“自公連立崩壊”の見方・読み方

自公連立政権から公明党が離脱し、26年に及ぶ両党の協力関係が崩れた。公明党の斉藤代表は10日、自民党の高市総裁と会談し「公明党が最も重視している政治とカネの問題をめぐる自民党の対応が不十分だ」として、連立政権を離脱する方針を伝えた。

公明党は、石破首相の後継を選ぶ首相指名選挙では高市氏には投票しない考えで、選挙協力も白紙に戻す方針だ。

これに対し、自民党は14日に両院議員総会を開き、高市総裁らが経緯を説明し、今後の対応についても意見を交わすことにしている。高市総裁ら党執行部は、首相指名選挙などで維新や国民民主党の協力を求めるものとみられる。

一方、立憲民主党は「首相指名選挙で野党側がまとまれば、政権交代の可能性も出てくる」として、維新や国民民主党に候補者の一本化に向けて党首会談を呼びかけている。14日には3党の幹事長会談が行われる見通しだ。

このように首相選びをめぐって与野党の駆け引きが活発になっているが、その前に今回の自公連立崩壊の意味や、今後の政権のあり方などを掘り下げて議論し、確認していく必要があるのではないか。そうした基本姿勢がないと政治の混迷から脱却できないのではないかと危惧している。

首相選び比較第1党か、野党連携か

まず、当面の焦点である石破首相の後継を選ぶ臨時国会の召集と首相指名選挙からみておきたい。10月4日に高市氏が自民党の新総裁に選出されたが、首相指名選挙を行う臨時国会の召集日程は未だに決まっていない。

外交日程は、26日からASEAN=東南アジア諸国連合の首脳会議や、27日にはトランプ米大統領の訪日が予定されている。政府・自民党は、20日の週の早い時期に臨時国会を召集したいとして調整を続けている。

ところが、公明党の連立離脱で、首相選びの情勢が見通せない状況になっている。自公連立政権では衆参両院とも自公で過半数を割り込んでいるものの、衆議院では220人を上回る勢力を維持していた。

ところが、公明党の離脱で衆議院では、自民党の勢力は196(衆院議長除く)まで縮小した。これに対し、立憲民主党は147、日本維新の会は35、国民民主党は27の勢力だ。野党3党がまとまれば209で、上位2人による決選投票に持ち込まれた場合、自民党を上回ることもあり得ることになる。

立憲民主党は「政権交代のチャンスだ」として、野党候補を1本化するよう働きかけている。そして野党統一候補として、国民民主党の玉木代表を推すこともありうるとして攻勢を強める構えだ。

これに対し、維新と国民民主党は、憲法や原発・エネルギーなどの基本政策が一致していないとして、今のところ慎重な姿勢を崩していない。

首相指名選挙では与野党のさまざまな組み合わせが想定され、誰が選出されるのかはっきりしない。今の時点で与野党の対応を基に判断すると、衆参ともに勢力が最も多い比較第1党は自民党なので、高市総裁が選出される可能性が高いとみられる。

但し、野党が結束すれば自民党を上回るので、野党候補が首相に選出されることもありうる。93年に8党派による細川連立政権が誕生したように、野党各党が歩み寄ることがあるのかどうか、みていく必要がある。

 連立崩壊で単独政権、極めて異例

それでは、これからの政治はどのように展開するだろうか。首相指名選挙の行方は先ほどみたように流動的だが、比較第1党の会派から選出される確率は高いので、高市総裁が選出された場合を想定して考えてみたい。

高市総裁の場合には、女性で初めての首相就任になるので、国民からの期待や支持がかなり高まることが予想される。但し、首相の評価は、実績や政権の安定、国民の信頼が得られるかどうかがカギを握る。

高市氏自身の評価はこれからであり、今の時点では過去の連立政権をめぐる動きが判断材料として参考になる。仮に高市氏が首相指名を受けた場合、国民民主や維新が直ちに政権に参加する確率は低いとみられ、自民党の単独政権としてスタートする公算が大きい。

自民単独政権の先例はどうだっただろうか。直ぐに頭に浮かぶのは93年に政治改革をめぐって自民党が分裂し、衆院選を経て宮沢政権が退陣、非自民・非共産の8党派からなる細川連立政権の誕生だ。この時まで自民1党優位体制が続き、自民党の単独政権が長期にわたって続いた。

この細川政権以降、日本政治は「連立の時代」に入り、自民党は社会党やさきがけと連立を組むことで政権を奪還し、その後も連立相手を変えながら政権を維持してきた歴史がある。

こうした中で、自民党が単独政権となったのは橋本龍太郎政権の時だ。当初、自社さ3党連立政権の枠組みでスタートしたが、96年の衆院選挙後、社民党とさきがけが閣外協力に転じ、自民単独政権に変わった。当時、自民党は最大野党の新進党に勝利したものの、過半数を割り込み少数単独政権としての再出発だった。

その後、自民党は新進党からの離党者を”一本釣り”して復党させ、衆院の過半数を回復した。この復帰組の中に今の石破首相、高市総裁も含まれていた。社民、さきがけの閣外協力は96年6月に解消されたので、橋本政権ではそれ以降、98年の退陣までの1年2か月、自民単独政権が続いたことになる。

その橋本首相は98年7月の参院選で大敗して退陣し、小渕恵三首相が後継首相を務めた。衆院は過半数を確保していたが、参議院は過半数割れし、衆参ねじれ国会に苦しんだ。

当時は金融危機が続いており、日本長期信用銀行も破綻に追い込まれた。金融再生関連法案を早期に成立させる必要があり、野党案を丸飲みして、成立にこぎ着けた。

また当時、防衛庁の背任事件をめぐり、参院で額賀防衛庁長官(今の衆院議長)に対する問責決議案が野党側から提出されて可決され、額賀長官が辞任に追い込まれた。問責決議案で閣僚が辞任に追い込まれた最初のケースだった。

こうした政権の不安定さから脱却するために小渕首相は、当時の自由党の小沢代表と会談し、連立政権を発足させることで合意した。その影の立役者が野中官房長官で、安定政権のためには「ひれ伏してでも連立をお願いする」ととして小沢氏の連立参加を取りつけたのは有名だ。

この自自連立を契機に自自公連立、自由党が外れて自公連立へとつながった。つまり、自民単独政権は橋本政権後半の1年2か月と、小渕政権発足から自自連立まで5か月の合わせて1年7か月に過ぎない。細川連立政権以降30年のうち、自民単独政権は極めて限られたケースであることがわかる。

ここまで長々と説明したのは、連立政権の背景には先人達の心血を注ぐような努力の積み重ねがあることを知ってもらうためだ。

逆に言えば、今回自公連立が崩壊に追い込まれた背景には、自民党の対応にさまざまな問題があったのではないか。端的に言えば、連立に必要な「信頼感」を持続させていくことができなかったと言えるだろう。

具体的には、公明党は衆院選、都議選、参院選と連敗を喫し、最も強く求めたのが「政治とカネの問題」だったが、自民党からは踏み込んだ対応ができなかった。余りにも鈍感すぎる対応とみることもできる。

また、自民党内には「公明党は、連立からは外れない」との思い込みが常態化していたと感じる。さらに、高市氏が新総裁に選出された直後に国民民主党の玉木代表と極秘会談を行ったとの情報が流れ、公明党側の不信をさらに強めることになった。

連立崩壊、中心軸なき混迷政局続くか

最後に自公連立崩壊後の政治はどう動くのだろうか。まず首相指名選挙では、与野党の誰が指名されることになるのか混沌とした状態が続いている。

ただ、四半世紀続いてきた自公連立政権が崩壊したことで「政治の中心軸がなくなった状態」と言っていいのではないか。衆院(総定数465)で考えてみるとこれまでは自公で220人、過半数を下回るものの、一定の規模・中心軸があった。

ところが、公明党が外れ、今や自民党の勢力は196人にまで縮小した。主導権を発揮できる集団がなくなり、政治の混迷は避けられない情勢だ。

当面は、衆参ともに比較第1党の自民党がどのように対応するかがカギを握る。仮に高市総裁が首相に選ばれた場合、高市氏自身が大局的な立場で、安定した政権運営を行えるかどうか。そのためには、内閣の要である官房長官にかつてのような実力と経験を持った人材を起用できるかどうかが大きなポイントになる。

一方、野党側も野党第1党の立憲民主党が150人近い議員を有しており、どこまで他の野党を説得できるかが問われる。維新、国民民主も野党の立場で政権交代をめざすのか、それとも自民党との連携し政策実現の道を歩むのか態度を明確にすることが迫られるだろう。

こうした自民、野党、そして公明党の各党の動きが続く中で、政権をめざす政党や議員の離合集散、政界の再編成が始まることになるのではないか。これから新たな政治の動きがいつ、どのような形で起きるのかが焦点になる。(了)

▲追伸(14日22時)◆政府は臨時国会を21日に召集する方針を固め、15日に衆参両院の議院運営委員会で与野党に伝える。召集日に首相指名選挙が行われる見通し。◆自民党両院議員懇談会が14日開かれ、高市総裁は公明党の連立離脱の経緯を説明し「私の責任であり、おわびしたい」と陳謝した。そのうえで、「首相指名のギリギリまで努力していく」と表明した。◆立憲民主党と日本維新の会、それに国民民主党の3党は15日に党首会談を開き、首相指名選挙をめぐり意見を交わすことになった。14日に開いた3党の幹事長会談で決まった。

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自民新総裁に高市氏 ”前途多難の出立”

石破首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は4日投開票が行われ、1回目の投票では決着がつかず、決選投票に持ち込まれた。決選投票では、高市早苗・前経済安全保障相が小泉農水相を抑えて新しい総裁に選出された。自民党総裁に女性が就任するのは初めてだ。

新しい首相を選ぶ臨時国会は、15日召集を軸に調整が進められている。首相指名選挙で野党側は候補者の一本化が難しいことから、高市氏が新しい首相に指名される見通しだ。女性の首相就任は憲政史上、初めてになる。

ただ、自民党は衆参両院で過半数を割り込んでいることに加えて、内政・外交ともに数多くの難問を抱えており、高市氏は政権発足当初から厳しい政権運営を迫られる見通しだ。

今回の総裁選で、高市氏が新総裁の座をつかんだのはどのような事情・背景があったのか。また、高市新総裁はどのような政権運営が問われることになるのか、この2点について探ってみたい。

党員票最多で大差、高市氏勝利の原動力

今回の総裁選挙については「小泉、高市両氏が先行し、最後は決選投票で小泉氏が勝つのではないか」と個人としては予想していたが、結果は逆になった。今回の予測では、どの部分の見通しが間違ったのか、この点から点検してみたい。。

まず、第1回投票の結果をみておくと党員票では、高市氏がトップで119票(党員票全体の40%)、2位が小泉氏84票(28%)、3位が林氏62票(21%)などと続いた。党員票では高市氏が上回ると予想していたので、順位に驚きはなかったが、その差が35票も広がるとはみていなかった。

次に国会議員票では小泉氏が80票でトップに立ち、2位が林氏72票、高市氏は3位で64票だった。高市氏は3位となったものの、トップとは16票差に止め、善戦健闘したということになる。逆に、小泉氏は議員票は予想したほど伸びず、党員票で開いた差を埋めることはできなかった。

1回目の投票で過半数を獲得した候補がいなかったため、上位2人による決選投票となり、高市氏が185票、小泉氏は156票で、高市氏の当選が決まった。

決選投票で高市氏には、麻生派と旧茂木派、それに小林氏を支持した議員の票が回り、議員票と都道府県連票を合わせて高市氏が、小泉氏を大きく上回った。

麻生派を率いる麻生最高顧問は「決選投票では、党員票が最も多かった候補を支援する」として、高市氏への投票を指示したとされる。自民党関係者に聞くと「麻生氏の指示がどこまで徹底したのかわからないが、迷っていた議員を中心に一定の効果をもたらしのは事実だろう」との見方をしている。

このようにみてくると今回の総裁選では、高市氏の勝利は党員票の大量得票が原動力になり、国会議員票にも影響を及ぼした。一方、小泉氏については党員票、議員票ともに伸びがなかったこと。この2点が今回の総裁選を決定づけるとともに、個人的な予測が外れた原因にもなったと考えている。

メデイアは党員調査のあり方の再検討を

自民党総裁選挙をめぐっては、新聞・テレビなどのメデイア各社も選挙情勢を予測したが、全国91万人の党員・党友の投票行動については、組織力のあるメデイアの調査に頼らざるをえない。

そのメデイアの調査だが、党員票については、高市氏と小泉氏のどちらが優勢なのか調査結果も分かれた。この原因は「自民党員」を対象にした調査か、「自民支持層」を対象にした調査かによる違いが大きいのではないかと考える。

「自民党員」を対象にした調査の方が、より正確であることは間違いないが、自民党員のデータをどこから入手するかなど難しい問題があるのも事実だ。筆者が現役時代は、党員名簿を基に調査した時期もあった。正確なデータを得るためには、どのような調査方法が望ましいのか再検討してもらいたい。

総裁選が終わった後、知人の自民党員に誰に投票し、選挙結果をどのように受け止めているのかを聞いてみた。今回は高市氏に投票したという知人は「高市さんは去年総裁選で敗れた後、地方回りを続けてきたことを党員の多くが知っている。そうした努力を評価した党員も多かったのではないか。小泉さんはまだ若いし、経験や見識などをさらに積む必要があると考えた」と語る。

選挙取材の基本は、調査などとは別に選挙権を持つ有権者の声を直接聞き、情勢を分析・判断することにある。限られた党員による選挙という難しさもあるが、選挙の実態にどのように迫るか、メデイアとしての取り組み方を検討し、実践していく必要がある。

 高市新総裁、問われる実績と信頼感

高市新総裁は今週前半に党の役員人事を行いたい考えで、5日の日曜日は新内閣の閣僚人事もみすえ、人事の検討を進めた。

高市氏は「全員活躍、全世代総力結集でみんなで力を合わせて取り組んでいく自民党にしたい」として、総裁選に立候補した他の4人全員を内閣や党役員に起用したいとの考えを示している。また、不記載問題に関与した議員も起用したいとの考えも明らかにしている。

こうした中で麻生最高顧問が率いる麻生派から、所属する鈴木総務会長を要職に起用するのではないかとの観測も出ている。党の主要幹部の顔ぶれがどのようになるのか、当面の焦点だ。

一方、与党・公明党の斎藤代表は4日、高市総裁と会談した中で「連立政権の継続には、公明党が抱く懸念を解消する必要がある」と伝えた。具体的には、高市氏の歴史認識や、靖国神社への参拝の考え方、外国人との共生の問題などが念頭にあるものとみられ、両党の執行部で改めて協議することになった。

高市新総裁は、政権の枠組みの拡大にも意欲を示しており、日本維新の会や、国民民主党との間で、連携のあり方について協議を行うものとみられる。

高市新総裁は64歳、当選10回のベテランで、総務相や経済安全保障相などを務めたほか、党では政務調査会長などを歴任している。安倍元首相に近く、保守的な政治信条の持ち主としても知られている。

高市総裁は新しい首相に指名されると直ちに組閣にとりかかり、新政権が発足する。新政権を国民がどのように評価するか、世論の支持率が注目される。また、10月末にはトランプ大統領の来日も予定されており、外交・安全保障への対応も待ったなしだ。内外ともに難問は山積状態にある。

自民党の長老は「高市新総裁は政治経験は豊富だが、国民の中には保守的な政治信条などを危ぶんでいる人もいる。まずは、向こう1年、実績を上げられるか。そして国民から信頼を得られるかどうかが試される。踏み外すと、短命に終わるおそれもありうる」と指摘する。

少数与党という厳しい政治環境の中で、高市総裁はどのようなかじ取りをしていくのか、まずは、最初の関門である自民党役員人事の顔ぶれを注目してみていきたい。(了)

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”小泉・高市両氏先行、林氏追う展開”自民総裁選

石破首相の後任を選ぶ自民党総裁選は10月4日の投開票に向けて、5人の候補者が最終盤の戦いを繰り広げている。選挙情勢は、小泉農水相と高市元経済安全保障相が先行し、林官房長官が追う展開になっている。

総裁選挙は全国91万人の党員・党友による投票の295票と、自民党所属の国会議員の295票の合わせて590票で争われるが、第1回投票では過半数を得る候補者がおらず、上位2人による決選投票になる見通しだ。

最終盤の選挙情勢はどのようになっているのか、党員・党友による投票と国会議員票のゆくえを分析してみたい。

党員票 小泉・高市両氏が上位で競う展開

まず、党員・党友による選挙は各都道府県連ごとに郵便投票で行われ、10月3日に締め切られた後、翌4日の国会議員の投開票に合わせて党本部に報告され、国会議員票と合わせて公表される。

その党員・党友による選挙情勢だが、これまではメデイアが党員名簿を基にした世論調査を行い、選挙情勢を把握していたが、最近はほとんど行われていない。代わって、世論調査で得られた自民支持層を基に分析する社が多くなっている。

共同通信が9月27、28両日に自民支持層を対象に実施した世論調査によると新総裁にふさわしい候補としては、◇高市氏が最多の34.4%で、◇小泉氏29.3%、◇林氏19.5%と続いた。◇4位は茂木氏5.2%、◇5位は小林氏3.8%だった。

読売新聞が9月27、28両日、自民支持層を対象にした調査では、◇小泉氏が40%で最も多く、◇高市氏が25%、◇林氏が16%と続いた。◇小林氏は5%、◇茂木氏は4%だった。

読売新聞の調査は、コンピューターで無作為に作成した固定電話と携帯電話の番号に対し、自動音声による調査で実施している。9195人が回答し、自民党支持層3143人の回答を集計、分析したとされる。共同通信の調査方法は説明されていない。

読売と共同の調査では、それぞれ1位と2位が小泉氏と高市氏とで異なるが、これは自民党の党員・党友の規模が91万人と少ないことから、調査対象の選び方によって、得られるデータに違いが生じたものとみられる。どちらが実態に近いかは、今の時点でははっきりしない。

こうした違いはあるが、小泉氏と高市氏はいずれも上位に位置しているほか、3位の林氏との差が10ポイント程度とかなり開きがある点も共通している。したがって、順位は別にして小泉、高市両氏が上位で先行していると見て良さそうだ。

自民党の関係者に聞いても「今回、立候補した5人は前回も挑戦しており、党員・党友の得票傾向が推測できる。今回も党内では、小泉氏と高市氏は優勢で、林氏は上位2人に迫るのは難しいとの見方」とも一致する。

但し、小泉氏については、陣営内で動画配信サイトに小泉氏に好意的なコメントを投稿するようメールで要請が行われていたことが明らかになり、小泉氏が26日陳謝した。いわゆる”ステマ行為”が選挙の世界でも現実に起こりうることを示した形で、この問題がどの程度、影響があるか注意深く見ていく必要がある。

議員投票 小泉氏、林氏、追う高市氏

次に、国会議員票の状況はどのようになっているだろうか。自民党議員の情報を基に判断すると、国会議員の295票のうち、小泉氏は、党内から幅広く支持を得ており、既に70票程度は固めたとみられる。そして、さらに上積みする勢いがある。

◇高市氏は、旧安倍派や無派閥の一部の支持を中心に40票程度は固めているとみられる。前回は小泉氏に次ぐ2番目に多い議員票を集めたが、今回は前回のような伸びがみられない。

◇林氏については、旧岸田派や無派閥、かつて所属していた参議院議員を中心に50票程度を固めており、高市氏を上回る勢いがある。◇小林氏と茂木氏については、それぞれ30票程度、固めているとみられる。

このように議員票は小泉氏が先行し、続いて林氏、さらに高市氏が追う展開になっている。

小泉・高市両氏先行、決選投票の展開か

以上のような党員票と国会議員票を合わせると最終盤の選挙情勢はどのようになっていくのだろうか。

小泉氏については、党員票で高市氏と上位を競り合っている一方で、議員票で強みを発揮している。党内からは経験不足などの声が聞かれるが、今回は改革色を抑え、安定感を印象づける戦略をとっている。党員票が最後まで確保できるかがカギを握っている。

高市氏は、高い知名度と発信力で党員票で小泉氏と並んでトップ争いをしているが、今回は議員票で勢いが見られない。高市氏の強い保守的な主張が、公明党との関係や、外交・安全保障面に影響することを警戒しているためではないかとのの見方がある。いずれにしても議員票の獲得が大きな課題になっている。

林氏は、主要閣僚を数多くこなしていることもあってか、議員票を着実に伸ばしている。反面、党員票では小泉、高市両氏に大きな差をつけられている。上位2人のいずれかが失速した場合、2位に浮上する可能性がある。今後、党員票の差を埋めるだけの議員票を上積みできるかどうかがポイントになる。

このようにみると今の時点では「小泉、高市両氏が先行、第1回投票ではどちらも過半数に達しないので、決選投票に持ち込まれる公算が大きい」とみられる。

先行する2人のどちらかが失速したりした場合、追う林氏が2位以内に浮上する可能性もあるという構図になっている。

なお、国会議員については、2割程度が態度を明らかにしていないほか、党員投票についても不確定な要素も残っているので、選挙情勢が変わる可能性があることを申し添えておきたい。

今回の自民党総裁選挙については、2つの視点で見ていく必要がある。1つは、誰が最終的に勝ち抜くのかという点で、これは当然だ。2つ目は、国民政党を標榜してきた自民党が、国民の信頼の回復させることができるかどうかという点だ。

自民党は結党以来、初めて衆参両院で過半数割れしており、仮に新総裁が野党の一部の協力を得て首相に就任できたとしても、これまでのように政権運営の主導権を確保する保証はない。

こうした状況の中で今回の総裁選挙に立候補した5人の候補者の主張は、当面の物価高対策や、野党の連携をいかに取りつけるかが中心で、国民を引きつけるような議論に至っていないのが実状だ。

国民は物価高対策を求めている一方で、中長期の課題の取り組みも求めている。長期停滞が続く日本経済を再生する具体策をはじめ、超少子高齢化が進行する中で社会保障制度は維持できるのか、防衛力の整備と必要な財源をどのように確保するのかといった基本問題に「解」を示す必要があるのではないか。

10月4日に新しい総裁が決まると同時に、政権政党としての自民党が国民の信頼感や期待感を取り戻す手掛かりを得られたのかどうか、この点が最も問われている核心部分にみえる。(了)

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“小泉・高市両氏先行、波乱はあるか”自民総裁選

石破首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は22日告示され、10月4日の投開票に向けて選挙戦が繰り広げられる。22日午前自民党本部で立候補の受け付けが行われ、茂木前幹事長(69)、小林元経済安全保障相(50)、林官房長官(64)、高市元経済安全保障相(64)、小泉農水相(44)の5人の戦いになる見通しだ。

総裁選の主な日程は◇22日午後に各候補の所見発表演説会が行われた後、◇23日に共同記者会見、◇24日に日本記者クラブ主催の候補者討論などのほか、◇東京、名古屋、大阪の3か所で地方演説会が行われる。◇党員・党友の投票は10月3日に締め切られた後、◇4日に国会議員の投票結果と合わせて開票される。

石破首相の退陣表明から既に2週間が経過し、ようやく選挙戦が始まるが、選挙情勢はどのようになっているのか。また、今回の選挙では何が問われているのか、探ってみたい。

選挙情勢、高市・小泉両氏先行の展開か

さっそく、選挙情勢から見ていきたい。メデイアの報道では世論調査を基にさまざまな見方が示されている。共同通信の世論調査(9月11、12両日)によると「次の総裁にふさわしい人」として、高市氏28.0%、小泉氏22.5%、林氏11.4%、茂木氏6.1%、小林氏3.6%などと報じられている。

読売新聞の世論調査(9月13、14両日)では、高市氏が29%がトップで、小泉氏25%、茂木氏7%、林氏6%、小林氏3%。自民党支持層に限ると小泉氏が33%とトップで、続いて高市氏28%、林氏8%、茂木氏6%、小林氏5%と続く。

こうした世論調査は全国の国民が対象で、自民党員(今回は91万人)とは異なるので、当然のことながら自民党員の投票予測とはならない。正確な調査となると党員対象の調査が必要で、今後メデイアの中で党員調査が実施されれば有力な判断材料になる。

党員調査のデータがないので、自民党の議員や関係者の取材にならざるをえないが、国会議員の動向についても麻生派を除いて派閥が解散されているので、従来のような派閥を通じた情勢把握は困難だ。さまざまな選挙結果の見方が飛び交っているが、選挙の予測は何が根拠になっているかの見極めが重要だ。

選挙情勢は自民党議員や党員の話を集めて判断するのが基本になる。ここまでの情報を総合すると「小泉氏と高市氏の2人が先行、これをベテランの林氏と茂木氏、中堅の小林氏が追う展開」との見方が有力だ。

小泉氏と高市氏を上位に予測するのは、第1回投票では党員票の比重が大きいため、人気の高い両氏が優位に立つとみるからだ。また、議員票については各候補とも去年の総裁選に立候補しており、ある程度の予測が可能だからだ。

但し、去年の総裁選では当初、「党員投票では上位間違いなし」とみられた小泉氏がふたを開けると3位に沈んだ。高市氏も党員投票ではトップに立ったが、議員票では小泉氏を下回り、決選投票では石破氏の逆転を許す結果になった。

今回も第1回投票で過半数を得た候補がおらず、決選投票になった場合、2位までに入るのが重要なポイントになる。「小泉氏と高市氏」との見方と、「ベテランの林氏が2位に食い込み、勝者が変わる波乱も起きうる」との見方をする党関係者もいる。

選挙情勢については、態度を決めていないという議員や党員もおり、流動的な要素が残っている。波乱が起きるケースとしては、候補者同士の討論やテレビ出演などでの失言をはじめ、個別の政策をめぐって失速することもある。このため、まずは各候補の主張や論戦の模様を注意深く見ていく必要がある。

 中長期の目標・進路を示せるか

今回の総裁選挙の特徴は「自民党が結党以来初めて衆参両院ともに過半数割れ」という危機的状況の中で行われる点にある。ここで国民の信頼を失えば、政権政党の座から転落する可能性があり、再生の道を見いだせるかが問われている。

立候補を表明した5人は既に記者会見で、自ら訴える主要政策を明らかにしている。主な内容を見てみると◇茂木前幹事長「地方自治体が自由に使える数兆円規模の交付金」、◇小林元経済安保相「期限や所得制限を設けた定率減税」。

◇林官房長官「1%程度の実質賃金上昇の定着」、◇高市元経済安保相「大胆な危機管理投資と成長投資」、◇小泉農水相「2030年までに平均賃金100万円増」などを打ち出した。

各候補とも当面の物価高対策や、国民受けのする分配政策が中心だ。当面の物価高対策は必要だが、同時に国民の多くは、内外情勢が激動する中で、将来社会の姿や目標を明確に打ち出すことを期待しているのではないか。

そうした観点からすると各候補の政策は目先の対応が目立ち、中長期の展望に基づいた政策は極めて乏しい。これから始まる候補者間の議論では、次のような点を明らかにしてもらいたい。

第1は「将来社会の目標と構想」で、何を最優先に取り組むのか。超少子高齢化時代への対応をはじめ、厳しい財政状況の中で、社会保障制度をどのように維持していくのか。

第2は経済政策について、分配に必要な「経済成長はどのような方法で、いつまでを目標に実現をめざすのか」を明らかにしてもらいたい。2000年以降、これまで日本の実質経済成長率は0.7%で、1%にも達していない。

第3は、「外交・安全保障の進路」をどのように考えているのか。「防衛力整備」について、重点を置く分野と必要な財源をどのよう考えているのか。また、トランプ大統領との間で「日米関係」をどのように運営していくのか、外交・安全保障戦略を語ってもらいたい。

第4は「政治とカネの問題」だ。衆院に続いて参院でも大敗した背景には、旧派閥の裏金問題が底流にあるとの指摘は多い。「解党的出直し」を掲げるが、「政治とカネの問題」に決着をつける覚悟はあるのかどうか。

このほか、「野党との連携」も問題になるが、衆参両院で自民党は過半数を割り込んでおり、主導権は野党の方にある。自民党は、まずは自らの基本方針と政策を明確にし、国民の信頼と共感を得られるかが問われていると考える。

今回の自民党総裁選挙は、新総裁に誰が選出されるのかいう点と、長期政権を担ってきた自民党が再生の手掛かりをつかむのか、それとも政権から遠ざかることになるのかが焦点だ。自民党はどこに向かうのか、総裁選での議論のゆくえを注視したい。(了)

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自民総裁選の見方・読み方  ”政権与党 危機のゆくえ”

石破首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、党員投票も含めた「フルスペック方式」で、「9月22日告示、10月4日投開票」の日程で行われることが決まった。

茂木敏充・前幹事長が10日に立候補することを正式に表明したのに続いて、11日には小林鷹之・元経済安全保障担当相が立候補意向を明らかにした。林芳正官房長官や、高市早苗・前経済安全保障担当相も立候補の意向を固めており、小泉進次郎・農水相も立候補するとみられる。いずれも去年の総裁選に立候補した顔ぶれだ。

自民党の総裁選挙はその時々の政治状況などを反映して、選挙の仕組みもたびたび変わった。私自身の経験を振り返っても総裁選を最初に取材したのは、駆け出しの政治記者時代の昭和53年・1978年だった。当時の福田赳夫首相に対し、大平正芳幹事長らが挑戦した。

当時はロッキード事件で田中角栄元首相が逮捕され、党改革の一環として今の党員投票につながる「党員参加の予備選挙」が初めて実施された。田中派の支援を受けた大平氏が勝利を治めたが、その田中派の選挙を指揮した後藤田正晴氏(後に中曽根内閣で官房長官などを歴任)を取材し、激烈な戦いの一端を知ることができた。

話を戻して、このように連綿と続いてきた総裁選だが、これまでと決定的に異なるのは、有権者の支持離れが進み、衆参ともに過半数割れに転落した中で行われるという点だ。一言でいえば「党の存亡がかかった総裁選」ということになる。

国民としては、誰が勝つのかに当然関心はあるが、同時に長期に政権を担ってきた自民党はどこに向かうのか、日本の政治は安定するのかどうかという点だろう。そこで、今回の総裁選はどこを注目してみていくとわかりやすいのか、総裁選の見方・読み方を探ってみたい。

揺らぐ「国民政党」、基本政策は明確か

石破政権と自民党は去年の衆院選挙に続いて、今年夏の参院選挙でも大敗を喫し、衆院に続いて参院でも与党過半数割れに追い込まれた。こうした選挙結果を受けて行われる今回の総裁選挙では、党勢の回復につながる取り組みができるかどうかが焦点になる。

自民党がまとめた参院選の総括の報告書では敗因として「物価高対策が国民に刺さらず、自民党らしい争点設定が出来なかったこと」や、「政治とカネを巡る不祥事で信頼を喪失した」ことを挙げた。

加えて「長年わが党を支えてきた保守層の一部にも流失が生じたこと」や「自民党は左傾化しているなどの疑念も一部世論に生まれ、他党へ流失することになった」と分析している。そのうえで「解党的出直し」に取り組み、「真の国民政党」に生まれ変わると強調している。

この「解党的出直し」をめぐって総裁選では、具体的な取り組み方が論点になる。候補者の中からは「石破政権の政策はリベラル色が強すぎた」などとして、選択的夫婦別姓や外国人の不動産取得問題などで保守的な路線を強める意見が出されることが予想される。

一方、候補者の中には「自民党は保守層を中心に、無党派層など幅広い層の支持獲得をめざしてきており、これまでの路線を変えるべきではない」といった主張が出されることが予想され、党の路線をめぐる議論が注目される。

こうした党の路線に関連して、参政党が「日本人ファースト」、国民民主党が「手取りを増やす夏」などの分かりやすいキャッチフレーズで有権者を引きつけたのに対し、自民党は何をめざすのか明確でなく、発信力が極めて弱かったとする指摘が党内からも出されている。

また、国民からは「バブル崩壊後、賃金は横ばいのままで自民党の経済政策は失敗したのではないか」、「これからの経済・財政政策の内容や、将来社会のビジョンや構想も明らかでない」といった声が聞かれ、こうした声にどのように応えるのか。

さらに、トランプ政権への対応をはじめ、中国、韓国などとの近隣外交、今後の防衛力整備の進めなどについても、各候補がどこまで踏み込んだ見解を示すことができるかも問われている。

 連立政権の枠組み、野党との連携は

衆参両院ともに過半数割れに追い込まれた自民党は、予算案や法案を国会に提出しても野党側の協力が得られなければ、一本も成立させることはできない。このため、こうした過半数割れの状況をどのように打開するのかが焦点になる。

これまで石破政権がとってきたように政策ごとに野党と連携する「部分連合」の方法を続けるのか。それとも、今の自公連立政権の枠組みに野党の協力を求め、枠組みの拡大を図るという方法もある。

こうした方法のどちらを選択するのか。また枠組みを拡大する場合、維新や国民民主、立憲民主のどの党と連携するのか、実現可能性はどの程度あるのかも議論になる見通しだ。

政治とカネ、党の体質改善はできるか

総裁選の注目点として国民の多くは、自民党の宿痾として「政治とカネの問題」にどこまで本気で取り組むのかを見極めようとしているようにみえる。

党の参院選総括の報告書でも「不記載の慣行がなぜ再開されたのかなど、この問題は国民の信頼を損なう大きな要因になり続けている」「この問題が引き続き自民党に対する不信の底流となっていることを厳しく自覚し、猛省をしなければならない」と指摘している。

このように「不信の底流」と認識しているのだが、「政治とカネの問題」に踏み込んだ対応策は示されていない。総裁選に立候補するリーダーは、党の体質改善を含めて、どのような具体策を打ち出すのかが注目している。この1点は明確にしないと「解党的出直し」も国民から信用されないだろう。

リーダーの条件 ”側近・同志はいるか”

最後に総裁選の候補者をどのように評価するか。投票権を持つのはおよそ100万人の党員などに限られ、私たち大多数の国民には投票権はないのだが、首相に就任すれば、直接関係することになる。

政党や国のリーダーの評価をめぐっては本人の見識、主要政策、実行力の有無などが判断基準になるが、”側近や同志”と言える人がいるかどうかは、特に首相の条件としては大きな比重を占めると感じる。

例えば、冒頭に触れた田中角栄元首相には二階堂官房長官、竹下登首相には金丸幹事長や”7奉行”と呼ばれた議員、小泉純一郎首相には飯島秘書官、安倍首相には今井尚秘書官といったように側近や同志がいた。

こうした一心同体とも言える側近や、政権を支える同志がいるかどうかは政権の安定性に関わってくる。安倍元首相が持病の悪化で退陣したのが2020年夏だったが、それから5年が経過し今度で早くも5人目の総理・総裁選びになる。

今回、総裁選候補として名前が挙がっている5人に、こうした側近、同士がいるかどうかも大きなポイントだ。側近・同志といったレベルでなくても、にわか仕立てではない有能な人材を結集できているかどうかも見ていく必要がある。

ここまでみてきたように自民党は今、政権政党として存続できるのかどうか危機的状況にある。今回の総裁選で「党の路線や主要政策」、「連立の枠組みの拡大」、「政治とカネをめぐる党の体質改善」、さらには「側近・同志の存在を含めた首相を支える体制整備」がどこまでできるかが問われることになる。

新総裁の選出で日本の政治は、真っ当な政治へ一歩近づくことになるのか、それとも混迷の度を深めることになるのか、これからの総裁選の展開をしっかり見届けたい。(了)

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石破首相 辞任表明”党内窮状打開できず”

参院選での大敗を受けて自民党は、臨時の総裁選挙を行うかどうかの意思確認を8日に行うことにしていたが、石破首相は7日夕方、緊急の記者会見を開き「アメリカの関税措置を巡る対応に区切りがついた」として、首相を辞任する考えを表明した。

これによって、8日に予定していた臨時総裁選挙をめぐる国会議員や都道府県連の意思確認は行われないことになり、代わって石破首相の後任を選ぶ総裁選挙を行うことになった。

続投に強い意欲を示していた石破首相がなぜ、辞任を決断することになったのか。また、今回の事態をどのように評価するか考えてみたい。

”石破降ろし”打開できず、退陣決断へ

石破首相は7日午後6時から開いた記者会見で「自民党総裁の職を辞することとした。新総裁を選ぶ手続きを行うよう森山幹事長に伝えた」と切り出し、総理大臣を辞任する考えを明らかにした。

その理由として石破首相は「アメリカの関税措置に関する交渉に一つの区切りがついたこと」とまた、「このまま臨時の総裁選挙要求の意思確認に進んでは、党内に決定的な分断を生みかねないと考え、苦渋の決断をした」と説明した。

石破首相が辞任を決断した背景としては、こうした理由があるのも事実だろう。一方、自民党内では臨時総裁選の意思確認の状況次第で、石破首相が自ら辞任を選択するのではないかとの見方が一部にあったのも事実だ。

その国会議員や都道府県連の意思確認だが、7日の時点で自民党の国会議員のうち、臨時総裁選挙を実施すべきだとする議員は130人と全体の5割近くに達した。

全国47都道府県連では、6日までに18の都道府県連が実施を求める方針を決め、2つの県連が実施を求める方向で意見集約を進めていた。

国会議員と都道府県連代表を合わせると150人に達し、臨時総裁選実施に必要な172人に達することが確実な情勢になりつつあった。

こうした中で、党副総裁の菅元首相と小泉農水相が6日夜、首相公邸を訪れて会談した。会談の詳細は明らかではないが、菅元首相らは「党の結束が何よりも重要だ」として、意思確認の書面提出が行われる前に、石破首相が辞任するよう促したとされる。

このように石破首相が続投の方針を転換し、辞任を決断した背景には臨時総裁選が実施される可能性が大きくなったことが影響している。臨時総裁選が実施された場合、仮に石破首相が立候補しても勝算は乏しいことから、自ら身を引く決断をしたというのが実態に近いとみている。

いつまで続ける党内抗争、国民の苛立ち

それでは、これからの政治はどのように展開することになるのだろうか。冒頭に触れたように8日に予定していた国会議員と都道府県連の意思確認の手続きは中止される。

これに代わって、石破首相の後任を選ぶ総裁選挙が行われる。自民党の総裁選びには2つの方式があり、1つは「簡易型」で、国会議員と47都道府県連の各代表3人ずつが投票する方式だ。

もう1つが「フルスペック型」と呼ばれる方式で、全国105万人余りの党員・党友と、国会議員が投票する。党員が参加するため、選挙期間は12日間以上かかる。

森山幹事長は7日夜の記者会見で、石破首相の後任を選ぶ総裁選について「できるだけ党員が直接参加する形を模索することが大事だ」とのべた。自民党は早急に総裁選の方式と日程を決めたいとしているが、「フルスペック型」の場合、新しい総裁が決まるのは10月上旬頃までかかることが予想される。

こうした石破政権と自民党の対応をどのようにみるか。7月に参院選挙の結果が出てから8日で、50日・1か月半もかかっている。国民の多くは「続投か、退陣か、いつまで党内抗争を続けているのか」と苛立ちを感じているのではないか。

石破首相と自民党は、政治空白が長期化していることについて猛省する必要がある。そして、新総裁が選ばれたとしても自民党は少数与党に転じたため、新総裁が新しい首相に選出されるかどうかはわからない。

さらに、仮に自民党の新総裁が首相に選ばれたとしても補正予算案や法案は、野党の協力が得られなければ1本も成立しない。政権の枠組みの拡大や、国会運営でも野党側の協力が不可欠で、これからの政治は混迷状態が長期化することも予想される。

報道各社の世論調査をみると国民のかなりの部分は、自民党は今後も政権担当能力を維持できるのかと疑問を感じ始めているようにみえる。旧派閥の裏金問題など「政治とカネの問題」に真正面から取り組まない。物価高や日本経済再生の青写真なども一向に示されないことに失望感を抱き始めているようにみえる。

石破首相の後継総裁選びに当たって自民党は、骨太の将来像や実現に向けての具体策を打ち出せるのだろうか。また、これからの難局を乗り切っていけるようなリーダー候補は残っているのかどうか、国民は厳しい視線を自民党に注いでいる。自民党は岐路にさしかかっているのではないか。(了)

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自民臨時総裁選”実施要求に勢い”8日決着へ

自民党は参院選挙の大敗を受けて、臨時の総裁選挙を行うかどうかの党内手続きを進めているが、どのような結果になるだろうか?

「臨時の総裁選を実施すべきだ」という実施派と、参院選の敗因は石破首相個人の責任ではなく、党全体の問題だとして「実施する必要はない」とする首相支持派とが激しくぶつかっている。

これまでのところ、実施派の方に勢いがみられる。現状の分析と、どのような形で決着がつくことになるのか、探ってみた。

臨時総裁選の是非、8日意思確認・公表

自民党は2日に開いた両院議員総会で、参院選大敗を総括した報告書を了承した。これを受けて、臨時の総裁選挙を行うかどうか、その是非を問う党内手続きに入った。

党所属の国会議員295人と47都道府県連の総数の半数、172人が賛成すれば、臨時の総裁選挙を実施することなる。その国会議員の意思確認として、実施を求める議員は、8日午前10時から午後3時までに党本部に書面を持参するのを原則としている。

また、47都道府県連についても賛否を報告し、結果がこの日に公表されることになっている。臨時の総裁選の実施は初めてとなるため、実施を求める議員と、反対する議員との間で激しい駆け引きが続いている。

NHKの取材によると1日までに295人の議員のうち、およそ100人が「総裁選を実施すべきだ」としているのに対し、50人余りが「実施の必要はない」としている。「態度を決めていない」とする議員や「考えを明らかにしない」議員が140人となった。

つまり、「態度を明らかにしない議員」が全体の47%を占めていることもあって、最終的にどのような結果になるのか、情勢は混沌としているのが現状だ。

賛否めぐり攻防激化、実施派に勢いか

そこで、自民党の長老に今の情勢を尋ねてみると「賛否の主張や動きから判断すると、実施を求めている議員の側の方が熱量や運動量の面で上回っている。今後もそうした傾向が続くのではないか」として、最終的には実施派が過半数に達するとの見方を示している。

自民党内の動きを整理してみると、実施を求める議員として政府の副大臣や政務官が相次いで、実施を求めていくことを表明している。副大臣、政務官47人のうち、3日までに22人に上っているので、かなりの割合だ。

党の関係者にきくと「旧派閥の関係で働きかけているのはあまりみられない」という。「目につくのは、当選5回以下の中堅や若手議員で、当選同期の集まりや、党の部会のつながりで意見を交わすケースが多い」とされる。

中堅・若手議員の中には、態度を明らかにしていない議員が多いのも事実だ。これは仮に臨時総裁選が行われない場合、人事や選挙の公認などで冷遇されるおそれがあることが影響しているのではないかとみられる。

また、報道各社の世論調査で、石破内閣の支持率が上昇していることや、「石破首相の辞任の必要はない」とする人が、「辞任を求める」人を上回っていることも影響しているのではないかという。

一方、石破首相の続投を支持する議員としては、ベテラン議員が目立つ。石破首相を支持する理由としては「選挙の敗因は、派閥の裏金問題など党の問題の方が大きい」「世論の多くは、首相の辞任を求めていない」などを挙げる。

また、石破首相を支持する議員からは、総裁選を行うよりも衆院解散・総選挙を行うべきだとして、総裁選実施をけん制する意見も出されている。但し、衆参ともに大敗した総理・総裁が今、解散を断行するだけ力量や大義名分はあるか、否定的な見方が多いのではないか。

このように情勢は混沌としているのだが、自民党関係者に聞くと「今回の参院選総括の報告書では、石破首相(総裁)や執行部の責任問題が正面から捉えられていないことに反発する声が非常に強い」とされる。

また、「中堅・若手議員の多くは、次の衆院選挙は、連戦連敗の石破首相ではなく、新たなリーダーの下で戦いたいと考える議員が多いのではないか」と考えられる。

このように考えると長老が指摘するように、臨時総裁選の実施を求める議員や都道府県連代表が今後も増えて、過半数を上回る可能性が大きいとの見方をしている。

総裁選のケース、石破首相の辞意表明も

それでは、臨時総裁選と石破首相の進退問題は、どのような展開になるのだろうか。

▲まず、8日に行われる意思確認の結果、総裁選の実施を求める意見が総数の過半数に達しないケースがある。この場合は、当然、臨時総裁選は行われない。石破首相が続投することになる。これが、第1のケースだ。

▲第2のケースは、実施を求める議員が総数の過半数に達した場合で、総裁選が行われる。この場合、簡易型の総裁選、つまり両院議員総会で、都道府県連代表を加えて行う方式。もう一つは、フルスペック型の総裁選。党員・党友の投票と、国会議員の投票を行う方式があり、党で検討することになる。おそらく、今回は後者になるのではないか。

▲第3のケースは、8日の意思確認手続きを行わずに、その前に石破首相が辞意を表明することも想定される。石破首相は2日の両院議員総会で「しかるべき時に決断する」と語ったが、具体的な内容には触れなかった。

仮定の話だが、臨時総裁選実施の可能性が極めて高くなった場合、事実上、現総裁に対する不信任に値する。その場合、党の意思決定を行う前に、石破首相自らが退陣を表明することもありうるのではないか。

以上のように3つのケースが想定されるが、いずれにしても8日に決着がつく見通しだ。但し、長期にわたって政権を維持してきた自民党は、結党以来初めて衆参両院で過半数割れした。国民の信頼を取り戻せるのか、そのためのリーダーは存在するのかどうか、極めて厳しい前途が予想される。

★追伸(5日23時)▲石破首相は5日、トランプ米大統領が日米関税合意に基づいて大統領令に署名したことを受けて、改めて退陣を否定した。記者団が、日米交渉の終結で自身の進退に関する考えに変化はあるかと質問したのに対し、「関税対策は、(自らの)進退に関係なく、政府としてどうしてもやり遂げなければならないことだった」と答えた。また、石破首相は、今年秋に経済対策を策定する考えを示し、続投に強い意欲を示した。▲一方、鈴木法務相は5日午前、臨時の総裁選挙の実施を求める考えを表明した。石破内閣の閣僚が実施を求めるのは、鈴木法相が初めてで、石破首相にとって痛手となる。

★追伸(6日21時)▲全国の都道府県連のうち、6日までに臨時総裁選の実施を求める方針を決めたのは、北海道、青森、埼玉、東京、静岡、滋賀、奈良、愛媛、宮崎など17都道県連。実施を求める方向で意見集約を進めているのは、山形、新潟の2県連。これに対し、実施を求めない方針を決めたのは、福島、福井、岐阜、鳥取、岡山、大分、鹿児島、沖縄の8県連。(了)

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“迷路に進入”石破首相進退と自民の対応

自民党は27日、総裁選挙管理委員会を開き、臨時総裁選挙の是非を判断する手続きを決めた。臨時総裁選挙の実施を求める議員は、署名と捺印をした書面を本人が提出し、議員の名前も公表することになった。

都道府県連が実施を求める場合は、正式な機関決定をしたうえで、党本部に提出することになった。

今後は、党の参院選大敗の総括が9月2日の「両院議員総会」でまとまれば、国会議員の書面の提出は9月8日に行われる見通しで、その日のうちに都道府県連と合わせて集計が行われる。

その結果、党所属の国会議員295人と47都道府県連の総数の過半数、172に達した場合は、臨時の総裁選挙が行われる。逆に達しない場合は、臨時総裁選は行われずに石破首相が続投となる公算が大きい。

問題はこの臨時総裁選は行われることになるのかどうか、石破首相は退陣するのか、続投するのか。新聞・テレビの報道、政治評論家もあれこれ分析するが、どのような展開になるのか、さっぱりわからない。

参議院選挙の投開票から1か月余りになるが、石破首相の進退問題は「迷路」に入り込んで出口が見いだせないように見える。そこで、石破首相と政権与党の立ち位置や、今後の展開の方向性を探ってみた。

議員名公表 石破降ろし高まるハードル

まず、今回決まった臨時総裁選の是非を判断する手続きをどのようにみたらいいのかという問題がある。新たに決まった手続きを再確認しておくと、選挙の実施を求める国会議員は署名・捺印した書面を提出、氏名も公表することになった。

自民党内には「現職の総理・総裁である石破首相の進退に関わる重大な案件なので、国会議員の名前を公表するのは当然だ」という意見がある一方、名前が公表されるのであれば、臨時総裁選の要求をためらうケースが出てくるのではないかとの見方もある。

自民党議員の若手は、昔と違って執行部の指示に従う従順型が多いと言われている。このため、臨時総裁選をやるべきだと内心、考えていても黙して語らず、書面を出さない議員が出てくることが予想される。

また、報道各社の世論調査で、このところ石破内閣の支持率が上昇していることや、「石破首相は辞めるべきだ」という意見より、「辞める必要はない」という意見が上回っている結果が相次いでいることから、臨時総裁選を要求する動きは広がりをみせていないとの見方も出ている。

こうしたことから、今回の議員名の公表は「石破降ろし」の動きにとってはハードルが高まり、石破続投に有利に働くのではないかとの見方をしている。

 森山幹事長の責任問題のゆくえ

次に参院選での自民大敗を受けて森山幹事長は、参院選の総括がまとまった段階で、自らの責任を明らかにすると明言してきた。党内では、森山幹事長は辞任するのではないかと受け止められてきた。

その参院選の総括は、9月2日の両院議員総会に報告される。参院選の総括が了承されれば、森山幹事長の責任問題が再び問題になる。党内基盤が弱い石破首相にとっては、党や国会の運営、選挙対策などは森山氏に頼ってきただけに、仮に辞任することになれば、政権への打撃は極めて大きい。

また、他の党役員も辞任することが予想され、9月にも予想される自民党役員人事や内閣改造を乗り切れるのか危惧する声も強い。石破首相としては、森山氏を慰留するのか、副総裁など別のポストで処遇するのか、石破首相としては今後も厳しい状況が続くことになる。

一方、参院選大敗の敗因として、どのような内容が盛り込まれるか。また、石破首相や党執行部の責任がどのような形で整理されるのかが焦点になる。

そして参院選の総括が9月2日にまとまれば、臨時総裁選を行うかどうか、国会議員などの意思確認に焦点が移る。今の時点では、議員の大半が態度を明確にしていないことから、選挙の実施を求める勢力が総数の過半数に達するかどうか、はっきりしない。

今後、首相の続投を支持する勢力と、首相の退陣を求める反石破勢力ともに、態度を明確にしていない議員に対して、働きかけを強めることにしている。双方の駆け引きが一段と激しくなりそうだ。

自民党内はこれまでは議員の意見集約などに力を発揮していた派閥が、麻生派を除いてすべて解散したことから、臨時総裁選の賛否がどのようになるのか見通せないのが実状だ。

 国民の自民離れ、乏しい危機感

ここまで石破政権の対応を見てきたが、これからの展開がどうなるかは、政権を支える自民党のあり方も大きく影響する。石破首相の退陣を求める議員側には、旧安倍派や旧茂木派、麻生派など派閥の関係者が関与しているためだ。

まず、石破政権は昨年の衆院選、今年の都議選、参院選でいずれも大敗し、衆参両院で過半数割れという結党以来の初の事態を招いた。こうした結果について、党の総裁が責任を取るのは当然のことだと思う。

ところが、石破首相は続投を表明している。一方、自民党内からは、首相に代わる有力候補が出てこない。意欲をのぞかせる候補者はいるが、支持が広がらない。また、「石破降ろし」を仕掛ける旧派閥幹部はいるが、擁立をめざす後継候補や政権構想も示さないので、これもまた国民の支持が広がらない。

過去の例を振り返ると参院選で大敗して退陣を表明した橋本龍太郎元首相の後継には、小渕元首相が登場した。安倍元首相は第1次政権で参院選で大敗し、数か月後には退陣し、福田康夫元首相が後継の政権を担った。

このように自民党は絶えず後継リーダーを養成しながら、危機的状況を乗り切ってきた。今回は、これまでのような有力なリーダー候補が見あたらないのが大きな特徴だ。

また、従来の自民党であれば、政権与党を取り巻く情勢が厳しい場合、党が抱える問題について大胆な対策を打ち出すなど臨機応変に対応することが多かった。

ところが、今回は国民の関心が強い「政治とカネの問題」や、停滞する経済の立て直しなどについて踏み込んだ対応は見られず、国民の不信感と失望を買っている状況だ。

こうしたことから仮に今回、石破首相が続投することになったとしても結論を先に言えば、政権が持続できるかどうかはわからない。国会は衆参両院で過半数割れしており、政権与党として主導権を発揮するのは困難だ。

首相も変わらないとすれば、野党側が協力する可能性はほとんど考えられない。現に野党幹部はそうした認識を示している。早ければ秋の臨時国会、あるいは来年の通常国会で、政権運営が行き詰まる可能性が大きいとみられる。

自民党はこの秋、結党70年の節目を迎えるが、自民党の支持率は30%ラインを割り込んでおり、特に50歳代以下の世代、支持離れが目立っている。こうした危機的状況の下では、石破首相の政治責任を明確にすることは必要だと思う。

同時に、今の自民党は政権与党として国民の支持と期待感を完全に失っているという現状認識を持ち得ていないのが一番の問題ではないかと感じる。

国民の多くは、臨時総裁選の扱いや石破首相の進退だけでなく、「自民党は政権与党としての耐用年数が切れつつある」との厳しい認識を持ち始めているのではないか。こうした国民の厳しい視線を認識して、対応策を実行に移すことが必要だと考える。

★追伸(29日22時)▲参院選の敗因などを検証している自民党の「総括委員会」は29日の会合で、総括の素案の一部を修正したうえで、9月2日の会合で総括文書をまとめ、党の両院議員総会に報告することを決めた。▲自民党の臨時総裁選挙の是非をめぐり、政府の副大臣や政務官からも早期に総裁選挙を実施すべきだという意見が出始めた。そして必要があれば、役職を辞任して実施を求めていくとしている。

★追伸(3日午前10時)自民党は2日の両院議員総会で、参院選の敗因として「物価高対策が国民に刺さらず、政治とカネの問題で信頼を喪失した」などとする総括をまとめた。▲石破首相は、選挙の敗北を陳謝したうえで「地位に恋々としがみつくものではなく、しかるべき時にきちんとした決断をする」とのべる一方、「国民がやってもらいたいと思っていることに全力を尽くす」とのべ、続投する考えを表明した。▲森山幹事長は、選挙の敗北の責任を取りたいとして幹事長を退任する意向を示し、進退伺いを提出した。石破首相は申し出を預かるとの考えを示したことから、執行部は当面、職務を続ける見通しだ。(了)

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石破首相続投表明と世論の風向き

参院選の大敗を受けて自民党の両院議員総会では、総裁選の前倒しを求める意見が相次ぎ、臨時の総裁選挙を行うかどうか総裁選管理委員会で検討を進めることになった。党内では総裁選の前倒しを通じて、石破首相へ退陣圧力を強めようとする動きが目立つ。

こうした中で、NHKの8月世論調査によると、石破首相が続投の意向を表明していることについて「賛成」が「反対」を上回った。また、自民支持層では「賛成」が7割近くを占めた。

このように自民党所属の国会議員と世論の評価が分かれたことに加えて、自民党の国会議員と自民支持層との間でも評価が異なるようにみえる。こうした理由、背景には何があるのか。また、石破首相の進退問題は今後、どのような展開になりそうなのか考えてみたい。

 続投賛成69%、反対23%自民支持層

さっそくNHKの8月の世論調査(8月9~11日実施、有効回答42%)からみていきたい。まず、石破内閣の支持率は38%で、7月調査より7ポイント上がった。不支持率は45%で、8ポイント下がった。

石破首相が参院選の敗北後、「政治空白をつくってはならない」として続投の意向を示していることについて、賛否を尋ねたところ「賛成」が49%で、「反対」の40%を上回った。

支持政党別にみると、自民党の支持層では「賛成」が69%に上り、「反対」の23%を大きく上回った。

野党支持層では「反対」が55%で、「賛成」の39%より多かった。無党派層では「賛成」と「反対」がどちらも43%で拮抗した。

年代別では、40代以下では「反対」が6割前後で「賛成」を上回ったが、50代では賛成47%、反対48%で拮抗。60代以上は「賛成」が5割から6割に達し、「反対」を上回った。

このように世論全体では、石破首相の続投について「賛成」が「反対」を上回った。また、自民支持層に限ってみると7割近くが「賛成」しているのは、どのような理由、背景があるのだろうか。

自民党関係者に聞いてみると「参院選の敗北については、石破首相の責任だけでなく、自民党自体に問題があると受け止めているのではないか。また、石破首相の退陣を求める議員には、裏金問題を起こした旧安倍派の議員や旧派閥の幹部が関与していることが影響しているのではないか」との見方をしている。

このほか、「日米関税交渉の仕上げ段階で、首相を交代させるのは望ましくない」との受け止め方や、「自民党内の主流と、非主流の権力抗争という冷めた見方が影響しているのではないか」といった見方も聞かれる。

一方、自民党の長老は「石破内閣の支持が上昇したといっても6月の水準に戻っただけだ。支持率より不支持率が上回る状況が改善されたわけではない。去年の衆院選に続いて、参院選でも大敗した政治責任が解消されるわけではない」との見方を示す。

臨時総裁選と首相進退、来月ヤマ場か

それでは、今後の展開はどのようになるのだろうか。自民党は参院選敗北の要因などの分析を続けており、最終報告がまとまるのは8月最終週になる見通しだ。

もう一つの臨時の総裁選を行うかどうかについては、この問題を扱う総裁選管理委員会の委員の欠員を補充する作業があるほか、総裁選の前倒しは初めてのケースで検討に時間がかかるため、結論が出るのは9月に入るのではないかとみられている。

一方、森山幹事長は参院選総括の報告書がまとまった段階で、自らの責任を明らかにするとしている。このため、参院選の総括と臨時総裁選の扱い、それに党執行部の責任問題に最終的な結論が出るのは、9月上旬になる見通しだ。

その場合、石破首相としても自らの政治責任や、党の執行部体制や運営方針を明らかにする必要があるため、9月上旬が当面のヤマ場になるのではないか。

その後の動きは、石破首相の進退と臨時の総裁選が行われるのかどうかによって変わってくる。仮に臨時の総裁選を行う場合でも、今回の世論調査では石破首相の続投に賛成する意見が多いことから、単なる首相の交代だけに終わっては新総裁が世論の支持を得るのは難しい。

したがって、参院選の総括では選挙戦術や体制だけでなく、主要政策の提起や、政権与党としての役割を果たせたのか、さらには積年の党の体質まで踏み込んだ分析とこれからの党再生の方向性を打ち出せるのかが問われるのではないか。

自民党はこの秋に結党70年を迎えるが、衆参両院で過半数を失ったのは結党以来、今回が初めだ。政権与党として党の態勢立て直しはできるのか、危機的状況を迎えているようにみえる。(了)

★追記(20日23時)自民党は19日、総裁選管理委員会を開き、臨時の総裁選挙について、その是非を判断する手続きの議論を始めた。臨時の総裁選挙の実施を求める議員には、書面で申し出てもらう方向で検討を進めることになった。選挙管理委員会は、24日の週にも会合を開き、書面を提出する方法や、提出した議員を公表するかどうかなどの具体的な検討を行う。そして、執行部が今月末をめどにまとめることにしている参院選の総括が終わり次第、手続きに入りたい考えだ。

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石破首相の進退、3つのポイント

参院選挙の大敗を受けて自民党は8日、両院議員総会を開き、石破首相は「アメリカとの関税交渉は合意に達したが、実行にあたりさままざまな問題を抱えている」などとして、続投の意向を重ねて示した。

これに対し、総会では総裁選の前倒しの実施を求める意見が相次ぎ、総裁選挙管理委員会で今後の対応の検討を進めることになった。石破首相の進退問題は、今後、どのような展開をたどることになるのか、探ってみたい。

 総裁選前倒しの動きは強まるか

先月28日に開かれた両院議員懇談会は4時間半に及んだが、今回の両院議員総会はおよそ2時間で終わった。石破首相と森山幹事長の挨拶の後、総会は非公開で行われ、石破首相の下で党の結束を呼びかける意見が出された一方で、総裁選挙の前倒しの実施を求める意見が相次いだ。

そして、両院議員総会には、総裁選の前倒しを決める権限がないことから、総裁選を前倒しするかどうかの判断を総裁選挙管理委員会に一任することを決めた。

総裁選の前倒しは党則第6条に規定されている。党所属議員と都道府県連の代表各1人を合わせた総数の過半数の要求があれば、総裁選を行うと定めている。事実上の総理・総裁のリコールの規定ともいわれ、石破首相の退陣を求める意味を持っている。

このため、石破首相の進退問題は、総裁選の前倒しを求める動きが強まるかどうかが第1のポイントになる。これまで総裁選前倒しは行われたことがないため、どのような方法で、議員や都道府県連代表の意思を確認するのかなどについて、逢沢一郎総裁選管理委員長の下で検討が進められることになる。

 参院選の総括と政治責任の取り方

2つ目のポイントとしては、参院選を総括する報告書がまとまった段階で、石破首相と自民党執行部が政治責任について、どのように判断するかが焦点になる。

選挙総括の報告書がまとまるのは、8月の最終週になる見通しだ。森山幹事長は報告書をとりまとめた段階で、自らの責任を明らかにするとしていることから、幹事長を辞任するものとみられる。

その場合、石破首相は党総裁としての政治責任をどのように判断するのか問われることになる。一方、仮に石破首相は続投することになった場合も、森山氏の後任に有力な幹事長を起用できるかどうかが問題になる。

さらに9月の自民党役員人事と合わせて内閣改造を行う場合、党内の協力が得られるかどうかも大きな問題になりそうだ。

石破首相が自らの政治責任と今後の政権運営についてどのような判断をするか、8月下旬以降、石破首相の進退問題が再び大きなヤマ場を迎えることになりそうだ。

少数与党、国会・政権運営の戦略

さらに石破政権と自民党は衆参ともに与党過半数割れという厳しい状況の中で、国会や政権をどのように運営していくか政権運営の展望と戦略が問われている。これが3つ目のポイントだ。

参院選の公約などを実現するため、10月には秋の臨時国会を召集することになる。衆参両院ともに与党は過半数割れしているため、補正予算案や法案を成立させるためには野党の協力なしには1件の法案、予算案も成立しない厳しい状況にある。

自公連立を維持したうえで、野党の一部に連立への参加を求めることが考えられるが、野党各党はいずれも石破政権に距離を置いており、連立の枠組みを拡大するのは難しい情勢だ。

このため、石破政権の続投で秋の臨時国会に臨むのか、それとも石破首相の退陣、新しい総理・総裁の下で難局の乗り切りをめざすのか、自民党内の動きが活発になる見通しだ。

一方、仮に石破首相が退陣し後継の新総裁を選出しても衆参ともに与党は過半数割れしているため、新総裁が必ず首相になれるとは限らない。また、国会の運営でも主導権を確保できる保証はない

報道各社の世論調査をみると参院選の自民党大敗の原因は、石破首相個人の責任というよりも自民党に問題があると考えている人が多数を占めている。このため、自民党の政党支持率も長期低迷状態が続いている。

こうした背景には、裏金問題をはじめとする「政治とカネの問題」をいつまでも引きずる”古い政党”というイメージを持たれていることがある。また、経済政策や子育て、教育、社会保障などの面でも斬新な政策は期待できないという厳しい評価が影響している。こうした点を自民党は重く受け止める必要がある。

以上3つのポイントを見てきたが、石破首相にとっては続投の道は極めて狭く、険しいことがわかる。一方、自民党内も非主流・反主流の立場の議員が自らの復権をねらって党内抗争を仕掛けるような場面が出てくると国民から完全に見放されることになるだろう。

今年秋には結党70年を迎える自民党が石破政権が党の立て直しに向けて、どのような対応、方針で臨むのか、8月末に向けた動きをじっくり見極めたい。(了)

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