自民総裁選の見方・読み方  ”政権与党 危機のゆくえ”

石破首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、党員投票も含めた「フルスペック方式」で、「9月22日告示、10月4日投開票」の日程で行われることが決まった。

茂木敏充・前幹事長が10日に立候補することを正式に表明したのに続いて、11日には小林鷹之・元経済安全保障担当相が立候補意向を明らかにした。林芳正官房長官や、高市早苗・前経済安全保障担当相も立候補の意向を固めており、小泉進次郎・農水相も立候補するとみられる。いずれも去年の総裁選に立候補した顔ぶれだ。

自民党の総裁選挙はその時々の政治状況などを反映して、選挙の仕組みもたびたび変わった。私自身の経験を振り返っても総裁選を最初に取材したのは、駆け出しの政治記者時代の昭和53年・1978年だった。当時の福田赳夫首相に対し、大平正芳幹事長らが挑戦した。

当時はロッキード事件で田中角栄元首相が逮捕され、党改革の一環として今の党員投票につながる「党員参加の予備選挙」が初めて実施された。田中派の支援を受けた大平氏が勝利を治めたが、その田中派の選挙を指揮した後藤田正晴氏(後に中曽根内閣で官房長官などを歴任)を取材し、激烈な戦いの一端を知ることができた。

話を戻して、このように連綿と続いてきた総裁選だが、これまでと決定的に異なるのは、有権者の支持離れが進み、衆参ともに過半数割れに転落した中で行われるという点だ。一言でいえば「党の存亡がかかった総裁選」ということになる。

国民としては、誰が勝つのかに当然関心はあるが、同時に長期に政権を担ってきた自民党はどこに向かうのか、日本の政治は安定するのかどうかという点だろう。そこで、今回の総裁選はどこを注目してみていくとわかりやすいのか、総裁選の見方・読み方を探ってみたい。

揺らぐ「国民政党」、基本政策は明確か

石破政権と自民党は去年の衆院選挙に続いて、今年夏の参院選挙でも大敗を喫し、衆院に続いて参院でも与党過半数割れに追い込まれた。こうした選挙結果を受けて行われる今回の総裁選挙では、党勢の回復につながる取り組みができるかどうかが焦点になる。

自民党がまとめた参院選の総括の報告書では敗因として「物価高対策が国民に刺さらず、自民党らしい争点設定が出来なかったこと」や、「政治とカネを巡る不祥事で信頼を喪失した」ことを挙げた。

加えて「長年わが党を支えてきた保守層の一部にも流失が生じたこと」や「自民党は左傾化しているなどの疑念も一部世論に生まれ、他党へ流失することになった」と分析している。そのうえで「解党的出直し」に取り組み、「真の国民政党」に生まれ変わると強調している。

この「解党的出直し」をめぐって総裁選では、具体的な取り組み方が論点になる。候補者の中からは「石破政権の政策はリベラル色が強すぎた」などとして、選択的夫婦別姓や外国人の不動産取得問題などで保守的な路線を強める意見が出されることが予想される。

一方、候補者の中には「自民党は保守層を中心に、無党派層など幅広い層の支持獲得をめざしてきており、これまでの路線を変えるべきではない」といった主張が出されることが予想され、党の路線をめぐる議論が注目される。

こうした党の路線に関連して、参政党が「日本人ファースト」、国民民主党が「手取りを増やす夏」などの分かりやすいキャッチフレーズで有権者を引きつけたのに対し、自民党は何をめざすのか明確でなく、発信力が極めて弱かったとする指摘が党内からも出されている。

また、国民からは「バブル崩壊後、賃金は横ばいのままで自民党の経済政策は失敗したのではないか」、「これからの経済・財政政策の内容や、将来社会のビジョンや構想も明らかでない」といった声が聞かれ、こうした声にどのように応えるのか。

さらに、トランプ政権への対応をはじめ、中国、韓国などとの近隣外交、今後の防衛力整備の進めなどについても、各候補がどこまで踏み込んだ見解を示すことができるかも問われている。

 連立政権の枠組み、野党との連携は

衆参両院ともに過半数割れに追い込まれた自民党は、予算案や法案を国会に提出しても野党側の協力が得られなければ、一本も成立させることはできない。このため、こうした過半数割れの状況をどのように打開するのかが焦点になる。

これまで石破政権がとってきたように政策ごとに野党と連携する「部分連合」の方法を続けるのか。それとも、今の自公連立政権の枠組みに野党の協力を求め、枠組みの拡大を図るという方法もある。

こうした方法のどちらを選択するのか。また枠組みを拡大する場合、維新や国民民主、立憲民主のどの党と連携するのか、実現可能性はどの程度あるのかも議論になる見通しだ。

政治とカネ、党の体質改善はできるか

総裁選の注目点として国民の多くは、自民党の宿痾として「政治とカネの問題」にどこまで本気で取り組むのかを見極めようとしているようにみえる。

党の参院選総括の報告書でも「不記載の慣行がなぜ再開されたのかなど、この問題は国民の信頼を損なう大きな要因になり続けている」「この問題が引き続き自民党に対する不信の底流となっていることを厳しく自覚し、猛省をしなければならない」と指摘している。

このように「不信の底流」と認識しているのだが、「政治とカネの問題」に踏み込んだ対応策は示されていない。総裁選に立候補するリーダーは、党の体質改善を含めて、どのような具体策を打ち出すのかが注目している。この1点は明確にしないと「解党的出直し」も国民から信用されないだろう。

リーダーの条件 ”側近・同志はいるか”

最後に総裁選の候補者をどのように評価するか。投票権を持つのはおよそ100万人の党員などに限られ、私たち大多数の国民には投票権はないのだが、首相に就任すれば、直接関係することになる。

政党や国のリーダーの評価をめぐっては本人の見識、主要政策、実行力の有無などが判断基準になるが、”側近や同志”と言える人がいるかどうかは、特に首相の条件としては大きな比重を占めると感じる。

例えば、冒頭に触れた田中角栄元首相には二階堂官房長官、竹下登首相には金丸幹事長や”7奉行”と呼ばれた議員、小泉純一郎首相には飯島秘書官、安倍首相には今井尚秘書官といったように側近や同志がいた。

こうした一心同体とも言える側近や、政権を支える同志がいるかどうかは政権の安定性に関わってくる。安倍元首相が持病の悪化で退陣したのが2020年夏だったが、それから5年が経過し今度で早くも5人目の総理・総裁選びになる。

今回、総裁選候補として名前が挙がっている5人に、こうした側近、同士がいるかどうかも大きなポイントだ。側近・同志といったレベルでなくても、にわか仕立てではない有能な人材を結集できているかどうかも見ていく必要がある。

ここまでみてきたように自民党は今、政権政党として存続できるのかどうか危機的状況にある。今回の総裁選で「党の路線や主要政策」、「連立の枠組みの拡大」、「政治とカネをめぐる党の体質改善」、さらには「側近・同志の存在を含めた首相を支える体制整備」がどこまでできるかが問われることになる。

新総裁の選出で日本の政治は、真っ当な政治へ一歩近づくことになるのか、それとも混迷の度を深めることになるのか、これからの総裁選の展開をしっかり見届けたい。(了)

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石破首相 辞任表明”党内窮状打開できず”

参院選での大敗を受けて自民党は、臨時の総裁選挙を行うかどうかの意思確認を8日に行うことにしていたが、石破首相は7日夕方、緊急の記者会見を開き「アメリカの関税措置を巡る対応に区切りがついた」として、首相を辞任する考えを表明した。

これによって、8日に予定していた臨時総裁選挙をめぐる国会議員や都道府県連の意思確認は行われないことになり、代わって石破首相の後任を選ぶ総裁選挙を行うことになった。

続投に強い意欲を示していた石破首相がなぜ、辞任を決断することになったのか。また、今回の事態をどのように評価するか考えてみたい。

”石破降ろし”打開できず、退陣決断へ

石破首相は7日午後6時から開いた記者会見で「自民党総裁の職を辞することとした。新総裁を選ぶ手続きを行うよう森山幹事長に伝えた」と切り出し、総理大臣を辞任する考えを明らかにした。

その理由として石破首相は「アメリカの関税措置に関する交渉に一つの区切りがついたこと」とまた、「このまま臨時の総裁選挙要求の意思確認に進んでは、党内に決定的な分断を生みかねないと考え、苦渋の決断をした」と説明した。

石破首相が辞任を決断した背景としては、こうした理由があるのも事実だろう。一方、自民党内では臨時総裁選の意思確認の状況次第で、石破首相が自ら辞任を選択するのではないかとの見方が一部にあったのも事実だ。

その国会議員や都道府県連の意思確認だが、7日の時点で自民党の国会議員のうち、臨時総裁選挙を実施すべきだとする議員は130人と全体の5割近くに達した。

全国47都道府県連では、6日までに18の都道府県連が実施を求める方針を決め、2つの県連が実施を求める方向で意見集約を進めていた。

国会議員と都道府県連代表を合わせると150人に達し、臨時総裁選実施に必要な172人に達することが確実な情勢になりつつあった。

こうした中で、党副総裁の菅元首相と小泉農水相が6日夜、首相公邸を訪れて会談した。会談の詳細は明らかではないが、菅元首相らは「党の結束が何よりも重要だ」として、意思確認の書面提出が行われる前に、石破首相が辞任するよう促したとされる。

このように石破首相が続投の方針を転換し、辞任を決断した背景には臨時総裁選が実施される可能性が大きくなったことが影響している。臨時総裁選が実施された場合、仮に石破首相が立候補しても勝算は乏しいことから、自ら身を引く決断をしたというのが実態に近いとみている。

いつまで続ける党内抗争、国民の苛立ち

それでは、これからの政治はどのように展開することになるのだろうか。冒頭に触れたように8日に予定していた国会議員と都道府県連の意思確認の手続きは中止される。

これに代わって、石破首相の後任を選ぶ総裁選挙が行われる。自民党の総裁選びには2つの方式があり、1つは「簡易型」で、国会議員と47都道府県連の各代表3人ずつが投票する方式だ。

もう1つが「フルスペック型」と呼ばれる方式で、全国105万人余りの党員・党友と、国会議員が投票する。党員が参加するため、選挙期間は12日間以上かかる。

森山幹事長は7日夜の記者会見で、石破首相の後任を選ぶ総裁選について「できるだけ党員が直接参加する形を模索することが大事だ」とのべた。自民党は早急に総裁選の方式と日程を決めたいとしているが、「フルスペック型」の場合、新しい総裁が決まるのは10月上旬頃までかかることが予想される。

こうした石破政権と自民党の対応をどのようにみるか。7月に参院選挙の結果が出てから8日で、50日・1か月半もかかっている。国民の多くは「続投か、退陣か、いつまで党内抗争を続けているのか」と苛立ちを感じているのではないか。

石破首相と自民党は、政治空白が長期化していることについて猛省する必要がある。そして、新総裁が選ばれたとしても自民党は少数与党に転じたため、新総裁が新しい首相に選出されるかどうかはわからない。

さらに、仮に自民党の新総裁が首相に選ばれたとしても補正予算案や法案は、野党の協力が得られなければ1本も成立しない。政権の枠組みの拡大や、国会運営でも野党側の協力が不可欠で、これからの政治は混迷状態が長期化することも予想される。

報道各社の世論調査をみると国民のかなりの部分は、自民党は今後も政権担当能力を維持できるのかと疑問を感じ始めているようにみえる。旧派閥の裏金問題など「政治とカネの問題」に真正面から取り組まない。物価高や日本経済再生の青写真なども一向に示されないことに失望感を抱き始めているようにみえる。

石破首相の後継総裁選びに当たって自民党は、骨太の将来像や実現に向けての具体策を打ち出せるのだろうか。また、これからの難局を乗り切っていけるようなリーダー候補は残っているのかどうか、国民は厳しい視線を自民党に注いでいる。自民党は岐路にさしかかっているのではないか。(了)

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自民臨時総裁選”実施要求に勢い”8日決着へ

自民党は参院選挙の大敗を受けて、臨時の総裁選挙を行うかどうかの党内手続きを進めているが、どのような結果になるだろうか?

「臨時の総裁選を実施すべきだ」という実施派と、参院選の敗因は石破首相個人の責任ではなく、党全体の問題だとして「実施する必要はない」とする首相支持派とが激しくぶつかっている。

これまでのところ、実施派の方に勢いがみられる。現状の分析と、どのような形で決着がつくことになるのか、探ってみた。

臨時総裁選の是非、8日意思確認・公表

自民党は2日に開いた両院議員総会で、参院選大敗を総括した報告書を了承した。これを受けて、臨時の総裁選挙を行うかどうか、その是非を問う党内手続きに入った。

党所属の国会議員295人と47都道府県連の総数の半数、172人が賛成すれば、臨時の総裁選挙を実施することなる。その国会議員の意思確認として、実施を求める議員は、8日午前10時から午後3時までに党本部に書面を持参するのを原則としている。

また、47都道府県連についても賛否を報告し、結果がこの日に公表されることになっている。臨時の総裁選の実施は初めてとなるため、実施を求める議員と、反対する議員との間で激しい駆け引きが続いている。

NHKの取材によると1日までに295人の議員のうち、およそ100人が「総裁選を実施すべきだ」としているのに対し、50人余りが「実施の必要はない」としている。「態度を決めていない」とする議員や「考えを明らかにしない」議員が140人となった。

つまり、「態度を明らかにしない議員」が全体の47%を占めていることもあって、最終的にどのような結果になるのか、情勢は混沌としているのが現状だ。

賛否めぐり攻防激化、実施派に勢いか

そこで、自民党の長老に今の情勢を尋ねてみると「賛否の主張や動きから判断すると、実施を求めている議員の側の方が熱量や運動量の面で上回っている。今後もそうした傾向が続くのではないか」として、最終的には実施派が過半数に達するとの見方を示している。

自民党内の動きを整理してみると、実施を求める議員として政府の副大臣や政務官が相次いで、実施を求めていくことを表明している。副大臣、政務官47人のうち、3日までに22人に上っているので、かなりの割合だ。

党の関係者にきくと「旧派閥の関係で働きかけているのはあまりみられない」という。「目につくのは、当選5回以下の中堅や若手議員で、当選同期の集まりや、党の部会のつながりで意見を交わすケースが多い」とされる。

中堅・若手議員の中には、態度を明らかにしていない議員が多いのも事実だ。これは仮に臨時総裁選が行われない場合、人事や選挙の公認などで冷遇されるおそれがあることが影響しているのではないかとみられる。

また、報道各社の世論調査で、石破内閣の支持率が上昇していることや、「石破首相の辞任の必要はない」とする人が、「辞任を求める」人を上回っていることも影響しているのではないかという。

一方、石破首相の続投を支持する議員としては、ベテラン議員が目立つ。石破首相を支持する理由としては「選挙の敗因は、派閥の裏金問題など党の問題の方が大きい」「世論の多くは、首相の辞任を求めていない」などを挙げる。

また、石破首相を支持する議員からは、総裁選を行うよりも衆院解散・総選挙を行うべきだとして、総裁選実施をけん制する意見も出されている。但し、衆参ともに大敗した総理・総裁が今、解散を断行するだけ力量や大義名分はあるか、否定的な見方が多いのではないか。

このように情勢は混沌としているのだが、自民党関係者に聞くと「今回の参院選総括の報告書では、石破首相(総裁)や執行部の責任問題が正面から捉えられていないことに反発する声が非常に強い」とされる。

また、「中堅・若手議員の多くは、次の衆院選挙は、連戦連敗の石破首相ではなく、新たなリーダーの下で戦いたいと考える議員が多いのではないか」と考えられる。

このように考えると長老が指摘するように、臨時総裁選の実施を求める議員や都道府県連代表が今後も増えて、過半数を上回る可能性が大きいとの見方をしている。

総裁選のケース、石破首相の辞意表明も

それでは、臨時総裁選と石破首相の進退問題は、どのような展開になるのだろうか。

▲まず、8日に行われる意思確認の結果、総裁選の実施を求める意見が総数の過半数に達しないケースがある。この場合は、当然、臨時総裁選は行われない。石破首相が続投することになる。これが、第1のケースだ。

▲第2のケースは、実施を求める議員が総数の過半数に達した場合で、総裁選が行われる。この場合、簡易型の総裁選、つまり両院議員総会で、都道府県連代表を加えて行う方式。もう一つは、フルスペック型の総裁選。党員・党友の投票と、国会議員の投票を行う方式があり、党で検討することになる。おそらく、今回は後者になるのではないか。

▲第3のケースは、8日の意思確認手続きを行わずに、その前に石破首相が辞意を表明することも想定される。石破首相は2日の両院議員総会で「しかるべき時に決断する」と語ったが、具体的な内容には触れなかった。

仮定の話だが、臨時総裁選実施の可能性が極めて高くなった場合、事実上、現総裁に対する不信任に値する。その場合、党の意思決定を行う前に、石破首相自らが退陣を表明することもありうるのではないか。

以上のように3つのケースが想定されるが、いずれにしても8日に決着がつく見通しだ。但し、長期にわたって政権を維持してきた自民党は、結党以来初めて衆参両院で過半数割れした。国民の信頼を取り戻せるのか、そのためのリーダーは存在するのかどうか、極めて厳しい前途が予想される。

★追伸(5日23時)▲石破首相は5日、トランプ米大統領が日米関税合意に基づいて大統領令に署名したことを受けて、改めて退陣を否定した。記者団が、日米交渉の終結で自身の進退に関する考えに変化はあるかと質問したのに対し、「関税対策は、(自らの)進退に関係なく、政府としてどうしてもやり遂げなければならないことだった」と答えた。また、石破首相は、今年秋に経済対策を策定する考えを示し、続投に強い意欲を示した。▲一方、鈴木法務相は5日午前、臨時の総裁選挙の実施を求める考えを表明した。石破内閣の閣僚が実施を求めるのは、鈴木法相が初めてで、石破首相にとって痛手となる。

★追伸(6日21時)▲全国の都道府県連のうち、6日までに臨時総裁選の実施を求める方針を決めたのは、北海道、青森、埼玉、東京、静岡、滋賀、奈良、愛媛、宮崎など17都道県連。実施を求める方向で意見集約を進めているのは、山形、新潟の2県連。これに対し、実施を求めない方針を決めたのは、福島、福井、岐阜、鳥取、岡山、大分、鹿児島、沖縄の8県連。(了)

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