自公過半数割れ、裏金問題が政権与党を直撃

第50回衆議院選挙は27日投開票が行われ、自民党は議席を大幅に減らし、単独で過半数に届かないことが確実になった。また、自民、公明両党でも過半数を割り込むことが確実になり、石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

衆院選挙は27日午後8時で投票が締め切られ、開票作業が進められた。自民党は議席が伸び悩んでおり、単独で過半数の233議席に届かないことが確実になった。

自民党は、28日午前1時半時点で186議席に止まっているほか、公明党も22議席で伸び悩んでいる。このため、自民、公明両党でも過半数の233議席に達するのは難しく、過半数割れをすることが確実になった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は公示前の98議席から、大幅に議席を増やし、28日午前0時半の時点で134議席を確保し、さらに議席を伸ばす勢いだ。

日本維新の会は35議席を確保したほか、国民民主党は27議席、れいわ新選組も8議席と公示前から議席を増やし、共産党も8議席を確保している。

自民、公明両党が衆議院で過半数を割り込むのは、2009年の衆議院選挙で民主党政権が誕生した時以来、15年ぶりのことになる。これによって、発足したばかりの石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

今回、自民党が議席を大幅に減らしたのは、自民党派閥の裏金事件について、実態の解明や説明などが不十分で、国民の不信感が逆風となって大きく影響したことが挙げられる。

これに加えて、自民党は不記載議員の一部を選挙で公認しないなどの厳しい措置を打ち出す一方で、非公認の候補者が支部長を務める政党支部に2000万円の活動費を支給していたことが選挙戦の最終盤に明るみになった。

自民党の関係者は「この問題が報じられた後、国民の自民党に対する視線が一段と厳しくなり、最終盤の巻き返しができなくなった」とのべ、この問題の選挙戦への影響の大きさを認めた。

執行部の政治責任浮上、政局流動化へ

今回の選挙結果について、石破首相は開票速報でのインタビューに答えて「非常に厳しい審判をいただいた。謙虚に厳粛に受け止めなければならない」とのべた。

こうした一方で、石破首相が引き続き政権を担当する意欲をにじませた。しかし、石破首相は、衆議院を解散するのに当たって勝敗ラインを「自民、公明両党で過半数を確保すること」を挙げていた。

自公過半数割れがどの程度で収まるのか、まだはっきりしないが、勝敗ラインを割り込んだことで、自民党内からは石破首相や党執行部の政治責任を明確にするよう求める意見が出されることが予想される。

また、選挙後の特別国会で首相指名選挙をどのように乗り切るのか、衆院選挙を受けての組閣人事、政権の安定に向けて連立の枠組みを拡大するのかどうかが大きな問題になる。

さらに、公明党の石井代表は小選挙区の埼玉14区で敗れ、比例代表との重複立候補をしていないため、議席を失うことが確実になった。

このほか、来月5日にはアメリカの新大統領が決まるのをはじめ、11月中旬にはAPECやG20サミットが控えている。来月下旬以降には、臨時国会を召集し、能登半島地震対策や物価高騰対策などを柱とする補正予算案の審議を行う必要がある。

このように内外に大きな懸案を抱えている中で、石破首相は選挙敗北の政治責任をどのような形で取るのか、今後の政権運営をどのような方針で行うか、早急に明らかにする必要がある。選挙後の政局は、大きく揺れることになる見通しだ。(了)

★追伸(28日午前11時)以上の原稿は、28日午前1時半時点のデータで執筆。 各党の最終確定議席と、公示前勢力との増減は以下の通りです。       ◇自民191議席-56。◇公明24議席-8 → 与党215議席、-64      ◇立憲民主148議席+50 ◇維新38議席-6 ◇国民民主28+21 4倍    ◇れいわ9議席+6 3倍 ◇共産8議席-2 ◇参政 3議席+2       ◇日本保守3議席+3 ◇社民1議席 ±0 ◇無所属(小選挙区)12議席-2   以上です。

 

“自民苦戦、与党過半数割れ攻防続く”衆院選情勢

短期決戦となった衆院選挙は、いよいよ27日に投開票が行われる。終盤の選挙情勢は、自民党が単独で過半数を維持するのは難しい情勢で、苦戦が続いている。

一方、自民、公明両党で過半数を維持できるかどうかは微妙な情勢で、このまま27日の投開票まで与野党の激しい攻防が続く見通しだ。

有権者にとっては投票に当たって、与野党の選挙情勢も念頭に置いて投票したいという方もいるので、最終盤の選挙情勢を分析、評価してみたい。

 自民、単独過半数維持は困難か

まず、自民党の選挙情勢について、党の関係者に聞いてみると「九州、四国、九州など西日本地域は堅実な戦いができているが、北海道、東北、東海などは厳しい戦いを迫られている。現状では、小選挙区で30議席程度減る情勢ではないか」と厳しい状況であることを認める。

衆院の総定数は465議席なので、その過半数は233議席、公示前の自民党の勢力は247議席だ。15議席以上減らすと自民党は単独過半数割れに追い込まれることになる。

先の自民党関係者が触れたように小選挙区で30程度も議席を減らせば、自民党は単独で過半数を維持することは困難だ。

自民党は過去4回、衆院選挙で単独過半数を維持してきた。仮に単独過半数を割り込む場合は、2009年麻生政権下で政権を失って以来、15年ぶりになる。それだけ今回の総選挙では、自民党は苦境に立たされていることを示すものだ。

 与党過半数割れは微妙、攻防続く

次に選挙情勢の大きな判断基準として、与党で過半数を維持できるかどうかの目安がある。石破首相と公明党の石井代表がそろって勝敗ラインとして掲げている「自公で、過半数を確保すること」と同じ内容だ。

自公で過半数が維持できるかどうかをめぐっては、選挙関係者の間でも見方が分かれている。立憲民主党の野田代表など野党関係者は「裏金問題を徹底的に追及していけば、自公両党を過半数割れに追い込むことは可能だ」と強気の見通しを示している。

これに対して、自民党の選挙関係者は「政治とカネの問題をめぐって自民党は、厳しい情勢にあるが、都市部の選挙区では野党候補が乱立したことで助かっているところもある」として、過半数割れを回避できるという見方を示している。

報道各社の情勢調査をみても、与党で単独過半数割れになるかどうかはっきりしない。仮に自民党が議席を大幅に減らしても210議席程度に止まると、公明党が20議席後半を維持できれば「ギリギリ、過半数を超えることも可能だ」と見られるためだ。

つまり与党の獲得議席の「下限」、最も厳しい場合は「与党過半数割れ」となる。逆に「上限」、「与党が過半数を確保」できる場合もあり、どちらに転ぶかわからないというのが今の状態だ。

立民は議席増か、自民追加公認も焦点

一方、野党側のうち、立憲民主党は公示前の98議席から大幅に議席を増やす勢いがある。国民民主党も公示前の7から議席を増やす見通しのほか、共産党も公示前の10議席を上回る勢いがある。れいわも公示前の3議席から増やす見通しだ。

一方、日本維新の会は、このところ党勢に広がりがみられず、公示前の44議席を減らす可能性が大きいとみられる。

衆院選挙の場合、過去の選挙でも与野党激戦の選挙区が60程度は残り、最後まで激しい戦いが続く。最終的な議席数は、こうした激戦区の結果で決まることになる。

与党の議席数に話を戻すと、自民党は与党で過半数の勢力を維持するためにも、無所属の当選者から「追加公認」を行うことを検討している。与党が過半数を維持できるかどうかは、こうした追加公認の扱いによっても変わることになる。

いずれにしても自公で過半数を維持できるのか、それとも野党が大幅に議席を伸ばし、与党過半数割れに追い込むことになるのかどうかが最大の焦点だ。

政権・与党の巻き返し、野党の動向は

このように石破政権と自民党は、政治とカネの問題などで厳しい状況に立たされているが、投開票日まで挽回の手段、方法はあるのだろうか?

NHKの世論調査(10月18~20日、投票日前1週前)を見てみると石破内閣の支持率は41%、不支持率は35%だった。その1週間前の調査に比べると、支持率は3ポイント下がり、不支持率は3ポイント上昇したことになる。

一方、各党の支持率は、自民党が31.3%、公明党4.4%、立憲民主党9.2%、日本維新の会3.4%、共産党2.9%、国民民主党2.3%、れいわ1.9%、社民党0.6%、参政党1.1%、みんなでつくる党0.1%、無党派34.8%だった。

このうち、自民党の支持率は先週の調査35.1%から、3.8ポイントも下落した。この数値は、小選挙区の勝敗に直接影響するものではないが、この1週間で自民党の下落幅が大きかったことがわかる。

こうした石破政権と自民党の支持率低下は、選挙の大きな争点となっている「政治とカネの問題」の逆風が今も続いていること示すものだとみられる。このため、石破政権が政策面で巻き返しにつながるような決定打を放つのは難しいものとみられる。

各党の取り組みに勢いがあるかどうかは、最終的な議席数にも影響を及ぼすので、最後まで見届ける必要がある。石破政権が発足直後に踏み切った衆院解散・総選挙は、27日の有権者の審判がどのような形になって現れるか、選挙後の政局は激しく揺れ動く予感がする。(了)

衆院短期決戦、選挙情勢をどう読むか?

第50回衆議院選挙が15日公示され、27日投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートした。今回は、1日に石破茂・自民党総裁が新しい首相に選出されて新政権が発足、8日後に衆院解散、26日後に投開票という戦後最短の政治決戦となった。

衆院選挙の立候補届け出は15日午後5時に締め切られ、小選挙区(定数289)に1113人、比例代表(定数176)に単独で231人の合わせて1344人が立候補した。

立候補者数は、現行制度下で最少だった前回2021年の1051人から、293人増えた。野党の立憲民主党と共産党との候補者一本化が進まなかったことや、日本維新の会が積極的に候補者擁立を進めたことが影響したとみられる。

選挙戦では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革のあり方、物価高騰対策をはじめとする経済政策、厳しい国際情勢に対応していくための外交・安全保障政策をめぐり、激しい論戦が行われる見通しだ。

一方、選挙の勝敗はどうなるのか。裏金事件の逆風が続く中で、自民・公明両党は過半数の議席を確保して政権を維持できるのか、それとも野党が勢力を伸ばして与党を過半数割れに追い込めるのかどうかが最大の焦点だ。選挙情勢の現状と勝敗のポイントを中心に探ってみたい。

カギとなる数字「233、47」の攻防

「衆院選挙の勝敗ライン」について、石破首相と公明党の石井新代表はそろって「自公で過半数を維持すること」を挙げている。「勝敗ライン」は選挙の勝敗の目安となると同時に、執行部の政治責任が生じる基準にもなる。

このため、与野党問わず、執行部はいずれも低目の目標を設定し、政治責任が自らに及ばないよう予防線を張るケースが多い。

「自公で過半数」は、衆院総定数465の過半数だから「233」、これが「勝敗ライン」ということになる。

今回は石破首相と自民党執行部は、不記載議員12人を非公認とした。このうち1人が立候補を取り止め、11人が無所属で立候補することになった。

自民党の公示前勢力は、非公認扱いとなった11人を差し引いた247人。公明党が32人なので、自公の勢力は合わせて279人となる。自公過半数割れは、279人-233人=46、これを1人下回る「47」となる。

以上を整理すると自公の過半数は「233」。この過半数割れは、与党勢力から「47」以上の議席が減るかどうかにかかる。したがって、今回の選挙でカギとなる数字は「233」と「47」。この数字をめぐる与野党の攻防ということになる。

自民単独過半数=「党内政局」分岐点

このカギになる数字「233」は、もう一つ「自民単独で過半数」を獲得できるかどうかという大きな意味も持っている。

自民党は、2012年から衆院選で4回連続、単独過半数を維持してる。ところが、今回は不記載議員を11人を非公認にしたため、党の公認候補は247人にまで減っている。

このため、「15人以上」が議席を失うと「自民単独過半数割れ」に陥ることになる。自民党政権下では、2009年麻生政権が政権から転落して以来の敗北を意味する。政権にとって大きな痛手となるのは間違いない。

一方、自民党は「非公認の候補者でも当選すれば追加公認はありうる」としているので、追加公認で議席減少の穴埋めの措置が取られることが予想される。

あるいは、自民党は不記載議員のうち、小選挙区での公認を認めたものの、比例代表選挙との重複立候補を認めなかった候補者が33人に上る。小選挙区で議席を失えば、比例代表で救済される道は閉ざされる。比例代表の単独名簿の候補者が当選になる。

旧安倍派議員を中心に議席を失う議員は、相当な数に上るとの見方があるほか、選挙後の自民党議員の顔ぶれなどを注意深く見ていく必要がある。

話を元に戻すと、自民党が単独過半数割れになった場合の影響はどうか。前回2021年の衆院選結果は261議席で、この水準が続いてきた。過半数を割り込むということは、この水準から30議席近くも下回るので、その影響は極めて大きいことがわかる。

仮に「自公過半数」の目標は維持できたとしても、党内の反主流派や旧安倍派からは「大幅な議席減をもたらした」として、石破首相の政治責任を追及することが予想される。

したがって「党内政局」を引き起こすボーダーラインという意味合いを持っている。「自民単独で過半数233」維持できるかどうか、そのためには「15議席以上の議席減」を避けられるかどうかは、石破政権にとって大きな意味を持つ。

 議席予測、正確な調査・取材の詰め必要

それでは、今回の選挙情勢はどうなっているのか、見ていきたい。自公で過半数を維持できるか、自民単独で過半数を維持できるか、この2つが大きなポイントになる。

石破首相は14日午後、衆院選の見通しについて「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」と記者団に語った。

これに対し、立憲民主党の野田代表は「自公過半数割れに追い込む」と強調し、自公で過半数を獲得できるかどうかが最大の焦点になっている。

衆院選の公示前の段階でメデイアの世論調査や、自民党関係者の見方を総合すると比例代表選挙の投票先では、自民党が野党各党を引き離しており、「自公で、過半数割れの可能性は小さい」とみられる。

一方、「自民単独で過半数を割り込むケースは、起こりうるのではないか」との見方は自民党関係者からも聞かれる。

つまり、自公過半数割れ、47以上の大幅な議席減は、今の時点では想定しにくい。但し、自民単独過半数割れは15議席程度の減少で起きるので、可能性はあるとの見方が多いのが現状だ。

但し、こうした見方は、突き詰めると、いずれも選挙前の予想で、選挙戦突入後の情勢に基づくものではない。

選挙情勢に影響を及ぼすと見られる石破政権の評価をはじめ、不記載議員に対して執行部がとった対応措置などについて、国民がどのような受け止め方をして、選挙結果にどこまで影響するのか、まだ詰め切れていないのが現状だ。

したがって、これまで見てきた見通しは、当たっているのかどうか、これから投票日に向けて、有権者の意識を中心にトレンド・傾向を追跡していく必要があるというのが結論だ。

”予測の外れ”を生かせるかが重要

ところで、選挙の予測は、従来はかなり高い精度で結果を予測することが可能だった。ところが、今回は政権が交代し、直後に超短期の選挙戦に踏み切ったので、賭けの要素が極めて高いとも言える。国民が新政権や、選挙の主要争点をどのように評価しているのかといったデータが乏しいので、選挙の予測はかなり難しい。

既にさまざまな選挙の予測が出されているが、その根拠ははっきりしない。メデイアの「情勢調査」(世論調査)や取材記者の「票読み」、「データ分析」などに基づいて、全体情勢が明らかにならないと、根拠のある予測とは言えないのではないかと個人的には考える。

これから2週間あまり、情勢調査などを実施しながら、選挙情勢のトレンドを把握し、読み解いていくのが基本だと思う。

前回・2021年の衆院選挙の予測報道を思い起こすと、取材者として参考になる点が多い。3年前の衆院選では、ほとんどのメデイアの予測が外れた。多くのメデイアは自民党は議席を減らすと予測していたが、実際は単独で過半数を上回り、安定多数を獲得した。

前回は衆院議員の任期切れを間近に控え、短期決戦に持ち込まれたことと、激戦区が多数に上った。当選者と次点の差が1万票以内の激戦区は全国で58にも上り、議席の読みを狂わせる要因になった。

今回も前回と同じく、激戦区が相当な数に上ることが予想される。激戦区を絞り込み、情勢調査、記者の票読み、投票者を対象にした出口調査などを総動員して正確な予測報道を行う必要がある。

また、選挙で有権者は何を重視して1票を投じたか?単に選挙結果の予測だけでなく、選挙や政治の質を高めていく選挙報道の取り組みに期待しながら、メデイアの対応を見守っていきたいと考えている。(了)

 

 

衆院解散、戦後最短決戦へ 裏金問題カギ

衆議院が9日解散され、政府は臨時閣議で、15日公示、27日投開票とする日程を決めた。各党とも15日の公示に向けて、選挙体制づくりを加速させている。

石破内閣が発足したのが今月1日。8日後に衆院を解散、26日後の投開票となるのは、戦後最短だ。解散から投開票までの期間は18日間で、前回・2021年の17日間に次いで、2番目の短さになる。

さて、今回の衆院選の大きな争点は「裏金問題と政治改革」になるだろう。というのは、前任の岸田内閣が退陣に追い込まれたのは、裏金問題への対応が後手に回り、内閣支持率が長期にわたって低迷、退陣に追い込まれたからだ。

日本政治が取り組むべき課題は、日本経済の再生をはじめ、急激な人口減少社会への対応、内外の外交安全保障情勢など多岐にわたるが、政治の信頼が失墜しているので、議論自体が進まない隘路に陥っている。

本来の政策論争などを取り戻すためにも、裏金問題と政治改革について国民の信頼を回復し一定の前進を図られるようにすることが、事態改善の第一歩だと考える。

一方、石破首相と自民党執行部は衆院解散が間近に迫った段階で、派閥の裏金事件で政治資金を不記載にした議員について、一部、公認しない方針を打ち出した。また、不記載議員については、政治倫理審査会で弁明を行っていない場合は、比例代表への名簿登載を認めない方針も決めた。

こうした方針に対しては、自民党安倍派から猛烈な反発が出る一方、世論の逆風を抑えるためには「厳しい措置は当然」との声も聞かれる。自民党の新たな方針を含めて、政治とカネの問題を改めて考えてみたい。

 裏金問題、党首討論でも集中砲火

自民党の裏金問題は9日、衆院が解散される直前に行われた党首討論でも野党各党の多くが取り上げた。

立憲民主党の野田代表は「先月、安倍派元事務局長の有罪判決の中で、幹部間の協議で裏金処理の再開が決まったので、従わざるを得なかったことが裁判所で認定された。国会で弁明した安倍派幹部の発言は、虚偽だったことが明らかになった」として、事実関係を解明せず解散を急ぐのは「裏金隠し解散だ」と批判した。

続いて質問にた立った日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表らも「党が幹部議員に渡す政策活動費の廃止を考えているなら、直ちに今回の衆院選から政策活動費を取り止めるべきだ」などと攻め立てた。

石破首相は「政治の信頼回復を第一に対応するのは、当然のことだ。政治資金については、法律で許された範囲内で適法に行う」とのべ、政策活動費の扱いなどについて、具体的に言及することを避けた。

このように裏金問題と政治改革は、今も与野党間の最大の争点になっている。問題は、選挙の際、国民の多くがどのように判断するかだ。

報道各社の世論調査によると実態解明などは継続すべきだという意見は多い。一方で、選挙戦に入って政治が取り組むべき主要課題の中で「政治とカネの問題」がどの程度上位に位置づけられるかが、大きなポイントなりそうだ。

裏金議員12人非公認、世論の評価は

石破首相と自民党執行部は9日、派閥からの政治資金を不記載にしていた議員など12人について、次の衆院選挙で非公認とする方針を決めた。

非公認になったのは「党員資格停止処分」を受けた下村元文科相、西村元経産相、高木元国対委員長。1年間の「党の役職停止」の処分が継続し、政治倫理審査会で説明をしていない萩生田元政調会長、平沢元復興相、三ツ林裕巳・元内閣府副大臣の6人。

それに半年間の「党の役職停止」処分を受け、その期間が終わった菅家一郎元復興副大臣ら3人、「戒告」処分を受けた細田健一・元復興副大臣ら3人の合わせて12人だ。

自民党内では、旧安倍派議員などから「一度、処分をしながら再び処分するようなやり方は認められない」「旧安倍派を狙い撃ちにした措置だ」など強い反発の意見が相次いだ。選挙後の挙党態勢を危ぶむ声もきかれる。

一方で「原則公認となれば、今度は自民党全体が国民から厳しい批判を浴び、選挙どころではなくなる」として、処分やむなしとの意見も聞かれた。

この問題は、党首討論でも取り上げられ、立憲民主党の野田代表は「相当程度が非公認だと言っていたが、大半は公認されている。また、非公認で立候補した人も当選したら、追加公認するのではないか」と質した。

これに対して、石破首相は「公認しない人が少ないというが、それぞれの人にとってどれほどつらいものか、よくよく判断した上でのことだ。最終的な判断は、主権者たる国民に任せたい。追加で公認することはありうる」との考えを示した。

一方、不記載議員については、小選挙区で公認しても、比例代表選挙の名簿登載を認めない方針を決めた。小選挙区で当選できない場合、比例代表で救済される道が閉ざされることになる。

重複立候補が認められなかった議員は30人余りとなった。自民党は、比例代表単独の候補者を増やすなど新たな対応を迫られることになるだろう。

今回の方針について、自民党の選挙対策関係者に聞いてみると「自民党という組織で考えると、従来の方針を大きく転換、最も厳しい措置と言える。それなりの結果を出せれば、石破総裁の評価は高まる」。

「但し、国民からすると大半は公認されているとして、厳しい視線は変わらないかもしれない」として、新たな方針の意味や姿勢をどこまで理解してもらえるかにかかっているとの見方だ。今後、議席を予測する際のポイントになる。

 首相 勝敗ライン「自公で過半数」

衆議院解散を受けて石破首相は9日夜、記者会見し「国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできない。新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」とのべた。

そのうえで、今回の解散を「日本創生解散」と位置づけた。「日本社会のあり方を根本から変えていきたいと考えている」と説明した。

また、衆院選挙の勝敗ラインと下回った場合の対応を問われたのに対し「自民党と公明党で過半数をめざしたい。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応については、コメントを差し控えたい」とのべた。

報道各社の世論調査によると、発足した石破内閣の支持率は46%から51%程度に上昇した。自民党の支持率も、岸田政権当時に比べて上昇している。但し、3年前の選挙時の支持率に比べると、勢いが乏しいとのデータもある。

石破首相と自民党にとっては、次の選挙は楽観できる状況にはない。党の選対関係者も「前回より増やせる要素はなく、どこまで目減りを減らせるかだ」との見方をしている。

そのためには、最大の争点になるとみられる裏金問題と政治改革から逃げずに、具体策を打ち出せるかどうかが問われることになるだろう。

また、多くの国民にとっては、物価高騰と国民生活、日本経済の運営に大きな関心を寄せている。実質賃金の目減り、物価高を上回る賃上げ、円安政策など納得させるだけの対応策を打ち出せるかにかかっているのではないか。

これは、野党各党にとっても同様だ。政治とカネの問題、経済と暮らしの分野で国民の支持を広げられるような政策を打ち出せるかどうかが問われることになる。

今回も、前回に続いて、短期の政治決戦になる。内外の多くの難題の解決に向けて、かじ取りを任せられる政党・政治勢力や候補者は誰か、私たち有権者も重い選択を行うことになる。(了)

“前途多難”石破新政権発足、27日衆院決戦へ

臨時国会が1日召集され、岸田首相の後継を選ぶ首相指名選挙が行われ、自民党の石破新総裁が、第102代の総理大臣に選出された。石破首相は直ちに組閣作業に入り、19人の閣僚のすべてを決定、石破新内閣が発足した。

岸田首相が事実上の退陣表明したのが8月14日、後継選びの総裁選には過去最多の9人が立候補し、大混戦が続いた。最後は決選投票にまでもつれ込み、逆転勝利を収めたのが石破氏だった。

決選投票で敗れた高市早苗氏は、石破氏から総務会長ポストの打診を受けたが、固辞し、政権と距離を置く姿勢を鮮明にした。石破氏と高市氏とのせめぎ合いは今後も続くことになりそうだ。

石破首相はできるだけ早く国民の信を問いたいとして、10月9日に衆議院を解散し、10月27日に投開票を行う考えだ。首相就任から衆院解散までわずか8日間の日程は、過去最短となる。

これに対して野党側は、国会論戦を避けて衆院解散に踏み切るのは認められないとして強く反発し、1日召集の国会は冒頭から対決色が強まった。

激しい総裁選を終えたばかりの自民党内は一枚岩になっておらず、政治とカネの問題で逆風が続く中で、衆院決戦は大きなリスクも抱えている。石破政権の前途は多難で、まずは衆院決戦を乗り切ることができるかどうかがカギを握る。発足した石破政権の特徴や、政権運営のポイントなどを展望してみたい。

 政権基盤弱く、森山氏、菅氏らに依存

さっそく1日に発足した閣僚の顔ぶれから、見ておきたい。◇外務大臣に岩屋毅・元防衛相、◇防衛相に中谷元・元防衛相、◇総務相に村上誠一郎・元行革担当相など石破首相と個人的に親しい顔ぶれが目につく。

また、総裁選で石破氏の推薦人なった関係者を多数、起用したのも特徴だ。先ほど触れた岩屋氏、村上氏のほか、経済再生担当相に赤沢亮正・財務副大臣、農水相に小里泰弘・首相補佐官、デジタル担当相に平将明・広報本部長代理、沖縄・北方担当相に伊東良孝・元農水副大臣だ。

さらに◇内閣の要の官房長官は林芳正官房長官が続投するほか、◇財務相は加藤勝信・元官房長官が就任。女性閣僚は◇文部科学相に阿部俊子氏、◇子ども政策担当相には、参議院議員の三原じゅん子氏を起用した。

自民党の派閥からの政治資金を不記載にしていた裏金議員と、安倍派からは閣僚に起用しなかった。

一方、自民党役員人事では、◇党の要の幹事長にベテランの森山裕・総務会長をすえた。◇総務会長に鈴木俊一・財務相、◇政調会長に小野寺五典・元防衛相、◇選対委員長に総裁選を戦った小泉進次郎氏を起用した。

このように今回の人事は、党の運営全般と選挙を仕切る幹事長に森山氏、副総裁に菅元首相がそれぞれ就任して柱の役割を果たし、さらに内閣と党の主要ポストを岸田前首相とそのグループと菅グループなどが支援する構図になっている。

岸田政権は麻生、茂木、岸田の3派が主流の政権だったが、今回は高市支持の麻生氏を党の最高顧問に棚上げ、代わって「森山、菅、それに岸田の3氏を軸にした体制」へと変化している。

特に森山氏は小派閥の出身ながら、国対委員長と選対委員長の両方を長い間、担当して調整能力の優れた老練な政治家だ。石破政権は実質的に、森山氏が切り盛りすることになるのではないかとみている。

同時にこのことは、石破氏の政権基盤の弱さを補う効果が期待できる反面、石破氏が政権運営の主導権をどこまで発揮できるかどうかわからない両刃の剣ともいえそうだ。

 早期解散、首相の政治姿勢も問われる

さて、石破総裁は国会で新しい首相指名を受ける前日の30日、記者会見で「国会で新しい首相に選出されれば、できるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ。10月27日に解散・総選挙を行いたい」とのべ、10月9日に衆院解散、15日公示、27日投開票の日程で解散総選挙を行う方針を明らかにした。

この問題が与野党の新たな火種になっている。自民党の新総裁が、国会で首相の指名を受けてもいないのに、衆院の解散時期に言及することは異常な事態だ。指摘を受けた石破氏は「全国の選管が選挙の準備を行えるようにするためだ」と釈明した。

だが、憲法7条は「天皇は内閣の助言と証人により、国事行為を行う」と規定しており、その1つが「衆議院の解散」だ。新たな内閣が発足していないのに”衆院解散を事前予告”するような越権行為は認められない。なぜ、そこまで焦る必要があるのか理解に苦しむ。

もう1つ、この問題は、石破首相の政治姿勢にも関係してくる。というのは、総裁選での論戦で小泉氏が「できる限り早く解散総選挙を行いたい」と主張したのに対し、石破氏は「なってもいないものが言及すべきではない」と慎重な姿勢を打ち出した。

また、石破氏は「国民に判断していただける材料を提供するのが、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」とまで予算委員会で与野党が議論を戦わせることの意義を強調していた。

ところが、新総裁に選ばれると、それまで発言を一転、早期解散にカジを切った。野党側は「自民党を変える前に、石破首相自身が変節してしまった。言ってきたこととやっていることが違う」などと強く反発している。

石破政権としては4日に初めての所信表明演説を行ったうえで、7日と8日に衆参の本会議で代表質問、9日に党首討論を行ったあと、その日のうちに衆院解散を行う方針で、野党側と折衝を続ける方針だ。

それでは、なぜ石破首相は解散時期の方針を転換せざるをえなくなったのか。自民党関係者は「石破首相の解散論は、あるべき論の筋論。党の重鎮や幹部はそろって選挙に勝つことが第1。新政権発足直後は、内閣支持率の上昇が期待できる。森山幹事長が短期決戦を強く進言し、石破氏も受け入れたのだろう」と解説する。

石破首相にとって、森山氏は誠実な人柄と調整能力に秀でており、幹事長候補として考えていたとされる。但し、森山氏に引きずられるようになると今度は、国民から首相の見識、能力を厳しく問うことになる。短期決戦方針が、吉と出るか、凶と出るか注目している。

 早期解散論、国民の支持得られるか?

組閣を終えた石破首相は1日夜、最初の記者会見を行い「『国民の納得と共感を得られる内閣』をめざしたい」とのべるとともに「政治資金の監視にあたる第三者機関の設置など令和の政治改革を断行する」と強調した。

これに対し、記者団からは「衆議院の早期解散について、総裁選の最中は慎重な発言を繰り返していたのに、総裁・総理になると早期解散を唱えるなど違っていることについて、国民は戸惑っている。なぜ、変わったのか」という質問が繰り返し出された。

これに対し、石破首相は「新しい内閣ができたので、国民の判断を早急に求めることになった。国民への判断材料の提供と両立できるよう誠心誠意務めていく」と釈明に追われた。

石破政権は内外に多くの難問を抱え、多難な政権運営予想される。そうした中で、政権運営の主導権を確保するために早期解散を打ち出したが、総選挙に打って出る大義や政治姿勢に国民の理解が得られるかどうか、当面の焦点の1つに浮上してきたようにみえる。(了)