今年前半の政治の主な舞台となる通常国会が26日に召集された。召集日は、首相の施政方針演説が行われるのが通例だが、自民党の派閥の裏金事件を受けて見送られた。
代わって、29日に衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」をめぐる集中審議を行い、翌30日に岸田首相の施政方針など政府4演説を行う異例の幕開けになった。
自民党の裏金事件をめぐっては、東京地検特捜部の捜査が国会召集直前まで続いた。また、岸田首相が突如、自らの派閥解散を宣言したのをきっかけに安倍派、二階派、森山派も相次いで解散を決めるなど政権与党の動揺が続く中で、国会論戦が始まることになった。
激動が予想される中で通常国会は、どこがポイントになるのか。結論を先に言えば、裏金事件については、実態の解明と説明が十分に行われるのかどうか。そのうえで、政治家の政治責任にけじめをつけられるのかどうかが、大きなカギを握っているとみている。
与野党攻防、実態解明をめぐる綱引き
通常国会が召集された26日、岸田首相は自民党の両院議員総会で「政治とカネの問題で国民は、自民党に厳しい目を注いでいる。政治資金の透明化など各党・会派と議論して進めるべきものは進めていく」とのべるとともに「日本の重要課題にしっかりと立ち向かっていく」と結束と協力を呼びかけた。
これに対し、野党第1党・立憲民主党の安住国会対策委員長は「岸田首相は、事件の全容解明のために、自民党の議員のどれくらいが事件に関わったのか調査チームなどを設けて国会に示して欲しい。それがなければ予算委員会は順調に運ばないのではないか」と自民党をけん制した。
この二人の発言から、今国会に臨む双方のねらいや展開が読み取れる。岸田首相としては、自民党総裁の直属機関として設置した政治刷新本部が決定した「中間とりまとめ」を基にこの国会を乗り切りたい考えだ。
中間とりまとめでは、政治資金の透明化を進める一方、「自民党は派閥ありきの党から完全に脱却していく」ことなどを強くアピールしている。
これに対し、立憲民主党などの野党側は「事件の本質は、派閥の解散などにあるのではなく、パーテイー収入を裏金として組織的、意図的にキックバックしてきた違法行為にある」として、自民党に事件の調査と結果の説明を強く迫る構えだ。
国会の序盤では、事件の概要・実態をはじめ、岸田首相の自民党総裁としての責任、実態解明の進め方などをめぐって与野党の激しい綱引きが続く見通しだ。
実態調査と説明、政治家の責任がカギ
この問題で、国民の受け止め方はどうか。多くの国民は、ロッキード事件、リクルート事件など連綿と続くスキャンダルにあきれる一方、政治とカネの問題に早く決着をつけ、山積している懸案へ全力で取り組むことを期待していると思われる。
そうであれば、まずは、今回の事件について検察の調べとは別に、自民党は自ら党所属の議員を対象に調査を行い、その結果を国民に説明することが必要だ。不祥事を起こした企業、団体のほとんどが、こうしたことは行っている。
また、国民の政治不信を払拭していくためには、刑事責任とは別に、国会議員が政治的・道義的責任を明確にすることも必要だ。
岸田派、安倍派、二階派の会計責任者は、政治資金規正法の違反容疑で、起訴、または略式起訴となったが、派閥の幹部議員は、いずれも刑事責任を免れた。
安倍派では安倍元首相が派閥の会長に戻った時に、キックバックの廃止を決めたものの、安倍氏の死去後、復活させた。この経緯についても安倍派幹部は、検察の事情聴取に対して「会長案件だった」などとして、自らの関与は否定したとされる。
安倍派の場合、今回の事件について政治責任を取る幹部議員は一人もおらず、事件の事実関係についても詳しい説明が行われていない。これでは、自民党が中間とりまとめなどで「国民に深くおわびし、信頼回復に取り組む」と繰り返しても信用されないだろう。
「政治とカネ」の問題は、事件が起きたときに実態の解明と説明、それに政治家の政治責任を明らかにすることが大前提になることを強調しておきたい。
そのうえで、今後、与野党の間では、事件の実態解明や再発防止策の協議の進め方をめぐって意見が対立し、国会運営面で大きな問題になってくるとみられる。
具体的には、自民党側から「検察の捜査以上に実態を調べることには限界がある」として、再発防止の中身の議論を優先するよう求めることが予想される。
個人的な体験で恐縮だが、ロッキード事件以降、政治とカネの取材を続けてきた。再発防止策は曖昧決着となるケースが多く、同じような不祥事が繰り返されてきた。政権与党は「曖昧なまま先送りにすることにかけては、天才的能力を持っている」というのが、率直な印象だ。
このため、「政治とカネ」の問題では「取り組みの順序」が極めて大事だ。事件の実態を調べるとともに、問題点や抜け穴などの点検、確認が不可欠だ。そのうえで、再発防止の具体策を考えていくことが重要だ。
こうした一方で、再発防止策を整備するためには、野党各党がどこまで連携して自民党に迫ることができるかどうか、野党の連携、共闘体制が必要になる。立憲民主と維新との足並みがどこまでそろうかがポイントになる。
再発防止と政治改革、実効性がカギ
それでは、再発防止と政治改革の実現にむけて、どのような取り組みが必要だろうか。再発防止の内容については、これまで何回も問題になってきたこともあって、与野党とも大筋で共通認識ができているようにみえる。
具体的には、◆政治資金集めのパーテイー券の購入については、購入者の公開基準を今の20万円から引き下げること。◆政治資金規正法については、会計責任者だけでなく、国会議員も責任を負う連座制を導入すること。
◆政党から議員に渡される政策活動費については、使途の公開などを図る。◆政治資金の透明化を徹底するため、オンライン申請とデジタル化を進めること。
こうした一方で、◆企業団体献金については、禁止を求める野党側と、継続を求める自民党側との間で、大きな隔たりがある。
企業団体献金の扱いを除いては、与野党の問題意識は多くの点で共通している。今後、内容面の詰めの議論を行い、与野党が実効性のある対応策をとりまとめることができるかどうかが大きな焦点だ。
最後に今の政治情勢だが、岸田首相は、派閥の解散を打ち出すことで、政権への追い風を期待したようだが、世論は反応せず、内閣支持率は低迷したままだ。一方、野党各党も政党支持率が上がらず、政権批判の受け皿になり得ていない。
この国会は「政治とカネ」の問題を中心に激しい論戦と駆け引きが繰り広げられる見通しだ。国民が、果たして政権与党と野党のどちらの主張に軍配を上げるか。その結果は、今年の政治の流れを大きく左右することになりそうだ。(了)