終盤国会”懸案集中、与野党攻防激化へ”

長丁場の通常国会は来月22日が会期末で、残り会期は1か月余りを残すだけとなった。会期延長がない場合は、7月3日公示・20日投開票の参議院選挙に突入することになる。

この終盤国会は、年金制度改革や選択的夫婦別姓制度などの重要法案の審議が残っているのをはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる3回目の日米交渉が今月下旬に行われる見通しで、交渉の行方や評価も大きな論点になりそうだ。

また、物価高騰対策としての消費税減税をめぐって、与野党の議論が続いているほか、会期末に石破内閣に対する不信任決議案をめぐって与野党の駆け引きが激しさを増す見通しだ。

このように終盤国会は、内外の懸案や課題が短い期間に集中することになりそうだ。国民にとって、国会での論戦や攻防は参院選での投票に当たって有力な判断材料になる。そこで、終盤国会が抱えている問題を整理するとともに、石破政権や与野党がどのように対応しようとしているのか点検しておきたい。

重要法案・懸案山積、結論を出せるか

さっそく、今の通常国会の重要法案からみていきたい。まず、サイバー攻撃を未然に防ぐための「能動的サイバー防御」導入法案は、16日の参院本会議で自民、公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。

また、公立学校教員の残業代の代わりに基本給を上乗せして支給することなどを盛り込んだ「改正教員給与特別措置法」も15日の衆院本会議で賛成多数で可決された。参院での審議を経て、今国会で成立する見通しだ。

一方、政府・自民党内で調整が難航していた年金制度改革関連法案は16日にようやく国会に提出され、20日から衆院で審議入りする見通しだ。法案にはパートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるように要件が緩和されている。

一方で、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げする措置は、自民党内に参院選挙への影響を懸念し慎重論が根強かったことなどから、法案に盛り込まれなかった。

これに対し、野党側は「法案の最も肝の部分が抜け落ちている」と批判している。そして、基礎年金を底上げする措置を見送れば「就職氷河期世代」の将来の年金が十分確保できなくなるとして、法案の修正を求めていく方針だ。

選択的夫婦別姓制度をめぐっては、立憲民主党が先月末に制度を導入するため、民法の改正案を国会に提出した。夫婦が同姓か別姓かを選べるようにしたうえで、別姓を選んだ場合、子どもの姓をどちらにするかは結婚する時に決めるとした内容だ。

これに関連して、同じく導入をめざす国民民主党は、立憲民主党とは別の法案を提出する方針だ。日本維新の会は、別姓ではなく、戸籍に旧姓を記載するなど結婚後も旧姓を通称使用できる内容の法案を提出することにしている。

自民党は、制度の導入に賛成の議員と慎重な議員とで隔たりがあり、今も議論が続いている。このように与野党の意見が分かれていることから、今の国会でどこまで審議が進むか、不透明な情勢だ。

懸案の企業・団体献金の問題をめぐっては、期限としていた3月末も与野党の意見がまとまらず、再び先送りしたが、その後も議論は進んでいない。また、石破首相が自民党の1回生議員に10万円相当の商品券を配付していた問題で、政治倫理審査会で弁明する扱いも先送りになったままだ。

自民党派閥の裏金問題で、安倍派幹部の下村元政務調査会長が参考人招致に応じる意向を示したことから、野党側は15日の衆院予算委員会の理事会で、自民党も賛成するよう求めたが、自民党は反対する姿勢を示し、引き続き協議することになった。

このように終盤国会は多くの重要法案や懸案が山積している状態で、このままではかなりの法案などが先送りになりかねない。まずは、政権与党がリーダーシップを発揮して事態の打開策を提案し、野党側も柔軟に応じるなどして、一定の結論を出してもらいたい。

 次回関税交渉、協議の対象範囲が焦点

次に当面の重要な政治課題であると同時に、参院選挙でも大きな焦点になりそうなのが、トランプ政権の関税の引き上げと、物価高対策としての消費税の税率引き下げの問題だ。

トランプ政権の関税措置をめぐっては、18日からの週に日米の事務レベルの協議に続いて、週の後半に赤澤経済再生相が訪米し3回目の閣僚交渉が行われる見通しだ。

トランプ政権はイギリスとの合意に続いて、中国との間でも双方が追加関税を110%引き下げ、米側は30%、中国側は10%とすることで合意した。そして、一部の関税に90日間の停止期間を設け、協議を続けることになった。

次回の閣僚協議はどのような展開になるだろうか。日本側は自動車を含む全ての関税措置を撤廃するよう強く求めているのに対し、米側は協議の対象は追加関税の上乗せ部分で、自動車などの品目別関税は協議の対象外として、双方が対立している。

このため、次回協議では、自動車の扱いを含め協議の対象範囲で一致できるかどうかが焦点になる。また、交渉妥結の時期がどうなるか、6月のG7サミットに合わせて決着をめざすのか、長期戦もやむなしとなるのかも注目される。

さらに、日本としては関税措置の見直しを図るために、アメリカ製自動車や農産物の輸入拡大などにどこまで踏み込むのか判断を迫られる。こうした一連の対応は、終盤国会や参院選でも大きな論点になる見通しだ。

消費税減税の是非、論点深掘りできるか

終盤国会ではもう一つ、物価高対策として消費税減税の是非をめぐって、与野党の議論が活発に行われる見通しだ。

立憲民主党の野田代表はこれまで消費税減税に慎重な立場をとってきたが、この方針を転換し、食料品の消費税率を原則1年間に限ってゼロ%に引き下げるとともに当面の物価高対策として、国民1人あたり2万円程度の現金給付を行う案を16日に発表した。

これに対し、石破首相や自民党執行部は、消費税の税収が社会保障や地方財政を支える財源になっているとして、消費税は引き下げない方針だ。そして、夏の参院選では、財政や社会保障の安定に責任を持つ「責任政党」としての役割をアピールしていく構えだ。

但し、自民党内は選挙を控えた参議院議員の8割は消費税減税を行うべきとの考えだとされ、当面、党内の議論を続けることにしている。

連立与党の公明党も消費税減税を求める声が強く、参議院選挙に向けた与党の経済対策のとりまとめは難航することも予想される。

自民、公明両党は当初、現金給付を打ち出す方針を示したが、世論調査で”バラマキ政策”だとして批判が強く、見送った経緯がある。与党側にとっては、消費税減税に代わる有効な経済対策を見いだせていないのが悩みだ。

一方、野党側は、既に維新、国民民主、共産、れいわの各党などが、いずれも税率引き下げや廃止を主張しており、立憲民主党と合わせて野党側は消費税減税で足並みがそろったことになる。

但し、野党側の消費税減税の内容や税率、実施期間などはさまざまだ。また、財源についても国債発行に頼らず、新たな財源を明らかにする政党がある一方で、赤字国債発行を容認する政党とに分かれている。

こうした各党の主張を国民はどのようにみているか。NHKが今月9日から3日間行った世論調査では、◇「今の税率を維持すべきだ」は36%、◇「税率を引き下げるべき」は38%、◇「消費税は廃止すべき」は18%となっている。

つまり、「消費税の廃止論」は2割近くに止まり、「消費税率は下げない維持派」が4割、「税率引き下げ派」も4割で、真っ二つに分かれている。消費税減税をめぐる議論は政党、国民の間でもまだ十分に尽くされておらず、景気対策、社会保障との関係、財源などさまざまな角度から掘り下げた議論が必要だということを示しているのではないか。

懸案の処理と将来社会の構想の提示を

終盤国会は、19日に参議院予算委員会で内外の重要課題について集中審議が行われるのをはじめ、20日に年金制度改革法案が衆院で審議入りする。21日には今国会で2回目の党首討論が行われるなど与野党の論戦が本格化する見通しだ。

そして、これまでみてきたように終盤国会では、懸案の「政治とカネ」の問題、選択的夫婦別姓制度、年金制度改革法案などについて議論を深め、可能な限り結論を出すことが必要だ。一方、結論がまとまらない場合、その理由や今後の取り組みの道筋を示すことも重要だ。

加えて、この国会は、トランプ政権による関税措置への対応や、物価高対策としての消費税減税が大きな論点になっている。こうした課題は、日本が国際社会でどのような役割を果たしていくのか、将来の日本社会や経済のあり方とも直結する。

それだけに政権与党と野党は、それぞれ外交・内政の中期的な構想も示して論争を深めてもらいたい。そのうえで、私たち有権者はそうした構想や対応などを踏まえて、夏の参院選挙で1票を投じたい。激動期に対応できる政治の選択の仕方も模索していく必要がある。(了)

 

 

 

終盤国会から参院決戦へ”与野党攻防のカギは”

長丁場の通常国会も来月22日の会期末まで、残り1か月半を切った。終盤国会では12日と19日に衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、石破首相と野党側が議論を交わすのをはじめ、重要法案や懸案の「政治とカネの問題」などをめぐって与野党の攻防が本格化する。

一方、トランプ政権の関税措置をめぐる日米の閣僚協議は今月中旬以降、集中的な協議が行われる見通しだ。トランプ政権は8日、関税交渉でイギリスとの間で初めての合意に達したが、日米間の交渉は前進がみられるのかどうかが焦点だ。

来月13日には東京都議選が告示され、22日の投開票日に向けて各党は国政選挙並みの態勢で選挙戦に入る。さらに通常国会が予定通りの日程で閉会すれば、7月の参院決戦へと突入する。

このようにこの夏は、少数与党の中で終盤国会の与野党攻防と日米関税交渉が同時並行で進行し、さらに都議選、参院選の政治決戦へと続くことになる。これからの政治はどのような点がポイントになるのか、探ってみたい。

 関税交渉、米側方針に変化はあるか

まず、これからの政治に大きな影響を与えるのは、トランプ政権の関税措置をめぐる動きだろう。アメリカとイギリス両政府は8日、◇イギリスで生産された自動車については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとともに◇鉄鋼製品とアルミニウムは、関税を0%に引き下げることで合意した。

これとは別に、アメリカが多くの品目に一律10%の関税を課している措置については、イギリスに対しても維持する。トランプ政権は、日本を含む各国と関税交渉を行っているが、合意に達したのは今回のイギリスが初めてだ。

日本は先のアメリカ側との交渉で、5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に実施するため、日程調整を進めることで合意している。これまでの交渉で日本側は、一連の関税措置の見直しを強く求めたが、アメリカ側は「日本だけ特別扱いはできない」と相互関税の上乗せ措置以外の協議には応じない考えを示した。

今回の米英両国の合意で、イギリスについては自動車、鉄鋼、アルミニウムについて関税引き下げに応じた一方で、一律10%の関税措置は譲歩しなかった。

イギリスと日本では置かれた状況や条件が異なるが、次の日米交渉ではアメリカ側は、日本の関税の見直し要求にイギリスと同様に引き下げに応じるのかどうか、応じる場合はその範囲や幅についてどのような考えを示すのか注目される。

一方、日本側は、アメリカ製自動車などの輸入認証制度を緩和する措置をはじめ、大豆やトウモロコシの輸入拡大、LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大策などについて突っ込んだ説明をするものとみられる。

こうした次回の日米交渉で、アメリカ側がこれまでの方針を変更し交渉の前進が図られるかどうかが焦点になる。

また、来月15日からカナダでG7サミットが開催されるのに合わせて日米首脳会談を行い、一定の合意発表へとつながるのかどうかも注目される。

少数与党で支持率が低迷している石破政権にとっては、参院選挙で与党が過半数を維持できるか、政権の命運がかかっている。このため、関税措置を回避する合意が達成できれば、政権の浮揚につながる可能性がある。

逆に交渉が妥結せず、関税措置の見直しができなかったり、日本側が譲歩を重ねたりした場合は、参院選に強い逆風になるだけに今後の交渉のゆくえから目が離せない。

終盤国会、消費減税と財源が論点に浮上

次に終盤国会では、物価高対策に関連して消費減税が大きな論点になる見通しだ。立憲民主党は、食料品の消費税率を1年間ゼロ%にすることを参院選の公約に盛り込む方針を決めた。消費減税は、既に日本維新の会や国民民主党が先行して方針を決めており、野党側の足並みがそろったことになる。

与党側でも参院自民党や公明党からも消費減税を求める声が上がっている。石破首相は消費減税に一定の理解を示す発言もあったが、石破首相と森山幹事長ら自民党執行部は、消費減税に踏み切る場合、必要な財源確保が困難で、社会保障にも影響が出るとして、消費減税を見送る方向で調整を進める方針だ。

こうした物価高対策と消費税減税の扱い、それに消費税に踏み切る場合の財源と社会保障への影響をどう考えるか、終盤国会と参議院選挙での論戦の大きなテーマになる見通しだ。

 多様な論点、参院選に向け方針提示を

終盤国会では、5年に一度の年金財政検証に合わせた年金制度改革関連法案の提出が自民党内の調整が難航し遅れているが、近くようやく提出される見通しだ。

また、懸案の選択的夫婦別姓制度については、立憲民主党が先月末に法案を提出したが、日本維新の会が通称使用を拡大する法案や、国民民主党も別の法案を提出する方針で、野党の足並みに乱れが出ている。

一方、懸案の「政治とカネの問題」をめぐっては、企業・団体献金の見直しについて、3月末に結論を先送りして以降、与野党の議論が全く進んでいない。

自民党派閥の裏金問題では、旧安倍派の下村元政務調査会長の参考人招致の扱いをめぐって与野党の意見が対立している。また、石破首相が10万円の商品券を配付していた問題について、政治倫理審査会で弁明する問題も先送りのままだ。

さらに会期末には、石破首相に対する内閣不信任決議案を提出する問題も浮上する見通しだ。少数与党政権なので、野党側がまとまって賛成すれば不信任案は可決され、内閣総辞職か衆院解散・総選挙という波乱につながる可能性もある。

このように今の国会は多くの法案や懸案、内外の課題・論点が次々に押し寄せているが、「熟慮の国会」どころか十分な議論が行われず、法案の扱いもはっきりしない状態が続いている。

このため、国会閉会後に行われる参院選挙では、先送りの案件が多数にのぼり、何を基準に判断をすればいいのか、有権者は戸惑うことになる。まずは、重要法案や主要な論点について与野党は議論を尽くして、一定の結論を出せるよう最大限努力すべきだ。

そのうえで、調整ができなかった問題はその理由と今後の対応策について、政権与党と野党側がそれぞれ見解を表明し、国民に判断材料を示してもらいたい。

ここまでみてきたように終盤国会での重要法案の扱いや与野党の論戦、それにトランプ関税をめぐる日米交渉など内外ともに激しい動きが続く見通しだ。去年の衆院選に続いて、参院選挙はどのようになっるだろうか。

最終的に大きなカギを握るのは、国民がどのようなテーマ・論点を重視するか、その選択によって夏の参議院決戦の結果は大きく左右される予感がする。(了)

 

 

 

 

日米関税交渉”6月合意を模索か”石破政権

トランプ政権の関税措置をめぐり、訪米中の赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら米側閣僚との2回目の交渉が2日行われ、次回の交渉を5月中旬以降に集中的に実施するため、日程調整を進めることで一致した。

交渉を終えた赤澤経済再生相は「非常に突っ込んだ話ができた。可能な限り早期に、日米双方の利益となるような合意をめざして前進することができた」と語った。政府関係者も「閣僚交渉が集中的に行われる見通しとなり、一定の進展があったということではないか」との見方を示している。

今回の2回目の交渉ではどこまで協議が進んだのか、また日米両首脳の合意の時期の見通しはどうなるのか、今後のゆくえを探ってみたい。

 貿易拡大策など協議、安保は切り離し

まず、今回2回目の閣僚交渉で明らかになった点と、はっきりしない点について、交渉終了後に行われた赤澤経済再生担当相の記者会見を基に整理しておきたい。

明らかになった点としては◆日本側は米側の関税措置は極めて遺憾であり、初回交渉に続いて、見直しを強く求めたこと。そのうえで、今回は貿易の拡大、非関税措置、それに経済安全保障面での協力の3つの柱で議論を行ったとしている。

◆為替と安全保障の問題については、今回は全く議論していない。「安全保障は貿易・関税とは違う」とのべて、為替や安全保障の問題は切り離すとの認識を示した。これは交渉分野を限定することになり、日本側にとって望ましい形と言える。

一方、はっきりしない点としては◆交渉の具体的な内容だ。赤澤経済再生相は「交渉の詳細については触れない」と何回も繰り返し、内容の説明は一切避けた。

ただ、◆交渉は「パッケージで成立するもの」とのべ、日本側は自動車などの関税措置の除外を主張したこと。アメリカ側との間で、自動車や農産物などの輸入拡大などについて意見を交わしたことなどを認めた。

今回の交渉では、交渉の具体的な分野や範囲を絞ることができるかどうかが焦点の一つになっていた。赤澤経済再生相は、為替や安保は切り離したうえで「突っ込んだ話ができた」などとのべていたことから、日米双方がそれぞれの関心分野を中心に時間をかけて協議を行ったものとみられる。

 6月合意”そうなればいい”と赤澤氏

今回の日米交渉ではもう一つ、「交渉のペースと合意の時期」について、日米がどのような見方をしているのかも注目された。

赤澤経済再生相は、同行記者団から「5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に行う意味」を質問されたのに対し「首脳レベルに上げる前に、閣僚が協議の頻度をあげ、根を詰めることもある」との考え方を示した。

また、記者団から「6月に首脳間で合意することはあるのか」と質されたのに対し「わからないが、そういう段階に入れればいいと思っている」とのべ、5月の閣僚協議を集中的に行ったうえで、日米首脳の合意につながることへの期待を示した。

各国との関税交渉めぐって、トランプ大統領は直前に「彼ら(日本、韓国など)ほど交渉を急いでおらず、有利な立場にいる」とけん制していたが、日米双方から「トランプ関税で株価が下がり、世論の支持率も低下していることから、焦っているのはトランプ大統領ではないか」といった見方が示されている。

一方、自民党の閣僚経験者などから「6月のG7サミットの際か、その前に日米首脳会談を行い、決着を図ろうとするのではないか」との見方はかねてから出されてきた。5月中旬以降、集中的に協議を行うと合意したことは、こうした見方がさらに強まる可能性がある。

石破首相は、赤澤経済再生相から電話で報告を受けた後、記者団に対し「時期について言及すべきとは思わない。早いに越したことはないが、早いことを優先するあまり国益を損なってはならない」と踏み込むのを避けた。

今後の政治日程を考えると6月22日が通常国会の会期末で、会期延長がなければ、参議院選挙は7月3日公示、20日投票となる。アメリカの関税措置90日間の期限は7月9日で、選挙戦まっただ中にあたる。

こうした日程や赤澤経済再生相の発言、自民党幹部の見方などを合わせて判断すると、石破政権は参院選挙前の6月合意を視野に交渉を本格化させるのではないかとみている。

 交渉内容、国内外から厳しい評価も

それでは、これからの日米関税交渉の内容や進め方、留意すべき点としてはどのような点があるのだろうか。

日本としては、幅広い品目に課税される「相互関税」の上乗せ分の撤回だけでなく、品目別の課税対象になっている自動車、鉄鋼などへの25%追加関税、さらに一律10%の相互関税について、撤廃などの見直しを強く求めていくのが基本だと考える。

これに対してアメリカ側は、特にトランプ大統領が貿易赤字の解消を強く主張していることから、自動車や農産品の輸入拡大などを迫ってくるものとみられる。

日本側としても、自動車などの関税措置の撤回のためには一定の譲歩は避けられないとして、首相官邸に設置されている各省庁の専門家チームなどで検討を進めている。

これまでのところ◇アメリカが強く求めている非関税措置の改善策として、輸入自動車の認証制度を緩和する措置のほか、◇農産物のうち、大豆やトウモロコシの輸入拡大、◇LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大、◇造船分野の支援などを検討している。

◇農産物については、コメのミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で、米国からの輸入を増やすことを検討する案も出ているが、与党内の反発もあり、結論は出ていない。

仮に日米両国が合意した場合、関税措置の撤回や引き下げと、日本側の譲歩案の両方について、日本の国益を守ることができたのかどうか、最終的には国民の理解と支持が得られるかどうかがカギになる。それだけに特に合意の内容が十分かどうか、国民の厳しい評価を受けることもありうる。

また、トランプ政権の関税措置をめぐっては「アメリカ第1主義」の下、余りにも一方的に高い関税をかけることに世界各国から強い反発が起きている。このため、交渉で先行する日本が公正で自由な貿易体制を推進していく立場を貫いているのかどうか、各国の評価に耐えうる内容かが問われることになる。

トランプ政権の関税政策をめぐっては、米国内でも物価高騰や経済の減速を招く恐れがあるとして、世論や経済界からも批判が広がっている。関税引き上げの応酬を続けてきた米中間でも近く話合いが始まるとの見方が出ている。

日本としても自国の産業や経済を守りながら、世界や米国内の動向も踏まえて、米国の一方的な関税措置を軌道修正させていく取り組みが求められている。

そのためには首相官邸が中心になって、各省庁の貿易・経済協議の経験を活用するとともに民間企業、与野党の意見も取り入れて総合的な戦略を練り上げ、したたかな外交交渉を展開できるかどうかが問われている。5月中旬からの日米交渉は、石破政権や夏の参議院選挙のゆくえを左右することになるだろう。(了)

 

トランプ関税交渉と終盤国会のゆくえ

トランプ政権の関税措置をめぐり、赤澤経済再生担当相が月末に訪米し、2回目の日米閣僚交渉が行われる見通しだ。この協議で、日米交渉を軌道に乗せる糸口を見いだせるかどうか、重要な局面を迎えている。

一方、国内では通常国会の会期末まで残り2か月を切ったが、石破政権や与野党ともにトランプ関税の大波に飲み込まれ、トランプ関税以外の懸案に手がつかない状況に陥っている。

今月末からの大型連休が明けると、各党が国政選挙並みの態勢で臨む東京都議会議員選挙が6月に、参議院選挙が7月に相次いで行われる。石破政権と与野党は、トランプ政権の関税措置交渉や終盤国会にどのような対応が求められているのか考えてみたい。

 トランプ関税、交渉分野は固まるか

まず、トランプ大統領が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉からみていきたい。日本時間の今月17日に行われた初めての日米交渉は、冒頭にトランプ大統領が赤澤経済再生相と会談するという異例の形で始まった。そして続いて行われた閣僚協議を含め、日米双方は可能な限り早期に合意をめざすことで一致した。

これを受けて日本政府は、赤澤経済再生相が今月30日から3日間の日程でワシントンを訪れ、ベッセント財務長官らと2回目の閣僚交渉を行いたい考えで調整を進めている。米側と調整がつけば閣僚交渉は、日本時間の5月1日に行われる見通しだ。

日本としては、対米輸出額で最も多い自動車や鉄鋼などの追加関税と、幅広い製品に課税される「相互関税」の見直しについて、引き続き強く求めていく方針だ。

これに対して、アメリカ側は初回の会合で「日本だけ特別扱いをすることはできない」として、否定的な認識を示しているという。

赤澤経済再生相は24日、記者団に「英語で言うと『スコーピング』、私は『交渉の土俵』と呼んでいるが、何を重点に話合うのか、優先順位を含めて話し合い、2回目の交渉でおおよそ決めたい」とのべた。

日本政府関係者によると、トランプ大統領の最大の関心事項は、貿易赤字の問題とされる。また、アメリカ製自動車や、コメなど農産物の輸入拡大、在日米軍の駐留経費の問題にも関心を持っていると受け止めている。

石破首相は国会答弁などで「安全保障は、貿易とは違う分野の話だ。為替は加藤財務大臣とベッセント財務長官の間で話合いが行われる」として、安全保障や為替の問題は、関税交渉とは切り分けて議論したいという考えを示している。

他方で、アメリカ車の輸入拡大に向けては「非関税障壁」や、コメを含む農産物の輸入拡大に向けては柔軟に対応することを検討しているとされる。

赤澤経済再生相としては、以上のような立場に立ってアメリカ側と突っ込んだ意見を交わし交渉範囲を固めたい考えだ。

もう1つ、次回の交渉で注目される点は、協議のスピードと交渉妥結の目安になる時期だ。

米側は早期の合意をめざしているとされ、トランプ大統領は17日、記者団に日本を含む主要国との合意の見通しについて「今後、3~4週間だろう」と語った。仮に4週間とすると5月中旬頃が目安になる。

これに対して、日本側は「日本が対米交渉の先頭にいる立場を活かすべきだ」と早期の妥結をめざすべきだという意見と、「アメリカ側の立場は揺れている」として焦らずに時間をかけた方がいいとの意見があり、対応は定まっていないとされる。

トランプ大統領は自信満々に相互関税を発動したが、米国債が急落すると一転して相互関税の上乗せ部分の停止に踏み切った。

また、アメリカの有力紙・ウオール・ストリートジャーナルが「トランプ政権が中国との貿易摩擦を緩和するため、関税率の大幅な引き下げを検討している」と報じるなど大統領の足元がぐらついているようにみえる。

こうした情勢を踏まえて、石破政権はどのような姿勢で交渉に臨むのか、次回の協議の結果が注目される。

米側は「相互関税」の停止期間を90日間として、各国との交渉期間に位置づけているが、90日後は7月9日。日本では今の政治日程では参議院決戦の真っ最中に当たるだけに、国内政治に大きな影響を及ぼす。

年金制度、夫婦別姓など懸案対応は

国内に目を転じると長丁場の通常国会も6月22日の会期末まで、2か月を切った。政府・与党は関税措置への対応に追われ、重要法案への対応が後手に回っている。

通常国会の重要法案の1つである年金制度改革関連法案をめぐっては、政府・自民党内で内容など調整が進まず、国会への提出が大幅に遅れている。

これに対し、立憲民主党は「遅くとも来月13日には提出し、審議入りしなければ今の国会での成立が難しくなる」として、提出のメドが明らかにならない場合は、福岡厚生労働大臣に対する不信任決議案の提出を検討するとけん制している。

また、懸案の企業・団体献金の扱いをめぐっては、3月末までに与野党で結論を出すことにしていたが、先送りになったままだ。政治資金を監視する第三者機関を設置する動きも進展していない。自民党旧安倍派の裏金問題の実態解明や、石破首相の商品券配付問題についての政倫審での説明も先送りになっている。

終盤国会では、懸案の選択的夫婦別姓の法案が立憲民主党から提出される見通しだ。自民党は党内の意見が分かれていることもあって、この問題への取り組みの動きは鈍い。

こうした懸案や重要法案は、夏の参議院選挙の論戦でも争点になる。それだけに国会で与野党が議論を深めておかないと有権者に判断材料を提供できないことになる。トランプ関税に関心を持ち力を入れるのは当然だが、国会と政党はそれぞれ本来の役割を果たしてもらう必要がある。

石破首相で参院選か、会期末の波乱は

冒頭でも触れたように今年は、東京都議選の投開票が6月22日、今の国会の会期延長がなければ、参議院選挙が7月3日公示・20日投開票の日程で行われる。4年に一度の都議選と、3年に一度の参議院選挙が同じ年に行われる”選挙イヤー”だ。

去年の衆議院選挙では自民・公明両党の与党が過半数を割り込んだが、今度は参議院でも与党過半数割れが起きるのか、その結果、連立の組み合わせの変更などが起きるかも焦点の1つになる。

そこで、政権・政局をめぐる動きを整理しておくと石破政権については、自民党内で予算成立後、一部に「石破首相では参院選を戦えない」として「石破降ろし」の動きがあったが、こうした動きが起きる公算は小さいとみられる。

というのは、トランプ関税措置をめぐる日米交渉が正念場を迎えようとしている時に、政争とみられる動きは支持が広がらないとみられるからだ。このため、自民党は、石破首相の下で参院選挙を戦う可能性が大きいとみられる。

一方、会期末に野党第1党の立憲民主党が、石破内閣の不信任決議案を提出し、野党各党がそろって賛成した場合は、可決される可能性がある。その場合、石破内閣が総辞職をするか、衆議院の解散・総選挙に踏み切る選択肢もあり、会期末に大きな波乱が起きる可能性は残っている。

但し、立憲民主党の野田代表は、不信任決議案の提出に慎重な姿勢を見せている。仮に提出した場合も、日本維新の会や国民民主党が同調しない可能性も大きく、政界では不信任案が可決される可能性は低いとの見方が強い。

このため、参院選挙は単独で行われる公算が大きいが、その場合、トランプ政権の関税措置への対応が大きな争点になるとみられる。石破政権は世界の先頭を切ってトランプ政権との関税交渉に入ったが、日本の利益だけでなく、世界の自由貿易を維持していく交渉ができたのかどうかが問われる。

また、石破首相がリーダーシップを発揮して関税交渉に当たり、成果を導き出すことができたのかどうか、与野党の論戦の焦点になるとみられる。私たち国民も、石破政権や与野党の対応をしっかり見極め、夏の参議院選挙での選択に備えたい。(了)

 

”難航必至か”トランプ関税 日米交渉開始

トランプ政権が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉は、異例の形で始まった。訪米した赤澤経済再生相は日本時間の17日早朝、ホワイトハウスでトランプ大統領と50分間にわたって会談した。この席には、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、USTR=アメリカ通商代表部のグリア代表が同席した。

この席で赤澤経済再生相は「日米双方の経済が強くなるよう包括的な合意を可能な限り早期に実現したい」という石破首相のメッセージを伝えた。

これに対し、トランプ大統領は国際社会の中で、アメリカが置かれている現状を説明するとともに「日本との協議が最優先だ」という考えを示したという。

続いて赤澤経済再生相は、ベッセント財務長官ら3人の閣僚とホワイトハウスで1時間20分、初めての閣僚交渉を行った。

その結果、日米双方は◇率直かつ建設的な姿勢で交渉に臨み、可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるようめざすこと。◇次回の交渉を今月中に実施するよう日程調整を進めること。◇閣僚レベルに加え、事務レベルでの交渉も継続することで一致した。

今回の日米交渉をどのように評価したらいいのか。また、今後の日米交渉はどのような点が焦点になるのか探ってみたい。

石破首相、次につながる協議と評価

石破首相は、トランプ大統領との会談や閣僚交渉を終えた赤澤経済再生相から電話で報告を受けたあと、記者団の取材に応じた。

石破首相は「日米間には、依然として立場に隔たりがある」としながらも「トランプ大統領は、日本との協議を最優先したと述べている。次につながる協議が行われたと認識している」と安堵の表情をみせた。

また、今後の対応については「交渉の推移をみながら私自身、最も適切な時期に訪米し、トランプ大統領と直接、会談することを当然、考えている」とのべ、日米首脳会談で決着させることに意欲を示した。

一方、赤澤経済再生相は「アメリカは90日間でデイールを成り立たせようとしている。われわれはできる限り早くやりたいという思いは持っているが、交渉の今後の進展はまったく分からない」とのべた。

また、記者団からの質問に答えて赤澤経済再生相は「為替については出なかった」とのべ、米側から他のテーマ、在日米軍の駐留経費分担など日本の防衛費や農産物などについて、アメリカ側から提起があったことを示唆した。

このように日米の会談や協議の詳しいやり取りは明らかになっていないが、日米双方は、早期に合意できるよう努力することで一致した点が今回の大きな特徴だ。

日本側としては、最初の交渉で米側の出方を前向きに受け止めており、今月中に行われる次の閣僚協議などを経て、早期合意をめざすものとみられる。

 日米交渉、楽観視できない見方も

今回の日米交渉について、経済の専門家の見方を聞くと「トランプ政権が、主要国の中で日本との協議を最初に行ったのは事実だが、これは日本を厚遇しようということではない。米国は貿易赤字削減を主要な目標ににしており、日本にだけ甘い対応をすることは考えにくい」として、楽観視できないとの見方を示す。

そのうえで「米側が期待する赤字削減を実現するためには、日本側が大幅な譲歩が必要になる。アメリカ国内ではトランプ政権の関税政策に批判的な意見が強くなる可能性があるので、日本は焦って交渉を早めるより、アメリカ国内の情勢を見極めながら慎重に対応した方がいい」と指摘している。

こうした考え方は自民党内にもあり、閣僚経験者の一人は「自動車などに対する関税については早期妥結が好ましいが、交渉ごとは焦ると負けという側面もある。アメリカ国内の企業や世論の反応によっては、関税政策も変更を迫られる」として、政府は短期、長期両にらみで交渉に臨むべきだという考えを示す。

こうした経済専門家や自民党内の指摘を受けて、石破首相がどのような判断を示すのか問われることになる。

このほか、日本側としては詰めておくべき点は多い。例えば、交渉の対象分野について、日本側が強く求めている自動車、鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税の扱いのほか、米側の関心が強い農産物の市場開放や日本の防衛費、為替などについてどのような扱いにするか、整理が必要だ。

また、日本側が関税見直しの交渉カードとして、LNG=液化天然ガスの開発や輸入拡大などの項目をパッケージとして示し日米が大筋で合意した場合、アメリカ側は関税の見直しで譲歩するのか確認しておく必要がある。

このようにみていくと日米が早期の合意をめざすことで一致したといっても、調整が必要な分野は多岐にわたり、交渉は難航することが必至だとみられる。

 石破政権、参院選も控え難しい対応

それでは、これからの展開はどのようになるだろうか。アメリカ側は「日本は交渉の列の先頭にいる」と位置づけている。これは早期に日米合意を実現し、後に続く各国のモデルケースとして、アメリカが主導権を発揮していく戦略だとみられる。

これに対して石破政権は、相互関税停止の90日間以内の早期決着をめざすのか、それとも中長期も辞さない立場で臨むのか、選択を迫られる。

今後の日程をみると、自動車部品に対して5月3日から25%の追加関税が課せられるほか、6月にはG7サミットがカナダで開催、さらに7月には参議院選挙が予定されている。

石破政権にとっては、自動車や自動車部品の追加関税を早期に是正する必要があるが、早期決着をめざして譲歩しすぎると「国益に反する」との指摘が予想されるほか、国際社会からは「自由貿易を放棄する対応だ」などと非難されるおそれがある。

一方、長期戦で臨むとトランプ政権からの強い反発が予想されるほか、夏の参議院選挙では無為無策などと批判を浴び、大きなダメージを受ける可能性もある。

石破政権としては、日米交渉でどこまで日本の主張を反映させることができるかどうか、国民に対して交渉の状況や日本の役割を説明しながら理解を得ることができるかどうか難しい対応を迫られることになる。

私たち国民も日米交渉のゆくえと自由貿易に及ぼす影響、そして日本の役割をどう考えるか、内外の動きを注視していきたい。(了)

 

 

米「相互関税」一時停止、日本の対応は

アメリカのトランプ大統領は、貿易赤字が大きい国などへの「相互関税」を90日間、停止する異例の対応をとる一方、中国に対しては125%からさらに引き上げ145%の関税を課すなど強い姿勢を打ち出した。

これに対して中国政府は10日午後、アメリカからの輸入品に予定よりも50%上乗せした84%の追加関税を課す措置を発動するなど一歩も引かない構えを示している。

こうした米中両国による関税引き上げの応酬を受けて、10日のニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が一時、前日と比べて2100ドル余り値下がりした。終値は、前日に比べて1014ドルの下落となった。

一方、11日の東京株式市場も全面安の展開となり、日経平均株価は一時、1900円を超える大幅な下落となった。トランプ大統領が「相互関税」の停止措置をとったあとも世界の株式市場は不安定な状況が続いている。

こうしたトランプ大統領の一連の関税政策を日本政府はどのように受け止め、対応しようとしているのか、最近の動きを探ってみた。

安堵と戸惑い、関税見直しへつながるか

まず、今回トランプ大統領が「相互関税」の上乗せ措置を発動してから、わずか半日で急遽、停止したのはなぜか。米国メデイアの報道によると株式や通貨、それに米国債まで売られる「トリプル安」が起きたことから、トランプ大統領としても停止措置に踏み切らざるを得なかったとの見方をしている。

日本政府の見方はどうだろうか。林官房長官は10日、記者団から今回の受け止め方を質問されたのに対し「これまでも関税措置の見直しについて、さまざまなルートで申し入れてきたので、非常に前向きに受け止め止めている」とのべ、安堵の表情をみせた。

一方で、米国事情に詳しい外交専門家によると「トランプ関税は3か月から半年、あるいは1年程度続いた後、軌道修正されると予想していた。予想していなかった展開だ」と戸惑いをみせる。トランプ大統領の関税措置は、今後も突如として変更されることが十分ありうることを念頭に置いておく必要がある。

さて、今回のアメリカの決定で日本にとっては「相互関税」の24%の課税は一時停止になったものの、一律10%の「相互関税」は残されたままだ。また、鉄鋼製品やアルミニウム、それに自動車へ25%の追加関税は続いている。

特に、自動車の対米輸出額は年間6兆円を超え、関連部品も1兆円に上る基幹産業だけに追加関税の影響は深刻だ。加えて、米国向けの幅広い輸出品に25%の追加関税が重荷となってのしかかる。日本政府のこれからの対応はどうなるか。

政府は、引き続き関税措置の見直しを強く求めていく方針だ。米側との交渉の担当閣僚に指名された赤澤経済再生相は来週にもワシントンを訪れ、交渉相手のベッセント財務長官と会談する方向で調整に入った。

日米交渉に向けて政府は11日、赤澤経済再生相と林官房長官をトップに外務省や経済産業省などの関係省庁で構成するチームを発足させた。2月の日米首脳会談の際に戦略を練ったメンバーが中心になっている。

石破首相は11日午前、赤澤経済再生相と会談し「国難とも言える事態に日米双方の利益になるようアメリカ側と協議してほしい」と指示した。

赤澤氏としては、対米投資を中心に日本が協力できる案件をはじめ、エネルギー分野の開発、非関税障壁の改善などを幅広く検討しながら意見を交わし、関税引き下げに向けた地ならしをどこまで進めることができるかが焦点だ。

ベッセント財務長官はウオール街の出身で、今回の「相互関税」停止決定に当たっては大きな影響を与えたとされる。赤澤経済再生相にとって手強い交渉相手になりそうだ。

 問われる石破政権の戦略・対応

トランプ政権の一連の関税政策にどのような姿勢で向き合うのか、日本に直接関係する関税の見直しだけでなく、国際社会全体の視点に立った戦略、対応も問われる。

米側の対日交渉責任者に決まったベッセント財務長官は、関税をめぐる各国との交渉について「日本が列の先頭にいる」とのべた。世界各国との交渉にあたって、日本をモデルケースにしたいというねらいがうかがえる。

それだけにアメリカ側が強い姿勢で交渉に臨むことが予想される。日本としては、まずは日本に直接関係する関税措置の撤回や、引き下げで具体的な成果を上げることができるか石破政権の力量が試される。

また、トランプ政権の一連の関税政策は、アメリカの利益最優先の保護主義的な政策で、自由貿易体制を推進していく立場から容認できない。同じ立場に立つEU・ヨーロッパ連合や、ASEAN・東南アジア諸国連合などとも連携をとりながらトランプ大統領を説得していく取り組みが問われることになる。

日本としては、関税問題が前進した段階で改めて日米首脳会談を開いて同盟関係を再確認するとともに、日米が協力してG7首脳会合や、G20サミットなどで国際社会が安定に向けた流れを強められるような役割を果たすことが求められるのではないかと考える。

一方、国内では自民・公明の与党側から、トランプ政権の関税政策の影響や物価高対策として、現金給付や減税を求める意見が強まっている。公明党の斎藤代表は10日、党の中央幹事会で、減税が実現するまでのつなぎの措置として、現金の給付を検討すべきだという考えを示した。

自民党内でも参議院側を中心に「現金給付で迅速に対応し、その後、減税を行うべきだ」という意見が出ている。現金給付にあたっては所得制限をつけずに国民1人当たり数万円を支給すべきだという意見もある。

野党側では、現金給付よりも減税を中心にした対策を求める意見が多い。具体的には「現金給付のようなバラマキ的なやり方ではなく、食料品にかかる消費税の税率引き下げやガソリン税の暫定税率の廃止などを検討すべきだ」といった意見が出ている。

このほか、政府や与野党の中から「トランプ政権の関税政策については、影響の大きい産業や分野の状況を把握したうえで、効果のある対策を打ち出すべきだ」という意見も聞かれる。

こうした関税に関連した与野党の対策については、夏の参議院選挙をにらんだ選挙対策ではないかという見方や批判も聞かれる。それだけに石破政権、与野党ともにトランプ関税が影響を及ぼす分野や程度の評価とセットで、対応策について議論を深めていく必要があるのではないかと考える。

トランプ関税と激動する国際社会の外交・安全保障、それに国内の新たな経済政策としてどのような対応策が必要なのか、これからの後半国会と夏の参議院選挙の大きな焦点になりそうだ。(了)                     ★追記(12日午前7時半)◆中国政府は、アメリカからの輸入品に125%の追加関税を課すと発表した。12日から実施する。トランプ政権が中国からの輸入品に145%の関税を課す方針に対抗した措置。                  ◆トランプ政権の関税措置をめぐって、赤澤経済再生相は16日から訪米し、17日にベッセント財務長官らと初めての会談を行う見通し。

 

 

 

 

 

トランプ関税直撃”暗中模索の石破政権”

トランプ大統領が打ち出した関税政策と、中国政府が対抗措置として追加関税を発表したことで、週明け7日の東京株式市場は全面安の展開となり、日経平均株価は先週末より2600円以上も下落した。過去3番目に大きい下落幅となった。

トランプ政権は、日本を含む全ての国からの輸入自動車に25%の追加関税を課すことにしたのに続いて、「相互関税」として日本には24%の関税を課す方針を決めた。日本経済にとっては深刻な影響が懸念される。

石破政権は、一連のトランプ関税の対象から日本を外すよう働きかけてきたが、不発に終わった形だ。石破首相としては、トランプ大統領と電話会談を行うとともに、早期に訪米して日米首脳会談を行いたい考えだが、実現のめどはついていない。

トランプ大統領は重要政策を一人で決めることから、トランプ政権との交渉は難しいとされるが、石破政権の対応は後手に回る場面が目立っており、対米交渉は”暗中模索”状態にみえる。石破首相はどのような対応が求められているのか、探ってみた。

石破首相、関税打開パッケージ案に意欲

最初にトランプ大統領が打ち出した関税政策のうち、日本に関係するものを整理しておくと◆鉄鋼・アルミニウム製品に25%の追加関税を課す措置が3月12日に発動した。◆自動車への25%の追加関税が4月3日に発動、◆さらに「相互関税」として日本には24%が関税を課すことが決まり、9日に発動する予定だ。

経済専門家によると、自動車と「追加関税」とを合わせると日本の実質GDP・国内総生産の成長率を0.71%程度押し下げるという。日本の潜在成長率は0.5%程度なので、景気後退の引き金となりマイナス成長へ落ち込む可能性もある。

7日に開かれた参議院決算委員会では、与野党双方から石破政権の対応について、質問が集中した。野党側からは「イスラエルの首相は訪米し8日もトランプ大統領と会談する。インドやベトナムも対米交渉を進めているのに比べると、石破政権の対応は遅すぎる」など追及した。

これに対し石破首相は「日本は、イスラエルやベトナムなどと一緒にならない。日本はアメリカに対して、世界で最も多くの投資を行い、雇用を創出している。電話会談に続いて、なるべく早く訪米して日米首脳会談を行いたい。(関税問題を)パッケージとしてどう示すか、説得力を持つ内容にしたい」との考えを示した。

このパッケージについて石破首相は、日本は対米投資や雇用で果たしている役割を説明して「相互関税」の見直しを求めるほか、エネルギーや農産物、造船、自動車など個別分野についても協議を行う考えだとみられている。

このように石破政権は、関税の対象から日本を除外するよう繰り返し要請してきたが、効果を上げることはできていない。また、石破首相が表明するようなパッケージ構想で、トランプ大統領を説得できるのか見通しがついているわけではない。

サマーズ氏”歴史上最大の自傷行為”

そこで、今回のトランプ大統領の関税をどのようにみたらいいのか、各国のリーダ-や有識者がさまざまな見解を明らかにしている。私は、アメリカのサマーズ元財務長官がABCテレビの番組で話しているコメントが参考になると考えるので、多少長くなるが、紹介しておきたい。

サマーズ氏は今月3日と4日にニューヨーク株式市場の株価が急落したことについて「景気減速はほとんど避けることはできないだろう。経済にとって歴史上最大の自傷行為だ。関税によって物価が上がり、インフレが加速している。経済の損失は、原油価格が2倍になったようなものだ」とのべ、アメリカ経済が大きな打撃を受けるとの認識を示した。

そして「この2日間の株価の急落は、第2次世界大戦以降で4番目に大きな動きだ」として、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマンショック、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の時期に次ぐものだと説明した。

サマーズ氏は、トランプ大統領に経済政策を助言する政権幹部について「助言者たちにとって試練の時だ。知的で誠実な人たちは、これが実証された経済理論でないことを知っているはずだ。彼らがトランプ大統領にそのことを伝える勇気があるか、政権を離れる勇気があるかどうかが問題だ」とのべた。

サマーズ氏は、クリントン政権で財務長官を務めた後、ハーバード大学の学長などを歴任した。日本を訪問し、当時の宮沢首相などと会談したことでも知られているが、民主党政権の主要閣僚だっただけにトランプ氏がこうした考えを受け入れることはないと思われる。

但し、今回のトランプ関税の意味や影響、側近のあり方などを考えるうえで、客観的な判断材料として非常に参考になる。

石破首相、体制作りと対処方針がカギ

それでは、これまでの石破首相の対応については、どのように評価したらいいのだろうか。まず、石破政権はトランプ関税の対象から日本を除外することを一貫して求めてきたが、不発に終わった。2月の日米首脳会談を終えた時点で、そうした要請が通用するのかどうか、早期に見極めておくことが必要だったのではないか。

こうした中で、石破首相とトランプ大統領の電話会談が7日夜9時から20分間にわたって行われたという情報が入ってきた。この中で、石破首相は「日本は5年連続で世界最大の対米投資国であることや、アメリカの関税措置で日本企業の投資意欲が減退することを強く懸念している」などと伝えた。

これに対し、トランプ大統領は「国際経済においてアメリカが置かれている状況について率直な認識を示した」とされる。そのうえで、日米両首脳は「担当閣僚を指名し、協議を続けること」を確認したとされる。

石破首相が訪米して日米首脳会談を行うかどうかについては、担当閣僚の協議を経て検討するとしていることから、具体的な日時の設定には至っていない。会談時間が20分と短いことからも、双方の主張は平行線をたどったとみられる。

電話会談を終えた石破首相は、8日朝、全ての閣僚が参加する「アメリカ関税措置に関する総合対策本部」を開催し、今後の対応を協議する考えを明らかにした。アメリカとの交渉に当たる担当閣僚は、まだ決めていないとしている。

日米交渉にどのような体制で臨むのか、その中核となる担当閣僚を決めるなど体制作りを急ぐべきだという意見は、早くから政府や与党内から出されていたが、ようやく体制作りが進むことになった。

ある閣僚経験者は「端的に言えば、オールジャパンの体制作りを急ぐ必要がある。総理官邸と、外務・通産など関係各省庁、民間、与党などとの連携・協力体制をつくる必要があるが、石破首相の対応は遅い」と指摘する。

もう一つの難題は、アメリカの関税を引き下げるため、どのような対処方針で臨むかという点だ。石破首相は、日本側から事態打開に向けたパッケージ案を示すことに意欲を示しているが、その内容は詰まっていないのではないか。また、アメリカ側の譲歩を引き出せるだけの説得力のある内容になるかどうかも問われる。

政権基盤が弱い石破政権にとっては、政府・与党の意見をとりまとめながら、対処方針をまとめあげるのは中々の難題である。

さらに今回の関税問題は、米中両大国が関係する大きなテーマで、日本としては、共通の価値観を持つ欧州諸国と連携を深めるなど強い外交力も必要だ。石破首相にとっては、後半国会での重要法案の審議と、夏の参院選対策、それに関税問題という3つの難題を同時平行で進めていく険しい道が続く。

”暗中模索”状態を脱して、日米首脳会談までこぎ着けられるかどうか、強力な指導力が問われる局面を迎えている。(了)                    ★追記(9日22時)◆トランプ政権は、貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」を課す措置を日本時間の9日午後1時過ぎに発動した。日本には24%の関税を課す。また、中国に対しては、既に20%の追加関税を発動しているが、34%の相互関税に加えて50%を上乗せするとして、追加関税は合わせて104%に引き上げるとしている。                         ◆中国政府は9日夜、アメリカのトランプ政権が中国からの輸入品への追加関税を合わせて104%に引き上げたことへの対抗措置を発表した。10日に発動するとしていた追加関税の税率を34%から50%引き上げて84%にするとしている。米中間では、追加関税と対抗措置の応酬が激しさを増しており、世界経済に打撃を与えるリスクが高まっている。                      ◆政府は8日、アメリカの関税措置の見直しに向けた担当閣僚に、赤澤経済再生相を起用することを決めた。アメリカ側の担当閣僚は、ベッセント財務長官とUSTR=アメリカ通商代表部のグリア代表。赤澤経済再生相はできるだけ早期に訪米し、アメリカ側と協議を始めたい考え。

 

 

 

 

予算成立も”内憂外患の石破政権”

新年度予算が参議院で再修正されて可決された後、衆議院に戻されて年度末の31日ぎりぎりの日程で、成立にこぎ着けた。

一方、与野党が3月末までに結論を出すことを申し合わせていた企業・団体献金の見直しについては与野党案の隔たりが大きく、決着は先送りになった。

新年度予算が成立したことで、石破政権は通常国会最初の難関を越えたが、予算成立のこの日、東京株式市場はトランプ政権の関税政策に対する懸念が強まり、日経平均株価は1500円以上値下がりし、今年最大の下落幅となった。

石破政権は、これから内政では重要法案をめぐる与野党の攻防が激化するのをはじめ、外交ではトランプ関税への対応を迫られ、内憂外患状態にある。石破政権と4月以降の政治はどのような展開をたどるのか探ってみた。

トランプ関税、自動車産業などを直撃へ

政府の当初予算が衆議院で修正されたのに続いて参議院でも再修正され、衆議院に戻されて成立するのは今の憲法の下で初めてのケースだ。少数与党の下で、高校授業料の無償化や高額療養費制度の見直しなどをめぐって、政権の対応が迷走したことの現れだ。

さて、これからの政治の動きで、新たな難題として浮上しているのがトランプ大統領が次々と打ち出している関税引き上げへの対応だ。トランプ政権は4月3日には、日本を含む全ての国からの輸入自動車に25%の追加関税を発動する予定だ。また、相手国と同率の関税まで引き上げる「相互関税」にも近く踏み切るものとみられている。

日本にとって自動車産業は基幹産業で、対米輸出額は年間6兆円に上るだけに追加関税が適用されると部品産業も含め、深刻な影響を受ける。石破首相は、関税引き上げの対象から日本を除外するようアメリカ側に引き続き要請するとともに、産業や雇用の影響を調査し、資金繰り対策などに全力を上げる方針だ。

これに対し、立憲民主党など野党側は「2019年の第1次トランプ政権と安倍政権の間で行われた貿易交渉で、日本の自動車への追加関税を断念させる代わりに日本は米国産の牛肉や豚肉などにかける関税をTPP加盟国並みに引き下げた。トランプ政権はこの約束を破っている」として、日米貿易協定をやり直すなど毅然とした対応を取るべきだと批判を強めている。

与党からも「日本政府として関税対策にどのような体制で臨むのか、対米交渉の中心になって担当する閣僚を決めるべきだ。官邸と省庁、民間、与党などオールジャパンで早急に対応していくことが必要だ」といった意見が聞かれる。

 重要法案、政治資金の攻防も激化

内政面では、重要法案の審議が本格化する。衆議院で先月から審議が始まっているのがサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー制御」導入関連法案だ。憲法が保障する「通信の秘密」との関係をめぐって、野党側は国会の関与を強める修正案を提出する見通しで、激しい議論が予想される。

また、政府・与党で検討が進められているのが、年金制度改革関連法案だ。パートで働く人たちが厚生年金に加入できる企業要件を撤廃することなどが盛り込まれる見通しだ。

自民党内では厚生年金の適用拡大につながり、今の国会で成立をめざすべきだという意見がある一方、事業主の負担が増え参議院選挙に影響が懸念されるとして、法案提出に反対する意見があり、調整が続いている。与野党間では既に「重要広範議案」に指定されており、その扱いに注目が集まっている。

さらに、後半国会の大きな焦点になるのが選択的夫婦別姓制度の問題だ。野党第1党の立憲民主党は4月中に法案を提出する予定で、与党の公明党は賛成の立場だ。自民党は保守系議員が「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として、選択的夫婦別姓制度に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

このほか、企業・団体献金の見直しをめぐっては、与野党が申し合わせた31日までに結論を出すことは困難になり、4月以降も協議が続く見通しだ。また、石破首相が10万円の商品券を自民党の衆議院議員に配付した問題については、野党側が政治倫理審査会で弁明するよう求めている。

さらに自民党派閥の裏金事件をめぐって、参議院予算委員会は旧安倍派幹部だった世耕弘成・元参院幹事長(現衆院議員)の参考人招致を議決したことから、衆議院でも旧安倍派幹部の参考人招致について、与野党の協議が行われる見通しだ。

このように内政でも重要法案や「政治とカネの問題」などの難題が山積しており、トランプ関税への対応と合わせて石破政権は、内憂外患状態にある。

 問われる首相の指導力と対応能力

そこで、石破政権の政権運営はどのようになるのだろうか。ここまでみてきたように石破首相は、まずは重要法案やトランプ関税などについて、指導力を発揮し成果を上げることができるかどうかが問われている。

また、与党側からは「コメの価格の値上がりやガソリンの暫定税率廃止など物価高対策について思い切った具体策を打ち出さないと参議院選挙は戦えない」といった声が聞かれる。こうした声に応えて、新たな対応策を打ち出せるかも注目される。

自民党のベテラン議員の一人は「党内には、”石破降ろし”を主張する議員はいるが、本気で首相を代えようという議員は多くはないのではないか。ただ、石破首相に対して、白けた雰囲気が感じられるのは要注意だ」と語る。

石破首相が10万円の商品券を配ったことが表面化した3月中頃は、石破退陣の見方も強まったが、その後、トランプ政権への対応が問われている時に党内抗争とみられるような行動はとれないなどとして、こうした見方は後退しているようにみえる。

攻める側の立憲民主党の野田代表は商品券問題が表面化した際、石破首相の退陣を求めなかった。「夏の参院選は政権基盤が弱い石破首相との対決を望んでいる」ようにみえる。

報道各社の3月の世論調査をみると商品券問題などが影響して、石破内閣の支持率は大幅に下落し、政権発足半年で最も低い水準に下落している。一方、野党の多くの党の支持率も上昇しているわけではない。

有権者の多くは「石破政権と与党は内外の課題を解決できる能力を持っているのかどうか」、「野党側は、政権与党に代わる政策や人材を結集できるのかどうか」を見定めようとしているのではないか。

通常国会後半のこれから、6月の東京議選や夏の参議院選挙に向けて内外情勢は激しく揺れ動くことが予想される。私たち有権者は、内外の情勢と与野党の政策、対応などをじっくり見極め選挙に活かしたい。(了)

★(追記4月1日午後1時)新年度予算の成立を受けて、石破首相は1日午前11時から記者会見し、冒頭、商品券配付問題について陳謝した。◇新年度予算が衆参両院での修正を受けて成立したことについて「熟議の国会の成果だ」と評価した。◇物価高対策については、従来の方針の説明に止まった。◇トランプ関税については日本を対象から除外するよう強く求めるとともに、自動車などへの関税措置が発動された場合、全国におよそ1千か所の特別相談窓口を設け、中小企業などからの相談に対応していく考えを示した。全体として踏み込んだ発言はなかった。★(追記4月3日午後1時)トランプ大統領は日本時間の3日朝、「相互関税」の導入を発表し、日本には24%の関税を課すことを明らかにした。中国に34%、インドに26%、EUに20%などの関税を課すとしている。一方、アメリカに輸入される自動車に25%の追加関税を課す措置は、日本時間の3日午後1時過ぎに発動された。日本にとってアメリカは最大の貿易相手国で、日本の自動車産業や経済は大きな打撃を受けるのは避けられない。                   ★(追記4月5日23時)トランプ大統領が表明した関税措置のうち、◇全ての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置は、日本時間の5日午後1時に発動された。◇アメリカの貿易赤字が大きいおよそ60の国や地域を対象した「相互関税」は、9日午後1時に発動する。◇一方、中国政府は、アメリカからの全ての輸入品に34%の追加関税を課すと発表した。10日に発動する見通し。◇ニューヨーク株式市場は、トランプ関税に伴う世界経済の減速を懸念して3日に1600ドル、4日に2200ドル超下落、日本円で合わせて970兆円の時価総額が失われた。

 

 

首相の商品券問題と”3月政局”のゆくえ

石破首相が自民党の当選1回の衆議院議員15人と会食するのに当たって、1人あたり10万円分の商品券を議員事務所に配っていた問題が明るみになり、政権を直撃している。報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は急落し、政権発足以来最低の水準にまで落ち込んでいる。

一方、新年度予算案は参議院で再び修正に追い込まれ、年度内に成立できるかどうかメドが立っていない。自民党内からは、石破首相の退陣を求める声も出始めるなど政権を取り巻く情勢は一段と厳しくなっている。

今回の行為をどのように見たらいいのか、また石破政権やこれからの政治はどのように動くのか、3月政局のゆくえを探ってみたい。

 首相の商品券問題で問われること

石破首相が自民党の衆議院1回生議員との会合に先だって、参加する議員事務所に1人10万円分の商品券を配った問題については、既に詳しく報じられているので、事実関係は繰り返さないが、さまざまな意見や論点が出されている。

まず、国民からは「国民が物価高で苦労しているときに、首相は国会議員の手土産に10万円もの商品券を配るとは信じられない」などとして庶民感覚とのズレを指摘する意見や、石破首相の政治姿勢に落胆、批判、怒りの声が聞かれた。

また、与党の議員からは「この通常国会では、企業団体献金の扱いが大きなテーマになっているのに、首相自らが商品券を配るとは余りにもタイミングが悪すぎる」など厳しい意見も出された。

石破首相は「会食の土産代わりで、国会議員の家族へのねぎらう意図もあった。政治活動に関する寄付ではなく、政治資金規正法上の問題はない」と繰り返し強調している。これに対して、野党側は「場所が首相公邸で、官房長官や副長官も同席していることなどから、政治活動に当たるのは明らかで政治資金規正法に抵触している」として、首相の政治責任を引き続き追及する構えだ。

こうした論点のほか、私の個人的な見方を言わせてもらうと、会食が行われた日にち自体に大きな問題がある。率直に言えば「政権運営の基本から逸脱」しているのではないか。

どういうことかというと、会食が行われた3月3日は、新年度予算案の修正が衆議院で大詰めを迎え、この日にようやく自民・公明両党と日本維新の会の3党幹事長会談で合意にこぎ着けた。そして、翌4日に衆院本会議で、3党の賛成多数で修正された予算案が可決、参議院へ送られた。

政権にとって当初予算案は政権の命運を左右する最重要案件の1つで、歴代政権は予算案の成立まで全精力を傾注してきた。一昔前の現役記者時代を思い出すと、首相はもちろん閣僚、与党幹部も予算成立までは夜の会合はできるだけ減らすなど細心の注意と心構えで行動していた。

ところが、今の石破政権の主要幹部は大詰めの段階に1回生議員との会食を設定し、日中に商品券を配ったりしていたことになる。はっきり言えば、信じられない対応であり、首相官邸は司令塔機能を果たしているのか疑問と言わざるを得ない。政権のチグハグな対応は、常日頃の政権運営に原因があるのではないか。

内閣支持率急落も、首相退陣論は少数

さて、こうした首相の商品券配布について、世論はどのようにみているのだろうか。読売新聞と朝日新聞の世論調査をみてみたい。

◆読売新聞の調査(3月14~16日)では、石破内閣の支持率は31%で、前回の先月調査に比べて8ポイント下落した。不支持率は58%で、15ポイント上昇した。

◆朝日新聞の調査(3月15,16日)では、石破内閣の支持率は26%で、先月調査から14ポイント下落した。不支持率は59%で、15ポイント上昇した。

どちらの調査とも商品券配布は「問題だ」とする評価が75%に上り、商品券問題が石破政権を直撃し、去年10月の政権発足以降、最低の水準にまで落ち込んだ。

一方、朝日新聞の調査では、石破首相は首相を辞めるべきだと思うかを尋ねたのに対し「その必要はない」が60%で、「やめるべきだ」が32%だった。

読売新聞の調査では、自民党中心の政権の継続を望むか、野党中心の政権に交代することを望むかを尋ねたのに対し「自民党中心の政権の継続」が36%で、「野党中心の政権に交代」が46%で上回った。同じ質問をした1月調査では「自民党中心の政権の継続」が41%と、「野党中心の政権に交代」が40%で拮抗していた。

この2つの項目についての世論の見方は、石破政権や政治のゆくえをみていくうえで、興味深いデータだ。

世論の反応について私個人の見方は次のようになる。「石破首相は退陣の必要なし」との見方は、◇新年度予算案の成立のメドもついていない中で、政治の混乱は避けるべきだとの考えや、◇有力な後継候補が見当たらないこと、◇首相や政権の評価は、夏の参院選で判断すればよいなど冷静な見方をしているのではないか。

政権の形態については「政治とカネの問題」に終止符が打てない自民党に対して、うんざりしていることの現れではないか。改善されないのであれば、政権交代で政治の刷新を図ることもやむなしとの人が増えているのであろう。

政治課題と、選挙政局をどう考えるか

それでは、これからの政治はどのように動いていくだろうか。内政では、新年度予算案や重要法案を抱えているほか、外交・経済分野ではトランプ大統領の再登板で4月初めには「相互関税」への対応を迫られる見通しだ。

このうち、新年度予算案については「年収103万円の壁」の引き上げをはじめ、高校授業料の無償化、高額療養費の自己負担上限額引き上げの凍結などが盛り込まれている。参議院で再び修正されたあと、衆議院へ回付することが必要で対応を急ぐ必要がある。

懸案の企業団体献金の扱いについては、3月末に結論を出すことになっており、与野党の激しい攻防が続く見通しだ。サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー制御」導入関連法案が18日に衆議院本会議で審議入りするほか、4月には野党が重視している選択的夫婦別姓法案も提出され、与野党の協議が本格化する見通しだ。

こうした中で野党側は、商品券問題については、石破首相に政治倫理審査会への出席を求めて説明責任を徹底して求めていく構えだ。野党第1党の立憲民主党は、内閣不信任決議案を直ちに提出することは避けて、石破首相の下で参議院決戦に臨みたい考えだとみられる。

一方、自民党内では、石破首相では夏の参議院選挙では戦えないとして、退陣を求める声が出始めた。これに対して、自民党執行部は少数与党の下で、首相交代を進めると政権を失う恐れもあるとして「石破降ろし」につながらないよう党内を説得していく方針だ。

但し、党内が収まるかどうかは、はっきりしない。参議院選挙を控える参議院自民党や旧安倍派がどのような対応を示すかが焦点になる。

このように通常国会は、石破首相が新年度予算案や、企業団体献金などの扱い、それに自らの商品券問題を含めて指導力を発揮していけるかどうかが問われることになる。

政治の役割は、国民生活を安定させるとともに、国の安全を維持していくことにある。政権与党は、内政の課題としてはどの法案を最優先で取り組むのか、首相を続投させるのか、交代させるのか国民に明確に示すことが必要だ。

一方、野党側は、与党と協力して成立させる法案と、野党が実現をめざす法案や構想を提示しながら、国民にわかりやすい選択肢を示してもらいたい。私たち有権者は、夏の参議院選挙、場合によっては衆院選挙に備えて、与野党の動きをしっかり見ていきたい。(了)

 

内閣支持率急落、厳しさ増す石破政権

新年度予算案の成立に向けて参議院で大詰めの審議が続く中で、石破内閣の支持率が急落している。NHKの3月世論調査によると石破内閣の支持率は36%で、先月に比べて8ポイント下落した。不支持率は45%で、先月より10ポイントも増えた。

なぜ、今の時点で内閣支持率が急落したのか、石破首相の政権運営にどのような影響を及ぼすことになるのか探ってみたい。

 支持率急落、高額療養費の混乱が影響

さっそく、NHKが今月7日から9日にかけて行った世論調査の内容から見ていきたい。石破内閣の支持率は36%で、先月の調査より8ポイント下落した。一方、不支持率は45%で、先月より10ポイントも急上昇した。

不支持の理由としては「政策に期待が持てないから」が39%で最も多く、先月より6ポイント増えた。次いで「実行力がないから」が23%で、こちらは先月と変わらなかった。

石破内閣の支持率は、去年10月の政権発足時は44%の低い水準のスタートとなった。その後は40%前後の支持率を維持してきたが、3月の36%はこれまでで最も低い水準に落ち込んだことになる。

この支持率急落の原因だが、がんや難病などの治療で医療費が高額になった場合、患者の自己負担を抑える高額療養費制度の見直しをめぐる政府側の混乱が影響したものとみられる。

衆議院の予算審議の中で患者団体や野党からは、自己負担の引き上げに反対する意見が出されたのに対し、政府側は引き上げ案の修正を重ね、対応が二転三転した。

さらに、この問題は参議院の予算審議でも取り上げられ、身内の自民党や公明党からも慎重論が出されたことから、石破首相が7日に患者負担の引き上げ全体を見送ったうえで、再検討する考えを表明した。

この見送りで、政府・与党はおよそ100億円の費用が必要になるとして、新年度予算案を参議院で再び修正したあと、衆院に回付する異例の対応が取られる見通しだ。与野党双方から「石破首相は、もっと早い段階で決断すべきだった」などの批判が聞かれた。この問題は、今後も尾を引くことになりそうだ。

 続く難問、年金改革、企業団体献金

石破首相にとって、今の国会に提出を予定している年金制度改革関連法案の取り扱いも難問だ。この法案には、パートで働く人が厚生年金に加入できる企業要件を撤廃することなどが盛り込まれる見通しだ。

自民党内では、厚生年金の適用拡大につながり、今の国会で成立をめざすべきだという意見がある一方、参議院選挙への影響が懸念されるとして法案提出に反対する意見があり、調整がついていない。

一方、企業・団体献金の扱いについては3月末までに与野党が結論を出すことになっている。自民党は、献金の禁止ではなく透明化を図る法案を提出しているのに対し、立憲民主党などは禁止法案を提出しており、与野党の調整は難航が予想される。

さらに、トランプ政権は輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置について、日本時間の12日午後、発動した。「全ての国が対象」としており、日本から輸出される製品にも関税が課されることになる。

こうした中で自民党の西田昌司参議院議員は、12日に開かれた党の参議院議員総会で「今のままの党の態勢では、夏の参議院選挙を戦えない。新たなリーダーを選び直すべきだ」として、石破首相に代わる新たな総裁を選び直すべきだという考えを示した。

こうした声が「石破降ろし」に発展するかどうかははっきりしないが、新年度予算案成立後は、夏の参院選挙に向けた体制づくりなどをめぐって党内の駆け引きが活発になることも予想される。

石破首相にとしては当面、新年度予算案の成立に全力を上げるとともに、党内の結束を固め直して夏の参院選挙に臨みたい考えだが、内外の懸案を着実に処理できるかどうか、正念場を迎えている。(了)