トランプ関税交渉と終盤国会のゆくえ

トランプ政権の関税措置をめぐり、赤澤経済再生担当相が月末に訪米し、2回目の日米閣僚交渉が行われる見通しだ。この協議で、日米交渉を軌道に乗せる糸口を見いだせるかどうか、重要な局面を迎えている。

一方、国内では通常国会の会期末まで残り2か月を切ったが、石破政権や与野党ともにトランプ関税の大波に飲み込まれ、トランプ関税以外の懸案に手がつかない状況に陥っている。

今月末からの大型連休が明けると、各党が国政選挙並みの態勢で臨む東京都議会議員選挙が6月に、参議院選挙が7月に相次いで行われる。石破政権と与野党は、トランプ政権の関税措置交渉や終盤国会にどのような対応が求められているのか考えてみたい。

 トランプ関税、交渉分野は固まるか

まず、トランプ大統領が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉からみていきたい。日本時間の今月17日に行われた初めての日米交渉は、冒頭にトランプ大統領が赤澤経済再生相と会談するという異例の形で始まった。そして続いて行われた閣僚協議を含め、日米双方は可能な限り早期に合意をめざすことで一致した。

これを受けて日本政府は、赤澤経済再生相が今月30日から3日間の日程でワシントンを訪れ、ベッセント財務長官らと2回目の閣僚交渉を行いたい考えで調整を進めている。米側と調整がつけば閣僚交渉は、日本時間の5月1日に行われる見通しだ。

日本としては、対米輸出額で最も多い自動車や鉄鋼などの追加関税と、幅広い製品に課税される「相互関税」の見直しについて、引き続き強く求めていく方針だ。

これに対して、アメリカ側は初回の会合で「日本だけ特別扱いをすることはできない」として、否定的な認識を示しているという。

赤澤経済再生相は24日、記者団に「英語で言うと『スコーピング』、私は『交渉の土俵』と呼んでいるが、何を重点に話合うのか、優先順位を含めて話し合い、2回目の交渉でおおよそ決めたい」とのべた。

日本政府関係者によると、トランプ大統領の最大の関心事項は、貿易赤字の問題とされる。また、アメリカ製自動車や、コメなど農産物の輸入拡大、在日米軍の駐留経費の問題にも関心を持っていると受け止めている。

石破首相は国会答弁などで「安全保障は、貿易とは違う分野の話だ。為替は加藤財務大臣とベッセント財務長官の間で話合いが行われる」として、安全保障や為替の問題は、関税交渉とは切り分けて議論したいという考えを示している。

他方で、アメリカ車の輸入拡大に向けては「非関税障壁」や、コメを含む農産物の輸入拡大に向けては柔軟に対応することを検討しているとされる。

赤澤経済再生相としては、以上のような立場に立ってアメリカ側と突っ込んだ意見を交わし交渉範囲を固めたい考えだ。

もう1つ、次回の交渉で注目される点は、協議のスピードと交渉妥結の目安になる時期だ。

米側は早期の合意をめざしているとされ、トランプ大統領は17日、記者団に日本を含む主要国との合意の見通しについて「今後、3~4週間だろう」と語った。仮に4週間とすると5月中旬頃が目安になる。

これに対して、日本側は「日本が対米交渉の先頭にいる立場を活かすべきだ」と早期の妥結をめざすべきだという意見と、「アメリカ側の立場は揺れている」として焦らずに時間をかけた方がいいとの意見があり、対応は定まっていないとされる。

トランプ大統領は自信満々に相互関税を発動したが、米国債が急落すると一転して相互関税の上乗せ部分の停止に踏み切った。

また、アメリカの有力紙・ウオール・ストリートジャーナルが「トランプ政権が中国との貿易摩擦を緩和するため、関税率の大幅な引き下げを検討している」と報じるなど大統領の足元がぐらついているようにみえる。

こうした情勢を踏まえて、石破政権はどのような姿勢で交渉に臨むのか、次回の協議の結果が注目される。

米側は「相互関税」の停止期間を90日間として、各国との交渉期間に位置づけているが、90日後は7月9日。日本では今の政治日程では参議院決戦の真っ最中に当たるだけに、国内政治に大きな影響を及ぼす。

年金制度、夫婦別姓など懸案対応は

国内に目を転じると長丁場の通常国会も6月22日の会期末まで、2か月を切った。政府・与党は関税措置への対応に追われ、重要法案への対応が後手に回っている。

通常国会の重要法案の1つである年金制度改革関連法案をめぐっては、政府・自民党内で内容など調整が進まず、国会への提出が大幅に遅れている。

これに対し、立憲民主党は「遅くとも来月13日には提出し、審議入りしなければ今の国会での成立が難しくなる」として、提出のメドが明らかにならない場合は、福岡厚生労働大臣に対する不信任決議案の提出を検討するとけん制している。

また、懸案の企業・団体献金の扱いをめぐっては、3月末までに与野党で結論を出すことにしていたが、先送りになったままだ。政治資金を監視する第三者機関を設置する動きも進展していない。自民党旧安倍派の裏金問題の実態解明や、石破首相の商品券配付問題についての政倫審での説明も先送りになっている。

終盤国会では、懸案の選択的夫婦別姓の法案が立憲民主党から提出される見通しだ。自民党は党内の意見が分かれていることもあって、この問題への取り組みの動きは鈍い。

こうした懸案や重要法案は、夏の参議院選挙の論戦でも争点になる。それだけに国会で与野党が議論を深めておかないと有権者に判断材料を提供できないことになる。トランプ関税に関心を持ち力を入れるのは当然だが、国会と政党はそれぞれ本来の役割を果たしてもらう必要がある。

石破首相で参院選か、会期末の波乱は

冒頭でも触れたように今年は、東京都議選の投開票が6月22日、今の国会の会期延長がなければ、参議院選挙が7月3日公示・20日投開票の日程で行われる。4年に一度の都議選と、3年に一度の参議院選挙が同じ年に行われる”選挙イヤー”だ。

去年の衆議院選挙では自民・公明両党の与党が過半数を割り込んだが、今度は参議院でも与党過半数割れが起きるのか、その結果、連立の組み合わせの変更などが起きるかも焦点の1つになる。

そこで、政権・政局をめぐる動きを整理しておくと石破政権については、自民党内で予算成立後、一部に「石破首相では参院選を戦えない」として「石破降ろし」の動きがあったが、こうした動きが起きる公算は小さいとみられる。

というのは、トランプ関税措置をめぐる日米交渉が正念場を迎えようとしている時に、政争とみられる動きは支持が広がらないとみられるからだ。このため、自民党は、石破首相の下で参院選挙を戦う可能性が大きいとみられる。

一方、会期末に野党第1党の立憲民主党が、石破内閣の不信任決議案を提出し、野党各党がそろって賛成した場合は、可決される可能性がある。その場合、石破内閣が総辞職をするか、衆議院の解散・総選挙に踏み切る選択肢もあり、会期末に大きな波乱が起きる可能性は残っている。

但し、立憲民主党の野田代表は、不信任決議案の提出に慎重な姿勢を見せている。仮に提出した場合も、日本維新の会や国民民主党が同調しない可能性も大きく、政界では不信任案が可決される可能性は低いとの見方が強い。

このため、参院選挙は単独で行われる公算が大きいが、その場合、トランプ政権の関税措置への対応が大きな争点になるとみられる。石破政権は世界の先頭を切ってトランプ政権との関税交渉に入ったが、日本の利益だけでなく、世界の自由貿易を維持していく交渉ができたのかどうかが問われる。

また、石破首相がリーダーシップを発揮して関税交渉に当たり、成果を導き出すことができたのかどうか、与野党の論戦の焦点になるとみられる。私たち国民も、石破政権や与野党の対応をしっかり見極め、夏の参議院選挙での選択に備えたい。(了)

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”難航必至か”トランプ関税 日米交渉開始

トランプ政権が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉は、異例の形で始まった。訪米した赤澤経済再生相は日本時間の17日早朝、ホワイトハウスでトランプ大統領と50分間にわたって会談した。この席には、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、USTR=アメリカ通商代表部のグリア代表が同席した。

この席で赤澤経済再生相は「日米双方の経済が強くなるよう包括的な合意を可能な限り早期に実現したい」という石破首相のメッセージを伝えた。

これに対し、トランプ大統領は国際社会の中で、アメリカが置かれている現状を説明するとともに「日本との協議が最優先だ」という考えを示したという。

続いて赤澤経済再生相は、ベッセント財務長官ら3人の閣僚とホワイトハウスで1時間20分、初めての閣僚交渉を行った。

その結果、日米双方は◇率直かつ建設的な姿勢で交渉に臨み、可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるようめざすこと。◇次回の交渉を今月中に実施するよう日程調整を進めること。◇閣僚レベルに加え、事務レベルでの交渉も継続することで一致した。

今回の日米交渉をどのように評価したらいいのか。また、今後の日米交渉はどのような点が焦点になるのか探ってみたい。

石破首相、次につながる協議と評価

石破首相は、トランプ大統領との会談や閣僚交渉を終えた赤澤経済再生相から電話で報告を受けたあと、記者団の取材に応じた。

石破首相は「日米間には、依然として立場に隔たりがある」としながらも「トランプ大統領は、日本との協議を最優先したと述べている。次につながる協議が行われたと認識している」と安堵の表情をみせた。

また、今後の対応については「交渉の推移をみながら私自身、最も適切な時期に訪米し、トランプ大統領と直接、会談することを当然、考えている」とのべ、日米首脳会談で決着させることに意欲を示した。

一方、赤澤経済再生相は「アメリカは90日間でデイールを成り立たせようとしている。われわれはできる限り早くやりたいという思いは持っているが、交渉の今後の進展はまったく分からない」とのべた。

また、記者団からの質問に答えて赤澤経済再生相は「為替については出なかった」とのべ、米側から他のテーマ、在日米軍の駐留経費分担など日本の防衛費や農産物などについて、アメリカ側から提起があったことを示唆した。

このように日米の会談や協議の詳しいやり取りは明らかになっていないが、日米双方は、早期に合意できるよう努力することで一致した点が今回の大きな特徴だ。

日本側としては、最初の交渉で米側の出方を前向きに受け止めており、今月中に行われる次の閣僚協議などを経て、早期合意をめざすものとみられる。

 日米交渉、楽観視できない見方も

今回の日米交渉について、経済の専門家の見方を聞くと「トランプ政権が、主要国の中で日本との協議を最初に行ったのは事実だが、これは日本を厚遇しようということではない。米国は貿易赤字削減を主要な目標ににしており、日本にだけ甘い対応をすることは考えにくい」として、楽観視できないとの見方を示す。

そのうえで「米側が期待する赤字削減を実現するためには、日本側が大幅な譲歩が必要になる。アメリカ国内ではトランプ政権の関税政策に批判的な意見が強くなる可能性があるので、日本は焦って交渉を早めるより、アメリカ国内の情勢を見極めながら慎重に対応した方がいい」と指摘している。

こうした考え方は自民党内にもあり、閣僚経験者の一人は「自動車などに対する関税については早期妥結が好ましいが、交渉ごとは焦ると負けという側面もある。アメリカ国内の企業や世論の反応によっては、関税政策も変更を迫られる」として、政府は短期、長期両にらみで交渉に臨むべきだという考えを示す。

こうした経済専門家や自民党内の指摘を受けて、石破首相がどのような判断を示すのか問われることになる。

このほか、日本側としては詰めておくべき点は多い。例えば、交渉の対象分野について、日本側が強く求めている自動車、鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税の扱いのほか、米側の関心が強い農産物の市場開放や日本の防衛費、為替などについてどのような扱いにするか、整理が必要だ。

また、日本側が関税見直しの交渉カードとして、LNG=液化天然ガスの開発や輸入拡大などの項目をパッケージとして示し日米が大筋で合意した場合、アメリカ側は関税の見直しで譲歩するのか確認しておく必要がある。

このようにみていくと日米が早期の合意をめざすことで一致したといっても、調整が必要な分野は多岐にわたり、交渉は難航することが必至だとみられる。

 石破政権、参院選も控え難しい対応

それでは、これからの展開はどのようになるだろうか。アメリカ側は「日本は交渉の列の先頭にいる」と位置づけている。これは早期に日米合意を実現し、後に続く各国のモデルケースとして、アメリカが主導権を発揮していく戦略だとみられる。

これに対して石破政権は、相互関税停止の90日間以内の早期決着をめざすのか、それとも中長期も辞さない立場で臨むのか、選択を迫られる。

今後の日程をみると、自動車部品に対して5月3日から25%の追加関税が課せられるほか、6月にはG7サミットがカナダで開催、さらに7月には参議院選挙が予定されている。

石破政権にとっては、自動車や自動車部品の追加関税を早期に是正する必要があるが、早期決着をめざして譲歩しすぎると「国益に反する」との指摘が予想されるほか、国際社会からは「自由貿易を放棄する対応だ」などと非難されるおそれがある。

一方、長期戦で臨むとトランプ政権からの強い反発が予想されるほか、夏の参議院選挙では無為無策などと批判を浴び、大きなダメージを受ける可能性もある。

石破政権としては、日米交渉でどこまで日本の主張を反映させることができるかどうか、国民に対して交渉の状況や日本の役割を説明しながら理解を得ることができるかどうか難しい対応を迫られることになる。

私たち国民も日米交渉のゆくえと自由貿易に及ぼす影響、そして日本の役割をどう考えるか、内外の動きを注視していきたい。(了)

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米「相互関税」一時停止、日本の対応は

アメリカのトランプ大統領は、貿易赤字が大きい国などへの「相互関税」を90日間、停止する異例の対応をとる一方、中国に対しては125%からさらに引き上げ145%の関税を課すなど強い姿勢を打ち出した。

これに対して中国政府は10日午後、アメリカからの輸入品に予定よりも50%上乗せした84%の追加関税を課す措置を発動するなど一歩も引かない構えを示している。

こうした米中両国による関税引き上げの応酬を受けて、10日のニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が一時、前日と比べて2100ドル余り値下がりした。終値は、前日に比べて1014ドルの下落となった。

一方、11日の東京株式市場も全面安の展開となり、日経平均株価は一時、1900円を超える大幅な下落となった。トランプ大統領が「相互関税」の停止措置をとったあとも世界の株式市場は不安定な状況が続いている。

こうしたトランプ大統領の一連の関税政策を日本政府はどのように受け止め、対応しようとしているのか、最近の動きを探ってみた。

安堵と戸惑い、関税見直しへつながるか

まず、今回トランプ大統領が「相互関税」の上乗せ措置を発動してから、わずか半日で急遽、停止したのはなぜか。米国メデイアの報道によると株式や通貨、それに米国債まで売られる「トリプル安」が起きたことから、トランプ大統領としても停止措置に踏み切らざるを得なかったとの見方をしている。

日本政府の見方はどうだろうか。林官房長官は10日、記者団から今回の受け止め方を質問されたのに対し「これまでも関税措置の見直しについて、さまざまなルートで申し入れてきたので、非常に前向きに受け止め止めている」とのべ、安堵の表情をみせた。

一方で、米国事情に詳しい外交専門家によると「トランプ関税は3か月から半年、あるいは1年程度続いた後、軌道修正されると予想していた。予想していなかった展開だ」と戸惑いをみせる。トランプ大統領の関税措置は、今後も突如として変更されることが十分ありうることを念頭に置いておく必要がある。

さて、今回のアメリカの決定で日本にとっては「相互関税」の24%の課税は一時停止になったものの、一律10%の「相互関税」は残されたままだ。また、鉄鋼製品やアルミニウム、それに自動車へ25%の追加関税は続いている。

特に、自動車の対米輸出額は年間6兆円を超え、関連部品も1兆円に上る基幹産業だけに追加関税の影響は深刻だ。加えて、米国向けの幅広い輸出品に25%の追加関税が重荷となってのしかかる。日本政府のこれからの対応はどうなるか。

政府は、引き続き関税措置の見直しを強く求めていく方針だ。米側との交渉の担当閣僚に指名された赤澤経済再生相は来週にもワシントンを訪れ、交渉相手のベッセント財務長官と会談する方向で調整に入った。

日米交渉に向けて政府は11日、赤澤経済再生相と林官房長官をトップに外務省や経済産業省などの関係省庁で構成するチームを発足させた。2月の日米首脳会談の際に戦略を練ったメンバーが中心になっている。

石破首相は11日午前、赤澤経済再生相と会談し「国難とも言える事態に日米双方の利益になるようアメリカ側と協議してほしい」と指示した。

赤澤氏としては、対米投資を中心に日本が協力できる案件をはじめ、エネルギー分野の開発、非関税障壁の改善などを幅広く検討しながら意見を交わし、関税引き下げに向けた地ならしをどこまで進めることができるかが焦点だ。

ベッセント財務長官はウオール街の出身で、今回の「相互関税」停止決定に当たっては大きな影響を与えたとされる。赤澤経済再生相にとって手強い交渉相手になりそうだ。

 問われる石破政権の戦略・対応

トランプ政権の一連の関税政策にどのような姿勢で向き合うのか、日本に直接関係する関税の見直しだけでなく、国際社会全体の視点に立った戦略、対応も問われる。

米側の対日交渉責任者に決まったベッセント財務長官は、関税をめぐる各国との交渉について「日本が列の先頭にいる」とのべた。世界各国との交渉にあたって、日本をモデルケースにしたいというねらいがうかがえる。

それだけにアメリカ側が強い姿勢で交渉に臨むことが予想される。日本としては、まずは日本に直接関係する関税措置の撤回や、引き下げで具体的な成果を上げることができるか石破政権の力量が試される。

また、トランプ政権の一連の関税政策は、アメリカの利益最優先の保護主義的な政策で、自由貿易体制を推進していく立場から容認できない。同じ立場に立つEU・ヨーロッパ連合や、ASEAN・東南アジア諸国連合などとも連携をとりながらトランプ大統領を説得していく取り組みが問われることになる。

日本としては、関税問題が前進した段階で改めて日米首脳会談を開いて同盟関係を再確認するとともに、日米が協力してG7首脳会合や、G20サミットなどで国際社会が安定に向けた流れを強められるような役割を果たすことが求められるのではないかと考える。

一方、国内では自民・公明の与党側から、トランプ政権の関税政策の影響や物価高対策として、現金給付や減税を求める意見が強まっている。公明党の斎藤代表は10日、党の中央幹事会で、減税が実現するまでのつなぎの措置として、現金の給付を検討すべきだという考えを示した。

自民党内でも参議院側を中心に「現金給付で迅速に対応し、その後、減税を行うべきだ」という意見が出ている。現金給付にあたっては所得制限をつけずに国民1人当たり数万円を支給すべきだという意見もある。

野党側では、現金給付よりも減税を中心にした対策を求める意見が多い。具体的には「現金給付のようなバラマキ的なやり方ではなく、食料品にかかる消費税の税率引き下げやガソリン税の暫定税率の廃止などを検討すべきだ」といった意見が出ている。

このほか、政府や与野党の中から「トランプ政権の関税政策については、影響の大きい産業や分野の状況を把握したうえで、効果のある対策を打ち出すべきだ」という意見も聞かれる。

こうした関税に関連した与野党の対策については、夏の参議院選挙をにらんだ選挙対策ではないかという見方や批判も聞かれる。それだけに石破政権、与野党ともにトランプ関税が影響を及ぼす分野や程度の評価とセットで、対応策について議論を深めていく必要があるのではないかと考える。

トランプ関税と激動する国際社会の外交・安全保障、それに国内の新たな経済政策としてどのような対応策が必要なのか、これからの後半国会と夏の参議院選挙の大きな焦点になりそうだ。(了)                     ★追記(12日午前7時半)◆中国政府は、アメリカからの輸入品に125%の追加関税を課すと発表した。12日から実施する。トランプ政権が中国からの輸入品に145%の関税を課す方針に対抗した措置。                  ◆トランプ政権の関税措置をめぐって、赤澤経済再生相は16日から訪米し、17日にベッセント財務長官らと初めての会談を行う見通し。

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トランプ関税直撃”暗中模索の石破政権”

トランプ大統領が打ち出した関税政策と、中国政府が対抗措置として追加関税を発表したことで、週明け7日の東京株式市場は全面安の展開となり、日経平均株価は先週末より2600円以上も下落した。過去3番目に大きい下落幅となった。

トランプ政権は、日本を含む全ての国からの輸入自動車に25%の追加関税を課すことにしたのに続いて、「相互関税」として日本には24%の関税を課す方針を決めた。日本経済にとっては深刻な影響が懸念される。

石破政権は、一連のトランプ関税の対象から日本を外すよう働きかけてきたが、不発に終わった形だ。石破首相としては、トランプ大統領と電話会談を行うとともに、早期に訪米して日米首脳会談を行いたい考えだが、実現のめどはついていない。

トランプ大統領は重要政策を一人で決めることから、トランプ政権との交渉は難しいとされるが、石破政権の対応は後手に回る場面が目立っており、対米交渉は”暗中模索”状態にみえる。石破首相はどのような対応が求められているのか、探ってみた。

石破首相、関税打開パッケージ案に意欲

最初にトランプ大統領が打ち出した関税政策のうち、日本に関係するものを整理しておくと◆鉄鋼・アルミニウム製品に25%の追加関税を課す措置が3月12日に発動した。◆自動車への25%の追加関税が4月3日に発動、◆さらに「相互関税」として日本には24%が関税を課すことが決まり、9日に発動する予定だ。

経済専門家によると、自動車と「追加関税」とを合わせると日本の実質GDP・国内総生産の成長率を0.71%程度押し下げるという。日本の潜在成長率は0.5%程度なので、景気後退の引き金となりマイナス成長へ落ち込む可能性もある。

7日に開かれた参議院決算委員会では、与野党双方から石破政権の対応について、質問が集中した。野党側からは「イスラエルの首相は訪米し8日もトランプ大統領と会談する。インドやベトナムも対米交渉を進めているのに比べると、石破政権の対応は遅すぎる」など追及した。

これに対し石破首相は「日本は、イスラエルやベトナムなどと一緒にならない。日本はアメリカに対して、世界で最も多くの投資を行い、雇用を創出している。電話会談に続いて、なるべく早く訪米して日米首脳会談を行いたい。(関税問題を)パッケージとしてどう示すか、説得力を持つ内容にしたい」との考えを示した。

このパッケージについて石破首相は、日本は対米投資や雇用で果たしている役割を説明して「相互関税」の見直しを求めるほか、エネルギーや農産物、造船、自動車など個別分野についても協議を行う考えだとみられている。

このように石破政権は、関税の対象から日本を除外するよう繰り返し要請してきたが、効果を上げることはできていない。また、石破首相が表明するようなパッケージ構想で、トランプ大統領を説得できるのか見通しがついているわけではない。

サマーズ氏”歴史上最大の自傷行為”

そこで、今回のトランプ大統領の関税をどのようにみたらいいのか、各国のリーダ-や有識者がさまざまな見解を明らかにしている。私は、アメリカのサマーズ元財務長官がABCテレビの番組で話しているコメントが参考になると考えるので、多少長くなるが、紹介しておきたい。

サマーズ氏は今月3日と4日にニューヨーク株式市場の株価が急落したことについて「景気減速はほとんど避けることはできないだろう。経済にとって歴史上最大の自傷行為だ。関税によって物価が上がり、インフレが加速している。経済の損失は、原油価格が2倍になったようなものだ」とのべ、アメリカ経済が大きな打撃を受けるとの認識を示した。

そして「この2日間の株価の急落は、第2次世界大戦以降で4番目に大きな動きだ」として、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマンショック、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の時期に次ぐものだと説明した。

サマーズ氏は、トランプ大統領に経済政策を助言する政権幹部について「助言者たちにとって試練の時だ。知的で誠実な人たちは、これが実証された経済理論でないことを知っているはずだ。彼らがトランプ大統領にそのことを伝える勇気があるか、政権を離れる勇気があるかどうかが問題だ」とのべた。

サマーズ氏は、クリントン政権で財務長官を務めた後、ハーバード大学の学長などを歴任した。日本を訪問し、当時の宮沢首相などと会談したことでも知られているが、民主党政権の主要閣僚だっただけにトランプ氏がこうした考えを受け入れることはないと思われる。

但し、今回のトランプ関税の意味や影響、側近のあり方などを考えるうえで、客観的な判断材料として非常に参考になる。

石破首相、体制作りと対処方針がカギ

それでは、これまでの石破首相の対応については、どのように評価したらいいのだろうか。まず、石破政権はトランプ関税の対象から日本を除外することを一貫して求めてきたが、不発に終わった。2月の日米首脳会談を終えた時点で、そうした要請が通用するのかどうか、早期に見極めておくことが必要だったのではないか。

こうした中で、石破首相とトランプ大統領の電話会談が7日夜9時から20分間にわたって行われたという情報が入ってきた。この中で、石破首相は「日本は5年連続で世界最大の対米投資国であることや、アメリカの関税措置で日本企業の投資意欲が減退することを強く懸念している」などと伝えた。

これに対し、トランプ大統領は「国際経済においてアメリカが置かれている状況について率直な認識を示した」とされる。そのうえで、日米両首脳は「担当閣僚を指名し、協議を続けること」を確認したとされる。

石破首相が訪米して日米首脳会談を行うかどうかについては、担当閣僚の協議を経て検討するとしていることから、具体的な日時の設定には至っていない。会談時間が20分と短いことからも、双方の主張は平行線をたどったとみられる。

電話会談を終えた石破首相は、8日朝、全ての閣僚が参加する「アメリカ関税措置に関する総合対策本部」を開催し、今後の対応を協議する考えを明らかにした。アメリカとの交渉に当たる担当閣僚は、まだ決めていないとしている。

日米交渉にどのような体制で臨むのか、その中核となる担当閣僚を決めるなど体制作りを急ぐべきだという意見は、早くから政府や与党内から出されていたが、ようやく体制作りが進むことになった。

ある閣僚経験者は「端的に言えば、オールジャパンの体制作りを急ぐ必要がある。総理官邸と、外務・通産など関係各省庁、民間、与党などとの連携・協力体制をつくる必要があるが、石破首相の対応は遅い」と指摘する。

もう一つの難題は、アメリカの関税を引き下げるため、どのような対処方針で臨むかという点だ。石破首相は、日本側から事態打開に向けたパッケージ案を示すことに意欲を示しているが、その内容は詰まっていないのではないか。また、アメリカ側の譲歩を引き出せるだけの説得力のある内容になるかどうかも問われる。

政権基盤が弱い石破政権にとっては、政府・与党の意見をとりまとめながら、対処方針をまとめあげるのは中々の難題である。

さらに今回の関税問題は、米中両大国が関係する大きなテーマで、日本としては、共通の価値観を持つ欧州諸国と連携を深めるなど強い外交力も必要だ。石破首相にとっては、後半国会での重要法案の審議と、夏の参院選対策、それに関税問題という3つの難題を同時平行で進めていく険しい道が続く。

”暗中模索”状態を脱して、日米首脳会談までこぎ着けられるかどうか、強力な指導力が問われる局面を迎えている。(了)                    ★追記(9日22時)◆トランプ政権は、貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」を課す措置を日本時間の9日午後1時過ぎに発動した。日本には24%の関税を課す。また、中国に対しては、既に20%の追加関税を発動しているが、34%の相互関税に加えて50%を上乗せするとして、追加関税は合わせて104%に引き上げるとしている。                         ◆中国政府は9日夜、アメリカのトランプ政権が中国からの輸入品への追加関税を合わせて104%に引き上げたことへの対抗措置を発表した。10日に発動するとしていた追加関税の税率を34%から50%引き上げて84%にするとしている。米中間では、追加関税と対抗措置の応酬が激しさを増しており、世界経済に打撃を与えるリスクが高まっている。                      ◆政府は8日、アメリカの関税措置の見直しに向けた担当閣僚に、赤澤経済再生相を起用することを決めた。アメリカ側の担当閣僚は、ベッセント財務長官とUSTR=アメリカ通商代表部のグリア代表。赤澤経済再生相はできるだけ早期に訪米し、アメリカ側と協議を始めたい考え。

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予算成立も”内憂外患の石破政権”

新年度予算が参議院で再修正されて可決された後、衆議院に戻されて年度末の31日ぎりぎりの日程で、成立にこぎ着けた。

一方、与野党が3月末までに結論を出すことを申し合わせていた企業・団体献金の見直しについては与野党案の隔たりが大きく、決着は先送りになった。

新年度予算が成立したことで、石破政権は通常国会最初の難関を越えたが、予算成立のこの日、東京株式市場はトランプ政権の関税政策に対する懸念が強まり、日経平均株価は1500円以上値下がりし、今年最大の下落幅となった。

石破政権は、これから内政では重要法案をめぐる与野党の攻防が激化するのをはじめ、外交ではトランプ関税への対応を迫られ、内憂外患状態にある。石破政権と4月以降の政治はどのような展開をたどるのか探ってみた。

トランプ関税、自動車産業などを直撃へ

政府の当初予算が衆議院で修正されたのに続いて参議院でも再修正され、衆議院に戻されて成立するのは今の憲法の下で初めてのケースだ。少数与党の下で、高校授業料の無償化や高額療養費制度の見直しなどをめぐって、政権の対応が迷走したことの現れだ。

さて、これからの政治の動きで、新たな難題として浮上しているのがトランプ大統領が次々と打ち出している関税引き上げへの対応だ。トランプ政権は4月3日には、日本を含む全ての国からの輸入自動車に25%の追加関税を発動する予定だ。また、相手国と同率の関税まで引き上げる「相互関税」にも近く踏み切るものとみられている。

日本にとって自動車産業は基幹産業で、対米輸出額は年間6兆円に上るだけに追加関税が適用されると部品産業も含め、深刻な影響を受ける。石破首相は、関税引き上げの対象から日本を除外するようアメリカ側に引き続き要請するとともに、産業や雇用の影響を調査し、資金繰り対策などに全力を上げる方針だ。

これに対し、立憲民主党など野党側は「2019年の第1次トランプ政権と安倍政権の間で行われた貿易交渉で、日本の自動車への追加関税を断念させる代わりに日本は米国産の牛肉や豚肉などにかける関税をTPP加盟国並みに引き下げた。トランプ政権はこの約束を破っている」として、日米貿易協定をやり直すなど毅然とした対応を取るべきだと批判を強めている。

与党からも「日本政府として関税対策にどのような体制で臨むのか、対米交渉の中心になって担当する閣僚を決めるべきだ。官邸と省庁、民間、与党などオールジャパンで早急に対応していくことが必要だ」といった意見が聞かれる。

 重要法案、政治資金の攻防も激化

内政面では、重要法案の審議が本格化する。衆議院で先月から審議が始まっているのがサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー制御」導入関連法案だ。憲法が保障する「通信の秘密」との関係をめぐって、野党側は国会の関与を強める修正案を提出する見通しで、激しい議論が予想される。

また、政府・与党で検討が進められているのが、年金制度改革関連法案だ。パートで働く人たちが厚生年金に加入できる企業要件を撤廃することなどが盛り込まれる見通しだ。

自民党内では厚生年金の適用拡大につながり、今の国会で成立をめざすべきだという意見がある一方、事業主の負担が増え参議院選挙に影響が懸念されるとして、法案提出に反対する意見があり、調整が続いている。与野党間では既に「重要広範議案」に指定されており、その扱いに注目が集まっている。

さらに、後半国会の大きな焦点になるのが選択的夫婦別姓制度の問題だ。野党第1党の立憲民主党は4月中に法案を提出する予定で、与党の公明党は賛成の立場だ。自民党は保守系議員が「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として、選択的夫婦別姓制度に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

このほか、企業・団体献金の見直しをめぐっては、与野党が申し合わせた31日までに結論を出すことは困難になり、4月以降も協議が続く見通しだ。また、石破首相が10万円の商品券を自民党の衆議院議員に配付した問題については、野党側が政治倫理審査会で弁明するよう求めている。

さらに自民党派閥の裏金事件をめぐって、参議院予算委員会は旧安倍派幹部だった世耕弘成・元参院幹事長(現衆院議員)の参考人招致を議決したことから、衆議院でも旧安倍派幹部の参考人招致について、与野党の協議が行われる見通しだ。

このように内政でも重要法案や「政治とカネの問題」などの難題が山積しており、トランプ関税への対応と合わせて石破政権は、内憂外患状態にある。

 問われる首相の指導力と対応能力

そこで、石破政権の政権運営はどのようになるのだろうか。ここまでみてきたように石破首相は、まずは重要法案やトランプ関税などについて、指導力を発揮し成果を上げることができるかどうかが問われている。

また、与党側からは「コメの価格の値上がりやガソリンの暫定税率廃止など物価高対策について思い切った具体策を打ち出さないと参議院選挙は戦えない」といった声が聞かれる。こうした声に応えて、新たな対応策を打ち出せるかも注目される。

自民党のベテラン議員の一人は「党内には、”石破降ろし”を主張する議員はいるが、本気で首相を代えようという議員は多くはないのではないか。ただ、石破首相に対して、白けた雰囲気が感じられるのは要注意だ」と語る。

石破首相が10万円の商品券を配ったことが表面化した3月中頃は、石破退陣の見方も強まったが、その後、トランプ政権への対応が問われている時に党内抗争とみられるような行動はとれないなどとして、こうした見方は後退しているようにみえる。

攻める側の立憲民主党の野田代表は商品券問題が表面化した際、石破首相の退陣を求めなかった。「夏の参院選は政権基盤が弱い石破首相との対決を望んでいる」ようにみえる。

報道各社の3月の世論調査をみると商品券問題などが影響して、石破内閣の支持率は大幅に下落し、政権発足半年で最も低い水準に下落している。一方、野党の多くの党の支持率も上昇しているわけではない。

有権者の多くは「石破政権と与党は内外の課題を解決できる能力を持っているのかどうか」、「野党側は、政権与党に代わる政策や人材を結集できるのかどうか」を見定めようとしているのではないか。

通常国会後半のこれから、6月の東京議選や夏の参議院選挙に向けて内外情勢は激しく揺れ動くことが予想される。私たち有権者は、内外の情勢と与野党の政策、対応などをじっくり見極め選挙に活かしたい。(了)

★(追記4月1日午後1時)新年度予算の成立を受けて、石破首相は1日午前11時から記者会見し、冒頭、商品券配付問題について陳謝した。◇新年度予算が衆参両院での修正を受けて成立したことについて「熟議の国会の成果だ」と評価した。◇物価高対策については、従来の方針の説明に止まった。◇トランプ関税については日本を対象から除外するよう強く求めるとともに、自動車などへの関税措置が発動された場合、全国におよそ1千か所の特別相談窓口を設け、中小企業などからの相談に対応していく考えを示した。全体として踏み込んだ発言はなかった。★(追記4月3日午後1時)トランプ大統領は日本時間の3日朝、「相互関税」の導入を発表し、日本には24%の関税を課すことを明らかにした。中国に34%、インドに26%、EUに20%などの関税を課すとしている。一方、アメリカに輸入される自動車に25%の追加関税を課す措置は、日本時間の3日午後1時過ぎに発動された。日本にとってアメリカは最大の貿易相手国で、日本の自動車産業や経済は大きな打撃を受けるのは避けられない。                   ★(追記4月5日23時)トランプ大統領が表明した関税措置のうち、◇全ての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置は、日本時間の5日午後1時に発動された。◇アメリカの貿易赤字が大きいおよそ60の国や地域を対象した「相互関税」は、9日午後1時に発動する。◇一方、中国政府は、アメリカからの全ての輸入品に34%の追加関税を課すと発表した。10日に発動する見通し。◇ニューヨーク株式市場は、トランプ関税に伴う世界経済の減速を懸念して3日に1600ドル、4日に2200ドル超下落、日本円で合わせて970兆円の時価総額が失われた。

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首相の商品券問題と”3月政局”のゆくえ

石破首相が自民党の当選1回の衆議院議員15人と会食するのに当たって、1人あたり10万円分の商品券を議員事務所に配っていた問題が明るみになり、政権を直撃している。報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は急落し、政権発足以来最低の水準にまで落ち込んでいる。

一方、新年度予算案は参議院で再び修正に追い込まれ、年度内に成立できるかどうかメドが立っていない。自民党内からは、石破首相の退陣を求める声も出始めるなど政権を取り巻く情勢は一段と厳しくなっている。

今回の行為をどのように見たらいいのか、また石破政権やこれからの政治はどのように動くのか、3月政局のゆくえを探ってみたい。

 首相の商品券問題で問われること

石破首相が自民党の衆議院1回生議員との会合に先だって、参加する議員事務所に1人10万円分の商品券を配った問題については、既に詳しく報じられているので、事実関係は繰り返さないが、さまざまな意見や論点が出されている。

まず、国民からは「国民が物価高で苦労しているときに、首相は国会議員の手土産に10万円もの商品券を配るとは信じられない」などとして庶民感覚とのズレを指摘する意見や、石破首相の政治姿勢に落胆、批判、怒りの声が聞かれた。

また、与党の議員からは「この通常国会では、企業団体献金の扱いが大きなテーマになっているのに、首相自らが商品券を配るとは余りにもタイミングが悪すぎる」など厳しい意見も出された。

石破首相は「会食の土産代わりで、国会議員の家族へのねぎらう意図もあった。政治活動に関する寄付ではなく、政治資金規正法上の問題はない」と繰り返し強調している。これに対して、野党側は「場所が首相公邸で、官房長官や副長官も同席していることなどから、政治活動に当たるのは明らかで政治資金規正法に抵触している」として、首相の政治責任を引き続き追及する構えだ。

こうした論点のほか、私の個人的な見方を言わせてもらうと、会食が行われた日にち自体に大きな問題がある。率直に言えば「政権運営の基本から逸脱」しているのではないか。

どういうことかというと、会食が行われた3月3日は、新年度予算案の修正が衆議院で大詰めを迎え、この日にようやく自民・公明両党と日本維新の会の3党幹事長会談で合意にこぎ着けた。そして、翌4日に衆院本会議で、3党の賛成多数で修正された予算案が可決、参議院へ送られた。

政権にとって当初予算案は政権の命運を左右する最重要案件の1つで、歴代政権は予算案の成立まで全精力を傾注してきた。一昔前の現役記者時代を思い出すと、首相はもちろん閣僚、与党幹部も予算成立までは夜の会合はできるだけ減らすなど細心の注意と心構えで行動していた。

ところが、今の石破政権の主要幹部は大詰めの段階に1回生議員との会食を設定し、日中に商品券を配ったりしていたことになる。はっきり言えば、信じられない対応であり、首相官邸は司令塔機能を果たしているのか疑問と言わざるを得ない。政権のチグハグな対応は、常日頃の政権運営に原因があるのではないか。

内閣支持率急落も、首相退陣論は少数

さて、こうした首相の商品券配布について、世論はどのようにみているのだろうか。読売新聞と朝日新聞の世論調査をみてみたい。

◆読売新聞の調査(3月14~16日)では、石破内閣の支持率は31%で、前回の先月調査に比べて8ポイント下落した。不支持率は58%で、15ポイント上昇した。

◆朝日新聞の調査(3月15,16日)では、石破内閣の支持率は26%で、先月調査から14ポイント下落した。不支持率は59%で、15ポイント上昇した。

どちらの調査とも商品券配布は「問題だ」とする評価が75%に上り、商品券問題が石破政権を直撃し、去年10月の政権発足以降、最低の水準にまで落ち込んだ。

一方、朝日新聞の調査では、石破首相は首相を辞めるべきだと思うかを尋ねたのに対し「その必要はない」が60%で、「やめるべきだ」が32%だった。

読売新聞の調査では、自民党中心の政権の継続を望むか、野党中心の政権に交代することを望むかを尋ねたのに対し「自民党中心の政権の継続」が36%で、「野党中心の政権に交代」が46%で上回った。同じ質問をした1月調査では「自民党中心の政権の継続」が41%と、「野党中心の政権に交代」が40%で拮抗していた。

この2つの項目についての世論の見方は、石破政権や政治のゆくえをみていくうえで、興味深いデータだ。

世論の反応について私個人の見方は次のようになる。「石破首相は退陣の必要なし」との見方は、◇新年度予算案の成立のメドもついていない中で、政治の混乱は避けるべきだとの考えや、◇有力な後継候補が見当たらないこと、◇首相や政権の評価は、夏の参院選で判断すればよいなど冷静な見方をしているのではないか。

政権の形態については「政治とカネの問題」に終止符が打てない自民党に対して、うんざりしていることの現れではないか。改善されないのであれば、政権交代で政治の刷新を図ることもやむなしとの人が増えているのであろう。

政治課題と、選挙政局をどう考えるか

それでは、これからの政治はどのように動いていくだろうか。内政では、新年度予算案や重要法案を抱えているほか、外交・経済分野ではトランプ大統領の再登板で4月初めには「相互関税」への対応を迫られる見通しだ。

このうち、新年度予算案については「年収103万円の壁」の引き上げをはじめ、高校授業料の無償化、高額療養費の自己負担上限額引き上げの凍結などが盛り込まれている。参議院で再び修正されたあと、衆議院へ回付することが必要で対応を急ぐ必要がある。

懸案の企業団体献金の扱いについては、3月末に結論を出すことになっており、与野党の激しい攻防が続く見通しだ。サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー制御」導入関連法案が18日に衆議院本会議で審議入りするほか、4月には野党が重視している選択的夫婦別姓法案も提出され、与野党の協議が本格化する見通しだ。

こうした中で野党側は、商品券問題については、石破首相に政治倫理審査会への出席を求めて説明責任を徹底して求めていく構えだ。野党第1党の立憲民主党は、内閣不信任決議案を直ちに提出することは避けて、石破首相の下で参議院決戦に臨みたい考えだとみられる。

一方、自民党内では、石破首相では夏の参議院選挙では戦えないとして、退陣を求める声が出始めた。これに対して、自民党執行部は少数与党の下で、首相交代を進めると政権を失う恐れもあるとして「石破降ろし」につながらないよう党内を説得していく方針だ。

但し、党内が収まるかどうかは、はっきりしない。参議院選挙を控える参議院自民党や旧安倍派がどのような対応を示すかが焦点になる。

このように通常国会は、石破首相が新年度予算案や、企業団体献金などの扱い、それに自らの商品券問題を含めて指導力を発揮していけるかどうかが問われることになる。

政治の役割は、国民生活を安定させるとともに、国の安全を維持していくことにある。政権与党は、内政の課題としてはどの法案を最優先で取り組むのか、首相を続投させるのか、交代させるのか国民に明確に示すことが必要だ。

一方、野党側は、与党と協力して成立させる法案と、野党が実現をめざす法案や構想を提示しながら、国民にわかりやすい選択肢を示してもらいたい。私たち有権者は、夏の参議院選挙、場合によっては衆院選挙に備えて、与野党の動きをしっかり見ていきたい。(了)

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内閣支持率急落、厳しさ増す石破政権

新年度予算案の成立に向けて参議院で大詰めの審議が続く中で、石破内閣の支持率が急落している。NHKの3月世論調査によると石破内閣の支持率は36%で、先月に比べて8ポイント下落した。不支持率は45%で、先月より10ポイントも増えた。

なぜ、今の時点で内閣支持率が急落したのか、石破首相の政権運営にどのような影響を及ぼすことになるのか探ってみたい。

 支持率急落、高額療養費の混乱が影響

さっそく、NHKが今月7日から9日にかけて行った世論調査の内容から見ていきたい。石破内閣の支持率は36%で、先月の調査より8ポイント下落した。一方、不支持率は45%で、先月より10ポイントも急上昇した。

不支持の理由としては「政策に期待が持てないから」が39%で最も多く、先月より6ポイント増えた。次いで「実行力がないから」が23%で、こちらは先月と変わらなかった。

石破内閣の支持率は、去年10月の政権発足時は44%の低い水準のスタートとなった。その後は40%前後の支持率を維持してきたが、3月の36%はこれまでで最も低い水準に落ち込んだことになる。

この支持率急落の原因だが、がんや難病などの治療で医療費が高額になった場合、患者の自己負担を抑える高額療養費制度の見直しをめぐる政府側の混乱が影響したものとみられる。

衆議院の予算審議の中で患者団体や野党からは、自己負担の引き上げに反対する意見が出されたのに対し、政府側は引き上げ案の修正を重ね、対応が二転三転した。

さらに、この問題は参議院の予算審議でも取り上げられ、身内の自民党や公明党からも慎重論が出されたことから、石破首相が7日に患者負担の引き上げ全体を見送ったうえで、再検討する考えを表明した。

この見送りで、政府・与党はおよそ100億円の費用が必要になるとして、新年度予算案を参議院で再び修正したあと、衆院に回付する異例の対応が取られる見通しだ。与野党双方から「石破首相は、もっと早い段階で決断すべきだった」などの批判が聞かれた。この問題は、今後も尾を引くことになりそうだ。

 続く難問、年金改革、企業団体献金

石破首相にとって、今の国会に提出を予定している年金制度改革関連法案の取り扱いも難問だ。この法案には、パートで働く人が厚生年金に加入できる企業要件を撤廃することなどが盛り込まれる見通しだ。

自民党内では、厚生年金の適用拡大につながり、今の国会で成立をめざすべきだという意見がある一方、参議院選挙への影響が懸念されるとして法案提出に反対する意見があり、調整がついていない。

一方、企業・団体献金の扱いについては3月末までに与野党が結論を出すことになっている。自民党は、献金の禁止ではなく透明化を図る法案を提出しているのに対し、立憲民主党などは禁止法案を提出しており、与野党の調整は難航が予想される。

さらに、トランプ政権は輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置について、日本時間の12日午後、発動した。「全ての国が対象」としており、日本から輸出される製品にも関税が課されることになる。

こうした中で自民党の西田昌司参議院議員は、12日に開かれた党の参議院議員総会で「今のままの党の態勢では、夏の参議院選挙を戦えない。新たなリーダーを選び直すべきだ」として、石破首相に代わる新たな総裁を選び直すべきだという考えを示した。

こうした声が「石破降ろし」に発展するかどうかははっきりしないが、新年度予算案成立後は、夏の参院選挙に向けた体制づくりなどをめぐって党内の駆け引きが活発になることも予想される。

石破首相にとしては当面、新年度予算案の成立に全力を上げるとともに、党内の結束を固め直して夏の参院選挙に臨みたい考えだが、内外の懸案を着実に処理できるかどうか、正念場を迎えている。(了)

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“一山越えても続く難関”石破政権

新年度予算の修正案は衆議院本会議で、少数与党の自民・公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決され、参議院へ送られた。政府の当初予算案が修正されるのは、橋本内閣以来29年ぶりだ。

予算案の衆院通過で予算案の成立が確実になり、石破政権にとっては通常国会の最初の難関を越えたことになる。但し、与党側がめざした野党側との協力関係は思うようには進まなかった。

”一山越えても二山、三山”とこの通常国会では多くの関門が待ち構えている。これまでの対応を点検したうえで、これからの関門や石破政権のゆくえを探ってみたい。

 予算修正は維新が協力、薄氷の合意

去年の衆院選で30年ぶりの少数与党の立場になった石破首相は1月24日、通常国会の施政方針演説で「党派を超えた合意形成を図る」として、国民民主党や日本維新の会を念頭に野党の協力を取りつけ、新年度予算案の早期成立をめざす考えを表明した。

これを受けて自民・公明の与党側は、国民民主とは「年収103万円の壁」の見直しを進める一方、維新とは「高校授業料の無償化」に向けて政策協議を重ねてきた。しかし、国民民主とは合意に至らず、最終的には維新との間で予算案の修正で合意するとともに予算案の可決にこぎ着けた。

国民民主との間では去年の11月から3か月も政策協議を続けながら、なぜ、合意できなかったのか。一方、維新との間では今後も安定した協力関係が見込めるかどうかがポイントになる。

まず、国民民主との「年収103万円の壁」の見直しが不調に終わったのは、財源の問題と夏の参院選戦略との関係が影響したのではないかとみている。

国民民主党は、所得税の課税最低限を178万円まで引き上げるよう求めたのに対し、与党は側は123万円への引き上げを決めたが、国民民主は納得しなかった。このため、自民党は年収500万円以下まで非課税枠を拡大する案を提案したが、一蹴された。

事態打開のため、公明党が主導する形で、非課税枠を上乗せする年収の範囲を850万円まで拡大するとともに課税最低限を160万円まで引き上げる新たな案を提案した。これに対し国民民主は受け入れず、予算修正協議は最終的に物別れに終わった。

国民民主からすると年収の上限の160万円までの引き上げは一定の評価ができる一方、上乗せする対象となる年収850万円までの範囲に4段階の差をつけているのは不公平だとして、受け入れなかった。

協議が不調に終わった原因だが、当初の与党案の財源はおよそ6000億円だったが、公明案ではさらに6000億円積み増し、計1兆2000億円まで増やした。それ以上の上積みとなると国債の新規発行が必要になるとして、国民民主の要求を受け入れなかった。

一方、国民民主としては夏の参院選を控えて、年収の差を設けると不公平だとして、有権者の支持を失うおそれがあるため、与党案を受け入れない判断をしたものとみられる。

一方、維新は党の執行部の交代もあり、国民民主より後から、与党との協議を始めたが、前原共同代表が同じ防衛関係議員で旧知の石破首相に協力を求めた。また、前原氏の要請で前執行部の遠藤敬・前国対委員長が与党側との調整に当たったことから、協議が急ピッチで進んだとされる。

維新内部では、高校授業料の無償化の進め方などをめぐって異論が出され、党内の合意が危ぶまれる場面もみられたが、高校授業料の無償化のための具体策と、政府予算案の修正に賛成することで党内合意をとりつけた。

与党の執行部としては、国民民主と維新とを両天秤にかけながら両党との協力取りつけをめざしたが、最終的には維新1党だけの協力に止まった。その維新は党内の足並みがそろっているわけではないので、薄氷の合意とも言えそうだ。

このほか、今回は与野党双方から「熟議の国会」を強調する声が高まり、予算案の修正をめぐって政策協議の過程が透明化されたのは一歩前進だろう。

一方で、政策協議というものの、予算修正の額高をめぐる駆け引きが延々と続き、社会保障の将来の姿や負担のあり方、教育の向上策など掘り下げた議論はほとんど見られなかった。

また、トランプ政権の再登場で国際情勢や、関税などの経済情勢が大きく揺らいでいる中で、日本の外交・安全保障、経済政策などをめぐる突っ込んだ議論がなされなかったのは極めて残念だ。「熟議の国会」を標榜するのであれば、問題の核心にまで踏み込んだ議論を展開してもらいたい。

企業献金など続く難関、最後は参院選か

さて、今後の国会はどのような展開になるだろうか。当面の焦点は、企業団体献金の扱いについて、与野党は3月末までに結論を出すことになっており、近く衆議院の特別委員会で、法案の審議が始まる見通しだ。

企業団体献金をめぐっては、自民党は「献金の禁止よりも公開が重要だ」として企業献金の透明性を高める法案を提出している。これに対して、立憲民主党など野党側は、自民党案は透明性が極めて低いと批判するとともに、企業団体献金の禁止を求める法案を提出している。

そして野党側のうち、維新は企業献金の禁止を強く求めていく方針なのに対し、国民民主は全面禁止に慎重な立場だ。自民党は国民民主の協力に期待を寄せているが、予算修正の時と比べると維新と国民民主の立ち位置が逆になっている。

一方、野党第1党の立憲民主党は、自民党旧安倍派の会計責任者の参考人聴取を受けて、旧安倍派幹部の塩谷、下村、西村、世耕4氏の参考人招致を求めている。会計責任者は、安倍派の資金還流は「元幹部議員からの要請があり、幹部議員の会合で再開が決まった」と説明、幹部議員の政倫審での発言と食い違っている。

与党の公明党は、企業・団体献金の扱いをめぐっては自民党と距離を置いているほか、旧安倍派議員の参考人招致にも前向きな姿勢を示している。参議院選挙を控えて「政治とカネの問題」をめぐって、与野党の対応が再び焦点になる。

次に選択的夫婦別姓制度については、4月から衆議院法務委員会で議論が始まる見通しだ。自民党内では、保守系議員から「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として選択的夫婦別姓に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

選択的夫婦別姓問題を扱う衆院法務委員会の委員長は、立憲民主党が握っているため、野党ペースで議論が進むことも予想される。会期末が近づくにつれ、この問題は、内閣不信任決議案とも絡んで与野党攻防の争点になりそうだ。

以上、見てきたように新年度予算案の衆院通過で、石破政権にとっては一山越えたのは事実だが、「政治とカネの問題」、選択的夫婦別姓と内閣不信任決議案をめぐる会期末の攻防という難関が待ち受けている。

少数与党の石破政権は、政治課題によって協力相手の野党を変えながら通常国会を乗り越え、夏の参院決戦に臨む方針だ。

これに対して、野党側は与党との個別戦で成果を引き出す対応を取ってきたが、野党が連携して自民党と対峙する場面を作ることができるかどうか、後半国会の見所の一つになりそうだ。(了)

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予算成立にメドも、難問続く石破政権

新年度予算案の修正をめぐり、自民・公明両党と日本維新の会の3党は25日、党首会談を開き、教育無償化や社会保険料の負担軽減策などについて、正式に合意した。維新は、新年度予算案に賛成する方針も決めた。

一方、「年収103万円の壁」の見直しをめぐり、国民民主党は、公明党が先に示した非課税枠を上乗せする年収の範囲を拡大する案については、受け入れが難しいとして、引き続き与党側と協議を続けることにしている。

新年度予算案は、維新が予算案に賛成する方針を決めたことから、少数与党の下で、年度内の成立にメドがついたことなる。一方、与党と国民民主党との修正協議は難航しているほか、予算案の衆院通過の時期、参考人聴取などの難問を抱えており、与野党のせめぎ合いが続くことになる。

 与党と維新、予算修正で合意・成立へ

新年度予算案と政策の協議をめぐって、石破政権は国民民主党と、日本維新の会を天秤にかける形で協議を続けてきたが、まずは維新との間で合意にこぎ着けたことになる。

与党と維新の主な合意内容は、◇今年4月から公立高校の授業料を実質的に無償化するため、公立・私立を問わずに支給される年間11万8800円の修学支援金の所得制限を撤廃する。

◇私立高校については、来年2026年4月から所得制限を外し、現行の年最大39万6000円から、全国平均の授業料の45万7000円まで引き上げる。

◇維新が主張する社会保障改革を議論するため、3党による協議体を設置することなどが合意文書に盛り込まれている。

維新は25日、臨時の役員会と両院議員総会を開いて協議した結果、教育無償化などの合意文書を了承するとともに、新年度予算案について賛成する方針を多数決で決めた。

これを受けて自民・公明両党と維新の3党は25日夕方、石破首相、斎藤代表、吉村代表が会談し、合意内容と新年度予算案を成立させることで最終的に合意した。

維新が新年度予算案に賛成する方針を決めたのは、去年の衆議院選挙で議席を減らすなど党勢が低迷し、12月から吉村氏が新代表に就任したことから、今年夏の参院選に向けて実績を示したいねらいがあるものとみられる。

一方、石破首相は少数与党の下で予算案成立は至上命題で、国民民主党との政策協議が停滞したことから、維新との協議の決着を急いだものとみられる。

 国民民主との予算修正協議は難航

「年収103万円の壁」の見直しをめぐる自民・公明両党と国民民主党との協議では、先に公明党が所得税の非課税枠を上乗せする年収の範囲について、自民党案の500万円以下から、850万円まで拡大する新たな案を示した。

これを受けて国民民主党は15日、党の税制調査会の会合を開いて協議した結果、「年収によって非課税枠に差をつけるのは不公平で、受け入れるのは難しい」として、年収区分を撤廃するよう求めていくことを確認した。

また、ガソリン税の暫定税率の廃止時期を明らかにするよう求めていくことになり、党の代表代行を務める古川税制調査会長に一任することを決めた。

会合のあと、古川代表代行は「中間層を含めて幅広く手取りを増やしていくことが大事だ。こちらから協議を打ち切るつもりはない」との考えを示した。

自民党の森山幹事長と公明党の西田幹事長は25日会談し、去年12月に国民民主党を含む3党の幹事長が「178万円をめざす」などと合意した意味は重いとして、ガソリン税の暫定税率廃止を含めて、引き続き丁寧に協議していくことを確認した。

 参考人聴取、修正規模などの難問も

このように石破政権にとっては予算成立のメドは立ったが、野党側と詰める案件は幾つも残っている。

まず、自民党旧安倍派の裏金問題をめぐって、会計責任者の参考人聴取の日程が先送りになっているが、自民党は27日に実施する考えを伝えた。この参考人聴取で、どのような説明が行われるか。これを受けて、今後の裏金問題の実態解明をどのように進めるかが問題になりそうだ。

また、予算修正をめぐって、維新と国民民主との協議が先行する一方で、野党第1党の立憲民主党は、与党側に提示した3兆8000億円規模の修正案の協議が進んでいないことにいらだちを強めている。

自民・公明両党と立憲民主党の3党は、政調会長レベルで協議を続けているが、立憲民主党の修正要求をどこまで予算案に反映させるかも焦点だ。

こうした中で、新年度予算案を年度内に自然成立させるための期限としては、3月2日までに予算案の衆議院通過が必要だ。しかし、今後の審議日程などを考えると期限までの衆院通過は困難な情勢になっている。

与党側としては早期の衆院通過をめざしているが、具体的な日程のメドはたっていない。仮に大幅にずれ込むことになれば、予算案の年度内成立に影響が出るほか、石破政権の政権運営能力も問われることになる。

また、夏の参院選挙を控えて世論は、石破政権や与野党の対応をどのように評価するのか大きな注目点だ。予算案に対する賛否と主要政策・課題への対応をしっかり見ていく必要がある。(了)

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新年度予算案、与野党修正協議ヤマ場へ 

新年度予算案をめぐる与野党の協議が、今週ヤマ場を迎える。国民民主党、日本維新の会に続いて、立憲民主党も予算修正の要求案をまとめたのを受けて、自民党は17日以降、野党3党と個別の協議を進める。

石破首相や自民党の森山幹事長は予算修正に応じる考えを固めており、政府・与党が最終的に野党の要求をどこまで受け入れるかが、焦点になっている。(新たな動きは、原稿最後尾に★「追記」があります)

 野党3党要求出そろう、協議は個別

新年度予算案をめぐって立憲民主党は14日、予備費や基金から財源を捻出し、小中学校の給食費の無償化やガソリン価格引き下げなどを内容とする3兆8000億円規模の修正案をまとめ、自民党側に説明した。

立憲民主党案は、◇ガソリン税などの暫定税率を廃止して価格を引き下げるためにおよそ1兆5000億円、◇小中学校の給食費の無償化に4900億円、◇高校授業料の無償化に3700億円、◇介護や障害福祉に従事する職員の処遇改善に4200億円、◇患者の自己負担を抑える「高額療養費」の上限額の引き上げを凍結するための費用200億円などとなっている。

この立憲民主党案は、政府予算案全体を見直し、財源の捻出策と合わせて修正を求めているのが特徴で、17日以降、自民党との間で修正協議が行われる。

一方、日本維新の会は、高校授業料の無償化を強く主張しており、これまでに与党側は◇年間11万8800円の修学支援金を今年4月から公立・私立を問わず一律に支給することで、公立高校を実質的に無償化する案を示している。

さらに与党側は14日の会談で、私立高校の無償化に向けて現在、年収590万円未満の世帯の子を対象に年間39万6000円を上限に支給している修学支援金の所得制限を来年4月から撤廃するとともに支援金の上限額を引き上げると伝えた。

これに対し、維新の前原共同代表は、私立高校の支援金の上限額について、維新が主張する年間63万円にひき上げるよう求めている。また、ゼロ歳から2歳児までの保育や大学授業料など教育全体の無償化に向けて、年次ごとの計画を盛り込んだプログラム法を示すよう求めており、詰めの協議が行われる。

国民民主党は「年収103万円の壁」の見直しを去年秋以降、求めている。政府・与党は、所得税の控除額を123万円に引き上げる方針を示したのに対し、国民民主党は178万円まで引き上げるよう求めており、控除額が焦点になっている。

国民民主党からは、生活保護費の支給額を念頭に控除額を少なくとも156万円程度に引き上げるべきだとする意見が出ている。与党の公明党からは、食料品の値上がりなどを踏まえて140万円台後半とする案などが検討されており、3党の税調会長の協議が再開される見通しだ。

このように野党3党の要求には共通の内容も含まれているが、与党側との協議はそれぞれ個別に行われている。この背景には、野党各党とも夏の参議院選挙を意識して、与党側から譲歩を引き出し、その内容を成果としてアピールしたい思惑がある。野党の成果獲得合戦の側面もうかがえる。

 与党の修正受け入れ内容が焦点に

新年度予算案をめぐる野党側との政策協議について石破首相は13日、自民党の小野寺政務調査会長を首相官邸に呼び「野党からいろいろな提案があり、しっかり耳を傾けて、いいものをまとめるよう努力してもらいたい」と指示した。

自民党の森山幹事長も15日、福島市で講演し、予算修正をめぐる与野党協議が来週、ヤマ場を迎えるという認識を示したうえで、「各会派の意見をしっかり聞いて、筋の通るものであれば修正をして、一つでも多くの会派の理解をいただきたい。年度内に成立させなければいけない」とのべ、予算修正に踏み切る考えを示した。

自民党は、維新と国民民主の両党を天秤にかけ、最後にどちらか一方の要求を受け入れて予算成立をめざすのではないかとの見方が一部にあった。これに対し、石破首相と森山幹事長は、できるだけ多くの野党の賛成を得て、予算案の成立をめざすものとみられる。

このため、自民党は維新と国民民主両党の主張について、さらに一定程度、受け入れるものとみられる。また、立憲民主党の要求についても、衆院予算委員長ポストを立民が握っていることから、最も重視している予算案の年度内成立を確実にするために一定の範囲で認めるものとみられる。

こうしたことから与野党協議では、与党が野党3党の要求をどの程度、受け入れるかが焦点になる。その結果、野党側のうち、どの党が予算案の採決で、賛成に回ることになるかも大きなポイントになる。

政府の当初予算案は、与党の基本政策を財政面で肉付けしたものだけに、野党が賛成に回るのは異例だが、少数与党政権の下では、野党の一部の協力がないと予算案が成立しないので、与党としては野党の賛成取りつけに懸命だ。

今のところ、立憲民主党が賛成に回る可能性は低いとみられる。維新と、国民民主党の両方か、あるいはどちらか一方の賛成になるのか。この予算案の賛否は、後半国会の展開にも影響してくる。

ここまで見てきたように少数与党に転じた石破政権は、予算成立と政権維持のためには予算案の修正に応じる以外に道はない。問題は、修正の出来具合が国民の納得のいく内容になっているのかどうか。野党の修正要求と実現に向けた取り組み方、それに与党側の判断を含めて、修正協議の結果をじっくり見極めたい。

★追記(18日午前9時現在)高校の授業料無償化について、石破首相は「与党と維新の会との協議が整えば、新年度予算案を修正する方向で与党とも相談したい」とのべ、予算案の修正に応じる考えを示した。17日の衆院予算委員会で、維新の前原共同代表の質問に答えた。石破首相が予算修正に踏み込んだのは初めて。現在、公立・私立を問わずに支給されている年間11万8800円の修学支援金の所得制限を4月から撤廃。また、私立高校を対象に年間39万6000円まで加算される支援金の上限額について、今後45万7000円まで引き上げることを検討する考え。

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