“処分でケジメとなるか?”自民裏金問題

新年度予算が28日の参議院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決され成立した。これによって例年であれば、通常国会前半戦の山を越えたとなるが、今年は全く様相が異なる。自民党派閥の政治資金の裏金問題が残されているからだ。

予算成立を受けて、岸田首相は28日夜、記者会見し「現在、自民党執行部で追加の聴き取りをおこなっており、来週中にも処分を行えるようプロセスを進めていきたい」とのべ、4月第1週に党の処分を行う考えを示した。

岸田首相は、この処分で、裏金問題の実態解明と関係議員の政治責任にケジメをつけたとして、今後は再発防止に向けて政治資金規正法の改正などの与野党協議に重点を移したい考えだ。

しかし、この処分でケジメがついたとなるのかどうか?カギを握る世論は、裏金関係議員と、党総裁の岸田首相の対応について厳しい評価をしており、岸田首相にとっては、引き続き厳しい政権運営を迫られることになる見通しだ。

 安倍派幹部聴取、処分の重さと範囲は

自民党の派閥の政治資金裏金問題をめぐって、岸田首相は事実関係の把握に努める必要があるとして、26日と27日の両日、茂木幹事長、森山総務会長とともに安倍派の塩谷・元文科相、下村・元政調会長、西村・前経産相、世耕・前参院幹事長の4人の幹部から個別に聴取を行った。

岸田首相は、安倍派幹部に続いて、そのほかの関係者からも追加の聴き取り調査を続けたいとしている。そのうえで、岸田首相は、4月9日から予定しているアメリカ訪問前の4月第1週に処分を行う方針だ。

この処分をめぐっては、25日、二階派会長の二階・元幹事長が「次の衆院選挙には立候補しない」考えを自ら表明したことから、自民党内では、安倍派幹部についても8段階中4番目に重い「選挙における非公認」以上のという重い処分を行うべきだといった意見が強まっている。

これに対して、野党側は「国会議員が、政治資金規正法違反の行為を組織的、継続的に行ってきたことは極めて悪質だ」として、最低でも離党勧告、議員辞職が必要だなどと参議院の予算審議などの場で要求してきた。

また、野党側は、裏金事件は、安倍派だけでなく、二階派、さらに岸田首相が会長を務めていた岸田派でも会計責任者が立件されたことから、二階元幹事長や岸田首相自らも処分を受けるべきだと追及している。

このように、自民党の処分をめぐっては、党の規則で8つの段階に分かれている「処分の程度」と「処分の対象範囲」がどこまで及ぶかが焦点になっている。

自民党内では、安倍派で資金還流を協議した塩谷氏ら先の4氏を最も重い処分にするほか、派閥の中枢を担った高木・前国会対策委員長や、松野・前官房長官、萩生田・前政調会長に対しても、4氏に次ぐ重い処分にすべきだという意見が出され、調整が進められている。

 森元総理の聴取や国会招致は?

こうした中で、28日に行われた参議院予算委員会の理事懇談会で、自民党側から「党が行っている追加の聴取の対象として、安倍派前身の派閥の会長を務めた森元総理も含まれる可能性があること」が説明されたとされる。

野党側は、この問題を参議院予算委員会の締めくくりの質疑で取り上げたのに対し、岸田首相は「追加の対象に森元総理も含まれるが、対象は決まっていない」とのべ、聴取を行うかどうかについては言及を避けた。

また、安倍派が裏金の還流問題をめぐって、派閥幹部が協議した会合がこれまで明らかになっている2回だけでなく、別の会合も開かれていたのではないかといった指摘が野党側から出されるなど事実関係が依然としてはっきりしないことも浮き彫りになった。

こうしたことから、自民党の処分決定までに森元総理の聴取が行われるのかどうかが注目される。また、野党側からは、森元首相を参考人として国会に招致すべきだという要求が出されることが予想され、与野党の折衝が今後も続く見通しだ。

 世論、裏金議員と首相に厳しい評価

さて、裏金問題に関与した議員に対する自民党の処分が出された際には、こうした処分で、実態解明や政治責任にけじめがついたと判断するのかどうかが、焦点になりそうだ。

与党幹部の1人は「いつまでも実態解明と言っても、国会は捜査権がないので限界がある。これからは再発防止の議論に重点を移すべきだ」と政治改革論議への転換の必要性を強調する。

これに対して、野党側は、証人喚問など実態解明を進めるべきだという意見と、再発防止を含む政治改革議論に入らざるを得ないとの意見もあり、調整が行われる見通しだ。

最終的には、国民がどのような判断を示すかがカギを握る。3月の世論調査をみるとNHKの調査(3月8日から10日)では◇政治倫理審査会で行われた派閥幹部の説明については「説明責任が果たされていない」という評価が83%に達した。

朝日新聞の調査(3月16日、17日)では◇裏金問題に関係した議員は、受け取ったお金について「政治活動に使った」という理由で税金を納めていないことは「納得できない」が91%。◇岸田首相のこれまでの対応は「評価しない」が81%を占めた。

読売新聞の調査(3月22日から24日)でも◇政治倫理審査会での派閥幹部の説明に「納得できない」が81%。◇安倍派議員に対して「厳しい処分をすべきだ」が83%にも上った。

以上のデータから、国民の多くは、裏金問題に関与した議員に対する厳しい処分を求める一方、岸田首相の対応についても強い不満を抱いていることが読み取れる。

安倍派幹部を中心に「選挙における非公認」などの処分を行ったとしても国民の多くの納得を得るのは難しいのではないかと推察される。コロナ感染拡大の時期に夜間、銀座で飲食した議員3人が「離党勧告」を受けたのに比べて「甘すぎる」といった反応も予想される。

実態解明へ証人喚問、やはり必要では

今回の裏金問題は、法律をつくる立場の国会議員が、政治資金規正法に違反して、虚偽の記載を組織的、継続的に長期にわたって行われた前代未聞の事件だ。

しかも、政治倫理審査会で派閥幹部は、会計処理や運用には全く関与していないと、会計責任者に責任を押しつけ、自ら説明責任や政治責任を取ろうという姿勢を全く示さない無責任さに国民は怒っているのである。

そして、事実関係の解明ができないのは、議員個人の判断に委ね、政党としての本格的な調査が遅れたことが影響している。岸田首相や自民党執行部の責任も極めて大きいと国民は受け止めているので、先の世論調査のような厳しい評価になっている。

国会議員や政党の対応も期待できないとなると、残るは国会が国政調査権を使って、証人喚問するしかないのではないか。証人喚問を行っても現在の調査能力からすると、事実関係は明らかにできないかもしれない。

しかし、国会議員が関係する事件の真相を解明するのは、国会の責務だ。やはり、証人喚問を行い、事実関係の解明に最後まで努力する行動を示してこそ、国民の政治不信をなくしていくことにつながるのではないか。

再発防止の法整備に時間がないとの反論もあるかもしれないが、国会の会期末は6月23日。会期が足りなければ、会期延長すれば対応は可能だ。岸田首相と自民党が、処分と事実関係の解明にどのような方針を打ち出すか、しっかり見極めたい。(了)

 

裏金問題 政倫審後の展開は?

自民党の派閥の裏金問題を受けて衆院政治倫理審査会が18日開かれ、安倍派幹部の下村・元政調会長が出席した。下村氏は、焦点の派閥からのキックバックを継続することになった経緯について「本当に知らない」などの説明を繰り返し、新たな内容はなかった。

これで、各派閥の幹部など10人が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行ったが、政治資金規正法違反の裏金問題に派閥幹部がどの程度関与していたのか、どのような経費に使われていたのかといった実態の解明にはほど遠い結果に終わった。

野党側は、証人喚問に切り替えて実態解明を続けるよう自民党に迫る方針だ。これに対して、岸田首相は自民党として関係議員の処分を急ぎ、局面の転換をめざすものとみられる。

政治倫理審査会の審理が一巡した後、裏金問題は今後どのように展開することになるのか、探ってみたい。

 実態解明進まず、取り組み姿勢も疑問

まず、これまでの政治倫理審査会の取り組みについて、整理しておきたい。最大派閥・安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相、事務総長経験者の西村・前経産相など幹部6人は、いずれも派閥の政治資金パーテイー収入の会計や運用には「関与していない」「知らされていなかった」などと関与を否定した。

また、派閥会長に就任した安倍元首相が一昨年4月、派閥からのキックバックを取り止める方針を決めたものの、安倍氏死去後、8月の派閥幹部の会合を経て、キックバックが継続されることになった。この経緯についても、各幹部からは「誰がどのような発言をしたのか記憶にない」などあいまいな説明が続き、事実関係は明らかにならなかった。

さらに、参院選挙の年には、改選議員は派閥に収めるノルマが免除され、全額キックバックされる仕組みが続いてきた点についても、世耕・前参院幹事長は「事件が報道されて初めて知った」と説明し、与野党の議員を唖然とさせた。

このように裏金還流がどのような経緯で決定され、運用されてきたのかという核心部分については、今回の政倫審では全く明らかにならなかった。

派閥の会長は強力な権限を持っているのは事実だが、派閥の政治資金集めの意思決定や運用は、すべて会長と事務局長で決まり、派閥幹部は完全に除外されることがありうるのか、派閥取材を行ってきた者として大きな疑問が残ったままだ。

また、仮に派閥幹部がその時点で知らなかったことがあったとしても、個人として派閥の先輩や、事務担当の職員に尋ねるなどの努力があってもいいと思われる。しかし、そうした事実関係を究明しようとする姿勢・行動は質疑からうかがうことはできなかった。

 証人喚問要求、処分のゆくえは

さて、問題はこれから裏金問題は、どのように展開することになるのかという点だ。立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党の国会対策委員長は19日に会談し、政倫審では実態解明につながらなかったとして、安倍派幹部6人について、予算委員会で証人喚問を行うよう要求することで一致した。

証人喚問の対象になった6人は、塩谷・元文科相、下村・元政調会長、松野・前官房長官、西村・前経産相、高木・前国対委員長の安倍派幹部と、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴され、自民党を除名処分となった池田佳隆衆院議員だ。

参議院側は、既に立憲民主党が15日に政倫審に出席した世耕・前参院幹事長ら安倍派の3人について、証人喚問を行うよう自民党に求めている。

また、野党側は、裏金問題に関与した83人の現職のうち、衆参両院の政倫審に出席していない残りの議員は出席して説明するようを求めていく方針だ。

このように野党4党は当面、安倍派に的を絞る形で証人喚問を要求して、与党側に攻勢をかける考えだ。

これに対して、自民党の浜田国会対策委員長は「証人喚問となると、かなりハードルが高い」として、慎重に対応する考えだ。自民党としては、新年度予算案の成立を最優先に対応していくほか、下村氏の政倫審出席を区切りとして、証人喚問には応じない構えだ。

代わって自民党内では、裏金問題の早期の幕引きを図るためにも関係議員の処分を急ぐよう求める声が強まっている。

岸田首相も先の党大会で、茂木幹事長に関係議員の処分を行うための取り組みを進めるよう指示したことを明らかにした。岸田首相としては、来月上旬にも処分を行い、局面の転換を図りたい考えだ。

但し、この処分問題も、関係議員が82人という多数に上ることに加えて、何を基準に処分を行うのか、難しい問題を抱えている。

党の処分には、除名や離党勧告、党員資格停止、選挙における非公認など8つの段階があるが、どの処分を選択するか問題になる。

また、政治資金規正法の不記載の額や、役職、説明責任の果たし方などを基に判断するとしているが、仮に安倍派の事務総長経験者という役職で処分をすると、事務総長を経験していない萩生田・前政調会長が幹部の枠から外れる。

一方で、萩生田氏は不記載額では2700万円余りと上位にいることから、その責任の重さや線引き、バランスをどう判断するかという難しさもある。党内には、処分を早期に実施できるのか疑問視する声も聞かれ、紆余曲折がありそうだ。

 実態解明、処分に指導力発揮できるか

それでは、国民の受け止め方や評価は、どうか。最新の朝日新聞の世論調査(2月17、18日実施)をみると裏金問題について、△派閥幹部の説明は「十分でない」が90%にも上る。△岸田首相の対応は「評価する」が13%、「評価しない」が81%にも達している。△内閣支持率は22%で低迷、不支持率は67%を記録。

このように国民の多くは、派閥幹部の説明や、岸田首相の対応に強い不満や、疑念を抱いていることが読み取れる。国民の政治不信を払拭するためにも実態解明をさらに努める必要があり、国政調査権に基づく証人喚問も検討する必要があると考える。

また、事実関係が明確にならないと自民党は、党の処分を行うにしても判断材料が整わないことになる。リクルート事件の際には中曽根元総理、東京佐川急便事件の際には竹下元総理が証人喚問に応じた先例もある。

こうした実態解明と、政治責任を明確にする処分、それに再発防止策を盛り込んだ政治改革の法整備を実現することが、この国会の大きな責務だ。

ところが、岸田首相と自民党執行部の対応は、実態把握の調査1つをとっても対応が鈍すぎる。政治改革の中身も、与党の公明党と野党各党は既にそれぞれの改革案をとりまとめている。遅れているのが自民党で、早急なとりまとめが必要だ。

そのうえで、岸田首相は、国民の関心が強い実態解明と処分、それに政治改革の法整備について、具体的な時期を含めて政権の基本方針を明らかにすべきだ。

裏金問題をいつまでもダラダラと対応を引き延ばすのではなく、短期集中で方針を決定し、与野党で協議を進めながら、実行の道筋をつけるべきだ。

政治改革以外でも、日銀が19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除し、安倍政権時代からの大規模な金融緩和策の変更を打ち出した。賃金引き上げと日本経済の活性化、子ども子育て政策の進め方など内外の課題は山積している。

岸田政権と与野党は、懸案の政治改革に早急にメドをつけた上で、与野党がそれぞれ重視する政策を打ち出しながら、競い合う政治を一刻も早く取り戻してもらいたい。(了)

裏金問題と”機能不全政局”

長丁場の通常国会は、新年度予算案が異例の土曜審議を経て衆議院を通過し、年度内に成立することになったが、焦点の裏金問題の実態解明はまったく進んでいない。

こうした中で、NHK世論調査が11日にまとまった。先の衆院政治倫理審査会での二階派と安倍派幹部の説明には、8割の人が「説明責任を果たしていない」と厳しい見方を示している。

また、岸田内閣の支持率は低迷が続いていることに加えて、自民党の支持率も再び30%ラインを割り込んだ。一方、野党各党の支持率も低い水準のままで、無党派が4割を超えて圧倒的多数を占めている。

今の政治状況は、裏金問題の先行きもはっきりした見通しがつかず、端的に言えば「機能不全政局、進行中」と言えそうだ。最新の世論の動向とこれからの政治のポイントを考えてみたい。

 自民支持率も低下、再び30%割れ

さっそくNHK世論調査(3月8日から10日実施)の内容から見ていきたい。岸田内閣の支持率は先月と同じ24%。不支持率は57%で、先月から1ポイント下がったものの、6割近い高い水準だ。

これで、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」は去年7月以来、9か月連続だ。これまで最も低かったのは去年12月の23%なので、横ばいというよりも「どん底状態」が続いているというのが実態に近い。

今回の大きな特徴は、自民党の政党支持率が28.6%と、30%ラインを再び割り込んだことだ。岸田内閣の支持率が低下しても、自民党の支持率は40%から30%台後半の高い水準を保ってきたが、去年12月の調査で29.6%と30%を割り込んだ。

自民党の支持率が20%台に落ち込んだのは、2012年政権復帰以来、岸田内閣が初めてで、今回で2回目となる。

一方、野党各党は立憲民主党が6%台、日本維新の会が3%台などと低い水準に止まったままで、反自民の受け皿になっていない。存在感を増しているのが無党派で42.4%、自民党を1.5倍上回る”第1党状態”が続いている。

自民党の支持率が落ち込んだ理由だが、やはり、裏金問題が大きく影響している。今月の調査で、衆議院の政治倫理審査会で安倍派と二階派の幹部議員が行った説明についての評価を尋ねているが、「説明責任が果たされていない」との答えが83%に達した。

また、裏金の関係議員に対して、自民党が処分を行うべきかどうかの質問は、「行う必要はない」が12%に対し「行うべきだ」は75%に上った。

 政倫審巡り混乱、政権も求心力低下

次に、今回の裏金問題は、国会や政権などにどのような影響を及ぼしているかを具体的にみておきたい。

裏金問題に関与した関係議員から事情を聞く衆院政治倫理審査会をめぐっては、岸田首相が現職首相として初めて出席することを表明したことで、渋る派閥幹部を出席させる効果はあった。

しかし、今月1日に行われた政倫審で、安倍派幹部4人はいずれも不記載には「関与していない」「知らない」の連発で、新たな核心に触れる内容はなかった。

逆に政倫審公開の是非や、出席者を誰にするかをめぐって、自民党内の調整不足が露呈し、与野党でほぼ合意していた日程が先送りとなり混乱を招いた。国会での事実の解明は、まったくと言っていいほど進んでいない。

岸田首相は、新年度予算案の衆院通過が最優先で、深夜の本会議や異例の土曜日審議となった。加えて、予算案採決の日程をめぐって、首相官邸と自民党執行部の足並みが乱れる場面もみられた。

自民党内では「岸田首相が党幹部に指示を出したり、説得したりする場面がみられない」と政権運営を問題視する指摘が聞かれた。一方、「党務を預かる茂木幹事長が党内調整に動かない」と批判する声も聞かれるなど首相官邸と自民党執行部との連携、調整がうまく進んでいないことが浮き彫りになった。

こうした政権内部の足並みの乱れが影響して、国会での裏金問題の実態解明は進んでいない。元々、自民党内のアンケートや、聞き取り調査の実施も遅く、政権の及び腰が混乱の原因だと見方が根強い。

参議院では14日に政治倫理審査会を開き、安倍派幹部の世耕・前参院幹事長など3人の弁明と質疑が行われることが決まった。

一方、衆議院では、安倍派事務総長経験者の下村元政務調査会長が説明責任を果たしたいとして、審査を申し出た。与野党は、審査会の日程などを協議することにしている。

「政治改革国会」と銘打って裏金問題の集中審議で幕を開けた国会は、既に会期の3分の1近くが経過したが、実態解明も手つかず状態という惨憺たる状況だ。

もう一方の政権を取り巻く状況も、岸田内閣の支持率は発足以来、最低の水準だ。政権の求心力も大幅に低下して、機能不全とも言える状況に陥っている。

 機能不全政局から脱却の覚悟あるか

それでは、今の機能不全の政治状況を変えるためには、どこがポイントになるのだろうか。今回の裏金問題は、自民党の派閥による政治資金の不記載に原因があることから、自民党政権自らが自浄能力を発揮する必要がある。

岸田首相は、裏金事件が明らかになった去年12月の記者会見で「信頼回復のために火の玉になって自民党の先頭に立って取り組んでいく」と決意を表明した。そして、これまでの国会答弁では裏金問題の実態の把握と、関係議員の政治責任の明確化、それに再発防止策と法整備の3点をセットで実行していくと繰り返し表明してきた。

ところが、第1段階の実態把握ですら、思うように進んでいない。政治責任の明確化、具体的には党として関係議員をどのように処分するのか、その方針も決まっていない。これでは、国民の疑念や不信は拭えないのは明らかだ。

党内には、当初、17日の自民党大会までに処分を決定すべきだという意見もあったが、先送りとなる見通しだ。党内から強い抵抗があると予想されるからだ。

しかし、岸田首相は党総裁として、裏金の実態解明から政治改革までの3点セットをどのような手順・段取りで行うのか、早急に明らかにする必要がある。

裏金問題にけじめをつけないと、岸田内閣が支持率低迷から脱却するのは困難だ。政界の一部で取りざたされる4月解散、6月解散などはおよそ想定できないことを認識すべきだ。

この国会は、裏金問題だけでなく、賃金引き上げと日本経済再生への道筋、子育て支援制度の是非、さらにはイギリスやイタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認めるかどうかなど多くの重要課題を抱えている。

ところが、裏金問題への政権の対応の遅れが、こうした重要課題の議論を進めるうえで、大きな妨げになっている。

今のような遅々としたペースで裏金問題への対応が続けば、主な政治改革案づくりまでたどり着けず、これまで同様に先送りで幕引きとなる公算は大きい。岸田首相が問われるのは、機能不全政局から脱却する意思と覚悟があるかどうかだ。(了)

 

 

予算案 衆院通過”裏金解明は進まず”

異例ずくめの展開が続く国会は、新年度予算案の審議が土曜日の2日も続き、夕方の衆議院本会議で、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。憲法の規定で、予算案は年度内に成立する。

もう1つの焦点になっている自民党の派閥の裏金問題については1日、衆議院政治倫理審査会で、安倍派幹部4人が弁明に立ったが、いずれも「自らは関与していない」と繰り返し、実態解明につながる新たな内容はなかった。

予算案が衆院を通過すれば、通常では国会前半戦が一山越えたということになるが、今回は、懸案の裏金問題が残されたままで、岸田政権にとって険しい政権運営が続く。国会での与野党攻防と、岸田政権の課題を点検する。

 裏金解明、派閥幹部・首相も後ろ向き

自民党の派閥の裏金問題から、見ていきたい。29日と1日に行われた衆議院政治倫理審査会を中継などでご覧になった方は、国会議員の政治とカネをめぐる認識や釈明にあきれ、驚くことが多かったのではないか。

1日の政治倫理審査会には、安倍派の西村・前経産相、松野・前官房長官など幹部4人が出席した。派閥の会計処理について、4人の幹部はいずれも「関与していない」と釈明したほか、「パーテイー券の販売ノルマも、会長と事務局長との間で長年、慣行として扱ってきた」などとして、会長案件だったと強調した。

2022年当時、安倍会長の意向で裏金還流を止める方針が決まった後、安倍氏が死去して還流が復活した経緯については、派閥幹部と事務局長が集まって検討したものの、いつ、決めたかはっきりしないといった説明が繰り返された。

一方、29日に行われた政治倫理審査会では、岸田首相が歴代総理大臣として初めて出席したが、事実関係については、党の聴き取り調査をなぞる説明がほとんどだった。

また、自民党総裁として、今後の実態解明の取り組み方や政治改革の目指すべき方向を明らかにすることもなかった。

政治倫理審査会が鳴り物入りで開かれたが、安倍派の裏金作りはいつから始まり、どのような経費に使われたのか、誰が政治責任を取るのか、かねてからの疑問点は全く明らかにされなかった。

「裏金の実態解明という宿題」は全く進んでいない。こうした原因は、自民党の聴き取りなどの調査が2月になってようやく始まるなど岸田首相や党執行部の後ろ向きな姿勢が大きく影響していることを改めて強調しておきたい。

 予算通過、主導権発揮に強いこだわり

次に、新年度予算案をめぐる与野党の攻防をどうみるか。岸田首相は、予算案の年度内成立、実際には自然成立となる衆院通過の時期に強いこだわりをみせた。

具体的には、予算案は3月2日までに通過すれば自然成立となるが、2日は土曜日なので、前日1日の通過をめざし、委員長職権で委員会の開催を決定した。

これに対して、立憲民主党は委員長解任決議案などを提出して抵抗したため、深夜にもつれ込んだ後、異例の土曜日、2日の採決となった。

自然成立は予算案が自動的に成立するメドであり、実際には、参議院が独自性を発揮して審議時間を短縮するので、多少ずれ込んでも年度内成立は可能だ。

それでも、2日までの成立にこだわって突き進んだのは、内閣支持率の低迷に加えて、この国会では裏金問題で野党の攻勢が続いていることから、何とか政権の主導権発揮を印象づけたいねらいがあるものとみられる。

一方、今回は、首相官邸と自民党執行部との連携が機能していない場面が目立った。例えば、政治倫理審査会に出席する派閥幹部の顔ぶれが二転三転、与野党が大筋合意していた日程が見送られたほか、岸田首相が突如、出席を表明し与野党双方の関係者を驚かせた。

政倫審の出席者の調整などは、本来、党務を預かる幹事長の役割だが、茂木幹事長が調整に当たる場面は見られなかった。今後は、裏金問題に関与した議員の処分を決める難問が控えている中で、首相官邸と党執行部の調整が順調に進むのか、危ぶむ声も聞かれる。

 裏金問題の処分、政治改革も本格化

予算案の衆院通過後の国会はどのような展開になるか。当面は、参議院予算委員会に舞台を移して、引き続き裏金問題が論戦の中心になりそうだ。

具体的には、裏金問題に関与した議員に対する処分の扱いや、岸田首相の政治責任をめぐって、野党側の追及が続きそうだ。このうち、処分の問題については、岸田首相も検討する考えを表明しているが、安倍派や二階派の反発も予想され、難問だ。

また、参議院では、安倍派幹部の世耕元参議院幹事長の政治倫理審査会での弁明が行われる見通しだ。但し、衆議院での安倍派幹部と同じような答弁に止まることが予想され、新たな事実が明らかになる可能性は低いとみられる。

一方、衆議院では、自民党の浜田国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が2日に会談し、政治資金問題で参考人招致の協議を続けるとともに、政治倫理審査会への出席の申し出があった場合は、弁明と質疑を行うことを申し合わせた。

新たに5人程度の自民党議員が審査会での弁明を申し出ており、来週以降、審査会が開催される見通しだという。野党側としては、当面、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長の参考人招致を要求する方針だ。

このほか、野党内では、二階派会長の二階・元幹事長や、森元総理の参考人招致や証人喚問を要求する意見があり、調整が行われる見通しだ。

さらに、自民、立民の国対委員長会談では、4月以降、衆議院に政治改革を議論するための特別委員会を設置することを申し合わせた。この特別委員会で、再発防止の具体策や法整備の内容について、本格的な議論が始まる見通しだ。

このほか、今の国会では、春闘での賃上げと経済運営をはじめ、子ども・子育て法案や、25年ぶりの改正となる食料・農業・農村基本法改正案など重要法案の審議も控えている。

以上、見てきたように予算案の衆院通過後の国会は、裏金問題と政治改革に加えて、内外の多くの課題が議論になる見通しだ。岸田政権が賃上げなどをテコに反転攻勢をみせるのか、それとも野党が政治改革などを軸に攻勢を続けるのかが焦点だ。(了)