近づく自民総裁選”焦点は岸田首相の進退”

この夏、日本の政治は7月7日投票の東京都知事選挙で小池知事が大勝した後は、通常国会が既に閉会していることもあって、平穏な日々が続いている。アメリカは、11月の大統領選に向けて劇的な動きが相次いでいるのと対照的だ。

こうした中で自民党は26日に開いた総務会で、秋の自民党総裁選挙の選挙管理委員会の委員を報告し、決定した。逢沢元国会対策委員長や中谷元防衛相ら11人で、8月上旬に初会合を開き、月内に告示や投開票などの選挙日程を決める見通しだ。

今回の総裁選は、岸田首相の自民党総裁としての任期3年が、9月30日に満了になるのに伴って行われる。但し、これまで総裁選に名乗りを上げた候補者は、岸田首相を含めて誰もおらず「様子見状態」が続いている。

今回の総裁選はどのような構図になり、どんな展開になるのか、総裁選の焦点を探ってみる。

総裁選・岸田首相の進退、分かれる見方

さっそく、総裁選はどのような顔ぶれで戦うことになるのか、この点からみていきたい。

冒頭に触れたようにこれまでに名乗りを上げた候補者はいないが、岸田首相は6月の記者会見で、秋に新たな経済対策を打ち出す考えを示すなど続投に強い意欲をにじませた。

一方、自民党内では「裏金問題で内閣支持率の低迷が続く岸田首相は、自ら責任を取って辞任すべきだ」といった声がくすぶっている。

これに対して、岸田首相の最側近として知られる木原誠二・幹事長代理は24日都内の講演の中で、岸田首相は総裁選への立候補を断念する考えはないのかと質問され「私の立場では、ないと思っている」とのべ、断念する考えはないとの認識を示した。

また、木原氏は「岸田政権は国内経済を活性化する点で成果を上げつつあり、憲法改正や政治改革といった残された課題もある。岸田総理が引き続き政権運営にあたるべきだ」との考えを示した。

この点について、自民党の長老に聞いてみると「現職の総理・総裁としては当然だろう。しかし、党内の『岸田首相ではダメ』という空気は変わっていない。首相続投の公算はあるが、辞退する可能性の方が大きいのではないか」として、岸田首相の立候補断念もありうるとの見方を示す。

このように自民党内では、総理・総裁の進退をめぐって見方が分かれており、選挙戦の構図が固まらない状況が続いている。

裏金問題の政治責任、選挙の顔の要素も

それでは、党内から首相の立候補辞退の見方が消えないのは、どういった背景があるのだろうか。

自民党の閣僚経験者は「政治とカネの問題で、岸田内閣の支持率が大幅に下落しているのは、政治家が責任を取っていないためだ。最後は党のトップが政治責任を取って局面を打開するしかない」と首相の決断に期待をかける。

別の自民党関係者は「今度の総裁選は党の中堅・若手議員にとっては、次の衆院選挙を戦う『党の顔』を選ぶ選挙でもある。総裁選と衆院選挙は事実上、一体と位置づけている。このため、国民に不人気な首相は交代してもらいたいというのが若手議員らの本音だ」として、岸田首相の再選は困難との見方を示す。

こうした考えをすべて肯定するわけではないが、岸田内閣の支持率などが大幅に改善しない場合、自民党内では「首相交代圧力」が一段と強まることが予想される。

岸田首相としては、早期に政権の浮揚を図り、求心力を高めることが迫られていると言える。

 有力候補不在、波乱の短期決戦か

さて、今回の総裁選をめぐって自民党内からは「岸田首相に戦いを挑む有力候補がいないのではないか」との見方を聞く。

候補者として名前が上がるのは、石破元幹事長、小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗経済安保担当相、茂木幹事長、それに若手の小林鷹之・元経済安保相らが取り沙汰されている。

各氏ともそれなりの意欲をにじませるのだが、「夏の間に考える」「熟慮を続け、お盆明け頃には結論を出す」などの曖昧な答えが返ってくる。総理・総裁をめざして何をやりたいのかなどには踏み込まないのが、最近の候補者の特徴だ。

自民党内からは「岸田首相が続投に意欲を燃やすのは、こうした顔ぶれなら勝てると思っているのではないか」といった声も聞く。岸田首相が最終的に総裁選に立候補するのか、あるいは、断念することになるのか。そして、対立候補として誰が立候補することになるのか、まだ時間がかかりそうだ。

総裁選の日程が決まるのは、お盆明けの8月下旬になるとみられる、それ以降、9月に入っての告示日までの短期間に一気に事態が動く可能性が大きい。一言で言えば、短期で波乱含みの展開になるのことが予想される。

今回、自民党は裏金問題で派閥の解散を決めた後、初めての総裁選になる。党の関係者からは「派閥としての動きは批判を浴びるので、小さなグループごとの動きになるのでないか」との声を聞くが、党員投票や議員票獲得がどのような形で行われるのか、はっきりしない。

一方、国民の多くは総裁選の投票権を持っていないが、政権与党としての対応を見極めようとしている。裏金問題に本当にケジメをつけたのか、総裁選の候補者の世代交代は進んだか、政策面では何を優先課題として打ち出すのかといった点に関心が集まるものとみられる。

総裁選の勝敗のゆくえだけでなく、自民党自体のあり方、政権与党としての役割、信頼性などが問われることになるのではないか。

9月は、野党第1党・立憲民主党の代表選挙もほぼ同じ時期に行われる見通しだ。そして、速ければ年内にも衆院解散・総選挙が行われる可能性が高いとみられている。私たち有権者も自民、立民のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選本番の選択に備える必要がある。(了)

”無党派主流現象”と政治のゆくえ

先の東京都知事選挙で、政党からの支援を受けなかった無所属・新人の石丸伸二氏が165万票余りを獲得し、蓮舫・前参議院議員の128万票余りを抑えて2番手に食い込んだことが与野党に衝撃を与えた。

一方、全国規模の世論調査でも、支持する特定の政党がない「無党派」がこの10年余りで最も多い割合を占めるようになった。無党派層は90年代後半に大幅に増えたが、なぜ今、再び無党派が増えて国民の主流を占めるようになったのか、さまざまな面から分析してみたい。

 首都決戦、投票者の半数が無党派層

今月7日に投開票が行われた東京都知事選と、9つの都議補選の結果の分析については前号で取り上げたので詳しくは繰り返さないが、首都決戦の大きな特徴の1つが、実際に投票した有権者の半数近くを無党派層が占めたことだ。

NHKが投票者を対象に行った出口調査によると投票者のふだんの支持政党は、◇自民支持層が25%、◇立憲民主支持層が10%、◇共産支持層が4%、◇公明支持層が2%などと続いた。最も多かったのは、◇支持政党がない無党派層で、48%だった。

無党派の規模は、自民支持層の倍、立憲民主支持層の5倍に達し、多くの無党派層が投票所に足を運んだことが浮き彫りになった。

また、NHK出口調査のうち、「期日前投票を済ませた有権者」を対象にした調査結果が興味深い。選挙期間中の9日間を選んで、2万人余りを対象に行った調査だ。

調査初日の6月22日の時点で、トップは小池知事で大きくリードしており、2番手を石丸氏と蓮舫氏が横並びで争っていた。その後も、小池知事は得票率は下降傾向を示したものの、一貫してトップの座を維持した。2位争いは接戦が続いたが、最終盤で石丸氏が支持を伸ばして、蓮舫氏を上回った。

当初、メデイアの多くは「小池知事と蓮舫氏の与野党対決、これを石丸氏が追う構図」とみていた。私も同じような見方をしていた。ところが、出口調査によると当初から「小池知事が大きくリードし、次いで蓮舫氏と石丸氏が横並びで追う展開」が実態に近かったということになる。

小池知事については、選挙前に子ども1人あたり月5000円の支給を始めるなど現職の立場を活かした取り組みを進めていたことから、選挙戦で優位に立つだろうと予想していた。他方で、学歴詐称問題が再び問題視され、3期目で勢いに陰りも指摘されたことから、小池知事の選挙情勢を慎重に見極めるのは、取材者として当然の対応だと考えていた。

選挙結果は、小池知事が291万票を獲得して大勝、次点が石丸氏で165万票、蓮舫氏が128万票で3位に沈んだ。小池知事は、自民・公明支持層をはじめ、都民ファースト、無党派、維新、国民民主など幅広い層の支持を集めた。

最も多い無党派層の投票状況は、石丸氏が30%余りで最も多く、次いで小池知事の30%余り、蓮舫氏は20%に止まった。石丸氏と、蓮舫氏の勢いは、この「無党派層の獲得率」の差が大きく影響した。

石丸氏は、無党派層が多い若い世代に焦点を絞り、強い政治メッセージを発しながらSNSやYouTubeを駆使して、支持を拡大していく戦略が功を奏した。

蓮舫氏は60代、70代以上では一定の支持を得たが、、若い世代や、特に女性有権者で支持が広がらなかったことが響いた。

蓮舫氏をめぐっては、選挙後も議論が続いているので、少し触れておきたい。敗因について「立憲民主党と共産党の支援が前面に出すぎて無党派層の支持が離れた」との見方が、今回も提起されている。

一方、「若い世代の知名度、親近度が弱いのが影響した」との見方があるほか、「現職の知事に対して、説得力のある争点設定ができなかった」との指摘を聞く。選挙の敗因については、複数の要因が重なるケースも多く、掘り下げた分析が必要だ。

いずれにしても、今回の首都決戦では、無党派層の存在感と影響力が目立った。一方で、政権与党の自民党は裏金問題の逆風が大きく響き、候補者すら擁立できなかった。

野党第1党の立憲民主党も、自民党に代わる政権の受け皿としては、有権者の評価を得るまでに至らなかった。こうした既成政党に対する有権者の根深い不信が強く現れた選挙だったと言えそうだ。

無党派急増・第1党、秋の政局を左右

7月の政治の動きの中で、もう1つの大きな特徴として、全国規模の世論調査で、支持政党なしの無党派層が急増していることが挙げられる。具体的には、NHKの7月世論調査(5~7日)のデータで、無党派層は47.2%まで上昇した。

無党派層の割合は、岸田内閣が発足した2021年10月の時点で36.1%、その後も30%台前半で推移していた。今回の水準は、内閣発足から2年10か月で11ポイントも急増した。自民党が2012年に政権復帰して以降を調べても、最も大きな規模に膨れあがった。

自民党支持率を無党派が上回り、”第1党”に代わるようになったのは、去年5月だ。当時、自民党支持率は36.5%、無党派は38.9%でわずかに上回った。この時を境に1年3か月連続で第1党は無党派、特に去年12月以降は、その差が大きく拡大している。

こうした原因、背景は何があるのか。政権が混乱したり、短命政権が続いたりした時期に、無党派層が増加した。古くは1990年、海部内閣当時「支持なし層」は14%に過ぎなかった。その後、自民党の1党優位体制が崩れ、連立政権が次々に入れ替わるのに伴って90年代半ばに30%台、90年末には52%まで増加した。

世論調査の方法も異なっているので、単純には比較できないが、政権与党の支持率低下に伴って、無党派層が急増し第1党を占めて有権者全体の主流を占めるようになった。

岸田政権に話を戻すと、7月の内閣支持率は25%で、9か月連続で20%台で低迷している。自民党の政党支持率も28.4%、5か月連続で30%割れの状態が続いている。裏金問題の影響が大きく、政権離れ、自民離れがともに進んでいる。

問題はこれからどのように推移し、政権や政局にどう影響するかだ。岸田首相は、秋の自民党総裁選挙での再選をめざして立候補をめざしているが、内閣支持率、自民党支持率ともに低迷が続くようだと、前途は厳しいのではないか。

ポスト岸田をめぐっては多くの候補の名前が取り沙汰されているが、まだ正式に名乗りを上げる候補は出ていない。来月には総裁選の日程も決まり、最終的な候補の顔ぶれが一気に決まる見通しだ。

一方、野党第1党・立憲民主党も9月代表選に向けて、党内の動きが始まりつつある。今月のNHKの世論調査では党の支持率が6月の9.5%から、5.2%へ4.3ポイントも急落した。都知事選の対応が影響したのではないかとみられるが、次の衆院選に向けた党の体制づくりが、代表選の大きな争点になりそうだ。

自民党内では、9月の総裁選で新たな総裁が決まれば、年内に衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きいとの見方が広がっている。来年夏には、東京都議選、参院選挙も行われる。

自民、立民のトップ選びを経て、次の衆院選挙の争点はどんな課題が浮かび上がることになるのか。あるいは、新たな政権が求心力を回復することになるのかどうかも焦点になる。

こうした政権、与野党の対応によって、無党派層が次第に縮小に向かうのか、逆に高止まりするのかが決まってくる。いずれにしても、有権者の主流を占める無党派層がどのような判断・対応を取ることになるのか、秋以降の政治の流れを左右することになる。(了)

”無党派・政治不信旋風”首都決戦

過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は7日投開票が行われ、小池知事が大勝し3選を果たした。次点は、広島県安芸高田市・前市長の石丸伸二氏、3位は前参院議員の蓮舫氏という事前の予想とは異なる結果となった。

一方、同じ7日に投開票となった東京都議補欠選挙で自民党は、9選挙区中8人の候補者を擁立したが、当選は2人に止まり、裏金問題の逆風が収まっていないことがはっきりした。

今度の都知事選と都議補選の首都決戦から、何が読み取れるのか?結論を先に言えば”無党派層の投票者が増え、既成政党に対する不信と批判が現れた選挙”ではないか。なぜ、こうした見方をするのか、以下、説明したい。

多数の無党派層投票 選挙結果を左右

まず、東京都知事選挙の構図については当初、小池知事が先行し、蓮舫氏と、石丸氏が追う展開と予想していた。終盤、石丸氏が急速に追い上げているとの見方もあったが、立憲民主党や共産党などの支援を受ける蓮舫氏が逃げ切るのではないかと個人的にはみていた。

結果は、冒頭に触れたように小池氏、石丸氏、蓮舫氏という順番で、決着がついた。小池氏先行というのは現職の立場に加えて、自主支援を打ち出した自民、公明両党支持層からの分厚い支持が想定され、小池氏優勢は妥当な判断だろう。

一方、蓮舫氏と石丸氏の順位が入れ替わったのはなぜかという点だが、これは、投票者を対象にしたNHKの出口調査のデータをみると、理由がわかる。それが今回の選挙の大きな特徴でもある。

今回の都知事選で、投票した有権者の「ふだんの政党支持」をみると、自民支持は25%、立憲民主党支持は10%などと続いている。これに対して、特に支持している政党はない、いわゆる無党派層は48%だった。

大都市・東京は無党派層が多いといわれてきたが、今回は自民支持層の倍近い規模だ。立憲民主党支持層との比較では、5倍にも達する。投票者に占める無党派の比率がここまで伸びたことはなかったのではないか。

つまり、投票所に足を運んだ有権者のおよそ半数が、無党派層。この無党派層から最も多く獲得したのが石丸氏で30%余り、次いで小池氏30%余りだった。これに対し、蓮舫氏は20%に止まった。「無党派層の獲得率」の違いが、勝敗と順位を大きく左右する。これが今回選挙の第1の特徴だ。

 既成政党への不信、批判が鮮明に

次に、都議補選をみると今回は、品川区、中野区、八王子市など9つの選挙区で行われた。自民党は8つの選挙区で候補者を擁立したが、獲得議席は2つに止まった。2勝6敗、選挙前の5議席からは3議席を失ったことになる。

議席を獲得したのは、小池知事が率いる地域政党「都民ファースト」が3議席、無所属が3議席、立憲民主党1議席となった。立憲民主党以外いずれも小規模な政治団体、または個人だ。

自民党は都民ファーストや無所属候補らと競り合ったが、最終的に競り負けた。自民党の選挙関係者に聞くと「自民党に対する不信や批判は厳しかった。但し、それは自民党だけでなく、立憲民主党にも向かった。無党派層を中心に、既成政党に対する姿勢が強烈に現れた選挙だった」と語る。

「そうした批判票が、石丸氏に最も多く流れた。小池知事でもなく、蓮舫氏でもない、批判票の受け皿に石丸候補がなった」との見方を示す。石丸氏は、無党派層を主要ターゲットにSNSを徹底して活用したことが功を奏した。

さて、自民党の評価だが、都知事選では独自候補を擁立できなかったものの、小池知事を自主的に支援することで敗北は免れる形になった。しかし、重視していた都議補選で思うような結果は出せなかった。裏金問題に対する有権者の厳しい評価は、変わっていないことが明らかになったと言える。

一方、立憲民主党については、蓮舫氏が3位に沈んで党内に衝撃が走った。立憲民主党は、4月の衆院3補選で連勝、5月の静岡県知事選でも勝利を重ねた。今度の都知事選で勝利すれば、次の衆院選に向けて弾みになると期待していただけに打撃は大きい。

蓮舫氏の対応をみていると、準備不足やちぐはぐな対応が次々に露わになった。立候補表明時には「反自民、非小池都政」との立場を鮮明に打ち出したが、「都政に、国政の対立を持ち込むな」といった批判を浴び、トーンダウンした。

一方で、幅広い都民の支持を得るとして、立憲民主党を離党したが、選挙運動では共産党が前面に出て活動したことから、無党派層や保守層が警戒して引いてしまったとの指摘も聞く。

さらに根本的な問題としては「小池知事との争点の設定」が明確ではなかったのではないか。小池知事側が候補者同士の討論を避けたとの情報も耳にしたが、都政のどこを変えていくのか、都民に強く訴えることができなかった。

その結果、無党派層へ浸透していく迫力がなく、既成政党批判の波に飲み込まれてしまったようにみえる。

 岸田政権、今後の政治への影響は

それでは、都知事選や都議補選が、岸田首相の今後の政権運営や、政治の動きにどんな影響を及ぼすだろうか。

都知事選の結果は、小池氏自身が現職の強みを発揮したことが大きい。自民党が自主的な支援に回ったからといって、党の評価が好転するといったことはないだろう。したがって、都知事選の国政への影響はほとんどないとみている。

一方、都議補選の敗北をめぐっては、さっそく東京選出の議員から「このままでは次の衆院選は勝てない」として、岸田首相の辞任を求める声が公然と出された。9月の自民党総裁選に向けて、今後、尾を引くことなりそうだ。

これに対して、岸田首相は、外交日程などをこなす一方、「先送りできない課題に1つずつ、結論を出していく」として、政権継続に強い意欲をにじませている。総裁選の選挙日程が固まる8月下旬頃には、首相の去就を含め総裁選の対応が大きなヤマ場を迎える見通しだ。

一方、立憲民主党は、都知事選の敗因などの分析を進めるとしている。党内から、共産党との連携のあり方を見直すべきだという意見も聞く。9月の代表選挙とも絡んで、党の路線問題も議論になりそうだ。

立憲民主党は前身の民主党時代から、党の足腰の弱さが課題になってきた。また、政権交代で何を重点的に取り組むのか、旗印を明確に打ち出すべきだといった意見も聞かれる。このため、路線問題だけでなく、政権構想を具体的に打ち出したりしなければ国民の支持は広がらないだろう。

自民党総裁選挙の後、年内に次の衆院選挙が行われる可能性が高いという見方が広がりつつある。衆院選は、都知事選挙のような首長1人を選ぶ選挙と違い、政党本位の選挙だ。自民・公明対、非自民・野党各党の戦いが基本になる。首都決戦で変化を巻き起こした「無党派・政党不信旋風」はどこに向かうかのか、注目していきたい。(了)

 

 

 

自民総裁選”地殻変動に対応できるか”

通常国会の閉会に伴って、9月に行われる自民党総裁選をにらんだ動きが始まった。先月23日には、菅前総理が事実上の岸田首相の退陣を求める発言が党内に波紋を広げている。

一方、岸田首相が続投に意欲をにじませていることもあって、ポスト岸田の候補とみられる幹部は、いずれも自らの立候補に言及することを避けている。しばらくは、各候補とも水面下で準備体制を整えていくものとみられる。

総裁選の注目点は、1つは岸田首相の進退で、続投をめざすのか、退陣もありうるのか。2つ目は、候補者として「石破、河野、高市、茂木の各氏にプラスα」(党関係者)との見方もあるが、最終的にどんな顔ぶれになるのかだ。

3つ目に派閥解散の下での総裁選びのプロセスがどうなるか。キングメーカーとして麻生、菅両氏が力を発揮するのか。それとも党員、議員の自主的な判断が強まったり、中堅議員グループから新たな候補者が出たりするのかが注目される。

候補者が態度を表明するまでには、時間がかかりそうだ。総裁選の選挙管理委員会が設置され、選挙日程の協議が始まる8月に入ってからになるとみられる。

そこで、今回は兼ねてから気になっていた点、具体的には、岸田政権の支持率や、自民党の政党支持率がそろって大幅に下落している現象をどのようにみたらいいのか、掘り下げて考えてみたい。

内閣・自民党も支持者激減の地殻変動

さっそく、国民が岸田政権や今の自民党をどのようにみているのか、6月のNHK世論調査(7~9日実施)のデータを基にみてみたい。

◆岸田内閣の支持率は21%まで下がり、不支持は60%にまで増えた。岸田内閣が発足した2021年10月以降で最も低く、自民党が政権復帰した2012年以降でも最低の水準だ。

◆自民党の支持率も25.5%まで下落した。内閣支持率が下落しても、これまでは自民党支持率は比較的高い水準を維持してきたが、岸田政権では、内閣支持率、自民党支持率がそろって下落が続く異例の状態が続いている。

自民党の支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。2009年8月に衆院解散・総選挙に踏み切る直前の支持率は26.6%だった。今回は、この時の水準も下回っている。

当時の野党第1党・民主党には勢いがあり、支持率も20%台後半まで伸ばしていたので、今とは大きな違いがある。直ちに政権交代が起きる状況にあるわけではないが、危機的状況にあることは間違いない。

この原因としては、岸田政権と自民党の裏金問題への対応について、国民の多くが強い不満や不信を抱いていることが影響しているものとみられる。裏金問題をきっかけに「世論の政権離れ、自民党離れ」が急速に進んでいるわけだ。

この「支持離れ」は、岸田内閣の発足時の2021年10月と、今年6月とを比較するとわかりやすい。◆内閣支持率は49%から21%へ実に半分以下に急落。自民支持層だけに限っても岸田内閣の支持割合は7割から5割に下がっている。

◆自民党支持率も41.2%から25.5%へ16ポイント、割合にして4割も減少している。このように内閣、自民党ともに支持者離れが劇的に起きているので、「地殻変動」と表現しても言い過ぎではないだろう。

総裁選による復活論は通用するか?

それでは、岸田首相や自民党執行部は、こうした支持者離れの地殻変動をどのように受け止め、対応しようとしているのか。

岸田首相は6月21日の記者会見で「政治資金パーテイー券購入者の公開基準の引き下げなど政治資金規正法改正が実現できた」と成果を強調するとともに「国民の最大の関心事項は、経済・物価・賃金にある」として、物価や経済対策に全力を上げる考えを表明した。

自民党の閣僚経験者に聞いてみると「党の基本戦略は、秋の総裁選を華々しく展開し、人材が豊富にいることと政策立案能力を示すこと。そのうえで新総裁の下、時間を置かずに衆院解散・総選挙に打って出て勝利することに尽きる」と語る。別の幹部からも同様の考えを聞く。

岸田首相や自民党幹部は「支持率減少は、政治資金問題による一時的な現象で、総裁選を盛り上げていけば、国民の支持と、以前のような強い自民党への復活は可能だ」という認識に立っているように見える。

確かに従来はそのような対応で状況を打開できたが、今回も同じようにいくとは限らない。というのは、岸田政権に対する世論の批判は「裏金問題への対応ができていない」として、未だに強い怒りや不信を抱いているからだ。

その後の新聞各社の世論調査の結果をみれば一目瞭然だ。成立した改正政治資金規正法について「効果がない」が77%(朝日、15・16日調査)、「評価しない」56%(読売21~23日調査)。

一連の政治資金問題については、岸田首相は「指導力を発揮していない」78%(読売調査)となっており、国民の厳しい評価は以前と変わっていない。

このように裏金問題の評価をめぐっては国民と、岸田首相や自民党執行部との間に「大きな認識のズレ」があることが読み取れる。こうした国民の認識、政権に対する不信感などに真正面から向き合い、対応策を打ち出していかない限り、支持率の回復は極めて困難だろう。

総裁選、衆院選ワンセットの政治決戦

ここまで岸田政権と自民党の支持者離れ現象をみてきたが、「総裁選で新しい総裁が選出されれば、事態は変わるのではないか」といった指摘が予想されるので、この点についても触れておきたい。

確かに、その可能性はないとはいえない。但し、今回の支持率減少は、一過性の現象とはみえないので、新総裁誕生で直ちに事態改善へとは進まないのではないかというのが私の見方だ。

というのは、支持者離れは一時的ではないからだ。NHK世論調査で見ると岸田内閣の支持率を不支持率が上回る「逆転現象」は去年7月以降、12か月続いている。自民党の支持率も30%ラインを割り込むのは今年3月以降、4か月連続になる。

また、安倍政権当時も内閣支持率が低下したこともあったが、2,3か月程度で早期に回復し、復元力の強い政権だった。その後の菅政権、岸田政権ともに支持率低迷が続き、回復力の弱い政権と言えそうだ。

さらに、先に触れたように支持率減少の原因に踏み込んだ対応策を打ち出していないので、状況は改善されないままだ。このため、総裁選で仮に「政権・政党の表紙」を変えたとしても、支持率回復に結びつかない公算が大きいという見方をしている。

さて、今度の自民党総裁選は、新総裁が選ばれると時間を置かずに衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きい。総裁選と衆院選とが、事実上、ワンセットの政治決戦ということになる。

そうすると衆院選で勝てなかった場合は、その責任を問われ短命政権として終わる可能性もある。こうした事態を避けるためにも「支持基盤の地殻変動」に真正面から向き合い的確に対応できるかどうかが大きなカギを握っている。

具体的には、国民が選挙の争点の1つに想定するとみられる「政治とカネの問題」に対応策を打ち出せたか。そのうえで、何を最重点課題として打ち出していくのか、さらには新総裁の能力や力量などが問われることになる。

一方、国民としては、同じ9月に行われる野党第1党・立憲民主党の代表選挙も注目していく必要がある。世論調査では、次の選挙後の政権として、自公政権の継続と、野党中心の政権交代を望む意見とが接近しつつある。

政治に緊張感を持たせ、よりよい政策を打ち出していくためにも、しっかりした野党が必要だ。内外ともに激しい動きが予想される中で、与野党が競い合う政治の実現をめざしてもらいたい。私たち国民も、どちらの主張を支持するか、的確な評価と判断を次の選挙で示していきたい。(了)