”早期解散風”の見方・読み方

衆参5つの補欠選挙が終わったのを受けて、政界は大型連休明けからG7広島サミットを経て、6月の通常国会会期末に向けて、与野党の激しい駆け引きが予想される。

最も注目されるのは、国会会期末に野党が岸田政権に対する内閣不信任決議案を提出するか。岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るかどうかが、最大の焦点になる見通しだ。

岸田政権や自民党内では衆参補選が4勝1敗と勝ち越したことから、会期末に衆議院の解散・総選挙に打って出るべきだという早期解散論が聞かれるほか、野党側にも早期解散を警戒する受け止め方がある。

さて、こうした早期解散論はどんな思惑があるのか、実現可能性はどの程度なのか。大型連休の最中だが、平穏な時期に解散・総選挙のあり方をさまざまな角度から考えてみたい。

 早期解散 争点隠しとの見方も

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、先の補欠選挙の結果をどのようにみるかで、考え方に違いがある。自民党は4勝1敗、選挙前より1議席増えたことで、内容はともかく、”勝ちは勝ち”だとして早期解散はありうるとの見方がある。

これに対して、勝ち方の中身をみると和歌山1区で、日本維新の会に議席を奪われたのをはじめ、そのほかの選挙区でも野党側に接戦に持ち込まれ、世論の支持が十分得られていないとして慎重論も聞かれる。

そうした中で、岸田首相はウクライナを電撃訪問したのに続いて、異次元の少子化対策の内容のとりまとめを急いでいる。G7広島サミットを終えて支持率がさらに上がれば、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性は大きいとの見方が、政権与党内に根強くあるのも事実だ。

早期解散の理由としては、岸田内閣の支持率が低迷から抜けだし、回復傾向にあること。G7広島サミットの開催でさらに上昇することが期待できるとして、政権に勢いがあるチャンスを生かすべきだという声も聞く。

一方、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策」の財源確保については、社会保険料の引き上げなど国民負担が避けられない。また、防衛増税の実施時期についても年末までには決定する必要がある。

世界経済はアメリカの金利引き上げなどの影響で下り坂に向かう可能性がある。つまり、早期解散論の背景には、岸田政権はこの先、好材料が見当たらないので、支持率が高いうちに解散に打って出るべきだという判断がある。

このほか、野党側は、日本維新の会は躍進したものの、野党第1党の立憲民主党には勢いがなく、野党低迷の時が有利だとの思惑も働いている。

こうした早期解散論を国民は、どうみるか。少子化対策の財源や防衛増税の決定前の選挙が有利だとする姿勢に見えるので、端的に言えば”争点隠し”、党利党略の色彩が濃い解散と批判的に受け止めるのではないかとみている。

   解散の条件、時期をどう考えるか

さて、衆院解散・総選挙は、最終的には岸田首相が判断するので、与野党の攻防や駆け引きによって、今後、どのように展開するかわからない。そこで、解散の条件や時期について、さまざまな角度からさらに分析してみたい。

まず、解散・総選挙の決断に当たっては、勝てる見通しがあるのかどうかが最大のポイントになる。具体的には、自民、公明両党の選挙協力が機能することが不可欠の条件だ。

ところが、公明党は先の統一地方選挙では、目標の全員当選どころか、地方議員の12人が落選した。1998年の公明党再結成以来初めてという激震に見舞われている。地方組織の高齢化や運動量の低下、各候補への票割りの判断ミスなどが指摘されている。

また、「10増10減」に伴い定数が増える首都圏や愛知県で、公明党は候補者を擁立する小選挙区を増やすよう求めているが、自民党は難色を示し、調整が進んでいない。自公の選挙協力体制が機能しないと早期解散は難しいのではないか。

さらに岸田首相の政権戦略とも関係がある。岸田首相にとって、来年9月の自民党の総裁選で再選を果たすことが、大きな目標だ。そのためには、いつ解散に踏み切るのが有利かという問題でもある。

自民党内では、最大派閥の安倍派の後継会長選びの見通しがついておらず、岸田首相の有力な対立候補が見当たらないとの見方が強い。そうすると衆議院で安定多数を確保しているのに、解散を急ぐ必要はないのではないかといった見方も聞かれる。

一方、野党が低迷している状況で、解散に踏み切るのは、政権与党にとって有利であることは事実だ。しかし、選挙は将来展望を語って国民の支持を得るのが基本で、そうした本来の姿から大きく外れる。

国民の見方はどうか。朝日新聞の4月の世論調査をみると◇「できるだけ早く解散すべき」は22%に対し、◇「急ぐ必要はない」が67%と圧倒的多数を占める。

以上、さまざまな要素を総合して考えると、私は早期解散の確率は低いとみる。しかし、岸田首相自身は政権運営は極めて順調で、国民に信を問いたいと考えるかもしれない。岸田首相の意欲の問題と、解散に踏み切る条件は整っているか、2段階でみていく必要があると考える。

 停滞日本の立て直し、終盤国会で論戦を

衆議院の解散・総選挙の是非、あり方はどのように考えたらいいのだろうか。安倍政権当時「不意打ち解散」と呼ばれたように野党の備えがない時をねらって解散を断行、政権与党が勝利したケースも頭に浮かぶ。

解散・総選挙の基本は、政権が取り組むべき課題と対策を明らかにして、野党側と徹底して議論を交わし、国民の判断を仰ぐのが基本だ。国民自身もそのように願っていると思われる。

今の日本が抱える問題、例えば、この20年間の実質経済成長率は0.6%に止まり、賃金も上昇しない状態が続いてきた。科学技術力も論文引用数でみると22年前は世界4位だったのが、今や12位に後退している。生産年齢人口は今後、50年間で約3000万人も減少するとの予測が先日、公表された。

停滞日本をどのように立て直すのか、かねてから政治が問われている大きな課題だ。岸田政権も焦点の異次元の少子化対策の財源をどうするのか、具体策が中々、決まらない。去年決まった防衛増税の実施時期も年末までかかりそうだ。

衆議院議員の任期は、まだ1年半しか経過していない。この1点からして、早期解散にはかなり無理があると感じる。

国民の多くは、早期解散より、停滞が続く日本経済・社会の立て直しにどのように取り組むのか、そのために政治は何をやるのか、政権の明確な方針と与野党の論争を期待している。連休明けの国会では、政争・駆け引きではなく、日本再生に向けて熱のこもった真剣な論戦をみせてもらいたい。(了)

 

岸田自民”薄氷の勝利”衆院解散は?

岸田政権の「中間評価」と位置づけられる衆参5つの補欠選挙は、自民党が4議席を獲得する一方、日本維新の会が1議席を獲得した。野党第1党の立憲民主党は、1議席も獲得することができなかった。

この選挙結果をどのようにみるか。まず、勝敗面を客観的に読むと自民・勝利、維新・躍進、立民・敗北と言っていいだろう。

但し、今後の岸田政権の運営や政局の展開を考えると、勝ち方が問題だ。勝利の中身に踏み込んで評価をすれば、”薄氷の勝利”が実態に近いとみている。

焦点の衆議院の解散・総選挙についても、岸田首相は解散カードを手にしているが、高いリスクを伴っていることも顕在化した。候補者の選び方の問題や、無党派層の支持が得られていないことが浮き彫りになった。

一方、野党側では、維新の躍進によって立憲民主党との間で、野党第1党の座を意識した競い合いが激化する見通しだ。その際、次の衆院選では、野党の共倒れをいかに防いでいくのか、野党の選挙戦略も問われることになる。

なぜ、このような見方・読み方をしているか。また、焦点の衆議院解散・総選挙の時期や条件などについてもみていきたい。

 自民4勝議席獲得も、高揚感なし

今回の補欠選挙をめぐって自民党内では当初、保守地盤の選挙区が多いこともあって、5戦全勝説が聞かれるなど楽観視する空気が強かった。

ところが、選挙が近づくにつれて野党側の追い上げが激しくなり、最終盤には、最悪のケースとして2勝3敗説がささやかれるほどだった。選挙結果は4勝1敗、喜んでいいはずだが、高揚感は感じられない。そこで、各選挙区の勝敗のポイントを絞ってみておきたい。

▲衆議院山口4区については、安倍元首相の後継者として、自民党新人の吉田真次氏が、立憲民主党の元参議院議員、有田芳生氏らに大差をつけて、当選を果たした。安倍昭恵さんが全面的に支援し、事実上の「弔い選挙」が強みを発揮した。

▲山口2区は、父親の後を継いで立候補した自民党の岸信千世氏が初当選したが、無所属新人で、立憲民主党有志の支援を受けた元法相の平岡秀夫氏に5700票差まで追い上げられた。「世襲批判」が強く働いたものとみられている。

両選挙区とも投票率が2年前の衆議院選挙に比べて、山口2区が9.2ポイント下回って42.4%、山口4区が13.9ポイント低い34.7%で、いずれも過去最低を記録した。選挙から距離をとった有権者がかなりの数に上ったことがうかがえる。

▲和歌山1区は、日本維新の会の新人、林佑美氏が和歌山県内の小選挙区で初の議席を獲得した。前半戦の奈良県知事選で勝利した勢いに乗って、党の勢力を集中したことが功を奏した。維新は大阪、兵庫以外で衆院小選挙区の議席を獲得したのも初めてだ。

自民党関係者に聞くと「党の候補者に問題がありすぎた」とのべ、地元選出の二階元幹事長と世耕参院幹事長との確執で、強力な候補者を選べなかったことが敗因との見方を示した。

▲千葉5区については、自民党の新人、英里アルフィヤ氏が4900票余りの僅差で、立憲民主党の新人の矢崎堅太郎氏らを振り切って勝利した。野党の立民、国民、維新、共産の各党がそれぞれ候補者を擁立し、候補者乱立となったことが自民の議席獲得につながった。

▲与野党の一騎打ちとなった参議院大分選挙は、自民党新人の白坂亜紀氏が、立憲民主党の吉田忠智氏をわずか241票差で初当選を決めた。この背景には、大票田の大分市の投票率が33%へ大幅に下がったことがある。市長選が無投票になったためだが、無党派層を多く獲得していた吉田氏には誤算だった。

このように自民党は、選挙前より1議席多い4議席を獲得したが、選挙の中身は野党側との接戦が多く、何とか競り勝ったというのが実態だ。

また、前半戦の奈良県知事選では党の組織が分裂して敗北したのに続いて、和歌山でも候補者選びが難航したあげく議席を失った。岸田首相や茂木幹事長ら党の最高首脳部の統率力に問題があったのではないかと指摘する声もくすぶっている。

さらに、自民支持層と並んで大きな集団である無党派層の支持獲得についても、野党側に大きな差をつけられた選挙区が目立った。次の衆議院選挙では、都市部を中心に議席を失いかねないと危惧する見方も聞く。

このように自民党内は、保守地盤の和歌山で維新の進出を許したのをはじめ、選挙態勢づくりなどをめぐっても問題点が浮き彫りになったことから、議席を増やしたものの、勝利したとの高揚感は乏しい。

   維新躍進、立民と野党第1党争い激化

それでは、野党側の対応はどうか。躍進した維新の馬場代表は記者会見で「和歌山で1議席獲得したことは、関西や全国に党勢を広げていく大きな追い風になる」として、次の衆議院選挙ではすべての小選挙区に候補者を擁立したいという考えを示した。

維新は、今回の統一地方選挙で、地方議員の数を1.5倍の600人に増やす目標を立てたが、非改選を含めて774人となり、目標を達成したことを明らかにした。

また、次の衆議院選挙では野党第1党をめざすとともに今後、3回の衆院選挙で政権交代を実現する構想を打ち出している。

このため、今後、立憲民主党と野党第1党をめぐる競い合いが激化するものとみられる。但し、次の衆議院選挙をめぐって、立憲民主党と維新の両党が互いに候補者を出し合うと、共倒れになる事態も予想される。

維新にとっても、候補者調整などを行わないと小選挙区で多数の議席を獲得するのは難しいとみられる。それだけに競合しながら、野党間の選挙態勢づくりをどうするかの調整が大きな課題になるのではないか。

このほか、立憲民主党は、千葉5区など3つの選挙区に公認候補を擁立したが、議席を確保できなかった。今後、党の態勢の立て直しや、執行部の責任を問う動きが表面化することも予想される。

  衆院解散・総選挙をどうみるか?

統一地方選挙と衆参補選が終わったのを受けて、岸田首相は24日「与党・自民党が重要政策だと掲げたものについて、『しっかりやり抜け』と叱咤激励を受けた」として、来月のG7広島サミットや後半国会での重要法案に全力を挙げる考えを強調した。

政界では、岸田首相が通常国会の会期末に衆議院を解散、総選挙に踏み切るかどうかが最大の焦点になっている。

その時期をめぐっては、早期解散の見方がある。一方で、岸田首相自身は強い意欲を持っていても、実際には条件が整わず、秋以降に持ち越すとの見方がある。

例えば、今回の千葉5区のように野党がバラバラだったり、参院大分選挙区のように野党第1党の力量が弱体化したりして、岸田首相が勝てると判断すれば、早期解散を決断する可能性は大いにあるとみることもできる。

しかし、岸田首相が解散に踏み切る大義名分はあるか。また、政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策について、財源の具体策を示し国民を説得できるのか。

さらには、統一地方選が終わったばかりで、早期解散に慎重な公明党の理解を得て、与党の選挙態勢を整えることはできるのか、乗り越えるハードルは多いのも事実だ。

私は後者の見方だが、政界は一寸先は闇といわれるのも事実だ。私たち国民の側も早期解散に備えて常在戦場、岸田政権が取り組むべき重要課題は何か考えておく必要がある。

そのうえで、岸田政権や与野党に対して、重要課題にどんな方針と具体策で臨むのか、早期に明らかにするよう求めていく必要があると考える。(了)

補選は大接戦続く「岸田政治」が焦点

統一地方選挙後半戦の23日の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙は、いずれも与野党激突の構図になっており、このうち4つの選挙区では、最終盤に入っても大接戦が続いている。

それぞれ個別の選挙区事情を抱えているが、最終的には有権者が、岸田政権の防衛力抜本強化や異次元の少子化対策などの主要政策をどのように評価するかが、勝敗のカギを握っている。

衆参5つの補選の最終盤の情勢と勝敗のポイント、選挙の争点を探ってみる。

 補選4選挙区 大接戦のまま投票日へ

衆参5つの補欠選挙について、与野党の選挙関係者などについて、選挙情勢を取材した。

結論を先に言えば、衆議院山口4区については、自民党の新人がリードしているが、残りの千葉5区、和歌山1区、山口4区、参議院大分選挙区の4つは、与野党が激しくぶつかり、大接戦のまま投開票日を迎えようとしている。

▲まず、千葉5区は、自民党の衆議院議員が「政治とカネ」の問題で辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の新人で、元千葉県議会議員の矢崎堅太郎氏と、自民党新人で公明党が推薦する元国連職員の英利アルフィヤ氏が激しく競り合っている。

千葉5区は東京に通勤する住民が多い都市型選挙区で、無党派層の動向が勝敗を左右する。「政治とカネの問題」をはじめ、岸田政権が掲げる防衛力増強、異次元の少子化対策などの主要政策にどのような判断を示すかが焦点だ。

一方、野党陣営をみると立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党がそれぞれ公認候補を擁立しており、こうした野党乱立が選挙の勝敗にどのように影響するかもポイントになりそうだ。

▲和歌山1区は、自民党の元衆議院議員で、公明党が推薦する元国土交通政務官の門博文氏と、日本維新の会の新人で、元和歌山市議会議員の林佑美氏が激しく戦っている。

今回の補選は、この選挙区で5期連続当選を重ねてきた国民民主党の岸本周平元衆議院議員が知事に転出したのに伴う選挙だ。この選挙区で苦杯を重ねてきた門氏が、保守中道票をどこまでまとめきれるかがポイントだ。

林氏を擁立した維新は、前半戦の奈良県知事選で勝利するなど議席を大幅に増やした勢いを国政につなげていく戦略だ。大阪府の吉村知事や、奈良県の山下知事らを応援に投入、和歌山県で初の衆議院議席の獲得をめざしている。

▲岸信夫元防衛相の辞職に伴う山口2区は、岸氏の長男で、自民党新人の岸信千世氏と、元衆議院議員で民主党政権で法相を務めた無所属の平岡秀夫氏が争っている。

信千世氏は、岸信介元首相のひ孫で、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相の政治一家で育ったことで知られる。分厚い保守地盤に加えて、看板、豊富な資金力を誇るが、「世襲批判」の声も強い。

当初は大差がつくのではないかとの見方もあったが、各種世論調査で平岡氏が激しく追い上げており、「世襲批判」の風がどこまで強まるか注目点だ。

▲安倍元首相の死去に伴う山口4区については、後継として擁立された自民党新人で公明党が推薦する元下関市議会議員の吉田真次氏が、立憲民主党の新人で元参議院議員の有田芳生氏をリードしていると与野党双方ともみている。

▲参議院大分選挙区は、前議員が知事選立候補のため辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の前議員の吉田忠智氏を、自民党新人で公明党が推薦する飲食店経営の白坂亜紀氏が激しく追い上げている。

吉田氏は、共産党や社民党の推薦を受けており、野党共闘の形を整えて選挙戦に臨んでいる。村山富市元首相の出身県で、野党共闘の歴史を基盤に無党派層でどこまで支持を広げることができるかが課題だ。

白坂氏は東京の銀座などで飲食店を経営しており、公募に応じて立候補した。知名度を上げる一方で、自民党がどこまで組織的なテコ入れをして出遅れを挽回できるかが焦点だ。

このように山口4区を除く4つの選挙区は、いずれも与野党の候補が僅差で激しく競り合っている。選挙前は、自民が3議席、野党が2議席を占めていた。

5つの補選のゆくえは◆自民が競り勝って5戦全勝のケース、◆逆に野党が3勝2敗と勝ち越すケース、◆自民4勝1敗、◆自民3勝2敗の4つのケースが想定される。どのケースで決着がつくのか、今の時点で正確に見通すのは困難だ。

 選挙の争点「岸田政治」をどう評価

それでは、次に補選の争点は何かを考えてみたい。その前に補選の選挙戦に入った15日、岸田首相が選挙応援のため訪れた和歌山市の演説会場に爆発物が投げ入れられて、24歳の男の容疑者が逮捕される事件が起きた。

この事件が補選に影響を及ぼすのかどうかをみておきたい。読売新聞は14日から16日に実施した世論調査で、岸田内閣の支持率が47%へ5ポイント上昇したと報じるとともに、支持率上昇は今回の事件が影響した可能性があるとの見方を示している。

政界でも選挙戦で与党に有利に働くのではないかとの見方がある。但し、読売の調査では、自民党の支持率は上昇せず1ポイント下がっている。

自民党の複数の選挙関係者に聞いてみたが、いずれも「個別の選挙に直接、影響を及ぼすようなことはないのではないか」との見方だった。

その理由としては「有権者は、容疑者の人柄や犯行の動機に関心はあるが、選挙の選択とは分けて考えているのではないか」との見方だった。私も基本的に同じ見方だが、選挙結果が判明した段階で改めて点検してみたい。

さて、選挙の争点は何か。選挙区によって、個別の問題などの違いはあるが、与野党とも今回の補選は、発足からまもなく2年を迎える岸田政権の「中間評価」になると位置づけている。

有権者としても、岸田政権が進めてきた政策の是非を評価、判断する機会になる。具体的には、原油高騰などに伴う物価高対策、賃金の引き上げ、新しい資本主義といった経済政策のかじ取りは適切か。

また、岸田政権が年末に、戦後の安全保障政策の大転換として打ち出した防衛力の抜本強化と防衛増税の是非をどう考えるか。今年に入って重要課題と位置づける異次元の少子化対策の内容と財源確保などへの取り組み姿勢を支持するか。

さらに、岸田首相の政権運営をめぐっては、防衛増税の決定にみられるように与野党や国民の意見を聞いたり、中身を説明したりする姿勢に欠けるのではないかといった声も出されてきた。

有権者は、こうした論点のどれを重視して投票したか、選挙の出口調査などを分析すれば明らかになる。今度の補選は勝敗面だけでなく、有権者が何を重視して選択をするかといった点も注目してみていきたい。岸田政権の政権運営の進め方や評価の物差しになる。(了)

”支持率回復は本物か?”岸田政権

統一地方選挙の前半戦が終わり、各党とも4月23日投開票の後半戦と衆参5つの補欠選挙に向けて、激しい選挙戦に突入している。

永田町では先月下旬以降、春の解散風が吹き始め、一部に岸田首相は通常国会の会期末に早期解散に打って出るのではないかとの観測も聞かれる。

その根拠の1つとして、岸田首相のウクライナ電撃訪問をきっかけに岸田内閣の支持率回復を上げる関係者が多い。

果たして、本当に岸田内閣の支持率は回復しているのかどうか、今週NHKと朝日新聞の世論調査がまとまったので、そのデータを基に分析してみたい。

 上昇から横ばい、電撃訪問効果は限定的

さっそく、岸田内閣の支持率からみていこう。NHK世論調査(7日から9日実施)によると◆支持率は42%で先月の調査から1ポイント増、◆不支持率は35%で、5ポイント減少した。

不支持率が5ポイント減少したが、「わからない」との回答が5ポイント増えているので、支持率が好転したわけではない。

一方、朝日新聞の調査(8日、9日実施)によると◆支持率は38%で先月から2ポイント減、◆不支持率は45%で5ポイント減少した。

2つの調査とも3月と比べて、支持率は1~2ポイントわずかに増えたが、誤差の範囲で、横ばいという点で共通している。

次に、世論は岸田首相のウクライナ電撃訪問をどのように評価しているか。NHKの調査では「評価する」が58%で、「評価しない」の34%を上回った。

朝日の調査は「ロシアによるウクライナ侵攻について、岸田首相の対応を評価するか」と設問の表現は異なるが、「評価する」が47%で、「評価しない」の39%より多かった。

つまり、2つの調査とも「評価する」が上回ったが、岸田内閣の支持率は横ばいのままだ。

岸田首相の電撃訪問は先月21日。2週間後の世論調査では、内閣支持率の押し上げ効果は限定的といえる。外交面で内閣支持率を上げるのは、昔から中々、難しい。

 過去最低の投票率と政治離れの重さ

それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をどのようにみているのか。朝日の調査では、「できるだけ早く衆議院を解散して総選挙を実施すべきだと思いますか」と尋ねている。

◆「できるだけ早く実施すべきだ」22%に対し、◆「急ぐ必要はない」67%だった。3人に2人が「急ぐ必要はない」と答えている。

この調査が行われた同じ9日には、9つの道府県知事選挙と41道府県議会の議員選挙などが行われた。平均投票率は、知事選挙が46.78%、道府県議選が41.85%で、いずれも50%にも達せず、戦後最低を更新という惨憺たる状況だ。

つまり、最も身近な選挙ですら、有権者の関心を引きつけることができず、衆参の国政選挙もこの10年、ワースト記録が相次いでいる。

与野党双方とも水面下で、早期解散をめぐる神経戦を繰り広げているが、国民の半数は政治への関心や期待感を失い、投票所にも足を運ばなくなっている状況を深刻に重く受け止め、何らかの対応策を早急に打ち出す必要がある。

 5補選と少子化対策の財源がカギ

そのうえで、衆議院の解散・総選挙の条件や実現可能性を考えると、どういうことになるか。岸田首相が仮に解散に踏み切ろうとする場合、まず、今月23日に投票が行われる衆参5つの補欠選挙を乗り切る必要がある。

自民党閣僚経験者に聞くと「山口の2つは勝てる感触を得ているが、野党乱立で勝てる公算が大きい千葉5区は、地域に浸透できていない。和歌山1区も勢いに乗る維新の勢いを前に苦戦が続いている。参院大分選挙区は、野党共闘の実績のある土地柄で、最も厳しい選挙になっている」と歯切れが悪い。

与野党の関係者の話を総合すると自民候補の5戦全勝もありうるが、3勝2敗、場合によっては、野党が3勝2敗と勝ち越すこともありうる大混戦の状況が続いている。これが、最初のハードルだ。

2つ目のハードルは、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策の財源問題」だ。児童手当の所得制限の撤廃などを実現するためには、数兆円単位の財源が必要だが、そのメドが立っていない。

NHK世論調査で、財源確保の方法を聞いている。◆「(少子化対策以外の)ほかの予算を削る」が最も多く56%、◆「社会保険料負担の見直し」17%、◆「増税」8%、◆「国債の発行」8%となっている。

政府・与党内では、増税は理解が得られないとして、医療費などの社会保険料の上乗せ案が検討されている。これに対して、世論の大半は、予算の組み替えで財源を生み出すべきだとの考え方が主流で、社会保険料の負担増は少数派だ。

仮に政府・与党が社会保険料の負担上乗せ案を打ち出せば、世論の強い反発を受け、内閣支持率を直撃することが予想される。

岸田政権は、防衛増税の実施時期も先送りにしており、6月の骨太方針で、防衛と少子化対策の財源確保について、明確な方針を打ち出し、国民を説得できるかどうかが最大の課題といえる。

3つ目のハードルとして、与党の選挙関係者は「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する人の割合が上昇することが必須の条件だ」と指摘する。

自民支持層の岸田内閣の支持率は、4月は60%台後半で、3月とほぼ同じ水準で、こちらも横ばいのまま止まっている。岸田政権の発足当初は、8割から7割台を維持してきた。ところが、去年の秋以降、自民支持層の支持もつるべ落とし、3割台の危機的状況が続いてきた。

ようやく今年に入り、6割に戻し最悪期は脱しつつあるものの、まだ6割台に止まっている。与党の選挙関係者は、せめて7割から8割台に回復しないと安定した選挙戦を展開するのは難しいと判断しているわけだ。

以上、みてきたように衆議院の解散・総選挙の時期やこれからの政局は、岸田政権が当面、3つのハードルを乗り越えられるかどうかが焦点になる。

そして、まずは、今月23日に迫った衆参5つの補欠選挙に向けて、与野党がどんな論戦を戦わせるのか。そして世論が「岸田政権の中間評価」として、どのような判断を示すのか、それによって今年後半の政治が動き出すことになる。(了)

“維新 勢力拡大”政権,政局への影響は?

統一地方選挙の前半戦は9日、全国9つの道府県知事選挙と6つの政令指定都市の市長選挙、それに41道府県議選と17政令指定都市議員選の投開票が行われた。

知事選挙では、大阪維新の会が大阪の府知事と市長のダブル選挙をいずれも制した。保守分裂となった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人が当選するなど維新が勢力を拡大したのが大きな特徴だ。

自民党は、与野党対決の北海道と大分県の知事選挙で推薦候補が勝利したが、大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で維新の攻勢に敗れた。

政党の基礎体力を示す道府県議選の結果と合わせて、前半戦の選挙結果をどのようにみるか。政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえを含めて、分析してみる。

 維新は拡大戦略奏功、自民は奈良で敗北

まず、統一地方選挙前半戦の最も大きな特徴は、▲全国政党の日本維新の会が、地域政党の大阪維新の会を含めて、勢力を拡大したことだ。

大阪府知事と大阪市長のダブル選挙のうち、知事選では現職の吉村洋文氏が2回目の当選、市長選では元府議の横山英幸氏が初めての当選を果たした。統一地方選では2回連続、それ以前を含めると4回連続で維新が勝利した。

保守分裂選挙になった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人で元生駒市長の山下真氏が初めての当選を果たした。大阪府以外で、初めて維新公認の知事が誕生したことになる。

41道府県議選でも維新は、18の道府県で合わせて124議席を獲得、選挙前の59議席から倍以上に増やした。大阪府議会では9議席増の55議席を獲得して過半数を維持したのをはじめ、兵庫県では選挙前の4議席から21議席へ議席を増やしたほか、神奈川では6議席、北海道や福岡県などでも初の議席を獲得した。

維新関係者に聞くと「今度の統一地方選挙では、現有の地方議員400人を1.5倍の600人に増やす目標を立て、徹底した候補者の発掘と擁立の準備を重ねてきた」と話しており、こうした党勢拡大の戦略が功を奏した形になっている。

▲これに対して、政権与党の自民党はどうか。与野党対決型の北海道では、再選をめざす鈴木直道氏を公明党とともに推薦して、立憲民主党の元衆議院議員の候補に圧勝した。大分県知事選挙でも元大分市長の佐藤樹一郎氏を推薦して、共産・社民両党の県組織が支援する前参議院議員の候補者に勝利した。

一方、奈良県知事選挙は、県連会長を務める高市経済安全保障担当相が主導して、総務大臣当時の秘書官を擁立したが、現職が反発して分裂選挙に突入した。

結果は、維新候補が漁夫の利を得る形で当選した。保守王国とされてきた奈良県で維新公認の知事が誕生したことは、今後の国政選挙などで影響が出るのは避けられない。

高市担当相の責任が極めて大きいと批判する声が出ている。一方、自民党は各地の選挙で分裂選挙となるケースが目立っており、党執行部の調整不足に問題があるとの指摘も強い。いずれにしても、この問題は尾を引くことになりそうだ。

一方、41道府県議選について、自民党は合わせて1153人が当選し、総定数2260に占める割合は51%に達した。安倍政権時代の2015年と2019年に続いて、3回連続で過半数を維持したことになる。

議員数は前回・選挙時の1158人とほぼ同じだが、選挙前と比べると86人減らしている。但し、総定数の過半数は維持しているので、岸田政権に代わっても地方組織の力量に大きな変化は現れていないとみられている。

問題は、奈良県知事選挙にみられるように候補者擁立をめぐって地方組織の意見が対立した場合、地方任せで党の執行部が組織全体をまとめ上げる力が弱体化していることを懸念する声は強い。

このほかの各党をみておくと▲立憲民主党は、北海道知事選挙で大敗したほか、各地の知事選では与野党相乗り型が目立ち、野党第1党として与党と対決していく構図を作り上げることができなかった。

一方、道府県議選では185議席を獲得し、選挙前から7議席増やした。今後、野党内で、維新との間で主導権をめぐる確執が強まることが予想される。

▲公明党は道府県議選では169人が当選したが、愛知県で1人が落選し、170人の全員当選は果たせなかった。今後、関西地域で、維新との関係が焦点になる。

▲共産党は75議席で、選挙前から24議席減らした。▲国民民主党は、選挙前と同じ31議席を維持した。

 衆参補選は混戦、政権・政局へ影響も

それでは、今回の選挙結果が岸田政権へ及ぼす影響はどうだろうか。自民党の長老に聞いてみると「道府県議選では、過半数を維持できたので、岸田政権や当面の政局に大きな影響はない。問題は、衆参の補欠選挙のゆくえだ」と語る。

次に、維新がめざしている「大阪の政党から、全国政党をめざす目標」をどのようにみるか。大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で勝利したのをはじめ、大阪府議会に続いて大阪市議会でも初めて過半数を確保、兵庫県議会でも大幅に増やしていることなどから「近畿の政党」へ拡大しているようにみえる。

一方、地盤の近畿以外の関東や愛知など地域では、議員の獲得数はまだ少ない。「全国政党化」の展望が開けたという段階までには至っておらず、足場を築きつつあるというのが、現状ではないか。

政界関係者の中には、今後の維新の存在感が高まれば、政界入りを目指す人材の中には、維新入りをめざす人が増えるなど求心力が増すことも予想されるとの見方もある。

今後の焦点は、統一地方選挙の後半と同じ投票日になる衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。衆議院の千葉5区と和歌山1区、山口2区と4区の補欠選挙が11日告示される。既に6日に告示された参議院大分選挙区と合わせて、投票日は統一地方選の後半戦と同じ23日になる。

与野党の関係者の見方を総合すると、山口4区と2区は安倍元首相と岸元防衛相の選挙区で、勝敗面では自民が獲得する可能性が大きいとの見方が多い。

そのほかの3つの選挙区は、混戦、激戦になるのではないか。衆議院千葉5区は、政治とカネの問題で自民党の衆議院議員が辞職したのに伴う選挙だ。自民と、立民、維新、共産、国民などの各党がそれぞれ候補者を擁立するが、いずれも新人で、混戦になる見通しだ。

和歌山1区は、国民民主党議員が県知事戦に転出したのに伴う選挙だ。自民党はこれまで挑戦を続けてきた元衆議院議員を擁立したのに対し、維新は前和歌山市議の女性を擁立し、奈良県知事選の勝利をはずみに総力を上げる構えだ。共産党も候補者を擁立する。

さらに参議院大分選挙区は、野党系無所属議員が県知事選に立候補したのに伴う選挙だ。自民党は公募で飲食店の経営の女性候補を擁立したのに対し、立憲民主党は、前参議院議員を擁立し野党の共闘体制で戦う構えだ。

こうした選挙区の勝敗がどうなるかによって、与党側の5選全勝説から、4勝1敗説、3勝2敗説、逆に野党の3勝2敗説などさまざまなケースが予想される。

この勝敗によって、岸田政権の今後の政権運営や、衆議院の解散・総選挙の時期にも影響を及ぼすことになる。どのケースで決着がつくか、選挙情勢をみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

“自民 過半数が焦点”41道府県議選

統一地方選挙の前半戦は、41道府県議選と17の政令指定都市の市議選が31日に告示され、4月9日の投開票日に向けて、選挙戦が一段と熱を帯びてきた。

このうち、41道府県議選は、過去2番目に少ない3139人が立候補し、激しい選挙戦を繰り広げている。

地方議員は、国政選挙では選挙運動の中核になるだけに、各党とも党勢の拡大に力を入れている。自民党が総定数の過半数を獲得できるのか、それとも野党側が阻止できるかどうか、統一地方選前半の大きな焦点になっている。

自民党内では岸田政権の支持率が回復し始めたとして、早期解散論が出始めており、選挙結果は、5月のG7広島サミット後の解散の行方にも影響を与える。道府県議選を中心に各党の取り組みや選挙の焦点をみておきたい。

 自民3回連続過半数なるか、道府県議選

41道府県議選は総定数2260に対し、立候補者は過去最低だった前回から77人増えて3062人、過去2番目に少ない人数になった。

▲自民党は、今回、全体の4割にあたる1306人と最も多い候補者を擁立した。これまでの選挙を振り返ると自民党は、安倍政権時代の2015年の道府県議選で総定数の50.5%の議席を確保し、24年ぶりに過半数を獲得した。

続いて、前回2019年も50.9%の議席を確保した。今回、過半数を獲得すれば、3回連続で過半数を獲得することになる。

自民党をめぐっては、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに旧統一教会と国会議員や地方議員の関係が明らかになり、党本部は地方組織に対して、教団や関連団体との「関係を絶つ」ことを求めている。こうした対応が、今回の選挙戦にどのような影響を及ぼすか、注目点の1つだ。

また、今回は岸田政権に代わって最初の統一地方選挙で、岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化と財源確保のための増税の方針、異次元の少子化対策などがどのような評価を受けるかも注目される。

▲次に、与党の公明党は、道府県議選に前回並みの170人を擁立したのをはじめ、統一地方選で合わせて1555人の候補者を立て、全員当選をめざしている。

前回は、道府県議では全員当選を果たしたが、政令市議選で2議席を失った。今回は、多数の候補者を擁立した維新と激しく競り合う関西での戦いがカギになりそうだ。

 立民は上積み、維新は大幅増をめざす

野党の陣営をみてみると▲立憲民主党は、道府県議選では前回より69人多い246人を擁立し、上積みをめざしている。前回2019年は初めての統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。

しかし、21年衆院選、22年参院選でいずれも敗北が続いており、今回は党勢の低迷から脱却できるかどうか試されている。

▲日本維新の会は、これまでの関西地域を拠点にした政党から脱却し「全国政党」をめざしている。このため、今回の道府県議選では、前回の立候補者83人から、2.5倍にあたる211人を立候補させている。

また、統一地方選全体を通じて、現在400人の地方議員を1.5倍の600人以上に増やすことを目標に掲げている。馬場代表は達成できない場合、代表を退くと明言しており、こうした積極的な戦略が功を奏するかどうか、関心を集めている。

▲共産党は、道府県議選では立候補者数を前回の243人から、188人へ絞り込んだ。共産党をめぐっては、すべての党員による「党首選挙」を求める本を出版した党員が除名される問題が起きており、こうした動きが選挙結果にどのように影響するかも注目される。

▲国民民主党は、道府県議選では46人の候補者を擁立しており、国民民主党系の無所属を含めて改選議席数の倍増、およそ300人の当選をめざしている。

▲このほか、れいわ新選組、社民、政治家女子48、参政の各党も支持拡大をめざしている。

 統一地方選と5補選、解散への影響も

9日に投票が迫った統一地方選挙の前半戦では、9つの道府県知事選挙の戦いが行われる。このうち、与野党の全面対決型は北海道だけで、与党と野党系無所属の戦いとなっているのが大分で、いずれも激しい戦いが続いている。

奈良と徳島は保守分裂選挙となっている。このうち、奈良では、保守系の現職と新人、それに維新の候補との間で、三つ巴の激戦が続いている。

大阪は府知事と市長とのダブル選挙で、維新と非維新の勢力がぶつかる構図だ。

今後の政局へ及ぼす影響という面では、41道府県議選の結果を最も注目してみている。次の衆院解散・総選挙を考えると、道府県議は地域の選挙運動の中心的役割を果たし、各党の党勢のバロメーターになるからだ。

その道府県議選は、冒頭みたように自民党が総定数の過半数を3回連続して維持できるのか。それとも野党側がこれを阻止できるのかどうかが、最大の焦点だ。

もう1つの焦点は、23日の後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補選がどうなるかだ。自民党が議席を獲得していたのが、千葉5区と、山口2区と4区の3つに対し、和歌山1区は国民民主党、参院大分選挙区は、野党各党が統一候補として擁立した無所属議員が議席を獲得していた選挙区だ。

自民党内では勝敗ラインとして、自民党が獲得してきた議席を念頭に「3勝2敗」とする考え方のほか、岸田首相が衆院解散・総選挙に向けて主導権を発揮するためには「5戦全勝」が必要だとする見方が出ている。

岸田政権は、日韓首脳会談や岸田首相のウクライナへの電撃訪問をきっかけに、報道各社の世論調査で内閣支持率の回復傾向が出ている。

統一地方選挙と5つの補欠選挙で、岸田政権が支持率回復の流れを加速することになるのか、それとも世論の厳しい評価を受けて再び低迷することになるのか、分かれ道にさしかかっている。

 選挙離れ社会が進行中、歯止めかかるか

さらに統一地方選挙で気になるのは、投票率がどうなるかだ。41道府県議の平均投票率は、前回2019年は44.02%で、過去最低を記録した。

1995年以降は50%台で推移していたが、2011年に48.15%を記録し、初めて5割を下回った。それ以降、最低水準を更新し続けている。

統一地方選挙の投票率は、これまでも長期低落傾向を続けてきたが、前回は道府県の知事選挙、道府県議の選挙、市区町村長の選挙、市区町村議の選挙の投票率は平均するといずれも、初めて5割を割り込んだ。

最も身近な統一地方選挙で、2人に1人しか投票所に足を運んでいない「選挙離れ社会」が進行中だ。これに歯止めをかけられるのかどうか、この点も今度の統一地方選挙で問われる。(了)

反転攻勢なるか? 岸田政権

今年の春は、新型コロナ感染がようやく4年ぶりに収まり、マスク着用は個人の判断となったほか、WBCで日本代表が世界一を奪還、岸田首相はウクライナを電撃訪問するなど激しい動きが続いている。

4年に一度の統一地方選挙も知事や政令指定都市の市長選挙が始まり、前半戦の投票が来月9日、後半戦の投票が来月23日に行われる。

報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は、ようやく下げ止まり傾向が出てきたが、果たして反転攻勢へとなるのかどうか?岸田首相の政権運営や、これからの政局では何がカギになるのか、探ってみたい。

 ウクライナ電撃訪問の意味と効果は

3月の政治・外交の動きの中で、政界に最も大きな驚きを与えたのは、岸田首相のウクライナへの電撃訪問だ。

昨年からの懸案で、今月19日からのインド訪問直後にそのままウクライナを訪問するのではないかとの見方も一部にあったが、月末の予算案成立後になるのではないかとの見方が政界では強かった。

インドで首脳会談を終えた岸田首相は20日夜、チャーターした民間ジェット機で極秘裏に出発、同行記者団は何も知らされないまま置き去りになった。政界関係者の一人は「同行記者の恨みを買い、しこりを残すだろう」と語る。

さて、今回の訪問をどのようにみるか。与野党の中からは、岸田首相はG7のメンバー国で唯一、ウクライナを訪問していない首脳という点を気にして、無理に訪問する必要はないといった意見も聞かれた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、国連の常任理事国の大国が隣国に軍事侵略する、いわば百年に一度あるかどうかの蛮行だ。

「G7議長国として、何としても5月のG7広島サミットまでに訪問したい」という岸田首相の強い思いは理解できる。

また、ロシアの軍事侵略が成功すれば、今度はアジアでも同じような侵攻が起きる恐れがある。日本自体の国益の観点からも、ウクライナ情勢に真正面から向き合う必要がある。

さらに、今回は中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領との首脳会談の日と重なった。軍事大国同士の両首脳が力を誇示したのに対して、岸田首相はゼレンスキー大統領と会談して支援と連帯を伝え、世界平和の回復をめざす別の選択肢を国際社会に示すことができた。

問題はこれからだ。欧米諸国の中には一部に「支援疲れ」も伝えられる中で、日本はG7議長国として、ウクライナ支援や対ロ制裁措置の継続などで全体をまとめていけるかどうか。

また、日本自身もウクライナ支援をどのような形で行っていくか。欧米は軍事支援に重点を置いているが、日本はG7との横並びを意識するよりも、人道的な支援やインフラ復興など日本にふさわしい支援を考えた方がいいのではないか。

このほか、3月は16日に韓国のユン大統領が来日し、日韓首脳会談が行われた。懸案の「徴用」をめぐる韓国政府の解決案を日本側が評価し、両国首脳が「シャトル外交」を再開することなどで一致した。

そこで、気になるのは、こうした外交活動が岸田政権の評価につながるのかどうかだ。岸田首相のウクライナ訪問は、WBCの日本代表が準決勝でメキシコに逆転勝利、決勝でアメリカを破って世界一を奪還した戦いと重なった。

大谷、ダルビッシュ、村上各選手の活躍に沸き、テレビは高い視聴率を記録、新聞も一面で大きく扱い、電撃訪問の方は霞んでしまった印象だ。政権の評価にマイナスの影響はないとみるが、直ちに内閣支持率上昇といった効果が表れるようには思えない。

 予算審議は順調、支持率は下げ止まり

内政面では、新年度予算案の審議が参議院予算委員会で続いている。審議の中で野党側は、安倍政権時代、放送法の政治的中立の解釈をめぐって、当時の礒崎首相補佐官が新たな解釈を行うよう総務省に働きかけていたことを示す行政文書を明らかにした。

この行政文書について、当時の総務相だった高市経済安保担当相は「捏造」と否定し、辞職を求める野党側と応酬が続いている。一方、予算審議は与党ペースで進んでおり、新年度予算案は28日にも成立する見通しだ。

報道各社の3月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、横ばいか、わずかながら上昇する結果になっている。内閣支持率と不支持率は、NHKが41%-40%、読売が42%-43%、朝日が40%-50%となっている。

支持率は前月に比べて、NHKで5ポイント、読売で1ポイント、朝日で5ポイントそれぞれ上昇し、下げ止まりの傾向が表れている。但し、不支持率は40%から50%と高い水準にあり、支持率低迷状態から脱するまでには至っていない。

支持率の下げ止まりの原因は、去年秋のような閣僚の相次ぐ辞任などが避けられ、予算審議が順調に進んでいることが挙げられる。一方、支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が最も多く、消極的な支持に止まっている。

 反転攻勢、少子化対策と選挙がカギ

それでは、岸田政権は今後、攻勢へ転じることができるのかどうか?

これまで外交面で成果を上げ、内閣支持率が上昇するケースは希で、やはり内政の取り組みが影響することが多かった。今回の場合は、政府が今月末にまとめる「少子化対策」の評価がカギを握るとみている。

岸田首相は「異次元の少子化対策」を政権の最重要課題に位置づけ、今月末にまとめるたたき台には、児童手当の所得制限の撤廃や、対象年齢の18歳までの引き上げなど大胆な対策を盛り込む方向で調整を続けている。

岸田政権の少子化対策について、NHK世論調査でみると「期待しない」が56%と多く、「期待している」39%を上回る。特に18歳から30代までの若い世代で「期待しない」が66%と多いほか、無党派層でも7割近くが「期待しない」と答えている。

こうした背景には、岸田政権は1月に子育て政策重視の方針を打ち出したが、具体策が中々、決まらない。加えて、財源をどうするかも先送りしていることから、対策の実現はかなり先になると、政府に対する不信感を読み取ることができる。

岸田首相は少子化対策のたたき台がまとまると、今度は首相官邸が財源の調整を行ったうえで、全体をとりまとめ、6月の骨太方針で正式に決定する見通しだ。

このような政府の手順を考えると対応が遅すぎて、今月末に少子化対策のたたき台がまとまったとしても、国民の支持が広がり、政権が力強さを増すといった事態は想定しにくい。

もう1つのカギは、統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。政党の勝敗のメルクマールとしては、前半戦の41道府県議の選挙がある。自民党は、全体の議席占有率50%以上を確保できるかどうかが判断基準になる。

安倍政権時代の前回は50.9%、前々回は50.5%で2回連続で維持してきた。岸田政権に代わった今回はどうなるか、地方組織の足腰の強さの評価にもなる。

統一地方選挙後半の投票日と一緒に行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえも大きな焦点だ。自民党が議席を確保していた選挙区は、千葉5区と山口2区と4区。

和歌山1区は、国民民主党に所属していた議員、参院大分選挙区は、無所属で野党共闘で当選した議員がそれぞれ知事選挙に転出することに伴って行われる選挙だ。

自民党の勝敗ラインとしては、保有していた議席を基準に考えると「3勝2敗」とする見方もあるが、今後、衆議院の解散・総選挙に向けて主導権を確保するためには「5戦全勝」が必要だとする見方もある。

以上、みてきたように内外ともに激しい動きが続く中で、岸田政権は政権浮揚へ反転攻勢となるのか。それとも低空飛行状態が続くことになるのか。その岐路は、月末の少子化対策に対する世論の評価と、来月の統一地方選挙と補欠選挙の結果がカギを握っている。(了)

 

 

 

”支持率改善も 看板政策は低評価” 岸田政権

通常国会は、焦点の新年度予算案の審議が大詰めの段階を迎えており、今月末に参議院で採決が行われ、与党の賛成多数で成立する見通しだ。

一方、統一地方選挙も今月23日、全国9道府県知事選挙が告示され、来月9日の投開票に向けて選挙戦がスタートする。こうした中で、NHKと共同通信がそれぞれ実施した3月の世論調査の結果がまとまった。(NHK10~12日、共同通信11~13日実施)

統一地方選挙突入前の政治情勢と、岸田政権や与野党の国会審議などを世論はどのように評価しているのか、分析する。

 内閣支持率、7か月ぶり不支持を上回る

まず、岸田内閣の支持率からみていくとNHKの世論調査では◆支持率が先月より5ポイント上がって41%に対し、◆不支持率は1ポイント下がって40%となった。

岸田内閣の支持率がわずかながらも不支持率を上回ったのは、去年8月以来7か月ぶりだ。(去年8月は支持率46%、不支持率28%」)但し、今月の支持と不支持の差はわずか1ポイントなので、五分と五分、拮抗とみた方がよさそうだ。

共同通信の世論調査では◆支持率は、4.5ポイント上がって38.1%、◆不支持率は、4.2ポイント下がって43.5%だった。支持率は改善しているが、不支持率が支持率を上回る状態が続いている。

NHKと共同通信の調査ともに岸田内閣の支持率が改善しているのは、なぜか。NHKの調査でみてみると、一つは、政府の賃金引き上げの取り組みをどのようにみるか。「評価する」が50%で、「評価しない」の43%を上回った。

もう一つは外交問題で、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題をめぐり、韓国政府が解決策を発表した。日本政府も評価し、16日にユン大統領が来日して、日韓首脳会談が行われる。

この問題について「評価する」は53%に上り、「評価しない」の34%を大きく上回った。北朝鮮に対して、日韓両国の安全保障面の連携強化を評価する人が多いことが読み取れる。

また、自民支持層では、岸田内閣を支持していた割合は6割程度に止まっていたが、今月は69%まで上昇し支持率回復につながった。

このほか、国会論戦では、同性婚をめぐる発言で首相秘書官が更迭される問題が起きたものの、野党側が攻め手を欠き、与党ペースの国会運営が続いていることも影響しているとみられる。

 岸田政権の看板政策、評価しないが多数

このように岸田内閣の支持率は、改善している。但し、内容面をみていくと、岸田政権が重視している政策、看板政策については「評価しない」「不十分」などと厳しい見方が多い。

▲岸田首相が戦後の安全保障政策の大転換と位置づける防衛費の増額について、政府の説明をどのように評価しているか。「十分だ」は16%に止まり、「不十分だ」が66%、3人に2人の割合にも達している。

▲岸田首相が子ども予算の倍増を掲げる政府の少子化対策については、「期待している」は39%に対し、「期待していない」が56%と多数を占める。年代別では、18歳から30代までの若い年代では「期待しない」が66%にも達している。

▲さらに原子力発電を最大限活用するため、政府が最長60年とされている原発の運転期間を延長する法案を閣議決定した問題。「賛成」は37%に対し、「反対」は42%で上回っている。

このように岸田政権が打ち出した看板政策は、いずれも世論の支持を得られていない。

こうした背景には、岸田政権の国会対応に大きな問題があるのではないか。防衛費増額にみられるように従来の政府方針の繰り返しがほとんどで、防衛力整備の必要性や中身に踏み込んで国民に説明、説得しようとする姿勢や熱意が欠けている点に問題がある。

 放送法の問題、事実の解明と政府見解を

このほか、参議院の審議では、安倍政権当時、特定の民放番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法が定める政治的公平性をめぐり解釈の再検討を総務省に求めたとする文書が明らかになった。

共同通信の世論調査で、この行為は政権による「報道の自由」への介入と思うかどうかを尋ねている。◆「介入だと思う」が65%、◆「思わない」が25%だった。

また、当時の総務相だった高市早苗氏(現在、経済安全保障担当相)が、総務省が自らに説明を行ったとする文書を「捏造」(ねつぞう)と主張していることについて「納得できる」は17%で、「納得できない」が73%だった。

放送法3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、規律されることがない」と規定されている。首相補佐官や、首相といえども介入はありえないわけで、国民の多くは法律の本質を理解していることがうかがえる。

この問題は、安倍政権時代の首相補佐官と総務省、安倍元首相の意見調整ルート。また、もう一つのルート、総務省と当時の高市総務相への説明があったのかどうか。さらにこの2つのルートに関係があったのかどうか、事実関係を明らかにする必要がある。

その上で、岸田政権が、事実関係を整理したうえで、放送法の解釈について政府の見解を示すことが必要だと考える。

 統一地方選と5補選、無党派がカギ

以上みてきたように岸田内閣の支持率の改善はみられるものの、主要政策について、世論の支持を得ているとは言えない。今月末の子ども政策のとりまとめ方によっては、支持率が再び落ち込むことも予想され、不安定な状態にある。

一方、野党側も国会で思うような攻めの論戦を展開できていない。政党支持率では、自民党に大きな差をつけられたままで、党勢拡大の展望は開けていない。

このように政権与党と、野党側ともに弱点を抱えたまま、来月の統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙に臨むことなる。

統一地方選挙はそれぞれの地域の選挙が中心だが、全国規模の選挙になるので、有権者の立場からすると政党の主張や主要政策は、選挙に当たって有力な判断材料になる。

それだけに各党とも地域の課題と、当面の政治課題についての考え方や構想を明確に打ち出してもらいたい。

NHK世論調査の政党支持率で、”第1党”は「支持する政党がない」無党派で、38.5%を占める。この無党派層のどの程度が投票所に足を運ぶか、どの政党が最も多く獲得できるかが、選挙のゆくえを左右することになる。(了)

 

 

 

統一地方選、衆参5補選の注目点

4年に一度の統一地方選挙前半戦の投開票まで今月10日で、1か月を切った。選挙日程は、今月23日に9つの道府県知事の選挙が告示されてスタートする。

続いて、41都道府県議会議員の選挙、6つの政令指定都市の市長と17の政令市の議員選挙が相次いで告示され、来月9日に前半戦の投開票が行われる。

後半戦の投開票日は来月23日で、東京の特別区と、全国の市町村の長と議員、合わせて907の選挙の投開票が実施される。また、後半戦の投開票日と合わせて、衆参5つの補欠選挙の投開票も行われる予定だ。

統一地方選挙は最も身近な自治体の長と議員を選ぶ選挙で、それぞれの地域が抱える課題が争点になる。

一方、統一地方選挙は全国規模の選挙なので、選挙結果は国政にも影響を及ぼす。また、今の衆議院議員の任期は再来年の10月なので、衆議院の解散が行われなければ、再来年夏の参議院選挙まで、まとまった国政選挙がないことになる。

そこで、今回の統一地方選挙は国政との関係で、どんな影響や意味合いを持つのか考えてみたい。

 知事選、与野党全面対決、保守分裂型

まず、統一地方選挙で最も注目されるのは、知事選挙だ。今回は、北海道、神奈川、福井、奈良、大阪、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県の知事選挙が予定されている。前回4年前から、三重と福岡が知事交代にともなって減っている。

◆与野党の全面対決型となるのは北海道で、自民・公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦する元衆議院議員の対決となる。

◆大阪は、府知事選挙と市長選挙とのダブル選挙になる。維新は、府知事は現職、市長選は新人を擁立し、非維新の候補との戦いになる。

◆保守分裂となるのが奈良県と徳島県だ。このうち、奈良県は、保守が分裂し、自民党県連が推薦する新人と現職、それに関西に影響力を持つ維新が擁立する元市長の3つ巴の戦いになる見通しだ。

◆徳島県については、自民党の前参議院議員と、前衆議院議員、それに現職がそれぞれ立候補する意向を表明して、異例の保守3分裂の様相だ。

◆大分県は、現職の知事が引退し、自民・公明両党が推薦する前の大分市長と、野党系無所属の参議院議員が議員を辞職して立候補する見通しだ。(この参院議員は9日辞職願を提出、10日の参院本会議で認められた)

このように知事選挙については、与野党の全面対決型の選挙は少なくなってきている。

 自民議席占有率 5割確保できるか?

私が最も注目しているのは、41道府県議会議員選挙の各党の獲得議席数だ。各党の党勢を現すメルクマールになる。

◆自民党は、前回1158議席を獲得、全体の議席に占める議席占有率は50.9%に達した。前々回は50.5%で、2回連続して過半数を獲得した。いずれも安倍政権時代だが、岸田政権に代わり、この流れを維持できるかどうかが大きな焦点だ。

◆公明党は、市区町村議員選挙を含め、統一地方選で擁立する1500人の候補者全員の当選をめざしている。前回、道府県議選の166人は全員当選したが、政令市議選で2議席を失った。

◆野党側のうち、立憲民主党は、具体的な数値目標を示していない。前回19年は初の統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。21年衆院選、22年参院選では敗北したが、今回はどうなるか。

◆日本維新の会は、現在400人の地方議員の数を1.5倍の600人以上に増やす目標を掲げている。800人程度の候補者を擁立し、目標の達成は可能だとしている。

◆国民民主党は、倍増となるおよそ400人の当選をめざしている。

◆共産党は、前回獲得した1200人を確保した上で、上積みをめざしている。

岸田政権は、この統一地方選挙を勝ち抜き、5月のG7広島サミットにつなげて政権の浮揚につなげていきたい考えだ。

一方、旧統一教会との関係や防衛増税の影響が選挙に影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。さらには、地域によっては世代交代の影響が現れるのではないかとの見方もある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「道府県議会議員が減ったりすると、国会議員にとっては次の選挙に影響が出てくる。岸田首相では戦えないといった声が出てくる可能性もあり、要警戒だ」と指摘する。

安倍政権当時「自民1強」を地方で支えた地方組織が、今後も安定して継続するのかどうか、自民党の議席占有率をみていく必要がある。

 衆参補選、千葉5、和歌山1、大分が焦点

後半戦の4月23日投開票に合わせて、衆参5つの補欠選挙が行われる見通しだ。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区でも補欠選挙が行われる見通しだ。

◆千葉5区は、政治とカネの問題で自民党議員が辞職したことに伴い行われる。東京通勤圏の都市部の選挙区で、一定の野党支持層のある選挙区だが、立民、維新、国民の各党が候補者を擁立する見通しだ。

これに対し、自民党は新人の候補者を決定しており、自民党関係者は「野党候補が乱立すれば、議席獲得はありうる」との見方を示す。

◆和歌山1区は、これまで国民民主党所属の議員が議席を維持してきたが、県知事に転出したのに伴う選挙だ。自民党の二階元幹事長と世耕参議院幹事長の両陣営の間で人選が難航した末、元衆議院議員の擁立で決着した。

これに対し、関西圏に影響力を持つ維新は、前和歌山市議の女性候補を擁立した。維新幹部によると自民党内の足並みに乱れが出てくれば、勝機はあるとして、後半戦の重点区として戦う構えだ。

◆山口4区は安倍元首相の死去、山口2区は実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う「ダブル補選」だ。野党側は、山口4区に元参議院議員を擁立するほか、山口2区も候補者の擁立を検討している。

◆参議院大分選挙区は、野党系無所属の参議院議員が県知事選に立候補するのを受けて行われる。辞職は10日に決まる見通しで、与野党ともに候補者の選考作業を急いでいる。

このように5つの補選の候補者や野党間の選挙協力などの構図が最終的に決まっていないが、自民党としては、5戦全勝をめざす方針だ。

これに対して、野党側は、これまで野党や無所属議員が確保していた議席は維持したいとして、野党間の協力を進めたい考えだ。

ここまでみてきたように9つの知事選挙と、41道府県の県議選、それに5つの補欠決戦がどのような結果になるのか。通常国会後半の国会運営をはじめ、岸田首相の衆院解散・総選挙戦略などにも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

★追記11日。大分県知事選挙への立候補を表明した安達澄参議院議員の辞職が、10日の参議院本会議で認められた。これによって、参議院大分選挙区では補欠選挙が行われる。衆参の補欠選挙は、この大分選挙区を含めて5つの選挙となる。

予算衆院通過、国会論戦は”超低調”

新年度予算案は28日、衆議院本会議で採決が行われ、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。これによって憲法の規定で、年度内の成立が確実になった。

新年度予算案は、防衛費の大幅な増額などで規模が膨らみ、総額が過去最大の114兆円に上った。岸田政権の防衛政策の転換と防衛増税、物価高騰や経済政策などをめぐって審議の難航も予想されたが、与党ペースで予算審議は進んだ。

国会審議が与党、野党どちらのペースで進もうと国民に直接大きな影響はないのだが、今年の予算審議くらい焦点が定まらず、低調な論戦は珍しいのではないかと思う。

これからの政治や国会のあり方にも関係してくるので、今年の予算審議の特徴と課題、問題点などを整理しておきたい。

 野党の追及不足、首相は防戦に終始

今年の予算審議の特徴は、27日に行われた最後の集中審議に凝縮されていたのではないかと思う。立憲民主党の長妻政調会長は、岸田首相が打ち出している子ども予算の倍増について「国内総生産比で倍にするのか、絶対額を倍にするのか」と迫った。

これに対し、岸田首相は「数字ありきではない。子ども・子育て予算は何かということが整理されてベースが決まる。中身を決めずして、最初からGDP比いくらかだかとかではない」とかわすのに懸命だった。

防衛問題でも「反撃能力」(旧「敵基地攻撃能力」)に使うことを想定して、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」の購入数が問題になっていた。岸田首相は、400発を購入することを明らかにした。予算審議の冒頭から質問が出ていたが、論戦最終日にようやくデータを公表したことになる。

政府、野党の論点がかみ合わないほか、防衛問題では、防衛力整備の中身に迫る議論にはほど遠い状態であることが浮き彫りになった。

今年の予算審議は、多くの難問が山積み状態だった。岸田政権が年末に決定した防衛力抜本強化と防衛増税をはじめ、物価高と賃金引き上げ、アベノミクス10年を経て今後の経済・金融政策をどうするのか、野党には攻めどころ満載だった。

但し、防衛力整備をめぐって、野党第1党の立民は、維新や国民民主との間で足並みがそろわず、防衛問題追及には慎重な姿勢が目立った。

代わって、首相秘書官の差別発言が表面化したこともあってLGBTの問題、続いて児童手当の拡充に力点を置いた。この点は他の党も同じで、与野党ともに4月の統一地方選挙をにらんでアピール合戦の様相となった。

論戦が低調に終わった背景としては、まずは野党の追及不足が影響したとみている。立憲民主党は、維新との連携・共闘を維持したいとの思惑が働いて追及の焦点を絞れなかったのではないか。

これに対して、岸田首相は防衛問題をめぐっては、野党側の追及に対して「相手国もあり、手の内はさらせない」として徹底した防戦に終始した。野党側は、攻めあぐねて思うような論戦が展開できず、岸田首相の作戦が功を奏したといえるかもしれない。

 国民の関心事項と首相の方針決定は

問題は、国民への影響だ。国民の側はウクライナ情勢をはじめとする内外の激しい動きを受けて、次のような点に関心を持っていたのではないか。

◆40年ぶりの物価高騰や今後の経済政策はどうなるのか。政府の電気や都市ガス料金の軽減措置は2月から実施されたが、追加対策やメッセージはない。

◆ロシアによるウクライナ侵攻の長期化が避けられない中で、エネルギー確保の戦略を示してもらいたい。原発や再エネなどをどのようにかじ取りするのか。

◆防衛力整備は必要だが、「反撃能力」を保有する場合、専守防衛と両立するのか。一定の基準を設定するのか。自衛隊は遠距離の攻撃目標を把握する能力を持っておらず、米軍に頼らざるを得ないのではないか。

◆日本の防衛の弱点としては、武器、弾薬などの継戦能力、自衛隊基地の防護。それに国民の避難体制の整備を急ぐべきだとの意見もあるが、どうか。

◆政府は「異次元の少子化対策」を強調するが、出生率の低下「1.57ショック」は1990年、この30年間、政府は何をしていたのか。

国民の主な関心事項としては、例えば以上のような点にあり、野党側が掘り下げて政府に質してもらいたいと考えていたのではないか。いずれも政府・自民党が手をつけずに長期にわたって先送りにしてきた問題ではないか。

一方、岸田首相は施政方針演説で「課題を先送りにせず、国会で政府の考えを正々堂々、議論する」と胸を張ったが、予算委員会の答弁では踏み込んだ考えは示されなかった。議論が深まらない原因として、首相の責任も大きい。

加えて、岸田首相の政権運営、政策決定をめぐって懸念される点がある。具体的には、年末の防衛政策決定に見られたような首相の方針決定のあり方だ。岸田首相からの指示が急に示され、与党との調整期間も短く、その後、国会での野党への説明も乏しい方針決定プロセスだ。

去年11月末に防衛費のGDP比2%を打ち出した後、わずか3週間足らずで防衛増税を含めた新しい防衛政策を決定した。年が明けて今の国会で、岸田首相は「誠心誠意、丁寧に説明責任を果たす」などと強調するが、残念ながら「従来方針の繰り返しで、中身は皆無」の答弁が多い。

当面の焦点になっている少子化対策も3月末に担当大臣の下で案をとりまとめた後、6月の骨太方針で決定される見通しだ。その時点で、国会は閉会しており、防衛問題と同じような政府の対応が、再び繰り返される可能性もある。

難問の対応にはさまざまな法案の制定も必要で、国会で政府が与野党との論戦を通じて行政の運営に民意を取り入れたり、法案を修正したりする政策決定過程も必要だ。

岸田政権は低姿勢に見えながら、実は政権の都合優先で重要事項を決めてしまうとの懸念も聞こえる。衆議院議員の任期は、解散がなければ再来年2025年10月まで続く。岸田政権の政策決定のあり方も問われる。

 統一地方選と5補選、世論の評価は?

新年度予算案の衆議院通過を受けて、3月1日から参議院予算委員会に舞台を移して、予算審議が始まる。衆議院から持ち越した論点が数多いので、「再考の府」参議院で詰めた議論を行ってもらいたい。

もう1つは、当面の焦点は当面、4月に迫った4年に一度の統一地方選挙に移る。3月23日にはトップを切って、北海道、大阪、奈良、徳島、大分など9道府県の知事選挙が公示され、4月9日が前半の投開票日になる。

後半の投開票日は4月23日で、この日は衆参5つの補欠選挙も行われる。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区だ。

自民党長老に注目点を聞いてみると「知事選は、与野党対決の北海道、保守分裂の奈良、徳島のゆくえ。補欠選挙は千葉5区で、野党の陣営が1本化するか、複数擁立となるかカギ。和歌山1区は、関西に強い維新が候補者を擁立した場合、どんな戦いになるかが焦点」と語る。

岸田政権への影響については「政権に直接、大きな影響があるとは想定していないが、選挙は投票箱が閉まるまでわからない。補欠選挙と道府県議選がどうなるか、気を抜かずに取り組む必要がある」と話す。

41道府県議選は、各政党の地域の力量を測るバロメーターでもある。特に、自民党は旧統一教会の問題をはじめ、防衛増税や少子化対策論議がどのように影響するかが、変動要因だ。

岸田政権の支持率は、報道各社の世論調査によると2月は横ばい状態だが、支持を不支持が上回る逆転状態が5か月続いている。統一地方選挙と統一補選で、世論の評価、風向きがどう現れるか、夏以降の政局に影響を及ぼすことになる。(了)