”都議選、自民大敗“ 敗因をどう読むか

22日投開票が行われた東京都議会議員選挙では、自民党が過去最低の21議席となり、第1党を維持できなかった。一方、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会は31議席を獲得し、第1党に返り咲いた。

野党側では、立憲民主党が議席を伸ばしたほか、国民民主党と参政党が初めて議席を獲得した。共産党は議席を減らし、大阪維新の会は議席を失った。一方、公明党は、9回連続の全員当選を逃した。

このように各党派の明暗は分かれたが、特に自民党は、コメ問題で小泉農水相の登場によって選挙情勢は好転しているとみていただけに、選挙結果を深刻に受け止めている。今回の自民大敗の原因はどういうことだったのだろうか、来月に迫った参院選への影響はどうなるか分析してみたい。

 自民党過去最低の議席、敗因は

東京都議選が告示される前、自民党関係者に見通しを聞くと「自民党の現有議席は30。これを多少下回ることはあるかもしれないが、過去最低の23議席を割り込むことはないだろう」と比較的楽観的な見方を示していた。

その理由としては、コメ問題に関心が集まり、政治とカネの問題への関心が低下していること、そして小泉農水相の登場でメデイア各社の世論調査でも石破内閣の支持率も上昇していたことから、選挙情勢は好転するとみていたからだ。

ところが、ふたを開けてみると2017年、都民ファーストの会ブームで自民党が沈んだ23議席、これをさらに下回る21議席にまで落ち込んだ。このうち、3人は追加公認なので、本来の公認候補の当選は18人で、惨敗と言ってもいい。

選挙結果をみると◆定数1の1人区、千代田区、武蔵野市など7つの選挙区で、自民党が勝利したのは1議席だけで、1勝6敗に終わった。◆2人区以上の複数区では最後の議席を競り負けた選挙区が目立った。

こうした原因はどこにあるのだろうか。筆者は都内に住んでおり、小さな個人的体験で恐縮だが、今回は自民党候補のビラの配布が少なかった。一方、選挙戦終盤には小泉農水相のオートコールが固定電話にかかってきたのに驚いた。地道な選挙活動ではなく昔流の電話作戦、ネット時代には”竹槍戦法”を思い起こさせた。

選挙全体を評価するデータとしては、朝日新聞や読売新聞の出口調査が参考になる。◆自民支持層のうち、自民党候補に投票した割合は5割程度に止まっている(朝日53%、読売54%)。自民支持層の7割程度確保するのが普通なので、今回は大幅に低下した。また、都民ファーストに2割近くも支持が流れていた。

◆最も多い無党派層の投票先では、都民ファーストへの24%が最も多く、次いで自民11%、立民10%、共産9%となっている(読売データ)。無党派層の獲得率で自民党は、無党派層に大差をつけられた。

◆一方、投票の際、自民党の裏金問題を考慮したかとの問いに「考慮した」が62%、「考慮しない」36%を上回った(朝日データ)。

◆選挙の争点として重視したテーマとしては、「物価高や賃上げ対策」を挙げた人が最も多かった。石破首相は告示日の13日、参院選の公約に国民1人あたり「2万円給付」を盛り込むと発表したが、選挙結果から判断すると”都議選での追い風”にはならなかった。

このように今回の選挙の敗因としては、自民党の派閥に続いて都議会自民党でも裏金問題が起きていたことに対する強い不信感、それにコメをはじめとする物価高対策についても政権与党が明確な方針を示すことができないことへの不満、批判が大きく影響したのではないかとみている。

一方、政界関係者の中には今回、公明党が自民党の候補を推薦しなかったことから「自公の選挙協力が機能しなかったことが影響したのではないか」との見方も聞いた。重要な指摘だが、関係者の取材ができていないので、今後、取材のうえ明らかになった点があれば、報告したい。

 立民は議席増、国民民主は躍進

野党側についてみておくと、立憲民主党は前回15議席から17議席へと伸ばした。これは、野党第1党として自民党批判の受け皿になったことを示している。また、1人区から3人区で共産党などとの候補者調整が実現した効果があったものとみられる。

国民民主党は、9議席を獲得した。党の幹部は、単独で条例を提出できる11議席以上をめざしていた。他の党幹部からも「台風の目になるのではないか」とみられていたが、参議院選挙の比例代表の候補者擁立をめぐって混乱が起きた。

NHK世論調査では3月の政党支持率は8.4%だったが、6月は5.4%まで下落した。但し、国民民主党は都議選では議席を持っていなかったが、一気に9議席獲得したのは躍進したといっていいのではないか。次の参院選が正念場だ。

共産党は都議会自民党の裏金問題を追及したが、選挙結果は4議席減らした。日本維新の会は議席を失った。一方、公明党は過去8回連続で全員当選を果たしてきたが、36年ぶりに議席を減らした。

参政党は都議選で初めて3議席を獲得した。NHKの世論調査でもこの党への支持率が1月は0.3%だったのが、6月は1.9%に上昇した。保守層の支持を得ており、既成政党批判の受け皿になっている。れいわ新選組と、石丸伸二氏が立ち上げた「再生の道」は議席を獲得できなかった。新興勢力の間でも明暗が分かれた。

 参院選、与党過半数が最大の焦点

都議選と参議院選挙が重なる2025年は、夏の参議院選挙で大きなヤマ場を迎える。7月3日公示、20日投開票日の日程が近く閣議決定される運びだ。去年の衆院選で与党が過半数割れしたが、今度の参議院選挙では与党が過半数を維持できるのか、それとも野党が過半数割れに追い込むのかが、最大の焦点だ。

東京都議選の結果は、これまで直後の国政選挙に大きな影響を及ぼし、次の選挙の「先行指標」になることが多かった。今回の都議選の結果は自民・公明の与党に厳しい結果になっただけに次の参議院選挙はどうなるか、石破政権の命運を左右する見通しだ。

その石破首相は通常国会が閉会したのを受けて23日夜、記者会見した。この中で石破首相は、参院選挙の勝敗ラインについて質問されたのに対し「非改選を合わせて参議院全体の過半数の確保に全力を尽くす」との考えを強調した。

与野党の勝敗面では、全国で32ある定数1の1人区がどうなるかが、カギを握っている。野党側は立憲民主党が、維新や国民民主、共産の各党と候補者調整を進めているが、競合する選挙区も多い。公示までに候補者調整が進むのかどうかが大きなポイントになる。

物価高などの政治課題に加えて、中東情勢の緊迫化も加わる中で、参議院選挙の争点設定はどうなるか。そして、有権者がどのような判断を示すか参院決戦はまもなく本番を迎える。(了)

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”米関税は協議継続”国会は最終攻防へ

G7サミットに合わせてカナダで行われた石破首相とトランプ大統領との日米首脳会談は、アメリカの関税措置の見直しをめぐって合意に至らず、担当閣僚による協議を継続することになった。

一方、会期末が迫った国会は、焦点の石破内閣に対する不信任決議案の扱いなどをめぐって攻防が続いているが、立憲民主党は不信任案の提出は見送る公算が大きいとみられる。日米首脳会談の影響と国会会期末の最終攻防のゆくえをみてみたい。

関税合意に至らず、政権浮揚カード不発

石破首相とトランプ大統領の日米首脳会談は、日本時間の17日午前4時過ぎから30分間にわたって行われた。会談には、赤澤経済再生相とベッセント財務長官も同席した。

この中で、両首脳はアメリカの関税措置について率直な議論を行い、赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら関係閣僚に対し、さらに協議を進めるよう指示することで一致した。

会談終了後、石破首相は記者団に対し「ギリギリまで交渉し、合意の可能性を探ってきた。今なお、双方の認識が一致していない点が残っているので、パッケージ全体としての合意には至っていない」とのべた。

これまでの交渉で日本側は、基幹産業である自動車の追加関税の撤廃を強く求めてきたが、アメリカ側は自動車が貿易赤字の大きな原因になっているとして譲らず、この自動車関税の扱いが首脳レベルの会談でも大きなハードルになったものとみられる。

石破首相は今回の首脳会談で一定の合意を取りつけた上で、7月の参議院選挙前に関税措置をめぐる問題の決着をめざしてきた。しかし、今回の首脳会談でも合意のメドもつけられなかったことから、参院選前の決着は不透明な情勢になっている。

トランプ政権は、貿易赤字が大きい国を対象に発動した相互関税を90日間停止しているが、ベッセント財務長官は来月9日となっている期限を延長する可能性にも言及している。日本も24%の相互関税が課されるが、現在は一時停止されている。

日本政府内でもサミットでの日米首脳会談で合意できない場合、決着は秋以降にずれ込むのではないかとの見方も聞かれる。だが、今後の見通しについては、依然として、はっきりしておらず、経済界から不満が示されることも予想される。

石破首相にとっては一定の合意に達していれば、参議院選挙に向けて政権浮揚のカードとして期待できたが、今回はそのカードは切れない可能性が大きい。石破内閣の支持率は小泉農水相の起用で、上向きの傾向は表れているが、依然として不支持率が支持率を上回る厳しい状態が続いている。

 不信任案提出見送り判断大詰め

さて、日米首脳会談の結果は22日に会期末が迫っている与野党の攻防、中でも最大の焦点である石破内閣に対する不信任決議案の扱いにも影響を及ぼす。

立憲民主党の野田代表は、与党の過半数割れで内閣不信任案の重みが一段と増しているとして、慎重に対応していく考えを繰り返し表明してきた。最終的には、党内の意見と他の野党の動向、それにトランプ政権の関税措置をめぐる日米首脳会談の結果を見極めて判断したいとの考えを示してきた。

特にトランプ関税について野田代表は、石破首相と同じく「国難」との認識を示すとともに、内閣不信任の提出が衆院解散・総選挙という政治空白をもたらすのは好ましくないという考えを示してきた。こうした考えからすると、日米首脳会談でも合意に至らず協議継続となったことは、不信任案提出にブレーキが働くとみることができる。

一方、立憲民主党や他の野党の多くも衆院解散・総選挙をめぐっては、選挙資金や候補者擁立の準備態勢が整っておらず、回避したいのが本音との見方も聞かれる。野田代表としてはこうした点も含めて総合的に判断することになるが、内閣不信任案の提出を見送るのではないかとの見方が立憲民主党内では強い。

自民党の森山幹事長も17日、イスラエルとイランによる攻撃の応酬が続いている国際情勢を考えると野党側が内閣不信任案を提出しない場合、会期末に衆議院が解散される可能性は低いとの見方を示した。

こうした中で、石破首相が帰国後の19日、与野党の党首会談が開かれ、日米首脳会談の報告を行うとともに意見を交わすことにしている。こうした動きも含めて判断すると国会は会期末の攻防が続くものの、内閣不信任案の提出は見送られ、22日に会期延長なしで閉会する可能性が大きいとみられる。

この結果、夏の参議院選挙は7月3日に公示され、3連休中日の20日投開票という日程で行われる見通しだ。私たち有権者も最終盤国会での重要法案などの行方を見届けるとともに、内外情勢が激動する中で参議院選挙ではどのようなテーマを重視して1票を投じるか準備を始める時期を迎えている。(了)

★追伸(6月19日23時)立憲民主党の野田代表は19日の記者会見で、終盤国会の焦点になっている石破内閣に対する不信任決議案の提出を見送る考えを表明した。その理由として野田代表は、日米の関税交渉が継続中であることや中東情勢が緊迫していることを挙げ「政治空白を作ることは回避すべきだ」とのべた。 一方、石破首相は今の国会で衆院解散を行わない意向を固めている。このため、参議院選挙が7月3日公示、20日投開票の日程で単独で行われる見通しだ。

★追伸(6月21日午前8時)会期末を22日に控えた国会は、土曜日の21日も参議院で審議が行われる異例の展開に。野党7党が提出したガソリン税の暫定税率を廃止する法案が20日、委員会と衆院本会議で可決され、参院へ送られたためだ。参議院では与党が多数のため、成立は困難。ガソリン税の暫定税率廃止については、去年12月、自民・公明両党と国民民主党との間で合意済み。実施時期や財源などの調整が進んでいなかった。

★追伸(21日23時)野党側が提出したガソリン税の暫定税率の廃止法案は21日の土曜日、参議院財政金融委員会で質疑が行われたが、採決をめぐって与野党の意見が対立し、採決が行われず散会した。法案は廃案となる見通しで、国会は22日の会期末を前に事実上、閉会した。

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”会期末、世論の風向きは”内閣支持率は上昇

通常国会の会期末が22日に迫った国会は、重要法案や内閣不信任決議案などの取り扱いをめぐって、与野党の詰めの攻防が続いている。今月13日には東京都議選が告示され、来月には参議院選挙が行われる。

こうした中で、NHKの6月世論調査がまとまり、石破内閣の支持率が前月に比べて6ポイント上昇し、自民党の支持率も上がっている。小泉農水相が打ち出した備蓄米の売り渡しが評価されているためとみられるが、”世論の風向き”はどうなっているのか、分析してみたい。

石破内閣、自民党支持率ともに上昇

さっそくNHK世論調査(6月6~8日実施)からみておくと、石破内閣の支持率は39%で、先月から6ポイント上がった。不支持率は42%で6ポイント減少した。自民党の政党支持率も31.6%で、先月より5.2ポイント上昇した。

こうした原因は、江藤農水相の更迭に伴って就任した小泉農水相が、先月下旬以降、猛スピードで進めている「備蓄米の売り渡し」が国民の支持を得ているためとみられる。今回の世論調査では「評価する」が74%に達し、「評価しない」の21%を大きく上回った。

石破内閣は今年2月は、トランプ大統領との初の首脳会談を無事に終えたことから、支持率が5ポイント増えて44%に上昇した。ところが、3月以降は自らの「商品券配付問題」などが響いて、支持率は3か月連続で30%台の最低水準を更新してきた。

今回、ようやく支持率の下落に歯止めがかかり、上向きに転じた形になった。だが、コメ全体の価格が下がると思うかとの質問には「下がる」が43%、「下がらない」が45%と見方が分かれており、今後のコメの価格によって内閣支持率が変化することが予想される。

若い年代、無党派層の支持は広がらず

次に石破内閣の支持層を年代別に見てみると各年代とも5ポイント前後、上がっている。支持する人は50代で35%、60代44%、70代と80歳以上でそれぞれ49%を占めている。これに対し、40代は25%、18歳から30代までは22%に止まっている。年齢が高くなるほど支持が増え、若い年代ほど支持が減るのが特徴だ。

与野党の支持層別では、与党支持層は70%で、先月に比べて8ポイント伸ばしている。野党支持層では24%で、4ポイント増加、無党派層は23%で、プラス・マイナスゼロ、先月と同じ割合に止まった。

このように今回、石破内閣の支持率が好転したのは、与党支持層の支持が増えたことが大きい。逆に若い年代、それに無党派層では支持に広がりがみられないことが読み取れる。

自民党は支持率上昇、野党は低下傾向

各党の政党支持率をみると自民党は31.6%で、先月から5.2ポイント上がった。公明党は3.2%で、先月から0.5ポイント下がった。

自民党は今年3月以降、30%ラインを割り込む状態が3か月続いたが、6月にようやく30%台を回復したことになる。但し、前回3年前の参議院選挙が行われた同じ6月は40.1%だったので、8.5ポイントも下回っている。

野党各党の今月の支持率と、先月との比較は次のようになっている。立民5.8%(-1.8P)、維新2.5%(-0.1P)、国民5.4%(-1.8P)、共産1.9%(-0.7P)、れいわ1.7%(-0.8P)、参政1.9%(+0.4P)、保守0.9%(+0.1P)、社民0.4%(+0.1P)、みんな0.1%(+0.1P)。無党派は37.8%(-0.4P)となっている。

野党の多くは先月に比べて支持率を下げている。通常国会は野党主導で政権与党を追及する場面が多く、与党が支持率を落とすケースが多かった。それだけに今回はコメの価格対策という特別な要素があるにしても、与党が支持率を伸ばしているのは、野党にとっては不本意な展開だろう。

少数与党の中で、野党が足並みをそろえて政権に対峙すれば、政策要求などを実現できたのに、野党が個別に与党との協議を進めた結果、思うような成果を上げられなかったことも影響しているとみられる。

このほか、野党の中で国民民主党は、3年前は1.3%程度だったが、今は支持率を飛躍的に伸ばした。そして今年3月・4月は立憲民主党を上回っていたが、5月以降支持率に陰りがみられ、参院選に向けての推移が注目される。

 懸案の最終攻防、与野党の評価を左右

冒頭にみたように石破内閣は今月は支持率を大幅に伸ばしたが、支持率39%に対し不支持率は42%で、支持と不支持の逆転状況が4か月続いている。3年前の前回参院選では、当時の岸田内閣は59%という勢いがあったのと大きな違いがある。

この国会の最終盤がどのような展開になるのか、その結果によって石破政権と与野党の支持率などを大きく左右することになる。

まずは、国民の関心が強いコメの価格高騰が値下がりへと転じるのかどうか、コメの流通、生産政策などが大きな論点になりそうだ。11日には党首討論が行われ、コメ問題を含め内外の重要課題について、突っ込んだ意見が戦わされる見通しだ。

また、トランプ関税をめぐって日米閣僚交渉が5回にわたって行われたが、合意の見通しはついていない。この問題をめぐって12日にも党首会談が行われ、石破首相と野党党首が意見を交わす予定だ。

さらに、国会で議論を続けてきた懸案について、一定の結論や方向を出す必要がある。具体的には「政治とカネの問題」をめぐっては、裏金問題の実態解明は進まず、企業・団体献金の扱いも3月に結論を先送りにしたままだ。

28年ぶりに法案の審議が始まった選択的夫婦別姓制度についても与野党の意見が分かれ、先送りになる見通しだが、各党の今後の対応が問われることになる。

会期末には野党第1党の立憲民主党が、石破内閣に対する内閣不信任決議案を提出するのかどうか。提出された場合、石破首相は採決を待たずに衆院を解散する意向を固めたなどの観測も出されており、緊迫した局面も予想される。

こうした懸案がどのような形で決着がつけられるのか。そして、私たち国民は政権や与野党の対応を評価し、来月の参院選挙などで意思表示をすることになる。(了)

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”少数与党政局”内閣不信任案のゆくえ

通常国会の会期末まで、2週間余りを残すだけになった。年金制度改革法案や選択的夫婦別姓制度、さらには「政治とカネの問題」の扱いなどをめぐって、与野党が最後の攻防を繰り広げる見通しだ。

外交面では、トランプ政権の関税措置をめぐる日米閣僚交渉が続いており、赤澤経済再生相が5日ワシントンに向けて出発し、5回目の閣僚交渉が行われる。今月15日からカナダで開催されるG7サミットに合わせて、日米首脳間で一定の合意にこぎ着けられるのか、ヤマ場を迎えている。

こうした中で、最終盤の国会で石破内閣に対する内閣不信任決議案が提出されるのかどうかが最大の焦点になっている。

自民・公明両党が少数与党に転じた中で、内閣不信任決議案が提出されれば、初めてのケースになる。そして、野党が結束すれば可決される可能性がある。可決された場合、石破首相は10日以内に衆院解散・総選挙に踏み切るのか、総辞職するかの選択を迫られる。

先例を見ると不信任案が可決されたのは4回だけで、ハードルは高いと言える。最終盤の国会はどのような展開になるのか、石破内閣に対する不信任決議案をゆくえを展望してみたい。

 ”竹光から真剣へ”悩む野田代表

内閣不信任決議案を提出できる要件は、衆議院で51人以上の議員の賛成が必要なため、野党の中では、第1党の立憲民主党しか提出を決めることができない。

このため、立憲民主党の野田代表は最近の記者会見では、内閣不信任案を出すのか、出さないのか質問攻めにあっているが、「適時、適切に判断する」と”曖昧戦略”を続けている。

野田代表は去年の衆院選挙で、自公両党が過半数割れして以降「少数与党の下での内閣不信任決議案は、これまでとは重みが決定的に違う。会期末だから竹刀を振り回すのではなく、伝家の宝刀・真剣だと思って相手を確実に倒す時に提出する」として、慎重に検討する考えを繰り返してきた。

その足元の党内は、小沢一郎氏が「可決される可能性が出てきた時に出さないというバカな話はない」と政権交代をめざして、提出を強く訴えている。

一方で、立憲民主党内では「国民が物価高騰に苦しみ、トランプ関税という国難にも直面している時に、安易に政治空白をつくっていいのか考えた方がいい」として、不信任案の見送り論も聞かれる。

また、立民内では、日本維新の会や国民民主党が不信任案に賛成するのかどうか見極めないと野党の結束の乱れが露呈して、逆効果になるとして、提出に慎重論も出ている。

このように党内の意見もまとまっていないこともあって、野田代表は「出すべきか、出さざるべきか」悩みを深めているようだ。

他の野党の幹部からは「立憲民主党の本音は、”弱い石破政権”の下で、参院選挙で勝負したいのではないか。不信任案提出をきっかけに石破首相が解散を打って出る可能性もあり、不信任案の提出は避けたいのではないか」との見方をしている。

立憲民主党の幹部は「自民党内には、年金制度改革関連法案をめぐって自公両党と立憲民主党が法案修正で合意したことから、不信任案は提出しないという見方があるが、全く別の話だ。最終的には野田代表が決断する」として、最終判断までには、なお時間がかかるとの見方を示している。

石破首相”解散刀を抜けるか”不透明

石破政権は3月に首相自身の「商品券配付問題」で、支持率低下が続いてきたが、5月に入って備蓄米をめぐる失言で江藤農水相を更迭、小泉進次郎氏を後任に抜擢したのを契機に攻めの姿勢に転じようとしている。

政権の内部からは「立憲民主党が内閣不信任案を提出した場合、採決に至らない段階で、衆院解散・総選挙に踏み切る」との強気の発言も聞かれる。その場合、衆参ダブル選挙の可能性もある。石破首相は、森山幹事長との間で、こうした認識で一致しているとされる。

自民党長老に聞くと「不信任案が出された場合、石破首相は衆院解散に打って出る可能性があるのではないか」との見方をする。その理由としては「参院選挙に向けて野党の対応はバラバラで、与党が過半数を維持できる可能性があること。また、衆院選挙でも前回の『2000万円問題』のようなことを起こさなければ、前回ほどの負けにならない」との判断があるからだという。

こうした一方で、報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は、政権発足以降、最低の水準が続いている。また、自民党の支持率も30%ラインを割り込んで低迷していることから、衆院選挙に打って出るのは困難との見方がある。

また、自民党関係者は「党幹部の多くは、既に参院選後のポスト石破をにらんでさまざまな動きを始めている。石破首相が解散権を行使することを認めるかどうかわからない」との見方をしている。

したがって、仮に内閣不信任案が提出された場合、あるいは可決された場合でも、石破首相が解散・総選挙を断行できるのか、内閣総辞職になるのか不透明な情勢だ。

内閣不信任案可決に高いハードル

ここまで見てきたように内閣不信任案をめぐっては、与野党ともに複雑な事情を抱えており、先行きを見通すのは容易でないことがわかる。そこで、過去はどのような事例があったのか、先例をみておきたい。

これまで内閣不信任決議案が可決されたのは4回で、戦後まもない昭和23年・1948年の第2次吉田内閣と、昭和28年・1953年の第4次吉田内閣にさかのぼる。それに昭和55年・1980年の大平正芳内閣と、平成5年・1993年の宮沢喜一内閣の時だ。過去4回とも、すべて衆院解散・総選挙につながった。

このうち、今の政治体制に近い自民党政権下の2回のケースについてみておくと昭和55年は「大平・福田の40日抗争」を経て党内が分裂状態で、非主流派が議場に入らず、可決された。そして、史上初めて衆参ダブル選挙が行われた。

93年は政治改革をめぐって自民党内が割れ、執行部を批判するグループなどが野党提出の不信任案に賛成して、可決された。選挙後は、非自民の細川連立政権が誕生し、自民党が初めて下野し55年体制に終止符が打たれた。

こうした一方で、不信任案が提出される直前に首相が退陣を決断し、決着がついたケースもある。94年に非自民の細川連立内閣を引き継いだ羽田孜内閣だ。

連立与党内の対立から少数与党政権として発足した羽田内閣に対し、当時野党の自民党は不信任案を提出する方針を固め、可決は必至とみられていた。羽田首相は解散・総選挙で打開を図る道もあったが、小選挙区制の施行を前に中選挙区での衆院選の断行は政治改革の精神に反するとして、総辞職を選んだ。

内閣不信任決議案は毎年のように野党が提出してきたが、可決にまで至ったのは、ここまで見てきたように極めて少ないことがわかる。それだけ、可決に至るまでのハードルは高いと言えそうだ。

また、可決されたケースでは、いずれも自民党内が意見の対立で、亀裂が入った点が共通している。今回の石破政権の場合、党内抗争で分裂状態に陥っているわけではないが、比較第1党で最も勢力が大きいだけに、党内の結束力が問われることは間違いない。少数与党という政治状況は、羽田内閣の時と共通点がある。

今回は少数与党だけに、逆に野党の側が不信任案の提出と可決に向けて、足並みをそろえて結束できるのかどうかが試される。この通常国会では、日本維新の会や国民民主党は、与党側と政策協議を続ける一方、立憲民主党とは一線を画すことが多かっただけに最後まで足並みがそろうかどうかが焦点になる。

政権構想を示し、進路がわかる政治を

それでは国民として、今回のケースをどのように見たらいいのだろうか。野党が政権交代をめざして内閣不信任案を提出することは、政治に緊張感をもたらし、新たな選択肢を示すという点で評価できる。

但し、その場合、単に不信任案の取り扱いで共同行動を取るだけでなく、野党第1党が中心になってどのような政権をめざしていくのか、与党との違い・対立軸を示してもらいたい。

一方、石破政権と与党側については、先送りや停滞が目立つこれまでの政権運営をどのように総括し、今後の政権の枠組みをどうするのかといった基本方針を明らかにする必要がある。

内外ともに激動期を迎えているだけに、どのような日本社会をめざすのか、政権与党と野党側がそれぞれの構想を提示し、徹底して議論を深めていく取り組みを強く求めておきたい。与野党の駆け引きに終わらせず、日本社会の進路と道筋がわかる政治に変えていく必要がある。(了)

★追記(7日21時)◆石破首相は6日夜、首相公邸で自民党の森山幹事長と会談した。野党側が検討している内閣不信任決議案や参議院選挙情勢などについて、意見をかわしたものとみられる。                                 ◆立憲民主党の野田代表は6日の記者会見で、内閣不信任決議案について「事前に他の野党と話をしたうえで、提出するかどうか総合的に判断したい」とのべた。他の野党に共同提案の意思があるかどうかを確認したいとの考えを示した。                                ◆日本維新の会の前原共同代表は7日、「提出理由も含めて精査して総合的に判断していく」とのべた。国民民主党の玉木代表も「まずは立憲民主党の考えを伺いたい」とのべた。維新と国民民主党は、それぞれ第3極として独自の路線をとっており、共同提案に応じるかは不透明だ。

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