“揺らぐ岸田政権” 裏金疑惑に強制捜査

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、東京地検特捜部は19日、最大派閥の安倍派と二階派の事務所などを捜索し、強制捜査に乗り出した。

去年までの5年間に安倍派は5億円、二階派は1億円を越えるパーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として還流させていた疑いが持たれている。

今後は派閥の会計責任者だけでなく、多額の資金のキックバック・還流を受けていた国会議員や派閥の幹部の責任を問えるかどうかが大きな焦点だ。

一方、今回の裏金疑惑捜査は、岸田政権を直撃するだけでなく、政権与党の自民党に対する国民の批判が一段と強まるきっかけになりそうだ。

党内からも「リクルート事件以来の逆風になるかもしれない」と警戒する声も聞かれる。岸田政権と政界への影響などを探ってみる。

 裏金疑惑の捜査、政治家まで伸びるか

政界関係者が固唾を飲んで見守っているが、検察の捜査が国会議員まで伸びるかどうかだ。

政治資金規正法は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判に委ねることを目的にしており、政治資金収支報告書の記載は、会計責任者が責任を負う仕組みになっている。このため、国会議員や派閥幹部の責任を問うのは、ハードルが高いとされてきた。

岸田政権や自民党の党内事情に詳しい関係者に聞いてみた。「岸田官邸は捜査がどこまで広がるか、つかめていないようだ」とのべ、捜査がどこまで展開するか明確に見通せないという。

一方、「検察当局は安倍政権時代、黒川・東京高検検事長の処遇をめぐって検察人事に手を突っ込まれた経緯もあり、その反撃といった意味もあって強い執念で取り組んでいる」として、安倍派の議員や幹部まで捜査が広がる可能性があるとの見方を示す。

検察当局は、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部などからも詳しい事情を聞くものとみられ、最終的に捜査がどのように決着するのかが最大の焦点だ。

 内閣支持率急落、トリプルパンチ

次に、政界への影響はどうか。岸田政権については、既に内閣支持率が低迷している状況だけに、今回の疑惑捜査はさらなる打撃となりそうだ。

岸田首相は14日、安倍派の裏金疑惑を受けて、松野官房長官ら安倍派の閣僚4人と副大臣5人の大幅交代に踏み切った。

ところが、この直後に行われた報道各社の世論調査によると、岸田内閣の支持率は、読売新聞が25%で横ばい、共同通信が22.3%で6ポイント下落、朝日新聞が23%で2ポイント下落となった。閣僚の交代による政権の立て直し効果は、まったく見られなかった。

いずれの調査とも岸田内閣支持率は20%台前半まで下落している。これは、2012年に自民党が政権復帰して以降、歴代政権の最低の水準だ。今回、裏金疑惑の捜査の影響を考えると、さらなる支持率の下落が予想される。

岸田政権は、10月に新たな経済対策の切り札として「所得税などの定額減税」を打ち出したが、国民には不評で、政策面で厳しい批判を浴びた。

これに加えて、11月は「副大臣3人が相次ぐスキャンダル」で更迭、さらに12月は「裏金疑惑」が重なり、トリプルパンチを浴びる形になっている。国民の信頼が低下し、今後の政権運営にも大きな影響が出ることは避けられない見通しだ。

 自民党も支持率低下、逆風強まるか

裏金疑惑の問題は、内閣支持率だけでなく、これまで30%台後半で比較的高い水準を保ってきた自民党の支持率にも影響を及ぼし始めた。

NHKが12月上旬に行った世論調査で、自民党の政党支持率は、先月より8ポイント余り下がって29.5%。2012年に自民党が政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。

今月中旬に行った朝日新聞の世論調査でも自民党の支持率は23%で、先月より4ポイント下落、こちらも2012年の政権復帰以後、最低を更新した。

朝日の調査によると◆裏金疑惑をめぐる岸田首相の対応については、「評価しない」が74%、「評価する」が16%だった。◆自民党は「政治とカネ」の問題を繰り返してきた体質を変えられると思うかとの質問に対しては、「変えられない」が78%、「変えられる」は17%だった。

こうしたデータを基に判断すると、自民党は信頼回復に向けた思い切った対応策を打ち出さないと自民党に対する世論の逆風は一段と強まることになるのではないか。

 疑惑対応が後手、国民の信頼回復は?

それでは、これからの政治はどう動くか。岸田首相は、22日に新年度予算案を閣議決定するとともに、萩生田政調会長ら辞任する党役員の後任を決定して、態勢の立て直しを図る方針だ。

そして、来年の春闘で物価上昇を上回る賃金引き上げを実現し、6月の定額減税の実施などで国民生活を安定させ、政局の主導権を回復したい考えだ。

自民党長老に聞くと「岸田政権が、個別政策で実績を上げて政権の浮揚をめざすのはかなり難しい。今や、政権と自民党が一体となって、政治不信を払拭し、国民の信頼を取り戻せるかが急務だ」と指摘する。

また、「岸田首相にとって今のような支持率では、とても解散は打てない。新年度予算案が成立した後は、来年秋の自民党総裁選に向けて『新しい顔』を探す動きが出てくるかもしれない」との見方を示す。

岸田首相は13日の記者会見で「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と決意を強調したものの、具体的な対応策は示すことができなかった。

安倍派と二階派の事務所に検察の捜査が入った19日も岸田首相は、記者団に「強い危機感を持って信頼回復に取り組む」と一般論を繰り返すだけに止まった。

また、安倍派の閣僚4人は全員交代させたのに対し、二階派の小泉法相と自見万博担当相は続投させる判断をした理由について、詳しい説明はなされなかった。

このように岸田政権は、国民の多くが求めている疑惑の解明や、こうした事態を招いた原因などについての説明が、後手に回っている。

自民党には、リクルート事件を教訓に党のあり方などを盛り込んだ「政治改革大綱」がとりまとめられているが、岸田首相や党執行部から、こうした原点に立ち返って対応していくといった今後の取り組み方についての言及は聞かれない。

岸田政権には、派閥のあり方などを含めた党改革について、踏み込んだ対応や指導力の発揮が最も問われているようにみえる。そうした取り組みができない場合、党員や国民の支持を失う危機的状況に追い込まれるのではないか。(了)

★(追記=21日21時)東京地検特捜部は、松野官房長官、高木国会対策委員長、萩生田政調会長ら安倍派の複数の幹部に任意の事情聴取を要請した。     ★(追記=25日21時)東京地検特捜部は、安倍派幹部の松野前官房長官、高木前国対委員長、世耕参院幹事長、塩谷元文科相(派閥の座長)から24日までに任意で事情を聞いたことが明らかになった。                    ◆岸田首相は25日、麻生副総裁ら自民党執行部と会談、年明けのできるだけ早い時期に、派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題を受けた改革などを検討するため、新たな組織を立ち上げる考えを示した。                ★(追記=27日23時)東京地検特捜部は27日、安倍派から4000万円を超えるキックバックを受けていたとみられる池田佳隆衆議院議員の事務所などを捜索した。自民党の派閥をめぐる政治資金問題で、議員側が強制捜査を受けるのは初めてだ。                                  ★(追記=28日21時)東京地検特捜部は28日、自民党安倍派の大野泰正参議院議員の事務所などを捜索した。安倍派から5000万円のキックバックを受けていたとされる。                               ◆柿沢前法務副大臣が28日、江東区長選挙をめぐる買収の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

裏金疑惑”踏み込んだ対応策示せず”岸田首相

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、岸田首相は13日夜、記者会見し、臨時国会の後、直ちに政権の態勢立て直しを図るため、14日に松野官房長官など安倍派の閣僚4人を交代させる人事を行う考えを明らかにした。

また、安倍派の副大臣5人も交代させる一方、政務官6人については、本人の意向なども踏まえて、交代させるかどうか判断する方針だ。

さらに、萩生田政務調査会長や高木国会対策委員長はそれぞれ自ら辞任する意向を表明したが、岸田首相としては、安倍派の党幹部の交代時期については、来年度予算案の編成作業の日程なども考慮しながら、調整したい考えだ。

こうした一方で、岸田首相は「自民党の体質を一新するために先頭に立って戦っていく」と決意を表明したが、踏み込んだ具体的な対応策は示すことができなかった。

14日の閣僚人事を前に岸田首相は、裏金疑惑問題にどのように対応しようとしているのか、何が問われているのか整理しておきたい。

 実態の解明、首相の積極姿勢みられず

岸田首相は昨夜の記者会見で、自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題について「国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾だ」とのべたうえで、「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と強い決意で取り組む考えを表明した。

こうした一方で、実態解明の取り組みについては「当事者が調査・精査し、丁寧に説明を行い、事実確認が求められている。事実が確認されたならば、国民に説明し、さまざまな課題、原因が明らかになっていく。自民党としてどう立ち向かうのか明らかになる」と慎重な発言に終始した。

この考え方では、裏金作りの疑いが持たれている国会議員が、まずは事実関係の確認をしながら、原因や課題を明らかにし、そのうえで、自民党としての対応策をとりまとめていくことになる。これでは、裏金疑惑の実態解明は、検察当局の捜査以外、ほとんど進まないのではないか。

国民の多くが岸田首相に期待しているのは、なぜ、派閥が総ぐるみで裏金作りを組織的に行ってきたのか、検察当局の捜査を待つのではなく、政治の側が自ら進んで事実関係を明らかにしていくリーダーシップの発揮だ。

昨夜の岸田首相の発言からは、こうした実態の解明に積極的に取り組む姿勢がみられなかったのは、極めて残念だ。

 ”安倍派外し”で済むのか、党の対応は

14日に行われる閣僚人事の特徴は、自民党最大派閥・安倍派に所属する閣僚4人全員と、副大臣5人をそろって交代させる”安倍派外し”にある。

政務官6人も当初の方針では交代させる方針だったが、安倍派から「政務官は資金の還流を受けていない」と強い反発を受けて、一部軌道修正した形だ。しかし、”安倍派外し”の本質は変わっていない。

安倍派は、去年までの直近5年間に5億円が政治資金収支報告書に記載されず、裏金として還流していた疑いがもたれている。その金額が突出して多いことや、裏金作りが組織的、常態化していた可能性が高く、責任を問われるのは当然だとの意見は自民党内でも強い。

但し、パーティー収入の不記載による裏金作りについては、二階派も行っていたほか、麻生派でも不記載があったとされる。さらに、岸田首相が7日まで自ら会長を務めていた岸田派・宏池会でも数千万円の不記載が行われていたことが明らかになった。

こうした事態を考えると、閣僚の交代などの責任は安倍派だけで済むのか。今後、その他の派閥の扱いをどうするのか、記者会見では明らかにされなかった。

自民党関係者に聞くと「岸田官邸は、各派閥の資金処理の実態など詳しい情報を得られていないのではないか」と話す。この指摘が事実であれば、今後、検察の捜査によっては新たな事実が明らかになり、対応を追われる事態も予想される。

岸田政権は、裏金疑惑に対して、どのような基本方針で臨み、閣僚や党役員に対して責任を取らせる基準をどのように考えるのか、昨夜の記者会見では明らかにならなかった。全体として、国民の知りたい点に応えるような会見ではなかった。

 問われる首相のリーダーシップ

今回の巨額裏金疑惑に対する世論の反応は、厳しい。NHKが今月8日から10日にかけて行った世論調査で、岸田内閣の支持率は先月より6ポイント下がって23%まで下落し、政権発足以降最低を更新した。不支持率は6ポイント上がって58%に達した。

これまで比較的高い水準を維持してきた自民党の政党支持率も先月より8ポイントも下がって29.5%、2012年に政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。いずれも裏金疑惑が直撃した影響とみられる。

こうした世論の厳しい反応に対して、岸田政権の対応は鈍い。岸首相は、政治資金パーティー開催の自粛と、自ら派閥の会長を退くことを表明した。そして、ようやく、今回、安倍派の閣僚などの交代に踏み切った。後手の対応が目立つ。

政治資金規正法を抜本的に見直し、政治資金を記載しない政治家や、政治団体の代表に対する罰則を強化すべきだとの声も聞く。また、30年前のリクルート事件の際にも問題になった派閥の解消などを求める声も強まっている。

14日の人事では、官房長官に林芳正・前外相が起用されるなど新たな閣僚の顔ぶれも固まった。但し、閣僚を入れ替えた程度で、政権の窮地が改善されるほど甘い情勢ではない。

岸田政権と自民党が、裏金疑惑の実態の解明と政治不信の払拭に真正面から取り組み、目に見える実績を上げることができない限り、岸田政権が命脈を保つのは難しいのではないか。正に待ったなしの危機的状況で、岸田首相の指導力が問われている。(了)

★<追記14日13時>自民党安倍派幹部の世耕参院幹事長は、辞表を提出したことを明らかにした。これで、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部は、いずれも閣僚や党幹部の役職を退くことになった)

 

“自民派閥の裏金疑惑”政権中枢を直撃

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する松野博一官房長官側が、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

これは8日朝、朝日新聞が報道したのに続いて、そのほかの新聞・放送各社の報道で明らかにされたものだ。東京地検特捜部もこうした資金の流れなどについて、実態解明を進めているものとみられる。

一方、NHKは8日夜のニュースで、松野官房長官側のほかにも、安倍派幹部で事務総長を務める高木毅国会対策委員長や、世耕弘成参議院幹事長側も1000万円を超えるキックバックを受けていることが新たにわかったと報道した。

これによって、政治資金パーテイーをめぐる裏金疑惑は、岸田政権の中枢を直撃する可能性が大きくなった。自民党関係者によると、臨時国会閉会後に検察当局が本格的な捜査に着手するとみており、岸田政権は大きく揺らぐことも予想される。

 裏金疑惑、事実関係の確認なされず

自民党の5つの派閥による政治資金パーテイー収入の不記載問題は、急展開した。今月1日には、最大派閥の安倍派では、パーテイー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側に裏金としてキックバックしていたことが明らかになり、その収入は去年までの5年間で数億円に上るものとみられている。

その後、安倍派の複数の議員が、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いが明らかになったほか、派閥側、議員側ともに政治資金収支報告書に記載していなかったものとみられ、裏金として環流していた実態が浮き彫りになった。

さらに冒頭に触れたように8日には、安倍派の事務総長の経験者で、官房長官の松野氏も1000万円を超える裏金を受け取っていたことが報じられた。裏金問題は、岸田政権の中枢を直撃した形になり、与野党に衝撃が広がった。

この問題は、8日に開かれた衆参両院の予算委員会でも取り上げられ、立憲民主党は、事実関係を厳しく追及するとともに松野官房長官に辞任するよう迫った。

これに対し、松野官房長官は「派閥で事実関係の確認が行われている最中であり、刑事告発を受けて捜査が行われている。私の政治団体についても精査して適切に対応していきたい」と同じ答弁を何度も繰り返し、事実関係の確認を避けた。

また、松野官房長官は「引き続き所管する分野の責任を果たして参りたい」とのべ、辞任する考えのないことを強調した。岸田首相も「政府のスポークスマンとして、しっかりと発信してもらう」と更迭する考えのないことを強調した。

岸田首相は一連の裏金疑惑について「自民党全体の問題として危機感を持っており、一致結束して対応していく。その第一歩として、信頼回復への道筋が明らかになるまで、政治資金パーテイーを自粛すること決めた」とのべ、今後の状況をみながら、さらなる対応をとる考えを示した。

このように岸田政権の対応は、危機感を表明するものの、各派閥のパーテイーによる資金集めや収支の実態がどのようになっていたのか、問題の核心に触れる説明はみられなかった。これでは、国民の疑問や疑念に答えることはできない。

 官房長官などの進退、検察の捜査が焦点

問題は、これからの展開はどのようになるかだ。8日の集中審議を受けて、野党側は「松野官房長官は説明責任を果たせていない」として、辞任要求や、証人喚問要求を強めていく方針だ。

与党内からも「今のような答弁では、内閣の要としての役割が果たせていない」などの厳しい意見も聞かれ、辞任は避けられないとの見方も出ている。

また、松野官房長官のほか、高木国対委員長や、世耕参院幹事長などの疑惑が事実であれば政治責任が厳しく問われ、進退問題につながることも予想される。

国民世論の厳しい評価が示されると、閣僚や党役員の一部交代に止まらず、内閣改造が必要になるとの見方もある。

さらに、最も大きな焦点は、検察当局の捜査のゆくえだ。今の臨時国会が13日に閉会すれば、安倍派の会計責任者や、事務総長経験者の幹部、さらには多額の裏金を受領していた議員などの事情聴取が行われ、立件に向けての捜査が本格化するものとみられる。

このため、岸田政権は、政治資金問題への対応に加えて、年末に向けて新年度予算の編成作業も待ったなしの状態だ。この2つの問題をどのように乗り切っていくのか、岸田首相は早急な態勢立て直しを迫られている。(了)

★追記(9日22時)自民党安倍派の政治資金パーテイーをめぐる問題で、新たに安倍派座長の塩谷立・元文科相、萩生田光一・政務調査会長、西村康稔・経産相がパーテイー収入の一部について、キックバックを受けていたとみられることが明らかになった。これで、安倍派の「5人衆」と「座長」の幹部6人は、いずれも派閥から裏金のキックバックを受けながら、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

 

 

 

”巨額裏金疑惑”急浮上、早急に事実の解明を

自民党最大派閥の安倍派「清和政策研究会」が、巨額の裏金づくりを続けていた疑いが明らかになり、衝撃が広がっている。

安倍派幹部は詳しい説明を避けており、報道が先行する形になっているが、政治とカネの問題は「国民の政治不信を招く最大の元凶」だ。

岸田首相は自民党総裁として、安倍派幹部に事実関係の解明を急ぐよう指示すべきだ。また、自民党も今後の具体的な対応策を早急に明らかにする責任がある。

岸田政権と自民党の対応が不十分だと国民が受け止めた場合、”岸田政権離れ”がさらに進み、政権運営に深刻な影響が出てくることが予想される。

 キックバック総額、5年間で数億円か

今回の自民党の派閥による裏金づくりの問題は、短期間に急展開したので、わかりにくいという方も多いと思われる。最初にここまでの動きについて、NHKの報道を基にポイントを整理しておく。

▲今回の問題は、自民党の5つの派閥が行った政治資金パーティーの収入が、政治資金収支報告書に合わせて4000万円も過少に記載されているという告発を受けて、検察当局の新たな動きから始まった。東京地検特捜部が、派閥関係者から任意の事情聴取を行っていたことが、先月18日に明らかになったのだ。

▲自民党の派閥の政治資金をめぐっては、複数の派閥が、所属する議員の役職や当選回数などに応じて、パーティー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていたことを示すリストを作成していたことも明らかになった。

▲このうち、最大派閥の安倍派は、議員側にキックバックした分の収入を、派閥の政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その総額は、去年までの5年間で数億円に上るという。

▲また、安倍派の複数の議員は、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがあることも明らかになった。

以上のような事実関係から、安倍派は、政治資金パーティーで集めた資金の中から一定額を、裏金として所属議員にキックバックする運用を組織的に続けてきたものとみられている。

こうしたキックバックは、二階派「志師会」でも行われていたという。自民党関係者に聞くと「派閥の政治資金パーティーは、実際には個別の議員が売りさばいており、派閥は全体状況を正確に把握できていないのが実状だ」と語る。

また、「不明朗な資金処理は、安倍派だけでなく、他の派閥でも同じようなことが行われている」として、自民党にとって根の深い問題であることを認める。

 公開が基本、政治改革否定の悪質行為

さて、こうした自民党派閥の「政治とカネ」の問題をどのようにみるか?政治資金規正法は「政治資金の流れ、収支を広く国民に公開し、国民の不断の監視と批判に委ねること」を基本にしている。

この法律は「ザル法」などと揶揄されてきたが、今回の問題はその”ザル法”すらも守らず、抜け道をつくって裏金を運用しているのだから、極めて悪質だ。

また、政治改革の問題とも関係する。ロッキード事件をはじめ、リクルート事件、東京佐川急便事件などの政治スキャンダルが相次いだのを受けて、90年代前半に新たな選挙制度とともに、政党助成制度の導入など政治改革関連法を成立させた。

政治腐敗を防ぐことをねらいに、国民1人当り250円、総額およそ300億円の税金を初めて政党に投入・助成することになり、政治の浄化が進むはずだった。

ところが、今回の裏金づくり疑惑によって、一連の政治改革とこれまで30年余りに及ぶ取り組みを台無しにするような行為が明らかになったことになる。

こうした背景としては、2000年の森政権以降、小泉政権、安倍政権など清話会を中心にした政権が続いたこと。特に「自民1強・野党多弱」体制のもとで政治のよどみと驕りが、不明朗な政治資金の運用へとつながったのではないか。特に自民党の歴代総裁をはじめ、派閥の幹部や党役員などの責任は重い。

 岸田首相、事実解明へ指導力発揮は?

こうした事態に対して、岸田首相や安倍派幹部の対応はどうか。岸田首相は、訪問先のUAE=アラブ首長国連邦で記者団に対し、「国民に疑念を持たれていることは、たいへん遺憾だ。党としても対応を考えていく」とのべた。但し、具体的な対応への言及はなかった。

安倍派の座長を務める塩谷・元文科相は30日、所属議員にパーティー券の販売ノルマを設けていたことを明らかにしたが、その日のうちに発言を撤回した。

安倍派で過去5年の間に派閥の事務総長を務めた幹部のうち、松野官房長官は1日の記者会見で「政府の立場で答えることは差し控える」とかわした。西村経産相、高木自民党国対委員長も、事実関係について口をつぐんだままだ。

政治とカネの問題は、国民の政治不信を招く最大の元凶だ。岸田首相は自民党総裁として、安倍派をはじめとする各派閥に対して、事実関係を早急に調査するよう指示するとともに、自民党としての具体的な対応策を明らかにすべきだ。

一方、岸田首相自身も派閥や政治資金をめぐって、問題を抱えている。去年の政治資金の収支報告が先日明らかになったが、岸田首相は収入が1000万円以上の「特定パーティー」を年に7回も開催し、1億4800万円もの資金を集めていた。

2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び政務官規範」によると「国民の疑惑を招きかねない大規模なパーティーの開催は自粛する」と定めている。歴代首相の中で、首相自ら「特定パーティー」を頻繁に開催するのは異例で、本来は自粛すべきではないかと考える。

また、自民党出身の歴代首相は、就任時には派閥の会長を退いてきた。ところが、岸田首相は今も出身派閥・宏池会の会長を続けており、党内からも「派閥とは一定の距離を置くべきだ」と指摘する声は多い。

いずれにしても自民党総裁である岸田首相が、派閥の不透明な資金集めの解明に指導力を発揮できるかどうかが、問われている。

 検察の捜査のゆくえと政権の対応が焦点

これからの焦点は、検察当局が立件に向けて捜査に着手するかどうかが1つ。東京地検特捜部は、全国から応援検事を集めて態勢を拡充しているとの情報もあり、臨時国会が閉会する13日以降、本格的な捜査に踏み切る可能性が高いのではないかとみている。

もう1つは、岸田政権の対応だ。安倍派の幹部は、政権の主要ポストを務めており、今後、政権運営にさまざまな影響が出てくるものとみられる。

その際、岸田政権は「政治とカネの問題」に真正面から向き合い、事実の解明などに積極的な姿勢で取り組まないと政権運営が困難になるのではないか。年内が最初のヤマ場で、岸田首相の決断と対応力が試される。(了)

★追記・参考情報(4日21時)安倍派では、キックバックを受けていた所属議員が、数十人に上るとみられることが新たに明らかになった。このうち、複数の議員は、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがある。