衆院補選 自民3戦全敗”政局流動化へ”

衆議院の3つの補欠選挙は28日に投開票が行われ、いずれも立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は不戦敗を含めて3戦全敗となった。

唯一、与野党対決となった島根1区は自民党が長年、議席を維持してきた牙城だったが、立憲民主党の元議員の亀井亜紀子氏が自民党新人を破って議席を獲得した。自民党の裏金問題に対する有権者の批判や怒りが、自民党の選挙地盤を覆した形だ。

岸田政権の下で、衆参の補欠選挙は5回目になるが、これまで自民党が負け越すことはなく、全敗したのも今回が初めてだ。

今回、岸田政権へのダメージは大きく、首相の求心力は低下するとの見方が広がっている。今は国会開会中で「岸田降ろし」が直ちに表面化する可能性は低いとみられるが、秋の総裁選挙をにらんだ動きが活発になり、政局は流動化してくる見通しだ。

3つの補欠選挙で有権者はどのような判断を示したのか、NHK出口調査のデータを基に分析してみたい。また、今後の政治はどのような展開になるか、ポイントを考えてみたい。

 ”保守王国”島根で野党勝利の異変

▲今回の3つの補欠選挙のうち、今の政治状況を最も鮮明に映し出したのが島根1区だ。衆議院に小選挙区が導入された1996年以降、島根県は全国で唯一、自民党が議席を独占してきた”保守王国”だが、今回初めて野党が勝利して議席を獲得した。

NHKが投票当日、投票所に足を運んだ有権者を対象に行った出口調査によると投票する際に「政治とカネの問題を考慮した」という人は76%、8割近くに達した。そのうち、70%の人が立憲民主党の亀井亜紀子氏に投票したと答えた。裏金問題が、選挙結果に大きな影響を及ぼしたことがわかる。

投票者を支持政党別にみると、当選した亀井氏は◇立憲民主党支持層の90%台半ばの支持を集めたほか、◇日本維新の会支持層の60%台半ば、◇無党派層の70%台後半から支持を得ていた。

さらに、亀井氏は◇自民党支持層のおよそ30%、◇公明党支持層の40%余りの支持も獲得していた。

これに対して、自民党新人の錦織功政氏は、◇自民支持層の70%、◇公明支持層の40%余りの支持に止まり、◇無党派層の支持は20%余りだった。

このように亀井氏は、野党支持層や無党派層の多数を固めたことに加えて、与党支持層にも支持を広げたことが勝因だ。これまで自民党に投票してきた支持層の一定割合が、裏金問題を契機に野党支持へ投票行動を変えたことが読み取れる。

▲野党や無所属など過去最多の9人が争った東京15区は、立憲民主党新人の酒井菜摘氏が抜け出し、初めて議席を獲得した。自民、公明両党は候補者擁立を見送った。

NHK出口調査では、◇投票者の24%を占める自民支持層は、主な候補者5人に票が分散した。酒井氏は、◇立憲民主党と◇共産支持層の大半を固めたうえで、◇全体の4割を占める無党派層の30%余り、候補者の中で最も多くの支持を獲得したことが勝利につながった。

東京15区では、東京都の小池知事が、無所属新人の乙武洋匡氏を支援したことから、小池知事の影響力に関心が集まった。その乙武氏の得票数は、1万9655票で5位に止まった。

小池知事の都政運営の評価は「評価する」が75%、「評価しない」が30%余りだった。「評価する」と答えた人のうち、20%台後半が酒井氏に投票したと答え、次いで無所属の前参議院議員の須藤氏と維新の金澤氏にそれぞれ10%台後半、乙武氏は10%半ばに止まった。

小池知事をめぐっては、今年1月の東京・八王子市長選挙で自公の推薦候補を応援して当選につなげるなど選挙の強さを発揮したが、今月21日の目黒区長選挙では、支援した候補者が現職に敗れており、今回も選挙関係者からは「学歴詐称疑惑が取り沙汰されて以降、小池氏の選挙への影響力は低下している」との見方が聞かれる。都知事選の告示を6月20日に控え、小池知事の対応に注目が集まっている。

▲長崎3区については、自民、公明両党が候補者擁立を見送ったことから、野党の候補者2人の戦いとなった。立憲民主党の前議員で、社民党が推薦した山田勝彦氏が、維新新人の井上翔一朗氏に大差をつけて、当選を果たした。立民と維新の争いでは、2つの選挙とも立民が制した。

 政権の求心力低下、6月解散は困難か

さて、3つの補選の結果を受けて、これからの政治はどのように展開するか、どこがポイントになるかみていきたい。

まず、岸田政権にとって、3つの補欠選挙で全敗したことは大きな打撃だ。特に島根1区は、2度も現地入りし選挙運動最終日も懸命なテコ入れを行ったが、挽回できず、岸田首相の求心力低下を印象づけた。

また、自民党内から岸田内閣の支持率低迷に加えて、補選の敗北で「次の総選挙の顔として、岸田首相はふさわしいのかどうか」疑問視する声が強まることも予想される。

但し、通常国会は連休明けには終盤戦に入り、重要法案を抱えていることなどから、自民党内で補選の敗北をめぐって「岸田降ろし」が表面化する可能性は低いとの見方が多い。

このため、閣僚経験者の1人は「6月末の会期末や秋の総裁選挙をにらんで、水面下でさまざまな動きが出てくるのではないか」との見方をしている。

一方、岸田首相に近い幹部は「岸田総理は打たれ強いので、自ら身をひいたりすることは考えられない。秋の総裁選に向けて政治課題を1つずつこなしながら、国会会期末に大きな政治決断をすることがあるかもしれない」と6月解散もありうるとの見方を示している。

これに対して、別の党幹部は「今のような支持率で、解散をすれば自民党は壊滅的な打撃を被るだろう」とのべ、6月末の解散・総選挙には反対する意向を漏らしている。

今回の補欠選挙の結果と、選挙の勝敗という面から考えると、自民党内では、6月末の解散論には慎重論が一段と強まることが予想される。

もう1つは、連休明けの通常国会では、野党側は、裏金問題を受けての実態解明と政治資金規正法の抜本的な改正を要求する構えだ。これに対して、自民党が先に公表した改革案は、確認書の義務化といった部分的な内容に止まっている。

このため、岸田首相が自民党内の慎重論を説得しながら、踏み込んだ改正案を打ち出し、野党側との協議を経て実現までこぎ着けられるかどうか、岸田首相の指導力が問われることになる。

以上、みてきたように補欠選挙後の政局は、1つは、政治資金規正法の改正をめぐって、岸田首相と野党側との綱引きがどのような展開になり、国民がどちらを支持するのかが焦点になる。

もう1つは、6月の会期末の時点で、岸田首相が秋の総裁選と衆院解散・総選挙の時期をどう判断するか、自民党内と与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。岸田首相にとっては、会期末までに政権の実績を上げ、国民の支持が広がらないと、秋の総裁選での再選も険しい道になるのでないかとみている。(了)

”島根1区 自民苦戦” 衆院補選情勢

岸田政権の政権運営に大きな影響を及ぼす衆議院の3つの補欠選挙は、後半戦に入った。このうち唯一、与野党対決の構図になっている島根1区は、立憲民主党の候補が先行、自民党の候補は苦戦している。

自民党の派閥の裏金問題などで、選挙戦は大きく様変わりしている。自民党は挽回をめざしているが、選挙情勢は厳しく、不戦敗を含めて3戦全敗となる可能性もある。28日に投開票が迫った選挙情勢を探ってみる。

 島根1区自民苦戦、全敗の危機も

衆議院島根1区の補欠選挙は、細田博之・前衆議院議長の死去に伴うものだ。21日の日曜日には、岸田首相と立憲民主党の泉代表がそれぞれ松江市に入るなど双方が激しい選挙戦を繰り広げている。

朝日、読売、共同の主要メデイアが19日から21日にかけて行った情勢調査によると島根1区は、立憲民主党元議員の亀井亜紀子氏がリードし、自民党新人で公明党が推薦する錦織功政氏が追う展開になっている点で共通している。

亀井氏は、立憲民主支持層の大半をまとめたうえで、無党派層の支持を幅広く獲得しており、自民支持層の一部にも食い込んでいる。

これに対し、錦織氏は自民支持層の7割から8割、公明支持層の7割程度の支持に止まっているほか、無党派層で大きな差をつけられている。

島根は竹下元首相、青木幹雄元官房長官を輩出するなど自民王国として知られる。今の選挙制度が導入された1996年以降、島根1区では自民党の細田博之氏が連続して当選を重ねてきた。

その細田氏は最大派閥・安倍派の会長を務めてきたこともあり、今回は裏金問題が選挙戦を直撃する形になり、自民党は守りの選挙に追い込まれている。

自民党の選挙関係者に聞くと「挽回をめざして最後までギリギリの戦いを続けるが、厳しい情勢にあるのは事実だ」と劣勢を認めている。自民党がここで1勝できるか、敗北すると不戦敗を含めて3戦全敗という危機的状況に立たされている。

報道各社の情勢調査では、有権者の3割から4割程度は、投票する候補者を決めていない。また、投票率が大幅に下がったりすると選挙情勢が変わる可能性があるので、特に投票率を注意してみていく必要がある。

 長崎3区は野党対決、立民優位

衆院長崎3区の補欠選挙は、自民党安倍派の議員の辞職に伴って行われる。自民党が候補者擁立を見送り、立憲民主党前議員の山田勝彦氏と、日本維新の会新人の井上翔一郎氏の野党対決の構図になっている。

メデイアの情勢調査では、立民の山田氏が、立憲民主支持層の大半を固めたうえで、無党派層や自民支持層にも支持を広げている。選挙関係者も、山田氏が優位に選挙戦を進めているとの見方をしている。

 東京15区 立民リードも5人混戦

柿沢未途・前法務副大臣の議員辞職に伴う東京15区の補欠選挙には、9人が立候補し大混戦となっている。この選挙区でも自民、公明両党が候補者擁立を見送ったため、野党と無所属、諸派の候補の争いとなっている。

メデイアの情勢調査によると、立憲民主党の酒井菜摘氏が一歩リードし、日本維新の会公認で「教育無償の会」推薦の金沢結衣氏、無所属で国民民主党と地域政党「都民ファーストの会」が推す乙武洋匡氏、無所属で前参議院議員の須藤元気氏、それに諸派の飯山陽氏の合わせて5人が争う構図になっている。

候補者を擁立していない自民、公明の支持層が、どのような投票行動をとるか。また、東京都の小池知事は、無所属の乙武氏擁立を主導したが、21日投票の目黒区長選では都民ファーストの会が推した候補が現職に競り負け、小池知事の影響力に関心が集まっている。

さらに、国政では野党第1党の立憲民主党と、野党第2党の維新の戦いがどのような形で決着がつくのかも注目点だ。投票率がどうなるのかという点も合わせて、不確定要素が幾つもあるので、最終的な勝敗のゆくえはまだ、はっきりしない。

 国会、政権運営、解散戦略に影響

以上見てきたように衆院3補選は、自民党が1勝できるか、それとも不戦敗を含めて3戦全敗となるかどうかが大きな焦点だ。

もう1つは、投票率がどうなるか。選挙結果を左右するだけでなく、今の政治に対する国民の認識や評価を判断できる指標にもなる。裏金問題と政治不信が、どのような形で現れるか注目している。

さらに、今回の選挙結果は、後半国会の焦点である政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明への取り組みに影響を及ぼす見通しだ。支持率低迷が続く岸田政権の政権運営や衆議院の解散戦略にも影響を与えることになりそうだ。

投票日直前の26日には、新たに設置された衆院政治改革特別委員会の初めての委員会が開かれる。各党が裏金問題について、どのような見解の表明を行うかも選挙の行方を左右する。今年前半の政治の大きな節目になる。(了)

 

”3つの壁”越えられるか?岸田首相

長丁場の通常国会も今月10日に折り返し点を過ぎて、後半戦に入った。岸田首相の先のアメリカ訪問と日米首脳会談を受けて、今週は18日と19日に衆参両院の本会議で、それぞれ帰国報告と質疑が行われる。

続いて22日と24日には、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、裏金問題などをテーマに岸田首相と野党側との質疑が交わされる。

一方、16日には衆院島根1区など3つの補欠選挙が告示され、28日の投開票日に向けて各党が激しい選挙戦を繰り広げる見通しだ。

これからの政治はどのような展開になるのか。岸田首相の行く手には、当面3つの壁が立ちはだかっている。裏金問題の実態解明と処分のケジメのつけ方、衆院3補選の乗り切り、それに裏金問題の再発を防ぐ政治資金規正法改正の実現までこぎ着けられるかだ。

こうした3つの壁を乗り越えることができるかどうか?岸田政権の今後の政権運営や衆院解散・総選挙戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

 裏金の実態解明と処分のけじめは?

今の国会の大きな焦点になっている自民党の派閥の政治資金裏金問題について、自民党は4日に、安倍派と二階派の39人の処分を行ったが、報道各社の世論調査にみられるように国民の評判は極めて悪い。

国民の多くは、裏金の還流に関与した85人の議員らのうち、実際の処分が39人に止まったのをはじめ、実態解明が進まなかったこと、さらに立件された岸田派の会長を務めていた岸田首相や、二階派会長の二階元幹事長が処分の対象から外されたことについて厳しい評価をしている。

一方、今回最も重い「離党勧告」の処分を受けた安倍派の座長、塩谷元文科相は、処分を不服として自民党に再審査を請求した。自民党は16日、総務会や総務会幹部の会合で対応を協議した結果、再審査を認めない方針を決定した。この決定は塩谷氏に伝えられ、離党勧告処分が確定した。

自民党は、今回の処分で一定の政治責任を明らかにすることができたとして、今後は、再発防止の取り組みに重点を移したい考えだ。

これに対し、野党側は実態の解明は全く進んでいないとして、安倍派幹部の証人喚問を行うとともに、森元総理らの参考人招致を求める意見もある。

国民の政治不信を払拭するためにも、岸田首相は国会で事実関係の解明にどのように取り組んでいくのか、証人喚問や参考人招致の扱いを含めて方針を明らかにすることが必要だ。これが、第1の壁になっている。

 衆院3補選、島根1区は与野党一騎打ち

続いて、第2の壁が衆議院の3つの補欠選挙のゆくえだ。東京15区、島根1区、長崎3区の3補選は16日に告示され、28日の投開票に向けて激しい選挙戦に入った。

いずれも自民党が議席を持っていた選挙区だが、自民党は東京15区と長崎3区については公職選挙法違反事件や裏金事件をめぐる逆風が強く、公認候補の擁立を見送った。公認候補を擁立するのは島根1区だけとなった。

◆島根1区の補選は、自民党安倍派の会長も務めた細田博之・前衆院議長の死去に伴うものだ。自民党は元中国財務局長の新人候補を擁立し、公明党が推薦する。

これに対し、立憲民主党は、元衆議院議員の女性候補を擁立し、国民民主党の地方組織と社民党が支援、共産党の地方組織が自主的に支援する。与野党が対決する唯一の選挙になる。

島根は竹下元首相、青木元官房長官などの実力者を輩出してきた全国屈指の保守王国だが、今回は政治とカネの逆風に見舞われている。与野党の選挙関係者に聞くと「現状では、野党候補に勢いがある」との見方が多い。最後までギリギリの戦いが続く見通しだ。

◆東京15区は9人が立候補の名乗りを上げ、大混戦となっている。このうち、地域政党である「都民ファーストの会」の小池東京都知事が主導する形で、作家で無所属の新人が立候補を表明した。国民民主党と都民ファーストの会が推薦する。

立憲民主党は前の江東区議の女性候補を擁立し、共産党も支援する。日本維新の会は元会社員の女性候補、参政党、諸派の新人が立候補する。さらに無所属の参議院議員と、無所属の元衆議院議員も立候補を表明している。

◆長崎3区は、裏金問題で多額の還流を受けていた自民党議員が辞職したのに伴うものだ。自民党が候補者の擁立を見送ったたため、立憲民主党の現職(比例代表)と、日本維新の会の新人の野党同士の一騎打ちになる見通しだ。

3つの補欠選挙は、政治資金規正法違反事件後、初めての国政選挙になる。自民党は2つの選挙区で不戦敗となっており、島根1区を失うと3戦全敗となる可能性もある。島根1区の勝敗がどうなるか、岸田政権の行方にも大きな影響を与えることになる。

 政治資金規正法の改正、実現できるか

後半国会は、裏金事件を受けて政治資金規正法の改正が、最大の焦点になる見通しだ。岸田政権が法案の成立までこぎ着けられるかどうか、これが3つ目の壁になる。

公明党は、クリーンな党のイメージを守りたいとして自民党とは一線を画して、再発防止策の独自案をまとめている。立憲民主党や日本維新の会など野党各党もそれぞれ党の改革案をとりまとめており、自民党に攻勢をかける構えだ。

これに対して、自民党は「政治刷新本部」の作業部会で検討を続けているが、とりまとめには、なお時間がかかる見通しだ。公明党が求めている「連座制」導入などによる議員の罰則強化についても、自民党内には容認論がある一方で、慎重論も残っており、調整がついていない。

政治資金の扱いとなると、野党側が「政治家個人のパーテイー規制の強化」を求めているのに対して、自民党は反対の立場だ。また、政党が党役員に渡す「政策活動費」の廃止や、使途の公開の義務づけについても慎重論が根強い。

自民党としては、公明党との間で与党案をとりまとめたうえで、野党側との協議に入りたい考えだ。

これに対して、野党側は「自民党は時間切れで、政治資金規正法の改正を一部に止めたいねらいがあるのではないか」とみて、与党の改正案を早期に提出するよう求めていく方針だ。

このため、衆参両院に設置された「政治改革特別委員会」を舞台にいつから、政治改革の内容の協議に入るかも焦点になる。また、岸田首相が自民党の改革案のとリまとめに当たって指導力を発揮できるかも問われることになりそうだ。

岸田政権はここまでみてきた3つの壁を乗り越えることができれば、政権の浮揚につなげることができるが、逆に失敗すると政権の求心力を一気に失うことも予想される。特に衆院補欠選挙の結果が明らかになる4月末以降から、6月下旬の国会会期末にかけて岸田首相にとっては、息の抜けない局面が続くことになりそうだ。(了)                               ★追記(16日22時)衆院3補選が告示され、立候補者が確定したのを受けて16日22時の時点で、表現を一部、修正した。

 

 

裏金処分”世論は厳しい評価”

自民党は派閥の裏金事件をめぐって4日、関係議員ら39人の処分を決めたが、世論の評価は厳しく、岸田内閣と自民党の支持率はいずれも政権復帰以降、最も低い水準にまで下落していることが明らかになった。

裏金問題への対応は、岸田政権の政権運営や衆院解散戦略にも大きな影響を及ぼす。カギを握る世論はどのような受け止め方をしているのか、今後の政治はどのように展開するのか、NHKの4月世論調査のデータを基に分析してみたい。

 裏金処分、世論は妥当性に強い疑問

まず、8日にまとまったNHK世論調査(4月5日~7日実施)のデータからみていきたい。◆焦点の裏金問題について、自民党が関係議員85人のうち、不記載額が500万円以上の39人の処分を決めたことについて、評価を尋ねている。

◇「納得できる」は9%、「どちらかといえば納得できる」の20%を合わせて29%。これに対して◇「どちらかと言えば納得できない」22%、「納得できない」は41%で、合わせて63%と大幅に上回っている。

◆次に、今回の処分では、安倍派幹部2人について、8段階のうち最も重い「除名」に次ぐ「離党勧告」の処分にしたことの評価を尋ねている。

◇軽すぎる34%、◇妥当だ49%、◇重すぎる6%となった。処分の軽重の評価を聞きたかったのだろうが、安倍派の主要幹部6人は「離党勧告」「党員資格停止」「党の役職停止」の3段階に分かれたので、回答する側には複雑で難しい質問のように思われる。

◆検察から立件された二階派の二階・元幹事長は、次の衆議院選挙に立候補しない考えを表明し、自民党は処分の対象にしなかった。この扱いについて◇「妥当だ」は21%に対し、◇「妥当ではない」は68%と大きく上回った。

◆同じく派閥の事務局長が立件された岸田派について、会長を務めていた岸田首相を処分の対象から外したことについては◇「妥当だ」が25%に対し、「妥当ではない」が61%と、こちらも大きく上回った。

このように今回の処分は、対象となる関係議員らを39人に絞り込んだことや、党の総裁、元幹事長ら政権中枢を処分の対象から外したことについて、国民は正当な理由がないのではないかと強い疑念を持っていることが読み取れる。

また、今回の処分に当たっては、最大派閥の安倍派で長年、違法な還流行為が組織的に行われながら、いつから始まったのか、取り止めの方針がいったん決まったものの継続となった経緯すら明らかにならなかった。

こうした実態解明や処分の基準がはっきりしないまま、処分を行った自民党執行部に対して、国民の強い不満や不信感があることもうかがえる。

岸田首相や党執行部はこの処分で区切りをつけ、再発防止に重点を移すことをねらっていたとみられるが、世論の反応からすると、政権の思惑は外れたと判断してよさそうだ。

 内閣・自民党支持率ともに最低水準

さて、裏金処分に対する世論の厳しい評価は、岸田内閣の支持率にも大きな影響を及ぼしている。4月の内閣支持率は23%で、先月の調査より2ポイント下がり、岸田政権発足以降、最も低かった去年12月と同じ水準になった。

不支持率は、先月より1ポイント上がって58%だった。こちらも岸田政権発足以降、去年12月、今年1月と同じ率で最も高くなった。

これで岸田内閣の支持率は、政権運営の危険ラインとされる30%を6か月連続で割り込んだ。支持率を不支持率が上回る逆転現象は10か月連続となる。支持率低迷が常態化しつつあり、政権を浮揚させるのは容易ではない。

一方、自民党の政党支持率も変化がみられる。自民党の支持率は、内閣支持率が下がっても30%台後半から40%台前半を維持することが多かった。ところが、裏金問題が表面化した去年12月以降、じりじりと下がり続けている。

4月の自民党支持率は28.4%となった。党の支持率が30%を下回ったのは、2012年の政権復帰以降、岸田政権だけで、去年12月の29.5%、今年3月の28.6%に次いで3回目になる。これで、内閣支持率、自民党支持率ともに2012年自民党の政権復帰以降、最低の水準となった。

野党側は第1党の立憲民主党が6.5%、第2党の日本維新の会が4.7%、共産党が2.4%、国民民主党1.5%などと続き、自民党とは大きな開きがある。自民党内には、野党の支持率が上がらないことから、これを安心材料とする見方もある。

但し、最近の特徴は、次の衆議院比例代表の投票予定政党では、野党側の伸びが大きいことだ。朝日新聞の3月の世論調査によると自民党23%に対し、立民16%、維新11%などと続く。政党支持率では自民党との差が大きいが、投票予定党では接近している。

自民党の選挙関係者に聞くと「野党はバラバラだと油断していると、無党派層の動向によって、選挙の風向きはあっという間に変わってしまう」と警戒する。

 首相、政権浮揚めざすも険しい道

岸田首相は8日、日米首脳会談に臨むため、アメリカに向け出発した。安倍元首相以来9年ぶりの国賓待遇で、10日に日米首脳会談、11日に議会で演説する。岸田首相としては、日米防衛協力や経済分野の連携強化をアピールし、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

そのうえで、今月28日に投開票が行われる3つの衆院補欠選挙を何とか乗り越え、後半国会で政治資金規正法の改正を実現させたい考えだ。そして、6月に定額減税を実施し、春闘での大幅賃上げと合わせて実績を訴え、9月の自民党総裁選前に解散・総選挙に打って出る戦略だとみられている。

このうち、日米首脳会談について、NHKの世論調査では「日米関係の強化につながるか」を尋ねている。回答は「つながる」が45%、「つながらない」が40%と見方が、二分されている。

また、岸田首相は新年度予算を成立させたうえで、「今年中に、物価上昇を上回る所得を必ず実現させる」と表明している。世論調査では「期待する」が29%に対し、「期待しない」が64%と冷めた見方が多い。

さらに3つの衆院補欠選挙のうち、自民党は東京15区と長崎3区については、公認候補の擁立を見送る方針を決めた。島根1区だけの戦いとなるが、保守王国でも裏金問題などが響いて、苦戦が伝えられている。

このようにみると、岸田政権にとって今後の政権運営は、険しい道のりが予想される。後半国会では、野党側が裏金問題の実態解明と再発防止策をめぐって、攻勢を強める構えだ。

これに対して、岸田首相は、政治改革をめぐって意見の違いがみられる党内をまとめたうえで、野党側との間で、再発防止の法整備の実現までこぎ着けられるかどうかが問われる。

一方、衆議院の解散・総選挙について、政界の一部には、今の国会の会期末に岸田首相が決断するとの見方もある。しかし、そのためには、支持率が大幅に改善しないと岸田首相が解散に打って出るのは難しいとの見方も根強い。

国会は、岸田首相が訪米から帰国後、裏金問題や重要法案の扱いをめぐる与野党の攻防が再開する。同時に水面下では、衆院解散・総選挙と秋の自民党総裁選挙をにらみながら、自民党内と与野党の間の駆け引きが一段と激しくなる見通しだ。

その際、世論の風が、岸田政権と与野党のどちらに追い風となって吹くことになるのか大きなポイントになりそうだ。(了)

 

 

 

 

 

“実態解明なき処分、遠い信頼回復”自民裏金問題

自民党は4日、派閥の政治資金問題で党紀委員会を開き、安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定した。安倍派の座長を務めていた塩谷・元文科相と、参議院安倍派トップの世耕・前参院幹事長を8段階ある処分のうち2番目に重い「離党勧告」とする処分を決定した。

また、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長と、西村・前経産相を3番目に重い「党員資格停止」1年、高木・前国対委員長を「党員資格停止」半年とした。

さらに、派閥からの資金の不記載額が1000万円以上は「党の役職停止」、1000万円未満は「戒告」とし、500万円未満の議員は幹事長の厳重注意に止めた。

こうした処分をどのようにみたらいいのだろうか。私個人の見方を先に言わせてもらうと「実態解明なき処分」で、国民の信頼回復には遠く及ばないとの評価をしている。

その原因は、岸田首相をはじめとする党執行部が事件当初から、事実関係を明らかしようとする姿勢が乏しかったことが影響しているように思う。

岸田政権はこの処分で、実態の把握と政治責任に一定の区切りをつけられたとして、国会審議では再発防止に重点を移す構えだ。しかし、思惑通りに運ぶようには思われない。なぜ、こうした見方をするのか、以下、具体的に説明したい。

 安倍派幹部の処分に差、二階氏は除外

さっそく、今回の処分の内容からみておきたい。処分の中身や問題点については、既にメデイアが詳しく取り上げているので、手短に整理しておきたい。

まず、◇今回、派閥からの資金を受けていた衆参の議員らは85人に及ぶが、処分の対象者は39人に絞られた。これは、不記載の額が5年間で、500万円以上という線引きをしたためだが、この線引き自体が国民感覚とズレがある。

◇また、最も重い処分を受けたのは、安倍派座長の塩谷氏と、安倍派幹部で前参院幹事長の世耕氏の2人だ。塩谷氏は派閥の形式的な責任者で、衆参両院で1人ずつ責任を問われる形になった。

安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部5人の処分は、世耕氏が8段階のうち、2番目に重い「離党勧告」。次いで、3番目に重い「党員資格停止」が西村・前経産相の1年、高木・前国対委員長の半年。さらに、6番目の「党の役職停止」が松野・前官房長官と萩生田・前政調会長で、いずれも1年間と処分の扱いが分かれた。

自民党内で関心を集めているのが、萩生田氏の扱いだ。派閥の事務総長は経験していないものの、安倍政権で数多くの要職を歴任し、安倍元首相亡き後も、森元首相や岸田首相の厚遇を受け、比較的軽い処分になったのではないかとの見方が党内に広がっている。

◇派閥の事務局長が立件されたのは、安倍派と二階派、岸田派だが、二階派会長の二階・元幹事長は先に次の衆院選挙に立候補しない考えを表明したことを踏まえて、処分の対象にならなかった。

◇岸田派会長を務めた岸田首相も同じように対象から外れたが、党内からも総裁としての責任は免れないのではないかとの意見が聞かれる。

以上のような処分内容が決まったが、安倍派幹部の処分を1つをとってみても、裏金の還流にどのように関わったか、不正行為の実態がわからないまま、派閥幹部の結果責任を問う形で処分が行われているのが実状だ。

幹部の結果責任を問うのであれば、自民党総裁としての責任も生じると思うが、岸田首相の責任は不問に付しており、これでは、国民の納得は得られないのではないか。

 実態の調査、処分の検討体制にも問題

それでは、なぜ、実態の解明ができないまま、処分を決定するという事態に陥ったのだろうか。

この原因は、これまで何度も取り上げたが、裏金事件が起きた後、岸田首相をはじめとする自民党執行部が、事実関係の解明に真正面から取り組む姿勢に欠けていたことが大きいのではないか。自民党が党所属議員のアンケート調査や、聴き取りを始めたのは2月に入ってからで、その内容自体も極めて大雑把な内容だった。

岸田首相は、疑惑を持たれた議員はそれぞれの議員が自ら説明すべきだという議員個人の判断に委ねた。政治倫理審査会でも出席した派閥幹部は「知らぬ存ぜず」を繰り返し、派閥からの資金還流はいつ頃から始まり、派閥幹部がどのように関与していたのかといった事実関係の解明は全く進まなかった。

一方、自民党としての処分については、今回は岸田総裁自らが、茂木幹事長や麻生副総裁、森山総務会長らと個別に協議をしながら、処分内容を固めた。そのうえで、最後の決定手続きを党紀委員会に委ねる形になった。

自民党関係者に聞くと「議員を処分するような問題は、総裁自らが前面に立って調整するのではなく、党内の信頼を集める議員を集めて、どのような基準で処分を行うのが適切なのかを議論し、決定していく取り組みが必要ではないかったか」と指摘する。

今回、こうした処分の判断基準づくりのプロセスを経ていないことが、自民党内や国民の間でも、処分内容が説得力を持たない原因になっているのではないかとみている。

 国会で実態解明と政治改革の両立を

それでは、これからの展開はどうなるか。岸田首相は「実態の把握と今回の処分で、派閥の政治資金問題については、一定の区切りをつけることができた」として、9日からのアメリカ訪問を終えた後、国会での再発防止を含む政治改革の実現に重点を移したい考えだ。

これに対して、野党側は「今回の処分では、岸田派会長を務めていた岸田首相自身が処分されていないなど全く納得できない内容だ」と強く反発している。また、安倍派の幹部などの証人喚問を実施するよう迫る構えだ。

国民からすると、政治資金の不記載という不正行為が長期にわたって行われてきた問題の実態がわからないまま、放置することは許されない。国会として、けじめをつけるためにも実態の解明への取り組みを続ける必要がある。

そのためには、証人喚問の実施に向けて与野党は協議すべきではないかと考える。安倍派幹部の証人喚問のほか、事実関係を解明するためには、安倍派の会計を担当していた事務局長や、派閥会長の経験者である森元首相の参考人招致も必要ではないか。

そのうえで、裏金問題などの再発防止と政治改革についても協議に入り、今の国会で、政治資金規正法の改正を実現させてもらいたい。

政治資金規正法改正などの内容については、与党の公明党と、野党各党はそれぞれ独自案をとりまとめている。自民党は早急に具体案をとりまとめ、提示することが求められている。

自民党の処分決定でも裏金問題の事実関係の解明ができなかった以上、今度は国会に舞台を移して、実態解明と政治改革の両方を実現するよう強く注文しておきたい。(了)