反転攻勢なるか? 岸田政権

今年の春は、新型コロナ感染がようやく4年ぶりに収まり、マスク着用は個人の判断となったほか、WBCで日本代表が世界一を奪還、岸田首相はウクライナを電撃訪問するなど激しい動きが続いている。

4年に一度の統一地方選挙も知事や政令指定都市の市長選挙が始まり、前半戦の投票が来月9日、後半戦の投票が来月23日に行われる。

報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は、ようやく下げ止まり傾向が出てきたが、果たして反転攻勢へとなるのかどうか?岸田首相の政権運営や、これからの政局では何がカギになるのか、探ってみたい。

 ウクライナ電撃訪問の意味と効果は

3月の政治・外交の動きの中で、政界に最も大きな驚きを与えたのは、岸田首相のウクライナへの電撃訪問だ。

昨年からの懸案で、今月19日からのインド訪問直後にそのままウクライナを訪問するのではないかとの見方も一部にあったが、月末の予算案成立後になるのではないかとの見方が政界では強かった。

インドで首脳会談を終えた岸田首相は20日夜、チャーターした民間ジェット機で極秘裏に出発、同行記者団は何も知らされないまま置き去りになった。政界関係者の一人は「同行記者の恨みを買い、しこりを残すだろう」と語る。

さて、今回の訪問をどのようにみるか。与野党の中からは、岸田首相はG7のメンバー国で唯一、ウクライナを訪問していない首脳という点を気にして、無理に訪問する必要はないといった意見も聞かれた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、国連の常任理事国の大国が隣国に軍事侵略する、いわば百年に一度あるかどうかの蛮行だ。

「G7議長国として、何としても5月のG7広島サミットまでに訪問したい」という岸田首相の強い思いは理解できる。

また、ロシアの軍事侵略が成功すれば、今度はアジアでも同じような侵攻が起きる恐れがある。日本自体の国益の観点からも、ウクライナ情勢に真正面から向き合う必要がある。

さらに、今回は中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領との首脳会談の日と重なった。軍事大国同士の両首脳が力を誇示したのに対して、岸田首相はゼレンスキー大統領と会談して支援と連帯を伝え、世界平和の回復をめざす別の選択肢を国際社会に示すことができた。

問題はこれからだ。欧米諸国の中には一部に「支援疲れ」も伝えられる中で、日本はG7議長国として、ウクライナ支援や対ロ制裁措置の継続などで全体をまとめていけるかどうか。

また、日本自身もウクライナ支援をどのような形で行っていくか。欧米は軍事支援に重点を置いているが、日本はG7との横並びを意識するよりも、人道的な支援やインフラ復興など日本にふさわしい支援を考えた方がいいのではないか。

このほか、3月は16日に韓国のユン大統領が来日し、日韓首脳会談が行われた。懸案の「徴用」をめぐる韓国政府の解決案を日本側が評価し、両国首脳が「シャトル外交」を再開することなどで一致した。

そこで、気になるのは、こうした外交活動が岸田政権の評価につながるのかどうかだ。岸田首相のウクライナ訪問は、WBCの日本代表が準決勝でメキシコに逆転勝利、決勝でアメリカを破って世界一を奪還した戦いと重なった。

大谷、ダルビッシュ、村上各選手の活躍に沸き、テレビは高い視聴率を記録、新聞も一面で大きく扱い、電撃訪問の方は霞んでしまった印象だ。政権の評価にマイナスの影響はないとみるが、直ちに内閣支持率上昇といった効果が表れるようには思えない。

 予算審議は順調、支持率は下げ止まり

内政面では、新年度予算案の審議が参議院予算委員会で続いている。審議の中で野党側は、安倍政権時代、放送法の政治的中立の解釈をめぐって、当時の礒崎首相補佐官が新たな解釈を行うよう総務省に働きかけていたことを示す行政文書を明らかにした。

この行政文書について、当時の総務相だった高市経済安保担当相は「捏造」と否定し、辞職を求める野党側と応酬が続いている。一方、予算審議は与党ペースで進んでおり、新年度予算案は28日にも成立する見通しだ。

報道各社の3月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、横ばいか、わずかながら上昇する結果になっている。内閣支持率と不支持率は、NHKが41%-40%、読売が42%-43%、朝日が40%-50%となっている。

支持率は前月に比べて、NHKで5ポイント、読売で1ポイント、朝日で5ポイントそれぞれ上昇し、下げ止まりの傾向が表れている。但し、不支持率は40%から50%と高い水準にあり、支持率低迷状態から脱するまでには至っていない。

支持率の下げ止まりの原因は、去年秋のような閣僚の相次ぐ辞任などが避けられ、予算審議が順調に進んでいることが挙げられる。一方、支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が最も多く、消極的な支持に止まっている。

 反転攻勢、少子化対策と選挙がカギ

それでは、岸田政権は今後、攻勢へ転じることができるのかどうか?

これまで外交面で成果を上げ、内閣支持率が上昇するケースは希で、やはり内政の取り組みが影響することが多かった。今回の場合は、政府が今月末にまとめる「少子化対策」の評価がカギを握るとみている。

岸田首相は「異次元の少子化対策」を政権の最重要課題に位置づけ、今月末にまとめるたたき台には、児童手当の所得制限の撤廃や、対象年齢の18歳までの引き上げなど大胆な対策を盛り込む方向で調整を続けている。

岸田政権の少子化対策について、NHK世論調査でみると「期待しない」が56%と多く、「期待している」39%を上回る。特に18歳から30代までの若い世代で「期待しない」が66%と多いほか、無党派層でも7割近くが「期待しない」と答えている。

こうした背景には、岸田政権は1月に子育て政策重視の方針を打ち出したが、具体策が中々、決まらない。加えて、財源をどうするかも先送りしていることから、対策の実現はかなり先になると、政府に対する不信感を読み取ることができる。

岸田首相は少子化対策のたたき台がまとまると、今度は首相官邸が財源の調整を行ったうえで、全体をとりまとめ、6月の骨太方針で正式に決定する見通しだ。

このような政府の手順を考えると対応が遅すぎて、今月末に少子化対策のたたき台がまとまったとしても、国民の支持が広がり、政権が力強さを増すといった事態は想定しにくい。

もう1つのカギは、統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。政党の勝敗のメルクマールとしては、前半戦の41道府県議の選挙がある。自民党は、全体の議席占有率50%以上を確保できるかどうかが判断基準になる。

安倍政権時代の前回は50.9%、前々回は50.5%で2回連続で維持してきた。岸田政権に代わった今回はどうなるか、地方組織の足腰の強さの評価にもなる。

統一地方選挙後半の投票日と一緒に行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえも大きな焦点だ。自民党が議席を確保していた選挙区は、千葉5区と山口2区と4区。

和歌山1区は、国民民主党に所属していた議員、参院大分選挙区は、無所属で野党共闘で当選した議員がそれぞれ知事選挙に転出することに伴って行われる選挙だ。

自民党の勝敗ラインとしては、保有していた議席を基準に考えると「3勝2敗」とする見方もあるが、今後、衆議院の解散・総選挙に向けて主導権を確保するためには「5戦全勝」が必要だとする見方もある。

以上、みてきたように内外ともに激しい動きが続く中で、岸田政権は政権浮揚へ反転攻勢となるのか。それとも低空飛行状態が続くことになるのか。その岐路は、月末の少子化対策に対する世論の評価と、来月の統一地方選挙と補欠選挙の結果がカギを握っている。(了)

 

 

 

”支持率改善も 看板政策は低評価” 岸田政権

通常国会は、焦点の新年度予算案の審議が大詰めの段階を迎えており、今月末に参議院で採決が行われ、与党の賛成多数で成立する見通しだ。

一方、統一地方選挙も今月23日、全国9道府県知事選挙が告示され、来月9日の投開票に向けて選挙戦がスタートする。こうした中で、NHKと共同通信がそれぞれ実施した3月の世論調査の結果がまとまった。(NHK10~12日、共同通信11~13日実施)

統一地方選挙突入前の政治情勢と、岸田政権や与野党の国会審議などを世論はどのように評価しているのか、分析する。

 内閣支持率、7か月ぶり不支持を上回る

まず、岸田内閣の支持率からみていくとNHKの世論調査では◆支持率が先月より5ポイント上がって41%に対し、◆不支持率は1ポイント下がって40%となった。

岸田内閣の支持率がわずかながらも不支持率を上回ったのは、去年8月以来7か月ぶりだ。(去年8月は支持率46%、不支持率28%」)但し、今月の支持と不支持の差はわずか1ポイントなので、五分と五分、拮抗とみた方がよさそうだ。

共同通信の世論調査では◆支持率は、4.5ポイント上がって38.1%、◆不支持率は、4.2ポイント下がって43.5%だった。支持率は改善しているが、不支持率が支持率を上回る状態が続いている。

NHKと共同通信の調査ともに岸田内閣の支持率が改善しているのは、なぜか。NHKの調査でみてみると、一つは、政府の賃金引き上げの取り組みをどのようにみるか。「評価する」が50%で、「評価しない」の43%を上回った。

もう一つは外交問題で、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題をめぐり、韓国政府が解決策を発表した。日本政府も評価し、16日にユン大統領が来日して、日韓首脳会談が行われる。

この問題について「評価する」は53%に上り、「評価しない」の34%を大きく上回った。北朝鮮に対して、日韓両国の安全保障面の連携強化を評価する人が多いことが読み取れる。

また、自民支持層では、岸田内閣を支持していた割合は6割程度に止まっていたが、今月は69%まで上昇し支持率回復につながった。

このほか、国会論戦では、同性婚をめぐる発言で首相秘書官が更迭される問題が起きたものの、野党側が攻め手を欠き、与党ペースの国会運営が続いていることも影響しているとみられる。

 岸田政権の看板政策、評価しないが多数

このように岸田内閣の支持率は、改善している。但し、内容面をみていくと、岸田政権が重視している政策、看板政策については「評価しない」「不十分」などと厳しい見方が多い。

▲岸田首相が戦後の安全保障政策の大転換と位置づける防衛費の増額について、政府の説明をどのように評価しているか。「十分だ」は16%に止まり、「不十分だ」が66%、3人に2人の割合にも達している。

▲岸田首相が子ども予算の倍増を掲げる政府の少子化対策については、「期待している」は39%に対し、「期待していない」が56%と多数を占める。年代別では、18歳から30代までの若い年代では「期待しない」が66%にも達している。

▲さらに原子力発電を最大限活用するため、政府が最長60年とされている原発の運転期間を延長する法案を閣議決定した問題。「賛成」は37%に対し、「反対」は42%で上回っている。

このように岸田政権が打ち出した看板政策は、いずれも世論の支持を得られていない。

こうした背景には、岸田政権の国会対応に大きな問題があるのではないか。防衛費増額にみられるように従来の政府方針の繰り返しがほとんどで、防衛力整備の必要性や中身に踏み込んで国民に説明、説得しようとする姿勢や熱意が欠けている点に問題がある。

 放送法の問題、事実の解明と政府見解を

このほか、参議院の審議では、安倍政権当時、特定の民放番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法が定める政治的公平性をめぐり解釈の再検討を総務省に求めたとする文書が明らかになった。

共同通信の世論調査で、この行為は政権による「報道の自由」への介入と思うかどうかを尋ねている。◆「介入だと思う」が65%、◆「思わない」が25%だった。

また、当時の総務相だった高市早苗氏(現在、経済安全保障担当相)が、総務省が自らに説明を行ったとする文書を「捏造」(ねつぞう)と主張していることについて「納得できる」は17%で、「納得できない」が73%だった。

放送法3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、規律されることがない」と規定されている。首相補佐官や、首相といえども介入はありえないわけで、国民の多くは法律の本質を理解していることがうかがえる。

この問題は、安倍政権時代の首相補佐官と総務省、安倍元首相の意見調整ルート。また、もう一つのルート、総務省と当時の高市総務相への説明があったのかどうか。さらにこの2つのルートに関係があったのかどうか、事実関係を明らかにする必要がある。

その上で、岸田政権が、事実関係を整理したうえで、放送法の解釈について政府の見解を示すことが必要だと考える。

 統一地方選と5補選、無党派がカギ

以上みてきたように岸田内閣の支持率の改善はみられるものの、主要政策について、世論の支持を得ているとは言えない。今月末の子ども政策のとりまとめ方によっては、支持率が再び落ち込むことも予想され、不安定な状態にある。

一方、野党側も国会で思うような攻めの論戦を展開できていない。政党支持率では、自民党に大きな差をつけられたままで、党勢拡大の展望は開けていない。

このように政権与党と、野党側ともに弱点を抱えたまま、来月の統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙に臨むことなる。

統一地方選挙はそれぞれの地域の選挙が中心だが、全国規模の選挙になるので、有権者の立場からすると政党の主張や主要政策は、選挙に当たって有力な判断材料になる。

それだけに各党とも地域の課題と、当面の政治課題についての考え方や構想を明確に打ち出してもらいたい。

NHK世論調査の政党支持率で、”第1党”は「支持する政党がない」無党派で、38.5%を占める。この無党派層のどの程度が投票所に足を運ぶか、どの政党が最も多く獲得できるかが、選挙のゆくえを左右することになる。(了)

 

 

 

統一地方選、衆参5補選の注目点

4年に一度の統一地方選挙前半戦の投開票まで今月10日で、1か月を切った。選挙日程は、今月23日に9つの道府県知事の選挙が告示されてスタートする。

続いて、41都道府県議会議員の選挙、6つの政令指定都市の市長と17の政令市の議員選挙が相次いで告示され、来月9日に前半戦の投開票が行われる。

後半戦の投開票日は来月23日で、東京の特別区と、全国の市町村の長と議員、合わせて907の選挙の投開票が実施される。また、後半戦の投開票日と合わせて、衆参5つの補欠選挙の投開票も行われる予定だ。

統一地方選挙は最も身近な自治体の長と議員を選ぶ選挙で、それぞれの地域が抱える課題が争点になる。

一方、統一地方選挙は全国規模の選挙なので、選挙結果は国政にも影響を及ぼす。また、今の衆議院議員の任期は再来年の10月なので、衆議院の解散が行われなければ、再来年夏の参議院選挙まで、まとまった国政選挙がないことになる。

そこで、今回の統一地方選挙は国政との関係で、どんな影響や意味合いを持つのか考えてみたい。

 知事選、与野党全面対決、保守分裂型

まず、統一地方選挙で最も注目されるのは、知事選挙だ。今回は、北海道、神奈川、福井、奈良、大阪、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県の知事選挙が予定されている。前回4年前から、三重と福岡が知事交代にともなって減っている。

◆与野党の全面対決型となるのは北海道で、自民・公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦する元衆議院議員の対決となる。

◆大阪は、府知事選挙と市長選挙とのダブル選挙になる。維新は、府知事は現職、市長選は新人を擁立し、非維新の候補との戦いになる。

◆保守分裂となるのが奈良県と徳島県だ。このうち、奈良県は、保守が分裂し、自民党県連が推薦する新人と現職、それに関西に影響力を持つ維新が擁立する元市長の3つ巴の戦いになる見通しだ。

◆徳島県については、自民党の前参議院議員と、前衆議院議員、それに現職がそれぞれ立候補する意向を表明して、異例の保守3分裂の様相だ。

◆大分県は、現職の知事が引退し、自民・公明両党が推薦する前の大分市長と、野党系無所属の参議院議員が議員を辞職して立候補する見通しだ。(この参院議員は9日辞職願を提出、10日の参院本会議で認められた)

このように知事選挙については、与野党の全面対決型の選挙は少なくなってきている。

 自民議席占有率 5割確保できるか?

私が最も注目しているのは、41道府県議会議員選挙の各党の獲得議席数だ。各党の党勢を現すメルクマールになる。

◆自民党は、前回1158議席を獲得、全体の議席に占める議席占有率は50.9%に達した。前々回は50.5%で、2回連続して過半数を獲得した。いずれも安倍政権時代だが、岸田政権に代わり、この流れを維持できるかどうかが大きな焦点だ。

◆公明党は、市区町村議員選挙を含め、統一地方選で擁立する1500人の候補者全員の当選をめざしている。前回、道府県議選の166人は全員当選したが、政令市議選で2議席を失った。

◆野党側のうち、立憲民主党は、具体的な数値目標を示していない。前回19年は初の統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。21年衆院選、22年参院選では敗北したが、今回はどうなるか。

◆日本維新の会は、現在400人の地方議員の数を1.5倍の600人以上に増やす目標を掲げている。800人程度の候補者を擁立し、目標の達成は可能だとしている。

◆国民民主党は、倍増となるおよそ400人の当選をめざしている。

◆共産党は、前回獲得した1200人を確保した上で、上積みをめざしている。

岸田政権は、この統一地方選挙を勝ち抜き、5月のG7広島サミットにつなげて政権の浮揚につなげていきたい考えだ。

一方、旧統一教会との関係や防衛増税の影響が選挙に影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。さらには、地域によっては世代交代の影響が現れるのではないかとの見方もある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「道府県議会議員が減ったりすると、国会議員にとっては次の選挙に影響が出てくる。岸田首相では戦えないといった声が出てくる可能性もあり、要警戒だ」と指摘する。

安倍政権当時「自民1強」を地方で支えた地方組織が、今後も安定して継続するのかどうか、自民党の議席占有率をみていく必要がある。

 衆参補選、千葉5、和歌山1、大分が焦点

後半戦の4月23日投開票に合わせて、衆参5つの補欠選挙が行われる見通しだ。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区でも補欠選挙が行われる見通しだ。

◆千葉5区は、政治とカネの問題で自民党議員が辞職したことに伴い行われる。東京通勤圏の都市部の選挙区で、一定の野党支持層のある選挙区だが、立民、維新、国民の各党が候補者を擁立する見通しだ。

これに対し、自民党は新人の候補者を決定しており、自民党関係者は「野党候補が乱立すれば、議席獲得はありうる」との見方を示す。

◆和歌山1区は、これまで国民民主党所属の議員が議席を維持してきたが、県知事に転出したのに伴う選挙だ。自民党の二階元幹事長と世耕参議院幹事長の両陣営の間で人選が難航した末、元衆議院議員の擁立で決着した。

これに対し、関西圏に影響力を持つ維新は、前和歌山市議の女性候補を擁立した。維新幹部によると自民党内の足並みに乱れが出てくれば、勝機はあるとして、後半戦の重点区として戦う構えだ。

◆山口4区は安倍元首相の死去、山口2区は実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う「ダブル補選」だ。野党側は、山口4区に元参議院議員を擁立するほか、山口2区も候補者の擁立を検討している。

◆参議院大分選挙区は、野党系無所属の参議院議員が県知事選に立候補するのを受けて行われる。辞職は10日に決まる見通しで、与野党ともに候補者の選考作業を急いでいる。

このように5つの補選の候補者や野党間の選挙協力などの構図が最終的に決まっていないが、自民党としては、5戦全勝をめざす方針だ。

これに対して、野党側は、これまで野党や無所属議員が確保していた議席は維持したいとして、野党間の協力を進めたい考えだ。

ここまでみてきたように9つの知事選挙と、41道府県の県議選、それに5つの補欠決戦がどのような結果になるのか。通常国会後半の国会運営をはじめ、岸田首相の衆院解散・総選挙戦略などにも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

★追記11日。大分県知事選挙への立候補を表明した安達澄参議院議員の辞職が、10日の参議院本会議で認められた。これによって、参議院大分選挙区では補欠選挙が行われる。衆参の補欠選挙は、この大分選挙区を含めて5つの選挙となる。

予算衆院通過、国会論戦は”超低調”

新年度予算案は28日、衆議院本会議で採決が行われ、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。これによって憲法の規定で、年度内の成立が確実になった。

新年度予算案は、防衛費の大幅な増額などで規模が膨らみ、総額が過去最大の114兆円に上った。岸田政権の防衛政策の転換と防衛増税、物価高騰や経済政策などをめぐって審議の難航も予想されたが、与党ペースで予算審議は進んだ。

国会審議が与党、野党どちらのペースで進もうと国民に直接大きな影響はないのだが、今年の予算審議くらい焦点が定まらず、低調な論戦は珍しいのではないかと思う。

これからの政治や国会のあり方にも関係してくるので、今年の予算審議の特徴と課題、問題点などを整理しておきたい。

 野党の追及不足、首相は防戦に終始

今年の予算審議の特徴は、27日に行われた最後の集中審議に凝縮されていたのではないかと思う。立憲民主党の長妻政調会長は、岸田首相が打ち出している子ども予算の倍増について「国内総生産比で倍にするのか、絶対額を倍にするのか」と迫った。

これに対し、岸田首相は「数字ありきではない。子ども・子育て予算は何かということが整理されてベースが決まる。中身を決めずして、最初からGDP比いくらかだかとかではない」とかわすのに懸命だった。

防衛問題でも「反撃能力」(旧「敵基地攻撃能力」)に使うことを想定して、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」の購入数が問題になっていた。岸田首相は、400発を購入することを明らかにした。予算審議の冒頭から質問が出ていたが、論戦最終日にようやくデータを公表したことになる。

政府、野党の論点がかみ合わないほか、防衛問題では、防衛力整備の中身に迫る議論にはほど遠い状態であることが浮き彫りになった。

今年の予算審議は、多くの難問が山積み状態だった。岸田政権が年末に決定した防衛力抜本強化と防衛増税をはじめ、物価高と賃金引き上げ、アベノミクス10年を経て今後の経済・金融政策をどうするのか、野党には攻めどころ満載だった。

但し、防衛力整備をめぐって、野党第1党の立民は、維新や国民民主との間で足並みがそろわず、防衛問題追及には慎重な姿勢が目立った。

代わって、首相秘書官の差別発言が表面化したこともあってLGBTの問題、続いて児童手当の拡充に力点を置いた。この点は他の党も同じで、与野党ともに4月の統一地方選挙をにらんでアピール合戦の様相となった。

論戦が低調に終わった背景としては、まずは野党の追及不足が影響したとみている。立憲民主党は、維新との連携・共闘を維持したいとの思惑が働いて追及の焦点を絞れなかったのではないか。

これに対して、岸田首相は防衛問題をめぐっては、野党側の追及に対して「相手国もあり、手の内はさらせない」として徹底した防戦に終始した。野党側は、攻めあぐねて思うような論戦が展開できず、岸田首相の作戦が功を奏したといえるかもしれない。

 国民の関心事項と首相の方針決定は

問題は、国民への影響だ。国民の側はウクライナ情勢をはじめとする内外の激しい動きを受けて、次のような点に関心を持っていたのではないか。

◆40年ぶりの物価高騰や今後の経済政策はどうなるのか。政府の電気や都市ガス料金の軽減措置は2月から実施されたが、追加対策やメッセージはない。

◆ロシアによるウクライナ侵攻の長期化が避けられない中で、エネルギー確保の戦略を示してもらいたい。原発や再エネなどをどのようにかじ取りするのか。

◆防衛力整備は必要だが、「反撃能力」を保有する場合、専守防衛と両立するのか。一定の基準を設定するのか。自衛隊は遠距離の攻撃目標を把握する能力を持っておらず、米軍に頼らざるを得ないのではないか。

◆日本の防衛の弱点としては、武器、弾薬などの継戦能力、自衛隊基地の防護。それに国民の避難体制の整備を急ぐべきだとの意見もあるが、どうか。

◆政府は「異次元の少子化対策」を強調するが、出生率の低下「1.57ショック」は1990年、この30年間、政府は何をしていたのか。

国民の主な関心事項としては、例えば以上のような点にあり、野党側が掘り下げて政府に質してもらいたいと考えていたのではないか。いずれも政府・自民党が手をつけずに長期にわたって先送りにしてきた問題ではないか。

一方、岸田首相は施政方針演説で「課題を先送りにせず、国会で政府の考えを正々堂々、議論する」と胸を張ったが、予算委員会の答弁では踏み込んだ考えは示されなかった。議論が深まらない原因として、首相の責任も大きい。

加えて、岸田首相の政権運営、政策決定をめぐって懸念される点がある。具体的には、年末の防衛政策決定に見られたような首相の方針決定のあり方だ。岸田首相からの指示が急に示され、与党との調整期間も短く、その後、国会での野党への説明も乏しい方針決定プロセスだ。

去年11月末に防衛費のGDP比2%を打ち出した後、わずか3週間足らずで防衛増税を含めた新しい防衛政策を決定した。年が明けて今の国会で、岸田首相は「誠心誠意、丁寧に説明責任を果たす」などと強調するが、残念ながら「従来方針の繰り返しで、中身は皆無」の答弁が多い。

当面の焦点になっている少子化対策も3月末に担当大臣の下で案をとりまとめた後、6月の骨太方針で決定される見通しだ。その時点で、国会は閉会しており、防衛問題と同じような政府の対応が、再び繰り返される可能性もある。

難問の対応にはさまざまな法案の制定も必要で、国会で政府が与野党との論戦を通じて行政の運営に民意を取り入れたり、法案を修正したりする政策決定過程も必要だ。

岸田政権は低姿勢に見えながら、実は政権の都合優先で重要事項を決めてしまうとの懸念も聞こえる。衆議院議員の任期は、解散がなければ再来年2025年10月まで続く。岸田政権の政策決定のあり方も問われる。

 統一地方選と5補選、世論の評価は?

新年度予算案の衆議院通過を受けて、3月1日から参議院予算委員会に舞台を移して、予算審議が始まる。衆議院から持ち越した論点が数多いので、「再考の府」参議院で詰めた議論を行ってもらいたい。

もう1つは、当面の焦点は当面、4月に迫った4年に一度の統一地方選挙に移る。3月23日にはトップを切って、北海道、大阪、奈良、徳島、大分など9道府県の知事選挙が公示され、4月9日が前半の投開票日になる。

後半の投開票日は4月23日で、この日は衆参5つの補欠選挙も行われる。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区だ。

自民党長老に注目点を聞いてみると「知事選は、与野党対決の北海道、保守分裂の奈良、徳島のゆくえ。補欠選挙は千葉5区で、野党の陣営が1本化するか、複数擁立となるかカギ。和歌山1区は、関西に強い維新が候補者を擁立した場合、どんな戦いになるかが焦点」と語る。

岸田政権への影響については「政権に直接、大きな影響があるとは想定していないが、選挙は投票箱が閉まるまでわからない。補欠選挙と道府県議選がどうなるか、気を抜かずに取り組む必要がある」と話す。

41道府県議選は、各政党の地域の力量を測るバロメーターでもある。特に、自民党は旧統一教会の問題をはじめ、防衛増税や少子化対策論議がどのように影響するかが、変動要因だ。

岸田政権の支持率は、報道各社の世論調査によると2月は横ばい状態だが、支持を不支持が上回る逆転状態が5か月続いている。統一地方選挙と統一補選で、世論の評価、風向きがどう現れるか、夏以降の政局に影響を及ぼすことになる。(了)

 

 

政策転換も支持率低迷続く岸田政権

岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化や異次元の少子化対策などの政策転換は、国会論戦を通じて世論にどのように受け止められているのか?NHKと共同通信の2月の世論調査結果がまとまったので、その結果を基に分析してみたい。

結論を先に言えば、焦点の防衛費の大幅増額は賛否が分かれ、防衛増税は反対多数の状況は変わっていない。少子化対策も児童手当の所得制限撤廃には慎重論が強く、そもそも政府の具体策がはっきりしない問題を抱えている。

さらに、岸田内閣の支持率は、支持と不支持の逆転状態が5か月連続の低水準で、政治の先行きは不透明だ。

こうした背景には国会論戦が低調で、政権や国会が政策転換にふさわしい判断材料や多角的な議論を提供できていない点に大きな問題があるのではないか。

 防衛政策転換、国民の支持広がらず

まず、国会の焦点の1つになっている防衛政策からみていきたい。NHKの世論調査(10日から12日実施)によると、政府が2023年度から5年間に防衛費の総額を43兆円に大幅に増額する方針については、賛成、反対がそれぞれ40%ずつで、二分されている。

設問の表現が一部異なるが、政府がこの方針を打ち出した12月調査では、賛成が51%で、反対の36%を上回っていた。その後、岸田首相の施政方針演説や衆院予算委員会で与野党の論戦を経て、2月の調査では賛成が11ポイント減り、反対が4ポイント増えたことになる。

また、防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針については、賛成が23%に対し、反対は64%と多数を占めている。この設問も一部表現が異なるが、1月の調査では賛成が28%、反対が61%だった。引き続き、反対多数という傾向は変わっていない。

政府は、防衛増税の実施時期を来年以降に決めるとしているので、新年度予算案に直ちに影響することはない。しかし、岸田政権が戦後の安全保障政策の大きな転換と位置づけている防衛力強化の予算と財源について、国民の支持が広がっていない事実は重く受け止め、対応を考える必要がある。

 児童手当の所得制限撤廃は反対多数

次に岸田政権が「次元の異なる少子化対策」と位置づけている「子ども・子育て政策」はどうか。世論調査では、政府が打ち出した「子ども予算の倍増方針」について、賛成は69%で、反対は17%だった。

自民党の茂木幹事長が代表質問で打ち出し、政府・与党が検討している児童手当の所得制限の撤廃については、賛成が34%に対し、反対が48%で上回った。

共同通信の世論調査(11日から13日実施)でも賛成が44%に対し、反対が52%と多かった。今の制度で導入されている所得制限を撤廃すると限られた財源が、所得の高い世帯に支給されるとして、反対や慎重論があるためとみられる。

NHK世論調査では、子ども予算を増やすために国民の負担が増えることについても聞いている。「負担が増えるのはやむを得ない」が55%に対し、「負担を増やすべきではない」は35%だった。

但し、「負担が増える」具体的な内容を示さずに聞いているので、今後、例えば社会保険料からの拠出といった内容が決まると、評価が変わる可能性がある。いずれにしても政府は最重要課題と位置づけるものの、政策の重点や具体策を明らかにしていないので、国民の評価も定まらない。

このほか、岸田首相の元首相秘書官が、同性婚をめぐる差別発言をして更迭されたことから、同性婚の賛否についても聞いている。同性婚を法律を認めることについて、賛成は54%に対し、反対は29%に止まっている。自民党の支持層でも賛成が半数に達している。

 岸田政権 支持率低迷の長期化

さて、岸田政権の支持率だが、NHKの調査によると◇支持率は36%に対し、◇不支持率は41%だった。

先月との比較では、◇支持が3ポイント上がり、◇不支持が4ポイント下がった。このところ、数ポイント差で上下を繰り返しているので、事実上、横ばいとみていいだろう。

共同通信の世論調査も◇支持率は33.6%で、前回調査から0.2ポイント増の横ばい。不支持率は2.2ポイント減の47.7%だった。

内閣支持率は傾向・流れをみるのが大事だ。NHKの調査で岸田内閣の支持率は、去年10月に3割台に落ち込んで以降、不支持が支持を上回る逆転状態が5か月続いている。「支持率低迷の長期化」がウイークポイントになりつつある。

こうした原因だが、岸田政権の場合、防衛力の抜本強化などを打ち出したが、国会論戦の段階になっても具体的な内容を掘り下げて説明したり、野党側と丁々発止議論したりする場面がみられない。

子ども対策も施政方針演説で「次元の異なる少子化対策」として大々的に打ち出したが、中身は担当閣僚の下で検討し、その後、財源問題は総理官邸が引き取って調整し、6月の骨太方針で決める段取りだ。防衛増税の時とは変わって、今度は長い検討時間が予想され、国民の心に響かない。

新年度予算の審議であれば、国民は40年ぶりの物価高騰や経済・金融対策の議論を期待するが、政権から新たなメッセージは未だに発信されない。これでは、内閣支持率が好転し、反転攻勢へとはつながらないのではないか。

政界やメデイアの一部では、岸田首相による早期解散説も取り沙汰されるが、政権の支持率が低迷していては難しい。安倍首相は奇襲解散を仕掛けたが、支持・不支持が逆転しても2か月程度で回復、復元力を備えていたからできたことだ。

 優先課題の設定、論戦の活性化を

一方、野党側についても政党支持率をみると、支持率を大きく伸ばしている政党はなく、自民党に大差をつけられ低迷している。

衆院の予算委員会は、かつては野党の最大の出番だったが、この国会で国民の多くが納得するような政権を問いただす場面があっただろうか。

また、衆議院の予算委員会としても多くの政治課題の中から、国政として最優先に議論すべきテーマを絞り込んで議論すべきではなかったか。そして、政府が具体的な方針を踏み込んで説明し、野党が問題点や対案を提示して議論を戦わせる取り組みが余りにも弱かったのではないか。

その結果、今回の世論調査にみられるように国民の疑問や不満が、内閣の支持率や、野党の支持率の低迷に凝縮して現れているのではないかと思う。

国会は14日に、日銀の新しい総裁・副総裁の人事案が示され、同意の手続きが進められる。論戦の主要な舞台となった衆院予算委員会は16日に公聴会が決まっており、これが終われば新年度予算案の採決に向けた動きが本格化する。

こうした審議日程を考えると新年度予算案の採決の前に、各党の党首クラスが質問に立って、岸田首相と締めくくりの論戦を戦わせるなど論戦を充実させる取り組みを考えるべきではないか。政策転換にふさわしい国会審議の質と、政治の立て直しが問われている。(了)

”難題 山積国会”開会 一大論戦を

通常国会がいよいよ23日に開会し、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われて、本格的な論戦が始まる。

岸田政権は年末、防衛力の抜本強化と防衛増税、既存原発の運転期間延長や原発の新増設の方針などを次々に打ち出し、歴代政権の政策を大きく転換した。

また、今月13日に行われた日米首脳会談で、岸田首相は、バイデン大統領と日米同盟を更に深化させていくことなどで合意した。

ところが、一連の方針をめぐって国会での質疑はなく、国民への説明もほとんどなされてこなかった。それだけに岸田政権に対する国民の視線は厳しいことが、報道各社の内閣支持率の低迷に表れている。

こうした中で開会する今度の国会の特徴を一言でいえば、大きな問題を数多く抱える「難題山積国会」と言えそうだ。それだけに政府・与党と野党側との間で、多くの課題について徹底審議を行ってもらいたい。

徹底審議ではありきたりに聞こえるので、やや大げさに聞こえるかもしれないが、「一大論戦を戦わせてもらいたい」というのが私個人の率直な思いだ。特に防衛政策については、中長期に及ぶ問題だけに国民の納得がいく突っ込んだ論戦を行ってもらいたい。

通常国会は、こうした防衛問題や原発政策のほか、40年ぶりの物価高騰と経済・財政運営、脱炭素社会に向けた経済社会づくり、抜本的な少子化対策、旧統一教会の被害者救済問題など緊急課題が目白押しで、待ったなしの状態にある。

 与野党攻防、防衛増税の扱いが焦点

次に与野党の攻防という観点からみると、通常国会前半の焦点は、一般会計の総額が過去最大114兆円にのぼる新年度予算案と、防衛問題になりそうだ。

岸田首相は、欧米5か国歴訪から帰国した直後の17日に開かれた自民党役員会で、通常国会では防衛力の抜本強化や少子化対策などについて議論し、実行に移していく決意を表明した。

岸田首相は先のアメリカ訪問で、バイデン大統領との間で、日本の反撃能力の保有について、アメリカ側の支持と協力をいち早く取りつけたことに自信を深め、防衛力強化と安定財源確保の方針については一歩も譲らない構えだ。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表と、第2党・日本維新会の馬場代表が18日会談し、政府の防衛増税に強く反対し、撤回を求めていくことで一致した。また、共同の作業チームを設けて、行財政改革などを検討し、財源をねん出する具体案をまとめることにしている。

野党側は、防衛力整備の内容などをめぐっては違いがあるものの、政府の防衛増税に対しては、他の野党も反対していくことで、足並みがそろう見通しだ。与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。

一方、自民党の茂木幹事長はこれに先立つ17日、維新の馬場代表と会談し、維新が重視している国会改革で協力したいとの考えを伝えた。立憲民主党と維新との連携にくさびを打ち込む狙いがあるものとみられる。

維新を挟んで、立憲民主党と自民党が自らの陣営に引き込む動きが水面下で続くことになりそうだ。

このほか、自民党内では萩生田政調会長をトップとする特命委員会が19日に初会合を開き、増税に頼らない新たな財源を検討することにしている。この会のメンバーは安倍派の議員が多く、増税に代わる具体的な財源を政府や党執行部に求めていくものとみられる。

このように国会での論戦が続く一方で、防衛財源のあり方をめぐって、野党間や与野党、自民党と政府との間で様々な調整や駆け引きが行われる見通しだ。

最終的には、新年度予算案と防衛財源を確保する法案が原案通りで採決されるのか、それとも法案の修正が行われるのかが大きな焦点になるのではないか。

 防衛力整備と財源、世論の評価がカギ

ここまで通常国会の論戦のあり方と、防衛増税をめぐる与野党の動きをみてきたが、与野党の攻防がどうなるかは、最終的には世論の動向・評価がカギを握っているとみる。

というのは、岸田政権は内閣支持率が低迷していることに加えて、防衛増税で世論の支持を失うと、4月の統一地方選挙や衆議院の統一補欠選挙にも影響が出てくるからだ。岸田政権と自民党執行部は、世論の風向きも見ながら、防衛増税の扱いを判断することになる。

その政権与党に波紋が広がっているのが、読売新聞が今月13日から15日にかけて行った世論調査の結果だ。

政府の防衛増税の方針については「賛成」が28%に対して、「反対」が63%と大幅に上回った。内閣支持率も39%で前回と同じ水準に止まった。岸田首相が欧米を歴訪、日米首脳会談の直後でも、政権の浮揚効果が見られなかったからだ。

こうした傾向はNHKがこれより先1月7日から9日にかけて行った世論調査でも、防衛増税に「賛成」28%、「反対」61%でほぼ同じ水準だった。

向こう5年間の防衛費の総額を43兆円に大幅に増やすことについても、世論の賛否は分かれたままだ。

つまり、国民は物価高騰の中で、増税に敏感になっている事情もあるが、そもそも防衛力強化と大幅な予算増額のねらいや内容の説明そのものが、国民に伝わっていないと判断するのが自然ではないか。

防衛政策の大転換をめぐって、与党内や国会でもあまりにも議論が少なかったツケが今、跳ね返ってきているのではないか。

したがって遅ればせながら、まずは、政府が国会で十二分に説明すること。そのうえで、政府も「一大論戦」の覚悟で野党に臨まない限り、国民を説得するのは難しいのではないかと思う。

政府が年末に閣議決定した国家安全保障戦略の冒頭部分に次のような一文がある。「国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる」「本戦略の内容と実施について国民の理解と協力を得て、国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」とある。

この指摘は、政治の要諦でもある。通常国会でも岸田首相は言葉だけでなく、行動、政権運営で率先垂範すべきだ。(了)

 

 

 

 

通常国会、防衛論争と世論の動向が焦点

新しい年・2023年が明けて、政治も本格的に動き始めた。岸田首相は年頭の記者会見を終えた後、9日から欧米5か国を歴訪中だ。13日には、ワシントンで日米首脳会談が行われる。

新年前半の政治の主な舞台となる通常国は23日に召集され、6月下旬まで続く。その通常国会最大の焦点は、向こう5年間の防衛力の整備と増税問題になる。政府・与党と野党との間で、激しい防衛論争が繰り広げられる見通しだ。

問題は、国民の支持がどうなるかだ。10日にまとまったNHK世論調査によると、岸田政権が決めた防衛費の財源を確保するための増税方針については、賛成が28%に対し、反対が61%に達し多数を占めた。

政府の方針を理解し、納得している国民は少ないことが、改めて浮き彫りになった。岸田内閣支持率も先月より3ポイント下がり33%、下落に歯止めがかかっていない。

国会での論戦が始まり、この世論がどう動くのか。政府・与党、あるいは野党のどちらの主張を支持するのか、岸田政権とその後の政局に大きな影響を及ぼす。防衛力整備と財源のあり方や問題点を考えてみたい。

 難題山積、防衛増税めぐり与野党対決

岸田首相は、新年4日の年頭の記者会見や8日のNHK日曜討論の番組などで「新年は、先送りできない課題に正面から愚直に挑戦したい」として、防衛力の抜本強化をはじめ、エネルギー政策、経済の好循環、それに異次元の少子化対策などの課題に幅広く取り組んでいく考えを表明した。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「防衛費や経済対策、エネルギー政策などについて、チェックしていく。特に防衛費については、5年間で43兆円という額は適切なのか、検証しなければならない」として、他の野党とも連携して通常国会で厳しく追及する考えだ。

野党第2党の日本維新の会の馬場代表も「防衛費の不足財源を増税で賄う政府の方針は、国民の理解は得られないだろう」と批判的だ。

立憲民主党と日本維新は、去年の臨時国会で連携したのに続いて、通常国会でも連携を図っていく方針だ。具体的には、防衛費の財源については、行財政改革によって財源を捻出する対案などを検討することにしている。

通常国会では、新年度予算案の審議とともに、防衛増税をめぐって政府・与党と野党側が対決する公算が大きくなりつつある。

 防衛力整備と財源 多岐にわたる論点

それでは国会の論戦では、具体的にどのような点が論点になるか。自民党の防衛族・防衛問題の専門家や、野党幹部の話を聞いてみると論点は多岐にわたる。

▲1つは、国家安全保障戦略など安全保障関係3文書が10年ぶりに改訂された問題がある。外交・安全保障の基本方針を策定するもので、今回は「反撃能力」の保有を盛り込んだのが大きな特徴だ。

「反撃能力」は、これまで「敵基地攻撃能力」と表現されてきたのを改称したものだが、相手国のミサイル基地などを叩く能力だ。歴代政府は、憲法上許されるが、政策判断として保有しないとしてきたが、今回、保有する方針に転換した。

専守防衛、戦後の安全保障政策の大きな転換だが、政府は周辺国のミサイル能力の向上に対応するため「必要最小限度の措置」だと説明している。

これまで自衛隊は「盾」、米軍が「矛」の役割を明確にして分担してきたが、これから日本は「矛」の一部の役割も果たすことになる。

これに対して、野党側は「我が国に対する『攻撃の着手』の判断が、現実的には困難で、先制攻撃となるリスクが大きい」として、保有に反対する意見もあり、活発な議論が交わされる見通しだ。

▲第2は、防衛力整備の中身で、知りたい点は実に多い。◇向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やしたが、どのように積算したのか。◇自衛隊の弱点といわれてきた弾薬などの備蓄、予備自衛官の確保など継戦能力はどの程度、改善されるのか。

◇反撃能力の確保に米軍の巡航ミサイル「トマホーク」を購入する計画だが、反撃能力の効果は期待できるのか。◇国民を避難させるシェルターなど国民保護・避難体制の取り組みが弱いのではないかといった点が指摘されている。

▲第3は、防衛費の財源問題だ。政府は、新年度の防衛費について、今年度より1兆4000億円上積みし、過去最大の6兆8000億円を計上している。

また、防衛費の増額で必要となる財源は、5年後の2027年度に1兆円余りで、これを法人税など3税の増税で賄う。但し、増税の実施時期は「2024年以降の適切な時期」として、今後検討することにしている。

これに対し、野党側は「政府の防衛予算は最初からGDP比2%とするなど”数字ありき”で、無駄のない調達や歳出努力が不足している」として、歳出改革による対案の提出を検討することにしている。

このほか、防衛財源として、剰余金やさまざまな基金の積み残しをかき集めて確保しているが、5年後も安定財源が担保されているのかなどをめぐって、詰めた議論が行われる見通しだ。

 国民への説明不足、問われる政権

ここまで政府の方針と通常国会で予想される論点を見てきたが、国民がこうした防衛力整備と財源確保策をどのように評価するかという問題がある。

岸田首相は、1年かけて丁寧に議論を重ねてきたと強調するが、国民の多くは、防衛力整備の具体的な内容、財源、予算を耳にしたのは、おそらく去年11月下旬以降だと思われる。

岸田首相が11月28日に財務・防衛の両閣僚に対して、5年間でGDP2%に達する予算を指示したことが報道された後、あれよあれよという間にわずか3週間で、増税と予算方針が決まったというのが実態ではなかったか。

これまでは政府・与党間で検討が進められ、ようやく通常国会になって、政府と各党の議論を通じて、国民は政府の説明を聞くことになる。国の防衛、国民の暮らしや安全の確保にどこまでつながるのか、国民が判断することになる。

新たに改定された「国家安全保障戦略」の冒頭に「(安全保障上の)国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる。国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」と強調している。

岸田政権の国民に対する説明は明らかに不足していたのではないか。通常国会でも、具体的な説明と説得ができるのかどうか、問われることになる。

 政権浮揚か、野党攻勢か、世論がカギ

最後に、政局との関係についても触れておきたい。岸田首相がいつ衆議院解散・総選挙に踏み切るかの議論が盛んだが、岸田首相としては好機があれば、解散刀を抜いてみたいという思いは抱いているのではないかと推察する。

問題は、解散の環境が整うかどうかだ。その環境整備のためには、岸田政権が防衛問題で世論の理解と支持を得て、内閣支持率が回復、政権浮揚が必要になる。それとも野党が論戦の主導権を確保して、攻勢に転じることになるのかどうか、分かれ道になる。

10日にまとまったNHK世論調査によると、岸田内閣の支持率は先月より3ポイント下がって33%、不支持率は1ポイント上がって45%だ。

内閣支持率は下落に歯止めがかかっておらず、政権発足後、最も低かった去年11月と同じ水準だ。通常国会で野党の攻勢が続けば、”危険水域”とされる支持率3割割れの可能性もある。

衆院解散・総選挙といった政局よりも、岸田政権は防衛力整備と財源問題で世論の支持を回復できるか、待ったなしの状態だ。通常国会の防衛論争と世論の動向が、岸田政権と今後の政局のゆくえを大きく左右することになる。(了)

“政局より政策、カギは世論” 2023年展望

新しい年、2023年の政治はどのように動くか。今年は、例年のような衆議院解散・総選挙をめぐる駆け引きや政変といった「政局」よりも、「政策」に焦点を当ててみていく必要があるのではないか。

その理由は、端的にいえば、岸田政権が防衛力の抜本強化や原発の新規建設など政策の大きな転換を打ち出し、年明けの通常国会で最大の焦点になるからだ。

そして、国会での与野党の論戦のゆくえと、国民がどのように受け止め、評価するか、”新年の政治の核心”は「世論の動向」がカギを握っているとみる。

こうした世論の動向は、政治の側に跳ね返り、岸田政権や与野党の新たな動きを生み出していく。2023年の政治のゆくえを分析、展望する。

春に統一地方選、大きな選挙がない年

初めに今年の主な動きをみておきたい。◆日本は1月から、国連の非常任理事国の任期が始まり、G7=主要7か国の議長国を務める。

このため、岸田首相は1月上旬にフランス、イタリア、イギリスを歴訪し、G7各国に協力を要請する。続いて、カナダを経由してアメリカに入り、13日にバイデン大統領と日米首脳会談を行う日程で調整が進められている。

◆1月下旬には通常国会が召集され、与野党の論戦が始まる。新年度予算案などの審議が行われ、会期は150日間で、6月下旬まで続く。

◆3月下旬からは、4年に1度の統一地方選挙が始まる。◇前半戦は、4月9日に9つの道府県と6つの政令指定都市の長、41道府県と17政令市の議員を選ぶ投票が行われる。

◇後半戦は、23日に市区町村の長と議員の投票が行われる。当日は、衆参両院の統一補欠選挙、衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区などの投票が行われる。

◆5月19日から21日の日程でG7サミットが、岸田首相の出身地である広島市で開かれ、各国首脳が集まる。

◆9月末になると岸田首相の自民党総裁としての任期切れまで1年になる。自民党役員人事や内閣改造が行われ、総裁選をにらんだ動きが始まる見通しだ。

このように今年は春に統一地方選挙や衆参の補欠選挙が行われるものの、衆議院が解散されない限り、全国規模の国政選挙、大きな国政選挙がないのが特徴だ。

衆院解散、首相退陣の確率は低いか

さて、その解散・総選挙だが、衆議院議員の任期満了は再来年・2025年の10月、参議院議員の任期満了は同じ年の7月だ。

政界の一部には、5月のG7サミットを終えた後、内閣支持率が上がった場合、岸田首相は衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの観測がある。

岸田首相は年末、民放のBS番組で、防衛増税の実施前に衆院選が行われるとの認識を示したが、こうした早期解散を念頭に置いているのかもしれない。

但し、岸田内閣の支持率は政権発足以来、最も低い水準に低迷したままだ。好転する材料は乏しいとして、与党内では解散には踏み切れないだろうとの見方が多い。

一方、4月の統一地方選挙で自民党が不振の場合、「岸田降ろし」の動きが出てくるとの見方もある。しかし、与党幹部は、地方の選挙結果が首相の進退につながることはほとんど考えられないとして、否定的だ。

自民党内は、安倍元首相が亡くなった後、最大派閥の安倍派の会長は未だに決まっていない。また、岸田首相に対する批判が強まっても0、批判勢力をまとめあげていくリーダーが見当たらないとして、年内の政変を予想する見方は少ない。

このようにみてくると新年は、衆院解散・総選挙や、首相退陣といった政変が起きる確率はかなり低いとみている。

国会論戦、防衛政策の大転換が焦点

それでは、新年の”政治の変数”は何か。大きな要素は、岸田政権が長丁場の通常国会をどのような形で終えるかではないか。

岸田政権は年末、向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やすとともに不足財源1兆円を増税で賄う方針を決めた。また、原発政策では、既存原発の60年を超える運転を認めることや次世代型の原子炉の開発・建設に取り組む方針をまとめた。いずれも歴代政権の政策を大きく転換する内容だ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「防衛のどの分野を強化するのかという中身と、そのための安定財源、予算規模はこうすると論理的に説明できていないので、国民の理解を得るのはたいへんではないか」と国会乗り切りを危惧している。

野党の幹部は「政府・与党の方針は初めに規模ありきで、43兆円もの巨額予算が必要なのか精査する必要がある。また、軍備優先で、外交視点が欠落している。特に財源は、安定財源と言えるのか疑問だ」として、徹底追及する構えだ。

原発政策をめぐっても東日本大震災の福島原発事故の後、政府が示してきた原子力政策を大きく変更する内容だけに激しい議論が交わされる見通しだ。

このほか、年末に秋葉復興相が辞任するなど4閣僚の辞任ドミノを引き起こした岸田首相の任命責任をはじめ、旧統一教会の解散請求や被害者救済への取り組み、40年ぶりの物価高騰や世界的な景気減速への対応など難問が目立つ。

野党側は、第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が去年の臨時国会に続いて、通常国会でも連携を継続する見通しだ。焦点の防衛費をめぐっては、政府・与党の増税方針に対して、両党は行財政改革で財源を捻出する対案を検討していくことにしており、与野党が真正面からぶつかり合うことになりそうだ。

去年の臨時国会は、旧統一教会問題で久しぶりに野党の攻勢が目立った。通常国会では、政府・与党と野党のどちらが主導権を確保するのか、岸田政権の政権運営とともに大きな注目点だ。

世論がカギ、政権・政局のゆくえ左右

こうした与野党の論戦を通じて、国民は大きな政策転換を打ち出した岸田政権をどのように評価するのか。この点が、”新年の政治の核心”とみる。

報道各社の世論調査をみると、国民は防衛力整備については賛否が分かれる一方、財源確保のための増税については、6割以上が反対している。政府の方針に対する国民の評価は、まだ定まっていないようにみえる。

加えて自民党内は、最大派閥・安倍派を中心に国債発行論が根強い。また、岸田政権は増税方針を打ち出す前の党内調整が弱く、政策の打ち出し方が稚拙などと不満や批判が数多く聞かれる。

それだけに年明けの通常国会で、岸田首相が説得力のある説明をできるかどうか。そして、国民の支持を得ることができるかどうか、今後の政権運営に当たって極めて大きな意味を持つ。

岸田内閣の支持率は、12月中下旬に行われた世論調査ではいずれも3割台前半から半ば(朝日31%、共同33%、日経35%)に止まり、低迷が続いている。国会論戦を通じて支持が広がらないと、危険水域とされる支持率30%割れの事態も予想される。

自民党の長老に向こう1年の見通しを聞いてみた。「自民党は、衆参の選挙や総裁選といった大きな選挙がないと動かない。岸田首相は低空飛行が続くだろうが、政権を投げ出すタイプではない。また、取って代わる人物がいないので、ズルズル続くのではないか」との見方だ。

そのうえで「政局は大きな選挙を控えて動く。本格的な動きが出てくるのは、再来年の連休明けくらいか。今年は、再来年に向けた備えの年ではないか」と語る。

自民党内は安倍元首相が亡くなった後、最大派閥・安倍派のゆくえが、未だに定まらない。麻生、茂木、岸田の各派はいずれも出身閣僚が更迭となり、そのほかの派閥も問題を抱え、各派総崩れ状態、態勢の立て直しを迫られている。

このため、冷静にみると”自民党内政治”が大きく動く可能性は、小さい。2023年の政治は”政局よりも政策”、防衛問題を軸に国会の論戦がどのように展開するか。

また、国民の評価と支持が、岸田首相や、新たなリーダー候補、野党側のどこに向かうのか。そうした結果が政治の側に跳ね返り、与野党に新たな動きを引き起こす。今年の政治は「世論の動向、世論の風の吹き具合」がカギを握るとみている。(了)

”防衛増税 反対6割”政権運営に影響も

我が国の外交・安全保障の基本方針を盛り込んだ国家安全保障戦略など3つの文書が改定され、16日閣議決定された。

防衛力を抜本的に強化するための予算の財源として、1兆円の増税方針も与党の税制改正大綱に盛り込まれた。

岸田首相は当日の記者会見で「国家、国民を守り抜く総理大臣としての使命を断固として果たしていく」と胸を張った。

今回決定された内容は、戦後の安全保障政策を大きく転換するもので、国民はどのように受け止めるのだろうか、個人的に大きな関心を持ってきた。その国民の受け止め方について、報道各社の世論調査がまとまった。

それによると各社の調査とも、今回の防衛増税については「6割以上が反対」という厳しい受け止め方をしていることが浮き彫りになった。

こうした世論の動向は、防衛財源をめぐる議論に当たって大きな意味を持つ。同時に年明け以降の岸田政権の政権運営にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。

 防衛費増は賛否拮抗、増税に強い反対

報道各社の世論調査は17、18の両日行われ、朝日、毎日、産経、共同の各社の調査結果がそれぞれ報道されている。

▲政府は、防衛力を抜本的に強化するため、2023年度から5年間の防衛費を1.6倍の43兆円とする方針を決めた。こうした防衛費の賛否について、各社の調査結果は、次のようになっている。

◇朝日は賛成46%ー反対48% ◇毎日は賛成48%ー反対41% ◇産経は評価する46%ー評価しない48% ◇共同は賛成39%ー反対53%

社によって多少のばらつきがあるものの、賛成と反対に二分されており、その比率はかなり拮抗している。

▲政府・与党は、防衛力を整備する財源として、およそ1兆円増税する方針を決定したが、どのように評価するか。

◇朝日は賛成29%ー反対66% ◇毎日は賛成23%ー反対69% ◇産経は評価する26%ー評価しない70% ◇共同は支持する30%ー支持しない65%

各社の調査とも賛成は3割以下に止まり、反対は6割以上で共通している。反対の割合は、65%以上から70%と多い。3人のうち2人の割合で、反対または支持・評価しないという厳しい受け止め方をしているのが特徴だ。

 順序が逆、防衛力の中身知らされず

それでは、岸田首相にとって誤算はどこにあったのか。1つは、増税に関する情報、説明が圧倒的に不足していたことが、わかっていなかったのではないか。

岸田首相が防衛力整備に具体的に踏み込んだ発言をしたのは11月28日が最初で、防衛費をGDPの2%水準にするよう指示した。その翌週12月8日には増税の検討を指示し、その後わずか1週間で増税内容を決めたことになる。国民の多くには、拙速と映ったのではないか。

次に議論の進め方の問題もある。防衛力を抜本的に強化するのであれば、その内容、目的などを明確に十分説明したうえで、財源を検討、その上で、年末の予算編成時に予算内容を提示するのが、本来あるべき望ましい進め方だ。

ところが、今回は「順序が逆」で、増税の議論が先行、後から防衛3文書の中身が公表となり、国民に対して不親切という指摘は与党幹部からも聞かれた。

さらに、増税の内容やタイミングの問題もある。例えば、東日本大震災の「復興特別所得税」の転用、目的外使用とも言える筋の悪い提案が出てきた。

あるいは、国民が物価高に苦しんでいる時期であることや、企業が賃上げに乗り出そうとする矢先で、経済政策の面からも失敗といった酷評も聞かれた。

このように防衛力整備の内容や意義を国民に十分説明しないまま、増税論が先行し、混乱したツケが、政権側に跳ね返る構図になっている。

    ”竹下流、覚悟や段取りなし”

増税実施に当たって、国民の理解を得るのはどの政権にとっても難しいのは事実だ。但し、岸田政権の対応は余りにも「覚悟と段取り」が乏しいと感じる。

新たな方針を決めた日の記者会見で「増税のプロセスが拙速ではないか」と聞かれたのに対し、岸田首相は「プロセスに問題があったと思っていない。昨年の暮れから議論を進めていた」と反論した。そして、関係閣僚をはじめ、政府の有識者会議などにも諮り議論を重ねてきたことを強調した。

だが、増税の問題は、国会などでの議論を通じ、繰り返し説明することで国民に説明・説得できるかが重要な点だ。昭和や平成前半の首相や政権幹部は、国会での与野党の質問者の背後にいる国民を意識し、答弁する人が多かったと思う。

その典型が、消費税導入に取り組んだ竹下元首相だ。「たとえ、いかなる困難があろうとも、もし聞く人がなくとも『辻立ち』してでもわが志をのべる」と訴え、野党の追及にも耐え、段取りを整えながら法案の成立にこぎ着けた。

これに対して、安倍政権以降この10年、国会での議論を嫌がり、もっとはっきり言えばムダと考える閣僚や幹部が増えたように思う。

岸田政権もこの延長線上にあり、政権内での議論は続けるが、世論に向き合い、意見を分析しくみ上げる力が弱いのではないか。旧統一教会の問題に続いて、今回の防衛問題でも同じような失敗を繰り返しているように見える。

具体的には今年5月、来日したバイデン大統領との会談で岸田首相は「相当な防衛費の増額」を約束しながら、国会や国民に対する掘り下げた説明はみられなかった。竹下元首相流の覚悟や段取りはみられなかったと言わざるを得ない。

世論への向き合い方が弱ければ、内閣支持率の下落は避けられない。報道各社の今月の内閣支持率をみるといずれも30%台前半で政権発足以来最低の水準に落ち込んでいる。不支持率は、5割から6割台にも達している。

内閣支持率は、旧統一教会関連の新法成立が評価されて、いったん下げ止まりとみられていたが、防衛増税の問題で再び、歯止めがかからなくなった。

年末の予算編成を終えても支持率が大幅に上昇するような材料は、見当たらない。世論の動向は、岸田政権の今後の政権運営にも引き続き、大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

このため、年明けの通常国会までに防衛問題などで国民の理解と支持を得られるかどうかは、岸田政権の政権運営にあたっての大きな難問、難所になるとみられる。

その際、岸田首相が国民に真正面から向き合い、段取りを設定しながら着実に懸案を処理できるかどうか、難しいかじ取りを求められる年になるのではないか。(了)

“コロナ危機、踊り場政局” 新年予測

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がりを見せる中で、新しい年・2022年が幕を開けた。昨年は、自民党総裁選を前にコロナ対応などで失速した菅前首相が退陣、岸田首相が誕生するなど波乱が続いた。

新年の日本政治はどんな展開になるのだろうか。まずはコロナ対応、感染力が強いオミクロン株の抑え込みができるかが、政権運営を左右するのは間違いない。

問題は岸田政権をどうみるかで、政局の見方は変わる。結論を先に言えば、岸田政権を取り巻く今年の政治状況は「踊り場政局」と言えるのではないか。

どういうことか?岸田政権は先の衆院選に勝利し安定しているように見えるが、政策にぶれがみられるし、政権基盤も強くはない。政権は浮揚するのか、逆に停滞、失速することになるのか、不透明だ。

だから「踊り場政局」、政権の階段を駆け上がるのか、下りへと向かうのか、読みにくい政治状況が、短くても半年以上は続きそうだ。

一方、野党も先の衆院選で議席を減らした第1党の立憲民主党と、議席を大幅に伸ばした日本維新の会との主導権争いが激しくなる見通しだ。政権与党との対決より、野党内のせめぎあいにエネルギーを費やす可能性もある。

つまり、与野党双方とも”内部に不確定要素を抱え、様子見の政治”、”メリハリのない政治”が続く可能性が高い。そして、夏の参院選で、政治的に一件落着、国民は蚊帳の外といった状況が生まれるのではないか。

そこで、なぜ、こうした見方をするのか、現実の政治の動きを分析する。そのうえで、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で考えてみたい。

 政治日程 参院選挙が最大の焦点

まず、今年の主な政治日程を駆け足で見ておきたい。◆今年前半の政治の舞台となる通常国会は1月17日に召集される見通しで、6月15日が会期末。◆会期延長がなければ、参議院選挙の投開票日は、7月10日になる見通しだ。

一方、国際社会では、◆2月4日から北京冬季オリンピックが開会するが、米英などは外交ボイコットで臨む方針だ。◆3月9日は、韓国の大統領選挙。◆11月8日は、アメリカの中間選挙。◆秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれ、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入るか注目される。

◆米中対立や東アジア情勢の変化を受けて、岸田政権は、日本の外交・安全保障の基本戦略を盛り込んだ国家基本戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を年末に改定する方針だ。外交安全保障の論議が、久しぶりに高まる可能性がある。

 岸田政権 3つのハードル

以上の日程を頭に入れて、国内政治はどう展開するか、岸田政権の運営がベースになる。3つのハードルが待ち受けている。コロナ、国会、参院選挙だ。

▲第1のコロナ対策について、岸田政権は去年11月に対策の全体像を取りまとめたのに続いて、オミクロン株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの対応策を次々に打ち出した。

一方、水際対策をすり抜けたオミクロン株の感染がじわりと広がっている。これに伴って急増する濃厚接触者の扱い、病床の確保、3回目のワクチン接種の前倒しなど、やるべきことが実に多い。その際、国と都道府県、市区町村、医療機関などの連携・調整が順調に進むのかどうか、年明け早々、正念場を迎えそうだ。

▲第2は通常国会の乗り切りだが、岸田政権にとって長丁場の国会は初めてだ。初入閣の閣僚が多く、答弁を不安視する声が与党内からも聞かれる。

▲第3の参院選挙は、特に野党が候補者を1本化する1人区、32の選挙区の勝敗が焦点だ。自民党は前回22勝10敗、前々回21勝、11敗だった。但し、与党は非改選議員が多いため、自民・公明の両党で過半数を維持する公算が大きいとみられる。

自民党長老に岸田政権のゆくえを聞いてみた。「一番の波乱要因は、オミクロン株対応だ。2月頃の感染がどうなっているか。一定程度に抑え込み、3、4月に経済活動が本格化していれば、参院選を乗り切れる。だが、実績が上がらないと厳しい評価を受けるだろう」と楽観論を戒める。

岸田政権は発足からまだ、3か月。コロナ感染者数が激減した環境に恵まれ、内閣支持率も高い水準を維持している。一方、実績と言えば、年末に大型補正予算を成立させた程度で、派閥の人数は5番目、党内基盤は安定しているとはいえない。

特にオミクロン株が急拡大し、対応に失敗すると内閣支持率は急落、政権運営は窮地に陥るとの見方は、党内でも少なくない。

 岸田政権と対決、野党内の競合も

野党側は、通常国会で岸田政権と対峙し、夏の参議院選挙につなげていくのが基本戦略だ。政府のオミクロン株対応、新年度予算案の内容、臨時国会から持ち越した国土交通省のデータ二重計上問題などを追及していく構えだ。

一方、先の衆院選で、野党第1党の立憲民主党は議席を減らしたが、日本維新の会は議席を大幅に増やし第3党に躍進した。日本維新の会は、参院選挙でも候補者を積極的に擁立する構えで、通常国会でも野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。

参院選挙に向けては、立憲民主党が、衆院選で閣外協力で合意した共産党との関係をどのように見直すのか、国民民主党との協力関係はどうするのか。日本維新の会の出方も含めて、野党内の構図が変化する可能性もある。

 参院決選、岸田政権 浮上か失速か

このように今年前半の政治は、通常国会を舞台に与野党の攻防が続いたあと、直後の参院選挙で決着がつけられる見通しだ

岸田自民党は前回、または前々回並みの議席、具体的には50台半ば以上を獲得できれば、公明党と合わせて参議院で安定多数を確保できる。

その場合は、去年秋の自民党総裁選、衆院選に続いて、参院選でも勝利したことになり、岸田首相の求心力は高まる。次の衆院議員の任期満了は2025年、向こう3年間国政選挙なしで、政治課題に専念できる。

逆に前回、前々回の水準を割り込めば、岸田首相の政権運営に陰りが生じ、党内の非主流派のけん制が強まる可能性がある。

つまり、夏の参院選は、踊り場に位置する岸田政権の分岐点だ。安定政権へ階段を上り始めるのか、停滞・失速で下がっていくのか、分かれ道になりそうだ。

但し、与党で過半数は維持する公算が大きいので、去年のような大きな波乱が起きる可能性は低いとみる。年後半は、参院選の結果で方向が決まることになる。

 党利党略から、政治の王道へ転換を

最後にコロナ感染危機が続く中で、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で見ておきたい。

日本の現状を概観すると過去30年間、国民の給料・所得は横ばいで、先進国の中で唯一上昇がみられない。アベノミクスで異次元の金融緩和にも踏み込んだが、実質経済成長率は1%にも達しない状況に陥っている。

加えてコロナ感染拡大が重なるが、危機の時こそ、政治は右往左往するのではなく、目標と道筋を明らかにして、国民の力を集中させることが必要だ。

そのためには、政権与党と野党の双方が、「構想や政策」を真正面からぶつけ合い、議論を深めたうえで、合意をめざす「競い合いの政治」が問われている。

与野党とも「恣意的な1強政治」「批判・追及ばかり」といった批判を受けて、「落ち着いた政治」を模索する動きもみられる。延々と続く党利党略、パフォーマンスの政治から脱却、「政治の王道、政策の中身で勝負する政治」に転換、実践ができないものか。

具体的には、▲年明けの通常国会では、過去最大107兆円の新年度予算案の審議が焦点になる。コロナ禍で困っている人や事業者に支援が届く内容になっているのか、中身を厳しくチェックするのが、与野党議員の仕事だ。

▲オミクロン対策は、水際対策をはじめ、PCRなどの無料検査、陽性者の隔離や待機、病床確保と治療入院、3回目のワクチン接種などの取り組みは順調なのか点検が必要だ。岸田内閣の危機管理体制の見直し、機能強化も大きな課題だ。

▲そのうえで、コロナ収束後の「日本社会、経済の立て直しの構想や目標」をどのように考えているのか。重点政策として、何を最優先に取り組むのか。

▲冒頭に触れた外交・安全保障についても、日本の国力や国益を踏まえて、どんな役割を果たすのか、国民が知りたい点だ。

先の衆院選では、コロナ対策の給付金など当面の対策に議論が集中し、経済の立て直し、人口減少と社会保障、デジタル・科学技術などの基本的な課題を掘り下げて議論することができなかった。

それだけに新年は、コロナ危機と基本的な課題に同時並行で取り組む必要がある。数多くの懸案を抱える日本、解決へ残された時間は多くはない。

通常国会で議論を深めたうえで、参院選で与野党が選択肢を示し、国民が投票で決着をつける本来の政治に一歩でも近づける必要がある。(了)