首相の商品券問題と”3月政局”のゆくえ

石破首相が自民党の当選1回の衆議院議員15人と会食するのに当たって、1人あたり10万円分の商品券を議員事務所に配っていた問題が明るみになり、政権を直撃している。報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は急落し、政権発足以来最低の水準にまで落ち込んでいる。

一方、新年度予算案は参議院で再び修正に追い込まれ、年度内に成立できるかどうかメドが立っていない。自民党内からは、石破首相の退陣を求める声も出始めるなど政権を取り巻く情勢は一段と厳しくなっている。

今回の行為をどのように見たらいいのか、また石破政権やこれからの政治はどのように動くのか、3月政局のゆくえを探ってみたい。

 首相の商品券問題で問われること

石破首相が自民党の衆議院1回生議員との会合に先だって、参加する議員事務所に1人10万円分の商品券を配った問題については、既に詳しく報じられているので、事実関係は繰り返さないが、さまざまな意見や論点が出されている。

まず、国民からは「国民が物価高で苦労しているときに、首相は国会議員の手土産に10万円もの商品券を配るとは信じられない」などとして庶民感覚とのズレを指摘する意見や、石破首相の政治姿勢に落胆、批判、怒りの声が聞かれた。

また、与党の議員からは「この通常国会では、企業団体献金の扱いが大きなテーマになっているのに、首相自らが商品券を配るとは余りにもタイミングが悪すぎる」など厳しい意見も出された。

石破首相は「会食の土産代わりで、国会議員の家族へのねぎらう意図もあった。政治活動に関する寄付ではなく、政治資金規正法上の問題はない」と繰り返し強調している。これに対して、野党側は「場所が首相公邸で、官房長官や副長官も同席していることなどから、政治活動に当たるのは明らかで政治資金規正法に抵触している」として、首相の政治責任を引き続き追及する構えだ。

こうした論点のほか、私の個人的な見方を言わせてもらうと、会食が行われた日にち自体に大きな問題がある。率直に言えば「政権運営の基本から逸脱」しているのではないか。

どういうことかというと、会食が行われた3月3日は、新年度予算案の修正が衆議院で大詰めを迎え、この日にようやく自民・公明両党と日本維新の会の3党幹事長会談で合意にこぎ着けた。そして、翌4日に衆院本会議で、3党の賛成多数で修正された予算案が可決、参議院へ送られた。

政権にとって当初予算案は政権の命運を左右する最重要案件の1つで、歴代政権は予算案の成立まで全精力を傾注してきた。一昔前の現役記者時代を思い出すと、首相はもちろん閣僚、与党幹部も予算成立までは夜の会合はできるだけ減らすなど細心の注意と心構えで行動していた。

ところが、今の石破政権の主要幹部は大詰めの段階に1回生議員との会食を設定し、日中に商品券を配ったりしていたことになる。はっきり言えば、信じられない対応であり、首相官邸は司令塔機能を果たしているのか疑問と言わざるを得ない。政権のチグハグな対応は、常日頃の政権運営に原因があるのではないか。

内閣支持率急落も、首相退陣論は少数

さて、こうした首相の商品券配布について、世論はどのようにみているのだろうか。読売新聞と朝日新聞の世論調査をみてみたい。

◆読売新聞の調査(3月14~16日)では、石破内閣の支持率は31%で、前回の先月調査に比べて8ポイント下落した。不支持率は58%で、15ポイント上昇した。

◆朝日新聞の調査(3月15,16日)では、石破内閣の支持率は26%で、先月調査から14ポイント下落した。不支持率は59%で、15ポイント上昇した。

どちらの調査とも商品券配布は「問題だ」とする評価が75%に上り、商品券問題が石破政権を直撃し、去年10月の政権発足以降、最低の水準にまで落ち込んだ。

一方、朝日新聞の調査では、石破首相は首相を辞めるべきだと思うかを尋ねたのに対し「その必要はない」が60%で、「やめるべきだ」が32%だった。

読売新聞の調査では、自民党中心の政権の継続を望むか、野党中心の政権に交代することを望むかを尋ねたのに対し「自民党中心の政権の継続」が36%で、「野党中心の政権に交代」が46%で上回った。同じ質問をした1月調査では「自民党中心の政権の継続」が41%と、「野党中心の政権に交代」が40%で拮抗していた。

この2つの項目についての世論の見方は、石破政権や政治のゆくえをみていくうえで、興味深いデータだ。

世論の反応について私個人の見方は次のようになる。「石破首相は退陣の必要なし」との見方は、◇新年度予算案の成立のメドもついていない中で、政治の混乱は避けるべきだとの考えや、◇有力な後継候補が見当たらないこと、◇首相や政権の評価は、夏の参院選で判断すればよいなど冷静な見方をしているのではないか。

政権の形態については「政治とカネの問題」に終止符が打てない自民党に対して、うんざりしていることの現れではないか。改善されないのであれば、政権交代で政治の刷新を図ることもやむなしとの人が増えているのであろう。

政治課題と、選挙政局をどう考えるか

それでは、これからの政治はどのように動いていくだろうか。内政では、新年度予算案や重要法案を抱えているほか、外交・経済分野ではトランプ大統領の再登板で4月初めには「相互関税」への対応を迫られる見通しだ。

このうち、新年度予算案については「年収103万円の壁」の引き上げをはじめ、高校授業料の無償化、高額療養費の自己負担上限額引き上げの凍結などが盛り込まれている。参議院で再び修正されたあと、衆議院へ回付することが必要で対応を急ぐ必要がある。

懸案の企業団体献金の扱いについては、3月末に結論を出すことになっており、与野党の激しい攻防が続く見通しだ。サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー制御」導入関連法案が18日に衆議院本会議で審議入りするほか、4月には野党が重視している選択的夫婦別姓法案も提出され、与野党の協議が本格化する見通しだ。

こうした中で野党側は、商品券問題については、石破首相に政治倫理審査会への出席を求めて説明責任を徹底して求めていく構えだ。野党第1党の立憲民主党は、内閣不信任決議案を直ちに提出することは避けて、石破首相の下で参議院決戦に臨みたい考えだとみられる。

一方、自民党内では、石破首相では夏の参議院選挙では戦えないとして、退陣を求める声が出始めた。これに対して、自民党執行部は少数与党の下で、首相交代を進めると政権を失う恐れもあるとして「石破降ろし」につながらないよう党内を説得していく方針だ。

但し、党内が収まるかどうかは、はっきりしない。参議院選挙を控える参議院自民党や旧安倍派がどのような対応を示すかが焦点になる。

このように通常国会は、石破首相が新年度予算案や、企業団体献金などの扱い、それに自らの商品券問題を含めて指導力を発揮していけるかどうかが問われることになる。

政治の役割は、国民生活を安定させるとともに、国の安全を維持していくことにある。政権与党は、内政の課題としてはどの法案を最優先で取り組むのか、首相を続投させるのか、交代させるのか国民に明確に示すことが必要だ。

一方、野党側は、与党と協力して成立させる法案と、野党が実現をめざす法案や構想を提示しながら、国民にわかりやすい選択肢を示してもらいたい。私たち有権者は、夏の参議院選挙、場合によっては衆院選挙に備えて、与野党の動きをしっかり見ていきたい。(了)

 

内閣支持率急落、厳しさ増す石破政権

新年度予算案の成立に向けて参議院で大詰めの審議が続く中で、石破内閣の支持率が急落している。NHKの3月世論調査によると石破内閣の支持率は36%で、先月に比べて8ポイント下落した。不支持率は45%で、先月より10ポイントも増えた。

なぜ、今の時点で内閣支持率が急落したのか、石破首相の政権運営にどのような影響を及ぼすことになるのか探ってみたい。

 支持率急落、高額療養費の混乱が影響

さっそく、NHKが今月7日から9日にかけて行った世論調査の内容から見ていきたい。石破内閣の支持率は36%で、先月の調査より8ポイント下落した。一方、不支持率は45%で、先月より10ポイントも急上昇した。

不支持の理由としては「政策に期待が持てないから」が39%で最も多く、先月より6ポイント増えた。次いで「実行力がないから」が23%で、こちらは先月と変わらなかった。

石破内閣の支持率は、去年10月の政権発足時は44%の低い水準のスタートとなった。その後は40%前後の支持率を維持してきたが、3月の36%はこれまでで最も低い水準に落ち込んだことになる。

この支持率急落の原因だが、がんや難病などの治療で医療費が高額になった場合、患者の自己負担を抑える高額療養費制度の見直しをめぐる政府側の混乱が影響したものとみられる。

衆議院の予算審議の中で患者団体や野党からは、自己負担の引き上げに反対する意見が出されたのに対し、政府側は引き上げ案の修正を重ね、対応が二転三転した。

さらに、この問題は参議院の予算審議でも取り上げられ、身内の自民党や公明党からも慎重論が出されたことから、石破首相が7日に患者負担の引き上げ全体を見送ったうえで、再検討する考えを表明した。

この見送りで、政府・与党はおよそ100億円の費用が必要になるとして、新年度予算案を参議院で再び修正したあと、衆院に回付する異例の対応が取られる見通しだ。与野党双方から「石破首相は、もっと早い段階で決断すべきだった」などの批判が聞かれた。この問題は、今後も尾を引くことになりそうだ。

 続く難問、年金改革、企業団体献金

石破首相にとって、今の国会に提出を予定している年金制度改革関連法案の取り扱いも難問だ。この法案には、パートで働く人が厚生年金に加入できる企業要件を撤廃することなどが盛り込まれる見通しだ。

自民党内では、厚生年金の適用拡大につながり、今の国会で成立をめざすべきだという意見がある一方、参議院選挙への影響が懸念されるとして法案提出に反対する意見があり、調整がついていない。

一方、企業・団体献金の扱いについては3月末までに与野党が結論を出すことになっている。自民党は、献金の禁止ではなく透明化を図る法案を提出しているのに対し、立憲民主党などは禁止法案を提出しており、与野党の調整は難航が予想される。

さらに、トランプ政権は輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置について、日本時間の12日午後、発動した。「全ての国が対象」としており、日本から輸出される製品にも関税が課されることになる。

こうした中で自民党の西田昌司参議院議員は、12日に開かれた党の参議院議員総会で「今のままの党の態勢では、夏の参議院選挙を戦えない。新たなリーダーを選び直すべきだ」として、石破首相に代わる新たな総裁を選び直すべきだという考えを示した。

こうした声が「石破降ろし」に発展するかどうかははっきりしないが、新年度予算案成立後は、夏の参院選挙に向けた体制づくりなどをめぐって党内の駆け引きが活発になることも予想される。

石破首相にとしては当面、新年度予算案の成立に全力を上げるとともに、党内の結束を固め直して夏の参院選挙に臨みたい考えだが、内外の懸案を着実に処理できるかどうか、正念場を迎えている。(了)

 

 

“一山越えても続く難関”石破政権

新年度予算の修正案は衆議院本会議で、少数与党の自民・公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決され、参議院へ送られた。政府の当初予算案が修正されるのは、橋本内閣以来29年ぶりだ。

予算案の衆院通過で予算案の成立が確実になり、石破政権にとっては通常国会の最初の難関を越えたことになる。但し、与党側がめざした野党側との協力関係は思うようには進まなかった。

”一山越えても二山、三山”とこの通常国会では多くの関門が待ち構えている。これまでの対応を点検したうえで、これからの関門や石破政権のゆくえを探ってみたい。

 予算修正は維新が協力、薄氷の合意

去年の衆院選で30年ぶりの少数与党の立場になった石破首相は1月24日、通常国会の施政方針演説で「党派を超えた合意形成を図る」として、国民民主党や日本維新の会を念頭に野党の協力を取りつけ、新年度予算案の早期成立をめざす考えを表明した。

これを受けて自民・公明の与党側は、国民民主とは「年収103万円の壁」の見直しを進める一方、維新とは「高校授業料の無償化」に向けて政策協議を重ねてきた。しかし、国民民主とは合意に至らず、最終的には維新との間で予算案の修正で合意するとともに予算案の可決にこぎ着けた。

国民民主との間では去年の11月から3か月も政策協議を続けながら、なぜ、合意できなかったのか。一方、維新との間では今後も安定した協力関係が見込めるかどうかがポイントになる。

まず、国民民主との「年収103万円の壁」の見直しが不調に終わったのは、財源の問題と夏の参院選戦略との関係が影響したのではないかとみている。

国民民主党は、所得税の課税最低限を178万円まで引き上げるよう求めたのに対し、与党は側は123万円への引き上げを決めたが、国民民主は納得しなかった。このため、自民党は年収500万円以下まで非課税枠を拡大する案を提案したが、一蹴された。

事態打開のため、公明党が主導する形で、非課税枠を上乗せする年収の範囲を850万円まで拡大するとともに課税最低限を160万円まで引き上げる新たな案を提案した。これに対し国民民主は受け入れず、予算修正協議は最終的に物別れに終わった。

国民民主からすると年収の上限の160万円までの引き上げは一定の評価ができる一方、上乗せする対象となる年収850万円までの範囲に4段階の差をつけているのは不公平だとして、受け入れなかった。

協議が不調に終わった原因だが、当初の与党案の財源はおよそ6000億円だったが、公明案ではさらに6000億円積み増し、計1兆2000億円まで増やした。それ以上の上積みとなると国債の新規発行が必要になるとして、国民民主の要求を受け入れなかった。

一方、国民民主としては夏の参院選を控えて、年収の差を設けると不公平だとして、有権者の支持を失うおそれがあるため、与党案を受け入れない判断をしたものとみられる。

一方、維新は党の執行部の交代もあり、国民民主より後から、与党との協議を始めたが、前原共同代表が同じ防衛関係議員で旧知の石破首相に協力を求めた。また、前原氏の要請で前執行部の遠藤敬・前国対委員長が与党側との調整に当たったことから、協議が急ピッチで進んだとされる。

維新内部では、高校授業料の無償化の進め方などをめぐって異論が出され、党内の合意が危ぶまれる場面もみられたが、高校授業料の無償化のための具体策と、政府予算案の修正に賛成することで党内合意をとりつけた。

与党の執行部としては、国民民主と維新とを両天秤にかけながら両党との協力取りつけをめざしたが、最終的には維新1党だけの協力に止まった。その維新は党内の足並みがそろっているわけではないので、薄氷の合意とも言えそうだ。

このほか、今回は与野党双方から「熟議の国会」を強調する声が高まり、予算案の修正をめぐって政策協議の過程が透明化されたのは一歩前進だろう。

一方で、政策協議というものの、予算修正の額高をめぐる駆け引きが延々と続き、社会保障の将来の姿や負担のあり方、教育の向上策など掘り下げた議論はほとんど見られなかった。

また、トランプ政権の再登場で国際情勢や、関税などの経済情勢が大きく揺らいでいる中で、日本の外交・安全保障、経済政策などをめぐる突っ込んだ議論がなされなかったのは極めて残念だ。「熟議の国会」を標榜するのであれば、問題の核心にまで踏み込んだ議論を展開してもらいたい。

企業献金など続く難関、最後は参院選か

さて、今後の国会はどのような展開になるだろうか。当面の焦点は、企業団体献金の扱いについて、与野党は3月末までに結論を出すことになっており、近く衆議院の特別委員会で、法案の審議が始まる見通しだ。

企業団体献金をめぐっては、自民党は「献金の禁止よりも公開が重要だ」として企業献金の透明性を高める法案を提出している。これに対して、立憲民主党など野党側は、自民党案は透明性が極めて低いと批判するとともに、企業団体献金の禁止を求める法案を提出している。

そして野党側のうち、維新は企業献金の禁止を強く求めていく方針なのに対し、国民民主は全面禁止に慎重な立場だ。自民党は国民民主の協力に期待を寄せているが、予算修正の時と比べると維新と国民民主の立ち位置が逆になっている。

一方、野党第1党の立憲民主党は、自民党旧安倍派の会計責任者の参考人聴取を受けて、旧安倍派幹部の塩谷、下村、西村、世耕4氏の参考人招致を求めている。会計責任者は、安倍派の資金還流は「元幹部議員からの要請があり、幹部議員の会合で再開が決まった」と説明、幹部議員の政倫審での発言と食い違っている。

与党の公明党は、企業・団体献金の扱いをめぐっては自民党と距離を置いているほか、旧安倍派議員の参考人招致にも前向きな姿勢を示している。参議院選挙を控えて「政治とカネの問題」をめぐって、与野党の対応が再び焦点になる。

次に選択的夫婦別姓制度については、4月から衆議院法務委員会で議論が始まる見通しだ。自民党内では、保守系議員から「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として選択的夫婦別姓に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

選択的夫婦別姓問題を扱う衆院法務委員会の委員長は、立憲民主党が握っているため、野党ペースで議論が進むことも予想される。会期末が近づくにつれ、この問題は、内閣不信任決議案とも絡んで与野党攻防の争点になりそうだ。

以上、見てきたように新年度予算案の衆院通過で、石破政権にとっては一山越えたのは事実だが、「政治とカネの問題」、選択的夫婦別姓と内閣不信任決議案をめぐる会期末の攻防という難関が待ち受けている。

少数与党の石破政権は、政治課題によって協力相手の野党を変えながら通常国会を乗り越え、夏の参院決戦に臨む方針だ。

これに対して、野党側は与党との個別戦で成果を引き出す対応を取ってきたが、野党が連携して自民党と対峙する場面を作ることができるかどうか、後半国会の見所の一つになりそうだ。(了)