大混戦が続いていた自民党総裁選挙は27日、投開票が行われ、5回目の挑戦となる石破元幹事長が、決選投票で高市早苗経済安保相を逆転し、新しい総裁に選出された。決選投票の票差はわずか21票、薄氷の勝利だった。
今回の総裁選は、過去最多の9人が立候補して混戦となった。当初は、党員や国民の人気の高い小泉進次郎元環境相と、石破元幹事長の2人の戦いになるとみていたが、選挙戦に入ると高市氏が急速に勢いを増して3つ巴の構図となり、勝敗のゆくえは見通せなくなった。
最終的には、石破氏が勝利を収めることになったが、舞台裏で何が起きていたのか、今回の総裁選全体をどのようにみたらいいのか。さらに来週、発足する石破政権にとってのハードルは何かを見ておきたい。
石破氏逆転勝利の事情、舞台裏は?
まず、第1回投票で高市氏がトップとなりながら、決選投票で石破氏が逆転することができたのは、どのような事情があったのかという点からみていきたい。
選挙なので、多少数字が多くなるが、お付き合い願いたい。第1回投票では、高市氏は議員票72票、党員票109票、計181票だった。党員票では、1票ながらも石破氏を上回った。同時に驚いたのは議員票の増加ぶりだ。40~50票程度と見ていたので、72票、相当な議員票の上積みが目を引いた。
これに対して、石破氏は議員票46票、党員票108票、計154票だった。石破氏は、党員票では強みを発揮するとみていたが、今回は高市氏の追い上げを許した。一方、議員票は限界があり、得票を大幅に増やすことはできなかった。
これを受けて、決選投票(368党員票から、47都道府県票に縮小)では、石破氏が議員票189票、都道府県票26票、合計215票を獲得。対する高市氏は議員票173票、都道府県票21票、計194票。石破氏が21票上回って、逆転勝利した。
この理由は何か?石破氏の議員票は、第1回投票が46票→決選投票189票へ143票も上積みした。高市氏は、第1回投票72票→決選投票173票、101票増に止まった。議員票で大差がついたのが大きな要因だ。
議員投票の詳細な流れはまだ不明だが、決選投票に進まなかった他陣営の議員票の多くが、石破氏へ流れたことが考えられる。麻生副総裁が高市氏支持に動いた一方で、岸田首相をはじめ、林官房長官、上川外相ら旧岸田派のグループ、小泉氏を支持した無派閥議員の多くは、逆に石破氏支持に回ったとみられる。
首相経験者でみると、岸田首相と菅元首相は石破氏を支持して勝利したのに対し、麻生副総裁は高市氏支持に回り敗北を喫し、明暗が分かれた。
また、自民党関係者によると「決選投票で高市氏が伸びなかったのは、高市氏の政治信条や政策などに対する警戒感が働いたのではないか」との見方をする。「保守の論客で、安倍元首相の後継者を自認する高市氏がトップに就任すると、外交・安全保障や経済・金融政策面で混乱を招く恐れがある」として、ブレーキが働いたのではないかというわけだ。
小泉氏失速、高市旋風で構図が変化
もう1つ、今回の総裁選では、次の首相候補として人気の高かった小泉進次郎氏の評価が低下したことが、総裁選の構図を大きく変える要因になったのではないか。
小泉氏は、議員票では最多の75票を集めた。一方、党員投票は61票に止まり、100票台の高市氏や石破氏に大きな差をつけられた。
小泉氏は最初の立候補表明の記者会見は、準備や演出も周到で順調な滑り出しかに見えた。しかし、選挙戦が始まり、日本記者クラブの候補者討論会や記者会見などで、主張や政策の説明に説得力が感じられず、世論調査でも自民支持層や党員の支持に勢いが見られなくなった。
地方の党員に聞いてみたところ「はっきり言えば、総裁選に出るのは10年早い。政治家として能力は十分あるのだから、政策面などの力を磨いた上で再挑戦した方がいい」など手厳しい意見が多かった。
一方、高市氏については「政治信条や主張がはっきりしており、支持したい」といった声が多く聞かれた。総裁選挙の有権者は、自民党の党員・党友の105万人余りに限定されているが、こうした党員の受け止め方の差がそのまま得票数に現れる形になった。
今回の総裁選挙には、現職の閣僚、党の幹事長、元閣僚など主要幹部が名乗りを上げたが、党員の得票率はいずれも1ケタ台に止まった。人数だけは賑やかだが、議論がほとんど掘り下げられず、肝心な点がわからなかったとの声も聞く。
最終盤では、各候補者が重鎮詣でを繰り返したほか、特定の候補への投票の働きかけがあったとの声も聞く。総裁選のあり方も再検討する必要があるのではないかと思う。
石破新総裁、難問は新体制づくり
石破新総裁の選出を受けて、国会は10月1日に召集され、新しい首相に石破新総裁が指名される運びだ。その日のうちに石破新内閣が発足する見通しだ。
石破首相にとって最初の難問は、新しい内閣、政権の体制づくりだ。石破氏は自らの派閥を解散して無派閥を続けてきたことから、石破氏を一体となって支える人材が周囲に少ないのではないかとの声を聞く。
一方、総裁選で高市氏は、議員票のおよそ半数の支持を得た。高市氏を含め総裁選を戦った8人の候補者の処遇も問題になる。まずは、30日までに党の幹事長などの役員人事をどのような顔ぶれにするのか。また、内閣の要の官房長官候補を内定する必要がある。
総裁選出後、石破氏は最初の記者会見で「新政権が発足するので、なるべく早く国民の審判を仰がなければならない」とのべた。そのうえで、「人事はまだ白紙だ。総裁選で争った8人の議員は、最もふさわしい役職にお願いする。高市氏や小泉氏も考え方は同様だ」とのべた。
石破政権の新しい人事がどのような布陣になるのか、そして政府と自民党一体となった体制をつくれるのかどうか最初の試金石になる。そして、この新しい体制を国民がどのように評価をするのか、大きなポイントになる。
私たち国民としては、臨時国会で与野党が論戦を戦わせ、政治とカネの問題や、経済政策などの論点を明確にしたうえで、国民に判断を求める取り組みを行うよう注文しておきたい。(了)