安倍元首相の国葬が27日午後、東京都千代田区の日本武道館で行われた。式典には、海外からの700人を含め4100人余りが参列し、岸田首相や菅前首相らが追悼の辞をのべた。
このうち、岸田首相は「あなたは憲政史上最も長く政権にありましたが、歴史はその長さよりも、達成した事績によって記憶することでしょう」と安倍元首相の功績を称えた。
吉田茂元首相以来、55年ぶり2例目の国葬だが、国民の評価は分かれ、反対が賛成を上回る異例の事態となった。
加えて、この問題の背景には、旧統一教会と安倍元首相との関係、岸田政権の方針決定のあり方も絡んでおり、国葬と旧統一教会の問題は、”政権の喉に刺さったトゲ”のように見える。
それだけに国葬の式典は終わっても一件落着とはいきそうにない。秋の臨時国会では、岸田政権、与野党ともに「国葬問題の検証と総括」が問われる。
岸田政権は、この問題に真正面から対応しない限り、内閣支持率の回復は難しいのではないか。国葬が残した課題や政権への影響を考えてみたい。
国葬 首相の説明・調整力に問題
さっそく、国葬が残した課題や政権への影響から、考えてみたい。まず、政府は国葬を閣議決定して実施したが、国民の評価は分かれ、報道各社の世論調査では、反対の方が多かった。
世論は、賛成が3割程度、反対が6割前後と多数を占めた。政府の説明が不十分との受け止め方が7割以上を占める点でも、各社の調査結果は共通していた。
次に岸田政権への影響では、内閣支持率が急落し、支持と不支持が逆転した。その理由は、国葬や旧統一教会の問題が影響しているものとみられる。
それでは、岸田政権の対応は、どこに問題があったのか。政界関係者の見方と世論調査のデータを総合して考えると、次のような点を指摘できる。
1つは、国葬の方針をいち早く決めた岸田首相の判断と対応だ。振り返ってみると、安倍元首相が銃弾に倒れた6日後、7月14日の記者会見で、いち早く表明した。
ところが、この方針は、政権の限られた関係者しか知らされておらず、法的な根拠をはじめ、国会の関与のあり方の検討も不十分などと批判を浴びた。
岸田首相としては、安倍元首相を強く支持した保守層を取り込みたいというねらいがあったのかもしれない。仮にそうだとしても、与野党の党首会談や国会への報告など理解を広げるための方法もあったはずで、浅慮と言わざるを得ない。
2つ目は、国葬の問題の背景には、旧統一教会と政治、特に自民党国会議員との関係がある。世論の側は、その中心に安倍元首相がいたのではないか、事実関係を知りたいという受け止め方が強かった。
これに対して、岸田首相は「本人が亡くなった今、実態を把握することには限界がある」として、調査は行わない考えを示し、世論の支持離れを招く要因になっている。
3つ目は、国葬や旧統一教会問題への対応の問題で、岸田首相は「真摯に受け止め、丁寧に説明する」との考えを繰り返した。ところが、国葬問題の国会での説明は、最初の方針表明から2か月後で、内容も従来の答弁の繰り返しに止まった。
このように岸田首相は、丁寧で低姿勢で対応するのはいいのだが、問題の核心に踏み込む説明がほとんどみられない。また、事態打開の調整や指導力がみられないことも大きな問題点として浮かび上がっているのが、今の状況だ。
検証と総括、難題乗り切りの試金石
それでは、岸田政権のこれからの対応はどのようになるだろうか。政権の関係者は「政局より、政策だ。物価高騰、景気対策などを打ち出していく」と強調する。
これに対し、野党側は3日召集される臨時国会では、旧統一教会や国葬の問題を集中的に取り上げ、岸田政権を追及する構えだ。
世論の側は「疑惑も政策も両方をきちんとやって欲しい」との考えが多いと思われる。
このため、国葬や旧統一教会の問題について、逃げずに真正面から取り組まない限り、岸田政権が窮地を脱するのは難しい。検証と総括をやり抜くことが、カギになるとみている。
「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」。日本人は、大きな出来事などで一時的に議論が盛り上がるが、問題点などを突き詰めないまま、別の問題に関心を移して忘れてしまう習性があるといわれる。
不得手な総括などをきちんと行えるのか。政権、与野党、メデイアが共通して問われる点でもある。
一連の問題の検証と総括は、物価高騰対策や補正予算案の編成、防衛力強化と予算の扱いなどこれから待ち受けている難問を乗り切っていけるのかの試金石ともいえる。
秋の臨時国会、それに安倍氏なき後の日本政治はどんな展開になるのか、注視していきたい。(了)