”首相続投”対”早期退陣”対立深まる自民党

参院選挙で大敗した自民党は28日午後、自民党本部で両院議員懇談会を開いた。冒頭、石破首相は参院選挙の結果について陳謝したあと、「アメリカの関税措置をめぐる日米合意を着実に実行し、責任を果たしていきたい」と訴え、続投に理解を求めた。

これに対して、出席者からは続投を支持する意見が出された一方、「去年の衆院選に続いて、参院選でも大敗した責任を明らかにすべきだ」などとして、早期退陣を迫る意見が相次いだ。午後3時半に始まった懇談会は、予定時間を大幅に上回り、4時間半に及んだ。

両院議員懇談会終了後、石破首相は記者団に「果たすべき責任を果たしていきたい」とのべ、重ねて続投に意欲を示した。退陣を求める議員側も、党の正式な機関である両院議員総会の開催を求め、石破首相の退陣を迫る構えで、双方の対立は一段と深まった。

一方、報道各社の世論調査で、石破首相は参院選挙の責任をとって「辞めるべきだ」という意見と「辞める必要はない」とする意見が拮抗していることも明らかになった。こうした世論の反応をどのようにみたらいいのか、自民党内の対立はどのような展開になるのか、考えてみたい。

議員懇談会64人が発言、退陣論噴出

両院議員懇談会からみていくと石破首相と森山幹事長の挨拶のあと、懇談会は非公開で行われた。自民党所属議員の236人が出席し、このうち64人が発言した。

出席した議員の話によると「発言した64人のうち、続投を求めた議員は7人か、8人程度で、退陣を求めた議員は20数人に上った」と話しており、石破首相の責任の明確化や退陣を求める意見が噴出したというのが実態に近いようだ。

具体的な意見としては「選挙の結果責任は、誰かが取らなければいけない。組織のトップや執行部がケジメをつけるべきだ」「去年の衆議院選挙、6月の東京都議会議員選挙、参議院選挙でも大敗となった。組織の長、執行部にはケジメをつけてもらいたい」、「いつケジメをつけるのか、早く示してもらいたい」などの意見が相次いだとされる。

「辞任」「必要ない」分かれる世論

世論は、石破首相の進退をどのように考えているのだろうか。報道各社が26、27両日に行った世論調査によると◆朝日新聞では「辞めるべきだ」が41%に対し、「その必要はない」が47%で上回った。自民支持層だけに限ると「辞めるべきだ」が22%で、「その必要がない」が70%と多数を占めるという。

◆毎日新聞では「辞任すべきだ」42%、「必要ない」33%、◆産経新聞では「辞めるべきだ」47.7%、「必要ない」44.2%となった。社によって数字に違いはあるが、「辞めるべきだ」と「必要ない」が拮抗している点で共通している。

各社の世論調査では石破内閣の支持率は30%前後に対し、不支持率は60%と圧倒的に多数を占めている。だが、首相の進退については「辞任の必要はない」とする意見がかなり多いのはどうしてなのだろうか。

こうした結果になった理由について、調査では質問した項目はないが、幾つかの要因が考えられる。まず、今回の参院選挙結果の敗因は、石破首相個人の問題だけでなく、自民党全体に問題があると捉えていることが考えられる。

あるいは、日米関税交渉が合意にこぎ着けたばかりで、詰めの話し合いも予想される中で、退陣を急いで行う必要はあるのかとの見方も予想される。

もう1つは、退陣を求めている側に旧茂木派や旧安倍派、麻生派の議員が目立つことから、世論の側は裏金問題や権力闘争絡みの動きではないかとみて、不信感や疑念を抱いていることが影響していることが考えられる。

さらに、政権が交代する場合、次のリーダーや勢力に信頼を置くことができるのかどうか見定めたいという考えがあるのではないか。

いずれにしても世論の側には「政党や政権は、顔を代えるだけでは不十分で、リーダーを含めた政治勢力としての能力、資質、主要な政策などをじっくり判断したい」という姿勢が世論調査から読み取れる。

石破首相進退、8月下旬がヤマ場か

それでは、今後の展開はどのようになるのだろうか。森山幹事長は懇談会の冒頭に「選挙結果を踏まえ『参議院選挙総括委員会』を設置し、8月中をメドに報告書をとりまとめたい。まとまった段階で、幹事長としての自らの責任を明らかにしたい」との考えを示した。

森山幹事長は懇談会終了後、記者団に対し「両院議員総会については、29日の役員会で、開催する方向で協議したい」との考えを示した。

また、選挙の総括の報告書をとりまとめた後の責任には進退が含まれるのかとの質問に対し「そういうことを含むと考えている。党内には幹事長が責任をとれという意見があり、真摯に耳を傾けないといけない」とのべた。

この森山幹事長の発言は、選挙総括の報告書がまとまった段階で、自ら辞任する考えを示したものとみられる。

そこで、石破首相の進退問題はどうなるか。石破首相は続投に意欲を示しているものの、去年の衆院選に続いて、参院選でも与党が過半数割れしたことから、今の自民党の状況からすると、石破首相が政治責任を取る形になるのは避けられないのではないか。

8月は、1日からの臨時国会の召集や、広島、長崎原爆の日、終戦記念日の行事など重要な政治日程が続く。それに加えて、参院選の総括の報告書がまとまるとみられる8月下旬には、森山幹事長だけなく、石破首相の決断も迫られる可能性が大きいとみられる。

一方、総理・総裁が責任をとって辞任する場合も、自民党はこれまでと同じように首相の顔を取り替えれば、いずれ世論の支持が回復するような時代ではなくなっていることを認識する必要がある。既に衆参ともに多数派からは転落しているからだ。世論の視線も一段と厳しさを増している。

自民党は、世論の評価が厳しい「政治とカネの問題」など懸案の対応、日米関税合意への取り組み、物価高騰対策と日本経済の新たな成長戦略などを提示できない場合は、政権与党の座から滑り落ちるおそれがあるという危機感が今も乏しいのではないか。

先の参院選を受けて自民党が党の再生に向けて本格的に動き出すのか、それとも党内抗争を繰り返すことになるのかどうか、8月末にかけての動きを注視していきたい。

★追記(7月29日22時)自民党は29日の役員会で、参院選挙の敗北を受けて党内から開催を求める意見が出ていた「両院議員総会」を開くことを決めた。党執行部は8月第2週の後半にも開催する方向で調整を進めている。「両院議員総会」は、28日の両院議員懇談会とは異なり、党の正式な意思決定機関。党の運営や国会活動における特に重要な事項を審議、決定するとされている。石破首相の早期退陣を訴える議員らは、この場で石破首相の政治責任を取り上げて、退陣につなげたい考えだ。石破首相は記者団に「丁寧に真摯に、逃げずに説明するということに尽きる」とのべた。

★追記(7月31日22時)自民党は31日、参院選挙の敗北を分析する総括委員会の初会合を開き、選挙公約やSNSの活用を含む広報のあり方などについて検証したうえで、8月中に報告書をまとめる方針を確認した。一方、8月8日午後2時半から党本部で、「両院議員総会」を開くことを党所属議員に通知した。議題については「参議院選挙の総括と今後の党運営」としている。(了)

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参院選自公大敗、石破首相続投表明も政局流動化へ

20日投票が行われた第27回参議院選挙で自民・公明両党は、議席数を大幅に減らして大敗した。与党は衆議院に続いて、参議院でも過半数を維持できないことになった。自民党を中心とする政権が衆参両院で過半数割れするのは、1955年の結党以来初めての事態になる。

野党側は第1党の立憲民主党と、日本維新の会はそれぞれ改選議席を維持、または上回る議席を得たが、伸び悩んだ。これに対し、国民民主党と参政党は大幅に議席を増やして躍進した。

こうした中で石破首相は21日午後、自民党総裁として記者会見し「今、最も大切なことは国政に停滞を招かないことだ」として、首相を続投する意向を正式に表明した。

これに対して、自民党内には「党の総裁として政治責任を取るべきだ」として退陣を求める声が出始めている。参院選の結果をどのように見るか、参院選挙後の政治はどのように展開することになるのか探ってみたい。

 与党過半数割れ、政権不信が直撃

さっそく、今回の参議院選挙の結果をどのように評価するか、与党からみていきたい。自民党は選挙区で27、比例代表で12の合わせて39議席となった。この議席数は1989年宇野政権の36議席、第1次安倍政権の37議席に次ぐ3番目の少なさだ。

参院選の勝敗は、1人区の攻防がカギを握っている。自民党はこの1人区で圧倒的な強さを発揮してきたが、今回自民党は14勝18敗に終わった。3年前の参院選は28勝4敗だったので、勝ちが半分に落ち込んだ。

政党の勢いが反映する比例代表選挙をみると今回の12議席は、野党に転じた2010年と同じ過去最低の議席数だ。得票数は1280万票で、前回選挙から546万票も減らした。

敗因については、最大の焦点になった物価高騰対策で、コメの高騰が去年の夏以降続いたのに対応が終始、後手に回った。1人当たり2万円の現金給付も打ち出したが、国民に選挙目当てと見透かされて評価は極めて低かった。

また、先の通常国会では、懸案の企業団体献金が先送りになったほか、トランプ関税に対する日米交渉でも思うような成果が出せず、説明も行われなかった。石破政権に対応能力はあるのか、自民党は耐久年数が過ぎてしまったのではないかと国民の不満、不信が政権与党を直撃したことが敗因になったのではないか。

自民党の長老は「去年の衆議院選挙の総括、反省がなされてこなかったのではないか。これでは、国民の信頼を信頼を得るのは難しく選挙には勝てない」と厳しい評価をしている。

公明党は選挙区、比例代表ともに4議席ずつの8議席に止まった。改選は14議席だったので、6議席も減らしたことになり、過去最低の議席数となった。

自公連立政権が発足してから四半世紀になる。両党とも政権運営がマンネリ化しており、主要な課題を解決していく意思と能力があるのか、厳しく評価されたのが今回の選挙だったように思う。

 野党は多党化、躍進・退潮の明暗も

これに対して、野党の選挙結果はどうか。野党第1党の立憲民主党は、選挙区が15、比例代表が7の合わせて22議席を獲得した。1人区を中心に反自民票の一定の受け皿にはなったが、獲得議席は改選議席と同数に止まった。

日本維新の会は、選挙区が3、比例代表4の合わせて7議席で、改選議席を2つ上回った。だが、前回の比例代表では8議席を獲得したことを考えると半減し伸び悩んだ。

これに対して、国民民主党は選挙区10、比例代表7の合わせて17議席で、改選議席を4倍以上も増やした。比例代表の得票数でも762万票、前回から2.4倍も増やした。参院候補者の選考などをめぐって一時の勢いを失ったが、「手取りを増やす」という主張が若い年代を中心に支持を広げた。

参政党も選挙区、比例代表ともに7議席ずつの合わせて14議席を獲得した。改選議席1から、一気に大幅に議席を増やした。比例代表でも745万票を獲得し、立民を上回った。

参政党は「日本人ファースト」を掲げ、20代、30代の若い世代の他、40代から60代の中高年まで支持を広げたことが世論調査で読み取れる。自民党支持層にも食い込んで支持を広げており、こうした傾向が持続するのかどうか注目される。

れいわは3議席を獲得、改選議席2から増やした。共産党は3議席で、改選議席7から大きく減らした。日本保守党は2議席、社民党は1議席、「チームみらい」も1議席を獲得した。

このように野党については、立憲民主党は改選議席を確保したものの、多党化が進んでいる。また、躍進した政党がある一方、議席減や伸び悩みの政党もあり、野党の足並みがそろうのは容易ではないのも事実だ。

石破政権の不安定化、自民党内政局も

参院選挙の結果を受けて、石破首相は21日の記者会見で「極めて厳しい審判をいただいた。有意な同志が議席を失い痛恨の極みだ」とのべる一方、「比較第1党としての責任、国家・国民の皆さまに対する責任を果たしていかなければならない」とのべ、首相を続投する意向を正式に表明した。

また、石破首相は執行部の責任について「みんなで全身全霊、対応してきた」として、執行部を続投させる考えを示した。

さらに、今後の政権運営について「連立の枠組みを拡大する考えを持っているわけではない」とのべるとともに衆参両院で少数与党になる中で、政策ごとに合意形成を図っていく考えを強調した。

これに対して、自民党内からは「去年の衆院選挙で敗北、6月の都議選で過去最低の議席、さらに参院選敗北の3連敗では、首相の政治責任を問わざるを得ない」として、石破首相の退陣を求める声が出始めている。

一方で、アメリカ政府が対日関税25%を課す期限を8月1日に設定していることや、終戦記念日関連の行事も抱えており、首相交代を求めるのは難しいとの声も聞く。

石破首相は「両院議員懇談会などの機会を設け、国会議員だけでなく、地方組織の声も丁寧に対応していく」との考えを示し、党内を説得する構えだ。

こうした石破首相の対応について、自民党の長老に聞いてみると「選挙で敗北した以上、総理・総裁は出処進退を明らかにするのが筋だ。首相自ら非改選を含め与党で過半数確保を表明した以上、けじめをつけた方がいい」と指摘する。

また、「首相がこのまま続投した場合、次の衆院選でも敗北を続けることになりかねない。いったん区切りをつけて、党のあり方や政権構想などを練り直した方がよい」との考えを示している。

自民党執行部は今月31日に両院議員懇談会を開き、党所属議員から意見を聞くことにしているが、党内では今後、国会議員や地方組織などから、石破首相の政治責任を問う動きが強まることが予想される。”自民党内政局”がこれから始まり、政局は流動化してくる見通しだ。

一方、野党側の幹部からは、石破首相から連立の枠組みへの参加を求められても応じる考えはないとする考えが示されている。立憲民主党の野田代表は「民意は石破首相にノーという審判を示した。続投の意思表明にしては説得力がなさ過ぎる」と批判し、石破政権と対峙していく考えを表明した。

野党各党にとっても石破政権とこれまでと同じように個別の政策協議に応じていくのか、野党内の連携を深めて政権と対峙していくのか問われることになる。また、野党側は衆参両院で多数を占めることになったので、主要政策や国会運営などについても責任ある対応を求められる。

参院選を受けて議長などを決める臨時国会が8月1日にも召集される見通しだ。衆参両院で多数を占める野党側の要求で、物価高対策などをめぐって石破首相と与野党の論戦が交わされることも予想される。

内外情勢が激動する中で、石破政権と与野党は日本が抱える主要課題について、どのような方針で臨むのか、国民の不安を払拭できるような突っ込んだ議論と対応を強く注文しておきたい。

★追記(23日22時)◆石破首相は23日午前、首相官邸で記者団に対し、アメリカの関税措置について、トランプ大統領との間で合意に至ったことを明らかにした。相互関税を25%から15%に引き下げるとともに、自動車関税についても既存の税率を含めて15%とすることで合意したと説明した。そのうえで「対米貿易黒字を抱える国の中で、最も低い数字となる」と成果を強調した。                 ◆石破首相は23日午後、自民党本部で、麻生最高顧問、菅副総裁、岸田前首相の首相経験者と会談した。この後、石破首相は記者団に「一部の辞任報道は事実でない」と否定したうえで、続投する考えを重ねて示した。自民党は、参院選挙の敗北を受けて、党所属議員から意見を聞く「両院議員懇談会」を今月28日に前倒しして開くことになった。自民党の中堅議員や地方県連からは、石破首相の退陣や執行部の刷新を求める意見が相次いで出されている。(了)

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”自民苦戦、与党過半数厳しい情勢”2025参院選

今月3日に公示された参議院選挙は中盤戦に入り、各党の選挙戦は一段と熱を帯びてきた。ここまでの選挙情勢をみると自民党が苦戦しており、与党で過半数を確保するのは厳しい情勢になっているようにみえる。

一方、野党側では、立憲民主党が堅調な戦いを進めているほか、参政党、国民民主党、れいわの勢いが目立つなど新たな展開もみられる。参院選序盤の情勢を分析するとともに最終盤に向けて勝敗のカギはどこにあるのか探ってみたい。

石破内閣、自民支持率ともに低位水準

今回の参議院選挙について、NHKのトレンド調査の2回目のデータ(7月4~6日実施)が7日に報道されたので、このデータを基に選挙情勢全体をみておきたい。トレンド調査は、国政選挙投開票日の数週間前から1週間ごとに連続して、有権者の政治意識の動向を把握するために行っている調査だ。

それによると石破内閣の支持率は31%で、1週前の第1回調査(6月27~29日)から3ポイント下がった。不支持率は50%で、前回より4ポイント上がった。6月上旬の月例世論調査の支持率は42%だったので、この1か月間に11ポイント下落したことになり、去年10月の政権発足以来、最も低い水準だ。

一方、自民党の支持率は、トレンド調査の1回目は27.8%、2回目は28.1%だった。前回3年前の参院選の同じ時期は、35.6%だった。安倍政権当時の自民党支持率は30%台後半、岸田政権でも30%台半ばだったので、石破政権では30%ラインを割り込んでおり、内閣支持率とともに低位の水準にあることがわかる。

与党・公明党の支持率(2回目)は3.0%で、1回目の調査より0.8ポイント下がった。

これに対して野党各党はどうか。伸びが目立つのは、参政党で4.2%まで上昇した。6月の月例調査で1.9%だったのが、1回目調査で3.1%、2回目調査でさらに伸ばした。公明党の支持率を上回ったので、その勢いには驚く。

国民民主党の支持率も5.1%と高い水準にある。3月の月例調査では8.4%で、第1党の立憲民主党を上回っていたが、参院選挙の候補者選びなどをめぐって低下した。それでも支持率としては、野党の2番目の地位を維持している。

れいわ新選組の支持率は3.2%で、前回調査の2.0%から支持を伸ばした。3年前は1.7%の支持率だったので、れいわも支持を伸ばしている。

立憲民主党の支持率は8.5%。6月の月例調査では5.8%だったので、支持率を堅実に上げてはいるが、野党第1党しては自民党との大きな差を縮められていない。一方、日本維新の会の支持率は2.3%、共産党は3.1%などとなっている。

このように石破内閣と自民党はともに支持率が低迷、公明も支持に陰りがみられる。これに対し、参政党、国民民主党、れいわの各党には勢いがみられる。立憲民主党は一定の支持を得ているが、維新、共産は低迷しており、野党でも明暗が分かれている。

 与党過半数厳しい情勢、1人区で苦戦

それでは、参院選の選挙情勢、勝敗はどうなるか。まず与党のうち、自民党からみていくと比例代表選挙について、前回は18議席を確保したが、今回は党の支持率が低下していることから、大幅に減らすことになりそうだ。

自民党の比例代表の過去最低は12議席だった。自民党関係者に聞くと「12±α」程度にまで落ち込むのではないかとの見方を示している。

次に選挙区選挙では、2人区から6人区まで複数区は13ある。このうち、複数区で2人擁立し当選した選挙区もあるが、激戦区も多く、13議席程度に止まる可能性が大きい。

問題は、全国に32ある定数1の1人区の攻防だ。自民党はこれまで地方の厚い保守地盤を活かして野党に大差をつけてきたが、今回は接戦となっている選挙区が多い。今の時点で自民党がリードしているのは群馬、石川、山口など10程度だ。

逆に野党各党と無所属を含めた野党系がリードしているのは岩手、長野、大分など9程度。残り13選挙区は与野党が激しく競り合い、勝敗の見通しは現時点ではつけにくい。

公明党は党員の高齢化などの影響もあり、議席獲得が確実に見込めるのは選挙区で5、比例代表で5の合わせて10程度とみられる。

与党が過半数を確保するためには、参院全体の過半数125から、非改選の自民、公明両党75を差し引いた50議席が必要になる。そうすると公明党を10と仮定するならば、自民党が40議席を確保できるかが勝敗の分かれ目になる。

その自民党は、比例12、複数区13と仮定すると合計25、残り15議席を1人区で獲得できるかということになる。ところが、1人区は接戦区が多く、15議席を確保できるメドはついていない。したがって、与党で過半数確保は厳しい情勢というのが実状だ。

立民堅調、参政、国民、れいわに勢い

野党側の情勢はどうだろうか。野党第1党の立憲民主党は支持率も3年前の水準以上に確保していることや、1人区で反自民の受け皿になっていることから、20台後半の議席を確保する見通しだ。堅調な戦いと言える。

特に勢いが目立つのが参政党だ。神谷代表は公示前の2日の時点で、獲得目標として選挙区1と比例代表5の合わせて6議席としていたが、その後、10議席以上に目標を引き上げた。

自民党関係者は「地方でも参政党が保守地盤に食い込んでおり、自民党に影響が出るのではないか」と警戒する。今の勢いを投票日まで維持すれば、選挙区と比例代表を合わせて9議席前後獲得するのではないかとの見方もある。

国民民主党も一時の勢いに陰りはみられるが、選挙区と比例代表合わせて10台半ばまで議席を大幅に増やす勢いがある。れいわも比例代表で4議席程度を確保するものとみられる。

一方、公示前の勢力として維新は5議席、共産党は7議席を確保していたが、伸び悩みか、議席を減らす可能性がある。

社民党と日本保守党はそれぞれ1議席を獲得する可能性がある。このように野党側については、参政党と国民民主党、れいわに勢いがある。立民は堅調だが、維新と共産は伸び悩みか、議席を減らす可能性がある。

1人区の最終攻防、投票率も勝敗を左右

参院選挙の最終盤に向けて勝敗面では、どこが大きなカギになるか。選挙区では1人区が全体の定員の4割を占めることから、この1人区の競合選挙区の攻防が最大の焦点になる。加えて、複数区の最後の議席をどの党が競り勝つかがポイントだ。

もう1つ、投票率も選挙戦を大きく左右する。NHKのトレンド調査をみて気づくのは、今回の参議院選挙について「投票意欲」が高いことだ。投票に「必ず行く」と答えた人は56%、「期日前投票をした」人は6%で、合わせて63%にのぼっている。

前回3年前と6年前の参議院選挙は55%に止まっていた。このときよりも7ポイントも上回っていることになる。今回の投票日20日は、3連休の中日に当たり、投票率が下がるのではないかと懸念されているが、有権者の投票意欲は相当高いようだ。

こうした背景には、物価高騰対策などに意思表示をしたいという考えがあるのだろうか。投票率が1%上がれば、有権者数で100万人増えることになり、選挙結果にも影響を及ぼす。3年前の投票率は52%だったが、今回はどうなるか、注目したい。

選挙戦真っ最中の8日、アメリカのトランプ大統領は、日本からの輸入品に25%の関税を課税する方針を日本政府に伝えた。8月1日から適用するとしている。これに対し、石破首相は、相互関税の一時停止の期限が事実上、延期されたという認識を示し、交渉を続ける考えを示した。

こうした石破政権の対応について、有権者がどのように評価をするのか。参議院選挙は選挙運動期間が17日間と長いのが特徴で、これまでも党首の発言などが選挙結果に大きな影響を及ぼしたこともあった。

内外情勢が大きく動く中で、各党の論戦や戦い方がどのような展開をみせるのか、選挙情勢は大きく変わる可能性がある。私たち有権者もどの候補者、政党に政権や政策の推進を委ねることにするのか、選挙情勢も念頭に入れて1票を投じたい。(了)

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2025参議院選挙の見方・読み方

第27回参議院選挙が3日公示され、20日の投開票日に向けて激しい選挙戦に入る。衆議院選挙が「政権選択選挙」と位置づけられるに対して、参院選は「中間選挙」とも言われ地味な印象を受けるが、政治が大きく変化する先駆けになったことも多かった。

私は昭和46年・1971年から50年余り選挙取材を続けているが、記憶に残る参院選として最初に頭に浮かぶのは、平成元年・1989年の参院選だ。「マドンナ旋風」、当時社会党の土井たか子委員長が多くの女性候補を擁立し、49議席を獲得した。対する自民党はリクルート問題、消費税導入、宇野首相の女性問題が重なって大惨敗。参院で初めて与野党の勢力が逆転し、その後の自民1党優位体制の終焉へとつながった。

平成19年・2007年の参院選で第1次安倍政権は、37議席と歴史的大敗を喫して衆参ねじれ状態となり、その後の民主党政権誕生へつながった。その後、安倍首相は衆院選で政権に復帰したあと、2013年の参院選挙で大勝し長期政権の足がかりを得た。

そこで、今度の2025年の参院選挙はどのような位置づけとなり、何が問わる選挙なのか有権者の立場に立って考えてみたい。どの政党、候補者に投票するかを判断するうえで、基礎的な判断材料になる。参院選挙の勝敗の見通しと選挙情勢については、次回以降に取り上げたい。

自公政権継続か、政変・政局激動か

今回の参議院選挙は、去年の衆院選挙で30年ぶりの少数与党となった石破政権が政権の命運をかけて臨む国政選挙になる。選挙の勝敗ラインを尋ねられた石破首相は「非改選を含め参院の過半数」を獲得目標に掲げている。

こうした石破首相の目標に対して、自民党内には「非改選を含めると甘い目標になってしまう」として、より高い「改選議席の過半数」をめざすべきだとする意見もあり、勝敗ラインの基準をめぐる綱引きが続くことになる。

いずれにしても石破首相が、非改選を含めた参院全体、あるいは改選議席の過半数を上回る議席を獲得すれば、参院選後も石破首相(自民党総裁)が続投することになる。

一方、報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は、不支持率の方が高い逆転状態が続いている。また、自民党の支持率も都議選後30%ラインを割り込むデータも出ており、党内で危機感が広がっている。

このため、勝敗ラインに達しない場合は、党内から政治責任を問う”石破降ろし”が起きたり、首相退陣に追い込まれたりする可能性がある。参院選挙は政権選択選挙ではないと言われるが、今回は首相の命運がかかっているので、事実上の政権選択選挙の性格を持った選挙だと言えそうだ。

このように選挙後の政治は、石破首相と今の自公政権が続くことになるのか、それとも首相退陣の政変や政権の枠組みが変わる大きな政局に発展することになるのかが焦点になる。今回の参院選はそれだけ、重い意味を持つ選挙ということになる。

8党首討論は”物価高対策論争”

次に私たち有権者にとって大きな関心のある政策面では、どのような内容が主要テーマになるだろうか。2日に日本記者クラブ主催で、自民、公明の与党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組、参政党の8党党首討論が行われたので、主な論点を取り上げてみたい。

石破首相と各党党首がそろって取り上げたのが物価高対策だった。このうち、石破首相と与党公明党の斎藤代表は、子どもと非課税の人に4万円、それ以外の人には2万円の給付を行うと説明するとともに「困った人に重点を置き、早期に実施することが重要だ」と訴えた。

これに対して、立憲民主党の野田代表など野党各党の党首は「与党の現金給付はバラマキだ」と批判するとともに「物価高から国民生活を守り抜くためには、消費税減税に踏み出す必要がある」と強調した。

その際、党によって食料に限って減税する案や、消費税全体の税率を一律に引き下げる案、さらには廃止を求める考えなどに分かれた。財源の規模や、赤字国債を発行することの是非についても意見は分かれた。

一方、外交・安全保障分野では、野田代表が「日米関税交渉は前進がみられず、トランプ大統領は、相互関税の税制措置をさらに引き上げる考えを示唆している」として、石破首相がトランプ大統領と首脳会談を行い打開すべきだと質した。

これに対し、石破首相は「日本は、アメリカの最大の投資国であり、最大の雇用も生み出している国だ。関税より投資の意義を訴えていく。何としても国益を守る」とのべたが、日米首脳会談については言及しなかった。

このほか、社会保障制度改革や、コメ問題と農業政策、賃金引き上げと経済政策、企業団体献金の扱いなどについても議論された。

このように物価高対策は、有権者の関心も高く、各政党が重視していることは理解できる。一方、多くの有権者は「政党間のサービス合戦に終わらせずに、日本社会全体が発展していくために何を重点に取り組むべきか示して欲しい」と考えているのではないか。

また、各党とも高い経済成長や給与の引き上げを打ち上げているが、どのような政策の組み合わせで実現するのかは明確になっていない。これからの日本経済や社会を活性化していくための具体策の提示が必要ではないか。

  投票に求められる判断は

選挙戦が始まり、今後さまざまなメデイアでも党首討論が行われる。有権者の多くは、各党や候補者が当面の目先の対応策だけでなく、将来社会の目標やビジョン、実現への道筋などについて、より踏み込んだ議論を期待しているのではないか。

今度の参議院選挙では、選挙結果によって石破首相の進退や政権の枠組みに大きな影響を及ぼすことが予想される。一方、内外情勢が大きく動いている中で、私たち有権者は、日本社会はどのような進路を選択すべきかという観点も忘れずに選挙の論戦をみていきたい。(了)

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”都議選、自民大敗“ 敗因をどう読むか

22日投開票が行われた東京都議会議員選挙では、自民党が過去最低の21議席となり、第1党を維持できなかった。一方、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会は31議席を獲得し、第1党に返り咲いた。

野党側では、立憲民主党が議席を伸ばしたほか、国民民主党と参政党が初めて議席を獲得した。共産党は議席を減らし、大阪維新の会は議席を失った。一方、公明党は、9回連続の全員当選を逃した。

このように各党派の明暗は分かれたが、特に自民党は、コメ問題で小泉農水相の登場によって選挙情勢は好転しているとみていただけに、選挙結果を深刻に受け止めている。今回の自民大敗の原因はどういうことだったのだろうか、来月に迫った参院選への影響はどうなるか分析してみたい。

 自民党過去最低の議席、敗因は

東京都議選が告示される前、自民党関係者に見通しを聞くと「自民党の現有議席は30。これを多少下回ることはあるかもしれないが、過去最低の23議席を割り込むことはないだろう」と比較的楽観的な見方を示していた。

その理由としては、コメ問題に関心が集まり、政治とカネの問題への関心が低下していること、そして小泉農水相の登場でメデイア各社の世論調査でも石破内閣の支持率も上昇していたことから、選挙情勢は好転するとみていたからだ。

ところが、ふたを開けてみると2017年、都民ファーストの会ブームで自民党が沈んだ23議席、これをさらに下回る21議席にまで落ち込んだ。このうち、3人は追加公認なので、本来の公認候補の当選は18人で、惨敗と言ってもいい。

選挙結果をみると◆定数1の1人区、千代田区、武蔵野市など7つの選挙区で、自民党が勝利したのは1議席だけで、1勝6敗に終わった。◆2人区以上の複数区では最後の議席を競り負けた選挙区が目立った。

こうした原因はどこにあるのだろうか。筆者は都内に住んでおり、小さな個人的体験で恐縮だが、今回は自民党候補のビラの配布が少なかった。一方、選挙戦終盤には小泉農水相のオートコールが固定電話にかかってきたのに驚いた。地道な選挙活動ではなく昔流の電話作戦、ネット時代には”竹槍戦法”を思い起こさせた。

選挙全体を評価するデータとしては、朝日新聞や読売新聞の出口調査が参考になる。◆自民支持層のうち、自民党候補に投票した割合は5割程度に止まっている(朝日53%、読売54%)。自民支持層の7割程度確保するのが普通なので、今回は大幅に低下した。また、都民ファーストに2割近くも支持が流れていた。

◆最も多い無党派層の投票先では、都民ファーストへの24%が最も多く、次いで自民11%、立民10%、共産9%となっている(読売データ)。無党派層の獲得率で自民党は、無党派層に大差をつけられた。

◆一方、投票の際、自民党の裏金問題を考慮したかとの問いに「考慮した」が62%、「考慮しない」36%を上回った(朝日データ)。

◆選挙の争点として重視したテーマとしては、「物価高や賃上げ対策」を挙げた人が最も多かった。石破首相は告示日の13日、参院選の公約に国民1人あたり「2万円給付」を盛り込むと発表したが、選挙結果から判断すると”都議選での追い風”にはならなかった。

このように今回の選挙の敗因としては、自民党の派閥に続いて都議会自民党でも裏金問題が起きていたことに対する強い不信感、それにコメをはじめとする物価高対策についても政権与党が明確な方針を示すことができないことへの不満、批判が大きく影響したのではないかとみている。

一方、政界関係者の中には今回、公明党が自民党の候補を推薦しなかったことから「自公の選挙協力が機能しなかったことが影響したのではないか」との見方も聞いた。重要な指摘だが、関係者の取材ができていないので、今後、取材のうえ明らかになった点があれば、報告したい。

 立民は議席増、国民民主は躍進

野党側についてみておくと、立憲民主党は前回15議席から17議席へと伸ばした。これは、野党第1党として自民党批判の受け皿になったことを示している。また、1人区から3人区で共産党などとの候補者調整が実現した効果があったものとみられる。

国民民主党は、9議席を獲得した。党の幹部は、単独で条例を提出できる11議席以上をめざしていた。他の党幹部からも「台風の目になるのではないか」とみられていたが、参議院選挙の比例代表の候補者擁立をめぐって混乱が起きた。

NHK世論調査では3月の政党支持率は8.4%だったが、6月は5.4%まで下落した。但し、国民民主党は都議選では議席を持っていなかったが、一気に9議席獲得したのは躍進したといっていいのではないか。次の参院選が正念場だ。

共産党は都議会自民党の裏金問題を追及したが、選挙結果は4議席減らした。日本維新の会は議席を失った。一方、公明党は過去8回連続で全員当選を果たしてきたが、36年ぶりに議席を減らした。

参政党は都議選で初めて3議席を獲得した。NHKの世論調査でもこの党への支持率が1月は0.3%だったのが、6月は1.9%に上昇した。保守層の支持を得ており、既成政党批判の受け皿になっている。れいわ新選組と、石丸伸二氏が立ち上げた「再生の道」は議席を獲得できなかった。新興勢力の間でも明暗が分かれた。

 参院選、与党過半数が最大の焦点

都議選と参議院選挙が重なる2025年は、夏の参議院選挙で大きなヤマ場を迎える。7月3日公示、20日投開票日の日程が近く閣議決定される運びだ。去年の衆院選で与党が過半数割れしたが、今度の参議院選挙では与党が過半数を維持できるのか、それとも野党が過半数割れに追い込むのかが、最大の焦点だ。

東京都議選の結果は、これまで直後の国政選挙に大きな影響を及ぼし、次の選挙の「先行指標」になることが多かった。今回の都議選の結果は自民・公明の与党に厳しい結果になっただけに次の参議院選挙はどうなるか、石破政権の命運を左右する見通しだ。

その石破首相は通常国会が閉会したのを受けて23日夜、記者会見した。この中で石破首相は、参院選挙の勝敗ラインについて質問されたのに対し「非改選を合わせて参議院全体の過半数の確保に全力を尽くす」との考えを強調した。

与野党の勝敗面では、全国で32ある定数1の1人区がどうなるかが、カギを握っている。野党側は立憲民主党が、維新や国民民主、共産の各党と候補者調整を進めているが、競合する選挙区も多い。公示までに候補者調整が進むのかどうかが大きなポイントになる。

物価高などの政治課題に加えて、中東情勢の緊迫化も加わる中で、参議院選挙の争点設定はどうなるか。そして、有権者がどのような判断を示すか参院決戦はまもなく本番を迎える。(了)

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”米関税は協議継続”国会は最終攻防へ

G7サミットに合わせてカナダで行われた石破首相とトランプ大統領との日米首脳会談は、アメリカの関税措置の見直しをめぐって合意に至らず、担当閣僚による協議を継続することになった。

一方、会期末が迫った国会は、焦点の石破内閣に対する不信任決議案の扱いなどをめぐって攻防が続いているが、立憲民主党は不信任案の提出は見送る公算が大きいとみられる。日米首脳会談の影響と国会会期末の最終攻防のゆくえをみてみたい。

関税合意に至らず、政権浮揚カード不発

石破首相とトランプ大統領の日米首脳会談は、日本時間の17日午前4時過ぎから30分間にわたって行われた。会談には、赤澤経済再生相とベッセント財務長官も同席した。

この中で、両首脳はアメリカの関税措置について率直な議論を行い、赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら関係閣僚に対し、さらに協議を進めるよう指示することで一致した。

会談終了後、石破首相は記者団に対し「ギリギリまで交渉し、合意の可能性を探ってきた。今なお、双方の認識が一致していない点が残っているので、パッケージ全体としての合意には至っていない」とのべた。

これまでの交渉で日本側は、基幹産業である自動車の追加関税の撤廃を強く求めてきたが、アメリカ側は自動車が貿易赤字の大きな原因になっているとして譲らず、この自動車関税の扱いが首脳レベルの会談でも大きなハードルになったものとみられる。

石破首相は今回の首脳会談で一定の合意を取りつけた上で、7月の参議院選挙前に関税措置をめぐる問題の決着をめざしてきた。しかし、今回の首脳会談でも合意のメドもつけられなかったことから、参院選前の決着は不透明な情勢になっている。

トランプ政権は、貿易赤字が大きい国を対象に発動した相互関税を90日間停止しているが、ベッセント財務長官は来月9日となっている期限を延長する可能性にも言及している。日本も24%の相互関税が課されるが、現在は一時停止されている。

日本政府内でもサミットでの日米首脳会談で合意できない場合、決着は秋以降にずれ込むのではないかとの見方も聞かれる。だが、今後の見通しについては、依然として、はっきりしておらず、経済界から不満が示されることも予想される。

石破首相にとっては一定の合意に達していれば、参議院選挙に向けて政権浮揚のカードとして期待できたが、今回はそのカードは切れない可能性が大きい。石破内閣の支持率は小泉農水相の起用で、上向きの傾向は表れているが、依然として不支持率が支持率を上回る厳しい状態が続いている。

 不信任案提出見送り判断大詰め

さて、日米首脳会談の結果は22日に会期末が迫っている与野党の攻防、中でも最大の焦点である石破内閣に対する不信任決議案の扱いにも影響を及ぼす。

立憲民主党の野田代表は、与党の過半数割れで内閣不信任案の重みが一段と増しているとして、慎重に対応していく考えを繰り返し表明してきた。最終的には、党内の意見と他の野党の動向、それにトランプ政権の関税措置をめぐる日米首脳会談の結果を見極めて判断したいとの考えを示してきた。

特にトランプ関税について野田代表は、石破首相と同じく「国難」との認識を示すとともに、内閣不信任の提出が衆院解散・総選挙という政治空白をもたらすのは好ましくないという考えを示してきた。こうした考えからすると、日米首脳会談でも合意に至らず協議継続となったことは、不信任案提出にブレーキが働くとみることができる。

一方、立憲民主党や他の野党の多くも衆院解散・総選挙をめぐっては、選挙資金や候補者擁立の準備態勢が整っておらず、回避したいのが本音との見方も聞かれる。野田代表としてはこうした点も含めて総合的に判断することになるが、内閣不信任案の提出を見送るのではないかとの見方が立憲民主党内では強い。

自民党の森山幹事長も17日、イスラエルとイランによる攻撃の応酬が続いている国際情勢を考えると野党側が内閣不信任案を提出しない場合、会期末に衆議院が解散される可能性は低いとの見方を示した。

こうした中で、石破首相が帰国後の19日、与野党の党首会談が開かれ、日米首脳会談の報告を行うとともに意見を交わすことにしている。こうした動きも含めて判断すると国会は会期末の攻防が続くものの、内閣不信任案の提出は見送られ、22日に会期延長なしで閉会する可能性が大きいとみられる。

この結果、夏の参議院選挙は7月3日に公示され、3連休中日の20日投開票という日程で行われる見通しだ。私たち有権者も最終盤国会での重要法案などの行方を見届けるとともに、内外情勢が激動する中で参議院選挙ではどのようなテーマを重視して1票を投じるか準備を始める時期を迎えている。(了)

★追伸(6月19日23時)立憲民主党の野田代表は19日の記者会見で、終盤国会の焦点になっている石破内閣に対する不信任決議案の提出を見送る考えを表明した。その理由として野田代表は、日米の関税交渉が継続中であることや中東情勢が緊迫していることを挙げ「政治空白を作ることは回避すべきだ」とのべた。 一方、石破首相は今の国会で衆院解散を行わない意向を固めている。このため、参議院選挙が7月3日公示、20日投開票の日程で単独で行われる見通しだ。

★追伸(6月21日午前8時)会期末を22日に控えた国会は、土曜日の21日も参議院で審議が行われる異例の展開に。野党7党が提出したガソリン税の暫定税率を廃止する法案が20日、委員会と衆院本会議で可決され、参院へ送られたためだ。参議院では与党が多数のため、成立は困難。ガソリン税の暫定税率廃止については、去年12月、自民・公明両党と国民民主党との間で合意済み。実施時期や財源などの調整が進んでいなかった。

★追伸(21日23時)野党側が提出したガソリン税の暫定税率の廃止法案は21日の土曜日、参議院財政金融委員会で質疑が行われたが、採決をめぐって与野党の意見が対立し、採決が行われず散会した。法案は廃案となる見通しで、国会は22日の会期末を前に事実上、閉会した。

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”少数与党政局”内閣不信任案のゆくえ

通常国会の会期末まで、2週間余りを残すだけになった。年金制度改革法案や選択的夫婦別姓制度、さらには「政治とカネの問題」の扱いなどをめぐって、与野党が最後の攻防を繰り広げる見通しだ。

外交面では、トランプ政権の関税措置をめぐる日米閣僚交渉が続いており、赤澤経済再生相が5日ワシントンに向けて出発し、5回目の閣僚交渉が行われる。今月15日からカナダで開催されるG7サミットに合わせて、日米首脳間で一定の合意にこぎ着けられるのか、ヤマ場を迎えている。

こうした中で、最終盤の国会で石破内閣に対する内閣不信任決議案が提出されるのかどうかが最大の焦点になっている。

自民・公明両党が少数与党に転じた中で、内閣不信任決議案が提出されれば、初めてのケースになる。そして、野党が結束すれば可決される可能性がある。可決された場合、石破首相は10日以内に衆院解散・総選挙に踏み切るのか、総辞職するかの選択を迫られる。

先例を見ると不信任案が可決されたのは4回だけで、ハードルは高いと言える。最終盤の国会はどのような展開になるのか、石破内閣に対する不信任決議案をゆくえを展望してみたい。

 ”竹光から真剣へ”悩む野田代表

内閣不信任決議案を提出できる要件は、衆議院で51人以上の議員の賛成が必要なため、野党の中では、第1党の立憲民主党しか提出を決めることができない。

このため、立憲民主党の野田代表は最近の記者会見では、内閣不信任案を出すのか、出さないのか質問攻めにあっているが、「適時、適切に判断する」と”曖昧戦略”を続けている。

野田代表は去年の衆院選挙で、自公両党が過半数割れして以降「少数与党の下での内閣不信任決議案は、これまでとは重みが決定的に違う。会期末だから竹刀を振り回すのではなく、伝家の宝刀・真剣だと思って相手を確実に倒す時に提出する」として、慎重に検討する考えを繰り返してきた。

その足元の党内は、小沢一郎氏が「可決される可能性が出てきた時に出さないというバカな話はない」と政権交代をめざして、提出を強く訴えている。

一方で、立憲民主党内では「国民が物価高騰に苦しみ、トランプ関税という国難にも直面している時に、安易に政治空白をつくっていいのか考えた方がいい」として、不信任案の見送り論も聞かれる。

また、立民内では、日本維新の会や国民民主党が不信任案に賛成するのかどうか見極めないと野党の結束の乱れが露呈して、逆効果になるとして、提出に慎重論も出ている。

このように党内の意見もまとまっていないこともあって、野田代表は「出すべきか、出さざるべきか」悩みを深めているようだ。

他の野党の幹部からは「立憲民主党の本音は、”弱い石破政権”の下で、参院選挙で勝負したいのではないか。不信任案提出をきっかけに石破首相が解散を打って出る可能性もあり、不信任案の提出は避けたいのではないか」との見方をしている。

立憲民主党の幹部は「自民党内には、年金制度改革関連法案をめぐって自公両党と立憲民主党が法案修正で合意したことから、不信任案は提出しないという見方があるが、全く別の話だ。最終的には野田代表が決断する」として、最終判断までには、なお時間がかかるとの見方を示している。

石破首相”解散刀を抜けるか”不透明

石破政権は3月に首相自身の「商品券配付問題」で、支持率低下が続いてきたが、5月に入って備蓄米をめぐる失言で江藤農水相を更迭、小泉進次郎氏を後任に抜擢したのを契機に攻めの姿勢に転じようとしている。

政権の内部からは「立憲民主党が内閣不信任案を提出した場合、採決に至らない段階で、衆院解散・総選挙に踏み切る」との強気の発言も聞かれる。その場合、衆参ダブル選挙の可能性もある。石破首相は、森山幹事長との間で、こうした認識で一致しているとされる。

自民党長老に聞くと「不信任案が出された場合、石破首相は衆院解散に打って出る可能性があるのではないか」との見方をする。その理由としては「参院選挙に向けて野党の対応はバラバラで、与党が過半数を維持できる可能性があること。また、衆院選挙でも前回の『2000万円問題』のようなことを起こさなければ、前回ほどの負けにならない」との判断があるからだという。

こうした一方で、報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は、政権発足以降、最低の水準が続いている。また、自民党の支持率も30%ラインを割り込んで低迷していることから、衆院選挙に打って出るのは困難との見方がある。

また、自民党関係者は「党幹部の多くは、既に参院選後のポスト石破をにらんでさまざまな動きを始めている。石破首相が解散権を行使することを認めるかどうかわからない」との見方をしている。

したがって、仮に内閣不信任案が提出された場合、あるいは可決された場合でも、石破首相が解散・総選挙を断行できるのか、内閣総辞職になるのか不透明な情勢だ。

内閣不信任案可決に高いハードル

ここまで見てきたように内閣不信任案をめぐっては、与野党ともに複雑な事情を抱えており、先行きを見通すのは容易でないことがわかる。そこで、過去はどのような事例があったのか、先例をみておきたい。

これまで内閣不信任決議案が可決されたのは4回で、戦後まもない昭和23年・1948年の第2次吉田内閣と、昭和28年・1953年の第4次吉田内閣にさかのぼる。それに昭和55年・1980年の大平正芳内閣と、平成5年・1993年の宮沢喜一内閣の時だ。過去4回とも、すべて衆院解散・総選挙につながった。

このうち、今の政治体制に近い自民党政権下の2回のケースについてみておくと昭和55年は「大平・福田の40日抗争」を経て党内が分裂状態で、非主流派が議場に入らず、可決された。そして、史上初めて衆参ダブル選挙が行われた。

93年は政治改革をめぐって自民党内が割れ、執行部を批判するグループなどが野党提出の不信任案に賛成して、可決された。選挙後は、非自民の細川連立政権が誕生し、自民党が初めて下野し55年体制に終止符が打たれた。

こうした一方で、不信任案が提出される直前に首相が退陣を決断し、決着がついたケースもある。94年に非自民の細川連立内閣を引き継いだ羽田孜内閣だ。

連立与党内の対立から少数与党政権として発足した羽田内閣に対し、当時野党の自民党は不信任案を提出する方針を固め、可決は必至とみられていた。羽田首相は解散・総選挙で打開を図る道もあったが、小選挙区制の施行を前に中選挙区での衆院選の断行は政治改革の精神に反するとして、総辞職を選んだ。

内閣不信任決議案は毎年のように野党が提出してきたが、可決にまで至ったのは、ここまで見てきたように極めて少ないことがわかる。それだけ、可決に至るまでのハードルは高いと言えそうだ。

また、可決されたケースでは、いずれも自民党内が意見の対立で、亀裂が入った点が共通している。今回の石破政権の場合、党内抗争で分裂状態に陥っているわけではないが、比較第1党で最も勢力が大きいだけに、党内の結束力が問われることは間違いない。少数与党という政治状況は、羽田内閣の時と共通点がある。

今回は少数与党だけに、逆に野党の側が不信任案の提出と可決に向けて、足並みをそろえて結束できるのかどうかが試される。この通常国会では、日本維新の会や国民民主党は、与党側と政策協議を続ける一方、立憲民主党とは一線を画すことが多かっただけに最後まで足並みがそろうかどうかが焦点になる。

政権構想を示し、進路がわかる政治を

それでは国民として、今回のケースをどのように見たらいいのだろうか。野党が政権交代をめざして内閣不信任案を提出することは、政治に緊張感をもたらし、新たな選択肢を示すという点で評価できる。

但し、その場合、単に不信任案の取り扱いで共同行動を取るだけでなく、野党第1党が中心になってどのような政権をめざしていくのか、与党との違い・対立軸を示してもらいたい。

一方、石破政権と与党側については、先送りや停滞が目立つこれまでの政権運営をどのように総括し、今後の政権の枠組みをどうするのかといった基本方針を明らかにする必要がある。

内外ともに激動期を迎えているだけに、どのような日本社会をめざすのか、政権与党と野党側がそれぞれの構想を提示し、徹底して議論を深めていく取り組みを強く求めておきたい。与野党の駆け引きに終わらせず、日本社会の進路と道筋がわかる政治に変えていく必要がある。(了)

★追記(7日21時)◆石破首相は6日夜、首相公邸で自民党の森山幹事長と会談した。野党側が検討している内閣不信任決議案や参議院選挙情勢などについて、意見をかわしたものとみられる。                                 ◆立憲民主党の野田代表は6日の記者会見で、内閣不信任決議案について「事前に他の野党と話をしたうえで、提出するかどうか総合的に判断したい」とのべた。他の野党に共同提案の意思があるかどうかを確認したいとの考えを示した。                                ◆日本維新の会の前原共同代表は7日、「提出理由も含めて精査して総合的に判断していく」とのべた。国民民主党の玉木代表も「まずは立憲民主党の考えを伺いたい」とのべた。維新と国民民主党は、それぞれ第3極として独自の路線をとっており、共同提案に応じるかは不透明だ。

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江藤農水相更迭、石破政権に打撃

江藤農水相が「コメは買ったことがない。支援者の方々がたくさんコメをくださり、売るほどある」などと発言した問題で、21日辞任に追い込まれた。事実上の更迭とみられる。

石破首相は、後任に小泉進次郎・前選対委員長を起用した。石破首相は早急に態勢の立て直しを図りたい考えだが、今回の更迭による政権への打撃は大きい。終盤国会や石破政権に及ぼす影響を中心に探ってみたい。

失言で閣僚辞任初めて、首相決断に遅れ

去年10月に石破政権が発足して以降、衆院選挙で閣僚の落選に伴う辞任はあったが、失言や不祥事による閣僚辞任は、江藤農水相が初めてだ。

今回の問題の背景をみてみると、去年夏からコメの価格高騰が続き、政府は備蓄米の放出に踏み切ったが、消費者に届いたのは全体のわずか1割程度に止まる。また、コメの価格が高止まりする中で、農水相のあまりにも軽率な発言に国民はあきれ、強い憤りが今回の辞任につながったと言えるのではないか。

江藤農水相の発言が明らかになったのを受けて、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組の野党5党は国対委員長会談を開き、江藤農水相の辞任を求め、応じない場合は不信任決議案を提出する考えでも一致した。

内閣不信任決議案が提出されれば、与党は過半数を割り込んでいるので、可決される公算が大きい。こうした野党の結束が、辞任の大きな圧力になった。

石破首相は、江藤農水相の失言が明らかになった翌日、いったん農水相を厳重注意したうえで、続投させることを決めて本人に伝えた。自民党関係者は「石破首相は、世論の厳しい反応と野党の出方を読み違えた。直ちに閣僚の交代に踏み切るべきだった」と決断の遅れを指摘する。

石破政権、コメ価格引き下げできるか

石破首相は、後任に小泉進次郎・前選対委員長を起用し、「消費者に安定した価格でコメを供給できるよう取り組みを推進するとともに、随意契約を活用して備蓄米の売り渡しを検討する」よう指示した。

石破首相との会談を終えた小泉氏は記者団に「国民が、一番不安に感じているコメの高騰に対してスピード感を持って対応できるよう全力を尽くす。『コメ担当大臣』という思いで、集中して取り組みたい」と意気込みを語った。

石破首相はこの日の党首討論で「コメの価格引き下げに責任を取るのか」と質されたのに対し、「コメは3000円台でなくてはならず、1日でも早く、その価格を実現する。下がらなければ、責任をとっていかなければならない」とのべた。

また、石破首相は「コメが足りないとは断言はしないが、ギリギリの需給状況は超えており、増産の方向にカジを切れと言う主張に同意する」とのべ、コメの増産に向けて政策を進める考えを表明した。

農水省の調査によるとコメの価格は、全国平均で5キロあたり4200円台で、去年の同時期に比べて2倍以上に達している。石破首相の発言は、この価格を3000円台まで引き下げること表明したもので、実現できるかどうかが問われることになる。

 支持率低迷、政権の求心力にも影響

石破政権としては、コメ対策だけでなく、終盤国会の重要法案などへの対応をはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる日米交渉、さらには夏の参議院選挙に向けた体制づくりを急ピッチで進める必要がある。

こうした中で、今回の農水相の更迭は、石破政権の求心力をさらに低下させる可能性がある。NHKの世論調査(5月9日から11日実施)によると石破内閣の支持率は33%で政権発足以降で、最低を更新している。不支持率は48%で、支持率と不支持率の逆転は3か月連続だ。

読売新聞の世論調査(5月16日から18日実施)でも石破内閣の支持率は31%で、内閣発足以降、最低の水準が3か月続いている。今月の不支持率は56%だ。今後望む政権のあり方については「野党中心の政権に交代」が48%で、「自民党中心の政権の継続」36%を上回った。世論の風向きの変化もうかがえる。

こうした世論の推移をみると今回の江藤農水相の辞任で、国民の石破政権に対する評価がさらに厳しくなることが予想される。

一方、終盤国会では、政府・自民党の調整が難航し、20日にようやく提出した年金制度改革関連法案をはじめ、懸案の企業団体献金の禁止法案、選択的夫婦別姓制度の法案などの扱いが残されている。

特に年金制度改革関連法案をめぐって、野党側は「基礎年金の底上げという最も重要な部分が抜け落ちている」として法案の修正を求めており、この扱いが焦点の1つになりそうだ。

石破政権の政権運営について、自民党の長老に聞くと「今の石破政権は、国民の関心が最も高いコメの価格対策について、成果を上げることができていない。また、物価高や経済対策で、政権として何を最重点に取り組むのかも打ち出せていない」と厳しい見方を示している。

また、「自民党内は石破首相を支えるというよりも、参院選挙後の政局をにらんで、遠心力が働いているような状況だ。石破首相自身、官邸の態勢を強化するとともに、自民党執行部と連携を強めていかないと会期末の国会運営から参院選までの難局を乗り越えていくのは難しいのではないか」と指摘する。

通常国会は、会期末まで残り1か月となった。会期末には、野党側が内閣不信任決議案を提出することも予想される。少数与党の中で、石破首相は会期末をどのように乗り切っていくのか、正念場を迎えている。(了)

 

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終盤国会”懸案集中、与野党攻防激化へ”

長丁場の通常国会は来月22日が会期末で、残り会期は1か月余りを残すだけとなった。会期延長がない場合は、7月3日公示・20日投開票の参議院選挙に突入することになる。

この終盤国会は、年金制度改革や選択的夫婦別姓制度などの重要法案の審議が残っているのをはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる3回目の日米交渉が今月下旬に行われる見通しで、交渉の行方や評価も大きな論点になりそうだ。

また、物価高騰対策としての消費税減税をめぐって、与野党の議論が続いているほか、会期末に石破内閣に対する不信任決議案をめぐって与野党の駆け引きが激しさを増す見通しだ。

このように終盤国会は、内外の懸案や課題が短い期間に集中することになりそうだ。国民にとって、国会での論戦や攻防は参院選での投票に当たって有力な判断材料になる。そこで、終盤国会が抱えている問題を整理するとともに、石破政権や与野党がどのように対応しようとしているのか点検しておきたい。

重要法案・懸案山積、結論を出せるか

さっそく、今の通常国会の重要法案からみていきたい。まず、サイバー攻撃を未然に防ぐための「能動的サイバー防御」導入法案は、16日の参院本会議で自民、公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。

また、公立学校教員の残業代の代わりに基本給を上乗せして支給することなどを盛り込んだ「改正教員給与特別措置法」も15日の衆院本会議で賛成多数で可決された。参院での審議を経て、今国会で成立する見通しだ。

一方、政府・自民党内で調整が難航していた年金制度改革関連法案は16日にようやく国会に提出され、20日から衆院で審議入りする見通しだ。法案にはパートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるように要件が緩和されている。

一方で、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げする措置は、自民党内に参院選挙への影響を懸念し慎重論が根強かったことなどから、法案に盛り込まれなかった。

これに対し、野党側は「法案の最も肝の部分が抜け落ちている」と批判している。そして、基礎年金を底上げする措置を見送れば「就職氷河期世代」の将来の年金が十分確保できなくなるとして、法案の修正を求めていく方針だ。

選択的夫婦別姓制度をめぐっては、立憲民主党が先月末に制度を導入するため、民法の改正案を国会に提出した。夫婦が同姓か別姓かを選べるようにしたうえで、別姓を選んだ場合、子どもの姓をどちらにするかは結婚する時に決めるとした内容だ。

これに関連して、同じく導入をめざす国民民主党は、立憲民主党とは別の法案を提出する方針だ。日本維新の会は、別姓ではなく、戸籍に旧姓を記載するなど結婚後も旧姓を通称使用できる内容の法案を提出することにしている。

自民党は、制度の導入に賛成の議員と慎重な議員とで隔たりがあり、今も議論が続いている。このように与野党の意見が分かれていることから、今の国会でどこまで審議が進むか、不透明な情勢だ。

懸案の企業・団体献金の問題をめぐっては、期限としていた3月末も与野党の意見がまとまらず、再び先送りしたが、その後も議論は進んでいない。また、石破首相が自民党の1回生議員に10万円相当の商品券を配付していた問題で、政治倫理審査会で弁明する扱いも先送りになったままだ。

自民党派閥の裏金問題で、安倍派幹部の下村元政務調査会長が参考人招致に応じる意向を示したことから、野党側は15日の衆院予算委員会の理事会で、自民党も賛成するよう求めたが、自民党は反対する姿勢を示し、引き続き協議することになった。

このように終盤国会は多くの重要法案や懸案が山積している状態で、このままではかなりの法案などが先送りになりかねない。まずは、政権与党がリーダーシップを発揮して事態の打開策を提案し、野党側も柔軟に応じるなどして、一定の結論を出してもらいたい。

 次回関税交渉、協議の対象範囲が焦点

次に当面の重要な政治課題であると同時に、参院選挙でも大きな焦点になりそうなのが、トランプ政権の関税の引き上げと、物価高対策としての消費税の税率引き下げの問題だ。

トランプ政権の関税措置をめぐっては、18日からの週に日米の事務レベルの協議に続いて、週の後半に赤澤経済再生相が訪米し3回目の閣僚交渉が行われる見通しだ。

トランプ政権はイギリスとの合意に続いて、中国との間でも双方が追加関税を110%引き下げ、米側は30%、中国側は10%とすることで合意した。そして、一部の関税に90日間の停止期間を設け、協議を続けることになった。

次回の閣僚協議はどのような展開になるだろうか。日本側は自動車を含む全ての関税措置を撤廃するよう強く求めているのに対し、米側は協議の対象は追加関税の上乗せ部分で、自動車などの品目別関税は協議の対象外として、双方が対立している。

このため、次回協議では、自動車の扱いを含め協議の対象範囲で一致できるかどうかが焦点になる。また、交渉妥結の時期がどうなるか、6月のG7サミットに合わせて決着をめざすのか、長期戦もやむなしとなるのかも注目される。

さらに、日本としては関税措置の見直しを図るために、アメリカ製自動車や農産物の輸入拡大などにどこまで踏み込むのか判断を迫られる。こうした一連の対応は、終盤国会や参院選でも大きな論点になる見通しだ。

消費税減税の是非、論点深掘りできるか

終盤国会ではもう一つ、物価高対策として消費税減税の是非をめぐって、与野党の議論が活発に行われる見通しだ。

立憲民主党の野田代表はこれまで消費税減税に慎重な立場をとってきたが、この方針を転換し、食料品の消費税率を原則1年間に限ってゼロ%に引き下げるとともに当面の物価高対策として、国民1人あたり2万円程度の現金給付を行う案を16日に発表した。

これに対し、石破首相や自民党執行部は、消費税の税収が社会保障や地方財政を支える財源になっているとして、消費税は引き下げない方針だ。そして、夏の参院選では、財政や社会保障の安定に責任を持つ「責任政党」としての役割をアピールしていく構えだ。

但し、自民党内は選挙を控えた参議院議員の8割は消費税減税を行うべきとの考えだとされ、当面、党内の議論を続けることにしている。

連立与党の公明党も消費税減税を求める声が強く、参議院選挙に向けた与党の経済対策のとりまとめは難航することも予想される。

自民、公明両党は当初、現金給付を打ち出す方針を示したが、世論調査で”バラマキ政策”だとして批判が強く、見送った経緯がある。与党側にとっては、消費税減税に代わる有効な経済対策を見いだせていないのが悩みだ。

一方、野党側は、既に維新、国民民主、共産、れいわの各党などが、いずれも税率引き下げや廃止を主張しており、立憲民主党と合わせて野党側は消費税減税で足並みがそろったことになる。

但し、野党側の消費税減税の内容や税率、実施期間などはさまざまだ。また、財源についても国債発行に頼らず、新たな財源を明らかにする政党がある一方で、赤字国債発行を容認する政党とに分かれている。

こうした各党の主張を国民はどのようにみているか。NHKが今月9日から3日間行った世論調査では、◇「今の税率を維持すべきだ」は36%、◇「税率を引き下げるべき」は38%、◇「消費税は廃止すべき」は18%となっている。

つまり、「消費税の廃止論」は2割近くに止まり、「消費税率は下げない維持派」が4割、「税率引き下げ派」も4割で、真っ二つに分かれている。消費税減税をめぐる議論は政党、国民の間でもまだ十分に尽くされておらず、景気対策、社会保障との関係、財源などさまざまな角度から掘り下げた議論が必要だということを示しているのではないか。

懸案の処理と将来社会の構想の提示を

終盤国会は、19日に参議院予算委員会で内外の重要課題について集中審議が行われるのをはじめ、20日に年金制度改革法案が衆院で審議入りする。21日には今国会で2回目の党首討論が行われるなど与野党の論戦が本格化する見通しだ。

そして、これまでみてきたように終盤国会では、懸案の「政治とカネ」の問題、選択的夫婦別姓制度、年金制度改革法案などについて議論を深め、可能な限り結論を出すことが必要だ。一方、結論がまとまらない場合、その理由や今後の取り組みの道筋を示すことも重要だ。

加えて、この国会は、トランプ政権による関税措置への対応や、物価高対策としての消費税減税が大きな論点になっている。こうした課題は、日本が国際社会でどのような役割を果たしていくのか、将来の日本社会や経済のあり方とも直結する。

それだけに政権与党と野党は、それぞれ外交・内政の中期的な構想も示して論争を深めてもらいたい。そのうえで、私たち有権者はそうした構想や対応などを踏まえて、夏の参院選挙で1票を投じたい。激動期に対応できる政治の選択の仕方も模索していく必要がある。(了)

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終盤国会から参院決戦へ”与野党攻防のカギは”

長丁場の通常国会も来月22日の会期末まで、残り1か月半を切った。終盤国会では12日と19日に衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、石破首相と野党側が議論を交わすのをはじめ、重要法案や懸案の「政治とカネの問題」などをめぐって与野党の攻防が本格化する。

一方、トランプ政権の関税措置をめぐる日米の閣僚協議は今月中旬以降、集中的な協議が行われる見通しだ。トランプ政権は8日、関税交渉でイギリスとの間で初めての合意に達したが、日米間の交渉は前進がみられるのかどうかが焦点だ。

来月13日には東京都議選が告示され、22日の投開票日に向けて各党は国政選挙並みの態勢で選挙戦に入る。さらに通常国会が予定通りの日程で閉会すれば、7月の参院決戦へと突入する。

このようにこの夏は、少数与党の中で終盤国会の与野党攻防と日米関税交渉が同時並行で進行し、さらに都議選、参院選の政治決戦へと続くことになる。これからの政治はどのような点がポイントになるのか、探ってみたい。

 関税交渉、米側方針に変化はあるか

まず、これからの政治に大きな影響を与えるのは、トランプ政権の関税措置をめぐる動きだろう。アメリカとイギリス両政府は8日、◇イギリスで生産された自動車については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとともに◇鉄鋼製品とアルミニウムは、関税を0%に引き下げることで合意した。

これとは別に、アメリカが多くの品目に一律10%の関税を課している措置については、イギリスに対しても維持する。トランプ政権は、日本を含む各国と関税交渉を行っているが、合意に達したのは今回のイギリスが初めてだ。

日本は先のアメリカ側との交渉で、5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に実施するため、日程調整を進めることで合意している。これまでの交渉で日本側は、一連の関税措置の見直しを強く求めたが、アメリカ側は「日本だけ特別扱いはできない」と相互関税の上乗せ措置以外の協議には応じない考えを示した。

今回の米英両国の合意で、イギリスについては自動車、鉄鋼、アルミニウムについて関税引き下げに応じた一方で、一律10%の関税措置は譲歩しなかった。

イギリスと日本では置かれた状況や条件が異なるが、次の日米交渉ではアメリカ側は、日本の関税の見直し要求にイギリスと同様に引き下げに応じるのかどうか、応じる場合はその範囲や幅についてどのような考えを示すのか注目される。

一方、日本側は、アメリカ製自動車などの輸入認証制度を緩和する措置をはじめ、大豆やトウモロコシの輸入拡大、LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大策などについて突っ込んだ説明をするものとみられる。

こうした次回の日米交渉で、アメリカ側がこれまでの方針を変更し交渉の前進が図られるかどうかが焦点になる。

また、来月15日からカナダでG7サミットが開催されるのに合わせて日米首脳会談を行い、一定の合意発表へとつながるのかどうかも注目される。

少数与党で支持率が低迷している石破政権にとっては、参院選挙で与党が過半数を維持できるか、政権の命運がかかっている。このため、関税措置を回避する合意が達成できれば、政権の浮揚につながる可能性がある。

逆に交渉が妥結せず、関税措置の見直しができなかったり、日本側が譲歩を重ねたりした場合は、参院選に強い逆風になるだけに今後の交渉のゆくえから目が離せない。

終盤国会、消費減税と財源が論点に浮上

次に終盤国会では、物価高対策に関連して消費減税が大きな論点になる見通しだ。立憲民主党は、食料品の消費税率を1年間ゼロ%にすることを参院選の公約に盛り込む方針を決めた。消費減税は、既に日本維新の会や国民民主党が先行して方針を決めており、野党側の足並みがそろったことになる。

与党側でも参院自民党や公明党からも消費減税を求める声が上がっている。石破首相は消費減税に一定の理解を示す発言もあったが、石破首相と森山幹事長ら自民党執行部は、消費減税に踏み切る場合、必要な財源確保が困難で、社会保障にも影響が出るとして、消費減税を見送る方向で調整を進める方針だ。

こうした物価高対策と消費税減税の扱い、それに消費税に踏み切る場合の財源と社会保障への影響をどう考えるか、終盤国会と参議院選挙での論戦の大きなテーマになる見通しだ。

 多様な論点、参院選に向け方針提示を

終盤国会では、5年に一度の年金財政検証に合わせた年金制度改革関連法案の提出が自民党内の調整が難航し遅れているが、近くようやく提出される見通しだ。

また、懸案の選択的夫婦別姓制度については、立憲民主党が先月末に法案を提出したが、日本維新の会が通称使用を拡大する法案や、国民民主党も別の法案を提出する方針で、野党の足並みに乱れが出ている。

一方、懸案の「政治とカネの問題」をめぐっては、企業・団体献金の見直しについて、3月末に結論を先送りして以降、与野党の議論が全く進んでいない。

自民党派閥の裏金問題では、旧安倍派の下村元政務調査会長の参考人招致の扱いをめぐって与野党の意見が対立している。また、石破首相が10万円の商品券を配付していた問題について、政治倫理審査会で弁明する問題も先送りのままだ。

さらに会期末には、石破首相に対する内閣不信任決議案を提出する問題も浮上する見通しだ。少数与党政権なので、野党側がまとまって賛成すれば不信任案は可決され、内閣総辞職か衆院解散・総選挙という波乱につながる可能性もある。

このように今の国会は多くの法案や懸案、内外の課題・論点が次々に押し寄せているが、「熟慮の国会」どころか十分な議論が行われず、法案の扱いもはっきりしない状態が続いている。

このため、国会閉会後に行われる参院選挙では、先送りの案件が多数にのぼり、何を基準に判断をすればいいのか、有権者は戸惑うことになる。まずは、重要法案や主要な論点について与野党は議論を尽くして、一定の結論を出せるよう最大限努力すべきだ。

そのうえで、調整ができなかった問題はその理由と今後の対応策について、政権与党と野党側がそれぞれ見解を表明し、国民に判断材料を示してもらいたい。

ここまでみてきたように終盤国会での重要法案の扱いや与野党の論戦、それにトランプ関税をめぐる日米交渉など内外ともに激しい動きが続く見通しだ。去年の衆院選に続いて、参院選挙はどのようになっるだろうか。

最終的に大きなカギを握るのは、国民がどのようなテーマ・論点を重視するか、その選択によって夏の参議院決戦の結果は大きく左右される予感がする。(了)

 

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