補正予算案と年内解散説のゆくえは

岸田首相は26日の閣議で、新たな経済対策を10月末をめどにとりまとめるよう各閣僚に指示した。

とりまとめにあたっては、緊急課題の物価高対策や賃上げ促進だけでなく、半導体などの国内投資や人口減少対策、それに防災対策など国民の安心・安全確保の5つの柱を挙げており、内容は多岐にわたる。

これを受けて、政府、与党はそれぞれ具体策の検討に入っているが、どこまで効果のある対応策を打ち出せるかが問われる。

また、対策実現の裏付けとなる補正予算案の規模が大きな焦点になる。コロナ禍では補正予算案の規模が膨張したが、感染も収まっているだけに「平時の予算編成」に戻るのか、それとも大盤振る舞いが続くかも注目点だ。

さらに、今回は岸田首相が、補正予算案の国会提出時期に言及しないことから、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が消えず、疑心暗鬼を生んでいる。解散・総選挙をめぐる思惑が経済対策づくりにも影響を及ぼしそうだ。

そこで、補正予算案の扱いと年内解散説との関係をはじめ、今後、どのような展開になり、何がポイントになるのか探ってみたい。

 秋の臨時国会、想定される2つの道

さっそく、政治日程から見ていきたい。秋の臨時国会は10月中旬に召集される見通しで、冒頭に岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問、それに内閣改造を受けて、岸田政権の政権運営をめぐって与野党の論戦が続く見通しだ。

10月末に経済対策がまとまれば、補正予算案の編成作業が進められ、11月中旬以降には終わる見通しだ。通常であれば、補正予算案の国会提出を受けて、衆参両院で予算審議を行い、11月下旬から12月上旬までに成立するのが通常のパターンだ。

ところが、もう一つ別のパターンも想定される。政府・与党は、新たな経済対策をとりまとめて国民にアピールした後、補正予算案の提出を見送り、衆議院の解散・総選挙に打って出るケースだ。

わかりにくい方もいると思うので、似たような過去の例をあげると、2014年11月の安倍政権当時の「不意打ち解散」がある。当時、安倍元首相は11月18日に急遽記者会見し、翌年10月から予定されていた消費税率10%への引き上げを先送りして、21日に衆議院を解散して信を問う意向を表明した。

予定通り衆議院は解散され、総選挙は12月2日公示、14日投開票の日程で行われた。「不意打ち解散」とも言われたように、野党側は選挙態勢が整わず、自公両党の与党側が大勝した。

但し、年末選挙になった関係で、予算編成は年を越え、年明けの通常国会に補正予算案と新年度予算案が提出された。新年度予算案は年度内には成立せず、暫定予算を成立させたあと、本予算の成立は4月にずれ込む影響が出た。

このように補正予算案を編成し、そのまま国会に提出して成立させる道と、もう1つ、補正予算案の提出を見送り、解散に打って出る道もある。後者は、王道と言えないと思うが、政治の世界は何が起きるか、わからない。

 経済対策の評価と内閣支持率がカギ

それでは、今回、岸田首相はどのような選択をするだろうか。安倍元首相が「不意打ち解散」に踏み切った時、安倍内閣の支持率と、自民党の政党支持率はともに高い水準を保っていた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が追い風となっていた。

これに対して、岸田政権の場合、9月の報道各社の世論調査をみると、内閣改造を行った後も岸田内閣の支持率は横ばい状態で、上昇効果は見られなかった。支持率より、不支持率の方が上回る逆転状態が続いている。

自民党の政党支持率も岸田政権発足以降、最も低い水準だ。衆議院の比例代表選挙の投票先としても、30%を下回る水準に止まっている。

以上のような状況でも自民党内の一部には「年を越えても岸田政権に好材料が見当たらないこと」。また「野党の選挙態勢が遅れている年内に解散に踏み切った方が有利だとして、年末解散をめざすべきだ」という意見がある。

一方で、自民党内には「世論の支持が得られていない状況では、年内解散は行うべきではない」という慎重論も聞かれる。

岸田首相としては、前回衆院選から10月末で折り返し点に達することから、年内も含めて、解散・総選挙に踏み切る時期を探っているものとみられる。

但し、年内解散のためには、10月22日に行われる衆議院長崎4区と、参議院の徳島・高知選挙区の補欠選挙はいずれも自民党の議席だっただけに、両方とも勝ち抜くことが早期解散の必須条件との見方が党内では根強い。

また、岸田内閣の支持率が大幅に改善しないと「年内解散は無理」との見方が広がりそうだ。このため、年内解散のハードルはかなり高いとみられる。

最終的には、10月末にまとまる政府・与党の新たな経済対策がどのような評価を受けるか。そして、岸田内閣の支持率も大きく改善するかどうか。この2つの評価で、補正予算案の扱いと年内解散のゆくえを占うことができそうだ。(了)

 

 

“政権浮揚効果見えず”岸田改造内閣

先の内閣改造と自民党役員人事を受けて、報道各社が行った世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率については、先月を上回った調査もあったが、前回と同じか、横ばいの水準に止まる結果の方が多かった。

また、人事全体の評価については、いずれの調査とも「評価しない」が「評価する」を大幅に上回った。

世論調査のデータからは、与党が期待していたような「政権浮揚効果」は見られず、岸田改造政権は厳しい出発になる。

また、秋の衆院解散・総選挙についてもハードルがさらに高くなったと言えそうだ。なぜ、こうした見方になるのか、以下、説明していきたい。

 人事の評価は低調、支持率も低迷続く

さっそく、報道各社の世論調査から見ていきたい。まず、岸田内閣の支持率については、◇共同通信は39.8%で、先月の調査より6.2ポイント増、◇朝日新聞は37%で、4ポイント伸びて微増となった。

一方、◇読売新聞は35%、日経新聞は42%で、それぞれ先月と同じ水準だった。◇毎日新聞は25%で1ポイント減、ほぼ横ばいとなった。

一方、今回の内閣改造と自民党役員人事全体の評価については、◇読売の調査では「評価する」が27%に対し、「評価しない」が50%だった。◇朝日の調査は、改造内閣の評価を聞いており、「評価する」が25%に対し、「評価しない」が57%だった。

このほかの調査結果も「評価する」より「評価しない」方が大幅に上回り、同じ傾向を示している。

この2つのデータを基に判断すると、今回の内閣改造と自民党役員人事については、国民の評価は低く、政権与党が期待したような内閣支持率を大幅に引き上げる「政権浮揚効果」は見られなかったと言える。

 内輪の人事、何をしたい人事か不明

それでは、なぜ、このように国民の評価が低いのか。岸田首相は、改造直後の記者会見で「変化を力に変える内閣」と位置づけ、「変化を力として、閉塞感を打破していく。強固な実行力を持った閣僚を起用した」と胸を張った。

国民からすると、内閣の要の官房長官や財務相、経産相などの主要閣僚と、党の副総裁、幹事長、政調会長は軒並み留任。変化と言えば、初入閣が11人、女性閣僚が過去最多と並ぶ5人となった点だが、刷新感はなく、強固な実行力も感じられないというのが率直な印象だろう。

また、2日後の副大臣と政務官合わせて54人の人事を見て驚いた国民も多かったのではないか。女性の起用はゼロ、全員男性だった。女性の閣僚を多数起用し、「女性活躍」を訴えた方針は、早くも看板倒れの形になった。

今回の人事をめぐっては与野党双方から、岸田首相が来年秋の総裁選での再選をねらった内向きの人事との声が聞かれる。自民党の長老に聞いても「初入閣が多いのはいいが、国民には何をやる内閣かさっぱり、伝わらないのではないか」と指摘する。

初入閣の中には、旧統一教会との接点があるとされる閣僚が4人含まれており、秋の臨時国会では、野党側から厳しい追及を受けることが予想される。

世論の評価や期待度が低いことは、政権の政策を後押しする力が弱いことにつながる。内外に数多くの懸案・課題を抱えている中で、政権が一丸となって、難局を乗り切っていく体制を整えられるのかどうか、早々に試される。

 秋の衆院解散、困難との見方強まる

秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙の時期について、影響はどうだろうか。まず、自民党の一部にあった秋の早期解散シナリオは、困難とみられる。

早期解散シナリオとは、内閣改造で支持率を回復させたうえで、大型の経済対策と補正予算案を編成し、臨時国会に提出して早期の解散に打って出るというものだ。しかし、前提となる政権の浮揚効果がみられず、構想の実現は困難だ。

それでも自民党内には、年を越えると「追い込まれ解散」の恐れがあるとして、年末の解散・総選挙に踏み切るべきだという意見もある。岸田首相は、こうした年内解散を含めて、解散の時期を探るものとみられる。

このため、10月中旬に召集される見通しの臨時国会の攻防が、焦点になる。岸田政権は、物価高騰対策を含めた経済対策をまとめ、その裏付けとなる補正予算案を提出し、支持率を回復させ、政局の主導権を確保したい考えだ。

これに対し、野党側は、旧統一教会との接点がある閣僚の適格性をはじめ、マイナンバーカードの総点検の状況と保険証の今後の扱い、物価高騰対策の遅れや、経済運営の基本方針が定まっていないとして、政府の姿勢を追及する構えだ。

一方、朝日の世論調査では、政党の支持率が自民党は28%で、3か月連続で30%を切ったほか、衆院選挙の比例代表の投票先も31%に止まっている。野党側の投票先では、維新が14%、立憲民主党が11%などとなっており、こうした選挙情勢も岸田首相の解散戦略に影響を及ぼすので、注意が必要だ。

以上みてきたように改造人事では、政権の浮揚効果が見られなかったことで、秋の政局は、臨時国会での与野党の攻防が焦点になる。

世論調査のほとんどで、岸田内閣の支持率は、支持より不支持率が上回る逆転状態が続いている。臨時国会で、岸田政権が主導権を確保し、内閣支持率も回復するのか、それとも野党攻勢の国会になるのか、大きなポイントになる。(了)

“総裁再選ねらいの布陣”岸田政権 改造人事

岸田首相は13日、内閣改造と自民党役員人事を行い、新たな体制をスタートさせた。岸田政権の組閣と改造は、今度で3回目になるが、今回の人事をどのように見たらいいのだろうか。

結論を先に言えば、今回の人事は、2つの大きな特徴がある。1つは、岸田首相は来年秋の自民党総裁選をにらんで、その布石を打った人事であるという点。

2つ目は、初入閣が11人と多く、女性閣僚も過去最多の5人に上る。これは、低迷する内閣支持率を改善し、政権の浮揚へとつなげるねらいがある。

但し、こうしたねらいが功を奏するかどうか。自民党の長老は、短期間で支持率上昇などは期待しない方がいいし、秋の解散・総選挙もハードルが高いと指摘する。人事の背景や、岸田政権の政権運営に及ぼす影響などを探ってみた。

 総裁選へ体制固め、けん制と封じ込め

今回の内閣改造と自民党役員人事について、自民党関係者に聞くと「岸田首相は、茂木幹事長の処遇に迷っていた。最終的には、茂木氏に代わる適任者が見当たらずに留任を選択したのではないか」との見方を示す。

今回の人事では、自民党のNo2である幹事長の扱いをどうするかが、最大の焦点だった。「岸田首相は、幹事長を代えたいと考えている」として、茂木氏を幹事長から外し、内閣の重要閣僚として処遇する案が一時浮上した。

また、幹事長候補として、鈴木財務相や、小渕優子組織運動本部長、森山選対委員長や萩生田政調会長などの名前が浮かんでは消えた。

これに対し、茂木幹事長は入閣には難色を示したといわれる。また、茂木氏交代の場合、今の岸田・麻生・茂木の3派体制が崩れ、政権運営が不安定になるといった指摘も出され、岸田首相は最終的に茂木氏続投を決めたとされる。

但し、茂木氏留任とともに、総務会長に森山選対委員長を配置し、その後任に小渕優子氏を抜擢した。小渕氏は将来の首相候補の一人とも目されており、岸田首相は、茂木氏をけん制するねらいもあって起用したものとみられている。

一方、前回の総裁選に立候補した河野デジタル担当相と、高市経済安保担当相も退任説があったが、留任となった。閣内に止めた方が得策との判断があったものとみられる。

さらに、岸田首相は、安倍派の萩生田政調会長と人事の直前、2回も会談するなど安倍派重視の姿勢を示した。「5人衆」とも呼ばれる幹部は、いずれも同じポストにそのまま止まり、派閥としては最も多い4人が入閣した。

今回の人事は「総主流派体制」とも言われるが、実態は、岸田首相が来年の総裁選での再選をにらんで、ポスト岸田の候補をけん制したり、閣内に封じ込めたりする布陣とした点に大きな特徴がある。

 主要閣僚は留任、女性閣僚は過去最多

閣僚人事については、首相を除く19人の閣僚のうち、13のポストが入れ替わった。このうち、11人が初入閣で、女性の閣僚は5人にのぼり、2001年の小泉内閣や、2014年の安倍改造内閣と並んで過去最多となった。

女性閣僚では、上川陽子元法相が外相に就任したほか、子ども担当相に加藤紘一元幹事長の長女の鮎子氏が抜擢され、話題になっている。

一方、松野官房長官をはじめ、鈴木財務相、西村経産相、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相、斉藤国交相の主要閣僚6人は留任し、内閣の骨格はそのまま維持される形になった。

派閥の内訳は、最大派閥の安倍派と第2派閥の麻生派が最も多い4人で、続いて岸田派と二階派が2人、谷垣グループが1人、無派閥が2人で、公明党はこれまでと同じ1人だった。各派閥に目配りをした「総主流派」で、党内の安定した運営を重視する姿勢が読み取れる。

改造内閣発足を受けて、岸田首相は13日夜、記者会見し、今回の人事について「『変化を力にする内閣』だ。経済、社会、外交安全保障の3つを柱に取り組んでいく」とのべるとともに、物価高などの経済対策を来月中をメドにとりまとめる考えを表明した。

また、衆議院の解散時期について問われたのに対し「今は、経済対策を作り、早急に実行していくことを最優先に日程を検討していく」とのべ、言及を避けた。

 改造人事、解散時期も世論の評価がカギ

これからの岸田政権の運営の取り組み方について、自民党の長老に聞いてみた。「女性の閣僚を多数起用したが、これで直ちに内閣の支持率が上がるとは思えない。初入閣の閣僚も多いので、まずは、内外の多くの課題にじっくり腰を落ち着けて、取り組みを進めるべきだ」と指摘する。

そのうえで、「内閣支持率がジワジワと上がっていくことをめざした方がいい。一定の成果が出ないうちに、解散・総選挙とはならないのではないか」とのべ、年内の衆院解散・総選挙は難しいとの見方を示している。

これに対して、自民党内には、野党の選挙態勢が整わないうちに早期解散に踏み切るべきだという意見もあり、岸田首相がどのような判断を示すかが焦点になる。

問題は、国民が今回の岸田政権の人事や政策をどのように評価するかだ。改造直前に行われたNHK世論調査(8~10日実施)によると、岸田内閣の支持率は36%に対し、不支持率は43%で、支持率を上回った。不支持の理由は「政策に期待が持てない」と「実行力がない」が7割を占める。

今回の改造で、内閣支持率がどうなるか。また、来月には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。政権与党と、野党側が多くの懸案について、真正面から突っ込んだ議論を戦わせてもらいたい。

その結果で、衆議院の解散・総選挙の時期や是非などについても、一定の方向が見えてくるのではないかと予想している。(了)

秋の政局 見方・読み方”3つの焦点”

この夏は異常な猛暑が続いているが、暦は9月に入り、今年も残すところ4か月になった。5月のG7広島サミットでは存在感を発揮した岸田首相も今は、内閣支持率が政権発足以降、最低の水準まで落ち込み、厳しい局面が続いている。

さて、秋の政治はどう展開するのか?結論から先に言えば、3つの点がカギを握るとみる。1つは内閣改造・自民党役員人事。2つめは政権が抱える難題処理、3つめが衆院解散・総選挙のゆくえだ。この3つの焦点を軸に秋の政局を読み解きたい。

 内閣改造人事、政権浮揚か空振りか

最初に秋の主な政治日程を駆け足で見ておく。9月は外交日程がたて込んでおり、岸田首相は5日から11日までの日程で、インドネシアで開かれるASEAN関連首脳会議と、引き続いてインドで開催されるG20サミットに出席する。

この後、9月中旬に開幕する国連総会にも出席して演説を予定している。9月末には、自民党役員の任期を迎えるので、外交日程の合間をぬう形で9月中旬か、あるいは月末に内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。

10月には秋の臨時国会が召集され、物価高と経済対策を盛り込んだ補正予算案が提出される見通しだ。10月22日には、衆議院長崎4区と参議院徳島・高知の統一補欠選挙が行われる。

11月末には、マイナンバーカードのトラブルをめぐって、総点検の完了の期限を迎える。12月は、来年度の税制改正や予算編成作業が本格化する。このように年末に向けて、内外の主要な日程がたて込んでいる。

岸田首相にとって、政治日程でもう1つ大きな意味を持つのは、10月初めで政権発足から丸2年が経過、自民党総裁任期満了まで1年を残すだけとなる。また、衆議院議員の任期の折り返しを迎え、衆議院の解散・総選挙の時期が視野に入ってくる。

以上の政治日程などから、岸田政権としては、9月に内閣改造・自民党役員人事に踏みきり、低迷している内閣支持率を反転させたい考えだ。そのうえで、年内に衆議院の解散・総選挙を断行するタイミングを探り、来年秋の自民党総裁選での再選につなげていくのが基本戦略だ。

そこで、内閣改造・自民党役員人事が政権浮揚につながるかどうか注目される。自民党の閣僚経験者は「岸田政権の運営は手詰まりの状況にあり、思い切った政策とそのための新たな布陣を打ち出せるかがカギだ」と語る。

与党内の関心は、岸田首相が党運営の要である茂木幹事長の交代に踏み切るかどうかだ。岸田首相と茂木幹事長とは、潜在的なライバル関係にあることや、自公関係を安定させるうえで「岸田首相は茂木氏を代えたがっている」との声も聞く。

これに対し、岸田首相は対応に迷っており、「今の岸田派、麻生派、茂木派の主流3派体制を維持してバランスを保つことが、政権の安定につながる」として、最終的には茂木氏の続投を選択するのではないかとの見方も根強い。

内閣の顔ぶれでは「松野官房長官や、林外相、西村経産相など主要閣僚は続投するのではないか」といった見方が強く、「人事の刷新は期待薄」といった声が早くも聞かれる。

自民党の長老に聞くと「岸田首相は、新たな人材も起用して力のある政権をめざしているが、具体的な人材となると適任者が見当たらない。改造で支持率が上がることもあるが、現実には上がらないのではないか」と厳しい見方を示す。

改造人事で、政権浮揚効果は現れるのか、それとも空振りに終わるのか、その結果が秋の政治のゆくえを左右する。

 難題処理の具体策と道筋、実行力は

2つめの焦点は、政治課題の問題だ。今年の5月以降、相次いだマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、岸田政権は8月4日に新たな対応策を打ち出した。

焦点の健康保険証の廃止は、来年秋に廃止する方針を当面維持する一方、マイナ保険証を持たない人には、資格証明書の発行で、不安解消に努めるという内容だ。

そして、11月末まで総点検の作業を続け、その結果をみたうえで、健康保険証廃止の方針を改めて判断することにしている。

次に、東京電力福島第1原発の処理水を海に放出する問題については、岸田首相が放出に反対の全漁連の代表と面会するなどの調整を経て、8月24日に処理水の放出を開始した。

これに対して、中国政府は「汚染水」との表現で、こうした放出に強く反発し、日本産海産物の輸入を全面的に停止する措置を打ち出した。

これに対し、政府は、即時撤廃を申し入れたが、中国側は応じる気配がない。政府は、9月上旬に開かれる国際会議の機会を通じて、岸田首相が中国の李強首相や習近平国家主席に働きかけるシナリオを描いているが、めどはついていない。

さらに、ガソリン価格の高騰が続いているのをはじめ、電気やガス料金の負担軽減措置が9月末に切れることから、物価高や経済対策を求める意見が、与野党や国民の間から強まっている。

このほか、岸田政権が打ち出した防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源も先送りになっており、年末の予算編成で結論を出すことが迫られる。

このように岸田政権にとっては、内外の懸案が次々に積み重なる形になっている。いずれも難題で、どのような具体策と道筋で解決していくのか、政権の実行力が問われている。こうした懸案処理に一定の実績を上げないと政権の浮揚は困難だ。

 秋の衆院解散に高いハードル

3つめの焦点は、衆議院の解散・総選挙がどうなるか。ある閣僚経験者は「今のような内閣支持率の低さでは、とても解散を打てる状況にはない」との見方だ。

一方、与党内には「来年になっても政権に有利な材料は見当たらない。それなら、野党の準備が整っていない年内に行った方がいい」との意見も聞かれる。

自民党の長老の見方はどうか。「政権ができて2年になるが、残念ながら目に見える実績がない。政策も完結せず、道半ばだ。さらに政権として何をやりたいのか、国民に伝わっていない」と語り、解散のハードルは高いという見方だ。

岸田首相にとって与党内では、強力なライバルは見当たらず、最大派閥の安倍派も後継会長が決まらないことで、党内の主導権は発揮しやすい状況にある。但し、総選挙となると、国民の判断・反応が大きく影響する。

その世論の反応だが、NHKの8月の世論調査で岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最低の水準だ。不支持率は44%で、支持を不支持が上回った。自民党の支持率も34%台まで下がり、岸田政権で最も低い水準になっている。

加えて、洋上風力発電をめぐる汚職事件で、外務政務官を務めていた秋本真利衆議院議員が検察当局から事務所の捜索を受けるなどの不祥事が相次いでいる。

岸田首相はこのところ、報道各社のぶら下がり取材に頻繁に応じ、懸案の取り組み方をスライドを用いて説明するなど情報発信を強めている。内閣支持率が低迷し、指導力を発揮していないなどの批判をかわす狙いがあるものとみられる。

これに対して、野党側は、岸田政権は内外の課題に有効に対応できていないとして、臨時国会では、岸田政権との対決姿勢を強める方針だ。

このように秋の政局は、臨時国会を舞台に岸田政権と野党側の攻防が一段と強まる見通しだ。与野党のどちらが主導権を握るのか、それによって年内解散があるのか、それとも来年以降へ先送りになるのか、決まることになる。(了)