岸田政権の「中間評価」と位置づけられる衆参5つの補欠選挙は、自民党が4議席を獲得する一方、日本維新の会が1議席を獲得した。野党第1党の立憲民主党は、1議席も獲得することができなかった。
この選挙結果をどのようにみるか。まず、勝敗面を客観的に読むと自民・勝利、維新・躍進、立民・敗北と言っていいだろう。
但し、今後の岸田政権の運営や政局の展開を考えると、勝ち方が問題だ。勝利の中身に踏み込んで評価をすれば、”薄氷の勝利”が実態に近いとみている。
焦点の衆議院の解散・総選挙についても、岸田首相は解散カードを手にしているが、高いリスクを伴っていることも顕在化した。候補者の選び方の問題や、無党派層の支持が得られていないことが浮き彫りになった。
一方、野党側では、維新の躍進によって立憲民主党との間で、野党第1党の座を意識した競い合いが激化する見通しだ。その際、次の衆院選では、野党の共倒れをいかに防いでいくのか、野党の選挙戦略も問われることになる。
なぜ、このような見方・読み方をしているか。また、焦点の衆議院解散・総選挙の時期や条件などについてもみていきたい。
自民4勝議席獲得も、高揚感なし
今回の補欠選挙をめぐって自民党内では当初、保守地盤の選挙区が多いこともあって、5戦全勝説が聞かれるなど楽観視する空気が強かった。
ところが、選挙が近づくにつれて野党側の追い上げが激しくなり、最終盤には、最悪のケースとして2勝3敗説がささやかれるほどだった。選挙結果は4勝1敗、喜んでいいはずだが、高揚感は感じられない。そこで、各選挙区の勝敗のポイントを絞ってみておきたい。
▲衆議院山口4区については、安倍元首相の後継者として、自民党新人の吉田真次氏が、立憲民主党の元参議院議員、有田芳生氏らに大差をつけて、当選を果たした。安倍昭恵さんが全面的に支援し、事実上の「弔い選挙」が強みを発揮した。
▲山口2区は、父親の後を継いで立候補した自民党の岸信千世氏が初当選したが、無所属新人で、立憲民主党有志の支援を受けた元法相の平岡秀夫氏に5700票差まで追い上げられた。「世襲批判」が強く働いたものとみられている。
両選挙区とも投票率が2年前の衆議院選挙に比べて、山口2区が9.2ポイント下回って42.4%、山口4区が13.9ポイント低い34.7%で、いずれも過去最低を記録した。選挙から距離をとった有権者がかなりの数に上ったことがうかがえる。
▲和歌山1区は、日本維新の会の新人、林佑美氏が和歌山県内の小選挙区で初の議席を獲得した。前半戦の奈良県知事選で勝利した勢いに乗って、党の勢力を集中したことが功を奏した。維新は大阪、兵庫以外で衆院小選挙区の議席を獲得したのも初めてだ。
自民党関係者に聞くと「党の候補者に問題がありすぎた」とのべ、地元選出の二階元幹事長と世耕参院幹事長との確執で、強力な候補者を選べなかったことが敗因との見方を示した。
▲千葉5区については、自民党の新人、英里アルフィヤ氏が4900票余りの僅差で、立憲民主党の新人の矢崎堅太郎氏らを振り切って勝利した。野党の立民、国民、維新、共産の各党がそれぞれ候補者を擁立し、候補者乱立となったことが自民の議席獲得につながった。
▲与野党の一騎打ちとなった参議院大分選挙は、自民党新人の白坂亜紀氏が、立憲民主党の吉田忠智氏をわずか241票差で初当選を決めた。この背景には、大票田の大分市の投票率が33%へ大幅に下がったことがある。市長選が無投票になったためだが、無党派層を多く獲得していた吉田氏には誤算だった。
このように自民党は、選挙前より1議席多い4議席を獲得したが、選挙の中身は野党側との接戦が多く、何とか競り勝ったというのが実態だ。
また、前半戦の奈良県知事選では党の組織が分裂して敗北したのに続いて、和歌山でも候補者選びが難航したあげく議席を失った。岸田首相や茂木幹事長ら党の最高首脳部の統率力に問題があったのではないかと指摘する声もくすぶっている。
さらに、自民支持層と並んで大きな集団である無党派層の支持獲得についても、野党側に大きな差をつけられた選挙区が目立った。次の衆議院選挙では、都市部を中心に議席を失いかねないと危惧する見方も聞く。
このように自民党内は、保守地盤の和歌山で維新の進出を許したのをはじめ、選挙態勢づくりなどをめぐっても問題点が浮き彫りになったことから、議席を増やしたものの、勝利したとの高揚感は乏しい。
維新躍進、立民と野党第1党争い激化
それでは、野党側の対応はどうか。躍進した維新の馬場代表は記者会見で「和歌山で1議席獲得したことは、関西や全国に党勢を広げていく大きな追い風になる」として、次の衆議院選挙ではすべての小選挙区に候補者を擁立したいという考えを示した。
維新は、今回の統一地方選挙で、地方議員の数を1.5倍の600人に増やす目標を立てたが、非改選を含めて774人となり、目標を達成したことを明らかにした。
また、次の衆議院選挙では野党第1党をめざすとともに今後、3回の衆院選挙で政権交代を実現する構想を打ち出している。
このため、今後、立憲民主党と野党第1党をめぐる競い合いが激化するものとみられる。但し、次の衆議院選挙をめぐって、立憲民主党と維新の両党が互いに候補者を出し合うと、共倒れになる事態も予想される。
維新にとっても、候補者調整などを行わないと小選挙区で多数の議席を獲得するのは難しいとみられる。それだけに競合しながら、野党間の選挙態勢づくりをどうするかの調整が大きな課題になるのではないか。
このほか、立憲民主党は、千葉5区など3つの選挙区に公認候補を擁立したが、議席を確保できなかった。今後、党の態勢の立て直しや、執行部の責任を問う動きが表面化することも予想される。
衆院解散・総選挙をどうみるか?
統一地方選挙と衆参補選が終わったのを受けて、岸田首相は24日「与党・自民党が重要政策だと掲げたものについて、『しっかりやり抜け』と叱咤激励を受けた」として、来月のG7広島サミットや後半国会での重要法案に全力を挙げる考えを強調した。
政界では、岸田首相が通常国会の会期末に衆議院を解散、総選挙に踏み切るかどうかが最大の焦点になっている。
その時期をめぐっては、早期解散の見方がある。一方で、岸田首相自身は強い意欲を持っていても、実際には条件が整わず、秋以降に持ち越すとの見方がある。
例えば、今回の千葉5区のように野党がバラバラだったり、参院大分選挙区のように野党第1党の力量が弱体化したりして、岸田首相が勝てると判断すれば、早期解散を決断する可能性は大いにあるとみることもできる。
しかし、岸田首相が解散に踏み切る大義名分はあるか。また、政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策について、財源の具体策を示し国民を説得できるのか。
さらには、統一地方選が終わったばかりで、早期解散に慎重な公明党の理解を得て、与党の選挙態勢を整えることはできるのか、乗り越えるハードルは多いのも事実だ。
私は後者の見方だが、政界は一寸先は闇といわれるのも事実だ。私たち国民の側も早期解散に備えて常在戦場、岸田政権が取り組むべき重要課題は何か考えておく必要がある。
そのうえで、岸田政権や与野党に対して、重要課題にどんな方針と具体策で臨むのか、早期に明らかにするよう求めていく必要があると考える。(了)