自民修正案 ”改革に遠い内容”

自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正問題で、自民党は29日、修正内容を各党に示した。修正案は、改正案が成立し法律の施行から3年後に見直す規定などを盛り込んでいる。

この修正案について、これまで厳しい姿勢をとってきた公明党は「主張が一定程度認められた」と評価して賛成に回る方向だ。これに対して、野党側は企業・団体献金禁止が盛り込まれておらず「ゼロ回答」だとして強く反発している。

修正案の内容をみると自民党案の骨格は維持したままで、国民の多くが期待する踏み込んだ改革にはほど遠い内容に止まっている。なぜ、こうした評価をしているのか、今後の展開はどうなるのか探ってみたい。

自民修正案、骨格維持し小ぶりの手直し

後半国会の最大の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐっては、28日から衆議院の政治改革特別委員会で与野党の修正協議が始まった。

この中で、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党各党は◇企業・団体献金の禁止、◇政党から幹部議員に渡される「政策活動費」の禁止や領収書の全面公開、◇それに「連座制」では、議員が会計責任者と同じ責任をとることを明確にするという3項目の共通要求をまとめ、自民党側に修正内容に盛り込むよう申し入れた。

これに対して自民党は29日、修正内容を各党に示した。それによると、今は使途の公開が必要ない「政策活動費」については、項目ごとの使い途に加えて、支出した年月を開示するとしている。

また、議員に政治資金規正法違反などがあった場合は、政党交付金の一部の交付を停止する制度を創設するほか、個人献金を促進するための税制優遇措置を検討するとしている。

そして、施行から3年をメドに法律を見直す規定を盛り込むとしている。

一方、野党側がそろって求めている企業・団体献金の禁止や、「政策活動費」の支給の禁止などは盛り込んでいない。

また、政治資金パーテイー券の購入者の公開基準については、現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」まで引き下げるなどとした法案の骨格は維持するとしている。

このように自民党が示した修正内容は、自民党案の骨格は維持したうえで、各党の主張の一部をとり入れたり、情報の一部を追加したりしているが、極めて小ぶりの手直し案に止まっている。

 透明性、罰則強化の実効性も疑問

こうした自民党の修正案について、国民はどのように受け止めるだろうか?今回の裏金問題について、国民が強く望んでいるのは「政治資金の流れを徹底して透明化すべきだ」という点が1つ。

また、議員が多額の裏金を受け取りながら「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、会計責任者に責任を押しつける姿を目の当たりにしたことから「違法行為を行った議員に対する罰則の強化」も必要だとの思いが強い。

さらに、同じような不祥事を繰り返さないために「政治資金制度の仕組みやあり方について、改革を進めて欲しい」との期待も強い。

以上のような視点で、自民党の修正案をみると国民の期待するような改革には、ほど遠い。一例を挙げると党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、領収書の添付は必要ないとしている。これでは、多額の活動費がどのような目的で、何に使われたのか、引き続き闇の中ということになりかねない。

パーテイー券の公開は「10万円超」に引き下げるとしているが、公明党も主張しているような寄付の公開基準である「5万円超」になぜ、できないのかという疑念も残されたままだ。

要は、透明性の徹底や、議員に対する罰則強化は本当に実現できるのか、実効性を担保するような仕組みになっていないのではないか。こうした疑念を残す内容になっている点が大きな問題であり、与野党の修正協議で改善してもらいたい。

 与野党の攻防、世論の評価がカギ

それでは、法案の扱いは今後、どのようになるのかみていきたい。自民党の修正案について、野党各党は、企業団体献金などに触れていないことから「ゼロ回答」「改革意欲が全く感じられない」などと強く反発している。

自民党は「前進させたいと思っているが、党内調整ができていない」として党内で検討した上で、再び各党と協議する方針だ。

自民党関係者によると「岸田首相は、自民党案をベースに公明党の協力に加えて、野党の一部の賛同も得て法案の成立をめざしている」とされる。

自民党は、参議院で単独過半数を確保していないので、法案の成立には与党・公明党の支持は不可欠だ。

その公明党は、党内で協議が続いているが、連立政権を組んでいることや、党の主張が一定程度、認められているとして、自民党案に賛成する方向で調整が続いている。自民、公明両党の足並みがそろうかどうかが、大きなポイントだ。

一方、野党側は、政策活動費の廃止や使途の公開などを要求するとともに、岸田首相との質疑を行うことを求めている。野党側の足並みが最後までそろうのか、要求の実現に向けて国会戦術を強める考えがあるのかも注目される。

さらに今回は、世論が自民党案にどのような評価をするのかが、大きなカギを握っている。というのは、26日に投票が行われた静岡県知事選挙では、野党系の候補が自民党の推薦候補を破って当選した。地域の選挙だが、「裏金問題と世論の逆風がボデイーブローのように効いた」との見方が強い。自民党にとっては衆院3補選全敗に続く、手痛い敗北となった。

報道各社の今月の世論調査でも、政治資金規正法改正に向けた自民党の対応について「評価しない」が読売新聞で79%、朝日新聞で62%に達している。岸田内閣の支持率、自民党の支持率ともに低迷が続いている。

今回、仮に修正された自民党案が成立しても、世論の評価が低い場合、岸田首相の政権運営をはじめ、秋の自民党総裁選、さらには衆院解散・総選挙の時期や勝敗にも大きな影響が出てくることが予想される。

政治資金規正法改正をめぐる与野党の攻防が、どのような形で決着がつくのか。そして、世論の評価と風向きはどのようになるのか、政治のゆくえを大きく左右することになる。(了)

 

 

 

裏金問題 最終攻防の見方・読み方

派閥の裏金問題を受けて、自民党が政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出したのに続いて、立憲民主党と国民民主党が共同の法案、さらに日本維新の会も独自の法案を提出し、各党の法案が出そろった。

これを受けて、衆議院の政治改革特別委員会は22日に各党提出の法案の趣旨説明を行って審議入りした後、23日から法案の質疑と与野党の協議が本格的に始まる。

長丁場の通常国会も会期末まで残り1か月となった。政治資金規正法の改正案は成立にこぎ着けることができるのか、それとも与野党協議が決裂して見送りになるのか、最終段階に入った与野党攻防のゆくえを探ってみたい。

自民は単独で法案提出、深まる孤立

終盤国会最大の焦点になっている政治資金規正法改正案は、政権与党の自民、公明両党が共同で「与党案」を提出するとみられていたが、土壇場で両党の調整が不調に終わり、自民党が17日に単独で法案を提出した。

連立政権を組む自民、公明両党が重要法案で意見が折り合わず、自民党が単独で法案を提出するのは極めて異例だ。この背景には、自民党の裏金問題に対する世論の逆風が収まらず、公明党が自民党と距離を置くねらいがあるものとみられる。

こうした結果、自民党は元々、大きな隔たりがある野党側だけでなく、連立を組む公明党からも距離を置かれて、孤立を深める立場に追い込まれている。

自民党は、参議院では単独で過半数を確保していないので、法案を成立させるためには、公明党か、野党の一部の協力が必要になる。

このため、自民党は自らの法案の修正に応じるなど一定の譲歩が必要で、会期末に向けた法案の扱いは、不透明で複雑の展開をたどる可能性が大きい。

野党攻勢も 実現へ共同歩調を保てるか

野党側の対応はどうだろうか。野党各党は、ここまで裏金問題を厳しく追及し、世論の自民批判の受け皿となることをねらってきた。これからの政治資金規正法改正をめぐる議論でも、自民党に対する攻勢を強める方針だ。

野党各党とも企業団体献金の禁止をはじめ、政治資金の透明化、政治資金パーテイー券の公開基準の引き下げなどの基本的な方向では一致するが、具体的な方法などになると、党によって考え方や重点の置き方に違いがあるのも事実だ。

例えば立憲民主党は、国民民主党との間で「共同案」をとりまとめたことをアピールするとともに、政治資金パーテイーを全面的に禁止するための法案を単独で提出することなどで独自性の発揮をねらっている。

日本維新の会は、今の「政策活動費」を見直し、党勢の拡大や政策立案などの支出に限定したうえで、10年後に使い途を公開する新たな制度を盛り込んだ法案を国会に提出した。また、旧文通費の見直しも強く求めていく方針だ。

これに対して、自民党は公明党との協力を取り戻すとともに、維新の協力も取りつけて野党の分断を計り、主導権を確保したい考えだ。

但し、協力を求められる維新の側も、自民党に対する世論の逆風が強いことから、自民との連携には慎重な姿勢をとっており、両党が協力までこぎ着けられるかどうか見通しがついているわけではない。

こうした状況から野党側は、今の国会で各党共通の目標を絞りこみ、最後まで共同歩調をとれるかどうかが試されることになる。

 法改正 公開の徹底と実効性がカギ

次に法案の内容については、どこを注目してみていく必要があるか。先にみたように法改正では、企業団体献金の見直しなど多くの論点があるが、自民案の特徴は、今回の派閥による裏金問題の再発防止に重点を置いているのが特徴だ。

具体的には、政策集団に対する監査の強化や、政治資金パーテイー収入は現金ではなく、金融機関の口座を使うなど細かい改善点が多い。

また、パーテイー券の公開基準についても現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」に引き下げているが、公明党の「5万円を超える」とも開きがある。自民案はパーテイー1回当たりの金額なので、開催回数を倍に増やせば、これまでと変わらず、相変わらず抜け道が多いとの指摘を聞く。

また、政党が幹部議員に年間10億円もの資金を渡す「政策活動費」についても、自民案では具体的にどのような支出に使われたのか明確になっていないほか、領収書の添付が義務づけられていないので、確認のしようがないといった批判が強い。

政治資金制度の基本は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判の下に置くことにある。今の制度は兼ねてから「抜け穴」が数多く指摘されてきたので、「公開」を徹底することが必要だ。

また、今回の裏金事件のように、違法行為を行った議員に対する罰則の強化が必要だ。このため、各党とも「連座制」を導入することでは、基本的に一致している。しかし、具体的な方法となると自民案と野党案では違いがあり、どちらが効果があるのか「実効性」を判断基準に議論をさらに深める必要がある。

 法案成立か見送りか 最終攻防へ

それでは、政治資金規正法の改正はどのような形で決着がつくのだろうか。自民党は、参議院で過半数を確保していないので、今の自民案がそのまま成立する可能性はほとんどない。与野党が歩み寄り、法案の修正の合意ができるかどうかがカギを握る。3つのパターンが想定される。

◆1つは、自民案をベースに公明党や、維新など野党の一部の意見を取り入れて修正案をまとめ、成立させるケース。

◆2つ目が、与野党が合意して修正案をまとめ、法案成立にこぎ着けるケース。この場合、今の国会で成立させる部分と、継続協議の部分との仕分けが問題になる。

◆3つ目が、与野党の協議が決裂し、法案の成立は見送りとなるケースが想定される。

こうした点に加えて、通常国会の会期末なので、◆野党側が内閣不信任決議案を提出することが予想される。その場合、与党が否決するケースが1つ。もう1つは、◆岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性もある。

国民の側もどのような展開が望ましいのか考えておく必要がある。個人的な考えを言わせてもらうと、裏金事件はこの半年間、日本の政治を大きく揺るがせ、国民の政治不信を増幅させてきた。

与野党の協議が決裂して何の結果も残さないよりも、これまでの議論を踏まえて、一定の対応策を法改正の形で示すことは必要で、与野党の責任ではないかと考える。

そのためには、政権を担当する岸田首相や自民党が、野党や国民の意見などを真正面から受け止め、法案の修正合意に大胆に応じることが必要ではないか。一方、野党側も自らの主張に固執するのではなく、大局的な判断を行うべきだと考える。

このほか、裏金事件の実態解明は全くと言っていいほど進んでいない。国民の政治不信を払拭するためにも、森元首相の参考人招致や、裏金の関係議員のほとんどが国会で弁明すら行っていないことについても、最低でも弁明書を出させるなどケジメをつける必要がある。

衆院解散・総選挙をいつ行うのが望ましいのか、世論調査でもかなり時期が分かれている。まずは、終盤国会で法案の成立や裏金事件のケジメをつけたうえで、判断すればいいのではないか。

裏金問題がどのような形で決着がつくのか。岸田政権の行方や、今後の政局の展開を大きく左右するのは間違いない。与野党の動きをしっかり注視していきたい。(了)                               ◆追記(22日21時):日本維新の会が22日、政治資金規正法の改正案を国会に提出した。これを受けて、各党の法案の提出状況の表現を一部、修正した。

 

 

 

 

政治とカネ”与党案に厳しい評価”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民・公明両党が先にまとめた政治資金規正法改正の「与党案」について、国民の8割近くが「評価しない」と厳しい評価をしていることが、NHK世論調査で明らかになった。

一方、岸田内閣の支持率は24%と低迷しているほか、自民党の支持率も30%を割り込んで、2012年の政権復帰以降、最低の水準まで落ち込んでいる。

いずれも、自民党の裏金問題への反省のなさや、改革に後ろ向きな姿勢が影響しているものとみられ、岸田政権は終盤国会で苦しい対応を迫られることになりそうだ。

 与党案と 首相の指導力に厳しい評価

終盤国会の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐり、自民・公明両党は9日、両党の幹事長が会談し「与党案」の概要をまとめた。

与党案では、政党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、「議員からの報告に基づき、党が金額などを収支報告書に盛り込む」としたが、具体的な使途の公開の方法などは明らかになっていない。また、パーテイー券の購入者などを公開する基準についても結論を先送りにしている。

NHKの世論調査では、この与党案の評価ついて「評価する」は15%に止まり、「評価しない」が77%、8割近くに達した。

また、政治とカネの問題への対応で、岸田首相が指導力を発揮しているか尋ねたところ「発揮している」は19%で、「発揮していない」が74%に上った。

これを支持政党別にみると、自民党支持層でも「発揮していない」と答えた人が58%に達した。また、野党支持層では「発揮していない」がおよそ90%、無党派層ではおよそ80%を占めるなど首相の指導力に厳しい評価が示された。

内閣支持率低迷、自民支持率も落ち込み

岸田内閣の支持率は、4月調査より1ポイント上がって24%だったのに対し、不支持率は3ポイント下がって55%だった。

先月に比べるとほぼ横ばいだが、政権運営の危険ラインとされる30%を割り込んで、20%台が続くのは7か月連続。支持率を不支持率が逆転するのは、去年7月以降、11か月連続となった。

一方、自民党の支持率は、4月より1ポイント下がって27.5%だった。20%台に下がるのは今年3月以降、3か月連続だ。今月の27.5%は、2012年に自民党が政権復帰して以降、最も低い水準にまで落ち込んだことになる。

岸田内閣の支持率が低迷する理由としては、今月の調査で「景気がよくなっている実感がない」という人が80%に上ったほか、岸田首相が今年中に「物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と表明していることについて、「期待しない」が62%を占めるなど政府の物価高騰対策や経済政策に対する不満もあるものとみられる。

こうした一方で、このところ内閣支持率だけでなく、自民党支持率も平行して下落しているのが特徴だ。

こうした背景には、去年11月に裏金事件が表面化して以降、実態解明が一向に進まないこと。また、岸田首相や自民党が再発防止と称して、政治資金の部分的な手直し案しか示さないことに対する国民のいらだちや、厳しい評価も影響しているとみられる。

 野党攻勢、自・公調整のゆくえは

それでは、政治とカネの問題は、これからどのように展開するだろうか。長丁場の通常国会も来月の会期末まで1か月余りを残すだけとなった。

野党各党は、裏金問題の実態解明に加えて、政治資金規正法の抜本的な改正に向けてそれぞれの党の独自案をとりまとめている。

このうち、野党第1党の立憲民主党と国民民主党は、法案の共同提出に向けて協議を続けており、衆院政治改革特別委員会を舞台に野党案の実現を迫る構えだ。

これに対して与党側は、岸田首相が13日の政府与党連絡会議で「与党間でしっかり協力し、今国会中の法改正の実現に全力を尽くしてもらいたい」とのべ、公明党との間で条文化の作業を進め、実現を図りたい考えを示した。

公明党の山口代表は「与党案をまとめたが、隔たりのあるところがあり、法案にするには困難な部分がある。与党として法案に必要な作業を行うべきだが、野党の意見も聞きながら、国会として合意を形成することが信頼回復につながる」とのべ、野党も含めた与野党協議を重視する姿勢をにじませた。

こうした背景には、与党案をめぐっては自公両党の間に考え方の隔たりがあることに加えて、公明党としては、裏金問題を抱える自民党と距離を置きたいねらいがあるものとみられる。

このように焦点の政治資金規正法をめぐっては、自民、公明両党の足並みがそろっていないことに加えて、自民党と野党各党都の間では、法改正の内容や範囲をめぐって大きな違いを抱えている。

岸田首相は今国会での法改正の実現を明言しており、14日に山口代表と会談し、自民党として法案の作成を進め、公明党側に示したいという考えを伝えた。

仮に法改正ができない場合は、岸田首相は大きな政治責任を負うことになる。このため、どのような道筋で実現を図るのか。野党の協力を得て与野党合意をめざすのか、与党だけで成立を図るのか、あるいは今国会での成立を見送るのか決断を迫られることになる。

一方、野党側は、法改正で要求が認められない場合、内閣不信任決議案を提出する公算が大きい。その場合、岸田首相は、粛々と否決するのか、それとも政界の一部にあるような衆院解散・総選挙に打って出るのか、緊迫した会期末を迎える可能性もある。

このため、まずは、与党の自民党と公明党との間で調整が進むのか、そしてどのような道筋で法改正の実現をめざすことになるのか、与党内の調整のゆくえが当面、最大の焦点になる。(了)

 

終盤国会2つの焦点、政治資金法改正と首相の求心力

大型連休が終わり、国会は6月23日の会期末まで50日を切って終盤戦に入った。終盤国会は、自民党の派閥の裏金問題を受けて、政治資金規正法の改正をめぐり、与野党の攻防が一段と激しくなる見通しだ。

また、岸田首相は会期末に向けてどのような姿勢で、終盤国会に臨むのか。野党側が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院の解散に打って出る可能性はないのかどうか、与野党や自民党内で腹の探り合いが続いている。

先の衆議院3補欠選挙で自民党が全敗したのを受けて、自民党内では岸田首相の政権運営を危ぶむ声も聞かれる中で、終盤国会の焦点を探ってみる。

政治資金の法改正、与野党協議は難航か

大型連休を利用してフランスと、南米のブラジル、パラグアイを歴訪した岸田首相は、連休最終日の6日午後帰国したあと、夕方、党の政治刷新本部のメンバーと会談し、自民党の政治資金規正法の改正案づくりをめぐって意見を交わした。

この中で、岸田首相は、政治資金規正法の改正に向けて、公明党と早期に合意できるよう協議を加速するよう指示した。

自民、公明両党の間では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけることなどで合意しており、それ以外の論点についても協議を急ぐ方針を確認したものだ。自民、公明両党は、連休明けの7日から協議を再開する見通しだ。

政治資金のあり方をめぐっては、衆議院の政治改革特別委員会が設置され、その委員会が先月26日初めて開催され、各党がそれぞれの党の見解を表明した。

与党の公明党、それに野党各党は既に改革案の内容を決定しているが、自民党の改革案は、議員の政治責任を強化するため、収支報告書の「確認書」の作成を義務づけるなど部分的な内容に止まっている。

このため、自民党が再発防止の具体策とともに、それ以外の論点を含め、どこまで踏み込んだ内容を打ち出し、公明党との間で具体案をとりまとめることができるかが焦点になっている。

具体的には、パーテイー券購入者の公表基準の引き下げや、政党から議員に渡しきりになっている「政策活動費」の扱い、政治資金パーテイーの開催や企業団体献金の是非、さらには懸案の旧文通費の使途公開など数多くの項目がある。

岸田首相は、今の国会で政治資金規正法の改正を実現させると明言しているが、自民党内には、派閥の政治資金パーテイー収入の不記載問題に絞った対応に止めた方がよいという慎重論も根強い。このため、岸田首相がどこまで指導力を発揮して、具体案を打ち出せるかが問われている。

先の衆院島根1区補欠選挙の出口調査をみても投票に当たって「裏金問題を考慮した」と答えた人は8割近くに達し、そのうち7割の人が野党候補に投票した。自民党としても相当、踏み込んだ改革案を打ち出さないと国民の納得は得られないのではないか。

さらに、今後の本格化する与野党協議では、政治資金制度の改正内容をめぐって、双方の主張に相当の開きがある。また、野党側は、裏金問題の実態解明が不十分だとして、関係議員の証人喚問や参考人招致を強く求めることが予想され、与野党の協議が難航するのは必至の情勢だ。

首相の求心力、会期末攻防や政局を左右

終盤国会のもう1つの焦点が、会期末の重要法案や政権運営の評価をめぐる与野党の攻防だ。野党第1党の立憲民主党は、自民党の派閥の裏金問題の政治責任を追及するとともに、衆議院の解散・総選挙に追い込む構えを強めている。

これに対して、岸田首相がどのような方針で、国会の乗り切りを図るのか、与野党の神経戦が続くことになる。

岸田首相は4日、訪問先のブラジルでの記者会見で「内外の諸課題に全力で取り組むことに専念する。それ以外のことは現在考えていない」とのべ、解散・総選挙は考えず、さまざまな政治課題に取り組んでいく考えを強調した。

岸田首相としては、今の国会で政治資金規正法の改正を実現するとともに「子ども子育て支援法」などの重要法案の成立を図りたい考えだ。また、定額減税の実施や物価高騰対策などを積み重ねながら、秋の自民党総裁選での再選と衆院の解散時期を模索しているものとみられる。

首相に近い自民党幹部は「岸田首相は苦境でも打たれ強く、予測不能な行動をする。野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院解散・総選挙に踏み切る理由ができたことになる。一方、内閣や党の人事を行う選択肢もある」として、6月の会期末解散や国会終了後の人事の可能性も示しながら、政権運営の主導権を維持していく考えを示している。

自民党の長老に聞くと「6月解散などあるわけがない。今の内閣支持率や補選の結果を考えると、自民党にとって壊滅的な結果になる。岸田降ろしは起きないが、解散もなく、秋の総裁選挙を粛々とやろうという方向で収束するのではないか」と予測する。「但し、総裁選に誰が立候補するのか、岸田首相を含め顔ぶれは、今の時点では予想できない」という。

このようにみてくると、会期末に向けた政治の展開は、岸田首相の求心力がどの程度、維持されているのかが大きく左右するのではないか。岸田首相と茂木幹事長の確執が取り沙汰される中で、政治資金規正法改正の自民党案や、公明党との与党案をどのようにとりまとめるのかが、岸田首相の手腕がポイントになる。

一方、野党第1党の立憲民主党は先の衆院補選で3勝したことから、政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明をめぐって強い姿勢で臨むことが予想される。これに対して、岸田首相が最終的にどのような形で決着させるか、力量が問われることになる。

このほか、川勝平太前知事の辞職に伴い5月26日に投開票が行われる静岡県知事選挙のゆくえも注目される。選挙は、元副知事を自民党県連が推薦、元浜松市長を立憲民主党と国民民主党が推薦、それに共産党の県委員長が立候補する構図になっている。

静岡県では、自民党安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相が派閥の裏金問題で、離党勧告処分を受けて離党したほか、先に宮沢博行・元防衛副大臣が女性問題で議員辞職に追い込まれた。

こうした裏金問題などが与野党対決の知事選挙にどこまで影響するか。また、自民党が先の3補選で全敗したのに続いて、地方の主要選挙で敗北となると「菅政権の末期と同じように、岸田政権も打撃を受けるのではないか」と与野党の関心が集まっている。

今年1月の通常国会召集から大きな焦点になっていた裏金問題は、終盤国会でどのような形で決着がつくのか、岸田政権と与野党双方に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)