2025参議院選挙の見方・読み方

第27回参議院選挙が3日公示され、20日の投開票日に向けて激しい選挙戦に入る。衆議院選挙が「政権選択選挙」と位置づけられるに対して、参院選は「中間選挙」とも言われ地味な印象を受けるが、政治が大きく変化する先駆けになったことも多かった。

私は昭和46年・1971年から50年余り選挙取材を続けているが、記憶に残る参院選として最初に頭に浮かぶのは、平成元年・1989年の参院選だ。「マドンナ旋風」、当時社会党の土井たか子委員長が多くの女性候補を擁立し、49議席を獲得した。対する自民党はリクルート問題、消費税導入、宇野首相の女性問題が重なって大惨敗。参院で初めて与野党の勢力が逆転し、その後の自民1党優位体制の終焉へとつながった。

平成19年・2007年の参院選で第1次安倍政権は、37議席と歴史的大敗を喫して衆参ねじれ状態となり、その後の民主党政権誕生へつながった。その後、安倍首相は衆院選で政権に復帰したあと、2013年の参院選挙で大勝し長期政権の足がかりを得た。

そこで、今度の2025年の参院選挙はどのような位置づけとなり、何が問わる選挙なのか有権者の立場に立って考えてみたい。どの政党、候補者に投票するかを判断するうえで、基礎的な判断材料になる。参院選挙の勝敗の見通しと選挙情勢については、次回以降に取り上げたい。

自公政権継続か、政変・政局激動か

今回の参議院選挙は、去年の衆院選挙で30年ぶりの少数与党となった石破政権が政権の命運をかけて臨む国政選挙になる。選挙の勝敗ラインを尋ねられた石破首相は「非改選を含め参院の過半数」を獲得目標に掲げている。

こうした石破首相の目標に対して、自民党内には「非改選を含めると甘い目標になってしまう」として、より高い「改選議席の過半数」をめざすべきだとする意見もあり、勝敗ラインの基準をめぐる綱引きが続くことになる。

いずれにしても石破首相が、非改選を含めた参院全体、あるいは改選議席の過半数を上回る議席を獲得すれば、参院選後も石破首相(自民党総裁)が続投することになる。

一方、報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は、不支持率の方が高い逆転状態が続いている。また、自民党の支持率も都議選後30%ラインを割り込むデータも出ており、党内で危機感が広がっている。

このため、勝敗ラインに達しない場合は、党内から政治責任を問う”石破降ろし”が起きたり、首相退陣に追い込まれたりする可能性がある。参院選挙は政権選択選挙ではないと言われるが、今回は首相の命運がかかっているので、事実上の政権選択選挙の性格を持った選挙だと言えそうだ。

このように選挙後の政治は、石破首相と今の自公政権が続くことになるのか、それとも首相退陣の政変や政権の枠組みが変わる大きな政局に発展することになるのかが焦点になる。今回の参院選はそれだけ、重い意味を持つ選挙ということになる。

8党首討論は”物価高対策論争”

次に私たち有権者にとって大きな関心のある政策面では、どのような内容が主要テーマになるだろうか。2日に日本記者クラブ主催で、自民、公明の与党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組、参政党の8党党首討論が行われたので、主な論点を取り上げてみたい。

石破首相と各党党首がそろって取り上げたのが物価高対策だった。このうち、石破首相と与党公明党の斎藤代表は、子どもと非課税の人に4万円、それ以外の人には2万円の給付を行うと説明するとともに「困った人に重点を置き、早期に実施することが重要だ」と訴えた。

これに対して、立憲民主党の野田代表など野党各党の党首は「与党の現金給付はバラマキだ」と批判するとともに「物価高から国民生活を守り抜くためには、消費税減税に踏み出す必要がある」と強調した。

その際、党によって食料に限って減税する案や、消費税全体の税率を一律に引き下げる案、さらには廃止を求める考えなどに分かれた。財源の規模や、赤字国債を発行することの是非についても意見は分かれた。

一方、外交・安全保障分野では、野田代表が「日米関税交渉は前進がみられず、トランプ大統領は、相互関税の税制措置をさらに引き上げる考えを示唆している」として、石破首相がトランプ大統領と首脳会談を行い打開すべきだと質した。

これに対し、石破首相は「日本は、アメリカの最大の投資国であり、最大の雇用も生み出している国だ。関税より投資の意義を訴えていく。何としても国益を守る」とのべたが、日米首脳会談については言及しなかった。

このほか、社会保障制度改革や、コメ問題と農業政策、賃金引き上げと経済政策、企業団体献金の扱いなどについても議論された。

このように物価高対策は、有権者の関心も高く、各政党が重視していることは理解できる。一方、多くの有権者は「政党間のサービス合戦に終わらせずに、日本社会全体が発展していくために何を重点に取り組むべきか示して欲しい」と考えているのではないか。

また、各党とも高い経済成長や給与の引き上げを打ち上げているが、どのような政策の組み合わせで実現するのかは明確になっていない。これからの日本経済や社会を活性化していくための具体策の提示が必要ではないか。

  投票に求められる判断は

選挙戦が始まり、今後さまざまなメデイアでも党首討論が行われる。有権者の多くは、各党や候補者が当面の目先の対応策だけでなく、将来社会の目標やビジョン、実現への道筋などについて、より踏み込んだ議論を期待しているのではないか。

今度の参議院選挙では、選挙結果によって石破首相の進退や政権の枠組みに大きな影響を及ぼすことが予想される。一方、内外情勢が大きく動いている中で、私たち有権者は、日本社会はどのような進路を選択すべきかという観点も忘れずに選挙の論戦をみていきたい。(了)

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”都議選、自民大敗“ 敗因をどう読むか

22日投開票が行われた東京都議会議員選挙では、自民党が過去最低の21議席となり、第1党を維持できなかった。一方、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会は31議席を獲得し、第1党に返り咲いた。

野党側では、立憲民主党が議席を伸ばしたほか、国民民主党と参政党が初めて議席を獲得した。共産党は議席を減らし、大阪維新の会は議席を失った。一方、公明党は、9回連続の全員当選を逃した。

このように各党派の明暗は分かれたが、特に自民党は、コメ問題で小泉農水相の登場によって選挙情勢は好転しているとみていただけに、選挙結果を深刻に受け止めている。今回の自民大敗の原因はどういうことだったのだろうか、来月に迫った参院選への影響はどうなるか分析してみたい。

 自民党過去最低の議席、敗因は

東京都議選が告示される前、自民党関係者に見通しを聞くと「自民党の現有議席は30。これを多少下回ることはあるかもしれないが、過去最低の23議席を割り込むことはないだろう」と比較的楽観的な見方を示していた。

その理由としては、コメ問題に関心が集まり、政治とカネの問題への関心が低下していること、そして小泉農水相の登場でメデイア各社の世論調査でも石破内閣の支持率も上昇していたことから、選挙情勢は好転するとみていたからだ。

ところが、ふたを開けてみると2017年、都民ファーストの会ブームで自民党が沈んだ23議席、これをさらに下回る21議席にまで落ち込んだ。このうち、3人は追加公認なので、本来の公認候補の当選は18人で、惨敗と言ってもいい。

選挙結果をみると◆定数1の1人区、千代田区、武蔵野市など7つの選挙区で、自民党が勝利したのは1議席だけで、1勝6敗に終わった。◆2人区以上の複数区では最後の議席を競り負けた選挙区が目立った。

こうした原因はどこにあるのだろうか。筆者は都内に住んでおり、小さな個人的体験で恐縮だが、今回は自民党候補のビラの配布が少なかった。一方、選挙戦終盤には小泉農水相のオートコールが固定電話にかかってきたのに驚いた。地道な選挙活動ではなく昔流の電話作戦、ネット時代には”竹槍戦法”を思い起こさせた。

選挙全体を評価するデータとしては、朝日新聞や読売新聞の出口調査が参考になる。◆自民支持層のうち、自民党候補に投票した割合は5割程度に止まっている(朝日53%、読売54%)。自民支持層の7割程度確保するのが普通なので、今回は大幅に低下した。また、都民ファーストに2割近くも支持が流れていた。

◆最も多い無党派層の投票先では、都民ファーストへの24%が最も多く、次いで自民11%、立民10%、共産9%となっている(読売データ)。無党派層の獲得率で自民党は、無党派層に大差をつけられた。

◆一方、投票の際、自民党の裏金問題を考慮したかとの問いに「考慮した」が62%、「考慮しない」36%を上回った(朝日データ)。

◆選挙の争点として重視したテーマとしては、「物価高や賃上げ対策」を挙げた人が最も多かった。石破首相は告示日の13日、参院選の公約に国民1人あたり「2万円給付」を盛り込むと発表したが、選挙結果から判断すると”都議選での追い風”にはならなかった。

このように今回の選挙の敗因としては、自民党の派閥に続いて都議会自民党でも裏金問題が起きていたことに対する強い不信感、それにコメをはじめとする物価高対策についても政権与党が明確な方針を示すことができないことへの不満、批判が大きく影響したのではないかとみている。

一方、政界関係者の中には今回、公明党が自民党の候補を推薦しなかったことから「自公の選挙協力が機能しなかったことが影響したのではないか」との見方も聞いた。重要な指摘だが、関係者の取材ができていないので、今後、取材のうえ明らかになった点があれば、報告したい。

 立民は議席増、国民民主は躍進

野党側についてみておくと、立憲民主党は前回15議席から17議席へと伸ばした。これは、野党第1党として自民党批判の受け皿になったことを示している。また、1人区から3人区で共産党などとの候補者調整が実現した効果があったものとみられる。

国民民主党は、9議席を獲得した。党の幹部は、単独で条例を提出できる11議席以上をめざしていた。他の党幹部からも「台風の目になるのではないか」とみられていたが、参議院選挙の比例代表の候補者擁立をめぐって混乱が起きた。

NHK世論調査では3月の政党支持率は8.4%だったが、6月は5.4%まで下落した。但し、国民民主党は都議選では議席を持っていなかったが、一気に9議席獲得したのは躍進したといっていいのではないか。次の参院選が正念場だ。

共産党は都議会自民党の裏金問題を追及したが、選挙結果は4議席減らした。日本維新の会は議席を失った。一方、公明党は過去8回連続で全員当選を果たしてきたが、36年ぶりに議席を減らした。

参政党は都議選で初めて3議席を獲得した。NHKの世論調査でもこの党への支持率が1月は0.3%だったのが、6月は1.9%に上昇した。保守層の支持を得ており、既成政党批判の受け皿になっている。れいわ新選組と、石丸伸二氏が立ち上げた「再生の道」は議席を獲得できなかった。新興勢力の間でも明暗が分かれた。

 参院選、与党過半数が最大の焦点

都議選と参議院選挙が重なる2025年は、夏の参議院選挙で大きなヤマ場を迎える。7月3日公示、20日投開票日の日程が近く閣議決定される運びだ。去年の衆院選で与党が過半数割れしたが、今度の参議院選挙では与党が過半数を維持できるのか、それとも野党が過半数割れに追い込むのかが、最大の焦点だ。

東京都議選の結果は、これまで直後の国政選挙に大きな影響を及ぼし、次の選挙の「先行指標」になることが多かった。今回の都議選の結果は自民・公明の与党に厳しい結果になっただけに次の参議院選挙はどうなるか、石破政権の命運を左右する見通しだ。

その石破首相は通常国会が閉会したのを受けて23日夜、記者会見した。この中で石破首相は、参院選挙の勝敗ラインについて質問されたのに対し「非改選を合わせて参議院全体の過半数の確保に全力を尽くす」との考えを強調した。

与野党の勝敗面では、全国で32ある定数1の1人区がどうなるかが、カギを握っている。野党側は立憲民主党が、維新や国民民主、共産の各党と候補者調整を進めているが、競合する選挙区も多い。公示までに候補者調整が進むのかどうかが大きなポイントになる。

物価高などの政治課題に加えて、中東情勢の緊迫化も加わる中で、参議院選挙の争点設定はどうなるか。そして、有権者がどのような判断を示すか参院決戦はまもなく本番を迎える。(了)

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”米関税は協議継続”国会は最終攻防へ

G7サミットに合わせてカナダで行われた石破首相とトランプ大統領との日米首脳会談は、アメリカの関税措置の見直しをめぐって合意に至らず、担当閣僚による協議を継続することになった。

一方、会期末が迫った国会は、焦点の石破内閣に対する不信任決議案の扱いなどをめぐって攻防が続いているが、立憲民主党は不信任案の提出は見送る公算が大きいとみられる。日米首脳会談の影響と国会会期末の最終攻防のゆくえをみてみたい。

関税合意に至らず、政権浮揚カード不発

石破首相とトランプ大統領の日米首脳会談は、日本時間の17日午前4時過ぎから30分間にわたって行われた。会談には、赤澤経済再生相とベッセント財務長官も同席した。

この中で、両首脳はアメリカの関税措置について率直な議論を行い、赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら関係閣僚に対し、さらに協議を進めるよう指示することで一致した。

会談終了後、石破首相は記者団に対し「ギリギリまで交渉し、合意の可能性を探ってきた。今なお、双方の認識が一致していない点が残っているので、パッケージ全体としての合意には至っていない」とのべた。

これまでの交渉で日本側は、基幹産業である自動車の追加関税の撤廃を強く求めてきたが、アメリカ側は自動車が貿易赤字の大きな原因になっているとして譲らず、この自動車関税の扱いが首脳レベルの会談でも大きなハードルになったものとみられる。

石破首相は今回の首脳会談で一定の合意を取りつけた上で、7月の参議院選挙前に関税措置をめぐる問題の決着をめざしてきた。しかし、今回の首脳会談でも合意のメドもつけられなかったことから、参院選前の決着は不透明な情勢になっている。

トランプ政権は、貿易赤字が大きい国を対象に発動した相互関税を90日間停止しているが、ベッセント財務長官は来月9日となっている期限を延長する可能性にも言及している。日本も24%の相互関税が課されるが、現在は一時停止されている。

日本政府内でもサミットでの日米首脳会談で合意できない場合、決着は秋以降にずれ込むのではないかとの見方も聞かれる。だが、今後の見通しについては、依然として、はっきりしておらず、経済界から不満が示されることも予想される。

石破首相にとっては一定の合意に達していれば、参議院選挙に向けて政権浮揚のカードとして期待できたが、今回はそのカードは切れない可能性が大きい。石破内閣の支持率は小泉農水相の起用で、上向きの傾向は表れているが、依然として不支持率が支持率を上回る厳しい状態が続いている。

 不信任案提出見送り判断大詰め

さて、日米首脳会談の結果は22日に会期末が迫っている与野党の攻防、中でも最大の焦点である石破内閣に対する不信任決議案の扱いにも影響を及ぼす。

立憲民主党の野田代表は、与党の過半数割れで内閣不信任案の重みが一段と増しているとして、慎重に対応していく考えを繰り返し表明してきた。最終的には、党内の意見と他の野党の動向、それにトランプ政権の関税措置をめぐる日米首脳会談の結果を見極めて判断したいとの考えを示してきた。

特にトランプ関税について野田代表は、石破首相と同じく「国難」との認識を示すとともに、内閣不信任の提出が衆院解散・総選挙という政治空白をもたらすのは好ましくないという考えを示してきた。こうした考えからすると、日米首脳会談でも合意に至らず協議継続となったことは、不信任案提出にブレーキが働くとみることができる。

一方、立憲民主党や他の野党の多くも衆院解散・総選挙をめぐっては、選挙資金や候補者擁立の準備態勢が整っておらず、回避したいのが本音との見方も聞かれる。野田代表としてはこうした点も含めて総合的に判断することになるが、内閣不信任案の提出を見送るのではないかとの見方が立憲民主党内では強い。

自民党の森山幹事長も17日、イスラエルとイランによる攻撃の応酬が続いている国際情勢を考えると野党側が内閣不信任案を提出しない場合、会期末に衆議院が解散される可能性は低いとの見方を示した。

こうした中で、石破首相が帰国後の19日、与野党の党首会談が開かれ、日米首脳会談の報告を行うとともに意見を交わすことにしている。こうした動きも含めて判断すると国会は会期末の攻防が続くものの、内閣不信任案の提出は見送られ、22日に会期延長なしで閉会する可能性が大きいとみられる。

この結果、夏の参議院選挙は7月3日に公示され、3連休中日の20日投開票という日程で行われる見通しだ。私たち有権者も最終盤国会での重要法案などの行方を見届けるとともに、内外情勢が激動する中で参議院選挙ではどのようなテーマを重視して1票を投じるか準備を始める時期を迎えている。(了)

★追伸(6月19日23時)立憲民主党の野田代表は19日の記者会見で、終盤国会の焦点になっている石破内閣に対する不信任決議案の提出を見送る考えを表明した。その理由として野田代表は、日米の関税交渉が継続中であることや中東情勢が緊迫していることを挙げ「政治空白を作ることは回避すべきだ」とのべた。 一方、石破首相は今の国会で衆院解散を行わない意向を固めている。このため、参議院選挙が7月3日公示、20日投開票の日程で単独で行われる見通しだ。

★追伸(6月21日午前8時)会期末を22日に控えた国会は、土曜日の21日も参議院で審議が行われる異例の展開に。野党7党が提出したガソリン税の暫定税率を廃止する法案が20日、委員会と衆院本会議で可決され、参院へ送られたためだ。参議院では与党が多数のため、成立は困難。ガソリン税の暫定税率廃止については、去年12月、自民・公明両党と国民民主党との間で合意済み。実施時期や財源などの調整が進んでいなかった。

★追伸(21日23時)野党側が提出したガソリン税の暫定税率の廃止法案は21日の土曜日、参議院財政金融委員会で質疑が行われたが、採決をめぐって与野党の意見が対立し、採決が行われず散会した。法案は廃案となる見通しで、国会は22日の会期末を前に事実上、閉会した。

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”少数与党政局”内閣不信任案のゆくえ

通常国会の会期末まで、2週間余りを残すだけになった。年金制度改革法案や選択的夫婦別姓制度、さらには「政治とカネの問題」の扱いなどをめぐって、与野党が最後の攻防を繰り広げる見通しだ。

外交面では、トランプ政権の関税措置をめぐる日米閣僚交渉が続いており、赤澤経済再生相が5日ワシントンに向けて出発し、5回目の閣僚交渉が行われる。今月15日からカナダで開催されるG7サミットに合わせて、日米首脳間で一定の合意にこぎ着けられるのか、ヤマ場を迎えている。

こうした中で、最終盤の国会で石破内閣に対する内閣不信任決議案が提出されるのかどうかが最大の焦点になっている。

自民・公明両党が少数与党に転じた中で、内閣不信任決議案が提出されれば、初めてのケースになる。そして、野党が結束すれば可決される可能性がある。可決された場合、石破首相は10日以内に衆院解散・総選挙に踏み切るのか、総辞職するかの選択を迫られる。

先例を見ると不信任案が可決されたのは4回だけで、ハードルは高いと言える。最終盤の国会はどのような展開になるのか、石破内閣に対する不信任決議案をゆくえを展望してみたい。

 ”竹光から真剣へ”悩む野田代表

内閣不信任決議案を提出できる要件は、衆議院で51人以上の議員の賛成が必要なため、野党の中では、第1党の立憲民主党しか提出を決めることができない。

このため、立憲民主党の野田代表は最近の記者会見では、内閣不信任案を出すのか、出さないのか質問攻めにあっているが、「適時、適切に判断する」と”曖昧戦略”を続けている。

野田代表は去年の衆院選挙で、自公両党が過半数割れして以降「少数与党の下での内閣不信任決議案は、これまでとは重みが決定的に違う。会期末だから竹刀を振り回すのではなく、伝家の宝刀・真剣だと思って相手を確実に倒す時に提出する」として、慎重に検討する考えを繰り返してきた。

その足元の党内は、小沢一郎氏が「可決される可能性が出てきた時に出さないというバカな話はない」と政権交代をめざして、提出を強く訴えている。

一方で、立憲民主党内では「国民が物価高騰に苦しみ、トランプ関税という国難にも直面している時に、安易に政治空白をつくっていいのか考えた方がいい」として、不信任案の見送り論も聞かれる。

また、立民内では、日本維新の会や国民民主党が不信任案に賛成するのかどうか見極めないと野党の結束の乱れが露呈して、逆効果になるとして、提出に慎重論も出ている。

このように党内の意見もまとまっていないこともあって、野田代表は「出すべきか、出さざるべきか」悩みを深めているようだ。

他の野党の幹部からは「立憲民主党の本音は、”弱い石破政権”の下で、参院選挙で勝負したいのではないか。不信任案提出をきっかけに石破首相が解散を打って出る可能性もあり、不信任案の提出は避けたいのではないか」との見方をしている。

立憲民主党の幹部は「自民党内には、年金制度改革関連法案をめぐって自公両党と立憲民主党が法案修正で合意したことから、不信任案は提出しないという見方があるが、全く別の話だ。最終的には野田代表が決断する」として、最終判断までには、なお時間がかかるとの見方を示している。

石破首相”解散刀を抜けるか”不透明

石破政権は3月に首相自身の「商品券配付問題」で、支持率低下が続いてきたが、5月に入って備蓄米をめぐる失言で江藤農水相を更迭、小泉進次郎氏を後任に抜擢したのを契機に攻めの姿勢に転じようとしている。

政権の内部からは「立憲民主党が内閣不信任案を提出した場合、採決に至らない段階で、衆院解散・総選挙に踏み切る」との強気の発言も聞かれる。その場合、衆参ダブル選挙の可能性もある。石破首相は、森山幹事長との間で、こうした認識で一致しているとされる。

自民党長老に聞くと「不信任案が出された場合、石破首相は衆院解散に打って出る可能性があるのではないか」との見方をする。その理由としては「参院選挙に向けて野党の対応はバラバラで、与党が過半数を維持できる可能性があること。また、衆院選挙でも前回の『2000万円問題』のようなことを起こさなければ、前回ほどの負けにならない」との判断があるからだという。

こうした一方で、報道各社の世論調査によると石破内閣の支持率は、政権発足以降、最低の水準が続いている。また、自民党の支持率も30%ラインを割り込んで低迷していることから、衆院選挙に打って出るのは困難との見方がある。

また、自民党関係者は「党幹部の多くは、既に参院選後のポスト石破をにらんでさまざまな動きを始めている。石破首相が解散権を行使することを認めるかどうかわからない」との見方をしている。

したがって、仮に内閣不信任案が提出された場合、あるいは可決された場合でも、石破首相が解散・総選挙を断行できるのか、内閣総辞職になるのか不透明な情勢だ。

内閣不信任案可決に高いハードル

ここまで見てきたように内閣不信任案をめぐっては、与野党ともに複雑な事情を抱えており、先行きを見通すのは容易でないことがわかる。そこで、過去はどのような事例があったのか、先例をみておきたい。

これまで内閣不信任決議案が可決されたのは4回で、戦後まもない昭和23年・1948年の第2次吉田内閣と、昭和28年・1953年の第4次吉田内閣にさかのぼる。それに昭和55年・1980年の大平正芳内閣と、平成5年・1993年の宮沢喜一内閣の時だ。過去4回とも、すべて衆院解散・総選挙につながった。

このうち、今の政治体制に近い自民党政権下の2回のケースについてみておくと昭和55年は「大平・福田の40日抗争」を経て党内が分裂状態で、非主流派が議場に入らず、可決された。そして、史上初めて衆参ダブル選挙が行われた。

93年は政治改革をめぐって自民党内が割れ、執行部を批判するグループなどが野党提出の不信任案に賛成して、可決された。選挙後は、非自民の細川連立政権が誕生し、自民党が初めて下野し55年体制に終止符が打たれた。

こうした一方で、不信任案が提出される直前に首相が退陣を決断し、決着がついたケースもある。94年に非自民の細川連立内閣を引き継いだ羽田孜内閣だ。

連立与党内の対立から少数与党政権として発足した羽田内閣に対し、当時野党の自民党は不信任案を提出する方針を固め、可決は必至とみられていた。羽田首相は解散・総選挙で打開を図る道もあったが、小選挙区制の施行を前に中選挙区での衆院選の断行は政治改革の精神に反するとして、総辞職を選んだ。

内閣不信任決議案は毎年のように野党が提出してきたが、可決にまで至ったのは、ここまで見てきたように極めて少ないことがわかる。それだけ、可決に至るまでのハードルは高いと言えそうだ。

また、可決されたケースでは、いずれも自民党内が意見の対立で、亀裂が入った点が共通している。今回の石破政権の場合、党内抗争で分裂状態に陥っているわけではないが、比較第1党で最も勢力が大きいだけに、党内の結束力が問われることは間違いない。少数与党という政治状況は、羽田内閣の時と共通点がある。

今回は少数与党だけに、逆に野党の側が不信任案の提出と可決に向けて、足並みをそろえて結束できるのかどうかが試される。この通常国会では、日本維新の会や国民民主党は、与党側と政策協議を続ける一方、立憲民主党とは一線を画すことが多かっただけに最後まで足並みがそろうかどうかが焦点になる。

政権構想を示し、進路がわかる政治を

それでは国民として、今回のケースをどのように見たらいいのだろうか。野党が政権交代をめざして内閣不信任案を提出することは、政治に緊張感をもたらし、新たな選択肢を示すという点で評価できる。

但し、その場合、単に不信任案の取り扱いで共同行動を取るだけでなく、野党第1党が中心になってどのような政権をめざしていくのか、与党との違い・対立軸を示してもらいたい。

一方、石破政権と与党側については、先送りや停滞が目立つこれまでの政権運営をどのように総括し、今後の政権の枠組みをどうするのかといった基本方針を明らかにする必要がある。

内外ともに激動期を迎えているだけに、どのような日本社会をめざすのか、政権与党と野党側がそれぞれの構想を提示し、徹底して議論を深めていく取り組みを強く求めておきたい。与野党の駆け引きに終わらせず、日本社会の進路と道筋がわかる政治に変えていく必要がある。(了)

★追記(7日21時)◆石破首相は6日夜、首相公邸で自民党の森山幹事長と会談した。野党側が検討している内閣不信任決議案や参議院選挙情勢などについて、意見をかわしたものとみられる。                                 ◆立憲民主党の野田代表は6日の記者会見で、内閣不信任決議案について「事前に他の野党と話をしたうえで、提出するかどうか総合的に判断したい」とのべた。他の野党に共同提案の意思があるかどうかを確認したいとの考えを示した。                                ◆日本維新の会の前原共同代表は7日、「提出理由も含めて精査して総合的に判断していく」とのべた。国民民主党の玉木代表も「まずは立憲民主党の考えを伺いたい」とのべた。維新と国民民主党は、それぞれ第3極として独自の路線をとっており、共同提案に応じるかは不透明だ。

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江藤農水相更迭、石破政権に打撃

江藤農水相が「コメは買ったことがない。支援者の方々がたくさんコメをくださり、売るほどある」などと発言した問題で、21日辞任に追い込まれた。事実上の更迭とみられる。

石破首相は、後任に小泉進次郎・前選対委員長を起用した。石破首相は早急に態勢の立て直しを図りたい考えだが、今回の更迭による政権への打撃は大きい。終盤国会や石破政権に及ぼす影響を中心に探ってみたい。

失言で閣僚辞任初めて、首相決断に遅れ

去年10月に石破政権が発足して以降、衆院選挙で閣僚の落選に伴う辞任はあったが、失言や不祥事による閣僚辞任は、江藤農水相が初めてだ。

今回の問題の背景をみてみると、去年夏からコメの価格高騰が続き、政府は備蓄米の放出に踏み切ったが、消費者に届いたのは全体のわずか1割程度に止まる。また、コメの価格が高止まりする中で、農水相のあまりにも軽率な発言に国民はあきれ、強い憤りが今回の辞任につながったと言えるのではないか。

江藤農水相の発言が明らかになったのを受けて、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組の野党5党は国対委員長会談を開き、江藤農水相の辞任を求め、応じない場合は不信任決議案を提出する考えでも一致した。

内閣不信任決議案が提出されれば、与党は過半数を割り込んでいるので、可決される公算が大きい。こうした野党の結束が、辞任の大きな圧力になった。

石破首相は、江藤農水相の失言が明らかになった翌日、いったん農水相を厳重注意したうえで、続投させることを決めて本人に伝えた。自民党関係者は「石破首相は、世論の厳しい反応と野党の出方を読み違えた。直ちに閣僚の交代に踏み切るべきだった」と決断の遅れを指摘する。

石破政権、コメ価格引き下げできるか

石破首相は、後任に小泉進次郎・前選対委員長を起用し、「消費者に安定した価格でコメを供給できるよう取り組みを推進するとともに、随意契約を活用して備蓄米の売り渡しを検討する」よう指示した。

石破首相との会談を終えた小泉氏は記者団に「国民が、一番不安に感じているコメの高騰に対してスピード感を持って対応できるよう全力を尽くす。『コメ担当大臣』という思いで、集中して取り組みたい」と意気込みを語った。

石破首相はこの日の党首討論で「コメの価格引き下げに責任を取るのか」と質されたのに対し、「コメは3000円台でなくてはならず、1日でも早く、その価格を実現する。下がらなければ、責任をとっていかなければならない」とのべた。

また、石破首相は「コメが足りないとは断言はしないが、ギリギリの需給状況は超えており、増産の方向にカジを切れと言う主張に同意する」とのべ、コメの増産に向けて政策を進める考えを表明した。

農水省の調査によるとコメの価格は、全国平均で5キロあたり4200円台で、去年の同時期に比べて2倍以上に達している。石破首相の発言は、この価格を3000円台まで引き下げること表明したもので、実現できるかどうかが問われることになる。

 支持率低迷、政権の求心力にも影響

石破政権としては、コメ対策だけでなく、終盤国会の重要法案などへの対応をはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる日米交渉、さらには夏の参議院選挙に向けた体制づくりを急ピッチで進める必要がある。

こうした中で、今回の農水相の更迭は、石破政権の求心力をさらに低下させる可能性がある。NHKの世論調査(5月9日から11日実施)によると石破内閣の支持率は33%で政権発足以降で、最低を更新している。不支持率は48%で、支持率と不支持率の逆転は3か月連続だ。

読売新聞の世論調査(5月16日から18日実施)でも石破内閣の支持率は31%で、内閣発足以降、最低の水準が3か月続いている。今月の不支持率は56%だ。今後望む政権のあり方については「野党中心の政権に交代」が48%で、「自民党中心の政権の継続」36%を上回った。世論の風向きの変化もうかがえる。

こうした世論の推移をみると今回の江藤農水相の辞任で、国民の石破政権に対する評価がさらに厳しくなることが予想される。

一方、終盤国会では、政府・自民党の調整が難航し、20日にようやく提出した年金制度改革関連法案をはじめ、懸案の企業団体献金の禁止法案、選択的夫婦別姓制度の法案などの扱いが残されている。

特に年金制度改革関連法案をめぐって、野党側は「基礎年金の底上げという最も重要な部分が抜け落ちている」として法案の修正を求めており、この扱いが焦点の1つになりそうだ。

石破政権の政権運営について、自民党の長老に聞くと「今の石破政権は、国民の関心が最も高いコメの価格対策について、成果を上げることができていない。また、物価高や経済対策で、政権として何を最重点に取り組むのかも打ち出せていない」と厳しい見方を示している。

また、「自民党内は石破首相を支えるというよりも、参院選挙後の政局をにらんで、遠心力が働いているような状況だ。石破首相自身、官邸の態勢を強化するとともに、自民党執行部と連携を強めていかないと会期末の国会運営から参院選までの難局を乗り越えていくのは難しいのではないか」と指摘する。

通常国会は、会期末まで残り1か月となった。会期末には、野党側が内閣不信任決議案を提出することも予想される。少数与党の中で、石破首相は会期末をどのように乗り切っていくのか、正念場を迎えている。(了)

 

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終盤国会”懸案集中、与野党攻防激化へ”

長丁場の通常国会は来月22日が会期末で、残り会期は1か月余りを残すだけとなった。会期延長がない場合は、7月3日公示・20日投開票の参議院選挙に突入することになる。

この終盤国会は、年金制度改革や選択的夫婦別姓制度などの重要法案の審議が残っているのをはじめ、トランプ政権の関税措置をめぐる3回目の日米交渉が今月下旬に行われる見通しで、交渉の行方や評価も大きな論点になりそうだ。

また、物価高騰対策としての消費税減税をめぐって、与野党の議論が続いているほか、会期末に石破内閣に対する不信任決議案をめぐって与野党の駆け引きが激しさを増す見通しだ。

このように終盤国会は、内外の懸案や課題が短い期間に集中することになりそうだ。国民にとって、国会での論戦や攻防は参院選での投票に当たって有力な判断材料になる。そこで、終盤国会が抱えている問題を整理するとともに、石破政権や与野党がどのように対応しようとしているのか点検しておきたい。

重要法案・懸案山積、結論を出せるか

さっそく、今の通常国会の重要法案からみていきたい。まず、サイバー攻撃を未然に防ぐための「能動的サイバー防御」導入法案は、16日の参院本会議で自民、公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。

また、公立学校教員の残業代の代わりに基本給を上乗せして支給することなどを盛り込んだ「改正教員給与特別措置法」も15日の衆院本会議で賛成多数で可決された。参院での審議を経て、今国会で成立する見通しだ。

一方、政府・自民党内で調整が難航していた年金制度改革関連法案は16日にようやく国会に提出され、20日から衆院で審議入りする見通しだ。法案にはパートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるように要件が緩和されている。

一方で、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げする措置は、自民党内に参院選挙への影響を懸念し慎重論が根強かったことなどから、法案に盛り込まれなかった。

これに対し、野党側は「法案の最も肝の部分が抜け落ちている」と批判している。そして、基礎年金を底上げする措置を見送れば「就職氷河期世代」の将来の年金が十分確保できなくなるとして、法案の修正を求めていく方針だ。

選択的夫婦別姓制度をめぐっては、立憲民主党が先月末に制度を導入するため、民法の改正案を国会に提出した。夫婦が同姓か別姓かを選べるようにしたうえで、別姓を選んだ場合、子どもの姓をどちらにするかは結婚する時に決めるとした内容だ。

これに関連して、同じく導入をめざす国民民主党は、立憲民主党とは別の法案を提出する方針だ。日本維新の会は、別姓ではなく、戸籍に旧姓を記載するなど結婚後も旧姓を通称使用できる内容の法案を提出することにしている。

自民党は、制度の導入に賛成の議員と慎重な議員とで隔たりがあり、今も議論が続いている。このように与野党の意見が分かれていることから、今の国会でどこまで審議が進むか、不透明な情勢だ。

懸案の企業・団体献金の問題をめぐっては、期限としていた3月末も与野党の意見がまとまらず、再び先送りしたが、その後も議論は進んでいない。また、石破首相が自民党の1回生議員に10万円相当の商品券を配付していた問題で、政治倫理審査会で弁明する扱いも先送りになったままだ。

自民党派閥の裏金問題で、安倍派幹部の下村元政務調査会長が参考人招致に応じる意向を示したことから、野党側は15日の衆院予算委員会の理事会で、自民党も賛成するよう求めたが、自民党は反対する姿勢を示し、引き続き協議することになった。

このように終盤国会は多くの重要法案や懸案が山積している状態で、このままではかなりの法案などが先送りになりかねない。まずは、政権与党がリーダーシップを発揮して事態の打開策を提案し、野党側も柔軟に応じるなどして、一定の結論を出してもらいたい。

 次回関税交渉、協議の対象範囲が焦点

次に当面の重要な政治課題であると同時に、参院選挙でも大きな焦点になりそうなのが、トランプ政権の関税の引き上げと、物価高対策としての消費税の税率引き下げの問題だ。

トランプ政権の関税措置をめぐっては、18日からの週に日米の事務レベルの協議に続いて、週の後半に赤澤経済再生相が訪米し3回目の閣僚交渉が行われる見通しだ。

トランプ政権はイギリスとの合意に続いて、中国との間でも双方が追加関税を110%引き下げ、米側は30%、中国側は10%とすることで合意した。そして、一部の関税に90日間の停止期間を設け、協議を続けることになった。

次回の閣僚協議はどのような展開になるだろうか。日本側は自動車を含む全ての関税措置を撤廃するよう強く求めているのに対し、米側は協議の対象は追加関税の上乗せ部分で、自動車などの品目別関税は協議の対象外として、双方が対立している。

このため、次回協議では、自動車の扱いを含め協議の対象範囲で一致できるかどうかが焦点になる。また、交渉妥結の時期がどうなるか、6月のG7サミットに合わせて決着をめざすのか、長期戦もやむなしとなるのかも注目される。

さらに、日本としては関税措置の見直しを図るために、アメリカ製自動車や農産物の輸入拡大などにどこまで踏み込むのか判断を迫られる。こうした一連の対応は、終盤国会や参院選でも大きな論点になる見通しだ。

消費税減税の是非、論点深掘りできるか

終盤国会ではもう一つ、物価高対策として消費税減税の是非をめぐって、与野党の議論が活発に行われる見通しだ。

立憲民主党の野田代表はこれまで消費税減税に慎重な立場をとってきたが、この方針を転換し、食料品の消費税率を原則1年間に限ってゼロ%に引き下げるとともに当面の物価高対策として、国民1人あたり2万円程度の現金給付を行う案を16日に発表した。

これに対し、石破首相や自民党執行部は、消費税の税収が社会保障や地方財政を支える財源になっているとして、消費税は引き下げない方針だ。そして、夏の参院選では、財政や社会保障の安定に責任を持つ「責任政党」としての役割をアピールしていく構えだ。

但し、自民党内は選挙を控えた参議院議員の8割は消費税減税を行うべきとの考えだとされ、当面、党内の議論を続けることにしている。

連立与党の公明党も消費税減税を求める声が強く、参議院選挙に向けた与党の経済対策のとりまとめは難航することも予想される。

自民、公明両党は当初、現金給付を打ち出す方針を示したが、世論調査で”バラマキ政策”だとして批判が強く、見送った経緯がある。与党側にとっては、消費税減税に代わる有効な経済対策を見いだせていないのが悩みだ。

一方、野党側は、既に維新、国民民主、共産、れいわの各党などが、いずれも税率引き下げや廃止を主張しており、立憲民主党と合わせて野党側は消費税減税で足並みがそろったことになる。

但し、野党側の消費税減税の内容や税率、実施期間などはさまざまだ。また、財源についても国債発行に頼らず、新たな財源を明らかにする政党がある一方で、赤字国債発行を容認する政党とに分かれている。

こうした各党の主張を国民はどのようにみているか。NHKが今月9日から3日間行った世論調査では、◇「今の税率を維持すべきだ」は36%、◇「税率を引き下げるべき」は38%、◇「消費税は廃止すべき」は18%となっている。

つまり、「消費税の廃止論」は2割近くに止まり、「消費税率は下げない維持派」が4割、「税率引き下げ派」も4割で、真っ二つに分かれている。消費税減税をめぐる議論は政党、国民の間でもまだ十分に尽くされておらず、景気対策、社会保障との関係、財源などさまざまな角度から掘り下げた議論が必要だということを示しているのではないか。

懸案の処理と将来社会の構想の提示を

終盤国会は、19日に参議院予算委員会で内外の重要課題について集中審議が行われるのをはじめ、20日に年金制度改革法案が衆院で審議入りする。21日には今国会で2回目の党首討論が行われるなど与野党の論戦が本格化する見通しだ。

そして、これまでみてきたように終盤国会では、懸案の「政治とカネ」の問題、選択的夫婦別姓制度、年金制度改革法案などについて議論を深め、可能な限り結論を出すことが必要だ。一方、結論がまとまらない場合、その理由や今後の取り組みの道筋を示すことも重要だ。

加えて、この国会は、トランプ政権による関税措置への対応や、物価高対策としての消費税減税が大きな論点になっている。こうした課題は、日本が国際社会でどのような役割を果たしていくのか、将来の日本社会や経済のあり方とも直結する。

それだけに政権与党と野党は、それぞれ外交・内政の中期的な構想も示して論争を深めてもらいたい。そのうえで、私たち有権者はそうした構想や対応などを踏まえて、夏の参院選挙で1票を投じたい。激動期に対応できる政治の選択の仕方も模索していく必要がある。(了)

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終盤国会から参院決戦へ”与野党攻防のカギは”

長丁場の通常国会も来月22日の会期末まで、残り1か月半を切った。終盤国会では12日と19日に衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、石破首相と野党側が議論を交わすのをはじめ、重要法案や懸案の「政治とカネの問題」などをめぐって与野党の攻防が本格化する。

一方、トランプ政権の関税措置をめぐる日米の閣僚協議は今月中旬以降、集中的な協議が行われる見通しだ。トランプ政権は8日、関税交渉でイギリスとの間で初めての合意に達したが、日米間の交渉は前進がみられるのかどうかが焦点だ。

来月13日には東京都議選が告示され、22日の投開票日に向けて各党は国政選挙並みの態勢で選挙戦に入る。さらに通常国会が予定通りの日程で閉会すれば、7月の参院決戦へと突入する。

このようにこの夏は、少数与党の中で終盤国会の与野党攻防と日米関税交渉が同時並行で進行し、さらに都議選、参院選の政治決戦へと続くことになる。これからの政治はどのような点がポイントになるのか、探ってみたい。

 関税交渉、米側方針に変化はあるか

まず、これからの政治に大きな影響を与えるのは、トランプ政権の関税措置をめぐる動きだろう。アメリカとイギリス両政府は8日、◇イギリスで生産された自動車については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとともに◇鉄鋼製品とアルミニウムは、関税を0%に引き下げることで合意した。

これとは別に、アメリカが多くの品目に一律10%の関税を課している措置については、イギリスに対しても維持する。トランプ政権は、日本を含む各国と関税交渉を行っているが、合意に達したのは今回のイギリスが初めてだ。

日本は先のアメリカ側との交渉で、5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に実施するため、日程調整を進めることで合意している。これまでの交渉で日本側は、一連の関税措置の見直しを強く求めたが、アメリカ側は「日本だけ特別扱いはできない」と相互関税の上乗せ措置以外の協議には応じない考えを示した。

今回の米英両国の合意で、イギリスについては自動車、鉄鋼、アルミニウムについて関税引き下げに応じた一方で、一律10%の関税措置は譲歩しなかった。

イギリスと日本では置かれた状況や条件が異なるが、次の日米交渉ではアメリカ側は、日本の関税の見直し要求にイギリスと同様に引き下げに応じるのかどうか、応じる場合はその範囲や幅についてどのような考えを示すのか注目される。

一方、日本側は、アメリカ製自動車などの輸入認証制度を緩和する措置をはじめ、大豆やトウモロコシの輸入拡大、LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大策などについて突っ込んだ説明をするものとみられる。

こうした次回の日米交渉で、アメリカ側がこれまでの方針を変更し交渉の前進が図られるかどうかが焦点になる。

また、来月15日からカナダでG7サミットが開催されるのに合わせて日米首脳会談を行い、一定の合意発表へとつながるのかどうかも注目される。

少数与党で支持率が低迷している石破政権にとっては、参院選挙で与党が過半数を維持できるか、政権の命運がかかっている。このため、関税措置を回避する合意が達成できれば、政権の浮揚につながる可能性がある。

逆に交渉が妥結せず、関税措置の見直しができなかったり、日本側が譲歩を重ねたりした場合は、参院選に強い逆風になるだけに今後の交渉のゆくえから目が離せない。

終盤国会、消費減税と財源が論点に浮上

次に終盤国会では、物価高対策に関連して消費減税が大きな論点になる見通しだ。立憲民主党は、食料品の消費税率を1年間ゼロ%にすることを参院選の公約に盛り込む方針を決めた。消費減税は、既に日本維新の会や国民民主党が先行して方針を決めており、野党側の足並みがそろったことになる。

与党側でも参院自民党や公明党からも消費減税を求める声が上がっている。石破首相は消費減税に一定の理解を示す発言もあったが、石破首相と森山幹事長ら自民党執行部は、消費減税に踏み切る場合、必要な財源確保が困難で、社会保障にも影響が出るとして、消費減税を見送る方向で調整を進める方針だ。

こうした物価高対策と消費税減税の扱い、それに消費税に踏み切る場合の財源と社会保障への影響をどう考えるか、終盤国会と参議院選挙での論戦の大きなテーマになる見通しだ。

 多様な論点、参院選に向け方針提示を

終盤国会では、5年に一度の年金財政検証に合わせた年金制度改革関連法案の提出が自民党内の調整が難航し遅れているが、近くようやく提出される見通しだ。

また、懸案の選択的夫婦別姓制度については、立憲民主党が先月末に法案を提出したが、日本維新の会が通称使用を拡大する法案や、国民民主党も別の法案を提出する方針で、野党の足並みに乱れが出ている。

一方、懸案の「政治とカネの問題」をめぐっては、企業・団体献金の見直しについて、3月末に結論を先送りして以降、与野党の議論が全く進んでいない。

自民党派閥の裏金問題では、旧安倍派の下村元政務調査会長の参考人招致の扱いをめぐって与野党の意見が対立している。また、石破首相が10万円の商品券を配付していた問題について、政治倫理審査会で弁明する問題も先送りのままだ。

さらに会期末には、石破首相に対する内閣不信任決議案を提出する問題も浮上する見通しだ。少数与党政権なので、野党側がまとまって賛成すれば不信任案は可決され、内閣総辞職か衆院解散・総選挙という波乱につながる可能性もある。

このように今の国会は多くの法案や懸案、内外の課題・論点が次々に押し寄せているが、「熟慮の国会」どころか十分な議論が行われず、法案の扱いもはっきりしない状態が続いている。

このため、国会閉会後に行われる参院選挙では、先送りの案件が多数にのぼり、何を基準に判断をすればいいのか、有権者は戸惑うことになる。まずは、重要法案や主要な論点について与野党は議論を尽くして、一定の結論を出せるよう最大限努力すべきだ。

そのうえで、調整ができなかった問題はその理由と今後の対応策について、政権与党と野党側がそれぞれ見解を表明し、国民に判断材料を示してもらいたい。

ここまでみてきたように終盤国会での重要法案の扱いや与野党の論戦、それにトランプ関税をめぐる日米交渉など内外ともに激しい動きが続く見通しだ。去年の衆院選に続いて、参院選挙はどのようになっるだろうか。

最終的に大きなカギを握るのは、国民がどのようなテーマ・論点を重視するか、その選択によって夏の参議院決戦の結果は大きく左右される予感がする。(了)

 

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日米関税交渉”6月合意を模索か”石破政権

トランプ政権の関税措置をめぐり、訪米中の赤澤経済再生相とベッセント財務長官ら米側閣僚との2回目の交渉が2日行われ、次回の交渉を5月中旬以降に集中的に実施するため、日程調整を進めることで一致した。

交渉を終えた赤澤経済再生相は「非常に突っ込んだ話ができた。可能な限り早期に、日米双方の利益となるような合意をめざして前進することができた」と語った。政府関係者も「閣僚交渉が集中的に行われる見通しとなり、一定の進展があったということではないか」との見方を示している。

今回の2回目の交渉ではどこまで協議が進んだのか、また日米両首脳の合意の時期の見通しはどうなるのか、今後のゆくえを探ってみたい。

 貿易拡大策など協議、安保は切り離し

まず、今回2回目の閣僚交渉で明らかになった点と、はっきりしない点について、交渉終了後に行われた赤澤経済再生担当相の記者会見を基に整理しておきたい。

明らかになった点としては◆日本側は米側の関税措置は極めて遺憾であり、初回交渉に続いて、見直しを強く求めたこと。そのうえで、今回は貿易の拡大、非関税措置、それに経済安全保障面での協力の3つの柱で議論を行ったとしている。

◆為替と安全保障の問題については、今回は全く議論していない。「安全保障は貿易・関税とは違う」とのべて、為替や安全保障の問題は切り離すとの認識を示した。これは交渉分野を限定することになり、日本側にとって望ましい形と言える。

一方、はっきりしない点としては◆交渉の具体的な内容だ。赤澤経済再生相は「交渉の詳細については触れない」と何回も繰り返し、内容の説明は一切避けた。

ただ、◆交渉は「パッケージで成立するもの」とのべ、日本側は自動車などの関税措置の除外を主張したこと。アメリカ側との間で、自動車や農産物などの輸入拡大などについて意見を交わしたことなどを認めた。

今回の交渉では、交渉の具体的な分野や範囲を絞ることができるかどうかが焦点の一つになっていた。赤澤経済再生相は、為替や安保は切り離したうえで「突っ込んだ話ができた」などとのべていたことから、日米双方がそれぞれの関心分野を中心に時間をかけて協議を行ったものとみられる。

 6月合意”そうなればいい”と赤澤氏

今回の日米交渉ではもう一つ、「交渉のペースと合意の時期」について、日米がどのような見方をしているのかも注目された。

赤澤経済再生相は、同行記者団から「5月中旬以降に閣僚交渉を集中的に行う意味」を質問されたのに対し「首脳レベルに上げる前に、閣僚が協議の頻度をあげ、根を詰めることもある」との考え方を示した。

また、記者団から「6月に首脳間で合意することはあるのか」と質されたのに対し「わからないが、そういう段階に入れればいいと思っている」とのべ、5月の閣僚協議を集中的に行ったうえで、日米首脳の合意につながることへの期待を示した。

各国との関税交渉めぐって、トランプ大統領は直前に「彼ら(日本、韓国など)ほど交渉を急いでおらず、有利な立場にいる」とけん制していたが、日米双方から「トランプ関税で株価が下がり、世論の支持率も低下していることから、焦っているのはトランプ大統領ではないか」といった見方が示されている。

一方、自民党の閣僚経験者などから「6月のG7サミットの際か、その前に日米首脳会談を行い、決着を図ろうとするのではないか」との見方はかねてから出されてきた。5月中旬以降、集中的に協議を行うと合意したことは、こうした見方がさらに強まる可能性がある。

石破首相は、赤澤経済再生相から電話で報告を受けた後、記者団に対し「時期について言及すべきとは思わない。早いに越したことはないが、早いことを優先するあまり国益を損なってはならない」と踏み込むのを避けた。

今後の政治日程を考えると6月22日が通常国会の会期末で、会期延長がなければ、参議院選挙は7月3日公示、20日投票となる。アメリカの関税措置90日間の期限は7月9日で、選挙戦まっただ中にあたる。

こうした日程や赤澤経済再生相の発言、自民党幹部の見方などを合わせて判断すると、石破政権は参院選挙前の6月合意を視野に交渉を本格化させるのではないかとみている。

 交渉内容、国内外から厳しい評価も

それでは、これからの日米関税交渉の内容や進め方、留意すべき点としてはどのような点があるのだろうか。

日本としては、幅広い品目に課税される「相互関税」の上乗せ分の撤回だけでなく、品目別の課税対象になっている自動車、鉄鋼などへの25%追加関税、さらに一律10%の相互関税について、撤廃などの見直しを強く求めていくのが基本だと考える。

これに対してアメリカ側は、特にトランプ大統領が貿易赤字の解消を強く主張していることから、自動車や農産品の輸入拡大などを迫ってくるものとみられる。

日本側としても、自動車などの関税措置の撤回のためには一定の譲歩は避けられないとして、首相官邸に設置されている各省庁の専門家チームなどで検討を進めている。

これまでのところ◇アメリカが強く求めている非関税措置の改善策として、輸入自動車の認証制度を緩和する措置のほか、◇農産物のうち、大豆やトウモロコシの輸入拡大、◇LNG・液化天然ガスの開発や輸入拡大、◇造船分野の支援などを検討している。

◇農産物については、コメのミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で、米国からの輸入を増やすことを検討する案も出ているが、与党内の反発もあり、結論は出ていない。

仮に日米両国が合意した場合、関税措置の撤回や引き下げと、日本側の譲歩案の両方について、日本の国益を守ることができたのかどうか、最終的には国民の理解と支持が得られるかどうかがカギになる。それだけに特に合意の内容が十分かどうか、国民の厳しい評価を受けることもありうる。

また、トランプ政権の関税措置をめぐっては「アメリカ第1主義」の下、余りにも一方的に高い関税をかけることに世界各国から強い反発が起きている。このため、交渉で先行する日本が公正で自由な貿易体制を推進していく立場を貫いているのかどうか、各国の評価に耐えうる内容かが問われることになる。

トランプ政権の関税政策をめぐっては、米国内でも物価高騰や経済の減速を招く恐れがあるとして、世論や経済界からも批判が広がっている。関税引き上げの応酬を続けてきた米中間でも近く話合いが始まるとの見方が出ている。

日本としても自国の産業や経済を守りながら、世界や米国内の動向も踏まえて、米国の一方的な関税措置を軌道修正させていく取り組みが求められている。

そのためには首相官邸が中心になって、各省庁の貿易・経済協議の経験を活用するとともに民間企業、与野党の意見も取り入れて総合的な戦略を練り上げ、したたかな外交交渉を展開できるかどうかが問われている。5月中旬からの日米交渉は、石破政権や夏の参議院選挙のゆくえを左右することになるだろう。(了)

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トランプ関税交渉と終盤国会のゆくえ

トランプ政権の関税措置をめぐり、赤澤経済再生担当相が月末に訪米し、2回目の日米閣僚交渉が行われる見通しだ。この協議で、日米交渉を軌道に乗せる糸口を見いだせるかどうか、重要な局面を迎えている。

一方、国内では通常国会の会期末まで残り2か月を切ったが、石破政権や与野党ともにトランプ関税の大波に飲み込まれ、トランプ関税以外の懸案に手がつかない状況に陥っている。

今月末からの大型連休が明けると、各党が国政選挙並みの態勢で臨む東京都議会議員選挙が6月に、参議院選挙が7月に相次いで行われる。石破政権と与野党は、トランプ政権の関税措置交渉や終盤国会にどのような対応が求められているのか考えてみたい。

 トランプ関税、交渉分野は固まるか

まず、トランプ大統領が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉からみていきたい。日本時間の今月17日に行われた初めての日米交渉は、冒頭にトランプ大統領が赤澤経済再生相と会談するという異例の形で始まった。そして続いて行われた閣僚協議を含め、日米双方は可能な限り早期に合意をめざすことで一致した。

これを受けて日本政府は、赤澤経済再生相が今月30日から3日間の日程でワシントンを訪れ、ベッセント財務長官らと2回目の閣僚交渉を行いたい考えで調整を進めている。米側と調整がつけば閣僚交渉は、日本時間の5月1日に行われる見通しだ。

日本としては、対米輸出額で最も多い自動車や鉄鋼などの追加関税と、幅広い製品に課税される「相互関税」の見直しについて、引き続き強く求めていく方針だ。

これに対して、アメリカ側は初回の会合で「日本だけ特別扱いをすることはできない」として、否定的な認識を示しているという。

赤澤経済再生相は24日、記者団に「英語で言うと『スコーピング』、私は『交渉の土俵』と呼んでいるが、何を重点に話合うのか、優先順位を含めて話し合い、2回目の交渉でおおよそ決めたい」とのべた。

日本政府関係者によると、トランプ大統領の最大の関心事項は、貿易赤字の問題とされる。また、アメリカ製自動車や、コメなど農産物の輸入拡大、在日米軍の駐留経費の問題にも関心を持っていると受け止めている。

石破首相は国会答弁などで「安全保障は、貿易とは違う分野の話だ。為替は加藤財務大臣とベッセント財務長官の間で話合いが行われる」として、安全保障や為替の問題は、関税交渉とは切り分けて議論したいという考えを示している。

他方で、アメリカ車の輸入拡大に向けては「非関税障壁」や、コメを含む農産物の輸入拡大に向けては柔軟に対応することを検討しているとされる。

赤澤経済再生相としては、以上のような立場に立ってアメリカ側と突っ込んだ意見を交わし交渉範囲を固めたい考えだ。

もう1つ、次回の交渉で注目される点は、協議のスピードと交渉妥結の目安になる時期だ。

米側は早期の合意をめざしているとされ、トランプ大統領は17日、記者団に日本を含む主要国との合意の見通しについて「今後、3~4週間だろう」と語った。仮に4週間とすると5月中旬頃が目安になる。

これに対して、日本側は「日本が対米交渉の先頭にいる立場を活かすべきだ」と早期の妥結をめざすべきだという意見と、「アメリカ側の立場は揺れている」として焦らずに時間をかけた方がいいとの意見があり、対応は定まっていないとされる。

トランプ大統領は自信満々に相互関税を発動したが、米国債が急落すると一転して相互関税の上乗せ部分の停止に踏み切った。

また、アメリカの有力紙・ウオール・ストリートジャーナルが「トランプ政権が中国との貿易摩擦を緩和するため、関税率の大幅な引き下げを検討している」と報じるなど大統領の足元がぐらついているようにみえる。

こうした情勢を踏まえて、石破政権はどのような姿勢で交渉に臨むのか、次回の協議の結果が注目される。

米側は「相互関税」の停止期間を90日間として、各国との交渉期間に位置づけているが、90日後は7月9日。日本では今の政治日程では参議院決戦の真っ最中に当たるだけに、国内政治に大きな影響を及ぼす。

年金制度、夫婦別姓など懸案対応は

国内に目を転じると長丁場の通常国会も6月22日の会期末まで、2か月を切った。政府・与党は関税措置への対応に追われ、重要法案への対応が後手に回っている。

通常国会の重要法案の1つである年金制度改革関連法案をめぐっては、政府・自民党内で内容など調整が進まず、国会への提出が大幅に遅れている。

これに対し、立憲民主党は「遅くとも来月13日には提出し、審議入りしなければ今の国会での成立が難しくなる」として、提出のメドが明らかにならない場合は、福岡厚生労働大臣に対する不信任決議案の提出を検討するとけん制している。

また、懸案の企業・団体献金の扱いをめぐっては、3月末までに与野党で結論を出すことにしていたが、先送りになったままだ。政治資金を監視する第三者機関を設置する動きも進展していない。自民党旧安倍派の裏金問題の実態解明や、石破首相の商品券配付問題についての政倫審での説明も先送りになっている。

終盤国会では、懸案の選択的夫婦別姓の法案が立憲民主党から提出される見通しだ。自民党は党内の意見が分かれていることもあって、この問題への取り組みの動きは鈍い。

こうした懸案や重要法案は、夏の参議院選挙の論戦でも争点になる。それだけに国会で与野党が議論を深めておかないと有権者に判断材料を提供できないことになる。トランプ関税に関心を持ち力を入れるのは当然だが、国会と政党はそれぞれ本来の役割を果たしてもらう必要がある。

石破首相で参院選か、会期末の波乱は

冒頭でも触れたように今年は、東京都議選の投開票が6月22日、今の国会の会期延長がなければ、参議院選挙が7月3日公示・20日投開票の日程で行われる。4年に一度の都議選と、3年に一度の参議院選挙が同じ年に行われる”選挙イヤー”だ。

去年の衆議院選挙では自民・公明両党の与党が過半数を割り込んだが、今度は参議院でも与党過半数割れが起きるのか、その結果、連立の組み合わせの変更などが起きるかも焦点の1つになる。

そこで、政権・政局をめぐる動きを整理しておくと石破政権については、自民党内で予算成立後、一部に「石破首相では参院選を戦えない」として「石破降ろし」の動きがあったが、こうした動きが起きる公算は小さいとみられる。

というのは、トランプ関税措置をめぐる日米交渉が正念場を迎えようとしている時に、政争とみられる動きは支持が広がらないとみられるからだ。このため、自民党は、石破首相の下で参院選挙を戦う可能性が大きいとみられる。

一方、会期末に野党第1党の立憲民主党が、石破内閣の不信任決議案を提出し、野党各党がそろって賛成した場合は、可決される可能性がある。その場合、石破内閣が総辞職をするか、衆議院の解散・総選挙に踏み切る選択肢もあり、会期末に大きな波乱が起きる可能性は残っている。

但し、立憲民主党の野田代表は、不信任決議案の提出に慎重な姿勢を見せている。仮に提出した場合も、日本維新の会や国民民主党が同調しない可能性も大きく、政界では不信任案が可決される可能性は低いとの見方が強い。

このため、参院選挙は単独で行われる公算が大きいが、その場合、トランプ政権の関税措置への対応が大きな争点になるとみられる。石破政権は世界の先頭を切ってトランプ政権との関税交渉に入ったが、日本の利益だけでなく、世界の自由貿易を維持していく交渉ができたのかどうかが問われる。

また、石破首相がリーダーシップを発揮して関税交渉に当たり、成果を導き出すことができたのかどうか、与野党の論戦の焦点になるとみられる。私たち国民も、石破政権や与野党の対応をしっかり見極め、夏の参議院選挙での選択に備えたい。(了)

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”難航必至か”トランプ関税 日米交渉開始

トランプ政権が打ち出した関税措置をめぐる日米交渉は、異例の形で始まった。訪米した赤澤経済再生相は日本時間の17日早朝、ホワイトハウスでトランプ大統領と50分間にわたって会談した。この席には、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、USTR=アメリカ通商代表部のグリア代表が同席した。

この席で赤澤経済再生相は「日米双方の経済が強くなるよう包括的な合意を可能な限り早期に実現したい」という石破首相のメッセージを伝えた。

これに対し、トランプ大統領は国際社会の中で、アメリカが置かれている現状を説明するとともに「日本との協議が最優先だ」という考えを示したという。

続いて赤澤経済再生相は、ベッセント財務長官ら3人の閣僚とホワイトハウスで1時間20分、初めての閣僚交渉を行った。

その結果、日米双方は◇率直かつ建設的な姿勢で交渉に臨み、可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるようめざすこと。◇次回の交渉を今月中に実施するよう日程調整を進めること。◇閣僚レベルに加え、事務レベルでの交渉も継続することで一致した。

今回の日米交渉をどのように評価したらいいのか。また、今後の日米交渉はどのような点が焦点になるのか探ってみたい。

石破首相、次につながる協議と評価

石破首相は、トランプ大統領との会談や閣僚交渉を終えた赤澤経済再生相から電話で報告を受けたあと、記者団の取材に応じた。

石破首相は「日米間には、依然として立場に隔たりがある」としながらも「トランプ大統領は、日本との協議を最優先したと述べている。次につながる協議が行われたと認識している」と安堵の表情をみせた。

また、今後の対応については「交渉の推移をみながら私自身、最も適切な時期に訪米し、トランプ大統領と直接、会談することを当然、考えている」とのべ、日米首脳会談で決着させることに意欲を示した。

一方、赤澤経済再生相は「アメリカは90日間でデイールを成り立たせようとしている。われわれはできる限り早くやりたいという思いは持っているが、交渉の今後の進展はまったく分からない」とのべた。

また、記者団からの質問に答えて赤澤経済再生相は「為替については出なかった」とのべ、米側から他のテーマ、在日米軍の駐留経費分担など日本の防衛費や農産物などについて、アメリカ側から提起があったことを示唆した。

このように日米の会談や協議の詳しいやり取りは明らかになっていないが、日米双方は、早期に合意できるよう努力することで一致した点が今回の大きな特徴だ。

日本側としては、最初の交渉で米側の出方を前向きに受け止めており、今月中に行われる次の閣僚協議などを経て、早期合意をめざすものとみられる。

 日米交渉、楽観視できない見方も

今回の日米交渉について、経済の専門家の見方を聞くと「トランプ政権が、主要国の中で日本との協議を最初に行ったのは事実だが、これは日本を厚遇しようということではない。米国は貿易赤字削減を主要な目標ににしており、日本にだけ甘い対応をすることは考えにくい」として、楽観視できないとの見方を示す。

そのうえで「米側が期待する赤字削減を実現するためには、日本側が大幅な譲歩が必要になる。アメリカ国内ではトランプ政権の関税政策に批判的な意見が強くなる可能性があるので、日本は焦って交渉を早めるより、アメリカ国内の情勢を見極めながら慎重に対応した方がいい」と指摘している。

こうした考え方は自民党内にもあり、閣僚経験者の一人は「自動車などに対する関税については早期妥結が好ましいが、交渉ごとは焦ると負けという側面もある。アメリカ国内の企業や世論の反応によっては、関税政策も変更を迫られる」として、政府は短期、長期両にらみで交渉に臨むべきだという考えを示す。

こうした経済専門家や自民党内の指摘を受けて、石破首相がどのような判断を示すのか問われることになる。

このほか、日本側としては詰めておくべき点は多い。例えば、交渉の対象分野について、日本側が強く求めている自動車、鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税の扱いのほか、米側の関心が強い農産物の市場開放や日本の防衛費、為替などについてどのような扱いにするか、整理が必要だ。

また、日本側が関税見直しの交渉カードとして、LNG=液化天然ガスの開発や輸入拡大などの項目をパッケージとして示し日米が大筋で合意した場合、アメリカ側は関税の見直しで譲歩するのか確認しておく必要がある。

このようにみていくと日米が早期の合意をめざすことで一致したといっても、調整が必要な分野は多岐にわたり、交渉は難航することが必至だとみられる。

 石破政権、参院選も控え難しい対応

それでは、これからの展開はどのようになるだろうか。アメリカ側は「日本は交渉の列の先頭にいる」と位置づけている。これは早期に日米合意を実現し、後に続く各国のモデルケースとして、アメリカが主導権を発揮していく戦略だとみられる。

これに対して石破政権は、相互関税停止の90日間以内の早期決着をめざすのか、それとも中長期も辞さない立場で臨むのか、選択を迫られる。

今後の日程をみると、自動車部品に対して5月3日から25%の追加関税が課せられるほか、6月にはG7サミットがカナダで開催、さらに7月には参議院選挙が予定されている。

石破政権にとっては、自動車や自動車部品の追加関税を早期に是正する必要があるが、早期決着をめざして譲歩しすぎると「国益に反する」との指摘が予想されるほか、国際社会からは「自由貿易を放棄する対応だ」などと非難されるおそれがある。

一方、長期戦で臨むとトランプ政権からの強い反発が予想されるほか、夏の参議院選挙では無為無策などと批判を浴び、大きなダメージを受ける可能性もある。

石破政権としては、日米交渉でどこまで日本の主張を反映させることができるかどうか、国民に対して交渉の状況や日本の役割を説明しながら理解を得ることができるかどうか難しい対応を迫られることになる。

私たち国民も日米交渉のゆくえと自由貿易に及ぼす影響、そして日本の役割をどう考えるか、内外の動きを注視していきたい。(了)

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