる。

秋の臨時国会、それに安倍氏なき後の日本政治はどんな展開になるのか、注視していきたい。(了)

国葬問題 ”政権の調整力不足”

安倍元首相の国葬が27日に迫っているが、国民の理解が広がっていない。報道各社の世論調査によるとほとんどで「賛成」より「反対」が上回っている。

国葬を巡っては、さまざまな論点があるが、岸田政権の野党に対する働きかけや、国民に対する説得など政権の調整力不足が影響しているのではないかと感じる。

報道各社の最新の世論調査のデータを基に、国葬問題と岸田政権の対応について考えてみたい。

 国葬問題 国民の理解広がらず

さっそく報道各社の最新の世論調査の結果から、見ておきたい。◆毎日新聞が17,18両日行った世論調査では、国葬の賛否については「反対」が62%、「賛成」が27%となった。

◆共同通信が同じ日に実施した調査では「反対」が60.8%、「賛成」が38.5%。◆産経新聞の同じ日の調査でも「反対」が62%、「賛成」が32%だった。

国葬の評価をめぐって、NHKの世論調査では7月の調査では「評価する」が49%で、「評価しない」の38%を上回っていた。ところが、8月に逆転、9月は「評価しない」が57%、「評価する」が32%とその差が広がった。

このように安倍元首相の国葬については、国民の理解が広がっていないことが改めて浮き彫りになっている。

 国民への説明、政権の調整機能の弱さ

それでは、なぜ、国葬について、国民の理解が広がらないのか。先の世論調査では「政府の説明が不十分だ」「岸田首相の説明に納得できない」といった点を挙げる人が全体の6割から7割以上に上っている。

岸田首相は8日の国会での閉会中審査で、安倍元首相が憲政史上最長の任期を務めたことなど4項目を挙げて理解を求めたが、世論調査の結果は、こうした説明に国民の多くは納得していないことを示している。

具体的には、岸田首相がいち早く国葬とする方針を決めた理由は何か、歴代首相経験者と同じ「内閣と自民党の合同葬」ではいけないのか。

法的な根拠として、政府は内閣府設置法を挙げているが、国会で与野党の議論を経て決定するのが適切ではないか。国葬の場合、全額国費で賄うが、全体の経費をなぜ早く示せないのかといった点だ。

いずれも7月の時点から問題になっていた点だが、国会の閉会中審査で議論されたのは9月8日、あまりにも対応が遅い。しかも、岸田首相の説明は当初の4項目の繰り返しで、これでは国民の心に響かない。

国民の理解が広がらなければ、さらに追加の議論を深めることが必要だと思うが、そのような対応は行われなかった。

国葬をめぐっては、与野党の意見が対立していることに加えて、国葬への出席をめぐっては、野党内の対応にも違いがある。さらに世論の評価も分かれているのが実情だ。

こうしたときこそ、政治の側、中でも政権の最高責任者が主導権を発揮して調整機能を果たすことが必要だと考えるが、岸田首相はこうした対応を取らなかった。

国葬をめぐる分断は、政権が野党側に働きかけたり、国会での議論を通じて国民を説得したりする調整機能の弱さ、調整力不足が大きな要因というのが、私の見方だ。

 国葬問題、臨時国会で議論・総括を

さて、国葬については、岸田首相は14日の政府与党連絡会議で「案内状を順次発送しており、各国からの敬意と弔意に対し、礼節をもってお応えする」とのべ、粛々と執り行う考えを強調した。

内外から6400人が参加して盛大に営まれる見通しだが、国民の多数が必ずしも賛意を示しているわけではない状況をどう考えればいいのか、複雑な思いだ。秋の臨時国会では、遅ればせながらも国葬の課題や今後の対応などをきちんと議論して総括してもらいたい。

一方、この国葬問題は、旧統一教会を巡る問題とともに、岸田政権の政権運営に影響を及ぼしている。9月の世論調査の特徴は、岸田内閣の支持率が続落しているだけでなく、初めて支持と不支持が逆転した点だ。

◆9月中旬の朝日新聞の調査では、支持率が41%に対し、不支持率は47%で逆転した。◆毎日新聞では、支持率29%、不支持率64%。◆共同通信は、支持率40%、不支持率47%、◆産経は支持率42%、不支持50%となった。

岸田内閣の支持と不支持の逆転は、7月の参院選挙で大勝した岸田政権の状況が一変したことを意味する。10月3日に召集される秋の臨時国会では、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

さらに年末に向けては、物価の高騰対策と補正予算案の編成、コロナ感染対策の法整備、さらにはウクライナ情勢を受けて防衛費の増強という難題が控えている。

国葬や旧統一教会の問題で、岸田政権が国民の疑念や不信感を取り除くことができるかどうかは、難題乗り切りと政権の先行きを左右する大きなポイントとして、注目している。(了)

 

岸田政権”9月危機のゆくえ”

岸田内閣の支持率下落に歯止めがかからない。報道機関の世論調査でみると9月の内閣支持率は下落が続き、内閣発足以来、最低の水準に陥っている。

岸田政権は夏の参院選挙で勝利したのを受けて、7月の内閣支持率は政権発足以降、最高を記録したが、わずか2か月で真っ逆さまに急落した。

理由は、はっきりしている。安倍元首相の国葬と、旧統一教会問題への政権の対応に、国民の厳しい評価と批判が集中しているためだ。

あと半月で、政権発足以来1年の節目を迎えるが、今の状態が続くと岸田政権は低空飛行へと転じる可能性がある。世論調査のデータを基に岸田政権の現状と今後を探ってみる。

 参院選後、政治資産3分の1失う

最初に、岸田内閣の支持率を見ておきたい。NHKの9月の世論調査によると岸田内閣の支持率は40%で、先月から6ポイント下がり、内閣発足以来最低となった。

不支持率も40%で、先月から12ポイントも増加し、内閣発足以来、最も高い水準になった。岸田内閣の不支持率は、2割台と低いのが特徴だったが、先月から一気に倍増した。

内閣支持率は毎月の数字の変動だけでなく、全体の流れと意味を読み取ることが重要だ。岸田政権は7月の参院選挙で勝利したのを受けて、直後の内閣支持率は59%と発足以来、最高を記録した。

ところが、8月は46%、9月は40%と下落を続け、最低の水準まで落ち込み、ついに支持と不支持が並んだ。

7月の参院選挙を起点にみると岸田内閣の支持率は59%から40%へ、2か月で19ポイントも急降下し、減少幅は32%にもなる。

別の表現をすれば、選挙の勝利などで得た”政治資産”の3分の1を2か月で失ったことになる。

ほぼ同時期に実施した朝日新聞の世論調査では、支持率は発足以来最低の41%、不支持は47%に増え、初めて不支持が支持を上回った。岸田政権をとりまく政治状況は、9月に一変した。

 国葬、旧統一教会問題が政権直撃

岸田政権の支持率急落の理由・原因は何か。世論調査の中身をみると安倍元首相の国葬と、旧統一教会の問題が大きく影響したことが読み取れる。

NHK世論調査のデータでは◆国葬を「評価する」は32%に対し、「評価しない」は57%で多数を占めた。7月時点では「評価する」が49%、「評価しない」が38%だったのが、逆転した。

◆政府の国葬の説明については「十分だ」が15%に対し、「不十分だ」が72%にも達する。

◆旧統一教会の問題については、自民党は党所属の国会議員との関係を点検し公表したが、この対応について「十分だ」が22%に対し、「不十分だ」が65%に上った。

 内閣改造、首相説明も効果なし

岸田政権の対応はどこに問題があったのか、今後の政権のゆくえを考えるうえでポイントになる。

途中経過は省略して結論を率直に言わせてもらうと、初動から状況の認識や判断に問題がある。同時に、問題があれば直ちに軌道修正すべきだが、機動的な対応ができていない。

国葬問題についていえば、岸田首相は、安倍元首相が凶弾に倒れた6日後の7月14日には、いち早く「国葬」とする方針を表明した。表明する前に、与野党の党首会談を呼び掛けたり、国会の議院運営委員会で状況報告をしたりすることは考えなかったのか。

あるいは、表明後も8月3日に召集された臨時国会の会期を短期間延長して、質疑を行うことはできなかったのか。その後、国葬をめぐる閉会中審査を行うことで与野党は合意したが、実際に行われたのは9月8日、首相の表明から2か月後だ。

旧統一教会をめぐる問題でも政府は8月15日、閣僚ら政務三役との関係について「個人の政治活動に関するもので、調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定した。

ところが、閣僚ら三役をはじめ、党所属議員の旧統一教会との接点が次々と明るみになり、党所属国会議員の点検結果を取りまとめ、公表することに追い込まれた。

このように対応が後手に回り、対応策を小出しにする手法に問題があるのは事実だが、根本は、問題が発生した時にどの程度広がりを見せるのか、状況の判断ができていない。

また、機動的に対応策を打ち出していく姿勢に欠けている。その結果、国民への説明は、常に後回しになる。

9月の世論調査では、もう1つ大きな問題が浮き彫りになった。岸田政権は内閣支持率の低下を打開するため、お盆休み前の8月10日に内閣改造・自民党役員人事を前倒しして断行した。

続いて、9月に入って、岸田首相が自ら国葬に関する閉会中審査に出席するとともに、自民党が党所属の国会議員の自己点検結果の公表に踏み切った。

ところが、内閣改造後は一時的でも支持率が上昇するが、今回は下落するという異例の事態が起きた。旧統一教会をめぐる自民党の点検結果の公表後でもに「対応が不十分」とする受け止めが65%にも上った。

いずれのカードとも、事態の鎮静化はできず、政権の浮揚も不発に終わったことがはっきりした。

 世論の支持離れか、事態打開へ動くか

それでは、岸田政権は今後、どのように対応するのだろうか。このまま、手をこまねいていると、世論の岸田政権離れはさらに進むことが予想される。

もう1つは、遅きに失した感はあるが、国葬問題、旧統一教会問題について、世論の理解を得る取り組みを行うかどうかだ。

そのためには、国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。具体的には、旧統一教会とのつながりが深いとされる安倍元首相はどんな関係にあったのか。

また、細田衆院議長は最大派閥の会長時代に接点があったとされるのになぜ、点検対象にならないのか。議長職でも所属会派からの離脱であれば、離脱前の行動を確認するのに問題はないと考えられる。

さらに、岸田政権の中枢の存在である木原官房副長官は、旧統一教会との関係で報告漏れがあり、追加の報告をした。

このほか、旧統一教会との接点があるのに氏名が公表されていない国会議員の存在も指摘されている。要は、岸田首相が派閥の論理に縛られず、事実関係をきちんと調べ、説明責任を果たす覚悟はあるのか、国民は見極めようとしている。

国葬の問題についても岸田首相は丁寧な説明を強調するが、同じ内容の繰り返しに止まり、与野党の意見の対立を打開する内容を示せないのが大きな問題点だ。

今後、野党側から要求のあった国葬の判断基準を検討したり、首相経験者の葬儀の扱いをどのようにするかなど接点を探る動きが出てくるのか、注目される。

以上、見てきたように岸田政権を取り巻く情勢は厳しさを増しているが、自民党内から”岸田おろし”を求める動きは出ていない。

但し、現状のまま推移すれば、岸田政権は世論の支持離れが進み、低空飛行政権へと変わる公算が大きいのではないか。臨時国会の召集前に岸田政権は、新たな行動を起こすことはあるのかどうか、正念場を迎えている。

 

「国葬」国会議論深まらず

安倍元首相の「国葬」をめぐり、国会では8日、岸田首相が出席して衆参両院で閉会中審査が初めて行われた。

野党側は、なぜ、国葬の方針を決めたのかなどを追及したが、岸田首相は従来の説明を繰り返し、議論は深まらなかった。

また、安倍元首相と旧統一教会の関係について、岸田首相は「実態を十分に把握することは限界がある」とのべるに止まった。

岸田首相は国会への出席で、説明責任を果たしたことをアピールしたい考えだが、こうした答弁では国民の納得を得るのは難しいのではないか。

安倍元首相の国葬問題について、主な論点と今後の対応のあり方などを点検してみたい。

 なぜ国葬か?新たな説明見られず

国葬問題をめぐって、国民が知りたいのは、なぜ、国葬にする方針を決めたのかという点だ。国葬は52年前、吉田茂元首相の1件だけで、それ以外の大平、中曽根、小渕の歴代首相は、内閣と自民党の合同葬で行ってきたからだ。

岸田首相は、安倍氏の首相在任期間が8年8か月で、憲政史上最長だったことや、民主主義の根幹である選挙の最中に非業の死を遂げたことなど従来から説明してきた4点を挙げて、国葬とする方針は適切だったと強調した。

これに対し、野党側は、内閣と自民党合同葬はダメで、国葬でなければならない理由の説明になっていないと質したが、岸田首相の説明はなかった。

また、野党側が、国葬にした法的根拠を質したのに対し、岸田首相は、内閣府設置法で、国の儀式は閣議決定でできるとして、問題はないとの考えを示した。

さらに、野党側は、国葬の方針を決める前に、国民の代表で構成される国会で議論したり、与野党の党首会談に諮ったりすべきではないか。今後、首相経験者が死去した場合の扱いの基準や法整備を検討すべきではないかなどと質した。

こうした点について、岸田首相は「国葬は、行政権に属する」などとかわした。このように岸田首相の答弁は、従来の説明の繰り返しに止まり、国民の理解を得るための新たな視点や取り組みについて、踏み込んだ説明はみられなかった。

 国葬の費用 16.6億円改めて説明

第2の論点は、国葬にかかる費用の問題だ。コロナ感染の長期化や物価高騰などで国民生活が厳しくなっている中で、国葬の費用は妥当なのかという問題だ。

この点について、松野官房長官が会場の設営費に加えて、警備や海外要人の接遇費用などを合わせて、16億6000万円程度を見込んでいることを改めて説明した。

そのうえで、岸田首相は「過去のさまざまな行事などとの比較においても妥当な水準だと考えている」と理解を求めた。

野党側は「政府は当初、会場設営費など2兆5000万円しか公表していなかった。費用を小さく見せようとしているのではないか」と批判している。また、今後、費用が膨らむ可能性もあるとして、監視を強めていくことにしている。

 安倍氏と旧統一教会「把握、限界」

第3の論点は、安倍元首相と旧統一教会との関係だ。立憲民主党の泉代表は「自民党内を取り仕切ったキー・パーソンが、安倍元首相だ。党の調査対象から、なぜ、外しているのか」と追及した。

これに対し、岸田首相は「ご本人が亡くなられており、今の時点で実態把握には限界がある。自民党としては点検結果をとりまとめ、社会的に問題のある団体と関係を持たないことを徹底し、国民の信頼回復に努めたい」と理解を求めた。

統一教会との関係をめぐって、自民党は夕方、所属する国会議員全体の半数近くにあたる179人が何らかの接点があったことを明らかにした。また、選挙で支援を受けるなど一定以上の関係を認めた121人の氏名も公表した。

この調査は、国会議員個人の自主点検の結果をとりまとめたものだ。選挙や日常の政治活動でどこまで密接な関係があったのかなどの実態は明らかにされていないが、旧統一教会側が幅広く浸透していたことが浮き彫りになった。

安倍元首相の国葬をめぐって、報道各社の世論調査では、賛否が分かれているが、ほとんどの調査で賛成より、反対の方が上回っている点で共通している。

政府の対応をみていると岸田首相が、国葬とする方針を記者会見で表明したのが、銃撃事件発生から6日目の7月14日で異例の早さだった。

ところが、その後は国会の閉会中審査は先送りし、世論調査で支持率急落を受けて、8月31日の記者会見で急遽、国会出席を表明するなど後手の対応が続いた。

今回、国会の閉会中審査がはじめて行われたが、岸田政権はこれで一件落着と再び、先送りするような対応はやめた方がいい。

国会の議論で明らかになった論点を整理し、与野党をはじめ、国民の多くの賛成を得て葬儀を円滑に実施できるよう環境整備に最後まで努力すべきだ。今一度、これまでの対応を再点検し、国会で議論を深める懐の深い対応が必要ではないかと考える。(了)

 

 

 

岸田政権と9月政局のゆくえ

岸田政権は来月4日に政権発足から1年を迎えるが、ここにきて内閣支持率が急落し、政権発足以来最低の水準が続いている。

凶弾に倒れた安倍元首相の葬儀を国葬とする政府方針の是非をはじめ、旧統一教会と新たに任命した閣僚など政務三役や自民党議員の関係が次々に明るみなり、世論の厳しい批判を浴びているためだ。

岸田首相は近く自ら国会の閉会中審査に出席し、国葬を決断した理由などについて説明する方針だが、野党側は国葬にかかる費用の全体を明らかにするよう求めるなど対決姿勢を強めている。

こうした岸田首相の説明で、事態を沈静化できないと秋の臨時国会だけでなく、今後の政権運営にも大きな影響が予想される。岸田政権のゆくえを左右する9月の政治の動きを探ってみる。

 9月の政治・外交日程 閉会中審査も

まず、9月の主要な政治・外交日程を見ておきたい。国会の動きでは、◆焦点の安倍元首相の国葬をめぐる閉会中審査を8日以降に行う方向で、与野党の調整が進められている。

◆旧統一教会の問題では、自民党が党所属国会議員に求めていた旧統一教会との関係について、10日までの週内に公表される見通しだ。

◆安倍元首相の国葬は9月27日に行われる予定で、この前後に海外から来日した各国首脳と岸田首相との弔問外交が行われる。

◆一方、秋の国連総会が開幕し9月下旬に岸田首相が演説する。◆29日は、日中国交正常化から50年の節目を迎える。

◆このほか、11日は沖縄県知事選の投開票日で、現職と新人3つ巴の選挙戦に決着がつく。◆25日には、公明党大会で新代表が決まる。◆今月末には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。

このように秋の政治が本格的に動き始めるが、今年は、安倍元首相の銃撃事件がさまざまな分野に影響を及ぼしている。

特に安倍元首相の国葬と、銃撃事件をきっかけに急浮上した旧統一教会の問題が岸田政権を直撃しており、この問題が秋の政局を大きく左右する見通しだ。

 旧統一教会問題、自民の点検結果は

国葬と旧統一教会の問題で、岸田首相は厳しい状況が続いている。先月末の記者会見で岸田首相は、閣僚などを含む自民党議員と旧統一教会との関係が明らかになっていることを陳謝し、「旧統一教会との関係を断つよう徹底する」と表明した。

また、国葬については、国会の閉会中審査に自ら出席し、説明する考えを明らかにした。こうした方針は当然と思えるが、決定まで1か月半もかかった。

この問題、野党側は「自民党の対応は、議員個人の点検に委ねており、党の調査としては不十分だ」として、厳しく追及する構えだ。

国葬についても法的な根拠が明確でないことに加え、全体の費用がどの程度になるのかも明らかになっていないとして、批判を強めている。

今後の展開はどのようになるか。自民党の点検結果は、当初6日に公表する予定だったが、遅れている。10日までの週内には公表される見通しだ。

野党側は、最も深く関係していたとされる安倍元首相をはじめ、自民党の萩生田政調会長、山際経済再生担当相をターゲットに追及を強めることにしている。

このように一連の問題をめぐっては、自民党の点検結果で、どこまで事実関係が明らかにされるかが焦点だ。与野党の主張や論点などには隔たりが大きいことから、事態が沈静化する公算は極めて小さいとみられる。

 政権浮揚か、低空飛行政権かの岐路

それでは、岸田政権や政局にどんな影響が出てくるか。岸田内閣の支持率は、NHK世論調査で、参院選の大勝を受けて7月は59%と政権発足以来最高となった。ところが、8月上旬の調査では46%と13ポイントも下落、発足以来最低の水準になった。

続いて、8月10日の内閣改造直後に行われた読売新聞の調査では、前回調査から6ポイント下がって51%で過去最低。8月末の朝日新聞の調査でも前回から10ポイント下落の47%、不支持率は14ポイント増の39%で、発足以来最高となった。

報道各社の世論調査で共通しているのは、8月に入って内閣支持率の急落が続いていること。その理由としては、旧統一教会の問題について、政府や自民党の説明が不十分だと受け止められていることが挙げられる。

安倍元首相の国葬方針についても「賛成」より「反対」が多い点で共通している。岸田首相が政権の浮揚をねらって断行した内閣改造・自民党役員人事は、不発に終わったといえる。

自民党長老に岸田政権の評価を聞いてみると「去年秋の衆院選に続いて、夏の参院選でも大勝し、政権は安定するはずなのに足元が揺らいでいる。旧統一教会の問題もあるが、コロナ感染爆発が起きているのにメッセージすら出せていない。やるべきことができていない」と指摘する。岸田首相の発信力や指導力に問題があるとの厳しい評価だ。

旧統一教会の問題が沈静化できない場合は、秋の臨時国会の本番では、野党側がこの問題を集中的に取り上げ「旧統一教会国会」になるのではないかという見方も聞かれる。

臨時国会では、物価高騰やエネルギー対策、経済・暮らしの立て直しと補正予算案の編成、衆議院の1票の格差是正の「10増10減案」などの懸案が控えている。こうした懸案処理に影響が出てくることも予想される。

このようにみてくると当面の焦点は、岸田首相が旧統一教会や国葬の問題で、国民の疑念を晴らし、信頼回復へこぎつけられるかどうかが、カギになる。

そのためには、国会論戦には逃げの姿勢ではなく、積極的な姿勢で臨み、焦点の旧統一教会の問題には、安倍元首相の関係を含め事実関係を明らかにしていくこと。国葬の問題も全額を国費でまかなう以上、費用全体のメドは明らかにすることは必要ではないか。

そのうえで、コロナ対策や防衛力の整備、経済再生などに向けて、岸田首相自らがやり遂げたい政治課題を明確に打ち出すことが必要ではないかと考える。

旧統一教会など問題は、政治や政権のあり方などに大きな影響を及ぼす。難題を数多く抱える中で、岸田政権は安定した政権運営を取り戻せるのか、それとも国民の失望を買い、内閣支持率が落ち込み、低空飛行を続けることになるのか、岐路に差し掛かっている。岸田首相の判断を注視したい。(了)