“迷走 所得税減税”岸田政権

今月20日に召集された臨時国会は、岸田首相の所信表明演説と、これに対する各党の代表質問が3日間にわたって行われ、物価高と経済対策を中心に激しい議論が交わされた。

このうち、岸田首相が強い意欲を示している所得税減税については、野党の批判だけでなく、身内の自民党からも「何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と苦言が示され、党内に不満が広がっていることが浮き彫りになった。

今回の所得税減税をめぐって、岸田首相は与党の幹部に対して検討を指示しながら、国会では減税への言及を避けるなど対応がちぐはぐで、迷走気味だ。政府の減税政策をどのようにみたらいいのか、国会論戦などを踏まえて考えてみたい。

 野党は批判、自民からも異例の苦言

各党の代表質問で質問が集中したのは「物価高と経済対策」だったが、どのような方向で取り組んでいくのか、各党の議論はかみ合わなかった。

その要因の1つに、岸田首相の対応がある。岸田首相は所信表明演説で「経済、経済、経済」と連呼し、経済を重点に取り組む姿勢を強調する一方、その実現に向けての具体策については言及を避けた。

具体的には「成長による税収の増収分の一部を公正かつ適切に還元する。還元措置の具体化に向けて、与党の税制調査会における早急な検討を指示する」とのべただけで、所得税減税に直接言及する表現はなかった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党の泉代表は「政府の経済対策は遅すぎる。7月、8月でなく、なぜ、この時期まで遅れたのか。国民が望むのは、今年中の『給付、給付、給付』だ」として、6割の世帯に3万円のインフレ手当の給付を求めた。

日本維新の会など他の野党は、社会保険料の軽減や消費税率の引き下げなどそれぞれの党の主張を展開して、議論は平行線をたどった。

代表質問でもう1つ目立ったことは、自民党から岸田首相の減税政策に対して、厳しい指摘が飛び出したことだ。

自民党の世耕参議院幹事長は「『還元』という言葉がわかりにくかった。世の中に対して、何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と厳しく指摘した。

また、「岸田内閣の支持率は低空飛行、補欠選挙の結果は1勝1敗。支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないということに尽きるのではないか」と岸田首相の政権運営についても苦言を呈した。

 国会対応、政策の組み立て方も課題

今回の経済対策について、政権の対応を点検してみると、岸田首相が「税収増を国民に適切に還元すべきだ」と最初に言及したのは9月26日の閣議で、10月末をめどに新たな経済対策を策定する考えを表明した。

その後、自民党内から所得税減税を求める声が上がったが、岸田首相は明確な考え方を示さず、衆参補欠選挙を直前に控えた10月20日になって、ようやく与党の幹部に所得税減税の検討を指示した。

一方、23日は臨時国会で首相の所信表明演説が行われた。通常は、政権がその国会で成立をめざす主要政策について表明するが、今回は冒頭に触れたように所得税減税などについて、直接言及する表現はなかった。

世耕参議院幹事長が苦言を呈したのは、こうした政権の対応の遅さや、首相の指導力が発揮できていないことへの不満やいらだちがあるものとみられる。

岸田首相の立場に理解を示す自民党幹部も「政権の目標の設定や、そのための政策の組み立て方を改めないと政権運営は安定しないのではないか」と指摘する。

以上、みてきたように経済対策のとりまとめを打ち出した9月26日の時点で、最初から所得税などの定額減税の検討を含めて指示していれば、迷走することはなかったのではないか。首相自らの主導権の発揮にこだわったのではないかとの説や、年内解散の思惑も関係していたのではないかとの見方も聞く。

 4万円定額減税、7万円給付で調整へ

こうした中で、岸田首相は26日、政府・与党政策懇談会を開き、税収増の還元策として所得税と住民税の定額減税とともに給付を行う考えを明らかにし、与党の税制調査会を中心に具体的な制度設計を行うよう指示した。

政府側から示された案では、◆1人当たり所得税3万円と、住民税1万円の合わせて4万円の減税を行う。◆所得の低い人への支援策として、住民税の非課税世帯に7万円を給付し、既に決定した3万円と合わせて10万円になるとしている。

◆政府としては、来月2日に経済対策を決定したうえで、非課税世帯への給付は補正予算案の成立後、速やかに行うとともに、減税は必要な法改正を経て、来年6月に実施したい考えだ。

政府案によると過去2年間に増えた税収の総額は、所得税が3.2兆円、個人住民税が2200億円で、これにおよそ1兆円の給付金を加えると、還元総額は5兆円規模になる見通しだ。

こうした政府の方針に対して、自民党内では、減税は実施まで時間がかかることに加えて、給付金に比べると物価高への即効性が低いとして、効果を疑問視する見方もある。

また、政府は所得制限を設けない方針に対し、自民党内には、高額所得者は対象から外すべきだという意見もあり、調整が必要になる。

 減税、先送り財源含め全体像の議論を

国会は27日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員の間で、一問一答方式の詰めた議論が繰り広げられる見通しだ。

まず、物価高騰対策として、支援を減税で行うのがいいのか、給付金として支援する方が効果的なのか、支援の方法、対象、規模などが焦点になる。

また、政府の減税方針をめぐっては、税収増を減税の財源として使うのが適切なのか、大量の国債を発行している財政の健全化に当てるべきなのかといった点も議論になりそうだ。

さらに、防衛力の抜本強化に伴う増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源については、年末の予算編成まで先送りのままだ。

こうした先送りの政策を含めて、主要政策の予算の規模や財源の見通しなどの全体像を明らかにして、議論を深めることが必要だ。

岸田首相が大型の減税政策を打ち出したのは、支持率が低迷する政権を浮揚させる思惑が働いているとの見方が与野党の関係者から聞かれる。また、与野党双方とも、次の衆院選を意識して、国民受けする歳出増の政策が目立つ。

物価高で家計のやりくりに追われる国民は、政府の支援策への関心は高い。一方で、将来、増税や負担増の形で跳ね返ってこないか、影響を見極めて政策を判断しようとする姿勢に変わりつつあるように感じる。

政府の新たな経済対策と裏付けとなる補正予算案の内容が、どのような形になるのか。衆参両院の予算委員会の審議などを通じて、国民は岸田政権の減税政策をどのように評価するのか、今後の政治のゆくえを左右することになりそうだ。(了)

臨時国会開会 ”解散より、懸案解決を”

臨時国会が20日召集され、先月内閣改造を終えた岸田政権と野党側との間で、物価高・経済対策を中心に激しい論戦が交わされる見通しだ。

今度の国会は衆参統一補選の最終盤に召集されるため、岸田首相の所信表明演説は初日の20日ではなく、統一補選の投開票が終わった後の23日に行われる。これに対する各党の代表質問は24日から始まり、会期は12月13日までの55日間だ。

また、細田衆院議長が体調不良で辞任し、後任に額賀元財務相が20日に選ばれる運びだ。このように国会冒頭の日程は、通常とは異なる形になる。

さて、この臨時国会をめぐって与野党の間では年内解散説が消えないが、内外に山積する課題・難題を考えると衆議院を解散して2か月近くも政治空白を作るような状況にはないと思う。

このため、”衆院解散をめぐる駆け引きより、懸案解決に向けた政策論争”を徹底して行ってもらいたい。実際にどのような展開になるか、この国会の焦点を考えてみたい。

 新閣僚の資質、政権の政治姿勢は

今度の国会は、岸田首相が9月に行った内閣改造・自民党役員人事の後、初めて開かれる国会だけに、野党側は衆参予算委員会などの場で、初入閣の11人を中心に閣僚としての考え方や資質などを追及していく方針だ。

このうち、加藤鮎子・こども政策担当相は、自らの資金管理団体が法律の上限を超えるパーテイー券250万円を受け取っていたことが明らかになった。同じように「政治とカネの問題」を抱える閣僚がいることから、政治資金や閣僚の資質などをめぐって激しいやり取りが交わされる見通しだ。

また、自民党が去年行った点検(調査)で、旧統一教会と接点があった新閣僚4人がいることから、野党側はこうした点についても取り上げる構えだ。

さらに、木原防衛相が今月15日、衆院長崎4区の補欠選挙の応援で、自衛隊の政治利用とも受け取られる演説を行い、その後、発言の一部を撤回した問題についても取り上げ、責任を追及することにしている。

岸田政権は今月4日に発足から2年が経過したことから、野党側は、岸田首相のこれまでの政権運営や政治姿勢についても質すことにしている。

 物価対策と経済全体の基本方針を

次に政策面では、物価高騰が続く中で、物価対策と経済政策をめぐる議論が大きな焦点になる見通しだ。岸田首相は新たな経済対策を10月中にとりまとめるよう指示するとともに、裏付けとなる補正予算案を提出する方針だ。

その経済対策の中では、ガソリンなどの燃料油と電気、ガスの料金を下げる負担軽減措置の継続をはじめ、持続的な賃上げに向けて、賃上げした企業に対する減税制度の拡充、低所得世帯への支援策などが盛り込まれる見通しだ。

一方、岸田首相は「税収増を国民に適切に還元する」との考えを示している。これは「期限付きの所得減税」に踏み切る意向とみられている。経済対策がまとまるのは10月末か11月はじめ、補正予算案を国会に提出するのは11月下旬になる見通しだ。

国民が知りたいのは、当面の物価高対策だけでなく、「経済全体のかじ取り」をどのように行っていくのか、「岸田政権の基本方針」だ。

消費者物価は3%以上の上昇が12か月連続、実質賃金のマイナスは17か月も続いている。1ドル=150円寸前の大幅な円安は物価上昇の要因だが、金融緩和はこのまま続けるのか。大型補正予算を組んだ場合、インフレの加速にならないのか、知りたい点は多い。

国の財政については、コロナ対策もあって補正予算はこの3年間、73兆円、36兆円、31兆円と異例の規模が続いた。コロナ感染が収まった今、補正予算案は通常の数兆円規模に戻すのか、それとも大型補正を続けるのかの問題もある。

さらに、所得減税の実施に踏み切る場合は、年末に結論を出す予定の防衛増税や、少子化対策の負担増との関係はどうなるのか「減税と負担増との関係」がさっぱり、わからない。

つまり、岸田政権の中期の経済運営は、何を重点目標に設定して、どのような政策を組み合わせて実施するのか「経済政策の全体像」を提示してもらいたい。

そのうえで、与野党がそれぞれの党の方針も交えて議論を徹底して行うことが、この国会の役割であり、政治の責任だ。

 旧統一教会の財産保全などの懸案も

このほか、去年秋の国会から持ち越してきた懸案も多い。まずは、旧統一教会の問題だ。政府が教団に対する解散命令を請求したのを受けて、立憲民主党や日本維新の会は被害者の救済にあてるため、教団の財産を保全する法案を国会に提出する方針だ。

これに対して、自民、公明の与党側も対応を検討していく考えだ。今後、与野党が協調して法案を国会に提出することも予想され、臨時国会の焦点の1つになる見通しだ。

また、先の通常国会で問題になったマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、政府は11月末までに総点検を行い、その結果を12月上旬に報告する予定だ。健康保険証を来年秋に予定通り廃止するのか、それとも廃止の延期を行うのか、議論が再燃することになりそうだ。

 解散より、内外の難題に向き合う国会を

この臨時国会をめぐって、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が飛び交った。今でも11月下旬に補正予算を提出、短期間で成立させた後、年末解散があるのではないかとの見方は消えていない。

個人的な見通しを言えば、岸田内閣の支持率と自民党の政党支持率も低迷している今の状況では、勝敗面からも解散の確率は極めて低く、年末解散はないとの見方をしている。

また、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加えて、中東のイスラエルとハマスの軍事衝突の激化で、世界の平和と民主主義が危機的状況を迎えているときに、解散・総選挙で政治空白を生むような選択は取るべきではないと考える。

端的に言えば、この臨時国会は「解散よりも、内外の難題に向き合い、一定の結論を出す国会」にすべきだ。こうした視点で国民の多くが、岸田政権と与野党の対応を評価し、近い将来行われる選挙に活かしてもらいたい。(了)

 

“岸田政権浮上せず”10月世論調査

岸田政権が発足してから10月4日で、丸2年が経過した。岸田首相は先月13日に内閣改造・自民党役員人事を行って体制整備を図るとともに、新たな経済対策のとりまとめを指示し、3年目の政権運営を進めている。

来年秋の自民党総裁選まで1年を切り、前回衆院選挙から10月末には折り返し点を迎える。与野党双方からは「新たな経済対策で国民の支持が広がれば、岸田首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないか」との見方が聞かれる。

内閣改造後の岸田内閣の支持率に与野党の注目が集まっているが、NHKの10月の世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率は先月と同じ36%のままでピクリとも動かず、政権の浮揚効果は見られなかった。

岸田政権の新たな経済対策についても「期待していない」が半数を超え、政権を取り巻く情勢は好転の兆しがみられない。20日からは臨時国会が幕を開けるが、年内の衆院解散・総選挙への道は狭まりつつあるようにみえる。

不支持逆転続く、政策に不満過去最高

さっそく、NHKの世論調査(10月7~9日実施)のデータから見ていきたい。岸田内閣の10月の支持率は、先月と同じ36%。不支持率は、先月より1ポイント多い44%だった。支持率を不支持率が上回るのは7月以降4か月連続で、低迷状態が続いている。

支持する理由は◆「他の内閣より良さそうだから」が45%、◆「支持する政党の内閣だから」が27%で消極的な理由が多い。

不支持の理由としては◆「政策に期待が持てないから」が56%で、岸田内閣発足以降、最も高くなった。歴代政権と比べても高い水準だ。◆「実行力がないから」が20%で、合わせて8割近くを占める。

支持率の内容をみると、自民党支持層のうち「岸田内閣を支持する」と答えた割合は、60%半ばに止まっている。最も多い無党派層の支持率は18%と低く、逆に不支持率は56%と高いので、選挙の際にはマイナスに働く。

岸田首相は先月13日の内閣改造で、主要ポストの骨格は維持する一方、過去最多と並ぶ女性閣僚5人を起用して政権の刷新をアピールした。しかし、内閣支持率を上昇させる効果はみられなかった。改造人事のねらいは不発に終わったと言えそうだ。

 経済対策、期待せずは6割近くも

それでは、岸田首相が表明した新たな経済対策の評価については、どうだろうか。岸田首相は、物価高騰対策や賃金の引き上げから、少子化対策、安心・安全確保対策など5つの柱を挙げて、10月末までに具体策をとりまとめるよう閣僚に指示した。

世論調査では、こうした新たな経済対策の効果について、評価を尋ねた。答えは「期待している」が38%に対して、「期待していない」が57%となった。

また、世論調査では、新たな経済対策とともに、防衛費の増額や少子化対策のための財源確保も課題になっている中で「国の財政状況に不安を感じているかどうか」についても尋ねている。

答えは「感じている」が75%に対し、「感じていない」が19%となった。

さらに岸田内閣が最優先に取り組むべき課題を1つ選んでもらうと◆「物価対策を含む経済対策」が50%で最も多く、◆次いで「少子化対策」13%、◆「社会保障」11%などと続いた。

以上のことから、国民の多くは、大型の経済対策や補正予算案の規模よりも内容に関心があり、特に「物価高騰対策を中心にした経済対策」を望んでることが読み取れる。

また、対策の評価に当たっては、財源確保の取り組みに不安を感じており、「財源確保の具体策」を明らかにするよう求めていることがうかがえる。

政権与党の動きを取材すると、衆院解散・総選挙をにらんで予算の規模の拡大、端的に言えばバラマキ姿勢が感じられるのに対し、国民世論の方が、コロナ感染が収まり、平時の経済・財政運営に立ち返るべきだという真っ当な考え方が読み取れる。

 年内解散よりも政策論争の徹底を

これから年内の政治は、どう動くのか。今月20日から秋の臨時国会が始まり、会期は12月上旬までとなる見通しだ。

その国会では、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案の扱いと、内閣改造を受けての岸田政権の政権運営などをめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。

また、補正予算案を成立させた後、岸田首相が衆院解散に踏み切るかどうかが大きな焦点になる。その解散・総選挙の前提条件として、政権与党側が期待していた内閣改造による政権の浮揚効果はみられなかった。

また、政府の経済対策についても世論の期待感は乏しいことを考えると、年内解散の道はかなり難しくなりつつあるようにみえる。

さらに、今月22日に投開票が行われる衆議院長崎4区の補欠選挙と、参議院徳島・高知の補欠選挙の結果がどうなるか。2つの補欠選挙ともに与野党一騎打ちの構図になっており、この結果も年内解散のゆくえに影響を及ぼしそうだ。

国民の多くは「年内の衆院解散・総選挙は時期尚早。それよりも政策の中身、物価高などへの経済対策を充実させること。それに先送りになっている財源の具体策を明らかにすべきだ」と注文を付けているように思える。

こうした国民の注文に対して、岸田首相と与野党はどのように応えるか、臨時国会の論戦をしっかり見ていきたい。(了)

 

 

 

 

“未完の政権”主要政策の核心先送り

岸田政権は発足から10月4日で、丸2年が経過した。秋の臨時国会を控え、政界では年内解散説もささやかれているが、国民はこの政権をどのように見たらいいのだろうか。

長年、政治取材を続けているが、岸田政治とは何か?”主要政策が完結しないまま、次々に政策課題が提起される政治”という点に大きな特徴があると感じる。端的に言えば”未完の政策が積み残されたままの政権”ということになる。

岸田首相は自民党内に強いライバルが不在で、政権は安定した状況を維持している。反面、報道各社の世論調査でみると国民の評価は低迷した状態にある。

岸田政権のこれまでの政策や政権運営をどのように評価するか、3年目に入った岸田政治は何が問われているのか、探ってみたい。

(★タイトル部分は、原案ではわかりにくいとのご意見をいただきましたので、表現を手直ししました。本文の内容は変わっていません。10月5日追記)

 岸田内閣 政策と実行力に低い評価

まずは、政権発足から2年が経過した岸田政権をどのように見るか。人によって評価はさまざまだが、ここではメデイア、具体的にはNHKの世論調査のデータを基に考えてみたい。

岸田政権が発足した2021年10月の調査では、◇岸田内閣の支持率は49%、不支持率24%でスタートした。それから2年、最新の9月調査によると◇支持率は36%に下がり、不支持率は43%に増えた。支持率と不支持率が逆転し、国民の支持は低迷している。

この間の推移を整理すると、政権発足直後に衆院解散・総選挙に踏み切り、勝利した。続く翌22年7月の参院選挙にも勝利を収め、8月の内閣支持率は59%まで上昇した。

ところが、参院選の最中に安倍元首相が銃撃されて亡くなり、その後、安倍元首相や自民党と旧統一協会との関係が明らかになった。安倍元首相の葬儀を国葬にした問題や、内閣改造後に新閣僚の政治とカネの問題が表面化し、4閣僚が辞任に追い込まれた。今年1月の支持率は政権発足以降、最低の33%まで落ち込んだ。

その後、内閣支持率は徐々に上昇を続け、G7広島サミットが開催された5月には、支持率が46%まで回復したが、長男の首相秘書官が公邸内で忘年会を開いた問題やマイナンバーカードの混乱で再び支持率は急落した。

このように政権前半の1年近くは、コロナ禍の対応に追われながらも国民の評価は高かったが、去年夏の参院選を境に、後半は支持率の低迷状態が続いている。

その後半は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、岸田首相が日本の防衛力の抜本的強化とその財源確保のために増税策をとりまとめた。続いて、年明けには異次元の少子化対策を打ち出し、政権の立て直しをめざした時期に重なる。

こうした主要政策をめぐる国民の評価は、いずれも賛成より、反対の方が上回って厳しい評価を受けている。

その原因だが、世論調査では「政府の説明が不十分だ」という評価が圧倒的に多い。岸田内閣を支持しない理由としては、◇「政策に期待が持てない」が半数近くを占め、「実行力がないから」が4分の1、両方合わせて7割に達している。

このように岸田政権は、主要政策・看板政策について、国民の多数の評価を得るまでに至っていない。これが支持率低迷の大きな要因であり、政権の弱点だ。

 岸田政治とは?政策の核心部分先送り

それでは、岸田政権の主要政策の決定や政治手法には、どんな特徴や問題点があるのだろうか。

岸田首相に近い政権幹部に聞くと「岸田首相は自らの成果を語らないタイプなので、わかりにくいかもしれない。だが、難題は水面下で首相自らが調整を進めたうえで、幹事長や政調会長などに割り振っている」と首相の指導力を強調する。

例えば、防衛力の抜本強化ではNATO並みのGDP比2%目標や、5年間で防衛費の総額を43兆円とするなどの大枠を示したことで、党内の騒ぎは収まったことなどを挙げる。

別の側近は「安倍元首相や小泉元首相は対立軸をつくり、上手に政権運営を進めた。一方、岸田首相の政治は、政策を複数、同時並行に進め、仕事や権限を移譲する別の政治手法なので、わかりにくいのかもしれない」と釈明する。

これに対し、別の自民党の閣僚経験者は「岸田政権の政策決定は、切羽詰まった段階になって首相が独りで登場、党の主要幹部に掛け合い、何とかまとめ上げているのが実態だ。もっと目標やビジョンを早い段階で打ち出し、党内議論を活発にして政策を決めるべきだ」と注文をつける。

私自身の見方は、後者に近い。例えば、防衛力強化の計画と財源確保に増税する方針は決まったが、増税の実施時期は年末の税制改正まで先送りになった。党内には増税に異論があり、さらに1年先送りになる可能性もある。

今年の年明けには唐突に、異次元の少子化対策が打ち上げられ、その後、児童手当を所得制限なしに拡充するなどの方針が決まった。但し、財源の具体策については、これも年末の予算編成まで先送りになった。

このように政策転換が次々に打ち出されるのだが、肝心の財源の扱いは先送りとなり、政策が完結しないまま、次の政策が積み重なっていく形になっている。

別の表現をすれば「政策の核心部分」があいまいで、全体像がはっきりしない。政権が変われば、政策が白紙に戻ったり、場合によっては国民に負担増となって跳ね返ってきたりすることも起こりうる。

したがって、特に政権の看板政策については、全体像を明確にし、政策を完結させたうえで、国民に説明し理解を求めるべきだ。この点が、岸田政権には欠けている。

 解散より”中期の展望・構想を語れ”

さて、秋の臨時国会が10月20日に召集されることが、ようやく固まった。岸田首相は、10月末までに新たな経済対策をまとめたうえで、裏付けとなる補正予算案を国会に提出する考えを明らかにした。

問題は、その後の展開で、与野党の間では「岸田首相は年内の解散を考えているのではないか」との憶測が消えない。来年秋の自民党総裁選での再選を確実にするため、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙を仕掛けるのではないかとの見方だ。

安倍政権時代にも2014年や2017年の「不意打ち解散」「けたぐり解散」といわれた想定外の解散・総選挙はあった。今回もないとは言えないが、可能性としてはかなり低いのではないか。

その理由は、冒頭に触れたように岸田内閣の支持率が低すぎ、国民の信頼を得ていないので、選挙のリスクが大きい。また、仮に解散に踏み切った場合、2014年のように年末選挙となり、新年度の予算編成は越年、予算の成立は4月以降にずれ込む可能性が高い。

国民の関心は、1年以上も続く物価高騰や、実質賃金の目減りが16か月も続く中で、家計をいかに守っていくかにある。そうした時期に解散に踏みきり、国民の多数の支持を得るのは難しい。手痛いしっぺ返しや鉄槌を下されるのではないか。

岸田首相は、解散より他にやるべきことは多い。まずは、補正予算案の編成のねらい・目的をはっきりさせて欲しい。コロナも落ち着き、選挙目当ての大盤振る舞いをするようなときではない。

それよりも1ドル150円寸前の円安が続く中で、いつまで金融緩和政策を続けるのか。実質賃金をプラスに転換するために今後の経済・財政運営の大方針を明確に示すことが求められている。

さらに岸田首相には「中期の政策の展望や目標」を語って欲しい。政権発足時に掲げた「新しい資本主義」はどうなったのか。首相として、何をやりたいのか、目標を明確にしてもらいたい。

まずは、今月20日に召集される臨時国会の冒頭で、岸田首相が3年目に入った政権の目標と道筋を明確に打ち出せるのかどうかを注視していきたい。(了)