日米関税交渉”6月合意を模索か”石破政権

トランプ政権の関税措置をめぐり、訪米中の赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら米側閣僚との2回目の交渉が2日行われ、次回の交渉を5月中旬以降に集中的に実施するため、日程調整を進めることで一致した。

交渉を終えた赤澤経済再生相は「非常に突っ込んだ話ができた。可能な限り早期に、日米双方の利益となるような合意をめざして前進することができた」と語った。政府関係者も「閣僚交渉が集中的に行われる見通しとなり、一定の進展があったということではないか」との見方を示している。

今回の2回目の交渉ではどこまで協議が進んだのか、また日米両首脳の合意の時期の見通しはどうなるのか、今後のゆくえを探ってみたい。

 貿易拡大策など協議、安保は切り離し

まず、今回2回目の閣僚交渉で明らかになった点と、はっきりしない点について、交渉終了後に行われた赤澤経済再生担当相の記者会見を基に整理しておきたい。

明らかになった点としては◆日本側は米側の関税措置は極めて遺憾であり、初回交渉に続いて、見直しを強く求めたこと。そのうえで、今回は貿易の拡大、非関税措置、それに経済安全保障面での協力の3つの柱で議論を行ったとしている。

◆為替と安全保障の問題については、今回は全く議論していない。「安全保障は貿易・関税とは違う」とのべて、為替や安全保障の問題は切り離すとの認識を示した。これは交渉分野を限定することになり、日本側にとって望ましい形と言える。

一方、はっきりしない点としては◆交渉の具体的な内容だ。赤澤経済再生相は「交渉の詳細については触れない」と何回も繰り返し、内容の説明は一切避けた。

ただ、◆交渉は「パッケージで成立するもの」とのべ、日本側は自動車などの関税措置の除外を主張したこと。アメリカ側との間で、自動車や農産物などの輸入拡大などについて意見を交わしたことなどを認めた。

今回の交渉では、交渉の具体的な分野や範囲を絞ることができるかどうかが焦点の一つになっていた。赤澤経済再生相は、為替や安保は切り離したうえで「突っ込んだ話ができた」などとのべていたことから、日米双方がそれぞれの関心分野を中心に時間をかけて協議を行ったものとみられる。

 6月合意”そうなればいい”と赤澤氏

今回の日米交渉ではもう一つ、「交渉のペースと合意の時期」について、日米がどのような見方をしているのかも注目された。

赤澤経済再生相は、同行記者団から「5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に行う意味」を質問されたのに対し「首脳レベルに上げる前に、閣僚が協議の頻度をあげ、根を詰めることもある」との考え方を示した。

また、記者団から「6月に首脳間で合意することはあるのか」と質されたのに対し「わからないが、そういう段階に入れればいいと思っている」とのべ、5月の閣僚協議を集中的に行ったうえで、日米首脳の合意につながることへの期待を示した。

各国との関税交渉めぐって、トランプ大統領は直前に「彼ら(日本、韓国など)ほど交渉を急いでおらず、有利な立場にいる」とけん制していたが、日米双方から「トランプ関税で株価が下がり、世論の支持率も低下していることから、焦っているのはトランプ大統領ではないか」といった見方が示されている。

一方、自民党の閣僚経験者などから「6月のG7サミットの際か、その前に日米首脳会談を行い、決着を図ろうとするのではないか」との見方はかねてから出されてきた。5月中旬以降、集中的に協議を行うと合意したことは、こうした見方がさらに強まる可能性がある。

石破首相は、赤澤経済再生相から電話で報告を受けた後、記者団に対し「時期について言及すべきとは思わない。早いに越したことはないが、早いことを優先するあまり国益を損なってはならない」と踏み込むのを避けた。

今後の政治日程を考えると6月22日が通常国会の会期末で、会期延長がなければ、参議院選挙は7月3日公示、20日投票となる。アメリカの関税措置90日間の期限は7月9日で、選挙戦まっただ中にあたる。

こうした日程や赤澤経済再生相の発言、自民党幹部の見方などを合わせて判断すると、石破政権は参院選挙前の6月合意を視野に交渉を本格化させるのではないかとみている。

 交渉内容、国内外から厳しい評価も

それでは、これからの日米関税交渉の内容や進め方、留意すべき点としてはどのような点があるのだろうか。

日本としては、幅広い品目に課税される「相互関税」の上乗せ分の撤回だけでなく、品目別の課税対象になっている自動車、鉄鋼などへの25%追加関税、さらに一律10%の相互関税について、撤廃などの見直しを強く求めていくのが基本だと考える。

これに対してアメリカ側は、特にトランプ大統領が貿易赤字の解消を強く主張していることから、自動車や農産品の輸入拡大などを迫ってくるものとみられる。

日本側としても、自動車などの関税措置の撤回のためには一定の譲歩は避けられないとして、首相官邸に設置されている各省庁の専門家チームなどで検討を進めている。

これまでのところ◇アメリカが強く求めている非関税措置の改善策として、輸入自動車の認証制度を緩和する措置のほか、◇農産物のうち、大豆やトウモロコシの輸入拡大、◇LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大、◇造船分野の支援などを検討している。

◇農産物については、コメのミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で、米国からの輸入を増やすことを検討する案も出ているが、与党内の反発もあり、結論は出ていない。

仮に日米両国が合意した場合、関税措置の撤回や引き下げと、日本側の譲歩案の両方について、日本の国益を守ることができたのかどうか、最終的には国民の理解と支持が得られるかどうかがカギになる。それだけに特に合意の内容が十分かどうか、国民の厳しい評価を受けることもありうる。

また、トランプ政権の関税措置をめぐっては「アメリカ第1主義」の下、余りにも一方的に高い関税をかけることに世界各国から強い反発が起きている。このため、交渉で先行する日本が公正で自由な貿易体制を推進していく立場を貫いているのかどうか、各国の評価に耐えうる内容かが問われることになる。

トランプ政権の関税政策をめぐっては、米国内でも物価高騰や経済の減速を招く恐れがあるとして、世論や経済界からも批判が広がっている。関税引き上げの応酬を続けてきた米中間でも近く話合いが始まるとの見方が出ている。

日本としても自国の産業や経済を守りながら、世界や米国内の動向も踏まえて、米国の一方的な関税措置を軌道修正させていく取り組みが求められている。

そのためには首相官邸が中心になって、各省庁の貿易・経済協議の経験を活用するとともに民間企業、与野党の意見も取り入れて総合的な戦略を練り上げ、したたかな外交交渉を展開できるかどうかが問われている。5月中旬からの日米交渉は、石破政権や夏の参議院選挙のゆくえを左右することになるだろう。(了)