自民党派閥の裏金問題で、衆議院の政治倫理審査会が28日と29日に開かれ、安倍派と二階派の幹部5人の弁明が行われる見通しになった。審査会を公開するかどうかなどについて、与野党の間で詰めの調整が続く。
政治倫理審査会開催への動きは一歩前進だが、まだ当事者の弁明を聞く舞台作りで、ようやく合意に達した状態だ。国会召集から早くも1か月近くが経過、「あまりに遅い」というのが率直な印象だ。
こうした背景には、岸田政権の小出しの対応と、基本方針がはっきりせず、決断や覚悟のなさが迷走につながっているようにみえる。ここまでの動きを点検し、何が問われているかを探ってみたい。
政倫審、出席議員の顔ぶれと公開の是非
衆議院の政治倫理審査会をめぐって、自民党は22日までに、安倍派の座長を務めた塩谷元文科相と、安倍派「5人衆」と呼ばれる松野前官房長官、西村前経産相、高木前国会対策委員長の3人、それに二階派事務総長の武田元総務相の合わせて5人が出席する意向だと野党側に伝えた。
参議院では、安倍派「5人衆」の1人、世耕・前幹事長も出席の意向を明らかにしている。
野党側は、派閥からのキックバックを受けながら政治資金収支報告書に記載しなかった自民党議員82人のうち、衆議院議員51人全員について、出席の意向を確認するよう要求した。また、安倍派「5人衆」全員と二階派会長の二階元幹事長らの出席を求めた。
自民党が示した対象者からは、安倍派の萩生田前政調会長と二階元幹事長は外れている。自民党は「派閥の事務総長、または経験者」で線引きしたものとみられるが、その場合、安倍派の事務総長経験者である下村元文科相は外れているなどの矛盾もある。
今回の対象者で、国民は納得するかといった問題も残されており、与野党の協議が続くものとみられる。
政治倫理審査会が開かれると衆議院の場合、2009年以来となる。参議院で開かれると初めてのケースだ。政治倫理審査会は原則非公開だが、本人の了承が得られれば、公開された先例もある。
このため、野党側は公開を求める方針で、与野党で折衝が行われる見通しだが、非公開となると、世論の反発も予想される。
一方、政倫審が開かれた場合、野党側は、裏金問題の実態解明につながるような審査を行うことができるのかどうか、力量を問われることになる。
小出しの対応、政権の強い指導力見えず
さて、ここまでの与野党の対応をどのように評価するか。まず、岸田首相や自民党執行部の対応は小出しの対応が多く、実態解明に積極的な姿勢は見られなかった。
今年の通常国会は、自民党派閥の裏金問題を受けて、異例の幕開けとなった。通例では召集日に行われる首相の姿勢方針演説を後回しにして、衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」の集中審議を国会冒頭に行った。
その集中審議で、岸田首相は今回の事態を陳謝したうえで「関係議員から聴き取り調査を行うことを通じて実態を把握し、政治的な責任について考えたい」と表明した。
ところが、自民党所属の全議員を対象としたアンケート結果がまとまったのは2月13日、関係議員からの聴き取りの結果がまとまり、公表されたのは2月15日と大幅に時間がかかった。アンケートといっても質問はわずか2問だけ、聴き取り調査も核心に触れる内容はなかった。
政治倫理審査会についても野党側の申し入れがあって検討を始めるという受け身の対応が目立ち、議員に対する出席の意向確認も遅れた。
岸田政権がこうした対応をとったのは、新年度予算案の年度内成立が第1の目標で、予算案の衆議院通過が最優先の課題のためだ。そのための「時間稼ぎ」、その間に予算審議の時間を重ねる、ねらいがあるものとみられる。
実態把握の調査や政治倫理審査会の対象者への打診などは、森山総務会長が中心になって行われた。但し、安倍派幹部から、自らの派閥の問題なので、進んで説明責任を果たしていくような動きは見られなかったという。
一方、岸田首相や茂木幹事長ら党の執行部も、対象者を決める判断基準や基本方針を示したり、党内調整で強い指導力を発揮したりするような場面はみられなかった。
政倫審めぐる与野党折衝で、自民党側は当初は出席者は2人と伝え、野党の反発を受けると人数を増やすといった迷走もみられた。党内からも「岸田首相や党役員はもっと指導力を発揮しないと、国民の納得を得るのは難しいのではないか」との批判の声も聞いた。
実態解明、政治改革の集中的取り組みを
それでは、これからの取り組みはどうなるか。政治倫理審査会が開催されても、実態解明が一気に進むとは限らない。その場合、必要があれば、新たな幹部から説明を求めることも必要になるだろう。
また、予算委員会など別の場で参考人招致、証人喚問なども必要になるかもしれない。こうした取り組みが実現するかどうかは、野党側の連携や結束力が試されることになる。リクルート事件の際には、中曽根元首相、竹下元首相などの証人喚問が行われた先例もある。
こうした実態解明が、第1段階だ。第2段階は、裏金の実態などを踏まえて、政治資金規正法の「抜け道」などを防ぐ再発防止策と政治改革が焦点になる。
再発防止の法整備については、既に野党各党と、与党の公明党はそれぞれ、具体策や方針をとりまとめている。
自民党の対応だけが遅れており、党の刷新本部で検討を進めている段階だ。自民党が早急に改革案をとりまとめて、与野党の合意を図る取り組みが必要だ。
主な項目は、◇政治資金パーテイーの是非や、パーテイー券購入者の公開基準の引き下げ、◇政治資金をめぐる不正があった場合、会計責任者だけでなく、議員も罰則を適用できるようにすること、◇政策活動費の使途の公開、◇政治資金収支報告のデジタル化、◇それに懸案の旧文書・通信・文通費の扱いなどだ。
こうした対応策については、ダラダラと時間をかけずに短期集中型で合意をとりまとめ、成果を上げることが極めて重要だ。目に見える成果が得られないと国民の政治不信はさらに強まり、民主主義そのものが機能不全となる恐れがある。
また、この国会は、賃上げと日本経済活性化の取り組み、子ども・子育て支援制度の創設、農業基本法の改正、さらには、ウクライナやガザなどの外交問題といった数多くの法案や課題を抱えている。こうした懸案の議論を深める必要がある。
報道各社の今月の世論調査をみると、岸田内閣の支持率は政権発足以降、最も低い20%台前半まで落ち込んでいる。裏金問題への岸田首相の対応については「評価しない」が7割から8割にも達していることを重く受け止める必要がある。
これから政治倫理審査会での実態解明と政治改革をめぐる議論が、大きなヤマ場を迎える。与野党が議論を徹底して深めたうえで、再発防止の政治改革については、国民の信頼をつなぎとめるためにも一定の成果を上げるよう強く注文しておきたい。(了)
★追記(26日23時)以上の原稿は、23日(金)午前0時出稿。26日(月)夜の時点で全体状況は、以下の通り。政治資金問題を受けて、衆議院の政治倫理審査会は26日、与野党が開催のあり方について協議をしたが、公開の是非をめぐって折り合いがつかず、引き続き協議を行うことになった。 ★追記(27日21時)政治資金問題で、与野党は28、29両日、衆議院の倫理審査会を開く方向で協議を続けてきたが、公開のあり方などをめぐって調整がつかず、28日の開催は見送られることになった。 ★追記(28日22時)衆議院の政治倫理審査会は28日午前、岸田首相が突如、審査会に自ら出席する意向を明らかにした。これを受けて、これまで公開での出席に慎重な姿勢を示していた派閥幹部4人も出席する考えを示し、29日と1日の両日、審査会が開催されることになった。報道機関にも公開する形で行われる。★追記(29日21時)29日に開かれた衆議院政治倫理審査会で、岸田首相は、自民党の派閥による裏金問題について、党の聴き取り調査の内容を繰り返す場面が多く、事実の解明につながる新たな事実を語ることはなかった。 二階派の事務総長を務める武田・元総務相は、収支報告書の不記載について「二階会長も私も、会計責任者から説明を受けることはなく、全く関与していない」とのべた。 ★追記(3月1日午後11時半)衆議院の政治倫理審査会が1日開かれ、自民党安倍派の事務総長経験者4人が出席した。西村・前経産相、松野・前官房長官、塩谷・元文科相、高木・前国対委員長は、いずれも会計処理には関与していなかったと釈明した。野党側は「真相究明に後ろ向きだ」と強く反発している。