風向き変わる岸田政権、5か月ぶり不支持率が逆転

先の通常国会の最終盤では一時、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの情報が飛び交い緊迫した場面もみられたが、先送りとなった。政界は今、国会が閉会し一段落しているが、各党とも秋の解散に備えた準備に余念がない。

政治の焦点は、マイナンバーカードをめぐる混乱への対応と、秋の解散・総選挙のゆくえに移っている。こうした中で、NHKの7月の世論調査がまとまった。

それによると岸田内閣の支持率は2か月連続で下落し、5か月ぶりに支持率を不支持率が上回り、逆転したのが大きな特徴だ。

岸田内閣の支持率は、回復基調にあったが、世論の風向きが下降局面へと変わりつつある。こうした世論の変化の背景や、岸田政権が対応を迫られている課題などを分析してみたい。

 回復基調から、不支持が増え逆転

さっそく、NHK世論調査(7月7日~9日)の7月のデータからみておきたい。岸田内閣の支持率は38%で、先月から5ポイント下落した。不支持率は41%で、先月から4ポイント増えた。

支持率の下落は2か月連続で、支持率を不支持率が上回って逆転するのは、今年の2月以来、5か月ぶりになる。

岸田内閣の支持率は、今年1月の33%を底に上昇が続き、5月の46%まで回復基調にあった。ところが、6月、7月と2か月連続で下落し、世論の風向きが変わりつつある。

岸田内閣の支持層をみると、与党支持層のうち、岸田内閣を支持する割合は、7割を下回った。無党派層の支持は18%で、岸田内閣発足以来、最も少ない状況だ。

政権を支える与党支持層と、最も大きな集団である無党派層の支持がいずれも低下しており、政権に勢いがみられない。

一方、岸田内閣を支持しない理由としては「政策に期待が持てないから」が46%で最も多く、次いで「実行力がない」が22%を占める。

このうち、「実行力がない」は先月より5ポイント増えた。これは、マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいることが影響しているためとみられる。

 健康保険証の廃止方針、反対が7割も

そのマイナンバーカードをめぐる問題だが、相次ぐトラブルを受けて、政府は秋までに専用サイトで閲覧できるすべてのデータの総点検を行う方針を打ち出した。

こうした政府の対応について、世論調査の結果は「適切だと思う」が33%に対し、「適切だと思わない」が49%で上回った。

また、政府が、来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させるとしている方針については「予定通り廃止すべき」は22%。「廃止を延期すべき」が36%で、「廃止の方針を撤回すべき」が35%となった。

つまり、政府の廃止方針を支持している人は2割に止まり、健康保険証の廃止の延期や、撤回を求める人が合わせて7割を占める結果となった。

さらに、政府が今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保して、児童手当の拡充などに集中的に取り組むとしている少子化対策についても「期待する」は33%に対し、「期待していない」が62%と倍近くに達している。

この理由についての質問項目はないが、少子化対策の具体的な財源確保について、政府は曖昧にしたまま、年末まで先送りしている。こうした政府の対応に対する国民の不信や不満が影響しているものとみられる。

このように岸田内閣の支持率低下は、第1にマイナンバーカードの問題に対する政府の対応策について、国民の多くが疑問や不安を抱いていることが大きく影響しているものとみられる。

もう1つは、少子化対策に代表されるように岸田政権は、大胆な歳出増を伴う政策を次々に打ち出すが、政策の裏付けとなる財源確保などの核心部分が曖昧で、説明も不十分だと受け止めていることが影響しているとみられる。

岸田政権は、こうした主要政策の内容を明確にするとともに、国民に対して説明を尽くす姿勢を打ち出さないと、国民の支持を回復することは難しいのではないかとみている。

 政権の浮揚策、秋の解散も高いハードル

それでは、秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙のゆくえはどのようになるだろうか。

政府・与党内では、岸田首相は外交日程などをこなした上で、9月中旬を軸に内閣改造・自民党役員人事を行うとの見方が示されている。そして、内閣支持率や選挙情勢などを見極めた上で、秋の解散・総選挙選挙も選択肢として検討しているのではないかとの観測もある。

その際、各党の支持率が問題になるが、7月の自民党の支持率は34.2%で、他の党に比べて優位にある。但し、今年に入って自民党の支持率は低下傾向が続いており、7月は岸田政権発足以来、最も低い水準だ。

また、自民、公明両党は東京の選挙区調整をめぐって対立が続いており、両党の選挙協力が完全に修復できるのかも不安材料として残されている。

一方、野党側では、次の衆議院選挙で野党第1党をめざしている日本維新の会の支持率が5.6%で、立憲民主党の5.1%を上回っている。維新の支持率が上回るのは3か月連続だが、その差は次第に縮小しており、野党間の戦いも激しさを増す見通しだ。

さらに、岸田首相が秋の解散・総選挙を断行する際には、内閣支持率の上昇が不可欠だが、政権浮揚の有力な材料を見いだせているわけではない。

むしろ、焦点のマイナンバー問題がどのような形で決着がつくのか。また、内閣改造と自民党の役員人事が国民からどのよう評価を受けるのか。さらには、与野党の選挙情勢がどのようになるのか不透明な要素が多く、秋の解散・総選挙のハードルはかなり高いとみている。(了)

 

 

“主軸なき政権”安倍氏死去1年

安倍元首相が選挙応援演説中に銃撃され、死去した事件から、7月8日で1年を迎える。

安倍元首相は憲政史上最長の通算8年8か月にわたって政権を担当、退陣後も様々な発信を続けていた。

安倍氏の死去は、岸田政権にどのような影響を及ぼしたか。また、これからの岸田政権や日本政治は何が問われることになるのか、探ってみたい。

 中心軸みえない政治、自民党の構造問題

さっそく、安倍元首相死去の影響から、みていきたい。あるベテラン国会議員は「政界の風景、空気が大きく変わった。安倍政治がいい、悪いは別にして、まったく別の世界になった感じがする」と語る。

安倍元首相は2020年に政権を退いた後、自らの派閥の会長に就任し、自民党の右派を代表する形で、さまざまな発信を続けた。これに対し、岸田首相はもう一方の柱として、安倍氏の協力を求めながら政権運営に当たった。2つの点が中心になって政権与党を運営するという岸田首相の「楕円の論理」だ。

ところが、安倍氏が死去したことで、自民党内の柱の1つが倒れたままで、新たな体制を作り直せなかったのが、岸田政権のこの1年ではなかったか。もう一方の柱である岸田首相の指導力も強いとは言えないので、政権の中心軸がみえない状態が続いたと言えるのではないか。

その結果、岸田政権は衆議院選挙に続いて、去年の参議院選挙にも勝利したものの、旧統一教会問題や閣僚の相次ぐ不祥事と更迭で、政権の安定が長続きしない。

今年3月になって、岸田首相のウクライナへの電撃訪問や、5月のG7広島サミットの成功で、支持率が回復した。

ところが、ここでも首相秘書官に抜擢した長男の軽率な行動や、マイナンバーカードをめぐるトラブルで足下をすくわれ、内閣支持率が急落し、政権の求心力が再び低下する事態に追い込まれている。

その自民党は、二階元幹事長や麻生副総裁ら党の重鎮も第一線でいつまでも活躍できる状況ではない。また、岸田首相の後継をめざす次の有力なリーダーも見当たらないのが実態だ。

「安倍長期政権時代に次のリーダーを育成しておくべきだった」と自民党関係者の声をよく耳にする。次の時代を担うリーダーをいかに確保していくのか、人材難が大きな構造問題として横たわっている。

 安倍派「5人衆」体制へ模索続く

次に安倍元首相の派閥、安倍派の新しい会長選びはどうなるか。これまでも去年の国葬が終わった時点、今年5月の派閥の資金集めパーティーなどの節目があったが、進展はみられなかった。

安倍氏の1周忌が近づいた6月30日、安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部が会談し、「5人衆」を中心とした体制への移行をめざす方針を確認した。顔ぶれは、松野官房長官、西村経産相、萩生田政調会長、高木国対委員長、それに世耕参議院幹事長だ。

これに対して、会長代理を務めている塩谷立氏や、下村博文氏らベテラン議員の間からは、反発する声も出ている。

一方、「5人衆」の体制移行が決まったとしてもそれぞれの役割分担をどうするかという難問を抱えている。◇萩生田氏を派閥の会長、総裁候補を西村氏にする分離案、◇萩生田氏と、世耕参議院自民党幹事長を共同代表にする案、◇総裁候補とは距離のある高木氏を会長にする案などが取り沙汰されているという。

7月6日に派閥の総会を開き、新体制について協議する予定だ。派閥に大きな影響力を持つ森元首相も「5人衆」の体制には理解を示しているといわれる。派内のベテラン組との調整が焦点だ。

安倍派は衆参100人の議員が参加する自民党の最大派閥だ。派閥の歴史と論理からすると、派閥の跡目争いは最後は次をめざす幹部の思惑が一致せず、分裂するケースが多い。

仮に、「5人衆」の集団指導体制がとられても自民党の総裁選や、衆院解散・総選挙といった大きな動きが近づくと、一枚岩の体制が崩れる局面が出てくるのではないかとみている。

 人事と実行力がカギ、解散は波乱要因に

最後に岸田政権とこれからの政治はどう動くか、みておきたい。まず、岸田首相は頼りなさそうに見えるが、政権を投げ出すような性格ではない。

また、自民党内には、ポスト岸田をねらう有力候補がいないことに加えて、反岸田の不満勢力をまとめ上げる幹部も見当たらないことから、来年の総裁選挙に向けては、岸田首相が相対的に優位な立場にある。

そこで、まず、注目されるのは、夏から9月にかけて行うとみられる内閣改造と自民党役員人事で、政権の体制強化につながるかどうかだ。

特に幹事長ポストは、政権与党の中心軸になるだけに、今の茂木幹事長の続投を認めるか、それとも別の幹部に差し替えるかがポイントだ。

また、衆議院の解散・総選挙をいつに設定するかも大きな問題になる。先の通常国会の最終盤で、岸田首相サイドは早期解散を模索したが、自民党側は冷静な反応が目立った。

秋の解散・総選挙といっても政権発足からまだ2年、タイミングを誤ると、与党側からも強い反発が予想され、政権が揺らぐ波乱要因にもなりかねない。

さらに、岸田政権については「何をやる政権か、未だにはっきりしない」などの声が与党からも聞かれる。防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策などを打ち出すが、肝心の財源は曖昧なままで、結論を先送りする手法にうんざり感も広がる。

政権が最優先で取り組む課題を設定して、実行していく力を示すことが必要だ。そうした取り組みを通じて、岸田首相が「安倍元首相なきあとの中軸」になれるかどうかが試されている。

つまり、人事と政策課題の実行力で、政権の求心力が高まるかが秋の政局のゆくえを左右する。

一方、報道各社の世論調査によると、自民・公明の連立政権を続けることに反対意見が半数を超えるようになった。野党についても、野党第1党の役割を立憲民主党より、維新に期待する人が多くなっている。

自民党の単独政権が終わったのが1993年。それ以降、連立政権の時代に入ってから今年でちょうど30年になる。国民は今の連立時代の政治に対して、限界を感じ、変化を求めているようにもみえる。

次の衆院解散・総選挙の時期は年内か、来年以降になるのかは不明だが、次の総選挙では、政権の姿や政治のあり方が、新たな論点の1つとして浮上してくるのではないかと予想している。(了)

 

 

 

“マイナカード混乱”岸田政権に重圧

マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいる問題で、岸田首相は「重く受け止めている」と陳謝する一方で、来年秋に保険証を廃止し、マイナカードと一体化する方針は予定通り進めていく考えを表明した。

これに対し、報道各社の世論調査では「反対」が「賛成」を大幅に上回り、岸田内閣の支持率が急落している。支持率低下の背景には、岸田政権の看板政策である少子化対策や防衛費の財源確保策に対する評価の低さも関係しているものとみられる。

与野党とも秋の衆院解散・総選挙を想定して準備を加速しているが、世論の関心が高いマイナカードの問題は、岸田政権の政権運営に重くのしかかり、解散・総選挙戦略にも大きな影響を与えるのは避けられない情勢だ。

 マイナカード混乱、内閣支持率直撃

読売新聞が23日から25日に行った世論調査で、岸田内閣の支持率は41%で、前回調査から15ポイントも急落した。不支持率は44%で11ポイント増えて、支持率と不支持率も逆転した。

焦点のマイナカードのトラブルについて、政府は適切に対応していると「思う」は24%に止まり、「思わない」が67%に達した。

また、政府が現在の健康保険証を廃止し、マイナカードに一体化する方針についても「反対」は55%で、「賛成」の37%を大幅に上回った。

これより先の17、18の両日行われた朝日、共同、毎日各社の世論調査でも同じ傾向が表れた。岸田内閣支持率を前月比でみると、朝日は4ポイント減の42%、共同は5.7ポイント減の40.8%、毎日は12ポイント減の33%となっており、いずれも支持率より、不支持率が上回った。

G7広島サミット直後に上昇した岸田内閣の支持率は、わずか1か月で大きく様変わりした。

 支持率急落、曖昧・先送り政治に嫌気も

それでは、岸田政権に支持率急落をもたらした原因としては、どこに問題があるのか。マイナカードへの対応から、具体的にみていきたい。

マイナカードをめぐるトラブルは、今年3月以降コンビニで住民票など別人の証明証が発行される不具合が各地で起きたほか、カードに情報を紐づける登録の誤りが、健康保険証、年金、公金受取口座、障害者情報などで続発した。

特に国民の関心が高いのが、来年の秋までに今の健康保険証を廃止してマイナンバーに一体化する問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、秋までにすべてのデータについて総点検を行うとともに「保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することを大前提に取り組む」と強調した。

これは、健康保険証廃止にこだわっていないのかと思ったが、質疑で「従来の方針のもとに進める」とのべ、方針を変更しないことが明らかになった。

国民は、マイナンバーの活用はデジタル社会へ対応するため、必要性は理解している。但し、高齢者などの弱者にはさまざまな準備やサポート体制が必要だ。

自分の親が高齢者施設に入り、認知症の症状などがある場合、マイナカードの申請、交付後の保管、パスワードの管理、日常の受診などの対応がそれぞれの家庭でスムーズにできるだろうか。

また、マイナカードのサイトで閲覧できる情報を総点検することになったが、点検すべき分野は29項目にものぼる。市区町村や健康保険組合などに点検作業を要請、事実上の丸投げとなるが、大量の情報を確認する要員などに余裕はあるのだろうか。

こうした点を想像すると、来年秋に期限を区切った健康保険証の廃止は見直した方がいいのではないか。また、今回のような大がかりなシステムは、故障などが起きた場合、バックアップ体制はできているのか、制度設計についても聞きたい点は多い。

さらに、岸田政権が最重要課題と位置づける「次元の異なる少子化対策」についても内容、財源の問題ともに世論の評価は低い。

岸田政権は、児童手当の拡充などに年間3兆円台半ばの予算を組む一方、「国民に増税や実質的な負担増も生じさせない」と強調する。しかし、財源の具体策には言及せず、年末の予算編成に先送りになっている。

防衛増税の実施時期についても「来年以降」から「再来年・2025年以降も可能となる」が表現が、今年の骨太方針に盛り込まれた。

このように岸田政権では、看板政策でも中身が曖昧で、肝心な点が先送りにされた政策が多い。また、政府側の説明や、国会の議論も少なく国民に対して積極的に説得しようとする姿勢がみられない。

国民の多くは将来、必ず大きな問題となる財源などの扱いを曖昧にしたまま、先送りを続ける政治にも嫌気がさしているのではないか。そうした国民の受け止め方が、岸田政権の支持離れにつながっているのではないか。

 マイナ混乱は政権に重圧、解散にも影響

さて、政界は先の通常国会の最終盤で、衆院解散が見送られたことで、秋の解散の可能性が増しているとみて、与野党は走り出している。

ところが、岸田内閣の支持率が急落し、この状態が続けば、岸田政権の求心力が低下し、解散戦略にも影響が出てくることも予想される。

まずは、岸田政権がマイナンバーカードをめぐる総点検の結果を明らかにするとともに、再発防止策を明確に打ち出すことが必要になる。

また、政界では、防衛力強化や少子化対策の財源を年末に先送りしたことは、秋の解散に踏み切る可能性が増したとみる見方もある。

しかし、国民の多くはそうした「負担隠しの小手先の対応」はお見通しで、そうした動きをする政党や候補者には厳しい審判を下すのではないかと予想している。難題を抱えているからこそ、世論の反応・潮流は大きく変わりつつある。

岸田政権にとって、今回のマイナカード問題は重圧となって政権を覆っているように見える。懸案に真正面から取り組み、一定の成果を上げて支持率を回復しないと、秋の解散・総選挙の展望も開けてこないとみている。(了)

“首相の求心力が カギ”秋の解散・総選挙

長丁場の通常国会が21日に閉会する。最終盤の国会は一時、解散・総選挙へ突入かと緊迫したが、岸田首相は解散見送りを表明して決着した。

今回の解散、岸田首相は本気だったのかどうか?岸田首相はかなり早い段階で、解散先送りを決めていたのではないとみているが、真相はどうだろうか。

もう一つは、次の解散・総選挙の時期が焦点になるが、「岸田首相の求心力がカギ」を握っている。私もかつて政治報道に携わってきたので、1取材者の立場から、今回の岸田首相の対応について、思うところを率直にお伝えしたい。

 6月解散、岸田首相は本気だったか?

衆院解散・総選挙をめぐる動きは、13日夜、岸田首相が記者団に対し「情勢をよく見極めたい」と発言したのをきっかけに、解散風は一気に勢いを増した。

民放のある報道番組では「首相は解散に踏み込んだ」との解説が流れ、翌日には別の民放局が「野党側が16日に不信任決議案を提出すれば、即日解散になる」などと報じ、政党の幹部の中には選挙対策会議を開くなど対応に追われた。

ところが結果はご存じの通り、15日夜、岸田首相が記者団に対し「今の国会での解散は考えていない」と表明し、6月解散は見送りになった。

岸田首相は、本当にこの時まで解散・総選挙を行う考えを持っていたのだろうか。この点は、見方が分かれるところで、整理しておく必要がある。

そこで、岸田首相の本気度は、どこをみておくとわかるか。首相官邸の首脳、自民党執行部、派閥の領袖、与党・公明党首脳などを取材し、情報を総合して判断するのが基本である。

それに加えて、解散・総選挙では、取材のポイントというものがある。ベテランの自民党関係者に聞くと「保守政党・自民党は、解散当日、総理・総裁が出席して『選対本部開き』を行い、『公認詔書』と『為書き』を手渡す重要な行事がある。ところが、この準備を行っていない」と指摘していた。

つまり、「公認証書」や「為書き」は、総裁をはじめ限られた党役員が手分けして、選挙区と氏名を手書きする。この準備は、数週間はかかるといわれる。そこで、官邸関係者と、自民党の複数の幹部を取材したが、こうした準備が行われているとの情報は得られなかった。

したがって、一部で岸田首相が解散に向け踏み込んだとされる13日時点では、実は、解散を考えてはいなかったのではないか。解散に含みを持たせることで、野党をけん制し、防衛財源確保法など最重要法案の乗り切りが本当のねらいではなかったかとの見方をしている。

以上を整理すると、岸田首相が解散戦略として、当初からサミット後の早期解散をねらっていたのは事実だと思う。そして、サミットが閉幕、内閣支持率の上昇はみられた。ところが、5月下旬以降、政権にとって想定外の事態が続いた。

一つは、長男の前首相秘書官の「公邸内忘年会」が週刊文春にすっぱ抜かれ、更迭に追い込まれた。また、公明党が東京での選挙協力の解消を打ち出した。さらに、看板政策であるナンバーカードのトラブルが相次ぎ、6月7日には「公金受取口座」の登録の誤りが13万件も確認された。

これでは、6月解散は無理で、6月第2週には、既に解散見送りを覚悟していたとみるのが自然ではないか。但し、この間の詳しい経緯の情報は確認できていないので、現役記者諸氏の取材・検証に期待したい。

  ”利用されるな、傍観者になるな”

解散をめぐるメデイア報道について一言、触れておきたい。1つは、解散・総選挙は政治記者にとっても最大の取材対象だが、政権側が流す情報に飛びついて、裏を取らずに間違った情報を流すなと先輩記者から戒められたのを思い出す。「利用されるな」と。

他方、「傍観者になるな」も重要な点だ。つまり、ミスを恐れて挑戦せず、思考停止、傍観者のような対応も論外だ。

解散・総選挙報道は、いかなる事態にも即応することが求められる。難しい取材の連続だが、いかに「正確な情報に基づく予測報道」を行うことができるか、この点でも現役記者の皆さんの活動に期待したい。

 秋の解散は難問、政権の求心力が左右

それでは、岸田政権はこれからどのような政権運営を行うだろうか。岸田首相は来年9月の自民党総裁選での再選をにらみながら、夏から秋にかけて内閣改造・自民党役員人事に踏み切るとともに、秋の解散・総選挙を探るものとみられる。

秋の解散・総選挙ができるかどうか、大きなハードルが控えて折り、難問だ。1つは、内閣改造・自民党役員人事で、政権の体制を強化できるかどうか。今の時点では、ポスト岸田の有力候補が見当たらないので、相対的に優位にあるのは事実だ。

一方、岸田派は党内では4番目の規模の勢力で、人事につまづくと党内の不満が強まり、政権が不安定化するリスクを抱えている。今回の解散をめぐっても「解散権をもてあそぶような姿勢が感じられ、好ましくない」などの批判もくすぶっている。

2つめは、次の衆議院選挙に向けて公明党との関係修復ができるかどうかだ。公明党側は「東京での協力解消は見直さない」と硬い態度を崩していない。

3つめは、今回も問題になったが、「解散の大義名分」があるかどうか。国民との関係で言えば、防衛費に続いて、少子化対策についても裏付けとなる財源確保の具体策は年末に先送りになった。

財源問題を曖昧にしたまま、秋に解散・総選挙を行うことになれば、国民から、将来の負担を隠すねらいがあるのではないかと厳しい批判が出てくることも予想される。

解散の大義名分と、懸案についての明確な方針を打ち出さないと世論の支持は得られず、政権の求心力が低下するのではないか。その場合、秋の衆院解散は難しく、来年以降に先送りされることもありうることも予想される。

通常国会が21日に閉会する。まずは、岸田首相がいつ内閣改造・自民党役員人事に踏み切るか。また、国民が今回の解散問題を含め、岸田政権の対応をどのように評価し、政権の求心力に変化が出てくるかどうかを注目している。(了)

 

国会大詰め”6月解散説”の読み方

通常国会の会期末を21日に控えて、岸田首相は6月解散・7月総選挙に踏み切るのかどうか、与野党ともに緊張感が増してきている。

前回の衆院選挙から1年8か月も経っていない中で、本当に解散に踏み切るのかどうか。今回の解散をめぐる構図と可能性、それに解散の是非をどのようにみたらいいのか多角的に分析し、考えてみたい。

 早期解散、首相サイドと自民幹部との溝

今回の衆院解散・総選挙をめぐる動きは、既に詳しく報道されているので省略して、ここでは、解散をめぐる「与党内の構図」を中心に整理しておきたい。

まず、岸田首相の今年の政権運営は、G7サミットを地元・広島で開催して成功させた後、その勢いに乗って通常国会の会期末に衆院解散・総選挙に踏み切るというのが、首相のベスト・シナリオだと自民党内では受け止められてきた。

そのG7サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領の参加効果が大きく、政治的には成功裏に終わり、直後のメデイアの世論調査で支持率は上昇した。

ところが、首相の政務秘書官を務めていた長男の行動などが週刊誌で取り上げられ、更迭したことが批判を浴び、支持率が下落するなどの動きが続いている。

こうした中で、岸田首相に近い遠藤総務会長は「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」などと盛んに解散風を吹かしてきた。

また、10増10減に伴う候補者調整などに当たっている森山選対委員長は、調整が最終段階にあるとして、選挙態勢が整ってきたことを明らかにした。

自民党執行部の動きとしては5日、役員会の前に岸田首相と麻生副総裁、茂木幹事長3者会談が行われた後、麻生、茂木の両氏は夜、長時間にわたって会食した。党関係者によると「早期解散には大義名分が必要」などとして、早期解散に慎重な意見が出されたという。

翌6日、二階元幹事長は記者団のインタビューに応じ「解散はいつあっても結構だが、何もせずに解散風をふかせるのはけしからん」と最近の動きをけん制した。

このように自民党内では、岸田首相と近い立場の幹部は、早期解散を有力な選択肢として模索しているのに対し、ほかの幹部は異論は唱えないものの「半身の構え」で、慎重な立場をとっているのが特徴だ。

こうした背景としては、早期解散論の幹部は「サミットは成功、支持率も上昇、株価は3万円台の高値で、これ以上のタイミングはない」と強調する。そのうえで「野党はバラバラ、特に維新の選挙態勢ができていない今、選挙をやるべきで、必ず勝てる」と力説する。

これに対して、慎重な幹部は「支持率は高いといっても自民支持層で、岸田内閣を支持する割合が回復していない。また、公明党との選挙協力がギクシャクしたまま選挙になると公明票が見込めず、思わぬ結果を招く」とけん制する。

早期解散に慎重な意見は、閣僚経験者などベテラン議員に多い。今年4月の衆参5補選で自民党は4勝したが、野党の乱立に救われたと楽観論を戒める。

また、自民、公明両党間の候補者調整をめぐって、両党の関係に亀裂が生じたことの影響を懸念する声が根強いのも特徴だ。

前回の衆院選挙で、自民党の小選挙区での当選者189人のうち、次点との差が2万票以内は57人、1万票以内は30人にも達した。公明党・創価学会票は1選挙区2万票程度とされるので、この票のゆくえ次第で議席の大幅な減少も予想される。

公明党が解消の方針を決めた東京の選挙協力については、関係修復の糸口を見いだせておらず、時間がかかる見通しだ。その公明党は、早期解散には反対だ。

このように自民党内、公明党を含めた与党内も早期解散論でまとまっているわけではない。自民党の関係者によると、党内はかなり慎重論が強いという。

そうした中で、主導権発揮に自信を深めているとされる岸田首相が独自の判断で「6月解散」へ踏み込むのか。それとも「秋口以降」の解散を選択するのか、その最終決断を見守っているのが今の状況だ。

 大義名分、主要政策の具体策の提示は

もう1つの焦点は、衆議院の解散・総選挙の大義名分は何か、国民との関係の問題がある。「大義名分など後で考えればいい」と語る幹部もいる。しかし、そうした考えは昭和の時代は通用しても、今の時期は受け入れられないだろう。

自民党の伊吹元衆議院議長は1日、所属していた二階派の会合で、早期解散の観測について「支持率が上がって自民党に有利だとか、党の総裁選挙をうまく運ぶためといった私利私欲で解散したら、国民はみんな見ていて簡単に勝てない」と今の永田町の動きに苦言を呈した。

自民党内には「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」といった意見がある。しかし、国民はそのような政争レベルの理由を聞いているのではない。内外で激動が続く中で、岸田首相は国民生活を安定させていく覚悟と、具体的な政策と道筋を準備しているのかを問うているのだ。

岸田政権は、昨年末に防衛力の抜本強化や、年明けに異次元の少子化対策を相次いで打ち出した。但し、肝心の裏付けとなる財源については、未だに具体策を打ち出せていない。

その防衛財源確保のための増税の実施時期について、政府は当初の「来年以降」の方針から、「再来年・2025年以降」へさらに先送りもできるよう骨太方針に盛り込むことを検討している。

少子化対策、防衛財源についても、具体策は年末の予算編成まで先送りする方針が固まりつつある。

こうした対応は、岸田首相の解散戦略と関係している。要は、国民に不人気な負担の問題は年末まで先送りしたうえで、「6月解散」か、「秋の解散」で乗り切ることをねらっていると政界では受け止められている。

岸田首相は今年1月の施政方針演説で「先送りできない課題に正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく」「(新たな安定財源確保に)今を生きる我々が将来世代への責任として対応して参ります」と決意を表明した。

こうした決意や覚悟はどこへ行ったか。政権が懸案解決に向けた具体策を打ち出したうえで、国会で野党と論戦を戦わせ、論点を明確にして、選挙で国民に信を問うのが、政治の王道だ。

6月解散論は、大義名分が見当たらず、懸案解決の具体策も示さないまま、今が有利と選挙に勝つことを目標に突き進んでいるようにみえる。

仮に実現した場合も、伊吹元議長の指摘する総裁再選を目標にした「私利私欲解散」、あるいは「負担増・増税隠し解散」などの厳しい批判の声が予想される。

 6月解散は?論点・争点設定が重要

最後に直近の問題として、6月解散の可能性はどの程度あるのかという問題に触れておきたい。難しい質問だが、私個人は、6月解散の可能性は低いのではないかとの見方をしている。

但し、不確定要素として最後まで残るのは、岸田首相がどのように決断するかだ。これまで触れたように自民党内のかなりの幹部は早期解散には慎重だ。それでも岸田首相が解散を決断すれば従うとみられるので、解散の可能性が残る。

一方、仮に解散に踏み切るのであれば、その前にやるべきことをやったうえで、決断することを求めたい。それは、岸田政権が懸案から逃げずに将来の解決策と展望を示すことだ。

それに対して、野党も自らの主張や対案を示しながら、論戦を挑んでもらいたい。与野党が論点・争点を明確にして、選挙に臨むのが政治の責任だ。

そうした論戦を踏まえて、解散・総選挙となるのであれば、国民としても納得するのではないか。国民にとっては、解散に至るプロセスが重要だという点を強調しておきたい。

国会の会期末が21日に迫る中で、岸田首相は13日夜、少子化対策で記者会見を行った。この中で、今の国会で解散する考えがあるかと問われたのに対し、岸田首相は「情勢をよく見極めたい」とのべるに止めた。

NHKの今月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、今年1月を底に4か月連続で上昇していたが、6月は43%で3ポイント下落した。不支持は37%で6ポイント増え、その差は縮まった。

G7サミットの評価は高かったが、長男の前首相秘書官を更迭した問題やマイナンバーの誤登録問題が直撃したものとみられる。自民党の支持率も34.7%と相対的には高い水準にあるが、下降傾向が続いており、今月は岸田政権発足以来、最も低い水準となっている。

最終盤の国会は、最重要法案の防衛財源確保法案の扱いと、野党側が内閣不信任決議案を提出するかどうか。その上で、岸田首相が6月解散について、どのような最終判断を示すかが最大の焦点だ。じっくり、見極めたい。(了)

★(追記16日、21時30分)岸田首相は15日夜、記者団の取材に応じ「今の国会での解散は考えていない」とのべ、野党側から内閣不信任決議案が出された場合は否決し、衆議院を解散しない考えを明らかにした。

★国会は16日の衆議院本会議で、立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案について、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決した。

 

”2つの懸念”岸田政権 少子化対策案

岸田政権が最重要課題に位置づける「次元の異なる少子化対策の方針」案がまとまった。30ページの方針案を一読すると、児童手当の所得制限を撤廃するなど経済的給付の具体策が詳細に示されている。

一方、財源については、増税や実質的な負担増を生じさせないとして新たな枠組みを提示しているが、具体策は年末に結論を出すとして先送りになっている。

こうした少子化対策案をどうみるか。結論を先に言えば、2つの懸念がある。1つは、給付の裏付けとなる財源を確保するための「持続可能な制度設計」になっていないのではないかという疑問。

もう1つは、政治との関係だ。年内にも衆議院の解散・総選挙が取り沙汰されている中で、財源確保の具体策を示していないと「論点隠し、争点隠し」といった批判を受けるのではないか。

政治の王道は、時の政権と与野党が懸案への方針を示し、論争を重ねたうえで、選挙で国民が決着を付けるのが基本だ。岸田政権は、こうした2つの懸念に対して、早急に新たな考え方や対応策を打ち出してもらいたい。

 支援策、児童手当拡充など3年間集中実施

第1の懸念である財源確保の問題に入る前に、政府の少子化対策のうち、支援策の中身をみておきたい。

政府は少子化対策を強化するため、今後3年間を集中的な取り組み期間と位置づけ、年間3兆円台半ばの予算を組んで、対策を加速するとしている。

具体的には、児童手当の所得制限を撤廃したうえで、対象も高校生まで拡大するのが大きな柱だ。

また、高等教育にかかる費用の負担軽減策として、授業料の減免や給付型の奨学金について、年収600万円程度までの中間層にまで広げた上で、さらなる拡充を図るといった支援メニューを数多く並べている。

こうした「加速化プラン」で子ども家庭庁の予算は今の5兆円からおよそ1.5倍増えるとしたうえで、2030年代初頭には倍増をめざすとしている。

支援策に対しては「異次元」といえるほどの規模や内容かといった批判も予想されるが、これまでに比べると踏み込んだ対策として、一定の評価はできるのではないかと考える。

 財源確保、持続可能な設計設計か疑問

問題は、こうした対策を実行していくうえで裏付けとなる財源をどう確保するかだ。方針案では、必要となる財源は◇「社会保障費の歳出改革」に加え、◇社会保険の仕組みを活用することも念頭に、社会全体で負担する新たな「支援金制度」を創設する。◇制度が整うまでの不足分は、一時的に「子ども特例公債」を発行してまかなうとしている。

このうち、新たな「支援金制度」は今後検討し、年末に結論を出すとして、先送りしている。

「社会保障費の歳出改革」についても、内容や規模は示されていない。年末の新年度予算案の編成課程で検討を進めるものとみられ、年末に先送りされている。

岸田首相はこうした財源問題については、消費税などの増税は行わない考えを示している。「徹底した歳出改革を行うことなどで、実質的に追加負担を生じさせないことをめざす」と強調している。

増税も社会保険料の上乗せ負担も避けるとなると「歳出改革」が中心になるが、医療や介護などの社会保障分野で、歳出の見直し・削減で、兆円単位の財源を捻出できるとは思えない。

したがって、政府の方針案は「安定した財源確保と持続可能な制度設計」にはなっていないのではないか。こうした疑問・懸念に真正面から答えてもらいたい。

 政権が方針を明示、選挙で政策決定を

2つ目の懸念は、具体的には次の衆議院選挙との関係だ。現状のままでは、肝心な財源問題がはっきりしない中での選挙になる可能性がある。判断材料が示されないので、「論点隠し、争点隠しの選挙」という批判を招くのではないか。

政界では衆議院の解散・総選挙が、年内にも行われるのではないかとの憶測が飛び交っている。最も早いケースは今の国会の会期末といった説も出されるなど与野党の国会議員は浮き足立っている。

政界関係者の間では、今回の財源問題先送りは岸田政権の解散戦略とも連動しており、財源問題・負担増の結論を出す前に、秋口に解散・総選挙を行うねらいがあるのではないかといった見方も出されている。

こうした疑心暗鬼を生じさせないためにも、岸田政権は財源問題について早急に具体的な考え方を明らかにすべきだと考える。

そのうえで、国民に信を問うのが筋ではないか。そうしないと国民の政治参加、選挙で政策を選択・決定という権利を封じることにもなる。

政府の対応を振り返ってみると岸田首相は年明けの記者会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げ、3月末には少子化担当相の下で支援策のたたき台をとりまとめた。

そのうえで、総理官邸に設けた会議で検討を重ね、6月の骨太方針に「内容、予算、財源の大枠を示す」と繰り返し表明してきた。ところが、財源確保の具体案は年末へ先送りになった。これでは、あまりにも対応が遅すぎるのではないか。

岸田政権は、少子化対策の核心部分である財源確保について、具体案を示すべきだ。それに対して野党側も対案などを示し、議論を深めて論点を明確にすることが政治の側の責任だ。

そのうえで、衆議院解散・総選挙で信を問うというのであれば、与野党が選挙を通じて主張を展開し、最終的には国民が選択、1票を投じて決定するのが、政治の基本だ。国民がこうした筋の通った政治、選挙になることを求めるのは、当然の注文だと考える。

国会は6月21日の会期末を控え、与野党の攻防が次第に激しさを増しているが、今月2日に厚生労働省から「2022年の人口動態統計」が発表された。

それによるとこの1年間に生まれた赤ちゃんの数は77万人余りで、初めて80万人を割り込んだ。出生率は1.26で過去最低。死亡者数から出生数を差し引いた自然減は79万人、山梨県や佐賀県のほぼ1県分の人口がなくなったことになる。

人口減少は猛烈なスピードで進んでいる。少子化問題が政治に大きな衝撃を与えたのは1.57ショック、平成元年だ。既に30年余りが経過しているが、思うような成果を上げていない。岸田首相は、安定した財源に基づく強力な少子化対策案を早急に明らかにすべきだ。(了)

 

 

 

 

 

揺らぐ自公、解散、政権への影響は?

次の衆議院選挙の候補者調整をめぐり、自民、公明両党の意見の対立が深まり、公明党が東京での選挙協力を解消する方針を決めた問題で、岸田首相と山口代表が30日会談し、連立政権の枠組みを維持していくことを確認した。

一方、自民党の茂木幹事長と公明党の石井幹事長も会談し、自民党は東京以外に影響が広がらないよう埼玉と愛知で、公明党の候補を推薦する方向で調整を急ぐ考えを伝えた。

このように自民、公明両党の関係が大きく揺らいでいるが、両党の関係はどうなるのか。焦点の衆議院の解散や岸田政権の政権運営にどのような影響を及ぼすのか、探ってみたい。

 埼玉・愛知で協力、亀裂への歯止め

まず、岸田首相と山口代表の党首会談は昼食を取りながらおよそ1時間行われた。この中で、両党の関係や今後の政権運営について意見を交わしたが、公明党が東京の選挙で自民党の候補を推薦しないなどの方針を決めたことについて、岸田首相から言及はなかったとされる。

一方、両党の幹事長同士の会談で、茂木幹事長は両党間の亀裂がこれ以上拡大しないようにするため、次の選挙から選挙区が1つずつ増える埼玉と愛知について「公明党の要望に沿って調整を進めていきたい」とのべ、公明党が擁立を発表している候補を推薦する方向で、地方組織との調整を急ぐ考えを伝えた。

これに対し、石井氏は「なるべく速やかに調整してほしい」とのべた。また、両氏は、全国レベルでの選挙協力に向けて協議を続けていくことでも一致した。

一方、公明党が東京での選挙協力を解消するとした方針の扱いについては、議題として取り上げられなかったという。

このようにきょうの会談は、両党の選挙協力をめぐる亀裂がこれ以上、拡大しないよう歯止めをかけるのが精一杯というのが実態のようだ。

 首相の長男秘書官更迭 波紋広がる

この自公の選挙協力の問題とほぼ同時進行の形で、岸田首相の長男、翔太郎首相秘書官をめぐる問題が表面化した。

翔太郎秘書官をめぐっては、年末に首相公邸で親戚と忘年会を開き、写真撮影をしていたことなどが週刊誌で報じられた。参議院の予算委員会でも取り上げられ、岸田首相は厳重注意をしたと答弁してかわそうとしたが、世論の批判を浴び、29日に更迭に踏み切った。

野党だけでなく、与党からも批判を浴びており、この不祥事で「早期解散は当面、難しくなった」との受け止め方が与野党に広がっている。ただ、一部には「早期解散の流れは変わっていない」と警戒する見方も残っている。

 解散時期、自公の選挙協力体制がカギ

そこで、衆議院の解散・総選挙への影響はどうか。自民党内では、G7広島サミットをきっかけに岸田内閣の支持率が上昇、株価も3万円を超え、これ以上の好条件はないとして、今の国会の会期末に解散に踏み切るべきだとの意見が強まっていた。

ところが、結論を先に言えば、自公の選挙協力が難航し両党の関係に亀裂が入ったことで、早期解散はかなり難しくなったのではないかとみられる。

解散をめぐっては、いろいろな要素が絡むが、端的に言えば、選挙で勝てる見通しがつかないと踏み切ることは難しい。

今問題になっている東京をみると、前回2021年の衆院選挙で自民党は小選挙区で23人の候補者を擁立、このうち21人が公明党の推薦を受け、14人が当選した。

このうち、次点との差がおよそ2万票未満の当選者は6人。公明票は1選挙区で2万票程度といわれているので、この公明票の上乗せがないと当選は厳しいということになる。

全国でみると自民党は小選挙区の277人を擁立し、このうちの95%、ほとんどが公明党の推薦を受けた。このうち、2万票差未満の当選者は57人、1万票差未満は30人。つまり、公明票がないと激戦区で、かなりの議席を失う可能性がある。

そこで、仮に今の国会での6月解散・7月総選挙となると、極めて短い期間に自公の選挙協力体制を整えられるか。また、解散の大義名分、選挙の政策面の争点として何を設定するのか、国民の理解を得るのは難しいとみられる。

他方で、自民党内には、先の統一地方選で躍進した維新などの野党側に対しては選挙体制が整っていない時に解散を打てば有利だとして、早期解散はありうるとの見方もある。

最終的には、岸田首相がどのように判断するかで決まる。個人的な見方を尋ねられれば、岸田政権の現状を冷静に観察すると早期に解散・総選挙を行えるような状況にはならないのではないかとみている。

 自公連立様変わり、選挙協力見通せず

もう1つの焦点である自民・公明両党の連立政権や、岸田政権の政権運営への影響はどうだろうか。

岸田首相と山口代表との会談で、両党による連立政権の枠組みを維持していくことを確認したので、当面、今の連立の枠組みが変わることはないとみられる。重要法案の扱いや主要政策の調整についても従来の方式で進められる見通しだ。

但し、自公の連立がスタートして20年あまりが経過したこともあって、かつての濃密な人間関係は薄れ、連立政権の姿は大きく様変わりした印象を受ける。

振り返ると公明党が連立政権に参加したのは、小渕政権当時の1999年10月だった。前年の参議院選挙で自民党が惨敗し、衆参ねじれ国会となり、自民党の強い要請を受けて、公明党が自自公連立政権の形で政権入りした。

当時の取材メモを読み直してみると小渕首相、野中幹事長が、公明党の神崎代表、冬柴幹事長と水面下でたびたび会談を重ね、連立政権入りを働きかけた。

公明党側は「最初は閣外協力でどうか」などと慎重な姿勢を繰り返したが、最後は小渕首相が「直ちに連立に入り、閣内協力でお願いしたい」と強く要請して実現にこぎつけた。

当時は、金融危機とバブル崩壊後の経済立て直しが最大の課題だった。公明党の連立政権参加で、与党が参議院で過半数を回復した。それ以降、重要な政策決定や選挙態勢づくり、時には政局にも関与しながら双方が一体となって運営に当たった。

第2次安倍政権では、安倍首相は維新との関係が強かったが、公明党に対しては二階幹事長らが調整役を果たしたほか、難問は安倍首相と山口代表のトップが直接、調整に当たった。

これに対して、岸田政権では、首相官邸をはじめ、自民、公明双方ともに真正面方調整に当たる幹部がみられない。今の自公の連立政権は人間関係が希薄で、かつての連立政権と比べると大きく様変わりしている。

今後、問題になるのは、東京の選挙協力をどのように決着をつけるのか、事態収拾の糸口がまったく見えない。東京だけ除いて、それ以外の地域について、選挙協力を進めることができるかどうか、無理がある。

また、公明党は、関西地域で維新と競合が激化する中で、どこで議席を増やすのか。東京で自民党との選挙協力を行わない場合、自民党以外のどの党と協力していくのか、自民党側に疑念を生じさせる可能性もある。

6月21日に迫った通常国会の会期末に向けて、自民、公明両党は重要法案などはこれまで通りの体制で乗り切るものとみられる。但し、夏から秋にかけて予想される内閣改造などの節目には、選挙協力体制を含め両党の関係を再構築することができるかどうか問われることになる。(了)

 

 

終盤国会と解散風で問われる点

G7広島サミットが21日閉幕し、政治の焦点は、終盤国会の与野党の攻防に焦点が移った。同時にサミット効果などで岸田内閣の支持率が上昇し、自民党内では衆議院の早期解散に踏み切るべきだという声が強まっている。

こうした解散風は本物になるのか。終盤国会では何が問われているのか、みていきたい。本論に入る前にG7広島サミットについて、手短に触れておきたい。

結論を先に言えば、これまで日本で開催されたサミット7回の中では、内外の関心を最も集めた首脳会議と言っていいのではないか。

被爆地・広島でのサミットという点もあるが、やはり、世界が一挙手一投足を注視しているウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、G7首脳や新興国首脳との会合に参加した効果が大きい。

G7はウクライナへの支援を強化するとともに、ロシアへの制裁継続を確認した。また、核保有国を含めて各国首脳が原爆資料館を視察し、展示資料を通じて被爆の実態に触れた点も評価していいのではないか。

但し、問題は、全てこれからだ。ウクライナの反転攻勢もこれからであり、欧米の軍事支援が強化されつつあるとはいえ、戦況が好転するか予断を許さない。

専門家によるとこれから数か月、場合によっては半年、大きな山場を迎えるとの見方もある。日本のG7議長国としての役割は、年末まで続く。国内の一部にある早期解散論で浮き足立つような状況には全くないと思うが、どうだろうか。

 終盤国会、防衛・少子化財源問題が焦点

それでは、本論に入って終盤国会はどうなるか。国会の会期は会期末の6月21日まで1か月を切ったが、与野党の論戦の焦点としては、2点ある。

1つは、防衛費の増額に伴う財源確保法案の扱い。2つ目は、岸田政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策の財源をどのような仕組みで確保するかだ。

このうち、防衛費の財源確保法案は23日、衆院本会議で与党の賛成多数で可決され、参議院に送られた。参議院で審議が始まるが、野党の立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党がそろって反対しており、激しい議論がかわされる見通しだ。

少子化対策の財源については、政府は、来年度から3年間で集中的に取り組みを強化するとして、新たに3兆円程度の財源を確保する方向で調整を進めている。

この財源としては、消費増税などの増税ではなく、医療・介護など社会保障費の歳出改革と、社会保険料の上乗せなどで確保することを検討している。

具体的には、健康保険の仕組みを使うことを検討している。これに対して、野党側は「医療や介護など社会保障分野での歳出改革はありえず、社会保険料への上乗せではなく、税で確保するのが筋だ」として、厳しく批判している。

経済界や労働界からも「社会保険料を上乗せすれば、せっかくの賃上げの機運に水を差すことになる」などの異論も出ている。

今月24日と26日には、衆院と参院でそれぞれ予算委員会の集中審議が予定されており、防衛と少子化対策の財源をめぐっては、政府・与党と野党側で激しい議論が戦わされることになりそうだ。

こうした財源問題については、世論の関心も高く、報道各社の世論調査によると政府の防衛増税の方針については、反対の意見が多数を占めている。少子化対策の財源についても社会保険料の活用への賛成は少なく、今後、岸田内閣の支持率にも影響が出てくることも予想される。

今の国会は終始、与党ペースで進んできたこともあって、論戦は極めて低調だった。終盤国会では、防衛と少子化対策の財源問題などを軸に与野党が徹底した議論を尽くすよう強く求めておきたい。

 強まる解散風、勝てる条件・大義名分は

次に衆議院の解散・総選挙をめぐる動きについて、みておきたい。G7広島サミットを受けて、自民党内からは「サミットは大きな成功を納め、世論調査で内閣支持率も上昇している」として、衆議院の早期解散を求める意見が相次いでいる。

こうした背景としては、低迷が続いていた岸田内閣の支持率が回復傾向にあることに加えて、今後は、防衛増税や少子化対策の負担増が具体化してくるので、その前の解散が有利だとの判断が働いているものとみられる。

また、先の統一地方選と衆参補欠選挙で、維新が勢力を大幅に拡大したことから、維新の選挙態勢が整わないうちに解散に打って出るべきだという思惑もある。

一方、与党・公明党の山口代表は、内閣支持率の上昇を理由に解散を考えることは望ましくないとして、早期解散に否定的な考えを表明している。

自民党は小選挙区で議席を獲得するうえでは、公明・創価学会支持層の上乗せで当選した議員も多く、自公の足並みがそろわない中で、与党が勝てる条件を整えられるのか、疑問だ。

また、先の衆院選挙から1年8か月しか経っていない中で、早期解散に踏み切る大義名分は何かという点が問われる。政権与党にとって、今が有利だからというのでは党利党略そのもので、国民の支持はえられないだろう。

 問われる岸田首相の構想と実現力

衆議院の解散・総選挙について、岸田首相は記者団からの質問に対して「先送りできない課題で、結果を出すことに集中しなければならない。今は考えていない」と繰り返し強調している。

一方、自民党内からの早期解散を求める声は強まっており、岸田首相としては最終的にどのように判断するか、今後の焦点だ。

その解散時期について、国民の見方は「今の国会ですぐ」は8%と極めて少なく、「夏以降の年内」18%、「来年」19%、「再来年10月の任期満了まで」が41%で最も多い(NHK世論調査5月)。

要は「解散を急ぐ必要はない」と考えている国民が多い。別の表現をすれば「解散よりも前に、やるべきことがある」と考えている国民が多いということだろう。

岸田首相は、防衛政策の転換で日本の防衛力整備の姿をどのように考えているか。異次元の少子化対策では、何を最重点に実現したいのか。新しい資本主義で何をやりたいのか、いつまでに実行できるのか。

国民は、以上のような岸田政権がめざす政権の具体的な構想を求めているのではないか。その上で、構想を実現していく力を備えているのかどうかを見極めようとしているのではないかと考える。

終盤国会では、大きな論点として残されている防衛と少子化対策の財源問題について、政府・与党と野党側との間で徹底した論戦を尽くしてもらいたい。

そのうえで、国民の側は、岸田首相が解散・総選挙に踏み切るのかどうか。解散の大義名分をはじめ、焦点のウクライナ情勢、政策の争点設定など必要な条件が整っているかどうかで、解散の是非を判断して対応すればいいのではないか。

会期末まで目が離せない緊張した展開が続くことになりそうだ。(了)

★(追記25日22時)次の衆議院選挙に向けた自民・公明両党の候補者調整で、双方の意見の対立が深まり、公明党は25日、東京28区の擁立を断念した上で、東京では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定し、自民党に伝えた。与党の足並みの乱れは、衆院解散・総選挙の時期にも影響を与えることになりそうだ。

 

 

G7広島サミット”世論は冷静思考”

G7=主要7か国首脳会議が19日から3日間の日程で、広島市で開かれる。G7サミットが日本で開かれるのは7年ぶり、7回目になる。

アメリカのバイデン大統領をはじめとする主要国の要人が相次いで来日するので、開催地の広島だけでなく全国的に大規模な警備体制が敷かれる。

また、メデイアを通じて膨大なサミット情報が洪水のように出されることが予想されるが、国民は今回のサミットをどのようにみているか。

一方、政界の一部には、サミット終了後、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかとして、サミットへの国民の反応を注視している動きもある。

そうした中で、NHKの世論調査が発表されたので、このデータをみながら広島サミットへの国民の見方や政治への影響を探ってみたい。

 ウクライナ情勢議論、世論の見方は

さっそく、今回のG7広島サミットを国民はどのように受け止めているのか、この点からみていきたい。

◆サミットでは、ウクライナ情勢が主要な議題になるものとみられている。NHKの世論調査(5月12日から14日実施)では「ロシアの侵攻を止めさせるための実効性がある議論が期待できると思うかどうか」について聞いている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」が26%で、合わせて「期待できる」は28%。これに対して、◇「あまり期待できない」50%、◇「まったく期待できない」16%で、「期待できない」は合わせて66%となった。

◆今回のサミットは被爆地広島で開かれることから、「核兵器のない世界」の実現に向けた機運が高まることを期待できるかどうかについても尋ねている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」27%で、「期待できる」は29%。◇「あまり期待できない」45%、◇「まったく期待できない」20%で、「期待できない」は65%となった。

ウクライナ情勢と、核廃絶の問題ともに目に見えるような成果を早期に求めるのは、難しいとの見方をしている。国民の多くは、サミットの主要課題について、冷静かつ客観的に見極めようとする姿勢・思考がうかがえる。

◆外交分野では、岸田首相と韓国のユン大統領が3月に続いて、今月も首脳会談を行い、対話を重ねていくことを確認したことについて、日韓関係が改善に向かうかどうかを聞いている。

◇「改善に向かうと思う」が53%で、「改善に向かうとは思わない」の32%を上回った。

このように日韓二国間の問題については、積極的に評価しようとする人が多いことも明らかになった。

広島サミットで議長を務める岸田首相はインタビューなどで「平和の象徴である広島にG7首脳が集う歴史的に大きな重みがある」「ロシアが行っているような核の威嚇を拒否していく強い意思を発信する」などの考えを強調している。

これに対して、国民世論はサミットの意義は評価しつつ、首脳会議の内容に実効性があるのかどうか、冷静に見極めて判断しようとしている。サミットを政治的なセレモニーではなく、外交・安全保障などの面で前進しているのかどうか、中身で評価しようとしており、大いに評価できる。

 サミットの年は解散のジンクス、今回は

さて、政界では「サミットの年には、衆議院の解散がある」とのジンクスがある。日本で開かれたサミット7回のうち、4回連続で同じ年内に衆議院が解散・総選挙が行われた歴史がある。

具体的には、1979年の大平元首相、86年の中曽根元首相の時には、衆参ダブル選挙だった。93年の宮沢元首相、2000年の森元首相の時もサミットが行われるとともに衆議院の解散・総選挙が行われた。

その後、2008年の福田元首相の時、および前回2016年安倍元首相の伊勢志摩サミットの時には、解散・総選挙は見送られた。

こうしたジンクスに加えて、政界の一部には、岸田首相は野党の選挙態勢が整っていないのを好機とらえ、広島サミットの勢いに乗って衆議院の解散に打って出るのではないかという見方が根強くある。

◆その岸田首相の5月の内閣支持率はどうか。支持率は46%で、前月より4ポイント上昇し、不支持率は31%で4ポイント減少した。

この結果、岸田内閣の支持率は1月の33%を底に4か月連続で上昇、支持が不支持を3か月連続で上回った。岸田内閣は最悪期を脱し、回復傾向にある。

こうした背景には、通常国会が与党ペースで進み、野党側が存在感を発揮できていないことがある。また、岸田首相が大型連休を利用してアフリカ5か国歴訪や韓国訪問などでメデイアの露出度を増したことも影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣を支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が45%で最も多く、相変わらず消極的支持が多い。支持しない理由としては「政策に期待が持てない」が50%、「実行力がない」が20%と多く、政権が力強さを発揮するような状況にまで至っていない。

 サミット後の早期解散説、世論は少数

◆それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているか。◇「G7広島サミットの後すぐ」は8%、◇「夏以降の年内」18%、◇「来年」19%、◇「再来年10月の任期満了まで」41%となっている。

政界の一部にある「サミット終了後の早期解散説」については、世論の見方は1割にも達していない。任期4年のうち、まだ1年7か月しか経過していないので、国民が解散を急ぐ必要はないと考えるのは当然ともいえる。

このようにみてくると、広島サミットについては、ウクライナ侵攻の停戦に向けた糸口を見いだせるか。核廃絶や核軍縮が一歩でも前進するのか。ロシア、中国対日米欧の構図が続く中で、G7は中国との関係をどのように位置づけて対応していくのかなどが注目される。

一方、サミット後の終盤国会では、防衛費の大幅増に伴う財源確保の法案の審議と、異次元の少子化対策の財源をどのように確保していくのか、待ったなしの状態にある。

会期末に向けて、最終盤の国会では、野党側が内閣不信任決議案を提出するのかどうか。それを受けて、岸田首相が衆議院の解散・総選挙へ打って出るのかどうか、政局が緊迫する局面も予想される。

国民の側は、まずはG7広島サミットの協議の中身を冷静に評価するとともに、政治が今、為すべきことは何か、しっかり見ていく必要がありそうだ。(了)

解散風と終盤国会 ”やるべきことは”

大型連休が終わり、長丁場の通常国会も終盤に入った。永田町では、岸田首相はG7の広島サミットを終えて、会期末に衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの声が聞かれるなど夏の解散風が吹き始めた。

一方、ここまでの国会論戦は極めて低調で、岸田政権や与野党双方とも日本の将来をどのように考えているのか、さっぱり伝わって来ない。加えて、終盤国会は解散をめぐる駆け引きばかりとなると国民は困惑してしまう。

個人的には今、衆議院の解散を行うような状況にはないと考えているので、会期末に向けて浮き足立つ議員の動きを想像すると「解散より前にやるべきことがある」と言わざるを得ない。

終盤国会は、議論を尽くしておくべき3つの論点を抱えている。戦後の安全保障政策の転換といわれる防衛力の抜本強化と防衛増税の扱いが1つ。

また、異次元の少子化対策と財源、それに経済運営の今後のかじ取り。以上の少なくとも3つの論点について、政権与党と野党はそれぞれの方針を明示して、徹底した議論を重ねる必要があると考える。

こうした論点を明確にしたうえで解散・総選挙に踏み切るのであれば、国民も一定の理解を示すのではないか。

逆に論点を曖昧にしたままの解散の場合、厳しい審判が下される可能性があるのではないか。解散風が吹き始めた中で、解散と国会のあり方を考えてみたい。

 防衛費の大幅増、防衛財源は持続可能か

国会は会期末の6月21日まで40日余りとなり、政府提出法案のうち、新年度予算や、かなりの法案が既に成立、または成立のメドがつきつつある。

終盤国会で与野党の対決法案として残るのは、防衛費の大幅な増額をまかなうための財源確保法案がある。衆議院段階で審議が続いている。

政府は2023年度から5年間に防衛費の総額を今の1.6倍にあたる43兆円に増やすとともに2027年度以降、毎年度、防衛費を今より4兆円増やす方針だ。

その財源確保の主な柱として「防衛力強化資金」を創設する方針だ。具体的には、国有地を売却したり、特別会計の剰余金を集めたりして9千億円を見込むのをはじめ、補正予算に活用してきた決算剰余金7千億円をかき集め、税金以外の歳入をためておくための法案だ。

問題は、国有地の売却益や特別会計の剰余金の活用といっても1回限りなので、今後も財源を確実に手当できるかどうかわからない。一方、1兆円強とされる増税は、実施時期が決まっていない。

このように防衛費の大幅増額は決まったものの、財源は確実に確保できるのか、持続可能な安定財源なのか明確にしておく必要がある。

外交・安全保障分野では、今月19日から開催されるG7広島サミットを受けて、ウクライナ支援とロシア制裁、米中対立が激しさを増している中で対中外交をどのように進めていくのか、終盤国会で突っ込んだ議論を行う必要がある。

 少子化対策 優先順位と財源の明示を

岸田政権が最重要課題に位置づける異次元の少子化対策については、3月31日に子ども政策担当相からたたき台が示された。この案を政府が引き取って、岸田首相の下に新たな会議を設けて検討を進めており、6月の骨太方針に盛り込む運びになっている。

政府のたたき台では、子ども手当の所得制限の撤廃や、学校給食費の無料化など大胆な対策が打ち出されているが、防衛費と同じく財源をどう確保するかが最大の問題だ。

今の少子化対策関係予算は6兆1千億円で、これを倍増するには、相当な規模の財源が必要だ。政府・与党内では、消費税率の引き上げを除いて、社会保険料の上乗せや、歳出の見直し、国債発行などの案が出されているが、方向性すら定まっていない。

岸田政権としては、少子化対策の優先順位とどのような財源を組み合わせるのか決断の時期が迫っている。

 働き手大幅減、経済のかじ取りは

3つ目の経済運営の問題はどうか。政府とともに経済・金融政策のかじ取りに当たる日銀は、10年間続いた黒田総裁から、学者出身の植田総裁に交代したが、これまでの金融緩和策は、当面、継続する方針だ。

一方、物価の高騰は続き、東京23区の4月の消費者物価指数は3.5%上昇し、1976年以来46年ぶりの高い水準が続いている。

今年の春闘は大手企業では30年ぶりの高水準の回答が相次いだが、3月の実質賃金は物価上昇の影響で2.9%の減少、12か月連続のマイナスだ。

こうした中で、4月26日に発表された「将来推計人口」によると日本の総人口は50年後には3割減の8700万人に縮小することが明らかになった。特に15歳から64歳までの生産年齢人口、働き手は3000万人も減少するとの予測だ。

日本の過去の実質成長率は、2000年から2021年までの平均で0.65%。経済の専門家は「政府は実質2%の高い目標を掲げているが、高い目標を掲げることだけでは問題の深刻さを隠蔽することになる」と警告している。

岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出したが、政権発足から1年半、何を最重点に取り組むのか、未だにはっきりしない。対する野党は、どのような対案で挑むのか、この国会でも経済論争は未だ深まらないまま、終盤国会を迎えている。

  解散より前にやるべきことがある!

政治の動きに話を戻すと、政府・与党内では岸田内閣の支持率が上昇傾向にあるとして、G7広島サミット終了後、来月の国会会期末に岸田首相は、衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの説を聞く。

この早期解散説の本音は「岸田内閣の支持率はまもなくピークを迎え、下り坂に向かう。野党はバラバラ、体制は整っておらず、今がチャンス」との見方だと思われる。

これを国民の側からみると「国会でろくに議論もしないで、何を基準に選べというのか」と反発する人も多いのではないか。新たな議員を選んだとしても再び同じ議論の繰り返しになりかねない。

先にみてきた3つの論点を思い出してもらうと、答えは自ずと出てくる。「衆院解散・総選挙の前にやるべきことがある」。終盤国会では、主要な論点、選挙の争点にもつながる問題について、まずは、政権が基本方針や構想、実現するための具体策を提示すること。

対する野党側も対案を打ち出すなどして、徹底して議論を尽くすことが基本だとと考える。その上で、首相が総合的に判断して、解散・総選挙で信を問うという次の段階もありうるのではないか。

今の選挙制度に代わって、前の解散から次の解散まで最も短かったのは2003年、小泉首相時代の郵政解散で1年9か月だった。今回、6月解散に踏み切るとさらに短く1年8か月だ。衆院選挙は1回当たり600億円程度の経費がかかる。

経費のレベルの問題ではないが、世界が激しく揺れ動く時代、日本の地位も国際社会で下がり続けている時期に、争点がはっきしない解散・総選挙は御免被りたい。首相、議員の皆さんには「難題解決、将来を切り開いていくための選挙、政治」を行ってもらいたい。日本にはそれほど時間は残されていない。(了)