裏金問題の法改正”やり直しが必要では”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した改正政治資金規正法が19日の参議院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。衆議院では賛成した日本維新の会をはじめ野党側はそろって反対した。

1月の通常国会冒頭から延々、議論を続けて法改正にこぎ着けたことは評価したいところだが、成立した改正内容をみると「期待外れ」と言わざるを得ない。報道各社の世論調査でも国民の多数は、今回の法改正を評価していない。

したがって、結論を先に言えば「やり直しが必要ではないか」と考える。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由を説明したい。そのうえで、国民として、これからどうすべきか考えてみたい。

 法改正も透明性低く 残る抜け穴

まず、成立した政治資金規正法の内容については既に何度も取り上げたので、詳細は繰り返さないが、改正の対象が極めて狭い範囲に限られているのが大きな特徴だ。裏金問題にメスを入れることを願ってきた国民の認識と大きなズレがある。

次に政治資金の問題は「政治資金の透明性」をどこまで徹底するかが問われていた。焦点になった政党から幹部議員に渡される「政策活動費」については、支出の項目や年月が新たに報告されることになったが、領収書の公開は10年後だ。これでは「透明性」の確保につながらないと疑念を持たれるのは当然だ。

また、今回の法改正では、自民党と公明党、日本維新の会との修正協議を経て、「検討」項目が増えた。一見、改善が進んだように見えるが、例えば政治資金をチェックする第三者機関はどんな権限を持つのかはっきりしない。具体的な制度設計ができていないので、評価しようがないのが実態だ。

このように改正内容は部分的なので、従来の抜け穴、ザル法と言われる状態が続くことになる。

さらに、30年余り前のリクルート事件当時から問題になっていた企業・団体献金の廃止をはじめ、「政党活動費」の廃止、政治資金収支報告書のデジタル化の取り組みなど根本問題についても掘り下げた議論にはならなかった。

 裏金復活に議員関与、裁判証言で浮上

この国会では、もう一つ「裏金事件の実態解明」が大きな課題になったが、全く進まなかった。その大きな原因は、自民党の実態調査が甘く着手が遅れたことと、安倍派幹部が「知らぬ、存ぜず」に終始したことにある。

この裏金事件で、政治資金規正法違反に問われた安倍派の会計責任者、松本淳一郎被告の公判が18日、東京地裁で開かれた。この中で、松本被告は、一度は中止の方針が示されたキックバックが再開された経緯について、生々しい証言を行った。

「2022年7月末、ある幹部から再開を求められ、その後の幹部の協議で再開が決定した」。その協議に出席したのは「下村さん、西村さん、世耕さん、塩谷さんが集まって話し合いが持たれた。方向性として、還付はしようということになった」と証言。ただ「ある幹部」の具体名は明らかにしなかった。

この派閥幹部4人は政治倫理審査会で弁明したが、塩谷座長を除く幹部3人は「派閥の幹部の協議では、結論は出なかった」「自ら関わっていない」という趣旨の説明をしており、松本証言とは大きく食い違う内容だった。

この国会では、こうした幹部議員の弁明に対して、事実関係を解明するための証人喚問を行わなかった。また、派閥の会長経験者で裏金事件の経緯に詳しいとみられる森元首相を参考人として招致することも見送られた。

松本証言が明らかになったことから、国会として実態解明に向けて、安倍派幹部の証人喚問などを改めて検討する必要があると考える。

自民党・岸田政権、乏しい改革姿勢

それでは、裏金事件の実態解明が進まず、法改正も評価が得られない原因はどこにあったのか。通常国会も閉会するので、整理しておきたい。

今回の事件は自民党の派閥の裏金づくりにあったので、第一義的には各派閥に責任がある。同時に総裁として党全体を統括する立場にある岸田首相と、党執行部も大きな責任を負っている。

その岸田首相と党執行部の対応は事件発覚以降、不記載の実態把握の調査をはじめ、関係議員の聴き取り、国会での弁明、党の処分などいずれも後手の連続で、国民の失望と不信を招いた。

また、再発防止に向けた政治資金制度のあり方についても、公明党や野党各党は1月から2月にかけて、それぞれの党の独自案をまとめて公表した。

これに対し、自民党だけが独自案のとりまとめが遅れ、最終的に自民案を国会に提出したのは5月中旬と大幅にずれ込んだ。こうした自民党の後ろ向きの姿勢が国会での与野党の議論が深まらず、国民の理解も得られなかった大きな原因だ。

自民党の対応が後手に回ったのは、岸田首相らが党内の意見をとりまとめ、対応策を打ち出していく取り組みが弱かったことが挙げられる。党の運営や国会対応で場当たりの対応が目立ち、指導力が発揮できなかった。

その背景としては「岸田首相と茂木幹事長との確執で、政権が一体となって取り組む体制になっていなかった」と指摘する党関係者は多い。

さらにリクルート事件の際には、自民党の多数の議員が参加して党改革の議論を深め、党全体がめざす進路を「政治改革大綱」という文書として打ち出し、国民の理解を得ることができた。

それに比較して「今回は上は首相・党役員から、下は中堅・若手議員まで危機感と熱意に乏しく、大胆な改革に踏み出せなかった」と党幹部の1人は今後の影響を懸念する。

こうした一方で、野党に対して国民の期待が高まっているわけではない。今回、抜本的な政治改革まで議論できなかったのは、野党の力不足も大きい。今後どのような目標を掲げ、実現をめざしていくのか、野党の戦略と力量も厳しく問われる。

政治の流れを変えるか、世論の風圧

さて、これからの政治はどのように展開するのだろうか。政治資金制度の改革は成果を上げているとは言えないが、一方で、政治に変化の兆しがみられる。具体的には、岸田政権や自民党に対する世論の評価だ。

NHKの6月の世論調査(7日~9日実施)では、岸田内閣の支持率は21%、不支持率は60%。自民党の政党支持率は25.5%まで下落した。内閣支持率、自民党支持率ともに2021年の岸田内閣発足以降、最低の水準だ。自民党政権下の内閣としては、2009年麻生政権末期に近い状況だ。裏金問題の逆風が影響しているものとみられる。

朝日新聞の6月世論調査(15、16日実施)によると、岸田内閣の支持率は22%、不支持率は64%。自民党の支持率は19%で、2009年麻生政権末期の20%を下回った。裏金問題への岸田首相の対応は「評価しない」が83%、自民党の改正案が成立した場合、再発防止は「効果がない」とする回答が77%に達した。

また、次の衆院選挙の投票先(比例代表)としては、自民党が24%に対し、立民19%と接近している。その他の各党は、維新10%、公明6%、共産5%、れいわ5%、国民4%などと続いている。

このように世論の評価が、風圧となって政権与党の支持基盤を変えつつあることが読み取れる。また、国民の多数が、今回の法改正をほとんど評価していないことからも「政治改革のやり直し」が必要だと考える。

その際、国民の側は「政治とカネの問題」を忘れずにしっかり記憶し、次の選挙の争点として位置づけ、候補者や政党に対応を迫っていくことが必要だ。こうした世論の力が、今後の政治を変えていくことになるのではないかとみている。

今の国会は、21日に内閣不信任決議案の採決が行われた後、23日に閉会する見通しだ。閉会後は、秋の自民党総裁選に向けて激しい動きが予想される。但し、新総裁が選ばれても「政治とカネ」の問題に本気で向き合わないと、次の選挙で国民から厳しいしっぺ返しを受けることが予想される。(了)

揺らぐ岸田政権”世論の強烈な逆風”

長丁場の通常国会は会期末が23日に迫る中で、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正をめぐる与野党の攻防が、大詰めの段階を迎えている。

こうした中でNHKが行った世論調査で、岸田内閣の支持率は21%と20%割れ寸前まで下落したほか、自民党の政党支持率も25.5%まで急落した。いずれも2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準にまで落ち込んだことになる。

これまで内閣支持率が急落した場合でも、自民党の支持率は高い水準を維持してきた。今回のように内閣支持率と自民党支持率がそろって下落するのは異例で、2009年の麻生政権以来の現象だ。世論調査のデータを基に「揺らぐ岸田政権」の背景を探ってみたい。

岸田内閣の支持率下落 政権末期状態

さっそく、今月10日に公表されたNHKの世論調査(6月7日から9日)のデータからみていきたい。

岸田内閣の支持率は、5月の調査に比べて3ポイント下がって21%となった一方、不支持率は60%で、5月調査より5ポイント増えた。

今月の内閣支持率21%は、岸田内閣が発足した2021年10月以降、最も低くなった。また、2012年に自民党が政権に復帰した以降でも最低の水準になる。

一方、不支持率60%は岸田内閣発足以降、最も高い水準だ。安倍政権や菅政権の不支持率は、政権末期でも50%前後に止まっていた。

歴代の自民党政権を調べてみると麻生政権の2009年当時、70%台に上昇したことがあり、それ以来だ。その後の民主党政権下の3つの内閣でも政権末期の不支持率は60%台に達していた。

このようにみてくると岸田内閣の支持率は、政権末期とも言える水準にある。支持と不支持率の割合はおよそ1対3なので、仮に国民4人がいると3人が不支持という危機的状況にあることがわかる。

自民支持率 下野直前の水準まで下落

次に、自民党の政党支持率をみてみたい。今月の自民支持率は25.5%で、5月調査から2.0ポイントも下落した。2021年10月の岸田内閣発足当時、自民支持率は41.2%だったので、実に15.7ポイントも下落したことになる。岸田内閣発足以降、最も低くなった。

自民党が政権に復帰した2012年以降、自民支持率は安倍政権で30%台半ばから40%台前半、菅政権でも40%から30%台前半を維持してきた。この10年余りの期間で、今回が最も低い水準にまで落ち込んだ。

自民支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。下野する衆院選直前の2009年8月は26.6%だったので、今回はその水準も下回ったことになる。また、今回は内閣支持率だけでなく、自民支持率もそろって下落しているのが特徴だ。

ここで、野党の支持率もみておきたい。◆立憲民主党は9.5%で、先月から2ポイント上昇した。2020年8月に旧民主党勢力が合流して以降、最も高くなった。◆日本維新の会は3.6%で、0.9ポイント下落。◆共産党は3.0%、◆国民民主党は1.1%で、いずれも先月と同じだった。野党は3つの傾向に分かれた。

一方、◆公明党は2.4%で、5月より0.9ポイント下がった。自民党がまとめた政治資金規正法改正案に衆院段階で賛成した自民、公明、維新はいずれも先月に比べて支持率を下げたことになる。

政権に逆風、世論の強い不信と不満

さて、岸田内閣の支持率と自民支持率はなぜ、相次いで下落しているのか、その理由、背景には何があるのか分析を進めたい。

今月の世論調査では、裏金事件を受けた政治資金規正法改正案の評価を尋ねている。法案は、自民党と公明党、日本維新の会などの賛成多数可決されて衆議院を通過し、参議院で審議が続いている。

◆「大いに評価する」3%、「ある程度評価する」30%、合わせて「評価する」が33%。これに対して◆「あまり評価しない」32%、「まったく評価しない」28%で、合わせて「評価しない」が59%(四捨五入の関係)に上り、大幅に上回った。

また、法案の内容に関連して、現在は使いみちの公開が義務づけられていない政策活動費について「10年後に領収書を公開するとしている」点について、評価を尋ねた。

◆「妥当だ」は13%に止まり、「妥当ではない」が75%に達した。

このほか、政治資金パーテイー券の購入者を公開する基準額を、現在の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げた点や、今回の改正案には企業・団体献金の禁止が盛り込まれていないことの是非についても尋ねた。いずれも改正案を「評価する」意見は少数に止まっている。

このように、自民党が公明、維新両党の主張を取り入れてまとめた政治資金規正法の改正案について、国民の評価は低い。その理由としては、政治資金の抜け穴を塞ぐ対策が十分にとられていないのではないかという強い疑念や、不信感が拭えないことが影響してているとみられる。

また、これまでの世論調査では、自民党が行ってきた党の裏金問題の調査や関係議員の処分、さらには再発防止策のとりまとめについても、内容が不十分で、対応も後手に回っているなどとして、厳しい評価が続いてきた。

こうした国民の不信や不満が、強烈な逆風となって岸田政権と自民党に吹きつけている状況を読み取ることができる。

カギは、裏金の実態解明と制度設計

それでは、これからの終盤国会や今後の政治の展開はどこがポイントになるのか、みておきたい。

政界の一部には、会期末に野党が内閣不信任決議案を提出するのをとらえて、岸田首相が乾坤一擲の大勝負に出て、衆院解散に踏み切るのではないかとの説が繰り返し流されてきた。

しかし、今の岸田政権には、解散・総選挙に打って出てるような状況にはないようにみえる。今月の世論調査でも、自民支持層の中で岸田内閣を支持する割合は52%で、半数程度に止まっている。

最も大きな集団である無党派層では、岸田内閣の支持率は10%にすぎない。自民党の長老も「勝算のない戦を党内が許すはずがない。6月解散はあり得ない」と強調する。

そうすると今後のカギは、この半年余り続いてきた裏金事件の実態解明と、政治資金規正法改正に区切りをつけることに絞られてくるのではないか。その役割をどの政党が中心になって果たしていけるのかに集約されるのでないかと思う。

自民党内では「国会を早く店じまいして、秋の総裁選挙で新しい顔を選んで、総選挙で出直しだ」といった声も聞かれる。だが、裏金問題を中途半端なまま「選挙の顔」だけ代えても、再び裏金対応を質され、国民の信頼を失う事態が予想される。

一方、野党側も自民党を批判するだけで、新たな仕組みをどこまで本気で迫っていくのか、野党の力量も問われる。形だけの追及でお茶を濁していると国会終了とともに支持者が離れていくことになりかねない。

つまるところ、政権、与野党が「新たな政治資金の制度設計」と「実態解明の道筋」をつけられるのかどうか。そうした取り組みで「政治の信頼回復の手掛かり」が多少とも残せるのかどうかにかかっているのではないかと思う。

但し、こうしたこともできないと、例えば岸田首相は、秋の総裁選に臨んでも再選への道は極めて厳しいことが世論調査からも読み取ることができる。最終盤の国会で、岸田首相や与野党がどのような対応をとるのか、次の総選挙への備えとしてもしっかり、見届けたい。(了)

“迷走と 低い改革度 ”規正法案 衆院通過

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した政治資金規正法の改正案が6日、衆議院本会議で自民、公明、維新3党などの賛成多数で可決され、参議院へ送られた。これによって、この法案の今国会での成立が確実な情勢になった。

この法案の内容を見ると、政治資金の透明度や、抜け穴などと批判を浴びた現行制度がどこまで改善されるのか、はっきりしない。また、法案をめぐる自民党と岸田政権の対応には迷走が目立ち、政治改革をやり遂げる覚悟や意欲があるのか疑問に感じる場面も多かった。

今回の法案の衆議院通過という節目に、法案の中身の評価と、岸田政権それに与野党の対応や今後の注目点などを探ってみたい。

自民法案 透明性など低い改革度

さっそく、衆議院で可決された法案の内容からみていきたいが、その前にこの法案がどのような経緯を経て提出されたのか説明しておきたい。

この法案は自民党が単独で提出した法案について、公明党や日本維新の会との協議や党首会談を経て、法案の一部を修正し、3党の賛成で可決したものだ。

主な内容は◇議員の政治責任を強化する「連座制」導入のため、収支報告書の作成を議員に義務づけること。◇パーテイー券購入者を公開する基準について、現行の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げること。◇党から支給される「政策活動費」については、項目ごとの使い途や支出した年月を開示し、10年後に領収書などを公開するなどとなっている。

国民にとって関心があるのは、こうした対策で、政治資金の透明性が徹底され、裏金や政治資金スキャンダルが止められるかどうかにある。結論から先に言えば、改善点は多少あるが、再発防止に実効性があるかどうかは不透明だ。

というのは、特別委員会の質疑でも指摘されたように「政策活動費」の領収書などの開示は10年後になる。その間、領収書の保存をどうするのか。政治とカネに関する法律の時効は5年で、10年後となれば罪に問えない公算が大きい。監視する第三者機関もいつ設置されるのか、これから検討するとしている。

自民党の修正案要綱には、具体的な改善内容が幾つも列挙されているが、いずれも「検討」項目だ。政治資金の基本である透明性が徹底されていない。

また、30年余り前のリクルート事件の時から宿題になっている企業・団体献金の扱いや、「政策活動費」の廃止といった点も取り上げられておらず、「改革の志向や度合いも低い」のが大きな問題点だ。

自民党が平成元年にとりまとめた「政治改革大綱」には「日本の政治は大きな岐路に立たされている。国民の政治に対する不信感は頂点に達し、深刻な事態を迎えている」「今こそ、自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示すときである」と記されている。この指摘は今も通用する。

今回の法案審議でも提案者からは、こうした現状認識や改革の決意は全くと言っていいほど伝わって来なかった。国民の間では「期待外れ」「失望と落胆」などの受け止めが広がったのではないか。

政権迷走、場当たり対応が根本原因

次に、今回の法案作りと国会での各党の対応などについて、みていきたい。自民党は、当初から連立政権を組む公明党との間で「与党案」をまとめ、成立させることをめざしていた。

このため、大型連休明けの5月7日から両党の実務者レベルの協議を本格化させ、調整を進めたが、双方の溝は埋まらなかった。自民党は与党案を断念し、5月17日に単独で法案を提出した。連立政権を組む与党が、後半国会の最重要法案で合意できなかったのは極めて異例の事態だ。

その後、特別委員会の採決を控えた5月下旬になって、自民党は公明党の賛同を得るため、再び修正案を提示して関係修復を図った。公明党もこの修正案に賛成するものとみられていた。

ところが、公明支持者などの反発は強く、岸田首相は山口代表との党首会談に持ち込み、パーテイー券購入者の公開基準は「公明案を丸飲み」する形でようやく決着をつけた。

一方、日本維新の会と間では、岸田首相と馬場代表との党首会談で、政策活動費は「10年後に領収書などを公開する」との維新案を修正案に盛り込むことで合意した。

ところが、公開の内容をめぐって双方の食い違いが表面化し、与野党が決定していた特別委員会の審議と法案の採決日程が、土壇場で取り止めとなる前代未聞の事態が起きた。その後、自民党側が維新の要求を認め、再修正の合意にこぎ着けた。

このように自民党と岸田政権の対応は、当初から二転三転、法案修正の提示が3度も繰り返されるなどの迷走が続いた。こうした事態を起こす原因はどこにあったのだろうか。

自民党は、再発防止策の検討に当たっては、不記載の問題に絞り込んだため、口座を通じた資金管理や、議員の政治団体に対する監査の強化といった細々とした対策作りに重点が置かれた。

その結果、政治資金制度や政治改革全体に及ぶ党内議論は乏しく、党の幹部も「改革の熱が乏しい」と認めざるを得なかった。党の基本方針も示されなかった。

他の党は、いずれも1月から2月の段階で、政治改革方針をとりまとめ公表したが、自民党だけが大幅に出遅れた。報道各社の世論調査でも、岸田政権の取り組みを「評価しない」という声が多数を占めた。

さらに、自民党は独自案を示さず公明党との協議を続けたため、法案化や修正案づくりの面でも対応が後手に回った。

こうした結果、自民党は十分な準備が整わないまま、岸田首相が党首会談などでその都度、あわただしく方針を決める「場当たり対応」を重ねた。これが、一連の迷走が続いている根本的な原因だとみている。

岸田首相と自民 問われる統治能力

こうした岸田首相の迷走は、今回の政治資金規正法改正案の対応だけに止まらない。去年11月中旬に裏金事件が表面化して以降、年末の安倍派4閣僚の更迭をはじめ、年明けの派閥解散宣言、政倫審への自らの出席など“サプライズの対応”が続いている。

もちろん、岸田首相の対応に中には、動かぬ自民党を動かすにはトップリーダー自らが動かざるを得ない事情もあった。

一方で、党全体で議論して問題意識を共有し、そのうえで、政権が問題解決に向けた方針を打ち出し、様々な意見を取り入れながら、実行していく組織的な政権運営が必要だ。

ところが、岸田政権にはこうした組織的政権運営がほとんどみられず、首相が党の限られた政権幹部の協議を経て、大きな方針が突如と決まる事態が続いている。

今回もパーテイー購入者の公開基準の引き下げをめぐって、麻生副総裁と茂木幹事長は引き下げに反対、岸田首相が押し切ったとされる。党内は「パーテイー券購入者の公開基準は譲歩しすぎ」との不満が渦巻いているとされる。

岸田首相、自民党執行部ともに問われているのは、裏金事件を起こした当事者として、明確な方針を打ち出し、国民に説明を尽くす対応ができているか「統治能力」が問われているのだと思う。そして、世論の支持を得られているのかどうかが問題だ。

自民党は、衆院3補選で全敗したのをはじめ、静岡県知事選でも推薦候補が敗退、都内の区長選や議員補選でも負けが続いている。その要因としては、裏金問題の逆風が依然として大きく影響しており、岸田政権が有効に対応できていないことの証明でもある。

政治資金規正法の改正問題は、7日から参議院で審議が始まり、野党側は法案の再修正を求め、与野党の攻防が続く見通しだ。野党側は、維新が自民党の修正案賛成に回り、野党が分断される形になった。立民、維新どちらが野党内の主導権を確保し、党勢を増していくのかをみていく必要がある。

一方、岸田政権と自民党については、まずは、世論が自民党の修正案をどのように評価をするかが、大きなカギになる。仮にこれまでの自民単独案と同じように評価が低い場合は、次の段階として、自民党の統治能力や政権担当能力の評価にも影響を及ぼすことになりそうだ。

以上、みてきたように世論が今回の法改正をどのように評価するのか、極めて興味深い。9月末に自民党総裁としての任期満了を迎える岸田首相の進退問題や、次の衆院選挙のゆくえを占ううえでも、大きな判断材料として世論の動向を注目している。(了)

自民修正案 ”改革に遠い内容”

自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正問題で、自民党は29日、修正内容を各党に示した。修正案は、改正案が成立し法律の施行から3年後に見直す規定などを盛り込んでいる。

この修正案について、これまで厳しい姿勢をとってきた公明党は「主張が一定程度認められた」と評価して賛成に回る方向だ。これに対して、野党側は企業・団体献金禁止が盛り込まれておらず「ゼロ回答」だとして強く反発している。

修正案の内容をみると自民党案の骨格は維持したままで、国民の多くが期待する踏み込んだ改革にはほど遠い内容に止まっている。なぜ、こうした評価をしているのか、今後の展開はどうなるのか探ってみたい。

自民修正案、骨格維持し小ぶりの手直し

後半国会の最大の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐっては、28日から衆議院の政治改革特別委員会で与野党の修正協議が始まった。

この中で、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党各党は◇企業・団体献金の禁止、◇政党から幹部議員に渡される「政策活動費」の禁止や領収書の全面公開、◇それに「連座制」では、議員が会計責任者と同じ責任をとることを明確にするという3項目の共通要求をまとめ、自民党側に修正内容に盛り込むよう申し入れた。

これに対して自民党は29日、修正内容を各党に示した。それによると、今は使途の公開が必要ない「政策活動費」については、項目ごとの使い途に加えて、支出した年月を開示するとしている。

また、議員に政治資金規正法違反などがあった場合は、政党交付金の一部の交付を停止する制度を創設するほか、個人献金を促進するための税制優遇措置を検討するとしている。

そして、施行から3年をメドに法律を見直す規定を盛り込むとしている。

一方、野党側がそろって求めている企業・団体献金の禁止や、「政策活動費」の支給の禁止などは盛り込んでいない。

また、政治資金パーテイー券の購入者の公開基準については、現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」まで引き下げるなどとした法案の骨格は維持するとしている。

このように自民党が示した修正内容は、自民党案の骨格は維持したうえで、各党の主張の一部をとり入れたり、情報の一部を追加したりしているが、極めて小ぶりの手直し案に止まっている。

 透明性、罰則強化の実効性も疑問

こうした自民党の修正案について、国民はどのように受け止めるだろうか?今回の裏金問題について、国民が強く望んでいるのは「政治資金の流れを徹底して透明化すべきだ」という点が1つ。

また、議員が多額の裏金を受け取りながら「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、会計責任者に責任を押しつける姿を目の当たりにしたことから「違法行為を行った議員に対する罰則の強化」も必要だとの思いが強い。

さらに、同じような不祥事を繰り返さないために「政治資金制度の仕組みやあり方について、改革を進めて欲しい」との期待も強い。

以上のような視点で、自民党の修正案をみると国民の期待するような改革には、ほど遠い。一例を挙げると党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、領収書の添付は必要ないとしている。これでは、多額の活動費がどのような目的で、何に使われたのか、引き続き闇の中ということになりかねない。

パーテイー券の公開は「10万円超」に引き下げるとしているが、公明党も主張しているような寄付の公開基準である「5万円超」になぜ、できないのかという疑念も残されたままだ。

要は、透明性の徹底や、議員に対する罰則強化は本当に実現できるのか、実効性を担保するような仕組みになっていないのではないか。こうした疑念を残す内容になっている点が大きな問題であり、与野党の修正協議で改善してもらいたい。

 与野党の攻防、世論の評価がカギ

それでは、法案の扱いは今後、どのようになるのかみていきたい。自民党の修正案について、野党各党は、企業団体献金などに触れていないことから「ゼロ回答」「改革意欲が全く感じられない」などと強く反発している。

自民党は「前進させたいと思っているが、党内調整ができていない」として党内で検討した上で、再び各党と協議する方針だ。

自民党関係者によると「岸田首相は、自民党案をベースに公明党の協力に加えて、野党の一部の賛同も得て法案の成立をめざしている」とされる。

自民党は、参議院で単独過半数を確保していないので、法案の成立には与党・公明党の支持は不可欠だ。

その公明党は、党内で協議が続いているが、連立政権を組んでいることや、党の主張が一定程度、認められているとして、自民党案に賛成する方向で調整が続いている。自民、公明両党の足並みがそろうかどうかが、大きなポイントだ。

一方、野党側は、政策活動費の廃止や使途の公開などを要求するとともに、岸田首相との質疑を行うことを求めている。野党側の足並みが最後までそろうのか、要求の実現に向けて国会戦術を強める考えがあるのかも注目される。

さらに今回は、世論が自民党案にどのような評価をするのかが、大きなカギを握っている。というのは、26日に投票が行われた静岡県知事選挙では、野党系の候補が自民党の推薦候補を破って当選した。地域の選挙だが、「裏金問題と世論の逆風がボデイーブローのように効いた」との見方が強い。自民党にとっては衆院3補選全敗に続く、手痛い敗北となった。

報道各社の今月の世論調査でも、政治資金規正法改正に向けた自民党の対応について「評価しない」が読売新聞で79%、朝日新聞で62%に達している。岸田内閣の支持率、自民党の支持率ともに低迷が続いている。

今回、仮に修正された自民党案が成立しても、世論の評価が低い場合、岸田首相の政権運営をはじめ、秋の自民党総裁選、さらには衆院解散・総選挙の時期や勝敗にも大きな影響が出てくることが予想される。

政治資金規正法改正をめぐる与野党の攻防が、どのような形で決着がつくのか。そして、世論の評価と風向きはどのようになるのか、政治のゆくえを大きく左右することになる。(了)

 

 

 

裏金問題 最終攻防の見方・読み方

派閥の裏金問題を受けて、自民党が政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出したのに続いて、立憲民主党と国民民主党が共同の法案、さらに日本維新の会も独自の法案を提出し、各党の法案が出そろった。

これを受けて、衆議院の政治改革特別委員会は22日に各党提出の法案の趣旨説明を行って審議入りした後、23日から法案の質疑と与野党の協議が本格的に始まる。

長丁場の通常国会も会期末まで残り1か月となった。政治資金規正法の改正案は成立にこぎ着けることができるのか、それとも与野党協議が決裂して見送りになるのか、最終段階に入った与野党攻防のゆくえを探ってみたい。

自民は単独で法案提出、深まる孤立

終盤国会最大の焦点になっている政治資金規正法改正案は、政権与党の自民、公明両党が共同で「与党案」を提出するとみられていたが、土壇場で両党の調整が不調に終わり、自民党が17日に単独で法案を提出した。

連立政権を組む自民、公明両党が重要法案で意見が折り合わず、自民党が単独で法案を提出するのは極めて異例だ。この背景には、自民党の裏金問題に対する世論の逆風が収まらず、公明党が自民党と距離を置くねらいがあるものとみられる。

こうした結果、自民党は元々、大きな隔たりがある野党側だけでなく、連立を組む公明党からも距離を置かれて、孤立を深める立場に追い込まれている。

自民党は、参議院では単独で過半数を確保していないので、法案を成立させるためには、公明党か、野党の一部の協力が必要になる。

このため、自民党は自らの法案の修正に応じるなど一定の譲歩が必要で、会期末に向けた法案の扱いは、不透明で複雑の展開をたどる可能性が大きい。

野党攻勢も 実現へ共同歩調を保てるか

野党側の対応はどうだろうか。野党各党は、ここまで裏金問題を厳しく追及し、世論の自民批判の受け皿となることをねらってきた。これからの政治資金規正法改正をめぐる議論でも、自民党に対する攻勢を強める方針だ。

野党各党とも企業団体献金の禁止をはじめ、政治資金の透明化、政治資金パーテイー券の公開基準の引き下げなどの基本的な方向では一致するが、具体的な方法などになると、党によって考え方や重点の置き方に違いがあるのも事実だ。

例えば立憲民主党は、国民民主党との間で「共同案」をとりまとめたことをアピールするとともに、政治資金パーテイーを全面的に禁止するための法案を単独で提出することなどで独自性の発揮をねらっている。

日本維新の会は、今の「政策活動費」を見直し、党勢の拡大や政策立案などの支出に限定したうえで、10年後に使い途を公開する新たな制度を盛り込んだ法案を国会に提出した。また、旧文通費の見直しも強く求めていく方針だ。

これに対して、自民党は公明党との協力を取り戻すとともに、維新の協力も取りつけて野党の分断を計り、主導権を確保したい考えだ。

但し、協力を求められる維新の側も、自民党に対する世論の逆風が強いことから、自民との連携には慎重な姿勢をとっており、両党が協力までこぎ着けられるかどうか見通しがついているわけではない。

こうした状況から野党側は、今の国会で各党共通の目標を絞りこみ、最後まで共同歩調をとれるかどうかが試されることになる。

 法改正 公開の徹底と実効性がカギ

次に法案の内容については、どこを注目してみていく必要があるか。先にみたように法改正では、企業団体献金の見直しなど多くの論点があるが、自民案の特徴は、今回の派閥による裏金問題の再発防止に重点を置いているのが特徴だ。

具体的には、政策集団に対する監査の強化や、政治資金パーテイー収入は現金ではなく、金融機関の口座を使うなど細かい改善点が多い。

また、パーテイー券の公開基準についても現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」に引き下げているが、公明党の「5万円を超える」とも開きがある。自民案はパーテイー1回当たりの金額なので、開催回数を倍に増やせば、これまでと変わらず、相変わらず抜け道が多いとの指摘を聞く。

また、政党が幹部議員に年間10億円もの資金を渡す「政策活動費」についても、自民案では具体的にどのような支出に使われたのか明確になっていないほか、領収書の添付が義務づけられていないので、確認のしようがないといった批判が強い。

政治資金制度の基本は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判の下に置くことにある。今の制度は兼ねてから「抜け穴」が数多く指摘されてきたので、「公開」を徹底することが必要だ。

また、今回の裏金事件のように、違法行為を行った議員に対する罰則の強化が必要だ。このため、各党とも「連座制」を導入することでは、基本的に一致している。しかし、具体的な方法となると自民案と野党案では違いがあり、どちらが効果があるのか「実効性」を判断基準に議論をさらに深める必要がある。

 法案成立か見送りか 最終攻防へ

それでは、政治資金規正法の改正はどのような形で決着がつくのだろうか。自民党は、参議院で過半数を確保していないので、今の自民案がそのまま成立する可能性はほとんどない。与野党が歩み寄り、法案の修正の合意ができるかどうかがカギを握る。3つのパターンが想定される。

◆1つは、自民案をベースに公明党や、維新など野党の一部の意見を取り入れて修正案をまとめ、成立させるケース。

◆2つ目が、与野党が合意して修正案をまとめ、法案成立にこぎ着けるケース。この場合、今の国会で成立させる部分と、継続協議の部分との仕分けが問題になる。

◆3つ目が、与野党の協議が決裂し、法案の成立は見送りとなるケースが想定される。

こうした点に加えて、通常国会の会期末なので、◆野党側が内閣不信任決議案を提出することが予想される。その場合、与党が否決するケースが1つ。もう1つは、◆岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性もある。

国民の側もどのような展開が望ましいのか考えておく必要がある。個人的な考えを言わせてもらうと、裏金事件はこの半年間、日本の政治を大きく揺るがせ、国民の政治不信を増幅させてきた。

与野党の協議が決裂して何の結果も残さないよりも、これまでの議論を踏まえて、一定の対応策を法改正の形で示すことは必要で、与野党の責任ではないかと考える。

そのためには、政権を担当する岸田首相や自民党が、野党や国民の意見などを真正面から受け止め、法案の修正合意に大胆に応じることが必要ではないか。一方、野党側も自らの主張に固執するのではなく、大局的な判断を行うべきだと考える。

このほか、裏金事件の実態解明は全くと言っていいほど進んでいない。国民の政治不信を払拭するためにも、森元首相の参考人招致や、裏金の関係議員のほとんどが国会で弁明すら行っていないことについても、最低でも弁明書を出させるなどケジメをつける必要がある。

衆院解散・総選挙をいつ行うのが望ましいのか、世論調査でもかなり時期が分かれている。まずは、終盤国会で法案の成立や裏金事件のケジメをつけたうえで、判断すればいいのではないか。

裏金問題がどのような形で決着がつくのか。岸田政権の行方や、今後の政局の展開を大きく左右するのは間違いない。与野党の動きをしっかり注視していきたい。(了)                               ◆追記(22日21時):日本維新の会が22日、政治資金規正法の改正案を国会に提出した。これを受けて、各党の法案の提出状況の表現を一部、修正した。

 

 

 

 

政治とカネ”与党案に厳しい評価”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民・公明両党が先にまとめた政治資金規正法改正の「与党案」について、国民の8割近くが「評価しない」と厳しい評価をしていることが、NHK世論調査で明らかになった。

一方、岸田内閣の支持率は24%と低迷しているほか、自民党の支持率も30%を割り込んで、2012年の政権復帰以降、最低の水準まで落ち込んでいる。

いずれも、自民党の裏金問題への反省のなさや、改革に後ろ向きな姿勢が影響しているものとみられ、岸田政権は終盤国会で苦しい対応を迫られることになりそうだ。

 与党案と 首相の指導力に厳しい評価

終盤国会の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐり、自民・公明両党は9日、両党の幹事長が会談し「与党案」の概要をまとめた。

与党案では、政党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、「議員からの報告に基づき、党が金額などを収支報告書に盛り込む」としたが、具体的な使途の公開の方法などは明らかになっていない。また、パーテイー券の購入者などを公開する基準についても結論を先送りにしている。

NHKの世論調査では、この与党案の評価ついて「評価する」は15%に止まり、「評価しない」が77%、8割近くに達した。

また、政治とカネの問題への対応で、岸田首相が指導力を発揮しているか尋ねたところ「発揮している」は19%で、「発揮していない」が74%に上った。

これを支持政党別にみると、自民党支持層でも「発揮していない」と答えた人が58%に達した。また、野党支持層では「発揮していない」がおよそ90%、無党派層ではおよそ80%を占めるなど首相の指導力に厳しい評価が示された。

内閣支持率低迷、自民支持率も落ち込み

岸田内閣の支持率は、4月調査より1ポイント上がって24%だったのに対し、不支持率は3ポイント下がって55%だった。

先月に比べるとほぼ横ばいだが、政権運営の危険ラインとされる30%を割り込んで、20%台が続くのは7か月連続。支持率を不支持率が逆転するのは、去年7月以降、11か月連続となった。

一方、自民党の支持率は、4月より1ポイント下がって27.5%だった。20%台に下がるのは今年3月以降、3か月連続だ。今月の27.5%は、2012年に自民党が政権復帰して以降、最も低い水準にまで落ち込んだことになる。

岸田内閣の支持率が低迷する理由としては、今月の調査で「景気がよくなっている実感がない」という人が80%に上ったほか、岸田首相が今年中に「物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と表明していることについて、「期待しない」が62%を占めるなど政府の物価高騰対策や経済政策に対する不満もあるものとみられる。

こうした一方で、このところ内閣支持率だけでなく、自民党支持率も平行して下落しているのが特徴だ。

こうした背景には、去年11月に裏金事件が表面化して以降、実態解明が一向に進まないこと。また、岸田首相や自民党が再発防止と称して、政治資金の部分的な手直し案しか示さないことに対する国民のいらだちや、厳しい評価も影響しているとみられる。

 野党攻勢、自・公調整のゆくえは

それでは、政治とカネの問題は、これからどのように展開するだろうか。長丁場の通常国会も来月の会期末まで1か月余りを残すだけとなった。

野党各党は、裏金問題の実態解明に加えて、政治資金規正法の抜本的な改正に向けてそれぞれの党の独自案をとりまとめている。

このうち、野党第1党の立憲民主党と国民民主党は、法案の共同提出に向けて協議を続けており、衆院政治改革特別委員会を舞台に野党案の実現を迫る構えだ。

これに対して与党側は、岸田首相が13日の政府与党連絡会議で「与党間でしっかり協力し、今国会中の法改正の実現に全力を尽くしてもらいたい」とのべ、公明党との間で条文化の作業を進め、実現を図りたい考えを示した。

公明党の山口代表は「与党案をまとめたが、隔たりのあるところがあり、法案にするには困難な部分がある。与党として法案に必要な作業を行うべきだが、野党の意見も聞きながら、国会として合意を形成することが信頼回復につながる」とのべ、野党も含めた与野党協議を重視する姿勢をにじませた。

こうした背景には、与党案をめぐっては自公両党の間に考え方の隔たりがあることに加えて、公明党としては、裏金問題を抱える自民党と距離を置きたいねらいがあるものとみられる。

このように焦点の政治資金規正法をめぐっては、自民、公明両党の足並みがそろっていないことに加えて、自民党と野党各党都の間では、法改正の内容や範囲をめぐって大きな違いを抱えている。

岸田首相は今国会での法改正の実現を明言しており、14日に山口代表と会談し、自民党として法案の作成を進め、公明党側に示したいという考えを伝えた。

仮に法改正ができない場合は、岸田首相は大きな政治責任を負うことになる。このため、どのような道筋で実現を図るのか。野党の協力を得て与野党合意をめざすのか、与党だけで成立を図るのか、あるいは今国会での成立を見送るのか決断を迫られることになる。

一方、野党側は、法改正で要求が認められない場合、内閣不信任決議案を提出する公算が大きい。その場合、岸田首相は、粛々と否決するのか、それとも政界の一部にあるような衆院解散・総選挙に打って出るのか、緊迫した会期末を迎える可能性もある。

このため、まずは、与党の自民党と公明党との間で調整が進むのか、そしてどのような道筋で法改正の実現をめざすことになるのか、与党内の調整のゆくえが当面、最大の焦点になる。(了)

 

終盤国会2つの焦点、政治資金法改正と首相の求心力

大型連休が終わり、国会は6月23日の会期末まで50日を切って終盤戦に入った。終盤国会は、自民党の派閥の裏金問題を受けて、政治資金規正法の改正をめぐり、与野党の攻防が一段と激しくなる見通しだ。

また、岸田首相は会期末に向けてどのような姿勢で、終盤国会に臨むのか。野党側が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院の解散に打って出る可能性はないのかどうか、与野党や自民党内で腹の探り合いが続いている。

先の衆議院3補欠選挙で自民党が全敗したのを受けて、自民党内では岸田首相の政権運営を危ぶむ声も聞かれる中で、終盤国会の焦点を探ってみる。

政治資金の法改正、与野党協議は難航か

大型連休を利用してフランスと、南米のブラジル、パラグアイを歴訪した岸田首相は、連休最終日の6日午後帰国したあと、夕方、党の政治刷新本部のメンバーと会談し、自民党の政治資金規正法の改正案づくりをめぐって意見を交わした。

この中で、岸田首相は、政治資金規正法の改正に向けて、公明党と早期に合意できるよう協議を加速するよう指示した。

自民、公明両党の間では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけることなどで合意しており、それ以外の論点についても協議を急ぐ方針を確認したものだ。自民、公明両党は、連休明けの7日から協議を再開する見通しだ。

政治資金のあり方をめぐっては、衆議院の政治改革特別委員会が設置され、その委員会が先月26日初めて開催され、各党がそれぞれの党の見解を表明した。

与党の公明党、それに野党各党は既に改革案の内容を決定しているが、自民党の改革案は、議員の政治責任を強化するため、収支報告書の「確認書」の作成を義務づけるなど部分的な内容に止まっている。

このため、自民党が再発防止の具体策とともに、それ以外の論点を含め、どこまで踏み込んだ内容を打ち出し、公明党との間で具体案をとりまとめることができるかが焦点になっている。

具体的には、パーテイー券購入者の公表基準の引き下げや、政党から議員に渡しきりになっている「政策活動費」の扱い、政治資金パーテイーの開催や企業団体献金の是非、さらには懸案の旧文通費の使途公開など数多くの項目がある。

岸田首相は、今の国会で政治資金規正法の改正を実現させると明言しているが、自民党内には、派閥の政治資金パーテイー収入の不記載問題に絞った対応に止めた方がよいという慎重論も根強い。このため、岸田首相がどこまで指導力を発揮して、具体案を打ち出せるかが問われている。

先の衆院島根1区補欠選挙の出口調査をみても投票に当たって「裏金問題を考慮した」と答えた人は8割近くに達し、そのうち7割の人が野党候補に投票した。自民党としても相当、踏み込んだ改革案を打ち出さないと国民の納得は得られないのではないか。

さらに、今後の本格化する与野党協議では、政治資金制度の改正内容をめぐって、双方の主張に相当の開きがある。また、野党側は、裏金問題の実態解明が不十分だとして、関係議員の証人喚問や参考人招致を強く求めることが予想され、与野党の協議が難航するのは必至の情勢だ。

首相の求心力、会期末攻防や政局を左右

終盤国会のもう1つの焦点が、会期末の重要法案や政権運営の評価をめぐる与野党の攻防だ。野党第1党の立憲民主党は、自民党の派閥の裏金問題の政治責任を追及するとともに、衆議院の解散・総選挙に追い込む構えを強めている。

これに対して、岸田首相がどのような方針で、国会の乗り切りを図るのか、与野党の神経戦が続くことになる。

岸田首相は4日、訪問先のブラジルでの記者会見で「内外の諸課題に全力で取り組むことに専念する。それ以外のことは現在考えていない」とのべ、解散・総選挙は考えず、さまざまな政治課題に取り組んでいく考えを強調した。

岸田首相としては、今の国会で政治資金規正法の改正を実現するとともに「子ども子育て支援法」などの重要法案の成立を図りたい考えだ。また、定額減税の実施や物価高騰対策などを積み重ねながら、秋の自民党総裁選での再選と衆院の解散時期を模索しているものとみられる。

首相に近い自民党幹部は「岸田首相は苦境でも打たれ強く、予測不能な行動をする。野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院解散・総選挙に踏み切る理由ができたことになる。一方、内閣や党の人事を行う選択肢もある」として、6月の会期末解散や国会終了後の人事の可能性も示しながら、政権運営の主導権を維持していく考えを示している。

自民党の長老に聞くと「6月解散などあるわけがない。今の内閣支持率や補選の結果を考えると、自民党にとって壊滅的な結果になる。岸田降ろしは起きないが、解散もなく、秋の総裁選挙を粛々とやろうという方向で収束するのではないか」と予測する。「但し、総裁選に誰が立候補するのか、岸田首相を含め顔ぶれは、今の時点では予想できない」という。

このようにみてくると、会期末に向けた政治の展開は、岸田首相の求心力がどの程度、維持されているのかが大きく左右するのではないか。岸田首相と茂木幹事長の確執が取り沙汰される中で、政治資金規正法改正の自民党案や、公明党との与党案をどのようにとりまとめるのかが、岸田首相の手腕がポイントになる。

一方、野党第1党の立憲民主党は先の衆院補選で3勝したことから、政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明をめぐって強い姿勢で臨むことが予想される。これに対して、岸田首相が最終的にどのような形で決着させるか、力量が問われることになる。

このほか、川勝平太前知事の辞職に伴い5月26日に投開票が行われる静岡県知事選挙のゆくえも注目される。選挙は、元副知事を自民党県連が推薦、元浜松市長を立憲民主党と国民民主党が推薦、それに共産党の県委員長が立候補する構図になっている。

静岡県では、自民党安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相が派閥の裏金問題で、離党勧告処分を受けて離党したほか、先に宮沢博行・元防衛副大臣が女性問題で議員辞職に追い込まれた。

こうした裏金問題などが与野党対決の知事選挙にどこまで影響するか。また、自民党が先の3補選で全敗したのに続いて、地方の主要選挙で敗北となると「菅政権の末期と同じように、岸田政権も打撃を受けるのではないか」と与野党の関心が集まっている。

今年1月の通常国会召集から大きな焦点になっていた裏金問題は、終盤国会でどのような形で決着がつくのか、岸田政権と与野党双方に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

 

衆院補選 自民3戦全敗”政局流動化へ”

衆議院の3つの補欠選挙は28日に投開票が行われ、いずれも立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は不戦敗を含めて3戦全敗となった。

唯一、与野党対決となった島根1区は自民党が長年、議席を維持してきた牙城だったが、立憲民主党の元議員の亀井亜紀子氏が自民党新人を破って議席を獲得した。自民党の裏金問題に対する有権者の批判や怒りが、自民党の選挙地盤を覆した形だ。

岸田政権の下で、衆参の補欠選挙は5回目になるが、これまで自民党が負け越すことはなく、全敗したのも今回が初めてだ。

今回、岸田政権へのダメージは大きく、首相の求心力は低下するとの見方が広がっている。今は国会開会中で「岸田降ろし」が直ちに表面化する可能性は低いとみられるが、秋の総裁選挙をにらんだ動きが活発になり、政局は流動化してくる見通しだ。

3つの補欠選挙で有権者はどのような判断を示したのか、NHK出口調査のデータを基に分析してみたい。また、今後の政治はどのような展開になるか、ポイントを考えてみたい。

 ”保守王国”島根で野党勝利の異変

▲今回の3つの補欠選挙のうち、今の政治状況を最も鮮明に映し出したのが島根1区だ。衆議院に小選挙区が導入された1996年以降、島根県は全国で唯一、自民党が議席を独占してきた”保守王国”だが、今回初めて野党が勝利して議席を獲得した。

NHKが投票当日、投票所に足を運んだ有権者を対象に行った出口調査によると投票する際に「政治とカネの問題を考慮した」という人は76%、8割近くに達した。そのうち、70%の人が立憲民主党の亀井亜紀子氏に投票したと答えた。裏金問題が、選挙結果に大きな影響を及ぼしたことがわかる。

投票者を支持政党別にみると、当選した亀井氏は◇立憲民主党支持層の90%台半ばの支持を集めたほか、◇日本維新の会支持層の60%台半ば、◇無党派層の70%台後半から支持を得ていた。

さらに、亀井氏は◇自民党支持層のおよそ30%、◇公明党支持層の40%余りの支持も獲得していた。

これに対して、自民党新人の錦織功政氏は、◇自民支持層の70%、◇公明支持層の40%余りの支持に止まり、◇無党派層の支持は20%余りだった。

このように亀井氏は、野党支持層や無党派層の多数を固めたことに加えて、与党支持層にも支持を広げたことが勝因だ。これまで自民党に投票してきた支持層の一定割合が、裏金問題を契機に野党支持へ投票行動を変えたことが読み取れる。

▲野党や無所属など過去最多の9人が争った東京15区は、立憲民主党新人の酒井菜摘氏が抜け出し、初めて議席を獲得した。自民、公明両党は候補者擁立を見送った。

NHK出口調査では、◇投票者の24%を占める自民支持層は、主な候補者5人に票が分散した。酒井氏は、◇立憲民主党と◇共産支持層の大半を固めたうえで、◇全体の4割を占める無党派層の30%余り、候補者の中で最も多くの支持を獲得したことが勝利につながった。

東京15区では、東京都の小池知事が、無所属新人の乙武洋匡氏を支援したことから、小池知事の影響力に関心が集まった。その乙武氏の得票数は、1万9655票で5位に止まった。

小池知事の都政運営の評価は「評価する」が75%、「評価しない」が30%余りだった。「評価する」と答えた人のうち、20%台後半が酒井氏に投票したと答え、次いで無所属の前参議院議員の須藤氏と維新の金澤氏にそれぞれ10%台後半、乙武氏は10%半ばに止まった。

小池知事をめぐっては、今年1月の東京・八王子市長選挙で自公の推薦候補を応援して当選につなげるなど選挙の強さを発揮したが、今月21日の目黒区長選挙では、支援した候補者が現職に敗れており、今回も選挙関係者からは「学歴詐称疑惑が取り沙汰されて以降、小池氏の選挙への影響力は低下している」との見方が聞かれる。都知事選の告示を6月20日に控え、小池知事の対応に注目が集まっている。

▲長崎3区については、自民、公明両党が候補者擁立を見送ったことから、野党の候補者2人の戦いとなった。立憲民主党の前議員で、社民党が推薦した山田勝彦氏が、維新新人の井上翔一朗氏に大差をつけて、当選を果たした。立民と維新の争いでは、2つの選挙とも立民が制した。

 政権の求心力低下、6月解散は困難か

さて、3つの補選の結果を受けて、これからの政治はどのように展開するか、どこがポイントになるかみていきたい。

まず、岸田政権にとって、3つの補欠選挙で全敗したことは大きな打撃だ。特に島根1区は、2度も現地入りし選挙運動最終日も懸命なテコ入れを行ったが、挽回できず、岸田首相の求心力低下を印象づけた。

また、自民党内から岸田内閣の支持率低迷に加えて、補選の敗北で「次の総選挙の顔として、岸田首相はふさわしいのかどうか」疑問視する声が強まることも予想される。

但し、通常国会は連休明けには終盤戦に入り、重要法案を抱えていることなどから、自民党内で補選の敗北をめぐって「岸田降ろし」が表面化する可能性は低いとの見方が多い。

このため、閣僚経験者の1人は「6月末の会期末や秋の総裁選挙をにらんで、水面下でさまざまな動きが出てくるのではないか」との見方をしている。

一方、岸田首相に近い幹部は「岸田総理は打たれ強いので、自ら身をひいたりすることは考えられない。秋の総裁選に向けて政治課題を1つずつこなしながら、国会会期末に大きな政治決断をすることがあるかもしれない」と6月解散もありうるとの見方を示している。

これに対して、別の党幹部は「今のような支持率で、解散をすれば自民党は壊滅的な打撃を被るだろう」とのべ、6月末の解散・総選挙には反対する意向を漏らしている。

今回の補欠選挙の結果と、選挙の勝敗という面から考えると、自民党内では、6月末の解散論には慎重論が一段と強まることが予想される。

もう1つは、連休明けの通常国会では、野党側は、裏金問題を受けての実態解明と政治資金規正法の抜本的な改正を要求する構えだ。これに対して、自民党が先に公表した改革案は、確認書の義務化といった部分的な内容に止まっている。

このため、岸田首相が自民党内の慎重論を説得しながら、踏み込んだ改正案を打ち出し、野党側との協議を経て実現までこぎ着けられるかどうか、岸田首相の指導力が問われることになる。

以上、みてきたように補欠選挙後の政局は、1つは、政治資金規正法の改正をめぐって、岸田首相と野党側との綱引きがどのような展開になり、国民がどちらを支持するのかが焦点になる。

もう1つは、6月の会期末の時点で、岸田首相が秋の総裁選と衆院解散・総選挙の時期をどう判断するか、自民党内と与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。岸田首相にとっては、会期末までに政権の実績を上げ、国民の支持が広がらないと、秋の総裁選での再選も険しい道になるのでないかとみている。(了)

”島根1区 自民苦戦” 衆院補選情勢

岸田政権の政権運営に大きな影響を及ぼす衆議院の3つの補欠選挙は、後半戦に入った。このうち唯一、与野党対決の構図になっている島根1区は、立憲民主党の候補が先行、自民党の候補は苦戦している。

自民党の派閥の裏金問題などで、選挙戦は大きく様変わりしている。自民党は挽回をめざしているが、選挙情勢は厳しく、不戦敗を含めて3戦全敗となる可能性もある。28日に投開票が迫った選挙情勢を探ってみる。

 島根1区自民苦戦、全敗の危機も

衆議院島根1区の補欠選挙は、細田博之・前衆議院議長の死去に伴うものだ。21日の日曜日には、岸田首相と立憲民主党の泉代表がそれぞれ松江市に入るなど双方が激しい選挙戦を繰り広げている。

朝日、読売、共同の主要メデイアが19日から21日にかけて行った情勢調査によると島根1区は、立憲民主党元議員の亀井亜紀子氏がリードし、自民党新人で公明党が推薦する錦織功政氏が追う展開になっている点で共通している。

亀井氏は、立憲民主支持層の大半をまとめたうえで、無党派層の支持を幅広く獲得しており、自民支持層の一部にも食い込んでいる。

これに対し、錦織氏は自民支持層の7割から8割、公明支持層の7割程度の支持に止まっているほか、無党派層で大きな差をつけられている。

島根は竹下元首相、青木幹雄元官房長官を輩出するなど自民王国として知られる。今の選挙制度が導入された1996年以降、島根1区では自民党の細田博之氏が連続して当選を重ねてきた。

その細田氏は最大派閥・安倍派の会長を務めてきたこともあり、今回は裏金問題が選挙戦を直撃する形になり、自民党は守りの選挙に追い込まれている。

自民党の選挙関係者に聞くと「挽回をめざして最後までギリギリの戦いを続けるが、厳しい情勢にあるのは事実だ」と劣勢を認めている。自民党がここで1勝できるか、敗北すると不戦敗を含めて3戦全敗という危機的状況に立たされている。

報道各社の情勢調査では、有権者の3割から4割程度は、投票する候補者を決めていない。また、投票率が大幅に下がったりすると選挙情勢が変わる可能性があるので、特に投票率を注意してみていく必要がある。

 長崎3区は野党対決、立民優位

衆院長崎3区の補欠選挙は、自民党安倍派の議員の辞職に伴って行われる。自民党が候補者擁立を見送り、立憲民主党前議員の山田勝彦氏と、日本維新の会新人の井上翔一郎氏の野党対決の構図になっている。

メデイアの情勢調査では、立民の山田氏が、立憲民主支持層の大半を固めたうえで、無党派層や自民支持層にも支持を広げている。選挙関係者も、山田氏が優位に選挙戦を進めているとの見方をしている。

 東京15区 立民リードも5人混戦

柿沢未途・前法務副大臣の議員辞職に伴う東京15区の補欠選挙には、9人が立候補し大混戦となっている。この選挙区でも自民、公明両党が候補者擁立を見送ったため、野党と無所属、諸派の候補の争いとなっている。

メデイアの情勢調査によると、立憲民主党の酒井菜摘氏が一歩リードし、日本維新の会公認で「教育無償の会」推薦の金沢結衣氏、無所属で国民民主党と地域政党「都民ファーストの会」が推す乙武洋匡氏、無所属で前参議院議員の須藤元気氏、それに諸派の飯山陽氏の合わせて5人が争う構図になっている。

候補者を擁立していない自民、公明の支持層が、どのような投票行動をとるか。また、東京都の小池知事は、無所属の乙武氏擁立を主導したが、21日投票の目黒区長選では都民ファーストの会が推した候補が現職に競り負け、小池知事の影響力に関心が集まっている。

さらに、国政では野党第1党の立憲民主党と、野党第2党の維新の戦いがどのような形で決着がつくのかも注目点だ。投票率がどうなるのかという点も合わせて、不確定要素が幾つもあるので、最終的な勝敗のゆくえはまだ、はっきりしない。

 国会、政権運営、解散戦略に影響

以上見てきたように衆院3補選は、自民党が1勝できるか、それとも不戦敗を含めて3戦全敗となるかどうかが大きな焦点だ。

もう1つは、投票率がどうなるか。選挙結果を左右するだけでなく、今の政治に対する国民の認識や評価を判断できる指標にもなる。裏金問題と政治不信が、どのような形で現れるか注目している。

さらに、今回の選挙結果は、後半国会の焦点である政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明への取り組みに影響を及ぼす見通しだ。支持率低迷が続く岸田政権の政権運営や衆議院の解散戦略にも影響を与えることになりそうだ。

投票日直前の26日には、新たに設置された衆院政治改革特別委員会の初めての委員会が開かれる。各党が裏金問題について、どのような見解の表明を行うかも選挙の行方を左右する。今年前半の政治の大きな節目になる。(了)

 

”3つの壁”越えられるか?岸田首相

長丁場の通常国会も今月10日に折り返し点を過ぎて、後半戦に入った。岸田首相の先のアメリカ訪問と日米首脳会談を受けて、今週は18日と19日に衆参両院の本会議で、それぞれ帰国報告と質疑が行われる。

続いて22日と24日には、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、裏金問題などをテーマに岸田首相と野党側との質疑が交わされる。

一方、16日には衆院島根1区など3つの補欠選挙が告示され、28日の投開票日に向けて各党が激しい選挙戦を繰り広げる見通しだ。

これからの政治はどのような展開になるのか。岸田首相の行く手には、当面3つの壁が立ちはだかっている。裏金問題の実態解明と処分のケジメのつけ方、衆院3補選の乗り切り、それに裏金問題の再発を防ぐ政治資金規正法改正の実現までこぎ着けられるかだ。

こうした3つの壁を乗り越えることができるかどうか?岸田政権の今後の政権運営や衆院解散・総選挙戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

 裏金の実態解明と処分のけじめは?

今の国会の大きな焦点になっている自民党の派閥の政治資金裏金問題について、自民党は4日に、安倍派と二階派の39人の処分を行ったが、報道各社の世論調査にみられるように国民の評判は極めて悪い。

国民の多くは、裏金の還流に関与した85人の議員らのうち、実際の処分が39人に止まったのをはじめ、実態解明が進まなかったこと、さらに立件された岸田派の会長を務めていた岸田首相や、二階派会長の二階元幹事長が処分の対象から外されたことについて厳しい評価をしている。

一方、今回最も重い「離党勧告」の処分を受けた安倍派の座長、塩谷元文科相は、処分を不服として自民党に再審査を請求した。自民党は16日、総務会や総務会幹部の会合で対応を協議した結果、再審査を認めない方針を決定した。この決定は塩谷氏に伝えられ、離党勧告処分が確定した。

自民党は、今回の処分で一定の政治責任を明らかにすることができたとして、今後は、再発防止の取り組みに重点を移したい考えだ。

これに対し、野党側は実態の解明は全く進んでいないとして、安倍派幹部の証人喚問を行うとともに、森元総理らの参考人招致を求める意見もある。

国民の政治不信を払拭するためにも、岸田首相は国会で事実関係の解明にどのように取り組んでいくのか、証人喚問や参考人招致の扱いを含めて方針を明らかにすることが必要だ。これが、第1の壁になっている。

 衆院3補選、島根1区は与野党一騎打ち

続いて、第2の壁が衆議院の3つの補欠選挙のゆくえだ。東京15区、島根1区、長崎3区の3補選は16日に告示され、28日の投開票に向けて激しい選挙戦に入った。

いずれも自民党が議席を持っていた選挙区だが、自民党は東京15区と長崎3区については公職選挙法違反事件や裏金事件をめぐる逆風が強く、公認候補の擁立を見送った。公認候補を擁立するのは島根1区だけとなった。

◆島根1区の補選は、自民党安倍派の会長も務めた細田博之・前衆院議長の死去に伴うものだ。自民党は元中国財務局長の新人候補を擁立し、公明党が推薦する。

これに対し、立憲民主党は、元衆議院議員の女性候補を擁立し、国民民主党の地方組織と社民党が支援、共産党の地方組織が自主的に支援する。与野党が対決する唯一の選挙になる。

島根は竹下元首相、青木元官房長官などの実力者を輩出してきた全国屈指の保守王国だが、今回は政治とカネの逆風に見舞われている。与野党の選挙関係者に聞くと「現状では、野党候補に勢いがある」との見方が多い。最後までギリギリの戦いが続く見通しだ。

◆東京15区は9人が立候補の名乗りを上げ、大混戦となっている。このうち、地域政党である「都民ファーストの会」の小池東京都知事が主導する形で、作家で無所属の新人が立候補を表明した。国民民主党と都民ファーストの会が推薦する。

立憲民主党は前の江東区議の女性候補を擁立し、共産党も支援する。日本維新の会は元会社員の女性候補、参政党、諸派の新人が立候補する。さらに無所属の参議院議員と、無所属の元衆議院議員も立候補を表明している。

◆長崎3区は、裏金問題で多額の還流を受けていた自民党議員が辞職したのに伴うものだ。自民党が候補者の擁立を見送ったたため、立憲民主党の現職(比例代表)と、日本維新の会の新人の野党同士の一騎打ちになる見通しだ。

3つの補欠選挙は、政治資金規正法違反事件後、初めての国政選挙になる。自民党は2つの選挙区で不戦敗となっており、島根1区を失うと3戦全敗となる可能性もある。島根1区の勝敗がどうなるか、岸田政権の行方にも大きな影響を与えることになる。

 政治資金規正法の改正、実現できるか

後半国会は、裏金事件を受けて政治資金規正法の改正が、最大の焦点になる見通しだ。岸田政権が法案の成立までこぎ着けられるかどうか、これが3つ目の壁になる。

公明党は、クリーンな党のイメージを守りたいとして自民党とは一線を画して、再発防止策の独自案をまとめている。立憲民主党や日本維新の会など野党各党もそれぞれ党の改革案をとりまとめており、自民党に攻勢をかける構えだ。

これに対して、自民党は「政治刷新本部」の作業部会で検討を続けているが、とりまとめには、なお時間がかかる見通しだ。公明党が求めている「連座制」導入などによる議員の罰則強化についても、自民党内には容認論がある一方で、慎重論も残っており、調整がついていない。

政治資金の扱いとなると、野党側が「政治家個人のパーテイー規制の強化」を求めているのに対して、自民党は反対の立場だ。また、政党が党役員に渡す「政策活動費」の廃止や、使途の公開の義務づけについても慎重論が根強い。

自民党としては、公明党との間で与党案をとりまとめたうえで、野党側との協議に入りたい考えだ。

これに対して、野党側は「自民党は時間切れで、政治資金規正法の改正を一部に止めたいねらいがあるのではないか」とみて、与党の改正案を早期に提出するよう求めていく方針だ。

このため、衆参両院に設置された「政治改革特別委員会」を舞台にいつから、政治改革の内容の協議に入るかも焦点になる。また、岸田首相が自民党の改革案のとリまとめに当たって指導力を発揮できるかも問われることになりそうだ。

岸田政権はここまでみてきた3つの壁を乗り越えることができれば、政権の浮揚につなげることができるが、逆に失敗すると政権の求心力を一気に失うことも予想される。特に衆院補欠選挙の結果が明らかになる4月末以降から、6月下旬の国会会期末にかけて岸田首相にとっては、息の抜けない局面が続くことになりそうだ。(了)                               ★追記(16日22時)衆院3補選が告示され、立候補者が確定したのを受けて16日22時の時点で、表現を一部、修正した。