”コメの価格は下がるか”参院選の焦点へ

コメの価格高騰が続く中で、江藤前農水相が「コメは買ったことがない」などの失言で、今月21日に更迭された。後任に抜擢された小泉進次郎農水相は23日、「売り渡しを随意契約に変え、備蓄米の店頭価格を5キロ2000円に抑える」と明言したことから、メデイアや国会で大きく取り上げられ、コメ問題が社会の大きな関心を集めている。

その随意契約による備蓄米は29日午前、大手の小売業者へ運び込みが始まった。このうち、仙台市に本社のある大手生活用品メーカー、アイリスオーヤマでは関連会社で精米や袋詰めを行った後、6月2日から5キロ入り税込み2160円で店舗で販売する。

また、この会社では午後1時から自社のネット通販サイトで、予約の受付を始めたが、開始から45分で予定していた数量が完売した。

楽天グループも29日正午からネット通販サイトで販売を始めたが、開始後まもなく売り切れたほか、予約の受け付けも午後2時過ぎに上限に達したため、終了したという。

一方、農水省は2021年産米の10万トンについては、大手の小売り販売業者ではなく、中小のスーパーやコメ販売業者を対象に売り渡す方針で、30日から購入申し込みの受け付けを始める予定だ。

このように石破政権は、備蓄米の売り渡しをこれまでの競争入札から随意契約に切り替え、市場価格に政府が積極的に介入する方法に転換した。今回の方法はうまく機能するのか、どのような課題や問題点を抱えているのか点検してみたい。

 備蓄米、低価格で広く行き渡るか

まず、備蓄米の放出方法を随意契約に切り替えたことについて、小泉農水相は26日、「これまでと同じやり方では、国民の期待に応えられないと考えた。国が定めた定価で毎日、売り渡し、早ければ6月上旬に店頭に並べることができる」とのべ、政治決断だったことを強調した。

江藤農水相は競争入札で3回放出したが、備蓄米が消費者の元にほとんど届かなかったこともあって、与野党の間では今のところ随意契約への異論は少ない。問題は、税抜きで2000円程度の価格で、希望する国民に幅広く行き届くかどうかではないか。

小泉農水相は、今回の30万トンで効果が出ない場合は、さらに30万トンを追加して放出する考えだ。日本のコメの消費量は670万トンとされ、30万トンの放出量はその4.5%程度に過ぎない。

このため、国民の多くが購入を希望した場合、低価格は維持されても国民の幅広い需要に応えることができるのか、分量の不足を危ぶむ声も聞かれる。

また、これまでの国会の質疑では備蓄米のほとんどを放出した場合、大地震や災害など本来の緊急事態に必要なコメの確保をどうするのか。アメリカなど海外からのコメ輸入に踏み切るのかといったさまざまな問題点の指摘も出されている。

コメ全体の価格引き下げにつながるか

国民の多くの希望は、低価格の備蓄米は歓迎するが、これまで食べていた銘柄米の価格をもう少し引き下げてもらいたいということではないか。

農水省の調査でも現在、コメの平均価格は5キロあたり4200円台だ。去年の春と比べると2倍以上も値上がりしているのは異常だと言わざるを得ない。

また、コメの大幅な価格高騰がなぜ起きているのかについて、石破首相や農水省の説明を聞いてもよくわからない。農水省はコメの生産量は去年より増えており、流通に目詰まりが起きているのではないかなどと指摘するが、原因を特定するまでには至っていない。

一方、コメの適正価格については、農家がコメの生産を続けるのに必要な価格を設定する必要がある。そうした要素を考慮するにしても、主食のコメの価格が1年で2倍以上も上昇するのは異常と言わざるをえない。

コメの専門家によると、コメの価格は入札や流通コストをかけているので、備蓄米が出回ってもコメ全体の価格が低下するのは難しいと指摘する。

そのうえで、今後のコメの価格の見通しとしては(5キロあたり)、「◆2000円から1800円程度の備蓄米、◆売り渡し済みの備蓄米と銘柄米の3000円程度のブレンド米、◆4000円台の銘柄米といった三極化する可能性が大きい。備蓄米の流通によって、4000円台のコメの価格が下がっていくかは未知数だ」との見方をする。

低価格の備蓄米の放出で、コメの価格高騰に歯止めをかけながら、コメ全体の価格の引き下げにつながる対応策を打ち出せるのかが問われているのではないか。

コメ問題と農政改革、参院選の焦点へ

今回のコメ問題は、日本の農業政策をどのように改革していくかという問題と深くつながっている。28日に開かれた衆議院農林水産委員会では、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表、日本維新の会の前原代表がそろって質問に立つという異例の展開になり、小泉農水相と議論を交わした。

この中で、備蓄米をめぐってさまざまな問題が取り上げられたが、問題の中心はコメをはじめとする農政改革だった。

野党3党の代表に共通しているのは、戦後長期にわたって続けてきた減反政策はコメの縮小再生産をもたらしているとして、コメの増産転換し、価格が下がった場合は、農家の所得保障を行うべきだという点だった。

自民党の農政族と農水省は、事実上の減反政策が現実的な対対応策だとして、この政策を維持すべきだとしている。一方、石破首相は増産政策にカジを切るべきだとの立場を取っており、小泉農水相も一定の理解を示している。

このため、石破政権の下で、政府・自民党がどのような農業政策をめざしていくのか。また、今回の米問題を受けて与野党がどのような対応策を打ち出すのか、大きな論点になる可能性がある。

また、夏の参議院選挙では、勝敗のカギを握っているのが全国で32ある1人区の攻防だ。この1人区の多くが農業県だけに、農政改革は選挙の大きな争点になる。参議院選挙に先だって行われる東京都議選でも、コメの価格高騰対策と関連して、農業政策が焦点になる見通しだ。

以上、みてきたように私たち国民もコメの価格の問題だけでなく、コメの生産と価格を安定させるために農業政策をどのように変えていくか、投票にあたっての判断材料に加えていく必要がある。夏の参院選に向けて、コメと農業をめぐる論争にも耳を傾けていきたい。(了)

★追記(5月31日15時)◆政府が随意契約で売り渡す備蓄米について、大手小売業者への引き渡しが29日午前から始まった。◆随意契約で大手小売り業者に引き渡された政府備蓄米は、一部の小売店の店舗で31日から、店頭での販売が始まった。大手スーパー「イトーヨーカ堂」の東京・大田区の店舗では、5キロ税込み2160円で、ひと家族1点の購入制限が設けられたが、500袋は開店から30分で売り切れた。

 

 

 

江藤農水相更迭、石破政権に打撃

江藤農水相が「コメは買ったことがない。支援者の方々がたくさんコメをくださり、売るほどある」などと発言した問題で、21日辞任に追い込まれた。事実上の更迭とみられる。

石破首相は、後任に小泉進次郎・前選対委員長を起用した。石破首相は早急に態勢の立て直しを図りたい考えだが、今回の更迭による政権への打撃は大きい。終盤国会や石破政権に及ぼす影響を中心に探ってみたい。

失言で閣僚辞任初めて、首相決断に遅れ

去年10月に石破政権が発足して以降、衆院選挙で閣僚の落選に伴う辞任はあったが、失言や不祥事による閣僚辞任は、江藤農水相が初めてだ。

今回の問題の背景をみてみると、去年夏からコメの価格高騰が続き、政府は備蓄米の放出に踏み切ったが、消費者に届いたのは全体のわずか1割程度に止まる。また、コメの価格が高止まりする中で、農水相のあまりにも軽率な発言に国民はあきれ、強い憤りが今回の辞任につながったと言えるのではないか。

江藤農水相の発言が明らかになったのを受けて、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組の野党5党は国対委員長会談を開き、江藤農水相の辞任を求め、応じない場合は不信任決議案を提出する考えでも一致した。

内閣不信任決議案が提出されれば、与党は過半数を割り込んでいるので、可決される公算が大きい。こうした野党の結束が、辞任の大きな圧力になった。

石破首相は、江藤農水相の失言が明らかになった翌日、いったん農水相を厳重注意したうえで、続投させることを決めて本人に伝えた。自民党関係者は「石破首相は、世論の厳しい反応と野党の出方を読み違えた。直ちに閣僚の交代に踏み切るべきだった」と決断の遅れを指摘する。

石破政権、コメ価格引き下げできるか

石破首相は、後任に小泉進次郎・前選対委員長を起用し、「消費者に安定した価格でコメを供給できるよう取り組みを推進するとともに、随意契約を活用して備蓄米の売り渡しを検討する」よう指示した。

石破首相との会談を終えた小泉氏は記者団に「国民が、一番不安に感じているコメの高騰に対してスピード感を持って対応できるよう全力を尽くす。『コメ担当大臣』という思いで、集中して取り組みたい」と意気込みを語った。

石破首相はこの日の党首討論で「コメの価格引き下げに責任を取るのか」と質されたのに対し、「コメは3000円台でなくてはならず、1日でも早く、その価格を実現する。下がらなければ、責任をとっていかなければならない」とのべた。

また、石破首相は「コメが足りないとは断言はしないが、ギリギリの需給状況は超えており、増産の方向にカジを切れと言う主張に同意する」とのべ、コメの増産に向けて政策を進める考えを表明した。

農水省の調査によるとコメの価格は、全国平均で5キロあたり4200円台で、去年の同時期に比べて2倍以上に達している。石破首相の発言は、この価格を3000円台まで引き下げること表明したもので、実現できるかどうかが問われることになる。

 支持率低迷、政権の求心力にも影響

石破政権としては、コメ対策だけでなく、終盤国会の重要法案などへの対応をはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる日米交渉、さらには夏の参議院選挙に向けた体制づくりを急ピッチで進める必要がある。

こうした中で、今回の農水相の更迭は、石破政権の求心力をさらに低下させる可能性がある。NHKの世論調査(5月9日から11日実施)によると石破内閣の支持率は33%で政権発足以降で、最低を更新している。不支持率は48%で、支持率と不支持率の逆転は3か月連続だ。

読売新聞の世論調査(5月16日から18日実施)でも石破内閣の支持率は31%で、内閣発足以降、最低の水準が3か月続いている。今月の不支持率は56%だ。今後望む政権のあり方については「野党中心の政権に交代」が48%で、「自民党中心の政権の継続」36%を上回った。世論の風向きの変化もうかがえる。

こうした世論の推移をみると今回の江藤農水相の辞任で、国民の石破政権に対する評価がさらに厳しくなることが予想される。

一方、終盤国会では、政府・自民党の調整が難航し、20日にようやく提出した年金制度改革関連法案をはじめ、懸案の企業団体献金の禁止法案、選択的夫婦別姓制度の法案などの扱いが残されている。

特に年金制度改革関連法案をめぐって、野党側は「基礎年金の底上げという最も重要な部分が抜け落ちている」として法案の修正を求めており、この扱いが焦点の1つになりそうだ。

石破政権の政権運営について、自民党の長老に聞くと「今の石破政権は、国民の関心が最も高いコメの価格対策について、成果を上げることができていない。また、物価高や経済対策で、政権として何を最重点に取り組むのかも打ち出せていない」と厳しい見方を示している。

また、「自民党内は石破首相を支えるというよりも、参院選挙後の政局をにらんで、遠心力が働いているような状況だ。石破首相自身、官邸の態勢を強化するとともに、自民党執行部と連携を強めていかないと会期末の国会運営から参院選までの難局を乗り越えていくのは難しいのではないか」と指摘する。

通常国会は、会期末まで残り1か月となった。会期末には、野党側が内閣不信任決議案を提出することも予想される。少数与党の中で、石破首相は会期末をどのように乗り切っていくのか、正念場を迎えている。(了)

 

終盤国会”懸案集中、与野党攻防激化へ”

長丁場の通常国会は来月22日が会期末で、残り会期は1か月余りを残すだけとなった。会期延長がない場合は、7月3日公示・20日投開票の参議院選挙に突入することになる。

この終盤国会は、年金制度改革や選択的夫婦別姓制度などの重要法案の審議が残っているのをはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる3回目の日米交渉が今月下旬に行われる見通しで、交渉の行方や評価も大きな論点になりそうだ。

また、物価高騰対策としての消費税減税をめぐって、与野党の議論が続いているほか、会期末に石破内閣に対する不信任決議案をめぐって与野党の駆け引きが激しさを増す見通しだ。

このように終盤国会は、内外の懸案や課題が短い期間に集中することになりそうだ。国民にとって、国会での論戦や攻防は参院選での投票に当たって有力な判断材料になる。そこで、終盤国会が抱えている問題を整理するとともに、石破政権や与野党がどのように対応しようとしているのか点検しておきたい。

重要法案・懸案山積、結論を出せるか

さっそく、今の通常国会の重要法案からみていきたい。まず、サイバー攻撃を未然に防ぐための「能動的サイバー防御」導入法案は、16日の参院本会議で自民、公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。

また、公立学校教員の残業代の代わりに基本給を上乗せして支給することなどを盛り込んだ「改正教員給与特別措置法」も15日の衆院本会議で賛成多数で可決された。参院での審議を経て、今国会で成立する見通しだ。

一方、政府・自民党内で調整が難航していた年金制度改革関連法案は16日にようやく国会に提出され、20日から衆院で審議入りする見通しだ。法案にはパートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるように要件が緩和されている。

一方で、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げする措置は、自民党内に参院選挙への影響を懸念し慎重論が根強かったことなどから、法案に盛り込まれなかった。

これに対し、野党側は「法案の最も肝の部分が抜け落ちている」と批判している。そして、基礎年金を底上げする措置を見送れば「就職氷河期世代」の将来の年金が十分確保できなくなるとして、法案の修正を求めていく方針だ。

選択的夫婦別姓制度をめぐっては、立憲民主党が先月末に制度を導入するため、民法の改正案を国会に提出した。夫婦が同姓か別姓かを選べるようにしたうえで、別姓を選んだ場合、子どもの姓をどちらにするかは結婚する時に決めるとした内容だ。

これに関連して、同じく導入をめざす国民民主党は、立憲民主党とは別の法案を提出する方針だ。日本維新の会は、別姓ではなく、戸籍に旧姓を記載するなど結婚後も旧姓を通称使用できる内容の法案を提出することにしている。

自民党は、制度の導入に賛成の議員と慎重な議員とで隔たりがあり、今も議論が続いている。このように与野党の意見が分かれていることから、今の国会でどこまで審議が進むか、不透明な情勢だ。

懸案の企業・団体献金の問題をめぐっては、期限としていた3月末も与野党の意見がまとまらず、再び先送りしたが、その後も議論は進んでいない。また、石破首相が自民党の1回生議員に10万円相当の商品券を配付していた問題で、政治倫理審査会で弁明する扱いも先送りになったままだ。

自民党派閥の裏金問題で、安倍派幹部の下村元政務調査会長が参考人招致に応じる意向を示したことから、野党側は15日の衆院予算委員会の理事会で、自民党も賛成するよう求めたが、自民党は反対する姿勢を示し、引き続き協議することになった。

このように終盤国会は多くの重要法案や懸案が山積している状態で、このままではかなりの法案などが先送りになりかねない。まずは、政権与党がリーダーシップを発揮して事態の打開策を提案し、野党側も柔軟に応じるなどして、一定の結論を出してもらいたい。

 次回関税交渉、協議の対象範囲が焦点

次に当面の重要な政治課題であると同時に、参院選挙でも大きな焦点になりそうなのが、トランプ政権の関税の引き上げと、物価高対策としての消費税の税率引き下げの問題だ。

トランプ政権の関税措置をめぐっては、18日からの週に日米の事務レベルの協議に続いて、週の後半に赤澤経済再生相が訪米し3回目の閣僚交渉が行われる見通しだ。

トランプ政権はイギリスとの合意に続いて、中国との間でも双方が追加関税を110%引き下げ、米側は30%、中国側は10%とすることで合意した。そして、一部の関税に90日間の停止期間を設け、協議を続けることになった。

次回の閣僚協議はどのような展開になるだろうか。日本側は自動車を含む全ての関税措置を撤廃するよう強く求めているのに対し、米側は協議の対象は追加関税の上乗せ部分で、自動車などの品目別関税は協議の対象外として、双方が対立している。

このため、次回協議では、自動車の扱いを含め協議の対象範囲で一致できるかどうかが焦点になる。また、交渉妥結の時期がどうなるか、6月のG7サミットに合わせて決着をめざすのか、長期戦もやむなしとなるのかも注目される。

さらに、日本としては関税措置の見直しを図るために、アメリカ製自動車や農産物の輸入拡大などにどこまで踏み込むのか判断を迫られる。こうした一連の対応は、終盤国会や参院選でも大きな論点になる見通しだ。

消費税減税の是非、論点深掘りできるか

終盤国会ではもう一つ、物価高対策として消費税減税の是非をめぐって、与野党の議論が活発に行われる見通しだ。

立憲民主党の野田代表はこれまで消費税減税に慎重な立場をとってきたが、この方針を転換し、食料品の消費税率を原則1年間に限ってゼロ%に引き下げるとともに当面の物価高対策として、国民1人あたり2万円程度の現金給付を行う案を16日に発表した。

これに対し、石破首相や自民党執行部は、消費税の税収が社会保障や地方財政を支える財源になっているとして、消費税は引き下げない方針だ。そして、夏の参院選では、財政や社会保障の安定に責任を持つ「責任政党」としての役割をアピールしていく構えだ。

但し、自民党内は選挙を控えた参議院議員の8割は消費税減税を行うべきとの考えだとされ、当面、党内の議論を続けることにしている。

連立与党の公明党も消費税減税を求める声が強く、参議院選挙に向けた与党の経済対策のとりまとめは難航することも予想される。

自民、公明両党は当初、現金給付を打ち出す方針を示したが、世論調査で”バラマキ政策”だとして批判が強く、見送った経緯がある。与党側にとっては、消費税減税に代わる有効な経済対策を見いだせていないのが悩みだ。

一方、野党側は、既に維新、国民民主、共産、れいわの各党などが、いずれも税率引き下げや廃止を主張しており、立憲民主党と合わせて野党側は消費税減税で足並みがそろったことになる。

但し、野党側の消費税減税の内容や税率、実施期間などはさまざまだ。また、財源についても国債発行に頼らず、新たな財源を明らかにする政党がある一方で、赤字国債発行を容認する政党とに分かれている。

こうした各党の主張を国民はどのようにみているか。NHKが今月9日から3日間行った世論調査では、◇「今の税率を維持すべきだ」は36%、◇「税率を引き下げるべき」は38%、◇「消費税は廃止すべき」は18%となっている。

つまり、「消費税の廃止論」は2割近くに止まり、「消費税率は下げない維持派」が4割、「税率引き下げ派」も4割で、真っ二つに分かれている。消費税減税をめぐる議論は政党、国民の間でもまだ十分に尽くされておらず、景気対策、社会保障との関係、財源などさまざまな角度から掘り下げた議論が必要だということを示しているのではないか。

懸案の処理と将来社会の構想の提示を

終盤国会は、19日に参議院予算委員会で内外の重要課題について集中審議が行われるのをはじめ、20日に年金制度改革法案が衆院で審議入りする。21日には今国会で2回目の党首討論が行われるなど与野党の論戦が本格化する見通しだ。

そして、これまでみてきたように終盤国会では、懸案の「政治とカネ」の問題、選択的夫婦別姓制度、年金制度改革法案などについて議論を深め、可能な限り結論を出すことが必要だ。一方、結論がまとまらない場合、その理由や今後の取り組みの道筋を示すことも重要だ。

加えて、この国会は、トランプ政権による関税措置への対応や、物価高対策としての消費税減税が大きな論点になっている。こうした課題は、日本が国際社会でどのような役割を果たしていくのか、将来の日本社会や経済のあり方とも直結する。

それだけに政権与党と野党は、それぞれ外交・内政の中期的な構想も示して論争を深めてもらいたい。そのうえで、私たち有権者はそうした構想や対応などを踏まえて、夏の参院選挙で1票を投じたい。激動期に対応できる政治の選択の仕方も模索していく必要がある。(了)

 

 

 

終盤国会から参院決戦へ”与野党攻防のカギは”

長丁場の通常国会も来月22日の会期末まで、残り1か月半を切った。終盤国会では12日と19日に衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、石破首相と野党側が議論を交わすのをはじめ、重要法案や懸案の「政治とカネの問題」などをめぐって与野党の攻防が本格化する。

一方、トランプ政権の関税措置をめぐる日米の閣僚協議は今月中旬以降、集中的な協議が行われる見通しだ。トランプ政権は8日、関税交渉でイギリスとの間で初めての合意に達したが、日米間の交渉は前進がみられるのかどうかが焦点だ。

来月13日には東京都議選が告示され、22日の投開票日に向けて各党は国政選挙並みの態勢で選挙戦に入る。さらに通常国会が予定通りの日程で閉会すれば、7月の参院決戦へと突入する。

このようにこの夏は、少数与党の中で終盤国会の与野党攻防と日米関税交渉が同時並行で進行し、さらに都議選、参院選の政治決戦へと続くことになる。これからの政治はどのような点がポイントになるのか、探ってみたい。

 関税交渉、米側方針に変化はあるか

まず、これからの政治に大きな影響を与えるのは、トランプ政権の関税措置をめぐる動きだろう。アメリカとイギリス両政府は8日、◇イギリスで生産された自動車については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとともに◇鉄鋼製品とアルミニウムは、関税を0%に引き下げることで合意した。

これとは別に、アメリカが多くの品目に一律10%の関税を課している措置については、イギリスに対しても維持する。トランプ政権は、日本を含む各国と関税交渉を行っているが、合意に達したのは今回のイギリスが初めてだ。

日本は先のアメリカ側との交渉で、5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に実施するため、日程調整を進めることで合意している。これまでの交渉で日本側は、一連の関税措置の見直しを強く求めたが、アメリカ側は「日本だけ特別扱いはできない」と相互関税の上乗せ措置以外の協議には応じない考えを示した。

今回の米英両国の合意で、イギリスについては自動車、鉄鋼、アルミニウムについて関税引き下げに応じた一方で、一律10%の関税措置は譲歩しなかった。

イギリスと日本では置かれた状況や条件が異なるが、次の日米交渉ではアメリカ側は、日本の関税の見直し要求にイギリスと同様に引き下げに応じるのかどうか、応じる場合はその範囲や幅についてどのような考えを示すのか注目される。

一方、日本側は、アメリカ製自動車などの輸入認証制度を緩和する措置をはじめ、大豆やトウモロコシの輸入拡大、LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大策などについて突っ込んだ説明をするものとみられる。

こうした次回の日米交渉で、アメリカ側がこれまでの方針を変更し交渉の前進が図られるかどうかが焦点になる。

また、来月15日からカナダでG7サミットが開催されるのに合わせて日米首脳会談を行い、一定の合意発表へとつながるのかどうかも注目される。

少数与党で支持率が低迷している石破政権にとっては、参院選挙で与党が過半数を維持できるか、政権の命運がかかっている。このため、関税措置を回避する合意が達成できれば、政権の浮揚につながる可能性がある。

逆に交渉が妥結せず、関税措置の見直しができなかったり、日本側が譲歩を重ねたりした場合は、参院選に強い逆風になるだけに今後の交渉のゆくえから目が離せない。

終盤国会、消費減税と財源が論点に浮上

次に終盤国会では、物価高対策に関連して消費減税が大きな論点になる見通しだ。立憲民主党は、食料品の消費税率を1年間ゼロ%にすることを参院選の公約に盛り込む方針を決めた。消費減税は、既に日本維新の会や国民民主党が先行して方針を決めており、野党側の足並みがそろったことになる。

与党側でも参院自民党や公明党からも消費減税を求める声が上がっている。石破首相は消費減税に一定の理解を示す発言もあったが、石破首相と森山幹事長ら自民党執行部は、消費減税に踏み切る場合、必要な財源確保が困難で、社会保障にも影響が出るとして、消費減税を見送る方向で調整を進める方針だ。

こうした物価高対策と消費税減税の扱い、それに消費税に踏み切る場合の財源と社会保障への影響をどう考えるか、終盤国会と参議院選挙での論戦の大きなテーマになる見通しだ。

 多様な論点、参院選に向け方針提示を

終盤国会では、5年に一度の年金財政検証に合わせた年金制度改革関連法案の提出が自民党内の調整が難航し遅れているが、近くようやく提出される見通しだ。

また、懸案の選択的夫婦別姓制度については、立憲民主党が先月末に法案を提出したが、日本維新の会が通称使用を拡大する法案や、国民民主党も別の法案を提出する方針で、野党の足並みに乱れが出ている。

一方、懸案の「政治とカネの問題」をめぐっては、企業・団体献金の見直しについて、3月末に結論を先送りして以降、与野党の議論が全く進んでいない。

自民党派閥の裏金問題では、旧安倍派の下村元政務調査会長の参考人招致の扱いをめぐって与野党の意見が対立している。また、石破首相が10万円の商品券を配付していた問題について、政治倫理審査会で弁明する問題も先送りのままだ。

さらに会期末には、石破首相に対する内閣不信任決議案を提出する問題も浮上する見通しだ。少数与党政権なので、野党側がまとまって賛成すれば不信任案は可決され、内閣総辞職か衆院解散・総選挙という波乱につながる可能性もある。

このように今の国会は多くの法案や懸案、内外の課題・論点が次々に押し寄せているが、「熟慮の国会」どころか十分な議論が行われず、法案の扱いもはっきりしない状態が続いている。

このため、国会閉会後に行われる参院選挙では、先送りの案件が多数にのぼり、何を基準に判断をすればいいのか、有権者は戸惑うことになる。まずは、重要法案や主要な論点について与野党は議論を尽くして、一定の結論を出せるよう最大限努力すべきだ。

そのうえで、調整ができなかった問題はその理由と今後の対応策について、政権与党と野党側がそれぞれ見解を表明し、国民に判断材料を示してもらいたい。

ここまでみてきたように終盤国会での重要法案の扱いや与野党の論戦、それにトランプ関税をめぐる日米交渉など内外ともに激しい動きが続く見通しだ。去年の衆院選に続いて、参院選挙はどのようになっるだろうか。

最終的に大きなカギを握るのは、国民がどのようなテーマ・論点を重視するか、その選択によって夏の参議院決戦の結果は大きく左右される予感がする。(了)

 

 

 

 

日米関税交渉”6月合意を模索か”石破政権

トランプ政権の関税措置をめぐり、訪米中の赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら米側閣僚との2回目の交渉が2日行われ、次回の交渉を5月中旬以降に集中的に実施するため、日程調整を進めることで一致した。

交渉を終えた赤澤経済再生相は「非常に突っ込んだ話ができた。可能な限り早期に、日米双方の利益となるような合意をめざして前進することができた」と語った。政府関係者も「閣僚交渉が集中的に行われる見通しとなり、一定の進展があったということではないか」との見方を示している。

今回の2回目の交渉ではどこまで協議が進んだのか、また日米両首脳の合意の時期の見通しはどうなるのか、今後のゆくえを探ってみたい。

 貿易拡大策など協議、安保は切り離し

まず、今回2回目の閣僚交渉で明らかになった点と、はっきりしない点について、交渉終了後に行われた赤澤経済再生担当相の記者会見を基に整理しておきたい。

明らかになった点としては◆日本側は米側の関税措置は極めて遺憾であり、初回交渉に続いて、見直しを強く求めたこと。そのうえで、今回は貿易の拡大、非関税措置、それに経済安全保障面での協力の3つの柱で議論を行ったとしている。

◆為替と安全保障の問題については、今回は全く議論していない。「安全保障は貿易・関税とは違う」とのべて、為替や安全保障の問題は切り離すとの認識を示した。これは交渉分野を限定することになり、日本側にとって望ましい形と言える。

一方、はっきりしない点としては◆交渉の具体的な内容だ。赤澤経済再生相は「交渉の詳細については触れない」と何回も繰り返し、内容の説明は一切避けた。

ただ、◆交渉は「パッケージで成立するもの」とのべ、日本側は自動車などの関税措置の除外を主張したこと。アメリカ側との間で、自動車や農産物などの輸入拡大などについて意見を交わしたことなどを認めた。

今回の交渉では、交渉の具体的な分野や範囲を絞ることができるかどうかが焦点の一つになっていた。赤澤経済再生相は、為替や安保は切り離したうえで「突っ込んだ話ができた」などとのべていたことから、日米双方がそれぞれの関心分野を中心に時間をかけて協議を行ったものとみられる。

 6月合意”そうなればいい”と赤澤氏

今回の日米交渉ではもう一つ、「交渉のペースと合意の時期」について、日米がどのような見方をしているのかも注目された。

赤澤経済再生相は、同行記者団から「5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に行う意味」を質問されたのに対し「首脳レベルに上げる前に、閣僚が協議の頻度をあげ、根を詰めることもある」との考え方を示した。

また、記者団から「6月に首脳間で合意することはあるのか」と質されたのに対し「わからないが、そういう段階に入れればいいと思っている」とのべ、5月の閣僚協議を集中的に行ったうえで、日米首脳の合意につながることへの期待を示した。

各国との関税交渉めぐって、トランプ大統領は直前に「彼ら(日本、韓国など)ほど交渉を急いでおらず、有利な立場にいる」とけん制していたが、日米双方から「トランプ関税で株価が下がり、世論の支持率も低下していることから、焦っているのはトランプ大統領ではないか」といった見方が示されている。

一方、自民党の閣僚経験者などから「6月のG7サミットの際か、その前に日米首脳会談を行い、決着を図ろうとするのではないか」との見方はかねてから出されてきた。5月中旬以降、集中的に協議を行うと合意したことは、こうした見方がさらに強まる可能性がある。

石破首相は、赤澤経済再生相から電話で報告を受けた後、記者団に対し「時期について言及すべきとは思わない。早いに越したことはないが、早いことを優先するあまり国益を損なってはならない」と踏み込むのを避けた。

今後の政治日程を考えると6月22日が通常国会の会期末で、会期延長がなければ、参議院選挙は7月3日公示、20日投票となる。アメリカの関税措置90日間の期限は7月9日で、選挙戦まっただ中にあたる。

こうした日程や赤澤経済再生相の発言、自民党幹部の見方などを合わせて判断すると、石破政権は参院選挙前の6月合意を視野に交渉を本格化させるのではないかとみている。

 交渉内容、国内外から厳しい評価も

それでは、これからの日米関税交渉の内容や進め方、留意すべき点としてはどのような点があるのだろうか。

日本としては、幅広い品目に課税される「相互関税」の上乗せ分の撤回だけでなく、品目別の課税対象になっている自動車、鉄鋼などへの25%追加関税、さらに一律10%の相互関税について、撤廃などの見直しを強く求めていくのが基本だと考える。

これに対してアメリカ側は、特にトランプ大統領が貿易赤字の解消を強く主張していることから、自動車や農産品の輸入拡大などを迫ってくるものとみられる。

日本側としても、自動車などの関税措置の撤回のためには一定の譲歩は避けられないとして、首相官邸に設置されている各省庁の専門家チームなどで検討を進めている。

これまでのところ◇アメリカが強く求めている非関税措置の改善策として、輸入自動車の認証制度を緩和する措置のほか、◇農産物のうち、大豆やトウモロコシの輸入拡大、◇LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大、◇造船分野の支援などを検討している。

◇農産物については、コメのミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で、米国からの輸入を増やすことを検討する案も出ているが、与党内の反発もあり、結論は出ていない。

仮に日米両国が合意した場合、関税措置の撤回や引き下げと、日本側の譲歩案の両方について、日本の国益を守ることができたのかどうか、最終的には国民の理解と支持が得られるかどうかがカギになる。それだけに特に合意の内容が十分かどうか、国民の厳しい評価を受けることもありうる。

また、トランプ政権の関税措置をめぐっては「アメリカ第1主義」の下、余りにも一方的に高い関税をかけることに世界各国から強い反発が起きている。このため、交渉で先行する日本が公正で自由な貿易体制を推進していく立場を貫いているのかどうか、各国の評価に耐えうる内容かが問われることになる。

トランプ政権の関税政策をめぐっては、米国内でも物価高騰や経済の減速を招く恐れがあるとして、世論や経済界からも批判が広がっている。関税引き上げの応酬を続けてきた米中間でも近く話合いが始まるとの見方が出ている。

日本としても自国の産業や経済を守りながら、世界や米国内の動向も踏まえて、米国の一方的な関税措置を軌道修正させていく取り組みが求められている。

そのためには首相官邸が中心になって、各省庁の貿易・経済協議の経験を活用するとともに民間企業、与野党の意見も取り入れて総合的な戦略を練り上げ、したたかな外交交渉を展開できるかどうかが問われている。5月中旬からの日米交渉は、石破政権や夏の参議院選挙のゆくえを左右することになるだろう。(了)