岸田自民”薄氷の勝利”衆院解散は?

岸田政権の「中間評価」と位置づけられる衆参5つの補欠選挙は、自民党が4議席を獲得する一方、日本維新の会が1議席を獲得した。野党第1党の立憲民主党は、1議席も獲得することができなかった。

この選挙結果をどのようにみるか。まず、勝敗面を客観的に読むと自民・勝利、維新・躍進、立民・敗北と言っていいだろう。

但し、今後の岸田政権の運営や政局の展開を考えると、勝ち方が問題だ。勝利の中身に踏み込んで評価をすれば、”薄氷の勝利”が実態に近いとみている。

焦点の衆議院の解散・総選挙についても、岸田首相は解散カードを手にしているが、高いリスクを伴っていることも顕在化した。候補者の選び方の問題や、無党派層の支持が得られていないことが浮き彫りになった。

一方、野党側では、維新の躍進によって立憲民主党との間で、野党第1党の座を意識した競い合いが激化する見通しだ。その際、次の衆院選では、野党の共倒れをいかに防いでいくのか、野党の選挙戦略も問われることになる。

なぜ、このような見方・読み方をしているか。また、焦点の衆議院解散・総選挙の時期や条件などについてもみていきたい。

 自民4勝議席獲得も、高揚感なし

今回の補欠選挙をめぐって自民党内では当初、保守地盤の選挙区が多いこともあって、5戦全勝説が聞かれるなど楽観視する空気が強かった。

ところが、選挙が近づくにつれて野党側の追い上げが激しくなり、最終盤には、最悪のケースとして2勝3敗説がささやかれるほどだった。選挙結果は4勝1敗、喜んでいいはずだが、高揚感は感じられない。そこで、各選挙区の勝敗のポイントを絞ってみておきたい。

▲衆議院山口4区については、安倍元首相の後継者として、自民党新人の吉田真次氏が、立憲民主党の元参議院議員、有田芳生氏らに大差をつけて、当選を果たした。安倍昭恵さんが全面的に支援し、事実上の「弔い選挙」が強みを発揮した。

▲山口2区は、父親の後を継いで立候補した自民党の岸信千世氏が初当選したが、無所属新人で、立憲民主党有志の支援を受けた元法相の平岡秀夫氏に5700票差まで追い上げられた。「世襲批判」が強く働いたものとみられている。

両選挙区とも投票率が2年前の衆議院選挙に比べて、山口2区が9.2ポイント下回って42.4%、山口4区が13.9ポイント低い34.7%で、いずれも過去最低を記録した。選挙から距離をとった有権者がかなりの数に上ったことがうかがえる。

▲和歌山1区は、日本維新の会の新人、林佑美氏が和歌山県内の小選挙区で初の議席を獲得した。前半戦の奈良県知事選で勝利した勢いに乗って、党の勢力を集中したことが功を奏した。維新は大阪、兵庫以外で衆院小選挙区の議席を獲得したのも初めてだ。

自民党関係者に聞くと「党の候補者に問題がありすぎた」とのべ、地元選出の二階元幹事長と世耕参院幹事長との確執で、強力な候補者を選べなかったことが敗因との見方を示した。

▲千葉5区については、自民党の新人、英里アルフィヤ氏が4900票余りの僅差で、立憲民主党の新人の矢崎堅太郎氏らを振り切って勝利した。野党の立民、国民、維新、共産の各党がそれぞれ候補者を擁立し、候補者乱立となったことが自民の議席獲得につながった。

▲与野党の一騎打ちとなった参議院大分選挙は、自民党新人の白坂亜紀氏が、立憲民主党の吉田忠智氏をわずか241票差で初当選を決めた。この背景には、大票田の大分市の投票率が33%へ大幅に下がったことがある。市長選が無投票になったためだが、無党派層を多く獲得していた吉田氏には誤算だった。

このように自民党は、選挙前より1議席多い4議席を獲得したが、選挙の中身は野党側との接戦が多く、何とか競り勝ったというのが実態だ。

また、前半戦の奈良県知事選では党の組織が分裂して敗北したのに続いて、和歌山でも候補者選びが難航したあげく議席を失った。岸田首相や茂木幹事長ら党の最高首脳部の統率力に問題があったのではないかと指摘する声もくすぶっている。

さらに、自民支持層と並んで大きな集団である無党派層の支持獲得についても、野党側に大きな差をつけられた選挙区が目立った。次の衆議院選挙では、都市部を中心に議席を失いかねないと危惧する見方も聞く。

このように自民党内は、保守地盤の和歌山で維新の進出を許したのをはじめ、選挙態勢づくりなどをめぐっても問題点が浮き彫りになったことから、議席を増やしたものの、勝利したとの高揚感は乏しい。

   維新躍進、立民と野党第1党争い激化

それでは、野党側の対応はどうか。躍進した維新の馬場代表は記者会見で「和歌山で1議席獲得したことは、関西や全国に党勢を広げていく大きな追い風になる」として、次の衆議院選挙ではすべての小選挙区に候補者を擁立したいという考えを示した。

維新は、今回の統一地方選挙で、地方議員の数を1.5倍の600人に増やす目標を立てたが、非改選を含めて774人となり、目標を達成したことを明らかにした。

また、次の衆議院選挙では野党第1党をめざすとともに今後、3回の衆院選挙で政権交代を実現する構想を打ち出している。

このため、今後、立憲民主党と野党第1党をめぐる競い合いが激化するものとみられる。但し、次の衆議院選挙をめぐって、立憲民主党と維新の両党が互いに候補者を出し合うと、共倒れになる事態も予想される。

維新にとっても、候補者調整などを行わないと小選挙区で多数の議席を獲得するのは難しいとみられる。それだけに競合しながら、野党間の選挙態勢づくりをどうするかの調整が大きな課題になるのではないか。

このほか、立憲民主党は、千葉5区など3つの選挙区に公認候補を擁立したが、議席を確保できなかった。今後、党の態勢の立て直しや、執行部の責任を問う動きが表面化することも予想される。

  衆院解散・総選挙をどうみるか?

統一地方選挙と衆参補選が終わったのを受けて、岸田首相は24日「与党・自民党が重要政策だと掲げたものについて、『しっかりやり抜け』と叱咤激励を受けた」として、来月のG7広島サミットや後半国会での重要法案に全力を挙げる考えを強調した。

政界では、岸田首相が通常国会の会期末に衆議院を解散、総選挙に踏み切るかどうかが最大の焦点になっている。

その時期をめぐっては、早期解散の見方がある。一方で、岸田首相自身は強い意欲を持っていても、実際には条件が整わず、秋以降に持ち越すとの見方がある。

例えば、今回の千葉5区のように野党がバラバラだったり、参院大分選挙区のように野党第1党の力量が弱体化したりして、岸田首相が勝てると判断すれば、早期解散を決断する可能性は大いにあるとみることもできる。

しかし、岸田首相が解散に踏み切る大義名分はあるか。また、政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策について、財源の具体策を示し国民を説得できるのか。

さらには、統一地方選が終わったばかりで、早期解散に慎重な公明党の理解を得て、与党の選挙態勢を整えることはできるのか、乗り越えるハードルは多いのも事実だ。

私は後者の見方だが、政界は一寸先は闇といわれるのも事実だ。私たち国民の側も早期解散に備えて常在戦場、岸田政権が取り組むべき重要課題は何か考えておく必要がある。

そのうえで、岸田政権や与野党に対して、重要課題にどんな方針と具体策で臨むのか、早期に明らかにするよう求めていく必要があると考える。(了)

補選は大接戦続く「岸田政治」が焦点

統一地方選挙後半戦の23日の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙は、いずれも与野党激突の構図になっており、このうち4つの選挙区では、最終盤に入っても大接戦が続いている。

それぞれ個別の選挙区事情を抱えているが、最終的には有権者が、岸田政権の防衛力抜本強化や異次元の少子化対策などの主要政策をどのように評価するかが、勝敗のカギを握っている。

衆参5つの補選の最終盤の情勢と勝敗のポイント、選挙の争点を探ってみる。

 補選4選挙区 大接戦のまま投票日へ

衆参5つの補欠選挙について、与野党の選挙関係者などについて、選挙情勢を取材した。

結論を先に言えば、衆議院山口4区については、自民党の新人がリードしているが、残りの千葉5区、和歌山1区、山口4区、参議院大分選挙区の4つは、与野党が激しくぶつかり、大接戦のまま投開票日を迎えようとしている。

▲まず、千葉5区は、自民党の衆議院議員が「政治とカネ」の問題で辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の新人で、元千葉県議会議員の矢崎堅太郎氏と、自民党新人で公明党が推薦する元国連職員の英利アルフィヤ氏が激しく競り合っている。

千葉5区は東京に通勤する住民が多い都市型選挙区で、無党派層の動向が勝敗を左右する。「政治とカネの問題」をはじめ、岸田政権が掲げる防衛力増強、異次元の少子化対策などの主要政策にどのような判断を示すかが焦点だ。

一方、野党陣営をみると立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党がそれぞれ公認候補を擁立しており、こうした野党乱立が選挙の勝敗にどのように影響するかもポイントになりそうだ。

▲和歌山1区は、自民党の元衆議院議員で、公明党が推薦する元国土交通政務官の門博文氏と、日本維新の会の新人で、元和歌山市議会議員の林佑美氏が激しく戦っている。

今回の補選は、この選挙区で5期連続当選を重ねてきた国民民主党の岸本周平元衆議院議員が知事に転出したのに伴う選挙だ。この選挙区で苦杯を重ねてきた門氏が、保守中道票をどこまでまとめきれるかがポイントだ。

林氏を擁立した維新は、前半戦の奈良県知事選で勝利するなど議席を大幅に増やした勢いを国政につなげていく戦略だ。大阪府の吉村知事や、奈良県の山下知事らを応援に投入、和歌山県で初の衆議院議席の獲得をめざしている。

▲岸信夫元防衛相の辞職に伴う山口2区は、岸氏の長男で、自民党新人の岸信千世氏と、元衆議院議員で民主党政権で法相を務めた無所属の平岡秀夫氏が争っている。

信千世氏は、岸信介元首相のひ孫で、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相の政治一家で育ったことで知られる。分厚い保守地盤に加えて、看板、豊富な資金力を誇るが、「世襲批判」の声も強い。

当初は大差がつくのではないかとの見方もあったが、各種世論調査で平岡氏が激しく追い上げており、「世襲批判」の風がどこまで強まるか注目点だ。

▲安倍元首相の死去に伴う山口4区については、後継として擁立された自民党新人で公明党が推薦する元下関市議会議員の吉田真次氏が、立憲民主党の新人で元参議院議員の有田芳生氏をリードしていると与野党双方ともみている。

▲参議院大分選挙区は、前議員が知事選立候補のため辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の前議員の吉田忠智氏を、自民党新人で公明党が推薦する飲食店経営の白坂亜紀氏が激しく追い上げている。

吉田氏は、共産党や社民党の推薦を受けており、野党共闘の形を整えて選挙戦に臨んでいる。村山富市元首相の出身県で、野党共闘の歴史を基盤に無党派層でどこまで支持を広げることができるかが課題だ。

白坂氏は東京の銀座などで飲食店を経営しており、公募に応じて立候補した。知名度を上げる一方で、自民党がどこまで組織的なテコ入れをして出遅れを挽回できるかが焦点だ。

このように山口4区を除く4つの選挙区は、いずれも与野党の候補が僅差で激しく競り合っている。選挙前は、自民が3議席、野党が2議席を占めていた。

5つの補選のゆくえは◆自民が競り勝って5戦全勝のケース、◆逆に野党が3勝2敗と勝ち越すケース、◆自民4勝1敗、◆自民3勝2敗の4つのケースが想定される。どのケースで決着がつくのか、今の時点で正確に見通すのは困難だ。

 選挙の争点「岸田政治」をどう評価

それでは、次に補選の争点は何かを考えてみたい。その前に補選の選挙戦に入った15日、岸田首相が選挙応援のため訪れた和歌山市の演説会場に爆発物が投げ入れられて、24歳の男の容疑者が逮捕される事件が起きた。

この事件が補選に影響を及ぼすのかどうかをみておきたい。読売新聞は14日から16日に実施した世論調査で、岸田内閣の支持率が47%へ5ポイント上昇したと報じるとともに、支持率上昇は今回の事件が影響した可能性があるとの見方を示している。

政界でも選挙戦で与党に有利に働くのではないかとの見方がある。但し、読売の調査では、自民党の支持率は上昇せず1ポイント下がっている。

自民党の複数の選挙関係者に聞いてみたが、いずれも「個別の選挙に直接、影響を及ぼすようなことはないのではないか」との見方だった。

その理由としては「有権者は、容疑者の人柄や犯行の動機に関心はあるが、選挙の選択とは分けて考えているのではないか」との見方だった。私も基本的に同じ見方だが、選挙結果が判明した段階で改めて点検してみたい。

さて、選挙の争点は何か。選挙区によって、個別の問題などの違いはあるが、与野党とも今回の補選は、発足からまもなく2年を迎える岸田政権の「中間評価」になると位置づけている。

有権者としても、岸田政権が進めてきた政策の是非を評価、判断する機会になる。具体的には、原油高騰などに伴う物価高対策、賃金の引き上げ、新しい資本主義といった経済政策のかじ取りは適切か。

また、岸田政権が年末に、戦後の安全保障政策の大転換として打ち出した防衛力の抜本強化と防衛増税の是非をどう考えるか。今年に入って重要課題と位置づける異次元の少子化対策の内容と財源確保などへの取り組み姿勢を支持するか。

さらに、岸田首相の政権運営をめぐっては、防衛増税の決定にみられるように与野党や国民の意見を聞いたり、中身を説明したりする姿勢に欠けるのではないかといった声も出されてきた。

有権者は、こうした論点のどれを重視して投票したか、選挙の出口調査などを分析すれば明らかになる。今度の補選は勝敗面だけでなく、有権者が何を重視して選択をするかといった点も注目してみていきたい。岸田政権の政権運営の進め方や評価の物差しになる。(了)

”支持率回復は本物か?”岸田政権

統一地方選挙の前半戦が終わり、各党とも4月23日投開票の後半戦と衆参5つの補欠選挙に向けて、激しい選挙戦に突入している。

永田町では先月下旬以降、春の解散風が吹き始め、一部に岸田首相は通常国会の会期末に早期解散に打って出るのではないかとの観測も聞かれる。

その根拠の1つとして、岸田首相のウクライナ電撃訪問をきっかけに岸田内閣の支持率回復を上げる関係者が多い。

果たして、本当に岸田内閣の支持率は回復しているのかどうか、今週NHKと朝日新聞の世論調査がまとまったので、そのデータを基に分析してみたい。

 上昇から横ばい、電撃訪問効果は限定的

さっそく、岸田内閣の支持率からみていこう。NHK世論調査(7日から9日実施)によると◆支持率は42%で先月の調査から1ポイント増、◆不支持率は35%で、5ポイント減少した。

不支持率が5ポイント減少したが、「わからない」との回答が5ポイント増えているので、支持率が好転したわけではない。

一方、朝日新聞の調査(8日、9日実施)によると◆支持率は38%で先月から2ポイント減、◆不支持率は45%で5ポイント減少した。

2つの調査とも3月と比べて、支持率は1~2ポイントわずかに増えたが、誤差の範囲で、横ばいという点で共通している。

次に、世論は岸田首相のウクライナ電撃訪問をどのように評価しているか。NHKの調査では「評価する」が58%で、「評価しない」の34%を上回った。

朝日の調査は「ロシアによるウクライナ侵攻について、岸田首相の対応を評価するか」と設問の表現は異なるが、「評価する」が47%で、「評価しない」の39%より多かった。

つまり、2つの調査とも「評価する」が上回ったが、岸田内閣の支持率は横ばいのままだ。

岸田首相の電撃訪問は先月21日。2週間後の世論調査では、内閣支持率の押し上げ効果は限定的といえる。外交面で内閣支持率を上げるのは、昔から中々、難しい。

 過去最低の投票率と政治離れの重さ

それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をどのようにみているのか。朝日の調査では、「できるだけ早く衆議院を解散して総選挙を実施すべきだと思いますか」と尋ねている。

◆「できるだけ早く実施すべきだ」22%に対し、◆「急ぐ必要はない」67%だった。3人に2人が「急ぐ必要はない」と答えている。

この調査が行われた同じ9日には、9つの道府県知事選挙と41道府県議会の議員選挙などが行われた。平均投票率は、知事選挙が46.78%、道府県議選が41.85%で、いずれも50%にも達せず、戦後最低を更新という惨憺たる状況だ。

つまり、最も身近な選挙ですら、有権者の関心を引きつけることができず、衆参の国政選挙もこの10年、ワースト記録が相次いでいる。

与野党双方とも水面下で、早期解散をめぐる神経戦を繰り広げているが、国民の半数は政治への関心や期待感を失い、投票所にも足を運ばなくなっている状況を深刻に重く受け止め、何らかの対応策を早急に打ち出す必要がある。

 5補選と少子化対策の財源がカギ

そのうえで、衆議院の解散・総選挙の条件や実現可能性を考えると、どういうことになるか。岸田首相が仮に解散に踏み切ろうとする場合、まず、今月23日に投票が行われる衆参5つの補欠選挙を乗り切る必要がある。

自民党閣僚経験者に聞くと「山口の2つは勝てる感触を得ているが、野党乱立で勝てる公算が大きい千葉5区は、地域に浸透できていない。和歌山1区も勢いに乗る維新の勢いを前に苦戦が続いている。参院大分選挙区は、野党共闘の実績のある土地柄で、最も厳しい選挙になっている」と歯切れが悪い。

与野党の関係者の話を総合すると自民候補の5戦全勝もありうるが、3勝2敗、場合によっては、野党が3勝2敗と勝ち越すこともありうる大混戦の状況が続いている。これが、最初のハードルだ。

2つ目のハードルは、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策の財源問題」だ。児童手当の所得制限の撤廃などを実現するためには、数兆円単位の財源が必要だが、そのメドが立っていない。

NHK世論調査で、財源確保の方法を聞いている。◆「(少子化対策以外の)ほかの予算を削る」が最も多く56%、◆「社会保険料負担の見直し」17%、◆「増税」8%、◆「国債の発行」8%となっている。

政府・与党内では、増税は理解が得られないとして、医療費などの社会保険料の上乗せ案が検討されている。これに対して、世論の大半は、予算の組み替えで財源を生み出すべきだとの考え方が主流で、社会保険料の負担増は少数派だ。

仮に政府・与党が社会保険料の負担上乗せ案を打ち出せば、世論の強い反発を受け、内閣支持率を直撃することが予想される。

岸田政権は、防衛増税の実施時期も先送りにしており、6月の骨太方針で、防衛と少子化対策の財源確保について、明確な方針を打ち出し、国民を説得できるかどうかが最大の課題といえる。

3つ目のハードルとして、与党の選挙関係者は「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する人の割合が上昇することが必須の条件だ」と指摘する。

自民支持層の岸田内閣の支持率は、4月は60%台後半で、3月とほぼ同じ水準で、こちらも横ばいのまま止まっている。岸田政権の発足当初は、8割から7割台を維持してきた。ところが、去年の秋以降、自民支持層の支持もつるべ落とし、3割台の危機的状況が続いてきた。

ようやく今年に入り、6割に戻し最悪期は脱しつつあるものの、まだ6割台に止まっている。与党の選挙関係者は、せめて7割から8割台に回復しないと安定した選挙戦を展開するのは難しいと判断しているわけだ。

以上、みてきたように衆議院の解散・総選挙の時期やこれからの政局は、岸田政権が当面、3つのハードルを乗り越えられるかどうかが焦点になる。

そして、まずは、今月23日に迫った衆参5つの補欠選挙に向けて、与野党がどんな論戦を戦わせるのか。そして世論が「岸田政権の中間評価」として、どのような判断を示すのか、それによって今年後半の政治が動き出すことになる。(了)

“維新 勢力拡大”政権,政局への影響は?

統一地方選挙の前半戦は9日、全国9つの道府県知事選挙と6つの政令指定都市の市長選挙、それに41道府県議選と17政令指定都市議員選の投開票が行われた。

知事選挙では、大阪維新の会が大阪の府知事と市長のダブル選挙をいずれも制した。保守分裂となった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人が当選するなど維新が勢力を拡大したのが大きな特徴だ。

自民党は、与野党対決の北海道と大分県の知事選挙で推薦候補が勝利したが、大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で維新の攻勢に敗れた。

政党の基礎体力を示す道府県議選の結果と合わせて、前半戦の選挙結果をどのようにみるか。政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえを含めて、分析してみる。

 維新は拡大戦略奏功、自民は奈良で敗北

まず、統一地方選挙前半戦の最も大きな特徴は、▲全国政党の日本維新の会が、地域政党の大阪維新の会を含めて、勢力を拡大したことだ。

大阪府知事と大阪市長のダブル選挙のうち、知事選では現職の吉村洋文氏が2回目の当選、市長選では元府議の横山英幸氏が初めての当選を果たした。統一地方選では2回連続、それ以前を含めると4回連続で維新が勝利した。

保守分裂選挙になった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人で元生駒市長の山下真氏が初めての当選を果たした。大阪府以外で、初めて維新公認の知事が誕生したことになる。

41道府県議選でも維新は、18の道府県で合わせて124議席を獲得、選挙前の59議席から倍以上に増やした。大阪府議会では9議席増の55議席を獲得して過半数を維持したのをはじめ、兵庫県では選挙前の4議席から21議席へ議席を増やしたほか、神奈川では6議席、北海道や福岡県などでも初の議席を獲得した。

維新関係者に聞くと「今度の統一地方選挙では、現有の地方議員400人を1.5倍の600人に増やす目標を立て、徹底した候補者の発掘と擁立の準備を重ねてきた」と話しており、こうした党勢拡大の戦略が功を奏した形になっている。

▲これに対して、政権与党の自民党はどうか。与野党対決型の北海道では、再選をめざす鈴木直道氏を公明党とともに推薦して、立憲民主党の元衆議院議員の候補に圧勝した。大分県知事選挙でも元大分市長の佐藤樹一郎氏を推薦して、共産・社民両党の県組織が支援する前参議院議員の候補者に勝利した。

一方、奈良県知事選挙は、県連会長を務める高市経済安全保障担当相が主導して、総務大臣当時の秘書官を擁立したが、現職が反発して分裂選挙に突入した。

結果は、維新候補が漁夫の利を得る形で当選した。保守王国とされてきた奈良県で維新公認の知事が誕生したことは、今後の国政選挙などで影響が出るのは避けられない。

高市担当相の責任が極めて大きいと批判する声が出ている。一方、自民党は各地の選挙で分裂選挙となるケースが目立っており、党執行部の調整不足に問題があるとの指摘も強い。いずれにしても、この問題は尾を引くことになりそうだ。

一方、41道府県議選について、自民党は合わせて1153人が当選し、総定数2260に占める割合は51%に達した。安倍政権時代の2015年と2019年に続いて、3回連続で過半数を維持したことになる。

議員数は前回・選挙時の1158人とほぼ同じだが、選挙前と比べると86人減らしている。但し、総定数の過半数は維持しているので、岸田政権に代わっても地方組織の力量に大きな変化は現れていないとみられている。

問題は、奈良県知事選挙にみられるように候補者擁立をめぐって地方組織の意見が対立した場合、地方任せで党の執行部が組織全体をまとめ上げる力が弱体化していることを懸念する声は強い。

このほかの各党をみておくと▲立憲民主党は、北海道知事選挙で大敗したほか、各地の知事選では与野党相乗り型が目立ち、野党第1党として与党と対決していく構図を作り上げることができなかった。

一方、道府県議選では185議席を獲得し、選挙前から7議席増やした。今後、野党内で、維新との間で主導権をめぐる確執が強まることが予想される。

▲公明党は道府県議選では169人が当選したが、愛知県で1人が落選し、170人の全員当選は果たせなかった。今後、関西地域で、維新との関係が焦点になる。

▲共産党は75議席で、選挙前から24議席減らした。▲国民民主党は、選挙前と同じ31議席を維持した。

 衆参補選は混戦、政権・政局へ影響も

それでは、今回の選挙結果が岸田政権へ及ぼす影響はどうだろうか。自民党の長老に聞いてみると「道府県議選では、過半数を維持できたので、岸田政権や当面の政局に大きな影響はない。問題は、衆参の補欠選挙のゆくえだ」と語る。

次に、維新がめざしている「大阪の政党から、全国政党をめざす目標」をどのようにみるか。大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で勝利したのをはじめ、大阪府議会に続いて大阪市議会でも初めて過半数を確保、兵庫県議会でも大幅に増やしていることなどから「近畿の政党」へ拡大しているようにみえる。

一方、地盤の近畿以外の関東や愛知など地域では、議員の獲得数はまだ少ない。「全国政党化」の展望が開けたという段階までには至っておらず、足場を築きつつあるというのが、現状ではないか。

政界関係者の中には、今後の維新の存在感が高まれば、政界入りを目指す人材の中には、維新入りをめざす人が増えるなど求心力が増すことも予想されるとの見方もある。

今後の焦点は、統一地方選挙の後半と同じ投票日になる衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。衆議院の千葉5区と和歌山1区、山口2区と4区の補欠選挙が11日告示される。既に6日に告示された参議院大分選挙区と合わせて、投票日は統一地方選の後半戦と同じ23日になる。

与野党の関係者の見方を総合すると、山口4区と2区は安倍元首相と岸元防衛相の選挙区で、勝敗面では自民が獲得する可能性が大きいとの見方が多い。

そのほかの3つの選挙区は、混戦、激戦になるのではないか。衆議院千葉5区は、政治とカネの問題で自民党の衆議院議員が辞職したのに伴う選挙だ。自民と、立民、維新、共産、国民などの各党がそれぞれ候補者を擁立するが、いずれも新人で、混戦になる見通しだ。

和歌山1区は、国民民主党議員が県知事戦に転出したのに伴う選挙だ。自民党はこれまで挑戦を続けてきた元衆議院議員を擁立したのに対し、維新は前和歌山市議の女性を擁立し、奈良県知事選の勝利をはずみに総力を上げる構えだ。共産党も候補者を擁立する。

さらに参議院大分選挙区は、野党系無所属議員が県知事選に立候補したのに伴う選挙だ。自民党は公募で飲食店の経営の女性候補を擁立したのに対し、立憲民主党は、前参議院議員を擁立し野党の共闘体制で戦う構えだ。

こうした選挙区の勝敗がどうなるかによって、与党側の5選全勝説から、4勝1敗説、3勝2敗説、逆に野党の3勝2敗説などさまざまなケースが予想される。

この勝敗によって、岸田政権の今後の政権運営や、衆議院の解散・総選挙の時期にも影響を及ぼすことになる。どのケースで決着がつくか、選挙情勢をみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

“自民 過半数が焦点”41道府県議選

統一地方選挙の前半戦は、41道府県議選と17の政令指定都市の市議選が31日に告示され、4月9日の投開票日に向けて、選挙戦が一段と熱を帯びてきた。

このうち、41道府県議選は、過去2番目に少ない3139人が立候補し、激しい選挙戦を繰り広げている。

地方議員は、国政選挙では選挙運動の中核になるだけに、各党とも党勢の拡大に力を入れている。自民党が総定数の過半数を獲得できるのか、それとも野党側が阻止できるかどうか、統一地方選前半の大きな焦点になっている。

自民党内では岸田政権の支持率が回復し始めたとして、早期解散論が出始めており、選挙結果は、5月のG7広島サミット後の解散の行方にも影響を与える。道府県議選を中心に各党の取り組みや選挙の焦点をみておきたい。

 自民3回連続過半数なるか、道府県議選

41道府県議選は総定数2260に対し、立候補者は過去最低だった前回から77人増えて3062人、過去2番目に少ない人数になった。

▲自民党は、今回、全体の4割にあたる1306人と最も多い候補者を擁立した。これまでの選挙を振り返ると自民党は、安倍政権時代の2015年の道府県議選で総定数の50.5%の議席を確保し、24年ぶりに過半数を獲得した。

続いて、前回2019年も50.9%の議席を確保した。今回、過半数を獲得すれば、3回連続で過半数を獲得することになる。

自民党をめぐっては、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに旧統一教会と国会議員や地方議員の関係が明らかになり、党本部は地方組織に対して、教団や関連団体との「関係を絶つ」ことを求めている。こうした対応が、今回の選挙戦にどのような影響を及ぼすか、注目点の1つだ。

また、今回は岸田政権に代わって最初の統一地方選挙で、岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化と財源確保のための増税の方針、異次元の少子化対策などがどのような評価を受けるかも注目される。

▲次に、与党の公明党は、道府県議選に前回並みの170人を擁立したのをはじめ、統一地方選で合わせて1555人の候補者を立て、全員当選をめざしている。

前回は、道府県議では全員当選を果たしたが、政令市議選で2議席を失った。今回は、多数の候補者を擁立した維新と激しく競り合う関西での戦いがカギになりそうだ。

 立民は上積み、維新は大幅増をめざす

野党の陣営をみてみると▲立憲民主党は、道府県議選では前回より69人多い246人を擁立し、上積みをめざしている。前回2019年は初めての統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。

しかし、21年衆院選、22年参院選でいずれも敗北が続いており、今回は党勢の低迷から脱却できるかどうか試されている。

▲日本維新の会は、これまでの関西地域を拠点にした政党から脱却し「全国政党」をめざしている。このため、今回の道府県議選では、前回の立候補者83人から、2.5倍にあたる211人を立候補させている。

また、統一地方選全体を通じて、現在400人の地方議員を1.5倍の600人以上に増やすことを目標に掲げている。馬場代表は達成できない場合、代表を退くと明言しており、こうした積極的な戦略が功を奏するかどうか、関心を集めている。

▲共産党は、道府県議選では立候補者数を前回の243人から、188人へ絞り込んだ。共産党をめぐっては、すべての党員による「党首選挙」を求める本を出版した党員が除名される問題が起きており、こうした動きが選挙結果にどのように影響するかも注目される。

▲国民民主党は、道府県議選では46人の候補者を擁立しており、国民民主党系の無所属を含めて改選議席数の倍増、およそ300人の当選をめざしている。

▲このほか、れいわ新選組、社民、政治家女子48、参政の各党も支持拡大をめざしている。

 統一地方選と5補選、解散への影響も

9日に投票が迫った統一地方選挙の前半戦では、9つの道府県知事選挙の戦いが行われる。このうち、与野党の全面対決型は北海道だけで、与党と野党系無所属の戦いとなっているのが大分で、いずれも激しい戦いが続いている。

奈良と徳島は保守分裂選挙となっている。このうち、奈良では、保守系の現職と新人、それに維新の候補との間で、三つ巴の激戦が続いている。

大阪は府知事と市長とのダブル選挙で、維新と非維新の勢力がぶつかる構図だ。

今後の政局へ及ぼす影響という面では、41道府県議選の結果を最も注目してみている。次の衆院解散・総選挙を考えると、道府県議は地域の選挙運動の中心的役割を果たし、各党の党勢のバロメーターになるからだ。

その道府県議選は、冒頭みたように自民党が総定数の過半数を3回連続して維持できるのか。それとも野党側がこれを阻止できるのかどうかが、最大の焦点だ。

もう1つの焦点は、23日の後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補選がどうなるかだ。自民党が議席を獲得していたのが、千葉5区と、山口2区と4区の3つに対し、和歌山1区は国民民主党、参院大分選挙区は、野党各党が統一候補として擁立した無所属議員が議席を獲得していた選挙区だ。

自民党内では勝敗ラインとして、自民党が獲得してきた議席を念頭に「3勝2敗」とする考え方のほか、岸田首相が衆院解散・総選挙に向けて主導権を発揮するためには「5戦全勝」が必要だとする見方が出ている。

岸田政権は、日韓首脳会談や岸田首相のウクライナへの電撃訪問をきっかけに、報道各社の世論調査で内閣支持率の回復傾向が出ている。

統一地方選挙と5つの補欠選挙で、岸田政権が支持率回復の流れを加速することになるのか、それとも世論の厳しい評価を受けて再び低迷することになるのか、分かれ道にさしかかっている。

 選挙離れ社会が進行中、歯止めかかるか

さらに統一地方選挙で気になるのは、投票率がどうなるかだ。41道府県議の平均投票率は、前回2019年は44.02%で、過去最低を記録した。

1995年以降は50%台で推移していたが、2011年に48.15%を記録し、初めて5割を下回った。それ以降、最低水準を更新し続けている。

統一地方選挙の投票率は、これまでも長期低落傾向を続けてきたが、前回は道府県の知事選挙、道府県議の選挙、市区町村長の選挙、市区町村議の選挙の投票率は平均するといずれも、初めて5割を割り込んだ。

最も身近な統一地方選挙で、2人に1人しか投票所に足を運んでいない「選挙離れ社会」が進行中だ。これに歯止めをかけられるのかどうか、この点も今度の統一地方選挙で問われる。(了)