“マイナカード混乱”岸田政権に重圧

マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいる問題で、岸田首相は「重く受け止めている」と陳謝する一方で、来年秋に保険証を廃止し、マイナカードと一体化する方針は予定通り進めていく考えを表明した。

これに対し、報道各社の世論調査では「反対」が「賛成」を大幅に上回り、岸田内閣の支持率が急落している。支持率低下の背景には、岸田政権の看板政策である少子化対策や防衛費の財源確保策に対する評価の低さも関係しているものとみられる。

与野党とも秋の衆院解散・総選挙を想定して準備を加速しているが、世論の関心が高いマイナカードの問題は、岸田政権の政権運営に重くのしかかり、解散・総選挙戦略にも大きな影響を与えるのは避けられない情勢だ。

 マイナカード混乱、内閣支持率直撃

読売新聞が23日から25日に行った世論調査で、岸田内閣の支持率は41%で、前回調査から15ポイントも急落した。不支持率は44%で11ポイント増えて、支持率と不支持率も逆転した。

焦点のマイナカードのトラブルについて、政府は適切に対応していると「思う」は24%に止まり、「思わない」が67%に達した。

また、政府が現在の健康保険証を廃止し、マイナカードに一体化する方針についても「反対」は55%で、「賛成」の37%を大幅に上回った。

これより先の17、18の両日行われた朝日、共同、毎日各社の世論調査でも同じ傾向が表れた。岸田内閣支持率を前月比でみると、朝日は4ポイント減の42%、共同は5.7ポイント減の40.8%、毎日は12ポイント減の33%となっており、いずれも支持率より、不支持率が上回った。

G7広島サミット直後に上昇した岸田内閣の支持率は、わずか1か月で大きく様変わりした。

 支持率急落、曖昧・先送り政治に嫌気も

それでは、岸田政権に支持率急落をもたらした原因としては、どこに問題があるのか。マイナカードへの対応から、具体的にみていきたい。

マイナカードをめぐるトラブルは、今年3月以降コンビニで住民票など別人の証明証が発行される不具合が各地で起きたほか、カードに情報を紐づける登録の誤りが、健康保険証、年金、公金受取口座、障害者情報などで続発した。

特に国民の関心が高いのが、来年の秋までに今の健康保険証を廃止してマイナンバーに一体化する問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、秋までにすべてのデータについて総点検を行うとともに「保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することを大前提に取り組む」と強調した。

これは、健康保険証廃止にこだわっていないのかと思ったが、質疑で「従来の方針のもとに進める」とのべ、方針を変更しないことが明らかになった。

国民は、マイナンバーの活用はデジタル社会へ対応するため、必要性は理解している。但し、高齢者などの弱者にはさまざまな準備やサポート体制が必要だ。

自分の親が高齢者施設に入り、認知症の症状などがある場合、マイナカードの申請、交付後の保管、パスワードの管理、日常の受診などの対応がそれぞれの家庭でスムーズにできるだろうか。

また、マイナカードのサイトで閲覧できる情報を総点検することになったが、点検すべき分野は29項目にものぼる。市区町村や健康保険組合などに点検作業を要請、事実上の丸投げとなるが、大量の情報を確認する要員などに余裕はあるのだろうか。

こうした点を想像すると、来年秋に期限を区切った健康保険証の廃止は見直した方がいいのではないか。また、今回のような大がかりなシステムは、故障などが起きた場合、バックアップ体制はできているのか、制度設計についても聞きたい点は多い。

さらに、岸田政権が最重要課題と位置づける「次元の異なる少子化対策」についても内容、財源の問題ともに世論の評価は低い。

岸田政権は、児童手当の拡充などに年間3兆円台半ばの予算を組む一方、「国民に増税や実質的な負担増も生じさせない」と強調する。しかし、財源の具体策には言及せず、年末の予算編成に先送りになっている。

防衛増税の実施時期についても「来年以降」から「再来年・2025年以降も可能となる」が表現が、今年の骨太方針に盛り込まれた。

このように岸田政権では、看板政策でも中身が曖昧で、肝心な点が先送りにされた政策が多い。また、政府側の説明や、国会の議論も少なく国民に対して積極的に説得しようとする姿勢がみられない。

国民の多くは将来、必ず大きな問題となる財源などの扱いを曖昧にしたまま、先送りを続ける政治にも嫌気がさしているのではないか。そうした国民の受け止め方が、岸田政権の支持離れにつながっているのではないか。

 マイナ混乱は政権に重圧、解散にも影響

さて、政界は先の通常国会の最終盤で、衆院解散が見送られたことで、秋の解散の可能性が増しているとみて、与野党は走り出している。

ところが、岸田内閣の支持率が急落し、この状態が続けば、岸田政権の求心力が低下し、解散戦略にも影響が出てくることも予想される。

まずは、岸田政権がマイナンバーカードをめぐる総点検の結果を明らかにするとともに、再発防止策を明確に打ち出すことが必要になる。

また、政界では、防衛力強化や少子化対策の財源を年末に先送りしたことは、秋の解散に踏み切る可能性が増したとみる見方もある。

しかし、国民の多くはそうした「負担隠しの小手先の対応」はお見通しで、そうした動きをする政党や候補者には厳しい審判を下すのではないかと予想している。難題を抱えているからこそ、世論の反応・潮流は大きく変わりつつある。

岸田政権にとって、今回のマイナカード問題は重圧となって政権を覆っているように見える。懸案に真正面から取り組み、一定の成果を上げて支持率を回復しないと、秋の解散・総選挙の展望も開けてこないとみている。(了)

“首相の求心力が カギ”秋の解散・総選挙

長丁場の通常国会が21日に閉会する。最終盤の国会は一時、解散・総選挙へ突入かと緊迫したが、岸田首相は解散見送りを表明して決着した。

今回の解散、岸田首相は本気だったのかどうか?岸田首相はかなり早い段階で、解散先送りを決めていたのではないとみているが、真相はどうだろうか。

もう一つは、次の解散・総選挙の時期が焦点になるが、「岸田首相の求心力がカギ」を握っている。私もかつて政治報道に携わってきたので、1取材者の立場から、今回の岸田首相の対応について、思うところを率直にお伝えしたい。

 6月解散、岸田首相は本気だったか?

衆院解散・総選挙をめぐる動きは、13日夜、岸田首相が記者団に対し「情勢をよく見極めたい」と発言したのをきっかけに、解散風は一気に勢いを増した。

民放のある報道番組では「首相は解散に踏み込んだ」との解説が流れ、翌日には別の民放局が「野党側が16日に不信任決議案を提出すれば、即日解散になる」などと報じ、政党の幹部の中には選挙対策会議を開くなど対応に追われた。

ところが結果はご存じの通り、15日夜、岸田首相が記者団に対し「今の国会での解散は考えていない」と表明し、6月解散は見送りになった。

岸田首相は、本当にこの時まで解散・総選挙を行う考えを持っていたのだろうか。この点は、見方が分かれるところで、整理しておく必要がある。

そこで、岸田首相の本気度は、どこをみておくとわかるか。首相官邸の首脳、自民党執行部、派閥の領袖、与党・公明党首脳などを取材し、情報を総合して判断するのが基本である。

それに加えて、解散・総選挙では、取材のポイントというものがある。ベテランの自民党関係者に聞くと「保守政党・自民党は、解散当日、総理・総裁が出席して『選対本部開き』を行い、『公認詔書』と『為書き』を手渡す重要な行事がある。ところが、この準備を行っていない」と指摘していた。

つまり、「公認証書」や「為書き」は、総裁をはじめ限られた党役員が手分けして、選挙区と氏名を手書きする。この準備は、数週間はかかるといわれる。そこで、官邸関係者と、自民党の複数の幹部を取材したが、こうした準備が行われているとの情報は得られなかった。

したがって、一部で岸田首相が解散に向け踏み込んだとされる13日時点では、実は、解散を考えてはいなかったのではないか。解散に含みを持たせることで、野党をけん制し、防衛財源確保法など最重要法案の乗り切りが本当のねらいではなかったかとの見方をしている。

以上を整理すると、岸田首相が解散戦略として、当初からサミット後の早期解散をねらっていたのは事実だと思う。そして、サミットが閉幕、内閣支持率の上昇はみられた。ところが、5月下旬以降、政権にとって想定外の事態が続いた。

一つは、長男の前首相秘書官の「公邸内忘年会」が週刊文春にすっぱ抜かれ、更迭に追い込まれた。また、公明党が東京での選挙協力の解消を打ち出した。さらに、看板政策であるナンバーカードのトラブルが相次ぎ、6月7日には「公金受取口座」の登録の誤りが13万件も確認された。

これでは、6月解散は無理で、6月第2週には、既に解散見送りを覚悟していたとみるのが自然ではないか。但し、この間の詳しい経緯の情報は確認できていないので、現役記者諸氏の取材・検証に期待したい。

  ”利用されるな、傍観者になるな”

解散をめぐるメデイア報道について一言、触れておきたい。1つは、解散・総選挙は政治記者にとっても最大の取材対象だが、政権側が流す情報に飛びついて、裏を取らずに間違った情報を流すなと先輩記者から戒められたのを思い出す。「利用されるな」と。

他方、「傍観者になるな」も重要な点だ。つまり、ミスを恐れて挑戦せず、思考停止、傍観者のような対応も論外だ。

解散・総選挙報道は、いかなる事態にも即応することが求められる。難しい取材の連続だが、いかに「正確な情報に基づく予測報道」を行うことができるか、この点でも現役記者の皆さんの活動に期待したい。

 秋の解散は難問、政権の求心力が左右

それでは、岸田政権はこれからどのような政権運営を行うだろうか。岸田首相は来年9月の自民党総裁選での再選をにらみながら、夏から秋にかけて内閣改造・自民党役員人事に踏み切るとともに、秋の解散・総選挙を探るものとみられる。

秋の解散・総選挙ができるかどうか、大きなハードルが控えて折り、難問だ。1つは、内閣改造・自民党役員人事で、政権の体制を強化できるかどうか。今の時点では、ポスト岸田の有力候補が見当たらないので、相対的に優位にあるのは事実だ。

一方、岸田派は党内では4番目の規模の勢力で、人事につまづくと党内の不満が強まり、政権が不安定化するリスクを抱えている。今回の解散をめぐっても「解散権をもてあそぶような姿勢が感じられ、好ましくない」などの批判もくすぶっている。

2つめは、次の衆議院選挙に向けて公明党との関係修復ができるかどうかだ。公明党側は「東京での協力解消は見直さない」と硬い態度を崩していない。

3つめは、今回も問題になったが、「解散の大義名分」があるかどうか。国民との関係で言えば、防衛費に続いて、少子化対策についても裏付けとなる財源確保の具体策は年末に先送りになった。

財源問題を曖昧にしたまま、秋に解散・総選挙を行うことになれば、国民から、将来の負担を隠すねらいがあるのではないかと厳しい批判が出てくることも予想される。

解散の大義名分と、懸案についての明確な方針を打ち出さないと世論の支持は得られず、政権の求心力が低下するのではないか。その場合、秋の衆院解散は難しく、来年以降に先送りされることもありうることも予想される。

通常国会が21日に閉会する。まずは、岸田首相がいつ内閣改造・自民党役員人事に踏み切るか。また、国民が今回の解散問題を含め、岸田政権の対応をどのように評価し、政権の求心力に変化が出てくるかどうかを注目している。(了)

 

国会大詰め”6月解散説”の読み方

通常国会の会期末を21日に控えて、岸田首相は6月解散・7月総選挙に踏み切るのかどうか、与野党ともに緊張感が増してきている。

前回の衆院選挙から1年8か月も経っていない中で、本当に解散に踏み切るのかどうか。今回の解散をめぐる構図と可能性、それに解散の是非をどのようにみたらいいのか多角的に分析し、考えてみたい。

 早期解散、首相サイドと自民幹部との溝

今回の衆院解散・総選挙をめぐる動きは、既に詳しく報道されているので省略して、ここでは、解散をめぐる「与党内の構図」を中心に整理しておきたい。

まず、岸田首相の今年の政権運営は、G7サミットを地元・広島で開催して成功させた後、その勢いに乗って通常国会の会期末に衆院解散・総選挙に踏み切るというのが、首相のベスト・シナリオだと自民党内では受け止められてきた。

そのG7サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領の参加効果が大きく、政治的には成功裏に終わり、直後のメデイアの世論調査で支持率は上昇した。

ところが、首相の政務秘書官を務めていた長男の行動などが週刊誌で取り上げられ、更迭したことが批判を浴び、支持率が下落するなどの動きが続いている。

こうした中で、岸田首相に近い遠藤総務会長は「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」などと盛んに解散風を吹かしてきた。

また、10増10減に伴う候補者調整などに当たっている森山選対委員長は、調整が最終段階にあるとして、選挙態勢が整ってきたことを明らかにした。

自民党執行部の動きとしては5日、役員会の前に岸田首相と麻生副総裁、茂木幹事長3者会談が行われた後、麻生、茂木の両氏は夜、長時間にわたって会食した。党関係者によると「早期解散には大義名分が必要」などとして、早期解散に慎重な意見が出されたという。

翌6日、二階元幹事長は記者団のインタビューに応じ「解散はいつあっても結構だが、何もせずに解散風をふかせるのはけしからん」と最近の動きをけん制した。

このように自民党内では、岸田首相と近い立場の幹部は、早期解散を有力な選択肢として模索しているのに対し、ほかの幹部は異論は唱えないものの「半身の構え」で、慎重な立場をとっているのが特徴だ。

こうした背景としては、早期解散論の幹部は「サミットは成功、支持率も上昇、株価は3万円台の高値で、これ以上のタイミングはない」と強調する。そのうえで「野党はバラバラ、特に維新の選挙態勢ができていない今、選挙をやるべきで、必ず勝てる」と力説する。

これに対して、慎重な幹部は「支持率は高いといっても自民支持層で、岸田内閣を支持する割合が回復していない。また、公明党との選挙協力がギクシャクしたまま選挙になると公明票が見込めず、思わぬ結果を招く」とけん制する。

早期解散に慎重な意見は、閣僚経験者などベテラン議員に多い。今年4月の衆参5補選で自民党は4勝したが、野党の乱立に救われたと楽観論を戒める。

また、自民、公明両党間の候補者調整をめぐって、両党の関係に亀裂が生じたことの影響を懸念する声が根強いのも特徴だ。

前回の衆院選挙で、自民党の小選挙区での当選者189人のうち、次点との差が2万票以内は57人、1万票以内は30人にも達した。公明党・創価学会票は1選挙区2万票程度とされるので、この票のゆくえ次第で議席の大幅な減少も予想される。

公明党が解消の方針を決めた東京の選挙協力については、関係修復の糸口を見いだせておらず、時間がかかる見通しだ。その公明党は、早期解散には反対だ。

このように自民党内、公明党を含めた与党内も早期解散論でまとまっているわけではない。自民党の関係者によると、党内はかなり慎重論が強いという。

そうした中で、主導権発揮に自信を深めているとされる岸田首相が独自の判断で「6月解散」へ踏み込むのか。それとも「秋口以降」の解散を選択するのか、その最終決断を見守っているのが今の状況だ。

 大義名分、主要政策の具体策の提示は

もう1つの焦点は、衆議院の解散・総選挙の大義名分は何か、国民との関係の問題がある。「大義名分など後で考えればいい」と語る幹部もいる。しかし、そうした考えは昭和の時代は通用しても、今の時期は受け入れられないだろう。

自民党の伊吹元衆議院議長は1日、所属していた二階派の会合で、早期解散の観測について「支持率が上がって自民党に有利だとか、党の総裁選挙をうまく運ぶためといった私利私欲で解散したら、国民はみんな見ていて簡単に勝てない」と今の永田町の動きに苦言を呈した。

自民党内には「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」といった意見がある。しかし、国民はそのような政争レベルの理由を聞いているのではない。内外で激動が続く中で、岸田首相は国民生活を安定させていく覚悟と、具体的な政策と道筋を準備しているのかを問うているのだ。

岸田政権は、昨年末に防衛力の抜本強化や、年明けに異次元の少子化対策を相次いで打ち出した。但し、肝心の裏付けとなる財源については、未だに具体策を打ち出せていない。

その防衛財源確保のための増税の実施時期について、政府は当初の「来年以降」の方針から、「再来年・2025年以降」へさらに先送りもできるよう骨太方針に盛り込むことを検討している。

少子化対策、防衛財源についても、具体策は年末の予算編成まで先送りする方針が固まりつつある。

こうした対応は、岸田首相の解散戦略と関係している。要は、国民に不人気な負担の問題は年末まで先送りしたうえで、「6月解散」か、「秋の解散」で乗り切ることをねらっていると政界では受け止められている。

岸田首相は今年1月の施政方針演説で「先送りできない課題に正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく」「(新たな安定財源確保に)今を生きる我々が将来世代への責任として対応して参ります」と決意を表明した。

こうした決意や覚悟はどこへ行ったか。政権が懸案解決に向けた具体策を打ち出したうえで、国会で野党と論戦を戦わせ、論点を明確にして、選挙で国民に信を問うのが、政治の王道だ。

6月解散論は、大義名分が見当たらず、懸案解決の具体策も示さないまま、今が有利と選挙に勝つことを目標に突き進んでいるようにみえる。

仮に実現した場合も、伊吹元議長の指摘する総裁再選を目標にした「私利私欲解散」、あるいは「負担増・増税隠し解散」などの厳しい批判の声が予想される。

 6月解散は?論点・争点設定が重要

最後に直近の問題として、6月解散の可能性はどの程度あるのかという問題に触れておきたい。難しい質問だが、私個人は、6月解散の可能性は低いのではないかとの見方をしている。

但し、不確定要素として最後まで残るのは、岸田首相がどのように決断するかだ。これまで触れたように自民党内のかなりの幹部は早期解散には慎重だ。それでも岸田首相が解散を決断すれば従うとみられるので、解散の可能性が残る。

一方、仮に解散に踏み切るのであれば、その前にやるべきことをやったうえで、決断することを求めたい。それは、岸田政権が懸案から逃げずに将来の解決策と展望を示すことだ。

それに対して、野党も自らの主張や対案を示しながら、論戦を挑んでもらいたい。与野党が論点・争点を明確にして、選挙に臨むのが政治の責任だ。

そうした論戦を踏まえて、解散・総選挙となるのであれば、国民としても納得するのではないか。国民にとっては、解散に至るプロセスが重要だという点を強調しておきたい。

国会の会期末が21日に迫る中で、岸田首相は13日夜、少子化対策で記者会見を行った。この中で、今の国会で解散する考えがあるかと問われたのに対し、岸田首相は「情勢をよく見極めたい」とのべるに止めた。

NHKの今月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、今年1月を底に4か月連続で上昇していたが、6月は43%で3ポイント下落した。不支持は37%で6ポイント増え、その差は縮まった。

G7サミットの評価は高かったが、長男の前首相秘書官を更迭した問題やマイナンバーの誤登録問題が直撃したものとみられる。自民党の支持率も34.7%と相対的には高い水準にあるが、下降傾向が続いており、今月は岸田政権発足以来、最も低い水準となっている。

最終盤の国会は、最重要法案の防衛財源確保法案の扱いと、野党側が内閣不信任決議案を提出するかどうか。その上で、岸田首相が6月解散について、どのような最終判断を示すかが最大の焦点だ。じっくり、見極めたい。(了)

★(追記16日、21時30分)岸田首相は15日夜、記者団の取材に応じ「今の国会での解散は考えていない」とのべ、野党側から内閣不信任決議案が出された場合は否決し、衆議院を解散しない考えを明らかにした。

★国会は16日の衆議院本会議で、立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案について、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決した。

 

”2つの懸念”岸田政権 少子化対策案

岸田政権が最重要課題に位置づける「次元の異なる少子化対策の方針」案がまとまった。30ページの方針案を一読すると、児童手当の所得制限を撤廃するなど経済的給付の具体策が詳細に示されている。

一方、財源については、増税や実質的な負担増を生じさせないとして新たな枠組みを提示しているが、具体策は年末に結論を出すとして先送りになっている。

こうした少子化対策案をどうみるか。結論を先に言えば、2つの懸念がある。1つは、給付の裏付けとなる財源を確保するための「持続可能な制度設計」になっていないのではないかという疑問。

もう1つは、政治との関係だ。年内にも衆議院の解散・総選挙が取り沙汰されている中で、財源確保の具体策を示していないと「論点隠し、争点隠し」といった批判を受けるのではないか。

政治の王道は、時の政権と与野党が懸案への方針を示し、論争を重ねたうえで、選挙で国民が決着を付けるのが基本だ。岸田政権は、こうした2つの懸念に対して、早急に新たな考え方や対応策を打ち出してもらいたい。

 支援策、児童手当拡充など3年間集中実施

第1の懸念である財源確保の問題に入る前に、政府の少子化対策のうち、支援策の中身をみておきたい。

政府は少子化対策を強化するため、今後3年間を集中的な取り組み期間と位置づけ、年間3兆円台半ばの予算を組んで、対策を加速するとしている。

具体的には、児童手当の所得制限を撤廃したうえで、対象も高校生まで拡大するのが大きな柱だ。

また、高等教育にかかる費用の負担軽減策として、授業料の減免や給付型の奨学金について、年収600万円程度までの中間層にまで広げた上で、さらなる拡充を図るといった支援メニューを数多く並べている。

こうした「加速化プラン」で子ども家庭庁の予算は今の5兆円からおよそ1.5倍増えるとしたうえで、2030年代初頭には倍増をめざすとしている。

支援策に対しては「異次元」といえるほどの規模や内容かといった批判も予想されるが、これまでに比べると踏み込んだ対策として、一定の評価はできるのではないかと考える。

 財源確保、持続可能な設計設計か疑問

問題は、こうした対策を実行していくうえで裏付けとなる財源をどう確保するかだ。方針案では、必要となる財源は◇「社会保障費の歳出改革」に加え、◇社会保険の仕組みを活用することも念頭に、社会全体で負担する新たな「支援金制度」を創設する。◇制度が整うまでの不足分は、一時的に「子ども特例公債」を発行してまかなうとしている。

このうち、新たな「支援金制度」は今後検討し、年末に結論を出すとして、先送りしている。

「社会保障費の歳出改革」についても、内容や規模は示されていない。年末の新年度予算案の編成課程で検討を進めるものとみられ、年末に先送りされている。

岸田首相はこうした財源問題については、消費税などの増税は行わない考えを示している。「徹底した歳出改革を行うことなどで、実質的に追加負担を生じさせないことをめざす」と強調している。

増税も社会保険料の上乗せ負担も避けるとなると「歳出改革」が中心になるが、医療や介護などの社会保障分野で、歳出の見直し・削減で、兆円単位の財源を捻出できるとは思えない。

したがって、政府の方針案は「安定した財源確保と持続可能な制度設計」にはなっていないのではないか。こうした疑問・懸念に真正面から答えてもらいたい。

 政権が方針を明示、選挙で政策決定を

2つ目の懸念は、具体的には次の衆議院選挙との関係だ。現状のままでは、肝心な財源問題がはっきりしない中での選挙になる可能性がある。判断材料が示されないので、「論点隠し、争点隠しの選挙」という批判を招くのではないか。

政界では衆議院の解散・総選挙が、年内にも行われるのではないかとの憶測が飛び交っている。最も早いケースは今の国会の会期末といった説も出されるなど与野党の国会議員は浮き足立っている。

政界関係者の間では、今回の財源問題先送りは岸田政権の解散戦略とも連動しており、財源問題・負担増の結論を出す前に、秋口に解散・総選挙を行うねらいがあるのではないかといった見方も出されている。

こうした疑心暗鬼を生じさせないためにも、岸田政権は財源問題について早急に具体的な考え方を明らかにすべきだと考える。

そのうえで、国民に信を問うのが筋ではないか。そうしないと国民の政治参加、選挙で政策を選択・決定という権利を封じることにもなる。

政府の対応を振り返ってみると岸田首相は年明けの記者会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げ、3月末には少子化担当相の下で支援策のたたき台をとりまとめた。

そのうえで、総理官邸に設けた会議で検討を重ね、6月の骨太方針に「内容、予算、財源の大枠を示す」と繰り返し表明してきた。ところが、財源確保の具体案は年末へ先送りになった。これでは、あまりにも対応が遅すぎるのではないか。

岸田政権は、少子化対策の核心部分である財源確保について、具体案を示すべきだ。それに対して野党側も対案などを示し、議論を深めて論点を明確にすることが政治の側の責任だ。

そのうえで、衆議院解散・総選挙で信を問うというのであれば、与野党が選挙を通じて主張を展開し、最終的には国民が選択、1票を投じて決定するのが、政治の基本だ。国民がこうした筋の通った政治、選挙になることを求めるのは、当然の注文だと考える。

国会は6月21日の会期末を控え、与野党の攻防が次第に激しさを増しているが、今月2日に厚生労働省から「2022年の人口動態統計」が発表された。

それによるとこの1年間に生まれた赤ちゃんの数は77万人余りで、初めて80万人を割り込んだ。出生率は1.26で過去最低。死亡者数から出生数を差し引いた自然減は79万人、山梨県や佐賀県のほぼ1県分の人口がなくなったことになる。

人口減少は猛烈なスピードで進んでいる。少子化問題が政治に大きな衝撃を与えたのは1.57ショック、平成元年だ。既に30年余りが経過しているが、思うような成果を上げていない。岸田首相は、安定した財源に基づく強力な少子化対策案を早急に明らかにすべきだ。(了)