揺らぐ自公、解散、政権への影響は?

次の衆議院選挙の候補者調整をめぐり、自民、公明両党の意見の対立が深まり、公明党が東京での選挙協力を解消する方針を決めた問題で、岸田首相と山口代表が30日会談し、連立政権の枠組みを維持していくことを確認した。

一方、自民党の茂木幹事長と公明党の石井幹事長も会談し、自民党は東京以外に影響が広がらないよう埼玉と愛知で、公明党の候補を推薦する方向で調整を急ぐ考えを伝えた。

このように自民、公明両党の関係が大きく揺らいでいるが、両党の関係はどうなるのか。焦点の衆議院の解散や岸田政権の政権運営にどのような影響を及ぼすのか、探ってみたい。

 埼玉・愛知で協力、亀裂への歯止め

まず、岸田首相と山口代表の党首会談は昼食を取りながらおよそ1時間行われた。この中で、両党の関係や今後の政権運営について意見を交わしたが、公明党が東京の選挙で自民党の候補を推薦しないなどの方針を決めたことについて、岸田首相から言及はなかったとされる。

一方、両党の幹事長同士の会談で、茂木幹事長は両党間の亀裂がこれ以上拡大しないようにするため、次の選挙から選挙区が1つずつ増える埼玉と愛知について「公明党の要望に沿って調整を進めていきたい」とのべ、公明党が擁立を発表している候補を推薦する方向で、地方組織との調整を急ぐ考えを伝えた。

これに対し、石井氏は「なるべく速やかに調整してほしい」とのべた。また、両氏は、全国レベルでの選挙協力に向けて協議を続けていくことでも一致した。

一方、公明党が東京での選挙協力を解消するとした方針の扱いについては、議題として取り上げられなかったという。

このようにきょうの会談は、両党の選挙協力をめぐる亀裂がこれ以上、拡大しないよう歯止めをかけるのが精一杯というのが実態のようだ。

 首相の長男秘書官更迭 波紋広がる

この自公の選挙協力の問題とほぼ同時進行の形で、岸田首相の長男、翔太郎首相秘書官をめぐる問題が表面化した。

翔太郎秘書官をめぐっては、年末に首相公邸で親戚と忘年会を開き、写真撮影をしていたことなどが週刊誌で報じられた。参議院の予算委員会でも取り上げられ、岸田首相は厳重注意をしたと答弁してかわそうとしたが、世論の批判を浴び、29日に更迭に踏み切った。

野党だけでなく、与党からも批判を浴びており、この不祥事で「早期解散は当面、難しくなった」との受け止め方が与野党に広がっている。ただ、一部には「早期解散の流れは変わっていない」と警戒する見方も残っている。

 解散時期、自公の選挙協力体制がカギ

そこで、衆議院の解散・総選挙への影響はどうか。自民党内では、G7広島サミットをきっかけに岸田内閣の支持率が上昇、株価も3万円を超え、これ以上の好条件はないとして、今の国会の会期末に解散に踏み切るべきだとの意見が強まっていた。

ところが、結論を先に言えば、自公の選挙協力が難航し両党の関係に亀裂が入ったことで、早期解散はかなり難しくなったのではないかとみられる。

解散をめぐっては、いろいろな要素が絡むが、端的に言えば、選挙で勝てる見通しがつかないと踏み切ることは難しい。

今問題になっている東京をみると、前回2021年の衆院選挙で自民党は小選挙区で23人の候補者を擁立、このうち21人が公明党の推薦を受け、14人が当選した。

このうち、次点との差がおよそ2万票未満の当選者は6人。公明票は1選挙区で2万票程度といわれているので、この公明票の上乗せがないと当選は厳しいということになる。

全国でみると自民党は小選挙区の277人を擁立し、このうちの95%、ほとんどが公明党の推薦を受けた。このうち、2万票差未満の当選者は57人、1万票差未満は30人。つまり、公明票がないと激戦区で、かなりの議席を失う可能性がある。

そこで、仮に今の国会での6月解散・7月総選挙となると、極めて短い期間に自公の選挙協力体制を整えられるか。また、解散の大義名分、選挙の政策面の争点として何を設定するのか、国民の理解を得るのは難しいとみられる。

他方で、自民党内には、先の統一地方選で躍進した維新などの野党側に対しては選挙体制が整っていない時に解散を打てば有利だとして、早期解散はありうるとの見方もある。

最終的には、岸田首相がどのように判断するかで決まる。個人的な見方を尋ねられれば、岸田政権の現状を冷静に観察すると早期に解散・総選挙を行えるような状況にはならないのではないかとみている。

 自公連立様変わり、選挙協力見通せず

もう1つの焦点である自民・公明両党の連立政権や、岸田政権の政権運営への影響はどうだろうか。

岸田首相と山口代表との会談で、両党による連立政権の枠組みを維持していくことを確認したので、当面、今の連立の枠組みが変わることはないとみられる。重要法案の扱いや主要政策の調整についても従来の方式で進められる見通しだ。

但し、自公の連立がスタートして20年あまりが経過したこともあって、かつての濃密な人間関係は薄れ、連立政権の姿は大きく様変わりした印象を受ける。

振り返ると公明党が連立政権に参加したのは、小渕政権当時の1999年10月だった。前年の参議院選挙で自民党が惨敗し、衆参ねじれ国会となり、自民党の強い要請を受けて、公明党が自自公連立政権の形で政権入りした。

当時の取材メモを読み直してみると小渕首相、野中幹事長が、公明党の神崎代表、冬柴幹事長と水面下でたびたび会談を重ね、連立政権入りを働きかけた。

公明党側は「最初は閣外協力でどうか」などと慎重な姿勢を繰り返したが、最後は小渕首相が「直ちに連立に入り、閣内協力でお願いしたい」と強く要請して実現にこぎつけた。

当時は、金融危機とバブル崩壊後の経済立て直しが最大の課題だった。公明党の連立政権参加で、与党が参議院で過半数を回復した。それ以降、重要な政策決定や選挙態勢づくり、時には政局にも関与しながら双方が一体となって運営に当たった。

第2次安倍政権では、安倍首相は維新との関係が強かったが、公明党に対しては二階幹事長らが調整役を果たしたほか、難問は安倍首相と山口代表のトップが直接、調整に当たった。

これに対して、岸田政権では、首相官邸をはじめ、自民、公明双方ともに真正面方調整に当たる幹部がみられない。今の自公の連立政権は人間関係が希薄で、かつての連立政権と比べると大きく様変わりしている。

今後、問題になるのは、東京の選挙協力をどのように決着をつけるのか、事態収拾の糸口がまったく見えない。東京だけ除いて、それ以外の地域について、選挙協力を進めることができるかどうか、無理がある。

また、公明党は、関西地域で維新と競合が激化する中で、どこで議席を増やすのか。東京で自民党との選挙協力を行わない場合、自民党以外のどの党と協力していくのか、自民党側に疑念を生じさせる可能性もある。

6月21日に迫った通常国会の会期末に向けて、自民、公明両党は重要法案などはこれまで通りの体制で乗り切るものとみられる。但し、夏から秋にかけて予想される内閣改造などの節目には、選挙協力体制を含め両党の関係を再構築することができるかどうか問われることになる。(了)

 

 

終盤国会と解散風で問われる点

G7広島サミットが21日閉幕し、政治の焦点は、終盤国会の与野党の攻防に焦点が移った。同時にサミット効果などで岸田内閣の支持率が上昇し、自民党内では衆議院の早期解散に踏み切るべきだという声が強まっている。

こうした解散風は本物になるのか。終盤国会では何が問われているのか、みていきたい。本論に入る前にG7広島サミットについて、手短に触れておきたい。

結論を先に言えば、これまで日本で開催されたサミット7回の中では、内外の関心を最も集めた首脳会議と言っていいのではないか。

被爆地・広島でのサミットという点もあるが、やはり、世界が一挙手一投足を注視しているウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、G7首脳や新興国首脳との会合に参加した効果が大きい。

G7はウクライナへの支援を強化するとともに、ロシアへの制裁継続を確認した。また、核保有国を含めて各国首脳が原爆資料館を視察し、展示資料を通じて被爆の実態に触れた点も評価していいのではないか。

但し、問題は、全てこれからだ。ウクライナの反転攻勢もこれからであり、欧米の軍事支援が強化されつつあるとはいえ、戦況が好転するか予断を許さない。

専門家によるとこれから数か月、場合によっては半年、大きな山場を迎えるとの見方もある。日本のG7議長国としての役割は、年末まで続く。国内の一部にある早期解散論で浮き足立つような状況には全くないと思うが、どうだろうか。

 終盤国会、防衛・少子化財源問題が焦点

それでは、本論に入って終盤国会はどうなるか。国会の会期は会期末の6月21日まで1か月を切ったが、与野党の論戦の焦点としては、2点ある。

1つは、防衛費の増額に伴う財源確保法案の扱い。2つ目は、岸田政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策の財源をどのような仕組みで確保するかだ。

このうち、防衛費の財源確保法案は23日、衆院本会議で与党の賛成多数で可決され、参議院に送られた。参議院で審議が始まるが、野党の立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党がそろって反対しており、激しい議論がかわされる見通しだ。

少子化対策の財源については、政府は、来年度から3年間で集中的に取り組みを強化するとして、新たに3兆円程度の財源を確保する方向で調整を進めている。

この財源としては、消費増税などの増税ではなく、医療・介護など社会保障費の歳出改革と、社会保険料の上乗せなどで確保することを検討している。

具体的には、健康保険の仕組みを使うことを検討している。これに対して、野党側は「医療や介護など社会保障分野での歳出改革はありえず、社会保険料への上乗せではなく、税で確保するのが筋だ」として、厳しく批判している。

経済界や労働界からも「社会保険料を上乗せすれば、せっかくの賃上げの機運に水を差すことになる」などの異論も出ている。

今月24日と26日には、衆院と参院でそれぞれ予算委員会の集中審議が予定されており、防衛と少子化対策の財源をめぐっては、政府・与党と野党側で激しい議論が戦わされることになりそうだ。

こうした財源問題については、世論の関心も高く、報道各社の世論調査によると政府の防衛増税の方針については、反対の意見が多数を占めている。少子化対策の財源についても社会保険料の活用への賛成は少なく、今後、岸田内閣の支持率にも影響が出てくることも予想される。

今の国会は終始、与党ペースで進んできたこともあって、論戦は極めて低調だった。終盤国会では、防衛と少子化対策の財源問題などを軸に与野党が徹底した議論を尽くすよう強く求めておきたい。

 強まる解散風、勝てる条件・大義名分は

次に衆議院の解散・総選挙をめぐる動きについて、みておきたい。G7広島サミットを受けて、自民党内からは「サミットは大きな成功を納め、世論調査で内閣支持率も上昇している」として、衆議院の早期解散を求める意見が相次いでいる。

こうした背景としては、低迷が続いていた岸田内閣の支持率が回復傾向にあることに加えて、今後は、防衛増税や少子化対策の負担増が具体化してくるので、その前の解散が有利だとの判断が働いているものとみられる。

また、先の統一地方選と衆参補欠選挙で、維新が勢力を大幅に拡大したことから、維新の選挙態勢が整わないうちに解散に打って出るべきだという思惑もある。

一方、与党・公明党の山口代表は、内閣支持率の上昇を理由に解散を考えることは望ましくないとして、早期解散に否定的な考えを表明している。

自民党は小選挙区で議席を獲得するうえでは、公明・創価学会支持層の上乗せで当選した議員も多く、自公の足並みがそろわない中で、与党が勝てる条件を整えられるのか、疑問だ。

また、先の衆院選挙から1年8か月しか経っていない中で、早期解散に踏み切る大義名分は何かという点が問われる。政権与党にとって、今が有利だからというのでは党利党略そのもので、国民の支持はえられないだろう。

 問われる岸田首相の構想と実現力

衆議院の解散・総選挙について、岸田首相は記者団からの質問に対して「先送りできない課題で、結果を出すことに集中しなければならない。今は考えていない」と繰り返し強調している。

一方、自民党内からの早期解散を求める声は強まっており、岸田首相としては最終的にどのように判断するか、今後の焦点だ。

その解散時期について、国民の見方は「今の国会ですぐ」は8%と極めて少なく、「夏以降の年内」18%、「来年」19%、「再来年10月の任期満了まで」が41%で最も多い(NHK世論調査5月)。

要は「解散を急ぐ必要はない」と考えている国民が多い。別の表現をすれば「解散よりも前に、やるべきことがある」と考えている国民が多いということだろう。

岸田首相は、防衛政策の転換で日本の防衛力整備の姿をどのように考えているか。異次元の少子化対策では、何を最重点に実現したいのか。新しい資本主義で何をやりたいのか、いつまでに実行できるのか。

国民は、以上のような岸田政権がめざす政権の具体的な構想を求めているのではないか。その上で、構想を実現していく力を備えているのかどうかを見極めようとしているのではないかと考える。

終盤国会では、大きな論点として残されている防衛と少子化対策の財源問題について、政府・与党と野党側との間で徹底した論戦を尽くしてもらいたい。

そのうえで、国民の側は、岸田首相が解散・総選挙に踏み切るのかどうか。解散の大義名分をはじめ、焦点のウクライナ情勢、政策の争点設定など必要な条件が整っているかどうかで、解散の是非を判断して対応すればいいのではないか。

会期末まで目が離せない緊張した展開が続くことになりそうだ。(了)

★(追記25日22時)次の衆議院選挙に向けた自民・公明両党の候補者調整で、双方の意見の対立が深まり、公明党は25日、東京28区の擁立を断念した上で、東京では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定し、自民党に伝えた。与党の足並みの乱れは、衆院解散・総選挙の時期にも影響を与えることになりそうだ。

 

 

G7広島サミット”世論は冷静思考”

G7=主要7か国首脳会議が19日から3日間の日程で、広島市で開かれる。G7サミットが日本で開かれるのは7年ぶり、7回目になる。

アメリカのバイデン大統領をはじめとする主要国の要人が相次いで来日するので、開催地の広島だけでなく全国的に大規模な警備体制が敷かれる。

また、メデイアを通じて膨大なサミット情報が洪水のように出されることが予想されるが、国民は今回のサミットをどのようにみているか。

一方、政界の一部には、サミット終了後、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかとして、サミットへの国民の反応を注視している動きもある。

そうした中で、NHKの世論調査が発表されたので、このデータをみながら広島サミットへの国民の見方や政治への影響を探ってみたい。

 ウクライナ情勢議論、世論の見方は

さっそく、今回のG7広島サミットを国民はどのように受け止めているのか、この点からみていきたい。

◆サミットでは、ウクライナ情勢が主要な議題になるものとみられている。NHKの世論調査(5月12日から14日実施)では「ロシアの侵攻を止めさせるための実効性がある議論が期待できると思うかどうか」について聞いている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」が26%で、合わせて「期待できる」は28%。これに対して、◇「あまり期待できない」50%、◇「まったく期待できない」16%で、「期待できない」は合わせて66%となった。

◆今回のサミットは被爆地広島で開かれることから、「核兵器のない世界」の実現に向けた機運が高まることを期待できるかどうかについても尋ねている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」27%で、「期待できる」は29%。◇「あまり期待できない」45%、◇「まったく期待できない」20%で、「期待できない」は65%となった。

ウクライナ情勢と、核廃絶の問題ともに目に見えるような成果を早期に求めるのは、難しいとの見方をしている。国民の多くは、サミットの主要課題について、冷静かつ客観的に見極めようとする姿勢・思考がうかがえる。

◆外交分野では、岸田首相と韓国のユン大統領が3月に続いて、今月も首脳会談を行い、対話を重ねていくことを確認したことについて、日韓関係が改善に向かうかどうかを聞いている。

◇「改善に向かうと思う」が53%で、「改善に向かうとは思わない」の32%を上回った。

このように日韓二国間の問題については、積極的に評価しようとする人が多いことも明らかになった。

広島サミットで議長を務める岸田首相はインタビューなどで「平和の象徴である広島にG7首脳が集う歴史的に大きな重みがある」「ロシアが行っているような核の威嚇を拒否していく強い意思を発信する」などの考えを強調している。

これに対して、国民世論はサミットの意義は評価しつつ、首脳会議の内容に実効性があるのかどうか、冷静に見極めて判断しようとしている。サミットを政治的なセレモニーではなく、外交・安全保障などの面で前進しているのかどうか、中身で評価しようとしており、大いに評価できる。

 サミットの年は解散のジンクス、今回は

さて、政界では「サミットの年には、衆議院の解散がある」とのジンクスがある。日本で開かれたサミット7回のうち、4回連続で同じ年内に衆議院が解散・総選挙が行われた歴史がある。

具体的には、1979年の大平元首相、86年の中曽根元首相の時には、衆参ダブル選挙だった。93年の宮沢元首相、2000年の森元首相の時もサミットが行われるとともに衆議院の解散・総選挙が行われた。

その後、2008年の福田元首相の時、および前回2016年安倍元首相の伊勢志摩サミットの時には、解散・総選挙は見送られた。

こうしたジンクスに加えて、政界の一部には、岸田首相は野党の選挙態勢が整っていないのを好機とらえ、広島サミットの勢いに乗って衆議院の解散に打って出るのではないかという見方が根強くある。

◆その岸田首相の5月の内閣支持率はどうか。支持率は46%で、前月より4ポイント上昇し、不支持率は31%で4ポイント減少した。

この結果、岸田内閣の支持率は1月の33%を底に4か月連続で上昇、支持が不支持を3か月連続で上回った。岸田内閣は最悪期を脱し、回復傾向にある。

こうした背景には、通常国会が与党ペースで進み、野党側が存在感を発揮できていないことがある。また、岸田首相が大型連休を利用してアフリカ5か国歴訪や韓国訪問などでメデイアの露出度を増したことも影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣を支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が45%で最も多く、相変わらず消極的支持が多い。支持しない理由としては「政策に期待が持てない」が50%、「実行力がない」が20%と多く、政権が力強さを発揮するような状況にまで至っていない。

 サミット後の早期解散説、世論は少数

◆それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているか。◇「G7広島サミットの後すぐ」は8%、◇「夏以降の年内」18%、◇「来年」19%、◇「再来年10月の任期満了まで」41%となっている。

政界の一部にある「サミット終了後の早期解散説」については、世論の見方は1割にも達していない。任期4年のうち、まだ1年7か月しか経過していないので、国民が解散を急ぐ必要はないと考えるのは当然ともいえる。

このようにみてくると、広島サミットについては、ウクライナ侵攻の停戦に向けた糸口を見いだせるか。核廃絶や核軍縮が一歩でも前進するのか。ロシア、中国対日米欧の構図が続く中で、G7は中国との関係をどのように位置づけて対応していくのかなどが注目される。

一方、サミット後の終盤国会では、防衛費の大幅増に伴う財源確保の法案の審議と、異次元の少子化対策の財源をどのように確保していくのか、待ったなしの状態にある。

会期末に向けて、最終盤の国会では、野党側が内閣不信任決議案を提出するのかどうか。それを受けて、岸田首相が衆議院の解散・総選挙へ打って出るのかどうか、政局が緊迫する局面も予想される。

国民の側は、まずはG7広島サミットの協議の中身を冷静に評価するとともに、政治が今、為すべきことは何か、しっかり見ていく必要がありそうだ。(了)

解散風と終盤国会 ”やるべきことは”

大型連休が終わり、長丁場の通常国会も終盤に入った。永田町では、岸田首相はG7の広島サミットを終えて、会期末に衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの声が聞かれるなど夏の解散風が吹き始めた。

一方、ここまでの国会論戦は極めて低調で、岸田政権や与野党双方とも日本の将来をどのように考えているのか、さっぱり伝わって来ない。加えて、終盤国会は解散をめぐる駆け引きばかりとなると国民は困惑してしまう。

個人的には今、衆議院の解散を行うような状況にはないと考えているので、会期末に向けて浮き足立つ議員の動きを想像すると「解散より前にやるべきことがある」と言わざるを得ない。

終盤国会は、議論を尽くしておくべき3つの論点を抱えている。戦後の安全保障政策の転換といわれる防衛力の抜本強化と防衛増税の扱いが1つ。

また、異次元の少子化対策と財源、それに経済運営の今後のかじ取り。以上の少なくとも3つの論点について、政権与党と野党はそれぞれの方針を明示して、徹底した議論を重ねる必要があると考える。

こうした論点を明確にしたうえで解散・総選挙に踏み切るのであれば、国民も一定の理解を示すのではないか。

逆に論点を曖昧にしたままの解散の場合、厳しい審判が下される可能性があるのではないか。解散風が吹き始めた中で、解散と国会のあり方を考えてみたい。

 防衛費の大幅増、防衛財源は持続可能か

国会は会期末の6月21日まで40日余りとなり、政府提出法案のうち、新年度予算や、かなりの法案が既に成立、または成立のメドがつきつつある。

終盤国会で与野党の対決法案として残るのは、防衛費の大幅な増額をまかなうための財源確保法案がある。衆議院段階で審議が続いている。

政府は2023年度から5年間に防衛費の総額を今の1.6倍にあたる43兆円に増やすとともに2027年度以降、毎年度、防衛費を今より4兆円増やす方針だ。

その財源確保の主な柱として「防衛力強化資金」を創設する方針だ。具体的には、国有地を売却したり、特別会計の剰余金を集めたりして9千億円を見込むのをはじめ、補正予算に活用してきた決算剰余金7千億円をかき集め、税金以外の歳入をためておくための法案だ。

問題は、国有地の売却益や特別会計の剰余金の活用といっても1回限りなので、今後も財源を確実に手当できるかどうかわからない。一方、1兆円強とされる増税は、実施時期が決まっていない。

このように防衛費の大幅増額は決まったものの、財源は確実に確保できるのか、持続可能な安定財源なのか明確にしておく必要がある。

外交・安全保障分野では、今月19日から開催されるG7広島サミットを受けて、ウクライナ支援とロシア制裁、米中対立が激しさを増している中で対中外交をどのように進めていくのか、終盤国会で突っ込んだ議論を行う必要がある。

 少子化対策 優先順位と財源の明示を

岸田政権が最重要課題に位置づける異次元の少子化対策については、3月31日に子ども政策担当相からたたき台が示された。この案を政府が引き取って、岸田首相の下に新たな会議を設けて検討を進めており、6月の骨太方針に盛り込む運びになっている。

政府のたたき台では、子ども手当の所得制限の撤廃や、学校給食費の無料化など大胆な対策が打ち出されているが、防衛費と同じく財源をどう確保するかが最大の問題だ。

今の少子化対策関係予算は6兆1千億円で、これを倍増するには、相当な規模の財源が必要だ。政府・与党内では、消費税率の引き上げを除いて、社会保険料の上乗せや、歳出の見直し、国債発行などの案が出されているが、方向性すら定まっていない。

岸田政権としては、少子化対策の優先順位とどのような財源を組み合わせるのか決断の時期が迫っている。

 働き手大幅減、経済のかじ取りは

3つ目の経済運営の問題はどうか。政府とともに経済・金融政策のかじ取りに当たる日銀は、10年間続いた黒田総裁から、学者出身の植田総裁に交代したが、これまでの金融緩和策は、当面、継続する方針だ。

一方、物価の高騰は続き、東京23区の4月の消費者物価指数は3.5%上昇し、1976年以来46年ぶりの高い水準が続いている。

今年の春闘は大手企業では30年ぶりの高水準の回答が相次いだが、3月の実質賃金は物価上昇の影響で2.9%の減少、12か月連続のマイナスだ。

こうした中で、4月26日に発表された「将来推計人口」によると日本の総人口は50年後には3割減の8700万人に縮小することが明らかになった。特に15歳から64歳までの生産年齢人口、働き手は3000万人も減少するとの予測だ。

日本の過去の実質成長率は、2000年から2021年までの平均で0.65%。経済の専門家は「政府は実質2%の高い目標を掲げているが、高い目標を掲げることだけでは問題の深刻さを隠蔽することになる」と警告している。

岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出したが、政権発足から1年半、何を最重点に取り組むのか、未だにはっきりしない。対する野党は、どのような対案で挑むのか、この国会でも経済論争は未だ深まらないまま、終盤国会を迎えている。

  解散より前にやるべきことがある!

政治の動きに話を戻すと、政府・与党内では岸田内閣の支持率が上昇傾向にあるとして、G7広島サミット終了後、来月の国会会期末に岸田首相は、衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの説を聞く。

この早期解散説の本音は「岸田内閣の支持率はまもなくピークを迎え、下り坂に向かう。野党はバラバラ、体制は整っておらず、今がチャンス」との見方だと思われる。

これを国民の側からみると「国会でろくに議論もしないで、何を基準に選べというのか」と反発する人も多いのではないか。新たな議員を選んだとしても再び同じ議論の繰り返しになりかねない。

先にみてきた3つの論点を思い出してもらうと、答えは自ずと出てくる。「衆院解散・総選挙の前にやるべきことがある」。終盤国会では、主要な論点、選挙の争点にもつながる問題について、まずは、政権が基本方針や構想、実現するための具体策を提示すること。

対する野党側も対案を打ち出すなどして、徹底して議論を尽くすことが基本だとと考える。その上で、首相が総合的に判断して、解散・総選挙で信を問うという次の段階もありうるのではないか。

今の選挙制度に代わって、前の解散から次の解散まで最も短かったのは2003年、小泉首相時代の郵政解散で1年9か月だった。今回、6月解散に踏み切るとさらに短く1年8か月だ。衆院選挙は1回当たり600億円程度の経費がかかる。

経費のレベルの問題ではないが、世界が激しく揺れ動く時代、日本の地位も国際社会で下がり続けている時期に、争点がはっきしない解散・総選挙は御免被りたい。首相、議員の皆さんには「難題解決、将来を切り開いていくための選挙、政治」を行ってもらいたい。日本にはそれほど時間は残されていない。(了)

 

 

 

”早期解散風”の見方・読み方

衆参5つの補欠選挙が終わったのを受けて、政界は大型連休明けからG7広島サミットを経て、6月の通常国会会期末に向けて、与野党の激しい駆け引きが予想される。

最も注目されるのは、国会会期末に野党が岸田政権に対する内閣不信任決議案を提出するか。岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るかどうかが、最大の焦点になる見通しだ。

岸田政権や自民党内では衆参補選が4勝1敗と勝ち越したことから、会期末に衆議院の解散・総選挙に打って出るべきだという早期解散論が聞かれるほか、野党側にも早期解散を警戒する受け止め方がある。

さて、こうした早期解散論はどんな思惑があるのか、実現可能性はどの程度なのか。大型連休の最中だが、平穏な時期に解散・総選挙のあり方をさまざまな角度から考えてみたい。

 早期解散 争点隠しとの見方も

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、先の補欠選挙の結果をどのようにみるかで、考え方に違いがある。自民党は4勝1敗、選挙前より1議席増えたことで、内容はともかく、”勝ちは勝ち”だとして早期解散はありうるとの見方がある。

これに対して、勝ち方の中身をみると和歌山1区で、日本維新の会に議席を奪われたのをはじめ、そのほかの選挙区でも野党側に接戦に持ち込まれ、世論の支持が十分得られていないとして慎重論も聞かれる。

そうした中で、岸田首相はウクライナを電撃訪問したのに続いて、異次元の少子化対策の内容のとりまとめを急いでいる。G7広島サミットを終えて支持率がさらに上がれば、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性は大きいとの見方が、政権与党内に根強くあるのも事実だ。

早期解散の理由としては、岸田内閣の支持率が低迷から抜けだし、回復傾向にあること。G7広島サミットの開催でさらに上昇することが期待できるとして、政権に勢いがあるチャンスを生かすべきだという声も聞く。

一方、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策」の財源確保については、社会保険料の引き上げなど国民負担が避けられない。また、防衛増税の実施時期についても年末までには決定する必要がある。

世界経済はアメリカの金利引き上げなどの影響で下り坂に向かう可能性がある。つまり、早期解散論の背景には、岸田政権はこの先、好材料が見当たらないので、支持率が高いうちに解散に打って出るべきだという判断がある。

このほか、野党側は、日本維新の会は躍進したものの、野党第1党の立憲民主党には勢いがなく、野党低迷の時が有利だとの思惑も働いている。

こうした早期解散論を国民は、どうみるか。少子化対策の財源や防衛増税の決定前の選挙が有利だとする姿勢に見えるので、端的に言えば”争点隠し”、党利党略の色彩が濃い解散と批判的に受け止めるのではないかとみている。

   解散の条件、時期をどう考えるか

さて、衆院解散・総選挙は、最終的には岸田首相が判断するので、与野党の攻防や駆け引きによって、今後、どのように展開するかわからない。そこで、解散の条件や時期について、さまざまな角度からさらに分析してみたい。

まず、解散・総選挙の決断に当たっては、勝てる見通しがあるのかどうかが最大のポイントになる。具体的には、自民、公明両党の選挙協力が機能することが不可欠の条件だ。

ところが、公明党は先の統一地方選挙では、目標の全員当選どころか、地方議員の12人が落選した。1998年の公明党再結成以来初めてという激震に見舞われている。地方組織の高齢化や運動量の低下、各候補への票割りの判断ミスなどが指摘されている。

また、「10増10減」に伴い定数が増える首都圏や愛知県で、公明党は候補者を擁立する小選挙区を増やすよう求めているが、自民党は難色を示し、調整が進んでいない。自公の選挙協力体制が機能しないと早期解散は難しいのではないか。

さらに岸田首相の政権戦略とも関係がある。岸田首相にとって、来年9月の自民党の総裁選で再選を果たすことが、大きな目標だ。そのためには、いつ解散に踏み切るのが有利かという問題でもある。

自民党内では、最大派閥の安倍派の後継会長選びの見通しがついておらず、岸田首相の有力な対立候補が見当たらないとの見方が強い。そうすると衆議院で安定多数を確保しているのに、解散を急ぐ必要はないのではないかといった見方も聞かれる。

一方、野党が低迷している状況で、解散に踏み切るのは、政権与党にとって有利であることは事実だ。しかし、選挙は将来展望を語って国民の支持を得るのが基本で、そうした本来の姿から大きく外れる。

国民の見方はどうか。朝日新聞の4月の世論調査をみると◇「できるだけ早く解散すべき」は22%に対し、◇「急ぐ必要はない」が67%と圧倒的多数を占める。

以上、さまざまな要素を総合して考えると、私は早期解散の確率は低いとみる。しかし、岸田首相自身は政権運営は極めて順調で、国民に信を問いたいと考えるかもしれない。岸田首相の意欲の問題と、解散に踏み切る条件は整っているか、2段階でみていく必要があると考える。

 停滞日本の立て直し、終盤国会で論戦を

衆議院の解散・総選挙の是非、あり方はどのように考えたらいいのだろうか。安倍政権当時「不意打ち解散」と呼ばれたように野党の備えがない時をねらって解散を断行、政権与党が勝利したケースも頭に浮かぶ。

解散・総選挙の基本は、政権が取り組むべき課題と対策を明らかにして、野党側と徹底して議論を交わし、国民の判断を仰ぐのが基本だ。国民自身もそのように願っていると思われる。

今の日本が抱える問題、例えば、この20年間の実質経済成長率は0.6%に止まり、賃金も上昇しない状態が続いてきた。科学技術力も論文引用数でみると22年前は世界4位だったのが、今や12位に後退している。生産年齢人口は今後、50年間で約3000万人も減少するとの予測が先日、公表された。

停滞日本をどのように立て直すのか、かねてから政治が問われている大きな課題だ。岸田政権も焦点の異次元の少子化対策の財源をどうするのか、具体策が中々、決まらない。去年決まった防衛増税の実施時期も年末までかかりそうだ。

衆議院議員の任期は、まだ1年半しか経過していない。この1点からして、早期解散にはかなり無理があると感じる。

国民の多くは、早期解散より、停滞が続く日本経済・社会の立て直しにどのように取り組むのか、そのために政治は何をやるのか、政権の明確な方針と与野党の論争を期待している。連休明けの国会では、政争・駆け引きではなく、日本再生に向けて熱のこもった真剣な論戦をみせてもらいたい。(了)