“迷路に進入”石破首相進退と自民の対応

自民党は27日、総裁選挙管理委員会を開き、臨時総裁選挙の是非を判断する手続きを決めた。臨時総裁選挙の実施を求める議員は、署名と捺印をした書面を本人が提出し、議員の名前も公表することになった。

都道府県連が実施を求める場合は、正式な機関決定をしたうえで、党本部に提出することになった。

今後は、党の参院選大敗の総括が9月2日の「両院議員総会」でまとまれば、国会議員の書面の提出は9月8日に行われる見通しで、その日のうちに都道府県連と合わせて集計が行われる。

その結果、党所属の国会議員295人と47都道府県連の総数の過半数、172に達した場合は、臨時の総裁選挙が行われる。逆に達しない場合は、臨時総裁選は行われずに石破首相が続投となる公算が大きい。

問題はこの臨時総裁選は行われることになるのかどうか、石破首相は退陣するのか、続投するのか。新聞・テレビの報道、政治評論家もあれこれ分析するが、どのような展開になるのか、さっぱりわからない。

参議院選挙の投開票から1か月余りになるが、石破首相の進退問題は「迷路」に入り込んで出口が見いだせないように見える。そこで、石破首相と政権与党の立ち位置や、今後の展開の方向性を探ってみた。

議員名公表 石破降ろし高まるハードル

まず、今回決まった臨時総裁選の是非を判断する手続きをどのようにみたらいいのかという問題がある。新たに決まった手続きを再確認しておくと、選挙の実施を求める国会議員は署名・捺印した書面を提出、氏名も公表することになった。

自民党内には「現職の総理・総裁である石破首相の進退に関わる重大な案件なので、国会議員の名前を公表するのは当然だ」という意見がある一方、名前が公表されるのであれば、臨時総裁選の要求をためらうケースが出てくるのではないかとの見方もある。

自民党議員の若手は、昔と違って執行部の指示に従う従順型が多いと言われている。このため、臨時総裁選をやるべきだと内心、考えていても黙して語らず、書面を出さない議員が出てくることが予想される。

また、報道各社の世論調査で、このところ石破内閣の支持率が上昇していることや、「石破首相は辞めるべきだ」という意見より、「辞める必要はない」という意見が上回っている結果が相次いでいることから、臨時総裁選を要求する動きは広がりをみせていないとの見方も出ている。

こうしたことから、今回の議員名の公表は「石破降ろし」の動きにとってはハードルが高まり、石破続投に有利に働くのではないかとの見方をしている。

 森山幹事長の責任問題のゆくえ

次に参院選での自民大敗を受けて森山幹事長は、参院選の総括がまとまった段階で、自らの責任を明らかにすると明言してきた。党内では、森山幹事長は辞任するのではないかと受け止められてきた。

その参院選の総括は、9月2日の両院議員総会に報告される。参院選の総括が了承されれば、森山幹事長の責任問題が再び問題になる。党内基盤が弱い石破首相にとっては、党や国会の運営、選挙対策などは森山氏に頼ってきただけに、仮に辞任することになれば、政権への打撃は極めて大きい。

また、他の党役員も辞任することが予想され、9月にも予想される自民党役員人事や内閣改造を乗り切れるのか危惧する声も強い。石破首相としては、森山氏を慰留するのか、副総裁など別のポストで処遇するのか、石破首相としては今後も厳しい状況が続くことになる。

一方、参院選大敗の敗因として、どのような内容が盛り込まれるか。また、石破首相や党執行部の責任がどのような形で整理されるのかが焦点になる。

そして参院選の総括が9月2日にまとまれば、臨時総裁選を行うかどうか、国会議員などの意思確認に焦点が移る。今の時点では、議員の大半が態度を明確にしていないことから、選挙の実施を求める勢力が総数の過半数に達するかどうか、はっきりしない。

今後、首相の続投を支持する勢力と、首相の退陣を求める反石破勢力ともに、態度を明確にしていない議員に対して、働きかけを強めることにしている。双方の駆け引きが一段と激しくなりそうだ。

自民党内はこれまでは議員の意見集約などに力を発揮していた派閥が、麻生派を除いてすべて解散したことから、臨時総裁選の賛否がどのようになるのか見通せないのが実状だ。

 国民の自民離れ、乏しい危機感

ここまで石破政権の対応を見てきたが、これからの展開がどうなるかは、政権を支える自民党のあり方も大きく影響する。石破首相の退陣を求める議員側には、旧安倍派や旧茂木派、麻生派など派閥の関係者が関与しているためだ。

まず、石破政権は昨年の衆院選、今年の都議選、参院選でいずれも大敗し、衆参両院で過半数割れという結党以来の初の事態を招いた。こうした結果について、党の総裁が責任を取るのは当然のことだと思う。

ところが、石破首相は続投を表明している。一方、自民党内からは、首相に代わる有力候補が出てこない。意欲をのぞかせる候補者はいるが、支持が広がらない。また、「石破降ろし」を仕掛ける旧派閥幹部はいるが、擁立をめざす後継候補や政権構想も示さないので、これもまた国民の支持が広がらない。

過去の例を振り返ると参院選で大敗して退陣を表明した橋本龍太郎元首相の後継には、小渕元首相が登場した。安倍元首相は第1次政権で参院選で大敗し、数か月後には退陣し、福田康夫元首相が後継の政権を担った。

このように自民党は絶えず後継リーダーを養成しながら、危機的状況を乗り切ってきた。今回は、これまでのような有力なリーダー候補が見あたらないのが大きな特徴だ。

また、従来の自民党であれば、政権与党を取り巻く情勢が厳しい場合、党が抱える問題について大胆な対策を打ち出すなど臨機応変に対応することが多かった。

ところが、今回は国民の関心が強い「政治とカネの問題」や、停滞する経済の立て直しなどについて踏み込んだ対応は見られず、国民の不信感と失望を買っている状況だ。

こうしたことから仮に今回、石破首相が続投することになったとしても結論を先に言えば、政権が持続できるかどうかはわからない。国会は衆参両院で過半数割れしており、政権与党として主導権を発揮するのは困難だ。

首相も変わらないとすれば、野党側が協力する可能性はほとんど考えられない。現に野党幹部はそうした認識を示している。早ければ秋の臨時国会、あるいは来年の通常国会で、政権運営が行き詰まる可能性が大きいとみられる。

自民党はこの秋、結党70年の節目を迎えるが、自民党の支持率は30%ラインを割り込んでおり、特に50歳代以下の世代、支持離れが目立っている。こうした危機的状況の下では、石破首相の政治責任を明確にすることは必要だと思う。

同時に、今の自民党は政権与党として国民の支持と期待感を完全に失っているという現状認識を持ち得ていないのが一番の問題ではないかと感じる。

国民の多くは、臨時総裁選の扱いや石破首相の進退だけでなく、「自民党は政権与党としての耐用年数が切れつつある」との厳しい認識を持ち始めているのではないか。こうした国民の厳しい視線を認識して、対応策を実行に移すことが必要だと考える。

★追伸(29日22時)▲参院選の敗因などを検証している自民党の「総括委員会」は29日の会合で、総括の素案の一部を修正したうえで、9月2日の会合で総括文書をまとめ、党の両院議員総会に報告することを決めた。▲自民党の臨時総裁選挙の是非をめぐり、政府の副大臣や政務官からも早期に総裁選挙を実施すべきだという意見が出始めた。そして必要があれば、役職を辞任して実施を求めていくとしている。

★追伸(3日午前10時)自民党は2日の両院議員総会で、参院選の敗因として「物価高対策が国民に刺さらず、政治とカネの問題で信頼を喪失した」などとする総括をまとめた。▲石破首相は、選挙の敗北を陳謝したうえで「地位に恋々としがみつくものではなく、しかるべき時にきちんとした決断をする」とのべる一方、「国民がやってもらいたいと思っていることに全力を尽くす」とのべ、続投する考えを表明した。▲森山幹事長は、選挙の敗北の責任を取りたいとして幹事長を退任する意向を示し、進退伺いを提出した。石破首相は申し出を預かるとの考えを示したことから、執行部は当面、職務を続ける見通しだ。(了)

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石破首相続投表明と世論の風向き

参院選の大敗を受けて自民党の両院議員総会では、総裁選の前倒しを求める意見が相次ぎ、臨時の総裁選挙を行うかどうか総裁選管理委員会で検討を進めることになった。党内では総裁選の前倒しを通じて、石破首相へ退陣圧力を強めようとする動きが目立つ。

こうした中で、NHKの8月世論調査によると、石破首相が続投の意向を表明していることについて「賛成」が「反対」を上回った。また、自民支持層では「賛成」が7割近くを占めた。

このように自民党所属の国会議員と世論の評価が分かれたことに加えて、自民党の国会議員と自民支持層との間でも評価が異なるようにみえる。こうした理由、背景には何があるのか。また、石破首相の進退問題は今後、どのような展開になりそうなのか考えてみたい。

 続投賛成69%、反対23%自民支持層

さっそくNHKの8月の世論調査(8月9~11日実施、有効回答42%)からみていきたい。まず、石破内閣の支持率は38%で、7月調査より7ポイント上がった。不支持率は45%で、8ポイント下がった。

石破首相が参院選の敗北後、「政治空白をつくってはならない」として続投の意向を示していることについて、賛否を尋ねたところ「賛成」が49%で、「反対」の40%を上回った。

支持政党別にみると、自民党の支持層では「賛成」が69%に上り、「反対」の23%を大きく上回った。

野党支持層では「反対」が55%で、「賛成」の39%より多かった。無党派層では「賛成」と「反対」がどちらも43%で拮抗した。

年代別では、40代以下では「反対」が6割前後で「賛成」を上回ったが、50代では賛成47%、反対48%で拮抗。60代以上は「賛成」が5割から6割に達し、「反対」を上回った。

このように世論全体では、石破首相の続投について「賛成」が「反対」を上回った。また、自民支持層に限ってみると7割近くが「賛成」しているのは、どのような理由、背景があるのだろうか。

自民党関係者に聞いてみると「参院選の敗北については、石破首相の責任だけでなく、自民党自体に問題があると受け止めているのではないか。また、石破首相の退陣を求める議員には、裏金問題を起こした旧安倍派の議員や旧派閥の幹部が関与していることが影響しているのではないか」との見方をしている。

このほか、「日米関税交渉の仕上げ段階で、首相を交代させるのは望ましくない」との受け止め方や、「自民党内の主流と、非主流の権力抗争という冷めた見方が影響しているのではないか」といった見方も聞かれる。

一方、自民党の長老は「石破内閣の支持が上昇したといっても6月の水準に戻っただけだ。支持率より不支持率が上回る状況が改善されたわけではない。去年の衆院選に続いて、参院選でも大敗した政治責任が解消されるわけではない」との見方を示す。

臨時総裁選と首相進退、来月ヤマ場か

それでは、今後の展開はどのようになるのだろうか。自民党は参院選敗北の要因などの分析を続けており、最終報告がまとまるのは8月最終週になる見通しだ。

もう一つの臨時の総裁選を行うかどうかについては、この問題を扱う総裁選管理委員会の委員の欠員を補充する作業があるほか、総裁選の前倒しは初めてのケースで検討に時間がかかるため、結論が出るのは9月に入るのではないかとみられている。

一方、森山幹事長は参院選総括の報告書がまとまった段階で、自らの責任を明らかにするとしている。このため、参院選の総括と臨時総裁選の扱い、それに党執行部の責任問題に最終的な結論が出るのは、9月上旬になる見通しだ。

その場合、石破首相としても自らの政治責任や、党の執行部体制や運営方針を明らかにする必要があるため、9月上旬が当面のヤマ場になるのではないか。

その後の動きは、石破首相の進退と臨時の総裁選が行われるのかどうかによって変わってくる。仮に臨時の総裁選を行う場合でも、今回の世論調査では石破首相の続投に賛成する意見が多いことから、単なる首相の交代だけに終わっては新総裁が世論の支持を得るのは難しい。

したがって、参院選の総括では選挙戦術や体制だけでなく、主要政策の提起や、政権与党としての役割を果たせたのか、さらには積年の党の体質まで踏み込んだ分析とこれからの党再生の方向性を打ち出せるのかが問われるのではないか。

自民党はこの秋に結党70年を迎えるが、衆参両院で過半数を失ったのは結党以来、今回が初めだ。政権与党として党の態勢立て直しはできるのか、危機的状況を迎えているようにみえる。(了)

★追記(20日23時)自民党は19日、総裁選管理委員会を開き、臨時の総裁選挙について、その是非を判断する手続きの議論を始めた。臨時の総裁選挙の実施を求める議員には、書面で申し出てもらう方向で検討を進めることになった。選挙管理委員会は、24日の週にも会合を開き、書面を提出する方法や、提出した議員を公表するかどうかなどの具体的な検討を行う。そして、執行部が今月末をめどにまとめることにしている参院選の総括が終わり次第、手続きに入りたい考えだ。

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石破首相の進退、3つのポイント

参院選挙の大敗を受けて自民党は8日、両院議員総会を開き、石破首相は「アメリカとの関税交渉は合意に達したが、実行にあたりさままざまな問題を抱えている」などとして、続投の意向を重ねて示した。

これに対し、総会では総裁選の前倒しの実施を求める意見が相次ぎ、総裁選挙管理委員会で今後の対応の検討を進めることになった。石破首相の進退問題は、今後、どのような展開をたどることになるのか、探ってみたい。

 総裁選前倒しの動きは強まるか

先月28日に開かれた両院議員懇談会は4時間半に及んだが、今回の両院議員総会はおよそ2時間で終わった。石破首相と森山幹事長の挨拶の後、総会は非公開で行われ、石破首相の下で党の結束を呼びかける意見が出された一方で、総裁選挙の前倒しの実施を求める意見が相次いだ。

そして、両院議員総会には、総裁選の前倒しを決める権限がないことから、総裁選を前倒しするかどうかの判断を総裁選挙管理委員会に一任することを決めた。

総裁選の前倒しは党則第6条に規定されている。党所属議員と都道府県連の代表各1人を合わせた総数の過半数の要求があれば、総裁選を行うと定めている。事実上の総理・総裁のリコールの規定ともいわれ、石破首相の退陣を求める意味を持っている。

このため、石破首相の進退問題は、総裁選の前倒しを求める動きが強まるかどうかが第1のポイントになる。これまで総裁選前倒しは行われたことがないため、どのような方法で、議員や都道府県連代表の意思を確認するのかなどについて、逢沢一郎総裁選管理委員長の下で検討が進められることになる。

 参院選の総括と政治責任の取り方

2つ目のポイントとしては、参院選を総括する報告書がまとまった段階で、石破首相と自民党執行部が政治責任について、どのように判断するかが焦点になる。

選挙総括の報告書がまとまるのは、8月の最終週になる見通しだ。森山幹事長は報告書をとりまとめた段階で、自らの責任を明らかにするとしていることから、幹事長を辞任するものとみられる。

その場合、石破首相は党総裁としての政治責任をどのように判断するのか問われることになる。一方、仮に石破首相は続投することになった場合も、森山氏の後任に有力な幹事長を起用できるかどうかが問題になる。

さらに9月の自民党役員人事と合わせて内閣改造を行う場合、党内の協力が得られるかどうかも大きな問題になりそうだ。

石破首相が自らの政治責任と今後の政権運営についてどのような判断をするか、8月下旬以降、石破首相の進退問題が再び大きなヤマ場を迎えることになりそうだ。

少数与党、国会・政権運営の戦略

さらに石破政権と自民党は衆参ともに与党過半数割れという厳しい状況の中で、国会や政権をどのように運営していくか政権運営の展望と戦略が問われている。これが3つ目のポイントだ。

参院選の公約などを実現するため、10月には秋の臨時国会を召集することになる。衆参両院ともに与党は過半数割れしているため、補正予算案や法案を成立させるためには野党の協力なしには1件の法案、予算案も成立しない厳しい状況にある。

自公連立を維持したうえで、野党の一部に連立への参加を求めることが考えられるが、野党各党はいずれも石破政権に距離を置いており、連立の枠組みを拡大するのは難しい情勢だ。

このため、石破政権の続投で秋の臨時国会に臨むのか、それとも石破首相の退陣、新しい総理・総裁の下で難局の乗り切りをめざすのか、自民党内の動きが活発になる見通しだ。

一方、仮に石破首相が退陣し後継の新総裁を選出しても衆参ともに与党は過半数割れしているため、新総裁が必ず首相になれるとは限らない。また、国会の運営でも主導権を確保できる保証はない

報道各社の世論調査をみると参院選の自民党大敗の原因は、石破首相個人の責任というよりも自民党に問題があると考えている人が多数を占めている。このため、自民党の政党支持率も長期低迷状態が続いている。

こうした背景には、裏金問題をはじめとする「政治とカネの問題」をいつまでも引きずる”古い政党”というイメージを持たれていることがある。また、経済政策や子育て、教育、社会保障などの面でも斬新な政策は期待できないという厳しい評価が影響している。こうした点を自民党は重く受け止める必要がある。

以上3つのポイントを見てきたが、石破首相にとっては続投の道は極めて狭く、険しいことがわかる。一方、自民党内も非主流・反主流の立場の議員が自らの復権をねらって党内抗争を仕掛けるような場面が出てくると国民から完全に見放されることになるだろう。

今年秋には結党70年を迎える自民党が石破政権が党の立て直しに向けて、どのような対応、方針で臨むのか、8月末に向けた動きをじっくり見極めたい。(了)

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