健康保険証廃止”広がる延期論”

来年秋に今の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードと一体化させる政府の方針に対して、廃止の時期を遅らせることも含めて見直すべきだという意見が、与野党や世論の間で広がってきた。

今月26日に参議院特別委員会で行われたマイナンバー問題の閉会中審査で、立憲民主党など野党側は「政府は国民の理解が得られないまま、健康保険証の廃止を強引に進めようとしている」として、健康保険証の廃止見直しを強く迫った。

自民党の委員も「来年秋の期限ありきではなく、国民の信頼回復を優先して、国民の理解を求めるべきではないか」と質した。公明党の委員も「行政や関係者の都合が前面に出すぎているのではないか」と政府の姿勢に疑問を示した。

これに対して、河野デジタル担当相は「マイナンバーカードへの一体化のメリットは大きい」と強調したうえで、「紙の保険証を廃止した後も最大1年間の猶予期間を設けており、この期間も活用して丁寧に説明し不安を払拭したい」とのべ、保険証の廃止を予定通り進めていく考えを表明した。

こうした政府の方針に対しては、自民党の幹部からも異論が相次いでいる。萩生田政務調査会長は「期限ありきで進めるべきではない」と指摘したのに続いて、世耕参議院幹事長も「必ずしも期限にこだわる必要はない」として、政府に柔軟な対応を取るよう注文をつけている。

 世論は反発、内閣・自民支持率も低下

こうした政府の方針に対する見直し論が、与党からも出されるようになった背景は何か。国民の側から、強い批判や反発が強まっていることが挙げられる。

報道各社の世論調査のうち、最新の読売新聞の調査(7月21~23日実施)によると、今の健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化することに「賛成」は33%に止まり、「反対」は58%に達する。

岸田内閣の支持率は35%で、先月より6ポイント下落して、岸田内閣発足以降最低となった。不支持率は52%で、前回より8ポイント増加して去年12月に並び最高になった。マイナンバーカードをめぐる混乱が影響しているものとみられる。

自民党の支持率については、NHK世論調査(7月7~9日実施)では34.2%で、岸田政権発足以降最低を記録した。朝日新聞の世論調査(7月15、16両日実施)では28%に減少した。同党の支持率が20%台になるのは、2020年6月以来だという。

このようにマイナンバーをめぐる問題は、岸田内閣の支持率を急落させただけでなく、これまで堅調だった自民党の政党支持率にも影響を及ぼしている。与党の幹部はこうした事態に危機感を抱いている。

 強まる包囲網、問われる首相の指導力

それでは、岸田政権が今、問われている点は何か。マイナンバーをめぐるさまざまな問題のうち、国民の関心が高いのは健康保険証の廃止問題だ。野党だけでなく、与党、それに国民の間でも見直し論が広がっており、政府に対する包囲網が強まっているのが今の状況だ。

岸田政権は、通常国会最終日の6月21日に「マイナンバー情報総点検本部」を立ち上げた。そして、今年の秋までに健康保険や年金など、政府のサイト「マイナポータル」で確認できる29項目の情報について、マイナンバーカードに正しくひもづけされているかを総点検して、再発防止策を講じる方針を決めた。

岸田首相はその日の記者会見で「保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することが大前提だ」と強調した。

ところが、これまで1か月以上経過したが、具体的な取り組みは進んでいるとはいえない。岸田首相は、総点検実施本部長は河野デジタル担当相に委ね、7月に衆参両院で行われた閉会中審査にも出席しなかった。

岸田首相は、総点検の中間報告を当初の8月下旬から、8月上旬に前倒しする指示を出したが、それ以外、指導力を発揮した場面はみられない。

26日の閉会中審査でも、政府がマイナンバーカードを持たない人に発行するとしている「資格証明書」はどれくらいの規模の人数に発行するのか、申請方式なのかといった制度設計の中身について、はっきりした答弁はなされなかった。

29項目の個人情報の総点検についても、どのような方法で行い、コストや期間はどの程度かかるかも、わからない。岸田首相は、国民の不安を払拭すると強調するが、裏付けとなる具体的な行動が伴わないのである。

読売新聞の世論調査で、マイナンバーカードをめぐるトラブルへの対応について、岸田首相は指導力を発揮していると思うかどうか尋ねている。「発揮していると思う」はわずか12%、「思わない」が80%と圧倒的多数を占めている。

この世論調査の結果から、国民の側は「さまざまな問題が相次いで起きているが、政府の対応は不十分であり、岸田首相は先頭に立って陣頭指揮すべきだ」と厳しい評価と注文を付けていることが読み取れる。

したがって、岸田首相は、7月末まで行ってきた総点検の結果を早急にとりまとめるとともに点検結果に基づいて、政府の新たな方針と具体策を打ちだせるかどうかが問われる。その結果と国民の評価は、岸田政権の今後の政権運営を大きく左右することになるだろう。(了)

”真夏の地方行脚も険しい道”岸田首相

ヨーロッパ訪問に続いて中東3か国歴訪から帰国した岸田首相は、21日から全国各地へ足を運んで国民との対話を行う地方行脚をスタートさせる。

岸田政権の主要政策に国民の理解を得るとともに、秋の解散総選挙をにらんだ布石との見方もある。

華やかな首脳外交とは対照的に国内では、内閣支持率の急落と自民党支持率の低下傾向が表れているが、夏の地方行脚で政権浮揚は可能なのか、探ってみたい。

 首相”原点に立ち返り、国民の声を伺う”

中東3か国歴訪から19日に帰国した岸田首相は、今度は21日から栃木県を訪問するのを手始めに鳥取、島根、福岡などの各地を訪れ、視察や対話集会などに出席する予定だ。

岸田首相は通常国会が閉会した先月21日の記者会見で「今年の夏は再度、政権発足の原点、政治家・岸田文雄の原点に立ち返って、全国津々浦々の現場にお邪魔して、皆さま方の声を伺うことに注力していく所存です」と語っていた。

岸田首相は一昨年10月の政権発足直後に始めた「車座対話」を重視しており、少子化対策など政権の重要課題をテーマに国民との対話を再開して、政権の態勢立て直しを図りたい考えだ。

 内閣支持率急落、自民支持率も低下へ

その岸田首相を取り巻く情勢は、自ら「原点に立ち返る」といわざるを得ないほど厳しさを増している。それは、7月の報道各社の世論調査に表れている。

今月7日から9日に行われたNHK世論調査では、岸田内閣の支持率は38%で5か月ぶりに30%台に下落し、不支持率は41%に達した。自民党の支持率も34%で、他党に比べて高いものの、岸田政権発足以来最も低い水準となった。

今月15、16の両日行われた朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は5ポイント減の38%、不支持率は4ポイント増の50%で半数に達した。自民党の支持率は28%まで低下し、安倍内閣がコロナ対応で苦しんだ2020年6月以来の低い水準だ。

このように報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率は、いずれも不支持率が支持を上回る逆転状態となっている。自民党の支持率もこれまで堅調に推移してきたが、ここに来て岸田内閣の支持率低下が、自民党の支持率を押し下げる形になっているのも特徴だ。

こうした原因としては、マイナンバーカードをめぐる混乱が大きく影響している。政府の対応の評価について、NHKの調査では「適切だと思わない」が49%で、「適切だと思う」の33%を上回った。朝日の調査でも「評価しない」が68%を占め、「評価する」の25%を大きく上回った。

来年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する政府の方針について、朝日の調査では「反対」が58%で、「賛成」の36%を上回った。

NHKの調査では「(保険証を)予定通り廃止すべき」は22%だったのに対し、「廃止を延期すべき」が36%、「廃止の方針を撤回すべき」が35%だった。「延期」と「撤回」を合わせると7割にも達した。

ここまでトラブルが発生しながら、岸田首相は河野デジタル担当相などに対応を事実上、丸投げし、その河野担当相は総点検の最中に2度にわたって外国訪問に出かける予定だ。

国民からすると、政府は真剣に取り組む気はあるのか、緊張感がなさ過ぎるとの受け止め方が読み取れる。内閣支持率の急落は、直接的にはマイナンバーをめぐる問題が大きく影響していると言って間違いないだろう。

 看板政策の低い評価を打破できるか

岸田内閣の支持率急落や自民党支持率の低下の背景としては、マイナンバーの問題もあるが、もう少し踏み込んで考えると岸田政権の看板政策への評価の低さと対応の問題が影響しているとの見方をしている。むしろ、問題の本質は、後者にあるのではないかとみている。

例えば、岸田首相が今年1月に打ち出した「次元の異なる少子化対策」。この少子化対策の評価については、NHKの世論調査では「期待している」は33%しかなく、「期待していない」が62%と多数を占める。

これは、子ども予算を年間3兆円台半ばまで増やすことは評価するものの、肝心の財源確保の具体策が明らかにされていないことが影響しているものとみられる。将来、社会保険料などの負担増で自らの生活に跳ね返ることがあるからだ。

また、防衛費の増額についても、政府の説明は「十分だ」は16%に対し、「不十分だ」が66%を占めた。3月時点の調査結果だが、防衛増税の開始時期は未だに決まらず、年末の予算編成まで先送りになったままだ。

さらにマイナンバー制度の推進、これも岸田政権の看板政策だ。ところが、こうした政権の看板政策への対応については、いずれも国民の評価が低く、異例の状態といえる。

特に国民に不人気な増税や負担増の問題はとにかく避けたいという姿勢が目立つ。これに対して、今は、国民の賃金引き上げや投資の拡大を最優先にすべきだという擁護論もあるが、政権としてもそのように考えるのであれば、堂々と訴えるのが本来の姿だ。

岸田首相は「丁寧に説明する」「真摯に対応する」と繰り返すが、説明の中身はほとんど同じで、結論も変わらないことが多い。「糠に釘、暖簾に腕押し」などの受け止め方が広がり、国民の側に岸田政治に対する期待感の低下があるのではないか。

したがって、岸田首相が問われているのは、将来のあるべき姿を示して、国民に真正面から説明、不人気な政策でも国民を説得していく姿勢が求められているのではないか。今度の地方行脚では、そうした政治姿勢を打ち出せるかが問われていると考える。

政界では、岸田首相は秋の解散・総選挙に打って出るのではないかとの見方は根強くある。しかし、今のような内閣支持率の低迷が続いている状態では、とても衆院の解散は打てないのではないかとみている。

岸田首相のこの夏の地方行脚は、秋の解散風が本物になるかどうかの判断材料としても注視している。(了)

風向き変わる岸田政権、5か月ぶり不支持率が逆転

先の通常国会の最終盤では一時、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの情報が飛び交い緊迫した場面もみられたが、先送りとなった。政界は今、国会が閉会し一段落しているが、各党とも秋の解散に備えた準備に余念がない。

政治の焦点は、マイナンバーカードをめぐる混乱への対応と、秋の解散・総選挙のゆくえに移っている。こうした中で、NHKの7月の世論調査がまとまった。

それによると岸田内閣の支持率は2か月連続で下落し、5か月ぶりに支持率を不支持率が上回り、逆転したのが大きな特徴だ。

岸田内閣の支持率は、回復基調にあったが、世論の風向きが下降局面へと変わりつつある。こうした世論の変化の背景や、岸田政権が対応を迫られている課題などを分析してみたい。

 回復基調から、不支持が増え逆転

さっそく、NHK世論調査(7月7日~9日)の7月のデータからみておきたい。岸田内閣の支持率は38%で、先月から5ポイント下落した。不支持率は41%で、先月から4ポイント増えた。

支持率の下落は2か月連続で、支持率を不支持率が上回って逆転するのは、今年の2月以来、5か月ぶりになる。

岸田内閣の支持率は、今年1月の33%を底に上昇が続き、5月の46%まで回復基調にあった。ところが、6月、7月と2か月連続で下落し、世論の風向きが変わりつつある。

岸田内閣の支持層をみると、与党支持層のうち、岸田内閣を支持する割合は、7割を下回った。無党派層の支持は18%で、岸田内閣発足以来、最も少ない状況だ。

政権を支える与党支持層と、最も大きな集団である無党派層の支持がいずれも低下しており、政権に勢いがみられない。

一方、岸田内閣を支持しない理由としては「政策に期待が持てないから」が46%で最も多く、次いで「実行力がない」が22%を占める。

このうち、「実行力がない」は先月より5ポイント増えた。これは、マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいることが影響しているためとみられる。

 健康保険証の廃止方針、反対が7割も

そのマイナンバーカードをめぐる問題だが、相次ぐトラブルを受けて、政府は秋までに専用サイトで閲覧できるすべてのデータの総点検を行う方針を打ち出した。

こうした政府の対応について、世論調査の結果は「適切だと思う」が33%に対し、「適切だと思わない」が49%で上回った。

また、政府が、来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させるとしている方針については「予定通り廃止すべき」は22%。「廃止を延期すべき」が36%で、「廃止の方針を撤回すべき」が35%となった。

つまり、政府の廃止方針を支持している人は2割に止まり、健康保険証の廃止の延期や、撤回を求める人が合わせて7割を占める結果となった。

さらに、政府が今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保して、児童手当の拡充などに集中的に取り組むとしている少子化対策についても「期待する」は33%に対し、「期待していない」が62%と倍近くに達している。

この理由についての質問項目はないが、少子化対策の具体的な財源確保について、政府は曖昧にしたまま、年末まで先送りしている。こうした政府の対応に対する国民の不信や不満が影響しているものとみられる。

このように岸田内閣の支持率低下は、第1にマイナンバーカードの問題に対する政府の対応策について、国民の多くが疑問や不安を抱いていることが大きく影響しているものとみられる。

もう1つは、少子化対策に代表されるように岸田政権は、大胆な歳出増を伴う政策を次々に打ち出すが、政策の裏付けとなる財源確保などの核心部分が曖昧で、説明も不十分だと受け止めていることが影響しているとみられる。

岸田政権は、こうした主要政策の内容を明確にするとともに、国民に対して説明を尽くす姿勢を打ち出さないと、国民の支持を回復することは難しいのではないかとみている。

 政権の浮揚策、秋の解散も高いハードル

それでは、秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙のゆくえはどのようになるだろうか。

政府・与党内では、岸田首相は外交日程などをこなした上で、9月中旬を軸に内閣改造・自民党役員人事を行うとの見方が示されている。そして、内閣支持率や選挙情勢などを見極めた上で、秋の解散・総選挙選挙も選択肢として検討しているのではないかとの観測もある。

その際、各党の支持率が問題になるが、7月の自民党の支持率は34.2%で、他の党に比べて優位にある。但し、今年に入って自民党の支持率は低下傾向が続いており、7月は岸田政権発足以来、最も低い水準だ。

また、自民、公明両党は東京の選挙区調整をめぐって対立が続いており、両党の選挙協力が完全に修復できるのかも不安材料として残されている。

一方、野党側では、次の衆議院選挙で野党第1党をめざしている日本維新の会の支持率が5.6%で、立憲民主党の5.1%を上回っている。維新の支持率が上回るのは3か月連続だが、その差は次第に縮小しており、野党間の戦いも激しさを増す見通しだ。

さらに、岸田首相が秋の解散・総選挙を断行する際には、内閣支持率の上昇が不可欠だが、政権浮揚の有力な材料を見いだせているわけではない。

むしろ、焦点のマイナンバー問題がどのような形で決着がつくのか。また、内閣改造と自民党の役員人事が国民からどのよう評価を受けるのか。さらには、与野党の選挙情勢がどのようになるのか不透明な要素が多く、秋の解散・総選挙のハードルはかなり高いとみている。(了)

 

 

“主軸なき政権”安倍氏死去1年

安倍元首相が選挙応援演説中に銃撃され、死去した事件から、7月8日で1年を迎える。

安倍元首相は憲政史上最長の通算8年8か月にわたって政権を担当、退陣後も様々な発信を続けていた。

安倍氏の死去は、岸田政権にどのような影響を及ぼしたか。また、これからの岸田政権や日本政治は何が問われることになるのか、探ってみたい。

 中心軸みえない政治、自民党の構造問題

さっそく、安倍元首相死去の影響から、みていきたい。あるベテラン国会議員は「政界の風景、空気が大きく変わった。安倍政治がいい、悪いは別にして、まったく別の世界になった感じがする」と語る。

安倍元首相は2020年に政権を退いた後、自らの派閥の会長に就任し、自民党の右派を代表する形で、さまざまな発信を続けた。これに対し、岸田首相はもう一方の柱として、安倍氏の協力を求めながら政権運営に当たった。2つの点が中心になって政権与党を運営するという岸田首相の「楕円の論理」だ。

ところが、安倍氏が死去したことで、自民党内の柱の1つが倒れたままで、新たな体制を作り直せなかったのが、岸田政権のこの1年ではなかったか。もう一方の柱である岸田首相の指導力も強いとは言えないので、政権の中心軸がみえない状態が続いたと言えるのではないか。

その結果、岸田政権は衆議院選挙に続いて、去年の参議院選挙にも勝利したものの、旧統一教会問題や閣僚の相次ぐ不祥事と更迭で、政権の安定が長続きしない。

今年3月になって、岸田首相のウクライナへの電撃訪問や、5月のG7広島サミットの成功で、支持率が回復した。

ところが、ここでも首相秘書官に抜擢した長男の軽率な行動や、マイナンバーカードをめぐるトラブルで足下をすくわれ、内閣支持率が急落し、政権の求心力が再び低下する事態に追い込まれている。

その自民党は、二階元幹事長や麻生副総裁ら党の重鎮も第一線でいつまでも活躍できる状況ではない。また、岸田首相の後継をめざす次の有力なリーダーも見当たらないのが実態だ。

「安倍長期政権時代に次のリーダーを育成しておくべきだった」と自民党関係者の声をよく耳にする。次の時代を担うリーダーをいかに確保していくのか、人材難が大きな構造問題として横たわっている。

 安倍派「5人衆」体制へ模索続く

次に安倍元首相の派閥、安倍派の新しい会長選びはどうなるか。これまでも去年の国葬が終わった時点、今年5月の派閥の資金集めパーティーなどの節目があったが、進展はみられなかった。

安倍氏の1周忌が近づいた6月30日、安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部が会談し、「5人衆」を中心とした体制への移行をめざす方針を確認した。顔ぶれは、松野官房長官、西村経産相、萩生田政調会長、高木国対委員長、それに世耕参議院幹事長だ。

これに対して、会長代理を務めている塩谷立氏や、下村博文氏らベテラン議員の間からは、反発する声も出ている。

一方、「5人衆」の体制移行が決まったとしてもそれぞれの役割分担をどうするかという難問を抱えている。◇萩生田氏を派閥の会長、総裁候補を西村氏にする分離案、◇萩生田氏と、世耕参議院自民党幹事長を共同代表にする案、◇総裁候補とは距離のある高木氏を会長にする案などが取り沙汰されているという。

7月6日に派閥の総会を開き、新体制について協議する予定だ。派閥に大きな影響力を持つ森元首相も「5人衆」の体制には理解を示しているといわれる。派内のベテラン組との調整が焦点だ。

安倍派は衆参100人の議員が参加する自民党の最大派閥だ。派閥の歴史と論理からすると、派閥の跡目争いは最後は次をめざす幹部の思惑が一致せず、分裂するケースが多い。

仮に、「5人衆」の集団指導体制がとられても自民党の総裁選や、衆院解散・総選挙といった大きな動きが近づくと、一枚岩の体制が崩れる局面が出てくるのではないかとみている。

 人事と実行力がカギ、解散は波乱要因に

最後に岸田政権とこれからの政治はどう動くか、みておきたい。まず、岸田首相は頼りなさそうに見えるが、政権を投げ出すような性格ではない。

また、自民党内には、ポスト岸田をねらう有力候補がいないことに加えて、反岸田の不満勢力をまとめ上げる幹部も見当たらないことから、来年の総裁選挙に向けては、岸田首相が相対的に優位な立場にある。

そこで、まず、注目されるのは、夏から9月にかけて行うとみられる内閣改造と自民党役員人事で、政権の体制強化につながるかどうかだ。

特に幹事長ポストは、政権与党の中心軸になるだけに、今の茂木幹事長の続投を認めるか、それとも別の幹部に差し替えるかがポイントだ。

また、衆議院の解散・総選挙をいつに設定するかも大きな問題になる。先の通常国会の最終盤で、岸田首相サイドは早期解散を模索したが、自民党側は冷静な反応が目立った。

秋の解散・総選挙といっても政権発足からまだ2年、タイミングを誤ると、与党側からも強い反発が予想され、政権が揺らぐ波乱要因にもなりかねない。

さらに、岸田政権については「何をやる政権か、未だにはっきりしない」などの声が与党からも聞かれる。防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策などを打ち出すが、肝心の財源は曖昧なままで、結論を先送りする手法にうんざり感も広がる。

政権が最優先で取り組む課題を設定して、実行していく力を示すことが必要だ。そうした取り組みを通じて、岸田首相が「安倍元首相なきあとの中軸」になれるかどうかが試されている。

つまり、人事と政策課題の実行力で、政権の求心力が高まるかが秋の政局のゆくえを左右する。

一方、報道各社の世論調査によると、自民・公明の連立政権を続けることに反対意見が半数を超えるようになった。野党についても、野党第1党の役割を立憲民主党より、維新に期待する人が多くなっている。

自民党の単独政権が終わったのが1993年。それ以降、連立政権の時代に入ってから今年でちょうど30年になる。国民は今の連立時代の政治に対して、限界を感じ、変化を求めているようにもみえる。

次の衆院解散・総選挙の時期は年内か、来年以降になるのかは不明だが、次の総選挙では、政権の姿や政治のあり方が、新たな論点の1つとして浮上してくるのではないかと予想している。(了)