“コロナ危機、踊り場政局” 新年予測

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がりを見せる中で、新しい年・2022年が幕を開けた。昨年は、自民党総裁選を前にコロナ対応などで失速した菅前首相が退陣、岸田首相が誕生するなど波乱が続いた。

新年の日本政治はどんな展開になるのだろうか。まずはコロナ対応、感染力が強いオミクロン株の抑え込みができるかが、政権運営を左右するのは間違いない。

問題は岸田政権をどうみるかで、政局の見方は変わる。結論を先に言えば、岸田政権を取り巻く今年の政治状況は「踊り場政局」と言えるのではないか。

どういうことか?岸田政権は先の衆院選に勝利し安定しているように見えるが、政策にぶれがみられるし、政権基盤も強くはない。政権は浮揚するのか、逆に停滞、失速することになるのか、不透明だ。

だから「踊り場政局」、政権の階段を駆け上がるのか、下りへと向かうのか、読みにくい政治状況が、短くても半年以上は続きそうだ。

一方、野党も先の衆院選で議席を減らした第1党の立憲民主党と、議席を大幅に伸ばした日本維新の会との主導権争いが激しくなる見通しだ。政権与党との対決より、野党内のせめぎあいにエネルギーを費やす可能性もある。

つまり、与野党双方とも”内部に不確定要素を抱え、様子見の政治”、”メリハリのない政治”が続く可能性が高い。そして、夏の参院選で、政治的に一件落着、国民は蚊帳の外といった状況が生まれるのではないか。

そこで、なぜ、こうした見方をするのか、現実の政治の動きを分析する。そのうえで、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で考えてみたい。

 政治日程 参院選挙が最大の焦点

まず、今年の主な政治日程を駆け足で見ておきたい。◆今年前半の政治の舞台となる通常国会は1月17日に召集される見通しで、6月15日が会期末。◆会期延長がなければ、参議院選挙の投開票日は、7月10日になる見通しだ。

一方、国際社会では、◆2月4日から北京冬季オリンピックが開会するが、米英などは外交ボイコットで臨む方針だ。◆3月9日は、韓国の大統領選挙。◆11月8日は、アメリカの中間選挙。◆秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれ、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入るか注目される。

◆米中対立や東アジア情勢の変化を受けて、岸田政権は、日本の外交・安全保障の基本戦略を盛り込んだ国家基本戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を年末に改定する方針だ。外交安全保障の論議が、久しぶりに高まる可能性がある。

 岸田政権 3つのハードル

以上の日程を頭に入れて、国内政治はどう展開するか、岸田政権の運営がベースになる。3つのハードルが待ち受けている。コロナ、国会、参院選挙だ。

▲第1のコロナ対策について、岸田政権は去年11月に対策の全体像を取りまとめたのに続いて、オミクロン株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの対応策を次々に打ち出した。

一方、水際対策をすり抜けたオミクロン株の感染がじわりと広がっている。これに伴って急増する濃厚接触者の扱い、病床の確保、3回目のワクチン接種の前倒しなど、やるべきことが実に多い。その際、国と都道府県、市区町村、医療機関などの連携・調整が順調に進むのかどうか、年明け早々、正念場を迎えそうだ。

▲第2は通常国会の乗り切りだが、岸田政権にとって長丁場の国会は初めてだ。初入閣の閣僚が多く、答弁を不安視する声が与党内からも聞かれる。

▲第3の参院選挙は、特に野党が候補者を1本化する1人区、32の選挙区の勝敗が焦点だ。自民党は前回22勝10敗、前々回21勝、11敗だった。但し、与党は非改選議員が多いため、自民・公明の両党で過半数を維持する公算が大きいとみられる。

自民党長老に岸田政権のゆくえを聞いてみた。「一番の波乱要因は、オミクロン株対応だ。2月頃の感染がどうなっているか。一定程度に抑え込み、3、4月に経済活動が本格化していれば、参院選を乗り切れる。だが、実績が上がらないと厳しい評価を受けるだろう」と楽観論を戒める。

岸田政権は発足からまだ、3か月。コロナ感染者数が激減した環境に恵まれ、内閣支持率も高い水準を維持している。一方、実績と言えば、年末に大型補正予算を成立させた程度で、派閥の人数は5番目、党内基盤は安定しているとはいえない。

特にオミクロン株が急拡大し、対応に失敗すると内閣支持率は急落、政権運営は窮地に陥るとの見方は、党内でも少なくない。

 岸田政権と対決、野党内の競合も

野党側は、通常国会で岸田政権と対峙し、夏の参議院選挙につなげていくのが基本戦略だ。政府のオミクロン株対応、新年度予算案の内容、臨時国会から持ち越した国土交通省のデータ二重計上問題などを追及していく構えだ。

一方、先の衆院選で、野党第1党の立憲民主党は議席を減らしたが、日本維新の会は議席を大幅に増やし第3党に躍進した。日本維新の会は、参院選挙でも候補者を積極的に擁立する構えで、通常国会でも野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。

参院選挙に向けては、立憲民主党が、衆院選で閣外協力で合意した共産党との関係をどのように見直すのか、国民民主党との協力関係はどうするのか。日本維新の会の出方も含めて、野党内の構図が変化する可能性もある。

 参院決選、岸田政権 浮上か失速か

このように今年前半の政治は、通常国会を舞台に与野党の攻防が続いたあと、直後の参院選挙で決着がつけられる見通しだ

岸田自民党は前回、または前々回並みの議席、具体的には50台半ば以上を獲得できれば、公明党と合わせて参議院で安定多数を確保できる。

その場合は、去年秋の自民党総裁選、衆院選に続いて、参院選でも勝利したことになり、岸田首相の求心力は高まる。次の衆院議員の任期満了は2025年、向こう3年間国政選挙なしで、政治課題に専念できる。

逆に前回、前々回の水準を割り込めば、岸田首相の政権運営に陰りが生じ、党内の非主流派のけん制が強まる可能性がある。

つまり、夏の参院選は、踊り場に位置する岸田政権の分岐点だ。安定政権へ階段を上り始めるのか、停滞・失速で下がっていくのか、分かれ道になりそうだ。

但し、与党で過半数は維持する公算が大きいので、去年のような大きな波乱が起きる可能性は低いとみる。年後半は、参院選の結果で方向が決まることになる。

 党利党略から、政治の王道へ転換を

最後にコロナ感染危機が続く中で、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で見ておきたい。

日本の現状を概観すると過去30年間、国民の給料・所得は横ばいで、先進国の中で唯一上昇がみられない。アベノミクスで異次元の金融緩和にも踏み込んだが、実質経済成長率は1%にも達しない状況に陥っている。

加えてコロナ感染拡大が重なるが、危機の時こそ、政治は右往左往するのではなく、目標と道筋を明らかにして、国民の力を集中させることが必要だ。

そのためには、政権与党と野党の双方が、「構想や政策」を真正面からぶつけ合い、議論を深めたうえで、合意をめざす「競い合いの政治」が問われている。

与野党とも「恣意的な1強政治」「批判・追及ばかり」といった批判を受けて、「落ち着いた政治」を模索する動きもみられる。延々と続く党利党略、パフォーマンスの政治から脱却、「政治の王道、政策の中身で勝負する政治」に転換、実践ができないものか。

具体的には、▲年明けの通常国会では、過去最大107兆円の新年度予算案の審議が焦点になる。コロナ禍で困っている人や事業者に支援が届く内容になっているのか、中身を厳しくチェックするのが、与野党議員の仕事だ。

▲オミクロン対策は、水際対策をはじめ、PCRなどの無料検査、陽性者の隔離や待機、病床確保と治療入院、3回目のワクチン接種などの取り組みは順調なのか点検が必要だ。岸田内閣の危機管理体制の見直し、機能強化も大きな課題だ。

▲そのうえで、コロナ収束後の「日本社会、経済の立て直しの構想や目標」をどのように考えているのか。重点政策として、何を最優先に取り組むのか。

▲冒頭に触れた外交・安全保障についても、日本の国力や国益を踏まえて、どんな役割を果たすのか、国民が知りたい点だ。

先の衆院選では、コロナ対策の給付金など当面の対策に議論が集中し、経済の立て直し、人口減少と社会保障、デジタル・科学技術などの基本的な課題を掘り下げて議論することができなかった。

それだけに新年は、コロナ危機と基本的な課題に同時並行で取り組む必要がある。数多くの懸案を抱える日本、解決へ残された時間は多くはない。

通常国会で議論を深めたうえで、参院選で与野党が選択肢を示し、国民が投票で決着をつける本来の政治に一歩でも近づける必要がある。(了)

 

 

”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測

新しい年・2021年は、東京のコロナ感染者が大晦日に1300人を超えるなど感染第3波と強い寒波の襲来で幕を開けた。去年の日本政治は、憲政史上最長の7年8か月に及んだ安倍政権が幕を閉じ、菅新政権が誕生する激動の年だった。今年はどんな年になるのだろうか?

結論を先に言えば、”コロナ大激変時代”、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆議院議員の任期切れが重なる。”首相交代含みの波乱政局”になる公算が大きいとみている。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由・背景を説明していきたい。

 新年の政治 ”コロナ、五輪、選挙”

2021年の主な政治日程を見ておきたい。◆通常国会は1月18日に召集、今年前半の政治の主な舞台になる。◆6月末から7月にかけて東京都議会議員選挙、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。◆7月23日から、延期されていた東京オリンピック・パラリンピックの開催、9月5日閉会の見通し。その後、9月に自民党総裁の任期切れ、10月に衆院議員の任期が満了、それまでに選挙が行われる。

新年の政治に影響を及ぼす要素としては、何があるか。3つ挙げるとすると◆1つは「コロナ対応」。◆2つ目は「東京五輪」。国家的行事で、仮に再び延長になれば、政治はもちろん、経済、社会への影響は甚大だ。◆3つ目が「選挙」。春の統一補選、夏の都議選、自民総裁選、解散・総選挙、大きな選挙が相次ぐのが特徴だ。

 政局 衆院解散より ”菅リスク”

そこで、政治の焦点はどこになるのか。これまでは衆院解散・総選挙がいつになるかが、最大の焦点だった。

ところが、菅政権のコロナ対応が後手に回り、年末、菅内閣の支持率が急落した。菅政権の力量に赤信号、年明けの解散・総選挙はなくなったとの受け止め方が広がり、秋の解散・総選挙が有力になっている。

代わって、菅政権は「いつまで持つか」。フェーズが変わり、解散・総選挙より、”菅政権の不安定化”に焦点が移りつつある。”菅リスク”をどうみるか、この点が、実は”2021政局の核心”だ。

なお、解散の時期は◆通常国会冒頭解散が見送られた場合、◆新年度予算成立後の4月説、◆東京都議選とのダブル選挙説も一部にあるが、公明党が都議選を重視していることなどから、実現可能性は極めて低い。◆10月任期満了か、その前の9月選挙が、選挙のプロの見方だ。

 菅政権 ワクチン接種効果に期待

それでは、菅首相はどんな政権運営を行うのだろうか。菅首相に近い関係者に聞くと菅首相は「実績を積み重ねた上で、信を問えば、国民は必ず理解してくれる」という考え方で一貫していると言う。

具体的には◆コロナ対応は、ワクチン接種が2月下旬に始まれば、感染防止にメドがつく。◆その上で、東京オリ・パラを成功させる。◆その間に携帯電話料金の値下げ、不妊治療支援、自然エネルギー開発のグリーン成長戦略を進めた上で、衆院選勝利、総裁再選へとつなげる戦略と言われる。

 野党攻勢 ”桜、卵 ”疑惑 の逆風

これに対して、野党の出方はどうだろうか。野党側は、菅内閣の支持率急落は、政府のコロナ対策に国民の支持が得られていないことが原因とみて、政権批判と野党のコロナ対策の提案も織り交ぜながら、攻勢を強めることにしている。

もう1つは、”政治とカネ”の問題。「桜を見る会」前夜の懇親会をめぐり、安倍前首相の公設第1秘書が政治資金規正法違反で略式命令を受けた。野党側は、安倍氏は責任を秘書に押しつけ、国会での虚偽答弁の政治責任もとっていないとして、安倍氏の証人喚問を要求していく方針だ。立憲民主党の幹部は「今度こそ、安倍氏を追い詰める」と強気で攻める構えだ。

また、自民党に所属していた吉川貴盛・前農相が、大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受け取っていた問題。東京地検特捜部は、贈賄容疑で強制捜査に乗り出した。吉川氏は、先の総裁選では菅選対の事務局長を務めるなど菅首相とも近く、事件に発展すれば菅政権への打撃は避けられない。

さらに、河井案里参院議員が、一昨年夏の参院選で公職選挙法違反、買収の罪に問われている裁判で、国会召集直後の1月21日に判決が言い渡される。

菅政権にとっては、コロナ対応に加えて、政治とカネのスキャンダルが逆風となって吹きつける公算が大きい。年明けの通常国会は、厳しい国会運営を迫られることになりそうだ。

 首相続投か、交代か?政局流動化

それでは、今年の政局はどのような展開になり、何が大きなカギになるか。

自民党のベテランに聞くと「コロナ次第だ。ワクチン接種がうまくいけば、菅首相は政権維持ができるし、再選だって可能になる。自民党は保守政党、総裁に問題ありといっても直ぐには代えられない。菅首相で総裁選まで突っ込む可能性が大きいのではないか。”菅降ろし”ができる実力者もいない」との見方を示す。

一方で、「都議選と、国政選挙が重なる年は、要注意だ。党員の意見や世論の力が強く働く。また、菅内閣の支持率下落だけでなく、自民党の支持率も徐々に低下し始めた点が気になる」と警戒感をのぞかせる。

この指摘は、平たく言えば、”麻生型”か、”森型”か。「どちらのコースをたどるのかが、今年の政局のポイントだ」と示唆しているように聞こえる。

◆”麻生型”。麻生元総理は、リーマンショックの対応を優先し、早期解散を見送ったが、”漢字が読めない総理”などの不評も重なって支持率が急落、退陣論もくすぶった。任期満了近くの解散・総選挙まで粘ったが、惨敗・退陣に終わった。

◆”森”型。森元総理は、日本の水産高校の練習船「えひめ丸」がハワイ沖で、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突・沈没した事故の対応をめぐって批判を浴びた。その年は、都議選と参院選とが予定されており、「森元総理では選挙を戦えない」などの声が強まり、退陣に追い込まれた。

こうしたケースにみられるように菅政権は、コロナ対応の批判や内閣支持率の低下が続いた場合、党内から首相批判が強まる事態が予想される。菅首相は、総裁選に挑戦して続投をめざすのか、それとも首相交代へと追い込まれるのか。今年の政局は衆院選の戦い方とも絡んで、政局が流動化する公算が大きいとみている。

 コロナ激変時代 再生の競い合いを

最後に”コロナ激変時代”、私たち国民の立ち場から、今の政治のどこを注視していけばいいのか、みておきたい。

第1は「政権の危機対応」だ。菅政権はこれまで携帯電話料金値下げなど”菅カラー”の政策には熱心だったが、肝心のコロナ対応は「後手の連続」と言わざるをえない。政権がコロナ危機に有効な対応策を打ち出し、司令塔の役割を果たしているかどうか、しっかりみていく必要がある。

第2は、繰り返される「政治とカネの問題にケジメ」をつけられるか。安倍長期政権のよどみが噴き出した結果にもみえる。コロナ対応に集中するためにも、与野党は、安倍氏の証人喚問などは早期に結論を出して決着を図ってもらいたい。

第3は「日本社会・経済の立て直し」の議論と競い合い。自民党の次をめざすリーダーや、野党各党の代表はそれぞれ自らの構想を打ち出し、議論を深め、競い合いをみせて欲しい。

国民の側は、こうした主張・構想を手がかりに、年内に必ず行われる衆院選に1票を投じたい。コロナ禍で、政府や政治の重要さは肌身に感じている国民は多いのではないか。投票参加によって、「コロナ激変時代、日本社会立て直し元年」にしてはどうだろうか。

2020政局 ”激動型” 衆院解散、総裁選び

新しい年、令和2年・2020年が幕を開けた。東京オリンピック・パラリンピックが半世紀ぶりに開催されるが、政治はどのように動いていくのか探ってみたい。

結論を先に言えば、2020年は「激動型の政局の年」になるのではないか。
秋以降、衆議院の解散・総選挙と、ポスト安倍の自民党総裁選びに向けて、激しい動きが展開する年になると見ている。

なぜ、こうした見方をするのか、その理由、背景を以下、明らかにしたい。
併せて2020年の日本政治は、何が問われているのか考えてみたい。

 ” 年明け解散なし”の見通し

野党側や自民党の一部には、年が明けて通常国会冒頭、大型の補正予算案を成立させた後、安倍首相は衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかという観測もあるが、年明けの解散はなしと見ている。

年明け解散説は「桜を見る会」問題で窮地に追い込まれている安倍首相が、局面打開に解散を決断するのではないかという見方だ。

これに対して、自民党幹部は台風19号などの被害が大きく、選挙を行えるような状況ではないとの判断だ。
また、去年秋の閣僚2人の辞任以降、首相主催の「桜を見る会」の規模や予算が増え続けている問題。大学入学共通テストの柱である記述式問題が取り消しになるなどの不祥事が相次いでおり、解散・総選挙どころではないというのが本音だ。

 ”五輪終わると政治の季節”

それでは、どのような展開になるのか。1月20日召集の通常国会で、与党側は、補正予算案と新年度予算案の早期成立をめざす方針だ。

これに対し、野党側は去年の臨時国会に続いて「桜を見る会」の問題を追及する方針だ。
また、年末にはかんぽ生命問題で、総務省の現職事務次官が情報漏洩で更迭されるといった前代未聞の事件も明るみになった。

さらに、安倍政権が成長戦略の柱と位置づけているカジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件などを取り上げる方針で、与野党の激しい攻防が繰り広げられる見通しだ。

その通常国会の会期末は6月16日。翌17日は東京都知事選挙が告示され、7月4日に投票が行われるため、国会の会期延長は難しい見通しだ。候補者の顔ぶれは決まっていないが、与野党双方とも、首都決戦に場所を移し激しく争う見通しだ。

この後、7月24日に東京オリンピックが開幕、8月25日からはパラリンピックも始まり、9月6日閉幕する運びだ。このオリンピック、パラリンピックが閉幕すると、秋以降は再び政治の季節を迎え、激しい動きが予想される。

 政局激動型、2つの根本問題

秋到来とともに政治は、次第に張り詰めた空気に包まれていくのではないか。

1つは9月30日、安倍首相の自民党総裁任期が任期満了となる1年前。もう1つは3週間後の10月21日、今の衆議院議員の任期満了となる1年前だ。自民党総裁と衆院議員の任期切れが、いずれも1年後に迫り、待ったなしの状況になる。

政権与党は任期満了選挙を嫌がる。期限の設定で、追い込まれ解散の恐れがあるためだ。それを避けるために普通は1年ほど前には解散時期などの腹を固める。

自民党の総裁任期については、ポスト安倍の有力候補が不在との見方から安倍首相の総裁4選論もある。これに対して、安倍首相は今の党則で認められているのは3選までであり、「4選は考えていない」と全否定している。安倍首相の側近を取材しても首相の意思は固いという。

安倍首相は、衆院解散・総選挙と、総裁4選論の”2つの根本問題””に結論を出す必要がある。その時期は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピック終了頃に当たる。「新年の政局は激動型」と見る根拠は、この2つの問題に結論を出す時期にちょうど当たるからだ。

  激動政局 4つのケース

それでは新年の政治は、具体的にどんな展開になるだろうか。現実に起きる可能性が高いケースを考えると、次の4つのケースが想定される。

▲第1は、東京オリンピック・パラリンピックの閉幕を受けて、安倍首相が新たな時代へスタートを切る時だとして、年内に「衆院解散・総選挙」に打って出るケース。
総裁4選については、事実上4選を前提とするケースや、選挙結果によるとして直接言及しないケース、さらには選挙後、後任に道を譲るケースがありうる。

▲第2は、後継総裁の調整が難航したり、野党の激しい攻勢などで、衆院解散のタイミングを見いだせずに「解散・総裁4選のいずれも先送り」するケース。

▲第3は、安倍首相が東京オリンピック・パラリンピック閉幕を受けて、後進に道を譲りたいとして退陣を表明、いわゆる「オリンピック花道論」。そして直ちに「後継の総裁選び」が行われるケース。

▲第4は、新総裁を選んだ後、その新総裁が衆院の解散・総選挙に打って出るケース。「首相退陣から、総裁選び、衆院解散・総選挙」へと大激動型の政局展開ケースになる。

 ”オリンピック花道論”の意味

皆さんの中には”安倍1強と言われる時代、途中退陣はありえない”との見方をされる方もいると思う。これに対して、実は”政界のプロ”と目される人たちの中には”オリンピック花道論”は十分ありうるとの見方があるのも事実だ。

半世紀余り前、昭和39年・1964年10月の東京オリンピックの際、当時の池田勇人首相は大会閉幕の翌日に退陣表明、後任に佐藤栄作氏が選ばれた。池田首相の病気が理由で極めて無念だったと思われるが、今回は、安倍首相が自身の影響力を残すことをねらいにしている。

どういうことか。安倍首相としては早期の退陣表明で、総裁選で意中の後継者が優勢な流れを作った上で、衆院解散・総選挙の時期についても、選択肢を広げることができる。さらに退陣後も自身の影響力を残せると見られるからだ。

但し、このねらい通り運ぶかどうか。安倍首相の求心力が維持しているのが前提で、シナリオ通りの展開になるかどうか不確定な要素も多い。

この他、野党が新党を結成し、次の衆院選で政権交代というケースもあり得る。但し、当面、次の衆院選までは自民・公明政権が継続する可能性が高いと見ているので、今回は想定から外している。

 花道論と4選論の確率は?

さて、皆さんから予想される次の質問は、オリンピック花道論や安倍首相の総裁4選論の可能性はどの程度あるのかという点だ。

まず、オリンピック花道論は、総裁選の有力候補者の顔ぶれや構図、それに選挙情勢などと関係してくるので、今の段階で実現可能性に言及できる状況にはない。但し、次の衆院選と、総裁選びとの間を空ける大きな意味を持っている。

一方、安倍首相の総裁4選論については、首相の側近を取材すると「総理は考えていない」と否定的な見方を示す。総理・総裁は、大きな重圧を抱えながら孤独な決断を迫られるポストだ。7年余りも続けていることを考えると、4選は考えないというのは本音ではないかと個人的には見ている。

但し、アメリカ大統領選で安倍首相と相性がいいトランプ氏が再選になった場合、あるいは、後継総裁選びが思うような展開にならなかった場合は、4選論が急浮上するのではないかとの見通しもあり、流動的と言えそうだ。

 衆院解散の確率は?

衆院解散・総選挙の方は、どうだろうか。安倍首相の側近の幹部に聞いてみると「次の衆院選を誰の手で断行するか、安倍首相と次の新しいリーダーの2つのケースが考えられるし、いずれもありうる。新年にならないとわからない」との見方だ。要は、来年前半の国内情勢や海外情勢を見極める必要があるということだと思う。

衆院解散・総選挙については、今の選挙制度になった1996年橋本政権以降、解散から解散までの期間を計算すると「3年」だ。この期間を当てはめると今年10月で、丸3年になる。安倍政権下の解散の期間は、2年5か月とさらに短くなる。

もう1つ、頭に置く必要があるのは、来年7月、与党の一翼を担う公明党が重視する東京都議選が行われることだ。この都議選と、その年の秋の任期満了を外すとなると来年ではなく「今年秋以降」、今年秋か年明けの確率が高くなると見る。
この解散・総選挙については、さまざまな要素が絡むので、次回のブログで取り上げたい。

 新年 日本政治が問われる点

以上、見てきたように新年・2020年の政治は、自民党総裁選びと衆院解散・総選挙が同時並行で進む形になり、激動型の政局の年になる可能性が高い。しかも、史上最長政権、あるいはその後継政権はどんな展開になるのか未知の領域だ。

そこで、私たち国民の側から見て、今の日本政治は何が問われているのか。
▲1つは、向こう2年以内には確実に衆院選挙が行われる。国民が投票所に足を運びたくなるような「国民を引きつける政治」を見せてもらいたい。

安倍首相は国政選挙6連勝中だが、選挙の勝敗は別にして、投票率がいずれも低く「選挙離れ社会が進行中」という深刻な問題を抱えている。

政権与党、特に自民党はポスト安倍の総裁選びで、各候補は「どんな社会をめざすのか」目標・構想を掲げ党内論争を活発に展開すべきだ。最近の党内は、”黙して語らず”、党内論争がなさ過ぎる。

▲2つ目は、野党への注文。野党の合流・新党結成の動きが続いているが、野党各党は「何をめざす政党か、旗印」を明確に打ち出してもらいたい。

また、国民が不満に感じるのは、衆院選挙の小選挙区の場合、選挙の前に勝敗の予想がつく選挙区が多いことだ。これでは投票率は上がらない。候補者の擁立、調整、態勢づくりが必要だ。

▲3つ目は、日本の政治は、人口急減社会への対応という難問に直面しながら、「将来社会をどのように設計するのか」、いまだに答えを出し得ていない。

また、米中の覇権争いが長期化する中で、日本の外交・安全保障のあり方を真正面から検討・再構築していく時期を迎えている。

端的に言えば、「日本社会の将来像と外交・安全保障の構想」の競い合い、選挙で決定する取り組み方が、最も問われていると考える。

政局が激動する年になるのであれば、私たち国民の側は「日本が抱える課題・難問の前進につながるような政治の動きに対する見方や、評価、選挙での投票」を考える必要があるのではないかと思う。