裏金処分”世論は厳しい評価”

自民党は派閥の裏金事件をめぐって4日、関係議員ら39人の処分を決めたが、世論の評価は厳しく、岸田内閣と自民党の支持率はいずれも政権復帰以降、最も低い水準にまで下落していることが明らかになった。

裏金問題への対応は、岸田政権の政権運営や衆院解散戦略にも大きな影響を及ぼす。カギを握る世論はどのような受け止め方をしているのか、今後の政治はどのように展開するのか、NHKの4月世論調査のデータを基に分析してみたい。

 裏金処分、世論は妥当性に強い疑問

まず、8日にまとまったNHK世論調査(4月5日~7日実施)のデータからみていきたい。◆焦点の裏金問題について、自民党が関係議員85人のうち、不記載額が500万円以上の39人の処分を決めたことについて、評価を尋ねている。

◇「納得できる」は9%、「どちらかといえば納得できる」の20%を合わせて29%。これに対して◇「どちらかと言えば納得できない」22%、「納得できない」は41%で、合わせて63%と大幅に上回っている。

◆次に、今回の処分では、安倍派幹部2人について、8段階のうち最も重い「除名」に次ぐ「離党勧告」の処分にしたことの評価を尋ねている。

◇軽すぎる34%、◇妥当だ49%、◇重すぎる6%となった。処分の軽重の評価を聞きたかったのだろうが、安倍派の主要幹部6人は「離党勧告」「党員資格停止」「党の役職停止」の3段階に分かれたので、回答する側には複雑で難しい質問のように思われる。

◆検察から立件された二階派の二階・元幹事長は、次の衆議院選挙に立候補しない考えを表明し、自民党は処分の対象にしなかった。この扱いについて◇「妥当だ」は21%に対し、◇「妥当ではない」は68%と大きく上回った。

◆同じく派閥の事務局長が立件された岸田派について、会長を務めていた岸田首相を処分の対象から外したことについては◇「妥当だ」が25%に対し、「妥当ではない」が61%と、こちらも大きく上回った。

このように今回の処分は、対象となる関係議員らを39人に絞り込んだことや、党の総裁、元幹事長ら政権中枢を処分の対象から外したことについて、国民は正当な理由がないのではないかと強い疑念を持っていることが読み取れる。

また、今回の処分に当たっては、最大派閥の安倍派で長年、違法な還流行為が組織的に行われながら、いつから始まったのか、取り止めの方針がいったん決まったものの継続となった経緯すら明らかにならなかった。

こうした実態解明や処分の基準がはっきりしないまま、処分を行った自民党執行部に対して、国民の強い不満や不信感があることもうかがえる。

岸田首相や党執行部はこの処分で区切りをつけ、再発防止に重点を移すことをねらっていたとみられるが、世論の反応からすると、政権の思惑は外れたと判断してよさそうだ。

 内閣・自民党支持率ともに最低水準

さて、裏金処分に対する世論の厳しい評価は、岸田内閣の支持率にも大きな影響を及ぼしている。4月の内閣支持率は23%で、先月の調査より2ポイント下がり、岸田政権発足以降、最も低かった去年12月と同じ水準になった。

不支持率は、先月より1ポイント上がって58%だった。こちらも岸田政権発足以降、去年12月、今年1月と同じ率で最も高くなった。

これで岸田内閣の支持率は、政権運営の危険ラインとされる30%を6か月連続で割り込んだ。支持率を不支持率が上回る逆転現象は10か月連続となる。支持率低迷が常態化しつつあり、政権を浮揚させるのは容易ではない。

一方、自民党の政党支持率も変化がみられる。自民党の支持率は、内閣支持率が下がっても30%台後半から40%台前半を維持することが多かった。ところが、裏金問題が表面化した去年12月以降、じりじりと下がり続けている。

4月の自民党支持率は28.4%となった。党の支持率が30%を下回ったのは、2012年の政権復帰以降、岸田政権だけで、去年12月の29.5%、今年3月の28.6%に次いで3回目になる。これで、内閣支持率、自民党支持率ともに2012年自民党の政権復帰以降、最低の水準となった。

野党側は第1党の立憲民主党が6.5%、第2党の日本維新の会が4.7%、共産党が2.4%、国民民主党1.5%などと続き、自民党とは大きな開きがある。自民党内には、野党の支持率が上がらないことから、これを安心材料とする見方もある。

但し、最近の特徴は、次の衆議院比例代表の投票予定政党では、野党側の伸びが大きいことだ。朝日新聞の3月の世論調査によると自民党23%に対し、立民16%、維新11%などと続く。政党支持率では自民党との差が大きいが、投票予定党では接近している。

自民党の選挙関係者に聞くと「野党はバラバラだと油断していると、無党派層の動向によって、選挙の風向きはあっという間に変わってしまう」と警戒する。

 首相、政権浮揚めざすも険しい道

岸田首相は8日、日米首脳会談に臨むため、アメリカに向け出発した。安倍元首相以来9年ぶりの国賓待遇で、10日に日米首脳会談、11日に議会で演説する。岸田首相としては、日米防衛協力や経済分野の連携強化をアピールし、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

そのうえで、今月28日に投開票が行われる3つの衆院補欠選挙を何とか乗り越え、後半国会で政治資金規正法の改正を実現させたい考えだ。そして、6月に定額減税を実施し、春闘での大幅賃上げと合わせて実績を訴え、9月の自民党総裁選前に解散・総選挙に打って出る戦略だとみられている。

このうち、日米首脳会談について、NHKの世論調査では「日米関係の強化につながるか」を尋ねている。回答は「つながる」が45%、「つながらない」が40%と見方が、二分されている。

また、岸田首相は新年度予算を成立させたうえで、「今年中に、物価上昇を上回る所得を必ず実現させる」と表明している。世論調査では「期待する」が29%に対し、「期待しない」が64%と冷めた見方が多い。

さらに3つの衆院補欠選挙のうち、自民党は東京15区と長崎3区については、公認候補の擁立を見送る方針を決めた。島根1区だけの戦いとなるが、保守王国でも裏金問題などが響いて、苦戦が伝えられている。

このようにみると、岸田政権にとって今後の政権運営は、険しい道のりが予想される。後半国会では、野党側が裏金問題の実態解明と再発防止策をめぐって、攻勢を強める構えだ。

これに対して、岸田首相は、政治改革をめぐって意見の違いがみられる党内をまとめたうえで、野党側との間で、再発防止の法整備の実現までこぎ着けられるかどうかが問われる。

一方、衆議院の解散・総選挙について、政界の一部には、今の国会の会期末に岸田首相が決断するとの見方もある。しかし、そのためには、支持率が大幅に改善しないと岸田首相が解散に打って出るのは難しいとの見方も根強い。

国会は、岸田首相が訪米から帰国後、裏金問題や重要法案の扱いをめぐる与野党の攻防が再開する。同時に水面下では、衆院解散・総選挙と秋の自民党総裁選挙をにらみながら、自民党内と与野党の間の駆け引きが一段と激しくなる見通しだ。

その際、世論の風が、岸田政権と与野党のどちらに追い風となって吹くことになるのか大きなポイントになりそうだ。(了)

 

 

 

 

 

“実態解明なき処分、遠い信頼回復”自民裏金問題

自民党は4日、派閥の政治資金問題で党紀委員会を開き、安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定した。安倍派の座長を務めていた塩谷・元文科相と、参議院安倍派トップの世耕・前参院幹事長を8段階ある処分のうち2番目に重い「離党勧告」とする処分を決定した。

また、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長と、西村・前経産相を3番目に重い「党員資格停止」1年、高木・前国対委員長を「党員資格停止」半年とした。

さらに、派閥からの資金の不記載額が1000万円以上は「党の役職停止」、1000万円未満は「戒告」とし、500万円未満の議員は幹事長の厳重注意に止めた。

こうした処分をどのようにみたらいいのだろうか。私個人の見方を先に言わせてもらうと「実態解明なき処分」で、国民の信頼回復には遠く及ばないとの評価をしている。

その原因は、岸田首相をはじめとする党執行部が事件当初から、事実関係を明らかしようとする姿勢が乏しかったことが影響しているように思う。

岸田政権はこの処分で、実態の把握と政治責任に一定の区切りをつけられたとして、国会審議では再発防止に重点を移す構えだ。しかし、思惑通りに運ぶようには思われない。なぜ、こうした見方をするのか、以下、具体的に説明したい。

 安倍派幹部の処分に差、二階氏は除外

さっそく、今回の処分の内容からみておきたい。処分の中身や問題点については、既にメデイアが詳しく取り上げているので、手短に整理しておきたい。

まず、◇今回、派閥からの資金を受けていた衆参の議員らは85人に及ぶが、処分の対象者は39人に絞られた。これは、不記載の額が5年間で、500万円以上という線引きをしたためだが、この線引き自体が国民感覚とズレがある。

◇また、最も重い処分を受けたのは、安倍派座長の塩谷氏と、安倍派幹部で前参院幹事長の世耕氏の2人だ。塩谷氏は派閥の形式的な責任者で、衆参両院で1人ずつ責任を問われる形になった。

安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部5人の処分は、世耕氏が8段階のうち、2番目に重い「離党勧告」。次いで、3番目に重い「党員資格停止」が西村・前経産相の1年、高木・前国対委員長の半年。さらに、6番目の「党の役職停止」が松野・前官房長官と萩生田・前政調会長で、いずれも1年間と処分の扱いが分かれた。

自民党内で関心を集めているのが、萩生田氏の扱いだ。派閥の事務総長は経験していないものの、安倍政権で数多くの要職を歴任し、安倍元首相亡き後も、森元首相や岸田首相の厚遇を受け、比較的軽い処分になったのではないかとの見方が党内に広がっている。

◇派閥の事務局長が立件されたのは、安倍派と二階派、岸田派だが、二階派会長の二階・元幹事長は先に次の衆院選挙に立候補しない考えを表明したことを踏まえて、処分の対象にならなかった。

◇岸田派会長を務めた岸田首相も同じように対象から外れたが、党内からも総裁としての責任は免れないのではないかとの意見が聞かれる。

以上のような処分内容が決まったが、安倍派幹部の処分を1つをとってみても、裏金の還流にどのように関わったか、不正行為の実態がわからないまま、派閥幹部の結果責任を問う形で処分が行われているのが実状だ。

幹部の結果責任を問うのであれば、自民党総裁としての責任も生じると思うが、岸田首相の責任は不問に付しており、これでは、国民の納得は得られないのではないか。

 実態の調査、処分の検討体制にも問題

それでは、なぜ、実態の解明ができないまま、処分を決定するという事態に陥ったのだろうか。

この原因は、これまで何度も取り上げたが、裏金事件が起きた後、岸田首相をはじめとする自民党執行部が、事実関係の解明に真正面から取り組む姿勢に欠けていたことが大きいのではないか。自民党が党所属議員のアンケート調査や、聴き取りを始めたのは2月に入ってからで、その内容自体も極めて大雑把な内容だった。

岸田首相は、疑惑を持たれた議員はそれぞれの議員が自ら説明すべきだという議員個人の判断に委ねた。政治倫理審査会でも出席した派閥幹部は「知らぬ存ぜず」を繰り返し、派閥からの資金還流はいつ頃から始まり、派閥幹部がどのように関与していたのかといった事実関係の解明は全く進まなかった。

一方、自民党としての処分については、今回は岸田総裁自らが、茂木幹事長や麻生副総裁、森山総務会長らと個別に協議をしながら、処分内容を固めた。そのうえで、最後の決定手続きを党紀委員会に委ねる形になった。

自民党関係者に聞くと「議員を処分するような問題は、総裁自らが前面に立って調整するのではなく、党内の信頼を集める議員を集めて、どのような基準で処分を行うのが適切なのかを議論し、決定していく取り組みが必要ではないかったか」と指摘する。

今回、こうした処分の判断基準づくりのプロセスを経ていないことが、自民党内や国民の間でも、処分内容が説得力を持たない原因になっているのではないかとみている。

 国会で実態解明と政治改革の両立を

それでは、これからの展開はどうなるか。岸田首相は「実態の把握と今回の処分で、派閥の政治資金問題については、一定の区切りをつけることができた」として、9日からのアメリカ訪問を終えた後、国会での再発防止を含む政治改革の実現に重点を移したい考えだ。

これに対して、野党側は「今回の処分では、岸田派会長を務めていた岸田首相自身が処分されていないなど全く納得できない内容だ」と強く反発している。また、安倍派の幹部などの証人喚問を実施するよう迫る構えだ。

国民からすると、政治資金の不記載という不正行為が長期にわたって行われてきた問題の実態がわからないまま、放置することは許されない。国会として、けじめをつけるためにも実態の解明への取り組みを続ける必要がある。

そのためには、証人喚問の実施に向けて与野党は協議すべきではないかと考える。安倍派幹部の証人喚問のほか、事実関係を解明するためには、安倍派の会計を担当していた事務局長や、派閥会長の経験者である森元首相の参考人招致も必要ではないか。

そのうえで、裏金問題などの再発防止と政治改革についても協議に入り、今の国会で、政治資金規正法の改正を実現させてもらいたい。

政治資金規正法改正などの内容については、与党の公明党と、野党各党はそれぞれ独自案をとりまとめている。自民党は早急に具体案をとりまとめ、提示することが求められている。

自民党の処分決定でも裏金問題の事実関係の解明ができなかった以上、今度は国会に舞台を移して、実態解明と政治改革の両方を実現するよう強く注文しておきたい。(了)

“処分でケジメとなるか?”自民裏金問題

新年度予算が28日の参議院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決され成立した。これによって例年であれば、通常国会前半戦の山を越えたとなるが、今年は全く様相が異なる。自民党派閥の政治資金の裏金問題が残されているからだ。

予算成立を受けて、岸田首相は28日夜、記者会見し「現在、自民党執行部で追加の聴き取りをおこなっており、来週中にも処分を行えるようプロセスを進めていきたい」とのべ、4月第1週に党の処分を行う考えを示した。

岸田首相は、この処分で、裏金問題の実態解明と関係議員の政治責任にケジメをつけたとして、今後は再発防止に向けて政治資金規正法の改正などの与野党協議に重点を移したい考えだ。

しかし、この処分でケジメがついたとなるのかどうか?カギを握る世論は、裏金関係議員と、党総裁の岸田首相の対応について厳しい評価をしており、岸田首相にとっては、引き続き厳しい政権運営を迫られることになる見通しだ。

 安倍派幹部聴取、処分の重さと範囲は

自民党の派閥の政治資金裏金問題をめぐって、岸田首相は事実関係の把握に努める必要があるとして、26日と27日の両日、茂木幹事長、森山総務会長とともに安倍派の塩谷・元文科相、下村・元政調会長、西村・前経産相、世耕・前参院幹事長の4人の幹部から個別に聴取を行った。

岸田首相は、安倍派幹部に続いて、そのほかの関係者からも追加の聴き取り調査を続けたいとしている。そのうえで、岸田首相は、4月9日から予定しているアメリカ訪問前の4月第1週に処分を行う方針だ。

この処分をめぐっては、25日、二階派会長の二階・元幹事長が「次の衆院選挙には立候補しない」考えを自ら表明したことから、自民党内では、安倍派幹部についても8段階中4番目に重い「選挙における非公認」以上のという重い処分を行うべきだといった意見が強まっている。

これに対して、野党側は「国会議員が、政治資金規正法違反の行為を組織的、継続的に行ってきたことは極めて悪質だ」として、最低でも離党勧告、議員辞職が必要だなどと参議院の予算審議などの場で要求してきた。

また、野党側は、裏金事件は、安倍派だけでなく、二階派、さらに岸田首相が会長を務めていた岸田派でも会計責任者が立件されたことから、二階元幹事長や岸田首相自らも処分を受けるべきだと追及している。

このように、自民党の処分をめぐっては、党の規則で8つの段階に分かれている「処分の程度」と「処分の対象範囲」がどこまで及ぶかが焦点になっている。

自民党内では、安倍派で資金還流を協議した塩谷氏ら先の4氏を最も重い処分にするほか、派閥の中枢を担った高木・前国会対策委員長や、松野・前官房長官、萩生田・前政調会長に対しても、4氏に次ぐ重い処分にすべきだという意見が出され、調整が進められている。

 森元総理の聴取や国会招致は?

こうした中で、28日に行われた参議院予算委員会の理事懇談会で、自民党側から「党が行っている追加の聴取の対象として、安倍派前身の派閥の会長を務めた森元総理も含まれる可能性があること」が説明されたとされる。

野党側は、この問題を参議院予算委員会の締めくくりの質疑で取り上げたのに対し、岸田首相は「追加の対象に森元総理も含まれるが、対象は決まっていない」とのべ、聴取を行うかどうかについては言及を避けた。

また、安倍派が裏金の還流問題をめぐって、派閥幹部が協議した会合がこれまで明らかになっている2回だけでなく、別の会合も開かれていたのではないかといった指摘が野党側から出されるなど事実関係が依然としてはっきりしないことも浮き彫りになった。

こうしたことから、自民党の処分決定までに森元総理の聴取が行われるのかどうかが注目される。また、野党側からは、森元首相を参考人として国会に招致すべきだという要求が出されることが予想され、与野党の折衝が今後も続く見通しだ。

 世論、裏金議員と首相に厳しい評価

さて、裏金問題に関与した議員に対する自民党の処分が出された際には、こうした処分で、実態解明や政治責任にけじめがついたと判断するのかどうかが、焦点になりそうだ。

与党幹部の1人は「いつまでも実態解明と言っても、国会は捜査権がないので限界がある。これからは再発防止の議論に重点を移すべきだ」と政治改革論議への転換の必要性を強調する。

これに対して、野党側は、証人喚問など実態解明を進めるべきだという意見と、再発防止を含む政治改革議論に入らざるを得ないとの意見もあり、調整が行われる見通しだ。

最終的には、国民がどのような判断を示すかがカギを握る。3月の世論調査をみるとNHKの調査(3月8日から10日)では◇政治倫理審査会で行われた派閥幹部の説明については「説明責任が果たされていない」という評価が83%に達した。

朝日新聞の調査(3月16日、17日)では◇裏金問題に関係した議員は、受け取ったお金について「政治活動に使った」という理由で税金を納めていないことは「納得できない」が91%。◇岸田首相のこれまでの対応は「評価しない」が81%を占めた。

読売新聞の調査(3月22日から24日)でも◇政治倫理審査会での派閥幹部の説明に「納得できない」が81%。◇安倍派議員に対して「厳しい処分をすべきだ」が83%にも上った。

以上のデータから、国民の多くは、裏金問題に関与した議員に対する厳しい処分を求める一方、岸田首相の対応についても強い不満を抱いていることが読み取れる。

安倍派幹部を中心に「選挙における非公認」などの処分を行ったとしても国民の多くの納得を得るのは難しいのではないかと推察される。コロナ感染拡大の時期に夜間、銀座で飲食した議員3人が「離党勧告」を受けたのに比べて「甘すぎる」といった反応も予想される。

実態解明へ証人喚問、やはり必要では

今回の裏金問題は、法律をつくる立場の国会議員が、政治資金規正法に違反して、虚偽の記載を組織的、継続的に長期にわたって行われた前代未聞の事件だ。

しかも、政治倫理審査会で派閥幹部は、会計処理や運用には全く関与していないと、会計責任者に責任を押しつけ、自ら説明責任や政治責任を取ろうという姿勢を全く示さない無責任さに国民は怒っているのである。

そして、事実関係の解明ができないのは、議員個人の判断に委ね、政党としての本格的な調査が遅れたことが影響している。岸田首相や自民党執行部の責任も極めて大きいと国民は受け止めているので、先の世論調査のような厳しい評価になっている。

国会議員や政党の対応も期待できないとなると、残るは国会が国政調査権を使って、証人喚問するしかないのではないか。証人喚問を行っても現在の調査能力からすると、事実関係は明らかにできないかもしれない。

しかし、国会議員が関係する事件の真相を解明するのは、国会の責務だ。やはり、証人喚問を行い、事実関係の解明に最後まで努力する行動を示してこそ、国民の政治不信をなくしていくことにつながるのではないか。

再発防止の法整備に時間がないとの反論もあるかもしれないが、国会の会期末は6月23日。会期が足りなければ、会期延長すれば対応は可能だ。岸田首相と自民党が、処分と事実関係の解明にどのような方針を打ち出すか、しっかり見極めたい。(了)

 

裏金問題 政倫審後の展開は?

自民党の派閥の裏金問題を受けて衆院政治倫理審査会が18日開かれ、安倍派幹部の下村・元政調会長が出席した。下村氏は、焦点の派閥からのキックバックを継続することになった経緯について「本当に知らない」などの説明を繰り返し、新たな内容はなかった。

これで、各派閥の幹部など10人が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行ったが、政治資金規正法違反の裏金問題に派閥幹部がどの程度関与していたのか、どのような経費に使われていたのかといった実態の解明にはほど遠い結果に終わった。

野党側は、証人喚問に切り替えて実態解明を続けるよう自民党に迫る方針だ。これに対して、岸田首相は自民党として関係議員の処分を急ぎ、局面の転換をめざすものとみられる。

政治倫理審査会の審理が一巡した後、裏金問題は今後どのように展開することになるのか、探ってみたい。

 実態解明進まず、取り組み姿勢も疑問

まず、これまでの政治倫理審査会の取り組みについて、整理しておきたい。最大派閥・安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相、事務総長経験者の西村・前経産相など幹部6人は、いずれも派閥の政治資金パーテイー収入の会計や運用には「関与していない」「知らされていなかった」などと関与を否定した。

また、派閥会長に就任した安倍元首相が一昨年4月、派閥からのキックバックを取り止める方針を決めたものの、安倍氏死去後、8月の派閥幹部の会合を経て、キックバックが継続されることになった。この経緯についても、各幹部からは「誰がどのような発言をしたのか記憶にない」などあいまいな説明が続き、事実関係は明らかにならなかった。

さらに、参院選挙の年には、改選議員は派閥に収めるノルマが免除され、全額キックバックされる仕組みが続いてきた点についても、世耕・前参院幹事長は「事件が報道されて初めて知った」と説明し、与野党の議員を唖然とさせた。

このように裏金還流がどのような経緯で決定され、運用されてきたのかという核心部分については、今回の政倫審では全く明らかにならなかった。

派閥の会長は強力な権限を持っているのは事実だが、派閥の政治資金集めの意思決定や運用は、すべて会長と事務局長で決まり、派閥幹部は完全に除外されることがありうるのか、派閥取材を行ってきた者として大きな疑問が残ったままだ。

また、仮に派閥幹部がその時点で知らなかったことがあったとしても、個人として派閥の先輩や、事務担当の職員に尋ねるなどの努力があってもいいと思われる。しかし、そうした事実関係を究明しようとする姿勢・行動は質疑からうかがうことはできなかった。

 証人喚問要求、処分のゆくえは

さて、問題はこれから裏金問題は、どのように展開することになるのかという点だ。立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党の国会対策委員長は19日に会談し、政倫審では実態解明につながらなかったとして、安倍派幹部6人について、予算委員会で証人喚問を行うよう要求することで一致した。

証人喚問の対象になった6人は、塩谷・元文科相、下村・元政調会長、松野・前官房長官、西村・前経産相、高木・前国対委員長の安倍派幹部と、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴され、自民党を除名処分となった池田佳隆衆院議員だ。

参議院側は、既に立憲民主党が15日に政倫審に出席した世耕・前参院幹事長ら安倍派の3人について、証人喚問を行うよう自民党に求めている。

また、野党側は、裏金問題に関与した83人の現職のうち、衆参両院の政倫審に出席していない残りの議員は出席して説明するようを求めていく方針だ。

このように野党4党は当面、安倍派に的を絞る形で証人喚問を要求して、与党側に攻勢をかける考えだ。

これに対して、自民党の浜田国会対策委員長は「証人喚問となると、かなりハードルが高い」として、慎重に対応する考えだ。自民党としては、新年度予算案の成立を最優先に対応していくほか、下村氏の政倫審出席を区切りとして、証人喚問には応じない構えだ。

代わって自民党内では、裏金問題の早期の幕引きを図るためにも関係議員の処分を急ぐよう求める声が強まっている。

岸田首相も先の党大会で、茂木幹事長に関係議員の処分を行うための取り組みを進めるよう指示したことを明らかにした。岸田首相としては、来月上旬にも処分を行い、局面の転換を図りたい考えだ。

但し、この処分問題も、関係議員が82人という多数に上ることに加えて、何を基準に処分を行うのか、難しい問題を抱えている。

党の処分には、除名や離党勧告、党員資格停止、選挙における非公認など8つの段階があるが、どの処分を選択するか問題になる。

また、政治資金規正法の不記載の額や、役職、説明責任の果たし方などを基に判断するとしているが、仮に安倍派の事務総長経験者という役職で処分をすると、事務総長を経験していない萩生田・前政調会長が幹部の枠から外れる。

一方で、萩生田氏は不記載額では2700万円余りと上位にいることから、その責任の重さや線引き、バランスをどう判断するかという難しさもある。党内には、処分を早期に実施できるのか疑問視する声も聞かれ、紆余曲折がありそうだ。

 実態解明、処分に指導力発揮できるか

それでは、国民の受け止め方や評価は、どうか。最新の朝日新聞の世論調査(2月17、18日実施)をみると裏金問題について、△派閥幹部の説明は「十分でない」が90%にも上る。△岸田首相の対応は「評価する」が13%、「評価しない」が81%にも達している。△内閣支持率は22%で低迷、不支持率は67%を記録。

このように国民の多くは、派閥幹部の説明や、岸田首相の対応に強い不満や、疑念を抱いていることが読み取れる。国民の政治不信を払拭するためにも実態解明をさらに努める必要があり、国政調査権に基づく証人喚問も検討する必要があると考える。

また、事実関係が明確にならないと自民党は、党の処分を行うにしても判断材料が整わないことになる。リクルート事件の際には中曽根元総理、東京佐川急便事件の際には竹下元総理が証人喚問に応じた先例もある。

こうした実態解明と、政治責任を明確にする処分、それに再発防止策を盛り込んだ政治改革の法整備を実現することが、この国会の大きな責務だ。

ところが、岸田首相と自民党執行部の対応は、実態把握の調査1つをとっても対応が鈍すぎる。政治改革の中身も、与党の公明党と野党各党は既にそれぞれの改革案をとりまとめている。遅れているのが自民党で、早急なとりまとめが必要だ。

そのうえで、岸田首相は、国民の関心が強い実態解明と処分、それに政治改革の法整備について、具体的な時期を含めて政権の基本方針を明らかにすべきだ。

裏金問題をいつまでもダラダラと対応を引き延ばすのではなく、短期集中で方針を決定し、与野党で協議を進めながら、実行の道筋をつけるべきだ。

政治改革以外でも、日銀が19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除し、安倍政権時代からの大規模な金融緩和策の変更を打ち出した。賃金引き上げと日本経済の活性化、子ども子育て政策の進め方など内外の課題は山積している。

岸田政権と与野党は、懸案の政治改革に早急にメドをつけた上で、与野党がそれぞれ重視する政策を打ち出しながら、競い合う政治を一刻も早く取り戻してもらいたい。(了)

裏金問題と”機能不全政局”

長丁場の通常国会は、新年度予算案が異例の土曜審議を経て衆議院を通過し、年度内に成立することになったが、焦点の裏金問題の実態解明はまったく進んでいない。

こうした中で、NHK世論調査が11日にまとまった。先の衆院政治倫理審査会での二階派と安倍派幹部の説明には、8割の人が「説明責任を果たしていない」と厳しい見方を示している。

また、岸田内閣の支持率は低迷が続いていることに加えて、自民党の支持率も再び30%ラインを割り込んだ。一方、野党各党の支持率も低い水準のままで、無党派が4割を超えて圧倒的多数を占めている。

今の政治状況は、裏金問題の先行きもはっきりした見通しがつかず、端的に言えば「機能不全政局、進行中」と言えそうだ。最新の世論の動向とこれからの政治のポイントを考えてみたい。

 自民支持率も低下、再び30%割れ

さっそくNHK世論調査(3月8日から10日実施)の内容から見ていきたい。岸田内閣の支持率は先月と同じ24%。不支持率は57%で、先月から1ポイント下がったものの、6割近い高い水準だ。

これで、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」は去年7月以来、9か月連続だ。これまで最も低かったのは去年12月の23%なので、横ばいというよりも「どん底状態」が続いているというのが実態に近い。

今回の大きな特徴は、自民党の政党支持率が28.6%と、30%ラインを再び割り込んだことだ。岸田内閣の支持率が低下しても、自民党の支持率は40%から30%台後半の高い水準を保ってきたが、去年12月の調査で29.6%と30%を割り込んだ。

自民党の支持率が20%台に落ち込んだのは、2012年政権復帰以来、岸田内閣が初めてで、今回で2回目となる。

一方、野党各党は立憲民主党が6%台、日本維新の会が3%台などと低い水準に止まったままで、反自民の受け皿になっていない。存在感を増しているのが無党派で42.4%、自民党を1.5倍上回る”第1党状態”が続いている。

自民党の支持率が落ち込んだ理由だが、やはり、裏金問題が大きく影響している。今月の調査で、衆議院の政治倫理審査会で安倍派と二階派の幹部議員が行った説明についての評価を尋ねているが、「説明責任が果たされていない」との答えが83%に達した。

また、裏金の関係議員に対して、自民党が処分を行うべきかどうかの質問は、「行う必要はない」が12%に対し「行うべきだ」は75%に上った。

 政倫審巡り混乱、政権も求心力低下

次に、今回の裏金問題は、国会や政権などにどのような影響を及ぼしているかを具体的にみておきたい。

裏金問題に関与した関係議員から事情を聞く衆院政治倫理審査会をめぐっては、岸田首相が現職首相として初めて出席することを表明したことで、渋る派閥幹部を出席させる効果はあった。

しかし、今月1日に行われた政倫審で、安倍派幹部4人はいずれも不記載には「関与していない」「知らない」の連発で、新たな核心に触れる内容はなかった。

逆に政倫審公開の是非や、出席者を誰にするかをめぐって、自民党内の調整不足が露呈し、与野党でほぼ合意していた日程が先送りとなり混乱を招いた。国会での事実の解明は、まったくと言っていいほど進んでいない。

岸田首相は、新年度予算案の衆院通過が最優先で、深夜の本会議や異例の土曜日審議となった。加えて、予算案採決の日程をめぐって、首相官邸と自民党執行部の足並みが乱れる場面もみられた。

自民党内では「岸田首相が党幹部に指示を出したり、説得したりする場面がみられない」と政権運営を問題視する指摘が聞かれた。一方、「党務を預かる茂木幹事長が党内調整に動かない」と批判する声も聞かれるなど首相官邸と自民党執行部との連携、調整がうまく進んでいないことが浮き彫りになった。

こうした政権内部の足並みの乱れが影響して、国会での裏金問題の実態解明は進んでいない。元々、自民党内のアンケートや、聞き取り調査の実施も遅く、政権の及び腰が混乱の原因だと見方が根強い。

参議院では14日に政治倫理審査会を開き、安倍派幹部の世耕・前参院幹事長など3人の弁明と質疑が行われることが決まった。

一方、衆議院では、安倍派事務総長経験者の下村元政務調査会長が説明責任を果たしたいとして、審査を申し出た。与野党は、審査会の日程などを協議することにしている。

「政治改革国会」と銘打って裏金問題の集中審議で幕を開けた国会は、既に会期の3分の1近くが経過したが、実態解明も手つかず状態という惨憺たる状況だ。

もう一方の政権を取り巻く状況も、岸田内閣の支持率は発足以来、最低の水準だ。政権の求心力も大幅に低下して、機能不全とも言える状況に陥っている。

 機能不全政局から脱却の覚悟あるか

それでは、今の機能不全の政治状況を変えるためには、どこがポイントになるのだろうか。今回の裏金問題は、自民党の派閥による政治資金の不記載に原因があることから、自民党政権自らが自浄能力を発揮する必要がある。

岸田首相は、裏金事件が明らかになった去年12月の記者会見で「信頼回復のために火の玉になって自民党の先頭に立って取り組んでいく」と決意を表明した。そして、これまでの国会答弁では裏金問題の実態の把握と、関係議員の政治責任の明確化、それに再発防止策と法整備の3点をセットで実行していくと繰り返し表明してきた。

ところが、第1段階の実態把握ですら、思うように進んでいない。政治責任の明確化、具体的には党として関係議員をどのように処分するのか、その方針も決まっていない。これでは、国民の疑念や不信は拭えないのは明らかだ。

党内には、当初、17日の自民党大会までに処分を決定すべきだという意見もあったが、先送りとなる見通しだ。党内から強い抵抗があると予想されるからだ。

しかし、岸田首相は党総裁として、裏金の実態解明から政治改革までの3点セットをどのような手順・段取りで行うのか、早急に明らかにする必要がある。

裏金問題にけじめをつけないと、岸田内閣が支持率低迷から脱却するのは困難だ。政界の一部で取りざたされる4月解散、6月解散などはおよそ想定できないことを認識すべきだ。

この国会は、裏金問題だけでなく、賃金引き上げと日本経済再生への道筋、子育て支援制度の是非、さらにはイギリスやイタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認めるかどうかなど多くの重要課題を抱えている。

ところが、裏金問題への政権の対応の遅れが、こうした重要課題の議論を進めるうえで、大きな妨げになっている。

今のような遅々としたペースで裏金問題への対応が続けば、主な政治改革案づくりまでたどり着けず、これまで同様に先送りで幕引きとなる公算は大きい。岸田首相が問われるのは、機能不全政局から脱却する意思と覚悟があるかどうかだ。(了)

 

 

予算案 衆院通過”裏金解明は進まず”

異例ずくめの展開が続く国会は、新年度予算案の審議が土曜日の2日も続き、夕方の衆議院本会議で、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。憲法の規定で、予算案は年度内に成立する。

もう1つの焦点になっている自民党の派閥の裏金問題については1日、衆議院政治倫理審査会で、安倍派幹部4人が弁明に立ったが、いずれも「自らは関与していない」と繰り返し、実態解明につながる新たな内容はなかった。

予算案が衆院を通過すれば、通常では国会前半戦が一山越えたということになるが、今回は、懸案の裏金問題が残されたままで、岸田政権にとって険しい政権運営が続く。国会での与野党攻防と、岸田政権の課題を点検する。

 裏金解明、派閥幹部・首相も後ろ向き

自民党の派閥の裏金問題から、見ていきたい。29日と1日に行われた衆議院政治倫理審査会を中継などでご覧になった方は、国会議員の政治とカネをめぐる認識や釈明にあきれ、驚くことが多かったのではないか。

1日の政治倫理審査会には、安倍派の西村・前経産相、松野・前官房長官など幹部4人が出席した。派閥の会計処理について、4人の幹部はいずれも「関与していない」と釈明したほか、「パーテイー券の販売ノルマも、会長と事務局長との間で長年、慣行として扱ってきた」などとして、会長案件だったと強調した。

2022年当時、安倍会長の意向で裏金還流を止める方針が決まった後、安倍氏が死去して還流が復活した経緯については、派閥幹部と事務局長が集まって検討したものの、いつ、決めたかはっきりしないといった説明が繰り返された。

一方、29日に行われた政治倫理審査会では、岸田首相が歴代総理大臣として初めて出席したが、事実関係については、党の聴き取り調査をなぞる説明がほとんどだった。

また、自民党総裁として、今後の実態解明の取り組み方や政治改革の目指すべき方向を明らかにすることもなかった。

政治倫理審査会が鳴り物入りで開かれたが、安倍派の裏金作りはいつから始まり、どのような経費に使われたのか、誰が政治責任を取るのか、かねてからの疑問点は全く明らかにされなかった。

「裏金の実態解明という宿題」は全く進んでいない。こうした原因は、自民党の聴き取りなどの調査が2月になってようやく始まるなど岸田首相や党執行部の後ろ向きな姿勢が大きく影響していることを改めて強調しておきたい。

 予算通過、主導権発揮に強いこだわり

次に、新年度予算案をめぐる与野党の攻防をどうみるか。岸田首相は、予算案の年度内成立、実際には自然成立となる衆院通過の時期に強いこだわりをみせた。

具体的には、予算案は3月2日までに通過すれば自然成立となるが、2日は土曜日なので、前日1日の通過をめざし、委員長職権で委員会の開催を決定した。

これに対して、立憲民主党は委員長解任決議案などを提出して抵抗したため、深夜にもつれ込んだ後、異例の土曜日、2日の採決となった。

自然成立は予算案が自動的に成立するメドであり、実際には、参議院が独自性を発揮して審議時間を短縮するので、多少ずれ込んでも年度内成立は可能だ。

それでも、2日までの成立にこだわって突き進んだのは、内閣支持率の低迷に加えて、この国会では裏金問題で野党の攻勢が続いていることから、何とか政権の主導権発揮を印象づけたいねらいがあるものとみられる。

一方、今回は、首相官邸と自民党執行部との連携が機能していない場面が目立った。例えば、政治倫理審査会に出席する派閥幹部の顔ぶれが二転三転、与野党が大筋合意していた日程が見送られたほか、岸田首相が突如、出席を表明し与野党双方の関係者を驚かせた。

政倫審の出席者の調整などは、本来、党務を預かる幹事長の役割だが、茂木幹事長が調整に当たる場面は見られなかった。今後は、裏金問題に関与した議員の処分を決める難問が控えている中で、首相官邸と党執行部の調整が順調に進むのか、危ぶむ声も聞かれる。

 裏金問題の処分、政治改革も本格化

予算案の衆院通過後の国会はどのような展開になるか。当面は、参議院予算委員会に舞台を移して、引き続き裏金問題が論戦の中心になりそうだ。

具体的には、裏金問題に関与した議員に対する処分の扱いや、岸田首相の政治責任をめぐって、野党側の追及が続きそうだ。このうち、処分の問題については、岸田首相も検討する考えを表明しているが、安倍派や二階派の反発も予想され、難問だ。

また、参議院では、安倍派幹部の世耕元参議院幹事長の政治倫理審査会での弁明が行われる見通しだ。但し、衆議院での安倍派幹部と同じような答弁に止まることが予想され、新たな事実が明らかになる可能性は低いとみられる。

一方、衆議院では、自民党の浜田国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が2日に会談し、政治資金問題で参考人招致の協議を続けるとともに、政治倫理審査会への出席の申し出があった場合は、弁明と質疑を行うことを申し合わせた。

新たに5人程度の自民党議員が審査会での弁明を申し出ており、来週以降、審査会が開催される見通しだという。野党側としては、当面、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長の参考人招致を要求する方針だ。

このほか、野党内では、二階派会長の二階・元幹事長や、森元総理の参考人招致や証人喚問を要求する意見があり、調整が行われる見通しだ。

さらに、自民、立民の国対委員長会談では、4月以降、衆議院に政治改革を議論するための特別委員会を設置することを申し合わせた。この特別委員会で、再発防止の具体策や法整備の内容について、本格的な議論が始まる見通しだ。

このほか、今の国会では、春闘での賃上げと経済運営をはじめ、子ども・子育て法案や、25年ぶりの改正となる食料・農業・農村基本法改正案など重要法案の審議も控えている。

以上、見てきたように予算案の衆院通過後の国会は、裏金問題と政治改革に加えて、内外の多くの課題が議論になる見通しだ。岸田政権が賃上げなどをテコに反転攻勢をみせるのか、それとも野党が政治改革などを軸に攻勢を続けるのかが焦点だ。(了)

 

 

 

ようやく政倫審”後手と迷走”

自民党派閥の裏金問題で、衆議院の政治倫理審査会が28日と29日に開かれ、安倍派と二階派の幹部5人の弁明が行われる見通しになった。審査会を公開するかどうかなどについて、与野党の間で詰めの調整が続く。

政治倫理審査会開催への動きは一歩前進だが、まだ当事者の弁明を聞く舞台作りで、ようやく合意に達した状態だ。国会召集から早くも1か月近くが経過、「あまりに遅い」というのが率直な印象だ。

こうした背景には、岸田政権の小出しの対応と、基本方針がはっきりせず、決断や覚悟のなさが迷走につながっているようにみえる。ここまでの動きを点検し、何が問われているかを探ってみたい。

政倫審、出席議員の顔ぶれと公開の是非

衆議院の政治倫理審査会をめぐって、自民党は22日までに、安倍派の座長を務めた塩谷元文科相と、安倍派「5人衆」と呼ばれる松野前官房長官、西村前経産相、高木前国会対策委員長の3人、それに二階派事務総長の武田元総務相の合わせて5人が出席する意向だと野党側に伝えた。

参議院では、安倍派「5人衆」の1人、世耕・前幹事長も出席の意向を明らかにしている。

野党側は、派閥からのキックバックを受けながら政治資金収支報告書に記載しなかった自民党議員82人のうち、衆議院議員51人全員について、出席の意向を確認するよう要求した。また、安倍派「5人衆」全員と二階派会長の二階元幹事長らの出席を求めた。

自民党が示した対象者からは、安倍派の萩生田前政調会長と二階元幹事長は外れている。自民党は「派閥の事務総長、または経験者」で線引きしたものとみられるが、その場合、安倍派の事務総長経験者である下村元文科相は外れているなどの矛盾もある。

今回の対象者で、国民は納得するかといった問題も残されており、与野党の協議が続くものとみられる。

政治倫理審査会が開かれると衆議院の場合、2009年以来となる。参議院で開かれると初めてのケースだ。政治倫理審査会は原則非公開だが、本人の了承が得られれば、公開された先例もある。

このため、野党側は公開を求める方針で、与野党で折衝が行われる見通しだが、非公開となると、世論の反発も予想される。

一方、政倫審が開かれた場合、野党側は、裏金問題の実態解明につながるような審査を行うことができるのかどうか、力量を問われることになる。

小出しの対応、政権の強い指導力見えず

さて、ここまでの与野党の対応をどのように評価するか。まず、岸田首相や自民党執行部の対応は小出しの対応が多く、実態解明に積極的な姿勢は見られなかった。

今年の通常国会は、自民党派閥の裏金問題を受けて、異例の幕開けとなった。通例では召集日に行われる首相の姿勢方針演説を後回しにして、衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」の集中審議を国会冒頭に行った。

その集中審議で、岸田首相は今回の事態を陳謝したうえで「関係議員から聴き取り調査を行うことを通じて実態を把握し、政治的な責任について考えたい」と表明した。

ところが、自民党所属の全議員を対象としたアンケート結果がまとまったのは2月13日、関係議員からの聴き取りの結果がまとまり、公表されたのは2月15日と大幅に時間がかかった。アンケートといっても質問はわずか2問だけ、聴き取り調査も核心に触れる内容はなかった。

政治倫理審査会についても野党側の申し入れがあって検討を始めるという受け身の対応が目立ち、議員に対する出席の意向確認も遅れた。

岸田政権がこうした対応をとったのは、新年度予算案の年度内成立が第1の目標で、予算案の衆議院通過が最優先の課題のためだ。そのための「時間稼ぎ」、その間に予算審議の時間を重ねる、ねらいがあるものとみられる。

実態把握の調査や政治倫理審査会の対象者への打診などは、森山総務会長が中心になって行われた。但し、安倍派幹部から、自らの派閥の問題なので、進んで説明責任を果たしていくような動きは見られなかったという。

一方、岸田首相や茂木幹事長ら党の執行部も、対象者を決める判断基準や基本方針を示したり、党内調整で強い指導力を発揮したりするような場面はみられなかった。

政倫審めぐる与野党折衝で、自民党側は当初は出席者は2人と伝え、野党の反発を受けると人数を増やすといった迷走もみられた。党内からも「岸田首相や党役員はもっと指導力を発揮しないと、国民の納得を得るのは難しいのではないか」との批判の声も聞いた。

実態解明、政治改革の集中的取り組みを

それでは、これからの取り組みはどうなるか。政治倫理審査会が開催されても、実態解明が一気に進むとは限らない。その場合、必要があれば、新たな幹部から説明を求めることも必要になるだろう。

また、予算委員会など別の場で参考人招致、証人喚問なども必要になるかもしれない。こうした取り組みが実現するかどうかは、野党側の連携や結束力が試されることになる。リクルート事件の際には、中曽根元首相、竹下元首相などの証人喚問が行われた先例もある。

こうした実態解明が、第1段階だ。第2段階は、裏金の実態などを踏まえて、政治資金規正法の「抜け道」などを防ぐ再発防止策と政治改革が焦点になる。

再発防止の法整備については、既に野党各党と、与党の公明党はそれぞれ、具体策や方針をとりまとめている。

自民党の対応だけが遅れており、党の刷新本部で検討を進めている段階だ。自民党が早急に改革案をとりまとめて、与野党の合意を図る取り組みが必要だ。

主な項目は、◇政治資金パーテイーの是非や、パーテイー券購入者の公開基準の引き下げ、◇政治資金をめぐる不正があった場合、会計責任者だけでなく、議員も罰則を適用できるようにすること、◇政策活動費の使途の公開、◇政治資金収支報告のデジタル化、◇それに懸案の旧文書・通信・文通費の扱いなどだ。

こうした対応策については、ダラダラと時間をかけずに短期集中型で合意をとりまとめ、成果を上げることが極めて重要だ。目に見える成果が得られないと国民の政治不信はさらに強まり、民主主義そのものが機能不全となる恐れがある。

また、この国会は、賃上げと日本経済活性化の取り組み、子ども・子育て支援制度の創設、農業基本法の改正、さらには、ウクライナやガザなどの外交問題といった数多くの法案や課題を抱えている。こうした懸案の議論を深める必要がある。

報道各社の今月の世論調査をみると、岸田内閣の支持率は政権発足以降、最も低い20%台前半まで落ち込んでいる。裏金問題への岸田首相の対応については「評価しない」が7割から8割にも達していることを重く受け止める必要がある。

これから政治倫理審査会での実態解明と政治改革をめぐる議論が、大きなヤマ場を迎える。与野党が議論を徹底して深めたうえで、再発防止の政治改革については、国民の信頼をつなぎとめるためにも一定の成果を上げるよう強く注文しておきたい。(了)

★追記(26日23時)以上の原稿は、23日(金)午前0時出稿。26日(月)夜の時点で全体状況は、以下の通り。政治資金問題を受けて、衆議院の政治倫理審査会は26日、与野党が開催のあり方について協議をしたが、公開の是非をめぐって折り合いがつかず、引き続き協議を行うことになった。            ★追記(27日21時)政治資金問題で、与野党は28、29両日、衆議院の倫理審査会を開く方向で協議を続けてきたが、公開のあり方などをめぐって調整がつかず、28日の開催は見送られることになった。                  ★追記(28日22時)衆議院の政治倫理審査会は28日午前、岸田首相が突如、審査会に自ら出席する意向を明らかにした。これを受けて、これまで公開での出席に慎重な姿勢を示していた派閥幹部4人も出席する考えを示し、29日と1日の両日、審査会が開催されることになった。報道機関にも公開する形で行われる。★追記(29日21時)29日に開かれた衆議院政治倫理審査会で、岸田首相は、自民党の派閥による裏金問題について、党の聴き取り調査の内容を繰り返す場面が多く、事実の解明につながる新たな事実を語ることはなかった。          二階派の事務総長を務める武田・元総務相は、収支報告書の不記載について「二階会長も私も、会計責任者から説明を受けることはなく、全く関与していない」とのべた。                               ★追記(3月1日午後11時半)衆議院の政治倫理審査会が1日開かれ、自民党安倍派の事務総長経験者4人が出席した。西村・前経産相、松野・前官房長官、塩谷・元文科相、高木・前国対委員長は、いずれも会計処理には関与していなかったと釈明した。野党側は「真相究明に後ろ向きだ」と強く反発している。

裏金問題”首相対応 評価せず7割”

自民党派閥の裏金問題を受けて、国会は衆院予算委員会を舞台に岸田首相と野党側との間で、論戦と攻防が激しさを増しているが、国民は今回の問題をどのようにみているのだろうか。

NHKの2月世論調査が公表されたので、そのデータを基に世論の受け止め方や、岸田政権に及ぼす影響などを考えてみたい。(2/10~12日実施)

まず、2月の世論調査をみて感じるのは、自民党や岸田政権に対する国民の視線が一段と厳しくなっていることだ。

世論調査は▲まず、自民党内では派閥から受け取った収入を収支報告書に記載していなかった議員が相次いでいるが、こうした議員が説明責任を果たしていると思うかどうかを聞いている。

回答は◆「果たしている」はわずか2%で、◆「果たしていない」が88%に上った。

▲次に、自民党「政治刷新本部」が中間とりまとめで、派閥をカネと人事から完全に決別させることなどを決めたことについては、◆「評価する」が36%に対し、◆「評価しない」が58%と上回った。

▲さらに、自民党の政治資金パーテイーの問題に対する岸田首相の対応については、◆「評価する」が23%に対し、「評価しない」が69%、7割に達した。

こうした厳しい評価となった背景としては、この問題が発覚したのは去年11月中旬で、岸田首相も先頭に立って取り組むと年末に表明しながら、実態把握の調査を始めたのは今月に入ってからと、あまりの対応の遅さに対する国民のいらだちや不信が影響しているものとみられる。

 内閣支持率25%、不支持率最高の58%

一方、岸田内閣の支持率は、先月より1ポイント下がって25%だったのに対し、不支持率は2ポイント上がって58%、去年12月と並んで岸田内閣で最も高くなった。政治資金問題への対応の評価が影響しているものとみられる。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月以降8か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を下回るのは、4か月連続になる。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤となる自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は、7割から8割に達していたので、政権の体力が低下していることが読み取れる。

 政治倫理審査会が焦点、紆余曲折も

それでは、岸田政権のこれからの対応はどうなるか。自民党は13日、党所属のすべての議員を対象に行ったアンケート調査の結果を野党側に伝えた。現職の国会議員82人に不記載があったというもので、既に明らかにされていた内容だ。

野党側は、調査が極めて不十分だとして、衆議院の政治倫理審査会を開き、安倍派の幹部や二階元幹事長らが出席して説明するよう求めており、自民党が政治倫理審査会の開催に応じるかどうかが、焦点になっている。

今回の世論調査で明らかになったように、国民は関係議員の説明を強く求めており、岸田首相や自民党側も最終的には、政治倫理審査会の開催には応じるとの見方が与野党の関係者から聞かれる。

但し、政治倫理審査会は、関係議員の招致を決めても強制力はないため、何人の幹部が応じるかどうかなどは不明で、紆余曲折があるものとみられる。

野党側は、自民党側が十分な説明責任を果たさない場合は、新年度予算案の審議に影響が出ることもありうると強い構えをみせている。

以上、みてきたように当面、政治倫理審査会の開催と、岸田首相がどこまで指導力を発揮できるかどうかが焦点だ。(了)

“裏金解明 覚悟見えず”岸田首相

国会は5日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員との間で、一問一答方式による本格的な論戦が始まった。

焦点になっている自民党の政治資金パーテイーの裏金問題について、岸田首相は、この国会で政治資金規正法の改正を実現すると強調したものの、実態調査の進め方をめぐって消極的な対応が目立ち、実態解明に真正面から取り組む姿勢や覚悟は見られなかった。

ここまでの論戦の特徴と、今後の与野党の攻防はどのような展開になるのか、探ってみたい。

自民全議員の調査、 質問わずか2問だけ

衆院予算委員会の質疑の中で野党各党は、自民党の裏金問題について「自民党が自ら事件の全容を明らかにすべきだ」と要求するとともに、自民党総裁の岸田首相や、派閥の幹部の政治責任を明らかにするよう迫った。

これに対し、岸田首相は「国民から厳しい批判を受けており、自民党は変わらなければならないという思いを持って、党の中間とりまとめを実行する。今の国会で政治資金規正法をはじめとする法改正を実現していく」と強調した。

そのうえで「自民党としても実態を把握しなければならない」として、派閥からキックバックを受けていた議員で政治資金収支報告書を修正した「議員リスト」91人分を提出した。

これに対し、野党側は「リストは過去3年分だけで、参議院選挙の年のデータが含まれないなど極めて不十分だ」として、過去5年分を出し直すよう求めている。

また、自民党は5日から党所属の全ての議員を対象にしたアンケート調査を始めたが、この設問内容をみると「収支報告書への記載漏れの有無」と「過去5年の不記載額」を尋ねる、わずか2問だけに止まっている。

野党側は、裏金をつくった経緯や、資金をどのように使っていたかなどについては聞いておらず、「実態を解明する気があるのか」と強く反発している。

これに対して、岸田首相は7日の答弁で「アンケートとは別に、外部の弁護士も参加して聴き取り調査を行っており、結果は第三者にとりまとめをお願いする。党として実態を把握し、説明責任、政治的な責任について適切に対応したい」と釈明した。

自民党の裏金事件は、去年11月から東京地検特捜部が5つの派閥の関係者から任意の事情聴取を始めるなど既にかなりの時間が経過している。それにもかかわらず、今月に入ってアンケート始めるのは余りにも対応が遅すぎる。

また、質問内容もわずか2問だけでは、実態解明に真正面から取り組む姿勢や覚悟がないと言わざるを得ない。

事実解明型の審議、政治のけじめが必要

それでは、国会の審議や与野党の攻防はどのような展開になるか。衆院予算委員は、9日に外交や農業などをテーマに集中審議を行った後、14日に政治資金問題の集中審議を行うことが決まっている。

自民党は、関係議員からの聴き取り調査と第三者によるとりまとめと、アンケート調査の結果を週明け13日以降にまとめる見通しだ。

これに対して、野党側は「調査結果が不十分であれば、予算審議にも影響が出てくる」とけん制しており、場合によっては、予算審議をストップさせる対応もありうるとの見方も出ている。

一方、自民党は、7日に行われた公明党との定期協議で、国会の政治倫理審査会で、不記載の関係議員が説明することを検討していることを伝えた。

こうしたことから、裏金問題は当面、14日の集中審議で、裏金問題の実態がどこまで明らかにされるかが焦点になる見通しだ。そして、野党側から、調査のやり直しや審議拒否なども予想され、与野党の駆け引きが激しくなりそうだ。

一方、野党側としても実態調査とは別に、政治倫理審査会の場で、裏金の関係議員の出席を求めて説明を求めるべきだという意見が出されている。

さらに与野党双方とも再発防止の対応策を協議する場を設けるべきだという意見もあることから、こうした点も含めて与野党の協議が行われる見通しだ。

国民からすると政治とカネの問題は、ロッキード事件やリクルート事件などを経て90年代はじめに、政治改革関連法が成立した。そして、国民の血税を政党に助成することまで踏み込んだのに、未だに違法行為を組織的、かつ長期に続けている議員に強い不信感と怒りを覚える人が多いように見える。

したがって、国会が取り組むべきことははっきりしている。まずは、政治腐敗、政治資金規正法に違反する行為はいつ頃から行われ、何に使っていたのか、実態を明らかにすることが必要だ。

そのためには、これまでのような事実関係を曖昧にしたまま、小手先の妥協策で終えるのではなく、「事実の解明型の審議」を行うことが不可欠だ。

具体的には、ロッキード事件を受けて昭和60年に国会議員自らが定めた「政治倫理綱領」と政治倫理審査会がある。「疑惑が持たれた場合には、自ら疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう務めなければならない」と定めている。

疑惑を指摘された議員は全員、自ら申し出て弁明してはどうか。また、疑惑の解明を進めるために必要であれば、派閥幹部を参考人として招致、あるいは証人喚問なども行い、国民の政治不信をなくす具体的な取り組みを取ってはどうか。

自民党は、実態調査などは小出しにする対応が目立つが、その理由は、新年度予算案を衆院通過させ、年度内に成立させるのが一番の目標で、そのための時間稼ぎをねらっているのではないかとの見方も聞く。

しかし、岸田内閣の支持率は急落したまま低迷しているほか、今度は、森山文科相と旧統一教会との関係が新たな問題として急浮上しており、裏金問題など相次ぐ不祥事に時間をかけて対応するような状況にはない。

今回の裏金問題は、自民党の派閥が起こした不祥事であり、岸田首相と自民党執行部は、実態解明に積極的に取り組む必要がある。

また、再発防止の政治改革案は、他の各党は既にとりまとめているので、自民党は、直ちに改革案をまとめて与野党協議に臨むことも必要だ。

裏金問題の実態解明と政治改革にできるだけ早くメドをつけ、政治が本来、取り組むべき、新年度予算案の内容や、内外の政治課題に取り組んでもらいたい。(了)

”裏金”実態解明めぐる攻防激化へ

自民党の派閥の政治資金裏金事件を受けて、異例の幕開けとなった通常国会は、2日までに冒頭部分の与野党の論戦を終えた。

これまでは召集日に首相の施政方針演説を行うのが通例だったが、今回は「政治とカネ」の問題で、野党側の要求を受け入れて衆参両院で集中審議を行った後、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われた。

その異例の幕開けとなった論戦だが、焦点の裏金問題で、岸田首相の答弁に新味があったのは、キックバックを受けた議員から聴き取り調査を行うことを自民党執行部に指示した程度で、踏み込んだ発言はほとんどみられなかった。

岸田首相は施政方針演説では、今回の事件を陳謝したうえで「自民党の派閥、政策集団が、お金と人事から完全に決別することを決めた」とのべ、政治への信頼回復をめざしていく考えを強調した。

但し、政治資金の透明化や、連座制の導入、政策活動費の使途の公開などの各論になると「各党との協議に真摯に参加する」などとして、具体案には踏み込まなかった。

このように岸田首相の答弁は、事件の実態解明や、政治改革の内容ともに慎重な姿勢が目立った。国民の政治不信を払拭していくため、自ら強いリーダーシップを発揮していく強い覚悟や熱意は、残念ながら伝わって来なかった。

政治改革が大きなテーマになっているこの国会で、与野党の攻防はどうなるのか、どこがポイントになるのか探ってみたい。

 予算委の論戦・攻防、実態解明が焦点

国会は週明けの5日からは、衆議院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議を始めることで与野党が一致している。

野党側は、裏金事件を最重点に攻勢に出る構えで、自民党所属の全ての議員を対象に調査を行い、派閥からキックバックを受けていた議員の人数などを5日までに明らかにするよう求めている。

これに対して、自民党は2日から、森山総務会長ら党執行部の役員6人が、3つのチームに分かれて、政治資金収支報告書に不記載があった議員への聴き取り調査を始めた。安倍派と二階派、岸田派の議員ら80人余りを対象に行い、来週中のとりまとめをめざしている。

また、自民党は、来週、党所属の全ての議員を対象に裏金受領の有無を確認するアンケートも実施する方針だ。

さらに、安倍派幹部などについては、キックバックが始まった経緯や、収支報告書に記載しなかった理由などについても説明を求める方針だ。党執行部としては、こうした調査結果を踏まえて、党の処分も検討するものとみられる。

これに対して、野党側は、全ての議員を対象に十分な調査が行われたのかどうかを質すとともに「調査内容が不十分な場合には、予算審議にも影響が出てくる」とけん制している。

また、野党側は、事件の全容を解明するため、安倍派や二階派の幹部を参考人として、委員会に招致するよう求める構えだ。このように国会は、予算委員会を舞台に裏金事件の実態の解明や、そのための取り組み方をめぐって、与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。

 安倍派活動停止、裏金経緯の説明なし

こうした中で、自民党内で最大勢力を誇ってきた安倍派は1日、最後となる議員総会を開き、派閥としての活動を停止し、解散への手続きを進めることを決めた。

これに先立って、安倍派は31日、2018年から22年までの5年間で、国会議員の関係団体に支出した総額6億7千万円余りが、政治資金収支報告書に不記載だったと発表した。

このうち、公開している2020年から22年までの3年分については、不記載のパーテイー収入4億3千万円余りがあったとして、訂正を総務省に届け出た。

安倍派をめぐっては、東京地検特捜部の捜査で、高額なキックバックを受けていた議員3人と、派閥の会計責任者が立件されたものの、派閥の幹部議員は刑事責任を免れた。

一方、裏金作りがいつ頃から始められ、派閥幹部がどのように関与していたのかといった経緯や実態などについては、これまで説明されてこなかった。

さらに最後の議員総会でも、派閥としての政治責任については全く、明らかにしないまま、解散する公算が大きくなっている。自民党としても今回の裏金事件の政治責任をどのように明確にするのか、予算員会の論戦で問われることになる。

国会は、こうした裏金事件の実態解明と政治責任の問題とともに、政治資金規正法の改正など政治改革の内容も大きな焦点になる。また、予算委員会とは別に与野党が、政治改革をめぐる協議の場を設けることも話し合われる見通しだ。

政治改革の内容については、既に与党の公明党や、野党各党はそれぞれ具体的な方針を決めているのに対して、自民党はとりまとめが遅れている。

具体的には、◆パーテイー券の購入者の公開基準の引き下げ、◆政治資金をめぐる国会議員の責任を明確にするため連座制の導入、◆政策活動費の使途の公開などについて、早急に具体案のとりまとめが求められている。

以上、みてきたように自民党は、派閥の解散・活動停止の動きが広がる中で、事件の実態解明と、政治改革に踏み込んだ対応策を打ち出せるかが問われている。

一方、野党側は、立憲民主党と維新の会などが足並みをそろえて、自民党の譲歩を迫ることができるのかどうか。与野党ともに、この国会で最初の大きな節目を迎えている。(了)