混戦総裁選と”総理・総裁の条件”

自民党の総裁選挙は、立候補を表明したり意欲を示したりしている候補が10人以上に上るなど異例の混戦状態になっている。

既に立候補を表明したのは、小林鷹之・前経済安保相と、石破茂・元幹事長、河野太郎・デジタル担当相の3人だ。続いて林芳正・官房長官、小泉進次郎・元環境相、高市早苗・経済安保相、茂木幹事長らが続々と記者会見して立候補を表明する見通しだ。

メデイアは連日、誰が立候補に必要な推薦人20人を確保できるのかといった予想を伝えている。ただ、選挙の告示日は9月7日なので、最終的な顔ぶれが確定し、政策を打ち出すまでには、なお、かなりの時間がかかりそうだ。

一方、自民党の総裁選で新しい総裁に選出され、国会で指名を受けると直ちに新しい首相に就任する。国民のほとんどは総裁選の投票権は持っていないので、自ら関与しないところで、新首相が事実上、決まってしまうことになる。

そこで、せめて真っ当なリーダーを選んでもらいたいというのが国民多数の願うところだろう。「総理・総裁にふさわしい資格・条件」とは何か?この条件を考えてみたい。いずれ衆議院解散・総選挙になると今度は国民が、今の総理・総裁はふさわしいか、どの政治勢力・候補者に政権を委ねるかを判断することになり、その際の基準にもなる。

元首相の格言、体系的リーダー論も

さっそく、「総理・総裁にふさわしい条件」とは何か。政界で有名なのは、田中角栄元首相の格言だ。「党三役のうち幹事長を含む二つと、大蔵、外務、通産の大臣のうち二つ」が必要だいうものだ。一国の宰相は、主要ポストを歴任しておかないと、とても務まらないという考え方だ。

私は、70年代後半の「大福決戦」(当時の福田赳夫首相と大平幹事長との対決)の時が駆け出しの政治記者時代で、それ以降、総裁選挙を取材してきた。担当した竹下元首相や後藤田元官房長官は「調整力」を重視していたのが印象に残っている。

総理・総裁の条件を最も体系的に捉えていたのは、中曽根元首相ではなかったかと思う。中曽根氏は、4つの条件を挙げていた。1つは「目測力」、2番目は「結合力」、3番目は「説得力」、4番目が「人間的魅力」だ。

勝手に解釈をさせてもらうと目測力とは「事態の推移を予測し、問題点を提起し、最終的に決着させる力」。結合力は「智恵と人材を集め、政策を遂行する総合力」。説得力は「大衆社会では、政治家は国民との対話と説得力が不可欠」との考え方で、最終的には「人間的魅力」が重要とする体験的なリーダー論だ。

このリーダー論は今も通用すると私個人は考えているが、80年代までの話だ。93年に自民1党優位時代が崩れて以降、連立時代へと変わり、派閥の領袖や主要ポストを経験しない首相も誕生している。

一方、今回のように総理・総裁候補が10人以上も名乗りを挙げる事態をどのように考えたらいいのか。また、「選挙の顔として誰がふさわしいか」といった次元の意見がまかり通るようなリーダー選びでいいのか、今一度「総理・総裁の条件」を考えておくことが必要だと感じさせられる。

 リーダー選び 3つの判断基準

それでは「総理・総裁の条件」、もっとわかりやすく言えば「私たち一人ひとりが判断する基準」としては、どのような物差しがあるだろうか。最近の政治の動きを基に考えると、個人的には、次のような3つの基準を挙げたい。

1つは「目標と道筋」。内外ともに激動の時代、何を目標に設定して国政を運営するのかの基本方針。この基本方針が、明確かどうか。同時に目標を実現するための方法、達成時期がはっきり示されているか。

目標としては、この30年間賃金が上がらず停滞した日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備、外交・防衛力の強化などさまざまな目標が打ち出されるだろう。その際、どのような方法で実現するのか、具体的な道筋を示すことができているかどうかがポイントだ。

2つ目は「経験と刷新」。多くの候補者の中から、リーダーとしての資質・能力をどのように判断するか。田中角栄元首相が指摘したように政府・党の主要ポストの経験も1つの物差しにはなると思う。

一方で、世代交代の促進。中堅議員でも突破力があれば、古い党の体質を刷新、大きな改革ができる可能性もある。但し、刷新を掲げながら、舞台裏で古い勢力の支援や重鎮とのつながりがあったりすれば、国民の失望を買う。経験と刷新をどう折り合いをつけるか、具体的な人物を対象に判断するしかないと考える。

3つ目が、各候補が打ち出す多くの目標や政治課題などの中から「優先順位」をつけることも重要な点だ。総理・総裁として中長期の目標と同時に、総裁任期3年の間に何を最優先に取り組むのかをはっきりさせる必要がある。

その際、報道各社の世論調査をみると国民の多くは「裏金問題を受けて、自民党は政治不信の払拭にどこまで真剣に向き合うのか」を重視している。このため、政治改革は最重要の案件として、各候補は具体的な対応策を示してもらいたい。そのうえで、その他の政治課題の中から、何を最重点に取り組むのかを明確に打ち出してもらいたい。

今回の総裁選は、多くの候補者が名乗りを上げ、それぞれ選挙の公約を打ち出す見通しだ。先に触れた「3つの基準」に基づいて整理をすれば、各候補について、一定の評価を行うことができると思う。

一方、今回の総裁選挙をめぐって自民党内では、次の衆院選挙を意識して「選挙の顔」を選ぼうとする動きがうかがえる。だが、新しい総裁は、国会で指名を受けると即、新しい総理として国のかじ取りを担う。行政全体を指揮する能力、与党との調整力、見識などを兼ね備えたリーダーを選ぶのが、責任政党の役割だ。

各候補者が出そろい、候補者同士による例年より長い論戦を経て、自民党は100万人余りの党員と所属する衆参国会議員の選挙で、誰を最終的に選出することになるのか。また、派閥を解消して、新しい自民党に生まれ変わるとした約束が守られるのかどうかも大きな注目点だ。

ほとんどの国民は、今回の総裁選では投票権は持っていないが、今の衆議院議員の任期が満了となる来年10月末までには、衆議院選挙が行われる。そこで、来月行われる自民党と、野党第1党・立憲民主党のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選挙での判断に活かしてはどうだろうか。(了)

 

 

”政権不信 払拭できるか” 混戦自民総裁選

岸田首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、9月12日告示、27日投開票とする日程が20日、党の総裁選挙管理委員会で決まった。

一方、立候補に意欲を示す候補者は異例の11人にも上っている。党員投票が導入されて以降、立候補者が最も多かったのは5人だった。候補者数は推薦人20人が確保できるかどうかで絞られるが、混戦の総裁選になるのは確実な情勢だ。

総裁選の日程については、告示日から投票日前日までの期間は15日間となり、今の規定となった1995年以降、最も長くなる。また、告示日まで3週間もあり、これから投開票日まで1か月半近くに及ぶ長期戦になる。

こうした背景には、自民党としては「テレビなどメデイアの露出を増すことができる。また、低迷が続く内閣と自民党の支持率を回復させ、新総裁誕生の勢いに乗って衆院選の勝利にもつなげられる」との思惑があるものとみられる。

だが、世の中、それほど甘くはないのではないか。「総裁選を長期にすることで、議論がだらけないか。今の顔ぶれでは、国民を引きつける議論や討論を成り立たせるのは難しいではないか」とも思える。

総裁選をめぐっては、中堅・若手議員が推す小林鷹之・前経済安保担当相が19日、いち早く立候補を表明した。今週、石破幹事長も名乗りを上げる見通しだが、候補者の顔ぶれがそろうまでには、なお、時間がかかりそうだ。

これから、メデイアが総裁選の論点・争点にどこまで切り込めるか。また、ほぼ同時期に行われる立憲民主党の代表選で、どこまで自民党との対立軸を鮮明に打ち出せるかも大きなポイントになる。

自民総裁選は、私たち国民にとって、どのような意味があり、何が問われているのか考えてみたい。

退陣の最大要因は、裏金問題への対応

今回の総裁選挙は、岸田首相の総裁任期満了に伴うものだが、首相は再選を目指しながらも立候補断念に追い込まれた。

その結果、総裁選の構図が一変し多数の候補が乱立することになったので、岸田政権の3年間、何が最も大きな問題だったのかを手短に確認しておきたい。

岸田政権は2021年10月にスタートしたが、当時は急拡大するコロナ対応に追われた。翌22年にロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相が銃撃事件、この事件を契機に旧統一教会と自民党との接点が発覚するなど事件、戦争、パンデミックなどに翻弄された政権でもあった。

こうした中で、退陣へ追い込まれた最大の要因は、自民党派閥の裏金事件への対応で、実態の解明や再発防止策への対応が後手に回った。

これによって国民の政治不信、政権への不信が深まった。内閣支持率は長期にわたって低迷状態が続き、自民党の政党支持率も下落するようになった。今度の総裁選挙や次の衆院選挙で勝てる展望が開けず、退陣に追い込まれたのが実態だった。

したがって、今回の総裁選では「政治不信、政権不信」を本当に払拭できるかのどうかが、最も問われる点だ。

もう1つ、岸田政権が問われる点を挙げると、重要政策の決定にあたって「国民に説明し、説得する姿勢」が乏しかったことだ。

具体的には、国家安全保障戦略など防衛3文書の決定に当たって、敵基地攻撃能力の保有と専守防衛との関係などについて、国会での議論があまりにも少なかった。

防衛予算についても5年間で43兆円、1.6倍に拡大することを決定したが、首相主導で、国民への説明は極めて不十分だった。その財源確保のための防衛増税の実施時期については、未だに先送りしたままだ。

岸田政権は、こうした防衛力の抜本強化などの方針転換にあたって、政府と党の連携が十分とれておらず、首相が独走する形が目立った。政権中枢と自民党、与党との方針決定のあり方も、今後の大きな課題として残された。

政治改革の具体化、実現の道筋が焦点

それでは、今度の総裁選では、具体的に何が問われるか。1つは、政治不信の払拭に向けて何をするかということになる。岸田政権は、改正政治資金規正法を成立させたが、報道各社の調査では、国民の多数は評価していない。

また、改正法の付則には、政治資金を監督する第三者機関の設置や、政策活動費の10年後の領収書公開のあり方をなど検討していくことが盛り込まれているが、自民党内ではその後、検討を行っている動きはない。

今度の総裁選挙でも各候補は、政治の信頼回復に向けて努力する考え方を示すものとみられる。その際、検討項目の結論をいつまでに出して、実現していくのか、具体的な方針を示さないと国民の理解は得られないだろう。政治改革の具体化と、いつまでに実現するのか、その道筋を明らかにできるかどうかが焦点になりそうだ。

2つ目は、物価高騰が続く中で、国民生活の向上と日本経済再生の道筋をどのようにつけるかも問われている。岸田政権は経済政策「新しい資本主義」を掲げ、経済成長と「分配」重視を打ち出し、「アベノミクス」の修正を図ろうとしたが、道半ばで終わってしまった。

円相場や株式市場が大きく変動する中で、大規模な金融緩和策を変更し、どのような金融・経済のかじ取りを行っていくのかも大きな論点になる見通しだ。

3つ目は、自民党はどのような政党をめざすのか、統治の形や運営方法などを具体的に示していく責任がある。裏金問題に関連して派閥の解散を決定したが、今回の総裁選で守られるのかどうか、試される。

また、今後は、派閥解散後の人事、政策の調整、若手議員の育成などをどのように行っていくのか、新生自民党の姿・内容も議論になりそうだ。

ここまで、自民党総裁選で問われる点をみてきたが、最終的に候補者の顔ぶれはどのようになるのか。政策論争は深まるのかどうか、その結果は、新しい総理・総裁の評価に直結する。

私たち国民も、ほぼ同時並行で進められる立憲民主党の代表選と比較しながら、次の時代を担うリーダーや、望ましい政権担当勢力、重点的に取り組むべき政策課題などを考える機会にしたい。(了)

 

 

 

 

 

岸田首相 退陣表明、自民総裁選びは混迷か

岸田首相は14日昼前、首相官邸で記者会見し、自民党総裁選に立候補せず、退陣する考えを正式に表明した。

この中で、岸田首相は来月の総裁選について「自民党が変わる姿、新生自民党を示すことが必要だ。変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は、私が身をひくことだ」とのべ、総裁選に立候補せず、新総裁選出後に退陣する考えを明らかにした。

自民党内では、岸田首相が「先送りできない課題に1つずつ、結果を出す」と繰り返し表明してきたことから、総裁選で再選をめざす可能性が大きいとの見方が強かった。それだけに、お盆休み中の突然の立候補断念表明は大きな驚きをもって受け止められている。

なぜ、岸田首相は総裁選への立候補を断念することになったのか。また、自民党総裁選の今後の展開はどうなっていくのか、探ってみたい。

 首相、総裁選乗り切り困難と判断か

岸田首相の総裁選への対応をめぐっては「首相が立候補を断念することはあり得ない」との情報が首相周辺から盛んに流される一方で、自民党内では「最終的には、断念に追い込まれる可能性もあるのではないか」との見方もあった。

自民党長老に首相の退陣表明の感想を聞いてみると「自民党議員の多くは、首相には交代してもらいたいというのが本音ではなかったか。総裁選での党員投票を考えると、岸田首相が多数を得るのは難しく、総裁選乗り切りは困難と判断したのではないか」と見方を示している。

こうした自民党内の見方に加えて、岸田内閣の支持率は今月も20%台半ばの低い水準で、これで10か月連続となる。一方、裏金問題をきっかけに自民党の政党支持率も下落し、30%ライン割れが6か月連続となる。いずれも2012年に自民党が政権復帰以降、初めての異例の状態が続いている。

また、岸田政権政治資金規正法の改正についても「評価しない」が多数を占め、その後も政権の支持率が回復する兆しはみられなかった。

さらに、岸田首相を支持してきた旧派閥内でも「岸田首相が立候補した場合、推薦人にはなりたくない」との声が聞かれた。

こうしたことから、岸田首相としても自民党総裁選に立候補しても、勝てないと判断し、最終的に立候補断念を決断したものとみられる。

取材する側からみても、政治とカネをめぐって、世論の政権不信は一向に収まらない。自民党内も「首相が最終的に責任を取るべきだ」として退任を求める意見が根強かった。さらに、世論の記録的な低支持率が改善されない以上、いずれ総裁選からの撤退は避けられないだろうとみていた。したがって、ここまでは想定内の展開と受け止めている。

自民総裁選、後継選びは混戦・混迷か

それでは、自民党の総裁選びは、どのような展開になるだろうか。総裁選の日程は、20日に開かれる総裁選選挙管理委員会の日程で、来月の告示と投開票の日程が決まる運びになっている。

当面の焦点は、まず、誰が立候補するかだ。これまで意欲をにじませる候補は多かったが、立候補を表明した候補は誰もいない。石破元幹事長は14日、「立候補に必要な推薦人20人が整えば、責任を果たしたい」とのべ、立候補する考えを示した。

自民党関係者に聞くと、岸田首相が立候補しない考えを表明したので、茂木幹事長は立候補する可能性が大きいとの見方を示す。小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗・経済安保担当相、野田聖子・元子ども政策担当相、中堅・若手の小林鷹之・元経済安保相など多くの候補が名乗りを上げようとするのではないか。

但し、立候補には推薦人20人が必要で、この条件は意外と厳しい。告示直前まで、推薦人確保の動きが続き、最終的に候補者が絞り込まれることになる。

そのうえで、誰が総裁選を勝ち抜くのか?この見通しは、残念ながら今の時点で難しい。自民党が派閥解散を決めたことから、議員票の読みが難しいからだ。

さらに、党内の一部では、麻生副総裁や、菅元首相らが影響力を行使して、総裁選に影響力を及ぼすのではないかとの見方も聞く。一方、自民党ベテラン議員は「派閥の領袖や元首相がキングメーカー然として振る舞ったり、派閥復活とみられるような動きが出たりすると世論の猛烈な反発を招く」と懸念を示している。

自民党の総裁選びは、従来の総裁選とどこまで変わるのか、実際の動きを見てみないと情勢の判断は難しい。従来より多くの立候補者が予想される一方、初めての派閥なき総裁選になるので、情勢がつかみにくく、混戦・混迷の総裁選びになるのではないか。

自民党の長老に聞いてみると「総裁選は各候補が、総理・総裁になったら何をやるかを打ち出すことが一番大事な点だ。今は、そうした動きが全くないのが一番の問題だ。議員も、誰が総裁になれば自分の選挙は有利になるかといった発想が強すぎる」と党の現状に強い危機感を抱いている。

私たち国民も総裁選の勝敗だけでなく、各候補の政権構想や主要政策、国民の信頼回復のための具体的な取り組み方などについて、しっかりみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

 

 

 

株価乱高下、岸田首相の再選戦略に影響も

自民党の総裁選挙は、今月20日に開かれる総裁選管理委員会の会合で、来月の選挙日程が決定されることになった。9月20日投票か、27日投票を軸に選挙日程の調整が進む見通しだ。

こうした中で、NHKの8月の世論調査が5日にまとまり、岸田内閣の支持率と自民党の支持率は低い水準に止まっていることが明らかになった。

加えて、5日の東京株式市場で日経平均株価の終値が、4451円と過去最大の下落幅を記録した。翌6日は、一転して買い戻しの動きが広がり、終値で3217円値上がりし、終値として過去最大の上げ幅になった。

こうした株価の大きな乱高下は、経済政策を強くアピールしてきた岸田政権を直撃する形になった。総裁選での再選をめざす岸田首相にとって、大幅賃上げと株高は政権の大きな成果としてきただけに、今回の株価の異常な乱高下は再選戦略に影響を及ぼすことになりそうだ。

 内閣、自民支持率ともに低迷続く

まず、NHKの今月の世論調査(2日から4日実施)は、自民党総裁選を1か月後に控えた調査になるので、内閣支持率と自民党支持率がどの程度の水準になるのか、注目していた。

岸田内閣の支持率は25%で、先月と同じ水準に止まった。一方、不支持率は55%で先月より2ポイント減少したものの、依然として高い水準だ。岸田内閣の支持率は、10か月連続で20%台という低迷状態が続いている。

一方、自民党の政党支持率は今月は1.5ポイント伸ばして29.9%となったが、6か月連続で30%割れとなった。自民党政権下で30%ラインを割り込むのは、2009年の麻生政権以来となる。

岸田政権は通常国会閉会を契機に、定額減税の実施や電気ガス料金の補助金支給、それに得意の外交活動を展開して、総裁選前の政権の浮揚をめざしてきた。ところが、内閣支持率、自民党支持率ともに改善はみられず、厳しい状況に追い込まれている。

株価乱高下、首相の再選戦略に影響も

こうした中で東京株式市場は5日、取引開始直後から全面安の展開となり、日経平均株価の終値は4451円安い3万1458円、過去最大の下落幅を記録した。アメリカの景気減速の懸念が強まったことや、円高が急速に進んだことが影響したものとみられる。

翌6日は一転して買い戻しが広がり、株価は一時、3400円以上値上がりし、上げ幅は取引時間中としては過去最大となった。株価大暴落に歯止めがかかったことで市場は警戒感が和らいでいるが、当面不安定な値動きがつづきそうだ。

岸田政権は支持率低迷が続く中で、高い賃上げの実現や、NISA(少額投資非課税制度)の拡充など「貯蓄から投資へ」などの経済政策を強くアピールしてきた。それだけに今回の株価大暴落は、政権にとって大きな痛手だ。

また、自民党総裁選に向けても外交と並んで、経済に強い政権を訴えて再選を図る戦略を描いてきただけに、再選戦略に影響が出ることは避けられそうにない。

株価乱高下について、岸田首相は6日広島市の記者会見で「引き続き緊張感を持って注視するとともに、日銀と密接に連携しつつ、経済運営を進めていきたい」とのべるに止まった。

日銀は、先に政策金利を0.25%程度引き上げる追加乗り上げを決めるとともに、植田総裁はさらなる金利の引き上げもありうるとの考えを示した。岸田首相としてはどのような金融・経済政策を行っていくのか説得力のある説明が必要だ。首相の対応は、内閣の支持率にも跳ね返ってくる。

 自民総裁選、岸田首相の去就が焦点

さて、自民党総裁選挙をめぐっては、未だに誰も立候補の名乗りを上げていない。今月20日に総裁選の日程が正式に決まるのを待って、一気に動き出すものとみられている。

総裁選の動きが本格化しないのは、現職の岸田首相が自らの去就について、態度を表明しないことが影響している。首相周辺は「首相が再選を断念することはない」との見方を示す。これに対し、自民党内には「次の衆院選を戦う顔としては適任ではない」と交代を求める声も根強い。

自民党内では「岸田首相は9日から12日までの日程で、中央アジア・モンゴルを歴訪する。その区切りがつけば、最終的な判断をするのではないか」との見方もある。

岸田首相は今月、鈴木財務相、麻生副総裁、林官房長官、森山総務会長らと相次いで、個別に会談を続けている。総裁選の情勢をめぐって、さまざまなケースを想定して意見を交わしているものとみられる。

現職の首相が総裁選に立候補して敗北したのは、73年に当時の福田赳夫元首相が、大平幹事長に敗れた一度だけだ。一方で、現職の首相・総裁が立候補を断念したケースもある。最近では菅元首相、谷垣総裁、河野洋平総裁らだ。

岸田首相はどちらの道を選択するのだろうか。現職の首相が去就を明らかにしないと総裁選の構図は固まらない。今月中旬以降、来月初めにかけてさまざまな動きが表面化してくる見通しだ。(了)